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特許7480509操舵制御装置、操舵制御方法、操舵制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】操舵制御装置、操舵制御方法、操舵制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B62D6/00
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020003317
(22)【出願日】2020-01-13
(65)【公開番号】P2021109569
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-042769(JP,A)
【文献】特開平11-034890(JP,A)
【文献】特開2001-158371(JP,A)
【文献】特開2010-202010(JP,A)
【文献】特開2001-026279(JP,A)
【文献】特開2004-017881(JP,A)
【文献】米国特許第4873475(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御装置(1)であって、
前記操舵アクチュエータが前記車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)を、前記車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)に、保持するのに必要な保持条件(C)が、成立したか否かを判定する条件判定部(111)と、
前記保持条件が成立してから前記車両が前記停止位置まで走行する停止前走行区間において、前記操舵角を前記停止制御角に保持する操舵保持部(112)であって、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)内まで低下している場合に、前記操舵角の保持を中止する操舵保持部と、
前記停止位置において前記停止制御角からオーバシュートした前記操舵角として、オーバシュート角(θo)を設定するオーバシュート設定部(121)と、
前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、前記オーバシュート角までオーバシュートしてから前記停止制御角に戻る揺動を、前記操舵角に与える操舵揺動部(122)と、を備え
前記操舵揺動部は、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲内に低下するまで、前記操舵角の揺動を繰り返す操舵制御装置。
【請求項2】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記車両の走行速度(Vc)に関する条件を、含む請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記車両の走行軌道に対する制御偏差(δc)に関する条件を、含む請求項1又は2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記停止位置までの前記車両の走行距離(Lc)に関する条件を、含む請求項1~3のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記操舵保持部は、前記停止前走行区間の開始から前記停止位置に跨って、前記操舵角を前記停止制御角に保持する請求項1~4のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御装置(1)であって、
前記操舵アクチュエータが前記車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)として、前記車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)からオーバシュートしたオーバシュート角(θo)を、当該停止位置において設定するオーバシュート設定部(121)と、
前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)外まで上昇している場合に、前記オーバシュート角までオーバシュートしてから前記停止制御角に戻る揺動を、前記操舵角に与える操舵揺動部(122)と、を備え
前記操舵揺動部は、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲内に低下するまで、前記操舵角の揺動を繰り返す操舵制御装置。
【請求項7】
前記オーバシュート設定部は、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、当該出力値に応じて前記オーバシュート角を設定する請求項1~6のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記操舵揺動部は、繰り返しによる前記操舵角の揺動回数(N)が上限設定回数(Nu)に達してからの前記停止位置において、前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、前記操舵角の揺動を中止する請求項1~7のいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項9】
プロセッサ(12)により実行され、車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御方法であって、
前記操舵アクチュエータが前記車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)を、前記車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)に、保持するのに必要な保持条件(C)が、成立したか否かを判定する条件判定プロセス(S101,S102)と、
前記保持条件が成立してから前記車両が前記停止位置まで走行する停止前走行区間において、前記操舵角を前記停止制御角に保持する操舵保持プロセス(S103,S104,S105)であって、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)内まで低下している場合に、前記操舵角の保持を中止する操舵保持プロセスと、
前記停止位置において前記停止制御角からオーバシュートした前記操舵角として、オーバシュート角(θo)を設定するオーバシュート設定プロセス(S106)と、
前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、前記オーバシュート角までオーバシュートしてから前記停止制御角に戻る揺動を、前記操舵角に与える操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
前記操舵揺動プロセスは、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲内に低下するまで、前記操舵角の揺動を繰り返す操舵制御方法。
【請求項10】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記車両の走行速度(Vc)に関する条件を、含む請求項に記載の操舵制御方法。
【請求項11】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記車両の走行軌道に対する制御偏差(δc)に関する条件を、含む請求項9又は10に記載の操舵制御方法。
【請求項12】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記停止位置までの前記車両の走行距離(Lc)に関する条件を、含む請求項9~11のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項13】
前記操舵保持プロセスは、前記停止前走行区間の開始から前記停止位置に跨って、前記操舵角を前記停止制御角に保持する請求項9~12のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項14】
