IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トゥルンプフ ヒュッティンガー スプウカ ズ オグラニショナ オドポヴィヂャルノスツィアの特許一覧

<>
  • 特許-バランおよびバランを含む増幅器 図1
  • 特許-バランおよびバランを含む増幅器 図2
  • 特許-バランおよびバランを含む増幅器 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】バランおよびバランを含む増幅器
(51)【国際特許分類】
   H01F 19/06 20060101AFI20240430BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20240430BHJP
   H03H 7/42 20060101ALI20240430BHJP
   H01P 5/10 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
H01F19/06
H01F30/10 K
H01F30/10 M
H03H7/42
H01P5/10 C
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021505654
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019070378
(87)【国際公開番号】W WO2020025549
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】18461596.1
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508142413
【氏名又は名称】トゥルンプフ ヒュッティンガー スプウカ ズ オグラニショナ オドポヴィヂャルノスツィア
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF Huettinger Sp. z o. o.
【住所又は居所原語表記】Ul. Marecka 47, 05-220 Zielonka, Poland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】マルチン ゴラン
(72)【発明者】
【氏名】アンジェイ クリムチャク
(72)【発明者】
【氏名】パーヴェル オジメク
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0312295(US,A1)
【文献】特開2015-220481(JP,A)
【文献】特表2017-521032(JP,A)
【文献】特開平11-136011(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03110003(EP,A2)
【文献】特開2008-227006(JP,A)
【文献】特表2004-518384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26
H01F 27/28-27/29
H01F 27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 38/42
H01P 5/00- 5/22
H03H 7/30- 7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
500W出力から5kW出力までの電力範囲用に構成されたバラン(100)であって、
a.第1の接続端(130)と第2の接続端(140)とを有する平衡信号ポート(110)、および
b.第3の接続端(150)とグラウンド(30)に接続された第4の接続端(160)とを有するシングルエンド信号ポート(120)
を含み、前記バラン(100)はさらに、
c.前記第1の接続端(130)と第1の抵抗(190)の第1の端部(210)との間の第1のキャパシタ(170,170’)、
d.前記第2の接続端(140)と前記第1の抵抗(190)の前記第1の端部(210)との間の第2のキャパシタ(180,180’)、および
e.グラウンド(30)に接続されている、前記第1の抵抗(190)の第2の端部(220)を含み、
前記第1のキャパシタ(170,170’)および前記第2のキャパシタ(180,180’)の寸法は、前記第1の接続端(130)および前記第2の接続端(140)から見たインピーダンスを調整するように選択され、
前記バラン(100)は、前記第1のキャパシタ(170,170’)および前記第2のキャパシタ(180,180’)をグラウンドへ接続する第4のキャパシタをさらに含み、前記第4のキャパシタは前記第1の抵抗(190)に対して並列に接続されている、
バラン(100)。
【請求項2】
前記バラン(100)が、前記平衡信号ポート(110)に接続された1次巻線(10)と、前記シングルエンド信号ポート(120)に接続された2次巻線(20)とを含む、
請求項1記載のバラン(100)。
【請求項3】
前記バラン(100)が前記1次巻線(10)と前記2次巻線(20)との間の容量である寄生容量Cparaを有する、
請求項2記載のバラン(100)。
【請求項4】
前記インピーダンスの調整は、前記バラン(100)の前記寄生容量Cparaを補償することである、
請求項3記載のバラン(100)。
【請求項5】
前記第1のキャパシタ(170,170’)と前記第2のキャパシタ(180,180’)とは、異なるキャパシタンスを有する、
