(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】歯付きカップ状部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 53/28 20060101AFI20240430BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240430BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B21D53/28
B21D22/20 B
B21D22/26 C
(21)【出願番号】P 2023145065
(22)【出願日】2023-09-07
【審査請求日】2023-09-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智行
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-068781(JP,A)
【文献】特開平02-121723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/28
B21D 22/20 - 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも傾斜壁形成工程と予備成形工程と本成形工程とを含む歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記傾斜壁形成工程では、金属円板を、底とこの底から起立する起立壁に絞られ所定の第1角度に整えた傾斜壁を形成し、
前記予備成形工程は、下に突となる縦長の台形形状であって山の幅はWからW+2αに連続して変化し、前記αは製品の前記傾斜壁が本成形で円筒形になった場合、前記第1角度をθと定義するとtanθの分だけ周長が縮まる変化に追従できるような値に設定された
歯形成用突条を用いて実施され、
前記予備成形工程では、前記傾斜壁に台形形状の仮の歯底を成形してなる予備成形品を製造し、
前記本成形工程は、縦に延びる長方形形状の本成形突条を用いて実施され、
前記本成形工程では、前記傾斜壁が本成形パンチの中心軸に平行になるまで曲げられ、この曲げにより台形形状の前記仮の歯底が縦長の長方形形状の歯底に変更された歯付きカップ状部品を製造することを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記傾斜壁形成工程では、
前記本成形工程における曲げの基準となる基準曲部を形成することを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記本成形工程では、前記基準曲部を中心に前記傾斜壁が前記基準曲部から開口端側へ順に曲げられることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程及び前記本成形工程では、前記基準曲部より開口端側にて前記傾斜壁の肉を流動させることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記傾斜壁形成工程は、傾斜壁形成機構により実施され、
この傾斜壁形成機構は、第2パンチと第2ダイと第2パッドとを備え、
前記基準曲部は、前記第2パンチと前記第2ダイと前記第2パッドとからなる三つの型が合わさった部位に形成することを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記
予備成形工程は、
予備成形機構により実施され、
この
予備成形機構は、第3パンチと第3ダイと第3パッドとを備え、
前記第3パンチは、第1円錐台面を備え、
前記歯形成用突条は、前記第3パンチの前記第1円錐台面に設けられていることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記
予備成形工程は、
予備成形機構により実施され、
この
予備成形機構は、第3パンチと第3ダイと第3パッドとを備え、
前記第3ダイは、第3ダイ孔を備え、
前記歯形成用突条は、前記第3ダイの前記第3ダイ孔に設けられていることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記
予備成形工程は、
予備成形機構により実施され、
この
予備成形機構は、第3パンチと第3ダイと第3パッドとを備え、
前記第3パンチは、第1円錐台面を備え、
前記第3ダイは、第3ダイ孔を備え、
前記歯形成用突条は、前記第3パンチの前記第1円錐台面と前記第3ダイの前記第3ダイ孔とに各々設けられていることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記第3ダイの前記第3ダイ孔に設けるダイ側の前記歯形成用突条は、前記傾斜壁の上端に未成形部が残るように丈が短くなっていることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は請求項9記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程は、第1予備成形工程とこの第1予備成形工程に続く第2予備成形工程とからなり、
前記第1予備成形工程に用いる第1予備成形機構は、前記第3パンチと、前記歯形成用突条を有する前記第3ダイと、前記第3パッドとを備え、
前記第2予備成形工程に用いる第2予備成形機構は、前記歯形成用突条を有する前記第3パンチと、前記第3ダイと、前記第3パッドとを備え、
前記第1予備成形工程では、外歯を有する第1予備成形品を製造し、
続く前記第2予備成形工程では、前記外歯に加えて内歯を有する第2予備成形品を製造することを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程と前記本成形工程の間に、中間成形工程が追加され、
この中間成形工程で用いられる中間成形機構は、中間成形パンチと中間成形ダイと中間成形パッドとを備え、
前記中間成形パンチは、前記中間成形パンチの中心軸に対して前記所定の第1角度より小さな第2角度で傾斜した第2円錐台面を有し、前記中間成形パンチと前記中間成形ダイの少なくとも一方には、歯を予備的に整える中間成形突条が設けられており、前記中間成形突条は、縦長の台形形状とされ、
前記中間成形工程では、前記傾斜壁の傾斜を、前記第2角度になるように整えてなる中間成形品を製造することを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項12】
