(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】蒸気供給設備
(51)【国際特許分類】
F23K 5/00 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
F23K5/00 302
(21)【出願番号】P 2022057250
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2022-03-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503063168
【氏名又は名称】東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】矢川 憲利
(72)【発明者】
【氏名】中崎 蕗乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 博道
(72)【発明者】
【氏名】斉木 直人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊邦
【合議体】
【審判長】鈴木 充
【審判官】岩▲崎▼ 則昌
【審判官】槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-76985(JP,A)
【文献】特許第2948351(JP,B2)
【文献】特開2019-53855(JP,A)
【文献】特開2018-96616(JP,A)
【文献】特開2013-257124(JP,A)
【文献】特開2020-147478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体アンモニアを貯蔵するタンクと、
前記タンクから供給された液体アンモニアを気化する気化器と、
アンモニアを分解して生成したガス、又は、アンモニア、の少なくとも一方を
バーナの燃料とし、前記気化器で生成した気体アンモニアを分解する、アンモニア分解ガス発生装置と、
前記アンモニア分解ガス発生装置から生成したガスを燃料として蒸気を提供する蒸気ボイラと、
前記アンモニア分解ガス発生装置の廃熱を回収して、前記気化器へ供給する廃熱回収装置とを備え、
前記蒸気ボイラは、熱出力22000kW以下の蒸気ボイラであるか、又は室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置を備えた蒸気ボイラであり、
前記蒸気ボイラの燃料中に、アンモニアが含有され、化石燃料が含有されない、
蒸気供給設備。
【請求項2】
前記蒸気ボイラの燃料中のアンモニアは、前記アンモニア分解の際に残存したもの、又は、供給したものである、
請求項1記載の蒸気供給設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼システム、蒸気供給設備及び燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガスタービンで発生した熱で加熱された熱媒体が流れる熱媒体ラインと、アンモニアが流れるアンモニア供給ラインと、前記熱媒体ライン及び前記アンモニア供給ラインに接続され、前記熱媒体ラインからの前記熱媒体の熱を利用して、前記アンモニア供給ラインからの前記アンモニアを熱分解して、水素と窒素と残留アンモニアを含む分解ガスを生成するアンモニア分解装置と、前記アンモニア分解装置からの前記分解ガス中に含まれる前記残留アンモニアを除去するアンモニア除去装置と、前記アンモニア除去装置で前記残留アンモニアが除去された分解ガスである処理済みガスをガス利用対象に導く処理済みガス供給ラインと、を備えるアンモニア分解設備が開示されている。
さらに、特許文献1には、前記アンモニア分解設備と、前記ガスタービンと、を備え、 前記ガスタービンは、空気を圧縮して圧縮空気を生成する空気圧縮機と、前記圧縮空気中で燃料を燃焼させて燃焼ガスを生成する燃焼器と、前記燃焼ガスで駆動するタービンと、を有し、前記処理済みガス供給ラインは、前記燃焼器を前記ガス利用対象として、前記処理済みガスを前記燃焼器に導く、ガスタービンプラントが開示されている。
