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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】表皮材及び表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20240501BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240501BHJP
   D06N 3/00 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B27/12
D06N3/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019164205
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021041575
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】小野 和義
(72)【発明者】
【氏名】久保 賢治
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034355(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022772(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/001732(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D06N 3/00
D06M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸が収縮した糸を含んで構成された基布と、前記基布の少なくとも一方の面に、接着層と、表皮層と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔を有し、
前記基布が、前記糸を含んで編成された編布である表皮材。
【請求項2】
前記高収縮糸が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、及びポリアミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維を含む請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記基布における高収縮糸の含有比率が、基布を構成する全糸に対し15%~100%の範囲である請求項1又は請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
離型材の表面に、表皮層と、接着層とをこの順に積層する工程と、
JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸を含んで構成された基布を準備する工程と、
前記基布の少なくとも一方の表面に、前記表皮層と接着層とを積層した離型材の接着層を接触させて、前記基布と前記接着層とを密着する工程と、
前記基布及び前記接着層と表皮層とを積層した離型材を加熱して、前記基布の少なくとも一方の表面に、接着層と表皮層と離型材とをこの順に形成し、表皮層の表面より離型材を剥離して積層体を形成する工程と、
前記積層体に、前記積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程と、を含み、
前記基布を準備する工程が、前記高収縮糸を含む1種又は2種以上の糸を用いた布を準備する工程と、作製された布を染色加工する工程とを含み、
前記基布と前記接着層とを密着する工程、及び作製された布を染色加工する工程の少なくともいずれかにおいて、加熱処理により高収縮糸を収縮させる、表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は表皮材及び表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネル、ドアトリム、座席、天井などの自動車内装部品、トリム、座席、天井などの鉄道車輌及び航空機内装部品、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材及び裏地、壁装材などには、天然皮革や繊維製シートに代えて、耐久性に優れる合成樹脂表皮材が多用されている。例えば、自動車内装品については、車両の高級化に伴い、内装用の表皮材についても高級感を付与させることが重要になってきている。また、天然皮革と同等又はそれ以上の通気性を有することも求められている。
透湿性及び通気性を得るため、合成皮革として用いる積層シートに穿孔加工(パーフォレーション加工)を施すことが行われるが、穿孔により、合成皮革の引裂き強度、平面磨耗強度を始めとする強度低下をきたす場合がある。
【0003】
表皮材は、一般的には、基材として布を使用し、布の少なくとも一方の面にウレタンフォーム層を設けてクッション性を付与し、最表面には意匠性を付与するための表皮層を設けたものが使用されている。
乾式合成皮革の場合、ポリウレタン樹脂溶液を離型紙などの面上にコーティングした後、熱乾燥によりポリウレタン樹脂溶液中の溶媒を蒸発させて、合成樹脂表皮材の表皮層を形成することができる。ここで、離型紙等に所望の凹凸形状(模様)が予め形成された離型紙を用いることで、表皮層に任意の凹凸模様が形成される。表皮層を形成した後、接着剤であるポリウレタン樹脂を塗布し、乾燥し、さらに、その上に基材である布を積層して、ローラ等の圧着手段で接合し、接合後に上記離型紙を剥離することで乾式合成皮革を得ることができる(特許文献1参照)。
【0004】
一般に乾式合成皮革に穿孔加工を行なうと、基材となる布が穿孔により切断されることで、基布を構成する糸の連続性が損なわれ、強度が低下することがある。
そこで、通気孔を有する表皮材の強度低下抑制の観点から、乾式合成皮革ではなく、基布に樹脂含浸を行う湿式法により接着層等を形成してなる湿式合成皮革に、穿孔加工を行なって通気孔を形成した表皮材が提案されている(特許文献2参照)。
