(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】ポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するための方法及び該方法により製造されたポリマーコーティングされた金属ストリップ
(51)【国際特許分類】
B05D 1/28 20060101AFI20240430BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240430BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240430BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240430BHJP
B29C 63/02 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D3/12 C
B05D3/00 E
B05D3/02 E
B05D3/00 D
B29C63/02
(21)【出願番号】P 2021535655
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2019085499
(87)【国際公開番号】W WO2020127159
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-16
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリー、コンドラティウク
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ポール、ペニング
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518781(JP,A)
【文献】特表2004-501334(JP,A)
【文献】特開2017-213898(JP,A)
【文献】特表2011-521100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
B29C63/00-63/48
65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続コーティングラインにおいてポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するための方法であって、以下の工程:
・金属ストリップを準備する工程;
・前記金属ストリップの少なくとも片面にコーティングするための熱可塑性ポリマーフィルムを準備する工程;
・前記熱可塑性ポリマーフィルムを前記金属ストリップにラミネートして、ポリマーコーティングされた金属ストリップを製造する工程;
・前記熱可塑性ポリマーフィルムの配向及び結晶化度を目標値まで低下させるために、前記ポリマーコーティングされた金属ストリップを、前記熱可塑性ポリマーフィルムを溶融するのに十分に高い温度に後加熱する工程;
・後加熱された前記ポリマーコーティングされた金属ストリップを冷却する、好ましくは急速冷却する工程;
・3500cm
-1以上9000cm
-1以下
の波数を有する近赤外光
スペクトルを、前記ラミネートされたポリマーフィルムにインラインで照射する工程;
・近赤外分光検出器を使用して、後方散乱近赤外光をインラインで取得する工程;
・前記後方散乱近赤外光から近赤外スペクトルを計算する工程;
・前記計算された近赤外スペクトルを参照材料の近赤外スペクトルと比較して、前記ラミネートされたポリマーフィルムの結晶化度及び/又は分子配向の程度の尺度として適合指数を測定する工程
、ここで、前記適合指数は、以下の式:
【数1】
[式中、
「A
reference,i
」は、選択された各波長において計算された参照材料の近赤外光の平均吸光度を表し、
「A
sample,i
」は、選択された各波長において計算された前記ラミネートされたポリマーフィルムのサンプルの近赤外光の平均吸光度を表し、
「σ
reference,i
」は、選択された各波長に関する吸光度の標準偏差を表す。]
に基づいて計算される全てのCIi値のうちの最大値である、
を含む、前記方法。
【請求項2】
ポリマーフィルムが、前記金属ストリップの両面にラミネートされ、ラミネートされた両方のポリマーフィルムの結晶化度及び/又は分子配向の程度が、前記金属ストリップの両面で決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記近赤外光
スペクトルの波数が3750cm
-1以上6000cm
-1以下、好ましくは4100cm
-1以上、好ましくは4500cm
-1以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された適合指数が0.5未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記後方散乱近赤外光に基づいて計算される前記適合指数が0.5を超える場合には、前記後加熱設定値(T2)及び前記連続コーティングラインのライン速度の一方又は両方が調整される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数の近赤外分光検出器を使用して、前記ストリップの幅にわたって後方散乱近赤外光を取得するか、或いは、1又は2以上の走査型近赤外分光検出器を使用して、前記ストリップの幅にわたって後方散乱近赤外光を取得する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属ストリップが、鋼ストリップである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記鋼ストリップが、コーティングされていない冷間圧延された鋼ストリップ、ブリキ、
スズを含まない鋼、亜鉛メッキ鋼又はアルミナイズド鋼ストリップである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリマーフィルムが、単層又は多層ポリエステル又はポリオレフィンポリマーフィルムである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属ストリップにコーティングするための前記熱可塑性ポリマーフィルムが、1又は2以上の層からなり、以下の工程:
