(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】吸着式スタビライザー
(51)【国際特許分類】
A61B 90/00 20160101AFI20240501BHJP
A61B 17/02 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
A61B90/00
A61B17/02
(21)【出願番号】P 2019192919
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川又 晃
(72)【発明者】
【氏名】原田 新悦
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-121766(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0088150(US,A1)
【文献】特開2011-161130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 90/00
A61B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引源からの陰圧吸引により吸着対象である心臓に吸着させ、該心臓の拍動を抑制することによって、冠状動脈におけるバイパス血管に繋がる吻合対象部の周辺を安定化させる吸着式スタビライザーであって、
前記吻合対象部の周辺に当接面を当接させるように取り付けられる部位であり、前記吸引源からの吸気路が接続されており、前記拍動を抑制する吸着部と、
該吸着部よりも軟質であり、前記吸着部に接続されており、前記吻合対象部の周辺に密着する密着部と、を備え、
前記吸着部には、前記吸引源からの吸気路が接続されて陰圧の空間を形成する凹部が形成されており、
前記吸着部は、前記凹部の内部に、前記吸気路に接続される接続開口を有し、
該接続開口は、前記吸着部の内部の縁部分であり、
前記密着部は、前記吸着部の縁部分に設けられており、前記接続開口の周囲に形成されて、前記吸着部の前記当接面と面一であるか又は前記当接面よりも前記吸着対象側である下方まで延在しており、
前記密着部の一部は、前記凹部の前記内部の空間にあることを特徴とする吸着式スタビライザー。
【請求項2】
前記密着部は、前記吸着部の前記当接面よりも前記吸着対象側である下方まで延在している請求項1に記載の吸着式スタビライザー。
【請求項3】
前記密着部は、前記吸着部の前記当接面の縁から前記吸着対象側である下方に延在して末広がりとなるように形成されている請求項
1又は2に記載の吸着式スタビライザー。
【請求項4】
前記密着部は、前記吸着対象側から見て環状に形成されている請求項1から
3のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
【請求項5】
前記吸着部よりも硬度が高く、前記心臓に沿うように湾曲可能で、その形状を保持可能であり、前記吸着部の形状を保持する芯材を更に備え、
該芯材は、前記吸着部の肉厚部の内部に埋設されている請求項1から
4のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着式スタビライザーに係り、冠状動脈バイパス術に用いられる吸着式スタビライザーに関する。
【背景技術】
【0002】
冠状動脈疾患の治療法としては、人工心肺装置を用いずに、冠状動脈内にステントを留置して血管を拡張する経皮的冠状動脈形成術や、バイパス血管を吻合することによる冠状動脈バイパス術がある。
冠状動脈バイパス術の際には、心臓の裏側を展開するため、心臓を吸着させて持ち上げるハートポジショナーが用いられることがある。
さらには、心臓を持ち上げる程の吸引力が必要となるハートポジショナーとは別に、心臓が動いた状態(拍動した状態)でバイパス用の血管を冠動脈に吻合できるように、吸着式スタビライザーが用いられることがある。
吸着式スタビライザーは、バイパス血管を吻合部に接続することを容易にするために、心臓の鼓動を維持しつつ心臓の表面側の拍動を抑制する機器である。
【0003】
例えば、特許文献1には、心臓の拍動を抑制する状態に保持する保持部材(同文献には、パドルと記載。)を備える吸着式スタビライザー(同文献には、吸引装置と記載。)が記載されている。