請求項1から4までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項6】
前記第1の抵抗(190)の定格電圧は、100V~1000Vである、
請求項1から5までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項7】
前記第1のキャパシタは、10kHz~200MHzの周波数用に構成されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項8】
前記第1のキャパシタは、200V超の最大電圧用に構成されている、
請求項1から7までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項9】
前記第1の抵抗(190)は、前記バランの前記平衡信号ポート(110)のコモンモード電流を低減するように構成されている、
請求項1から8までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項10】
前記バラン(100)は、前記第1の抵抗(190)の前記第2の端部(220)をグラウンドに接続する第3のキャパシタ(200)を含む、
請求項1から9までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項11】
前記1次巻線(10)および前記2次巻線(20)は、プリント回路板上のストリップ線(10’,20’)によってプレーナ型に実現可能である、
請求項2から10までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項12】
前記2次巻線(20)のストリップ線(20’)は、前記1次巻線(10)とは異なる数のターンを有する、
請求項2から11までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項13】
前記1次巻線(10)のストリップ線(10’)は、少なくとも1つの領域において、他の領域よりも小さい幅を有する、
請求項2から12までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項14】
前記プリント回路板は、グラウンド面(310)、特に金属グラウンド面から離間されている、
請求項11から13までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項15】
前記第1のキャパシタ(170)および前記第2のキャパシタ(180)は、少なくとも部分的に、前記ストリップ線(10’,20’)によって、特に前記ストリップ線(10’,20’)の幅と、前記ストリップ線からグラウンド面(310)までの距離との結果として実現されている、
請求項11から14までのいずれか1項記載のバラン(100)。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載のバラン(100)を含む、増幅器(250)。
【請求項17】
前記バラン(100)が前記増幅器の増幅段の出力ポートに接続されており、出力バランとして機能して、前記増幅段の出力側の平衡信号から前記バランの出力側の不平衡信号への変換が実現される、
請求項16記載の増幅器(250)。
【請求項18】
前記増幅器(250)は、
‐第1の接続端(130)に接続された第1のトランジスタ(S1)と、
‐第2の接続端(140)に接続された第2のトランジスタ(S2)と
を含み、前記バラン(100)が出力バランである、
請求項16から17までのいずれか1項記載の増幅器(250)。
【請求項19】
前記増幅器は、プッシュプル増幅器である、
請求項18記載の増幅器(250)。
【請求項20】
前記増幅器は、高出力増幅器、特にスイッチドモード増幅器、さらに特にE級増幅器またはD級増幅器を実現するように構成されている、
請求項16から19までのいずれか1項記載の増幅器(250)。
【請求項21】
前記増幅器は、F級モードまたは逆F級(F-1級)モードで動作するように構成されている、
請求項16から19までのいずれか1項記載の増幅器(250)。
【請求項22】
前記トランジスタ(S1,S2)は、LDMOSトランジスタとして設計されている、
請求項18から21までのいずれか1項記載の増幅器(250)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、500W出力から5kW出力までの電力範囲用に構成されたバランと、こうしたバランを含む電力増幅器とに関する。
【0002】
不平衡回路とも称されるシングルエンド回路では、1つの導体が信号の搬送に使用され、グラウンド面が信号の帰還路として使用される。導体とグラウンド面とが完全な信号路を形成する。この場合、グラウンド面での電圧が信号の基準となる。こうした不平衡信号は、コモンモード信号とも称されている。平衡回路では、2つの導体が使用され、一方は信号を搬送し、他方は帰還信号を搬送する。こうした平衡信号は差動モード信号とも称されている。
【0003】
バラン(平衡/不平衡変換器)は、バランの平衡信号ポート側の平衡回路とバランのシングルエンド信号ポート側の不平衡回路との間の信号の変換および逆の変換を行うことができるトランスである。
【0004】
本発明の目的は、こうしたバランによって形成される信号の品質を改善することである。
【0005】
本発明の課題は、請求項1記載のバランによって解決される。
【0006】
