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  • 特許-水質管理システム及び水質管理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】水質管理システム及び水質管理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240501BHJP
   C02F 3/12 20230101ALI20240501BHJP
   E02B 7/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C02F3/12 J
E02B7/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020030346
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2020138199
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019034784
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小林 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健一
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敏治
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-249248(JP,A)
【文献】特開平05-301096(JP,A)
【文献】特開2005-313064(JP,A)
【文献】特開2015-066492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/58-1/64、1/70-1/78、3/12、3/28-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側に少なくとも1つの出水口を有する堤体を備えるダム貯水池の貯留水中の金属酸化細菌を活性化させることにより、前記貯留水中の金属濃度を抑制する水質管理システムであって、
前記ダム貯水池内の下流側の深層の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定する酸素濃度センサと、
前記ダム貯水池内の上流側の深層の前記貯留水に酸素を供給する酸素供給装置と、
前記酸素濃度センサにより測定された溶存酸素濃度に応じて前記酸素供給装置による酸素供給量を調節する制御装置と、
を備え
前記酸素濃度センサと前記堤体との最短距離は、最も低い前記出水口の高さの水平面の外縁における前記最も低い出水口から最も遠い点と前記最も低い出水口との距離の1/10以下であり、
前記酸素供給装置と前記堤体との最短距離は、前記最も低い出水口の高さの水平面の外縁における前記最も低い出水口から最も遠い点と前記最も低い出水口との距離の1/4以上である、水質管理システム。
【請求項2】
前記酸素濃度センサは、水温躍層以上の水深の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定し、
前記酸素供給装置は、前記水温躍層以上の水深の前記貯留水に酸素を供給する、請求項に記載の水質管理システム。
【請求項3】
前記酸素濃度センサは、最も低い前記出水口以上の水深の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定し、
前記酸素供給装置は、最も低い前記出水口以上の水深の前記貯留水に酸素を供給する、請求項1又は2に記載の水質管理システム。
【請求項4】
下流側に少なくとも1つの出水口を有する堤体を備えるダム貯水池の貯留水中の金属酸化細菌を活性化させることにより、前記貯留水中の金属濃度を抑制する水質管理方法であって、
前記ダム貯水池内の下流側の深層の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定する工程と、
前記ダム貯水池内の上流側の深層の前記貯留水に酸素を供給する工程と、
を備え、
前記溶存酸素濃度を測定する工程で測定された溶存酸素濃度に応じて前記酸素を供給する工程で酸素供給量を調節し、
前記溶存酸素濃度を測定する位置と前記堤体との最短距離は、最も低い前記出水口の高さの水平面の外縁における前記最も低い出水口から最も遠い点と前記最も低い出水口との距離の1/10以下であり、