請求項6記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記第3ダイに、前記第3パンチに設けた前記歯形成用突条に対峙する凸部が設けられていることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項13】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程を実施する予備成形機構と、前記本成形工程を実施する本成形機構とは、トランスファープレス装置にセットされていることを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【請求項14】
請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
絞り工程を含み、この絞り工程に用いる絞り機構は、第1パンチと第1ダイと第1パッドとを備え、
傾斜壁形成工程に用いる傾斜壁形成機構は、第2パンチと第2ダイと第2パッドとを備え、前記第2パンチは、前記第2パンチの中心軸に対して所定の第1角度で傾斜した側面を有し、前記第2ダイは、前記第2パンチに対応する第2ダイ孔を有し、
前記絞り工程では、前記底と前記起立壁との間に、曲部を形成し、
前記傾斜壁形成工程では、前記曲部に局部的に、前記曲部より曲率半径が小さい基準曲部を形成することを特徴とする歯付きカップ状部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製カップの内周面と外周面の少なくとも一方に歯が設けられている歯付きカップ状部品の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スプライン加工されたカップ状部品の製造方法が、知られている(例えば、特許文献1(
図12A、
図12B)参照)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図23(a)、(b)は従来の技術の基本原理を説明する図、
図23(c)、(d)は基本原理を説明するための比較参考図である。
ワーク104には、予めステアリン酸ナトリウム石鹸が塗布されている(特許文献1、請求項6)。ステアリン酸ナトリウム石鹸は、代表的な塑性加工用潤滑剤であり、パンチ105とワーク104との間の滑りを促すと共に、ダイ孔102とワーク104との間の滑りを促すことで、いわゆる「カジリ現象」の発生を防止する役割を果たす。
【0004】
図23(a)に示すように、ダイ101は、ダイ孔102に縦に延びる突条103を有している。ダイ孔102へワーク104をセットする。次にパンチ105で下げる。
【0005】
すると、ワーク104はパンチ力Fで押し下げられ、突条103に接近する。
図23(b)に示すように、突条103で、ワーク104の外周面にスプラインが形成される。
【0006】
図23(c)は比較参考図であり、仮に、ダイ孔102の面が鉛直軸(パンチ105の中心軸)に対し角度θ1だけ傾いているとする。すると、パンチ力Fは、ダイ孔102の面に平行な分力Fv1とダイ孔102の面に直交する分力Fh1に分けられる。
直交する分力Fh1は十分に大きい。この大きい分力Fh1でワーク104が突条103に押しつけられる。結果、高い寸法精度のスプラインが得られる。
【0007】
図23(d)は、
図23(b)の要部拡大図であるが、説明の便利のために、ダイ孔102の面は鉛直軸に対し小さな角度θ2だけ傾けた。
パンチ力Fは、ダイ孔102の面に平行な分力Fv2とダイ孔102の面に直交する分力Fh2に分けられる。
直交する分力Fh2は比較参考図である
図23(c)のFh1より小さい。ワーク104が突条103に小さい分力Fh2で押しつけられるため、スプラインの仕上がり精度は低くなる。
【0008】
図23(b)の場合は、パンチ力Fを高めて、仕上がり精度を高める必要がある。
その場合、パンチ105及びダイ101に過大な応力が発生し、パンチ105及びダイ101に「カジリ現象」が発生する。また、突条103の根元のせん断応力が過大となり、突条103、すなわちダイ101の寿命が短くなる。
【0009】
また、高いパンチ力で塑性加工を行うときには、上述したステアリン酸ナトリウム石鹸の塗布が不可欠となる。加工後の洗浄液にステアリン酸ナトリウム石鹸が残存する。このステアリン酸ナトリウム石鹸が環境に影響する。洗浄液を、下水に流す前にステアリン酸ナトリウム石鹸を除去するなどの対策が望まれる。結果、洗浄液の処理コストが嵩む。
【0010】
環境保全と、スプラインの形状の安定化及び工具(パンチ105及びダイ101)の長寿命化が求められている中、環境に優しく、歯の形状が良好で且つ工具の長寿命化が図れる歯付きカップ状部品の製造技術が、求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、環境に優しく、歯の形状が良好で且つ工具の長寿命化が図れるような歯付きカップ状部品の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、少なくとも傾斜壁形成工程と予備成形工程と本成形工程とを含む歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記傾斜壁形成工程では、金属円板を、底とこの底から起立する起立壁に絞られ所定の第1角度に整えた傾斜壁を形成し、
前記予備成形工程は、下に突となる縦長の台形形状であって山の幅はWからW+2αに連続して変化し、前記αは製品の前記傾斜壁が本成形で円筒形になった場合、前記第1角度をθと定義するとtanθの分だけ周長が縮まる変化に追従できるような値に設定された歯形成用突条を用いて実施され、
前記予備成形工程では、前記傾斜壁に台形形状の仮の歯底を成形してなる予備成形品を製造し、
前記本成形工程は、縦に延びる長方形形状の本成形突条を用いて実施され、
