(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】油膜形成能を有する表面を備えたブロー成形空容器
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240501BHJP
B29C 49/46 20060101ALI20240501BHJP
B29C 49/04 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B29C49/46
B29C49/04
(21)【出願番号】P 2020039491
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】丹生 啓佑
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203527(JP,A)
【文献】特開平09-207206(JP,A)
【文献】特開2014-231231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00-65/46
B29C 49/46
B29C 49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形空容器であって、該容器の内面に、液膜形成用油脂を内蔵している水溶性有機材料の固体粒子が食い込んで保持されている
と共に、該固体粒子を形成している水溶性有機材料が、多糖類、デキストリン或いはシクロデキストリンであることを特徴とするブロー成形空容器。
【請求項2】
前記水溶性有機材料が、ブロー成形温度よりも高い融点を有している請求項1に記載のブロー成形空容器。
【請求項3】
前記液膜形成用油脂が食用油である請求項2に記載のブロー成形空容器。
【請求項4】
前記ブロー成形空容器がダイレクトブロー成形により成形されたものであり、その口部が閉じられた形態に成形されている請求項1~3の何れかに記載のブロー成形空容器。
【請求項5】
水性内容物が充填される請求項1~4の何れかに記載のブロー成形空容器。
【請求項6】
容器形成用プリフォームを成形し、該プリフォーム内にブロー流体を供給してブロー成形空容器を製造する方法において、
液膜形成用油脂を内蔵している水溶性有機材料の固体粒子からなる粉末を、前記ブロー流体と共に前記プリフォーム内に供給することを
特徴とするブロー成形空容器を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油膜形成能を有する表面を備えたブロー成形空容器に関するものであり、特に粘性の高い水性内容物を充填して使用に供されるダイレクトブロー空容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液状内容物が収容される容器では、容器の材質を問わず、内容物に対する排出性が要求される。水のように粘性の低い液体を収容する場合では、このような排出性はほとんど問題とならないが、例えば、マヨネーズやケチャップのように粘度の高い粘稠な物質では、プラスチック製容器であろうがガラス製容器であろうが、この排出性はかなり深刻な問題である。即ち、このような内容物は、容器を傾けて速やかに排出されないし、また、容器壁に付着してしまうため、最後まで使い切ることができず、特に容器の底部にはかなりの量の内容物が排出されずに残ってしまう。
【0003】
最近になって、容器の内面に油膜を形成することによって、粘稠な物質に対する滑り性を高める技術が種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
かかる技術によれば、容器表面を形成する合成樹脂に滑剤などの添加剤を加える場合と比して、滑り性を飛躍的に高めることができるため、現在注目されている。
【0004】
ところで、上記のように容器内面に設けられる油膜の形成方法としては、例えば、油脂等の油膜形成用液体を、容器内面を形成する樹脂に配合しておき、成形後の油膜形成用液体の容器内面への滲み出しにより油膜を形成する方法と、容器成形後に油膜液体を噴霧することにより油膜を形成する方法が代表的である。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、何れも一長一短がある。例えば、油膜形成用液体を容器内面への滲み出しを利用する方法では、保管温度や保管期間によって油膜量にバラツキを生じ易く、また、油膜の形成にかなりの時間を要するため、油膜による内容物に対する滑性が不安定になる傾向があり、その改善が必要である。
