(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】バイオフィルム形成を阻害および妨害するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/78 20060101AFI20240430BHJP
A61K 6/20 20200101ALI20240430BHJP
A61K 6/52 20200101ALI20240430BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20240430BHJP
A61K 6/69 20200101ALI20240430BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240430BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20240430BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240430BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/14 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/66 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/787 20060101ALI20240430BHJP
A61K 31/80 20060101ALI20240430BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20240430BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20240430BHJP
A61L 17/00 20060101ALI20240430BHJP
A61L 17/10 20060101ALI20240430BHJP
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A61L 27/16 20060101ALI20240430BHJP
A61L 27/28 20060101ALI20240430BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240430BHJP
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A61L 29/04 20060101ALI20240430BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240430BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20240430BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240430BHJP
A61L 31/08 20060101ALI20240430BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240430BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240430BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240430BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240430BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240430BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240430BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20240430BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20240430BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20240430BHJP
A01N 43/50 20060101ALI20240430BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A61K31/78
A61K6/20
A61K6/52
A61K6/60
A61K6/69
A61K8/41
A61K8/49
A61K8/55
A61K8/81
A61K9/10
A61K9/70 401
A61K31/14
A61K31/4164
A61K31/66
A61K31/787
A61K31/80
A61L15/24 100
A61L15/44 100
A61L17/00 100
A61L17/10
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A61L27/16
A61L27/28
A61L27/34
A61L27/50 300
A61L27/54
A61L29/04 100
A61L29/08
A61L29/08 100
A61L29/16
A61L31/04 100
A61L31/08
A61L31/10
A61L31/16
A61P1/02
A61P17/00 101
A61P31/04
A61Q11/00
A61Q17/00
A01N25/00 102
A01N61/00 D
A01N43/50 A
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2022063837
(22)【出願日】2022-04-07
(62)【分割の表示】P 2019502533の分割
【原出願日】2017-03-31
【審査請求日】2022-04-20
(32)【優先日】2016-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518345996
【氏名又は名称】デンツプライシロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジン,シャオミン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,フイ
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】コルティスコ,バーナード
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/084159(WO,A1)
【文献】特開2014-043568(JP,A)
【文献】特表2011-517682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0335548(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0328116(US,A1)
【文献】国際公開第97/005182(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0038470(US,A1)
【文献】特開平11-071208(JP,A)
【文献】国際公開第2010/100470(WO,A1)
【文献】特開昭63-060903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A61L
A61Q
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルムを弱化させるための組成物であって、
以下の式:
【化1】
(式中、nおよびmは独立して0、1、2、または3であり、pは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15であり、RおよびR’は独立してH、CH
3
、C
2H
5
、またはCH
2C
6H
5であり、Yは、直接結合、O、S、COO、CONH、CONR、OOCO、OCONH、またはNHCONHであり、X
-は、ハロゲン化物アニオンである)
を有する第四級アンモニウム化合物
を含有する重合性抗微生物混合物を含む、組成物。
【請求項2】
前記重合性抗微生物混合物は、バランスの取れた抗菌活性、細胞毒性および機械的性質のために0.1~10重量%以上かつ最大50重量%で最終組成物に添加されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記重合性抗微生物混合物は、約0.1重量%~約10重量%の量で組成物、物品およびコーティング中に存在し、その量は、前記組成物、物品およびコーティングのバイオフィルム弱化活性、抗菌活性/微生物細胞毒性および機械的性質の良好なバランスを達成するように選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記重合性抗微生物混合物は、約0.1重量%~約10重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記重合性抗微生物混合物は、固体物品に形成されているか、固体物品の表面に固体もしくはフィルムコーティングとして塗布されているか、他の樹脂および複合材の上、中または全体に分散されているか、あるいは流体懸濁液または濾過に使用される小さい粒子の上に被覆されているかその中に分散されており、かつそれらは流体懸濁液中に自由に分散されていてもよい、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記重合性抗微生物混合物は、製造品、成分、試薬およびキットのうちの1つ以上の中に含まれている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記重合性抗微生物混合物は物品に形成されており、かつ摩耗期間後または微生物を含む可能性のある流体または他の材料への曝露期間後に、化学的に、あるいは摩擦/加熱または他の処理によって活性化されてもよい、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記重合性抗微生物混合物は、歯科用複合材、歯科用接着剤、歯科用セメント、歯科用シーラント、歯科用ライナー、歯科用バーニッシュ、義歯、根管シーラー、インプラント用セメント、歯科矯正用セメント、自己殺菌性歯科用印象材、装着式すなわち取外し可能な歯垢治療装置(抗菌ナイトガード)のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために、製剤化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記重合性抗微生物混合物は、医療およびパーソナルケア用途のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために、製剤化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記重合性抗微生物混合物は、バイオフィルム蓄積を減少させるために石油パイプラインの内面のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために、製剤化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記重合性抗微生物混合物は、フードサービス、生活用品および他の一般用途品のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために製剤化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