保持部材には、吸引源に接続され陰圧吸引されることにより心臓に密着して、その動作を抑制するための複数の吸着部(同文献には、吸引口と記載。)が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の吸着式スタビライザーにおいては、心臓の拍動を抑制するため、吸着部における心臓に当接する部位はある程度の硬さが必要とされており、その硬さにより、心臓の拍動によって当該部位に加わる衝撃荷重が大きかった。このため、保持部材の吸着部による心臓への吸着状態をより好適に維持することについて、なお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、吸着部の吸着能力を好適に維持可能な吸着式スタビライザーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
吸引源からの陰圧吸引により吸着対象である心臓に吸着させ、該心臓の拍動を抑制することによって、冠状動脈におけるバイパス血管に繋がる吻合対象部の周辺を安定化させる吸着式スタビライザーであって、前記吻合対象部の周辺に当接面を当接させるように取り付けられる部位であり、前記吸引源からの吸気路が接続されており、前記拍動を抑制する吸着部と、該吸着部よりも軟質であり、前記吸着部に接続されており、前記吻合対象部の周辺に密着する密着部と、を備え、前記吸着部には、前記吸引源からの吸気路が接続されて陰圧の空間を形成する凹部が形成されており、前記密着部は、前記吸着部の縁部分に設けられており、前記吸着部の前記当接面と面一であるか又は前記当接面よりも前記吸着対象側である下方まで延在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保持部材の吸着部による心臓への吸着状態をより好適に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る吸引源に接続された吸着式スタビライザーの全体構成を示す模式図である。
【
図5】保持部材の断面を示す図であり、
図4のV-Vの断面図である。
【
図6】保持部材の断面を示す図であり、
図3のVI-VIの断面図である。
【
図7】第1変形例に係る保持部材を示す図であり、保持部材の一部を断面で示した部分断面図である。
【
図8】第2変形例に係る吸着部の一部の断面を拡大して示す断面図である。
【
図9】第3変形例に係る吸着部の一部の断面を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0011】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が単一の構成要素として構成されていること、一つの構成要素が複数の構成要素に分割されて形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0012】
<概要>
はじめに、本実施形態に係る吸着式スタビライザー1の概要を、
図1から
図6(主に
図5及び
図6)を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る吸引源2に接続された吸着式スタビライザー1の全体構成を示す模式図である。
図2は、保持部材4を示す上側斜視図、
図3は、保持部材4を示す側面図、
図4は、保持部材4の下面図である。
図5は、保持部材4の断面を示す図であり、
図4のV-Vの断面図であり、
図6は、保持部材4の断面を示す図であり、
図3のVI-VIの断面図である。
【0013】
本実施形態に係る吸着式スタビライザー1は、吸引源2からの陰圧吸引により吸着対象である心臓に吸着させ、心臓の拍動を抑制することによって、冠状動脈におけるバイパス血管に繋がる吻合対象部の周辺を安定化させるものである。
吸着式スタビライザー1は、吻合対象部の周辺に当接面4adを当接させるように取り付けられる部位であり、吸引源2からの吸気路3が接続されており、拍動を抑制する吸着部4aと、吸着部4aよりも軟質であり、吸着部4aに接続されており、吻合対象部の周辺に密着する密着部4eaと、を備える。
【0014】
吸着部4aには、吸引源2からの吸気路3が接続されて陰圧の空間を形成する凹部4aaが形成されている。
