(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240501BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20240501BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 512
H01G4/30 517
H01G4/30 201L
H01G4/30 201K
H01G4/30 311Z
H01G13/00 391E
(21)【出願番号】P 2019190494
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】志村 哲生
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智也
(72)【発明者】
【氏名】猪又 康之
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199534(JP,A)
【文献】特開2004-214539(JP,A)
【文献】特開2004-123427(JP,A)
【文献】特開2007-131476(JP,A)
【文献】特開昭63-289709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/228- 4/252
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体を備えるセラミック電子部品であって、
前記誘電体層は、Ba,Sr,Ca,Zr,Ti,Oの各元素を含む(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3を主成分とし、
前記誘電体層に含まれる少なくともいずれかの結晶粒内に、Ba濃度およびCa濃度にバラツキを有
し、
前記誘電体層の断面において、1以上の結晶粒内の20点のCa濃度/Ba濃度のCV値は、0.06以上0.041以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記20点は、前記誘電体層のいずれかの結晶粒内の10点および前記誘電体層の他の結晶粒内の10点であることを特徴とする請求項
1記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層において、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3の基準組成は、(Ba
xSr
yCa
z)(Zr
sTi
t)O
3と表記した場合、0
<x<0.4、0<y<0.7、0<z<0.8、x+y+z=1、0.9<s<1、0<t<0.1であることを特徴とする請求項1
又は2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層における結晶粒の平均径は、0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記誘電体層は、1μm以上10μm以下の厚みを有することを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記結晶粒内において、ランダムに測定した場合に、前記結晶粒内のBaの平均組成に対してBaリッチな領域と、前記結晶粒内のCaの平均組成に対してCaリッチな領域と、が交互に並ぶ箇所が現れることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3は、ペロブスカイト型構造を有していることを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
Ba,Sr,Ca,Zr,Ti,Oの各元素を含む(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3の粉末を含む誘電体グリーンシートと金属導電ペーストとが交互に積層された積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成することで、前記誘電体グリーンシートから誘電体層を形成する工程と、
前記積層体を冷却する工程と、を含み、
前記積層体を冷却する際に、前記誘電体層における少なくともいずれかの結晶粒内に、Ba濃度およびCa濃度にバラツキが生じるように、冷却条件を調整
し、
前記誘電体層の断面において、1以上の結晶粒内の20点のCa濃度/Ba濃度のCV値は、0.06以上0.041以下である
ことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記積層体を冷却する際に、
600℃から250℃までに
10分以上
20分以下の時間をかけることを特徴とする請求項
8に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度補償材用途のセラミック組成物の主剤として、常誘電性のペロブスカイト型酸化物(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3が用いられている。このような常誘電性のペロブスカイト型酸化物を誘電体層に用いた積層セラミックコンデンサが開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-195352号公報
【文献】特開2017-28254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3の誘電率は比較的低いため、製品を小型化するためには誘電体層を薄層化して多積層化することが望まれる。誘電体層の薄層化には、誘電体層の信頼性を向上させることが望まれる。
【0005】
Niなどの金属を内部電極層に用いる場合、還元焼成が行われる。この場合、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3に含まれるTiイオンが還元雰囲気の影響を受けて、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3が電子導電性を示すおそれがある。したがって、誘電体層を薄層化した際に、誘電体層の絶縁抵抗について信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、誘電体層の信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体を備えるセラミック電子部品であって、前記誘電体層は、Ba,Sr,Ca,Zr,Ti,Oの各元素を含む(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3を主成分とし、前記誘電体層に含まれる少なくともいずれかの結晶粒内に、Ba濃度およびCa濃度にバラツキを有し、前記誘電体層の断面において、1以上の結晶粒内の20点のCa濃度/Ba濃度のCV値は、0.06以上0.041以下であることを特徴とする。