(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】T細胞に対する電離放射線の影響を模倣するためのブレオマイシン
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20240430BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240430BHJP
A61K 41/00 20200101ALN20240430BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/02
A61K41/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021517911
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2019064972
(87)【国際公開番号】W WO2019234229
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520482009
【氏名又は名称】ノバグレイ
【氏名又は名称原語表記】NOVAGRAY
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アドリーヌ、トロ
(72)【発明者】
【氏名】クレマンス、フラン
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517956(JP,A)
【文献】特開2001-086991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0198264(US,A1)
【文献】特開2010-168398(JP,A)
【文献】Mahmut O. et al.,CD4 and CD8 T-Lymphocyte Apoptosis Can Predict Radiation-Induced Late Toxicity:A Prospective Study in 399 Patients,Clinical Cancer Research,2005年,vol.11, no.20,pp.7426-7433
【文献】Huachun Weng et al.,Differential DNA damage induced by H2O2 and bleomycin in subpopulations of human white blood cells,Mutation Research,2008年,vol.652,pp.46-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/02
A61K 41/00
A61P 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞に対する電離放射線の影響を模倣するためのin vitro法であって、細胞培養中に前記T細胞をブレオマイシンと50~75時間接触させること、および
T細胞アポトーシスのパーセンテージを測定すること
を含み、
ブレオマイシンの濃度が約100~約300μg/mLの範囲である、
方法。
【請求項2】
T細胞に対する電離放射線の影響が電離放射線照射48時間後のT細胞のアポトーシスのパーセンテージである、請求項1に記載のin vitro法。
【請求項3】
約2~約10Gyの範囲の線量の電離放射線の影響を模倣する、請求項1または2に記載のin vitro法。
【請求項4】
約6~約10Gyの範囲の線量の電離放射線の影響を模倣する、請求項1または2に記載のin vitro法。
【請求項5】
約8Gyの線量の電離放射線の影響を模倣する、請求項1または2に記載のin vitro法。
【請求項6】
ブレオマイシンの
用量が、以下の数式:
【数1】
〔式中、
【数2】
は、特定の照射線量(xir)の影響を模倣するために適用される
ブレオマイシンの用量であり、
【数3】
は、照射レベルがゼロの場合のアポトーシス平均値に相当し、
【数4】
は、傾き、すなわち、1Gy増す毎のアポトーシスの増加に相当し、
【数5】
は、ブレオマイシン濃度がゼロの場合のアポトーシス平均値に相当し、
【数6】
は、傾き、すなわち、1μg/mL増す毎のアポトーシスの増加に相当する〕を用いて求められる、請求項1~5のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項7】
前記T細胞を約37℃の温度にて約5%CO
2の存在下でブレオマイシンと接触させる、請求項1~6のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項8】
前記T細胞がCD8
+T細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項9】
前記T細胞が、血液サンプル、または骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍から回収されるサンプルから選択されるT細胞含有サンプルに含まれるものである、請求項1~8のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項10】
前記T細胞含有サンプルが血液サンプルである、請求項9に記載のin vitro法。
【請求項11】
前記T細胞含有サンプルが全血サンプルである、請求項9に記載のin vitro法。
【請求項12】
対象の個々の放射線感受性を決定するための、対象から予め取得したT細胞含有サンプルをブレオマイシンと少なくとも50時間接触させることを含んでなる、請求項1~11のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項13】
前記対象が癌を有すると診断されている、請求項12に記載のin vitro法。
【請求項14】
前記対象に電離放射線処置が施される、または施される予定である、請求項12または13に記載のin vitro法。
【請求項15】
電離放射線処置後に副作用が生じるリスクを評価するための、請求項12~14のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項16】
a.対象から予め取得したT細胞含有サンプルをブレオマイシンと50~75時間接触させること、および
b.前記対象由来のサンプルにおいてCD8
+T細胞アポトーシスを測定することを含んでなる、請求項12~15のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項17】
工程(b)で測定されたCD8
+T細胞アポトーシスを参照CD8
+T細胞アポトーシスと比較することを含んでなる、請求項16に記載のin vitro法。
【請求項18】
ブレオマイシンの濃度が135~160μg/mLであり、ブレオマイシンが65~75時間適用され、8Gyの線量の電離放射線の影響を模倣する、請求項1~15のいずれか一項に記載のin vitro法。
【請求項19】
ブレオマイシンが70~72時間適用される、請求項18に記載のin vitro法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、特に、リンパ球に対する電離放射線の影響の判定に関する。より具体的には、本発明は、電離放射線を使用することなく、細胞に対する電離放射線の影響を模倣するための方法に関する。本発明の方法は、電離放射線処置/放射線療法の前に対象の個々の放射線感受性を評価するために特に有用であり得る。
【背景技術】
【0002】
電離放射線による処置は、腫瘍学において主要な治療モダリティの一つであり、50%を超える癌診断患者が治療過程で電離放射線による処置を受ける。電離放射線による処置は主として局所的処置であるが、患者は治療照射野、特に、腫瘍周囲の組織が毒性のリスクに曝され、これは急性として(すなわち、最初の3か月)または遅発型として(すなわち、処置後3か月以降)生じ得る。回復は不完全な場合があるので、重篤な急性毒性は遅れた結果をもたらすことがある。さらに、遅発毒性は時間が経つにつれ起こることがあり、持続する場合が多く、癌生存者の生活の質に重大な悪影響を及ぼす。
【0003】
個々の放射線感受性(Azria,Betz et al. 2012)を含め、いくつかの因子が放射線により誘発される毒性のリスクを増すことが知られている。患者集団についての毒性リスクは知られているが、個々人の正常組織の放射線感受性の決定が治療前に可能であることはめったにない。従って、現行の実施標準は一般に、照射される個々人の遺伝子型または表現型にかかわらず、標準的な推奨からの臨床シナリオに従って放射線線量を指示する。
【0004】
これまで放射線感受性診断試験は、RILA(radiation-induced T-lymphocytes apoptosis)(放射線誘発Tリンパ球アポトーシス)のフローサイトメトリー評価に基づいて開発されていた。この診断試験は、電離放射線による処置に対する毒性の確率が高い可能性のある個人を選択する明らかな能力があると記載されている(Ozsahin,Crompton et al. 2005)。
【0005】
しかしながら、RILA試験は、細胞を電離放射線で処理する工程を含む。従って、RILA試験は、容易には実施できず、また、通常、細胞照射器を備えておらず、そのような装置を使用する承認も受けていない標準的な医療分析検査室では実施することができない。
【0006】
WO2014/154854には、T細胞をブレオマイシンなどの放射線模倣剤と接触させることを含んでなる、T細胞(Tリンパ球)に対する電離放射線の影響を模倣するためのin vitro法が開示されているが、本明細書に開示されるような持続時間を開示も示唆もしていない。
【0007】
Ozsahin et al(Clin Cancer Res. 2005 Oct 15;11(20):7426-33)は、放射線誘発Tリンパ球アポトーシスは個人間の遅発毒性の違いを有意に予測することができ、放射線療法に過敏な患者の迅速スクリーンとして使用することができたことを開示している。
【0008】
Weng et al(Mutat Res. 2008 Mar 29;652(1):46-53)は、in vitroにおいて、誘発されたDNA損傷と基底DNA損傷の測定により、H2O2(酸化剤)およびブレオマイシン(放射線模倣剤グリコペプチド)に曝露した後のヒト白血球の種々の亜集団の異なる感受性を特徴付けている。
【0009】
Adema et al(Int J Radiat Biol. 2003 Aug;79(8):655-61)は、ブレオマイシンと放射線は、染色分体破断のG2アッセイ(DNA損傷に応答する放射線感受性素因遺伝子のマーカーと考えられ得る)において同じ感受性表現型を与えることを示している。しかしながら、この試験は、上記のようなRILAとは異なり、細胞のブレオマイシン曝露の期間が本明細書に記載されているものとは異なる。
【0010】
Tedeschi et al(Mutat Res. 2004 Feb 26;546(1-2):55-64)は、培養ヒトリンパ球における、アフィジコリン(APC)およびブレオマイシン(BLM)でのin vitro処理による誘発後に誘発された染色体損傷の個々の発現における数種の遺伝的基礎を記載している。ブレオマイシン曝露の期間は本明細書に開示されているものとは異なる。
【0011】
Azria et al(Cancer Radiother. 2008 Nov;12(6-7):619-24)は、最近、低パーセンテージのCD4およびCD8リンパ球アポトーシスが高グレードの後遺症に相関すること、ならびに重篤な放射線誘発性の遅発副作用を有する患者が候補遺伝子(ATM、SOD2、TGFB1、XRCC1およびXRCC3)に4以上のSNPと、in vitroにおいて低い放射線誘発CD8リンパ球アポトーシスを有することを開示している。
【0012】
これらの文献は総て、ブレオマイシンが、特定の条件で、一部の放射線と同じ種類のDNA破断を形成する目的で使用可能であることを示す。しかしながら、これらの文献は、RILAのために使用される放射線条件を模倣するブレオマイシンの能力について、およびRILAの代用となり得るようにin vitro試験が作出可能であるかどうかについては述べていない。
【0013】
よって、特に、RILAの分野において、照射器の使用なしに(安全上または規定の理由のため)、電離放射線の影響を模倣するための方法が必要である。
【0014】
よって、照射工程なく、RILA試験の代替となるものを開発する重要な必要がある。
【0015】
本明細書で出願者は、細胞を特定の期間、特定の濃度のブレオマイシンと接触させるこのような代替法を提供する。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、T細胞に対する電離放射線の影響を模倣するためのin vitro法であって、前記T細胞を少なくとも1種類の放射線模倣剤、好ましくはブレオマイシンと少なくとも50時間接触させることを含んでなる方法に関する。
【0017】
一つの実施態様において、前記少なくとも1種類の放射線模倣剤、好ましくはブレオマイシンの濃度は、約100~約300μg/mlの範囲である。
【0018】
一つの実施態様において、前記方法は、約2~約10Gy、好ましくは約6~約10Gy、より好ましくは約8Gyの範囲の用量で電離放射線の影響を模倣する。
【0019】
一つの実施態様において、前記影響は、照射48時間後に見られるリンパ球のアポトーシスのパーセンテージである。
【0020】
一つの実施態様において、前記少なくとも1種類の放射線模倣剤、好ましくはブレオマイシンの用量は、以下の数式:
【数1】
〔式中、
【数2】
は、特定の照射線量(x
ir)の影響を模倣するために適用される化合物の用量であり、
【数3】
は、照射レベルがゼロの場合のアポトーシス平均値に相当し、
【数4】
は、傾き、すなわち、1Gy増す毎のアポトーシスの増加に相当し、
【数5】
は、ブレオマイシン濃度がゼロの場合のアポトーシス平均値に相当し、
【数6】