特許文献2には、蒸気タービンを含む発電プラントへの水素含有燃料供給システムであって、アンモニアを分解して窒素と水素とを生成するための第1アンモニア分解装置と、 前記発電プラントの燃焼ユニットと前記第1アンモニア分解装置とに接続され、前記第1アンモニア分解装置で生成された前記水素を含む水素含有燃料を前記燃焼ユニットに供給するための燃料供給ラインと、前記蒸気タービンと前記第1アンモニア分解装置とに接続され、前記燃焼ユニットで生成された燃焼ガスとの熱交換によって加熱された蒸気によって駆動される前記蒸気タービンの抽気蒸気を前記第1アンモニア分解装置に導くための抽気蒸気ラインと、を備え、前記第1アンモニア分解装置は、前記抽気蒸気を加熱源として、前記アンモニアの分解を行うように構成されたことを特徴とする水素含有燃料供給システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-147481号公報
【文献】特開2018-95512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脱炭素、カーボンニュートラルが求められる社会背景から、将来的に二酸化炭素(CO2)フリーの蒸気供給が求められている。アンモニアは燃焼時にCO2を排出しない点から注目されているが、炭化水素系燃料と比較して燃焼性が悪く、燃焼室温度が低い環境において良好に燃焼させることは困難である。例えば、アンモニアを蒸気ボイラ等の燃料として使用する場合、良好な燃焼を実現できるのは、ガスタービンのように常に燃焼室温度を高温に維持できる特殊用途に限られている。
アンモニアを熱分解し、発生した水素と窒素を含むガスを電気加熱炉に使用することは実施されているが、アンモニア熱分解に必要なエネルギーは電気ヒータ、石油ヒータ、天然ガス、プロパン等の化石燃料から提供しており、熱分解がCO2フリーでない点が課題であった。また、前記電気加熱炉以外では、アンモニアを分解して生成したガスは炉の雰囲気ガスとして使用されてきたが、燃焼性がアンモニアより良好で安価な化石燃料が有ったため、アンモニアを分解して生成したガスを燃料とすることは行われていなかった。
本発明は、蒸気ボイラ等の汎用用途において、アンモニアを分解して生成したガスを燃料とすることにより、石油、天然ガス、プロパン等の化石燃料を使用せずCO2フリーで、蒸気を安定に生成することなどが可能な燃焼装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、液体アンモニアを貯蔵するタンクと、前記タンクから供給された液体アンモニアを気化する気化器と、アンモニアを分解して生成したガス、又は、アンモニア、の少なくとも一方をバーナの燃料とし、前記気化器で生成した気体アンモニアを分解する、アンモニア分解ガス発生装置と、前記アンモニア分解ガス発生装置から生成したガスを燃料として蒸気を提供する蒸気ボイラと、前記アンモニア分解ガス発生装置の廃熱を回収して、前記気化器へ供給する廃熱回収装置とを備え、前記蒸気ボイラは、熱出力22000kW以下の蒸気ボイラであるか、又は室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置を備えた蒸気ボイラであり、前記蒸気ボイラの燃料中に、アンモニアが含有され、化石燃料が含有されない、蒸気供給設備である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記蒸気ボイラの燃料中のアンモニアは、前記アンモニア分解の際に残存したもの、又は、供給したものである、請求項1記載の蒸気供給設備である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、石化原料と比較して燃焼速度が遅いアンモニアを燃料源としても、高温でなく、室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置又は熱出力22000kW以下のボイラの燃焼装置にて安定した運転が可能であり、全体としてCO2フリーな燃焼システムを提供することができる。
請求項2の発明によれば、燃焼速度が遅いアンモニアを燃料源としても、汎用用途である蒸気ボイラ又は温水ボイラで、安定した運転が可能な燃焼システムを提供することができる。
請求項3及び4の発明によれば、燃焼装置の燃料中にアンモニアを含まない場合と比べて、アンモニア分解ガス発生装置へ供給するエネルギーを低減することができる。
請求項5の発明によれば、アンモニア分解ガス発生装置の廃熱を回収しない場合と比べて、システムへ供給するエネルギーを低減することができる。
【0008】
請求項6の発明によれば、燃焼速度が遅いアンモニアを燃料源としても、汎用用途である蒸気ボイラを安定して運転ができ、かつ、CO2フリーで蒸気を提供することができる。
