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  • 特許-気体貯蔵放出化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】気体貯蔵放出化合物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20240501BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240501BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240501BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240501BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20240501BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240501BHJP
   C01B 21/00 20060101ALI20240501BHJP
   C01B 23/00 20060101ALI20240501BHJP
   C08G 69/40 20060101ALI20240501BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/30
B01J20/28 Z
B01J20/22 A
C01B3/00 B
C01B32/50
C01B21/00
C01B23/00 Z
C08G69/40
F17C11/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020197445
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085652
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】有村 智朗
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-528392(JP,A)
【文献】特表2008-510860(JP,A)
【文献】特開平01-043525(JP,A)
【文献】特開平01-043526(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088496(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104587840(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
F17C 1/00-13/12
C08G 69/00-69/50
C01B 3/00-6/34
C01B 15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを有する、気体貯蔵放出化合物。
【化1】
【化2】
(式(1)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に炭素数2~4の2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~5の整数である。式(2)中、Rは、3価の芳香族炭化水素基である。式(1)と式(2)は、アミド結合により結合し、同じ式の構造単位が直接結合しない。)
【請求項2】
前記気体貯蔵放出化合物が、網目状構造を有する、請求項1に記載の気体貯蔵放出化合物。
【請求項3】
少なくとも、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物と、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
(式(3)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に炭素数2~4の2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~5の整数である。式(4)中、Rは、3価の芳香族炭化水素基であり、X、Y及びZは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR10(R10は1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)を表す。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
【請求項5】
ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項4に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項6】
ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、請求項4又は5に記載のガス貯蔵放出材料。
【請求項7】
ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、請求項4~6のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを貯蔵及び放出することができる気体貯蔵放出化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化のような環境問題を解決するために、これまでの化石燃料に代わる、クリーンなエネルギー源の開発が進められている。このうち、水素は、資源が多様かつ豊富であり、燃焼性能特性・発熱量が良好であり、燃料電池や内燃機関による発電時に二酸化炭素が排出されない低環境負荷であることから、エネルギー源として有望なものの一つとされている。
【0003】
水素をエネルギー源として用いるためには、変動する需要に柔軟に対応して供給を行うことができる、水素の貯蔵・放出システムの構築が必要である。例えば、余剰電力を用いて水を電気分解して得られた水素を、利用施設へ輸送する水素サプライチェーンの構築が必要である。
しかし、水素は常温常圧で気体であるため、現在、タンクやボンベ等の容器を用い高圧水素ガスとして貯蔵されている。そのため、これまで水素を利用する場合、高圧水素や液化水素をタンクローリーにより輸送する必要があった。また、水素貯蔵施設においても、高圧水素ガスタンクなどの大規模なインフラの整備が必要であった。
【0004】
容器を用いた高圧水素ガスの貯蔵・放出システムに代えて、オンサイトで水素を使用する場合、水素と材料間の相互作用により低圧で大量かつ安全に貯蔵・放出できる、水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵・放出システムが検討されている。水素貯蔵材料は、水素を選択的かつ可逆的に貯蔵及び放出できる材料である。水素貯蔵材料としては、水素貯蔵合金が有望とされているが、水素貯蔵能力に問題がある。また、不純物ガスによる性能低下や、レアメタルや高純度金属を原材料として使用することに伴うコスト上昇等の点において、改善の余地がある。さらに、水素貯蔵合金は、加工性が悪く、構成するチタンやマンガンなどの密度が4~8g/cmと高いため貯蔵体の重量が大きくなり、水素貯蔵時には冷却が、水素放出時には加熱が必要であり、取り扱い性の点で問題がある。