また、基材を構成する布として、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布を用いることで、通気孔を有し、通気性に優れ、且つ、表皮材としての十分な強度を有する表皮材が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-031859号公報
【文献】国際公開第2014/097999号
【文献】特開2016-129994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に合成皮革等の表皮材は、基布に加工を施さずに表皮と貼り合せる乾式合成皮革と、基布に湿式加工を施し、湿式ベースとした後、表皮と貼り合せる湿式合成皮革に大別される。
特許文献1に記載の如き乾式合成皮革にそのまま穿孔加工を行なって通気孔を形成すると、基布の切断により、必要な強度が得られない場合がある。
特許文献2に記載の如き、基布に樹脂を含浸した湿式合成皮革は、含浸した樹脂により基布の強度が向上し、穿孔加工した場合の基布の糸ほつれが抑制される。しかし、強度向上、糸ほつれの抑制に十分な量の合成樹脂を基布に含浸させた場合、穿孔加工における必要な打抜き力、及び得られる合成皮革の重量が増加し、用途によっては問題となる場合がある。
表皮材は軽量であることも重要であり、このため、車両の内装材などには、軽量で柔軟性に優れた乾式法による表皮材が多く用いられている。
【0007】
一方で、特許文献3に記載の合成皮革は、乾式合成皮革であって軽量であり、熱によって溶融し、隣接する糸と融着した基布を用いることで、穿孔加工で基布を構成する糸が切断された場合でも、糸ほつれが生じ難く、強度の低下が抑制される。しかし、繊維同士の融着部を有するために、基布の剛性が高まり、風合い及び耐シワ性の観点からは、なお、改良の余地がある。
【0008】
本発明の一実施形態の課題は、通気孔を有し、通気性が高く、穿孔加工後も、基布を構成する糸のほつれが生じ難く、表皮材としての良好な強度を有する表皮材を提供することにある。
本発明の別の実施形態の課題は、通気孔を有し、通気性が高く、穿孔加工後も、基布を構成する糸のほつれが生じ難く、表皮材としての良好な強度を有する表皮材を、簡易な工程により製造することができる表皮材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、上記課題の解決手段は、以下に示す実施形態を含む。
<1> JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸を含んで構成された基布と、前記基布の少なくとも一方の面に、接着層と、表皮層と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔を有する表皮材。
【0010】
<2> 前記高収縮糸が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、及びポリアミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維を含む<1>に記載の表皮材。
<3> 前記基布が、前記高収縮糸を含んで編成された編布である<1>又は<2>に記載の表皮材。
<4> 前記基布における高収縮糸の含有比率が、基布を構成する全糸に対し15%~100%の範囲である<1>~<3>のいずれか1つに記載の表皮材。
【0011】
<5> 離型材表面に、表皮層と、接着層とをこの順に積層する工程と、JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸を含んで構成された基布を準備する工程と、前記基布の少なくとも一方の表面に、前記表皮層と接着層とを積層した離型材の接着層を接触させて、前記基布と前記接着層とを密着する工程と、前記基布及び前記接着層と表皮層とを積層した離型材を加熱して、前記基布の少なくとも一方の表面に、接着層と表皮層と離型材とをこの順に形成し、表皮層の表面より離型材を剥離して積層体を形成する工程と、前記積層体に、前記積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程と、を含む表皮材の製造方法。
<6> 前記基布を準備する工程が、前記高収縮糸を含む1種又は2種以上の糸を用いて布を作製する工程と、作製された前記布を染色加工する工程とを含む<5>に記載の表皮材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、通気孔を有し、通気性が高く、穿孔加工後も、基布を構成する糸のほつれが生じ難く、表皮材としての良好な強度を有する表皮材を提供することができる。
本発明の別の実施形態によれば、通気孔を有し、通気性が高く、穿孔加工後も、基布を構成する糸のほつれが生じ難く、表皮材としての良好な強度を有する表皮材を、簡易な工程により製造することができる表皮材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本開示の表皮材における穿孔加工前の積層構造の一態様を示す概略断面図である。
図1B】本開示の表皮材の一態様を示す概略断面図である。
図2A】本開示の表皮材の基布として用いられる編地の編成構造の一態様であるデンビー編みの組織を示す部分概略図である。
図2B】本開示の表皮材の基布として用いられる編地の編成構造の一態様であるコード編みの組織を示す部分概略図である。
図2C】本開示の表皮材の基布として用いられる編地の編成構造の一態様であるアトラス編みの組織を示す部分概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
以下、本開示の表皮材及びその製造方法について詳細に説明する。
〔表皮材〕
本開示の表皮材は、JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸を含んで構成された基布と、基布の少なくとも一方の面に、接着層と、表皮層と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔を有する。
ここで、JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率とは、JIS L1013の8.18.1に記載される熱水寸法変化率を示し、本開示では、A法(かせ寸法変化率)を採用している。