請求項7及び8の発明によれば、蒸気ボイラの燃料中にアンモニアを含まない場合と比べて、アンモニア分解ガス発生装置へ供給するエネルギーを低減することができる。
請求項9の発明によれば、石化原料と比較して燃焼速度が遅いアンモニアを燃料源としても、高温でなく、室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置又は熱出力22000kW以下のボイラの燃焼装置にて安定した運転が可能であり、全体としてCO2フリーな燃焼装置を提供することができる。
請求項10の発明によれば、蒸気ボイラの燃料がアンモニアを含まない場合と比べて、システムへ供給するエネルギーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る第一実施形態における燃焼システムの概要を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係る第二実施形態における燃焼システムの概要を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に用いられるアンモニア分解ガス発生装置の一例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の燃焼システム、蒸気供給設備及び燃焼装置の実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。これらの説明等は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を限定するものではない。
本開示において、数値範囲を表す「〇〇以上〇〇以下」や「〇〇~〇〇」の記載は、特に断りのない限り、記載された上限及び下限を含む数値範囲を意味する。
【0011】
「第一実施形態」
本実施形態の燃焼システムは、
図1に示すように、アンモニアを貯蔵するタンク10と、アンモニア分解ガス発生設備20と、初期起動設備30と、蒸気ボイラ等の燃焼設備40とを備える。
燃焼システム全体の燃料源となるアンモニアは、通常、液体アンモニアとして、タンクローリー等により船・陸路、鉄道等によって搬入され、又は、パイプラインによって他の場所、他の設備から輸送され(図示せず)、液体アンモニアを貯蔵するタンク10に貯蔵される。アンモニアは、大気圧での沸点が-33℃であり、20℃では8.5気圧にて液化するため、沸点に近い温度で液体アンモニアとして貯蔵する。同じCO
2フリー原料である水素は、大気圧での沸点が-252.9℃と極めて低いため、液体水素と比較して、液体アンモニアの輸送コストは非常に低く、また貯蔵も容易である。
【0012】
(アンモニア分解ガス発生設備)
アンモニア分解ガス発生設備20は、液体アンモニアを原料として、当該アンモニアを分解して、アンモニア分解ガスを生成する設備である。当該アンモニア分解ガス発生設備20は、アンモニアを分解してガスを生成するアンモニア分解ガス発生装置21、アンモニアを気化してアンモニア気体とするアンモニア気化器23、及びアンモニア分解ガス発生装置21から廃熱を回収する廃熱ボイラ25を備える。
タンク10に貯蔵された液体アンモニアは、アンモニア供給ライン101によってアンモニア気化器23へ供給され、アンモニア気化器23内にてアンモニア気体となる。アンモニアの液体から気体への気化に必要なエネルギーは、後述する廃熱ボイラ25などの廃熱回収手段から温水供給ライン502によって供給される温水からと、液体アンモニアとの熱交換から主に供給され、不足分のエネルギーは電源、ボイラ等から供給される。
【0013】
続いて、得られたアンモニア気体は、アンモニア供給ライン102を経てアンモニア分解ガス発生装置21へ供給される。当該アンモニア分解ガス発生装置21において、下記化学式に示す分解反応により、原料のアンモニアから窒素と水素が生成する。以下、アンモニアを分解して生成したガスを「アンモニア分解ガス」と称する。
2NH3→N2+3H2-980(kcal/Nm3)・・・(1)
式(1)に示されるようにアンモニア分解反応は吸熱反応であり、通常、熱分解反応であるため、分解反応を安定的に継続するためには、アンモニア分解ガス発生装置21の燃焼室はバーナ22等により高温に維持する必要がある。必要な高温とするためにアンモニア分解ガス発生装置21内のバーナ22へ供給される燃料は、アンモニア分解ガス発生装置21にて生成したアンモニア分解ガスの一部を供給ライン202から提供される。しかし、アンモニア分解ガス発生装置21の運転開始前にはアンモニア分解ガスは生成していないため、初期起動設備30にて別途生成されるアンモニア分解ガスを燃料として使用する。
