(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】免振装置及び免振装置の交換方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240430BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 331E
F16F15/02 L
(21)【出願番号】P 2022166190
(22)【出願日】2022-10-17
【審査請求日】2022-10-21
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸介
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117999(JP,A)
【文献】特開2003-41801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/36
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上沓と、下沓と、前記上沓と前記下沓との間を摺動するスライダーと、を備える免振装置であって、
前記上沓と前記下沓とを連結することができる連結手段、を備え、
前記下沓は、下部構造体の上部に設けられ、
前記連結手段が、鉛直方向視で、前記上部の輪郭の外側でかつ前記下沓の輪郭の内側に複数配置され、
前記複数の連結手段が、鉛直方向視で、前記下沓の輪郭に沿う方向に分散して配置され、
前記連結手段は、鉛直方向に沿って見て、前記上部と重ならない、
ことを特徴とする免振装置。
【請求項2】
上沓と、下沓と、前記上沓と前記下沓との間を摺動するスライダーと、を備える免振装置であって、
前記上沓と前記下沓とを連結することができる連結手段、を備え、
前記下沓は、下部構造体に設けられ、
前記連結手段は、前記免振装置への水平力が所定値より大きい場合、前記下部構造体に向かって移動することで、前記上沓と前記下沓との連結を解除することができる、
ことを特徴とする免振装置。
【請求項3】
前記下沓の下に設けられる収納手段、
を更に備え、
前記収納手段は、前記下部構造体に向かって移動した前記連結手段を収納することができる、
ことを特徴とする請求項
2に記載の免振装置。
【請求項4】
上沓と、下沓と、前記上沓と前記下沓との間を摺動するスライダーと、を備える免振装置であって、
前記上沓と前記下沓とを連結することができる連結手段、を備え、
前記連結手段は、当接手段を含み、
前記当接手段は、前記免振装置への水平力が所定値より大きくない場合、前記上沓と当接し、前記水平力が前記所定値より大きい場合、前記上沓と当接しなくなる、
ことを特徴とする免振装置。
【請求項5】
前記当接手段の当接面であって前記上沓と当接する当接面は、球面である、
ことを特徴とする請求項
4に記載の免振装置。
【請求項6】
前記下沓は、下部構造体に設けられ、
前記連結手段は、前記水平力が前記所定値より大きい場合に塑性変形する塑性変形手段であって、前記当接手段の下に設けられる塑性変形手段、を含み、
前記当接手段は、前記水平力が所定値より大きい場合に、前記塑性変形手段を塑性変形させることで、前記上沓と当接しなくなるとともに、前記下部構造体に向かって移動する、
ことを特徴とする請求項
4又は
5に記載の免振装置。
【請求項7】
請求項
3に記載の免振装置の交換方法であって、
前記収納手段に収納された前記連結手段を前記収納手段とともに取り外す取り外しステップと、
前記取り外しステップの後、前記下沓の下側から、新たな前記連結手段を取り付ける取り付けステップと、
を備えることを特徴とする免振装置の交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免振装置及び免振装置の交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物をはじめとする地上の構造物について、地震による被害を軽減するために、地盤と構造物との間に免振装置を配置することがある。
特許文献1では、球面滑り支承の下に積層ゴム支承を配置した構造が開示されている。
特許文献2では、平面滑り支承に手動で連結手段を取り付けることで、台風によって平面滑り支承がずれることを抑える構造が開示されている。
特許文献3では、免振装置が台風によって作動することを、免振装置とは別に耐風装置を設けることで抑える構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-324397号公報
【文献】特開2003-41801号公報