【0005】
特許文献1には、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム等のホウ素系化合物の水素錯体を水素貯蔵放出材料とすることが記載されている。しかしながら、このような水素貯蔵放出材料を製造するためには、高温で粉砕機を用いて原料を混錬粉砕する等の大きなエネルギーが必要である。
特許文献2には、水素貯蔵体として、BHとMgの塩を用いることが記載されている。しかしながら、水素貯蔵体として成形するためには、400MPaの圧力が必要である。さらに、水素の吸脱着を行うために230℃~370℃もの高温にする必要がある。
特許文献3には、ホウ素系化合物であるアラネート粒子粉末を用いて、水素の貯蔵放出を行うことが記載されている。しかしながら、水素の貯蔵放出時には150~180℃に温度設定する必要があり、エネルギー消費が多い点で問題がある。
さらに、特許文献4~6には、有機高分子化合物からなる水素貯蔵材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-502968号公報
【文献】特開2012-240885号公報
【文献】特開2004-283694号公報
【文献】特開2017-149683号公報
【文献】特開2018-199106号公報
【文献】国際公開第2015/005280号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、各種のガスの貯蔵・放出特性に優れた新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の構造単位を有する気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が、各種のガス、特に水素の貯蔵・放出特性に優れており、これを用いることにより上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
項1: 式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とを有する、気体貯蔵放出化合物。
【化1】
【化2】
(式(1)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~500の整数である。式(2)中、Rは、2価の芳香族炭化水素基である。式(1)と式(2)は、アミド結合により結合し、同じ式の構造単位が直接結合しない。)
項2: 前記気体貯蔵放出化合物が、網目状構造を有する、項1に記載の気体貯蔵放出化合物。
項3: 少なくとも、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物成分と、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸成分とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
(式(3)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~500の整数である。式(4)中、Rは、2価の芳香族炭化水素基であり、X、Y及びZは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR10(R10は1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)を表す。)
項4: 項1又は2に記載の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
項5: ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、項4に記載のガス貯蔵放出材料。
項6: ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、項4又は5に記載のガス貯蔵放出材料。
項7: ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、項4~6のいずれかに記載のガス貯蔵放出材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、各種のガスの貯蔵・放出特性に優れた新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が提供される。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、特に、水素貯蔵・放出特性が非常に優れている。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、水素貯蔵合金よりも水素を多量に貯蔵できて密度が低く、水素を貯蔵させる場合の冷却時や放出させる際の加温時に必要とするエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易である。
本発明の気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料は、市販の化合物を用い、簡便な合成方法により得られることから、安価で汎用性が高い。また、水素貯蔵合金よりも密度が低い高分子材料であるから、取り扱い性に優れ、効率の良い水素輸送が可能となる。さらに、水素の貯蔵・放出時に、加熱冷却、加圧減圧等の条件を温和なものにできることから、低いエネルギー利用下にて使用できる。そのため、余剰電力から得られた水素を利用施設に輸送する水素サプライチェーンを、安全に安価で構築することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料と、水素貯蔵合金との水素貯蔵・放出特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料について説明する。
[気体貯蔵放出化合物]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位と、式(2)及で表される構造単位とを有している。
【化5】
【化6】
(式(1)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~500の整数である。式(2)中、Rは、2価の芳香族炭化水素基である。式(1)と式(2)は、アミド結合により結合し、同じ式の構造単位が直接結合しない。)
なお、本発明の式(1)で表される構造単位中の3つの結合部位の少なくとも2つは、それぞれの別の式(2)で表される構造単位と結合することで高分子化している。同様に、本発明の式(2)で表される構造単位中の3つの結合部位の少なくとも2つは、それぞれの別の式(1)で表される構造単位と結合することで高分子化している。
【0013】