バイオフィルムを弱化させるためのキットを含む製造品であって、
前記キットが、
それぞれが1つ以上の治療手段と請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物を含む懸濁液とを含む、1種以上の個々に包装された治療製剤と、
前記治療製剤の適用後に表面からバイオフィルムを機械的に除去するための1つ以上の除去手段と、
を含む、
製造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオフィルム形成を阻害および妨害し、かつ確立されたバイオフィルムを不安定化させるための組成物および方法に関する。より詳細には、本開示は、医学、消費者、家庭、フードサービス、環境および工業用途との関連において、表面を保護し、かつそこからバイオフィルムを除去することができる組成物および方法を提供する。様々な実施形態によれば、その効果は有益かつ望ましいバイオフィルム弱化活性を構成する。
【発明の概要】
【0002】
バイオフィルムは、ヒトおよび他の動物に重大な健康リスクを与え、かつ歯およびデンタルユニット水ラインからカテーテル、医療用インプラント、医療機器および消費者製品にまで及ぶ幅広い表面ならびに産業用輸送パイプラインおよび貯蔵容器内に存在する。バイオフィルムは、一旦確立されると除去するのが極めて難しく、それらの中に存在する微生物はプランクトン様(浮遊性)微生物よりも従来の消毒薬および抗微生物薬に対して非常に耐性が高い。微生物集団を減らし、かつバイオフィルムを予防および除去するために様々な組成物および方法が開発されているが、これらの成功は望まれているものにはほど遠いままである。さらに、多くの既存の手法は殺生物活性の点で若干の成功を収めているが、バイオフィルム形成の予防を達成し、かつバイオフィルムの有効かつ徹底的な除去を可能にするのには不十分なままである。従って、微生物による残留バイオフィルムの再増殖は実質的に回避不可能である。それ故に、強力なバイオフィルム弱化活性を与えてバイオフィルムを有効に予防するか除去されやすくする表面組成物、複合品および処置方法が必要とされている。
【0003】
本発明者らは驚くべきことに、抗微生物(antimicrobial)樹脂およびいくつかの特定の実施形態では抗菌(antibacterial)樹脂が、本明細書に開示されているように最初のバイオフィルム形成を阻害し、かつ初期および確立されたバイオフィルムのさらなる発生を有効に破壊することを発見した。本明細書にさらに記載されているように、本開示に係る組成物および材料の活性は、形成されたバイオフィルムの性質を変化させて、それらを中程度の機械力に対して脆弱にさせるものであり、その変化としては天然バイオフィルム構造の破壊が挙げられる。これらの効果は対照表面と比較した場合に定量的に有意であり、かつバイオフィルムの総バイオマスにおける50%以上の減少を引き起こす。注目すべきことには、そのような抗菌複合材の表面で発生したバイオフィルムは対照表面で増殖したものとは構造的に非常に異なり、かつ比較的低い剪断力下での完全な除去から明らかなように、非常により容易に除去されることがさらに発見された。これは対照バイオフィルムとの比較において特に著しく、対照バイオフィルムの除去は剪断力を上昇させたとしても達成することはできなかった。
【0004】
本明細書には、樹脂を含む組成物、コーティングおよび製造品ならびにその調製および使用方法が開示されており、本発明はバイオフィルムを阻害し、かつそれらの有効な除去を可能にするのに特に有用である。本明細書に開示されている組成物は、新規なポリマー樹脂と非重合性および重合性モノマー樹脂とを含む。
【0005】
より具体的には、本組成物は、いくつかの実施形態では、
a)少なくとも1種の抗微生物活性第四級アンモニウム化合物、および
b)少なくとも1種の抗微生物活性第四級ホスホニウム化合物
の組み合わせを含有し、
成分a)およびb)の組み合わせは1:9~9:1の重量比で存在する、非重合性抗微生物混合物を含む。
【0006】
またここでは、イミダゾリウム、アンモニウム、ピロリジニウムなどを含む抗微生物活性第四級アンモニウム化合物(成分a))は、以下の式:
[R-N+R1R2R3]X- (I)
(式中、R、R1、R2およびR3は好ましくは、独立して同じか異なる長さの直鎖状もしくは分岐鎖状または環式のC2~C20アルキルラジカルであり、アジリジン、アジリン、オキサジリジン、ジアジリン、アゼチジン、アゼト、ジアゼチジン、ピロリジン、ピロール、イミダゾリジン、イミダゾール、ピラゾリジン、ピラゾール、チアゾリジン、チアゾール、イソチアゾリジン(isothioazolidine)、イソチアゾール、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン、ジアジン、モルホリン、オキサジン、チオモルホリン、チアジン、トリアジン、トリアゾール、フラザン(furanzan)、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジチアゾール(dithozole)、テトラゾール、アゼパン、アゼピン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、アゾナン(azonane)、アゾニンなどの縮合された環式もしくは芳香族環でもあり、
式中、X-は対アニオンであり、これは無機アニオン(Cl-、AlCl4
-、PF6
-、BF4
-、NTf2
-/トリフルオロメタンスルホニル、DCA-/ジシアナミドなど)または有機アニオン(CH3COO-、CH3SO3
-など)であってもよい)
によって表される。これらの第四級アンモニウム化合物は、本発明に係る混合物中に個々にまたは互いとの混合物として存在していてもよい。
【0007】
またここでは、抗微生物活性第四級ホスホニウム化合物(成分b))は、特に以下の式:
[RP+R1R2R3]Y- (II)
(式中、R、R1、R2およびR3は好ましくは、独立して同じか異なる長さの直鎖状、分岐鎖状または環式のC2~C20アルキルラジカルであり、
Y-は対アニオンであり、これは無機アニオン(Cl-、AlCl4
-、PF6
-、BF4
-、NTf2
-/トリフルオロメタンスルホニル、DCA-/ジシアナミドなど)または有機アニオン(CH3COO-、CH3SO3
-など)であってもよい)
に対応する化合物である。
【0008】
あるいは、以下の式:
[(R’)3P+R’’]Y- (III)
(式中、R’は、C1~C5アルキルラジカル、C1~C6ヒドロキシアルキルラジカルまたはフェニルラジカルであり、R’’はC3~C18アルキルラジカルであり、かつY-はハロゲン化物アニオン、特に塩化物アニオンまたは臭化物アニオンである。式III中のラジカルR’およびR’’は好ましくは直鎖状もしくは分岐鎖状または環式ラジカルである)
に係る化合物である。第四級ホスホニウム化合物は本発明の混合物中に個々にまたは互いとの混合物として存在してもよい。上記種類の第四級ホスホニウム化合物の例は、トリメチル-n-ドデシルホスホニウムクロリド、トリエチル-n-デシルホスホニウムブロミド、トリ-n-プロピル-n-テトラデシルホスホニウムクロリド、トリメチロール-n-ヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチル-n-デシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチル-n-ドデシルホスホニウムブロミド、トリ-n-ブチル-n-テトラデシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチル-n-ヘキサデシルホスホニウムブロミド、トリ-n-ヘキシル-n-デシルホスホニウムクロリド、トリフェニル-n-ドデシルホスホニウムクロリド、トリフェニル-n-テトラデシルホスホニウムブロミドおよびトリフェニル-n-オクタデシルホスホニウムクロリドである。トリ-n-ブチル-n-テトラデシルホスホニウムクロリドが好ましい)
に対応する化合物である。
【0009】
本組成物は、他の実施形態では、I、II、IIIに定義されている少なくとも1種の部分を含有する重合性抗微生物混合物も含み、この部分は、限定されるものではないが、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、ビニル、ビニルエーテル、環状エーテル(エポキシ)または環式アミンおよび環式イミンなどの少なくとも1つの重合性基をさらに含み、これらは修正されたR、R1、R2、R3、R’およびR’’として示される。
【0010】
これらの第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物は、本発明に係る混合物中に個々にまたは互いとの混合物として存在してもよい。
【0011】
本明細書に開示されているモノマーおよびポリマー樹脂は、いくつかの実施形態では、抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物のそれぞれのうちの少なくとも1種を含有する機能性非重合性樹脂からなっていてもよく、他の実施形態では抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物のうちの少なくとも1種と少なくとも1つの重合性基とを含有する重合性樹脂からなっていてもよく、様々な実施形態によれば、抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物は、組成物、物品およびコーティング中に約0.1重量%~約10重量%の量で存在し、その量は、本組成物、物品およびコーティングのバイオフィルム弱化活性、抗菌活性/微生物細胞毒性および機械的性質の良好なバランスを達成するように選択される。従って、いくつかの実施形態では、抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物は、約0.1重量%~約10重量%の量で存在し、いくつかの実施形態では、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、20.0、30.0、40.0および50.0とそれらの数値間の端数増分とを含む最大50重量%またはそれ以上で存在する。