前記本成形工程では、前記傾斜壁が本成形パンチの中心軸に平行になるまで曲げられ、この曲げにより台形形状の前記仮の歯底が縦長の長方形形状の歯底に変更された歯付きカップ状部品を製造することを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記傾斜壁形成工程では、前記本成形工程における曲げの基準となる基準曲部を形成することを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記本成形工程では、前記基準曲部を中心に前記傾斜壁が前記基準曲部から開口端側へ順に曲げられることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項2記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程及び前記本成形工程では、前記基準曲部より開口端側にて前記傾斜壁の肉を流動させることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項2記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記傾斜壁形成工程は、傾斜壁形成機構により実施され、
この傾斜壁形成機構は、第2パンチと第2ダイと第2パッドとを備え、
前記基準曲部は、前記第2パンチと前記第2ダイと前記第2パッドとからなる三つの型が合わさった部位に形成することを特徴とする。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程は、予備成形機構により実施され、
この予備成形機構は、第3パンチと第3ダイと第3パッドとを備え、
前記第3パンチは、第1円錐台面を備え、
前記歯形成用突条は、前記第3パンチの前記第1円錐台面に設けられていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程は、予備成形機構により実施され、
この予備成形機構は、第3パンチと第3ダイと第3パッドとを備え、
前記第3ダイは、第3ダイ孔を備え、
前記歯形成用突条は、前記第3ダイの前記第3ダイ孔に設けられていることを特徴とする。
【0020】
請求項8に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程は、予備成形機構により実施され、
この予備成形機構は、第3パンチと第3ダイと第3パッドとを備え、
前記第3パンチは、第1円錐台面を備え、
前記第3ダイは、第3ダイ孔を備え、
前記歯形成用突条は、前記第3パンチの前記第1円錐台面と前記第3ダイの前記第3ダイ孔とに各々設けられていることを特徴とする。
【0021】
請求項9に係る発明は、請求項8記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記第3ダイの前記第3ダイ孔に設けるダイ側の前記歯形成用突条は、前記傾斜壁の上端に未成形部が残るように丈が短くなっていることを特徴とする。
【0022】
請求項10に係る発明は、請求項8又は請求項9記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程は、第1予備成形工程とこの第1予備成形工程に続く第2予備成形工程とからなり、
前記第1予備成形工程に用いる第1予備成形機構は、前記第3パンチと、前記歯形成用突条を有する前記第3ダイと、前記第3パッドとを備え、
前記第2予備成形工程に用いる第2予備成形機構は、前記歯形成用突条を有する前記第3パンチと、前記第3ダイと、前記第3パッドとを備え、
前記第1予備成形工程では、外歯を有する第1予備成形品を製造し、
続く前記第2予備成形工程では、前記外歯に加えて内歯を有する第2予備成形品を製造することを特徴とする。
【0023】
請求項11に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程と前記本成形工程の間に、中間成形工程が追加され、
この中間成形工程で用いられる中間成形機構は、中間成形パンチと中間成形ダイと中間成形パッドとを備え、
前記中間成形パンチは、前記中間成形パンチの中心軸に対して前記所定の第1角度より小さな第2角度で傾斜した第2円錐台面を有し、前記中間成形パンチと前記中間成形ダイの少なくとも一方には、歯を予備的に整える中間成形突条が設けられており、前記中間成形突条は、縦長の台形形状とされ、
前記中間成形工程では、前記傾斜壁の傾斜を、前記第2角度になるように整えてなる中間成形品を製造することを特徴とする。
【0024】
請求項12に係る発明は、請求項6記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記第3ダイに、前記第3パンチに設けた前記歯形成用突条に対峙する凸部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
請求項13に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
前記予備成形工程を実施する予備成形機構と、前記本成形工程を実施する本成形機構とは、トランスファープレス装置にセットされていることを特徴とする。
【0027】
請求項14に係る発明は、請求項1記載の歯付きカップ状部品の製造方法であって、
絞り工程を含み、この絞り工程に用いる絞り機構は、第1パンチと第1ダイと第1パッドとを備え、
傾斜壁形成工程に用いる傾斜壁形成機構は、第2パンチと第2ダイと第2パッドとを備え、前記第2パンチは、前記第2パンチの中心軸に対して所定の第1角度で傾斜した側面を有し、前記第2ダイは、前記第2パンチに対応する第2ダイ孔を有し、
前記絞り工程では、前記底と前記起立壁との間に、曲部を形成し、
前記傾斜壁形成工程では、前記曲部に局部的に、前記曲部より曲率半径が小さい基準曲部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明では、少なくとも予備成形工程と本成形工程とからなる歯付きカップ状部品の製造方法を実施する際、予備成形工程では、第1角度で傾斜した傾斜壁に台形形状の仮の歯底を成形する。傾斜壁に塑性加工を施す形態は、
図23(c)に相当し、パンチ力は小さくなる。続く本成形工程では、予備成形で歯形形状が付いた部分を、形状を整えながら曲げるため、パンチ力を大きくする必要が無い。
【0029】
予備成形工程で台形形状の仮の歯底を成形し、本成形工程で長方形形状の歯底に整える。歯底の両側に歯が成形される。本成形工程にて、形状が良好な歯底及び歯底を容易に成形することができる。
【0030】
少なくとも予備成形工程と本成形工程の全てにおいて、パンチ力を小さくすることができ、潤滑剤としてのステアリン酸ナトリウム石鹸は不要とできる。ステアリン酸ナトリウム石鹸の使用量が不要であれば、洗浄液が不要となり、また処理が容易となり、環境に優しい製造方法が提供される。