本発明において、式(1)中のp、q及びrは、アルキレンオキサイドの付加数であり1~500の整数である。例えば、気体貯蔵放出特性の点から、p+q+rは、式(1)で表される化合物の分子量が300~5000、好ましくは300~2000となる値であることが好ましい。
式(1)で表される構造単位は、例えば、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物から得ることができる。
【化7】
(式(3)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~500の整数である。)
【0014】
式(3)中の3価の脂肪族炭化水素基であるRとしては、例えば、炭素数3~30の脂肪族炭化水素基があげられる。このうち、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、2,3,4-ヘキサントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、4-プロピル-3,4,5-ヘプタントリオール、2,4-ジメチル-2,3,4-ペンタントリオール等からなる群より選ばれる1種類以上の3価のアルコールから誘導される基が好ましい。
【0015】
式(3)中の2価の脂肪族炭化水素基であるR~Rとしては、例えば、炭素数2~10の脂肪族炭化水素基があげられる。このうち、炭素数が2~4のアルキレンオキサイドから誘導される基が好ましく、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等からなる群より選ばれる1種類以上のアルキレンオキサイドから誘導される基が好ましい。
式(3)中のp、q及びrは、アルキレンオキサイドの付加数であり1~500の整数である。例えば、気体貯蔵放出特性の点から、p+q+rは、式(1)で表される化合物の分子量が300~5000、好ましくは300~2000となる値であることが好ましい。例えば、p、q及びrは、好ましくはそれぞれ独立に1~10の整数、より好ましくはそれぞれ独立に1~5である。
また、p+q+rは、3~120の整数、好ましくは、4~50の整数である。p+q+rが3未満の場合、気体貯蔵放出化合物における化学結合の安定性が低くなり劣化しやすくなるおそれがある。p+q+rが120を超えると、粒子化した際に表面積が小さくなり気体貯蔵放出能力が低下するおそれがある。
【0016】
式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物は、市販品用いてもよく、また合成して得ることができる。本発明においては、トリメチロールプロパントリス[ポリ(プロピレングリコール),アミン末端]エーテル(メルク社製)、トリメチロールプロパントリス[ポリ(エチレングリコール),アミン末端]エーテル、グリセリントリス[ポリ(プロピレングリコール),アミン末端]エーテル、グリセリントリス[ポリ(エチレングリコール),アミン末端]エーテル等を用いることが好ましい。
【0017】
式(2)で表される構造単位は、例えば、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体から得ることができる。
【化8】
(式(4)中、Rは、2価の芳香族炭化水素基であり、X、Y及びZは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR10(R10は1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)を表す。)
【0018】
式(4)中の3価の芳香族炭化水素基であるRとしては、例えば、炭素数6~30の芳香族炭化水素基があげられる。このうち、トリメリット酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸、ヘミリット酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,4,5-ナフタレントリカルボン酸、1,3,6-ナフタレントリカルボン酸又は2,3,6-ナフタレントリカルボン酸、1,2,8-ナフタレントリカルボン酸、2,3,6-アントラセントリカルボン酸、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルスルホントリカルボン酸、これらの芳香族トリカルボン酸の反応性誘導体(酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル化物及びアミド化物等)等からなる群より選ばれる1種類以上の3価の芳香族トリカルボン酸から誘導される基が好ましい。
【0019】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)及び(2)で表される構造単位以外に、共重合単位を含んでいてもよい。
本発明の気体貯蔵放出化合物が含んでいてもよい共重合単位としては、例えば、下記式(5)~(7)で表され、式(1)又は(2)で表される構造単位以外のものがあげられる。
-HN-R20(-NH-) ・・・(5)
-OC-R21(-CO-) ・・・(6)
(-CO-)22(-CO-) ・・・(7)
(式(5)~(7)中、wは1~3の整数、xは1~3の整数、yは1又は2、zは1又は2、R20はw+1価の有機基、R21はx+1価の有機基、R22はy+z価の有機基である。)
なお、式(1)、式(2)、式(5)~(7)で表される構造単位は、それぞれ、アミド結合(-HN-CO-又は>N-CO-)を形成することで結合している。
本発明において、式(5)で表される構造単位は、式(1)で表される構造単位を構成しないポリアミン化合物から、式(6)で表される構造単位は、式(2)で表される構造単位を構成しないポリカルボン酸又はその反応性誘導体から、式(7)で表される構造単位は、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから、それぞれ得ることができる。
【0020】
20、R21及びR22としては、それぞれ独立に、例えば、炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環族炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基及び炭素数6~20でN及び/又はO及び/又はSを有する芳香族複素環基があげられる。好ましくは、それぞれ独立に、炭素数2~6のアルキレン基、フェニレン基等があげられる。
【0021】
式(5)中のw+1価の有機基であるR20としては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノー1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等の脂環族ジアミン;2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリアミンフェノール;1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル等の多官能アミン等からなる群より選ばれる1種類以上のポリアミン化合物から誘導される基が好ましい。