熱水寸法変化率は、上記JISに記載の方法に準じて行い、繊維を浸漬する熱水の温度は100℃である。
上記熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸(以下、単に「高収縮糸」と称することがある)を含んで基布を構成することで、得られた基布の密度が向上し、打抜き後の強度低下が抑制される。
【0016】
以下、本開示の表皮材について、適宜、図面を参照しながら説明する。本開示における各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。なお、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。
図1Aは、本開示の表皮材における穿孔加工前の積層体の一態様を示す概略断面図であり、図1Bは、穿孔加工後の、本開示の表皮材の一態様を示す概略断面図である。
図1Aに示すように、表皮材を得るための積層体(表皮材形成用積層体)10は、高収縮糸を含んで構成された基布14の一方の面に、接着層16、表皮層18及び表面処理層20をこの順に有する。
なお、接着層16及び表皮層18をこの順に有するとは、基布14の一方の面に、接着層16と、表皮層18とをこの順に有することを意味し、所望によりさらに設けられる任意の層の存在を否定するものではない。例えば、接着層16と表皮層18との間に、さらに、任意の層である中間層を有してもよく、表皮層18の、接着層16側とは反対側の面に、さらに表面処理層20を有していてもよい。
図1Bに示す表皮材12は、図1Aに示す積層体10に穿孔加工を施して得ることができる。図1Bに示す表皮材12は、高収縮糸を含んで構成された基布14と、基布14の少なくとも一方の面に、接着層16と、表皮層18と、表面処理層20と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔22を有する。
図1A及び図1Bにおける表面処理層20は、後述するように、所望により設けられる任意の層である。
【0017】
本開示の表皮材の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
本開示の表皮材は、高収縮糸を含んで構成された基布を使用している。表皮材の形成工程のいずれかにおいて基布を加熱処理することで、基布に含まれる高収縮糸が収縮し、基布における糸密度が高くなる。基布を構成する糸のうち、高収縮糸が収縮しても、布自体の組織による伸縮性は維持される。
このため、糸密度が向上した基布は、柔軟性が損なわれることなく強度が向上し、且つ、高収縮糸の収縮に起因して基布を構成する繊維同士の絡み合いもより緻密になる。
このため、基布上に接着層及び表皮層を備える積層体は、柔軟性に優れ、且つ、穿孔加工して、通気孔を形成した後も、基布の強度及び糸密度の向上に起因して、基布の強度低下、ひいては、表皮材全体の強度低下が抑制されると考えられる。さらに、繊維同士の絡み合いに起因して、穿孔加工時の基布の糸ほつれも効果的に抑制されると考えられる。
基布は、例えば、染色加工による加熱により、或いは、基布と接着層とを密着させて、接着層を硬化させる際の加熱により、基布に含まれる高収縮糸が収縮され、基布を構成する糸密度が向上すると考えられる。
本開示の表皮材の製造方法においては、基布表面に乾式法により表皮層を形成している。このため、本開示の製造方法により得られる表皮材は、貫通孔を形成する穿孔工程における強度の低下が抑制され、軽量で柔軟であり、通気性が良好であり、表皮材として十分な強度を有すると推定される。
なお、上記は推定機構であり、本開示を何ら制限するものではない。
【0018】
〔基布〕
(高収縮糸)
本開示の表皮材における基布は、高収縮糸を含んで構成される。
高収縮糸は、JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸であり、熱水寸法変化率が20%~40%の範囲にあることが好ましい。
高収縮糸は、上記熱水寸法変化率の条件を満たせば、モノフィラメント糸であっても、撚り糸であってもよい。
高収縮糸は、強度と柔軟性とを有するという観点から、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、及びポリアミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種の繊維を含むことが好ましく、ポリエステル繊維を含むことがより好ましい。
高収縮糸の太さには特に制限はないが、強度と柔軟性とを両立するという観点からは、40dtex~222dtexが好ましく、56dtex~167dtexがより好ましい。
また、撚り糸とする場合には、高収縮糸を10フィラメント~144フィラメントの範囲とすることが好ましい。
基布を構成する糸は、全て高収縮糸であってもよいが、高収縮糸に加え、高収縮糸以外の糸を含んでいてもよい。
基布における高収縮糸の含有比率は、強度と柔軟性とを両立するという観点からは、基布を構成する全糸に対し、15%~100%の範囲であることが好ましく、15%~80%の範囲であることがより好ましい。
【0019】
(基布の組織)
基布は、織布、編布、及び不織布のいずれであってもよいが、柔軟性及び高収縮糸の特性をより好適に生かせるという観点から編布が好ましい。
編布としては、縦編みであるトリコット編布、横編みであるニット編布等が好ましく、トリコット編布がより好ましい。
【0020】
基布の編成に好適なトリコット編みの組織の代表例を図2A図2Cに示す。
図2Aは、トリコット編みの最も一般的な組織であるデンビー編みの組織を示す。図2Aにおいて、着色された糸は、高収縮糸24を示し、白色で示される糸は、高収縮糸ではない糸26を示す。
図2Aに示すように、基布は、編成の一部に高収縮糸24を含めばよい。例えば、基布が3バートリコット編の場合、基布を構成する3本の糸の内、1本が高収縮糸であればよい。
もちろん、編布の編製に使用される全ての糸が高収縮糸であってもよい。
【0021】
図2Bは、トリコット編みの他の組織の例であるコード編みの組織を示し、図2Cは、トリコット編みの他の組織の例であるアトラス編みの組織を示す。