一方、油膜形成用液体を噴霧するという方法では、容器内面に噴霧された油膜形成用液体が流れ落ち易いため、該液体を噴霧した後、直ちに内容物を充填する必要がある。このため、内容物を容器に充填して販売するメーカが、油膜形成用の装置を用意しなければならないという問題がある。
【0006】
さらに、油膜形成手段として、油脂を内蔵している水溶性有機材料固体粒子を用いる方法も提案されている(特許文献3)。
この方法は、油脂を内蔵している水溶性有機材料固体層をフィルム表面にコートしておき、この水溶性有機材料固体層が水性物質と接触したとき、表面の有機材料が溶解し、内蔵されていた油脂がフィルム表面に広がって、油膜が形成されるというものである。
【0007】
この方法は、油膜を形成する油脂が水溶性有機材料固体層に内蔵されているため、油脂が流れ落ちる等の不都合を生じることがなく、水性物質との接触により、安定して均一な油膜を形成することができ、しかも、水溶性有機材料固体層形成後、任意の時期に水性物質(内容物)を接触させることができる。
従って、この技術は、フィルムにより形成される袋状容器、即ちパウチに利用されるのであるが、残念ながら、ブロー成形容器に適用することができない。このような容器の内面には、水溶性有機材料固体層を形成することができないからである。即ち、フィルムの場合には、ロールに巻いた状態或いは寝かせた状態に保管されるため、フィルム表面に形成された有機材料固体層が脱落するおそれはないが、ブロー成形容器では、水溶性有機材料固体の粒子を吹き付けるという手段に限られてしまい、従って、容器の搬送時等に、直立状態にある容器の内面から固体粒子が脱落してしまうからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2012/100099
【文献】WO2013/022467
【文献】WO2018/173713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、内容物販売メーカが格別の装置を用いることなく、容器の内面に安定した油膜を形成することが可能なブロー成形容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前述したブロー成形容器の内面に内容物に対する滑り性を高める油膜を形成する手段について検討した結果、油膜を形成する油脂が内蔵されている水溶性有機材料固体を利用して油膜を形成する手段についての研究を推し進めた結果、ブロー成形容器の内面が軟化している状態で、この固体粒子を吹き付けることにより、該容器の内面に、該固体粒子を安定に保持することができるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明によれば、ブロー成形空容器であって、該容器の内面に、液膜形成用油脂を内蔵している水溶性有機材料の固体粒子が食い込んで保持されていると共に、該固体粒子を形成している水溶性有機材料が、多糖類、デキストリン或いはシクロデキストリンであることを特徴とするブロー成形空容器が提供される。
【0012】
本発明のブロー成形空容器においては、
(1)前記水溶性有機材料が、ブロー成形温度よりも高い融点を有していること、
(2)液膜形成用油脂が食用油であること、
(3)前記ブロー成形空容器がダイレクトブロー成形により成形されたものであり、その口部が閉じられた形態に成形されていること、
(4)水性内容物の充填に使用されること、
が好適である。
【0013】
本発明において、上記のブロー成形空容器は、容器形成用プリフォームを成形し、該プリフォーム内にブロー流体を供給してブロー成形空容器を製造する方法において、
液膜形成用油脂を内蔵している水溶性有機材料の固体粒子からなる粉末を、前記ブロー流体と共に前記プリフォーム内に供給することにより製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブロー成形空容器においては、その内面に液膜形成用油脂を内蔵している水溶性有機材料の固体粒子が保持されているという基本構造を有しているのであるが、とくに重要な特徴は、このような固体粒子が、容器の内面に食い込んでいるという点にある。即ち、この固体粒子は、容器内面が軟化状態にあるとき(具体的には、ブロー成形時)に、吹き付けられているため、容器内面に食い込んでおり、このため、この容器の搬送や保管時において、該粒子は脱落することなく、安定に容器内面に保持されている。
