(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデンポリマー分散液
(51)【国際特許分類】
C08F 14/22 20060101AFI20240430BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20240430BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20240430BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240430BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240430BHJP
【FI】
C08F14/22
C08L27/16
C08F293/00
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/426
H01M50/443 B
H01M50/443 E
H01M50/42
(21)【出願番号】P 2021534384
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019083359
(87)【国際公開番号】W WO2020126448
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-01
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カレッラ, セレーナ
(72)【発明者】
【氏名】マッツォラ, ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】アヴァンタネオ, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】オリアーニ, アンドレーア ヴィットーリオ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコロ, エマヌエーレ
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-515948(JP,A)
【文献】特表2015-514854(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0081447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08L、H01M50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含む水性分散液[分散液(D)]であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に対して、85.0モル%超のVDFに由来する繰り返し単位を含み;
(ii)硫黄含有鎖末端を有し;
(iii)単分散ポリスチレン標準に対して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(M
w)を有し;
ここで、ASTM D3835に従って、100秒
-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、M
wとの間の関係は、以下の不等式:
0.025×M
w(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×M
w(Kダルトン)+1
0
を満たす
分散液(D)。
【請求項2】
ポリマー(A)は、
- VDFに由来する繰り返し単位、及び少なくとも1つのモノマー(MA)であって、式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、R1、R2のそれぞれは、独立して、水素原子又はC
1~C
3炭化水素基であり、R3は水素であり、R
OHは、ヒドロキシル基又は少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部分で
ある)
に従う親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位から本質的になるポリマー;並びに
- VDFに、HFPに及びモノマー(MA)に由来する繰り返し単位から本質的になるポリマー
からなる群から選択される、請求項1に記載の分散液(D)。
【請求項3】
前記モノマー(MA)は、
- 式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
- 式:
のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- 式:
のアクリル酸(AA)、
- 及びそれらの混合物
からなる群から選択される、請求項2に記載の分散液(D)。
【請求項4】
ポリマー(A)は、少なくとも0.1モル
%の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む、及び/又はポリマー(A)は、最大でも7.5モル
%の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の分散液(D)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散液(D)
を製造
する方法であって、前記方法は、無機開始剤の存在下で及び任意の一般式(I)及び(II):
(式中、Xは、炭素又はリ
ンであり;R
aは、1つ以上の親水性基で任意選択的に置換された一価有機基であり、R
bは、1つ以上の親水性基で任意選択的に置換された二価有機基であり、Zは、ラジカル付加に向けてのチオカルボニル基の十分な反応性を促進することができる任意の基である)
のRAFT/MADIX剤の存在下で水性媒体中でのVDFの乳化重合を含み、ここで、前記RAFT/MADIX剤と前記
無機開始剤との間のモル比は、0.050mol/mol未満のものであり、及びここで:
- 式(I)及び(II)において、Zは
、-OH、-SH、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアリールオキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアリール
、任意選択的に置換されたアリールアルキル、任意選択的に置換されたアルキルチオ、任意選択的に置換されたアリールアルキルチオ、ジアルコキシ-又はジアリールオキシ-ホスフィニル[-P(=O)(OR
4)
2]、ジアルキル-又はジアリール-ホスフィニル[-P(=O)R
4
2](式中、R
4は、任意選択的に置換されたC
1~C
18アルキル、任意選択的に置換されたC
2~C
18アルケニル、任意選択的に置換されたアリール
、任意選択的に置換されたアリールアルキル、任意選択的に置換されたアルカリール、任意選択的に置換されたアシルアミノ、任意選択的に置換されたアシルイミノ、任意選択的に置換されたアミノ、任意の機構によって形成されたポリマー
鎖からなる群から選択される)の中から選択され得、ここで、R
4及びZ基についての任意選択の置換
基は、エポキシ、ヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、カルボキシ(及びその塩)、スルホン酸(及びその塩)、アルコキシ-若しくはアリールオキシ-カルボニル、イソシアナト、シアノ、シリル、ハロ、及びジアルキルアミノ
を含み;並びに/又は
- ここで式(I)及び(II)において、Xは
、炭素原子であり、すなわち、前記RAFT/MADIX剤は、本明細書で以下の任意の一般式(I’)及び(II’):
(式中、R
a、R
b及びZは、上で定義された通りである)
に従う方法。
【請求項6】
前記
無機開始剤は、過硫酸ナトリウム、カリウム及びアンモニウムからなる群から選択され、及び前記
無機開始剤の量は、前記水性媒体の重量を基準として0.001重量%~20重量%の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
- RAFT/MADIX剤の量は、最大でも0.04
8mol/molの;及び/又は少なくとも0.00
5mol/molの前記RAFT/MADIX剤と前記
無機開始剤との間のモル比を提供するものである;及び/又は
- 前記RAFT/MADIX剤は、O-エチルS-(1-メトキシカルボニルエチル)ジチオカーボネートである
請求項5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含む粉末[粉末(P)]であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に対して、85.0モル%超のVDFに由来する繰り返し単位を含み;
(ii)硫黄含有鎖末端を有し;
(iii)単分散ポリスチレン標準に対して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(M
w)を有し、
ここで、ASTM D3835に従って、100秒
-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、M
wとの間の関係は、以下の不等式:
0.025×M
w(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×M
w(Kダルトン)+10
を満たし、
ここで、ポリマー(A)の前記粒子は、1μm未満の一次粒子平均サイ
ズを有する
粉末(P)。
【請求項9】
フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に対して、85.0モル%超のVDFに由来する繰り返し単位を含み;
(ii)硫黄含有鎖末端を有し;
(iii)単分散ポリスチレン標準に対して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(M
w)を有し、
ここで、ASTM D3835に従って、100秒
-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、M
wとの間の関係は、以下の不等式:
0.025×M
w(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×M
w(Kダルトン)+1
0
を満たすポリマー(A)。
【請求項10】
請求項9に記載のポリマー(A)、少なくとも1つの極性有機溶剤、粉末状電極材料並びに、任意選択的に、導電性付与添加物及び/又は粘度調整剤を含む溶剤系電極形成組成物であって、
前記極性有機溶剤は
、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホンアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、及びトリメチルホスフェートの1つ又は2つ以上である組成物。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散液(D)、粉末状電極材料、並びに任意選択的に導電性付与添加物及び/又は粘度調整剤を含む、水性電極形成組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の分散液(D)、少なくとも1つの非電気活性無機充填材、及び任意選択的に、1つ又は2つ以上の追加の添加物を含む、水性コーティング組成物[組成物(AC)]。
【請求項13】
前記非電気活性無機充填材は、天然及び合成シリカ、ゼオライト、アルミナ、チタニア、金属炭酸塩、
ジルコニア、リン酸ケイ素並びにケイ酸塩からなる群から選択される、請求項
12に記載の組成物(AC)。
【請求項14】
請求項12~13のいずれか一項に記載の組成物(AC)であって、前記組成物(AC)は、
(i)5~25重量%の量での、上で詳述された分散液(D);
(ii)70~95重量%の量での、少なくとも1つの非電気活性無機充填材;
(iii)0~5重量%の量での、1つ又は2つ以上の追加の添加物を混合する工程と;
任意選択的に、30~80重量
%の範囲に固形分を調整するために水を添加する工程とによって得られる組成物(AC)。
【請求項15】
電気化学セルでの使用
のための複合セパレータ
を製造
する方法であって、前記方法は、
(i)多孔質基材を提供する工程と;
(ii)請求項12~13のいずれか一項に定義された組成物(AC)を提供する工程と;
(iii)前記組成物(AC)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上へ塗布してコーティング組成物層を提供する工程と;