【0014】
前述の通りアンモニア分解ガスは、少なくとも窒素と水素を含有する。その他水分等が含まれることもある。
本実施形態では、アンモニア分解ガス中に未反応のアンモニアを残存させることが可能である。反応後にアンモニアを残存させ、後述する燃焼設備40内の蒸気ボイラ41の燃料とすることにより、アンモニア分解に要するエネルギー(供給する燃料等)を低減させることができる。また、蒸気ボイラ41の燃料として、アンモニア分解ガスに装置外からアンモニアを加えること、未反応残存アンモニアに更に装置外からアンモニアを加えることも可能であり、いずれの場合でもアンモニア分解に必要とするエネルギーを低減させることができる。
【0015】
従来は、アンモニアを燃焼させると窒素酸化物が発生する傾向にあるため、燃焼ガス中にアンモニアを残存させることは避けられてきた。例えば、アンモニア分解ガスを発電タービン等へ供給する場合は、分解ガス中にアンモニアが残存する割合を減少させ、仮にアンモニアが残存した場合は、アンモニアを除去することが行われてきた(特許文献1,2参照)。しかし、本実施形態の燃焼装置(燃焼設備40における蒸気ボイラ41等)において、窒素酸化物の生成を抑制する技術を伴う場合は、アンモニア分解ガス発生装置21から、供給ラインを通して蒸気ボイラ41へ供給するアンモニア分解ガス中に意図的にアンモニアを残存させることが可能である。
燃焼装置において、残存するアンモニアに起因する窒素酸化物発生を低減させる方法は、特に限定されないが、二段燃焼法、低NOXバーナ法が挙げられ、特に二段燃焼法が好ましい。
二段燃焼法とは、燃焼用バーナの構造を工夫して、燃料供給に対して燃焼用空気を二段階で供給して燃焼させ、燃焼排ガス中の窒素酸化物を低下させる燃焼法をいう。燃料の燃焼によって発生する窒素酸化物には、燃料中の窒素が酸化して発生する窒素酸化物(FuelNOX)と燃焼用に供給する空気中の窒素が酸化して発生する窒素酸化物(ThermalNOX)があり、本実施形態で発生する窒素酸化物はFuelNOXが中心である。FuelNOXは燃焼領域での酸素濃度が高いほど多量に発生し、ThermalNOXは燃焼温度が高いほど、燃焼領域での酸素濃度が高いほど、また高温域での燃焼ガス滞留時間が長いほど、多く発生する。
二段燃焼法では、燃焼用空気を二段に分けて供給し、第1段階では理論空気量の80~90%程度に供給する空気量を制限して酸素濃度が不足する燃焼をさせ、直後の第2段階で不足の空気を補って供給し、全体で過剰空気率として完全燃焼させる。第1段階において還元域を形成することにより、火炎温度低下と酸素濃度低下が可能となり、窒素酸化物の生成を抑制する。具体的には、バーナへの二次空気ノズル取り付け、ボイラ前壁又は側壁への二段燃焼用ポートを取り付け、バーナ形状の調整、燃焼装置の調整等により二段燃焼を実施できる。例えば、アンモニアを燃焼させた実験の場合、通常の一段燃焼では発生する窒素酸化物が1300ppmであったが、同じ燃焼装置で二段燃焼法を実施し、供給する空気量の調整により窒素酸化物濃度を95ppmまで低下させることが可能であることが確認できている。
低NOXバーナ法は、酸素濃度低減、火炎温度低下、高温域でのガス滞留時間の短縮等の窒素酸化物低減方法の一つ又はその組み合わせをバーナに取り入れる窒素酸化物低減法である。当該バーナとしては、段階的燃焼型、急速燃焼型、分割火炎型、自己再循環型等の低NOXバーナが使用できる。
蒸気ボイラ41等の燃焼装置の燃料中にアンモニアを含有させることにより、アンモニア分解ガス発生装置21のバーナ22へ供給する燃料などの燃焼システム全体の合計エネルギー量を減少させることができ、コスト低減につながる。しかし、アンモニア分解ガス中の主な燃料である水素と比較してアンモニアは燃焼速度が遅いため、残存アンモニア量が過剰な場合は、燃焼が困難となる。燃焼性調整のために系外からアンモニア、水素のいずれか一方又は双方を供給してもよい。
蒸気ボイラ41へ燃料として供給する際にアンモニア分解ガスに残存させる残存アンモニア量、及び、系外から供給する場合のアンモニア、水素等の量は、アンモニア分解ガスの燃焼性、燃焼システム全体のエネルギー必要量、コスト等を総合的に考慮して決定することが好ましい。アンモニア分解ガスでは、アンモニアを実質完全に分解させることができ、また、アンモニアを残存させることも可能である。アンモニアの残存濃度は、アンモニア分解ガス発生装置21におけるアンモニア分解の条件によって、調節することができる。特にアンモニア分解の温度による調節が好ましく、分解温度を低下させることにより、アンモニアを残存させることができる。蒸気ボイラ41へ燃料として供給するアンモニア分解ガス中のアンモニア濃度は、60体積%以下が好ましく、50体積%以下がより好ましい。