【0022】
式(6)中のx+1価の有機基であるR21としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸;シュウ酸、メチルマロン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ジグリコール酸等の脂肪族二塩基酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等からなる群より選ばれる1種類以上のポリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物、アミド化物、酸無水物等)から誘導される基が好ましい。
【0023】
式(7)中のy+1価の有機基であるR22としては、例えば、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンドデカン酸、アミノ安息香酸、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等からなる群より選ばれる1種類以上の(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから誘導される基が好ましい。
【0024】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位のみから構成されていてもよい。また、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位に加えて、式(5)~(7)で表される構造単位を1種類以上含んでいてもよい。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位(式(1)で表される構造単位、式(2)で表される構造単位、式(5)で表される構造単位、式(6)で表される構造単位及び式(7)で表される構造単位、以下、これらをまとめて「全構造単位」という場合がある。)の合計量に対する、式(1)で表される構造単位の含有量は1~60モル%、好ましくは5~60モル%、より好ましくは10~50モル%である。1モル%未満又は60モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0025】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(2)で表される構造単位の含有量は1~60モル%、好ましくは5~60モル%、より好ましくは10~50モル%である。1モル%未満又は60モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0026】
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(5)で表される構造単位の含有量は0~30モル%、好ましくは0~20モル%、より好ましくは0~10モル%である。30モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(6)で表される構造単位の含有量は0~30モル%、好ましくは0~20モル%、より好ましくは0~10モル%である。30モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
気体貯蔵放出化合物中の全構造単位の合計量に対する、式(7)で表される構造単位の含有量は0~40モル%、好ましくは0~20モル%、より好ましくは0~10モル%である。40モル%超の場合には、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0027】
本発明の気体貯蔵放出化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、10,000~1,000,000、好ましくは70,000~700,000、より好ましくは80,000~300,000である。
【0028】
[気体貯蔵放出化合物の製造方法]
前記気体貯蔵放出化合物は、少なくとも、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分とを、公知のポリアミド重合反応手段を用いて反応させて得ることができる。
【化9】
(式(3)中、Rは3価の脂肪族炭化水素基、R~Rはそれぞれ独立に2価の脂肪族炭化水素基であり、p、q及びrはそれぞれ独立に1~500の整数である。)
【0029】
【化10】
(式(4)中、Rは、2価の芳香族炭化水素基であり、X、Y及びZは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)又はNHR10(R10は1~6のアルキル基であり、複数ある場合はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)を表す。)
【0030】
<ポリアミン成分>
ポリアミン成分に含まれる式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物としては、例えば、3価の脂肪族アルコールと、炭素数2~10のアルキレンオキサイドを反応させた後に、末端にアミノ基を導入することで得られる化合物があげられる。
式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物は、式(1)で表される構造単位を構成するモノマーである。
【0031】
3価の脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素数3~30の脂肪族アルコールがあげられる。このうち、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、1,2,4-ペンタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、2,3,4-ヘキサントリオール、2-エチル-1,2,3-ブタントリオール、4-プロピル-3,4,5-ヘプタントリオール、2,4-ジメチル-2,3,4-ペンタントリオール等からなる群より選ばれる1種類以上の3価のアルコールが好ましい。
【0032】
3価の脂肪族アルコールと反応させる炭素数2~10のアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等からなる群より選ばれる1種類以上の化合物が好ましい。
式(3)中のp、q及びrは、アルキレンオキサイドの付加数であり1~500の整数である。例えば、気体貯蔵放出特性の点から、p+q+rは、式(1)で表される化合物の分子量が300~5000、好ましくは300~2000となる値であることが好ましい。例えば、p、q及びrは、好ましくはそれぞれ独立に1~10の整数、より好ましくはそれぞれ独立に1~5である。
【0033】