バランは、第1の接続端と第2の接続端とを有する、平衡信号ポートを含む。バランはまた、第3の接続端と、グラウンドに接続された第4の接続端とを有する、シングルエンド信号ポートを含む。第1の接続端と第1の抵抗の第1の端部との間の第1のキャパシタ、および第2の接続端と第1の抵抗の第1の端部との間の第2のキャパシタが設けられている。第1の抵抗の第2の端部は、グラウンドに接続されている。
【0007】
第1の抵抗の好適な値は、10Ω~200Ωであってよく、特に20Ω~100Ωであってよい。
【0008】
第1の抵抗の定格電力の好適な選定は、バランの公称出力の0.1%~5%の値であってよい。
【0009】
第1の抵抗の定格電圧の好適な選定は、100V~1000Vの値であってよい。
【0010】
第1のキャパシタおよび好ましくは第2のキャパシタは、1pF~800pFの値を有していてよい。
【0011】
第1のキャパシタおよび好ましくは第2のキャパシタは、10kHz~200MHzの周波数用に構成可能である。
【0012】
第1のキャパシタおよび好ましくは第2のキャパシタは、200V超の最大電圧用に構成可能である。
【0013】
第1の抵抗は、バランの平衡信号ポートでのコモンモード電流を低減する機能を有することができる。これにより、バランの当該平衡信号ポートに接続された回路に生じうる共振の望ましくない偶数高調波を放散させることができる。この場合、第1の抵抗の寸法の選定は、平衡信号ポートのコモンモード電流の低減と第1の抵抗において放散される熱の最小化との間での設計の選定である。
【0014】
本発明の一実施形態では、バランが、平衡信号ポートに接続された1次巻線と、シングルエンド信号ポートに接続された2次巻線とを含むことができる。1次巻線および2次巻線は、プレーナ型の回路板上のストリップ導体によってプレーナ型に実現可能である。バランは、入力接続端と出力接続端との間のガルバニック分離を可能にする。これにより、出力接続端の1つを保護アースに接続し、回路の入力側に存在するDC電圧から当該出力接続端を分離することができる。
【0015】
バランの当該実施形態の利点は、所望の周波数範囲、例えば中間周波数および無線周波数に対してバランを特に安定化できることである。中間周波数(MF)とは、ここでは、9kHz~900kHzの範囲の周波数を意味し、無線周波数とは、ここでは、900kHz超であって180MHzまでの範囲の周波数を意味する。これにより、送信線路の長さが搬送信号の波長のλ/4と同じ長さであることに依存するバランに比較して、より小さい寸法のバランが可能となる。
【0016】
バランの2つの信号ポート間に寄生容量が存在することがわかっている。平衡信号と不平衡信号との異なる位相関係に起因して、平衡ポートの第1の接続端からグラウンドへの回路のインピーダンスは、平衡ポートの第2の接続端からグラウンドへの回路のインピーダンスと異なりうる。これにより、当該寄生容量を介した異なる電流の流れを生じさせることができる。
【0017】
本発明の一実施形態では、バランの第1のキャパシタと第2のキャパシタとは異なるキャパシタンス値を有することができる。これにより、バランの寄生容量を補償することができる。第1のキャパシタおよび第2のキャパシタの寸法の選定により、第1の接続端および第2の接続端から見たインピーダンス、例えばバランの平衡ポートに接続された回路のインピーダンスを調整することができる。異なるキャパシタンス値間の差は、少なくとも10pF、特に少なくとも50pFとなりうる。
【0018】
一実施形態では、バランは、第3のキャパシタを含むことができる。第3のキャパシタは、第1の抵抗の第2の端部をグラウンドに接続することができる。これにより、バランの平衡信号ポートから到来するDC電圧が低減可能となるかまたはカットオフさえ可能となるので、バランのパフォーマンスを改善することができる。これにより、DC電圧によるバランの飽和を回避できるため、バランのパフォーマンスが改善される。
【0019】
別の実施形態では、バランは、第1のキャパシタおよび第2のキャパシタをグラウンドへ接続することができる第4のキャパシタを含むことができ、ここで、第4のキャパシタは、第1の抵抗に対して並列に接続されていてよい。バランのパフォーマンスおよび信号品質は、当該実施形態において、バランの平衡信号ポートからの高調波が低減可能となるかまたはカットオフさえ可能となるので、改善することができる。
【0020】
第3のキャパシタおよび好ましくは第4のキャパシタは、1pF~800pFの範囲の値を有していてよい。
【0021】
第3のキャパシタおよび好ましくは第4のキャパシタは、10kHz~200MHzの周波数用に構成可能である。
【0022】
第3のキャパシタおよび好ましくは第4のキャパシタは、200V超の最大電圧用に構成可能である。
【0023】
バランの一実施形態では、シングルエンド信号ポートが、負荷を保持するように設計可能である。負荷、特にプラズマ負荷は、第3の接続端に接続可能である。当該構成では、シングルエンド信号ポートがバランの出力ポートとして機能することができ、平衡信号ポートがバランの入力ポートとして機能することができる。
【0024】
別の実施形態では、バランの第4の接続端は、低誘導状態でグラウンドに接続可能である。これにより、さらにバランのパフォーマンスを改善することができる。
【0025】
特に低誘導性の接続部が、1つもしくは複数の次の措置、すなわち
・特に幅広の(幅5mm超の)ストリップ線、
・第4の接続端とグラウンド面との間に、列またはエリアとして配置可能な、複数の(2個超の)スルーコネクション部、