前記酸素を供給する位置と前記堤体との最短距離は、前記最も低い出水口の高さの水平面の外縁における前記最も低い出水口から最も遠い点と前記最も低い出水口との距離の1/4以上である、水質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質管理システム及び水質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的水深が大きいダム貯水池では、貯留水が日射で温められた比較的高温低密度の表層領域と、比較的低温高密度の深層領域とに分かれる。このような低密度の表層領域と高密度の深層領域との境界層(水温が比較的急激に遷移する狭い深さ範囲の層)は水温躍層と呼ばれている。貯留水が低密度の表層領域と高密度の深層領域とに分かれると、表層領域と深層領域との間で水の交換が行われなくなる。このため、ダム貯水池では、深層領域の貯留水中の溶存酸素量が小さくなりやすい。
【0003】
貯留水中の溶存酸素量が低下すると、貯留水中に鉄、マンガン等の金属が溶出(イオン化)しやすくなる。ダム貯水池からは、貯留水の一部が下流の水系に放出されるが、金属濃度が大きい水を放水することは望ましくない。
【0004】
特許文献1には、ダム貯水池において、池底近傍の貯留水に酸素供給する酸素含有水供給部を設けることによって、金属の溶出を抑制する技術が開示されている。また、特許文献1には、深層部の溶存酸素濃度を上昇させることでマンガン等の金属類を酸化する微生物(細菌)を活性化させ、貯留水中の金属を酸化することによって金属酸化物として沈殿させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-66492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが確認したところ、水中の溶存酸素濃度が高くなり過ぎても金属酸化細菌の活性が低下することが分かった。ダム貯水池のように比較的面積が大きい貯水池では、特に深層の貯留水全体に均等に酸素を供給することは極めて困難であり、貯留水に局所的に高濃度の酸素を供給することしかできない。このため、特許文献1に開示されるような方法では、金属酸化細菌の活性を十分に向上することができないことが分かった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、ダム貯水池から放出される水の金属濃度を抑制することができる水質管理システム及び水質管理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水質管理システムは、下流側に少なくとも1つの出水口を有する堤体を備えるダム貯水池の貯留水中の金属酸化細菌を活性化させることにより、前記貯留水中の金属濃度を抑制する水質管理システムであって、前記ダム貯水池内の下流側の深層の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定する酸素濃度センサと、前記ダム貯水池内の上流側の深層の前記貯留水に酸素を供給する酸素供給装置と、前記酸素濃度センサにより測定された溶存酸素濃度に応じて前記酸素供給装置による酸素供給量を調節する制御装置と、を備える。
【0009】
本発明に係る水質管理システムにおいて、前記酸素濃度センサと前記堤体との最短距離は、最も低い前記出水口の高さの水平面の外縁における前記最も低い出水口から最も遠い点と前記最も低い出水口との距離の1/10以下であり、前記酸素供給装置と前記堤体との最短距離は、前記最も低い出水口の高さの水平面の外縁における前記最も低い出水口から最も遠い点と前記最も低い出水口との距離の1/4以上であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る水質管理システムにおいて、前記酸素濃度センサは、水温躍層以上の水深の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定し、前記酸素供給装置は、前記水温躍層以上の水深の前記貯留水に酸素を供給してもよい。
【0011】
本発明に係る水質管理システムにおいて、前記酸素濃度センサは、最も低い前記出水口以上の水深の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定し、前記酸素供給装置は、最も低い前記出水口以上の水深の前記貯留水に酸素を供給してもよい。
【0012】
