(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】グリース
(51)【国際特許分類】
C10M 169/02 20060101AFI20240430BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240430BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20240430BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240430BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240430BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20240430BHJP
C10M 105/18 20060101ALN20240430BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20240430BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20240430BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20240430BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240430BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240430BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
C10M169/02
F16C19/06
F16C33/76 A
F16C33/58
F16C33/66 Z
F16J15/16 B
C10M105/18
C10M105/32
C10M107/02
C10M115/08
C10N20:02
C10N40:02
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2023104296
(22)【出願日】2023-06-26
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022122803
(32)【優先日】2022-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】天利 裕行
(72)【発明者】
【氏名】花岡 水慧
(72)【発明者】
【氏名】村上 孝志
(72)【発明者】
【氏名】中里 朋也
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-074101(JP,A)
【文献】特開2011-140631(JP,A)
【文献】特開2012-126880(JP,A)
【文献】特開2008-280476(JP,A)
【文献】特開2008-285575(JP,A)
【文献】特開2010-209129(JP,A)
【文献】特開2013-035946(JP,A)
【文献】特開2004-218789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に配置された内輪および外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、
前記転動体を転動可能に保持する保持器と、
前記内輪および前記外輪のうち固定輪のみに装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、を備える小型モータ用の外径30mm以下の小型転がり軸受に封入されるグリースであって、
基油はポリαオレフィン、エステルおよびエーテルのうち少なくとも1種を含む合成油であり、
脂環族ウレアを含む増ちょう剤で増粘され、
前記転動体と前記シール部材との間に配置され、前記固定輪における、前記内輪および前記外輪のうち回転輪に対向する周面と前記シール部材とのうち少なくともいずれか一方に接触するとともに前記回転輪および前記保持器には非接触となり、または前記保持器に配置され、前記転動体、前記固定輪および前記回転輪のいずれにも非接触となり、
不混和ちょう度が197以上287未満であり、
混和ちょう度と不混和ちょう度との差が50未満である
グリース。
【請求項2】
混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満である、
請求項1に記載のグリース。
【請求項3】
85℃で18時間放置後の不混和ちょう度が158よりも大きい、
請求項1または請求項2に記載のグリース。
【請求項4】
前記シール部材が、
前記固定輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、
前記台座部における
径方向の前記回転輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、
前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記回転輪に向かって
前記径方向に沿って延びる平面部と、
を有する前記転がり軸受に封入されており、
前記台座部および前記延出部のうち少なくともいずれか一方に接触している、
請求項1または請求項2に記載のグリース。
【請求項5】
前記増ちょう剤のみで増粘される、
請求項1または請求項2に記載のグリース。
【請求項6】
前記シール部材が、
前記固定輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、
前記台座部における
径方向の前記回転輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、
前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記回転輪に向かって
前記径方向に沿って延びる平面部と、
を有する前記転がり軸受に封入されており、
前記固定輪の前記周面に接触した軌道輪接触部と、
前記軌道輪接触部よりも前記軸方向の外側、かつ前記回転輪側で前記平面部に接触したシール部材接触部と、
を有し、
前記シール部材接触部の面積が前記シール部材のうち前記延出部および前記台座部への接触面積よりも大きくなるように配置された、
請求項1または請求項2に記載のグリース。
【請求項7】
前記シール部材接触部は、前記軸方向から見て前記グリースにおける
前記径方向の中心位置を含む、
請求項6に記載のグリース。
【請求項8】
前記延出部に対して非接触である、
請求項6に記載のグリース。
【請求項9】
前記軌道輪接触部は、前記固定輪と前記台座部との接触部に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられている、
請求項6に記載のグリース。
【請求項10】
前記台座部に対して非接触である、
請求項6に記載のグリース。
【請求項11】
前記固定輪が前記回転輪側に突出するとともに軌道面が形成された突出部を有し、
前記突出部が前記軸方向の外側を向くとともに
径方向の前記回転輪側の周縁において前記周面に接続し、前記台座部に接触する端面を有し、
前記台座部が前記軸方向から見て前記端面よりも前記回転輪側に突出しないように配置された前記転がり軸受に封入された、
請求項6に記載のグリース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受として一対の軌道輪(内輪および外輪)の間にグリースを保持するものがある。この種の転がり軸受においては、グリースの抵抗が回転抵抗を増大させる要因となる場合がある。ところで、転がり軸受においては、搭載される回転機器の省電力化を目的として回転抵抗の低減が望まれる。特にファンモータ等の各種モータで使用される小型の転がり軸受においては、回転抵抗の低減の要望が強い。
【0003】