プロセッサ(12)により実行され、車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御方法であって、
前記操舵アクチュエータが前記車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)として、前記車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)からオーバシュートしたオーバシュート角(θo)を、当該停止位置において設定するオーバシュート設定プロセス(S106)と、
前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)外まで上昇している場合に、前記オーバシュート角までオーバシュートしてから前記停止制御角に戻る揺動を、前記操舵角に与える操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
前記操舵揺動プロセスは、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲内に低下するまで、前記操舵角の揺動を繰り返す操舵制御方法。
【請求項15】
前記オーバシュート設定プロセスは、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、当該出力値に応じて前記オーバシュート角を設定する請求項9~14のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項16】
前記操舵揺動プロセスは、繰り返しによる前記操舵角の揺動回数(N)が上限設定回数(Nu)に達してからの前記停止位置において、前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、前記操舵角の揺動を中止する請求項9~15のいずれか一項に記載の操舵制御方法。
【請求項17】
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御するために記憶媒体(10)に格納され、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む操舵制御プログラムであって、
前記命令は、
前記操舵アクチュエータが前記車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)を、前記車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)に、保持するのに必要な保持条件(C)が、成立したか否かを判定させる条件判定プロセス(S101,S102)と、
前記保持条件が成立してから前記車両が前記停止位置まで走行する停止前走行区間において、前記操舵角を前記停止制御角に保持させる操舵保持プロセス(S103,S104,S105)であって、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)内まで低下している場合に、前記操舵角の保持を中止させる操舵保持プロセスと、
前記停止位置において前記停止制御角からオーバシュートした前記操舵角として、オーバシュート角(θo)を設定させるオーバシュート設定プロセス(S106)と、
前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、前記オーバシュート角までオーバシュートしてから前記停止制御角に戻る揺動を、前記操舵角に与えさせる操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
前記操舵揺動プロセスは、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲内に低下するまで、前記操舵角の揺動を繰り返させる操舵制御プログラム。
【請求項18】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記車両の走行速度(Vc)に関する条件を、含む請求項17に記載の操舵制御プログラム。
【請求項19】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記車両の走行軌道に対する制御偏差(δc)に関する条件を、含む請求項17又は18に記載の操舵制御プログラム。
【請求項20】
前記保持条件は、前記停止前走行区間の開始において必要な、前記停止位置までの前記車両の走行距離(Lc)に関する条件を、含む請求項17~19のいずれか一項に記載の操舵制御プログラム。
【請求項21】
前記操舵保持プロセスは、前記停止前走行区間の開始から前記停止位置に跨って、前記操舵角を前記停止制御角に保持させる請求項17~20のいずれか一項に記載の操舵制御プログラム。
【請求項22】
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御するために記憶媒体(10)に格納され、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む操舵制御プログラムであって、
前記命令は、
前記操舵アクチュエータが前記車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)として、前記車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)からオーバシュートしたオーバシュート角(θo)を、当該停止位置において設定させるオーバシュート設定プロセス(S106)と、
前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)外まで上昇している場合に、前記オーバシュート角までオーバシュートしてから前記停止制御角に戻る揺動を、前記操舵角に与えさせる操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
前記操舵揺動プロセスは、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲内に低下するまで、前記操舵角の揺動を繰り返させる操舵制御プログラム。
【請求項23】
前記オーバシュート設定プロセスは、前記停止位置において前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、当該出力値に応じて前記オーバシュート角を設定させる請求項17~22のいずれか一項に記載の操舵制御プログラム。
【請求項24】
前記操舵揺動プロセスは、繰り返しによる前記操舵角の揺動回数(N)が上限設定回数(Nu)に達してからの前記停止位置において、前記操舵角の保持に伴う前記操舵アクチュエータの前記出力値が前記許容範囲外まで上昇している場合に、前記操舵角の揺動を中止させる請求項17~23のいずれか一項に記載の操舵制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の操舵アクチュエータによる操舵を制御する操舵制御技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
操舵制御技術として特許文献1には、車両の停止検出を条件に、パワステモータにより車両の操舵角を減少させて直進時の0度に近づける技術が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-215897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、走行を停止した車両においてタイヤに与えられる操舵角を、特許文献1の開示技術のように単に減少させるだけの場合、当該減少に伴ってタイヤが拗じられることになる。その結果、拗じられたタイヤが車両の停止中に弾性復原することで、捻じれ自体は解消されるものの、操舵角にずれが生じてしまう。
【0005】