図2B及び図2Cにおいて、着色された糸は、高収縮糸24を示し、白色で示される糸は、高収縮糸ではない糸26を示す。
このように、基布は、高収縮糸24と高収縮糸以外の糸26とを含むものであってもよい。
なお、基布の組織は、上記トリコット編みには限定されず、目的に応じて選択することができる。
【0022】
糸密度の好ましい例を挙げれば、糸太さが56dtex、基布の種類がトリコット編みの場合、糸密度はウェール(W)/コース(C)=30~40〔本/インチ(=2.54cm)〕/60~70〔本/インチ〕とすることができる。
【0023】
(基布の厚み)
基布の厚みは、表皮材の使用目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、本開示の表皮材を、座席シートの表皮材として用いる場合には、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れ、軽量で柔軟性を有するという観点から、基布の厚みは0.8mm~1.4mmであることが好ましく、0.9mm~1.1mmであることがより好ましい。
【0024】
〔表皮層〕
本開示の表皮材は、既述の基布の少なくとも一方の表面に、接着層を介して表皮層を有する。
表皮層には、表皮材の使用目的に応じた意匠性を付与することができる。表皮層の形成方法には特に制限はなく、公知の合成皮革、及び表皮材に用いられる表皮層の形成方法を適用して表皮層を設けることができる。
【0025】
表皮層の形成に用いられる合成樹脂には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
表皮層の形成に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル等が挙げられる。なかでも、耐久性、及び、弾力性が良好であるという観点から、ポリウレタンが好ましい。
表皮層の形成に使用されるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。本開示の表皮材が自動車用シート、椅子等の長期耐久性が必要な用途に用いられる観点からは、表皮材に用いるポリウレタンとして、ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
【0026】
表皮層の形成にポリウレタンを使用する場合、ポリウレタンとしては、JIS K 6253(1997年)に準じて測定した硬さが、100%モジュラスで98N/cm~3500N/cmが好ましく、196N/cm~588N/cmがより好ましい。
なお、ポリウレタンの硬さ(100%モジュラス)を調整する方法としては、例えば、柔らかくしたい場合には、ソフトセグメントとなるポリオール成分比率を増加、又はポリオールの分子量を大きくし、硬くしたい場合には、ハードセグメントとなるウレタン結合、ウレア結合を増加させ、またヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の架橋剤を添加してエネルギーを付与し、架橋構造を形成する方法等が挙げられる。
【0027】
表皮層の厚みは、表皮材の使用目的に応じて適宜選択される。表皮層の厚みは、一般的には、乾燥前の付量(以下、Wet付量と称することがある)は、20μm~300μm程度であり、Wet付量で100μm~250μmであることが好ましい。
表皮層の乾燥後の膜厚としては、5μm~200μmが好ましく、20μm~150μmがより好ましい。
【0028】
また、表皮層を形成するための組成物には、主剤となる樹脂に加え、表皮層に感触向上等種々の機能を付与する目的で、本開示の効果を損なわない限りにおいて公知の添加剤を加えてもよい。
表皮層を形成するための組成物に用いうる添加剤としては、架橋剤、架橋促進剤、着色剤、成膜助剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
例えば、表皮層に着色剤を含有させることで意匠性が向上する。また、表皮層にリン系、ハロゲン系、無機金属系等の公知の難燃剤を添加することで表皮材の難燃性向上が図れる。
絞型転写用離型材、又は平滑な離型材の表面に表皮層を形成するための組成物を付与する方法は、絞型転写用離型材表面に表皮層を形成するための組成物を塗布し、乾燥する方法でもよく、絞型転写に支障がない場合には、転写法を用いてもよい。
【0029】
〔接着層〕
表皮層は、接着層を介して基布に接着された層である。
接着層を構成する接着剤としては、特に制限はなく、ポリウレタン系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、アクリル樹脂を含有する接着剤等が挙げられる。
より具体的には、例えば、(1)2液硬化型ポリエステル系接着剤、(2)2液硬化型ポリウレタン接着剤、(3)2液硬化型アクリル粘着剤等が好適に挙げられる。
(2)2液硬化型ポリウレタン接着剤は、2液硬化型ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤のいずれであってもよい。
【0030】
接着層の形成に用いられる組成物は、上記接着剤に加えて、本開示の効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて、種々の添加剤を含有することができる。
添加剤としては、着色剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
【0031】
接着層が、リン系等の難燃剤を含有することで、表皮材の難燃性が向上する。しかし、難燃剤の含有量が多過ぎる場合、得られる接着層の柔軟性が低下する懸念があるため、難燃剤を使用する場合の含有量は、接着剤に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
〔他の層〕
本開示の表皮材は、基布、接着層、及び表皮層に加えて、本開示の効果を損なわない限りにおいて、他の任意の層を有することができる。
他の層としては、中間層、表面処理層等が挙げられる。
【0033】
(表面処理層)
本開示の表皮材は、図1Bに示すように、表皮層の接着層側とは反対側に表面処理層を有していてもよい。