転がり軸受の回転抵抗を低減するために、相対回転し合う部材の両方に接触するグリースの量を低減することが有効である。そこで転がり軸受の固定輪(多くの場合で外輪)における軸方向の端部や、この端部側に配置されるシール部材にグリースを塗布し、転動体(玉)および転動体を保持する保持器に接触するグリースの量の低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の転がり軸受では、グリースは、外輪の転動体に接触する軌道面を避けた内周面に付着し、かつ、内輪の外周面に接触しないように、外輪の内周面側に偏って円環状に封入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、転動体および保持器に接触するグリースの量を低減させると、摺動部へのグリースの供給が不足して、転がり軸受の長期耐久性の低下に繋がるおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、長期耐久性に優れた転がり軸受を形成できるグリースを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るグリースは、互いに同軸に配置された内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転動体と、前記内輪および前記外輪のうち一方の軌道輪に装着され、前記内輪と前記外輪との間を軸方向の外側から覆うシール部材と、を備える転がり軸受に封入されるグリースであって、前記転動体と前記シール部材との間に配置され、前記一方の軌道輪における、前記内輪および前記外輪のうち他方の軌道輪に対向する周面、並びに前記シール部材のうち少なくともいずれか一方に接触、または前記転動体を転動可能に保持する保持器に配置され、不混和ちょう度が178より大きく287未満である。
【0008】
第1の態様によれば、グリースのうち転動体および保持器に接触していない部分が比較的柔らかく、外部へ離油し易い状態となる。このため、グリースのうち転動体または保持器に接触している部分の基油が不足しそうになっても、グリースのうち転動体および保持器に接触していない内部から基油が外部に染み出てきて、基油を継続して摺動部に供給できる。また、グリースが転動体および保持器に接触しないように塗布されている状態であっても、グリースの表面から基油を摺動部に供給できると共に、グリースの内部からもグリースの表面に基油が染み出てきて、基油を摺動部に供給できる。このため、転がり軸受の回転抵抗の低減を図るためにグリースを転動体および保持器から離れた位置に配置した場合にも、基油を長期にわたって摺動部に供給でき、転がり軸受の耐久性を向上させることができる。したがって、長期耐久性に優れた転がり軸受を形成できる。
また、不混和ちょう度が287未満であることで、グリースの重力による垂れや連れ回り等による過度の変形を抑制でき、グリースのうち転動体および保持器に接触していない部分の形状を初期形状のまま維持できる。これにより、転がり軸受毎にグリースの形状が相違して回転抵抗にばらつきが生じることを抑制できる。
【0009】
本発明の第2の態様に係るグリースは、上記第1の態様に係るグリースにおいて、混和ちょう度と不混和ちょう度との差が50未満であってもよい。
【0010】
第2の態様によれば、グリースのうち転動体および保持器に接触してない部分の柔らかさが、グリースのうち転動体および保持器に接触している部分の柔らかさに近くなる。これにより、グリースのうち転動体または保持器に接触する部分と、転動体および保持器に接触しない部分と、で基油の染み出し具合の差が小さくなる。したがって、長期にわたって転がり軸受の回転抵抗を安定させることができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係るグリースは、上記第1の態様または第2の態様に係るグリースにおいて、混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満であってもよい。
【0012】
第3の態様によれば、グリースのうち転動体および保持器に接触してない部分の柔らかさが、グリースのうち転動体または保持器に接触している部分の柔らかさに近くなる。これにより、グリースのうち転動体または保持器に接触する部分と、転動体および保持器に接触しない部分と、で基油の染み出し具合の差が小さくなる。したがって、長期にわたって転がり軸受の回転抵抗を安定させることができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係るグリースは、上記第1の態様から第3の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、増ちょう剤はウレアを含んでいてもよい。
【0014】
第4の態様によれば、耐熱性が高いグリースとなるので、耐久性の高い転がり軸受を形成できる。
【0015】
本発明の第5の態様に係るグリースは、上記第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、85℃で18時間放置後の不混和ちょう度が158よりも大きくてもよい。
【0016】
第5の態様によれば、グリースが高温に晒されたり長時間放置されたりしても、基油の染み出しが円滑に行われる程度にグリースの硬化の度合いを設定できる。したがって、耐久性の高い転がり軸受を形成できる。
【0017】
本発明の第6の態様に係るグリースは、上記第1の態様から第5の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、前記シール部材が、前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、前記台座部における前記他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、を有する前記転がり軸受に封入されており、前記台座部および前記延出部のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよい。
【0018】
第6の態様によれば、グリースを所定の箇所に塗布した後、シール部材を一方の軌道輪に装着する際に、シール部材のうち平面部よりも軸方向の内側に位置する台座部および延出部によってグリースが軸方向の内側に押される場合がある。台座部および延出部は、平面部よりも転動体および保持器に近い位置にあるので、シール部材を装着する際にグリースが転動体および保持器側に押されて転動体または保持器に接触しやすい。ここで、従来のように不混和ちょう度が比較的小さい(硬い)グリースでは、シール部材によって軸方向内側に押された際に僅かな変形は伴うものの軸方向内側にグリース全体が移動して、転動体または保持器に所望の量以上に接触する可能性がある。第6の態様によれば、グリースの不混和ちょう度が比較的大きい(軟らかい)ので、グリースがシール部材によって軸方向内側に押された際に径方向にも変形しやすく、グリースの軸方向内側への移動を抑えて、グリースが転動体または保持器に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、上述した作用効果が有効に奏功される。
【0019】
本発明の第7の態様に係るグリースは、上記第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、前記シール部材が、前記一方の軌道輪に前記軸方向の外側から接触する環状の台座部と、前記台座部における前記他方の軌道輪側の周縁から前記軸方向の外側に延びる延出部と、前記延出部における前記軸方向の外側の端縁から前記他方の軌道輪に向かって径方向に沿って延びる平面部と、を有する前記転がり軸受に封入されており、前記一方の軌道輪の前記周面に接触した軌道輪接触部と、前記軌道輪接触部よりも前記軸方向の外側、かつ前記他方の軌道輪側で前記平面部に接触したシール部材接触部と、を有し、前記シール部材接触部の面積が前記シール部材のうち前記延出部および前記台座部への接触面積よりも大きくなるように配置されていてもよい。
【0020】