・1又は2以上の押出機で熱可塑性ポリマー顆粒を溶融して1又は2以上の層を形成する工程;
・溶融した1又は2以上のポリマーを、フラット(共)押出ダイ及び/又は2以上のカレンダロールに通すことにより、2以上の層からなる熱可塑性ポリマーフィルムを形成する工程;
その後、場合により、
・前記熱可塑性ポリマーフィルムを冷却して、熱可塑性ポリマー固体フィルムを形成する工程;
・場合により、前記熱可塑性ポリマー固体フィルムの端部をトリミングする工程;
・長手方向のみに延伸力を加えることにより、延伸ユニット内で前記熱可塑性ポリマー固体フィルムを延伸することにより、前記熱可塑性ポリマー固体フィルムの厚さを減少させる工程;
・場合により、前記延伸された熱可塑性ポリマー固体フィルムの端部をトリミングする工程
により製造される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
1又は2以上の前記熱可塑性ポリマーフィルムが、二軸配向ポリマーフィルムである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
1又は2以上の前記熱可塑性ポリマーフィルムが、一軸配向ポリマーフィルムである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ラミネートされたポリマーフィルムの結晶化度の目標値が、最大で10重量%である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ポリマーコーティングされた金属ストリップであって、
4100cm
-1
以上4500cm
-1
以下の波数を有する近赤外光スペクトルを使用して決定される、ラミネートされたポリマーフィルムの適合指数CIが0.5未満であり、
ここで、前記適合指数は、以下の式:
【数2】
[式中、
「A
reference,i
」は、選択された各波長において計算された参照材料の近赤外光の平均吸光度を表し、
「A
sample,i
」は、選択された各波長において計算された前記ラミネートされたポリマーフィルムのサンプルの近赤外光の平均吸光度を表し、
「σ
reference,i
」は、選択された各波長に関する吸光度の標準偏差を表す。]
に基づいて計算される全てのCIi値のうちの最大値である、前記ポリマーコーティングされた金属ストリップ。
【請求項15】
ISO 11357-3-1999「プラスチック-示差走査熱量測定(DSC)-パート3:温度と融解及び結晶化のエンタルピーの測定」に従って、10℃/分の加熱速度でDSCにより測定された、前記ラミネートされたポリマーフィルムの結晶化度の目標値が最大で10重量%である、請求項14に記載のポリマーコーティングされた金属ストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続コーティングラインにおいてポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するための方法及び該方法により製造されたポリマーコーティングされた金属ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
ラミネート加工には、熱可塑性ポリマーフィルム(例えば、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET))の、金属基材の片面又は両面への適用が含まれる。基材への接着は、別の接着剤層を使用して又は使用せずに達成することができる。ポリマーフィルムは、異なる構成ポリマー層を含み得る。同一又は異なるタイプのフィルムを金属基材の両面にラミネートすることができる。フィルムは、US7942991に記載されているように、コイル状フィルムとして提供することもできるし、EP1019248A1に記載されているように、いわゆるキャストフィルムラミネーションプロセスにおいてラミネーションの直前に製造することもできる。
【0003】
フィルムラミネート加工は、典型的には、以下の工程を含む。
1.コーティングされる金属基材(通常、コイル状の金属ストリップ)を準備する工程
2.基材を予備加熱(pre-heat)する工程
3.片面ラミネート又は両面ラミネートのために、1又は2以上のフィルムを準備する工程
4.ラミネートされた基材を再加熱(「後加熱(post-heat)」)する工程
5.ラミネートされた金属基材を水焼入れ、乾燥及びコイリングする工程
【0004】
キャストフィルムラミネート加工は、典型的には、以下の工程を含む。
1.コーティングされる金属基材(通常、コイル状の金属ストリップ)を準備する工程
2.基材を予備加熱する工程
3.ポリマーフィルムをキャストし、それを基材の片面にラミネートし、場合により、同時に又はその後、別のポリマーフィルムをキャストし、それを基材の反対側にラミネートする工程
4.ラミネートされた基材を再加熱(「後加熱」)する工程
5.ラミネートされた金属基材を水焼入れ、乾燥及びコイリングする工程
【0005】
ポリマーコーティングされた鋼を製造するためのこれら全てのプロセスルートにおいて、後加熱工程は重要な役割を果たす。上記のように、後加熱工程は、コーティングが金属基材に形成された後に実施される。後加熱工程は、ポリマーコーティングを溶融することを目的としている。適切な溶融により、ポリマーと金属基材とが密接に接触し、コーティングから、残留する結晶化度及び分子配向が除去される。これにより、ポリマーコーティングされた最終製品の高い接着性、成形性、耐食性及び良好な外観が得られる。
【0006】