【0012】
様々な実施形態によれば、バイオフィルム形成を妨害するのに有用な本明細書に記載されているモノマーおよびポリマー樹脂は様々な用途で有用であるため、固体物品に形成されていても、固体物品の表面に固体もしくはフィルムコーティングとして塗布されていても、他の樹脂および複合材の上、中または全体に分散されていても、あるいは流体懸濁液または濾過に使用される小さい粒子の上に被覆されていてもそれらの中に分散されていてもよく、かつ流体懸濁液中に自由に分散されていてもよい。従って各種他の実施形態では、当該モノマーおよびポリマー樹脂は広く、製造品、成分、試薬およびキットに含まれる。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、例として本発明の原理を示す添付の図面と共に参照される以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【0014】
背景技術
抗微生物薬/抗菌薬:
【0015】
抗微生物薬/抗菌薬または歯垢阻害薬として使用されている無機および有機化合物が存在する。それらは固体もしくは液体形態、帯電もしくは中性状態、浸出性もしくは非浸出性/固定化状態、合成または天然に生じたもの/植物から抽出されたものなどであってもよい。
【0016】
口腔バイオフィルムの制御は、口腔衛生を維持し、かつ齲蝕、歯肉炎および歯周炎を予防するために必要不可欠である。但し、口腔バイオフィルムは機械的介入によって容易に制御されるものではなく、化学的制御が難しい標的の代表である。ここで、歯科において広く使用されている抗微生物薬/抗菌薬のいくつかおよびそれらの作用機序をそれぞれ挙げる。
【0017】
アミンアルコール:
【0018】
例:オクタピノール、デルモピノール
【0019】
作用:歯垢マトリックス形成を妨害して細菌付着を減らすことによる歯垢阻害
【0020】
ビスビグアニド:
【0021】
例:クロルヘキシジン(CHX)、アレキシジン、オクテニジン、ポリヘキサメチレン(PHMB)
【0022】
作用:抗菌、細菌細胞壁の損傷、細菌細胞膜に結合することによる歯垢阻害
【0023】
ジグルコン酸クロルヘキシジンは最も研究されており、これは好気性菌および嫌気性菌および酵母および真菌を含むグラム陽性およびグラム陰性細菌の両方に対して有効である。CHXは強力な抗微生物薬であり、その抗菌活性を維持しながら様々な基質に結合することができる。次いでそれはゆっくりと放出され、有効濃度の持続性が得られる。CHXの2種類の塩、すなわち二酢酸塩および二塩酸塩は同様の抗菌活性を有するが、二酢酸塩の方が可溶性である。高濃度のCHXは全ての微生物細胞をほぼ排除するが、口腔バイオフィルムにおいて健康な微生物叢バランスを維持することに対しては有益ではない。成功した抗微生物薬は、常在口腔微生物相の自然かつ有益な特性を破壊することなく、口腔バイオフィルムを良好な口腔衛生と両立し得るレベルに維持することができる。
【0024】
酵素:
【0025】
例:ラクトペルオキシダーゼ、リゾチーム、グルコースオキシダーゼ、アミログルコシダーゼ
【0026】
作用:抗菌、宿主防御機構の強化
【0027】
精油:
【0028】
例:チモール、ユーカリプトール
【0029】
作用:抗菌、抗酸化活性、酵素活性の阻害、解糖の減少、細菌付着の減少
【0030】
酸化剤:
【0031】
例:過酸化水素、過酸化炭酸ナトリウム(sodium peroxycarborate)
【0032】
作用:抗菌
【0033】
フッ化物:
【0034】
例:フッ化ナトリウム、フッ化スズ、フッ化アミン、モノフルオロリン酸塩
作用:脱灰の予防、再石灰化の強化、非フッ化物部分由来の抗菌効果
【0035】
金属イオン:
【0036】
例:第一スズ、亜鉛、銀、銅
【0037】
作用:抗菌、歯垢阻害、酵素系および解糖の阻害
【0038】
植物抽出物/天然産物:
【0039】
例:サンギナリン抽出物
【0040】
作用:抗菌、細菌株の増殖および酵素活性の阻害による歯垢阻害
【0041】
フェノール:
【0042】
例:トリクロサン
【0043】
作用:抗菌、歯垢阻害、歯垢代謝の妨害、細菌細胞の破壊
【0044】
第四級アンモニウム塩(QAS)および/または第四級ホスホニウム塩(QPS):
【0045】
例:塩化セチルピリジニウム(CPC):
【0046】
中程度の歯垢阻害活性。これらはより高い初期口腔保持およびCHXに対する同等の抗菌活性を有するが、歯垢の阻害および歯肉炎の予防においてはあまり有効ではない。
【0047】
臭化セチルトリメチルアンモニウム
【0048】
テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド
【0049】
塩化ベンゼトニウム
【0050】
塩化メチルベンゼトニウム
【0051】
塩化ウンデコイリウム
【0052】
p-tert-オクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド
【0053】
作用:抗菌、微生物との相互作用による歯垢阻害
【0054】
第四級アンモニウム塩は、それらのアンモニウムカチオンの細菌の外層にあるアニオン部位への結合によって細胞膜を破壊する抗菌薬として頻繁に使用されている。
【0055】
界面活性剤:
【0056】
例:ラウリル硫酸ナトリウム
【0057】
作用:抗菌、細菌酵素の不活性化
【0058】
バクテリオファージ:
【0059】
脂肪酸の生合成経路の阻害剤
【0060】
抗微生物ペプチド:
【0061】
キレート剤:エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびクエン酸三ナトリウム(TSC)
【0062】
作用:Mg2+およびCa2+などの金属カチオンも細菌増殖およびバイオフィルム形成に影響を与えることができる。これらの二価カチオンは、それらの細胞壁テイコ酸との相互作用によって細胞間接着および凝集を刺激することができる。従って、環境からの遊離カチオンの除去により細胞間接着およびその後のバイオフィルム形成が減少する。
【0063】
ナノ粒子:銀ナノ粒子(Nanosilver)、QAS修飾されたナノフィラー、QAS修飾されたナノゲル
【0064】
ナノサイズの金属および金属酸化物、主に銀(Ag)、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)および酸化銅(II)(CuO)
【0065】
第四級アンモニウム-ポリ(エチレンイミン)(QA-PEI)ナノ粒子などの、ポリマー殺生物剤としても知られている抗微生物ポリマーは、抗微生物活性または細菌、真菌または原生動物などの微生物の増殖を阻害する能力を有するポリマーのクラスである。
【0066】
抗微生物モノマーおよびポリマー
【0067】
この合成法では、ヒドロキシル、カルボキシルまたはアミノ基などの高い抗微生物活性を有する官能基を含有する抗微生物薬を様々な重合性誘導体すなわち重合前のモノマーに共有結合的に結合させる。活性剤の抗微生物活性は重合によって低下または向上させてもよい。これは、当該薬剤がどのように細菌を死滅させるか、すなわち細菌の食料供給を枯渇させるか、あるいは細菌膜破壊によるか、および使用されるモノマーの種類によって決まる。ホモポリマーをコポリマーと比較した際の違いが報告されている。
【0068】
抗微生物ポリマーを大規模な流通および使用のための実行可能な選択肢にするためには、最初に満たされなければならない以下のいくつかの基本的な要件がある。
【0069】
当該ポリマーの合成は容易かつ比較的安価なものでなければならない。工業規模で製造するためには、合成経路は、理想的には既に十分に開発されている技術を利用するものであってはならない。
【0070】
当該ポリマーは長い貯蔵寿命を有するか、長期間にわたって安定でなければならない。それは使用目的の温度で貯蔵することができるものでなければならない。
【0071】
当該ポリマーが水の消毒のために使用される場合、毒性問題を防止するために水に不溶でなければならない(現在の小分子抗微生物薬のいくつかを用いる場合と同様)。
【0072】
当該ポリマーは使用中に分解するもの、すなわち毒性残留物を放出するものであってはならない。
【0073】
当該ポリマーは取り扱い時に人に毒性であったり刺激性であったりしてはならない。
【0074】
抗微生物活性は活性を喪失した際に再生可能なものでなければならない。
【0075】
抗微生物ポリマーは、短時間の接触で広範囲の病原微生物に対して殺生物性でなければならない。
【表1】
【表2】
【0076】
キチンは自然界で2番目に最も豊富な生体高分子である。キチン-キトサンの脱アセチル化産物は、ヒトに毒性を与えることなく抗微生物活性を有することが分かっている。この合成技術では、キトサン誘導体を調製してより良好な抗菌活性を得る。現在のところ研究では、アルキル基をアミン基に導入して四級化N-アルキルキトサン誘導体を調製し、過剰な第四級アンモニウムグラフトをキトサンに導入し、かつフェノール性ヒドロキシル部分で修飾している。
【0077】
この方法では、抗微生物薬をポリマー骨格に組み込むために化学反応を使用する。加水分解して活性な薬物および無害な小分子にすることができるため、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンなどの生物学的に活性な基を有するポリマーが望ましい。例えば、一連のポリケトンが合成および研究されており、それらは枯草菌およびシュードモナス・フルオレッセンスならびに真菌、アスペルギルス・ニガーおよびトリコデルマ・ビリデの増殖に対して阻害効果を示す。
【0078】
細菌種(特に口腔細菌種)
【0079】
ヒトの口は数多くの微生物コロニーの住処である。これらの口腔細菌の大部分は害を与えないが、混合菌の中には疾患を引き起こして健康に影響を与える可能性のある他の種が存在する。
【0080】
700種を超える異なる細菌株がヒトの口において検出されているが、大部分の人々には34~72種の異なる種しか寄生していない。これらの細菌種の大部分は健康に関して言えば無害であると思われる。プロバイオティクスとして知られている他の細菌は、食物の消化を助ける有益な細菌である。他の細菌は実際に歯や歯肉を保護している。しかし、虫歯や歯肉疾患を引き起こすという理由からむしろ存在しない方が良い、いくつかの細菌が存在する。
【0081】