(iv)前記コーティング組成物層を少なくとも60℃の温度で乾燥させて、前記複合セパレータを提供する工程と
を含む方法。
【請求項16】
請求項8に記載の粉末(P)又は請求項9に記載のポリマー(A)を使用することを含む膜
を製造
する方法であって、前記方法は
、
(i)下記:
- ポリマー(A);
- 任意選択的に、少なくとも1つの細孔形成剤[試剤(P)];及び
- 極性有機溶剤
を含む溶液[溶液(S
M)]を調製する工程と;
(ii)前記溶液(S
M)を処理してフィルムにする工程と;
(iii)前記フィルムを非溶剤浴に浸漬する工程と
を含
み、非溶剤浴の非溶剤は、水、脂肪族アルコール、及びそれらの混合物からなる群から選択される、方法。
【請求項17】
請求項9に記載のポリマー(A)を含む又は請求項16に記載の方法から得られる膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年12月20日出願の欧州特許出願第18214308.1号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマー水性分散液に、その調製方法に並びに、電極及び/若しくは複合セパレータなどの、電気化学セル構成要素の製造のための又は膜、特に多孔質膜の製造のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ化ビニリデン(VDF)ポリマーは、電池、好ましくは二次電池、及び電気二重層キャパシタなどの非水性型電気化学デバイスでの使用のための電極、特にカソードの製造のための、複合セパレータの製造のための、及び/又は多孔質セパレータのコーティングのためのバインダーとして好適であることが当技術分野において知られている。より一般的には、VDFポリマーは、とりわけ建築用コーティング、膜製造、化学工業及び/又はO&G用途向けのコーティングなどの、その耐久性、化学慣性及び他の有利な特性が非常に有益である、様々な他の使用分野において有用性を見出している。
【0004】
この使用分野のための市場において入手可能である有力な材料は、極性基の組込みによって変性され得る、及び一般にN-メチルピロリドン又はN-メチルピロリドンと、アセトン、酢酸プロピル、メチルエチルケトン及び酢酸エチルなどの希釈溶剤との混合物を含む溶剤系への溶解によって処理される懸濁重合よって製造されるVDFポリマーである。例示的な材料は、例えば、電池においてバインダーとして使用される場合に、改善された熱安定性を有し、傑出した粘着を届ける、フッ化ビニリデン(VDF)モノマー及び少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含む線状の半結晶性コポリマーを提供する欧州特許出願公開第2147029A号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)2010年1月27日において開示されている。
【0005】
懸濁系VDFポリマーに基づく技術がこれまで追求されてきたが、乳化重合VDFポリマー分散液についての関心が、経済的な及び環境上の両側面に駆られて、増加しつつある。
【0006】
実際は一般に、乳化重合VDFポリマーの後処理は、懸濁重合VDFポリマーよりも表面積を有する微粉であって、多くの場合用いられる、全ての溶剤系処理技法において、より容易な溶解、これ故により速い処理を与える微粉を一般に生成することが認められている。さらに、水性分散液は、非溶剤系溶液が追求される全てのそれらの分野において有利である。
【0007】
さらに、VDFポリマー粉末の分野において、高い分子量がこの使用分野にとって有益であることが一般に認められている。注目すべきことに、欧州特許出願公開第0791973A号明細書(KUREHA)1997年8月27日は、電池及び電極二重層キャパシタなどの、非水性型電気化学デバイスでの使用に好適な電極を提供するためのバインダー液であって、従来レベルより高い固有粘度(及びしたがって重合度)を有するフッ化ビニリデンポリマーを有機溶剤に溶解させることによって形成されるバインダー液に関する。電極形成組成物は、粉末状電極材料をバインダー液中に分散させることによって形成され、導電性基材上へ塗布され、これに乾燥が続いて、従来レベルより少量のフッ化ビニリデンポリマーで粉末状電極材料を保持する、及び非水性電解質溶液に対して良好に耐性である、複合電極層を形成する。
【0008】
それにもかかわらず、乳化重合のより高い重合温度、より低い圧力及び他の重合パラメータは、頭-尾繰り返し単位の理論的な線状配列に対してより高い数の反転(頭-頭/尾-尾)/分岐/欠陥を生成するようなものであること、並びに全てのそれらの現象は、より高い分子量を標的にする場合に悪化することが一般に認められている。結果として、乳化重合からの高分子量VDFポリマーは、長鎖分岐の存在のために、無視できない割合のゲル又は溶けにくい残渣を、及び特異なレオロジー挙動を一般に伴う。
【0009】
乳化重合VDFポリマーを電極形成プロセス又はセパレータ形成プロセスにおいて、並びに様々な他の使用分野において有効に用いるために、高い分子量に恵まれているが、ゲル/不溶性画分を本質的に除かれている材料にアクセスすることがこれ故に重要である。
【0010】
この分野においては、これ故に、二次電池用の構成要素の分野で使用されるための全ての必要とされる特性を有するが、ゲル/不溶性画分を本質的に除かれている高分子量VDFポリマーの水性分散液が絶えず探求されている。
【0011】
現在、一般にフッ素化乳化剤の存在下での、水性乳化重合に基づいてVDF分散液を製造するための技法は、公知である。さらに、VDFの重合でのザンテート型連鎖移動剤の使用は、当技術分野において一般論として既に記載されている。この分野において、米国特許出願公開第2014154611号明細書(ENSCM)2014年6月5日は、ザンテート又はトリチオカーボネート化合物の存在下での、VDFとアルファ-トリフルオロメタクリル酸モノマー又はアルファ-トリフルオロメタクリル酸の誘導体との共重合の工程を含む、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン中の、すなわち溶液でのフッ化ビニリデンコポリマーの調製方法に関する。段落[0054]によれば、得られたコポリマーの分子量は、好ましくは800~400,000g/mol、より好ましくは1500~100,000g/molである。
【0012】
さらに、米国特許出願公開第2017081447号明細書(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY SPA)2017年3月23日は、RAFT/MADIX剤の存在下でのフルオロモノマー(とりわけフッ化ビニリデンなど)の水性乳化重合を指向する。ゴム弾性コポリマーをもたらす、高いモル比ザンテート/ラジカル開始剤で実施されたVDF/TFE/HFPの混合物の乳化重合に関連して例示された分子量データは、500,000を超える分子量を二官能性分岐コモノマーの添加によってもっぱら得ることができたことを示している。
【発明の概要】
【0013】
本出願人は、上で明らかにされた問題の解決法が、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含む水性分散液[分散液(D)]であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に対して、85.0モル%超のVDFに由来する繰り返し単位を含み;
(ii)硫黄含有鎖末端を含み;
(iii)単分散ポリスチレン標準に対して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(Mw)を有し、
ここで、ASTM D3835に従って、100秒-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、Mwとの間の関係は、以下の不等式:
0.025×Mw(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×Mw(Kダルトン)+10
を満たす
分散液(D)によって提供されることを今見出した。
【0014】
本発明は、さらに、前記分散液(D)の製造方法であって、前記方法は、無機開始剤の存在下で及び任意の一般式(I)及び(II):
(式中、Xは、炭素又はリン、好ましくは炭素であり;R
aは、1つ以上の親水性基で任意選択的に置換された一価有機基であり、R
bは、1つ以上の親水性基で任意選択的に置換された二価有機基であり、Zは、ラジカル付加に向けてのチオカルボニル基の十分な反応性を促進することができる任意の基である)
のRAFT/MADIX剤の存在下で水性媒体中でのVDFの乳化重合を含み、ここで、前記RAFT/MADIX剤と前記開始剤との間のモル比は、0.050mol/mol未満のものである
方法に関する。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含む粉末であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に対して、85.0モル%超のVDFに由来する繰り返し単位を含み;
(ii)硫黄含有鎖末端を含み;
(iii)単分散ポリスチレン標準に対して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(Mw)を有し、
ここで、ASTM D3835に従って、100秒-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、Mwとの間の関係は、以下の不等式:
0.025×Mw(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×Mw(Kダルトン)+10
を満たし、
ここで、ポリマー(A)の前記粒子は、1μm未満の一次粒子平均サイズを有する
粉末である。
【0016】
本出願人は、意外にも、この製造方法が、電気化学セル構成要素の使用分野において傑出した挙動を提供するように、含有VDFポリマーの高い分子量を達成しながら、その上MVとMwとの間の上述の特定の関係で表されるような、準線形構造を有し、その結果、長い分岐/架橋ポリマー鎖による不溶性画分/ゲルが実質的に減少しているVDFポリマーの分散液の製造を可能にすることを見出した。
【0017】
さらに、本発明の方法は、それらの全体溶解性挙動のおかげで、溶液から処理するのに特に好適であり、実質的に線状の微細構造のために、高い分子量でさえも適度な液体粘度を有する溶液を生じさせる、VDFポリマーを提供する。そのようなVDFポリマーは、また、膜、特に多孔質膜の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のVDFポリマー(□)について、対照乳化重合VDFポリマー(●)について、及び対照懸濁重合ポリマー(○)について測定されるような、Kポアズ単位での溶融粘度(MV)とKダルトン単位での重量平均分子量(M
w)との間の関係を描くグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ポリマー(A)は、フッ化ビニリデン(VDF)に由来するに由来する繰り返し単位を含む。
【0020】
ポリマー(A)は、VDFとは異なる少なくとも1つの他のコモノマー(C)に由来する繰り返し単位をさらに含み得る。
【0021】
コモノマー(C)は、含水素コモノマー[コモノマー(H)]か、フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]かのどちらかであることができる。
【0022】
用語「含水素コモノマー[コモノマー(H)]」とは、フッ素原子を含まないエチレン性不飽和コモノマーを意味することを本明細書では意図する。
【0023】
好適な含水素コモノマー(H)の非限定的な例としては、とりわけ、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどのビニルモノマー、並びにスチレン及びp-メチルスチレンのような、スチレンモノマーが挙げられる。
【0024】
モノマー(H)は、ヒドロキシル基、カルボン酸基、エポキシ基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基を含むモノマーであり得る。
【0025】
ある種の好ましい実施形態によれば、ポリマー(A)は、式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、R1、R2、R3のそれぞれは、独立して、水素原子、又はC