表面処理層は、水系エマルジョン樹脂、又はディスパージョン樹脂を含む表面処理剤組成物を、表皮層の表面に塗布することで形成される。
表面処理層の形成に使用される水系エマルジョン樹脂又はディスパージョン樹脂に含まれる樹脂としては、水系の媒体又は非水系の有機溶媒に対して均一なエマルジョンを形成しうる限り、何れの樹脂を用いてもよい。用いうる樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、エラストマー等が好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
水系媒体としては、水、アルコール等、及びこれらを2種以上混合した混合媒体が挙げられる。水系溶媒としては、水、及び、水を90質量%~99質量%とアルコールを10質量%~1質量%含有する混合溶媒等が好ましい。
非水系有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロピルアルコール(IPA)、トルエン等、及びこれらを2種以上混合した混合溶媒が挙げられる。
表皮層表面に表面処理層を形成することで、外観及び耐摩耗性がより良化する。
表面処理層には、架橋剤、有機フィラー、滑剤、難燃剤等を含有させることができる。例えば、表面処理層に有機フィラー、滑剤等を含有することで、表皮材に滑らかな感触が付与され、耐摩耗性がさらに向上する。
【0034】
(中間層)
本開示の表皮材は、接着層と表皮層との間に中間層を設けてもよい。中間層の形成に用いる樹脂としては特に制限はないが、ポリウレタン、アクリル樹脂などが挙げられ、ポリウレタンが好ましい。
中間層に用いられるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物が挙げられ、長期耐久性が必要な場合には、ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン中間層の厚みは、10μm~200μmの範囲とすることができる。厚みは、10μm~100μmの範囲であることが好ましく、30μm~60μmの範囲であることがより好ましい。
中間層として使用するポリウレタンの硬さは、100%モジュラスで98N/cm~1176N/cmが適する。
【0035】
本開示の表皮材は、高収縮糸を含んで構成された基布を用いており、基布表面に接着層と表皮層とを順次備える積層体を穿孔してなる通気孔を有している。
このため、通気性を有することにより、人体と接触した状態で使用しても蒸れ難く、快適性に優れている。さらに、通気孔を有していても、十分な強度を有している。
従って、本開示の表皮材は、自動車内装部品、鉄道車輌及び航空機内装部品、靴を主体とした履物用材料、椅子張り用シート、内装材に好適な合成皮革として使用することができ、特に、自動車用シート、椅子等の座席用表皮材として好適であり、その応用範囲は広い。
【0036】
〔表皮材の製造方法〕
次に、本開示の表皮材の製造方法について説明する。
前記本開示の表皮材は、以下に詳述する本開示の表皮材の製造方法により製造されることが好ましい。
本開示の表皮材は、離型材の表面に、表皮層と、接着層とを設ける工程と、JIS L 1013(2010年)で規定する熱水寸法変化率が10%~50%の範囲にある高収縮糸(高収縮糸)を含んで構成された基布を準備する工程と、前記基布の少なくとも一方の表面に、前記表皮層と接着層とを積層した離型材の接着層を接触させて、前記基布と前記接着層とを密着する工程と、前記基布と前記接着層と表皮層と離型材とを加熱して、前記基布の少なくとも一方の表面に、接着層と表皮層と離型材とをこの順に形成し、表皮層表面より離型材を剥離して積層体を形成する工程と、前記積層体に、前記積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程と、を含む。
本開示の製造方法においては、前記基布を準備する工程が、前記高収縮糸を含む1種又は2種以上の糸を用いた布を準備する工程と、準備された布を染色加工する工程とを含むことができる。
【0037】
(離型材表面に、表皮層と、接着層とを設ける工程)
まず、離型材の表面に表皮層を形成する。
離型材は、公知の離型材を目的に応じて、適宜選択して用いることができる。離型材は、絞型転写用離型材を用いてもよく、平滑な離型材を用いてもよい。
離型材の表面に表皮層を形成する方法は、公知の方法を適用することができる。一般的には、表皮層を形成する方法として、既述の表皮材を形成するための組成物を離型材表面に付与し、乾燥して表皮層を形成する方法が挙げられる。また、絞型転写に支障がない場合には、表皮層を離型材表面に転写法により設けてもよい。
【0038】
表皮層表面には、皮革様等の任意の凹凸模様(絞)を設けることができる。
絞は、基布上に接着層を介して表皮層を形成した後、或は、表皮層を含む積層体と基布とを加圧密着させ、加熱して接着層を硬化させた後、絞を有する絞型転写用ロールを加熱圧着させることで形成してもよい。また、予め絞が形成された絞型転写用離型材表面に、表皮層、及び接着層を形成し、形成された接着層と基布とが接するように配置して、加圧密着させ、加熱した後、絞型転写用離型材を剥離することで形成してもよい。
【0039】
絞型転写用離型材は、所望される絞形状が形成されたものであればいずれを使用してもよく、例えば、市販品を用いてもよく、或いは、コンピュータグラフィックス等により、離型材の表面に所望の絞用パターンを形成したものを用いてもよい。
【0040】
接着層は、表皮層の表面に、既述の接着層を形成するための組成物を付与することで形成される。表皮層表面に接着層を形成するための組成物を付与する方法は、塗布法でも転写法でもよい。
このようにして、離型材表面に、表皮層、及び接着層をこの順で有する積層体が形成される。
【0041】
(高収縮糸を含んで構成された基布を準備する工程)
本工程では、本開示の表皮材に係る基布を作製するため、高収縮糸を含んで構成された基布を準備する。
基布の準備は、高収縮糸及び所望により高収縮糸以外の糸を用いて基布を作製する工程であってもよく、市販の高収縮糸を含んで構成された基布を準備する工程であってもよい。
高収縮糸の詳細は、表皮材の説明において述べた通りであり、好ましい例も同様である。
【0042】