【文献】特許第6228337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免振装置が台風等による小さな水平力によって作動することを抑える旨の課題がある。免振装置の設置場所において、免振装置を省スペース化する旨の課題がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、台風等による小さな水平力によっては作動せず、かつ、設置スペースを小さくした免振装置及び免振装置の交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係る免振装置は、上沓と、下沓と、前記上沓と前記下沓との間を摺動するスライダーと、を備える免振装置であって、前記上沓と前記下沓とを連結することができる連結手段、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、上沓と下沓とを連結することができる連結手段を備える。上沓と下沓とが連結手段によって連結されていることで、台風等によって付加される小さな水平力によって、免振装置が作動することを抑えることができる。また、連結手段は、免振装置の構成の1つである。したがって、例えば、免振装置とは別に耐風装置を設ける場合と比較して、設置スペースを小さくすることができる。
【0008】
<2>本発明の態様2に係る免振装置は、態様1に係る免振装置において、前記連結手段は、前記上沓又は前記下沓の隅に設けられることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、連結手段は、上沓又は下沓の隅に設けられる。これにより、連結手段の状態を外部から目視により確認しやすくすることができる。よって、免振装置の管理のしやすさを向上することができる。また、例えば、連結手段を上沓又は下沓の隅における複数の箇所に対称に設けることで、荷重のバランスを好適な条件とすることができる。
【0010】
<3>本発明の態様3に係る免振装置は、態様1又は態様2に係る免振装置において、前記下沓は、下部構造体の上部に設けられ、前記連結手段は、鉛直方向に沿って見て、前記上部と重ならないことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、下沓は、下部構造体の上部に設けられる。つまり、下沓は、下部構造体の上部以外の部位よりも高い位置に設けられる。連結手段は、鉛直方向に沿って見て、上部と重ならない。つまり、連結手段は、上部の外側に位置する。これにより、連結手段を下方からのぞき込むように目視することができる。よって、連結手段の状態を確認しやすくすることができる。例えば、連結手段が上沓及び下沓から外れて連結手段の交換作業が必要となった際に、作業者が立ったまま交換作業を行うことができる。よって、免振装置の管理のしやすさをより向上することができる。
【0012】
<4>本発明の態様4に係る免振装置は、態様3に係る免振装置において、前記連結手段は、前記免振装置への水平力が所定値より大きい場合、前記下部構造体に向かって移動することで、前記上沓と前記下沓との連結を解除することができることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、連結手段は、免振装置への水平力が所定値より大きい場合、下部構造体に向かって移動することで、上沓と下沓との連結を解除することができる。所定値を、例えば、レベル1地震動によって付加される水平力の大きさとすることで、レベル1以上の地震に相当する水平力に対してのみ免振装置を作動させることができる。連結手段が下部構造体に向かって移動することで上沓と下沓との連結を解除することができることで、連結手段による連結が解除されたか否かを、目視により容易に確認することができる。よって、免振装置の管理のしやすさをより向上することができる。
【0014】
<5>本発明の態様5に係る免振装置は、態様4に係る免振装置において、前記下沓の下に設けられる収納手段、を更に備え、前記収納手段は、前記下部構造体に向かって移動した前記連結手段を収納することができることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、収納手段は、下部構造体に向かって移動した連結手段を収納することができる。これにより、作業者は、収納手段を目視することによって、連結手段による連結が解除されたか否かを確認することができる。よって、免振装置の管理のしやすさを更に向上することができる。
【0016】