本開示の課題は、停止した車両における操舵角のずれを抑制する操舵制御装置を、提供することにある。本開示の別の課題は、停止した車両における操舵角のずれを抑制する操舵制御方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、停止した車両における操舵角のずれを抑制する操舵制御プログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御装置(1)であって、
操舵アクチュエータが車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)を、車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)に、保持するのに必要な保持条件(C)が、成立したか否かを判定する条件判定部(111)と、
保持条件が成立してから車両が停止位置まで走行する停止前走行区間において、操舵角を停止制御角に保持する操舵保持部(112)であって、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)内まで低下している場合に、操舵角の保持を中止する操舵保持部と、
停止位置において停止制御角からオーバシュートした操舵角として、オーバシュート角(θo)を設定するオーバシュート設定部(121)と、
停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲外まで上昇している場合に、オーバシュート角までオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動を、操舵角に与える操舵揺動部(122)と、を備え
操舵揺動部は、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲内に低下するまで、操舵角の揺動を繰り返す。
【0008】
本開示の第二態様は、
プロセッサ(12)により実行され、車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御方法であって、
操舵アクチュエータが車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)を、車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)に、保持するのに必要な保持条件(C)が、成立したか否かを判定する条件判定プロセス(S101,S102)と、
保持条件が成立してから車両が停止位置まで走行する停止前走行区間において、操舵角を停止制御角に保持する操舵保持プロセス(S103,S104,S105)であって、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)内まで低下している場合に、操舵角の保持を中止する操舵保持プロセスと、
停止位置において停止制御角からオーバシュートした操舵角として、オーバシュート角(θo)を設定するオーバシュート設定プロセス(S106)と、
停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲外まで上昇している場合に、オーバシュート角までオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動を、操舵角に与える操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
操舵揺動プロセスは、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲内に低下するまで、操舵角の揺動を繰り返す。
【0009】
本開示の第三態様は、
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御するために記憶媒体(10)に格納され、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む操舵制御プログラムであって、
命令は、
操舵アクチュエータが車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)を、車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)に、保持するのに必要な保持条件(C)が、成立したか否かを判定させる条件判定プロセス(S101,S102)と、
保持条件が成立してから車両が停止位置まで走行する停止前走行区間において、操舵角を停止制御角に保持させる操舵保持プロセス(S103,S104,S105)であって、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)内まで低下している場合に、操舵角の保持を中止させる操舵保持プロセスと、
停止位置において停止制御角からオーバシュートした操舵角として、オーバシュート角(θo)を設定させるオーバシュート設定プロセス(S106)と、
停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲外まで上昇している場合に、オーバシュート角までオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動を、操舵角に与えさせる操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
操舵揺動プロセスは、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲内に低下するまで、操舵角の揺動を繰り返させる。
【0010】
これら第一~第三態様によると、保持条件が成立してから車両が停止位置まで走行する停止前走行区間において、操舵角が停止制御角に保持される。これによれば、停止前走行区間より前での操舵角調整により捻じれたタイヤであっても、操舵角を停止制御角に保持したまま、停止前走行区間での車両走行により弾性復原させることができる。故に、停止前走行区間の終了となる停止位置にて車両が走行停止するまでにタイヤの捻じれを解消して、当該捻じれに起因した操舵角のずれを抑制することが可能である。
【0011】
本開示の第四態様は、
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御装置(1)であって、
操舵アクチュエータが車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)として、車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)からオーバシュートしたオーバシュート角(θ)を、当該停止位置において設定するオーバシュート設定部(121)と、
停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)外まで上昇している場合に、オーバシュート角までオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動を、操舵角に与える操舵揺動部(122)と、を備え
操舵揺動部は、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲内に低下するまで、操舵角の揺動を繰り返す。
【0012】
本開示の第五態様は、
プロセッサ(12)により実行され、車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御する操舵制御方法であって、
操舵アクチュエータが車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)として、車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)からオーバシュートしたオーバシュート角(θ)を、当該停止位置において設定するオーバシュート設定プロセス(S106)と、
停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)外まで上昇している場合に、オーバシュート角までオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動を、操舵角に与える操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