・特に短いストリップ線、例えばストリップ線の幅に対する長さの比が100より小さく、さらに特に10より小さく、好ましくは3より小さいストリップ線、
により、実現可能となる。
【0026】
増幅器は、上述したバランを含むことができる。好ましい一実施形態では、バランは、増幅器の増幅段の出力ポートに接続可能であり、出力バランとして機能させることができる。これにより、増幅器の負荷によって要求されるような、増幅段の出力側の平衡信号からバランの出力側の不平衡信号への変換が実現可能となる。このことは特に、増幅器の出力側のプラズマ負荷のための事例でありうる。
【0027】
好ましい構成では、増幅段が、信号増幅の達成のために、第1のトランジスタと第2のトランジスタとを含むことができる。この場合、バランは、第1のトランジスタがバランの第1の接続端に接続可能でありかつ第2のトランジスタがバランの第2の接続端に接続可能である増幅器の出力バランとして機能しうる。本発明の一実施形態では、増幅段は、第1のトランジスタおよび第2のトランジスタのプッシュプル構成として実現可能である。
【0028】
バランが増幅器の出力バランとなりうる本発明の一実施形態では、第1の抵抗により、増幅段の回路内で発生しうる内部共振からの望ましくない偶数高調波を放散させることができる。第1の抵抗は、局所的な共振、特に高調波を減衰させることができる。ドレイン電圧のオーバーシュートが最小化可能となり、これにより、ドレイン電圧は適合条件に対する約650Vまで上昇可能となる。適合条件は、負荷のインピーダンスが出力ポートのインピーダンスに適合する場合に達成可能である。当該インピーダンスは、好ましくは20Ω~100Ωの範囲、特に50Ω±10Ωであってよい。
【0029】
好ましくは、増幅器は、10kHz~2MHz、特に10kHz~1MHz、好ましくは100kHz~2MHzの中間周波数(MF)範囲用の増幅器であってよい。本発明の別の好ましい一実施形態では、増幅器は、2MHz~200MHzの無線周波数範囲用の増幅器であってよい。増幅器は、高出力増幅器、特にスイッチドモード増幅器、さらに特にE級増幅器またはD級増幅器を実現するように構成可能である。
【0030】
一実施形態では、増幅器は、F級モードまたは逆F級(F-1級)モードで動作するように構成可能である。
【0031】
D級増幅器、E級増幅器、F級増幅器およびF-1級増幅器の基本回路および機能は、例えば欧州特許第1601098号明細書、特にその図1および図2A図2Fと対応する段落[0006]~[0014]とに説明されている。
【0032】
本発明の特徴および利点がさらに理解されうるよう、例示の目的のみに過ぎないが、添付の概略的な図面を参照しながら、各実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】バランを示す概略図である。
図2】バランを含む増幅器を示す概略図である。
図3】バランを実現する可能な構造を示す概略図である。
【0034】
図1には、第1の接続端130および第2の接続端140を含む平衡ポート110を有するバラン100が示されている。平衡ポート110は、バラン100の第1の巻線10に接続されている。バラン100の第2の巻線20に接続されているのが不平衡ポート120であり、当該不平衡ポート120は第3の接続端150および第4の接続端160を含む。第4の接続端160は、グラウンド30に接続されている。平衡ポート110がバラン100の入力ポートでありかつ不平衡ポート120がバラン100の出力ポートであるケースでは、第1の巻線10を例えばバランの1次巻線と称することができ、第2の巻線20を例えばバラン100の2次巻線と称することができる。また、バラン100は、逆方向においても動作可能であり、すなわち、平衡ポート110を出力ポートとし、不平衡ポート120を入力ポートとしても動作可能である。
【0035】
図1には、第1の巻線10と第2の巻線20との間の寄生容量Cparaが示されている。また、寄生容量Cparaの補償を行うことができる第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180も示されている。平衡信号と不平衡信号との種々の位相関係に起因して、平衡ポート110の第1の接続端130からグラウンド30への回路のインピーダンスは、平衡ポート110の第2の接続端140からグラウンド30への回路のインピーダンスとは異なる。このため、当該寄生容量Cparaを介して異なる電流の流れが生じる。したがって、バラン100の第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180は異なる寸法に選定可能である。これにより、バラン100の寄生容量Cparaの補償が可能となる。第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180の寸法を選定することにより、第1の接続端130および第2の接続端140から見たインピーダンス、例えばバラン100の平衡ポート110に接続された回路のインピーダンスを調整することができる。
【0036】
第1のキャパシタ170は、一方側では第1の接続端130に接続されており、他方側では第1の抵抗190の第1の端部210に接続されている。第2のキャパシタ180は、一方側では第2の接続端140に接続されており、他方側では第1の抵抗190の第1の端部に接続されている。第1の抵抗190の第2の端部220はグラウンド30に接続されている。第1の抵抗190の有利な効果は、平衡ポート110の2つの接続端130,140から流れてくるあらゆる望ましくないコモンモード電流を第1の抵抗190によって制限できることである。このことは、回路内のコモンモード電流の共振の危険が存在するケースにおいて特に有利である。当該ケースは、バラン100が増幅器250の出力段であるケース(図2)で生じうるものであり、この場合、第1の抵抗が増幅器250の増幅段での内部共振から生じる望ましくない偶数高調波を放散させることができる。