<6>本発明の態様6に係る免振装置は、態様5に係る免振装置において、前記連結手段は、当接手段を含み、前記当接手段は、前記水平力が前記所定値より大きくない場合、前記上沓と当接し、前記水平力が前記所定値より大きい場合、前記上沓と当接しなくなることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、連結手段に含まれる当接手段は、水平力が所定値より大きくない場合、上沓と当接し、水平力が所定値より大きい場合、上沓と当接しなくなる。このように、連結手段を簡単な構造とすることで、連結手段を低コストとすることができる。連結手段を交換容易とすることができる。水平力が所定値を超えたことによる連結の解除を物理的な作用に委ねることで、所定値のバラツキを少なくすることができる。
【0018】
<7>本発明の態様7に係る免振装置は、態様6に係る免振装置において、前記当接手段の当接面であって前記上沓と当接する当接面は、球面であることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、当接手段の当接面であって上沓と当接する当接面は、球面である。これにより、例えば、当接面が角柱の辺からなる場合と比較して、水平力によって連結手段が上沓に食い込むように力が作用することを抑えることができる。よって、連結手段による連結の解除をしやすくすることができる。
【0020】
<8>本発明の態様8に係る免振装置は、態様6又は態様7に係る免振装置において、前記連結手段は、前記水平力が前記所定値より大きい場合に塑性変形する塑性変形手段であって、前記当接手段の下に設けられる塑性変形手段、を含み、前記当接手段は、前記水平力が所定値より大きい場合に、前記塑性変形手段を塑性変形させることで、前記上沓と当接しなくなるとともに、前記下部構造体に向かって移動することを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、当接手段は、水平力が所定値より大きい場合に、塑性変形手段を塑性変形させることで、上沓と当接しなくなるとともに、下部構造体に向かって移動する。つまり、所定値は、塑性変形手段の弾性限界である。このように、所定値を塑性変形手段の物性値によって定めることで、所定値のバラツキを小さくすることができる。
【0022】
<9>本発明の態様9に係る免振装置の交換方法は、態様5から8のいずれか1つに係る免振装置の交換方法であって、前記収納手段に収納された前記連結手段を前記収納手段とともに取り外す取り外しステップと、前記取り外しステップの後、前記下沓の下側から、新たな前記連結手段を取り付ける取り付けステップと、を備えることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、収納手段に収納された連結手段を収納手段とともに取り外す取り外しステップと、取り外しステップの後、下沓の下側から、新たな連結手段を取り付ける取り付けステップと、を備える。これにより、連結手段の交換作業を容易に行うことができる。よって、免振装置のメンテナンス性を向上することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、台風等による小さな水平力によっては作動せず、かつ、設置スペースを小さくした免振装置及び免振装置の交換方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】
図1に示す免振装置が作動した状態を示す図である。
【
図3】第1連結手段を備えた免振装置の平面図である。
【
図4】第2連結手段を備えた免振装置の平面図である。
【
図6】
図5に示す第1連結手段において、ヒューズ金物が塑性変形した状態を示す図である。
【
図7】第1連結手段を備えた免振装置が作動した状態の平面図である。
【
図8】第2連結手段を備えた免振装置の正面図である。
【
図12】
図10に示す第2連結手段において、ヒューズプレートが塑性変形した状態を示す図である。
【
図13】第2連結手段を備えた免振装置が作動した状態の正面図である。
【
図15】
図14に示す第3連結手段において、ヒューズバネが変形した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る免振装置100を説明する。
図1に示すように、免振装置100は、上部構造体Uと下部構造体Lとの間に設置される。
上部構造体Uは、例えば、ビルや橋梁などをはじめとする建物である。下部構造体Lは、例えば、上部構造体Uの基礎構造である。下部構造体Lは、例えば、地盤と上部構造体Uとの間に設置される基礎構造である。これにより、地盤の上に上部構造体Uを支持する。
免振装置100は、例えば、地震等によって水平力が発生した際、