第7の態様によれば、グリースを所定の箇所に塗布した後、シール部材を装着する際に、シール部材の平面部によって軸方向の内側に押されたグリースが延出部および台座部に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリースが一方の軌道輪側および転動体側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体および一方の軌道輪に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、シール部材には平面部と台座部との間に延出部が設けられているので、平面部が台座部から径方向に沿って延びる構成と比較して、グリースを転動体からより離れた位置に配置できる。よって、グリースの増量を図ることができる。
以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減が両立された転がり軸受を形成できる。
【0021】
本発明の第8の態様に係るグリースは、上記第7の態様に係るグリースにおいて、前記シール部材接触部は、前記軸方向から見て前記グリースにおける径方向の中心位置を含んでいてもよい。
【0022】
第8の態様によれば、シール部材を装着する際に、グリースが平面部に押されることで径方向に広がった結果、シール部材接触部が平面視でグリースにおける径方向の中心位置を含むので、グリースが転動体に向けて軸方向の内側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体に直接的に接触することを容易に抑制できる。
【0023】
本発明の第9の態様に係るグリースは、上記第7の態様または第8の態様に係るグリースにおいて、前記延出部に対して非接触であってもよい。
【0024】
第9の態様によれば、シール部材を装着する際に、シール部材の平面部によって軸方向の内側に押されたグリースが延出部に向けて径方向に広がる余地をより大きく設けることができる。このため、グリースが一方の軌道輪側、および転動体側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリースが転動体、保持器および一方の軌道輪に必要以上に接触することを容易に抑制できる。
【0025】
本発明の第10の態様に係るグリースは、上記第7の態様から第9の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、前記軌道輪接触部は、前記一方の軌道輪と前記台座部との接触部に対して前記軸方向に間隔をあけて設けられていてもよい。
【0026】
第10の態様によれば、グリースが軌道輪と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリースが軌道輪と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0027】
本発明の第11の態様に係るグリースは、上記第7の態様から第10の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、前記台座部に対して非接触であってもよい。
【0028】
第11の態様によれば、グリースが軌道輪と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリースが軌道輪と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0029】
本発明の第12の態様に係るグリースは、上記第7の態様から第11の態様のいずれかの態様に係るグリースにおいて、前記一方の軌道輪が前記他方の軌道輪側に突出するとともに軌道面が形成された突出部を有し、前記突出部が前記軸方向の外側を向くとともに前記他方の軌道輪側の周縁において前記周面に接続し、前記台座部に接触する端面を有し、前記台座部が前記軸方向から見て前記端面よりも前記他方の軌道輪側に突出しないように配置された前記転がり軸受に封入されていてもよい。
【0030】
第12の態様によれば、グリースの軌道輪接触部が軸方向の外側に広がって端面の周縁を乗り越えた場合でも、グリースが台座部に付着することを抑制できる。このため、グリースが軌道輪と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリースが軌道輪と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、長期耐久性に優れた転がり軸受を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
【
図2】
図1のII-II線における縦断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るグリースの塗布方法を説明する転がり軸受の縦断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るグリースの塗布方法を説明する転がり軸受の縦断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【
図7】グリースが配置された保持器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0034】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態について
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受の平面図である。
図2は、
図1のII-II線における縦断面図である。なお
図2では、転がり軸受1が装着される回転機器2を仮想線で示している。
【0035】
図1および
図2に示すように、転がり軸受1は、軌道輪である内輪10および外輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、一対のシール部材50と、を備えたラジアル玉軸受である。転がり軸受1は、ファンモータ等の回転機器2に設けられている。回転機器2は、共通軸線Oを中心に回転可能に形成されたシャフト3(回転体)と、固定的に設置されてシャフト3を回転可能に支持する筐体4(支持体)と、を備える。転がり軸受1は、シャフト3と筐体4との間に介在している。
【0036】
内輪10および外輪20は、それぞれの中心軸線が共通軸線Oに一致するように、互いに同軸に配置されている。本実施形態では、共通軸線Oの延びる方向を軸方向といい、共通軸線Oに直交して共通軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、共通軸線O回りに周回する方向を周方向という。また、軸方向に平行、かつ互いに反対方向を指向する方向のうち一方を上方と定義し、他方を下方と定義する。
【0037】
内輪10は、回転輪として設けられている。内輪10は、シャフト3に外挿されるとともに、シャフト3に固定される。外輪20は、固定輪として設けられている。外輪20は、筐体4の凹部(または貫通孔)に嵌入されるとともに、筐体4に固定される。外輪20は、内輪10との間に環状の空間を設けた状態で、内輪10を径方向の外側から囲んでいる。複数の転動体30は、内輪10と外輪20との間に配置されるとともに、保持器40によって転動可能に保持されている。保持器40は、複数の転動体30を周方向に均等配列させた状態で、各転動体30を回転可能に保持している。シール部材50は、外輪20に装着され、内輪10と外輪20との間の環状の空間を軸方向の外側から覆っている。
【0038】
外輪20は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、外輪20は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。外輪20は、軸方向に沿った幅が、内輪10の軸方向に沿った幅と同等とされた外輪本体21と、外輪本体21から径方向の内側に向かって突出するとともに周方向の全体にわたって延びる突出部22と、を有する。突出部22は、外輪本体21における軸方向の中央に位置する部分に形成されている。突出部22の軸方向に沿った幅は、外輪本体21の軸方向に沿った幅よりも短く、転動体30の外径よりも大きい。
【0039】