密着部4eaは、吸着部4aの縁部分(当接面4adの外周縁4ae)に設けられており、吸着部4aの当接面4adと面一であるか又は当接面4adよりも吸着対象側である下方まで延在していることを特徴とする。
なお、密着部4eaが設けられる部位としての「吸着部4aの縁部分」は、
図6に示す吸着部4aの当接面4adの外周にある外周縁4aeに限定されない。例えば、密着部4eaが設けられる部位は、
図8に示して後述するように、吸着部34aの当接面4adの内周側にある内周縁34ae等であってもよい。
【0015】
上記構成によれば、心臓の拍動によって、吸着部4aの縁部分(外周縁4ae)が心臓から離間したとしても密着部4eaがあることで、心臓との間の陰圧状態が解除されることを防止できる。
また、上記の「密着部4eaは、吸着部4aの縁部分に設けられており」とは、密着部4eaが"少なくとも"吸着部4aの縁部分に設けられていることを意味するものである。本実施形態において
図2に示すように、密着部4eaは、吸着部4aの上面側を覆うように形成されたカバー4eの一部であってもよい。
【0016】
<全体構成>
吸着式スタビライザー1は、
図1に示すように、不図示の架台に接続される接合部材1aと、接合部材1aに接続されて可撓性を有しつつ形状保持性を有するアーム部1bと、アーム部1bに接続され、心臓に接触してその拍動を抑制する保持部材4と、を備える。
【0017】
<各部の構成>
次に、吸着式スタビライザー1の各部の構成について説明する。
本実施形態に係る保持部材4は、
図2に示すように、吸気路3に接続されて心臓を吸着する一対の吸着部4aと、一対の吸着部4aの基端側を接続する全体としてU字状のベース部4b、連絡部材4f及び接続部4bcと、一対の吸着部4aそれぞれの上面及び側周面を覆う一対のカバー4eと、を含んで構成されている。
【0018】
[吸気路について]
吸気路3は、
図1に示す吸引源2に接続された可撓性チューブ3cと、可撓性チューブ3cに接続された保持部材4に設けられた通気孔3d、3e(
図5参照)と、によって形成されており、凹部4aaに繋がっている。
より詳細には、保持部材4(ベース部4b)において、可撓性チューブ3cが接続されるのは、一方の吸着部4aの近位側端部に設けられた1箇所のコネクタ部4baである。
【0019】
図5に示すように、コネクタ部4baには、近位側の端部に可撓性チューブ3cが差し込まれる差込口4bb、遠位側に通気孔3dが形成されており、これらが連通している。
通気孔3dは、連絡部材4fの中空部を介して、他方の吸着部4aに設けられた接続部4bcの通気孔3eに連通している。
【0020】
また、保持部材4は、一対の吸着部4aに接続部4bcを介して接続される連絡部材4fを備える。
吸引源2から陰圧吸引力が加わるときに、コネクタ部4baを介して可撓性チューブ3cに直接接続された一方の吸着部4aの凹部4aaを陰圧にすることができ、他方の吸着部4aの凹部4aaに対しても、連絡部材4fを介して陰圧にすることができる。
【0021】
[ベース部について]
ベース部4bは、保持部材4において近位端部にあり、アーム部1bに接続され、かつ陰圧吸引力が供給される可撓性チューブ3cが接続される部位である。ベース部4bは、一対の吸着部4aを連結するための連結部4bdを有する。
連結部4bdの遠位側に連絡部材4fが接続されており、連絡部材4fの幅方向両側における遠位側に一対の接続部4bcを介して一対の吸着部4aが連結されている。
一対の接続部4bcは、連絡部材4fの幅方向両側それぞれから遠位側に延在している。また、接続部4bcは、連絡部材4fが接続される部位よりも遠位側にあり、
図2及び
図3に示すように、遠位側に向かうにつれて幅及び上面の高さが小さくなるように形成されている。
【0022】
[吸着部について]
吸着部4aは、
図5に示すように、本体部4acと、本体部4acに設けられて吸気路3の一部を構成する凹部4aaと、を含んで構成されており、本実施形態においては、
図4に示す施術空間OSを挟んで一対設けられている。
なお、吸着部4aは、施術空間OSを形成するように少なくとも一部と他の一部とが離れて設けられていればよく、一対設けられている構成に限定されず、例えば、U字状やO字状に連続して形成されているものであってもよい。