図2に示すように、上部構造体Uと下部構造体Lとを水平方向に相対変位させる。これにより、免振装置100は、下部構造体Lの振動が上部構造体Uに伝達されにくくする。
【0027】
(免振装置100について)
免振装置100は、
図1に示すように、上沓10と、下沓20と、スライダー30と、連結手段40と、収納手段50と、を備える。
上沓10は、上部構造体Uの下部に配置される。本実施形態において、上沓10の下面における、連結手段40が配置される部位には、凹部10dが設けられる(詳細は後述する)。
【0028】
下沓20は、下部構造体Lに配置される。本実施形態において、下沓20は、下部構造体Lの上部Ltに設けられる。上部Ltは、例えば、円柱状である。上部Ltは、例えば、四角柱状であってもよい。下沓20における、連結手段40が配置される部位には、貫通孔20hが設けられる(詳細は後述する)。
上沓10と上部構造体Uとの固定、及び、下沓20と下部構造体Lとの固定は、例えば、不図示のボルトにより行われる。上沓10と上部構造体Uとの固定、及び、下沓20と下部構造体Lとの固定は、溶接によって行われてもよい。
【0029】
上沓10と下沓20はいずれも、平面視矩形(長方形もしくは正方形)の板材であり、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成されている。上沓10の下面と下沓20の上面にはそれぞれ、曲率を有する滑り面10a、20aが設けられており、この滑り面10a、20aには、ステンレス製の滑り板(図示せず)が固定されている。また、上沓10と下沓20には、滑り板の外周において、スライダー30の脱落を防止するための平面視環状のストッパーリングSが固定されている。
【0030】
スライダー30は、上沓10と下沓20との間を摺動する。これにより、上沓10と下沓20とを水平方向に相対移動可能とする。スライダー30は、曲率を有する上下の滑り面30aを備え、略円柱状を呈している。また、スライダー30は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成され、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。
【0031】
スライダー30の上下の滑り面30aには、少なくともPTFEを素材とする摩擦材(図示せず)が取り付けられている。摩擦材は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。尚、少なくともPTFEを素材とする摩擦材としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。
【0032】
連結手段40は、上沓10と下沓20とを連結することができる。連結手段40は、例えば、台風等によって付加される小さな水平力によって上沓10と下沓20とが相対移動することを抑える。連結手段40は、上沓10と下沓20との間に位置する。連結手段40は、免振装置100への水平力が所定値より大きい場合、下部構造体Lに向かって移動することで、上沓10と下沓20との連結を解除することができる。連結手段40の詳細については後述する。
【0033】
連結手段40は、
図3又は
図4に示すように、上沓10又は下沓20の隅に設けられる。このため、上沓10の凹部10d及び下沓20の貫通孔20hは、それぞれ上沓10及び下沓20の隅に設けられる。
連結手段40は、
図3又は
図4に示すように、鉛直方向に沿って見て、下部構造体Lの上部Ltと重ならない。つまり、上沓10又は下沓20の隅は、鉛直方向に沿って見て、下部構造体Lの上部Ltからはみ出すように位置している。連結手段40は、下部構造体Lの上部Ltからはみ出した部位に設けられている。これにより、連結手段40を下沓20の下方からのぞき込むようにして状態を確認できるようにする。
【0034】
収納手段50は、下部構造体Lに向かって移動した連結手段40を収納することができる。収納手段50は、例えば、籠状の部材である。下沓20の貫通孔20hの下に設けられる。これにより、
図2に示すように、下部構造体Lに向かって移動した連結手段40を受け止めるようにして収納される。これにより、収納手段50は、連結手段40の交換を行いやすくする機能や、下部構造体Lに向かって移動した連結手段40が不規則に移動して、連結手段40の行方が分からなくなることを防ぐ機能を有する。
【0035】
(連結手段40の詳細について)