突出部22は、軸方向の外側を向く一対の端面22aと、一対の端面22aの内周縁同士を接続する内周面22bと、を備える。各端面22aは、径方向および周方向の双方向に平行に延びている。内周面22bには、径方向の外側に向かって窪む外輪軌道面23が形成されている。外輪軌道面23は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、内周面22bの全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。外輪軌道面23は、内周面22bのうち、軸方向の中央に位置する部分に形成されている。内周面22bのうち外輪軌道面23を除く部分は、一定の内径で軸方向に延びている。
【0040】
外輪本体21は、突出部22の各端面22aの外周縁から外輪20の開口縁まで延びる一対の内周面21aを有する。各内周面21aにおける軸方向の内側に位置する部分は、軸方向の外側に位置する部分よりも径方向の外側に位置している。
【0041】
内輪10は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により円環状に形成されている。ただし、内輪10は金属製に限定されるものではなく、その他の材料によって形成されていても構わない。内輪10の外周面には、径方向の内側に向かって窪む内輪軌道面11が形成されている。内輪軌道面11は、転動体30の外表面に沿うように断面視半球状に形成されているとともに、外周面の全周に亘って周方向に延びる環状に形成されている。内輪軌道面11は、内輪10の外周面のうち、軸方向の中央に位置する部分に形成され、外輪軌道面23に対して径方向に向い合うように配置されている。内輪10の外周面のうち内輪軌道面11を除く部分は、一定の外径で軸方向に延びている。
【0042】
図2に示すように、複数の転動体30は、ステンレス鋼や軸受鋼等の金属材料により球状に形成されている。複数の転動体30は、外輪軌道面23と内輪軌道面11との間に配置され、外輪軌道面23および内輪軌道面11によって転動可能に支持される。複数の転動体30は、保持器40によって周方向の間隔を保たれている。
【0043】
保持器40は、合成樹脂または金属材料により全体として円環状に形成されている。保持器40は、共通軸線Oを中心として配置されている。保持器40は、円環状に形成されて複数の転動体30に対して下方に配置された環状部41と、環状部41から上方に突設されているとともに周方向に間隔をあけて設けられた複数の柱部42と、を備える。柱部42は、周方向に均等に配列されている。周方向に隣り合う一対の柱部42は、互いの間にボールポケットを形成している。ボールポケットは、保持器40を径方向に貫通するとともに、保持器40の上端面において上方に開口している。ボールポケットは、転動体30の数に対応して設けられ、転動体30を各別に転動可能に保持する。これにより保持器40は、転動体30を周方向に間隔をあけて均等配列させる。保持器40は、内輪10および外輪20に干渉しないように、内輪10および外輪20に対して隙間をあけて配置されている。本実施形態では、保持器40の全体は、外輪20の突出部22の一対の端面22aよりも軸方向の内側に位置している。
【0044】
図1および
図2に示すように、シール部材50は、円環の板状に形成されている。シール部材50は、共通軸線Oを中心として配置されている。シール部材50は、全周にわたって一様に形成されている。シール部材50は、外輪20に軸方向の外側から嵌入されている。シール部材50は、複数の転動体30に対する軸方向の両側に1つずつ配置されている。シール部材50は、外輪20に軸方向の外側から接触する環状の台座部51と、台座部51の内周縁から軸方向の外側に延びる延出部52と、延出部52における軸方向の外側の端縁から内輪10に向かって径方向に沿って延びる平面部53と、台座部51の外周縁から径方向の外側かつ軸方向の外側に延びた係止部54と、を有する。
【0045】
図2に示すように、台座部51は、外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から重なっている。台座部51は、外輪20の突出部22の端面22aと略平行に延びている。台座部51は、軸方向から見た平面視で突出部22の端面22aよりも径方向内側に突出している。台座部51が突出部22の端面22aから径方向内側に突出した距離は、内輪10と外輪20との径方向の間隔の10%以下であり、5%以下であることが望ましい。延出部52は、台座部51の内周縁から軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。平面部53は、平面視で転動体30の中心に重なっている。平面部53の内周縁は、内輪10の外周面に隙間をあけて配置されている。平面部53のうち軸方向の内側を向く面は、周方向および径方向に延びる平坦面である。係止部54の外周縁は、外輪本体21の内周面21aに軸方向の内側から係止されている。これにより、シール部材50は、外輪20に固定され、内輪10に対して外輪20と一体回転する。
【0046】
転がり軸受1には、グリース60が封入されている。グリース60は、基油および増ちょう剤を含有しており、撹拌されてせん断を受けることにより増ちょう剤に保持された基油が染み出して摺動部に潤滑効果を付与する。グリース60は、転動体30とシール部材50との間に配置されている。グリース60は、内輪10と外輪20との間の環状の空間のうち、転動体30に対する軸方向の片側のみに配置されている。本実施形態では、グリース60は、軸方向で転動体30を挟んで保持器40の環状部41とは反対側に配置されている。つまり、グリース60は、転動体30に対する上方に配置されている。グリース60は、周方向に沿って配置されている。グリース60は、円環状または円弧状に延び、共通軸線Oと同軸に配置されている。
【0047】
グリース60は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部61(軌道輪接触部)と、外輪接触部61よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部62と、を備える。これら外輪接触部61およびシール部材接触部62は、グリース60の全長にわたって周方向に延びている。外輪接触部61は、周方向の全体にわたって軸方向に幅を持つ。外輪接触部61は、突出部22の内周面22bのうち外輪軌道面23から軸方向に間隔をあけた箇所に接触している。外輪接触部61は、突出部22の内周面22bのうち上方の端面22aの内周縁から軸方向に間隔をあけた箇所に接触している。すなわち、外輪接触部61は、外輪20とシール部材50の台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。シール部材接触部62は、周方向の全体にわたって径方向に幅を持つ。シール部材接触部62は、シール部材50における延出部52と平面部53との接続部から径方向に間隔をあけた箇所において平面部53と接触している。
【0048】
グリース60は、外輪接触部61からシール部材接触部62に向けて、軸方向の外側かつ径方向の内側に延びている。グリース60は、内面63および外面64を備える。
内面63は、外輪接触部61における軸方向内側の端縁と、シール部材接触部62における径方向内側の端縁と、を接続している。内面63は、内輪10の外周面、および転動体30に対向している。内面63の上半部は、シール部材接触部62における径方向内側の端縁から軸方向の内側かつ径方向内側に延びている。内面63の下半部は、外輪接触部61における軸方向内側の端縁から軸方向の外側かつ径方向内側に延び、上半部における下端縁に接続している。内面63の上半部および下半部の境界部は、グリース60における最も径方向の内側に位置する内周縁を形成している。内面63は、内輪10、転動体30および保持器40から離間している。これにより、グリース60は、内輪10、転動体30および保持器40に対して非接触とされている。
【0049】
外面64は、外輪接触部61における軸方向外側の端縁と、シール部材接触部62における径方向外側の端縁と、を接続している。外面64は、外輪20の突出部22の内周面22b、およびシール部材50に対向している。外面64は、シール部材接触部62における径方向外側の端縁から軸方向の内側かつ径方向外側に延びて、外輪接触部61における軸方向外側の端縁に接続している。外面64は、シール部材50の台座部51および延出部52から離間している。これにより、グリース60は、シール部材50のうち平面部53よりも外輪20側に位置する台座部51および延出部52に対して非接触とされている。