1~C
3炭化水素基であり、R
OHは、ヒドロキシル基又は少なくとも1つのヒドロキシル基を含むC
1~C
5炭化水素部位である)
の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)から選択される少なくとも1つのモノマー(H)に由来する繰り返し単位をさらに含む。
【0026】
用語「フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]」とは、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和コモノマーを意味することを本明細書では意図する。
【0027】
コモノマー(C)は、好ましくは、フッ素化コモノマー[コモノマー(F)]である。
【0028】
好適なフッ素化コモノマー(F)の非限定的な例としては、とりわけ、下記:
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン及びヘキサフルオロイソブチレンなどのC
2~C
8フルオロ-及び/又はパーフルオロオレフィン;
(b)フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどのC
2~C
8含水素モノフルオロオレフィン;
(c)式CH
2=CH-R
f0(式中、R
f0は、C
1~C
6パーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(d)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C
2~C
6フルオロオレフィン;
(e)式CF
2=CFOR
f1(式中、R
f1は、C
1~C
6フルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えば-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
(f)式CF
2=CFOX
0(式中、X
0は、1つ以上のエーテル基を有するC
1~C
12オキシアルキル基又はC
1~C
12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
(g)式CF
2=CFOCF
2OR
f2(式中、R
f2は、C
1~C
6フルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えば-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7であるか又は1つ以上のエーテル基を有するC
1~C
6(パー)フルオロオキシアルキル基、例えば-C
2F
5-O-CF
3である)のフルオロアルキル-メトキシ-ビニルエーテル;
(h)式:
(式中、互いに等しいか又は異なる、R
f3、R
f4、R
f5及びR
f6のそれぞれは、独立して、フッ素原子、1個以上の酸素原子を任意選択的に含む、C
1~C
6フルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7、-OCF
3、-OCF
2CF
2OCF
3である)
のフルオロジオキソール
が挙げられる。
【0029】
最も好ましいフッ素化コモノマー(F)は、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)及びフッ化ビニルであり、これらの中でHFPが最も好ましい。
【0030】
少なくとも1つのコモノマー(C)(好ましくはHFP)が存在する場合、ポリマー(A)は、ポリマー(A)の繰り返し単位の総モルに対して、典型的には0.05モル%~14.5モル%、好ましくは1.0モル%~13.0モル%の、前記コモノマー(C)に由来する繰り返し単位を含む。
【0031】
しかしながら、ポリマー(A)中のフッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位の量は、耐薬品性、耐候性、及び耐熱性などの、フッ化ビニリデン樹脂の優れた特性を損なうことがないように、少なくとも85.0モル%、好ましくは少なくとも86.0モル%、より好ましくは少なくとも87.0モル%であることが必要である。例えば、ポリマー(A)が85.0モル%未満の量のVDF単位を含む場合、相当するポリマーが電極液相として使用される液体溶剤に溶解するので、電池用の複合セパレータを製造するためのコーティング組成物を調合するためにポリマー(A)を使用することはできない。
【0032】
用語「少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」は、ポリマー(A)が、上で記載されたような1つ以上の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含み得ることを意味すると理解される。本明細書の残りにおいて、表現「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」及び「モノマー(MA)」は、本発明の目的のためには、複数形及び単数形の両方、すなわちそれらが1つ又は2つ以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を意味すると理解される。
【0033】
ある種の実施形態によれば、ポリマー(A)は、VDFに、及びモノマー(MA)に由来する繰り返し単位から本質的になる。
【0034】
他の実施形態によれば、ポリマー(A)は、VDFに、HFPに、及びモノマー(MA)に由来する繰り返し単位から本質的になる。
【0035】
表現「本質的になる」は、ポリマー(A)の繰り返し単位に関連して用いられる場合、欠陥、末端鎖及び不純物が、ポリマー(A)の有利な特徴に実質的に影響を及ぼすことなく、リストアップされた繰り返し単位に加えてポリマー(A)中に存在し得ることを意味すると理解される。
【0036】
ポリマー(A)は、その物理-化学的特性に影響を及ぼさないまた特性を損なわない、欠陥、末端基等などの他の部分をさらに含み得るが、但し、重量平均分子量分子量と溶融粘度との間の上に列挙された不等式が満たされていることを条件とする。
【0037】
親水性(メタ)アクリル系モノマー(MA)は、好ましくは、式:
(式中、R1、R2、R
OHのそれぞれは、上で定義されたような意味を有し、R3は、水素であり;より好ましくは、R1、R2、R3のそれぞれは、水素であり、一方、R
OHは、上で詳述されたのと同じ意味を有する)
に従う。
【0038】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例は、とりわけ、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0039】
モノマー(MA)は、より好ましくは、
- 式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
- 式:
のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- 式:
のアクリル酸(AA)、
- 及びそれらの混合物
の中から選択される。
【0040】
より好ましくは、モノマー(MA)は、AA及び/又はHEA、さらにいっそう好ましくはAAである。
【0041】
ポリマー(A)中の(MA)モノマー繰り返し単位の量の測定は、任意の好適な方法によって行うことができる。とりわけ、例えばアクリル酸含有量の測定に好適である、酸-塩基滴定法を、側鎖に脂肪族水素を含む(MA)モノマー(例えば、HPA、HEA)の定量化に適切な、NMR法を、ポリマー(A)製造中の全供給(MA)モノマー及び未反応の残留(MA)モノマーに基づく重量収支を挙げることができる。
【0042】
ポリマー(A)は、好ましくは少なくとも0.1モル%、より好ましくは少なくとも0.2モル%の前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む、及び/又はポリマー(A)は、好ましくは最大でも10モル%、より好ましくは最大でも7.5モル%、さらにいっそう好ましくは最大でも5モル%、最も好ましくは最大でも3モル%の前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0043】
ポリマー(A)は、単分散ポリスチレン標準に対して、ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(Mw)を有する。Mwについての上方境界は、特に決定的に重要であるわけではないが;それにもかかわらず、ポリマー(A)は一般に最大でも1500Kダルトンの、好ましくは最大でも1400Kダルトン、さらにいっそう好ましくは最大でも1300KダルトンのMwを有するであろうと依然として理解される。
【0044】
Mwが少なくとも550Kダルトン、さらにいっそう好ましくは少なくとも600Kダルトンのもの及び/又は最大でも1250Kダルトン、さらにいっそう好ましくは少なくとも1200Kダルトンのものであるポリマー(A)が特に好ましい。
【0045】
前記のように、ポリマー(A)は、次の不等式:
0.025×Mw(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×Mw(Kダルトン)+10
を満たす、ASTM D3835に従って、100秒-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、Mwとの間の関係で特徴付けられる。
【0046】
本出願人は、この理論に制約されることなく、所与の値のMwで、本発明の水性分散液のポリマー(A)が、伝統的な乳化重合VDFポリマーよりも低い溶融粘度で特徴付けられ、その粘度が、短鎖分岐と長鎖分岐との間の絡み合いによって強く影響を受け、これ故に、それらのより線状の及び規則正しい構造について知られている、懸濁重合VDFポリマーの溶融粘度に近付いていると考える。
【0047】
好ましくは、MVは、不等式MV(Kポアズ)>0.030×Mw(Kダルトン)+12及び/又はMV(Kポアズ)≦0.045×Mw(Kダルトン)+9を満たすようなものである。
【0048】
最も好ましくは、MVは、不等式:
0.030×Mw(Kダルトン)+12≦MV(Kポアズ)≦0.045×Mw(Kダルトン)+9を満たすようなものである。
【0049】
溶融粘度それ自体によると、ポリマー(A)は、上述した条件で測定されるときに、一般に少なくとも23.5、好ましくは少なくとも27.0、より好ましくは少なくとも28.0Kポアズの、及び/又は一般に最大でも58.0、好ましくは最大でも57.0Kポアズの溶融粘度を有すると一般に理解される。
【0050】
ある種の特定の実施形態によれば、ポリマー(A)は、少なくとも35.0、好ましくは少なくとも36.0Kポアズの及び/又は最大でも52.0、好ましくは最大でも50.0KポアズのMVを有し、そのMVは、電気化学用途における最適な特性を確実にするのに十分であろう。
【0051】
一般に、ポリマー(A)の粒子は、1μm未満の一次粒子平均サイズを有する。本発明のためには、用語「一次粒子」は、エマルジョン(すなわち、ラテックス)からのポリマーの単離なしに、水性乳化重合に直接由来するポリマー(A)の一次粒子を意味することを意図する。ポリマー(A)の一次粒子は、したがって、それぞれの粉末を生成するためのポリマー(A)の水性ラテックスの濃縮及び/又は凝固並びにその後乾燥及び均質化などの、そのようなポリマー製造の回収及び調整工程によって得られ得る、凝集物(すなわち、一次粒子の収集物)とは区別できることを意図する。
【0052】
本発明の分散液(D)は、したがって、粉末を分散させることによって調製できる水性スラリーから水性媒体中のポリマーを区別することができる。水性スラリー中に分散したポリマー又はコポリマーの粉末の平均粒径は、ISO 13321に従って測定されるように、典型的には1μm超である。
【0053】
好ましくは、分散液(D)中のポリマー(A)の粒子の一次粒子平均サイズは、ISO 13321に従って測定されるように、20nm超、より好ましくは30nm超、さらにいっそう好ましくは50nm超である、及び/又は600nm未満、より好ましくは400nm未満、さらにいっそう好ましくは350nm未満である。
【0054】
前記のように、ポリマー(A)は、硫黄含有末端基を含むことを必要とされる。一般に、ポリマー(A)は、式(I
x):