健康な口腔には、口腔疾患を引き起こすものとは異なる特有な細菌叢が存在する。例えば、特にポルフィロモナス・ジンジバリス、タネレラ・フォーサイシアおよびトレポネーマ・デンティコラなどの歯周病に関連する多くの種があらゆる試験部位において検出された。また、ストレプトコッカス・ミュータンス、ラクトバチルス属種、ビフィドバクテリウム属種およびアトポビウム属種によって代表される一般に齲蝕や深い象牙質窩洞に関与していると考えられている細菌叢は、臨床的に健康な歯からは歯肉縁上および歯肉縁下歯垢において検出されなかった。
【0082】
50%を超えるこれらの細菌種の多くは培養されておらず、口腔内で検出されている。口腔はそれぞれが多量の細菌、すなわち俗に言う細菌性バイオフィルムで被覆された多くの表面から構成されている。これらの細菌のいくつかは、ヒトにおける最も一般的な細菌感染症のうちの齲蝕および歯周炎などの口腔疾患に関与している。また、特定の口腔細菌種は、細菌性心内膜炎、誤嚥性肺炎、小児骨髄炎、早期産・低出生体重児および心血管疾患などのいくつかの全身性疾患に関与している。
【0083】
健康な対象における正常な口腔細菌叢:
【0084】
図1:口腔内の主な細菌種の部位特異性。概して細菌種は、所与の部位ごとの複数の対象におけるそれらの検出に基づいて選択した。対象間での口腔部位における細菌種の分布は、透明の四角(どの対象においても検出されない)、黄色の四角(アッセイされたクローンの総数の15%未満)、緑色の四角(アッセイされたクローンの総数の15%以上)により、樹形図の右側の四角の列によって示されている。低および高存在量の15%カットオフ値は任意に選択した。マーカーバー(marker bar)はヌクレオチド配列における10%の差を表す。
【表3】
【0085】
表3および
図1は、健康な口腔を定めるのを助ける新生の細菌プロファイルが存在することを示す全体的要約を表している。観察されるように、ストレプトコッカス・ミティスおよびグラニュリカテラ・アディアセンスなどのいくつかの種がほとんどまたは全ての口腔部位において検出されたが、いくつかの種は部位特異的であった。例えば、ロチア・デントカリオーサ、アクチノミセス属種、ストレプトコッカス・サングイニス、ストレプトコッカス・ゴルドニおよびアビオトロフィア・ディフェクティヴァは優先的に歯にコロニーを形成するように思われたが、ストレプトコッカス・サリバリウスは主に舌背で認められた。いくつかの種は軟組織を好む傾向があるように思われ、例えば、ストレプトコッカス・サングイニスおよびストレプトコッカス・アウストラリスは、歯または歯肉縁下の隙間にコロニー形成しなかった。ストレプトコッカス・インターメディウスは対象の大部分において優先的に歯肉縁下歯垢にコロニー形成したが、ほとんどの他の部位では検出されなかった。他方、ナイセリア属種は歯肉縁下歯垢において認められなかったが、ほとんどの他の部位に存在していた。シモンシエラ・ムエレリは硬口蓋においてのみコロニー形成した。実際には、シモンシエラ・ムエレリは最初にヒト硬口蓋から単離されたが、歯嚢胞および歯の早期萠出を有する新生児から単離されている。いくつかのプレボテラ属種はほとんどの部位において検出されたが、1人または2人の対象のみであった。例えば、プレボテラ・メラニノゲニカおよびプレボテラ属種クローンBE073は、1人の対象の9箇所の部位のうち7箇所に大量に存在したが、他の対象では散発的に検出された。プレボテラ属種クローンHF050は1人の対象の上顎前部において認められ、そのクローンの44%として細菌叢の多くの部分を占めていた。このクローンは別の対象の軟口蓋および扁桃腺でもより低い割合で認められた。
【0086】
口腔病状に関する微生物のバイオフィルムの組成
【0087】
どの細菌種が口腔病理に直接関与しているかを決定することを試みる多くの研究が行われてきた。歯垢媒介性口腔疾患の多くは極めて多様な微生物相を既に含有する領域において生じるため、これらの種のうちのどれが病原体であるかを正確に特定することは難しい。さらに、齲蝕原性に関連する細菌の特徴(酸産生、耐酸性、細胞内および細胞外での多糖生成)が2種以上の細菌種を指し示している。但し本発明者らは、健康な歯垢バイオフィルムに関与する望ましい細菌種の多くが低い耐酸性を有する他の関連する細菌に加えてストレプトコッカス・サングイス、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・オラリスおよびアクチノミセス属種を含むということを知らない。従って、齲蝕の形成に関与する細菌は非常に高い耐酸性を有する細菌であるため、健康なデンタルバイオフィルムの微生物相は酸への限られた耐性を有する種からなると思われる。
【0088】
2種類の最も一般的な有害細菌
【0089】
ストレプトコッカス・ミュータンスは動物宿主、特にヒト宿主の口の中に生息する細菌であり、宿主によって消費される糖および澱粉を餌にする。それ単独ではそれほど悪いものではないが、その貪欲な食欲の副産物としてエナメルを腐食させる酸を産生し、それによりストレプトコッカス・ミュータンスはヒトにおける虫歯の主な原因となる。
【0090】
ポルフィロモナス・ジンジバリスは通常は健康な口には存在しないが、それが現れると歯周炎に強く関連づけられる。歯周炎は組織および歯を支える歯槽骨に影響を与える深刻かつ進行性の疾患である。これは軽視されるべき疾患ではない。これは著しい歯痛や炎症を引き起こす可能性があり、最終的に歯の喪失や骨粗鬆に繋がり得る。さらに、十分な調査および研究から歯周炎と心臓/心血管疾患(CVD)との相関、すなわち歯周炎が心疾患の危険因子になり得ることが報告されている。
【0091】
齲蝕:齲蝕生成に関与する全ての病原体に関する正確な知識の欠如にも関わらず、バイオフィルム内での微生物の恒常性に関与している因子は公知であり、かつ認識されている。環境における最初の変化は宿主の食事に含まれる発酵性炭水化物の量の増加によるものである。歯垢バイオフィルム中に存在する嫌気性の酸産生細菌は、発酵により増加した量の酸をこのように産生し、その結果バイオフィルムのpHを低下させる。pHが低下すると、生き残ってそのような酸性環境において解糖を行うことができる唯一の存在であるという理由から、これらの酸耐性細菌の増加が生じる。これに関与するより一般的な細菌種のいくつかとしては、3.0という低いpHレベルで解糖を行うことができるストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ソブリヌスおよびラクトバチルス・カゼイが挙げられる。歯垢バイオフィルムに関与する一部の細菌は、正常な口腔微生物相種間に存在する非常に大きな違いを示す。この酸性のpHにおいて高酸耐性の細菌性バイオフィルムは、より速い速度の脱灰を引き起こすより大きな酸性度により歯のエナメルを脱灰することができる。当然ながら、この酸性化は最初は糖の摂取によって引き起こされ、これは糖の摂取を止めればバイオフィルムのpH値は再び上昇してエナメルの再石灰化が生じ得ることを意味している。しかし、酸性化-脱灰相が、アルカリ化-再石灰化相が何とか損傷を修復することができる程度よりも大きな損傷を与え、かつそれがより頻繁であれば、齲蝕は結果的に生じる。口腔内に強酸性の物質が存在するだけでも歯のエナメルの脱灰は生じ得る。これは、過剰な量のスポーツドリンクまたは炭酸飲料(2.3~4.4の強酸性のpHを有する)を飲む人々が非常により高い齲蝕罹患率を有する理由である。要するに、糖が摂取され、かつ酸が代謝副生成物として産生されると、これらの酸性環境で生き残ることができる細菌はよく増殖する。これらは齲蝕生成の主要な病原体である。但し、ストレプトコッカス・ミュータンスのような齲蝕生成に関与する公知の細菌種のいくつかは、齲蝕生成のいくつかの部位に存在しないということだけでなく、健康な歯垢バイオフィルム中にも存在することを認識することが重要である。従って、本発明者らは齲蝕生成に関与する1種の特定の細菌種は存在せず、同様の特性を示すいくつかの集まりが存在することを知っている。
【0092】
歯周炎およびインプラント周囲炎:いくつかのレベルの歯周病は米国の成人集団の大多数を冒している。これが理由で、歯周病は医学および歯学業界にとって非常に重要であり、故に公衆衛生問題としてみなすことができる。歯周炎は早期に治療しなければ歯槽骨および歯の喪失に繋がる恐れがある。歯周炎は歯表面と歯肉との間に形成される深いポケットを特徴とし、この深いポケットは口の開放空間から歯肉の中に直接通じる小さい象牙細管およびエナメル裂溝が原因で微生物によって容易にコロニー形成される。この領域は典型的な口腔衛生ケア機構(歯ブラス、フロスなど)によって到達することが非常に難しく、これにより様々なレベルの重症度を有する歯肉炎または歯周炎の病的状態が生じることが多い。また、歯周炎が心疾患の危険因子になり得るということを無視すべきではない。
【0093】
これらの深い歯根膜ポケットに存在している微生物相の多くは、非常に多様なスピロヘータの集団を含むグラム陰性嫌気性菌である。歯肉炎として知られている歯周病の初期段階では、歯垢バイオフィルムの最初の微生物のコロニー形成は、黄色、緑色および紫色の「クラスター」のメンバーを含んでいると思われる。第二のコロニー形成は橙黄色および赤色のクラスターのメンバーにより生じ、これらはより優勢になる。赤色および橙黄色のクラスター細菌のレベルの上昇は、全ての最初および第二のコロニー形成種のメンバーによる増殖に繋がる。ある時点で、当該生物は口腔内の他の位置に分散して生存を確保しなければならない。
図2に示すように、研究によりスピロヘータおよびポルフィロモナス・ジンジバリスは罹患した患者の健康な部位よりも罹患した患者の罹患部位においてより広く行き渡っていることが分かった。当該生物は健康な患者の健康な部位よりも罹患した患者の健康な部位においてより頻繁に認められることも分かり、これは先に言及した分散機構の証拠である。
【0094】
クラスターに配置される微生物複合体
【0095】
歯周病がより深刻になるにつれてチェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーション実験を行って歯周炎に関与する種のより良好な考えを得た。この分子生物学実験を使用して、水平のレーンに公知のDNAプローブを用い、かつ垂直のレーンに多くの患者から得た歯垢試料を用いて各種細菌種の存在を検出した。ブロットを見て、DNAプローブが歯垢中に存在する細菌のそれらの対応するDNA配列に結合したため、どの細菌種がこれらの歯周病患者の歯垢中に存在していたが明らかになる。これを用いてさらなる分析を行って、歯周炎に関与する最も優勢な細菌種がアクチノミセス・ネスランディイであることが分かった。これらの試験をその公知の分子プローブが存在する40種に対して行った。残念なことに、チェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーションでは分子プローブが必要となるが全ての種に対してプローブが開発されていないため、歯周炎患者の歯垢バイオフィルムに関与する全ての細菌種を決定する方法は存在しない。