【0050】
グリース60は、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されている。本実施形態では、グリース60は、内面63の上半部に対応する部分で、軸方向外側の端部から軸方向の内側に向かうに従い、共通軸線Oの垂直面に沿う断面の断面積が漸次増加するように形成されている。
【0051】
なおグリース60は、転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触してもよい。例えば、グリース60は、転動体30および保持器40に対して非接触の初期状態から、経時変化により転動体30および保持器40のうち少なくともいずれか一方に接触してもよい。
【0052】
グリース60の構成について説明する。なおグリース60は、必要に応じて基油および増ちょう剤以外の他の成分を含んでもよい。
【0053】
基油としては、特に限定されないが、鉱油や合成油等が挙げられる。鉱油としては、基油として用いられる公知の鉱油を使用でき、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、水素化系鉱油、溶剤精製鉱油、高精製鉱油等が挙げられる。鉱油は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。例えば、複数種類の鉱油を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0054】
合成油としては、基油として用いられる公知の合成油を使用でき、例えば、ポリαオレフィン(PAO)や、ポリブテン等の脂肪族炭化水素油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素油、ポリオールエステル、リン酸エステル等のエステル油、ポリフェニルエーテル等のエーテル油、ポリアルキレングリコール油、シリコーン油、フッ素油等が挙げられる。これらの合成油は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。例えば、複数種類の合成油を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0055】
増ちょう剤は、グリース60を半固体状に保つ役割を果たす。増ちょう剤としては、転がり軸受用グリースに通常使用される公知の増ちょう剤を制限なく使用できる。増ちょう剤としては、例えば、ウレア化合物や、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、複合リチウムセッケン、複合カルシウムセッケン、シリカゲル、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト等が挙げられる。増ちょう剤としては、耐熱性に優れる点から、ウレア化合物が好ましい。増ちょう剤は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。例えば、複数種類の増ちょう剤を混合し、目的の性状に調整してもよい。
【0056】
本実施形態のグリース60の不混和ちょう度は、178より大きく287未満である。グリース60の混和ちょう度と不混和ちょう度との差は、50未満であることが好ましい。グリース60の混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満であることが好ましい。85℃で18時間放置後のグリース60の不混和ちょう度は、158よりも大きいことが好ましい。なお以下の説明では、85℃で18時間放置することを高温放置と称する。
【0057】
次に、本実施形態の転がり軸受1の製造方法について説明する。
本実施形態の転がり軸受1の製造方法は、塗布工程と、シール工程と、を備える。
【0058】
図3および
図4は、第1実施形態に係るグリースの塗布方法を説明する転がり軸受の縦断面図である。
図3に示すように、塗布工程は、シール部材50が外輪20に取り付けられていない状態で行う。すなわち、内輪10と外輪20との間の環状の空間が軸方向に開放され、転動体30および保持器40が露出した状態でグリース60が塗布される。塗布工程では、ノズルAを外輪20に対して共通軸線Oを中心に回転させながらノズルAからグリース60を吐出する。このとき、ノズルAからグリース60が径方向の外側かつ軸方向の内側に吐出されるようにノズルAの向きを調整する。さらに、吐出したグリース60を外輪20の突出部22の内周面22bの所定位置に接触させ、かつグリース60が転動体30および保持器40に接触しないようにノズルAの位置を調整する。ノズルAを外輪20に相対回転させながらグリース60を吐出するので、外輪20に塗布されたグリース60は円周状または円弧状に延在する。また、グリース60は、ノズルAからの吐出方向に倣い、外輪20との接触部から軸方向の外側かつ径方向の内側に突出するように塗布される。塗布されたグリース60の軸方向外側の端面は、軸方向の外側に膨らんだ凸状に形成される。
【0059】
続いて、シール工程を行う。
図4に示すように、シール工程では、シール部材50を軸方向の外側から外輪20に接近させて、シール部材50を外輪20に装着する。シール部材50を軸方向の内側に変位させる過程で、台座部51が外輪20の突出部22の端面22aに接触する前に、最初にグリース60全体のうち軸方向外側の端縁にシール部材50の平面部53を接触させる。この際、平面部53のうち径方向中間部にグリース60を接触させる。なお、径方向中間部は、平面部53の外周縁よりも径方向内側、かつ内周縁よりも径方向外側に位置していればよい、その後、シール部材50をさらに外輪20に接近させて台座部51を外輪20の突出部22の端面22aに軸方向の外側から接触させる。この際、シール部材50の平面部53でグリース60を軸方向の内側に押す。これにより、グリース60が平面部53に押されることで径方向に広がり、グリース60のシール部材接触部62が形成される。
【0060】
以上により、転がり軸受1が形成される。なお、本実施形態の塗布工程では、ノズルAを外輪20に対して回転させながらグリース60を塗布しているが、周方向に延びる吐出孔を有するノズルからグリースを吐出して、グリースを円周状または円弧状に一括して塗布してもよい。
【0061】
本実施形態の作用について説明する。
グリース60は、転動体30とシール部材50との間に配置されており、大部分(または全体)が転動体30および保持器40に接触していない。すなわち、グリース60のうち転動体30または保持器40に接触して転がり軸受1の稼働時にせん断を受ける部分は僅かであり、転動体30および保持器40にグリース60が接触していない場合もある。
【0062】
ここで、グリースは、せん断を受けていない状態(混和されていない状態)と、せん断を受けている状態(混和されている状態)と、で硬さが異なる。一般的にはグリースはせん断を受けることで柔らかくなる。このため、グリース60のうち内輪10、転動体30または保持器40に接触する部分は、転動体30または保持器40からせん断を受け続けて柔らかくなり、基油の染み出しを促進する。一方で、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触しない部分は、硬い状態のままとなる。グリース60のうち転動体30または保持器40に接触する部分が僅かの場合、転動体30または保持器40によってせん断を受ける部分から染み出す基油が不足すると、グリース60の大部分が撹拌されず硬い状態のままであるから基油の供給が不十分となり、転がり軸受1の寿命に至る。グリース60の全体が転動体30および保持器40に接触していない場合も同様である。
【0063】
ところで、グリースの硬さに関する性状を示す指標として、混和ちょう度および不混和ちょう度がある。混和ちょう度は、せん断を受けた直後のグリースの硬さの指標である。このため、混和ちょう度の測定時のグリースの状態は、転がり軸受においてグリースのうち転動体または保持器に接触してせん断を受ける部分の状態に近い。一方で、不混和ちょう度は、せん断を受けていない状態のグリースの硬さの指標である。このため、不混和ちょう度の測定時のグリースの状態は、転がり軸受においてグリースのうち転動体および保持器に接触してない部分の状態に近い。