高温計(pyrometer)を使用して後加熱温度を測定する一般的な方法に問題がないわけではない。第一に、温度は、ポリマーの表面に対して測定される。プラスチックの透過率は、波長によって異なり、その厚さに比例する。薄い材料は、厚いプラスチックよりも透過性が高い。後加熱の目的はポリマー層を溶融することであるため、表面温度のみを測定すると、ポリマー層全体の溶融状態に関する不正確な情報が得られる可能性がある。また、後加熱温度測定は、測定された温度が炉内の実際の後加熱温度ではないような、炉の後の特定の距離で実施される場合がある。フィルムの透過率の問題に加えて、フィルムの放射率が、望まれるほど正確には分からない場合がある。放射係数は、測定された高温計のシグナルを温度測定値に変換する際の重要なパラメータである。この要因の組み合わせにより、後加熱温度測定は、ラミネートされたポリマーフィルムの結晶化度及び配向の程度の評価方法として適さなくなり、後加熱温度が実際に必要な温度よりも高くなり、潜在的にエネルギー効率が低下する場合や、後加熱温度が実際に必要な温度よりも低くなる場合が生じる可能性がある。これは、ポリマーコーティングの無溶融又は不十分な溶融をもたらし、ポリマーと金属基材との間の接着の問題、並びに、コーティングにおける結晶化度及び分子配向の残留をもたらす可能性がある。
【0007】
ポリマーコーティングされた鋼の製造中に適切な後加熱条件が適用されたか否かを確認するための一般的な手順は、自立型コーティングフィルム(free standing coating film)に関し、示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry)により、最終製品のコーティングの結晶化度(場合によっては結晶化度及び配向)をチェックすることである。熱量測定法は、鋼のベースを塩酸に溶解した後に実施することができる。このアプローチは信頼できる結晶化度の値を提供するが、非常に時間がかかり(数日又は数週間)、生産ラインでは実施できないサンプル準備に多大な労力を費やすことになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、結晶化度及び/又は配向の程度のより迅速な測定を可能にする、連続コーティングラインにおいてポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するための方法を提供することである。
【0009】
また、本発明の目的は、結晶化度及び/又は配向の程度のインラインでの測定を可能にする、連続コーティングラインにおいてポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するための方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の目的は、連続コーティングラインにおいてポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するためのより効率的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1又は2以上の目的は、連続コーティングラインにおいてポリマーコーティングされた金属ストリップを製造するための方法であって、以下の工程:
・金属ストリップを準備する工程;
・前記金属ストリップの少なくとも片面にコーティングするための熱可塑性ポリマーフィルムを準備する工程;
・前記熱可塑性ポリマーフィルムを前記金属ストリップにラミネートして、ポリマーコーティングされた金属ストリップを製造する工程;
・前記熱可塑性ポリマーフィルムの配向及び結晶化度を目標値まで低下させるために、前記ポリマーコーティングされた金属ストリップを、前記熱可塑性ポリマーフィルムを溶融するのに十分に高い温度に後加熱する工程;
・後加熱された前記ポリマーコーティングされた金属ストリップを冷却する、好ましくは急速冷却する工程;
・3500cm-1以上9000cm-1以下の1種、2種以上又は全種の波数を有する近赤外光を、前記ラミネートされたポリマーフィルムにインラインで照射する工程;
・近赤外分光検出器を使用して、後方散乱近赤外光をインラインで取得する工程;
・前記後方散乱近赤外光から近赤外スペクトルを計算する工程;
・前記計算された近赤外スペクトルを参照材料の近赤外スペクトルと比較して、前記ラミネートされたポリマーフィルムの結晶化度及び/又は分子配向の程度の尺度として適合指数を測定する工程
を含む、前記方法により達成される。
【0012】
好ましい実施形態は、従属請求項に示されている。
【0013】
本発明による方法において、金属ストリップは、少なくとも片面にポリマーフィルムを備えており、ポリマーコーティングを溶融するために後加熱される。ポリマーコーティングされた金属ストリップの急冷後、ストリップは、3500cm-1以上9000cm-1以下の1種、2種以上又は全種の波数を有する近赤外光をポリマーフィルムに照射する近赤外発光デバイス(near-infrared (NIR) emission device)を通過してインラインに導かれる。1種、2種以上又は全種の波数は、3500cm-1以上9000cm-1以下の波数を有する近赤外フルスペクトル(全ての波数)であってもよいし、この範囲内の1種又は2種以上の選択された波数であってもよい。
【0014】
意味のある近赤外データを収集するためには、ポリマーコーティングされた金属ストリップから、急冷操作の残留水を、例えば乾燥又はワイピング(wiping)(例えば、乾燥ローラーの使用による乾燥又はワイピング)により、除去する必要がある。水は、強力な近赤外吸収剤だからである。その後、後方散乱近赤外光スペクトル(back-scattered NIR-light spectrum)が近赤外分光検出器(NIR-spectroscopy)によって取得され、分析装置/コンピューターに送られ、結晶化度及び/又は分子配向の程度を示す指標が導き出される。この指標、すなわち、適合指数(CI:Conformity Index)は、後方散乱近赤外光に基づいて導き出される。この分析を十分に高速化するためには、フーリエ変換技術又はその他の適切な変換技術若しくはアルゴリズムを使用し、取得された後方散乱近赤外光からリアルタイム近赤外スペクトルを計算することが好ましい。選択された1種又は限られた数の波数の後方散乱近赤外光のみが取得され、近赤外スペクトル全体が取得されない場合、取得された後方散乱近赤外光の分析は、ある程度(somewhat)、簡略化することができる。後方散乱フルスペクトルが使用される場合、検出中の分解能(resolution)は、取得されたデータポイントの数を制限するための有限値であることに注意すべきである。したがって、後方散乱近赤外スペクトルには、有限数のデータポイントが含まれる。以下に示す例で使用された分解能は、16cm-1である。