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記20点は、前記誘電体層のいずれかの結晶粒内の10点および前記誘電体層の他の結晶粒内の10点としてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品の前記誘電体層において、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3の基準組成は、(BaxSryCaz)(ZrsTit)O3と表記した場合、0<x<0.4、0<y<0.7、0<z<0.8、x+y+z=1、0.9<s<1、0<t<0.1としてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層における結晶粒の平均径は、0.1μm以上1.0μm以下としてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層は、1μm以上10μm以下の厚みを有していてもよい。
前記結晶粒内において、ランダムに測定した場合に、前記結晶粒内のBaの平均組成に対してBaリッチな領域と、前記結晶粒内のCaの平均組成に対してCaリッチな領域と、が交互に並ぶ箇所が現れてもよい。
前記(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3
は、ペロブスカイト型構造を有していてもよい。
【0013】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、Ba,Sr,Ca,Zr,Ti,Oの各元素を含む(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3の粉末を含む誘電体グリーンシートと金属導電ペーストとが交互に積層された積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成することで、前記誘電体グリーンシートから誘電体層を形成する工程と、前記積層体を冷却する工程と、を含み、前記積層体を冷却する際に、前記誘電体層における少なくともいずれかの結晶粒内に、Ba濃度およびCa濃度にバラツキが生じるように、冷却条件を調整し、前記誘電体層の断面において、1以上の結晶粒内の20点のCa濃度/Ba濃度のCV値は、0.06以上0.041以下であることを特徴とする。
【0014】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記積層体を冷却する際に、600℃から250℃までに10分以上20分以下の時間をかけてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、誘電体層の信頼性を向上させることができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図2】誘電体層における各結晶粒を例示する図である。
【
図3】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図4】(a)はサンプル2-3について観察された1つの結晶粒において選択したスポットを示す図であり、(b)は(a)の各スポットのEDS元素分析結果を示す図である。
【
図5】(a)はサンプル2-3について観察された他の結晶粒において選択したスポットを示す図であり、(b)は(a)の各スポットのEDS元素分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0019】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を主成分とする誘電体層11と、卑金属材料等の金属材料を主成分とする内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層構造の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0020】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0021】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を主成分として用いてもよい。内部電極層12の平均厚さは、例えば、1μm以下であり、0.5μm以下とすることが好ましい。
【0022】
誘電体層11は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。具体的には、誘電体層11は、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3を主成分とする。(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3は、AサイトにBa(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、およびCa(カルシウム)を含み、BサイトにZr(ジルコニウム)およびTi(チタン)を含んでいる。(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3は、常誘電体であり、静電容量の温度変化が小さいという温度補償性能を有している。なお、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3の基準組成は、誘電体層11全体におけるBa,Sr,Ca,Zr,Tiの組成の平均値の比率であり、偏析の影響を受けないように複数の領域をTEM(透過型電子顕微鏡)で面分析することで確認することができる。一例として、本実施形態において、誘電体層11における基準組成は、(BaxSryCaz)(ZrsTit)O3と表記した場合、0<x<0.4、0<y<0.7、0<z<0.8、x+y+z=1、0.9<s<1、0<t<0.1である。
【0023】
例えば、内部電極層12は、金属粉末を含む金属導電ペーストを焼成することによって得られる。また、誘電体層11およびカバー層13は、セラミック粉末を含むグリーンシートを焼成することによって得られる。内部電極層12に卑金属粉末を用いることから、焼成雰囲気に還元雰囲気を用いることが望まれる。この場合、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3のTiイオンが還元雰囲気の影響を受けて、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3が電子導電性を示すおそれがある。したがって、誘電体層11を薄層化した際に、誘電体層11の絶縁抵抗についての信頼性が低下するおそれがある。そこで、本実施形態に係る誘電体層11は、信頼性を向上させる構造を有している。
【0024】