は、傾き、すなわち、1μg/mL増す毎のアポトーシスの増加に相当する〕
を用いて決定される。
【0021】
一つの実施態様において、前記T細胞は、約37℃の温度にて約5%CO2の存在下でブレオマイシンと接触させる。
【0022】
一つの実施態様において、前記T細胞はCD8+T細胞である。
【0023】
一つの実施態様において、前記T細胞は、血液サンプル、または骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍から回収されるサンプルから選択されるT細胞含有サンプルに含まれ、好ましくは、前記T細胞含有サンプルは血液サンプルであり、より好ましくは、前記T細胞含有サンプルは全血サンプルである。
【0024】
一つの実施態様において、前記方法は、対象の個々の放射線感受性を決定するための方法であり、対象から予め取得したT細胞含有サンプルを少なくとも1種類の放射線模倣剤、好ましくはブレオマイシンと少なくとも50時間接触させることを含んでなる。
【0025】
一つの実施態様において、前記対象は、癌を有すると診断されている。
【0026】
一つの実施態様において、前記対象は、電離放射線処置が施される、または施される予定である。
【0027】
一つの実施態様において、前記方法は、電離放射線処置後に副作用が生じるリスクを評価するためのものである。
【0028】
一つの実施態様において、前記方法は、
a.対象から予め取得したT細胞含有サンプルを少なくとも1種類の放射線模倣剤、好ましくはブレオマイシンと接触させること、および
b.前記対象由来のサンプルにおいてCD8+T細胞アポトーシスのパーセンテージを測定すること
を含んでなる。
【0029】
一つの実施態様において、前記方法は、工程(b)において測定されたCD8+T細胞アポトーシスを参照CD8+T細胞アポトーシスと比較することを含んでなる。
【0030】
本発明はさらに、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定するための手段を含んでなる、上記のようなin vitro法を実施するためのキットに関する。一つの実施態様において、前記キットは、少なくとも1種類の放射線模倣剤、好ましくはブレオマイシンとCD8+T細胞アポトーシスを測定するための手段を含んでなる。
【発明の具体的説明】
【0031】
定義
本発明において、以下の用語は以下の意味を有する:
用語「1つの(a)」および「1つの(an)」は、その冠詞の1または2以上の(すなわち、少なくとも1つの)文法的目的語を指す。例として、「1つの(an)要素」は、1つの要素または2以上の要素を意味する。
【0032】
用語「約」は、量、時間などの測定可能な値に関する場合、明示された値からの±20%または場合によっては±10%、または場合によっては±5%、または場合によっては±1%、または場合によっては±0.1%の変動を包含することを意味し、このような変動は開示されている方法を実行するために適当である。
【0033】
用語「生化学的マーカー」は、対象由来のサンプルにおいて測定され得る変数を指し、前記サンプルは好ましくは血液サンプルである。
【0034】
用語「Cox回帰」は、を指す。生存時間解析の通常の統計学的モデルである(Cox、et al. 1984)。二値または多値アウトカムをそのまま扱う分類アルゴリズムの他に、Cox回帰は、予測変数を、例えば、生存期間(例えば、月もしくは年)または副作用の発生もしくは疾患の再発のない期間であり得る実際のアウトカムに直接関連付けるセミパラメトリックモデルも定義する。多変量Cox関数は、独立パラメーターを組み合わせるための生存期間エンドポイントの識別という点で最良のハザード関数と考えられる。
【0035】
用語「コードする」とは、生体プロセスにおいて、定義されたヌクレオチド配列(例えば、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸配列を有する他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働くための、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列の固有の特性およびその結果生じる生物学的特性を指す。よって、遺伝子、cDNA、RNAは、その遺伝子、またはcDNAに対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合に、そのタンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常配列表に示されるコード鎖と遺伝子またはcDNAの転写の鋳型として使用される非コード鎖の両方が遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると言うことができる。
【0036】
用語「発現」は、プロモーターにより駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳を指す。
【0037】
用語「説明書」には、本発明のキットの有用性を伝えるために使用できる刊行物、記録、図、または他の任意の表現媒体が含まれる。本発明のキットの説明書は、例えば、本発明の方法を実施するための試薬を含有する容器に添付されてもよいし、または本発明の方法を実施するための試薬を含有する容器とともに輸送されてもよい。あるいは、説明書は、レシピエントにより共同で使用されることを意図して容器とは別に輸送されてもよい。
【0038】
用語「in vitro法」は、in vitro(例えば、アポトーシスの測定)またはex-vivo(例えば、従前に患者で評価されたアポトーシスパーセンテージ、臨床パラメーターまたは生化学的マーカーを用いて得られた多変量cox回帰モデル)で行われる工程を含んでなる方法を指す。
【0039】
用語「非侵襲的」、本発明による方法に関して、本発明の方法が対象の身体から組織サンプルを取得することを含まないことを意味する。一つの実施態様において、血液サンプルは、組織サンプルとは見なされない。
【0040】
「ROC」 統計学において、受信者操作特性(receiver operating characteristic)(ROC)、またはROC曲線は、その識別閾値は様々であるが、二項分類系の性能の性能を示すグラフプロットである。曲線は、0から1までの連続値において特異度(通常、1-特異度)に対して感性をプロットすることにより作成される。「AUROC」は、ROC曲線下面積を表し、予後試験または診断試験の精度の指標である。ROC曲線およびAUROCは、統計学の分野で周知である。
【0041】
用語「予後の方法の感度(Se)」は、予後の方法を用いてそれとして正確に同定される副作用を生じるリスクを有する患者の割合を指す。
【0042】
用語「予後の方法の特異度(Sp)」は、予後の方法を用いてそれとして正確に同定される副作用を生じるリスクのない患者の割合の測定値を指す。
【0043】
用語「副作用」(または有害事象)は、医学的処置の使用に時間的に関連する、不利な意図しない徴候(異常な検査所見を含む)、症状または疾患を指す。特に、電離放射線により誘発される副作用は、電離放射線処置により対象に誘発される副作用である。副作用の重症度は、有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events)(CTCAE、例えば、CTCAE v3.0またはCTCAE v4.0またはCTCAE v5.0)に従って定義され得る。CTCAEによれば、全体として以下の副作用グレード:グレード1:軽度副作用、グレード2:中等度副作用、グレード3:重度副作用、グレード4:致命的なまたは障害をもたらす副作用、およびグレード5:副作用に関連する死亡に区別することができるが、具体的には、症状毎に定義される。本発明の一つの実施態様において、副作用は、少なくともグレード2の副作用である。一つの実施態様において、副作用は、グレード2、3、4または5の副作用、好ましくは、グレード2、3または4の副作用である。
【0044】
用語「対象」は、いずれの生物(例えば、哺乳動物、好ましくは、ヒト)も含むものとする。一つの実施態様において、対象は、医療の受容を待っている、または医療を受容している、または医療行為の対象となっていた/なっている/なる予定である、または対象疾患もしくは病態の発生が経過観察される「患者」、すなわち、温血動物、好ましくは、ヒトである。一つの実施態様において、対象は、成人(例えば、18歳を超える対象)である。別の実施態様において、対象は、小児(例えば、18以下の対象)である。一つの実施態様において、対象は男性である。別の実施態様において、対象は女性である。
【0045】
用語「治療(“treat”, “treatment” and “treating”)」は、対象疾患(例えば、癌)の進行、重症度および/もしくは持続期間の軽減もしくは改善、または対象疾患の1以上の症状(好ましくは、1以上の識別可能な症状)の改善を指し、ここで、前記改善は1以上の療法の投与から生じる。一つの実施態様において、用語「治療」は、例えば少なくとも1つの識別可能な症状の安定化により物理的に、例えば物理的パラメーターの安定化により生理学的に、またはその両方による対象疾患の進行の抑制を指す。他の実施態様において、用語「治療」は、対象疾患の進行、重症度および/もしくは持続期間の低減もしくは改善、または対象疾患の1以上の症状の改善を指す。対象は、治療上有効な量の治療薬または処置を受容した後に、対象が病原性細胞の数の観測可能なおよび/もしくは測定可能な減少または病原性の総細胞のパーセントの減少;特定の疾患に関連する症状のうち1以上のある程度の軽減;罹患および死亡率の低減、および/または生活の質の問題の改善を示すならば、その疾患に関して治療に奏効している。治療の奏効を評価するための上記パラメーターおよび病態の改善は、医師に周知の常法により容易に測定可能である。
【0046】
詳細な説明
本発明は第一に、Tリンパ球に対する電離放射線の影響を模倣するためのin vitro法であって、前記Tリンパ球を少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させることを含んでなる方法に関する。
【0047】
用語「放射線模倣剤」は、本明細書で使用する場合、生細胞に対して、電離放射線により誘発されるものと同様の影響をもたらす物質を指す。
【0048】
一つの実施態様において、少なくとも1種類の放射線模倣剤は、限定されるものではないが、ブレオマイシン、ストレプトニグリン、アフィジコリン、エンジイン抗生物質、および過酸化水素を含んでなる群から選択される。
【0049】
一つの実施態様において、少なくとも1種類の放射線模倣剤はブレオマイシン、例えば、エタノール、水またはDMSO中に可溶化されたブレオマイシンである。好ましくは、ブレオマイシンは、水性溶媒中にある。本発明において使用可能なブレオマイシンの塩の例としては、限定されるものではないが、硫酸ブレオマイシンまたは塩酸ブレオマイシンが含まれる。一つの実施態様において、本発明で使用されるブレオマイシンは、硫酸ブレオマイシン、好ましくは、水性溶媒中のものである。ブレオマイシンは市販されている。使用可能なブレオマイシン製剤の例としては、限定されるものではないが、EuromedexまたはInterchimにより提供されているブレオマイシンが含まれる。
【0050】
一つの実施態様において、T細胞は、CD4+T細胞またはCD8+T細胞、好ましくは、CD8+T細胞である。
【0051】
一つの実施態様において、本発明のT細胞はT細胞含有サンプルに含有されるか、またはT細胞含有サンプルから回収される。
【0052】
T細胞含有サンプルの例としては、限定されるものではないが、全血サンプル、ならびに骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来組織、腹水、胸水、脾臓組織、および腫瘍から回収されたサンプルが含まれる。主としてPBMC(末梢血単核細胞)または単離されたT細胞(特に、単離されたCD8 T細胞)を含有する抽出物などの他のT細胞含有サンプルも、本明細書に開示される方法において使用可能である。主として、抽出物中に存在する細胞の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%が示された細胞種であることを示すことが意図される。
【0053】
一つの実施態様において、Tリンパ球含有サンプルは、例えば白血球分離によるなど、当業者に公知のいくつもの技術を用いて対象から回収した一単位の血液から取得することができる。
【0054】
一つの実施態様において、前記サンプルは、例えば、血液、血漿、血清、リンパ、尿、脳脊髄液または汗サンプルなどの体液サンプルである。
【0055】
一つの実施態様において、前記サンプルは、血液サンプルである。
【0056】
一つの実施態様において、サンプルは、本発明の方法の実施の前に回収される、すなわち、サンプルを回収する工程は、本発明の方法の一部ではない。
【0057】
一つの実施態様において、T細胞含有サンプル(好ましくは、血液サンプル)は、対象からヘパリン処理チューブに採取される。
【0058】
一つの実施態様において、T細胞含有サンプルは、新しく回収される。一つの実施態様において、T細胞含有サンプルは、ヘパリン処理チューブ中、室温で(好ましくは、約18℃~約25℃)で保存される。
【0059】
別の実施態様において、T細胞含有サンプルは、低温保存(すなわち、液体窒素中で凍結)され、解凍される。
【0060】
一つの実施態様において、T細胞は、少なくとも1種類の放射線模倣剤との接触の前に細胞培養培地中で培養される。使用可能な細胞培養培地の例としては、限定されるものではないが、RPMI-1640(ThermoFisher、フランス)およびDMEM(ダルベッコの改変イーグル培地、ThermoFisher)が含まれる。一つの実施態様において、細胞培養培地は、場合により、20%ウシ胎仔血清(FCS)(例えば、EuroBioにより提供されるFCS、フランス)を添加してもよい。一つの実施態様において、T細胞は、37℃にて5%CO2を用いて維持される。