【0015】
本発明による方法は、片面のみがポリマーコーティングされたストリップを製造する場合に実施することができるが、ストリップの各面に発光ヘッド(emission heads)及び検出器を設置することにより、両面がポリマーコーティングされたストリップを製造する場合にも実施することができる。両面の熱可塑性ポリマーフィルムは、互いに異なっていてもよい。
【0016】
本発明による方法は、インラインで実施することができる。本発明において、「インライン(in-line)」は、連続的な一連の操作の不可欠な部分(integral part)を構成するものとして理解されるべきである。これは、例えば示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry)を使用して、結晶化度の程度を測定するオフラインの方法とは対照的である。示差走査熱量測定法は、サンプルを物理的に取得して処理する必要があるため、ポリマーコーティングされたストリップの完了後にのみ実施することができる。
【0017】
結果として、結晶化度及び/又は分子配向の程度を迅速に示すことができるため、本発明による方法は、製造プロセス中に、オペレーターが介入して後加熱パラメータを調整することを可能にする。これは、例えば、後加熱装置のプロセス設定を調整することにより、又は、連続コーティングラインのライン速度を変更することにより、実施することができる。後加熱装置は、通常、これらの調整された設定に迅速に応答することができる誘導タイプの装置である。オペレーター又はプロセス自動化が「良好な(good)」製品と「不良な(bad)」製品とを区別することを可能とするCI基準値(threshold)を規定することにより、プロセス条件を即座に適応させることができる。
【0018】
したがって、近赤外(NIR)による結晶化度の測定は、ポリマーコーティングされた金属基材の温度を測定する高温計(pyrometer)を使用する場合と比較して、ラミネーションプロセスの品質を制御するための、より効率的かつより信頼性の高い方法である。これは、高温計で測定された位置の温度が、効果的な後加熱に必要な温度と比較して、有意に相違する可能性があるためである。後加熱と温度測定との間の距離は、相違を引き起こす。また、ポリマーフィルムの放射率(emissivity)は正確には分からないため、高温計で温度を測定することは、本質的に不正確である。したがって、近赤外(NIR)による製品の特性の直接的な制御は、プロセス設定を介した間接的な製品の特性の制御よりも、はるかに信頼性が高い。
【0019】
適合性試験は、測定された近赤外スペクトルの偏差(deviation)を、試験サンプルに関する特定の制限内において、近赤外スペクトル内の選択された波長でチェックすることを伴う。これらの制限を設定するために、許容される仕様範囲内の変動(variation)を示す参照として、目的の最終製品のサンプル(「参照サンプル」)が必要である。これらの参照サンプルの測定された近赤外スペクトルは、許容可能な変動を反映する。試験サンプルの近赤外スペクトルの変動は、「良好」-「不良」試験に合格するために、各波長に関して、これらの制限に適合している必要がある。
【0020】
参照スペクトルについては、近赤外光の平均吸光度と、選択された各波長に関する吸光度値の標準偏差σとが計算される。平均値±標準偏差は、スペクトル範囲の信頼区間を決定する。
【0021】
試験サンプルが許容範囲(accepted band)内にあるか否かを判断するために、試験サンプルと参照サンプルとの間の、ポリマーフィルムによる近赤外光の平均吸光度(A)の差が、選択された各波長で計算される。次いで、この絶対偏差を、それぞれの波長における対応する標準偏差で除算する。これにより、適合指数(CI:Conformity Index)と呼ばれる相対偏差が得られる。
【0022】
【0023】
その後、全てのCIi値のうちの最大値が、試験サンプルのCI値として使用される。
【0024】
CIを使用すると、「良好な」製品と「不良な」製品とを区別することができる。基準値は、「良好な」製品及び「不良な」製品の近赤外スペクトルを比較することにより決定される。製品が「良好」に分類されるか、又は「不良」に分類されるかを判断するために、ポリマーコーティングされた金属ストリップのコイルのオフライン測定が使用された。これらの同じ材料の近赤外スペクトルも決定された。したがって、本発明者らは、完全な(perfect)製品の近赤外スペクトルを決定することができた。定義上、完全な製品のCI値は、0である。
【0025】
オフライン試験に基づいて、本発明者らは、プロセスの目的が結晶化度及び/又は分子配向の程度を可能な限り低くすることである場合、0.50未満のCIを有するサンプルを「良好」と評価でき、0.50を超えるCIを有するサンプルを「不良」と評価できることを決定することができた。非常に重要な(critical)アプリケーションの場合、基準値として、0.50よりも低い基準値(例えば、0.40、0.30、0.25等)を選択することができる。
【0026】
CIが許容範囲外の場合、例えば、0.5又はその他の適切な基準値(上記のような基準値)を超える場合、後加熱温度設定値又はライン速度等の、連続コーティングラインの1又は2以上のプロセスパラメータを調整し、現在のポリマーコーティングされた金属ストリップの残部のために、及び、任意の連続するポリマーコーティングされた金属ストリップのために、CIを許容範囲内へ低下させることができる。
【0027】
本発明によれば、使用可能な近赤外スペクトルは、3500cm-1以上9000cm-1以下の波数である。分光法及び大部分の化学分野で使用されている波数は、単位距離(典型的には、センチメートル)あたりの波長の数(the number of wavelengths per unit distance)として定義される(cm-1)。
【0028】
【0029】
近赤外スペクトルは、連続スペクトルであり、関連する波数が出来るだけ多くサンプリングされると、測定の精度が向上する。本発明者らは、良好なサンプルと不良なサンプルとの間の、近赤外スペクトルの最大の相違は、3750cm-1以上6000cm-1以下で観察され得ることを見出した。特に、PETベースのポリマーの場合、適切な範囲は、4100cm-1以上4500cm-1以下であることを見出した。但し、この範囲は、その他の熱可塑性ポリエステル及びポリオレフィンにも適している。