上述のように、連結手段40は、上沓10と下沓20とを連結する。このことで、免振装置100に小さな水平力が付加された時、上沓10と下沓20とが相対移動することを抑える。小さな水平力とは、例えば、台風等によって上部構造体U及び免振装置100に付加される水平力である。免振装置100に大きな水平力が付加された時、連結手段40は、上沓10と下沓20との連結を解除することができる。このことで、上沓10と下沓20とを相対移動可能とする。これにより、免振装置100に付加された大きな水平力を減衰できるようにする。
【0036】
本実施形態において、大きな水平力とは、例えば、地震によって免振装置100に付加される水平力である。ここで、地震のレベルについて、「2020年版 建築物の構造関係技術基準解説書」(編集 一般財団法人 建築行政情報センター、一般財団法人 日本建築防災協会;71頁)の記載に基づき、以下のように規定する。すなわち、稀に起きる(50年に一度程度)震度をレベル1とする。レベル1地震は、例えば、建物の耐用年数中に一度以上は発生する可能性が高い。極めて稀に起きる(500年に一度程度)震度をレベル2とする。また、レベル2地震動よりも規模の大きな極大地震動をレベル3とする。
【0037】
連結手段40は、免振装置100への水平力が所定値より大きい場合に、上沓10と下沓20との連結を解除することができる。前記所定値は、上部構造体Uに求められる免震機能に合わせて、レベル1地震からレベル3地震のいずれかに相当する水平力に合わせて適宜決定することができる。
以下、本実施形態における連結手段40について複数例示する。
【0038】
(連結手段40の第1例)
第1連結手段41(連結手段40)は、
図1、
図5に示すように、当接手段41aと、ヒューズ金物41b(塑性変形手段)と、を含む。
当接手段41aは、上沓10の凹部10dと当接する。本実施形態において、当接手段41aのうち、少なくとも当接面41asは、球面である。当接面41asは、当接手段41aの、上沓10と当接する部位である。本実施形態において、当接手段41aは、球体である。凹部10dの、当接面41asと当接する部位も、当接面41asと同じ曲率を有する球面である。
【0039】
ヒューズ金物41bは、当接手段41aの下に設けられる。ヒューズ金物41bは、
図1に示すように、下沓20の貫通孔20hに配置される。
図5に示すように、ヒューズ金物41bは、窪み41bdを有する。ヒューズ金物41bは、窪み41bdの内部に当接手段41aを収容する。このとき、
図5に示すように、当接手段41aの当接面41asは、ヒューズ金物41bから突出した状態となる。これにより、当接手段41aの当接面41asが、上沓10の凹部10dに当接する。
【0040】
免振装置100に水平力が付加されると、水平力は、上沓10と下沓20とを水平方向に相対移動させるように作用する。すると、上沓10の凹部10dから当接面41asに向けて、当接手段41aを下部構造体Lの側の方向に向けて移動させようとする力が付加される。したがって、当接手段41aからヒューズ金物41bに向けて、ヒューズ金物41bを変形させようとする力が付加される。
【0041】
このとき、水平力が所定値より大きくない場合、当接手段41aから付加される力によってヒューズ金物41bは変形しない。つまり、当接手段41aは、水平力が所定値より大きくない場合、上沓10と当接した状態で維持される。
水平力が所定値よりも大きい場合、
図6に示すように、当接手段41aから付加される力によってヒューズ金物41bが塑性変形する。つまり、当接手段41aは、水平力が所定値より大きい場合に、ヒューズ金物41bを塑性変形させる。このことで、当接手段41aは、上沓10と当接しなくなるとともに、下部構造体Lに向かって移動する。このことで、上沓10と下沓20との連結は解除される。結果として、
図2、
図7に示すように、上沓10と下沓20とが水平方向に相対移動可能となる。ヒューズ金物41bの形状および材質は、上述の所定値の条件に合わせて適宜決定されることが好ましい。
【0042】
ヒューズ金物41bは、水平力が所定値より大きい場合に、最終的には破断する。これにより、ヒューズ金物41bが破断した時、当接手段41aは貫通孔20hから下方に向けて落下する。落下した当接手段41aは、上述の収納手段50に収納される。これにより、作業者は、上沓10と下沓20との連結が解除されたことを、収納手段50を目視することにより確認可能となる。
【0043】
(連結手段40の第2例)
第2連結手段42(連結手段40)は、
図8、
図9、
図10に示すように、当接手段41aと、ヒューズプレート42b(塑性変形手段)と、プレート支持部42cと、を含む。
当接手段41aは、第1連結手段41の備える当接手段41aと同じものであるため、説明を省略する。
【0044】
ヒューズプレート42bは、当接手段41aの下に設けられる。ヒューズプレート42bは、