併せて、パンチ力が大きくないので、パンチ及びダイを主体とする工具の寿命を延ばすことができる
【0031】
結果、本発明により、環境に優しく、歯の形状が良好で且つ工具の長寿命化が図れるような歯付きカップ状部品の製造技術が提供される。
【0032】
請求項2に係る発明では、傾斜壁形成工程で、基準曲部を形成する。この基準曲部を基準にすることで、以降の塑性加工が円滑に行える。
【0033】
請求項3に係る発明では、本成形工程で、基準曲部を中心に傾斜壁が基準曲部から開口端側へ順に曲げられる。曲げが順に行われるため、パンチやダイに加わる力を分散させることができ、基準曲部を基準とした傾斜壁の曲げ加工が円滑に行える。
【0034】
請求項4に係る発明では、予備成形工程及び本成形工程で、基準曲部より上部にて傾斜壁の肉を流動させるため、精度のよい歯底が形成でき、歯底の両側に精度のよい歯が形成できる。
【0035】
請求項5に係る発明では、基準曲部は、第2パンチと第2ダイと第2パッドとからなる三つの型が合わさった部位に形成する。別の型及び別の工程を用いることなく、傾斜壁形成と一緒に基準曲部を形成することができ、別の型及び別の工程を用いる場合に比較して型コストの低減と、製造方法の簡略化が図れる。
【0036】
請求項6に係る発明では、歯形成用突条は、第3パンチに設けられており、内歯タイプの歯付きカップ状部品を製造することができる。
【0037】
請求項7に係る発明では、歯形成用突条は、第3ダイに設けられており、外歯タイプの歯付きカップ状部品を製造することができる。
【0038】
請求項8に係る発明では、歯形成用突条は、第3パンチと第3ダイ各々設けられており、内外歯タイプの歯付きカップ状部品を製造することができる。
【0039】
請求項9に係る発明では、ダイ側の歯形成用突条は丈が短いため、傾斜壁の上端に未成形部を残すことができ、特殊な形状の内外歯タイプの歯付きカップ状部品を製造することができる。
【0040】
請求項10に係る発明では、予備成形工程を、第1予備成形工程と第2予備成形工程とに分けて実施するため、第3パンチや第3ダイに加わる力が低減できる。
【0041】
請求項11に係る発明では、予備成形工程と本成形工程の間に、中間成形工程を追加した。中間成形工程を追加することで、本成形工程での負担が大幅に軽減される。
【0042】
請求項12に係る発明では、第3ダイに、歯形成用突条に対峙する凸部を設けた。傾斜壁に仮の歯底を形成する際に、歯形成用突条に沿って傾斜壁の肉を流動させることに加えて凸部に沿って肉を流動させることができる。これらの流動により歯形成用突条に加わる力(反力)が低減できる。
【0043】
請求項13に係る発明では、予備成形機構及び本成形機構が、トランスファープレス装置にセットされている。
予備成形機構及び本成形機構でのパンチ力を小さくすることができるため、トランスファープレス装置への負荷を小さくすることができる。結果、トランスファープレス装置の製造コストを低減することができる。
【0045】
請求項14に係る発明では、傾斜壁形成機構で基準曲部を形成する。この基準曲部を基準にすることで、以降の塑性加工が円滑に行える。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】(a)は本発明方法で製造される歯付きカップ状部品(内歯タイプ)の断面図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は歯付きカップ状部品(内歯タイプ)の斜視図である。
【
図2】(a)は絞り機構の原理図、(b)は絞り機構の作用図である。
【
図3】(a)は傾斜壁形成機構の原理図、(b)は傾斜壁形成機構の作用図である。
【
図4】(a)は予備成形機構の原理図、(b)は予備成形機構の作用図である。である。
【
図5】(a)は第3パンチの要部拡大図であって
図4の5a矢視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図、(d)は傾斜壁の図である。
【
図6】(a)は予備成形品の要部拡大図であって
図4の6a矢視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【
図7】(a)は本成形機構の原理図、(b)~(d)はで本成形機構の作用図ある。
【
図8】(a)は本成形パンチの要部拡大図であって
図7の8a矢視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【
図9】(a)~(b)は本成形工程での肉の流動を説明する図である。
【
図10】(a)は歯付きカップ状部品の要部拡大図であって
図7の8a矢視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【
図11】本発明の歯付きカップ状部品の製造方法を説明するフロー図である。
【
図12】(a)は歯付きカップ状部品(外歯タイプ)の斜視図、(b)は(a)のb部拡大図である。
【
図13】(a)は歯付きカップ状部品(内外歯タイプ)の斜視図、(b)は(a)のb部拡大図である。
【
図14】(a)は歯付きカップ状部品(内外歯タイプ)の変更例の斜視図、(b)は(a)のb矢視図である。
【
図15】(a)は変更例に係る予備成形機構の原理図、(b)は予備成形機構の作用図、(c)は(b)のc部拡大図である。
【
図16】(a)、(b)は変更例に係る本成形工程を説明する作用図である。
【
図17】(a)は第1予備成形機構の原理図、(b)は第2予備成形機構の原理図である。
【
図18】別の歯付きカップ状部品の製造方法を説明するフロー図である。
【
図19】(a)は中間成形機構の原理図、(b)は中間成形機構の作用図、(c)、(d)は中間成形工程後の本成形工程を説明する作用部である。
【
図20】さらに別の歯付きカップ状部品の製造方法を説明するフロー図である。
【
図21】(a)は凸部を設けたときの肉の流動を説明する図、(b)は傾斜壁における肉の流動を説明する図である。
【
図22】トランスファープレス装置の原理図である。
【
図23】(a)、(b)は従来技術の基本原理を説明する図、(c)、(d)は基本原理を説明するための比較参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
なお、ダイとパンチを用いた塑性加工法では、ダイを静止させパンチを下降させること、パンチを静止させダイを上昇させること、パンチを下降しつつダイを上昇させること、の何れにおいても実施が可能である。