【0030】
本発明による方法は、3500cm
-1以上9000cm
-1以下の波数、又は、上記のより限定された範囲の波数を有する近赤外光スペクトルを、ポリマーフィルムに照射することにより、機能するように、上記に記載されていることに留意されたい。しかしながら、後方散乱近赤外光の取得は、手順のうち最も時間のかかる部分であるため、本発明者らは、原則として、1種又は2種以上の単色近赤外光ビームを照射することにより、又は、1種又は2種以上の単色後方散乱近赤外光ビームを選択することにより、又は、それらの組み合わせにより、方法を実施できることにも留意した。「良好な」サンプルと「不良な」サンプルとを区別できるように波数が選択されている場合、フルスペクトル(full spectrum)から1種又は2種以上の単色後方散乱近赤外光ビームへのビーム量の低減により、後方散乱近赤外光の取得時間が低減され、これにより、プロセスパラメータ、例えば後加熱のプロセスパラメータを、より迅速に調整することができる。例を挙げると、
図2では、4406cm
-1の波数が「良好な」参照サンプルと「不良な」試験サンプルとの間の大きな相違を示している。
【0031】
本発明の一実施形態において、製品の幅及び長さにわたる製品の均一性を測定するために、複数の発光ヘッド及び検出器をストリップの幅にわたって設置することができる。同じ目的のために、単一の走査型発光ヘッド及び検出器(a single scanning emission head and detector)を使用することができる。
【0032】
本発明による方法は、特定の種類の金属ストリップに特に限定されない。金属ストリップは、アルミニウム若しくはアルミニウム合金ストリップ、又は、鋼ストリップであってもよい。
【0033】
本発明による方法において、アルミニウム又はアルミニウム合金ストリップは、3000又は5000シリーズのものであることが好ましい。その例を表1に示す。
【0034】
【0035】
鋼ストリップは、コーティングされていないブラックプレート(blackplate)、又は、金属コーティングされたストリップ(例えば、ブリキ、亜鉛メッキ鋼等)であってもよいし、製品性能を高めるための、及び/又は、金属とポリマーフィルムとの間の接着を促進するための変換層(conversion layer)又は不動態化層(passivation layer)を有していてもよい。この変換層又は不動態化層は、例えば、酸化クロム、クロム/酸化クロム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、リン酸塩をベースとすることができる。一実施形態において、ストリップは、ブリキ、ブラックプレート、又はスズを含まない鋼(従来のECCS又はEP3011080-B1に記載されるような新しいTCCT(登録商標))からなる。ストリップは、熱処理、例えばスズをリフローするための熱処理に供されてもよく、これにより、スズを鋼ストリップに拡散させ、様々なタイプのFeSn合金を形成することが可能となる。熱処理は、ポリマーフィルムの適用の前又は後に実施することができる。
【0036】
本発明による方法において、パッケージングスチール(packaging steel)を製造するための、冷間圧延された低炭素(low-carbon)、極低炭素(extra-low-carbon)又は超低炭素(ultra-low-carbon)鋼ストリップが提供される。低炭素鋼の炭素含有量は、典型的には、最大で約0.15重量% Cであり(但し、パッケージングの目的では、通常、最大で約0.08又は0.05重量%である(例えば、EN10202:2001E又はASTMA623参照))、極低炭素鋼の炭素含有量は、典型的には、最大で約0.02重量% Cであり、超低炭素鋼の炭素含有量は、典型的には、最大で約0.005重量% Cである。
【0037】
一実施形態において、金属ストリップとポリマーフィルムとの間の接着を促進するための接着層が設けられる。
【0038】
本発明による方法において、金属ストリップにコーティングされるポリマーフィルムは、特定のタイプのポリマーフィルムに特に限定されない。
【0039】
一実施形態において、熱可塑性ポリマーフィルムは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル又はポリオレフィン、及び、官能化ポリマー、及び/又は、それらのコポリマー、及び/又は、それらのブレンド)の1以上の層を含む、ポリマーコーティングシステムである。以下の記載は、明確化を目的とする。
【0040】
ポリエステルは、ジカルボン酸及びグリコールで構成されるポリマーである。好適なジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸が挙げられる。好適なグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。2種以上のジカルボン酸又はグリコールを併用してもよい。
【0041】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン又は1-オクテンのポリマー又はコポリマーが挙げられる。
【0042】
官能化ポリマー(例えば、無水マレイン酸グラフト化による官能化ポリマー)としては、例えば、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性エチレンアクリレート共重合体及び変性エチレンビニルアセテートが挙げられる。
【0043】
2種以上の樹脂の混合物を使用してもよい。また、樹脂に、酸化防止剤、熱安定剤、UV吸収剤、可塑剤、顔料、核剤、帯電防止剤、離型剤、ブロッキング防止剤等を混合してもよい。このような熱可塑性ポリマーコーティングシステムの使用は、缶の製造及び缶の使用において、貯蔵寿命等の優れた性能を提供することが示されている。
【0044】
好ましくは、ポリマーコーティングシステムは、
i)熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル又はポリオレフィン、及び、官能化ポリマー、及び/又は、それらのコポリマー、及び/又は、それらのブレンド)の2以上の層を含むか、又は、