本発明に係る水質管理方法は、下流側に少なくとも1つの出水口を有する堤体を備えるダム貯水池の貯留水中の金属酸化細菌を活性化させることにより、前記貯留水中の金属濃度を抑制する水質管理方法であって、前記ダム貯水池内の下流側の深層の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定する工程と、前記ダム貯水池内の上流側の深層の前記貯留水に酸素を供給する工程と、を備え、前記溶存酸素濃度を測定する工程で測定された溶存酸素濃度に応じて前記酸素を供給する工程で酸素供給量を調節する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダム貯水池から放水される水の金属濃度を抑制することができる水質管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る水質管理システムを備えるダム貯水池を示す模式的鉛直断面図である。
図2】溶存酸素濃度とマンガン濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る水質管理システム1を備えるダム貯水池Rを示す水の流れ方向に沿ったの模式的鉛直断面図である。
【0016】
ダム貯水池Rは、下流側に少なくとも1つの出水口(本実施形態では、クレストゲートG1、コンジットゲートG2及び利水ゲートG3)を有する堤体Bを備える。なお、本明細書において、「出水口」とは、ダム貯水池Rの貯留水を利用(堤体Bよりも下流域での水の利用及び発電のための利用)するためにダム貯水池Rから排出するための流路の堤体Bの内面における開口を意味するものとする。従って、ダム貯水池Rの底部に蓄積した土砂を排出するための排砂ゲート等は水の利用を目的としないため出水口には含まない。
【0017】
クレストゲートG1は非常用の洪水調節のために貯留水を放出する。コンジットゲートG2は、通常の洪水調節のために貯留水を放出する。利水ゲートG3は、ダム貯水池Rが設けられる河川の下流域における利水(例えば農業用水、工業用水、飲料水等としての利用)のために貯留水を堤体Bよりも下流側に放出する。
【0018】
水質管理システム1は、ダム貯水池Rの貯留水中の金属酸化細菌を活性化させることにより貯留水中の金属濃度(金属イオン含有量)を抑制する。具体的な構成として、水質管理システム1は、ダム貯水池R内の下流側の深層の貯留水の溶存酸素濃度を測定する酸素濃度センサ2と、ダム貯水池R内の上流側において深層の貯留水に酸素を供給する酸素供給装置3と、酸素濃度センサ2により測定された溶存酸素濃度に応じて酸素供給装置3による酸素供給量を調節する制御装置4と、を備える。
【0019】
水質管理システム1は、酸素供給装置3をダム貯水池Rの中の上流側に配置したことによって、上流側において貯留水の溶存酸素濃度を局所的に上昇させても、下流に向かって貯留水が移動する間に溶存酸素濃度が高い水が拡散するので溶存酸素濃度が均一化される。水質管理システム1は、下流側に配置した酸素濃度センサ2の測定値に基づいて制御装置4が酸素供給装置3の酸素供給量を調節することによって、下流側の貯留水の溶存酸素濃度を均等且つ所望の範囲内に保持することができる。このため、水質管理システム1は、ダム貯水池Rの下流側の貯留水全体の金属酸化細菌を活性化することができので、貯留水中の金属イオンを酸化して沈殿させることにより出水口G1~G3から放水される水の金属濃度を抑制することができる。
【0020】
また、水質管理システムは、酸素濃度センサ2によって深層の貯留水の溶存酸素量を測定し、酸素供給装置3によって深層の貯留水に酸素を供給するため、比較的酸素濃度が低くなりやすい池底近傍の貯留水の酸素濃度を適切な範囲内に維持することができる。これにより、出水口G1~G3から放水される貯留水から金属イオンを酸化して除去することができると共に、池底の土壌や砂等に含まれる金属がイオン化して貯留水中に溶出することを抑制できる。
【0021】
水質管理システム1により活性化される金属酸化細菌としては、例えばマンガン酸化細菌、鉄酸化細菌等を挙げることができる。中でも、水質管理システム1は、活性化する溶存酸素濃度の範囲が比較的狭いことが明らかとなったマンガン酸化細菌を活性化させて貯留水中に溶出しているマンガンの濃度を低減するために得に好適に用いることができる。
【0022】
水質管理システム1は、貯留水中に局所的に金属酸化細菌に最適な環境を形成して金属酸化細菌を増殖させる細菌増殖装置をさらに備えてもよい。このような細菌増殖装置としては、貯留水中に配設され、金属酸化細菌を担持する担体と、担体の周囲の狭い範囲内の貯留水の溶存酸素濃度を測定するセンサと、このセンサの測定値に基づいて担体近傍の貯留水に気泡を供給する散気装置とを有する構成とすることができる。
【0023】
酸素濃度センサ2は、例えば隔膜ポーラログラフ法、隔膜ガルバニックセル法等、酸素を透過する選択性膜を用いる隔膜電極法によって電気化学的に溶存酸素濃度を測定する公知のセンサを用いることができる。