【0061】
一つの実施態様において、少なくとも1種類の放射線模倣剤が培養培地に添加される。
【0062】
一つの実施態様において、T細胞は、少なくとも1種類の放射線模倣剤と少なくとも約50時間、少なくとも約51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79または少なくとも約80時間接触させる。
【0063】
一つの実施態様において、T細胞は、少なくとも1種類の放射線模倣剤と約50時間、約51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79または約80時間接触させる。
【0064】
実際に、本出願者は、意外にも、RILA試験を模倣する条件、すなわち、24時間の細胞培養後、合計約48時間の期間での、T細胞と少なくとも1種類の放射線模倣剤との接触は、T細胞に対する電離放射線の影響を再現するのに(特に、CD8リンパ球においてRILA法に従って得られるものと同等のアポトーシスレベルを得るのに、特に、24時間培養された細胞に8Gyが適用され、アポトーシスが照射後48時間に見られる場合)十分でないことを示した。T細胞に対する電離放射線の影響を模倣しようとして、本出願者はさらに意外にも、例えば、約50時間~約80時間の範囲の期間などのより長い接触工程がT細胞に対する電離放射線の影響を再現し得ることを示した。特に、少なくとも1種類の放射線模倣剤は、細胞培養の開始時に添加し、培地中で少なくとも50時間維持することができる。有利には、放射線模倣剤は少なくとも60時間、または少なくとももしくは約72時間または少なくとももしくは約75時間、または約70~77時間維持される。アポトーシス誘発は複雑で時間がかかると推測され、これが、細胞が放射線模倣剤に曝された後の初期に放射線のいくつかのマーカー(DNA破断など)が細胞に存在していたとしても、放射線模倣剤に対してもっと長時間の細胞の曝露が必要とされる理由である。
【0065】
一つの実施態様において、T細胞は、約37℃で約5%CO2を用いて少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させる。
【0066】
一つの実施態様において、少なくとも1種類の放射線模倣剤を含有する細胞培養培地にT細胞を添加する。別の実施態様において、従前にT細胞を含有する培養培地に少なくとも1種類の放射線模倣剤を添加する。
【0067】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、Tリンパ球に対する約2グレイ(Gy)~約10Gy、好ましくは約5~約9Gy、より好ましくは約6~約10Gyの範囲の電離放射線、例えば、約6Gy、約8Gyまたは約10Gyの電離放射線の影響を模倣するためのものである。
【0068】
当業者ならば、使用する少なくとも1種類の放射線模倣剤の用量は、模倣する電離放射線線量によって異なることを容易に理解するであろう。
【0069】
一つの実施態様において、前記用量は、以下の数式:
【数7】
〔式中、
【数8】
は、特定の照射線量(x
ir)の影響を模倣するために適用される化合物の用量であり、
【数9】
は、照射レベルがゼロの場合のアポトーシス平均値に相当し、
【数10】
は、傾き、すなわち、1Gy増す毎のアポトーシスの増加に相当し、
【数11】
は、ブレオマイシン濃度がゼロの場合のアポトーシス平均値に相当し、
【数12】
は、傾き、すなわち、1μg/mL増す毎のアポトーシスの増加に相当する〕
に従って求められる。
【0070】
一つの実施態様において、
【数13】
は約10~約20の範囲であり、好ましくは約14~18である。一つの実施態様において、
【数14】
は約0.5~約2、好ましくは約0.75~約1.25の範囲である。一つの実施態様において、
【数15】
は約7.5~約20、好ましくは約10~約15の範囲である。一つの実施態様において、
【数16】
は約0.03~約0.15、好ましくは約0.05~約0.1の範囲である。
【0071】
一つの実施態様において、少なくとも1種類の放射線模倣剤の濃度は、約50μg/ml~約500μg/ml、好ましくは約100μg/ml~約300μg/mlの範囲、例えば約100、125、150、175、200、225、250、275、または300μg/mlである。
【0072】
一つの実施態様において、少なくとも1種類の放射線模倣剤はブレオマイシンであり、ブレオマイシンの濃度は、約50μg/ml~約500μg/ml、好ましくは約100μg/ml~約300μg/mlの範囲、例えば約100、125、150、175、200、225、250、275、または300μg/mlである。
【0073】
一つの実施態様において、本発明の方法は、6Gy照射の影響を模倣するためのものであり、少なくとも1種類の放射線模倣剤(好ましくは、ブレオマイシン)の濃度は、約50μg/ml~約500μg/ml、好ましくは約100μg/ml~約300μg/mlの範囲、例えば約100、125、150、175、200、225、250、275、または300μg/mlである。
【0074】
一つの実施態様において、本発明の方法は、8Gy照射の影響を模倣するためのものであり、少なくとも1種類の放射線模倣剤(好ましくは、ブレオマイシン)の濃度は、約50μg/ml~約500μg/mlの範囲、好ましくは約100μg/ml~約300μg/ml、例えば約100、125、150、175、200、225、250、275、または300μg/mlである。一つの実施態様において、本発明の方法は、8Gy照射の影響を模倣するためのものであり、少なくとも1種類の放射線模倣剤(好ましくは、ブレオマイシン)の濃度は約135~約160μg/mLの範囲である。
【0075】
一つの実施態様において、本発明の方法は、10Gy照射の影響を模倣するためのものであり、少なくとも1種類の放射線模倣剤(好ましくは、ブレオマイシン)の濃度は、約50μg/ml~約500μg/ml、好ましくは約100μg/ml~約300μg/mlの範囲、例えば約100、125、150、175、200、225、250、275、または300μg/mlである。
【0076】
一つの実施態様において、本発明の方法は、
a)T細胞を少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させること、および
b)放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定すること
を含んでなる。
【0077】
一つの実施態様において、本発明の方法は、
a)T細胞含有サンプルを少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させること、および
b)前記T細胞含有サンプルにおいて放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定すること
を含んでなる。
【0078】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、放射線模倣剤誘発CD4および/またはCD8 Tリンパ球アポトーシスを測定することを含んでなる。一つの実施態様において、本発明の方法は、放射線模倣剤誘発CD8 Tリンパ球アポトーシスを測定することを含んでなる。
【0079】
一つの実施態様において、接触工程の終了時に、例えば390gで5分などの遠心分離のために、予めラベルを付けた遠沈管にT細胞を移す。
【0080】
遠心分離後、サンプルを、蛍光色素結合抗CD4抗体および/または蛍光色素結合抗CD8抗体で標識してもよい。
【0081】
よって、一つの実施態様において、いずれの非リンパ球細胞(例えば、赤血球)も溶解させるために遠沈管に溶解バッファーを添加する。溶解バッファーの例は、Beckton Dickinson(USA)により提供される塩化アンモニウム系溶解試薬である。
【0082】
溶解後、当業者に公知の常法に従ってリンパ球アポトーシスを評価するために、その管に試薬を添加する。
【0083】
Tリンパ球(好ましくは、CD8 Tリンパ球)アポトーシスを測定するための方法の例は、限定されるものではないが、FACS分析(例えば、試薬としてヨウ化プロピジウムおよびRNアーゼAを用いる)、アネキシンVの投与、およびカスパーゼの投与が含まれる。好ましくは、Tリンパ球アポトーシスの評価は、FACS分析により行う。
【0084】
一つの実施態様において、本発明の方法は、例えば、膜の非対称性(例えばホスファチジルセリンの外部化により可視化され得る)、膜透過性、ミトコンドリア代謝活性、カスパーゼの活性化およびクロマチン縮合などの細胞に生じるアポトーシスの特徴の測定を含んでなる。
【0085】
よって、一つの実施態様において、本発明のアポトーシス測定工程は、T細胞アポトーシスの特徴を評価するための特定の試薬の使用を含んでなる。このような試薬の例としては、限定されるものではないが、ヨウ化プロピジウム、7-AAD、蛍光色素結合アネキシン、YO-PRO色素、PO-PRO色素、レサズリン、ヘキスト、蛍光色素結合カスパーゼ抗体およびJC-1色素が含まれる。好ましくは、本発明の方法はヨウ化プロピジウムを使用する。
【0086】
一つの実施態様において、本発明の方法は、接触工程の後に、アポトーシス細胞のパーセンテージを測定することを含んでなる。
【0087】
一つの実施態様において、アポトーシスの測定は3反復で行う。
【0088】
一つの実施態様において、本発明の方法は、少なくとも放射線模倣剤と接触されていない対照サンプルにおけるアポトーシスT細胞のパーセンテージ(「基底T細胞アポトーシス」)を測定する工程をさらに含んでなる。一つの実施態様において、基底T細胞アポトーシスを測定するために、細胞を少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させないこと以外は、これらの細胞を試験サンプルと全く同じ条件(例えば、培地、温度、CO2など)で維持する。
【0089】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、対象の個々の放射線感受性を決定することを可能とする。
【0090】
よって、一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、対象において電離放射線の後に副作用を生じるリスクを評価するためのものである。
【0091】
一つの実施態様において、本発明の方法は、電離放射線処置中、および電離放射線処置後約1か月、3か月、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月の期間の、副作用を生じるリスクを予測することを目的とする。
【0092】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、急性副作用、すなわち、電離放射線処置中、または電離放射線処置後約1週間、2週間、3週間または4週間以内、または電離放射線処置後約1か月、2か月または3か月以内に副作用を生じるリスクを予測することを目的とする。
【0093】
別の実施態様において、本発明のin vitro法は、遅発副作用、すなわち、電離放射線処置後少なくとも約3か月、例えば、電離放射線処置後約3か月~約6か月、電離放射線処置後約3か月~約12か月、電離放射線処置後約3か月~約18か月、電離放射線処置後約3か月~約2年、電離放射線処置後約3か月~約30か月、または電離放射線処置後約3か月~約3年に生じる副作用を生じるリスクを予測することを目的とする。一つの実施態様において、遅発副作用は、電離放射線処置後約4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、12か月もしくはそれ以降、または電離放射線処置後2年もしくは3年またはそれ以降に生じる。
【0094】
一つの実施態様において、以上に挙げたような副作用は、CTCAE、例えば、v3.0 CTCAE、v4.0 CTCAEまたはv5.0 CTCAEによる少なくともグレード2の副作用である。一つの実施態様において、以上に挙げたような副作用は、CTCAE、例えば、v3.0 CTCAEのよるグレード2、グレード3、グレード4またはグレード5の副作用、好ましくは、グレード2、グレード3、またはグレード4である。
【0095】
一つの実施態様において、本発明の方法は、非侵襲的である。
【0096】
一つの実施態様において、本発明の方法は、対象から予め取得したT細胞を少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させることを含んでなる。
【0097】
一つの実施態様において、対象はヒトである。
【0098】
一つの実施態様において、対象は電離放射線による処置を受けている、受けていたまたは受ける予定である。
【0099】
一つの実施態様において、T細胞またはT細胞含有サンプルは、電離放射線による処置の開始前に対象から取得する。
【0100】
一つの実施態様において、対象は腫瘍を有すると診断されている。一つの実施態様において、対象は、悪性腫瘍を有すると診断されている。別の実施態様において、対象は、非悪性(または良性腫瘍)を有すると診断されている。非悪性腫瘍の例としては、限定されるものではないが、ほくろ、子宮筋腫、新生物(例えば、脂肪腫、軟骨腫、腺腫、奇形腫、過誤腫など)が含まれる。
【0101】
別の実施態様において、対象は、電離放射線により治療され得る非悪性疾患を有すると診断されている。電離放射線により治療され得る非悪性疾患の例としては、限定されるものではないが、グレーブス病、踵骨棘およびケロイドが含まれる。
【0102】
一つの実施態様において、対象は、癌を有すると診断されている。癌の例としては、限定されるものではないが、前立腺癌、乳癌、消化管癌(例えば、結腸癌、小腸癌または結腸直腸癌)、胃癌、膵臓癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、中皮腫、膀胱癌、腎臓癌、甲状腺癌、心臓癌、尿生殖路癌、肝臓癌、骨癌、神経系癌(例えば、脳癌)、婦人科癌(例えば、卵巣癌)、精巣癌、血液癌、咽頭癌、頭頸部癌、口腔癌、皮膚癌、および副腎癌が含まれる。