基布を作製する工程では、高収縮糸と、所望により高収縮糸以外の糸とを用いて織布、編布、又は不織布を作製してもよい。糸の織成、糸の編成、糸を用いた不織布の作製は常法により行なうことができる。
なかでも、高収縮糸と、所望により高収縮糸以外の糸とを用いて、トリコット編みで基布を作製することが好ましい。
基布における高収縮糸の含有率は、表皮材の項において述べたとおりであり、好ましい例も同様である。
【0043】
本工程は、高収縮糸を含む1種又は2種以上の糸を用いた布を準備する工程に加え、さらに、準備された布を染色加工する工程を含んでいてもよい。
本工程において、布を染色加工することで、染色加工時の加熱により、高収縮糸が熱収縮して、基布の糸密度がより向上し、基布の染色による外観の向上に加え、基布の強度がより向上する。
【0044】
離型材の表面に、表皮層と、接着層とを設ける工程と、基布を準備する工程とは、いずれを先に行なってもよい。また、別の工程として並行して行なってもよい。
予めこれらの工程により得られた、離型材表面に、表皮層と、接着層とを設けた積層体と、基布とを、次工程において密着させて乾式法により基布上に接着層と表皮層とを形成する。
【0045】
(基布の少なくとも一方の表面に、表皮層と接着層とを設けた離型材の、接着層を接触させて、基布と接着層とを密着する工程)
本工程では、既述のようにして得られた積層体の接着層側を、予め形成された基布の表面と接触させ、加圧密着する。
加圧密着の際、加熱処理を行なってもよく、加圧密着後に加熱処理を行なってもよい。
積層体と基布とを加圧する際の圧力は、10MPa~50MPaが好ましく、15MPa~30MPaがより好ましい。加圧する際は、表皮層上に接着層を形成した後、接着層が硬化する前に行なうことが、表皮材における基布と表皮層との剥離強度をより向上させる観点から好ましい。
【0046】
基布と、接着層と表皮層とを含む積層体の加熱は、公知の方法により行なうことができる。加熱手段には特に制限はなく、熱ロールを用いた加熱、温風加熱、加熱乾燥炉内での加熱など、公知の加熱手段を用いればよい。
加熱温度は、基布と積層体との密着が確実を行なわれ、接着層、及び表皮層に影響を与えない温度であることが好ましい。
【0047】
基布と、接着層と表皮層とを含む積層体を加熱して、接着層などを硬化させるための加熱温度としては、例えば、40℃~70℃の範囲が好ましく、40℃~60℃の範囲がより好ましい。加熱時間は、上記温度条件で、24時間以上加熱することが好ましい。
なお、加熱処理の温度条件、加熱時間は、表皮層及び接着層の形成に用いられる合成樹脂、及び基布に用いられる高収縮糸の種類等により、適切な条件を選択すればよい。
本工程における加熱処理により、接着層に含まれる樹脂が十分に硬化される。表皮層は、接着層を形成するための組成物を付与する前に硬化される場合もあるが、この加熱工程により表皮層に含まれる樹脂の硬化がさらに進行する可能性がある。
加熱処理により、表皮層上に接着層が形成される。
【0048】
表皮層における絞の形成に絞型転写用離型材を用いる場合には、加熱処理の後、絞型転写用離型材を剥離することにより、基布上に、接着層を介して、表面に絞型を有する表皮層が形成される。
表皮層の表面に絞を形成する他の方法としては、絞型転写用離型材に代えて、絞型を有しない平滑な離型材を用いて、平滑な離型材表面に、表皮層、及び接着層を形成した積層体を用い、平滑な離型材を剥離した後、表皮層と絞型転写用離型材(絞形成用エンボスロール)とを接触させて、加熱エンボスを行ない、表皮層表面に絞を形成する方法が挙げられる。
【0049】
基布と接着層とを密着させる本工程において行なわれる加熱処理は、離型材上に表皮層、及び接着層を形成した後、速やかに行なうことが好ましい。
具体的には、接着層が未硬化のうちに、基布と接着層とを密着させ、加熱処理を行なうことも好ましい態様の一つであるといえる。表皮層表面に形成された接着層が未硬化のうちに、基布と接触させ、加圧密着させることで、基布に含まれる繊維の一部が接着層内に侵入し易くなり、接着層と基布との密着性がより向上する。さらに、その後の加熱処理により、接着層の硬化が進行することで、基布との密着性が向上し、得られた表皮材において、基布と表皮層との剥離強度がより良好となる。
加熱処理により、接着層、及び表皮層が硬化した後、表皮層の表面より離型材を剥離することによって積層体(表皮材形成用積層体)が得られる。
【0050】
(積層体に、積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程)
次いで、得られた積層体に、積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する。例えば、パンチングロール、平板状パンチ型等により積層体に所望の間隔で所望の径を有する通気孔を穿孔する。これにより、基布上に、接着層と表皮層とを備え、厚さ方向に貫通した多数の通気孔を有する表皮材が製造される。
【0051】
上記方法によれば、支持体となる基布は、基布を構成する糸(繊維)の少なくとも一部が、高収縮糸であり、表皮材の製造工程において、高収縮糸が熱収縮して糸密度が、公知の基布に比較して高くなり、柔軟性を損なうことなく基布の強度、糸密度が向上されているため、穿孔加工の際に、湿式法により形成された積層体におけるよりも、より小さい応力で、平面視において真円に近い通気孔を容易に形成することができる。
また、穿孔により基布を構成する糸が切断されるが、基布を構成する糸の少なくとも一部が高収縮糸であり、基布自体の糸密度が高いために、基布の強度の低下が抑制される。
さらに、高収縮糸を含むことで、切断された糸が切断後に伸びきることが抑制され、通気孔の内部に飛び出して外観を損ねることが抑制されることも、本開示の利点の一つである。
【0052】
積層体における接着と表皮層が乾式法により形成されることで、湿式法で生じる布への樹脂含浸が無いために、得られた表皮材は、湿式法で形成された表皮材よりも軽量となり、穿孔に必要な応力もより小さくなるという副次的な利点をも有する。
【0053】