このような水溶性有機材料の固体粒子が内面に保持されている本発明のブロー成形空容器では、この容器に水性内容物(含水物質)を充填すると、この水性内容物との接触により水溶性有機材料は溶解し、この水溶性有機材料が消失すると同時に内蔵されている油脂が溶出することにより、油膜が形成されることとなり、この油膜によって、水性内容物に対する滑り性が著しく向上し、水性内容物が高粘性物質であったとしても、容易に容器から取り出すことができ、しかも、容器内の残存も有効に抑制され、このような水性内容物を使い切ることができる。
【0015】
従って、水性内容物の販売メーカは、油膜を形成するための格別な操作や装置は必要がなく、本発明のブロー成形容器は、極めて工業的有用性が高い。
また、油膜を形成するために、油膜形成用の油脂を容器内面から滲出させて油膜を形成するわけではないため、厚みのバラツキ等がなく、安定した油膜を形成することができ、内容物に対する滑り性のバラツキもほとんど生じない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のブロー成形空容器の内面の状態を示す概略断面図。
【
図2】本発明のブロー成形容器の内面に油膜を形成する方法を説明するための説明図。
【
図3】ダイレクトブロー成形により得られた本発明のブロー成形空容器の形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照して、本発明のブロー成形空容器は、その内面1に、水溶性有機材料の固体粒子3が吹き付けられており、該粒子3は、この内面1に食い込んでいる。また、この水溶性有機材料の固体粒子3は、油脂5を内蔵している。即ち、この油脂5は、水溶性有機材料によって覆われている。
【0018】
図2を参照して、このような空容器に水性内容物(含水物質)7が充填されると、
図2(a)に示されているように、水性内容物7が固体粒子3に接触するため、固体粒子3は、溶解し、この結果、内蔵されている油脂5が溶出し、
図2(b)に示されているように、油脂5により油膜が形成されることとなる。
【0019】
即ち、水性内容物7が充填されている容器の内面には、油脂5による油膜が形成され、このような油膜の潤滑作用により、水性内容物は、容器内面1を速やかに流れ、容器内面1に付着することなく排出されることとなるわけである。
【0020】
本発明において、固体粒子3を形成する水溶性有機材料としては、水溶性であって且つブロー成形空容器の製造、保管及び搬送乃至輸送工程で固体状であれば特に制限されず、また、油脂5の内蔵形態も特に制限されないが、後述するように、この固体粒子3は、ブロー成形時にブロー流体と共に供給されるものであるため、ブロー成形温度よりも、高い融点を有していることが必要である。ブロー成形温度よりも融点が低いと、ブロー成形時に水溶性有機材料が溶融し、内部に保持されている油脂5が放出されてしまうからである。
従って、このような水溶性有機材料は、ブロー成形温度よりも高融点であることを条件として、種々の形態で油脂5を内蔵することができる。
【0021】
例えば、水溶性有機材料が、例えば、デキストリン、ヒアルロン酸のような油分吸収性を示す多糖類や、シクロデキストリンのような包接化合物の場合、油分の吸収や包接によって油脂5を内蔵させることができる。
また、油分吸収性などを示さないデンプンやアルギン酸ナトリウムなどの多糖類や、メチルセルロース、カルボキシセルロースなどのセルロース系ポリマー、或いはポリビニルアルコールなどであっても、これらと少量の油脂5とを混合し、粒状化してマイクロカプセルの形態とすることにより、油脂5を内蔵することができる。
【0022】
本発明においては、特に、この構造体を食品用途或いは医薬品などの用途に使用する場合には、人体に対する安全性などの観点から、セルロース系ポリマー、各種多糖類、シクロデキストリン等が水溶性有機材料として好適に使用される。
【0023】
また、上記の水溶性有機材料の固体粒子3に内蔵される油脂5としては、特に制限されないが、粘稠な含水物質に対する滑り性を高めるという点で、表面張力が10乃至40mN/m、特に16乃至35mN/mの範囲にあるものが好適である。
このような表面張力を有する油脂5としては、脂肪酸トリグリセライド、各種の植物油などが代表的である。特に滑り性の対象となる水性内容物が食品類(例えばケチャップ)である場合には、食用油が好適である。