【0103】
一つの実施態様において、前記癌は、例えば固形腫瘍などの腫瘍である。別の実施態様において、前記癌は血液癌である。別の実施態様において、前記癌は血液悪性腫瘍である。
【0104】
乳癌の例としては、限定されるものではないが、非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌、乳房腺管癌、乳房髄様癌、乳房粘液癌、乳房乳頭癌、乳房篩状癌、浸潤性小葉癌、炎症性乳癌、非浸潤性小葉癌、男性乳癌、乳頭のパジェット病、乳房葉状腫瘍および再発・転移乳癌が含まれる。
【0105】
消化管癌の例としては、限定されるものではないが、食道癌(扁平上皮癌、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫)、胃癌(癌腫、リンパ腫、平滑筋肉腫)、膵臓癌(膵管腺癌、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、ビポーマ)、小腸癌(腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫(Karposi's sarcoma)、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫)、大腸癌(腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫)、結腸癌、結腸直腸癌および直腸癌が含まれる。
【0106】
肺癌の例としては、限定されるものではないが、腺癌(旧称、細気管支肺胞上皮癌)、未分化小細胞癌、未分化大細胞癌、小細胞癌、大細胞癌、大細胞神経内分泌腫瘍、小細胞肺癌(SCLC)、未分化非小細胞肺癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨性過誤腫(chondromatosis hamartoma)、パンコースト腫瘍およびカルチノイド腫瘍が含まれる。
【0107】
中皮腫の例としては、限定されるものではないが、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫、末期中皮腫ならびに上皮型、肉腫型、および二相型中皮腫が含まれる。
【0108】
膀胱癌の例としては、限定されるものではないが、移行細胞膀胱癌(旧称、尿路上皮癌)、浸潤性膀胱癌、扁平上皮癌、腺癌、筋層非浸潤性(表在性または初期)膀胱癌、肉腫、膀胱小細胞癌および二次膀胱癌が含まれる。
【0109】
心臓癌の例としては、限定されるものではないが、肉腫(血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫)、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫および奇形腫が含まれる。
【0110】
尿生殖路癌の例としては、限定されるものではないが、腎臓癌(腺癌、Wihn腫瘍[腎芽細胞腫]、リンパ腫、白血病)、膀胱および尿道癌(扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌)、前立腺癌(腺癌、肉腫)、および精巣癌(精上皮腫、奇形腫、胚性癌腫、奇形癌、絨毛癌、肉腫、間質性細胞癌、線維腫、線維腺腫、腺腫様腫瘍、脂肪腫)が含まれる。
【0111】
肝臓癌の例としては、限定されるものではないが、肝細胞腫(肝細胞癌)、胆管癌、肝芽細胞腫、血管肉腫、肝細胞性腺腫、および血管腫が含まれる。
【0112】
骨癌の例としては、限定されるものではないが、骨原性肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫瘍、脊索腫、骨軟骨腫(骨軟骨性外骨症)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液様線維腫、類骨骨腫および巨細胞腫瘍が含まれる。
【0113】
神経系癌の例としては、限定されるものではないが、頭蓋骨癌(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、変形性骨炎)、髄膜癌(髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫症)、および脳癌(星状細胞腫、髄芽細胞腫、神経膠腫、脳室上衣細胞腫、胚細胞腫[松果体腫]、多形膠芽腫、乏突起膠腫、神経鞘腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫)が含まれる。
【0114】
婦人科癌の例としては、限定されるものではないが、子宮癌(子宮内膜癌)、頸癌(子宮頸癌腫、前腫瘍性子宮頚部異形成)、卵巣癌(卵巣癌腫[漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、分類不能型癌]、顆粒膜卵胞膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、外陰癌(扁平上皮癌、上皮内癌、腺癌、線維肉腫、黒色腫)、および膣癌(明細胞癌腫、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫[胎児型横紋筋肉腫]、卵管癌[癌腫])が含まれる。
【0115】
血液癌の例としては、限定されるものではないが、血液癌(骨髄性白血病[急性および慢性]、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫[悪性リンパ腫]が含まれる。
【0116】
皮膚癌の例としては、限定されるものではないが、悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫(Karposi's sarcoma)、ほくろ、異形性母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、およびケロイドが含まれる。
【0117】
副腎癌の例としては、限定されるものではないが、神経芽腫が含まれる。
【0118】
一つの実施態様において、前記癌は、進行癌である。本明細書で使用する場合、用語「進行癌」は、身体の他の場所に拡散し、通常治癒し得ないまたは治療で制御できない癌を指す。特に、局部進行癌は、起点となった場所から近傍の組織またはリンパ節に拡散した癌である。
【0119】
一つの実施態様において、前記癌は、切除不能癌である。本明細書で使用する場合、用語「切除不能癌」は、手術によって除去できない癌である。
【0120】
一つの実施態様において、前記癌は、再発癌である。本明細書で使用する場合、用語「再発癌」は、再び発生した(戻った)癌を指す。癌は元の(原発)腫瘍と同じ場所または身体の他の場所に戻る場合がある。
【0121】
一つの実施態様において、前記癌は転移癌である。本明細書で使用する場合、用語「転移癌」は、最初に起点となった場所から身体の別の場所へ拡散した癌を指す。転移癌細胞により形成された腫瘍は、転移腫瘍または転移と呼ぶことができる。転移腫瘍は、元の(原発)腫瘍様の細胞を含む。
【0122】
一つの実施態様において、対象は電離放射線により処置される予定であり、本発明の方法は、電離放射線による処置の開始前に実施される。
【0123】
用語「電離放射線」は、本明細書で使用する場合、癌または腫瘍細胞を死滅させまたは障害し、それらが成長および増殖しないようにするための、例えば、X線(電子または光子ビーム)、γ線、または陽子などの放射線の使用を含む処置を指す。
【0124】
一つの実施態様において、電離放射線は、X線の使用を含む。
【0125】
一つの実施態様において、副作用は、例えば、前立腺癌の治療のためには骨盤領域、または乳癌の治療のためには乳房領域などの処置領域において電離放射線により誘発される副作用である。
【0126】
前立腺癌の治療中に誘発され得る電離放射線により誘発される副作用の例としては、限定されるものではないが、尿生殖器(例えば、泌尿器毒性および生殖毒性)、消化管毒性および神経毒性が含まれる。
【0127】
乳癌の治療中に誘発され得る電離放射線により誘発される副作用の例としては、限定されるものではないが、萎縮性皮膚、毛細管拡張症、硬結(線維症)、壊死または潰瘍形成が含まれる。一つの実施態様において、電離放射線により誘発される副作用は、乳房遅発副作用、すなわち、乳癌の治療中に誘発される副作用(例えば、萎縮性皮膚、毛細管拡張症、硬結(線維症)、壊死または潰瘍形成)および電離放射線処置後少なくとも約3か月(例えば、電離放射線処置後約3か月~約6か月、電離放射線処置後約3か月~約12か月、電離放射線処置後約3か月~約18か月、電離放射線処置後約3か月~約2年、電離放射線処置後約3か月~約30か月、または電離放射線処置後約3か月~約3年または電離放射線処置後約4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、12か月もしくはそれ以降、または電離放射線処置後2年もしくは3年もしくはそれ以降)で生じる副作用である。
【0128】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、放射線模倣剤誘T細胞アポトーシスと参照放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを比較し、それにより、対象が電離放射線誘発副作用を生じる高いリスクを呈するか低いリスクを呈するか決定する工程をさらに含んでなる。
【0129】
一つの実施態様において、参照放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスは、参照集団において測定されるアポトーシスに相当する。一つの実施態様において、参照アポトーシスは、電離放射線で処置され、経過観察中(例えば、電離放射線中および/または電離放射線後の経過観察中、例えば、電離放射線の終了後1か月、3か月、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月)に放射線誘発副作用を受けた患者(例えば、癌患者)を含んでなる参照集団において測定されたものである。別の実施態様において、参照アポトーシスは、電離放射線で処置され、経過観察中(例えば、電離放射線中および/または電離放射線後の経過観察中、例えば、電離放射線の終了後1か月、3か月、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月)に電離放射線誘発副作用を受けなかった患者(例えば、癌患者)を含んでなる参照集団において測定されたものである。
【0130】
参照アポトーシスは、限定されるものではないが、類似の年齢範囲の対象、同じまたは類似の民族、類似の病歴、類似の電離放射線処置の対象などを含む集団研究から導き出すことができる。
【0131】
一つの実施態様において、参照アポトーシスは、アルゴリズムおよび統計学的・構造分類の他の方法を用いて構築される。
【0132】
一つの実施態様において、参照アポトーシスは、参照集団において測定された平均アポトーシスに相当する。本発明の一つの実施態様において、参照アポトーシスは、参照集団において測定されたアポトーシス中央値に相当する。
【0133】
一つの実施態様において、本発明の方法は、コンピューター化(またはコンピューター実装)されている。
【0134】
一つの実施態様において、本発明の方法は、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスが参照アポトーシスを超えているか、または前記参照アポトーシス以下であるかを決定することを含んでなる。
【0135】
別の実施態様において、本発明の方法は、対象に関して測定された放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスが位置し得るパーセンタイルを決定することを含んでなる。この実施態様によれば、参照集団において測定された放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値は、パーセンタイルで分類され、ここで、参照集団の全対象に関して得られた放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値は、それらの数値に従って昇順で並べられる。本発明の一つの実施態様において、パーセンタイルは対象のパーセンタイルであり、すなわち、各パーセンタイルは、同数の対象を含んでなる。よって、最初のパーセンタイルは、最低の放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値を有する対象に相当し、最後のパーセンタイルは、最高の放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値を有する対象に相当する。一つの実施態様において、3つのパーセンタイルを設ける場合、各パーセンタイルは三分位数と呼ばれる。別の実施態様において、4つのパーセンタイルを設ける場合、各パーセンタイルは四分位数と呼ばれる。別の実施態様において、5つのパーセンタイルを設ける場合、各パーセンタイルは五分位数と呼ばれる。
【0136】
当業者は、参照集団において得られた放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値から参照アポトーシスまたは放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値のパーセンタイルを決定する方法を知っている。
【0137】
このような方法の限定されない例としては、副作用を有する対象と副作用を有さない対象に関して測定された放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値(AUROC)について、SeおよびSpを最大とするカットオフを決定するためのROC曲線を描くことが含まれる。
【0138】