【0096】
インプラント周囲炎は歯周炎に非常に類似しているが、いくつかの側面において異なる。歯科インプラントは歯周靱帯によって囲まれていないため、異なる生物力学および防御的細胞動員を有する。インプラント周囲炎とは微生物の感染によるインプラント周囲支持組織の破壊を指す。これらの感染は、残っている歯または機能が衰えつつあるインプラントが細菌のための貯蔵所として機能してバイオフィルムコロニーを形成することができる場所の周りで生じる傾向がある。興味深いことに、インプラント周囲炎に関与する細菌種は歯周炎において重要な役割を担う細菌種と非常に類似している。この2種類の疾患はいくつかの重要な方法において異なるが多くの類似性を有し、かつ両方についての研究はより良好な治療および予防を得る手助けとなり得る。
【0097】
歯垢バイオフィルムは、歯を有する地球上の全ての生物で認められる多様な機能的微生物群である。歯垢バイオフィルムの発生および適切な機能に関与する生物のこの幅広い多様性により、これらの魅惑的な微生物群について全てを知ることは難しい。これらのバイオフィルムは、自身を生存させ続けるだけでなく宿主を保護するために非常に多くの細胞間伝達を用いる。それらの存在は多くの病原性の口腔疾患に関与するが、発生の初期段階では調和することができない保護層を歯に提供するので宿主にとって多くの利点を有する。そのうちに、本発明者らは歯垢バイオフィルムに関与する生化学的機能および発生機能に関してより多くを発見し続け、これは本発明らが微生物学に関して学ぶだけでなく口腔衛生を改善するのに役立つことができ、これは我々の健康全体にとって非常に重要である。
【0098】
図3は、歯垢中のヒト宿主対象レベルの微生物の代表的な試料を示す。チェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーション分析を用いて、宿主対象群の28種の歯肉縁下歯垢バイオフィルム試料において40種の微生物種の存在を検出した。
【0099】
歯科に加えて、抗菌は一般的な衛生だけでなく病院の手術室などの場所で消毒剤として生命を救うために重要な役割を担う機能性コーティングの重要な部門でもある。抗菌研究は主として黄色ブドウ球菌、大腸菌および緑膿菌について進展している。黄色ブドウ球菌はヒトの気道および皮膚において頻繁に認められる。それは皮膚感染、呼吸器疾患および食中毒の一般的な原因である。他方、大腸菌は一般に温血生物の下部消化管において認められる。それは通常は食中毒を引き起こし、時として食品汚染により製品の回収の責任を負う。3つ目の細菌である緑膿菌は最もタフな菌種のうちの1つとみなされており、厳しい環境で生き残ることができる。
【0100】
ヒトの疾患に関連するバイオフィルム形成細菌および医療装置(Shadia M.Abdel-Aziz,Aeron A(2014)Bacterial Biofilm:Dispersal and Inhibition Strategies(細菌性バイオフィルム:分散および阻害戦略).SAJ Bio-technol 1(1):105):
【表4】
【表5】
【表6】
【0101】
抗微生物/抗菌化合物に加えて、バイオフィルムの組成および代謝活性を修正するためにフォトニック法および光化学的手法も調査した。紫外線光、特にUVC(200~280nm)は殺菌効果も示す。多くの微生物細胞は、ポルフィリンおよびフラビンなどの天然に生じる光増感物質の蓄積による青色光(400~470nm)による死滅に対して極めて敏感でもある。近赤外光は特定の種に対して抗微生物作用を有していることも分かった。
【0102】
バイオフィルム
【0103】
バイオフィルムは当該技術分野で知られており、簡単な説明を以下に示す。現在のところ3種類のバイオフィルム制御戦略、すなわち予防、死滅、除去が存在する。多くの従来の抗微生物薬はバイオフィルムの除去に失敗しており、例えば洗口液は細菌を死滅させることはできるがバイオフィルムを除去することはできない。バイオフィルム除去法は、バイオフィルムの機械的完全性を攻撃すること、pHを8.2~8.3に上昇させることによってバイオフィルム構造を弱めるためのベーキングソーダなどを用いて細菌を死滅させる代わりにバイオフィルムマトリックス接着を標的にすること、および酵素処理または他の分散剤処理を必要とする。バイオフィルムが厚くなるほど除去が難しくなる。従って、バイオフィルム阻害およびバイオフィルム除去と統合された方法は有望な手法になるであろう。
図4Aはバイオフィルム治療および除去の視覚的表示を提供する。
【0104】
バイオフィルム予防、制御および剥離のために活性表面を修飾または使用可能にするための一般的な戦略としては、防タンパク質(repellant polymer)ポリマーまたは他の抗接着剤などを用いる表面修飾、有機系および無機系抗微生物薬の両方(抗生物質、クロルヘキシジン、第四級アンモニウムモノマー、NACなどの有機系抗微生物薬、銀ナノ粒子(NP)、金NP、酸化亜鉛、第四級アンモニウムナノ粒子(第四級アンモニウム-ポリ(エチレンイミン)(QA-PEI)など)、TiO2などの無機系抗微生物薬)、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドなど、抗バイオフィルム酵素、抗微生物ペプチド、エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびクエン酸三ナトリウム(TSC)などのキレート剤、超音波処理、生体電気処置、フォトニック処理および光化学的処理、紫外線光、特にUVC(200~280nm)、ポルフィリンおよびフラビンなどの天然に生じる光増感物質の蓄積による青色光(400~470nm)、近赤外光が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【
図1】口腔内の優勢な細菌種の部位特異性に関する図表による結果を示す。
【
図2】スピロヘータおよびポルフィロモナス・ジンジバリスの分析に関する図表による結果を示す。
【
図3】歯垢中のヒト宿主対象レベルの微生物の代表的な試料を示す。
【
図4A】バイオフィルム処置および除去の視覚的表示を提供する。
【
図4B】本開示に係る組成物のいくつかの例示的な実施形態の化学構造を提供する。
【
図5】バイオフィルム増殖プロトコルの図表を示す。
【
図6】各表面に形成された67時間齢のバイオフィルムの三次元構造を示す。
【
図7】各表面から得られたバイオマスの定量的データを示す。
【
図8】試験複合材および対照複合材を取り囲んでいる上澄みのpH分析の結果を示す。
【
図9】バイオフィルム増殖中の上澄みの画像を示す。
【
図10】剪断応力を加えた後の各複合材表面から得られた残存バイオマスを示す(n≧12)。
【
図11】0.804N/m
2の剪断応力への曝露後の67時間のバイオフィルムの代表的な共焦点画像を示す。
【
図12】2Dデカルト座標系(XY、YZおよびXZ平面)におけるEPSマトリックスを示す。
【
図13】骨格化EPSマトリックスの投影画像を示す。
【0106】
可能な限り、図面全体を通して同じ部分を表すために同じ参照符号が使用される。
【発明を実施するための形態】
【0107】
本説明は一般的発明概念に係る例示的な実施形態を提供するものであり、決して本発明の範囲を限定するものではない。実際に、本明細書に記載されている発明は例示的な実施形態よりも広く、かつそれらによって限定されるものではなく、本明細書に示されている図面および本明細書で使用される用語は、それらの完全な通常の意味および本明細書に記載されている意味を有する。
【0108】
バイオフィルム形成、発生および剥離に関する生体外研究との関連において本明細書の実施例の箇所に記載されているように、本発明者らは予期せぬことに、本開示に係る抗菌複合材の表面に形成されるストレプトコッカス・ミュータンスバイオフィルムが対照複合材およびヒドロキシアパタイト(HA)と比較して有意に減少することを発見した。そのような抗菌表面に形成されるストレプトコッカス・ミュータンスバイオフィルムの機械的安定性は、本発明の複合材からの中程度の剪断力によるバイオフィルムの完全な除去から明らかなように有意に破壊されることがさらに発見された。対照的に、対照複合材およびHAに形成されるバイオフィルムは除去され難いことが分かった。
【0109】
本明細書には一般にバイオフィルムを除去するための有効な方法論が開示されている。活性表面は、最初のバイオフィルム形成だけでなくさらなるバイオフィルムの発生も有効に阻害することができた。そのような活性表面に形成される総バイオマスが有意に少なくとも50%減少した。そのような活性表面に形成されるバイオフィルムの機械的安定性を有意に弱化させることができ、歯ブラシ、水噴流または超音波処理によって加えられるような中程度の剪断力で完全に除去するために必要な努力は非常に少なくて済んだ。
【0110】
様々な実施形態によれば、そのような活性表面は、限定されるものではないが、重合性樹脂もしくは添加剤、非重合性添加剤もしくは粒子/充填剤または両方の組み合わせなどの様々な抗微生物/抗菌成分と共に製剤化された組成物から大量に形成することができた。
【0111】
いくつかの実施形態によれば、そのような活性表面は、限定されるものではないが、重合性樹脂もしくは添加剤、非重合性添加剤もしくは粒子/充填剤またはその両方の組み合わせなどの様々な抗微生物/抗菌成分と共に製剤化された組成物から様々な厚さを有するコーティングに形成することができた。
【0112】
いくつかの実施形態によれば、当該抗微生物/抗菌成分は持続的有効性のために開裂不可能にすることができた。
【0113】
様々な実施形態によれば、当該抗微生物/抗菌成分は、バランスの取れた抗菌活性、細胞毒性および機械的性質のために0.1~10重量%以上であって最大50重量%で最終組成物に添加されている。
【0114】
いくつかの実施形態によれば、第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物の非重合性および重合性混合物のうちの任意の1種以上を含む製造品、複合品および材料およびコーティングされた表面は、摩耗期間後または微生物を含む可能性のある流体または他の材料への曝露期間後に化学的に、あるいは摩擦/加熱または他の処理によって活性化させることができる。これらは非浸出性成分であるため、そのような活性表面は必要に応じて容易に再生できることが期待される。
【0115】