便宜上、ダイを静止させてパンチを下降させる形態で、以下説明する。
【0048】
また、以下の説明で台形形状や長方形形状の用語を用いる。これらは、パンチを外から見たときの形状を指す。又は、ダイ孔を中心から見たときの形状を指す。又は、傾斜壁を内又は外から見たときの形状を指す。又は、周壁を内又は外から見たときの形状を指す。
【実施例】
【0049】
[歯付きカップ状部品]
図1(a)に示すように、歯付きカップ状部品10は、底11と、この底11から立ち上がる周壁12とからなる部品である。
図1(b)に示すように、周壁12の内周面に歯13を有する。隣り合う歯13と歯13の間は、歯底14と呼ばれる。
図1(c)に示すように、歯付きカップ状部品10は、内歯タイプの部品である。
【0050】
図1(a)において、歯13の下端で周壁12が中心側に折り曲げてなる段部15とされ、この段部15の内端から小径部16が立下り、この小径部16の下端が底11に繋がっている。
ただし、以下の説明では、説明を簡単にするために、段部15や小径部16は省いて説明する。
【0051】
周壁12と段部15とが交わる箇所に小さな曲率半径の基準曲部17が形成されている。なお、曲率半径は、曲率の逆数であって半径と同意である。
【0052】
このような形態の歯付きカップ状部品10は、絞り機構による絞り工程と、傾斜壁形成機構による傾斜壁形成工程と、予備成形機構による予備成形工程と、本成形機構による本成形工程により製造される。以下、各機構及び各工程の具体例を順に説明する。
【0053】
[絞り機構]
図2(a)に示すように、絞り機構20は、金属円板21を第1パンチ22へ付勢する(押す)第1パッド23と、この第1パッド23及び第1パンチ22の通過を許容する第1ダイ孔24を有する第1ダイ25とを備える。
【0054】
なお、絞り機構20には、第1パンチ22を昇降するパンチ昇降機構や、第1ダイ25を支えるダイホルダーや、第1パッド23を弾性的に支えるスプリング機構などが含まれるが、これらは省略する(以下、他の機構についても同様)。
【0055】
[絞り工程]
図2(a)において、第1パンチ22を下げると、金属円板21は第1ダイ孔24に沿って、絞られる。
結果、
図2(b)に示すように、底11とこの底11から起立する起立壁27とからなる第1中間品28が製造される。底11と起立壁27の間は、適当な曲率半径R1の曲部29となる。この曲部29の曲率半径R1が大きいほど絞り成形は容易になる。
【0056】
[傾斜壁形成機構]
図3(a)に示すように、傾斜壁形成機構30は、第2パンチ31と、ダイベース32と、このダイベース32から上に延びる圧縮ばね33と、この圧縮ばね33で昇降可能に支持される第2ダイ34と、第2パッド35とを備える。
第2パンチ31は、第2パンチ31の中心軸31aに平行な軸(以下、単に中心軸と記す。)に対して所定の第1角度θ3で傾斜した側面31bを有する。第1角度θ3は、例えば15°である。
第2ダイ34は、第2パンチ31に対応する第2ダイ孔36を有する。
【0057】
[傾斜壁形成工程]
図3(a)の傾斜壁形成機構30に、前工程(絞り工程)で製造された第1中間品28がセットされる。第1中間品28の起立壁27は、第2パンチ31と第2ダイ34で緩く挟まれる。
この状態で、第2パンチ31を下げると、第2ダイ34が連動して下げる。これらの下降中に第2パンチ31と第2ダイ34との距離が狭まり、この狭まりにより、起立壁27が第1角度θ3に整えられる。
【0058】
結果、
図3(b)に示すように、底11と傾斜壁38からなる第2中間品39が製造される。
好ましくは、曲部(
図3(a)、符号29)に局部的に、この曲部29より小さな曲率半径の基準曲部17を形成する。この基準曲部17は、第2パンチ31と、第2ダイ34と、第2パッド35からなる三つの型が合わさった部位に形成される。
【0059】
なお、基準曲部17は別の型を用いて別の工程で形成することは差し支えない。しかし、本実施例のように、傾斜壁形成機構30で傾斜壁38を整えるときに、一緒に基準曲部17を形成すると、製造コストの圧縮と製造時間の短縮とが図れて好ましい。
【0060】
詳しくは後述するが、基準曲部17より開口端側に、主たる塑性加工を施す。基準曲部17により塑性加工領域が確定するため、以降の塑性加工が集中的に行え、塑性加工が円滑に行える。
【0061】
[予備成形機構]
図4(a)に示すように、予備成形機構40は、第3パンチ41と、第3ダイ42と、第3パッド43とを備える。
第3パンチ41は、第3パンチ41の中心軸41aに対して第1角度θ3で傾斜した第1円錐台面41bを有する。
第3ダイ42は、第3パンチ41に対応する第3ダイ孔44を有する。
第1円錐台面41bと第3ダイ孔44の少なくとも一方(この例では、第1円錐台面41b)に、歯形成用突条45が設けられている。
【0062】
なお、円錐台面は円錐台の斜辺が形成する面である。
また、歯形成用突条45は、仮の歯底を形成する部分であるが、仮の歯底の両側に仮の歯を形成する役割をも果たすため、便宜的に歯形成用突条と呼ぶ。
【0063】
図5(a)は
図4(a)の5a矢視図である。
図5(a)に示すように、歯形成用突条45は、下に突となる縦長の台形形状を呈する。
図5(c)に示す山(先端)の幅がWであり、
図5(b)に示す山の幅はW+2αである。
【0064】
製品の傾斜壁38が本成形で円筒形になった場合、tanθの分だけ周長が縮まる。前記αは、その変化に追従できるような値に設定される。αが過大だと成形に大きなパンチ力が必要となり、αが過小だと歯が形成できず、いずれの場合も製品形状に成形することができない。
なお、塑性加工に係る条件(肉の流動傾向)によっては、歯形成用突条45は、上に突となる縦長の台形形状にしてもよい。
【0065】
[予備成形工程]
図4(a)に示すように、予備成形機構40に、前工程で製造した第2中間品39をセットする。次に、第3パンチ41を下げる。
すると、
図5(d)に示す傾斜壁38の裏面に、
図5(a)に示す歯形成用突条45が矢印(1)のように進入する。
すると、
図4(b)に示すように、予備成形品47が製造される。
【0066】
矢印(1)で示す歯形成用突条45の作用を、
図21(b)を用いて補足する。
図21(b)に示すように、傾斜壁38は、第3ダイ42で受けられつつ、歯形成用突条45で強く押される。結果、歯形成用突条45が傾斜壁38に食い込む。この食い込みにより、矢印(2)のように、傾斜壁38内の肉が流動する。
【0067】
図6(a)は
図4(b)の6a矢視図である。