操舵揺動プロセスは、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲内に低下するまで、操舵角の揺動を繰り返す。
【0013】
本開示の第六態様は、
車両(2)の操舵アクチュエータ(3)による操舵を制御するために記憶媒体(10)に格納され、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む操舵制御プログラムであって、
命令は、
操舵アクチュエータが車両のタイヤ(20)に与える操舵角(θ)として、車両が走行を停止する停止位置(Ps)での停止制御角(θs)からオーバシュートしたオーバシュート角(θ)を、当該停止位置において設定させるオーバシュート設定プロセス(S106)と、
停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値(Ao)が許容範囲(ΔA)外まで上昇している場合に、オーバシュート角までオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動を、操舵角に与えさせる操舵揺動プロセス(S107,S108,S109,S110,S111)と、を含み、
操舵揺動プロセスは、停止位置において操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲内に低下するまで、操舵角の揺動を繰り返させる。
【0014】
これら第四~第六態様によると、車両が走行を停止する停止位置において、操舵角の保持に伴う操舵アクチュエータの出力値が許容範囲外まで上昇している場合、オーバシュート角にオーバシュートしてから停止制御角に戻る揺動が、操舵角に与えられる。これによれば、車両が走行を停止するまでの操舵角調整により捻じれたことで許容範囲外の出力値を招いているタイヤであっても、操舵角の揺動により弾性復原させつつ、操舵角を停止制御角へと戻すことができる。故に、走行を停止した車両におけるタイヤの捻じれを解消して、当該捻じれに起因した操舵角のずれを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態による操舵制御装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態による操舵制御装置の詳細構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態による操舵制御装置の操舵制御に従う車両の走行を説明する模式図である。
図4】一実施形態による操舵制御装置の停止前解消制御を説明する条件表である。
図5】一実施形態による操舵制御装置の停止前解消制御を説明するグラフである。
図6】一実施形態による操舵制御装置の停止後解消制御を説明するグラフである。
図7】一実施形態による操舵制御装置の角度追従サブブロックを説明するブロック図である。
図8】一実施形態による操舵制御方法のフローを示すフローチャートである。
図9】一実施形態による操舵制御方法のフローを示すフローチャートである。
図10】変形例による操舵制御方法のフローを示すフローチャートである。
図11】変形例による操舵制御方法のフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に示すように一実施形態による操舵制御装置1は、車両2に搭載される。車両2は、操舵制御装置1により定常的若しくは一時的に自動操舵制御可能な、例えば高度運転支援車又は自動運転車等である。車両2では、少なくとも一対の操舵輪におけるタイヤ(以下、操舵タイヤという)20の、前後方向Dに対する操舵角θが操舵制御装置1による自動操舵制御に従って随時調整される。車両2には、操舵制御装置1と共に、操舵アクチュエータ3とセンサ系4と運転制御装置5とが搭載されている。
【0018】
操舵アクチュエータ3は、図2に示す電動式の操舵モータ30と、図示しない減速機とを、含んで構成される。操舵アクチュエータ3は、車両2のステアリングハンドル(図示しない)と機械的に連携するパワーステアリングシステムを、構成していてもよい。操舵アクチュエータ3は、車両2のステアリングハンドル(図示しない)と機械的には遮断且つ電気的には連携するステアリングバイワイヤシステムを、構成していてもよい。
【0019】
操舵アクチュエータ3は、後述の操舵出力指令Ooに従って操舵モータ30により発生させたトルクを、減速機により増幅してから出力する。このトルクが操舵アクチュエータ3から操舵タイヤ20へと伝達されることで、図1に示す当該タイヤ20の操舵角θが変化する。本実施形態の操舵角θには、車両2の前後方向Dに対して右側では正(プラス)の値、また左側では負(マイナス)の値が、それぞれ与えられる。操舵アクチュエータ3からの出力値Aoにも、同様に正負の値が与えられる。
【0020】
センサ系4は、外界センサ40及び内界センサ41を含んで構成される。外界センサ40は、車両2の周辺環境となる外界の情報を、取得する。外界センサ40は、車両2の外界に存在する物体を検知することで、外界情報を取得してもよい。この検知タイプの外界センサ40は、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ及びソナー等のうち、少なくとも一種類である。外界センサ40は、車両2の外界に存在するGNSS(Global Navigation Satellite System)の人工衛星又はITS(Intelligent Transport Systems)の路側機から特定信号を受信することで、外界情報を取得してもよい。この受信タイプの外界センサ40は、例えばGNSS受信機及びテレマティクス受信機等のうち、少なくとも一種類である。
【0021】
内界センサ41は、車両2の内部環境となる内界の情報を、取得する。内界センサ41は、車両2の内界において特定の運動物理量を検知することで、内界情報を取得してもよい。この検知タイプの内界センサ41は、例えば操舵角センサ42、操舵出力センサ43、走行速度センサ44及び慣性センサ等のうち、図2に示すセンサ42~44を含んだ、少なくとも三種類である。ここで操舵角センサ42は、操舵タイヤ20の操舵角θとして実操舵角θrを直接的又は間接的に表した内界情報を、取得する。また操舵出力センサ43は、操舵アクチュエータ3の出力値Aoを直接的又は間接的に表した内界情報を、取得する。
【0022】
図1に示す運転制御装置5は、例えばLAN(Local Area Network)、ワイヤハーネス及び内部バス等のうち、少なくとも一種類を介してセンサ系4と接続されている。運転制御装置5は、操舵制御装置1よりも上位の制御として車両2全体の運転を定常若しくは一時的に自動制御可能な、例えば高度運転支援専用又は自動運転制御専用等のECU(Electronic Control Unit)である。ここで一時的な自動制御とは、車両2に対する自動運転モードと手動運転モードとが切り替え可能となっていることで、実現可能である。
【0023】
自動制御において運転制御装置5は、操舵制御装置1に対して要求する操舵制御の種別を表した操舵指令を、センサ系4の外界センサ40及び内界センサ41による各種取得情報に基づいて生成する。ここで操舵指令には、車両2の操舵タイヤ20において捻じれの発生が予測される場合に当該捻じれの解消制御を指令する、解消制御指令Ocが含まれる。この解消制御指令Ocは、例えば車両2の走行停止までの距離が所定の指令開始距離となった場合等に、発せられる。
【0024】
操舵制御装置1は、例えばLAN(Local Area Network)、ワイヤハーネス及び内部バス等のうち、少なくとも一種類を介して操舵アクチュエータ3とセンサ系4と運転制御装置5とに接続されている。操舵制御装置1は、操舵アクチュエータ3を制御する、操舵専用のECUであってもよい。操舵制御装置1は、車両2の高度運転支援又は自動運転制御に利用される、ロケータのECUであってもよい。操舵制御装置1は、車両2の運転をナビゲートする、ナビゲーション装置のECUであってもよい。操舵制御装置1は、運転制御装置5と同一のECUにより兼用されてもよい。操舵制御装置1は、これらのECUのうち、後述の機能を分担する複数種類の組み合わせにより、構成されてもよい。