図8に示すように、プレート支持部42cに支持された状態で、下沓20の貫通孔20hに配置される。
図11に示すように、ヒューズプレート42bは、折曲部42bbを有する。折曲部42bbは、ヒューズプレート42bにおいて補強ビードの役割を有する。ヒューズプレート42bは、例えば、
図4に示すように、鉛直方向に沿って見て、当接手段41aの周方向に間隔をあけて4つ設けられる。
【0045】
プレート支持部42cは、上述のようにヒューズプレート42bを支持する。プレート支持部42cは、例えば、筒状の部材である。プレート支持部42cは、ヒューズプレート42bとともに下沓20の貫通孔20hに配置される。プレート支持部42cは、例えば、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
【0046】
プレート支持部42cは、当接手段41aを収容する。当接手段41aの下部は、ヒューズプレート42bによって支持される。このとき、当接手段41aの当接面41asは、プレート支持部42cから突出した状態となる。これにより、当接手段41aの当接面41asが、上沓10の凹部10dに当接する。
【0047】
プレート支持部42cの内径は、
図9に示すように、下方において大径であり、上方に向けて縮径していることが好ましい。これにより、プレート支持部42cの下方において、ヒューズプレート42bによって当接手段41aの下方を支持できるようにすることが好ましい。プレート支持部42cの上方において、当接手段41aが水平方向に移動しないように支持できるようにすることが好ましい。
【0048】
免振装置100に水平力が付加されると、水平力は、上沓10と下沓20とを水平方向に相対移動させるように作用する。すると、上沓10の凹部10dから当接面41asに向けて、当接手段41aを下部構造体Lの側の方向に向けて移動させようとする力が付加される。したがって、当接手段41aからヒューズプレート42bに向けて、ヒューズプレート42bを変形させようとする力が付加される。
【0049】
このとき、水平力が所定値より大きくない場合、当接手段41aから付加される力によってヒューズプレート42bは変形しない。つまり、当接手段41aは、水平力が所定値より大きくない場合、上沓10と当接した状態で維持される。
水平力が所定値よりも大きい場合、
図12に示すように、当接手段41aから付加される力によってヒューズプレート42bが塑性変形する。つまり、当接手段41aは、水平力が所定値より大きい場合に、ヒューズプレート42bを塑性変形させる。このことで、当接手段41aは、上沓10と当接しなくなるとともに、下部構造体Lに向かって移動する。このことで、上沓10と下沓20との連結は解除される。結果として、
図13に示すように、上沓10と下沓20とが水平方向に相対移動可能となる。ヒューズプレート42bの形状および材質は、上述の所定値の条件に合わせて適宜決定されることが好ましい。
【0050】
ヒューズプレート42bは、水平力が所定値より大きい場合に、最終的には永久的に下方に曲がったままとなる。ここで、上述のように、ヒューズプレート42bは折曲部42bbを有する。このため、ヒューズプレート42bに上方から一定以上の大きな力が加わると、座屈現象と同様に、一瞬に下側に折れ曲がる。このように、ヒューズプレート42bが下側に折れ曲がった時、当接手段41aは貫通孔20hから下方に向けて落下する。落下した当接手段41aは、上述の収納手段50に収納される。これにより、作業者は、上沓10と下沓20との連結が解除されたことを、収納手段50を目視することにより確認可能となる。
【0051】
(連結手段40の第3例)
第3連結手段43(連結手段40)は、
図14に示すように、当接手段41aと、ヒューズバネ43bと、ヒューズブロック43bbと、バネ支持部43cと、レバー43Lと、を含む。
当接手段41aは、第1連結手段41の備える当接手段41aと同じものであるため、説明を省略する。
【0052】
ヒューズバネ43bは、当接手段41aの側面に設けられる。ヒューズバネ43bは、
図14に示すように、ヒューズブロック43bbを介して当接手段41aを支持する。ヒューズブロック43bbは、ブロック状の部材である。ヒューズブロック43bbは、例えば、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。ヒューズブロック43bbの当接手段41aに接する面は、当接手段41aの外表面に沿った形状を有する。ヒューズバネ43bは、
図14に示すように、バネ支持部43cに支持された状態で、下沓20の貫通孔20hに配置される。ヒューズバネ43bは、コイルバネである。ヒューズバネ43bは、例えば、鉛直方向に沿って見て、当接手段41aの周方向に間隔をあけて4つ設けられる。