図6(a)に示すように、傾斜壁38に、縦長の台形形状の仮の歯底48が形成され、この仮の歯底48の両側に仮の歯49が形成される。
図6(c)に示すように、仮の歯底48の下端における幅は概ねWとなる。
【0068】
図6(b)に示すように、仮の歯底48の上端における幅はW+2βとなる。なお、
図5(a)に示す第3パンチ41(正確には第1円錐台面41b)の高さ寸法より、
図6(a)に示す傾斜壁38の高さ寸法が小さいため、β<αとなる。
以上に述べた予備成形工程により、傾斜壁38に、下底に対して上底が広い台形形状の仮の歯底48が成形された予備成形品(
図4(b)、符号47)が得られる。
【0069】
[本成形機構]
図7(a)に示すように、本成形機構50は、本成形パンチ51と、本成形ダイ52と、本成形パッド53とを備えている。
本成形パンチ51は、本成形パンチ51の中心軸51aに平行に延びる円筒面51bを有する。
本成形パンチ51と本成形ダイ52の少なくとも一方(この例では本成形パンチ51)に、歯を整える本成形突条55が設けられている。
【0070】
図7(a)の8a矢視図が、
図8(a)である。
図8(a)に示すように、本成形パンチ51に設けられる本成形突条55は、縦に延びる長方形形状とされる。
図8(c)に示すように、本成形突条55の下端における山の幅はWである。
図8(b)に示すように、歯を整える本成形突条55の上端における山の幅はWである。
すなわち、歯を整える本成形突条55は、縦に延びる長方形形状とされる。
【0071】
[本成形工程]
図7(a)に示すように、本成形機構50に、前工程で得た予備成形品47をセットする。次に、本成形パンチ51を下げる。
図7(b)に示すように、傾斜壁38は、基準曲部17を起点にして、本成形ダイ52により、図面反時計方向へ曲げが開始される。
【0072】
図7(c)に示すように、傾斜壁38は、本成形パンチ51と本成形ダイ52により、図面反時計方向へさらに曲げられる。
図7(d)に示すように、本成形パンチ51が下死点に達した時点で、傾斜壁38は、本成形パンチ51の中心軸51aに平行に延びる周壁12に変わる。
【0073】
図7(a)~(d)において、傾斜壁38内での肉の流動が生じる(
図21(b)も参照)。この現象を、
図9(a)~(d)に基づいて説明する。
図9(a)は
図7(a)における傾斜壁38の抜粋図である。
図9(d)は
図7(d)における周壁12の抜粋図である。
【0074】
図9(b)は
図9(a)に示す傾斜壁38の展開図である。
図9(b)に示すように、展開後の傾斜壁38は、下辺に対して上辺が長い扇形となる。
図9(b)において、下辺を2倍のγ1だけ圧縮し、上限を2倍のγ2(ただし、γ1<γ2)だけ圧縮したとする。
【0075】
結果、扇形は
図9(c)に示すような横長の矩形になる。
横長の矩形を丸めると、
図9(d)の周壁12となる。
すなわち、
図7(a)~(d)において、傾斜壁38を、傾斜が第1角度θ3(例えば15°)から0になるまで曲げることで肉の流動が発生した。
【0076】
肉の流動に伴って、傾斜壁38は、高さが変化し、厚さが変化するが、周長が著しく変化するため、本実施例では変化量が特に大きい「周長の変化」について重点的に説明する。
【0077】
図7(d)の10a矢視図が、
図10(a)である。
図10(a)に示すように、周壁12においては、歯底14は、想像線で示す台形状(
図6(a)、符号48)から、実線で示す縦長の長方形状に変化した。すなわち、仮の歯底48は、肉の流動により片側βだけ幅が縮まって、歯底14に変化した。並行して、仮の歯(
図6(a)、符号49)は、肉の流動により、縦長長方形の歯13に変化した。
【0078】
図10(b)及び
図10(c)に示すように、歯底17の幅は一様にWとなる。
結果、
図9にて周壁12の周長は上辺と下辺で一定となり、
図7(d)にて、歯付きカップ状部品10が製造された。つまり、型カジリをなくすために周壁を傾斜させたものの、傾斜させてから最終形状に成形すると周長が上辺と下辺で一定とならず、歯としての機能が出せない。本発明は型カジリを抑えつつ周壁の上辺と下辺の周長を一定に成形する製造方法を発明した。なお、肉の流動については
図21(b)のように、周方向のほか、半径方向や歯長手方向にも流動させている。
【0079】
なお、
図7(a)~(d)では、主に傾斜壁38の曲げが行われため、前工程での歯形成用突条(
図5、矢印(1))に加わる加工反力に比較して、歯を整える本成形突条55に加わる加工反力は格段に小さくなる。
【0080】
[歯付きカップ状部品の製造方法]
本発明に係る歯付きカップ状部品の製造方法は、次に示す
図11のフロー図のように纏めることができる。
図11のステップ(以下、STと略記する。)01の絞り工程により、底と起立壁とからなる第1中間品を得る。
ST02の傾斜壁形成工程で、起立壁を所定の第1角度に整えることで、底と傾斜壁からなる第2中間品を得る。
【0081】
ST03の予備成形工程で、傾斜壁に縦長で台形形状の仮の歯底を成形することで、予備成形品を得る。
ST04の本成形工程で、傾斜壁を立てて肉を寄せることで、仮の歯底を長方形形状の歯底に修正する。以上により、
図1(a)~(c)に示す内周に歯が付いた内歯タイプの歯付きカップ状部品10を得ることができる。
【0082】
図7(a)~(d)で説明したように、本成形工程では、基準曲部17を中心(起点)にして、傾斜壁38が基準曲部17から開口端側へ順に曲げられる。曲げが順に行われるため、本成形パンチ51や本成形ダイ52に加わる力を分散させることができる。結果、基準曲部17を基準とした傾斜壁38の曲げ加工が円滑に行える。
【0083】
また、
図4(a)、(b)で説明した傾斜壁形成工程でも、基準曲部17より上部にて傾斜壁38の肉を流動させるため、精度のよい仮の歯底が形成でき、仮の歯底の両側に精度のよい仮の歯が形成できる。本成形工程も同様に、精度のよい歯底が形成でき、歯底の両側に精度のよい歯が形成できる。
【0084】
[別の形態の歯付きカップ状部品]
図12(a)に示すように、歯付きカップ状部品10は、底11と、この底11から立ち上がる周壁12とからなる部品である。
図12(b)に示すように、周壁12の外周面に歯13を有する。
したがって、
図12(a)に示す歯付きカップ状部品10は、外歯タイプの部品である。
【0085】
この形態の歯付きカップ状部品10は、
図4(a)において、歯形成用突条45を、第3ダイ42に設け、
