(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びセンサレス同期モータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/12 20060101AFI20240501BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20240501BHJP
H02P 6/21 20160101ALI20240501BHJP
H02P 6/22 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H02P6/12
H02P6/18
H02P6/21
H02P6/22
(21)【出願番号】P 2020064737
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木村 正人
(72)【発明者】
【氏名】石原 佑理
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-220078(JP,A)
【文献】特開2013-183550(JP,A)
【文献】特開2018-121421(JP,A)
【文献】特開平08-326952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/12
H02P 6/18
H02P 6/21
H02P 6/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起動時に、ロータの位置を推定しない同期運転を行い、位相調整を行った後、ロータの位置を推定する通常運転に移行するようにした、センサレスの同期モータを制御するモータ制御装置であって、
入力される電圧指令に応じて前記同期モータを駆動する駆動部と、
起動時に所定の電圧指令を出力する同期電圧設定部と、
前記同期モータに流れる電流に基づいて前記同期モータの脱調を判定する脱調判定部と、
を備え
、
前記同期電圧設定部は、
前記位相調整において、固定座標系における前記電流をγ-δ回転座標系における電流ベクトル(Iγ、Iδ)へ変換し、前記変換された電流ベクトルのγ成分Iγをゼロにする回転磁界の推定角速度ωe‘を算出する演算部を備え、
前記推定角速度に比例する電圧を前記γ-δ回転座標系における電圧ベクトル(Vγ、Vδ)のγ成分Vγの前記電圧指令として出力し、
前記脱調判定部は、当該γ成分Vγの前記電圧指令に応じて前記同期モータが駆動されたときの当該同期モータに流れる電流が、設定されたしきい値以上であるとき脱調状態であると判定することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記同期モータは複数相のステータコイルを有し、
前記脱調判定部は、前記複数相のうちの少なくとも一つの相における前記ステータコイルを流れる電流に基づいて前記同期モータの脱調を判定することを特徴とする請求項
1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記脱調判定部により脱調していると判定されたとき、前記所定の電圧指令を変更する運転条件変更部、をさらに備え、
前記同期電圧設定部は、前記運転条件変更部で変更された運転条件に基づく前記電圧指令を前記駆動部に出力し、
当該駆動部は、前記変更された運転条件に基づく前記電圧指令に応じて前記同期モータの再起動を試みることを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記脱調判定部は、前記運転条件を所定回数変更しても毎回前記脱調判定部で脱調していると判定されるときには、前記同期モータが故障したと判定することを特徴とする請求項
3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
センサレスの同期モータを起動する際に、
ロータの位置を推定しない同期運転を行い、位相調整を行った後、
ロータの位置を推定する通常運転に移行するようにしたセンサレス同期モータの制御方法であって、
前記同期モータに流れる、固定座標系における電流をγ-δ回転座標系における電流ベクトル(Iγ、Iδ)に変換し、当該電流ベクトルのγ成分Iγをゼロにする回転磁界の推定角速度ωe‘を算出し、
算出した推定角速度に基づいて前記同期モータを駆動して前記位相調整を行い、
当該位相調整後の前記同期モータのモータ電流を検出し、
当該モータ電流が、前記同期モータが起動に失敗したときの前記位相調整後の前記モータ電流に応じて設定されたしきい値以上であるとき、脱調していると判定することを特徴とするセンサレス同期モータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及びセンサレス同期モータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサレスでモータを起動するようにした装置では、速度推定処理部により位相調整を行った後、起動運転から定常運転へ移行している。例えば、モータ起動時に位相調整区間を設け、ロータの位置を推定しない同期運転からロータの位置を推定するベクトル制御に確実に移行するようにした方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。また、モータの起動時に外力によってロータが逆転方向に回転している場合にロータを逆転方向に起動し、ロータを引き込んでから、正転方向に回転させる方法(例えば、特許文献2参照。)等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6003143号公報