【0024】
酸素供給装置3は、ダム貯水池Rの深層の貯留水に酸素を供給できるものであれば特に限定されないが、コストを抑制するために、貯留水に空気を接触させる装置が好適に用いられる。貯留水に空気を接触させる装置としては、例えば水中に空気を供給して気泡を発生させる散気装置、容器内に空気と水とを導入して水流を形成することで水への酸素の溶け込みを促進する溶解装置等を用いることができる。
【0025】
酸素の溶け込みを促進する溶解装置としては、図示するように、水上に配置したコンプレッサ又はブロワ31を用いて水中に配置される容器32内にホース等を通して圧縮空気を供給し、圧縮空気の流れによって周囲の貯留水を容器内に引き込んで空気と接触させた後、気液分離して空気をホース等を通して水上に排出することで、溶存酸素濃度が上昇した水だけを水中に排出する装置などが利用可能である。なお、図では便宜上貯留水を下流側から吹い込んで上流側に吐出するよう記載されているが、特に吐出については例えば放射状に全方向に吐出するものとすることによって、酸素濃度の偏りを低減することができる。
【0026】
なお、酸素供給装置3として、ダム貯水池Rの深層の貯留水と比べて温度が高い水(例えば表層の貯留水)を供給する手段や、酸素を供給する領域の水温を大きく上昇させるような手段を用いることは、比重差によって溶存酸素濃度が高い水が表層に上昇することで供給した酸素が深層に留まる割合が小さくなるのであまり効率的ではない。
【0027】
制御装置4は、酸素供給装置3が測定した溶存酸素濃度に応じて、溶存酸素濃度を一定の濃度範囲内に保持するよう、酸素供給装置3による酸素の供給量を調節する。この制御装置4としては、例えばプログラマブルロジックコントローラ、PIDコントローラ、パーソナルコンピュータ等を用いることができる。
【0028】
なお、「溶存酸素濃度を一定の濃度範囲内に保持するよう」とは、溶存酸素濃度が予め設定される範囲内で厳密に維持されることまでを要求するものではない。つまり、制御装置4は、予め設定される1点の目標値に近づけるように制御するものや、酸素濃度センサ2の測定値が予め設定される下限値以下となった場合に酸素供給装置3による酸素供給を開始し、酸素濃度センサ2の測定値が予め設定される上限値以上となった場合に酸素供給装置3による酸素供給を停止するものであってもよい。典型的には、制御装置4は、酸素濃度センサ2の測定値を予め設定される目標値に近づけるよう酸素供給装置3による酸素供給を増減するPID制御等を行うものとすることができる。
【0029】
具体例として、水質管理システム1により一般的に湖沼の水中に存在するマンガン酸化細菌を活性化して貯留水中のマンガン濃度を抑制する場合、酸素濃度センサ2により測定される溶存酸素濃度が1mg/L以上20mg以下の範囲内に維持されるようにすることが好ましい。
【0030】
図2に、実際のダム貯水池の深層から採取したマンガン濃度12%の試験水を酸素供給条件が異なる条件で77日間保存した後の溶存酸素濃度とマンガン濃度の測定結果の関係を示す。具体的な試験方法としては、容量100mLのシリンジに試験水70mLと酸素濃度を調整した気体30mLとを封入した検体を酸素濃度が異なる試験区ごとに複数用意し、これらの検体を温度15度のインキュベータで保管した。封入する気体は、試験区0では窒素100%、試験区1では酸素5%と窒素95%、試験区2では酸素10%と窒素90%、試験区3では空気(酸素22%)、試験区4では酸素50%と窒素50%、試験区5では酸素100%とした。この結果から、マンガン酸化細菌により貯留水中のマンガン濃度を抑制するためには、上述のように、溶存酸素濃度を1mg/L以上20mg以下に維持することが望まれる。
【0031】
水質管理システム1において、酸素濃度センサ2と堤体Bとの最短距離D1の上限としては、最も低い出水口(図示する例では利水ゲートG3)の高さの水平面(図における一点鎖線)の外縁(ダム貯水池を画定する地形の等高線)における最も低い出水口G3から最も遠い点Pと最も低い出水口G3との距離Lの1/10が好ましく、1/20がより好ましく、1/50がさらに好ましい。また、酸素濃度センサ2と堤体Bとの最短距離D1の絶対値の上限としては、50mが好ましく、20mがより好ましく、10mがさらに好ましい。酸素濃度センサ2と堤体Bとの最短距離D1を前記上限以下とすることによって、出水口G1~G3から流出する貯留水の溶存酸素濃度を一定の範囲内に保持することができるので、出水口G1~G3から流出する貯留水中の金属濃度を効果的に抑制することができる。また、酸素濃度センサ2を堤体Bの近傍に配設することによって、酸素濃度センサ2のメンテナンス容易となる。