従って、上記した本開示の製造方法により製造された本開示の表皮材は、通気孔を有し、通気性が高く、穿孔加工後も、基布を構成する糸のほつれが生じ難く、表皮材としての良好な強度を有する表皮材となり、本発明の製造方法によれば、そのような表皮材を効率よく製造することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて本開示の表皮材及びその製造方法を具体的に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
(1.積層体Aの形成)
離型材の表面に、固形分15質量%にジメチルホルムアミド(DMF)/メチルエチルケトン(MEK) 1:1(質量比)の混合溶剤にて希釈したポリウレタン(商品名:クリスボンNY-324、DIC(株)製)をナイフコーターにて、200g/mの量となるように塗工し、100℃の加熱乾燥炉にて2分間乾燥し、離型材表面に表皮層を形成した。
ポリウレタン(商品名:TA205、DIC(株)製)100質量部に対しジメチルホルムアミド(DMF)を5質量部、さらに、架橋剤(製品名:バーノックDN950、DIC(株)製)を10質量部加えて接着層形成用組成物を調製した。得られた接着層形成用組成物を150g/mの量で積層塗工し、表皮層上に、接着層を形成して積層体Aを得た。
【0056】
(2.基布の作製)
高収縮糸のポリエステル繊維(糸の太さ56dtex)及び、非高収縮性のポリエステル繊維を用い、編成密度:ウェール/コース:34/65〔本/インチ〕でトリコット編みし、得られたトリコット編布を100℃で60分間加熱染色して基布を作製した。この加熱染色工程により基布に含まれる高収縮糸が収縮され、基布を構成する糸の密度が向上した。
基布に含まれる高収縮糸の割合は15%である。
基布に含まれる高収縮糸のJIS L 1013(2010年)で規定する、100℃の熱水で測定した熱水寸法変化率は30%である。
【0057】
(3.積層体Bの形成)
上記で得られた基布と、上記で得られた積層体Aの接着層とを接触させ、圧力0.24MPaにてラミネートして加圧密着させた。その後、50℃雰囲気下で48時間放置し、接着層を硬化した後、離型材を剥離して、基布表面に、接着層を介して表皮層を備えた積層体B(表皮材形成用積層体)を得た。この積層体Bを形成する工程により基布に含まれる高収縮糸が収縮され、基布を構成する糸密度がさらに向上した。
【0058】
(4.通気孔の形成)
上記各工程を経て得られた基布、接着層、及び表皮層が積層された積層体Bに、パンチング型により孔を開けて貫通孔を形成し、通気孔を有する実施例1の表皮材を得た。
表皮材における通気孔の径、間隔及び開孔率は以下の通りである。
孔径:1.4mm
ピッチ:5.0mm
開孔率:12%
得られた実施例1の表皮材の質量を測定したところ、537g/mであった。
【0059】
〔実施例2〕
基布に含まれる高収縮糸の割合を45%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の表皮材を得た。
【0060】
〔比較例1〕
基布に含まれる高収縮糸の割合を0%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1の表皮材を得た。
【0061】
〔比較例2〕
実施例1において用いた基布に代えて、高収縮糸以外のポリエステル繊維糸を用い、編成密度:ウェール/コース:35/40〔本/インチ〕で編成した鹿の子編み地の基布を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の表皮材を得た。
【0062】
〔比較例3〕
実施例1において用いた基布に替えて、特開2016-129994号公報に記載の樹脂被覆層を有するポリエステル繊維を用い、編成密度:ウェール/コース:35/84〔本/インチ〕で編成したデンビー編み地であって加熱して隣接する繊維の少なくとも一部を融着させた基布に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の表皮材を得た。
【0063】
〔比較例4〕
(1.湿式ベースの作製)
ポリウレタン(商品名:クリスボンMP-865PS、DIC(株)製)350質量部に対し、難燃剤(商品名:ペコフレームATC、アークロマ社製)を30質量部、及びジメチルホルムアミド(DMF)を600質量部加えて含浸用樹脂溶液を作製した。
ポリエステル/レーヨン混紡繊維を用いた綾織布を上記含浸樹脂溶液に浸漬させて、綾織布に含浸用樹脂溶液を含浸させた後、これを水中に10分浸漬して溶媒を除去し、ポリウレタンを凝固させた。
次いで、120℃の熱風下で10分乾燥させることにより、多孔質構造を有する基布層(湿式基布、厚み:1.1mm)を形成した。次いで、バッフィングマシン(名南製作所社製、商品名:A-5)を用い、基布層の片面にバフ加工を施して粗面化し、起毛面とした。
【0064】
(2.積層体Aの形成)
離型の表面に、固形分15質量%にジメチルホルムアミド(DMF)/メチルエチルケトン(MEK) 1:1(質量比)の混合溶剤にて希釈したポリウレタン(商品名:クリスボンNY-324、DIC(株)製)をナイフコーターにて、200g/mの量となるように塗工し、100℃の加熱乾燥炉にて2分間乾燥し、離型材表面に表皮層を形成した。
ポリウレタン(商品名:TA205、DIC(株)製)100質量部に対しジメチルホルムアミド(DMF)を5質量部、さらに、架橋剤(製品名:バーノックDN950、DIC(株)製)を10質量部加えて接着層形成用組成物を調製した。得られた接着層形成用組成物を150g/mの量で積層塗工し、表皮層上に、接着層を形成して積層体Aを得た。
【0065】
(3.積層体Bの作製)
上記で得られた基布と、表皮層と接着層との積層体Aにおける接着層と、を接触させ、圧力0.24MPaにてラミネートして加圧密着させた。
その後、50℃雰囲気下で48時間放置し、接着層を硬化した後、離型材を剥離して、基布表面に、接着層を介して表皮層を備えた積層体Bを得た。
【0066】
(4.通気孔の形成)
上記各工程を経て得られた基布、接着層、及び表皮層が積層された積層体Bにパンチング型により孔を開けて通気孔を有する比較例3の表皮材を得た。表皮材における通気孔の径、間隔及び開孔率は以下の通りである。
孔径:1.4mm
ピッチ:5.0mm
開孔率:12%
【0067】
(基布の作製に用いた編布の質量)
実施例1及び実施例2、比較例1~比較例4の表皮材において、基布の作製に用いた各編布の単位面積あたりの質量を測定した。単位面積あたりの質量は、編布に熱収縮加工を行って基布とする前の質量である。結果を下記表1に併記した。