図7(a)において、本成形突条55を、本成形ダイ52に設けることで製造することができる。その他は変更がないのでさらなる説明は省略する。
【0086】
[さらに別の形態の歯付きカップ状部品]
図13(a)に示すように、歯付きカップ状部品10は、底11と、この底11から立ち上がる周壁12とからなる部品である。
図13(b)に示すように、周壁12の内面及び外面に歯13を有する。
したがって、
図13(a)に示す歯付きカップ状部品10は、内外歯タイプの部品である。
【0087】
この形態の歯付きカップ状部品10は、
図4(a)において、歯形成用突条45を、第3パンチ41と第3ダイ42とに設け、
図7(a)において、本成形突条55を、本成形パンチ51と本成形ダイ52とに設けることで製造することができる。その他は変更がないのでさらなる説明は省略する。
【0088】
図13(a)で説明した内外歯タイプの歯付きカップ状部品10は、さらに別の形態の物でもよい。
【0089】
[さらに別の形態の歯付きカップ状部品]
図14(a)に示すように、この内外歯タイプの歯付きカップ状部品10は、底11と、この底11から立ち上がる周壁12とからなる部品である。
図14(b)に示すように、外周における歯底14の先端(図では上端)が、未成形部56により閉じている。
【0090】
先端が閉じている形態の内外歯タイプの歯付きカップ状部品10の製造機構及び製造方法を
図15(a)~(c)と
図16(a)、(b)に基づいて説明する。
【0091】
[予備成形機構の変更例]
図15(a)に示すように、予備成形機構40は、第1円錐台面41bに歯形成用突条45を有する第3パンチ41と、第3ダイ孔44に歯形成用突条45を有する第3ダイ42と、第3パッド43とからなる。ただし、ダイ側の歯形成用突条45は傾斜壁38の丈(高さ)より丈が短い。
【0092】
図15(b)に示すように、第3パンチ41を下げることで、傾斜壁38の内周と外周とに塑性加工を施す。
図15(c)に示すように、傾斜壁38の上端に未成形部56が残る。
すなわち、第3ダイ42の第3ダイ孔44に設けるダイ側の歯形成用突条45は、傾斜壁38の上端に未成形部56が残るように丈が短くなっている。
【0093】
[本成形機構の変更例]
図16(a)に示すように、本成形機構50は、本成形突条55を有する本成形パンチ51と、本成形突条55を有する本成形ダイ52と、本成形パッド53とからなる。ただし、ダイ側の本成形突条55は、傾斜壁38の丈(高さ)より丈が短い。
【0094】
図16(b)に示すように、本成形パンチ51を下げることで、傾斜壁38の内周と外周とに塑性加工を施す。
以上により、
図14(a)、(b)に示す特殊な形態の歯付きカップ状部品10が、製造される。
【0095】
ところで、
図15(a)~(c)に示す予備成形工程では、内周の仮の歯底と外周の仮の歯底を1工程、すなわち同時に成形するため、パンチ力は不可避的に大きくなる。このような大きなパンチ力を低減することが望まれるときには、次に述べる対策が推奨される。
【0096】
[第1予備成形機構]
図17(a)に示すように、第1予備成形機構40Bは、第3パンチ41と、歯形成用突条45を有する第3ダイ42と、第3パッド43とを備える。
【0097】
[第1予備成形工程]
第1予備成形工程では、傾斜壁38の外周に仮の歯を形成することで、第1予備成形品(
図17(b)、符号47B)を製造する。
【0098】
[第2予備成形機構]
図17(b)に示すように、第2予備成形機構40Cは、歯形成用突条45を有する第3パンチ41と、第3ダイ42と、第3パッド43とを備える。
【0099】
[第2予備成形工程]
第2予備成形工程では、傾斜壁38の内周に仮の歯を形成することで、第2予備成形品47Cを製造する。
【0100】
[別の歯付きカップ状部品の製造方法]
図18のST11の絞り工程により、底と起立壁とからなる第1中間品を得る。
ST12の傾斜壁形成工程で、起立壁を所定の第1角度に整えることで、底と傾斜壁からなる第2中間品を得る。
【0101】
ST13の第1予備成形工程で、傾斜壁の外周に縦長で台形形状の仮の歯底を成形することで、第1予備成形品を得る。
ST14の第2予備成形工程で、外周の仮の歯底に加えて、傾斜壁の内周に縦長で台形形状の仮の歯底を成形することで、第2予備成形品を得る。
ST15の本成形工程で、傾斜壁を立てて肉を寄せることで、長方形形状の歯底及び歯に修正することで、歯付きカップ状部品を得る。
【0102】
予備成形工程を、第1予備成形工程と第2予備成形工程との2工程にすることにより、各工程におけるパンチ力を半分程度に軽減することができ、第3パンチ41及び第3ダイ42の寿命を延ばすことができる。
【0103】
ところで、
図11で述べた歯付きカップ状部品の製造方法では、絞り工程→傾斜壁形成工程→予備成形工程→本成形工程の工程群からなり、本成形工程で、傾斜角を、例えば15°から0°に修正する。
歯付きカップ状部品の条件(例えば肉厚が大きいときなど)によっては、本成形工程を実施するときに、本成形パンチ51や、本成形ダイ52に無理が掛かることが予想される。このときには、次に述べる中間成形機構及び中間成形工程が有効となる。
【0104】
[中間成形機構]
図19(a)に示す中間成形機構60を準備する。
図19(a)に示すように中間成形機構60は、中間成形パンチ61と、中間成形ダイ62と、中間成形パッド63とで構成される。
【0105】
中間成形パンチ61は、中間成形パンチ61の中心軸61aに対して第1角度(
図4、符号θ3)より小さな第2角度θ4(図(a)の下部に図示。)で傾斜した第2円錐台面61bを有する。
【0106】
第2角度θ4の上、すなわち中間成形ダイ62の入口に、第1角度θ3の導入面を設けることが好ましい。中間成形パンチ61の導入をより円滑にすることができる。
第1角度θ3が15°であれば、第2角度θ4は5°程度に設定する。
【0107】
中間成形パンチ61と中間成形ダイ62の少なくとも一方(この例では中間成形パンチ61)に、歯を予備的に整える中間成形突条65が設けられている。
図示は省略するが、中間成形突条65は、歯形成用突条(
図5(a)、符号45)と本成形突条(
図7(a)、符号55)との中間に相当する縦長の台形形状とされる。
【0108】
[中間成形工程]
図19(a)において、中間成形機構60に、第2中間品39をセットする。次に、中間成形パンチ61を下げる。
すると、
図19(b)に示す中間成形品67が得られる。この中間成形品67では、傾斜壁38の傾斜角が第2角度θ4に整えられている。