(式中、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なる、Xは、リン又は炭素、好ましくは炭素であり、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なる、Zは、1つ又は2つ以上のヘテロ原子を場合により含む、及び1個又は2個以上の炭素原子を場合により含む、一価基である)
の基を含むと理解される。
【0055】
上の式(Ix)において、Zは、-OH、-SH、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアリールオキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたヘテロシクリル、任意選択的に置換されたアリールアルキル、任意選択的に置換されたアルキルチオ、任意選択的に置換されたアリールアルキルチオ、ジアルコキシ-又はジアリールオキシ-ホスフィニル[-P(=O)(OR4)2]、ジアルキル-又はジアリール-ホスフィニル[-P(=O)R4
2](式中、R4は、任意選択的に置換されたC1~C18アルキル、任意選択的に置換されたC2~C18アルケニル、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたヘテロシクリル、任意選択的に置換されたアリールアルキル、任意選択的に置換されたアルカリール、任意選択的に置換されたアシルアミノ、任意選択的に置換されたアシルイミノ、任意選択的に置換されたアミノ、任意の機構によって形成されたポリマー鎖、例えば、水溶性ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンオキシドポリマー、及びそれらのアルキル末端封止誘導体からなる群から選択される)の中から選択され得る。R4及びZ基についての任意選択の置換基としては、エポキシ、ヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、カルボキシ(及びその塩)、スルホン酸(及びその塩)、アルコキシ-又はアリールオキシ-カルボニル、イソシアナト、シアノ、シリル、ハロ、並びにジアルキルアミノが挙げられる。
【0056】
好ましくは、Zは、-OH、-SH、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアリールオキシ、任意選択的に置換されたアルキルチオ、任意選択的に置換されたアリールアルキルチオ、ジアルコキシ-又はジアリールオキシ-ホスフィニル[-P(=O)(OR4)2]、ジアルキル-又はジアリール-ホスフィニル[-P(=O)R4
2](式中、R4は、上に定義された通りである)の中から選択される。
【0057】
より好ましくはZは、限定なしに、-OH、-SH、-OR
5、-SR
5(式中、R
5は、任意選択的に置換されたC
1~C
20アルキルである)、-NR
6
2(式中、互いに等しいか又は異なる、R
6のそれぞれは、任意選択的に置換されたC
1~C
20及びアルキル任意選択的に置換されたアリール、並びに
(式中、eは、2~4の整数である)
からなる群から選択される。
【0058】
最も好ましくは、Zは、限定なしに、-OH、-SH、-SCH2(C6H5)、-S(CH2)uCO2H(式中、uは、2~11の整数である)、-SCzH2z+1、-OCzH2z+1(式中、zは、1~12の整数、好ましくは、2、3、4、6、8、10、12などの、2~12の整数である)、-SCH2CH2OH、-OCH2CF3、-OCH2CH3、-N(C6H5)(CH3)からなる群から選択される。
【0059】
本明細書で用いるところでは、用語「アリール」及び「ヘテロアリール」は、それぞれ1つ以上の芳香環若しくはヘテロ芳香環を含む又はそれらからなり、且つ、環原子によって結合している任意の置換基を言う。環は、単環式又は多環式環系であってもよいが、単環式又は二環式の5又は6員環が好ましい。単独で又は、「アルケニルオキシアルキル」、「アルキルチオ」、「アルキルアミノ」及び「ジアルキルアミノ」におけるように、組み合わせてかのどちらかで用いられる、用語「アルキル」は、直鎖、分岐若しくは環状のアルキル、好ましくはC1~C20アルキル又はシクロアルキルを意味する。用語「アルコキシ」は、直鎖若しくは分岐のアルコキシ、好ましくはC1~C20アルコキシを意味する。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ及び種々のブトキシ異性体が挙げられる。用語「アルケニル」は、前に定義されたようなエチレン性モノ不飽和、ジ不飽和若しくはポリ不飽和アルキル又はシクロアルキル基などの直鎖、分岐若しくは環状のアルケンから形成される基、好ましくはC2~C20アルケニルを意味する。単独で又は、「アシルオキシ」、「アシルチオ」、「アシルアミノ」又は「ジアシルアミノ」におけるように、組み合わせてかのどちらかでの用語「アシル」は、カルバモイル、脂肪族アシル基、及び芳香族アシルと言われる、芳香環を含有するアシル基、又は複素環式アシルと言われる複素環を含有するアシル基、好ましくはC1~C20アシルを意味する。
【0060】
ポリマー(A)は、少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.5mmol/kgの及び/又は最大でも15.0、好ましくは最大でも12.0mmol/kg、最も好ましくは最大でも10.0mmol/kgの量で硫黄含有鎖末端を好ましくは有する。
【0061】
実際に、硫黄含有鎖末端の上述の量は、分散液(D)の製造のための乳化重合におけるRAFT/MADIX剤の使用が原因で避けられないフィンガープリントである。理論に制約されることなく、本出願人は、高分子量VDFポリマー中の硫黄含有末端基の存在が、連鎖成長と競合する、これ故に達成できる分子量を最終的に限定する連鎖移動をそれでもなお有することなく、及び/又は前記鎖末端の存在のために最終ポリマー(A)に化学反応性/不安定性を付与することなく、重合鎖成長への擬リビングキャラクターを確実にするための最小必要量の連鎖剤の使用を表していると考える。
【0062】
鎖末端の濃度は、元素分析によって測定され得;鎖末端の構造同定/分子的同定は、とりわけ、PIANCA,M.,et al.End groups in fluoropolymers.Journal of Fluorine Chemistry.1999,vol.95,p.71-84に詳述される技法に基づいて、1H-NMRよって、関係している基の化学シフトを考慮して、他の末端鎖の測定と実質的に類似のやり方で行われ得る。
【0063】
ある種の好ましい実施形態によれば、分散液(D)は、フッ素化界面活性剤を実質的に含まない。
【0064】
分散液(D)中のフッ素化界面活性剤の量と組み合わせて表現「実質的に含まない」は、任意の有意な量の前記フッ素化界面活性剤の存在を排除すること、例えばフッ素化界面活性剤が、分散液(D)の総重量に対して、5ppm未満の、好ましくは3ppm未満の、より好ましくは1ppm未満の量で存在することを必要とすることを意味すべきである。
【0065】
分散液(D)がフッ素化界面活性剤を実質的に含まない場合、ポリマー(A)中の所与の数の極性末端基の存在は、適切なコロイド安定性を確実にするために分散液(D)において一般に必要とされる。これらの実施形態によれば、ポリマー(A)は、PIANCA,Maurizio,et al.End Groups in fluoropolymers.Journal of Fluorine Chemistry.1999,vol.95,p.71-84に従って1H-NMRによって測定されるときに、一般に少なくとも5.0mmol/kgの量の式-CH2-OHの極性末端基を含むことを必要とされる。
【0066】
好ましくは、これらの好ましい実施形態において、ポリマー(A)は、少なくとも5.5mmol/kgの、好ましくは少なくとも6.0mmol/kg及び/又は有利には最大でも15.0mmol/kg、好ましくは最大でも14.0mmol/kg、いっそうより好ましくは最大でも13.0mmol/kgの量の式CH2-OHの極性末端基を含む。
【0067】
ポリマー(A)が式の少なくとも7.0mmol/kg、及び最大でも10.0mmol/kgの量の式-CH2-OHの極性末端基を含んだ場合に、優れた結果が得られている。
【0068】
さらに加えて、ポリマー(A)は、ヨウ素含有鎖末端及び式-CH2-OHの極性末端基に加えて、連鎖間停止による及び/又はバックバイティング連鎖内移動による追加の鎖末端として見られ得る、例えば式-CF2H及び-CF2CH3のいずれの基などの、非極性末端基を含み得る。
【0069】
制御された擬リビング重合のおかげで、ポリマー(A)において、ポリマー(A)中の式-CF2H及び-CF2CH3のいずれの末端基の総量は、有利には60.0mmol/kg以下の、好ましくは55.0mmol/kg以下の、さらにいっそう好ましくは50.0mmol/kg以下のものである。式-CF2H及び-CF2CH3の末端基の総量についての下限は、特に限定されないが;それにもかかわらず、少なくとも1.0mmol/kg、好ましくは少なくとも1.5mmol/kg、さらにいっそう好ましくは少なくとも2.0mmol/kgの量が避けられないままであり、分散液(D)及びポリマー(A)の性能に悪影響を及ぼすと考えられないことが一般に理解される。
【0070】
本発明は、さらに、上で詳述されたような、ポリマー(A)の粒子を含む分散液(D)の製造方法であって、前記方法は、無機開始剤の存在下で並びに任意の一般式(I)及び(II):
(式中、Xは、炭素又はリン、好ましくは炭素であり;R
aは、1つ以上の親水性基で任意選択的に置換された一価有機基であり、R
bは、1つ以上の親水性基で任意選択的に置換された二価有機基であり、Zは、ラジカル付加に向けてのチオカルボニル基の十分な反応性を促進することができる任意の基である)
のRAFT/MADIX剤の存在下でのVDFの乳化重合を含み、ここで、前記RAFT/MADIX剤と前記開始剤との間のモル比は、0.050mol/mol未満のものである方法に関する。
【0071】
本発明の方法は、典型的には、少なくとも1つのラジカル開始剤の存在下で実施される。一般に、フルオロ界面活性剤が全く添加されない実施形態については、無機ラジカル開始剤が、分散液(D)におけるポリマー(A)の粒子に安定効果を及ぼす極性鎖末端を生成するその能力のために、好ましいであろう。過硫酸塩ラジカル開始剤は、一般に、この目的のために最も使用されるものである。
【0072】
過硫酸塩ラジカル開始剤の選択は、特に限定されず、水性乳化重合プロセスに好適なラジカル開始剤は、重合プロセスを開始する及び/又は加速することができる化合物から選択され、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムを含むが、それらに限定されないことが理解される。
【0073】
上で定義されたような1つ以上のラジカル開始剤は、水性媒体の重量を基準として有利には0.001重量%~20重量%の範囲の量で上で定義されたような水性媒体に添加され得る。
【0074】
式(I)及び(II)において、Zは、好ましくは、式(Ix)の基について上で定義されたような、意味を有する。
【0075】
式(I)及び(II)において、Xは、好ましくは炭素原子であり、すなわち、RAFT/MADIX剤は、本明細書で下の任意の一般式(I’)及び(II’):
(式中、R
a、R
b及びZは、上で詳述された通りである)
に従う。
【0076】
式(I)において、Raは、そのそれぞれが、-CO2H、-CO2R、-CN、-SO3H、-OSO3H、-SOR、-SO2R、-OP(OH)2、-P(OH)2、-PO(OH)2、-OH、-OR、-(OCH2-CHR0)w-OH、-(OCH2-CHR0)w-OR、-CONH2、-CONHR1、-CONR1R2、-NR1R2、-NR1R2R3[ここで、Rは、C1~C12アルキルから選択され;wは、1~10の整数であり;R0は、水素又はRから選択され;R1、R2及びR3は、独立して、-CO2H、-CO2R、-CN、-SO3H、-OSO3H、-SO2R、-OH、-(OCH2CHR0)w-OH、-CONH2、-SOR及びSO2R、並びにそれらの塩(式中、R、R0及びwは、上で定義された通りである)から選択される1つ以上の親水性置換基で任意選択的に置換されているC1~C12アルキル及びアリールから選択される]から選択される1つ以上の親水性基で置換されていてもよい、C1~C12アルキル、C1~C12アルコキシ、アリール又はヘテロアリールから選択され得る。
【0077】