ii)熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル又はポリオレフィン、及び、官能化ポリマー、及び/又は、それらのコポリマー、及び/又は、それらのブレンド)の1又は2以上の層から構成される。
【0045】
特定の熱可塑性ポリマーの典型的な融点は、PETに関しては250~260℃、PBTに関しては223℃、PEに関しては110~130℃、PPに関しては130~170℃である。融点は、ブレンドの場合、共重合反応、共重合体の種類、エステル交換等の要因に強く影響される。ポリマーの融点は、DSCにより測定することができる(以下を参照のこと)。
【0046】
本発明の好ましい実施形態は、本発明による方法であって、1又は2以上の層からなる熱可塑性ポリマーフィルムが、以下の工程:
・1又は2以上の押出機で熱可塑性ポリマー顆粒を溶融して1又は2以上の層を形成する工程;
・溶融した1又は2以上のポリマーを、フラット(共)押出ダイ及び/又は2以上のカレンダロールに通すことにより、2以上の層からなる熱可塑性ポリマーフィルムを形成する工程;
その後、場合により、
・熱可塑性ポリマーフィルムを冷却して、熱可塑性ポリマー固体フィルムを形成する工程;
・場合により、熱可塑性ポリマー固体フィルムの端部をトリミングする工程;
・長手方向のみに延伸力を加えることにより、延伸ユニット内で熱可塑性ポリマー固体フィルムを延伸することにより、熱可塑性ポリマー固体フィルムの厚さを減少させる工程;
・場合により、延伸された熱可塑性ポリマー固体フィルムの端部をトリミングする工程
により製造される、前記方法である。
【0047】
この方法の後、直ちに、延伸されたポリマーフィルムをラミネートするか、又は、延伸されたポリマーフィルムのコイリング又はアンコイリング操作を中間に行う。ポリマーフィルムを冷却して熱可塑性ポリマー固体フィルムを形成する工程、トリミングする工程、延伸する工程、及び、場合により延伸されたフィルムをトリミングする工程といった任意の工程は、キャストフィルムラミネーションプロセス(cast-film lamination process)には適用することができない。キャストフィルムラミネーションプロセスでは、キャスティング後のフィルムが場合により溶融状態で延伸され、その後、場合により端部がトリミングされ、次いで、金属ストリップにラミネートされる。
【0048】
熱可塑性ポリマー顆粒は、所望の層を生じるように選択される(例えば、表2の例を参照のこと)。
【0049】
一実施形態において、本発明による方法における1又は2以上のポリマーフィルムは、二軸配向フィルムである。後加熱中に配向及び結晶化度が除去され、本発明によるインライン近赤外技術により検証可能である。
【0050】
一実施形態において、本発明による方法における1又は2以上のポリマーフィルムは、一軸配向フィルムである。後加熱中に配向及び結晶化度が除去され、本発明によるインライン近赤外技術により検証可能である。
【0051】
好ましくは、本明細書に記載の方法に従ってDSCにより測定されるポリマーフィルムのバルク結晶化度(bulk crystallinity)の値は、最大で10重量%、好ましくは最大で8又は6重量%、さらに好ましくは最大で5重量%である。結晶化度が低いほど、熱可塑性ポリマーフィルムと金属基材との間の接着性が良好になる。
【0052】
一実施形態において、本発明による方法における1又は2以上のポリマーフィルムは、キャストフィルムである。これらのフィルムは、一般に、キャスティング後は非結晶性であるが、残留する結晶性又は配向は後加熱中に除去され、本発明によるインライン近赤外技術によって検証可能である。
【0053】
本発明による方法は、金属ストリップが1又は2以上のポリマーフィルムでコーティングされる任意の連続コーティングラインにおいて使用することができる。本発明による方法は、80m/分以上、好ましくは100m/分以上、より好ましくは120、150、200又は300m/分のライン速度で動作する連続コーティングラインに特に適している。ラミネートされたポリマーフィルムの結晶化度及び/又は分子配向の程度を評価する速度は、これらの種類のライン速度が可能となるように十分に高い。ライン速度が高いほど、ラインの生産性が高くなる。
【0054】
第2の態様によれば、本発明はまた、本発明による方法のいずれか1つに従って製造されたポリマーコーティングされた金属ストリップであって、4100cm-1以上及び4500cm-1以下の波数を有する赤外光を使用して測定されたポリマーフィルムの適合指数CIが0.5未満である、ポリマーコーティングされた金属ストリップに具現化される。好ましくは、本明細書に記載の方法に従ってDSCにより測定されるポリマーフィルムのバルク結晶化度の値は、最大で10重量%、好ましくは最大で8又は6重量%、さらに好ましくは最大で5重量%である。結晶化度は、ISO 11357-3-1999「プラスチック-示差走査熱量測定(DSC)-パート3:温度と融解及び結晶化のエンタルピーの測定」に従って、10℃/分の加熱速度で測定される。
【0055】
以下、非限定的な例及び図により、本発明をさらに説明する。なお、
図3、
図4及び
図5のデータポイントを結ぶ破線及び点線は、見やすくすること(guide-to-the-eye)のみを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】
図1は、工業的な連続コーティングラインの概略図を示す。
【
図2】
図2は、異なる後加熱設定値を使用して、同一のPETフィルムをラミネートしたストリップに関する、「良好な」サンプル(測定セットの上側)及び「不良な」サンプル(測定セットの下側)の、インラインで測定された近赤外スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、
図2のスペクトルに基づく適合指数の結果を示す。「良好」と「不良」との基準値であるCI値は0.5であり、水平の破線で示されている。x軸は、後加熱設定値の読み取り値を示す。
【
図4】
図4は、DSCにより測定された結晶化度(重量%)を、ストリップの幅(任意単位)の関数として示す。
【