【0064】
本実施形態のグリース60は、外輪20の内周面およびシール部材50に接触している。グリース60の不混和ちょう度は、178より大きく287未満である。この構成によれば、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触していない部分が比較的柔らかく、外部へ離油し易い状態となる。このため、グリース60のうち転動体30または保持器40に接触している部分の基油が不足しそうになっても、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触していない内部から基油が外部に染み出てきて、基油を継続して摺動部に供給できる。また、グリース60が転動体30および保持器40に接触しないように塗布されている状態であっても、グリース60の表面から基油を摺動部に供給できると共に、グリース60の内部からもグリース60の表面に基油が染み出てきて、基油を摺動部に供給できる。このため、転がり軸受1の回転抵抗の低減を図るためにグリース60を転動体30および保持器40から離れた位置に配置した場合にも、基油を長期にわたって摺動部に供給でき、転がり軸受1の耐久性を向上させることができる。したがって、長期耐久性に優れた転がり軸受1を形成できる。
【0065】
また、不混和ちょう度が287未満であることで、グリース60の重力による垂れや連れ回り等による過度の変形を抑制でき、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触していない部分の形状を初期形状のまま維持できる。これにより、転がり軸受1毎にグリース60の形状が相違して回転抵抗にばらつきが生じることを抑制できる。
【0066】
また、グリース60が外輪20の内周面に接触しているので、グリース60を外輪軌道面23に供給しやすい。したがって、基油を長期にわたって外輪20と転動体30との摺動部に供給でき、転がり軸受1の耐久性を向上させることができる。
【0067】
さらに本実施形態では、グリース60が外輪20の内周面およびシール部材50の両方に接触している。この構成においては、グリース60を外輪20と内輪10との間に封入する際に、グリース60が外輪20に塗布された後、シール部材50を外輪20に装着する際にグリース60がシール部材50に軸方向内側に押される。ここで、従来のように不混和ちょう度が比較的小さい(硬い)グリースでは、シール部材によって軸方向内側に押された際に僅かな変形は伴うものの軸方向内側にグリース全体が移動して、転動体30または保持器40に所望の量以上に接触する可能性がある。本実施形態では、グリース60の不混和ちょう度が比較的大きい(軟らかい)ので、グリース60がシール部材50によって軸方向内側に押された際に径方向にも変形しやすく、グリース60の軸方向内側への移動を抑えて、グリース60が転動体30または保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受1の回転抵抗の増大を抑制できる。
【0068】
また、グリース60の混和ちょう度と不混和ちょう度との差が50未満であるため、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触してない部分の柔らかさが、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触している部分の柔らかさに近くなる。これにより、グリース60のうち転動体30または保持器40に接触する部分と、転動体30および保持器40に接触しない部分と、で基油の染み出し具合の差が小さくなる。したがって、長期にわたって転がり軸受1の回転抵抗を安定させることができる。
【0069】
また、グリース60の混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満であるため、グリース60のうち転動体30および保持器40に接触してない部分の柔らかさが、グリース60のうち転動体30または保持器40に接触している部分の柔らかさに近くなる。これにより、グリース60のうち転動体30または保持器40に接触する部分と、転動体30および保持器40に接触しない部分と、で基油の染み出し具合の差が小さくなる。したがって、長期にわたって転がり軸受1の回転抵抗を安定させることができる。
【0070】
グリース60の増ちょう剤はウレアを含む。この構成によれば、耐熱性が高いグリースとなるので、回転抵抗が小さく、かつ耐久性の高い転がり軸受1を形成できる。なお、一般的には、増ちょう剤としてウレアを用いたグリースにおいて混和ちょう度と不混和ちょう度との差が大きくなりやすいところ、ウレアの種類の選定や、複数種類のウレアの混合、ウレアの生成条件、添加剤等を調整することで、上述したちょう度の条件を満たすグリースが得られる。
【0071】
85℃で18時間放置後のグリース60の不混和ちょう度が158よりも大きいので、グリース60が高温に晒されたり長時間放置されたりしても、基油の染み出しが円滑に行われる程度にグリース60の硬化の度合いを設定できる。したがって、耐久性の高い転がり軸受1を形成できる。
【0072】
グリース60は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部61と、外輪接触部61よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部62と、を有する。シール部材接触部62の面積は、グリース60とシール部材50のうち延出部52および台座部51との接触面積よりも大きい。この構成によれば、グリース60を所定の箇所に塗布した後、シール部材50を装着する際に、シール部材50の平面部53によって軸方向の内側に押されたグリース60が延出部52および台座部51に向けて径方向に広がる余地を設けることができる。このため、グリース60が内輪10側および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30および保持器40に直接的に接触することを容易に抑制できる。
しかも、シール部材50には平面部53と台座部51との間に延出部52が設けられているので、平面部が台座部から径方向内側に延びる構成と比較して、グリース60を転動体30からより離れた位置に配置できる。よって、グリース60の増量を図ることができる。
以上により、耐久性の確保、および回転抵抗の低減が両立された転がり軸受1を形成できる。
【0073】
また、シール部材接触部62は、平面視でグリース60における径方向の中心位置を含む。この構成によれば、シール部材50を装着する際に、グリース60が平面部53に押されることで径方向に広がった結果、シール部材接触部62が平面視でグリース60における径方向の中心位置を含むので、グリース60が転動体30に向けて軸方向の内側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30に直接的に接触することを容易に抑制できる。
【0074】
グリース60は、延出部52に対して非接触である。この構成によれば、シール部材50を装着する際に、シール部材50の平面部53によって軸方向の内側に押されたグリース60が延出部52に向けて径方向に広がる余地をより大きく設けることができる。このため、グリース60が内輪10側、および転動体30側に大きく広がることを抑制できる。よって、グリース60が転動体30、保持器40および内輪10に必要以上に接触することを容易に抑制できる。
【0075】
外輪接触部61は、外輪20と台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。この構成によれば、グリース60が外輪20と台座部51との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部51との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0076】
グリース60は、台座部51に対して非接触である。この構成によれば、グリース60が外輪20と台座部51との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部51との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材50の外側に漏出することを抑制できる。