凹部4aaは、吸着面側に開放された本体部4acに沿って遠近方向に長尺に形成された空間である。
【0023】
図6に示すように、保持部材4における、一対の吸着部4aの上部には、後述する芯材6の少なくとも一部が埋設されている。具体的には、芯材6の少なくとも一部は、吸着部4aの上部において、その厚肉部内にある長孔である収容部4dに収容されている。
例えば、可撓性チューブ3c及び吸着部4aの本体部4acは、ベース部4bよりも軟質な軟質樹脂により構成されており可撓性を有する。可撓性チューブ3cは、本体部4acよりも柔軟に屈曲可能となっている。
【0024】
吸着部4aの上面には、
図2及び
図6に示すように、断面の外縁が円弧状であり上方に突出する突条4gが、後述する芯材6に沿って遠近方向に延在して形成されている。
この突条4gは、吸着部4aの本体部4ac内に安定的に埋設させるために、本体部4acを肉厚にするためのものであり、また、本体部4acの上方から被さるように取り付けられる後述するカバー4eに対する位置ずれを抑制する機能を有する。
吸着部4aは、
図5に示すように、芯材6の少なくとも一部を覆う軟質部材(本体部4ac)を備える。軟質部材は、芯材6よりも剛性の低い材料で構成されている。
【0025】
[芯材について]
図5に示すように、吸着式スタビライザー1は、吸着部4aよりも硬度が高く、不図示の心臓に沿うように湾曲可能で、その形状を保持可能であり、吸着部4aの形状を保持する芯材6を更に備える。芯材6は、心臓の拍動を抑制するためのものであり、
図6に示すように、その一部は、吸着部4aの肉厚部(本体部4ac)の内部に埋設されている。
より具体的には、吸着部4aが芯材6よりも軟質の材料で形成されていることにより、芯材6が湾曲するように変形し、その形状を保持したときに、芯材6を内部に埋設している吸着部4aは、芯材6の変形に従って変形し、その形状を保持することになる。
【0026】
特に、本体部4acよりも硬質の材料、例えば、金属材料から成る芯材6の一部が本体部4acに埋設されて、吸着側である下側への露出が制限されている構成とすれば、凹部4aa内に侵入する体液等が芯材6に触れることを回避できる。このため、芯材6の劣化を抑制することができる。
【0027】
芯材6の少なくとも一部は、
図5に示すように、本体部4acに埋設されており、吸着方向において凹部4aaに重なる位置に設けられている。
上記構成によれば、芯材6の少なくとも一部が本体部4acに埋設されており、吸着方向において凹部4aaに重なる位置に設けられていることで、吸着部4a(本体部4ac)の嵩張りを抑制することができる。このため、施術する際の作業空間を広くすることができ、施術効率を高めることができる。
【0028】
特に、吸着部4aは、
図2に示す中心軸線CLに沿って長尺に形成されており、芯材6は、中心軸線CLよりも施術空間OS(
図4参照)から離間する側に(換言すると、平面視において、中心軸線CLよりも芯材6の中心軸が外側に位置するように)配設されている。
保持部材4は、
図6に示すように、芯材6が埋設可能なように厚みが必要となり、芯材6の埋設部位の高さが高くなる。
上記構成によれば、芯材6が吸着部4aの中心軸線CLよりも施術空間OSから離間する側に配設されているため、施術空間OSに近い部位を薄くし高さを低めることができるため、施術の障害になることを抑制できる。
【0029】
本実施形態においては、芯材6とは別の軟質部材(本体部4ac)に吸気路3が形成されている。このような構成によれば、芯材6を吸気路3の一部とする必要がなく、芯材6を筒状に形成せずに棒状に形成することができる。これにより、芯材6により剛性を高めることができるため、芯材6を比較的小径にすることができ、芯材6を含む保持部材4を上下方向(吸着方向)に関して肉薄にすることができる。
なお、本実施形態に係る芯材6は、中実のものであると上記のように好適であるが、このような形態に限定されず、中空空間を有する筒状のものであってもよい。
【0030】
[カバー(密着部)について]
本実施形態に係る一対のカバー4eは、上記のように、一対の吸着部4aそれぞれの上面及び側周面を覆うように設けられている。
カバー4eは、吸着部4aを覆う覆い部4ecと、覆い部4ecの下端部において鍔状に形成された密着部4eaと、を備える。