【0025】
操舵制御装置1は、メモリ10及びプロセッサ12を少なくとも一つずつ含んだ、専用のコンピュータである。操舵制御装置1は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納又は記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも一種類をコアとして含む。
【0026】
プロセッサ12は、メモリ10に格納された操舵制御プログラムに含まれる複数の命令を、実行する。これにより操舵制御装置1は、車両2の操舵を制御するための機能ブロックを、図2に示すように複数構築する。このように操舵制御装置1では、車両2の操舵を制御するためにメモリ10に格納された推定プログラムが複数の命令をプロセッサ12に実行させることで、複数の機能ブロックが構築される。複数の機能ブロックには、軌道制御ブロック100、停止前解消制御ブロック110、停止後解消制御ブロック120及び操舵角制御ブロック130とが、含まれる。
【0027】
軌道制御ブロック100は、車両2の従う走行軌道を、制御する。そのために軌道制御ブロック100は、相異なる機能のサブブロック101,102,103を、有している。
【0028】
状態量取得サブブロック101は、センサ系4の外界センサ40及び内界センサ41による各種取得情報に基づいた推定処理により、車両2の自己状態量Zを取得する。自己状態量Zは、車両2の少なくとも自己位置を含む。自己状態量Zはさらに、例えば走行速度及びヨー角等のうち、少なくとも一種類を含んでいてもよい。
【0029】
目標軌道取得サブブロック102は、自己位置を含んだ自己状態量Zに関して規定する車両2の走行軌道として、運転制御装置5からの操舵指令に従う目標軌道Tzを取得する。このとき目標軌道取得サブブロック102は、運転制御装置5から捻じれ解消制御指令Ocの入力を受けることで、図3,5に示す後述の停止前走行区間Sbを含んだ目標軌道Tzを、生成する。このとき目標軌道取得サブブロック102は、車両2に走行を停止させる予定位置となる目標の停止位置Psを、目標軌道Tzからの抽出により取得する。また目標軌道取得サブブロック102は、自己状態量Zのうち現在の自己位置から、停止位置Psまでの車両2に予定される走行距離Lcを、差分演算により取得する。
【0030】
図2に示す軌道追従サブブロック103は、状態量取得サブブロック101により取得の自己状態量Zを、目標軌道取得サブブロック102により取得の目標軌道Tzに追従させる、軌道追従制御を実行する。軌道追従制御により軌道追従サブブロック103は、自己状態量Zを目標軌道Tzの規定量に近づけるための操舵角θとして、追従目標角θcを設定する。このとき軌道追従サブブロック103は、自己状態量Zと目標軌道Tzの規定量との偏差として、制御偏差δcを取得する。ここで制御偏差δcは、例えば軌道横偏差及び車両角度偏差等のうち、少なくとも一種類である。本実施形態の制御偏差δcには、車両2の前後方向Dに対して右側では正(プラス)の値、また左側では負(マイナス)の値が、それぞれ与えられる。
【0031】
停止前解消制御ブロック110は、操舵タイヤ20において発生が予測される捻じれを車両2の走行停止前に解消する、停止前解消制御を実行する。そのために停止前解消制御ブロック110は、相異なる機能のサブブロック111,112を、有している。
【0032】
条件判定サブブロック111は、運転制御装置5から解消制御指令Ocの入力を受ける。条件判定サブブロック111は、目標軌道取得サブブロック102から停止位置Psの入力を受ける。これらの入力を受けると、図4に示す保持条件Cが成立したか否かを、条件判定サブブロック111は判定する。ここで保持条件Cには、車両2の走行停止する停止位置Psでの停止制御角θs(後述の図5,6参照)を、当該位置Psにおいて保持するのに必要な、複数必要条件C1~C4が含まれる。本実施形態では、これら全ての必要条件C1~C4が成立してから、図3に示すように車両2が停止位置Psまで走行するまでの区間として、停止前走行区間Sbが定義される。
【0033】
図4の第一必要条件C1は、停止前走行区間Sbの開始において必要な、車両2の走行速度Vcに関する条件である。図2に示すように条件判定サブブロック111には、センサ系4のうち走行速度センサ44により取得の内界情報として、走行速度Vcが入力される。条件判定サブブロック111は、現在の走行速度Vcが図5の上限設定値Vu未満である場合に、第一必要条件C1が成立したとの判定を下す。一方、走行速度Vcが上限設定値Vu以上である場合に、第一必要条件C1は不成立との判定を条件判定サブブロック111が下す。
【0034】
図4の第二必要条件C2は、停止前走行区間Sbの開始において必要な、車両2の走行軌道に対する制御偏差δcに関する条件である。図2に示すように条件判定サブブロック111には、軌道追従サブブロック103により取得の制御偏差δcが、入力される。条件判定サブブロック111は、現在の制御偏差δcの絶対値が図5の上限設定値δu未満である場合に、第二必要条件C2が成立したとの判定を下す。一方、制御偏差δcの絶対値が上限設定値δu以上である場合に、第二必要条件C2は不成立との判定を条件判定サブブロック111が下す。
【0035】
図4の第三必要条件C3は、停止前走行区間Sbの開始において必要な、現在の自己位置から停止位置Psまでの走行距離Lcに関する条件である。図2に示すように条件判定サブブロック111には、目標軌道取得サブブロック102により取得の走行距離Lcが、入力される。条件判定サブブロック111は、停止位置Psまでの走行距離Lcが図5の上限設定値Lu未満である場合に、第三必要条件C3が成立したとの判定を下す。一方、走行距離Lcが上限設定値Lu以上である場合に、第三必要条件C3は不成立との判定を下す条件判定サブブロック111が下す。
【0036】
図4の第四必要条件C4は、停止前走行区間Sbの開始において必要且つ第三必要条件C3とは別規定の、走行距離Lcに関する条件である。条件判定サブブロック111は、現在の自己位置から停止位置Psまでの走行距離Lcが図5の下限設定値Ll超過である場合に、第四必要条件C4が成立したとの判定を下す。一方、走行距離Lcが下限設定値Ll以下である場合に、第四必要条件C4は不成立との判定を下す条件判定サブブロック111が下す。
【0037】
第一~第三条件C1~C3は、車両2の走行停止までには必ず成立する。一方、第四必要条件C4は、捻じれ解消制御指令Ocの生成タイミングによっては、車両2の走行停止まで不成立となる場合がある。そこで、第四必要条件C4の場合に条件判定サブブロック111は、停止前解消制御を中止して後述の停止後解消制御を実行するために、解消制御指令Ocを継続させる解消継続指令Occを生成する。
【0038】
図2に示す操舵保持サブブロック112は、保持条件Cとして全必要条件C1~C4が成立してから車両2が停止位置Psまで走行する停止前走行区間Sbにおいて、操舵角θの停止前目標角θbを図5の如く停止制御角θsに保持する。特に操舵保持サブブロック112は、停止前走行区間Sbの開始から停止位置Psに跨って、停止前目標角θbを停止制御角θsに設定したまま保持する。ここで停止制御角θsは、車両2の前後方向Dに沿う0度に、固定されてもよい。停止制御角θsが0度に固定される場合、停止前走行区間Sbにおける車両2の走行軌道は、ストレート状(図3参照)となる。停止制御角θsは、例えば運転制御装置5からの操舵指令等に基づいて、可変設定されてもよい。停止制御角θsが0度以外に可変設定される場合、停止前走行区間Sbにおける車両2の走行軌道は、曲線状となる。
【0039】