一つの実施態様において、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスの決定は、医師が電離放射線誘発副作用を制限するために患者に対する電離放射線処置の線量およびシーケンスを適合させる、および場合により、電離放射線処置を他の治療処置に置き換えることにより処置を適合させる助けとなる。
【0139】
特定の実施態様において、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスは、適当な電離放射線投与計画などの、患者に好適な処置を選択するために使用される。
【0140】
本発明の別の目的は、患者に適合した患者ケア(または処置)を実施するための方法であり、その方法は、
以上に記載されたようなin vitro法を用いて、前記患者が電離放射線誘発副作用を生じるリスクを評価すること;
前記患者が電離放射線誘発副作用を生じるリスクに応じて適合した患者ケア(または処置)を実施すること
を含んでなる。
【0141】
一つの実施態様において、患者は、電離放射線誘発副作用を生じる高いリスクを呈し、適合された患者ケアは、漸減電離放射線投与計画、または例えば手術などの別の処置を含んでなる群から選択され得る。
【0142】
一つの実施態様において、患者は、電離放射線誘発副作用を生じるリスクがないかまたは低いリスクしかなく、適合された患者ケアは、漸増電離放射線投与計画を含んでなる群から選択され得る。
【0143】
よって、本発明の別の目的は、本発明の方法を実施するためのコンピューターソフトウエアである。
【0144】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを計算するように構成されたソフトウエアを含んでなるマイクロプロセッサを用いて実施される。
【0145】
本発明の別の目的は、コンピューターおよび/または計算機などの機械読み取り可能なメモリーと前記数学関数、特に、前記多変量Cox関数を計算するように構成されたプロセッサを含むシステムを対象とする。このシステムは、本発明による方法を実行するために専用としてもよい。
【0146】
本発明の別の目的は、本発明の方法を実施するためのキットであり、このキットは、本発明に定義されるように、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定するための試薬を含んでなる。
【0147】
本発明の別の目的は、本発明の方法の方法を実施するためのキットであり、このキットは、
T細胞含有サンプル、特に、血液サンプル、および場合によりT細胞を単離するための試薬の生物輸送に適したボックス/容器およびバッグ;ならびに
放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定するための試薬
を含んでなる。
【0148】
よって、本発明の別の目的は、本発明の方法を用いて対象において電離放射線誘発副作用を生じるリスクを検出するためのキットであり、前記キットは、
T細胞含有サンプル、特に、血液サンプル、および場合によりT細胞を単離するための試薬の生物輸送に適したボックス/容器およびバッグ;ならびに
本発明に定義されるにように放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定するための試薬
を含んでなる。
【0149】
「キット」はいずれの製品(例えば、パッケージまたは容器)も意図する。このキットは、本発明の方法を実施するためのユニットとして開発、流通、または販売され得る。さらに、これらキット試薬のいずれかまたは総ては、密封容器などの外部環境からそれらを保護する容器内に提供してよい。これらのキットはまた、キットおよびその使用方法を記載した説明書を含んでもよい。また、様々な目的に有用なキットも提供される。ラベルまたは説明書は、キットの含量の記載ならびに意図される使用に関する説明を提供し得る。
【0150】
一つの実施態様において、本発明に定義されるような放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスを決定するための試薬は、
例えば、T細胞を培養するために好適な培養培地(例えば、20%FCSを添加したRPMI)、および前記放射線模倣剤(例えば、ブレオマイシン)など、少なくとも1種類の放射線模倣剤の存在下での、以上に記載されたようなT細胞の培養工程を実施するために必要とされる;
例えば、ヨウ化プロピジウム、蛍光色素結合アネキシン、YO-PRO色素、PO-PRO色素、レサズリン、ヘキスト、蛍光色素結合カスパーゼなど、アポトーシス測定アッセイ(例えば、フローサイトメーターを使用)を実施するために必要とされる
特定の試薬の試薬の一部または総てに相当する。
【0151】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、乳癌を有する対象の個々の放射線感受性を評価するため(好ましくは、電離放射線誘発乳房遅発副作用を生じるリスクを決定するための)方法であり、本発明の方法は、
a)対象から予め取得したT細胞含有サンプルを少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させること、
b)前記サンプルにおいて放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスを測定すること、
c)対象において少なくとも2つの臨床パラメーターのレベルを決定すること、
d)場合により、前記対象において少なくとも1つの生化学的マーカーを測定すること、および
e)場合により、工程b)で測定された放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスと工程c)で決定された前記の少なくとも2つの臨床パラメーター、および場合により、工程d)で測定された少なくとも1つの生化学的マーカーとを数学関数において組み合わせること
を含んでなる。
【0152】
「臨床パラメーター」とは、対象に関連し、かつ、前記対象における電離放射線処置(ionizing treatment)誘発毒性のリスクの上昇を評価するために適切ないずれの臨床パラメーターも意味する。臨床パラメーターの例としては、限定されるものではないが、年齢、乳房容積、補助ホルモン療法、追加(補足線量の照射)、リンパ節照射、および喫煙が含まれる。好ましくは、工程c)で測定される少なくとも2つの臨床パラメーターは、喫煙習慣および補助ホルモン療法を含んでなる。
【0153】
一つの実施態様において、本発明の方法は、工程(c)において、対象が従前に補助ホルモン療法を受けていたかどうかまたはその時点で受けているかどうかを決定することを含んでなる。本明細書で使用する場合、用語「補助ホルモン療法」は、手術、化学療法、および/または電離放射線療法の後または並行してまたは前に、癌の再発リスクを引き下げるために開始される処置を指す。
【0154】
ホルモン受容体陽性乳癌は、成長をエストロゲンおよび/またはプロゲステロンと呼ばれるホルモンに依存する。補助ホルモン療法は、身体のこれらのホルモンレベルを引き下げることまたは残存している癌細胞に渡らないようにホルモンを遮断することを可能とする。
【0155】
乳癌の治療のために使用可能な補助ホルモン療法の例としては、限定されるものではないが、タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤(AIs)、例えば、アナストロゾール(アリミデックス)およびレトロゾール(フェマーラ)、エキセメスタン(アロマシン)、ならびに手術によるかまたはゴナドトロピン、黄体形成ホルモン、ゴセレリン(ゾラデックス)およびロイプロリド(ルプロン)から選択される薬物による卵巣機能抑制が含まれる。
【0156】
一つの実施態様において、本発明の方法は、工程(c)において対象の喫煙習慣を決定することを含んでなる。
【0157】
本明細書で使用する場合、用語「対象の喫煙習慣を決定すること」は、本明細書で定義されるように、対象が喫煙対象(毎日喫煙者(daily smoker)、間欠喫煙者(intermittent smoker)もしくは毎日でない喫煙者(non-daily smoker)のいずれか)であるかまたは非喫煙対象であるかを決定することを意味する。
【0158】
「毎日喫煙者」は、その時点で日常的に喫煙している対象と定義され得る。
【0159】
「間欠喫煙者」は、日常的には喫煙していない(DiFranza et al., 2007; Lindstrom, Isacsson, & the Malmo Shoulder-Neck Study Group, 2002)または前月に1~15日喫煙している(McCarthy, Zhou, & Hser, 2001) 対象と定義され得る。
【0160】
「毎日でない喫煙者」は、(i)少なくとも週に1回(しかし毎日ではない)もしくは週に1回より少ない頻度で喫煙している対象;(ii)生涯に少なくとも100本の喫煙、その時点で数日喫煙している対象;(iii)生涯に100本を超える喫煙、その時点で数日喫煙し、過去30日に30本未満の喫煙があった対象;(iv)生涯に100本を超える喫煙、過去30日に数日もしくは1~2日喫煙があった対象;または(v)生涯に100本未満の喫煙、過去30日に喫煙があった対象として定義され得る(Gilpin, White, & Pierce, 2005; Hassmiller et al., 2003; Husten, McCarty, Giovino, Chrismon, & Zhu, 1998; Leatherdale, Ahmed, Lovato, Manske, & Jolin, 2007; McDermott et al., 2007; Tong, Ong, Vittinghoff, & Perez-Stable, 2006; Wortley, Husten, Trosclair, Chrismon, & Pederson, 2003)。
【0161】
「数日喫煙者」は、喫煙者の生涯に100本の喫煙があり、その時点で数日喫煙している対象(毎日ではない;CDC, 1993; Hassmiller, Warner, Mendez, Levy, & Romano, 2003)として定義され得る。
【0162】
「毎日喫煙したことがない者(never daily smoker)」は、6か月以上、毎日喫煙したことがない対象として定義され得る(Gilpin et al., 1997).
【0163】
一つの実施態様において、本発明の方法は、工程d)において少なくとも1つの生化学的マーカーを測定することを含んでなる。一つの実施態様において、前記少なくとも1つの生化学的マーカーは、個々の放射線感受性のタンパク質および個々の放射線感受性の遺伝子を含んでなる群から選択される。
【0164】
一つの実施態様において、前記少なくとも1つの生化学的マーカーは、好ましくはAK2(アデニル酸キナーゼ2)、HSPA8(熱ショックコグネイトタンパク質71kDa、HSC70とも呼ばれる)、ANX1(アネキシン1)、APEX1(DNA-(脱プリンまたは脱ピリミジン部位)リアーゼ)およびIDH2(ミトコンドリアイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2)、それらのフラグメントおよび組合せからなる群から選択される、個々の放射線感受性のタンパク質である。
【0165】
一つの実施態様において、前記なくとも1つの生化学的マーカーは、好ましくはAK2、HSPA8、ANX1、APEX1およびIDH2からなる群から選択される、個々の放射線感受性の少なくとも2つのタンパク質、または個々の放射線感受性の少なくとも3つのタンパク質、個々の放射線感受性の少なくとも4つのタンパク質、または個々の放射線感受性の5つのタンパク質の組合せである。
【0166】
本明細書で使用する場合、「個々の放射線感受性のタンパク質」は、その発現(タンパク質レベルまたはRNAレベルで)が対象の個々の放射線感受性の指標となるタンパク質を指す。
【0167】
結果として、一つの実施態様において、工程(c)において少なくとも1つの生化学的マーカーを測定することは、対象からのサンプルにおいて個々の放射線感受性の少なくとも1つのタンパク質のタンパク質レベルを測定すること、または対象からのサンプルにおいて前記タンパク質をコードする核酸を測定することに相当する。一つの実施態様において、第1の工程で、タンパク質および/または核酸を、対象から予め取得した生体サンプルから単離する。よって、本発明による方法は、周知の生化学的方法を用いたタンパク質または核酸の抽出、精製および特性決定を含み得る。
【0168】
前記個々の放射線感受性のタンパク質の存在またはレベルは、当技術分野で周知の方法によって決定することができる。このような方法の例としては、限定されるものではないが、免疫検出に基づく方法、ウエスタンブロットに基づく方法、質量分析に基づく方法、クロマトグラフィーに基づく方法、またはフローサイトメトリーに基づく方法、および特定の核酸検出のための方法が含まれる。サンプルにおいてタンパク質レベルを決定するためのin vitro法の特定の例は当技術分野で周知であり、限定されるものではないが、免疫組織化学、マルチプレックス法(Luminex)、ウエスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、サンドイッチELISA、蛍光結合免疫吸着アッセイ(FLISA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、フローサイトメトリー(FACS)などが含まれる。
【0169】
一つの実施態様において、タンパク質の存在もしくは発現レベルは直接決定することもできるし、またはタンパク質特異的な核酸、特にmRNAを検出する、好ましくは定量する(すなわち、タンパク質の転写レベルを評価する)ことによって核酸レベルで分析することもできる。タンパク質の転写レベルを評価するための方法は、従来技術において周知である。このような方法の例としては、限定されるものではないが、RT-PCR、RT-qPCR、ノーザンブロット、例えばマイクロアレイの使用などのハイブリダイゼーション技術、およびそれらの組合せが含まれ、限定されるものではないが、RT-PCRにより得られるアンプリコンのハイブリダイゼーション、例えば次世代DNAシーケンシング(NGS)またはRNA-seq(「全トランスクリプトームショットガンシーケンシング」としても知られる)などのシーケンシングなどを含む。