【0068】
(表皮材の評価)
得られた実施例1及び実施例2、比較例1~比較例4の表皮材に対し、表皮材の剛軟度、通気性、引裂き強度、引張強度、耐摩耗性、通気孔外観の各項目を、以下の方法と基準により評価した。
なお、下記評価基準で、4点及び5点は実用上問題のないとの評価であり、5点が優れたレベルである。
【0069】
(1.剛軟度)
表皮材の剛軟度を、JIS L1096(2010年) 8.21.1 A法(45°カンチレバー法)により測定し、以下に示す基準で評価した。
試験片が移動した長さは、45°カンチレバーの頂部の平面部分において試験片を移動させ、試験片の先端がカンチレバーより下方に垂れ下がるまでの試験片の移動距離を示し、移動した長さが短いほど柔軟性が良好であると評価する。
表皮材が柔軟であることで、シワの発生抑制効果が期待できる。
(評価基準)
5点:試験片が移動した長さが90mm未満
4点:試験片が移動した長さが90mm以上100mm未満
3点:試験片が移動した長さが100mm以上110mm未満
2点:試験片が移動した長さが110mm以上120mm未満
1点:試験片が移動した長さが120mm以上
【0070】
(2.通気性)
表皮材の通気性を、JIS L1096(2010年) 8.26.1 A法(フラジール法)により測定し、以下に示す基準で、1点~5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
(評価基準)
5点:120cm/cm・s以上
4点:100cm/cm・s以上120cm/cm・s未満
3点:80cm/cm・s以上100cm/cm・s未満
2点:60cm/cm・s以上80cm/cm・s未満
1点:60cm/cm・s未満
【0071】
(3.引き裂き強度)
表皮材の引き裂き強度を、JIS L1096(2010年) 8.17.3 C法(トラベゾイド法)によって測定し、以下に示す基準で、1点~5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
(評価基準)
5点:引き裂き強度が100N以上
4点:引き裂き強度が80N以上100N未満
3点:引き裂き強度が60N以上80N未満
2点:引き裂き強度が40N以上60N未満
1点:引き裂き強度が40N未満
【0072】
(4.引張強度)
表皮材の引張強度を、JIS L1096(2010年) 8.14.1 A法(ラベルストリップ法)により測定し、以下に示す基準で評価した。
(評価基準)
5点:引張強度が150N以上
4点:引張強度が130N以上150N未満
3点:引張強度が110N以上130N未満
2点:引張強度が90N以上110N未満
1点:引張強度が90N未満
【0073】
(5.平面耐摩耗性)
得られた表皮材を切断し、幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片を、表皮材の長さ(MD)方向及び幅(CD)方向に添ってそれぞれ1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚み10mmの大きさのウレタンフォームを添えて、平面摩耗試験機T-TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定する。
綿布(6号帆布)をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて試験片の表面(表皮層を形成した側)を摩耗した。摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで10000回往復摩耗した。摩擦子にかぶせた6号帆布は、摩耗回数2500回往復ごとに6号帆布を交換し、合計10000回往復摩耗した。摩耗後の試験片を観察し、下記の基準に従って判定した。
(評価基準)
5点:外観に変化なし(亀裂、破れがない)
4点:わずかに摩耗が認められるが、目立たないもの
3点:摩耗が明らかに認められ、繊維質基材の露出があるもの(亀裂が認められる)
2点:繊維質基材の露出がやや著しいもの
1点:繊維質基材の露出が著しいもの(破れが認められる)
【0074】
(6.通気孔の外観)
表皮材に形成された通気孔(直径1.4mm)のうち10個について、通気孔内のほつれ糸を、拡大鏡を用いて目視で評価し、穴内に露出したほつれ糸の数を数え、10個通気孔の結果の数平均を算出してほつれ糸の数とした。その結果を、以下に示す基準で、1点~5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
(評価基準)
5点:目視にてほつれ糸が確認できない
4点:目視にて確認できるほつれ糸が1本~2本
3点:目視にて確認できるほつれ糸が3本~5本
2点:目視にて確認できるほつれ糸が6本~9本
1点:目視にて確認できるほつれ糸が10本以上
【0075】
【表1】

【0076】
表1に明らかなように、実施例1及び実施例2の表皮材は、剛軟度、即ち、柔軟性、強度、耐摩耗性のいずれも良好であり、各比較例の表皮材と同等の通気性を有しており、通気孔の外観が良好であった。
他方、高収縮糸を含まない基布を用いた比較例1は強度に劣り、比較例2は、強度、耐摩耗性に劣ることがわかる。また、隣接する糸の少なくとも一部が互いに融着した基布を用いた比較例3は、強度及び耐摩耗性が良好ではあるが、剛軟度になお改良の余地があり、皺の発生などが懸念される用途には適さない場合があることがわかる。
湿式表皮材である比較例4の表皮材は、剛軟度、耐摩耗性が良好ではあるが、重量が重く、引き裂き強度、及び引張り強度が劣っていた。
上記の結果より、本開示の表皮材は、通気孔を有し、良好な通気性を有しながら、表皮材として十分な強度及び耐摩耗性を有し、柔軟であることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
10 積層体(表皮材形成用積層体)
12 表皮材
14 基布
16 接着層
18 表皮層
20 表面処理層
22 通気孔
24 高収縮糸
26 高収縮糸以外の糸
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C