操舵保持サブブロック112は、停止前走行区間Sbのうち停止位置Psにおいて、停止前目標角θbの保持を中止する。特に操舵保持サブブロック112は、車両2の停止した停止位置Psでの停止前目標角θbの保持に伴って操舵アクチュエータ3から出力される出力値Aoの絶対値が、許容範囲ΔA(図6参照)内まで低下している場合に、当該保持を中止する。一方、停止位置Psにおいて操舵角θの保持に伴う出力値Aoの絶対値が許容範囲ΔA外まで上昇している場合に操舵保持サブブロック112は、停止前解消制御を後述の停止後解消制御へと切り替えるために、解消継続指令Occを生成する。いずれの場合にも出力値Aoは、センサ系4のうち操舵出力センサ43により取得されて操舵保持サブブロック112へと入力される。ここで、保持中止の判定基準となる許容範囲ΔAは、出力値Aoの絶対値に関して上限設定値Au(図6参照)未満の範囲に、設定される。保持中止の判定に当たって前提となる、停止位置Psでの車両2の停止は、センサ系4のうち走行速度センサ44により取得の走行速度Vcに基づくことで、確認される。
【0040】
図2に示す停止後解消制御ブロック120は、操舵タイヤ20において発生が予測される捻じれを車両2の走行停止後に解消する、停止後解消制御を実行する。そのために停止後解消制御ブロック120は、相異なる機能のサブブロック121,122を、有している。
【0041】
オーバシュート設定サブブロック121は、操舵保持サブブロック112又は後述の操舵揺動サブブロック122から解消継続指令Occの入力を受ける。オーバシュート設定サブブロック121は、目標軌道取得サブブロック102から停止位置Psの入力を受ける。これらの入力を受ける毎にオーバシュート設定サブブロック121は、停止位置Psでの停止制御角θsからオーバシュートした操舵角として、図6に示すオーバシュート角θoを設定する。特にオーバシュート設定サブブロック121は、車両2の停止した停止位置Psでの停止後目標角θa(後述)の保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA外であるために解消継続指令Occが入力される場合に、当該値Aoに応じてオーバシュート角θoを更新する。ここでオーバシュート角θoは、出力値Aoから操舵角θへの変換係数と、同値Aoとの乗算により、規定される。このとき変換係数は、解消継続指令Occの入力毎に、正負を交互に切り替えられる。
【0042】
図2に示す操舵揺動サブブロック122は、オーバシュート設定サブブロック121によるオーバシュート角θoの設定毎に、当該設定角θoまで図6の如くオーバシュートしてから停止制御角θsに戻る揺動を、操舵角θの停止後目標角θaに与える。特に操舵揺動サブブロック122は、車両2の停止した停止位置Psにおいて一回の往復揺動により停止制御角θsまで戻した停止後目標角θaの設定を、保持する。その結果、停止位置Psでの停止後目標角θaの保持に伴って操舵アクチュエータ3から出力される出力値Aoの絶対値が許容範囲ΔA外に再び上昇している場合には、操舵揺動サブブロック122が解消継続指令Occを生成する。一方、停止位置Psにおいて停止後目標角θaの保持に伴う出力値Aoの絶対値が許容範囲ΔA内にまで低下した場合には、当該保持を中止すると共に、解除制御完了フラグFeを生成する。いずれの場合にも出力値Aoは、センサ系4のうち操舵出力センサ43により取得されて操舵揺動サブブロック122へと入力される。
【0043】
このようなサブブロック121,122の連携により停止位置Psでは、停止後目標角θaの保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA内に低下するまで、解消継続指令Occの生成とオーバシュート角θoの更新と停止後目標角θaの揺動とが順次繰り返される。その結果としてオーバシュート角θoは、上述の出力値Aoに応じた設定により、繰り返しに従って小さく更新される。但し、繰り返しによる揺動回数Nが上限設定回数Nu(図6参照)に達してからの停止位置Psでもまだ、停止後目標角θaの保持に伴う出力値Aoが許容範囲ΔA外に上昇してしまう場合には、操舵揺動サブブロック122が停止後目標角θaの保持を強制中止する。このときにも操舵揺動サブブロック122は、解除制御完了フラグFeを生成する。
【0044】
図2に示す操舵角制御ブロック130は、車両2の従う操舵角θを制御する。そのために操舵角制御ブロック130は、相異なる機能のサブブロック131,132を、有している。
【0045】
調停サブブロック131は、軌道追従サブブロック103により設定の追従目標角θcと、操舵保持サブブロック112により設定の停止前目標角θbと、操舵揺動サブブロック122により設定の停止後目標角θaとの中から、確定目標角θfを選択する。このとき調停サブブロック131は、操舵保持サブブロック112から停止前目標角θbの入力を受けた場合に、同目標角θbを確定目標角θfに設定する。一方で調停サブブロック131は、操舵揺動サブブロック122から停止後目標角θaの入力を受けた場合に、同目標角θaを確定目標角θfに設定する。さらに調停サブブロック131は、停止前目標角θb及び停止後目標角θaのいずれの入力も受けていない場合に、軌道追従サブブロック103から入力の追従目標角θcを確定目標角θfに設定する。
【0046】
角度追従サブブロック132は、センサ系4のうち操舵角センサ42により取得の内界情報に基づいた実操舵角θrを、調停サブブロック131により選択の確定目標角θfに追従させるように、図7に示すようなPID制御を角度追従制御として実行する。こうした角度追従制御により角度追従サブブロック132は、実操舵角θrを確定目標角θfに近づけるように操舵アクチュエータ3の出力値Aoを指令する、操舵出力指令Ooを生成する。
【0047】
角度追従サブブロック132は、PID制御による操舵出力指令Ooに対して、操舵アクチュエータ3の出力制限Alを与える。このとき、操舵揺動サブブロック122から解除制御完了フラグFeが入力される場合に角度追従サブブロック132は、操舵アクチュエータ3の出力制限Alを定格値から0値へと漸減させる。一方、解除制御完了フラグFeの入力を受けていない場合に角度追従サブブロック132は、操舵アクチュエータ3の出力制限Alを0値から定格値へと漸増させる。ここで出力制限Alの定格値とは、例えば操舵モータ30の定格出力に対応した固定値等に、規定される。
【0048】
操舵アクチュエータ3は、角度追従サブブロック132の生成した操舵出力指令Ooに従うことで、図1,2の出力値Aoを調整する。その結果、確定目標角θfとしての目標角θb,θa,θcのいずれかに向けて、操舵タイヤ20の操舵角θが制御される。ここで、特に確定目標角θfが停止前目標角θbである場合に操舵角θは、実質的に停止制御角θsで保持される。また、特に確定目標角θfが停止後目標角θaである場合に操舵角θは、実質的に停止制御角θsとオーバシュート角θoとの間で往復揺動されてから、実質的に停止制御角θsで保持される。
【0049】
以上の機能ブロック100,110,120,130の共同により、操舵制御装置1が車両2の操舵を制御する操舵制御方法のフローを、図8,9に従って以下に説明する。本フローは、運転制御装置5から解消制御指令Ocがブロック100,110へと入力されるのに応じて、開始する。尚、本フローにおいて「S」とは、操舵制御プログラムに含まれた複数命令によって実行される、フローの複数ステップを意味する。
【0050】
図8に示すように、S101において条件判定サブブロック111は、保持条件Cのうち、第一必要条件C1と第二必要条件C2と第三必要条件C3とが成立するのを、待つ。このとき条件判定サブブロック111は、第一必要条件C1の成立として現在の走行速度Vcが上限設定値Vu未満であるか、不成立としての否かを、判定する。条件判定サブブロック111は、第二必要条件C2の成立として現在の制御偏差δcが上限設定値δu未満であるか、不成立としての否かを判定する。条件判定サブブロック111は、第三必要条件C3の成立として現在の自己位置から停止位置Psまでの走行距離Lcが上限設定値Lu未満であるか、不成立としての否かを判定する。これらの判定結果に基づき、条件判定サブブロック111により必要条件C1,C2,C3がいずれも成立したと確認されると、本フローがS102へ移行する。
【0051】