【0170】
一つの実施態様において、前記少なくとも1つの生化学的マーカーは、好ましくはTGFβ、SOD2、TNFα、およびXRCC1からなる群から選択される、個々の放射線感受性の遺伝子である。
【0171】
本明細書で使用する場合、「個々の放射線感受性の遺伝子」は、その発現(タンパク質レベルまたはRNAレベルで)が対象の個々の放射線感受性の指標となる遺伝子、または対象の個々の放射線感受性の指標となる少なくとも1つの一塩基多型(SNP)を含んでなるか、もしくは線維症経路およびROS管理に関与する遺伝子を指す。
【0172】
結果として、一つの実施態様において、工程(c)において少なくとも1つの生化学的マーカーを測定することは、対象からのサンプルにおいて個々の少なくとも1つの放射線感受性の遺伝子の発現レベルを測定すること、、またはその遺伝子においてSNPの存在を決定することに相当する。
【0173】
前記個々の放射線感受性の遺伝子の存在または発現レベルは、当業者に公知の常法によって決定することができる。このような方法の限定されない一覧は、以上に示されている。
【0174】
一つの実施態様において、個々の放射線感受性の遺伝子の存在または発現レベルを決定するためのin vitro法は、Azria et al., 2008に開示されている通りであり、リンパ球の単離、DNAの抽出および増幅、ならびに変性高速液体クロマトグラフィーまたはTransgenomic WAVE High Sensitivity Nuclei Acid Fragment Analysis Systemを用いたSurveyorヌクレアーゼアッセイを含む。
【0175】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、工程(c)において個々の放射線感受性の少なくとも1つのタンパク質および個々の放射線感受性の少なくとも1つの遺伝子を測定することを含んでなる。
【0176】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、
a)対象から予め取得したT細胞含有サンプルを少なくとも1種類の放射線模倣剤と接触させること;
b)前記サンプルにおいて放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスを測定すること;
c)前記対象が補助ホルモン療法で処置されているか/されていたかを決定し、前記対象の喫煙習慣を判定すること、
d)場合により、前記対象において少なくとも1つの生化学的マーカーを測定すること、および
e)場合により、工程b)で測定された放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスと、工程c)で決定された前記少なくとも2つの臨床パラメーター、および場合により、工程d)で測定された少なくとも1つの生化学的マーカーとを、数学関数において組み合わせること
を含んでなる。
【0177】
一つの実施態様において、本発明の方法は、工程e)において、工程(b)で測定された放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスと、工程c)で測定された少なくとも2つの臨床パラメーター(好ましくは、補助ホルモン療法の有無、および喫煙習慣)および場合により、工程d)で測定された少なくとも1つの生化学的パラメーターとを数学関数において組み合わせ、それにより終値を得る工程を含んでなる。
【0178】
一つの実施態様において、前記数学関数は、バイナリロジスティック回帰、多重線形回帰または任意の時間依存回帰を用いた多変量解析である。
【0179】
一つの実施態様において、前記数学関数は、Cox比例ハザード回帰モデルである。
【0180】
一つの実施態様において、存在する場合もしない場合もある、以上に列挙されたような臨床パラメーターに関して、前記パラメーターの存在には、数学関数、好ましくは、多変量Cox関数において値=1が与えられ、その不在には、数学関数、好ましくは、多変量Cox関数において値=0が与えられる。
【0181】
例えば、一つの実施態様において、工程(c)で、対象が補助ホルモン療法で処置されていれば、値「1」が割り当てられる。一つの実施態様において、工程(c)で、対象が補助ホルモン療法で処置されていなければ、その対象には値「0」が割り当てられる。
【0182】
一つの実施態様において、臨床パラメーター「喫煙」に関して、喫煙患者は毎日喫煙者、間欠喫煙者または毎日でない喫煙者として一貫して定義され(数学関数、好ましくは、多変量Cox関数において値=1が与えられる)、非喫煙患者は数日喫煙者または毎日喫煙者として定義される(数学関数、好ましくは、多変量Cox関数において値=0が与えられる)。
【0183】
一つの実施態様において、臨床パラメーター「年齢」に関して、患者が55歳以下である(数学関数、好ましくは、多変量Cox関数において値=0が与えられる)および患者が55歳を超える(数学関数、好ましくは、多変量Cox関数において値=1が与えられる)ことを定義するための年齢中央値は55歳である。
【0184】
別の実施態様において、連続データに関して(特に、場合により工程d)で測定される生化学的マーカーおよび工程b)で測定される放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスに関して)、このパラメーターには、数学関数、好ましくは、多変量Cox関数においてその正確な値が与えられる。
【0185】
一つの実施態様において、本発明の数学関数は、バイナリロジスティック回帰、多重線形回帰または任意の時間依存回帰である。
【0186】
一つの実施態様において、終値は、放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスの測定、少なくとも2つの臨床パラメーター(好ましくは、補助ホルモン療法と喫煙習慣)、および場合により、少なくとも1つの生化学的マーカー(biochemical marked)を、多変量解析を用いて確立された回帰式において組み合わせることによって得られる。
【0187】
一つの実施態様において、前記式は、
A+B1*(放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)+B2*(第1の臨床パラメーター、好ましくは、補助ホルモン療法)+B3*(第2の臨床パラメーター、好ましくは、喫煙習慣)+…+Bn*((n-1)臨床パラメーターまたは生化学的マーカー)
として表され、ここで、A、B1、B2、…、Bnは所定の係数である。
【0188】
別の実施態様において、前記式は、
C+[D1*LN(放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)]+[D2*LN(第1の臨床パラメーター、好ましくは、補助ホルモン療法)]+[D3*LN(第2の臨床パラメーター、好ましくは、喫煙習慣)]+…+[Dn*LN((n-1)臨床パラメーターまたは生化学的マーカー)]
として表され、ここで、C、D1、D2、…Dnは所定の係数である。
【0189】
別の実施態様において、前記式は、
E+exp[F1*(放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)]+[F2*(第1の臨床パラメーター、好ましくは、補助ホルモン療法)]+[F3*(第2の臨床パラメーター、好ましくは、喫煙習慣)]+…+[Fn*((n-1)臨床パラメーターまたは生化学的マーカー)]
として表され、ここで、E、F1、F2、…、Fnは所定の係数である。
【0190】
一つの実施態様において、回帰は、多変量Cox回帰である。
【0191】
一つの実施態様において、前記回帰は、時間依存型、好ましくは、時間依存多変量回帰である。
【0192】
一つの実施態様において、前記回帰が、多変量時間関連モデル、好ましくは、Cox比例ハザード回帰モデルである。
【0193】
本発明の一つの実施態様において、Cox回帰において組み合わせられる独立パラメーターは、放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス、補助ホルモン療法、喫煙習慣および場合により、少なくとも1つの生化学的マーカーである。本発明の一つの実施態様において、Cox回帰において組み合わせられる独立パラメーターは、放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス、補助ホルモン療法、および喫煙習慣である。
【0194】
多変量Cox関数は通常、多変量Cox回帰で個々に決定されるような各パラメーターの相対的重みと、マーカーが乳房遅発副作用の所見と負の相関を持つ場合の負の符号を組み合わせることによって得ることができる。
【0195】
一つの実施態様において本発明の多変量Coxモデルを定義するために(すなわち、「モデル化」)、臨床経過観察中の、電離放射線誘発副作用、好ましくは、以上に記載されたような乳房遅発副作用の検出に基づいて、乳癌患者の分類がなされる。
【0196】
一つの実施態様において、前記モデル化は、電離放射線により処置された乳癌患者の集団(例えば、多施設共同集団)(「参照集団」と呼んでもよい)に基づき得る。よって、モデルを構築するための工程は、
集団の全対象における放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスパーセンテージの測定;
生化学的マーカー(例えば、個々の放射線感受性(radiosenstivity)のタンパク質および/または遺伝子)および対象における電離放射線毒性のリスクの上昇を評価するために適切な臨床パラメーターの特定;
電離放射線誘発副作用、特に、乳房遅発副作用の予後因子としての、すなわち、電離放射線誘発副作用、特に、乳房遅発副作用を生じる特定のリスクの指標となる変数としての適切な変数を特定するための、多施設共同臨床試験における前記の特定された生化学的マーカーおよび臨床パラメーターの使用;
放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス、生化学的マーカー(例えば、個々の放射線感受性のタンパク質および/または遺伝子)と電離放射線誘発副作用、特に、乳房遅発副作用の発生に関する臨床パラメーターとの組合せの予測的役割を特定するための、大規模多施設共同臨床試験へのこれらの変数の適用
からなる。
【0197】
「多施設共同研究試験」とは、2箇所以上の医療施設または診療所で実施される臨床試験を意味する。
【0198】
一つの実施態様において、多変量Coxモデルは、
ハザード(電離放射線誘発副作用を受ける)=ベースラインハザード*exp((β1*放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)+β2*(第1の臨床パラメーター、好ましくは、補助ホルモン療法)+β3*(第2の臨床パラメーター、好ましくは、喫煙習慣)+…βn*(臨床パラメーター(n-1)またはnが3以上の生化学的マーカー)
であり、ここで、ベースラインハザードは、総ての共変数がゼロである場合にイベント(電離放射線誘発副作用)を受けるハザードに相当する。
【0199】
別の実施態様において、多変量Coxモデルは、
ハザード(電離放射線誘発副作用を受ける)=ベースラインハザード*exp((β1*放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)+β2*(補助ホルモン療法)+β3*(喫煙習慣)
であり、ここで、ベースラインハザードは、総ての共変数がゼロである場合にイベント(電離放射線誘発副作用)を受けるハザードに相当する。
【0200】
上記等式の右側は、モデルの基本関数を特定する。等式の左側は、ノモグラムで示され、乳癌患者に伝達され得る予測確率である。β係数は、いずれの統計レポートとも同様に、共変数毎に評価され、影響の尺度としてのハザード比に変換されなければならない。等式のイベント(電離放射線誘発副作用を受ける)の予測確率を得るために、患者の個々の特徴およびモデルから導き出されるβ係数を用いて上記等式が計算される。
【0201】
一つの実施態様において、ベースラインハザードは、共変数なく、電離放射線誘発副作用を生じる基本リスクに相当する定数である。Cox回帰モデルに従ってモデル化を行う際に、このベースラインハザードは、上記に開示されるような参照集団から得られるデータから決定することができる。
【0202】
臨床パラメーター「1」~「n」は、以上に開示されるような臨床パラメーターまたは疾患パラメーターまたは電離放射線処置パラメーターのリストで選択することができる。一つの実施態様において、前記臨床パラメーターは、年齢、乳房容量、補助ホルモン療法、追加(補足線量の照射)、リンパ節照射、および喫煙を含んでなるリストから選択される。一つの実施態様において、前記臨床パラメーターは、補助ホルモン療法および喫煙習慣を含む。
【0203】
一つの実施態様において、ハザード(電離放射線誘発副作用を受ける)=ベースラインハザード*exp((β1*放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)+β2*(第1の臨床パラメーター、好ましくは、補助ホルモン療法)+β3*(第2の臨床パラメーター、好ましくは、喫煙習慣)+…βn*(臨床パラメーター(n-1)またはnが3以上の生化学的マーカー)、ここで、ベースラインハザードは、総ての共変数がゼロである場合にイベント(電離放射線誘発副作用、好ましくは、乳房遅発副作用)を受けるハザードに相当する。
【0204】
一つの実施態様において、上式において与えられたパラメーターに関して入力される値は、前記パラメーターが不在であれば0であり、前記パラメーターが存在すれば1である(例えば、補助ホルモン療法の有無の場合)。
【0205】
別の実施態様において、上式において与えられたパラメーターに関して入力される値は、前記パラメーターの測定値に相当する(例えば、放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスの場合)。