図2に示すように、覆い部4ecの近位側かつ上側の端部には、通し孔4edが形成されている。この通し孔4edは、カバー4eを吸着部4aに取り付ける際に、吸着部4aの遠位端部から近位端部に至るまで通すためのものであり、カバー4eが軟質材料により形成されていることにより、吸着部4aを通せるように拡開可能である。通し孔4edの上縁は、平面視において、接続部4bcの遠位端に沿う形状(円弧状)に形成されている。
密着部4eaは、吸着部4aを心臓に当接させて、吸引源2により凹部4aaを陰圧にしたときに、心臓に密着する部位である。
【0031】
本実施形態に係る密着部4eaは、
図6等に示すように、吸着部4aの当接面4adよりも吸着対象側である下方まで延在している。
本書において「下方」とは、
図6における下方であり、吸着対象である被験者の心臓に対して上方から保持部材4をあてがう通常の手技における下方である。稀な例をいえば、被験者の心臓に対して横方向から保持部材4をあてがう場合には、密着部4eaは、当接面4adよりも横方向に延在していればよい。
【0032】
上記構成によれば、心臓の拍動により当接面4adが(上方に跳ね上がって)心臓から離れたときであっても、密着部4eaが当接面4adよりも下方に延在していることで、密着部4eaと心臓との接触を維持しやすくなる。このため、吸着部4aと心臓との間の陰圧状態を維持しやすくなる。
【0033】
密着部4eaは、
図4に示すように、吸着部4aの当接面4adの外周縁4aeを取り囲むように形成されている。
より詳細には、密着部4eaは、
図4に示す底面視において、吸着部4aの当接面4adの外周縁4ae(吸着部4aの周面の下縁)を、凹部4aaのある内側に対して、外側から全周回に亘って取り囲むように形成されている。
【0034】
上記構成によれば、密着部4eaが吸着部4aの外周縁4aeを取り囲んでいることで、内周縁側に沿って配設されているものよりも、吸着部4aに密着部4ea(カバー4e)を取り付けて配設しやすくなる。
【0035】
密着部4eaは、吸着部4aの当接面4adの縁から吸着対象側である下方に延在して末広がりとなるように形成されている。
上記構成によれば、密着部4eaが、吸着部4aの当接面4adの縁(外周縁4ae)から下方に延在して末広がり状に形成されていることで、吸着部4aの当接面の心臓への当接を維持することができる。
さらに、吸着部4aが心臓から多少離間したときであっても、密着部4eaの心臓への密着状態を維持して、凹部4aaを含む領域の陰圧状態を維持しやすくなる。
【0036】
また、本実施形態に係る密着部4eaの肉厚は、
図6に示すように、吸着部4aの本体部4acの側面を覆う覆い部4ecの肉厚よりも薄く形成されている。ここで「肉厚」とは、凹部4aaを画定するそれぞれの面に対して垂直な方向の厚さをいうものとする。
このように構成されていることにより、このような構成によれば、密着部4eaの断面二次モーメントを小さくすることができ、剛性を低めることができる。このため、凹部4aa内を真空引きしたときに密着部4eaは、心臓に密着する側に好適に変形することができ、密着部4eaと心臓との接触面積を大きくすることができ、真空破壊を防止しやすくなる。
【0037】
さらには、密着部4eaは、密着部4eaの端部に向かうに連れて薄肉となるように形成されていてもよい。このような構成によれば、密着部4eaの断面二次モーメントを更に小さくすることができ、剛性を低めることができる。このため、凹部4aa内を真空引きしたときに密着部4eaは、心臓に密着する側に更に好適に変形することができ、密着部4eaと心臓との接触面積を大きくすることができ、真空破壊を防止しやすくなる。
【0038】
密着部4eaは、吸着対象側から見て環状に形成されている。
上記構成によれば、密着部4eaが吸着対象側から見て環状に形成されていることにより、密着部4eaによって吸着部4aの真空破壊を抑制しやすくなり、凹部4aa内の陰圧状態を維持しやすくなる。
【0039】
また、カバー4eにおける、本体部4acの突条4gに対向する部位には、突条4gに対応する形状の溝部4ebが形成されている。
本実施形態において、溝部4ebについての突条4gに対応する形状とは、具体的には、断面円弧状の下面を有して上方に窪んでおり、遠近方向に延在する形状である。なお、溝部4ebのすべてが突条4gに対応する形状である必要はなく、少なくとも一部が対応する形状であればよい。