式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物は、市販品用いてもよく、また合成したものを用いてもよい。本発明においては、トリメチロールプロパントリス[ポリ(プロピレングリコール),アミン末端]エーテル(メルク社製)、トリメチロールプロパントリス[ポリ(エチレングリコール),アミン末端]エーテル、グリセリントリス[ポリ(プロピレングリコール),アミン末端]エーテル、グリセリントリス[ポリ(エチレングリコール),アミン末端]エーテル等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。
【0034】
本発明において、ポリアミン成分は、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物以外のポリアミン又はその反応性誘導体を含んでいてもよい。このようなポリアミンとしては、例えば、ジアミン、ポリアミンフェノール、その他ポリアミンがあげられる。
ジアミンとしては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノー1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等の脂環族ジアミン;2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリアミンフェノール;1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル等の多官能アミン等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物以外のポリアミン又はその反応性誘導体は、式(5)で表される構造単位である共重合単位を構成するモノマーである。
【0035】
ポリアミン成分中における、式(3)で表される化合物の含有量は、10~100モル%、好ましくは50~100モル%である。10モル%未満であると、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0036】
<ポリカルボン酸成分>
ポリカルボン酸成分に含まれる式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体は、式(2)で表される構造単位を構成するモノマーである。
【0037】
本発明において用いられる式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体としては、例えば、トリメリット酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸、ヘミリット酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,4,5-ナフタレントリカルボン酸、1,3,6-ナフタレントリカルボン酸又は2,3,6-ナフタレントリカルボン酸、1,2,8-ナフタレントリカルボン酸、2,3,6-アントラセントリカルボン酸、3,4,4’-ベンゾフェノントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルエーテルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルトリカルボン酸、2,3,2’-ビフェニルトリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルメタントリカルボン酸、3,4,4’-ビフェニルスルホントリカルボン酸、これらの芳香族トリカルボン酸の反応性誘導体(酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル化物及びアミド化物等)等からなる群より選ばれる1種類以上の3価の芳香族トリカルボン酸から誘導される基が好ましい。
本発明においては、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体として、芳香族トリカルボン酸ハロゲン化物を用いることが、反応性等の点から好ましい。
【0038】
本発明において、ポリカルボン酸成分は、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体ではない、ポリカルボン酸又はその反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物、アミド化物、酸無水物等)を含んでいてもよい。このようなポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸;シュウ酸、メチルマロン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ジグリコール酸等の脂肪族二塩基酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等の多塩基酸等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体ではない、ポリカルボン酸又はその反応性誘導体は、式(6)で表される構造単位である共重合単位を構成するモノマーである。
【0039】
ポリカルボン酸成分中における、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体の含有量は、10~100モル%、好ましくは50~100モル%である。10モル%未満であると、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
【0040】
<その他の反応成分>
本発明においては、ポリアミド重合反応の際には、ポリカルボン酸成分及びポリアミン成分以外に、必要に応じて、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸化合物(ジアミノカルボン酸化合物、ジアミノジカルボン酸化合物、アミノジカルボン酸化合物)、ラクタム等をその他の反応成分として用いることができる。(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸及びラクタムは、式(7)で表される構造単位である共重合単位を構成するモノマーである。
【0041】
(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸化合物としては、例えば、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンドデカン酸、アミノ安息香酸、ジアミノ安息香酸、アミノテレフタル酸、ジアミノテレフタル酸、アミノイソフタル酸、ジアミノイソフタル酸等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
【0042】
<各成分の反応比率>
本発明において、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分との反応モル比は、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分1モルに対して、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分が0.8~1.7モル、好ましくは0.9~1.6モル、より好ましくは0.95~1.45モルである。式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分の量が1.7モル超又は0.8モル未満であると、気体貯蔵放出化合物の分子量が十分に大きくならず、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