好ましくはRaは、限定なしに、-CH(CH3)CO2H、-CH(CH3)CO2CH3、-CH(CH3)CO2CH2CH3、-CH(CH3)CO2CH(CH3)2、-CH(CO2H)CH2CO2H、-CH(CO2CH3)CH2CO2CH3、-CH(CO2CH2CH3)CH2CO2CH2CH3、-CH(CO2CH(CH3)2)CH2CO2CH(CH3)2、-C(CH3)2CO2H、-C(CH3)2CO2CH3、-C(CH3)2CO2CH2CH3、-C(CH3)2CO2CH(CH3)2、-CH2(C6H5)、-C(CN)(CH3)CO2H、-C(CN)(CH3)CO2CH3、-C(CN)(CH3)CO2CH2CH3、-C(CN)(CH3)CO2CH(CH3)2、-C(CN)(CH3)(CH2)2CO2H、-C(CN)(CH3)(CH2)2CO2CH3、-C(CN)(CH3)(CH2)2CO2CH2CH3、及びC(CN)(CH3)(CH2)2CO2CH(CH3)2からなる群から選択される。
【0078】
式(II)において、Rbは、そのそれぞれが、-CO2H、-CO2R、-CN、-SO3H、-OSO3H、-SOR、-SO2R、-OP(OH)2、-P(OH)2、-PO(OH)2、-OH、-OR、-(OCH2-CHR0)w-OH、-(OCH2-CHR0)w-OR、-CONH2、-CONHR1、-CONR1R2、-NR1R2、-NR1R2R3[式中、Rは、C1~C12アルキルから選択され;wは、1~10の整数であり;R0は、水素又はRからから選択され;R1、R2及びR3は、独立して、-CO2H、-CO2R、-CN、-SO3H、-OSO3H、-SO2R、-OH、-(OCH2CHR0)w-OH、-CONH2、-SOR及びSO2R、並びにそれらの塩(式中、R、R0及びwは、上で定義された通りである)から選択される1つ以上の親水性置換基で任意選択的に置換されているC1~C12アルキル及びアリールから選択される]から選択される1つ以上の親水性基で置換されていてもよい、二価のC1~C12脂肪族、アリール又はヘテロアリール基から選択され得る。
【0079】
好ましくはRbは、限定なしに、pが1~12、好ましくは1~6の整数である、-(CH2)p-、-CH(CH3)-CH2-CH2-、-CH(C2H5)-CH2-、-CHCO2H-CH2-、-CH(CO2CH3)-CH2-、-CH(CO2CH2CH3)-CH2-、-CH(CO2CH(CH3)2)-CH2-、-CH(CO2H)CH(CO2H)-、-CH(CO2CH(CH3)2)CH(CO2CH(CH3)2)-、-CH(CO2CHCH3)CH(CO2CHCH3)-、-CH(CO2CH2CH3)CH(CO2CH2CH3)-、互いに等しいか又は異なる、p’及びp’’が0又は1~6の整数である-(CH2)p’-CH(C6H5)-(CH2)p’’-、互いに等しいか又は異なる、q’及びq’’が0又は1~6の整数である、-(CH2)q’-CH(CN)-(CH2)q’’-、-(CH2)q’-C(CN)(CH3)-(CH2)q’’-からなる群から選択される。
【0080】
特に過硫酸塩開始剤と組み合わせて、本発明の脈絡の中で特に有効と分かっているRAFT/MADIX剤は、式:
を有する、O-エチルS-(1-メトキシカルボニルエチル)ジチオカーボネートであり、それは、とりわけ、Rhodixan(登録商標)A1としてSolvayから商業的に入手可能である。
【0081】
上で説明されたように、前記開始剤と前記RAFT/MADIX剤との間のモル比は、0.050mol/mol未満のものである。本出願人は、意外にも、そのような少量のRAFT/MADIX剤が、高い分子量(すなわち、最小の連鎖移動/停止効果で)を達成すること及び最終ポリマー(A)性能のいかなる変更も回避することを可能にしながら、重合への擬リビングキャラクターを促進するのに有効であることを見出した。前記量は、好ましくは、最大でも0.048、より好ましくは最大でも0.045mol/mol、さらにいっそう好ましくは最大でも0.040mol/molのモル比RAFT/MADIX剤/開始剤を提供するようなものである。
【0082】
前記RAFT/MADIX連鎖移動剤についての下方境界は特に限定されないが、それは、少なくとも0.005、好ましくは少なくとも0.015、より好ましくは少なくとも0.020mol/molのモル比RAFT/MADIX剤/開始剤を提供するような量で一般に使用される。
【0083】
前記のように、本方法は、好ましくは、本明細書で下の式(III):
Rf§(X-)k(M+)k (III)
(式中:
- Rf§は、1つ以上のカテナリー若しくは非カテナリー酸素原子を任意選択的に含む、C5~C16(パー)フルオロアルキル鎖、及び(パー)フルオロポリオキシアルキル鎖から選択され、
- X-は、-COO-、-PO3
-及び-SO3
-から選択され、
- M+は、NH4
+及びアルカリ金属イオンから選択され、
- kは、1又は2である)
に従うフッ素化界面活性剤(FS)の添加なしで実施される。
【0084】
その存在が分散液(D)中で実質的に回避されるフッ素化界面活性剤(FS)の非限定的例は、下記:
(a)CF3(CF2)n0COOM’[式中、n0は、4~10、好ましくは5~7の範囲の整数であり、好ましくはn1は6に等しく、M’は、NH4、Na、Li又はK、好ましくはNH4を表す];
b)T-(C3F6O)n1(CFXO)m1CF2COOM’’[式中、Tは、Cl原子、又は式CxF2x+1-x’Clx’O(式中、xは、1~3の範囲の整数であり、x’は、0又は1である)のパーフルオロアルコキシド基であり、n1は、1~6の範囲の整数であり、m1は、0~6の範囲の整数であり、M’’は、NH4、Na、Li又はKを表し、Xは、F又は-CF3を表す];
(c)F-(CF2CF2)n2-CH2-CH2-RO3M’’’[式中、Rは、リン又は硫黄原子であり、好ましくはRは硫黄原子であり、M’’’は、NH4、Na、Li又はKを表し、n2は、2~5の範囲の整数であり、好ましくはn2は3に等しい];
(d)A-Rbf-B二官能性フッ素化界面活性剤[式中、互いに等しいか又は異なる、A及びBは、式-(O)pCFX’’-COOM*[式中、M*は、NH4、Na、Li又はKを表し、好ましくはM*は、NH4を表し、X’’は、F又は-CF3であり、pは、0又は1に等しい整数である)を有し、Rbfは、A-Rbf-Bの数平均分子量が、300~1800の範囲にあるような、二価の(パー)フルオロアルキル又は(パー)フルオロポリエーテル鎖である];並びに、
(e)それらの混合物
である。
【0085】
本発明のさらに別の目的は、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー[ポリマー(A)]の粒子を含む粉末[粉末(P)]であって、前記ポリマー(A)は、
(i)ポリマー(A)の繰り返し単位の総数に対して、85.0モル%超のVDFに由来する繰り返し単位を含み;
(ii)硫黄含有鎖末端を有し;
(iii)単分散ポリスチレン標準に対して、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)を溶剤として使用する、GPCによって測定されるときに、少なくとも500Kダルトンの重量平均分子量(Mw)を有し、
ここで、ASTM D3835に従って、100秒-1のせん断速度で、及び230℃の温度で測定されるKポアズ単位での溶融粘度(MV)と、Kダルトン単位で表される、Mwとの間の関係は、以下の不等式:
0.025×Mw(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×Mw(Kダルトン)+10
を満たし、
ここで、ポリマー(A)の前記粒子は、1μm未満の一次粒子平均サイズを有する
粉末である。
【0086】
分散液(D)及びポリマー(A)に関連して上で記載された特徴は全て、変更すべきところは変更して粉末(P)に当てはまる。
【0087】
粉末(P)は、上で詳述されたような、分散液(D)から公知の技法によって得られ得;とりわけ、粉末(P)は、凝固、例えばせん断若しくは温度誘発凝固によって得られ得るか、或いは噴霧乾燥若しくは他の乾燥又は液/固分離によって得られ得る。
【0088】
本発明のさらに別の目的は、上で詳述されたような特徴を有する、ポリマー(A)である。
【0089】
水性電極形成組成物は、上で詳述されたように、粉末状電極材料(電池若しくは電気二重層キャパシタ用の活物質)と、導電性付与添加物及び/又は粘度調整剤などの、任意選択の添加物とを分散液(D)へ添加し、分散させることによって得られ得る。
【0090】
溶剤系電極形成組成物は、上で詳述されたような、粉末(P)又はポリマー(A)を、バインダー溶液を得るために、極性有機溶剤に可溶化させ、前記溶液へ上で詳述されたような粉末状電極材料、並びに上で詳述されたような、導電性付与添加物及び/又は粘度調整剤などの、任意選択の添加物を添加し、分散させることによって得られ得る。
【0091】
これ故に、本発明の他の目的は、
- 上で詳述されたような、分散液(D)、粉末状電極材料並びに、任意選択的に、導電性付与添加物及び/若しくは粘度調整剤を含む水性電極形成組成物、並びに/又は
- 上で詳述されたような、ポリマー(A)、極性有機溶剤、粉末状電極材料並びに、任意選択的に、導電性付与添加物及び/若しくは粘度調整剤を含む溶剤系電極形成組成物
である。
【0092】
溶剤系電極形成組成物に含まれる及び/又はポリマー(A)を溶解させて本発明によるバインダー溶液を提供するためにとりわけ使用される極性有機溶剤は、好ましくは、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、及びトリメチルホスフェートの1つ又は2つ以上であり得る。本発明に使用されるポリマー(A)は、従来のものよりもはるかに大きい重合度を有するので、上述の有機溶剤の中で、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミドなどの、より大きい溶解力を有する窒素含有有機溶剤を使用することがさらに好ましい。これらの有機溶剤は、単独で又は2つ以上の化学種の混合物で使用され得る。
【0093】
上で詳述されたようなポリマー(A)のバインダー溶液を得るために、100重量部のそのような有機溶剤に、0.1~10重量部、特に1~5重量部のポリマー(A)を溶解させることが好ましい。0.1重量部未満では、ポリマーは、溶液において少なすぎる割合を占め、したがって、粉末状の電極材料を結び付けるその性能を示すことを果たせなくなりがちである。10重量部超では、溶液の異常に高い粘度が得られ、その結果電極形成組成物の調製が困難になる。
【0094】
ポリマー(A)バインダー溶液を調製するために、ポリマー(A)を30~200℃、より好ましくは40~160℃、さらに好ましくは50~150℃の温度で有機溶剤に溶解させることが好ましい。30℃未満では、溶解は、長時間を要し、一様な溶解は困難になる。
【0095】
粘度調整剤の中で、増粘剤が、本発明の水性又は溶剤系電極形成組成物からの粉末状電極材料の沈降を防ぐ又は遅くするために添加され得る。当業者は、問題となっている組成物の本質に応じて最も適切な増粘剤を選択するであろう。好適な増粘剤の非限定的な例としては、とりわけ、例えば部分中和されたポリ(アクリル酸)又はポリ(メタクリル酸)、カルボキシル化メチルセルロースのようなカルボキシル化アルキルセルロースなどの有機増粘剤、並びモンモリロナイト及びベントナイトのような天然粘土、ラポナイトのような人造粘土並びにシリカ及びタルクのような他のものなどの無機増粘剤が挙げられる。
【0096】
リチウムイオン電池用の正極を形成する場合に、活物質は、
- LiMY2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの、1つ又は2つ以上の遷移金属を意味し;Yは、O及びSなどの、カルコゲンを意味する)の一般式で表される複合金属カルコゲニド;
- 名目式AB(XO4)fE1-f(式中、Aは、リチウムであり、それは、A金属の20%未満を表す別のアルカリ金属によって部分的に置換されてもよく、Bは、Fe、Mn、Ni又はそれらの混合物の中から選択される+2酸化レベルでの主レドックス遷移金属であり、それは、+1~+5の酸化レベルでの及び0などの、+2の主レドックス金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属で部分的に置換されてもよく、XO4(式中、Xは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組み合わせのいずれかである)は、任意のオキシアニオンであり、Eは、フッ化物、水酸化物又は塩化物アニオンであり、fは、0.75~1の間に含まれる、XO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分リチウム化遷移金属オキシアニオン系電極材料