【0077】
そして、本実施形態の回転機器2によれば、長期耐久性に優れた転がり軸受1を備えるので、回転機器2の長寿命化を達成することができる。
【0078】
なお第1実施形態では、シール部材50の台座部51が平面視で外輪20の突出部22の端面22aから径方向内側に突出しているが、台座部は平面視で突出部22の端面22aよりも径方向内側に突出しないように配置されていることが望ましい。この構成によれば、グリース60の外輪接触部61が軸方向の外側に広がって端面22aの内周縁を乗り越えた場合でも、グリース60が台座部に付着することを抑制できる。このため、グリース60が外輪20と台座部との接触部に接触することを回避できる。これにより、グリース60が外輪20と台座部との接触部を通じて毛細管現象によりシール部材の外側に漏出することを抑制できる。
【0079】
また、第1実施形態では、グリース60は、シール部材50の台座部51および延出部52に対して非接触とされているが、この構成に限定されない。グリースは、シール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触していてもよい。ここで、台座部51および延出部52は、平面部53よりも軸方向の内側に位置しており、かつ平面部53よりも転動体30および保持器40に近い位置にある。このため、シール部材50を装着する際にグリース60が転動体30および保持器40側に押されて転動体30または保持器40接触しやすいところ、本実施形態ではグリース60の軸方向内側への移動を抑えて、グリース60が転動体30または保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、上述した作用効果が有効に奏功される。ただし、グリース60がシール部材50の台座部51および延出部52のうち少なくともいずれか一方に接触している場合には、シール部材接触部の面積がグリースと延出部52および台座部51との接触面積よりも大きいことが望ましい。
【0080】
[第2実施形態]
次に、
図5を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、転がり軸受1Aが第1実施形態のグリース60に代えてグリース160を備える点で第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0081】
グリース160は、周方向に沿って配置されている。グリース160は、円環状に延び、共通軸線Oと同軸に配置されている。グリース160は、外輪20の突出部22の内周面22bに接触した外輪接触部161を備えるとともに、内輪10、シール部材50、転動体30および保持器40に対して非接触である。外輪接触部161は、グリース160の全長にわたって周方向に延びている。外輪接触部161は、周方向の全体にわたって軸方向に幅を持つ。外輪接触部161は、突出部22の内周面22bのうち外輪軌道面23から軸方向に間隔をあけた箇所に接触している。外輪接触部161は、突出部22の内周面22bのうち上方の端面22aの内周縁から軸方向に間隔をあけた箇所に接触している。すなわち、外輪接触部161は、外輪20とシール部材50の台座部51との接触部に対して軸方向に間隔をあけて設けられている。
【0082】
グリース160の性状は、第1実施形態のグリース60の性状と同様である。すなわち、グリース160の不混和ちょう度は、178より大きく287未満である。グリース160の混和ちょう度と不混和ちょう度との差は、50未満であることが好ましい。グリース160の混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満であることが好ましい。
【0083】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、グリース160がシール部材50に非接触であるので、シール部材50を外輪20に装着する際にグリース160がシール部材50に押されない。これにより、グリース160の軸方向内側への移動を抑えて、グリース160が転動体30または保持器40に必要以上に接触することを抑制できる。したがって、転がり軸受1Aの回転抵抗の増大を抑制できる。
【0084】
なお第2実施形態では、グリース160が円環状に延びているが、この構成に限定されない。グリースは、間欠部が形成されるように円弧状に延びていてもよいし、全周にわたって点状に配置された複数の粒体を備えていてもよい。グリースが複数の粒体を有する場合、周方向に整列した複数の粒体は一体化していてもよいし、互いに離間していてもよい。
【0085】
[第3実施形態]
次に、
図6を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態の転がり軸受1Bは、グリース160Aがシール部材50および転動体30に接触している点で第2実施形態の転がり軸受1Aとは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第2実施形態と同様である。
【0086】
グリース160Aは、外輪接触部161よりも軸方向の外側かつ径方向の内側でシール部材50の平面部53に接触したシール部材接触部162をさらに備えるとともに、内輪10に対して非接触である。シール部材接触部162は、シール部材50のうち平面部53のみに接触している。これにより、グリース160Aは、シール部材50のうち平面部53よりも外輪20側に位置する台座部51および延出部52に対して非接触とされている。グリース160Aは、転動体30に接触している。グリース160Aのうち転動体30に接触する部分の体積は、グリース160A全体の体積に対して半分以下である。なおグリース160Aは、保持器40に接触していてもよい。
【0087】
グリース160Aの性状は、第1実施形態のグリース60の性状と同様である。すなわち、グリース160Aの不混和ちょう度は、178より大きく287未満である。グリース160Aの混和ちょう度と不混和ちょう度との差は、50未満であることが好ましい。グリース160Aの混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満であることが好ましい。
【0088】
本実施形態では、第2実施形態と同様の効果を奏する。これに加え、本実施形態では、グリース160Aが転動体30に接触しているので、転動体30にグリース160Aの基油を直接供給できる。したがって、転がり軸受1Bの回転抵抗の増大を抑制できる。
【0089】
なお第3実施形態では、グリース160Aが円環状に延びているが、この構成に限定されない。グリースは、間欠部が形成されるように円弧状に延びていてもよいし、全周にわたって点状に配置された複数の粒体を備えていてもよい。グリースが複数の粒体を有する場合、周方向に整列した複数の粒体は、一体化していてもよいし、互いに離間していてもよい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0091】
本実施例におけるグリースの粘度は、JIS K2283に準拠して40℃で測定した。本実施例におけるグリースのちょう度は、JIS K2220に規定される方法により測定した。
【0092】
実施例1~3、および比較例1~3の各グリースを以下のように調製した。
【0093】
<実施例1>
エステル油とPAOとを質量比(エステル油/PAO)>1で混合し、動粘度44mm2/sの基油とした。この基油中で増ちょう剤として脂環族ウレアを合成して、混和ちょう度228、不混和ちょう度227、高温放置後の不混和ちょう度188のグリースを得た。
【0094】
<実施例2>
実施例1と同じ基油および増ちょう剤を用い、基油に対する増ちょう剤の比率を調整して、混和ちょう度261、不混和ちょう度255、高温放置後の不混和ちょう度210のグリースを得た。
【0095】
<実施例3>
エーテル油とエステル油とを質量比(エーテル油/エステル油)>1で混合し、動粘度80mm2/sの基油とした。この基油中で脂環族ウレアを合成して、混和ちょう度290、不混和ちょう度274、高温放置後の不混和ちょう度282のグリースを得た。
【0096】
<実施例4>