図5】
図5は、結晶化度(重量%)を、後加熱設定値T2(℃)の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
例
全てのサンプルにおいて、金属ストリップは、その両面が熱可塑性ポリマーフィルムでラミネートされている。
【0058】
金属ストリップは、電解クロムコーティング鋼(ECCS;Electrolytically Chromium Coated Steel)である。ECCSは、冷間圧延された鋼ストリップであり、その両面が金属クロムと酸化クロム層とで電解コーティングされており、各面のクロムの総量は約90mg/m2であり、酸化クロム層は7~10mg/m2のクロムを含む。
【0059】
検出器に対向するストリップの面は、接着層、バルク層(bulk layer)及び最上層からなる、20μmの一軸延伸(MDO)3層フィルムでコーティングされている。
【0060】
【0061】
表2のPET1フィルムは、
図1に概略的に示されているプロセスにより、ECCSストリップにラミネートされる。金属ストリップ(1)は、第1の加熱装置(2)を通過し、第1の加熱装置(2)において、金属ストリップの温度は、ラミネートに適する予備加熱温度T1まで上昇する。本例において、T1は、PETを金属ストリップにラミネートするのに適する200℃となるように選択された。フィルムPET1(3a)及びPET2(3b)のコイルが同時に巻き戻され、予備加熱された金属ストリップと一緒に、一対のラミネートローラー(4a,4b)に通される。本例において、全ての場合のライン速度は50m/分であった。ラミネートされた製品(5)は、第2の加熱装置(6)を通過し、第2の加熱装置(6)において、ラミネートされたストリップの温度は、後加熱設定値T2まで上昇する。第2の加熱装置の後、ラミネートされた製品は、急冷装置(7)を通過することによって直ちに冷却され、室温に達する。第1の加熱装置において金属ストリップを予備加熱する方法は、特に限定されず、ストリップを、加熱されたロールに通すこと、伝導加熱、誘導加熱、放射加熱等を含むことができる。第2の加熱装置においてラミネートされた製品を後加熱する方法は、好ましくは、非接触式の方法(例えば、高温ガス環境での加熱又は誘導加熱)である。急冷装置における急冷方法は、特に限定されず、冷気を適用すること、又は、冷水浴を通過させること等を含むことができる。次いで、ラミネートされた製品は、乾燥ローラー(8a,8b)を通過し、防振(anti-vibration)ローラー(9)に送られ、その後、非接触式の検出器(10)を使用して、拡散反射近赤外光(diffuse reflected near-infrared light)の照射及び取得が行われる。次いで、収集された近赤外光は、光ケーブル(11)を介して分析装置(12)に送られる。次いで、分析装置のデータは、フーリエ変換を使用してリアルタイムで近赤外スペクトルを計算し、適合指数を決定するために、コンピューター(13)に送られる。高温計(14)は、後加熱装置(6)の後に配置されている。ラミネート体(laminate)の温度が測定される。ポリマーの透過率及び発光係数(emission coefficient)、並びに、加熱と測定との間の距離が不明であるため、高温計によって提供される読み取り値は十分に正確ではない。この不正確さは、本発明による方法が改善された方法である主な理由である。CI値は、製品の品質の指標として、例えば、製造されたポリマーコーティングされた金属ストリップを拒否又は承認する決定のための入力として、又は、後加熱設定値(T2)等の関連するプロセスパラメータのインラインでの調整のための入力として、使用することができ、これにより、製品の品質をインラインで即座に改善することができるとともに、不合格品又は低品質の製品の生産を防止することができる。
【0062】
本発明を実証するために、いくつかの金属-ポリマーラミネートサンプルを、異なる後加熱温度設定値を使用して製造した。サンプルの製造中に、インラインで近赤外データを収集し、各製造設定に関するCI値を導き出した。得られたCI値に基づいて、金属ラミネート材料を、上記のように、良好な品質又は不良な品質に分類した。次いで、インラインで得られた分類の結果を、DSC及び製品性能試験によってオフラインで実施された分析の結果と比較した。DSCの場合、分析は、直接比較できるように、近赤外検出器により照射された位置で切り出された金属-ポリマーラミネートサンプルに対して実施した。
【0063】
インラインの近赤外データは、Bruker Matrix-F及びBruker Q412/A 近赤外センサーヘッドを使用して、波数16cm
-1及び32スキャンの分解能で収集した。スペクトルあたりの合計スキャン時間は、約20秒であった。本例では、4000cm
-1以上9000cm
-1以下の波数でスキャンを実施した。
図2に示すように、近赤外スペクトルの4100cm
-1以上4500cm
-1以下の範囲を使用して、適合性試験を実施した。これは、この範囲において、後加熱処理中の近赤外スペクトルの変化が非常に重要だからである。試験の結果として、各波長における全てのCI値のうちの最大値を導き出した。これらの分析は、CIが基準値0.5を超えるサンプルを「不良」品質として分類でき、CIが基準値0.5未満のサンプルを「良好」品質として分類できることを示す(
図3)。CIが低いほど、結晶化度及び/又は分子配向の程度を考慮する場合の品質が良好である。このことは、本発明の一実施形態において、0.5未満、例えば、0.4、0.3又は0.25というCIの基準値を選択できる理由である。
図3は、CIが後加熱温度設定値220℃及び200℃の間で急激に増加するため、本発明による方法により品質の決定が可能であることを明確に示す。表4のデータは、CIと結晶化度の重量パーセントとの間に明確な相関関係が存在することを示す。分子配向又はその不存在は、ポリマーコーティングから金属基材を分離することにより、例えば、金属基材を溶解し、ポリマーコーティングを引張試験に供することにより、容易に決定することができる。分子配向の程度は、縦方向及び横方向(つまり垂直)のサンプルに関する引張試験で得られた機械的特性を比較することにより推定することができる。フィルムの機械的特性は、空気圧式グリップ(pneumatic grip)を備え、サンプルゲージ長40mm、クロスヘッド速度10mm/分で操作されるInstron5587引張試験機を使用して決定した。幅10mm、長さ約80mmのフィルムサンプルを、外科用ナイフを使用してフィルムから切り取った。フィルムの厚さは、密度が1380kg/m