図2は、誘電体層11における各結晶粒14の断面を例示する図である。
図2で例示するように、誘電体層11は、結晶粒界15を境界として、複数の結晶粒14を備えている。結晶粒14は、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3の結晶粒である。各結晶粒14において、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O
3の粒子内のBaの平均組成に対してBaリッチな部分と粒子内のCaの平均組成に対してCaリッチな部分とが混在している。すなわち、結晶粒14において、Ba濃度およびCa濃度にバラツキがある。例えば、スポット定量分析を行った場合に、
図2で例示するように、BaリッチなスポットP
BaとCaリッチなスポットP
Caとが混在することになる。ただし、各スポットにおいて、AサイトにはBa、SrおよびCaが含まれ、BサイトにはZrおよびTiが含まれる。したがって、誘電体層11は、温度補償性能を有している。なお、ここでのスポットサイズ(スポット径)は、例えば、1.0nm程度である。
【0025】
誘電体層11の結晶粒14がこのような構造を有することで、Ca濃度/Ba濃度が結晶粒14で均一に固溶する場合と比較して、高い電圧までブレークダウンを抑制することができる。これは、結晶粒14の中に形成される組成分布(Ca濃度とBa濃度とのバラツキ)がイオンの拡散に対して障壁として機能し、絶縁挙動が高くなり、電界での破壊が起きにくくなるからであると考えられる。したがって、本実施形態に係る誘電体層11は、温度補償材としての性質を有しつつ、絶縁抵抗値の信頼性を向上させることができる。
【0026】
なお、結晶粒14において、スポットPBaとスポットPCaとが混在しているとは、結晶粒14においてBaリッチな領域とCaリッチな領域とに2分割されているのではなく、スポットPBaとスポットPCaとがランダムに配置されていることを意味する。したがって、1つの結晶粒14の断面内においてランダムにスポットを選択した場合に、スポットPBaとスポットPCaとが交互に並ぶ箇所が現れる場合がある。
【0027】
結晶粒14の各スポットにおいて、Ba濃度とCa濃度とのバラツキが大きい方が好ましい。例えば、1以上の結晶粒14の断面から複数のスポット(例えば20個のスポット)を選択し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてEDS元素分析を行った場合に、各スポットのCa濃度(atm%)/Ba濃度(atm%)のCV値(変動係数)が0.06以上であることが好ましく、0.12以上であることがより好ましく、0.19以上であることがさらに好ましい。20個のスポットとして、1つの結晶粒14から10点を選択し、他の結晶粒14から10点を選択してもよい。また、複数のスポットのうち、半分をBaリッチなスポットPBaから選択し、残りの半分をCaリッチなスポットPCaから選択してもよい。
【0028】
例えば、結晶粒14の粒径の平均値は、0.1μm以上1.0μm以下である。
【0029】
なお、誘電体層11が薄層化された場合に、誘電体層11の信頼性低下が特に重要となり得る。したがって、誘電体層11の信頼性向上の効果は、誘電体層11が薄層化された場合に顕著となる。例えば、誘電体層11の厚みが、1μm以上10μm以下の場合に信頼性向上の効果が顕著となり、1μm以上5μm以下の場合に信頼性向上の効果がさらに顕著となる。
【0030】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図3は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0031】
(原料粉末作製工程)
誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。まず、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3のセラミック粉末を用意する。(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3のセラミック粉末の合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0032】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0033】
セラミック粉末に添加化合物を混合して820~1150℃で仮焼を行う。続いて、セラミック粉末を湿式混合し、乾燥および粉砕する。例えば、セラミック粉末の平均粒子径は、誘電体層11の薄層化の観点から、好ましくは50~300nmである。例えば、上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。
【0034】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0035】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用のパターンを配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加してもよく、添加しなくてもよい。共材としてセラミック粒子を添加する場合には、セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0036】
その後、基材から剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシートを交互に積層する。例えば、合計の積層数を100~500層とする。その後、積層した誘電体グリーンシートの積層体の上下のそれぞれに、カバー層13となる複数枚のカバーシートを圧着することで、セラミック積層体を得る。その後、得られたセラミック積層体を所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0037】
(焼成工程)
このようにして得られた成型体を、N2雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃の焼成温度で10分~2時間焼成する。
【0038】
(冷却工程)
ここで、焼成温度のような高温では、各結晶粒14内において各元素が比較的均一に存在するため、Ba濃度およびCa濃度のバラツキが小さくなっている。この状態から大きい冷却速度で誘電体層11を冷却すると、各結晶粒14における成分元素の移動が抑制されるため、各結晶粒14内のBa濃度およびCa濃度にバラツキが生じにくいと考えられる。一方、時間をかけて冷却を行うことで、各結晶粒14における成分元素が移動するため、Ba濃度およびCa濃度にバラツキが生じやすくなると考えられる。そこで、本実施形態においては、結晶粒14内におけるBa濃度およびCa濃度にバラツキが生じるように、冷却条件を調整する。例えば、焼成温度から時間をかけて冷却を行う。