かかる食用油としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油等の植物油などの植物油が代表的である。
【0024】
さらに、水溶性有機材料の固体粒子3に内蔵される油脂5の量は、用いる水溶性有機材料の形態に応じて、この油脂が固体粒子3の表面に滲出しないような量とすればよい。例えば、油分吸収性の水溶性有機材料(例えば、デキストリンやヒアルロン酸などの多糖類)を使用する場合には、該水溶性有機材料100質量部当り0.05~50質量部程度の油脂5を吸収させればよく、またシクロデキストリンのような包接化合物を用いる場合には、該水溶性有機材料100質量部当り0.05~20質量部程度の油脂5を包接して担持させればよい。また、その他のタイプの水溶性有機材料を用いてマイクロカプセルの形で油脂5を担持させる場合には、該水溶性有機材料100質量部当り20~100質量部程度の油脂を使用すればよい。
【0025】
本発明において、上記のような固体粒子3は、一般に、レーザー回折散乱法により測定される平均粒径(体積基準でのメジアン径D50)が5~200μm、特に20~100μmの範囲にあることが好適である。この粒径が過度に大き過ぎる場合及び過度に小さ過ぎる場合の何れにおいても、容器内面1への固体粒子3の食い込みが不十分となり、固体粒子3の脱落が生じ易くなる傾向にある。
【0026】
また、容器内面1に食い込んでいる固体粒子3の量は、この固体粒子3から溶出する油脂5が水性内容物7と十分に接触して良好な潤滑性を示すような油膜を形成し得るような量、例えば、油脂5の量が1.5g/m2以上、特に3~10g/m2となるように、固体粒子3を分布させればよい。
【0027】
<ブロー成形空容器の製造>
本発明において、上記のような固体粒子3が内面1に食い込んでいるブロー成形空容器は、ブロー成形に際して、ブロー流体と共に固体粒子3からなる粉末を供給することにより製造することができる。
【0028】
即ち、本発明のブロー成形空容器は、基本的には、従来公知の方法と同様、溶融樹脂(成形用樹脂の溶融物)の押出(押出成形)或いは射出(射出成形)により容器用のプリフォームを成形し、次いで所定のブロー成形温度に維持された該プリフォーム内にブロー用流体を供給して容器の形態に賦形することにより行われる。ただ、本発明においては、前述した固体粒子3からなる粉末を、ブロー流体と共に供給するという手段が採用される。即ち、ブロー流体の供給によりプリフォームを容器の形態に賦形する際には、容器を形成する樹脂が軟化した状態にある。この状態で、固体粒子3がブロー流体と共に吹き付けられるため、固体粒子3は、それぞれ、容器内面1に食い込んだ状態で分布し、容器内面1から脱落することなく、安定に保持されることとなるわけである。
【0029】
尚、固体粒子3が食い込んでいることは、この容器の胴部を切り取り、固体粒子3を払拭等により取り除いた状態で、その表面粗さを測定することにより確認することができる。即ち、固体粒子3が食い込んでいる場合には、固体粒子が設けられていない場合に比して、その表面粗さが粗くなっていることにより確認することができる。例えば、固体粒子3が食い込んでいる場合には、その算術平均表面粗さRaが7μm以上の粗面となっているが、固体粒子3が食い込んでいない場合には、その算術平均表面粗さRaが2μm以下の平滑面となっている。
【0030】
ブロー成形に供されるプリフォームは、ブロー成形可能な熱可塑性樹脂から形成されている。このような熱可塑性樹脂としては、以下のものを例示することができる。
オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体等;
エチレン・ビニル系共重合体、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等;
ビニル系樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等;
ポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフェニレンオキサイド樹脂;
生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸等;