いくつかの実施形態では、本組成物は、歯科用複合材、歯科用接着剤、歯科用セメント、歯科用シーラント、歯科用ライナー、歯科用バーニッシュ、義歯、根管シーラー、インプラント用セメント、歯科矯正用セメント、自己殺菌性(Self-disinfected)歯科用印象材、装着式すなわち取外し可能な歯垢治療装置(抗菌ナイトガード)のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために製剤化されている。そのような実施形態によれば、本組成物は、樹脂複合材系CAD/CAMブロック、仮のクラウンブリッジ複合材、小児クラウン、審美歯科矯正用アライナー、審美用高分子系歯科矯正用ブラケット(および金属/セラミックブラケットのためのコーティング)に使用することができ、いくつかの特定の実施形態では、本組成物は、歯科用インプラントアバットメントのためのコーティングに使用することができる。また他のそのような実施形態によれば、本組成物は、洗口液、歯科用ストリップ、歯科用フィルムおよびゲル、歯磨き粉および他の歯手入れ用品に使用するために懸濁液として提供されていても、微粒子もしくはナノ粒子上に被覆されていてもよい。
【0116】
そのような活性表面は、任意の非活性なバルク基板、金属、ポリマーまたはセラミックなどの上にそのような非活性材料を覆ってそれに応じて活性表面を生成するために、コーティングの形態で容易に形成することができる。
【0117】
他の実施形態では、本組成物は、持続的気道陽圧(CPAP)装置、換気装置、骨折固定のための中心線、キルシュナー鋼線およびネジ、整形外科的整復もしくは骨延長および他の医療用インプラント、カテーテル、血管内カテーテル、透析用シャイント、創傷ドレナージ管、皮膚縫合糸、人工血管、埋込型メッシュ、眼内装置、心臓弁、移植材料、針、経皮および経粘膜パッチ、スポンジ、ならびに限定されるものではないが、タンポン、スポンジ、子宮内避妊器具、ペッサリー、コンドーム、手袋、ドレープおよびフィルム、創傷包帯、テープ剤および包帯などから選択されるパーソナルケアおよび衛生用品などの医療およびパーソナルケア用途のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために製剤化されている。
【0118】
さらに他の実施形態では、本組成物は、バイオフィルム蓄積を減少させるために石油パイプラインの内面ならびに同様に一般に石油および石油化学製品の格納および出荷容器のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために製剤化されている。他の例では、本組成物は、家庭用および/または工業用のペンキおよび他の有機系材料の貯蔵および出荷との関連で使用するために製剤化されている。特定の実施形態では、本組成物は、金属貯蔵および輸送材料の錆および一般的な劣化を減少させるため、および同様に一般に石油および石油化学製品の格納および出荷容器のために保護効果を提供してもよい。他の例では、本組成物は、家庭用および/または工業用のペンキおよび他の有機系材料の貯蔵および出荷との関連で使用するために製剤化されている。特定の実施形態では、本組成物は、金属貯蔵および輸送材料の錆および一般的な劣化を減少させるための保護効果を提供してもよい。
【0119】
さらに他の実施形態では、本組成物は、限定されるものではないが、飲料ディスペンサーチューブ、使い捨ておよび再利用可能なドリンクウェアおよびストロー、水、食料および飲料冷却器、義歯ホルダー、マウスガード、スポーツおよび潜水/スキューバ/スイムギア、電化製品などのフードサービス、生活用品および他の一般用途品のための製造品の表面に1つ以上のコーティングを提供するか、その中に注入するか、その中に分散させるか、あるいはそれを形成するために製剤化されている。
【0120】
いくつかの実施形態によれば、本組成物を含む試薬、セルフケア製剤およびキットが本発明に従って提供されてもよい。いくつかのそのような実施形態によれば、1種以上の個々に包装された治療製剤を含むキットが提供されてもよく、それぞれがブラシまたは他の塗布具などの1つ以上の治療手段と本組成物を含む懸濁液とを含み、その治療製剤は塗布する人がバイオフィルム形成を予防するか既存のバイオフィルムを治療するために表面に塗布するために提供される。また、当該治療製剤の塗布後に表面からバイオフィルムを機械的に除去するための1つ以上の除去手段も提供される。いくつかの例では、当該キットは歯の手入れのためのものである。他の実施形態では、当該キットは家庭もしくは消費者製品の手入れのためのものである。従って、当該キットは特定の用途に適した他の従来の治療製剤をさらに含んでいてもよい。
【0121】
組成物
【0122】
本組成物は、いくつかの実施形態では、
a)少なくとも1種の抗微生物活性第四級アンモニウム化合物、および
b)少なくとも1種の抗微生物活性第四級ホスホニウム化合物
の組み合わせを含有し、
成分a)およびb)の組み合わせは1:9~9:1の重量比で存在する非重合性抗微生物混合物を含む。
【0123】
またここでは、抗微生物活性第四級アンモニウム化合物(成分a))は、以下の式:
[R-N+R1R2R3]X- (I)
(式中、R、R1、R2およびR3は好ましくは、独立して同じか異なる長さの直鎖状もしくは分岐鎖状または環式のC2~C20アルキルラジカルであり、アジリジン、アジリン、オキサジリジン、ジアジリン、アゼチジン、アゼト、ジアゼチジン、ピロリジン、ピロール、イミダゾリジン、イミダゾール、ピラゾリジン、ピラゾール、チアゾリジン、チアゾール、イソチアゾリジン、イソチアゾール、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン、ジアジン、モルホリン、オキサジン、チオモルホリン、チアジン、トリアジン、トリアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、ジチアゾール、テトラゾール、アゼパン、アゼピン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾカン、アゾシン、アゾナン、アゾニンなどの縮合された環式もしくは芳香族環でもあり、
X-は対アニオンであり、これは無機アニオン(Cl-、AlCl4
-、PF6
-、BF4
-、NTf2
-、DCA-など)または有機アニオン(CH3COO-、CH3SO3
-など)であってもよい)
によって表される。これらの第四級アンモニウム化合物は、本発明に係る混合物中に個々にまたは互いとの混合物として存在していてもよい。
【0124】
またここでは、抗微生物活性第四級ホスホニウム化合物(成分b))は、特に以下の式:
[RP+R1R2R3]Y- (II)
(式中、R、R1、R2およびR3は好ましくは、独立して同じか異なる長さの直鎖状、分岐鎖状または環式のC2~C20アルキルラジカルであり、
【0125】
Y-は、塩化物、臭化物またはヨウ素アニオンなどのハロゲン化物アニオンである)
に対応する化合物である。
【0126】
あるいは、以下の式:
[(R’)3P+R’’]Y- (III)
(式中、R’は、C1~C5アルキルラジカル、C1~C6ヒドロキシアルキルラジカルまたはフェニルラジカルであり、R’’はC3~C18アルキルラジカルであり、かつY-はハロゲン化物アニオン、特に塩化物アニオンまたは臭化物アニオンである)
に係る化合物である。式II中のラジカルR’’およびR’’’は好ましくは直鎖状もしくは分岐鎖状または環式ラジカルである。第四級ホスホニウム化合物は本発明の混合物中に個々にまたは互いとの混合物として存在してもよい。上記種類の第四級ホスホニウム化合物の例は、トリメチル-n-ドデシルホスホニウムクロリド、トリエチル-n-デシルホスホニウムブロミド、トリ-n-プロピル-n-テトラデシルホスホニウムクロリド、トリメチロール-n-ヘキサデシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチル-n-デシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチル-n-ドデシルホスホニウムブロミド、トリ-n-ブチル-n-テトラデシルホスホニウムクロリド、トリ-n-ブチル-n-ヘキサデシルホスホニウムブロミド、トリ-n-ヘキシル-n-デシルホスホニウムクロリド、トリフェニル-n-ドデシルホスホニウムクロリド、トリフェニル-n-テトラデシルホスホニウムブロミドおよびトリフェニル-n-オクタデシルホスホニウムクロリドである。トリ-n-ブチル-n-テトラデシルホスホニウムクロリドが好ましい。
【0127】
本組成物は、他の実施形態では、I、II、IIIに定義されている少なくとも1種の部分を含有する重合性抗微生物混合物も含み、この部分は、限定されるものではないが、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、ビニル、ビニルエーテル、環状エーテル(エポキシ)または環式アミンおよび環式イミンなどの少なくとも1つの重合性基をさらに含み、これらは修飾されたR、R1、R2、R3、R’およびR’’として示される。
【0128】
これらの第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物は本発明に係る混合物中に個々にまたは互いとの混合物として存在してもよい。
【0129】
これに関する本実施形態に係るモノマーのいくつかの具体例は
図4Bに示されており、式中、
【0130】
n、mは、同じであるか独立して0、1、2、3…であり、
【0131】
Pは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15…であり、
【0132】
R、R’は、同じであるか独立してH、CH3、C2H5
、CH2C6H5であり、
【0133】
Xは、ハロゲン化物、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、他のルイス酸であり、
【0134】
Yは、直接結合、O、S、COO、CONH、CONR、OOCO、OCONH、NHCONHである。
【0135】
本明細書に開示されているモノマーおよびポリマー樹脂は、いくつかの実施形態では、抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物のそれぞれのうちの少なくとも1種を含有する機能性非重合性樹脂からなっていてもよく、他の実施形態では抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物のうちの少なくとも1種と少なくとも1つの重合性基とを含有する重合性樹脂からなっていてもよく、ここでは、様々な実施形態によれば、抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物は、組成物、物品およびコーティング中に約0.1重量%~約10重量%の量で存在し、その量は、本組成物、物品およびコーティングのバイオフィルム弱化活性、抗菌活性/微生物細胞毒性および機械的性質の良好なバランスを達成するように選択される。従って、いくつかの実施形態では、抗微生物活性第四級アンモニウムおよびホスホニウム化合物は、約0.1重量%~約10重量%の量で存在し、いくつかの実施形態では0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、20.0、30.0、40.0および50.0とそれらの数値間の端数増分とを含む最大50重量%またはそれ以上で存在する。