【0016】
アンモニア分解ガス発生装置21の燃焼室から排出される排出ガス501は、500℃~600℃程度の高温であるため、廃熱ボイラ25等の廃熱回収手段により廃熱を回収することが好ましい。本実施形態においては、排出ガス501を熱源として、廃熱ボイラ25から温度上昇された温水を得て、当該温水を前記アンモニア気化器23へ温水供給ライン502によって供給している。これによって、回収した廃熱を液体アンモニアの気化へ利用し、アンモニア気化における外部から供給するエネルギーが削減できる。
【0017】
(初期起動設備)
ここで、初期起動設備30を説明する。初期起動設備30は、上記したようにアンモニア分解ガス発生装置21の運転開始前に、当該アンモニア分解ガス発生装置21にて実施する気体アンモニア分解反応のための燃料を提供するための設備であり、当該初期起動設備30は、起動用アンモニア気化器33と、起動用アンモニア分解ガス発生装置31(以下、「起動用ガス発生装置31」と略す。)とを備える。
初期起動設備30では、前記アンモニア分解ガス発生装置21の運転開始前に、タンク10から供給される液体アンモニアの一部を分け、供給ライン301によってアンモニア気化器23とは別に設けた起動用アンモニア気化器33へ供給する。当該起動用アンモニア気化器33において、液体アンモニアは大気と熱交換されてアンモニア気体となり、起動用アンモニア分解ガス発生装置31にてアンモニア分解ガス発生装置21と同様に、少なくとも窒素と水素を含むアンモニア分解ガスが生成される。
なお、起動用アンモニア分解ガス発生装置31の燃料は制限されないが、通常は電気加熱が使用される。この理由は、起動用ガス発生装置31で分解されるアンモニアが、アンモニア分解ガス発生装置21の原料として使用されるアンモニアと比較して少量であること、及び、起動設備の運転時間がアンモニア分解ガス発生装置21の運転開始までの短時間に限られることによる。
起動用アンモニア分解ガス発生装置31にて生成したアンモニア分解ガスは、供給ライン303により、アンモニア分解ガス発生装置21のバーナ22へ提供され、当該アンモニア分解ガス発生装置21でのアンモニア分解反応の燃料となる。アンモニア分解ガス発生装置21の運転が開始し、アンモニア分解ガスが発生するに伴って、起動用アンモニア分解ガス発生装置31の役目は終え当該起動用アンモニア分解ガス発生装置31は停止される。その後は、アンモニア分解ガス発生装置21にて生成するアンモニア分解ガスの一部が供給ライン202より上記バーナ22へ供給されて、アンモニア分解ガス発生装置21自身の分解反応の燃料となる。
【0018】
(燃焼設備)
燃焼設備40は、アンモニア分解ガス発生装置21にて生成したアンモニア分解ガスを燃料とする、室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置、又は、熱出力22000kW以下であるボイラの燃焼装置を備える。アンモニアは燃焼性が悪いため、アンモニアを燃料とすることは、燃焼炉の室温が1000℃以上であるガスタービンや、熱出力22000kW以上である発電ボイラのような特殊用途に限られていた。それに対して、本発明では、アンモニアを分解し、水素を主な要素とするアンモニア分解ガスを燃料とすることにより、室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置、又は熱出力22000kW以下であるボイラの燃焼装置においても安定した燃焼が可能となる。
なお、本発明では、室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置とは、燃焼室内の最低温度が1000℃未満となる燃焼室を有する燃焼装置をいう。また、熱出力22000kW以下であるボイラの燃焼装置とは、ボイラの中でも、熱出力が22000kW以下のものをいう。本発明では、上記燃焼室温度1000℃未満、又は熱出力22000kW以下のボイラ、の少なくとも一方に該当すればよい。通常の蒸気ボイラのように燃焼室が小さいボイラである場合、燃焼室内がほぼ火炎で満たされてしまい、燃焼室の温度が明確でなくなるため、ボイラの熱出力を基に該当、非該当を判断する。熱出力は燃焼装置一台当たりの出力であり、複数の燃焼装置を併用する場合は、各燃焼装置の燃焼室温度又は熱出力を基に判断する。熱出力は、好ましくは11000kW以下、より好ましくは5000kW以下、さらには2000kW以下の装置が好ましい。