このように、突条4gに対応する形状の溝部4ebがカバー4eに形成されていることで、吸着部4aにカバー4eを取り付けられた状態からのカバー4eの吸着部4aに対する位置ずれを抑制することができる。
【0040】
<第1変形例>
次に、第1変形例に係る保持部材24について、
図7を参照して説明する。
図7は、第1変形例に係る保持部材24を示す図であり、保持部材24の一部を断面で示した部分断面図である。
【0041】
本例に係る保持部材24が備える吸着部24aには、
図7に示すように、本体部24acの下面側に凹部24aaが複数設けられており、複数の凹部24aaが吸気路23(吸引孔23b)に接続されている。密着部4eaは、吸着部24aの当接面24adの外周縁24aeを取り囲んでいることで、複数の凹部24aa全体をまとめて取り囲んでいる。
より詳細には、密着部4eaは、底面視において、吸着部24aの当接面24adの外周縁24ae(吸着部24aの周面の下縁)を、複数の凹部24aaのある内側に対して、外側から全周回に亘って取り囲むように長円形に形成されている。
上記構成によれば、密着部4eaが吸着部24aの外周縁24aeを取り囲む構成であることにより、密着部4eaを複数の凹部24aaに個別に設ける必要がなく、吸着部24aに取り付けやすくなる。
【0042】
<第2変形例>
次に、第2変形例に係る吸着部34aについて、
図8を主に参照して説明する。
図8は、第2変形例に係る吸着部34aの一部の断面を拡大して示す断面図である。
本例に係る吸着部34aは、複数の凹部34aaを有する。凹部34aaは、吸気路23に繋がる上部34abと、上部34abの下端に連続し、上部34abの下端から径方向外側に広がる段差と、を備える。吸着部34aの下端部には、この段差によって、上部34abよりも大径の周縁(内周縁34ae)が形成されている。
本例に係る密着部(Oリング34e)は、凹部34aaの周縁(吸着部34aの内周縁34ae)に設けられている。
上記構成によれば、密着部(Oリング34e)が凹部34aaの周縁(内周縁34ae)に設けられていることで、
図6等に示すように吸着部4aの外周縁4aeを取り囲んでいるものよりも、
図8に示す吸着部34aの外側の占有スペースを抑えることができ、吸着部34aの外側で施術がしやすくなる。
【0043】
なお、
図8において、Oリング34eは、当接面4adを含む仮想平面に接する位置にあるものとして示されているがこのような構成に限定されない。例えば、Oリング34eは、当接面4adよりも下方に突出して形成又は配置されていてもよい。このような構成であれば、心臓から当接面4adが多少離間したとしてもOリング34eが心臓との接触を維持できることがあり、この場合に真空破壊が生じることを防ぐことができる。
【0044】
また、
図6等に示すように密着部4eaが、吸着部4aの外周縁4aeを取り囲むように設け、かつ凹部34aaの周縁にも設けられていれば、心臓との接触を維持しやすくなり、心臓との間の陰圧状態をより維持しやすくなる。
本例における密着部は、Oリング34eである例を説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものではい。例えば環状の角張ったガスケットであってもよい。さらに、そのガスケットに、凹部34aaの周縁に嵌る段差が形成されていてもよい。
【0045】
<第3変形例>
次に、第3変形例に係る吸着部44aについて、
図9を主に参照して説明する。
図9は、第3変形例に係る吸着部44aの一部の断面を拡大して示す断面図である。
本例に係る吸着部44aは、凹部44aaの内部に、吸気路23に接続される接続開口43aを有する。
接続開口43aは吸着部44aの縁部分であり、密着部(スカート部44e)が接続開口43aの周囲に形成されている。
【0046】
詳細には、接続開口43aは、吸着部44a内部の縁部分であり、吸着部44aに形成された凹部44aaの縁部分でもある。
そして、スカート部44eの上端は、吸着部44aに設けられた凹部44aaの下面(上面)における接続開口43aの周囲に、接着等により接合されている。なお、本発明はこのような構成に限定されず、スカート部44eは、凹部44aaの周面に接合されていてもよい。