【0136】
様々な実施形態によれば、組成物は、製造品を形成またはコーティングするための各種技術分野において知られている樹脂と共に製剤化されているか、それに組み込まれているか、それに分散されていてもよい。またその組成物によれば、複合材のための樹脂は、非限定的な例として、典型的なモノメタクリレート樹脂であるHEMAおよびHPMA、熱、光およびレドックス開始プロセスによって重合可能/硬化可能である典型的な従来のジメタクリル酸樹脂であるBisGMA、TEGDMA、UDMAから選択されてもよい。CQおよびLTPOは典型的な光開始剤である。EDABなどの第三級芳香族アミンがCO系光開始剤のための促進剤として含められていてもよい。阻害剤、UV安定化剤または蛍光剤などの他の添加剤も使用されていてもよい。また、機械的性質、レオロジー特性および時として生物学的機能性を強化するために様々な粒子、ポリマー粒子、無機粒子、有機粒子が組み込まれていてもよい。
【0137】
以下の略語:BisGMA:2,2-ビス(4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-フェニル)プロパン、HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート、UDMA:ジ(メタクリルオキシエチル)トリメチル-1,6-ヘキサエチレンジウレタン、BHT:ブチルヒドロキシトルエン、CQ;カンファーキノン、LTPO:ルシリンTPO/2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、EDAB:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、AMAHP:3-(アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、EGAMA:エチレングリコールアクリレートメタクリレート、TCDC:4,8-ビス(ヒドロキシメチル)-トリシクロ[5,2,1,02=6]、CDI:1,1-カルボニル-ジイミダゾール、SR295:ペンタエリトリトールテトラアクリレートが使用されている場合がある。
【0138】
実験例
【0139】
ストレプトコッカス・ミュータンスバイオフィルムの発生、三次元構造および機械的安定性に対する複合材料の影響
【0140】
目標:バイオフィルム形成がバイオマスに関して試験複合材によってどのように影響されるか、およびその機械的安定性がどのように変化するかを調べること。
【0141】
バイオフィルム増殖プロトコルは
図5に示されている。
【0142】
試験群:
【0143】
HAディスク
【0144】
高圧蒸気滅菌法によって滅菌された従来の歯科用複合材/IJ8-095(対照)
【0145】
高圧蒸気滅菌法によって滅菌された実験用抗菌複合材/IJ8-083(試験)
【0146】
分析
【0147】
バイオフィルム形成の阻害
【0148】
インタクトなバイオフィルム三次元構造
【0149】
インタクトなバイオフィルムバイオマス(乾燥重量)
【0150】
上澄みのpH変化
【0151】
抗バイオフィルム効果のばらつき
【0152】
剪断応力を加えることによる機械的安定性
【0153】
バイオフィルム除去プロファイル
【0154】
剪断されたバイオフィルム三次元構造
【0155】
EPSマトリックスの分析
【0156】
2Dデカルト座標系(XY、YZおよびXZ平面)におけるEPSマトリックス
【0157】
トポロジースケルトン(topological skeleton)法によるEPSマトリックスの分析
【0158】
結果
【0159】
バイオフィルム形成の阻害
【0160】
インタクトなバイオフィルム三次元構造
【0161】
図6は、各表面に形成された67時間齢のバイオフィルムの三次元構造を示す。
【0162】
バイオフィルム形成は試験複合材によって明らかに破壊された。共焦点画像はバイオフィルム形成および蓄積が試験複合材によって有意に損なわれたことを示している。
【0163】
唾液被覆の使用は、試験複合材の抗菌効果に対して影響がないことを証明した。
【0164】
当該複合材は70%EtOH+UVを用いて滅菌されていた。但し、試験複合材は高圧蒸気滅菌された試験複合材ほど有効でなく、汚染されやすかった。従って、高圧蒸気滅菌された複合材を使用した。
【0165】
インタクトなバイオフィルムバイオマス
【0166】
図7は、各表面から得られたバイオマスの定量的データを示す。
【0167】
67時間の時点で試験複合材からのバイオマスは対照複合材からのバイオマスよりも2.3倍少なく、これは共焦点画像データに極めて一致している。
【0168】
バイオフィルム形成の阻害は最初のバイオフィルム形成期間(29時間)後であっても維持され、長期間の持続効果を示している。
【0169】
pH変化
【0170】
図8は、試験複合材を取り囲む上澄みのpHが対照複合材の上澄みのpHよりも有意に高かったことを示す。これは、バイオフィルム形成および蓄積が全実験期間中に影響を受けたことを示す。但し、pH偏差は主に抗バイオフィルム効果の若干のばらつきによりものであった。
【0171】
抗バイオフィルム効果のばらつきは可視化することができ、かつ当該材料の潜在的な長期的効果に関する新しい発見(後のセクションを参照)。
【0172】
【0173】
上の画像はバイオフィルム増殖期間中の上澄みを含有する24ウェルプレートである。
【0174】
通常は、細菌増殖が最初の29時間から43時間において活性になると上澄みは濁り、次いでバイオフィルム増殖が安定するとそれは再び(53時間後に)透明になった。
【0175】
29時間~43時間の間(活性な細菌増殖がバイオフィルム相に移行する)に、対照複合材からの全ての上澄みが濁った。次いで53時間後に、対照複合材の全ての上澄みはバイオフィルム増殖が確立するにつれて透明になった。
【0176】
対照的に、試験複合材からの全ての上澄み(1つを除く)は29時間から43時間の間は大部分が透明であり、これは抗菌活性を示している。但し、43時間後にその効果に対して若干の可変性が観察され、これは異なる試験試料間での抗菌放出プロファイル(antibacterial release profile)の可変性を示している。
【0177】
試験複合材からの1つの上澄み(緑色の点線の四角)は、バイオフィルム増殖の終了(67時間)によって決して濁らず、これは強力な抗菌活性および表面にバイオフィルム増殖がないことを示している。
【0178】
さらなる情報:
【0179】
さらなる分析を行って、使用した試験複合材が有効であるか否かを決定した。驚くべきことに、再使用した試験複合材は最初のバイオフィルム形成および蓄積をなお妨害し、再使用後であっても長期的効果を示唆している。
【0180】
機械的安定性
【0181】
バイオフィルム除去プロファイル
【0182】
図10は、剪断応力を加えた後の各複合材表面から得られた残存バイオマスを示す(n≧12)。
【0183】
バイオマス除去パターンは類似していたが、試験複合材からのバイオマスの量は対照複合材からのものよりも有意に低かった。
【0184】
0.804N/m2では、試験複合材からのバイオフィルム除去は既に検出限界(約0.0003g)に達しており、対照複合材からのバイオマス除去の割合は未だにたった約50%であった。1.785N/m2において対照複合材からの有意なさらなる除去は存在しなかった。
【0185】
剪断されたバイオフィルム三次元構造
【0186】
図11は、0.804N/m
2の剪断応力への曝露後の67時間のバイオフィルムの代表的な共焦点画像を示す。
【0187】
対照複合材上のバイオフィルムは0.804N/m2の剪断力を加えると平らになったが、数多くの細菌性微小コロニーが対照複合材になお付着していた。
【0188】
注目すべきことには、試験複合材上の細菌性バイオマスおよびEPSマトリックスの大部分は明らかに除去されていたが、数個の小さい凝集体が残存していた。
【0189】
非常に驚くべきことに、この結果から、本発明に係る組成物を含む歯科用複合材が最初のバイオフィルム形成およびそのさらなる発生の両方を破壊することができることが分かる。バイオフィルムは試験複合材上で完全に阻害されないが、蓄積されていたバイオフィルムは低い外部剪断力によって容易に除去および剥離することができる。
【0190】
EPSマトリックスの分析
【0191】
図12は、2Dデカルト座標系(XY、YZおよびXZ平面)におけるEPSマトリックスを示す。
【0192】
試験複合材上のバイオフィルムが容易に除去される理由を理解するために、EPSマトリックスの構造的形態を評価した。
図12は、XY、YZおよびXZ平面におけるインタクトな67時間のバイオフィルムの代表的な投影画像を示す。
【0193】
対照複合材上のEPSマトリックスは厚く、かつ表面全体にわたって比較的均等に分散されていた。また、EPSマトリックスは構造的により組織化されており、それは互いに結合して恐らく強力かつ安定な構造を提供するネットワークを形成しているように見えた。
【0194】
対照的に、試験複合材上のEPSマトリックスは対照複合材上のマトリックスと比較して非常により薄かった。さらに、当該マトリックスの形状は散らばって非組織化されているように見えた。これは試験複合材上に形成された散らばったEPSマトリックスの構造的安定性の欠如(対照複合材と極めて対照的)を示していると思われる。
【0195】
さらなる分析を行って、試験複合材表面に対して対照複合材表面上に形成されたEPSの幾何学的パターンにおいて有意差が存在するか否かを確認した。
【0196】
数理形態学によるEPSマトリックスの分析
【0197】
EPSマトリックスの構造をさらに分析するために、幾何学的構造の理論的解析および処理に基づくトポロジースケルトン法を適用した。スケルトンは通常、その接続性、トポロジー、長さ、方向および幅などの形状の幾何学的および位相的性質を強調する。従って、それにより、EPSマトリックスがどのように発生して組織化されるかということに関する基本的情報を得ることができる。
【0198】
図13は、対照複合材上の骨格化EPSマトリックスの投影画像が明らかに厚いフィラメントによって接続されている十分に構造化された周囲EPSマトリックスであるが、内部構造は薄いフィラメントで高密度に充填されていることを実証している。明らかに、EPSマトリックス全体の構築は高度に組織化されており、これは外部剪断力に対するバイオフィルムの機械的抵抗性を説明することができる。
【0199】