【0032】
また、酸素供給装置3(貯留水に酸素を供給する位置を基準とする)と堤体Bとの最短距離D2の下限としては、最も低い出水口G3の高さの水平面の外縁における最も低い出水口G3から最も遠い点Pと最も低い出水口G3との距離の1/4が好ましく、1/3がより好ましく、1/2がさらに好ましい。また、酸素供給装置3と堤体Bとの最短距離D2の絶対値の下限としては、100mが好ましく、500mがより好ましく、1000mがさらに好ましい。酸素供給装置3と堤体Bとの最短距離D2を前記下限以上とすることによって、酸素供給装置3から酸素が供給された水が酸素濃度センサ2の配設位置に至るまでに均等に拡散することができる。これにより、出水口G3から流出する前に、金属酸化細菌によって貯留水中の金属濃度を効果的に抑制することができる。
【0033】
酸素濃度センサ2は、水温躍層以上の水深(水温躍層の上面と同じかそれより深い位置)の前記貯留水の溶存酸素濃度を測定するよう配置されることが好ましい。これにより、酸素供給装置3から供給される酸素が池底の貯留水まで拡散することができるので、貯留水中の金属濃度をより確実に抑制することができる。
【0034】
また、酸素濃度センサ2は、最も低い出水口G3以上の水深の貯留水の溶存酸素濃度を測定するよう配置されることが好ましい。これにより、出水口G3から流出する貯留水の溶存酸素濃度を一定の範囲内に保持し、金属酸化細菌によって金属を酸化して沈殿させることによって、出水口G3から金属濃度が抑制された水を放出するようにできる。
【0035】
酸素供給装置3は、水温躍層以上の水深の貯留水に酸素を供給するよう配置されることが好ましい。これにより、池底の貯留水にも酸素を拡散させることができる。
【0036】
酸素供給装置3は、最も低い出水口G3以上の水深の貯留水に酸素を供給するよう配設されることが好ましい。これにより、出水口G3から放水される水の溶存酸素濃度を迅速に上昇させることができるので、出水口G3から放水される前に金属酸化細菌によって金属を酸化させてより確実に沈殿分離することができる。
【0037】
酸素供給装置3は、池底面に設置してもよい。これにより、酸素濃度が最も低くなりやすい最下層の貯留水に酸素を供給することができるので、貯留水の酸素濃度をより均一にすることができると共に、池底からの金属イオンの溶出を抑制することができる。
【0038】
水質管理システム1は、本発明に係る水質管理方法を自動で行うものと解釈される。すなわち、本発明の一実施形態に係る水質管理方法は、下流側に少なくとも1つの出水口G1~G3を有する堤体Bを備えるダム貯水池Rの貯留水中の金属酸化細菌を活性化させることにより、貯留水中の金属濃度を抑制する水質管理方法であって、酸素濃度センサ2を用いてダム貯水池R内の下流側の深層の貯留水の溶存酸素濃度を測定する工程と、酸素供給装置3を用いてダム貯水池R内の上流側の深層の貯留水に酸素を供給する工程と、を備える。本発明の一実施形態に係る水質管理方法では、溶存酸素濃度を測定する工程で酸素濃度センサ2により測定された溶存酸素濃度に応じて、酸素を供給する工程で酸素供給装置3による酸素供給量を調節する。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明に係る水質管理システムは上述の実施形態に限るものではない。例えば、本発明に係る水質管理システムにおいて、出水口の高さは可変(例えばゲートの移動により開口の高さ位置が変更され場合や、流路が分岐して選択的に使用される複数の開口を備える場合など)であってもよい。この場合、最も低い出水口は、最も下方に移動した場合の出水口を意味するものとする。
【0040】
また、本発明に係る水質管理システムは、複数の酸素濃度センサを備えてもよい。例えば平面視で離れた位置に開口する複数の出水口が常用される場合、各出水口の近傍にそれぞれ酸素濃度センサを配設することで、堤体の下流側に放流される水の金属濃度を確実に抑制することができる。
【0041】
また、本発明に係る水質管理システムは、複数の酸素供給装置を備えてもよい。ダム湖の形状を考慮して、複数の酸素供給装置を分散して配置することにより、ダム湖の深層の貯留水全体により均等に酸素を供給することができる。
【0042】
本発明に係る水質管理方法では、制御装置を用いずに、人が酸素供給装置による酸素供給量を調節してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 水質管理システム
2 酸素濃度センサ
3 酸素供給装置
4 制御装置
B 堤体
G1,G2,G3 出水口
R ダム貯水池
図1
図2