【0039】
具体的には、例えば、600℃から250℃まで、15分以上の時間をかけて冷却することが好ましく、20分以上の時間をかけて冷却することがより好ましく、30分以上の時間をかけて冷却することがさらに好ましい。冷却に時間をかけすぎると、相変態による内部クラックといった不具合が生じるおそれがある。そこで、600℃から250℃までの冷却時間に上限を設けることが好ましい。例えば、600℃から250℃までの冷却時間を120分以下とすることが好ましく、90分以下とすることがより好ましく、60分以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0041】
(めっき処理工程)
その後、電解めっき等によって、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0042】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法によれば、焼成後の冷却工程において、結晶粒14内にBa濃度およびCa濃度のバラツキが生じるように冷却条件が調整されることから、誘電体層11の結晶粒14において、(Ba,Sr,Ca)(Zr,Ti)O3の基準組成量に対してBaリッチなスポットPBaとCaリッチなスポットPCaとが混在するようになる。それにより、Ca濃度/Ba濃度が結晶粒14で均一に固溶する場合と比較して、高い電圧までブレークダウン破壊を抑制することができる。したがって、誘電体層11は、温度補償材としての性質を有しつつ、絶縁抵抗値の信頼性を向上させることができる。また、一般的な焼成条件と比較するとゆっくり冷却することになるため、総体積変化が少なく、焼成後の残留応力が低くなり、機械的信頼性に有利になる。
【0043】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0045】
(実施例1)
(Ba0.17Sr0.56Ca0.27)(Zr0.95Ti0.05)O3を主原料とし、(Zr+Ti)を100atm%とした場合にSiを1atm%とし、Mnを3atm%とする組成の材料で形成した2.5μmの誘電体グリーンシートと、Ni導電ペーストの内電層との積層体を焼成し、焼成後の冷却を600℃から250℃まで、10分~20分をかけて、積層セラミックコンデンサ100を作製した。サンプル数は5個で、サンプル番号を1-1~1-5とした。
【0046】
(実施例2)
(Ba0.15Sr0.59Ca0.26)(Zr0.94Ti0.06)O3を誘電体グリーンシートの主原料とした。他の条件は、実施例1と同様とした。サンプル数は5個で、サンプル番号を2-1~2-5とした。
【0047】
(分析)
内部電極層12に直交する方向で各サンプルを切断し、断面を研磨した後、透過型電子顕微鏡で組成像観察を行った。透過型電子顕微鏡として、日本電子製の透過型電子顕微鏡JEM2100Fを用いた。加速電圧を200kVとし、観察モードをSTEMとした。誘電体層11において、粒径が500nm以上の結晶粒14が観察された。結晶粒14内に、模様状の痕跡が観察された。これは、Ca濃度とBa濃度とのバラツキが反映された部分である。
【0048】
各サンプルについて、1層の誘電体層11において2つの結晶粒14を選択し、各結晶粒14において10点のEDS元素分析を行った。得られた画像において、5点として明るいスポットを選択し、残りの5点として暗いスポットを選択した。スポットサイズ(スポット径)は、1.0nmとした。
【0049】
図4(a)および
図5(a)は、サンプル2-3について、観察された2つの結晶粒14において選択したスポットを示す。
図4(a)および
図5(a)において、スポット1~スポット5は明るいスポットを示し、スポット6~スポット10は暗いスポット示す。明るいスポットは、Baリッチとなったスポットである。暗いスポットは、Caリッチとなったスポットである。
【0050】
図4(b)は、
図4(a)の各スポットのEDS元素分析結果を示す。
図5(b)は、
図5(a)の各スポットのEDS元素分析結果を示す。
図4(b)および
図5(b)において、明るいスポットでは、Ba/(Ca+Sr+Ba)が基準組成比率である0.17および0.15をそれぞれ上回った。したがって、明るいスポットでは、Baリッチになっていることが確認された。一方、暗いスポットでは、Ca/(Ca+Sr+Ba)が基準組成比率である0.27および0.26をそれぞれ上回った。したがって、暗いスポットでは、Caリッチになっていることが確認された。
【0051】
各サンプルについて、20点のスポットのEDS元素分析の結果を用いて、Ca濃度/Ba濃度の標準偏差σ、Ca濃度/Ba濃度の平均値ave、およびCa濃度/Ba濃度のCV値(σ/ave)を算出した。表1に結果を示す。サンプル1-1では、標準偏差σが0.26で、平均値aveが0.71で、CV値が0.37となった。サンプル1-2では、標準偏差σが0.22で、平均値aveが0.73で、CV値が0.30となった。サンプル1-3では、標準偏差σが0.13で、平均値aveが0.71で、CV値が0.19となった。サンプル1-4では、標準偏差σが0.08で、平均値aveが0.70で、CV値が0.12となった。サンプル1-5では、標準偏差σが0.04で、平均値aveが0.71で、CV値が0.06となった。サンプル2-1では、標準偏差σが0.72で、平均値aveが1.76で、CV値が0.41となった。サンプル2-2では、標準偏差σが0.58で、平均値aveが1.75で、CV値が0.33となった。サンプル2-3では、標準偏差σが0.35で、平均値aveが1.67で、CV値が0.21となった。サンプル2-4では、標準偏差σが0.23で、平均値aveが1.78で、CV値が0.13となった。サンプル2-5では、標準偏差σが0.12で、平均値aveが1.74で、CV値が0.07となった。
【0052】
続いて、各サンプルについて、絶縁抵抗を測定した。具体的には、125℃で各サンプルの積層セラミックコンデンサの外部電極間の電圧-電流特性を測定した。誘電体セラミックスの電気抵抗率が1GΩm以上となった場合を正常な絶縁状態と判定し、それより小さい場合を絶縁破壊状態と判定した。絶縁破壊が起きる電界強度=印加電圧を誘電体の平均層厚で割ったものが100V/μmより高い場合が望ましい状態(:○判定)で、100V/μmより小さい場合が望ましくない状態(:×判定)とした。結果を表1に示す。表1に示すように、いずれのサンプルにおいても、「〇」と判定された。これは、各結晶粒14においてBa濃度およびCa濃度にバラツキを持たせたことで、高い電圧までブレークダウン破壊を抑制できたからであると考えられる。
【表1】
【0053】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 結晶粒
15 結晶粒界
20a,20b 外部電極
100 積層セラミックコンデンサ