【0206】
一つの実施態様において、ハザード(電離放射線誘発副作用を受ける)=ベースラインハザード*exp(β1*放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシス)+β2*(補助ホルモン療法[0=無;1=有])+、β3*(喫煙[0=無;1=有])、ここで、ベースラインハザードは、総ての共変数がゼロである場合にイベント(電離放射線誘発副作用、好ましくは、乳房遅発副作用)を受けるハザードに相当する。
【0207】
一つの実施態様において、ハザード(電離放射線誘発副作用を受ける)は、乳癌対象に関して、電離放射線誘発副作用を生じるリスクと呼ぶこともできる。
【0208】
一つの実施態様において、この多変量Cox関数に基づき、当業者ならば、前記多変量Coxモデルに、追加の関連の生化学的マーカーおよび/または臨床パラメーターを導入することができるであろう。
【0209】
一つの実施態様において、本発明の関数、好ましくは、多変量Cox回帰において、異なるマーカーに対して得られた値に関して使用される異なる係数は、患者の参照集団における統計分析によって計算することができる。
【0210】
よって、一つの実施態様において、本発明の方法は、終値を測定することを含んでなり、前記終値は、対象が以上に記載されたような電離放射線誘発副作用を生じるリスクの指標となる。一つの実施態様において、前記リスクは、基本リスク(ベースラインの特徴)および共変数(数学関数において組み合わせられた生化学的マーカーおよび臨床パラメーター)を考慮して評価される。
【0211】
よって、一つの実施態様において、「終値」は、各対象に関する電離放射線誘発副作用の発生の予測確率である。
【0212】
一つの実施態様において、対象に関して得られた終値に応じて、前記対象に関して、電離放射線処置後の経過観察中、例えば、電離放射線処置の終了の3か月または6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月後などに、電離放射線誘発副作用を生じるリスクを予測することが可能である。例えば、一つの実施態様において、終値92%は、電離放射線中および/または電離放射線後の経過観察中、例えば、電離放射線処置の終了の1か月、3か月、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月後などに、電離放射線誘発副作用を生じる8%のリスクを意味する。
【0213】
一つの実施態様において、本発明の方法は、対象に関して得られた終値と参照終値を比較することを含んでなる。
【0214】
一つの実施態様において、参照終値は、乳癌患者の参照集団において測定された終値に相当する。一つの実施態様において、参照終値は、電離放射線で処置され、経過観察中(例えば、電離放射線中および/または電離放射線後の経過観察中、例えば、電離放射線の終了の1か月、3か月、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月後など)に電離放射線誘発副作用を受けていた乳癌患者を含んでなる参照集団において測定した。別の実施態様において、参照終値は、電離放射線で処置され、経過観察中(例えば、電離放射線中および/または電離放射線後の経過観察中、例えば、電離放射線の終了の1か月、3か月、6か月、12か月、18か月、24か月、30か月または36か月後など)に電離放射線誘発副作用を受けなかった乳癌患者を含んでなる参照集団において測定した。
【0215】
参照終値は、限定されるものではないが、類似の年齢範囲の対象、同じまたは類似の民族、類似の病歴、類似の電離放射線処置の対象などを含む集団研究から導き出すことができる。
【0216】
一つの実施態様において、参照値は、アルゴリズムおよび統計学的・構造分類の他の方法を用いて構築される。
【0217】
一つの実施態様において、参照終値は、参照集団において測定された平均終値に相当する。本発明の一つの実施態様において、参照終値は、参照集団において測定された終値中央値に相当する。
【0218】
一つの実施態様において、本発明の方法は、コンピューター化(またはコンピューター実装)されている。
【0219】
一つの実施態様において、本発明の方法は、終値が参照終値を超えているか、または前記参照終値以下であるかを決定することを含んでなる。
【0220】
別の実施態様において、本発明の方法は、対象に関して測定された終値が位置し得るパーセンタイルを決定することを含んでなる。この実施態様によれば、参照集団において測定された終値は、パーセンタイルで分類され、ここで、参照集団の全対象に関して得られた終値は、それらの数値に従って昇順で並べられる。本発明の一つの実施態様において、パーセンタイルは対象のパーセンタイルであり、すなわち、各パーセンタイルは、同数の対象を含んでなる。よって、最初のパーセンタイルは、最低の終値を有する対象に相当し、最後のパーセンタイルは、最高の終値を有する対象に相当する。一つの実施態様において、3つのパーセンタイルを設ける場合、各パーセンタイルは三分位数と呼ばれる。別の実施態様において、4つのパーセンタイルを設ける場合、各パーセンタイルは四分位数と呼ばれる。別の実施態様において、5つのパーセンタイルを設ける場合、各パーセンタイルは五分位数と呼ばれる。
【0221】
当業者は、参照集団において得られた放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス値から参照終値を決定する方法を知っている。
【0222】
このような方法の限定されない例としては、副作用を有する対象と副作用を有さない対象に関して測定された終値(AUROC)について、SeおよびSpを最大とするカットオフを決定するためのROC曲線を描くことが含まれる。
【0223】
一つの実施態様において、乳癌患者に関する終値の決定は、医師が乳房遅発副作用を制限するために患者に対する電離放射線処置の線量およびシーケンスを適合させる、および場合により、電離放射線処置を他の治療処置に置き換えることにより処置を適合させる助けとなる。
【0224】
特定の実施態様において、終値(例えば、多変量Cox関数を用いて得られるもの)は、適当な電離放射線投与計画などの、患者に好適な処置を選択するため、または乳房切除術か温存手術かを選択するために使用される。
【0225】
よって、照射容積および処方線量は、リスクレベルに応じて議論することができる。一つの実施態様において、終値が参照値を超えていれば、電離放射線処置後に電離放射線副作用(好ましくは、乳房遅発副作用)を生じるリスクがある。一つの実施態様において、参照値は約85~約95の範囲であり、例えば、約85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、または95である。高リスク電離放射線副作用(好ましくは、乳房遅発副作用)および低リスク再発の最適臨床利益の場合、追加電離放射線療法無し、リンパ節照射無しおよび分割当たりの線量2.5Gy未満が、異なる処置の可能性となるであろう。
【0226】
一つの実施態様において、終値は、適当な電離放射線療法投与計画などの、乳癌患者に好適な処置を選択するために使用され、
患者が乳房遅発副作用を生じるリスクを示す場合、適当な電離放射線投与計画は軽減され(例えば、部分的乳房少分割処置の送達による);
患者が乳房遅発副作用を生じるリスクが低いか全くなければ、適当な電離放射線投与計画は増強してよい(例えば、少分割処置(例えば、このような処置において一般的な分割数である5分割または16分割)の送達による)。
【0227】
一つの実施態様において、乳房遅発副作用を生じるリスクが約5~約15%の範囲(すなわち、終値が約85~約95%の範囲)の患者、例えば、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15%のリスクを有する(すなわち、終値がそれぞれ約95、94、93、92、91、90、89、88、87、86または85%)患者、この乳癌患者は(高)リスク患者と見なされる。
【0228】
一つの実施態様において、乳房遅発副作用を生じるリスクのある患者は約5%未満である(すなわち、約95%を超える終値を有する)、例えば、約1、2、3、4、または5%のリスクのある患者(すなわち、それぞれ約99、98、97、96または95%を超える終値を有する)、この乳癌患者は低リスク患者と見なされる。
【0229】
別の実施態様において、終値は、温存手術または乳房切除術後の即乳房再建を実施する決定において使用される。一つの実施態様において、前記終値が約85~約95%の範囲、例えば、約95、94、93、92、91、90、89、88、87、86または85%であれば、温存手術または乳房切除術後の即乳房再建が考えられるであろう。
【0230】
本発明の別の目的は、乳癌患者に適合した患者ケアを実施するための方法であり、その方法は、
以上に記載されたようなin vitro法を用いて、前記患者が電離放射線誘発副作用を生じるリスクを評価すること;
前記患者が電離放射線誘発副作用を生じるリスクに応じて適合した患者ケアを実施すること
を含んでなる。
【0231】
一つの実施態様において、患者は高リスク患者であり、適合された患者ケアは、漸減電離放射線投与計画、乳房切除術、追加電離放射線療法なし、リンパ節照射なし、および分割当たりの線量2.5Gy未満を含んでなる群から選択され得る。
【0232】
一つの実施態様において、患者は低リスク患者であり、適合された患者ケアは、漸増電離放射線投与計画(例えば、少分割処置の送達による)、および温存手術または乳房切除術後の即乳房再建を含んでなる群から選択され得る。
【0233】
よって、本発明の別の目的は、本発明の方法を実施するためのコンピューターソフトウエアである。
【0234】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスの測定と少なくとも2つの臨床パラメーター(好ましくは、補助ホルモン療法と喫煙習慣)、および場合により、少なくとも1つの生化学的マーカーとの組合せから得られる終値を計算するように構成されたソフトウエアを含んでなるマイクロプロセッサを用いて実施される。
【0235】
一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスの測定と少なくとも2つの臨床パラメーター(好ましくは、補助ホルモン療法と喫煙習慣)、および場合により、少なくとも1つの生化学的マーカーとの組合せから得られる終値を計算するように構成されたソフトウエアを含んでなるマイクロプロセッサを用いて実施される。
【0236】
本発明の別の目的は、コンピューターおよび/または計算機などの機械読み取り可能なメモリーと前記数学関数、特に、前記多変量Cox関数を計算するように構成されたプロセッサを含むシステムを対象とする。このシステムは、本発明による方法を実行するために専用としてもよい。
【0237】
特定の実施態様において、前記システムは、ノモグラム(主要効果、相互作用および区分的線形効果を含む各パラメーターに関する0~100の間の線形予測因子)を作成し、対象が電離放射線誘発副作用を生じるリスク(終値に相当する)を計算するためにソフトウエアを実行するためのモジュールをさらに含んでなる。
【0238】
よって、一つの実施態様において、本発明のin vitro法は、
参照集団の全対象に関してT細胞を少なくとも放射線模倣剤を接触させ、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシスを測定すること;
場合により、参照集団の全対象に関して少なくとも1つの生化学的マーカーを測定すること;
参照集団の全対象に関して少なくとも2つの臨床パラメーター、好ましくは、補助ホルモン療法と喫煙を測定すること;
Cox回帰モデル下での単変量分析(p値≦0.2の総ての重要パラメーターを選択するための、各パラメーター1つずつに関する評価);
Cox回帰モデル下での多変量解析(単変量解析に、臨床的に関連のある任意選択の重要でないパラメーターを追加することによる総ての選択パラメーターを含む評価);
最終モデルを得るための重要パラメーターおよび/または臨床的に関連のあるパラメーターの選択(最終モデルの線形予測因子は電離放射線誘発副作用を生じるリスク(確率)を評価するために抽出され;線形予測因子はソフトウエアに組み込まれていた);
Iasonos et al. 2008に従うノモグラム(主要効果、相互作用および区分的線形効果を含む各パラメーターに関する0~100の間の線形予測因子)を作成するためのソフトウエアの実行を含んでなる。よって、この表現は、個々のパラメーターそれぞれに従った各乳癌患者に対する電離放射線後の終値の計算により、電離放射線誘発副作用を生じるリスク(確率)を与える。
【0239】
よって、一つの実施態様において、本発明は、ノモグラム上に乳癌対象に関して得られた終値を可視化することを含んでなる。ノモグラムは、判断を補助するためのイベントの発生の予測確率を表示するための一般的なビジュアルプロットである。
【0240】
一つの実施態様において、Cox多変量モデルのフィッティングの後にこのノモグラムを作成するために、Iasonos et al. (2008)により記載されている方法に従って線形予測因子が得られる。
【0241】
よって、本発明の別の目的は、医師が電離放射線処置中および/または処置後に電離放射線誘発副作用、例えば、乳房遅発副作用を生じるリスクを説明するのを助けるために、前記数学的組合せ(好ましくは、前記多変量Cox関数)を実施する使い安いインターフェース、すなわち、ノモグラム、コンピューターまたは計算機である。よって、本発明は、本発明の数学関数(好ましくは、本発明による多変量Cox関数)を実施するノモグラムを包含する。
【0242】
本明細書で使用する場合、「ノモグラム」は、対象において電離放射線誘発副作用を生じるリスクの評価を可能とする、本明細書に記載されるような数学関数、例えば、多変量Coxモデルリングからの予後式のグラフ表示を指す。一つの実施態様において、前記ノモグラムは、限定されるものではないが、放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス、補助ホルモン療法、および喫煙を含む1以上の容易に得られるパラメーターに基づく。