勿論、成形性が損なわれない限り、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物を使用することもできる。
【0031】
本発明においては、上記の熱可塑性樹脂の中でも、粘稠な水性内容物を収容する容器素材として使用されているオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適であり、オレフィン系樹脂が最適である。
【0032】
また、ブロー成形に供されるプリフォームは、上記のような熱可塑性樹脂の単層構造であってもよいし、複数の熱可塑性樹脂が組み合わされた多層構造を有するものであってもよい。油脂が容器の外面に滲出してしまったり、油膜が容器内面を形成する樹脂に取り込まれたりすることによる油膜の減少を防ぐために、油脂に対してバリア性を有する樹脂を最内層よりも外側に配置することも有効である。多層構造のプリフォームは、それ自体公知の方法により共射出や共押出により成形される。
また、プリフォームの形態は、目的とする容器の形態によって異なり、例えば、2軸延伸ブロー容器では、試験管の形態を有しており、上部に容器の口部となる未延伸部分(キャップ締結するために螺子やサポートリングが形成されている部分)が形成され、このような形態のプリフォームは、通常、射出成形により成形される。
一方、ダイレクトブロー容器でのプリフォームは、パイプ形状を有しており、例えばボトル形状の容器の場合、容器の底部となる部分はピンチオフされて閉じられている。このようなプリフォームは、押出成形により成形される。
【0033】
特に食品用のダイレクトブロー成形空容器を成形するためのプリフォームでは、内容物が充填されるまでの衛生を保つため、口部となる未延伸部分の上部が閉じられた形態で一体成形される。食品用のダイレクトブロー成形容器では、容器が柔軟性に富んで変形し易く、充填前に容器内の殺菌処理を行うことが困難だからである。
また、プリフォーム上端の閉塞部分は、押し出されてきたパイプ状の樹脂溶融物を、底部のピンチオフと同時に、ブロー流体用の細管(シリンジ)が内部を通って伸びている締め型によって閉じることにより形成される。従って、この閉塞部には、容器成形後にも該細管の小孔が形成されている。勿論、プリフォームの上端を閉じることなく、そのままブロー流体及び固体粒子3を供給してダイレクトブロー成形を行うことも可能である。
【0034】
上述した形態を有する容器用プリフォームのブロー成形は、ブロー成形温度(具体的には、成形用樹脂のガラス転移温度(Tg)以上)に加熱されたプリフォームをブロー金型内に配置し、該プリフォーム内に、ブロー流体用の供給管を挿入して、エアー等のブロー流体を供給することにより行われる。即ち、ブロー用流体によるブロー圧により、該プリフォーム(特に口部を除く部分)は膨張し、ブロー金型により冷却され、容器形状に賦形されることとなる。賦形された容器外面には、金型によって賦形されたものに発生するパーティングラインが形成される。
尚、ブロー成形温度への加熱は、プリフォーム成形後、一旦冷却されたものを再加熱することにより行ってもよいし、成形直後の加熱状態にあるプリフォームを用いることにより再加熱を省略することもできる。一般に、通常のダイレクトブロー成形では、押し出されて溶融状態にあるパイプ形状のプリフォームを、ブロー温度領域でブロー成形に供される。
【0035】
ところで、本発明においては、上述したブロー流体の吹き込みとともに、前述した固体粒子3からなる粉末がプリフォーム内に供給される。具体的には、ブロー流体の流路の一部に固体粒子3の粉末を貯蔵したパスを設け、適当なタイミングで一定時間パスを開き、ブロー流体供給管から、この粉末をブロー流体と共にプリフォーム内に供給する。これにより、ブロー圧によって、軟化している容器(或いはプリフォーム)の内面に固体粒子3が吹き付けられ、
図1に示されているように、固体粒子3が容器内面1に食い込んだ状態で分布することとなる。
上記のようなブロー成形において、ブロー圧としては、通常0.2~5MPaの範囲で行われる。
【0036】
パスを開き、固体粒子3の粉末をブロー流体供給管に吹き込むタイミングは、特に制限されないが、通常は、ブロー成形の後半の段階が好適である。初期段階で固体粒子3の粉末を供給すると、固体粒子3が容器内面に埋没してしまい、後で充填される水性内容物と固体粒子3との接触が阻害されたり、場合によっては容器の強度低下等を生じるおそれがあるからである。
また、パスを開いている時間は、予めラボ実験を行い、前述した量の固体粒子3が容器内面1に分布するように設定すればよい。