からなる群から選択され得る。
【0097】
それらの好ましい例としては、LiFePO4、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2 LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LixCo1-yAlyO2(0<x<1、0<y<1)及びスピネル構造化LiMn2O4が挙げられ得るが;それにもかかわらず、式:LixMn1-yM’yA2 (1)
LixMn1-yM’yO2-zZz (2)
LixMn2O4-zAz (3)
LixMn2-yM’yA4 (4)
LixM1-yM’’yA2 (5)
LixMO2-zAz (6)
LixNi1-yCoyO2-zAz (7)
LixNi1-y-zCoyM’’zAa (8)
LixNi1-y-zCoyM’’zO2-aZa (9)
LixNi1-y-zMnyM’zAa (10)
LixNi1-y-zMnyM’zO2-aZa (11)
(式中:
- 0.95≦x≦1.1、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦a≦2であり;
- Mは、Ni又はCoであり、M’は、Al、Ni、Co、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th及びPaからなる群から選択される1つ以上の元素であり、M’’は、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、Sr、V、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th及びPaからなる群から選択される1つ以上の元素であり、Aは、O、F、S及びPからなる群から選択され、Zは、F、S、及びPからなる群から選択される)
で表されるものなどの、より広い範囲のカルコゲニドが検討されてもよい。
【0098】
複合金属カルコゲニドの中で、LiMO2(式中、Mは、上記と同じである)の一般式で表されるリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、及びスピネル構造化LiMn2O4を挙げることができる。
【0099】
リチウム電池用の負極を形成する場合に、活物質は、
- リチウムをホストする例えば粉末、フレーク、繊維又は球体(例えば、メソカーボンマイクロビーズ)などの形態で典型的には存在する、リチウムを挿入することができる炭素質物質(例えば黒鉛炭素);
- リチウム金属;
- とりわけ米国特許第6203944号明細書(3M INNOVATIVE PROPERTIES CO.)2001年3月20日に及び/又は国際公開第00/03444号パンフレット(MINNESOTA MINING AND MANUFACTURING CO.)2005年6月10日に記載されているものなどの、リチウム合金組成物;- 一般に式Li4Ti5O12で表される、チタン酸リチウム(これらの化合物は、一般に、可動イオン、すなわちLi+を取り込むときに低レベルで物理的に膨張する、「ゼロ歪み」挿入材料とみなされる);
- 高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られる、リチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;
- 式Li4.4Geの結晶相を含む、リチウム-ゲルマニウム合金
からなる群から選択され得る。
【0100】
これらの実施形態において、活物質は、好ましくは、黒鉛、活性炭などの、炭素質物質又はフェノール樹脂、ピッチ等の炭化によって得られる炭素質物質を含み得る。炭素質物質は、約0.5~100μmの平均直径を有する粒子の形態で好ましくは使用され得る。
【0101】
導電性付与添加物は、限定的な導電性を示す、LiCoO2などの、活物質を使用する場合に特に、本発明の電極形成組成物の塗布及び乾燥によって形成される結果として生じる複合電極層の導電性を改善するために添加され得る。それの例として、例えばカーボンブラック、黒鉛微粉及び繊維などの、炭素質物質、並びにニッケル及びアルミニウムなどの、金属の微粉及び繊維が挙げられ得る。
【0102】
電気二重層キャパシタ用の活物質は、好ましくは、0.05~100μmの平均粒子(又は繊維)直径及び100~3000m2/gの比表面積を有する、すなわち、電池用の活物質のものと比べて比較的小さい粒子(又は繊維)直径及び比較的大きい比表面積を有する、活性炭、活性炭繊維、シリカ又はアルミナ粒子などの、微細粒子又は繊維を含み得る。
【0103】
正極用の好ましい電極形成組成物(水性又は溶剤形のものである)は、
(a)総重量(a)+(b)+(c)に対して、1~10重量%、好ましくは2~9重量%、より好ましくは約3重量%の量での、ポリマー(A);
(b)総重量(a)+(b)+(c)に対して、2~10重量%、好ましくは4~6重量%、より好ましくは約5重量%の量での、導電性付与添加物としてのカーボンブラック;
(c)80~97重量%、好ましくは85~94重量%、より好ましくは約92重量%の量での、粉末状電極材料、好ましくは、上で詳述されたような、LiMY2の一般式で表される複合金属カルコゲニド
を含む。
【0104】
セパレータをコーティングするための好適な水性コーティング組成物は、非電気活性無機充填材、及び任意選択の添加物を、上で詳述されたような、分散液(D)へ添加し、分散させることによって得ることができる。
【0105】
また、本発明の目的は、したがって、上で詳述されたような、分散液(D)、少なくとも1つの非電気活性無機充填材及び、任意選択的に、1つ又は2つ以上の追加の添加物を含む水性コーティング組成物[組成物(AC)]である。
【0106】
用語「非電気活性無機充填材」とは、電気化学セル用の電気絶縁セパレータの製造に好適である非導電性無機充填材を意味することを本明細書では意図する。
【0107】
本発明によるセパレータにおける非電気活性無機充填材は、典型的には、ASTM D 257に従って20℃で測定されるように、少なくとも0.1×10オームcmの、好ましくは少なくとも0.1×1012オームcmの電気抵抗率(p)を有する。好適な非電気活性無機充填材の非限定的な例としては、とりわけ、天然及び合成シリカ、ゼオライト、アルミナ、チタニア、金属炭酸塩、ジルコニア、リン酸ケイ素及びケイ酸塩等が挙げられる。非電気活性無機充填材料は、典型的には、ISO 13321に従って測定されるように、0.01μm~50μmの平均サイズを有する粒子の形態下である。
【0108】
組成物(AC)における任意選択の添加物としては、とりわけ、上で詳述されたような、粘度調整剤、消泡剤、非フッ素化界面活性剤等が挙げられる。
【0109】
非フッ素化界面活性剤の中で、とりわけアルコキシル化アルコール、例えばエトキシレートアルコール、プロポキシル化アルコール、混合エトキシル化/プロポキシル化アルコールなどの、非イオン性乳化剤を;とりわけ脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム)、アルキルアリールスルホン酸塩、アリールアルキルスルホン酸塩等をなどの、アニオン界面活性剤を挙げることができる。
【0110】
組成物(AC)は、分散液(D)から、例えば、(i)分散液(D)を、上で詳述されたような、任意選択の添加物と調合することによって、(ii)分散液(D)を、とりわけ限外濾過、噴霧化等のような標準技術によって濃縮することによって、(iii)乳化重合から得られるような、分散液(D)をそのままで使用することによって、(iv)分散液(D)を水で希釈することによって、又は上記の技術の組み合わせによって得られ得る。
【0111】
一般に、組成物(AC)は、
(i)5~25重量%の量での、上で詳述されたような、分散液(D);
(ii)70~95重量%の量での、少なくとも1つの非電気活性無機充填材;
(iii)0~5重量%の量での、1つ又は2つ以上の追加の添加物
を混合する工程と;
任意選択的に、30~80重量%、好ましくは40~60重量%の範囲に固形分を調整するために水を添加する工程とによって得られる。
【0112】
組成物(AC)の固形分は、とりわけポリマー(A)及び非電気活性無機充填材などの、それの全ての非揮発性成分の累積であると理解される。
【0113】
本発明のさらに別の目的は、電気化学セルでの使用にとりわけ好適な複合セパレータの製造方法であって、前記方法が、以下の工程:
(i)多孔質基材を提供する工程と;
(ii)上で詳述されたような、分散液(D)、少なくとも1つの非導電性無機充填材及び、任意選択的に、少なくとも1つ又は2つ以上の追加の添加物を含む水性コーティング組成物、すなわち、上で詳述されたような、組成物(AC)を提供する工程と;
(iii)前記組成物(AC)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上へ塗布してコーティング組成物層を提供する工程と;
(iv)前記コーティング組成物層を少なくとも60℃の温度で乾燥させて、前記複合セパレータを提供する工程と
を含む方法である。
【0114】
用語「セパレータ」とは、電気化学セルにおける反対の極性の電極を電気的に及び物理的に分離して、それらの間に流れるイオンを通す多孔質ポリマー材料を意味することを本明細書では意図する。
【0115】
用語「電気化学セル」とは、正極、負極及び液体電解質を含む電気化学セルであって、単層又は多層のセパレータが前記電極の1つの少なくとも1つの表面に固着している電気化学セルを意味することを本明細書では意図する。
【0116】
電気化学セルの非限定的な例としては、とりわけ、電池、好ましくは二次電池、及び電気二重層キャパシタが挙げられる。
【0117】
本発明の目的のためには、「二次電池」とは、再充電可能な電池を意味することを意図する。二次電池の非限定的な例としては、とりわけ、アルカリ又はアルカリ土類二次電池が挙げられる。
【0118】
本発明の方法から得られる複合セパレータは、有利には、電気化学セルにおける使用に好適な電気絶縁複合セパレータである。
本発明の方法の工程(iii)において、組成物(AC)は、典型的には、キャスティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレーディング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティング及びスクリーン印刷、ブラシ、スキージー、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティングから選択される技術によって多孔質基材の少なくとも1つの表面上に塗布される。
【0119】
好適な多孔質基材の非限定的な例としては、とりわけ、無機材料、有機材料及び天然由来材料から製造された、特に不織繊維(綿、ポリアミド,ポリエステル、ガラス)から、ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(塩化ビニル)から、及びある種の繊維状の天然由来物質(例えば、アスベスト)から製造された多孔質膜が挙げられる。
【0120】
有利な結果は、多孔質支持体が、ポリオレフィン多孔質支持体、例えばポリエチレン又はプロピレン多孔質支持体であった場合に得られている。
本発明の方法の工程(iv)において、コーティング組成物層は、60℃~200℃、好ましくは70℃~180℃に含まれる温度で好ましくは乾燥させられる。
【0121】
本発明のさらに別の目的は、上で記載されたような、粉末(P)又はポリマー(A)を使用することを含む膜の製造方法である。
【0122】
用語「膜」は、その通常の意味で本明細書において用いられる、すなわち、それは、この膜と接触する化学種の浸透を抑える個別の、一般に薄い、界面を言う。この界面は、分子的に均一であってもよい、すなわち、構造が完全に一様(稠密な膜)であってもよいし、又はそれは、化学的に若しくは物理的に不均一であってもよい、例えば有限寸法のボイド、穴若しくは細孔を含有してもよい(多孔質膜)。
【0123】
多孔質膜は、一般に、平均細孔直径及び気孔率、すなわち、多孔質である全体膜の割合で特徴付けられる。
【0124】
それらの厚さの全体にわたって一様な構造を有する膜は、一般に、対称的な膜として知られており、それらは、稠密か多孔質かのどちらかであり得るし;それらの厚さの全体にわたって均一に分布していない細孔を有する膜は、一般に、非対称膜として知られている。非対称膜は、薄い選択的な層(厚さ0.1~1μm)と、支持体として働き、且つ、膜の分離特性にほとんど影響を及ぼさない高多孔質の厚い層(厚さ100~200μm)とで特徴付けられる。