S102において条件判定サブブロック111は、保持条件Cのうち、残りの第四必要条件C4が成立したか否かを判定する。このとき条件判定サブブロック111は、第四必要条件C4の成立として現在の自己位置から停止位置Psまでの走行距離Lcが下限設定値Ll超過であるか、不成立としての否かを判定する。その結果、肯定判定が下された場合には、本フローがS105へ移行する。
【0052】
S103において操舵保持サブブロック112は、全必要条件C1~C4が成立してから車両2が停止位置Psまで走行する停止前走行区間Sbにおいて、操舵角θの停止前目標角θbを停止制御角θsに保持する。その結果、サブブロック131,132の機能により操舵角θが、停止制御角θsにおいて保持される。S103において操舵保持サブブロック112が車両2の停止位置Psでの停止を確認すると、本フローがS104へ移行する。
【0053】
S104において操舵保持サブブロック112は、停止位置Psでの停止前目標角θbに従う操舵角θの保持に伴った操舵アクチュエータ3からの出力値Aoの絶対値が、許容範囲ΔA内まで低下しているか否かを、判定する。その結果、肯定判定が下された場合には本フローがS105へと移行することで、操舵保持サブブロック112による停止前目標角θbの保持中止に従ってサブブロック131,132の機能による操舵角θの保持中止が実行された後、本フローの今回実行が終了する。
【0054】
図8に示すS104,S102のいずれかにおいて否定判定が下された場合には、図9に示すように本フローがS106へ移行する。S106においてオーバシュート設定サブブロック121は、停止位置Psにおいて保持されている停止制御角θsからオーバシュートさせたオーバシュート角θoを、設定する。続くS107において操舵揺動サブブロック122は、直前のS106により設定されたオーバシュート角θoへとオーバシュートしてから停止制御角θsにまで戻る揺動を、操舵角θの停止後目標角θaに与える。その結果、サブブロック131,132の機能により停止制御角θs及びオーバシュート角θo間での揺動が、操舵角θに与えられる。さらに、S107において停止制御角θsに戻った停止後目標角θaを操舵揺動サブブロック122が保持することで、サブブロック131,132の機能により操舵角θが保持されると、本フローがS108へ移行する。
【0055】
S108において操舵揺動サブブロック122は、停止位置Psでの停止後目標角θaに従う操舵角θの保持に伴った操舵アクチュエータ3からの出力値Aoの絶対値が、許容範囲ΔA内まで低下したか否かを、判定する。その結果、肯定判定が下された場合には本フローがS109へ移行することで、操舵保持サブブロック112による停止後目標角θaの保持中止に従ってサブブロック131,132の機能による操舵角θの保持中止が実行された後、本フローの今回実行が終了する。
【0056】
S108において出力値Aoの絶対値が許容範囲ΔA外に上昇したままであることで、否定判定が下された場合には、本フローがS110へ移行する。S110において操舵揺動サブブロック122は、本フローの今回実行における揺動回数がN上限設定回数Nuに達したか否かを、判定する。その結果、否定判定が下される間は、本フローがS106へと戻る。一方、肯定判定が下された場合には本フローがS111へ移行することで、操舵保持サブブロック112による停止後目標角θaの保持中止に従ってサブブロック131,132の機能による操舵角θの保持中止が実行された後、本フローの今回実行が終了する。
【0057】
ここまでの説明から本実施形態では、条件判定サブブロック111が条件判定部に相当し、操舵保持サブブロック112が操舵保持部に相当する。それと共に本実施形態では、オーバシュート設定サブブロック121がオーバシュート設定部に相当し、操舵揺動サブブロック122が操舵揺動部に相当する。
【0058】
ここまでの説明から本実施形態では、S101,S102が条件判定プロセスに相当し、S103,S104,S105が操舵保持プロセスに相当する。それと共に本実施形態では、S106がオーバシュート設定プロセスに相当し、S107,S108,S109,S110,S111が操舵揺動プロセスに相当する。
【0059】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を、以下に説明する。
【0060】
本実施形態によると、保持条件Cが成立してから車両2が停止位置Psまで走行する停止前走行区間Sbにおいて、操舵角θが停止制御角θsに保持される。これによれば、停止前走行区間Sbより前での操舵角θの調整により捻じれた操舵タイヤ20であっても、操舵角θを停止制御角θsに保持したまま、停止前走行区間Sbでの車両2の走行により弾性復原させることができる。故に、停止前走行区間Sbの終了となる停止位置Psにて車両2が走行停止するまでに操舵タイヤ20の捻じれを解消して、当該捻じれに起因した操舵角θのずれを抑制することが可能である。
【0061】
本実施形態によると、停止前走行区間Sbの開始において操舵角θの保持に必要な、車両2の走行速度Vcに関する条件が、保持条件Cに含まれる。これによれば、走行速度Vcが高過ぎる状況において操舵角θが停止制御角θsに保持されたことで、停止位置Psがずれる事態を、回避することができる。また走行速度Vcが高過ぎる状況での停止前走行区間Sbの開始により操舵角θが停止制御角θsに調整されることで、車両2の挙動が急変する事態も、回避することができる。故に、走行停止までの操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれを正規の停止位置Psにて抑制すると共に、当該捻じれの解消に起因した車両2の挙動急変による乗り心地の悪化を抑制することが、可能となる。
【0062】
本実施形態によると、停止前走行区間Sbの開始において操舵角θの保持に必要な、車両2の目標軌道Tzに対する制御偏差δcに関する条件が、保持条件Cに含まれる。これによれば、制御偏差δcが大き過ぎる状況において操舵角θが停止制御角θsに保持されたことで、停止位置Psがずれる事態を、回避することができる。故に、走行停止までの操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれを、正規の停止位置Psにて抑制することが可能となる。
【0063】
本実施形態によると、停止前走行区間Sbの開始において操舵角θの保持に必要な、停止位置Psまでの車両2の走行距離Lcに関する条件が、保持条件Cに含まれる。これによれば、停止位置Psまでの走行距離Lcが過不足する状況において、操舵角θが停止制御角θsに保持されることで停止位置Psがずれる事態を、回避することができる。故に、走行停止までの操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれを、正規の停止位置Psにて抑制することが可能となる。
【0064】
本実施形態によると、停止前走行区間Sbの開始から停止位置Psに跨って、操舵角θが停止制御角θsに保持されることとなる。これによれば、停止前走行区間Sbより前での操舵角θの調整により捻じれた操舵タイヤ20であっても、停止前走行区間Sbの全域を活用して弾性復原させることで、捻じれの解消確度を高めることができる。故に、操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれ抑制効果につき、信頼性を確保することが可能となる。
【0065】
本実施形態によると、車両2の停止位置Psにおいて操舵角θの保持が中止される。これにより停止位置Psまでの停止前走行区間Sbにおいて、操舵角θが停止制御角θsに保持された操舵タイヤ20を弾性復原させた状態下、当該保持を終了させることができる。故に停止した車両2においては、操舵角θを保持してずれを抑制するために操舵アクチュエータ3を駆動し続けることが不要となるので、当該駆動に要する電力を削減することが可能である。
【0066】
本実施形態によると、車両2の停止位置Psにおいて操舵角θの保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA内まで低下している場合に、操舵角θの保持が中止される。これによれば、停止前走行区間Sbでの車両2の走行によって操舵タイヤ20の捻じれが解消したことを、許容範囲ΔA内までの出力値Aoの低下により保証した状態において、停止制御角θsでの操舵角θの保持を終了させることができる。故に、操舵アクチュエータ3による消費電力の低減を図りつつ、操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれ抑制効果につき、信頼性を確保することが可能となる。