対照複合材とは対照的に試験複合材上のEPSマトリックスは厚いフィラメントを欠いていたが、どんなパターンも有しない薄くかつ短いフィラメントが観察された。40μmの高さでは、EPSマトリックスは既に分離されており、その密度は高さの増加と共に減少している。その投影画像は、外部剪断力に耐えることができないと思われる発生が不十分な全体的なEPSマトリックスを示す。
【0200】
まとめると、試験複合材は、機械的応力に対する強力な抵抗性を提供する高密度に充填された厚くかつ薄いフィラメントを有する典型的なEPSマトリックスの形成を妨害することができる。
【0201】
本明細書で使用される単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「前記(その)(the)」は、文脈が明らかに別の意を示していない限り複数形も含むものとする。
【0202】
本明細書で使用される「バイオフィルム」という用語は、微生物によって産生され、かつ微生物を含むと共に三次元構造特性を有する細胞外高分子物質を指す。バイオフィルムは、表面にあるか懸濁液中にあるかを問わず、真菌、原生動物および藻類などから選択される1種以上の別個の微生物種および混合された種個体群の保持および増殖を支持することができるマトリックスを提供する。いくつかの実施形態では、バイオフィルムは共凝集する生物を含む。
【0203】
本明細書で使用される「コーティング」という用語は、医療装置、歯科用複合材もしくは装置、食料もしくは工業用品などの容器などの物品を覆う材料を構成する下層材料の局所的に塗布された層または面、すなわち表層または表面を指す。
【0204】
本明細書で使用される「微生物(microbe)」という用語は微生物(microorganism)を指し、個々の生物ならびに任意の数の生物を含む異種および同種集団の両方を包含することが意図されている。本明細書で使用される「微生物」という用語は、限定されるものではないが、古細菌、細菌、真菌、原生動物、マイコプラズマおよび寄生生物などの様々な種または微生物のいずれかを指し、「真菌」という用語は、二形性真菌などのカビおよび酵母などの真核生物に関連して使用され、「細菌(bacteria)」および「細菌(bacterium)」という用語は、原核生物界の門に含まれる原核生物、アクチノミセス属、クラミジア属、ストレプトマイセス属などの微生物、および全ての球菌、桿菌、スピロヘータ、スフェロプラスト、プロトプラスト、全てのグラム陰性およびグラム陽性菌(「グラム陰性」および「グラム陽性」とはグラム染色プロセスによる染色パターンを指す)、および全ての非病原性細菌および病原性細菌を広く含む、本明細書中の表および説明において具体的に開示されている各種例を指す。特に、「病原体」という用語は、宿主における様々な病状のいずれかを引き起こすか少なくとも部分的にその原因となり得る生物有機体を指し、限定されるものではないが、古細菌、細菌、真菌、原生動物、マイコプラズマ、寄生虫およびウイルスを含む。
【0205】
本明細書で使用される「抗微生物薬」という用語は、細菌性および/または真菌性生物の増殖を減少、防止または阻害する組成物を指す。抗微生物薬のいくつかの具体例では、抗生物質は理想的には宿主に損傷を与えることなく微生物の増殖を阻害する物質である。各種異なる例では、抗生物質は、限定されるものではないが、膜機能ならびに核酸、タンパク質および細胞成分/細胞壁の合成のうちの1つ以上の阻害または変化などにより微生物細胞の活性のうちの1つ以上に影響を与えて細胞死を引き起こすことができる。抗生物質としては、限定されるものではないが、マクロライド系抗生物質(例えば、エリスロマイシン)、ペニシリン系抗生物質(例えば、ナフシリン)、セファロスポリン系抗生物質(例えば、セファゾリン)、カルバペネム系抗生物質(例えば、イミペネム)、モノバクタム系抗生物質(例えば、アズトレオナム)、他のβ-ラクタム系抗生物質、β-ラクタム阻害剤(例えば、スルバクタム)、オキサリン(oxaline)系抗生物質(例えば、リネゾリド)、アミノグリコシド系抗生物質(例えば、ゲンタマイシン)、クロラムフェニコール、15スルホンアミド系抗生物質(例えば、スルファメトキサゾール)、グリコペプチド系抗生物質(例えば、バンコマイシン)、キノロン系抗生物質(例えば、シプロフロキサシン)、テトラサイクリン系抗生物質(例えば、ミノサイクリン)、フシジン酸、トリメトプリム、メトロニダゾール、クリンダマイシン、ムピロシン、リファマイシン系抗生物質(例えば、リファンピン)、ストレプトグラミン系抗生物質(例えば、キヌプリスチンおよびダルホプリスチン)、リポタンパク質(例えば、ダプトマイシン)、ポリエン系抗生物質(例えば、アムホテリシンB)、アゾール系抗生物質(例えば、フルコナゾール)、およびエキノキャンディン系抗生物質(例えば、カスポファンギン酢酸塩)を挙げることができる。具体的な抗生物質の例としては、限定されるものではないが、アミフロキサシン、アムホテリシンBおよびナイスタチン、アジスロマイシン、アズトレオナム、セファゾリン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、クラブラン酸、クリナフロキサシン、クリンダマイシン、エノキサシン、エリスロマイシン、フレロキサシン、フルコナゾール、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペネム、イトラコナゾール、ケトコナゾール、リネゾリド、ロメフロキサシン、メトロニダゾール、ミノサイクリン、モキシフロキサシン、ムピロシン、ナフシリン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ペフロキサシン、リファンピン、スパルフロキサシン、スルバクタム、スルファメトキサゾール、テイコプラニン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、トリメトプリム、バンコマイシンが挙げられる。
【0206】
本明細書で使用される「医療装置」という用語は、例えば疾病または傷害に対処するか、それを最小限に抑えるか、それを予防するための医学的治療の過程で、対象または患者の体表面、体内または体を貫通して使用される任意の材料または装置を含む。医療装置としては、限定されるものではないが、CPAP、換気装置、骨折固定のための中心線、キルシュナー鋼線およびネジ、整形外科的整復もしくは骨延長および他の医療用インプラント、カテーテル、血管内カテーテル、透析用シャイント、創傷ドレナージ管、皮膚縫合糸、人工血管、埋込型メッシュ、眼内装置、心臓弁、移植材料、針、経皮および経粘膜パッチ、スポンジなどの物品、ならびに限定されるものではないが、タンポン、スポンジ、子宮内避妊器具、ペッサリー、コンドーム、手袋、ドレープおよびフィルム、創傷包帯、テープ剤および包帯などから選択されるパーソナルケアおよび衛生用品が挙げられる。
【0207】
歯科装置としては、限定されるものではないが、歯科用複合材、歯科用接着剤、歯科用セメント、歯科用シーラント、歯科用ライナー、歯科用バーニッシュ、義歯、根管シーラー、インプラント用セメント、歯科矯正用セメント、自己殺菌性歯科用印象材、装着式すなわち取外し可能な歯垢治療装置(抗菌ナイトガード)が挙げられる。そのような実施形態によれば、本組成物は、樹脂複合材系CAD/CAMブロック、仮のクラウンブリッジ複合材、小児クラウン、審美歯科矯正用アライナー、審美用高分子系歯科矯正用ブラケット(および恐らく金属/セラミックブラケットのためのコーティング)に使用することができ、いくつかの特定の実施形態では、本組成物は、歯科用インプラントアバットメントのためのコーティングに使用することができる。また他のそのような実施形態によれば、本組成物は、洗口液、歯科用ストリップ、歯科用フィルムおよびゲル、歯磨き粉および他の歯手入れ用品に使用するために懸濁液として提供されていても、微粒子もしくはナノ粒子上に被覆されていてもよい。
【0208】
本明細書における一般的発明概念は、本発明の例示的な実施形態を時々参照しながら説明されている。特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、一般的発明概念を包含する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。この詳細な説明において記載されている用語は、単に特定の実施形態を記述するためのものであり、一般的発明概念を限定するものではない。
【0209】
特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用されている量および特性などを表わす全ての数は、「約」という用語により全ての場合において修正されるものとして理解されるべきである。従って、特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載されている数値的特性は、本発明の実施形態において所望される好適な特性に応じて変動し得る近似値である。一般的発明概念の広い範囲を示す数値の範囲およびパラメータが近似値であっても、具体例に示されている数値は可能な限り正確に報告されている。但し、あらゆる数値はそれらの各試験測定値に認められる誤差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
【0210】
一般的発明概念の各種発明の態様、概念および特徴は各種例示的な実施形態との関連において本明細書に説明および例示されているが、これらの各種態様、概念および特徴は、個々にまたは各種組み合わせおよびそれらの部分的組み合わせのいずれかにより多くの他の実施形態で使用することができる。特に本明細書において明示的に排除されていない限り、全てのそのような組み合わせおよび部分的組み合わせは一般的発明概念の範囲に含まれることが意図されている。なおさらに、本発明の各種態様、概念および特徴に関する各種他の実施形態(他の材料、構造、構成、方法、装置および成分ならびに他の形成方法、適合方法および機能方法など)が本明細書に記載され得るが、そのような記載は、現在公知であるか後に開発されるかを問わず、利用可能な他の実施形態の完全または徹底的な総記であることは意図されていない。
【0211】
当業者は、本発明の態様、概念または特徴のうちの1つ以上は、そのような実施形態が明示的に本明細書に開示されていないとしても、一般的発明概念の範囲に含まれるさらなる実施形態および使用の中に容易に適用することができる。さらに、本発明のいくつかの特徴、概念または態様が好ましい構成または方法であるように本明細書に記載されている場合があっても、そのような記載は、特にそのように明示的に述べられていない限り、そのような特徴が所要または必要であることを示唆するものではない。なおさらに、本開示の理解を助けるために例示的または代表的な値および範囲が含められている場合があるが、そのような値および範囲は限定的な意味で解釈されるべできはなく、そのように明示的に述べられている場合にのみ臨界値または範囲であることが意図されている。