3であると仮定して、既知の長さ及び幅のフィルムサンプルの重量から決定した。
【0064】
参照サンプル(参照サンプルの結晶化度は非常に低いことが望ましい)及び試験サンプルのオフライン特性データを表4に要約する。この表には、これらのサンプルに関するインラインで収集された近赤外データから導き出された適合性試験結果の平均(average conformity test results)も含まれている。
【0065】
参照サンプルのオフライン特性データから分かるように、270℃のT2という後加熱設定値で金属ラミネートを後加熱すると、コーティングされた両面に、完全に溶融したアモルファスPETコーティングが生じる。これは、DSCにより導き出された低い結晶化度の値によって証明される。接着及び滅菌試験中のこれらのコーティング面の性能は優れている。
【0066】
ポリマーコーティングの熱特性(Tg,Tm,バルク結晶化度(bulk crystallinity))は、DSCにより決定した。スペクトルは、10℃/分の加熱速度で操作されるMettler Toledo DSC821e熱量計を使用して記録した。DSCの場合、金属ラミネートから得られた自立型フィルム(free-standing film)を分析することが必要であった。金属-ポリマーラミネートのサンプルは、近赤外検出器によって照射された位置で切り出した。自立型コーティングフィルムは、ラインからの金属ラミネートのサンプルを18%塩酸水溶液に入れて金属基材を溶解することにより得た。金属基材の溶解後、コーティングフィルムを完全にリンスし、乾燥させた。結晶分率(crystalline fraction)は、再結晶熱と最初の加熱実施中に記録された熱融解とから決定した。バルク結晶化度の値は、下記式から計算した。
【0067】
【0068】
上記式中、ΔHrは、再結晶ピークの観測面積、ΔHmは、融解ピークの観測面積、ΔH0は、115.0J/gと仮定される100%結晶性PETの融解エンタルピーである(J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulkeら,Polymer Handbook,Wiley Interscience,第4版(1999),セクションVI,表7)。
【0069】
金属-ポリマーラミネートにおける十分に溶融したPETコーティングの結晶化度の値は、10%未満である。
【0070】
試験サンプル1~4は、熱、光学及び滅菌の性能特性が後加熱設定値に大きく依存することを示す。表4から分かるように、200℃の設定値T2で後加熱すると、半結晶性PETコーティングが生じ、その結晶化度の値がDSCにより導き出される。後加熱温度T2を200℃超に増加させると、両方のコーティング面の結晶化度の値は10%未満に低下し、十分に後加熱された比較サンプルの結晶化度の値に近くなる。結晶化度の値の最も劇的な変化は、T2を220℃に増加させた際に生じる。その後、T2をさらに増加させても、結晶化度の値に有意な影響はない。
【0071】
さらに、接着及び滅菌試験中にサンプルの性能を追跡すると、同様の温度依存性が観察される。
この試験では、15×7.5cmのパネルを平らなポリマーコーティングされた鋼シートから切り取った。次いで、パネルを、密閉容器内の12g/L Maggi及び2g/L plasmalを含む水溶液に入れ、次いで、121℃で90分間、滅菌した。サンプルの滅菌及び冷却の後、4×5mmのクロスハッチ(cross-hatch)をパネルの平らな部分に適用し、その後、ISO 2409:1992(第2版)に記載の粘着テープ法(adhesive tape method)を行う。その後、0(優良)から5(不良)までの範囲のGitterschnittスケールを使用して、層間剥離を評価する(表3を参照のこと)。
【0072】
【0073】
全ての試験は、3回(triplo)実施し、平均化し、最も近い整数に丸めた。
【0074】
表4に示すように、Gitterschnitt試験において、完全には溶融していない試験サンプル1(T2=200℃)の接着及び滅菌性能は低く、15~35%のクロスカット領域(cross-cut area)が影響を受ける。試験サンプル1及び2に関するGitterschnitt試験データは、上記のこれらのサンプルのPETコーティングの結晶化度及び配向の結果と一致している。対照的に、Gitterschnitt試験において、試験サンプル3(T2=240℃)及び試験サンプル4(T2=260℃)の性能は優れており、参照サンプルの性能と同一であり、DSCにより確認された、完全に溶融したアモルファスPETコーティングと一致している。
【0075】
試験サンプル1~4の製造中に、各T2値について、3種の近赤外スペクトルをインラインで取得した。近赤外データに基づいて、対応するCIを各製造設定に関して導き出した(
図3)。
【0076】
結果として、インラインでの近赤外測定は、金属-ポリマーラミネートの製造中に、PETコーティングの後加熱プロセス及び溶融プロセスをリアルタイムで追跡するための適切なアクセサリであることを証明する。インラインでの品質管理モニタリングのデータは、オフラインでの熱、光学及び滅菌性能の試験データと一致している。
【0077】
【0078】
図4は、後加熱温度の均一性と、ストリップの幅にわたって結晶化度を測定する能力の両方の重要性を示す。この図において、ストリップの端部の近傍では、30%を超える高い結晶化度の値(後にDSCにより決定)が検出されている。ストリップの幅にわたって近赤外スペクトルを測定する能力は、後加熱設定値を増加することによりこの偏差をインラインで軽減することを可能とし、これにより、結晶化度の程度が目標値未満に減少することが保証される。
【0079】
図5は、後加熱設定値T2と結晶化度の程度との関係を示す。幅にわたって複数の位置で近赤外スペクトルを測定するか、走査型近赤外分光計を使用することにより、本発明の方法の信頼性をさらに向上させることができ、
図4に示すような状況を防止又は軽減することができる。