【0125】
膜は、平らなシートの形態にある又は管の形態にあることができる。管状膜は、それらの寸法に基づいて、3mm超の直径を有する管状膜;0.5mm~3mmに含まれる直径を有するキャピラリー膜;及び0.5mm未満の直径を有する中空繊維に分類される。多くの場合、キャピラリー膜は、中空繊維とも言われる。
【0126】
高い表面積のコンパクトなモジュールが必要とされる用途では、中空繊維が特に有利であるのに対して、高い流束が必要とされる場合には、平らなシート膜が一般に好ましい。
【0127】
それらの用途に応じて、膜はまた、それらの機械抵抗を向上させるために支持されてもよい。支持材料は、一般に、膜の選択性への影響が最小限であるように選択される。
【0128】
前記支持材料は、不織材料、ガラス繊維及び/又は例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリマー材料のいずれかであり得る。
【0129】
膜の前記製造方法は、有利には、
(i)下記:
- ポリマー(A);
- 任意選択的に、少なくとも1つの細孔形成剤[試剤(P)];及び
- 極性有機溶剤
を含む溶液[溶液(SM)]を調製する工程と;
(ii)前記溶液(SM)を処理してフィルムにする工程と;
(iii)前記フィルムを非溶剤浴に浸漬する工程と
を含む。
【0130】
上記の方法において使用される極性有機溶媒は、溶剤系電極形成組成物に関連して上で記載されたものと同じ特徴を有し;好ましくはN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、及びトリメチルホスフェートの1つ又は2つ以上;より好ましくはN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドの1つ又は2つ以上であり得る。
【0131】
細孔形成剤は、一般に、極性有機溶剤への及び非溶剤浴への溶解性を有する化合物の中から選択される。その結果、それらは形成される膜から少なくとも部分的に除去され、気孔率を提供するであろう。
【0132】
一般に、塩化リチウムのような無機化合物、並びに無水マレイン酸などの、モノマー有機化合物を使用できるが、ポリマー細孔形成剤が一般に好ましいことは理解される。
【0133】
特に、ポリマー細孔形成剤は、好ましくは、ポリ(アルキレンオキシド)及びそれらの誘導体(POA)並びにポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される。
【0134】
ポリ(アルキレンオキシド)(PAO)は、エチレンオキシド、プロピレオキシド及びそれらの混合物などのアルキレンオキシドを重合させることから得られるポリマーである。
【0135】
PAOの誘導体は、とりわけエーテル基、特にアルキルエーテル、エステル基、例えばアセテート等を生成するために、それのヒドロキシル末端基を好適な化合物と反応させることによって得ることができる。
【0136】
それにもかかわらず、ヒドロキシル末端基を有するPAOが一般に使用される。
【0137】
PAOの中で、ポリエチレンオキシド(PEO又はPEG)ポリマーが特に好ましい。
【0138】
ビニルピロリドンと他のモノマーとのコポリマーを有利に使用できるが、ポリビニルピロリドン(PVP)は、一般に、ホモポリマーであり、前記モノマーは、一般に、N-ビニルカプロラクタム、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択される。それにもかかわらず、PVPホモポリマーが一般に用いられる。
【0139】
PVPの分子量は、特に限定されない。それにもかかわらず、比較的高い分子量のPVPが、溶液(SM)を処理して膜にするために好ましいことが理解される。これ故に、その分子量の好適な尺度として広く認められた、PVPのK値は、一般に、少なくとも10のものである。
【0140】
使用される場合、試剤(P)の量は、一般に、0.1~5重量%、好ましくは0.5~3.5重量%に含まれる。
【0141】
溶液(SM)は、任意の従来の方法によって工程(i)において調製することができる。溶液(SM)は、有利には少なくとも25℃、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも40℃、さらにいっそう好ましくは少なくとも50℃の温度で調製される。溶液(SM)は、有利には180℃未満、好ましくは170℃未満、より好ましくは160℃未満、さらにいっそう好ましくは150℃未満の温度で調製される。より高い温度をもちろん溶液(SM)調製工程(i)のために用いることができるが、それらは、実用的な及び/又は経済的な観点から好ましくない。
【0142】
溶液(SM)中のポリマー(A)の全体濃度は、溶液の総重量を基準として、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも12重量%であるべきである。典型的には、溶液中のポリマー(A)の濃度は、溶液(SM)の総重量を基準として、50重量%を超えず、好ましくはそれは40重量%を超えず、より好ましくはそれは30重量%を超えない。
【0143】
溶液(SM)を得るために要する混合時間は、成分の溶解の速度、温度、混合装置の効率、調製されている溶液(SM)の粘度等に依存して大幅に変わり得る。ポリマー(A)の特異な微細構造のおかげで、溶液(SM)は、加工性にとって興味深い利点である、類似のMwの懸濁重合VDFポリマーを含む相当する溶液の液体粘度よりも低い液体粘度を有することが有利にも観察された。
【0144】
任意の好適な混合装置が用いられ得る。好ましくは、混合装置は、最終的な膜に欠陥を生じさせ得る、溶液(SM)中に閉じ込められた空気の量を減らすように選択される。ポリマー(A)と極性有機溶剤との混合は、好都合にも、任意選択的に不活性雰囲気下で保たれた、密閉容器中で実施され得る。不活性雰囲気、より正確には窒素雰囲気が、PVPを含む溶液(SM)の調製のために特に有利であることが分かった。
【0145】
工程(ii)において、溶液(SM)は処理してフィルムにされる。
【0146】
用語「フィルム」は、溶液の処理後に得られる溶液(SM)の層を言うために本明細書では用いられる。膜の最終形態に応じて、フィルムは、平らな膜が必要とされる場合は、平らであるか、管状又は中空繊維膜が得られるべきである場合は、形状が管状であるかのどちらであり得る。
【0147】
従来技術を、溶液((SM)を処理してフィルムにするために用いることができ、キャスティング技術が好ましいことが理解される。
【0148】
製造される膜の最終形態に応じて異なるキャスティング技術が用いられる。最終製品が平らな膜である場合、ポリマー溶液は、キャスティングナイフ又はドローダウンバーを用いて、平らな支持体、典型的にはプレート、ベルト若しくは布上にフィルムとして、又は別の微孔質支持膜としてキャストされる。
【0149】
したがって、その第1実施形態において、本発明の方法は、溶液(SM)を支持体上にキャストして平らなフィルムにする工程(ii)を含む。
【0150】
中空繊維及びキャピラリー膜は、いわゆる湿式紡糸法によって得ることができる。そのような方法において、溶液(SM)は、一般に、紡糸口金、すなわち、少なくとも2つの同心キャピラリー:溶液(SM)の通過のための第1の外側キャピラリー、及び一般に「ルーメン」と言われる、支持流体の通過のための第2の内側キャピラリーを含む環状ノズルを通してポンプ送液される。ルーメンは、溶液(SM)のキャスティングのための支持体として働き、且つ、中空繊維又はキャピラリー前駆体の穴を開いた状態に維持する。ルーメンは、繊維の紡糸の条件で気体、又は、好ましくは、液体であり得る。ルーメン及びその温度の選択は、それらが膜における細孔のサイズ及び分布に著しい影響を及ぼし得るので、最終的な膜の必要とされる特性に依存する。一般に、ルーメンは、ポリマー(A)に対する強い非溶剤ではないか又は、或いはまた、ルーメンは、ポリマー(A)に対する溶剤又は弱い溶剤を含有する。ルーメンは、典型的には、ポリマー(A)の非溶剤と及び極性有機溶剤と混和性である。
【0151】
紡糸口金の出口で、空気中での又は制御された環境中での短い滞留時間後に、中空繊維又はキャピラリー前駆体は、非溶剤浴中に浸漬され、ここで、ポリマー(A)は、沈澱して中空繊維又はキャピラリー膜を形成する。
【0152】
したがって、その第2実施形態において、本発明の方法は、ポリマー溶液を支持流体周りにキャストして管状フィルムにする工程(ii)を含む。
ポリマー溶液のキャスティングは、典型的には、紡糸口金を通して行われる。支持流体は、最終的な中空繊維又はキャピラリー膜の穴を形成する。支持流体が液体である場合、非溶剤浴中への繊維前駆体の浸漬は、また有利にも、繊維の内部から支持流体を除去する。
【0153】
管状膜は、それらのより大きい直径のために、中空繊維膜の製造のために用いられる方法とは異なる方法を用いて製造される。
【0154】
その第3実施形態において、本発明の方法は、ポリマー溶液を支持管状材上にキャストして管状フィルムにする工程(ii)を含む。
【0155】
溶液(SM)の処理が、上で詳述されたような、どの形態でも、フィルムを得るために完了した後に、前記フィルムは、工程(iii)において非溶剤浴中へ浸漬される。この工程は、一般に、溶液(SM)からのポリマー(A)の沈澱を誘発するのに有効である。沈澱したポリマー(A)は、したがって、最終的な膜構造を有利にも形成する。
【0156】
本明細書で用いるところでは、用語「非溶剤」は、溶液又は混合物の所与の成分を溶解させることができない物質を示すと見なされる。
【0157】
ポリマー(A)のための好適な非溶剤は、水及び脂肪族アルコール、好ましくは短鎖、例えば1~6個の炭素原子を有する脂肪族アルコール、より好ましくはメタノール、エタノール及びイソプロパノールである。前記好ましい非溶剤のブレンド物、すなわち、水と1つ以上の脂肪族アルコールとを含むブレンド物を使用することができる。好ましくは、非溶剤浴の非溶剤は、水、
- 上で定義されたような脂肪族アルコール、及びそれらの混合物
からなる群から選択される。さらに加えて、非溶剤浴は、非溶剤に加えて(例えば、水に、上で詳述されたような、脂肪族アルコールに又は水と脂肪族アルコールとの混合物に加えて)少量(非溶剤浴の総重量に対して、典型的には40重量%までの、一般に25~40重量%)のポリマー(A)用の溶剤を含むことができる。溶剤/非溶剤混合物の使用は、有利にも、膜の気孔率を制御することを可能にする。非溶剤は、一般に、溶液(SM)の調製のために使用される極性の有機溶剤と混和性のものの中から選択される。好ましくは、本発明の方法における非溶剤は、水である。水は、最も安価な非溶剤であり、それは、大量に使用することができる。
【0158】
使用される場合、細孔形成剤(P)は、一般に、工程(iii)における非溶剤浴中で膜から、完全にではないにしても、少なくとも部分的に除去される。
【0159】
沈澱浴から取り出されるとすぐに、膜は、追加の処理、例えば、すすぎを受けてもよい。最後の工程として、膜は、典型的には乾燥させられる。
【0160】
本発明は、さらに、上に記載されたような方法によって得られる膜に関する。特に、本発明は、上で詳述されたような、ポリマー(A)を含む膜に関する。
【0161】
本発明の方法から得られる膜は、好ましくは多孔質膜である。典型的には膜は、非対称構造を有する。膜の気孔率は、3~90%、好ましくは5~80%の範囲であり得る。
【0162】
細孔は、少なくとも0.001μmの、少なくとも0.005μmの、少なくとも0.01μmの、少なくとも0.1μmの、少なくとも1μmの、少なくとも10μmの及び最大でも50μmの平均直径を有し得る。
【0163】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、それが用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0164】
本発明は、その範囲を限定する意図なしに、本発明を単に例示する目的で提供される、以下の実施例に関連してより詳細に本明細書で以下説明される。
【0165】
末端基の測定
1H-NMR技法を、PIANCA,Maurizio,et al.End Groups in fluoropolymers.Journal of Fluorine Chemistry.1999,vol.95,p.71-84に記載されている技法に従って末端基の測定のために用いた。この目的で、約20mgのポリマーを0.7mlのヘキサジュウテロアセトンに溶解させた。1H-NMRスペクトルは、とりわけ、-CH2-OH末端基に関連する14Hzに等しいJカップリングF-Hで3.78ppmに三重項を示した。