【0047】
上記構成によれば、密着部(スカート部44e)によって、吸気路23の接続開口43aに繋がる凹部44aaの内部の空間を狭めることによって、吸引圧力を高めることができる。
なお、本例に係る密着部としてのスカート部44eは、凹部44aa内に上部が配設されており、底面視において円環状に形成されており、下方に向かうにつれて末広がりとなるように形成され、当接面4adよりも下方まで延在している。
【0048】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)吸引源からの陰圧吸引により吸着対象である心臓に吸着させ、該心臓の拍動を抑制することによって、冠状動脈におけるバイパス血管に繋がる吻合対象部の周辺を安定化させる吸着式スタビライザーであって、
前記吻合対象部の周辺に当接面を当接させるように取り付けられる部位であり、前記吸引源からの吸気路が接続されており、前記拍動を抑制する吸着部と、
該吸着部よりも軟質であり、前記吸着部に接続されており、前記吻合対象部の周辺に密着する密着部と、を備え、
前記吸着部には、前記吸引源からの吸気路が接続されて陰圧の空間を形成する凹部が形成されており、
前記密着部は、前記吸着部の縁部分に設けられており、前記吸着部の前記当接面と面一であるか又は前記当接面よりも前記吸着対象側である下方まで延在していることを特徴とする吸着式スタビライザー。
(2)前記密着部は、前記吸着部の前記当接面よりも前記吸着対象側である下方まで延在している(1)に記載の吸着式スタビライザー。
(3)前記密着部は、前記吸着部の前記当接面の外周縁を取り囲むように形成されている(1)又は(2)に記載の吸着式スタビライザー。
(4)前記凹部は、複数設けられており、
前記密着部は、前記吸着部の前記当接面の外周縁を取り囲むことで、複数の前記凹部全体をまとめて取り囲んでいる(1)から(3)のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
(5)前記密着部は、前記凹部の周縁に設けられている(1)から(4)のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
(6)前記吸着部は、前記凹部の内部に、前記吸気路に接続される接続開口を有し、
該接続開口は、前記吸着部の縁部分であり、
前記密着部は、前記接続開口の周囲に形成されている(1)から(5)のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
(7)前記密着部は、前記吸着部の前記当接面の縁から前記吸着対象側である下方に延在して末広がりとなるように形成されている(1)から(6)のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
(8)前記密着部は、前記吸着対象側から見て環状に形成されている(1)から(7)のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
(9)前記吸着部よりも硬度が高く、前記心臓に沿うように湾曲可能で、その形状を保持可能であり、前記吸着部の形状を保持する芯材を更に備え、
該芯材は、前記吸着部の肉厚部の内部に埋設されている(1)から(8)のいずれか一項に記載の吸着式スタビライザー。
【符号の説明】
【0049】
1 吸着式スタビライザー
1a 接合部材
1b アーム部
2 吸引源
3 吸気路
3c 可撓性チューブ
3d、3e 通気孔
4 保持部材
4a 吸着部
4aa 凹部
4ac 本体部(肉厚部)
4ad 当接面
4ae 外周縁(縁部分)
4b ベース部
4ba コネクタ部
4bb 差込口
4bc 接続部
4bd 連結部
4d 収容部
4e カバー
4ea 密着部
4eb 溝部
4ec 覆い部
4ed 通し孔
4f 連絡部材
4g 突条
6 芯材
23 吸気路
23b 吸引孔
24 保持部材
24a 吸着部
24aa 凹部
24ac 本体部
24ad 当接面
24ae 外周縁(縁部分)
34a 吸着部
34aa 凹部
34ab 上部
34ae 内周縁(縁部分)
34e Oリング(密着部)
43a 接続開口(縁部分)
44a 吸着部
44aa 凹部
44e スカート部(密着部)
OS 施術空間