【0243】
ノモグラムの有用性は、それが使い安いグラフィックインターフェースで、予測された確率を0~100のスケールで点としてマッピングすることである。様々な共変数により集積された総ての点がある患者に関して予測されたリスクに相当する。
【0244】
一実施態様によれば、本発明の方法は、工程b)、工程c)および場合により工程d)で得られたデータを、数学的組合せ(好ましくは、多変量Cox回帰)および電離放射線誘発副作用を生じるリスクを計算するコンピューターまたは計算機に実装することを含んでなる。従って、医師により得られたデータは、より容易に説明可能であり、適合された患者ケアを決定するためのプロセスの改良を可能とする。
【0245】
本発明の別の目的は、本発明の方法を実施するための、特に、本発明の方法を用いて乳癌対象において電離放射線誘発副作用を生じるリスクを検出するためにさらに使用されるように対象のデータを収集するためのキットであり、前記キットは、
T細胞含有サンプル、特に、血液サンプル、および場合によりT細胞を単離するための試薬の生物輸送に適したボックス/容器およびバッグ;
本発明に定義されるにように放射線模倣剤誘発T細胞アポトーシス、および場合により、少なくとも1つの生化学的マーカーを測定するための試薬;ならびに
特別に設計され、本発明の方法を実施するために必要な、患者および/または看護師および/または医師によって記入される書式
を含んでなる。
【0246】
一例として、これらの書式は、年齢、患者が補助療法(例えば、化学療法またはホルモン療法)を受けたことがあるかまたは受ける予定であるか、喫煙習慣およびT細胞含有サンプルが回収された日時などの予測分析を行うために必要な情報を収集することを目的とした特定の質問を含んでもよい。
【0247】
よって、本発明の別の目的は、本発明の方法を用いて対象において電離放射線誘発副作用(好ましくは、乳房遅発副作用)を生じるリスクを検出するためのキットであり、前記キットは、
本発明に定義されるにように放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスを決定するための試薬;
場合により、本発明に従い、少なくとも2つの臨床パラメーター(好ましくは、補助ホルモン療法および喫煙習慣)に関する情報を収集するための手段;
場合により、本発明に従い、少なくとも1つの生化学的マーカーを測定するための手段;および
場合により、本発明によるノモグラム
を含んでなる。
【0248】
一つの実施態様において、本発明に定義されるように放射線模倣剤誘発Tリンパ球アポトーシスを決定するための試薬は、
少なくとも1種類の放射線模倣剤の存在下で、以上に記載されたようなT細胞の培養工程を実施するために必要とされる一部または総ての特定の試薬、例えば、T細胞を培養するのに好適な培養培地、および前記放射線模倣剤(例えば、ブレオマイシン);
アポトーシス測定アッセイ(例えば、フローサイトメーターを使用)を実施するために必要とされる一部または総ての特定の試薬、例えば、ヨウ化プロピジウム、蛍光色素結合アネキシン、YO-PRO色素、PO-PRO色素、レサズリン、ヘキスト、蛍光色素結合カスパーゼ
に相当する。
【0249】
一つの実施態様において、本発明に従って少なくとも1つの生化学的マーカーの値を決定するための試薬は、独立した研究室で、タンパク質および/または遺伝子生体感受性測定アッセイを実施するために必要とされる一部または総ての特定の試薬に相当する。
【0250】
一つの実施態様において、本発明による少なくとも2つの臨床パラメーターの情報を袖手するための手段は、特別に設計され、本発明の方法およびノモグラム分析を実施するために必要な、患者および/または看護師および/または医師によって記入される特定の書式に相当する。好ましい実施態様において、これらの書式は、患者が補助療法(例えば、化学療法、ホルモン単剤療法)を受けていたか、または受ける予定であるか、および喫煙習慣など、予測分析を実施するために必要な情報を収集することを目的とした特定の質問を含み得る。
【実施例】
【0251】
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。
【0252】
材料および方法
血液サンプル
血液サンプルはEtablisement Francais du Sang (EFS)から、コンベンションナンバー21PLER2016-0100 AV01で購入した。血液サンプルは、健常ドナーから分離用ゲルを含まない5mLヘパリン処理チューブに採取された。
【0253】
培養条件
血液細胞は、20%ウシ胎仔血清(FCS)(EuroBio、フランス)を添加したグルタマックス(Fisher scientific、フランス)含有RPMI-1640で増殖させた。細胞は、試験中、37℃にて5%CO2を用いて維持した。
【0254】
製品
ブレオマイシン(EuroMedex)は、製造者の説明書に従い、無菌MilliQ水中に50mg/mLで可溶化させ、-80℃で保存した。
【0255】
放射線誘発CD8 Tリンパ球アポトーシス(RILA)手順
プロトコールはOzsahin et al. (Ozsahin, Crompton et al. 2005)の検討から適合させた。
【0256】
放射線療法(RT)前に、各患者から1血液サンプルを5mLヘパリン処理チューブに採取した。採血20時間または24時間後に、200μlの血液を、2mLのRPMI-20%FCSを含有する6ウェルプレートに分注した。試験は総て、0Gyおよび8Gyの両方で3回行った。ex-vivo照射は、24時間の血液細胞培養後にXenx照射器プラットフォーム(XStrahl、UK)を用いて送達した。次に、これらのプレートをすぐに37℃(5%CO2)で48時間インキュベートした。
【0257】
次に、サンプルを300gで5分間遠心分離した。これらのペレットを、10μlの抗ヒトCD8-FITC抗体(Becton Dickinson、USA)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁させ、室温で20分間インキュベートした。その後、水で1:10希釈した4mlの溶解バッファー(Becton Dickinson、USA)を添加することにより赤血球を溶解した。室温でさらに20分のインキュベーション時間の後に、サンプルを300gで5分間遠心分離し、ペレットを3mlのPBSで洗浄した。ペレットを、25μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma、フランス)および5μlの10mg/mlRNアーゼA(Qiagen、フランス)を含有する200μlのPBSに懸濁させた。これらのサンプルを、CytoFlex(Beckman Coulter、USA)を用い、数時間以内にフローサイトメトリーにより分析した。
【0258】
ブレオマイシン誘発CD8 Tリンパ球アポトーシス手順
血液サンプルの照射および処理
種々の照射線量(0Gy、6Gy、8Gyおよび10Gy)ならびに種々のブレオマイシン濃度(50μg/mL、100μg/mL、150μg/mL、200μg/mL、250μg/mL)を同じ血液サンプルのアリコートに適用した。
【0259】
照射および培養は従前に記載の通りに行った。染色は、照射48時間後に、従前に記載したものと同じプロトコールを用いて行った。
【0260】
ブレオマイシン処理に関して2つのプロトコールを試験した:
血液細胞培養24時間後に処理:
採血約24時間後に、200μlの血液を、2mLのRPMI-20%FCSを含有する6ウェルプレートに分注した。種々の濃度でのブレオマイシン処理は、血液細胞培養24時間後に、ウェルにブレオマイシンを直接加えることにより行った。アポトーシスを検出するための染色は上記のように、ブレオマイシン処理48時間後(従って、ブレオマイシンを細胞と接触させて50時間以内に)行った。
【0261】
血液細胞培養中の処理:
採血約24時間後に、200μlの血液を、2mLのRPMI-20%FCS-ブレオマイシンを含有する6ウェルプレートに分注した。種々の濃度のブレオマイシンを含有する細胞培養培地は、細胞培養開始直前に新しく作製した。ブレオマイシンを血液細胞とともに少なくとも50時間(一般には、約60時間より長く、特に、65~75時間)インキュベーとした後、サンプルをフローサイトメトリー分析のために上記のように染色した。
【0262】
統計分析
化合物または照射線量(グレイ)に応じたRILA率の上昇をモデル化するために、固定切片、固定傾きおよびランダム切片を用いた2つの混合線形モデルを使用した。
【0263】
分析はRソフトウエア(バージョン3.3.1)を用いて行った。
【0264】
結果
長期ブレオマイシン処理は8Gy照射と同等のTリンパ球アポトーシス率を誘発する
この試験の目的は、8Gy照射と同等のTリンパ球アポトーシス率を得るためのブレオマイシン使用条件を決定することである。
【0265】
2つの処理条件を同じ血液サンプルで試験した:血液細胞を細胞培養の24時間後または細胞培養の開始から数種類のブレオマイシン濃度で処理した。対照試験は血液サンプルを8Gyで照射することにより行った。
【0266】
表1に示される結果は全試験の代表例である。血液サンプルは50μg/mL~500μg/mLの濃度のブレオマイシンで処理した。血液細胞培養の24時間後に処理を行った場合、50時間未満で適用されたどのブレオマイシン濃度も、8Gy照射後に見られたアポトーシス率を誘発しない。
【0267】
対照的に、血液細胞培養の開始時に処理を適用した場合には、300μg/mlより低いブレオマイシン濃度で、照射後に見られたアポトーシス率が達成された。これらの結果は、8Gy照射と同等のTリンパ球アポトーシス率を得るためには、この処理が少なくとも50時間(例えば、細胞培養とともに処置を開始することで)行われなければならないことを示す。いずれの理論にも縛られるものではないが、8Gy照射と同等のTリンパ球アポトーシス率を誘発するためにはブレオマイシンはもっと時間を要する可能性があることが示唆される。ブレオマイシンと細胞を接触させる期間はブレオマイシンの濃度によって異なり得るが、RILAで見られるアポトーシスレベルを再現し得るためには、十分長くなければならない(すなわち、50時間超)ことに注目すべきである。
【0268】
しかしながら、ブレオマイシンは高価な化合物であるので、低濃度の使用が好ましい。
【0269】
【0270】
この表は、細胞培養の開始から細胞をブレオマイシンに曝すこと(それにより、化合物への細胞の曝露が延長する)が、培養開始の24時間後からブレオマイシンが添加される場合よりも高レベルのTリンパ球細胞のアポトーシスをもたらすことを明らかに示す。曝露の延長は、ブレオマイシンのどの濃度でもアポトーシスの大幅な増大をもたらすことが見て取れる。
【0271】
ブレオマイシン処理と照射の相関の特定
ブレオマイシン処理と照射の相関を特徴付けるために、種々のブレオマイシン濃度および種々の照射線量を同じ血液サンプルに適用した。Tリンパ球アポトーシス率は、照射線量(Gy)に応じて、またブレオマイシン濃度に応じて直線的に応答すると思われる(データは示されていない)。
【0272】
照射(Gy)に応じたアポトーシス率モデル:
【数17】
化合物(μg/mL)に応じたアポトーシス率モデル:
【数18】
【0273】
以上の2つのモデルの組合せは、照射の影響(x
ir)を模倣するために適用すべきブレオマイシン濃度の用量:
【数19】
を決定することを可能とする。
【数20】
【0274】
10名のドナーのRILA測定値を用いて、この数式の種々のパラメーターを評価することが可能であった。このような式によって得られたパラメーターは、所与の曝露期間およびブレオマイシン濃度に関して計算できる。
【0275】
【数21】
は約10~約20の範囲である。このパラメーターは、照射レベルゼロのアポトーシス平均値に相当する。
【0276】
【数22】
は約0.5~約2の範囲である。このパラメーターは、傾き、すなわち、1Gy増す毎のアポトーシスの増加に相当する。
【0277】
【数23】
は約7.5~約20の範囲である。このパラメーターは、ブレオマイシン濃度がゼロの場合のアポトーシス平均値に相当する。
【0278】
【数24】
は約0.03~約0.15の範囲である。このパラメーターは、傾き、すなわち1μg/mL増す毎のアポトーシスの増加に相当する。
【0279】
ブレオマイシン濃度のバリデーション
以上に開示された等式を用いて決定されたブレオマイシン濃度を40の血液サンプルについてバリデートした。各血液サンプルについて、8Gy照射(上記に開示されたRILA手順)の後または65~75時間(約70~72時間)に含まれる曝露期間、135~160μg/mLのブレオマイシンによる処理によってTリンパ球アポトーシス率を得た。
【0280】
同じドナーについて、2つの処理によって得られたアポトーシス率を、変動係数(CV)を計算することにより比較した。これらの2つの条件間のCVは、下式に従って計算した:CV=(標準偏差/平均アポトーシス)×100。
【0281】
これらの40名のドナーの平均CVは6,5%であった。このパーセンテージは、RILAアッセイの試験変動を表す10%より低かった。
【0282】
これらの結果は後に、より多い数の(100を超える)ドナーで再現された。
【0283】
これらの試験に使用したブレオマイシンのバッチは、曝露期間の決定のために上記で試験したものとは異なることにも注目すべきである。バッチによって、有効濃度に変動が見て取れ、従って、濃度を調整するためには、使用するブレオマイシンの新たな使用バッチには有効濃度を確認しなければならない。しかしながら、曝露期間はなお50時間より長くなければならない。
【0284】
よって、これらの結果は、放射線模倣剤としてのブレオマイシンを使用することにより照射のアポトーシス結果を再現することが可能であること、および放射線模倣剤の接触が50時間より長くするべきであることを示す。