【0166】
総平均モノマー(MA)含有量の測定
フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー中の総平均モノマー(MA)含有量は、酸-塩基滴定によって測定した。1.0gのポリマーの試料を70℃の温度でアセトンに溶解させた。水(5ml)を次いでポリマーの凝固を回避するために激しい撹拌下で滴加した。酸性度の完全な中和までの0.01Nの濃度を有する水性NaOHでの滴定を、次いで、約-170mVでの中性転移(neutrality transition)で、実施した。
【0167】
溶融粘度の測定
溶融粘度(ASTM D3835に従った)は、分子量の改善を実証するために測定した。試験は、1mmのダイ直径で230℃での形状(L/D=20)のCapillary Rheomether Rheograph 2003において行った。MVの測定は、100秒-1のせん断速度で実施した。
【0168】
重量平均分子量の測定
分子量は、GPCによって測定した。試料調製:凝固によって得られた、粉末の溶解、45℃でDMA+LiBr 0.01N中の0.25wt/vol%、撹拌下に2時間及びSorvall RC-6 Plus遠心分離機(回転子モデル:F21S-8X50Y)を用いて室温で60分間20000rpmでのさらなる遠心分離。各試料の上澄みを、下で詳述される機器及び条件を用いて分析した:
移動相:DMA
流量:1mL/分
温度:45℃
注入システム:Waters 717plus Autosampler
注入量:200μL
ポンプ:Waters Isocratic Pump model 515
カラム:4つのWater Styragel HT(300×7.5)mm、10μm粒径:Styragel HT-6、HT-5、HT-4、HT-3 ガードカラム付き
検出器:Waters refractive index model 2414
データ取得及び処理のためのソフトウェア:Waters Empower
【0169】
ゲル含有量の測定
得られたラテックスの試料を、前記ラテックスを凍結にかける、低温凝固法によって乾燥させ;そのようにして得られた粉末の秤量した量を、45℃の温度で4時間1:375の重量比で、0.01Nの濃度でLiBrを含有するN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)と接触させた。そのようにして得られた混合物を、20000rpmで3600秒間遠心分離にかけ、液相を沈澱残渣から分離した。ゲル含有量は、150℃の温度で48時間乾燥させた後に、前記残渣を秤量し、凝固粉末検体の全体重量でそれを割ることによって決定した。
【0170】
実施例1-Rhodixan(登録商標)A1[O-エチルS-(1-メトキシカルボニルエチル)ジチオカーボネート]を使用する水性VDF-HFP-AAポリマーラテックス(ポリマーA1)の製造
バッフル及び50rpmで作動する攪拌機を備えた21リットルの水平反応器オートクレーブに、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を80℃にし、2.0mlのRhodixan(登録商標)A1溶液を添加し、それぞれ99:1のモル比でのVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、35バールassの圧力を全試行の全体にわたって一定に維持した。250mlの100g/lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を20分間にわたって添加し(1L/時)、その後、過硫酸アンモニウム(APS)の溶液を実行の全継続時間の間70ml/時の流動速度で連続的に添加し;加えて、50mlのアクリル酸(AA)の溶液(水中の50g/lのアクリル酸)を、250gのモノマーが消費される毎に供給した。4500gの混合物を供給したとき、混合物の供給を中断し、次いで、反応温度を一定に保ったまま、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は、250分であった。反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、98.7モル%のVDF、約0.8モル%のHFP及び0.5モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。最終比Rhodixan(登録商標)A1/APSは、0.04mol/molであった。そのようにして得られた水性ラテックスは、重量で25.5の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定されるように、139nmの平均一次サイズを有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散し、154.7℃の融点(ASTM D3418に従って測定される)、38.1kポアズのMV(230℃/100秒-1)、735kmolのMw、3%未満のゲル含有量及び以下の通りの末端基の含有量:-CF2H:24mmol/kg;-CF2-CH3:23mmol/kg;-CH2OH:16mmol/kgを有することを分かり;硫黄含有鎖末端の存在は、元素分析及びNMR分光法によって確認した。
【0171】
比較例1-水性VDF-AAポリマーラテックス(ポリマーC1)の製造
バッフル及び50rpmで作動する攪拌機を備えた21リットルの水平反応器オートクレーブに、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を80℃にし、それぞれ99:1のモル比でのVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、35バール絶対の圧力を全試行の全体にわたって一定に維持した。250mlの100g/lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を20分間にわたって添加し(1L/時)、その後、過硫酸アンモニウム(APS)の溶液を実行の全継続時間の間60ml/時の流動速度で連続的に添加し;加えて、50mlのアクリル酸(AA)の溶液(水中の50g/lのアクリル酸)を、250gのモノマーが消費される毎に供給した。4500gの混合物を供給したとき、混合物の供給を中断し、次いで、反応温度を一定に保ったまま、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は、183分であった。反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、98.6モル%のVDF、約1.0モル%のHFP及び0.4モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。そのようにして得られた水性ラテックスは、24.9重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定されるように、221nmの平均一次サイズを有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散し、153℃の融点(ASTM D3418に従って測定される)、60kポアズのMV(230℃/100秒-1)、470kダルトンのMw、55%のゲル含有量及び以下の通りの末端基の含有量:-CF2H:43mmol/kg;-CF2-CH3:47mmol/kg;-CH2OH:9mmol/kgを有することが分かった。ヨウ素含有末端基が存在することは全く見出されなかったし、それは、ヨウ素含有連鎖移動剤が全く使用されなかったという事実と一致する。
【0172】
比較例2-水性VDF-AAポリマーラテックス(ポリマーC2)の製造
バッフル及び50rpmで作動する攪拌機を備えた21リットルの水平反応器オートクレーブに、13.5リットルの脱イオン水を導入した。温度を80℃にし、6.6vol/vol%の酢酸エチル(AcOEt)の水溶液での13.5mlを添加し、それぞれ99:1のモル比でVDF/HFPガス状混合物モノマーを供給することによって、35バール絶対の圧力を全試行の全体にわたって一定に維持した。250mlの100g/lの過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を20分間にわたって添加し(1L/時)、その後、過硫酸アンモニウム(APS)の溶液を実行の全継続時間の間60ml/時の流動速度で連続的に添加し;加えて、50mlのアクリル酸(AA)の溶液(水中の50g/lのアクリル酸)を、250gのモノマーが消費される毎に供給した。4500gの混合物を供給しとき、混合物の供給を中断し、次いで、反応温度を一定に保ったまま、圧力を12バールまで低下させた。最終反応時間は、211分であった。反応器を室温に冷却し、ラテックスを回収した。そのようにして得られたVDF-HFP-AAポリマーは、98.7モル%のVDF、約0.9モル%のHFP及び0.4モル%のアクリル酸(AA)モノマーを含有していた。最終比AcOEt/APSは、0.05mol/molであった。そのようにして得られた水性ラテックスは、23.2重量%の固形分を有していた。VDF-HFP-AAポリマーは、ISO 13321に従って測定されるように、330nmの平均一次サイズを有する粒子の形態下で水性ラテックス中に分散し、153.2℃の融点(ASTM D3418に従って測定される)、49.9kポアズのMV(230℃/100秒-1)、596ダルトンのMw、35%のゲル含有量及び以下の通りの末端基の含有量:-CF2H:45mmol/kg;-CF2-CH3:42mmol/kg;-CH2OH:9mmol/kgを有することが分かった。上と同様に、ヨウ素含有末端基が存在することは全く見出されなかったし、それは、ヨウ素含有連鎖移動剤が全く使用されなかったという事実と一致する。
【0173】
下の表は、そのようにして得られたポリマーにおいて検出された鎖末端の要約を提供する。
【0174】
【0175】
上に提供されたデータは、限定量のRAFT/MADIX連鎖移動剤の使用が、分岐に関連した鎖末端の全体量が実質的に限定されている高分子量ラテックスの達成を可能にすることを十分に実証している。
【0176】
下の表は、上で詳述されたような実施例において得られた低温凝固ラテックスをDMAに溶解させたとき;さらに、凝固試料をまた8wt/wt%の重量含有量でNMPへの可溶化にかけたときに得られた結果の要約を提供する:すなわち、格付け「良好」が、電極活性材料及び/又は導電性エンハンサーの添加によって電極形成組成物を調製するために完全に適合している、懸濁/ケル化画分が全くない、無色透明の及び均一な溶液を表し;「不良」が、電極形成組成物の調合に使用するのに好適であるためには追加の分離工程を必要とし得る、非均一な溶液を表す、定性的評価を下に提供する。
【0177】
【0178】
上で提供されたデータは、本発明のラテックスが、それらの改善された直線性及び限定された長鎖分岐の含有量のおかげで、より高い分子量に恵まれているけれども、改善された可溶化挙動を有する生成物を提供する、且つ特に、一般に「ゲル」と言われる、不溶性残渣の存在によって悪影響を受けない、及びこれ故に電極形成組成物の調合での使用により適合している有機溶剤中の溶液を提供することを明らかに実証している。
【0179】
図1は、記号□を用いて描かれる、実施例1及び2のVDFポリマーについて、上で記載されたように測定される、Kポアズ単位での溶融粘度(MV)とKダルトン単位での重量平均分子量(Mw)との間の関係を描くグラフである。本グラフは、また、不等式0.025×M
w(Kダルトン)+13≦MV(Kポアズ)≦0.050×M
w(Kダルトン)+10及び0.030×M
w(Kダルトン)+12≦MV(Kポアズ)≦0.045×M
w(Kダルトン)+9の上方境界及び下方境界に相当する線を描いている。このグラフは、本発明のVDF-ポリマーの発明ラテックス(□)が、いかにして、それを(i)上記の実施例1C及び実施例2Cの、及び本明細書によって言及されるものとは異なる方法で得られた他の乳化重合ラテックスなどの、対照乳化重合VDF(●)から;並びに(ii)4.43MPa(44.3バールに相当する)であることが知られている、臨界VDF圧力よりも高い、高いVDF圧力下での、これ故に反応媒体中に液体VDFの存在下での懸濁重合によって顆粒形態で(及びラテックスとしてではなく)得られた、且つ、極めて直線状の構造を有することが知られている懸濁重合VDFポリマー(○)から明らかに区別する、特異なM
w/MV関係で特徴付けられるかを明らかに示す。