【0053】
バネ支持部43cは、上述のようにヒューズバネ43bを支持する。バネ支持部43cは、例えば、筒状の部材である。バネ支持部43cは、ヒューズバネ43bとともに下沓20の貫通孔20hに配置される。バネ支持部43cは、例えば、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
【0054】
バネ支持部43cは、当接手段41aを収容する。当接手段41aの側面は、上述のようにヒューズブロック43bbを介してヒューズバネ43bによって支持される。このとき、当接手段41aの当接面41asは、バネ支持部43cから突出した状態となる。これにより、当接手段41aの当接面41asが、上沓10の凹部10dに当接する。
【0055】
バネ支持部43cの内径は、
図14に示すように、下方において大径であり、上方に向けて縮径していることが好ましい。バネ支持部43cは、バネ支持部43cの上方において、当接手段41aが水平方向に移動しないように支持できるようにすることが好ましい。
【0056】
レバー43Lは、ヒューズブロック43bbの位置を操作するために用いられる。レバー43Lは、例えば、ヒューズブロック43bbから上方に延びる。レバー43Lは、例えば、第3連結手段43に当接手段41aを配置する際、レバー43Lによってヒューズブロック43bbを移動させることで、当接手段41aを配置可能な領域を形成するために用いられる。
【0057】
免振装置100に水平力が付加されると、水平力は、上沓10と下沓20とを水平方向に相対移動させるように作用する。すると、上沓10の凹部10dから当接面41asに向けて、当接手段41aを下部構造体Lの側の方向に向けて移動させようとする力が付加される。したがって、当接手段41aからヒューズバネ43bに向けて、ヒューズバネ43bを変形させようとする力が付加される。
【0058】
このとき、水平力が所定値より大きくない場合、当接手段41aから付加される力によってヒューズバネ43bは変形しない。つまり、当接手段41aは、水平力が所定値より大きくない場合、上沓10と当接した状態で維持される。
水平力が所定値よりも大きい場合、
図15に示すように、当接手段41aから付加される力によってヒューズバネ43bが変形する。つまり、当接手段41aは、水平力が所定値より大きい場合に、ヒューズバネ43bを変形させる。このことで、当接手段41aは、上沓10と当接しなくなるとともに、下部構造体Lに向かって移動する。このことで、上沓10と下沓20との連結は解除される。結果として、上沓10と下沓20とが水平方向に相対移動可能となる。ヒューズバネ43bの形状および材質は、上述の所定値の条件に合わせて適宜決定されることが好ましい。
【0059】
当接手段41aは、水平力が所定値より大きい場合に、ヒューズバネ43bを変形させ、ヒューズバネ43bの下方に移動する。これにより、水平力が所定値より大きい場合に、当接手段41aは貫通孔20hから下方に向けて落下する。落下した当接手段41aは、上述の収納手段50に収納される。これにより、作業者は、上沓10と下沓20との連結が解除されたことを、収納手段50を目視することにより確認可能となる。
【0060】
(免振装置100の交換方法)
次に、本実施形態に係る免振装置100の交換方法について説明する。免振装置100の交換とは、免振装置100のうち、特に連結手段40の交換を行うことをいう。免振装置100の交換方法は、取り外しステップと、取り付けステップと、を備える。
取り外しステップは、収納手段に収納された連結手段40を収納手段とともに取り外すステップである。取り付けステップは、取り外しステップの後、下沓20の下側から、新たな連結手段40を取り付けるステップである。
【0061】
上記第1例および第2例では、塑性変形手段(ヒューズ金物41bやヒューズプレート42b)が塑性変形した後は再使用不可である。これに対し、当接手段41aは、塑性変形することを想定していない。このため、連結手段40を交換する際は、当接手段41aを再使用してもよい。当接手段41aが再使用可能である場合は、上述の各ステップによって、塑性変形手段のみ交換すればよい。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る免振装置100によれば、上沓10と下沓20とを連結することができる連結手段40を備える。上沓10と下沓20とが連結手段40によって連結されていることで、台風等によって付加される小さな水平力によって、免振装置100が作動することを抑えることができる。また、連結手段40は、免振装置100の構成の1つである。したがって、例えば、免振装置100とは別に耐風装置を設ける場合と比較して、設置スペースを小さくすることができる。