【0037】
図1に示した実施形態では、第3のキャパシタ200が第1の抵抗190の第2の端部220とグラウンド30との間に配置されている。第3のキャパシタ200は、平衡ポート110から到来する直流電圧をカットするように設計可能である。本発明のさらなる実施形態では、第4のキャパシタ(図示せず)を、第1の抵抗190に対して並列に接続することができる。第4のキャパシタの目的は、平衡ポート110から到来する高調波電圧をカットすることである。当該実施形態は、第3のキャパシタ200を設ける場合にも設けない場合にも実現可能である。
【0038】
図2には、2つの出力接続端270,280を有する増幅段260を備えた高周波増幅器250が示されている。出力接続端270,280は、バラン100の平衡ポート110の入力接続端130,140に接続されている。
【0039】
バラン100は、接続端150,160を含む出力ポート120を有する。出力端160は、グラウンド30に接続されている。ここに示していない負荷、特にプラズマ負荷を、出力接続端150に接続することができる。
【0040】
増幅段260は、当該ケースではトランジスタとして、特にLDMOSトランジスタとして設計されたスイッチング素子S1,S2を有する。スイッチング素子S1,S2は、信号変換器210によって制御される。よって、バラン100は入力側で平衡信号に接続され、出力側で不平衡信号に接続される。
【0041】
1次巻線10および2次巻線20を有するバランの入力接続端130,140は、キャパシタ170,180を介してグラウンド30に接続されている。
【0042】
第1のキャパシタ170のキャパシタンスは、好ましくは第2のキャパシタ180のキャパシタンスに等しくない。第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180により、バラン100によって表されるインピーダンスを、スイッチング素子S1,S2のために調整することができる。通常、第1のキャパシタ170と第2のキャパシタ180とは、2つのスイッチング素子S1,S2が同じインピーダンスを有すると見なすべきであるため、対称であると仮定される。しかし、キャパシタ170,180の異なるキャパシタンスが予測されることもある。このことにより、バラン100のパフォーマンスを改善することができる。これは、寄生容量を生じさせる効果が第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180によって少なくとも部分的に補償されるかまたは消去されるという事実によっている。寄生容量は、例えば、入力接続端130,140と出力接続端150,160との間で発生する。当該寄生容量は、図1ではCparaとしてマークされている。
【0043】
キャパシタ170,180は、少なくとも部分的に、別個のキャパシタ170’,180’(図3)として設計可能である。代替的にもしくは付加的に、例えば金属グラウンド面であってよいグラウンド面310から離間したプリント回路板(PCB)上のストリップ線を少なくとも部分的に使用して、第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180が形成されるようにも考えられる。このことは、図3に概略的に示しているようなバラン100のプレーナ型設計において特に有意である。第1の抵抗190は、第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180の近傍において、各接続端がキャパシタ170,180に接続されておりかつ他方の端部が直接にもしくは(図3には示していないが)第3のキャパシタを介してグラウンドに接続された状態で、見て取ることができる。また、選択手段としての第4のキャパシタ(図3には示していない)を、第1の抵抗190に対して並列に電気的に接続することができる。
【0044】
バランの第2の巻線20のストリップ線20’は、1次巻線10とは異なる数のターン/巻線を有する。1次巻線10のストリップ線10’は、少なくとも1つの領域において他の領域よりも小さな幅を有する。キャパシタ170,180の寸法はこうした措置によって調整可能である。
【0045】
よって、キャパシタ170,180は、少なくとも部分的に、1次巻線10および2次巻線20を構成するストリップ線10’,20’によって実現されている。
【0046】
特に、第1のキャパシタ170および第2のキャパシタ180のキャパシタンスは、ストリップ線の幅と、ストリップ線からグラウンド面310までの距離とから得ることができる。グラウンド面310は冷却プレートとして利用可能であり、有利には、流体、例えば水によって冷却される。
【0047】
キャパシタ170,180のキャパシタンスは、プリント回路板(PCB)の絶縁材料、特に当該材料の誘電定数を適切に選定することによっても制御することができる。キャパシタ170,180は、2次巻線20および1次巻線10の直接近傍に配置されている。このことは、2次巻線20および1次巻線10の領域の側辺長さまたは直径が、端130,140,150,160からキャパシタ170,180までの2次巻線20および1次巻線10の距離よりも大きいことを意味する。
図1
図2
図3