これらの条件に該当するボイラは、一般に「汎用ボイラ」と言われ、蒸気ボイラでは典型的には蒸発量30トン/時間以下の物が挙げられる。これらのボイラは、ボイラの中では小型であり、該当する装置を運搬し、使用箇所に据え付けることが可能である。これに対して、本発明の範囲外の大型のボイラ(熱出力22000kWを超える装置)は、発電ボイラが典型例であるが、CO2フリーの蒸気を供給する場合には、アンモニア分解ガス発生設備20などの燃料供給設備を新たに個別に設計製作し設置しなければならない。本発明では、燃焼装置が小型であるため、本実施態様における、アンモニア分解ガス発生設備20、初期起動設備30等の他の設備も、汎用の他用途(金属処理等)の設備をそのまま又は小規模な改造により転用することが容易である。また、汎用の比較的小規模の設備であるため、実施態様全体の原料をCO2フリーのアンモニアのみとし、化石燃料を併用せずに、本実施態様の運転をすることも容易である。一方、本発明の範囲外の燃焼装置(燃焼室内の最低温度が1000℃以上、熱出力22000kWを超える装置)は、発電燃料としてアンモニアと同時に化石燃料も併用する必要があることが多く(特許文献2参照)、本発明の目的とするCO2フリーで、蒸気を安定に生成することなどが可能な燃焼装置の提供の達成は困難である。
燃焼装置が上記条件を満たせば、この燃焼装置は限定されず、汎用ボイラである蒸気ボイラ、温水ボイラ、熱媒ボイラ等の他、アルミニウムの熱処理炉、乾燥炉、ガスエンジン、ガスタービン等が挙げられる。特に蒸気ボイラ、温水ボイラが本発明の実施に適している。
【0019】
図1に示される本実施形態では、燃焼設備40は常温の水を蒸気に代えて供給する蒸気ボイラ41と給水メーター42を備えている。
蒸気ボイラ41を燃焼させる燃料は、前述したアンモニア分解ガス発生装置21にて生成したアンモニア分解ガスであり、水素、窒素を主成分とし、場合により水等不活性気体も含まれる。また、上記したように、所定量の未反応アンモニアを残存させ、場合により燃焼性調整のため系外よりアンモニア、水素の少なくともいずれか一方を加えてもよい。このアンモニア分解ガスは前記アンモニア分解ガス発生装置21から供給ライン201を経て蒸気ボイラ41に提供される。
一方、蒸気の原料となる水は、工業用水、上水等の適した水原料が供給ライン401から提供され、給水メーター42を介して供給ライン402より蒸気ボイラ41へ供給され、蒸気ボイラ41におけるアンモニア分解ガスの燃焼熱により蒸気となり、供給ライン403より蒸気のユーザー(図示せず)へ送られる。
【0020】
「第二実施形態」
第二実施形態の燃焼システムを、
図2に基づいて説明する。
図1と同じ番号は、
図1と同じ意味を示す。このシステムでは
図2に示すように、
図1と同様に、アンモニアを貯蔵するタンク10と、アンモニア分解ガス発生設備20と、蒸気ボイラ等の燃焼設備40を備え、
図1の初期起動設備30の代わりに、バーナ用アンモニア供給設備60を備える。
ここでは、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
バーナ用アンモニア供給設備60はバーナ用アンモニア気化器63を備える。バーナ用アンモニア気化器63では、タンク10に貯蔵されている液体アンモニアの一部を、供給ライン601から提供を受け、空気と熱交換して気体アンモニアへ気化させ、供給ライン602からアンモニア分解ガス発生装置21の燃料としてバーナ22へ提供する。
第二実施形態では、第一実施形態と異なり、アンモニア分解ガス発生装置21で行われるアンモニア分解の燃料として、上記バーナ用アンモニア供給設備60から供給ライン602を通して提供される気体アンモニアを使用する。気体アンモニアを燃料とすることにより、燃料の気体アンモニアは液体アンモニアの気化によって必要時に入手できるため、第一実施形態と異なり、
図1の初期起動設備30に相当する設備は不要である。
【0021】
アンモニア分解ガス発生設備20は、第一実施形態と同様に、アンモニアを分解してガスを生成するアンモニア分解ガス発生装置21、アンモニアを気化してアンモニア気体とするアンモニア気化器23、及びアンモニア分解ガス発生装置21から廃熱を回収する廃熱ボイラ25を備える。アンモニア分解ガスは、少なくとも窒素と水素を含有し、その他水分等が含まれることもある。また、本実施形態でも、燃焼設備40へ供給するアンモニア分解ガス中に、未反応のアンモニアを残存させることが好ましい。