【0063】
また、連結手段40は、上沓10又は下沓20の隅に設けられる。これにより、連結手段40の状態を外部から目視により確認しやすくすることができる。よって、免振装置100の管理のしやすさを向上することができる。また、例えば、連結手段40を上沓10又は下沓20の隅における複数の箇所に対称に設けることで、荷重のバランスを好適な条件とすることができる。
【0064】
また、下沓20は、下部構造体Lの上部Ltに設けられる。つまり、下沓20は、下部構造体Lの上部Lt以外の部位よりも高い位置に設けられる。連結手段40は、鉛直方向に沿って見て、上部Ltと重ならない。つまり、連結手段40は、上部Ltの外側に位置する。これにより、連結手段40を下方からのぞき込むように目視することができる。よって、連結手段40の状態を確認しやすくすることができる。例えば、連結手段40が上沓10及び下沓20から外れて連結手段40の交換作業が必要となった際に、作業者が立ったまま交換作業を行うことができる。よって、免振装置100の管理のしやすさをより向上することができる。
【0065】
また、連結手段40は、免振装置100への水平力が所定値より大きい場合、下部構造体Lに向かって移動することで、上沓10と下沓20との連結を解除することができる。所定値を、例えば、レベル1地震動によって付加される水平力の大きさとすることで、レベル1以上の地震に相当する水平力に対してのみ免振装置100を作動させることができる。連結手段40が下部構造体Lに向かって移動することで上沓10と下沓20との連結を解除することができることで、連結手段40による連結が解除されたか否かを、目視により容易に確認することができる。よって、免振装置100の管理のしやすさをより向上することができる。
【0066】
また、収納手段50は、下部構造体Lに向かって移動した連結手段40を収納することができる。これにより、作業者は、収納手段50を目視することによって、連結手段40による連結が解除されたか否かを確認することができる。よって、免振装置100の管理のしやすさを更に向上することができる。
【0067】
また、連結手段40に含まれる当接手段41aは、水平力が所定値より大きくない場合、上沓10と当接し、水平力が所定値より大きい場合、上沓10と当接しなくなる。このように、連結手段40を簡単な構造とすることで、連結手段40を低コストとすることができる。連結手段40を交換容易とすることができる。水平力が所定値を超えたことによる連結の解除を物理的な作用に委ねることで、所定値のバラツキを少なくすることができる。
【0068】
また、当接手段41aの当接面41asであって上沓10と当接する当接面41asは、球面である。これにより、例えば、当接面41asが角柱の辺からなる場合と比較して、水平力によって連結手段40が上沓10に食い込むように力が作用することを抑えることができる。よって、連結手段40による連結の解除をしやすくすることができる。
【0069】
また、当接手段41aは、水平力が所定値より大きい場合に、塑性変形手段を塑性変形させることで、上沓10と当接しなくなるとともに、下部構造体Lに向かって移動する。つまり、所定値は、塑性変形手段の弾性限界である。このように、所定値を塑性変形手段の物性値によって定めることで、所定値のバラツキを小さくすることができる。
【0070】
また、収納手段50に収納された連結手段40を収納手段50とともに取り外す取り外しステップと、取り外しステップの後、下沓20の下側から、新たな連結手段40を取り付ける取り付けステップと、を備える。これにより、連結手段40の交換作業を容易に行うことができる。よって、免振装置100のメンテナンス性を向上することができる。
【0071】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、当接手段41aは、球体に限らない。例えば、当接手段41aは、当接面41asのみ球面として、下方は球面でなくてもよい。
当接手段41aの当接面41asは、球面に限らない。例えば、当接面41asに代えて、角柱状の部材における、側面同士の間に位置する辺が、上沓10に当接してもよい。
【0072】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 上沓
10a 滑り面
20 下沓
20a 滑り面
30 スライダー
30a 滑り面
40 連結手段
41a 当接手段
41as 当接面
50 収納手段
100 免振装置
L 下部構造体
Lt 上部