式(3)で表される化合物と、式(4)で表される化合物とのモル比は、式(3):式(4)=1:1.6~1:0.8、好ましくは1:1.5~1:0.9である。
また、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分1モルに対する前記「その他の反応成分」の量は、0~9モル、好ましくは0~2モルの範囲である。
【0043】
[重合方法]
本発明において、少なくとも、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を含むポリカルボン酸成分とを反応させる方法としては、公知のポリアミド重合反応手段を用いることができる。
例えば、
(i)式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体を芳香族トリカルボン酸酸塩化物とし、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法、
(ii)式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体をジカルボン酸ジエステルとし、金属触媒存在下において式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法、
(iii)式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体をジカルボン酸とし、カルボジイミド触媒存在下において式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法、
等があげられる。
本発明においては、式(4)で表される芳香族トリカルボン酸化合物又はその反応性誘導体をジカルボン酸塩化物とし、式(3)で表されるアミノ基末端ポリオキシアルキレン付加トリオール化合物を含むポリアミン成分と反応させる方法を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位を含むことから、網目状構造を有している。この網目状構造が、水素分子を保持する壁のような役割を果たすことにより、気体、例えば、水素分子(水素ガス)を貯蔵放出する機能が発現するのではないかと推測されるが、この推測により本発明は何ら限定されない。
【0045】
[ガス貯蔵放出材料]
本発明のガス貯蔵放出材料は、前記気体貯蔵放出化合物の1種類以上を1~100質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%含んでいる。前記気体貯蔵放出化合物の含有量が1質量%未満であると、ガス貯蔵特性を十分に発揮することができない場合がある。
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれていてもよい、前記式(1)で表される繰返し単位を有する気体貯蔵放出化合物以外の成分としては、例えば、樹脂、充填剤、各種添加剤等をあげることができる。
【0046】
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられる。充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラスフレーク、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、有機繊維、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、金属ナノファイバー等があげられる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、ゼオライトや活性炭等の吸着剤、可塑剤、抗菌剤、導電材等があげられる。
【0047】
ガス貯蔵放出材料の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体等のいずれかとすることができる。
粒子である場合は、例えば、平均粒子径1μm~1mmの範囲で任意に調節することができる。
繊維である場合は、例えば、長さ1mm~10m、直径0.1mm~5mmの範囲で任意に調節することができる。
フィルムである場合、例えば、厚さ10μm~1mmの範囲で任意に調整することができる。フィルムの幅及び長さは、任意の大きさとすることができる
不織布又は織布である場合は、例えば、目付20g/m~120g/mの範囲で任意に調整することができる。
多孔質体である場合は、例えば、見かけ密度0.1g/m~1.2g/m、空隙率5~80vol%の範囲で任意に調整することができる。
成形体である場合は、例えば、押出成形、射出成形等の任意の成形手段を用い、任意の形状の成形体に調整することができる。
本発明のガス貯蔵放出材料は、粒子、多孔質体、不織布、フィルム、繊維の形状であることが、製造の容易性、水素等とのガスと接触する面積の調整、取り扱い性の向上等の点から好ましい。
【0048】
[気体(ガス)]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が貯蔵・放出する気体(ガス)は、特に限定されない。例えば、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、ラドン)、炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等)、酸素、ハロゲンガス(フッ素、塩素)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。好ましくは、水素、窒素、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、アセチレンからなる群より選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは水素である。
【0049】
[気体の貯蔵・放出方法]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料における気体(ガス)の貯蔵(会合)・放出(離脱)方法は、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵材料において、水素を貯蔵・放出させる公知の方法を用いることができる。
例えば、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線、赤外線などのエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。
【0050】
貯蔵手段として、好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、加圧手段を含む方法が用いられる。