【0109】
変更例における本成形機構50は、
図7で説明した本成形機構50で差し支えない。
図19(c)に示すように、本成形機構50に中間成形品67をセットする。次に、本成形パンチ51を下げる。
すると、
図19(d)に示すように、歯付きカップ状部品10が得られる。
【0110】
[中間成形工程を含む歯付きカップ状部品の製造方法]
中間成形工程を含む歯付きカップ状部品の製造方法は、
図20で説明される。
図20のST21の絞り工程により、底と起立壁とからなる第1中間品を得る。
ST22の傾斜壁形成工程で、起立壁を所定の第1角度に整えることで、底と傾斜壁からなる第2中間品を得る。
【0111】
ST23の予備成形工程で、傾斜壁に縦長で台形形状の仮の歯底を成形することで、予備成形品を得る。
ST24の中間成形工程で、傾斜壁を半分程度立てて肉を寄せることで、仮の歯底を台形形状に修正することで、中間成形品を得る。
ST25の本成形工程で、傾斜壁を完全に立てて肉を寄せることで、長方形形状の歯底及び歯を有する歯付きカップ状部品を得る。
【0112】
[歯形成用突条に対峙する凸部]
図21(b)は説明済みであるが、傾斜壁38内で、肉が矢印(2)のように流動する。
対して、
図21(a)に示すように、第3ダイ42側に歯形成用突条45に対峙する凸部69を設けてもよい。凸部69を設けることにより、矢印(2)で示す流動に加えて、矢印(3)で示す流動が得られる。矢印(2)は、歯形成用突条45に沿った流れであり、矢印(3)は凸部69に沿った流れとなる。
【0113】
図21(b)では、歯形成用突条45が反力F3を受ける。
図21(a)では、歯形成用突条45が反力F4を受けるが、この反力F4は反力F3より十分に小さくなる。すなわち、肉の流動が盛んになるため、反力F4が小さくなった。
結果、凸部69を設けたことにより、第3パンチ41及び第3ダイ42での応力が低減され、傾斜壁形成機構30の長寿命化を図ることができる。
【0114】
[トランスファープレス装置]
図22は本発明方法を実施する上で好適なトランスファープレス装置70の原理図である。
図22に示すように、トランスファープレス装置70は、ベース71と昇降盤72と第1~第5ハンドリングロボット73~77を主要素とする。第1~第5ハンドリングロボット73~77は、ワークを挟み、移動し、離し、元の位置に戻るフィンガーであってもよいが、この例では、便宜的にロボットとした。
【0115】
トランスファープレス装置70には、第1パンチ22及び第1ダイ25を備える絞り機構20と、第2パンチ31及び第2ダイ34を備える傾斜壁形成機構30と、第3パンチ41及び第3ダイ42を備える予備成形機構40と、本成形パンチ51及び本成形ダイ52を備える本成形機構50とが、この順に配置されている。
【0116】
第1ハンドリングロボット73が、金属円板21を絞り機構20へ投入する。
第2ハンドリングロボット74が、絞り機構20から第1中間品28を取り出し、隣の傾斜壁形成機構30へ投入する。
第3ハンドリングロボット75が、傾斜壁形成機構30から第2中間品39を取り出し、隣の予備成形機構40へ投入する。
【0117】
第4ハンドリングロボット76が、予備成形機構40から予備成形品47を取り出し、隣の本成形機構50へ投入する。
第5ハンドリングロボット77が、本成形機構50から歯付きカップ状部品10を取り出す。
【0118】
トランスファープレス装置70を構成する機構20、30、40、60のうち、予備成形機構40でのパンチ力が最も大きくなる。そこで、第3パンチ41及び第3ダイ42に注目する。
第3パンチ41及び第3ダイ42は、
図23(c)に示すパンチ力Fの反力を受けるが、このパンチ力Fは、角度θ1の傾斜により、十分に小さくなる。本成形パンチ51は主として傾斜壁を曲げるだけであるから受ける反力は小さくなる。
【0119】
すなわち、第3パンチ41及び本成形パンチ51でのパンチ力を小さくすることができる。結果、トランスファープレス装置70に加わる力(負荷)を小さくすることができる。結果、トランスファープレス装置70の製造コストを低減することができる。
【0120】
なお、中間成形機構(
図19、符号60)が加わるときには、この中間成形機構は、予備成形機構40と本成形機構50との間に配置される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、底と周壁からなり、周壁の内と外の少なくとも一方に歯が付いている歯付きカップ状部品の製造に好適である。
【符号の説明】
【0122】
10…歯付きカップ状部品、11…底、12…周壁、13…歯、14…歯底、17…基準曲部、20…絞り機構、21…金属円板、22…第1パンチ、23…第1パッド、25…第1ダイ、27…起立壁、28…第1中間品、29…曲部、30…傾斜壁形成機構、31…第2パンチ、31a…第2パンチの中心軸、31b…第2パンチの側面、34…第2ダイ、35…第2パッド、36…第2ダイ孔、38…傾斜壁、39…第2中間品、40…予備成形機構、40B…第1予備成形機構、40C…第2予備成形機構、41…第3パンチ、41a…第3パンチの中心軸、41b…第1円錐台面、42…第3ダイ、43…第3パッド、44…第3ダイ孔、45…歯形成用突条、47…予備成形品、47B…第1予備成形品、47C…第2予備成形品、48…仮の歯底、49…仮の歯、50…本成形機構、51…本成形パンチ、51a…本成形パンチの中心軸、51b…円筒面、52…本成形ダイ、53…本成形パッド、55…本成形突条、56…未成形部、60…中間成形機構、61…中間成形パンチ、61a…中間成形パンチの中心軸、61b…第2円錐台面、62…中間成形ダイ、63…中間成形パッド、65…中間成形突条、67…中間成形品、69…凸部、70…トランスファープレス装置、θ3…第1角度、θ4…第2角度。
【要約】
【課題】環境に優しく、歯の形状が良好で且つ工具の長寿命化が図れるような歯付きカップ状部品の製造技術を提供する。
【解決手段】絞り工程と傾斜壁形成工程と予備成形工程と本成形工程とからなる歯付きカップ状部品の製造方法であって、前記予備成形工程に用いる予備成形機構40は、第3パンチ41と第3ダイ42と第3パッド43とを備え、前記第3パンチ41は、前記第3パンチ41の中心軸41aに対して前記第1角度θ3で傾斜した第1円錐台面41bを有し、前記第1円錐台面41bには、歯形成用突条45が設けられており、前記歯形成用突条45は、
図4(a)の5a矢視で、縦長の台形形状とされる。
【選択図】
図4