【0037】
上記のようにしたブロー成形を行い、十分に冷却された後、ブロー成形空容器は、ブロー型から取り出され、この空容器には、水性内容物が充填され、キャップ等により口部を閉じて販売に供されることとなる。
【0038】
<ブロー成形空容器>
以上のようにして形成されるブロー成形空容器は、
図1に示されているように、容器の内面(特にブローされている部分)に固体粒子3が食い込んだ状態で全体にわたって均一に保持されている。
【0039】
例えば、
図3には、本発明が最も好適に適用される食品用ダイレクトブロー容器の成形直後の空容器の状態を示すが、全体として10で示すこの空容器は、上部に螺子等を備えた口部13を有しており、口部13に連なるブロー部分15(即ち、胴部及び胴部を閉じるように形成されている底部を備えた延伸部分)の内面には、上記の固体粒子3が保持されている。
また、口部13の上部には、これを閉じている閉塞部17が形成されている。この閉塞部17には、ブロー成形に当ってブロー用流体を供給するための供給管が挿入される小孔17aが存在している。この小孔17aは、空容器10の内部に通じている。
【0040】
即ち、この空容器10は、このままユーザーに供給され、そこで、閉塞部17を切り取り、この状態で内容物を充填し、次いで、キャップを口部に締結して容器を密封して販売に供されることとなる。内容物充填前の空容器10をこのような形態とするのは、先にも述べたように、容器10の内部を殺菌することが難しいため、滅菌状態を維持し且つ異物の侵入を防止するためである。また、ブロー成形に無菌エアーを用いることで、大気中に含まれる雑菌のボトル内への侵入を防止することもできる。更にブロー成形後に小孔17a周辺を溶融させることで穴を閉じ、ブロー流体を封じ込めた状態を維持させることで、先に述べた利点の他に輸送中の容器の変形を防ぐことも可能である。
【0041】
本発明では、上記の空容器に水性内容物を充填することにより、一定時間経過すると、固体粒子3を形成している水溶性有機材料が溶解し、この結果、
図2に示されているように、容器内面1に油脂5の液膜が形成され、水性内容物に対する滑り性を向上させることができる。
【0042】
本発明の空容器に充填される水性内容物としては、粘度(25℃)が100mPa・s以上のもの、例えば、マヨネーズ、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス、或いはプリンやヨーグルトなどのゲル状物質、さらにはカレー、とろみをつけた各種食品類などが好適である。
【0043】
本発明においては、上記のような水性内容物を販売するメーカが、油脂5の液膜を形成する作業を行う必要がなく、極めて工業的に有用である。
【実施例】
【0044】
<水溶性有機材料の粉末>
水溶性有機材料として、デキストリン(デキストリン水和物:純正化学(株)製)と、(デキストリン水和物:純正化学(株)製)と中鎖脂肪酸(ココナードMT:花王(株)製)を用意した。
上記のデキストリン100質量部に、30重量部の中鎖脂肪酸を混合し、混合撹拌することにより、メジアン径D50が77μmの水溶性材料有機粉末を調製した。
【0045】
<実施例1~4及び比較例1>
日本ポリエチレン社製の低密度ポリエチレンLB420M(密度0.928g/cm3、MFR0.7g/10min)を投入した押出機を用いてパリソンを成形し、該パリソンを用いたダイレクトブロー成形により、内容積200ml、質量20gの容器を作製した。材料の押出温度は210℃とし、ブローエアーを注入する間の容器が金型形状に賦形された直後のタイミングで、ブローエアー流路に取りつけた水溶性材料有機粉末の投入コックを開き、規定量がブローエアーと共に容器内に投入されるようにした。得られたボトルの表面粗さは切り開いた容器の内面の水溶性材料有機粉末を流水で洗い流してからレーザー顕微鏡(VK―X100、(株)キーエンス製)にて測定を行った。塗布量を変化させたものを実施例1~4、塗布を行わなかったものを比較例1とし、結果を表に示す。
【0046】
【0047】
実施例及び比較例で作成した容器にケチャップを充填し、5分経過後、容器胴部を押し出して排出させたところ、水溶性材料有機粉末を塗布した実施例1~4は、速やかに全量が排出され、比較例1は容器壁に残ってしまい、排出が困難であった。
【符号の説明】
【0048】
1:容器内面
3:水溶性有機材料固体粒子
5:油脂
7:水性内容物