第一実施形態と異なり、アンモニア分解ガス発生装置21に使用する燃料は、アンモニア分解ガスではなく、気体アンモニアである。そのため、バーナ用アンモニア気化器63から気体アンモニアの供給を受けること、及び、アンモニア分解ガス発生装置21で生成したアンモニア分解ガスを全量蒸気ボイラ41へ提供することが第一実施形態と異なる。
図2に示される第二実施形態の燃焼設備40は、第一実施形態の燃焼設備40と同様の設備である。具体的には、燃焼設備40は、アンモニア分解ガス発生装置21にて生成したアンモニア分解ガスを燃料とする、室温1000℃未満の燃焼炉を有する燃焼装置、又は、熱出力22000kW以上であるボイラの燃焼装置を備える。燃焼設備40は常温の水を蒸気へ変えて供給する蒸気ボイラ41と給水メーター42とを備えている。その他燃焼設備40の説明は、
図1に示される第一実施態様と同様であるため、記載を省略する。
【0022】
「アンモニア分解ガス発生装置」
アンモニア分解ガス発生装置21の一実施形態を
図3に基づいて説明する。
図3はアンモニア分解ガス発生装置21の概念図であり、第二実施形態と類似する形態におけるアンモニア分解ガス発生装置21を示すものである。
図1、
図2と同じ番号は、同じ意味を示す。
液体アンモニアは、アンモニア気化器23において、後述する廃熱ボイラ25からの温水と熱交換して、気体アンモニアとなる。気体アンモニアの一部は供給ライン601によってアンモニア分解ガス発生装置21の燃料としてバーナ22へ供給される。第二実施形態と異なり、
図3の実施態様ではバーナ用アンモニア気化器63は設けておらず、アンモニア気化器23が、
図2のアンモニア気化器23とバーナ用アンモニア気化器63の機能を奏している。
残りの気体アンモニアは分解ガスの主原料であり、アンモニア供給ライン102から熱交換器26へ供給される。熱交換器26では、気体アンモニアは、反応器から供給ライン201を経て送られるアンモニア分解ガスと熱交換して100℃程度に昇温される。更に気体アンモニアはアンモニア予熱器27にて500℃程度まで予熱後、反応室81内にて触媒28と接触して、分解反応が発生する。反応触媒は、アンモニア分解の触媒効果を奏するものであれば限定はされないが、ルテニウム等の貴金属、ニッケル、コバルト、鉄等の遷移金属が例示され、ルテニウム又はニッケルが好ましい。気体アンモニアの分解温度は500℃程度であるため、反応室温度はバーナ22により900℃程度とすることが好ましい。分解させるアンモニアの反応温度を低下させ、前述したように反応後にアンモニアの一部を残存させることも好ましい形態である。
アンモニア分解反応を行う反応室81の反応室壁面はレンガ等の反応温度に耐える耐火材を用いることが好ましい。
【0023】
反応後のアンモニア分解ガスは、前述の熱交換器26にて気体アンモニアとの熱交換により分解温度の500℃程度から100℃程度まで温度を下げた後、冷却器29の冷却水により常温程度まで冷却され、供給ライン201により、蒸気ボイラ41(
図3には図示せず)へ供給される。
なお、反応室81から排出された500℃~600℃の排ガスは、排ガス排出ライン503,504,505によって蒸気ボイラ又は空気予熱器82,廃熱ボイラ25,除外装置83へ順次送られ、排出ライン506から200℃~300℃となって装置外へ排出される。蒸気ボイラ又は空気予熱器82では、500℃~600℃程度の排ガスを空気予熱、蒸気ボイラ等に使用し、廃熱ボイラ25では、前述したアンモニア気化器23との間を温水供給ライン502にて循環する温水にて熱回収を行い、除外装置83にて排ガス中に残存するアンモニアをスクラバー等により除去する。
【0024】
本発明は以上の実施形態に限られず、本発明の思想内であれば、他の実施形態も可能である。
例えば、アンモニア分解ガス発生装置21の燃料として、アンモニア分解ガスとアンモニアを併用することも可能である。また、アンモニアの分解を触媒無しで実施することも可能である。
【符号の説明】
【0025】
10…タンク、20…アンモニア分解ガス発生設備、21…アンモニア分解ガス発生装置、22…バーナ、23…アンモニア気化器、25…廃熱ボイラ、27…アンモニア予熱器、28…触媒、30…初期起動設備、31…起動用アンモニア分解ガス発生装置、33…起動用アンモニア気化器、40…燃焼設備、41…蒸気ボイラ、60…バーナ用アンモニア供給設備、63…バーナ用アンモニア気化器、81…反応室