【文献】特許第3731105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のモータの制御装置にあっては、センサレスであるため、回転磁界とロータとが同期したかどうか、つまり、モータの起動が成功したか否かを検出することができない。そのため、センサレスであっても、起動時に、モータの脱調検出を行うことの可能な方法が望まれていた。
本発明は、従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、起動時にモータの脱調検出を行うことの可能なモータ制御装置及びセンサレス同期モータの制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るモータ制御装置は、起動時に、ロータの位置を推定しない同期運転を行い、位相調整を行った後、ロータの位置を推定する通常運転に移行するようにした、センサレスの同期モータを制御するモータ制御装置であって、入力される電圧指令に応じて前記同期モータを駆動する駆動部と、起動時に所定の電圧指令を出力する同期電圧設定部と、前記同期モータに流れる電流に基づいて前記同期モータの脱調を判定する脱調判定部と、を備え、前記同期電圧設定部は、前記位相調整において、固定座標系における前記電流をγ-δ回転座標系における電流ベクトル(Iγ、Iδ)へ変換し、前記変換された電流ベクトルのγ成分Iγをゼロにする回転磁界の推定角速度ωe‘を算出する演算部を備え、前記推定角速度に比例する電圧を前記γ-δ回転座標系における電圧ベクトル(Vγ、Vδ)のγ成分Vγの前記電圧指令として出力し、前記脱調判定部は、当該γ成分Vγの前記電圧指令に応じて前記同期モータが駆動されたときの当該同期モータに流れる電流が、設定されたしきい値以上であるとき脱調状態であると判定することを特徴とすることを特徴としている。
また、本発明の他の態様に係るセンサレス同期モータの制御方法は、センサレスの同期モータを起動する際に、ロータの位置を推定しない同期運転を行い、位相調整を行った後、ロータの位置を推定する通常運転に移行するようにしたセンサレス同期モータの制御方法であって、前記モータに流れる、固定座標系における電流をγ-δ回転座標系における電流ベクトル(Iγ、Iδ)に変換し、当該電流ベクトルのγ成分Iγをゼロにする回転磁界の推定角速度ωe‘を算出し、算出した推定角速度に基づいて前記同期モータを駆動して前記位相調整を行い、当該位相調整後の前記同期モータのモータ電流を検出し、当該モータ電流が、前記同期モータが起動に失敗したときの前記位相調整後の前記モータ電流に応じて設定されたしきい値以上であるとき、脱調していると判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、センサレス同期モータの起動時の脱調を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセンサレス同期モータ制御装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】位相調整処理の伝達関数の一例を示すブロック線図である。
【
図5】しきい値電圧の設定方法を説明するための説明図である。
【
図6】ファンモータにおける負荷と回転数との関係の一例を示す図である。
【
図7】センサレス同期モータ制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】脱調判定時のセンサレス同期モータ制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図9】通常起動時の起動成功時のファンモータの回転数及びモータ印加電圧Vの変化の一例を示すグラフである。
【
図10】通常起動時の起動失敗時のファンモータの回転数及びモータ印加電圧Vの変化の一例を示すグラフである。
【
図11】逆転状態から起動した時の起動成功時のファンモータの回転数及びモータ印加電圧Vの変化の一例を示すグラフである。
【
図12】逆転状態から起動した時の起動失敗時のファンモータの回転数及びモータ印加電圧Vの変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかである。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
【0009】
<モータ制御装置の構成>
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一部分には同一符号を付している。ここでは、本発明に係るモータ制御装置を、ファンモータM用の、センサレス同期モータ制御装置に適用した場合について説明する。ファンモータMは、空気調和機の室外機ファンを駆動するモータであって、複数相、例えば3相のセンサレス同期モータからなる。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサレス同期モータ制御装置(以下、単にモータ制御装置ともいう。)1の一例を示す構成図である。
モータ制御装置1は、特許文献1に記載の制御装置において、さらに脱調判定部と回転検出部とを備えたものである。
図1に示すように、モータ制御装置1は、駆動部10と、検出部20と、演算部30と、電圧出力部40と、積分部50と、第1の変換部60と、脱調判定部70と、制御部(CPU)80と、回転検出部81とを備える。演算部30と、電圧出力部40と、積分部50、及び第1の変換部60が同期電圧設定部に対応している。
【0011】