PAO単体で動粘度48mm2/sの基油とした。この基油中で脂環族ウレアおよび脂肪族ウレアを合成して、混和ちょう度199、不混和ちょう度197、高温放置後の不混和ちょう度200のグリースを得た。
【0097】
<実施例5>
エステル油単体で動粘度100mm2/sの基油とした。この基油中で脂環族ウレアおよび脂肪族ウレアを合成して、混和ちょう度265、不混和ちょう度245、高温放置後の不混和ちょう度244のグリースを得た。
【0098】
<比較例1>
PAO単体で動粘度48mm2/sの基油とした。この基油中で増ちょう剤として脂環族ウレアおよび脂肪族ウレアを合成して、混和ちょう度220、不混和ちょう度170、高温放置後の不混和ちょう度158のグリースを得た。
【0099】
<比較例2>
PAOとエステル油とを質量比(PAO/エステル油)>1で混合し、動粘度22mm2/sの基油とした。この基油中で増ちょう剤として脂環族ウレアおよび脂肪族ウレアを合成して、混和ちょう度232、不混和ちょう度178、高温放置後の不混和ちょう度149のグリースを得た。
【0100】
<比較例3>
実施例1と同じ基油および増ちょう剤を用い、基油に対する増ちょう剤の比率を調整して、混和ちょう度295、不混和ちょう度287、高温放置後の不混和ちょう度236のグリースを得た。
【0101】
<比較例4>
鉱油とPAOとを質量比(鉱油/PAO)≒1で混合し、動粘度52mm2/sの基油とした。この基油中で増ちょう剤として脂環族ウレアおよび脂肪族ウレアを合成して、混和ちょう度248、不混和ちょう度164、高温放置後の不混和ちょう度155のグリースを得た。
【0102】
上記実施例1~5および比較例1,2,4の各グリースについて、以下の条件で転がり軸受の耐久試験を行った。なお、比較例3のグリースは、下記の転がり軸受に使用された場合に、転がり軸受の個々の回転抵抗のばらつきが所定の要求値よりも大きくなり、また稼働時間に対する回転抵抗の変動が生じたために、転がり軸受用のグリースとして不適と判定し、耐久試験の対象から除外した。
【0103】
(転がり軸受の形状)
外輪の外径が8mm、内輪の内径が3mm、高さ(軸方向の厚さ)が4mmの転がり軸受を用いた。
【0104】
(グリースの配置)
グリースを上記第1実施形態のグリース60の形状に12mg塗布した。
【0105】
(耐久性の評価方法)
1つのファンモータ(定格回転数25000rpm)に対して同一のグリースを用いた転がり軸受を2個組み込んだ。実施例1~3および比較例1,2の各グリースに対して5つのファンモータを準備し、85℃の高温槽内で連続動作させて500時間毎に動作状況および異音発生の有無を確認した。評価結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
比較例1のグリースを用いた場合、稼働時間3000時間でファンモータ5台のうち3台で異音の発生が確認された。比較例2のグリースを用いた場合、稼働時間2000時間でファンモータ5台のうち1台が停止し、稼働時間2500時間でさらに2台が停止した。一方で、実施例1~3それぞれのグリースを用いた場合、稼働時間5000時間を経過しても5台のファンモータは異音を発生させることなく安定に動作した。以上により、グリースの不混和ちょう度が178より大きく287未満であれば、転がり軸受毎の回転抵抗にばらつきが生じることを抑制しつつ、転がり軸受の耐久性を向上させることができることが明らかである。さらに、グリースの不混和ちょう度が上記の条件を満たしつつ、混和ちょう度と不混和ちょう度との差が50未満であれば、転がり軸受の耐久性を確実に向上させることができることが明らかである。また、グリースの不混和ちょう度が上記の条件を満たしつつ、混和ちょう度に対する混和ちょう度と不混和ちょう度との差の比率が22.7%未満であれば、転がり軸受の耐久性を確実に向上させることができることが明らかである。
【0108】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、内輪10が回転輪として設けられ、外輪20が固定輪として設けられている。そして、グリース60,160,160Aが固定輪である外輪20に接触している。しかし、グリースが接触する軌道輪は、固定輪でなくてもよい。すなわち、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、グリースが固定輪である内輪に接触していてもよい。また、内輪が固定輪として設けられ、外輪が回転輪として設けられ、グリースが回転輪である外輪に接触していてもよい。また、上記実施形態では転動体30が保持器40に保持されているが、保持器を有していない転がり軸受に本発明を適用してもよい。
【0109】
また、上記各実施形態およびその変形例では、グリースが周方向に沿って略1周だけ配置されているが、この構成に限定されない。グリースは、外輪20に接触した第1環状部と、第1環状部に連なるとともにシール部材50に接触した第2環状部と、を備えていてもよい。この場合、第1環状部および第2環状部は、それぞれ共通軸線Oを中心に円環状に延びている。ただし、第1環状部および第2環状部のうち少なくともいずれか一方は、共通軸線Oを中心として360°未満延びていてもよい。また、第1環状部および第2環状部のうち少なくともいずれか一方は、全周にわたって点状に配置された複数の粒体を備えていてもよい。
【0110】
また、転がり軸受には、グリース60,160,160Aに加えて、またはグリース60,160,160Aに代えて、保持器のグリースポケットや下端面等にグリースが配置されていてもよい。この場合、保持器に配置されたグリースは、転動体に接触しないことが望ましい。保持器40にグリース60を配置した一例を
図7に示す。
図7に示すように、保持器40は、上記の環状部41および複数の柱部42を備える。さらに、保持器40の上端面40uには、下方に窪むグリースポケット47が形成されている。グリースポケット47は、周方向で隣り合う一対のボールポケットBの間に形成されている。すなわち、グリースポケット47は、各柱部42に形成されている。そして、グリース60は、グリースポケット47に配置されている。なおグリースは、グリースポケット47に加えて、またはグリースポケット47に代えて、保持器40の下端面に配置されていてもよい。ただし、保持器40にグリースを配置する場合、保持器40に配置されたグリースは、軌道輪およびシール部材に接触するように塗布されたグリースとは別に配置される。すなわち、保持器40に配置されたグリースは、軌道輪およびシール部材に接触しない。
【0111】
また、上記各実施形態では、グリース60,160,160Aが外輪20の内周面に接触しているが、この構成に限定されない。グリースは、軌道輪に接触せず、シール部材50のみに接触していてもよい。すなわち、グリースは、一方の軌道輪のうち他方の軌道輪に対向する周面(内周面または外周面)、およびシール部材50のうち少なくともいずれか一方に接触していればよい。
【0112】
また、上記実施形態では、回転機器としてファンモータを例示したが、回転機器はこれに限定されない。例えば、回転機器として、歯科用ハンドピースや、ハードディスクドライブのスピンドルモータ等に本発明を適用してもよい。特にハードディスクドライブのスピンドルモータに適用される転がり軸受では、低トルクが要求されると共に回転角度が360°未満となり、グリースを保持器に配置する構成が好適となるので、せん断を受けなくても基油が染み出しやすい本発明のグリースが有用となる。
【0113】
また、本発明は、転がり軸受のサイズを限定するものではない。上記実施例の耐久試験で用いた転がり軸受のサイズは、モータのトルクが小さくグリースによる軸受トルクの影響を受けやすい小型モータに使用される小型軸受(外径30mm以下)の一例であり、本発明は特に外径16mm以下の転がり軸受で大きな優位性が得られる。
【0114】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1,1A,1B…軸受 10…内輪(他方の軌道輪) 20…外輪(一方の軌道輪) 22…突出部 22a…端面 30…転動体 40…保持器 50…シール部材 51…台座部 52…延出部 53…平面部 60,160,160A…グリース 61,161…外輪接触部(軌道輪接触部) 62,162…シール部材接触部