【0067】
本実施形態によると、車両2の停止位置Psにおいて操舵角θの保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA外まで上昇している場合に、オーバシュート角θoにオーバシュートしてから停止制御角θsに戻る揺動が、操舵角θに与えられる。これによれば、車両2が走行停止するまでの操舵角θの調整により捻じれていることで許容範囲ΔA外の出力値Aoを招いている操舵タイヤ20であっても、操舵角θの揺動により弾性復原させつつ、操舵角θを停止制御角θsへと戻すことができる。ここで特に本実施形態では、停止前走行区間Sbにおいて捻じれを解消し切れなかったがために許容範囲ΔA外の出力値Aoを招いている操舵タイヤ20であっても、操舵角θの揺動により弾性復原させつつ、操舵角θを停止制御角θsまで戻すことができる。故に、走行を停止した車両2における操舵タイヤ20の捻じれを解消して、当該捻じれに起因した操舵角θのずれを抑制することが可能である。
【0068】
本実施形態によると、停止位置Psにおいて操舵角θの保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA外まで上昇している場合に、当該値Aoに応じてオーバシュート角θoが設定される。これによれば、操舵タイヤ20が捻じれているほど大きくなる出力値Aoに応じたオーバシュート角θoと、停止制御角θsとの間での揺動は、当該捻じれの解消に必要十分な角度範囲に制限され得る。故に操舵タイヤ20においては、揺動よる新たな捻じれを抑制しつつ、走行停止までの操舵角θの調整による捻じれを解消することができる。したがって、操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれ抑制効果を、担保することが可能となる。
【0069】
本実施形態によると、車両2の停止位置Psにおいて操舵角θの保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA内に低下するまで、操舵角θの揺動が繰り返される。これによれば、走行停止までの操舵角θの調整により捻じれた操舵タイヤ20であっても、操舵角θの繰り返し揺動に伴う弾性復原により捻じれの解消確度を高めることができる。故に、操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれ抑制効果につき、信頼性を確保することが可能となる。
【0070】
本実施形態によると、繰り返しによる操舵角θの揺動回数Nが上限設定回数Nuに達してからの停止位置Psにおいて、操舵角θの保持に伴う操舵アクチュエータ3の出力値Aoが許容範囲ΔA外まで上昇している場合には、操舵角θの揺動が中止される。これによれば、揺動が繰り返されても、停止制御角θsでの出力値Aoが許容範囲ΔA外となり続けた場合には、出力値Aoの確認と揺動の制御とが無限ループになる事態を回避することができる。故に、操舵角θの制御不全を回避しつつ、操舵タイヤ20の捻じれに起因した操舵角θのずれ抑制効果を、発揮することが可能となる。
【0071】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0072】
変形例の操舵制御装置1は、デジタル回路及びアナログ回路のうち少なくとも一方をプロセッサとして含んで構成される、専用のコンピュータであってもよい。ここで特にデジタル回路とは、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを格納したメモリを、備えていてもよい。
【0073】
変形例の条件判定サブブロック111によるS101では、走行速度Vcが上限設定値Vu以下の場合に、第一必要条件C1は成立したとの判定が下されてもよい。変形例の条件判定サブブロック111によるS101では、制御偏差δcが上限設定値δu以下の場合に、第二必要条件C2は成立したとの判定が下されてもよい。変形例の条件判定サブブロック111によるS101では、走行距離Lcが上限設定値Lu以下の場合に、第三必要条件C3は成立したとの判定が下されてもよい。変形例の条件判定サブブロック111によるS102では、走行距離Lcが下限設定値Ll以上の場合に、第四必要条件C4は成立したとの判定が下されてもよい。変形例のサブブロック112,121によるS104,S108では、許容範囲ΔAが上限設定値Au以下の範囲に設定されてもよい。
【0074】
変形例では、条件判定サブブロック111によるS101において、必要条件C1,C2,C3のうち少なくとも一つの成立判定がスキップされてもよい。変形例では、条件判定サブブロック111によるS102の実行がスキップされてもよい。変形例では、条件判定サブブロック111によるS101,S102の少なくとも一方において必要条件C1~C4以外の保持条件Cが、判定されてもよい。変形例では、操舵保持サブブロック112のS103において実行される停止前目標角θb及び操舵角θの保持処理が、保持条件Cの成立から停止位置Psまでの停止前走行区間Sbのうち一部に制限されてもよい。この保持処理の制限下では、少なくとも操舵タイヤ20の捻じれ解消に必要な分と停止位置Psとにおいて、保持処理が継続的又は断続的に実行されればよい。
【0075】
変形例では、操舵保持サブブロック112によるS105がスキップされることで、同サブブロック112のS103において実行された停止前目標角θb及び操舵角θの保持処理が停止位置Psにて中止されずに継続したまま、フローの今回実行が終了してもよい。図10に示すように変形例では、サブブロック112,121,122によるS104,S106~S111がスキップされることで、停止後解消制御の全体が省略されてもよい。この停止後解消制御のスキップ下では、操舵保持サブブロック112のS103において実行された停止前目標角θb及び操舵角θの保持処理が、同サブブロック112のS105により停止位置Psにて強制中止されてもよい。また停止後解消制御のスキップ下では、条件判定サブブロック111のS102により否定判定が下された場合に、停止前解消制御及び停止後解消制御が実行されずに、フローの今回実行が終了してもよい。
【0076】
変形例では、オーバシュート設定サブブロック121によりオーバシュート角θoが、固定値に設定されてもよい。変形例では、操舵揺動サブブロック122によるS108,S110,S111がスキップされることで、同サブブロック122のS107において実行された停止後目標角θa及び操舵角θの保持処理が、同サブブロック122のS109により停止位置Psにて強制中止されてもよい。変形例では、操舵揺動サブブロック122によるS110がスキップされることで、S108からS106へ直接にフローが戻されてもよい。
【0077】
図11に示すように変形例では、サブブロック111,112によるS101~S105の実行がスキップされることで、停止前解消制御の全体が省略されてもよい。この停止前解消制御のスキップ下では、S106に先立って、条件判定サブブロック111のS1101により車両2の停止が確認された後、同サブブロック11のS1102による停止後目標角θ及び操舵角θの保持処理が実行されてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1:操舵制御装置、2:車両、3:操舵アクチュエータ、10:メモリ、12:プロセッサ、20:操舵タイヤ、111:条件判定ブロック、112:操舵保持ブロック、121:オーバシュート設定ブロック、122:操舵揺動ブロック、Ao:出力値、C:保持条件、Lc:走行距離、N:揺動回数、Nu:上限設定回数、Ps:停止位置、Vc:走行速度、ΔA:許容範囲、δc:制御偏差、θ:操舵角、θo:オーバシュート角、θs:停止制御角
図1
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