放出手段として、好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、減圧手段を含む方法が用いられる。
【0051】
[気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料の用途]
本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、気体(ガス)を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された気体(ガス)を簡便な手段で放出させることができる。本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料は、特に水素を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された水素を簡便な手段で放出できることから、水素貯蔵材料として有用である。
また、水素貯蔵合金が水素の貯蔵・放出特性を示さない大気圧未満の低圧状態においても、水素の貯蔵・放出特性に優れるものであるから、この点からも、水素貯蔵材料として有用である。
さらに、成形性に優れることから任意の形状に容易に加工することが可能であり、軽量であることから、運搬・保存を容易に行うことができる。
【0052】
例えば、風力発電所で発電した電気を使い、水電解水素製造装置で水素を製造し、車載コンテナに収納した本発明の気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料に水素を貯蔵する。水素を貯蔵した気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料が収納されたコンテナを車両に搭載し、水素貯蔵材料タンクと純水素型燃料電池とを設備として有する温浴施設に運び、気体貯蔵放出化合物又はガス貯蔵放出材料からこれら設備に水素を移送する。
燃料電池で発生する電気と温水は温浴施設で使用するとともに、水素移送時に「熱のカスケード利用」を行い、水素を貯蔵する側で発生する熱を、放出する側の加熱に利用する。また、水素貯蔵材料タンクから水素を放出するために必要な熱は、建物からの低温排熱を利用しエネルギー効率を向上させることができる。
【実施例
【0053】
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例]
<気体貯蔵放出化合物の合成>
200ml丸底フラスコに、トリメシン酸クロリド(1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド) 2.65g(0.01mol)、数平均分子量440のアミン末端トリメチロールプロパントリス[ポリ(プロピレングリコール)] 4.40g(0.01mol)及びN,N-ジメチルホルムアミド 15mlを加え、25℃にてマグネチックスターラーを用いて2時間撹拌した。反応溶液にメタノール5mlを加え、沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を0.45μm孔のメンブレンフィルターにて濾過し、沈殿物と濾液とに分けた。沈殿物は風乾した後、真空乾燥を行い、目的の気体貯蔵放出化合物を得た。
【0055】
<構造の分析>
(FT-IR)
得られた気体貯蔵放出化合物について、Thermo Electron社製Nicolet 6700FT-IR装置を用い、一回反射ATR法によりFT-IRを測定した。結果は以下のとおりとなった。
C=O:1721、1732(cm-1
CH:1467、2889、2936(cm-1
NH:1740、1763(cm-1
C-O-C:1650、1682(cm-1
フェニル環:3070(cm-1
【0056】
(重量平均分子量)
得られた気体貯蔵放出化合物について、東ソー社製ゲルパーミュエーションクロマトグラフHLC-8321GPC/HTにTSKgel GMHHR-H(S)HT2カラムを装着し、o-ジクロロベンゼン溶媒に溶解させた気体貯蔵放出化合物を注入し、カラム保持時間を測定した。得られたカラム保持時間から、分子量が判明しているポリスチレンを測定することで予め作成した検量線と比較計算して、化合物1のポリスチレン換算分子量を算出した。
【0057】
(構造の分析)
これらFT-IR及び重量平均分子量測定の結果より、実施例に係る気体貯蔵放出化合物は、下記の2種類の構造単位を少なくとも有し、これらの構造単位がアミド結合により網目状に結合した、重量平均分子量が178,000のポリアミド化合物であることが確認された。
【化11】
(式(8)中、R11~R16は、それぞれ独立に、
-CH-CH(CH)-、又は
-CH(CH)-CH-、
のいずれかである。p+q+rは、アミン末端トリメチロールプロパントリス[ポリ(プロピレングリコール)]の数平均分子量が440となる値である。)
【0058】
【化12】
【0059】
<水素貯蔵放出能力の評価>
水素貯蔵放出能力の評価は、試験用粉末をSUS製サンプル菅に充填し、鈴木商館製PCT特性評価装置を用い25℃においてPCT曲線を観察することで行った。PCT特性測定装置は、物質が水素を吸放出するときの特性(P:圧力、C:貯蔵量(吸収量)、T:温度)を測定する装置で、ジーベルツ装置とも呼ばれるものである。
圧力に対する、実施例に係る気体貯蔵放出化合物の水素の貯蔵量(Adsorption:質量%)及び放出量(Desorption:質量%)との関係は、図1のとおりとなった。なお、ここでいう貯蔵量及び放出量は、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)又は放出量を質量%として表したものである。
【0060】
[比較例]
水素化ホウ素カルシウム(アルドリッチ社製、製品番号(695254-1G)を用いて、実施例1と同様に水素貯蔵放出能力を評価した。その結果、実施例1の気体貯蔵化合物(それを含むガス貯蔵放出材料)の方が高い水素貯蔵放出能力を示した。
【0061】
実施例の気体貯蔵放出化合物の気体貯蔵放出特性が高い理由について、本発明者は次のように推察している。
水素化ホウ素化合物が水素を貯蔵放出するためには、300℃以上の温度環境が必要である。
一方で、実施例の気体貯蔵放出化合物における網目状構造は、25℃において2オングストローム程度の長さの炭素鎖で囲まれた網目状構造となっており、25℃で2オングストローム程度の大きさの水素分子が、網目状構造に包埋されることとなる。このため、25℃においては、実施例の気体貯蔵放出化合物の気体貯蔵放出特性が高くなるものと推察している。
【0062】
これらの結果より、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、比較例の水素化ホウ素カルシウムと比較して、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)及び放出量の質量%が大きく、水素の貯蔵・放出能力が高いことが判明した。
これより、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を貯蔵・放出することができる材料として有用であることが確認された。
図1