駆動部10は、例えば、3相の交流信号U、V、WをファンモータMへ供給することにより、ファンモータMを駆動する。駆動部10の内部構成は、後述する。
検出部20は、少なくとも2組の電流の振幅を検出する。具体的には、検出部20は、ファンモータMのU相及びW相のステータコイルに流れるモータ電流を検出するU相W相電流検出回路(以下、単に電流検出回路ともいう。)21を含む。電流検出回路21は、U相のモータ電流(以下、単にU相電流ともいう。)Iuの振幅及びW相のモータ電流(以下、単にW相電流ともいう。)Iwの振幅を検出する。電流検出回路21で検出された、U相電流Iuの振幅及びW相電流Iwの振幅は、A/D変換器21aに入力され、U相電流Iuの振幅及びW相電流Iwの振幅はAD変換されてコンピュータで制御可能な信号として演算部30へ供給される。
【0012】
演算部30は、駆動部10によりファンモータMを駆動する際の固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(Iu、Iw)を回転座標系(γ-δ座標系)における電流ベクトル(Iγ、Iδ)へ変換する。回転座標系(γ-δ座標系)は、互いに交差するδ軸とγ軸とを有する。演算部30は、変換された回転座標系における電流ベクトルのγ成分Iγをゼロにする回転磁界の推定角速度ωe′を算出する。具体的には、演算部30は、第2の変換部(3相-2相変換器(UVW/γ-δ))31、及び速度推定処理部32を含む。
【0013】
第2の変換部31は、U相電流Iuの振幅の検出値及びW相電流Iwの振幅の検出値を電流検出回路21から受ける。第2の変換部31は、例えば、次式(1)及び次式(2)により、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(Iu、Iw)を回転座標系(γ-δ座標系)における電流ベクトル(Iγ、Iδ)へ変換する。なお、ドライバ12がシャント抵抗を備える場合には、電流検出回路21の代わりにシャント抵抗から電流を検出するようにしてもよい。
Iγ
=(√2){Iu×cos(θe′+π/6)-Iw×sin(θe′)}
……(1)
Iδ
=-(√2){Iu×sin(θe′+π/6)+Iw×cos(θe′)}
……(2)
【0014】
第2の変換部31は、変換した回転座標系(γ-δ座標系)における電流ベクトルのγ成分、すなわちγ軸電流Iγを速度推定処理部32へ出力し、電流ベクトルのδ成分、すなわちδ軸電流Iδを電圧出力部40へ出力する。
速度推定処理部32は、γ軸電流Iγを第2の変換部31から受ける。速度推定処理部32は、受けたγ軸電流Iγに応じて、γ軸電流Iγをゼロにするような回転磁界の角速度ωeの推定値である推定角速度ωe′を算出する。速度推定処理部32は、算出された推定角速度ωe′を積分部50及び電圧出力部40へ供給する。
【0015】
図2は、速度推定処理部32で実行される位相調整処理の伝達関数を表すブロック線図である。速度推定処理部32は、γ軸電流Iγに対して、乗算器32a及び乗算器32bでそれぞれ係数Ki、Kp、を乗算し、乗算器32aの出力を積分器32cで積分し、積分器32cの出力と乗算器32bの出力とを加算器32dで加算することで、推定角速度ωe′を算出する。
また、このとき、推定角速度ωe′を収束させるために、推定角速度ωe′を用いてVd(=Vγ)を計算する。γ軸電圧Vγの適切な値は、次式(3)で与えられる。
Vγ=-ωe′・Lq・Iδ ……(3)
なお、(3)式において、Lqは、q軸インダクタンス値である。Iδは代用値である。つまり、推定角速度ωe′が収束するときは、d軸とγ軸との位相差もゼロに収束するものとして、d-q値の代わりにγ-δ値を代用する。
【0016】
速度推定処理部32では、制御軸γ-δ軸上の電流IγをPI制御することで、電流Iγが0〔A〕となるように回転数を調整し、γ-δ座標軸をd-q座標軸に近づける。具体的には、δ軸電圧Vδを一定値とし、γ軸電流Iγを速度推定処理部32の入力として推定角速度ωe′を求め、積分器51により推定角速度ωe′を積分して推定回転角度θe′を求め、後述の推定電圧出力部42で(3)式によりγ軸電圧Vγを与えることにより、ファンモータMはδ軸電圧Vδと負荷とによって釣り合った回転数で、最適な同期運転として適切な運転状態に収束する。
【0017】
電圧出力部40は、回転座標系(γ-δ座標系)上で電圧ベクトルのγ成分Vγを、演算部30により算出された推定角速度ωe′に基づいて推定する。それとともに、電圧出力部40は、回転座標系(γ-δ座標系)上で電圧ベクトルのδ成分Vδを予め定められた値にする。
具体的には、電圧出力部40は、モータ印加電圧Vが入力され、固定電圧出力部41及び推定電圧出力部42を有する。
固定電圧出力部41は、Vδを予め定められた値(例えば、固定値)にし、その値をδ軸電圧指令Vδ*として第1の変換部60へ出力する。
【0018】
例えば、電圧出力部40は、ファンモータMを起動する際に、起動電圧で、Vγ*=0、Vδ*=予め定められた値(例えば、固定値)で駆動を開始する。固定電圧出力部41に予め設定される起動電圧Vδ*は、負荷の変動分を考慮して高めの過電圧状態とするような値に予め定められている。モータ制御装置1では、このトルクを発生する電圧Vδ*と負荷とが適切にバランスするように回転磁界の角速度を調整する。
【0019】
推定電圧出力部42は、推定角速度ωe′を速度推定処理部32から受け、δ軸電流Iδを演算部30の第2の変換部31から受ける。推定電圧出力部42は、推定角速度ωe′とδ軸電流Iδとを用いて、電圧ベクトルのγ成分Vγを推定し、推定された値をγ軸電圧指令Vγ*として第1の変換部60へ出力する。
積分部50は、推定角速度ωe′を積分して推定回転角度θe′を求める。
具体的には、積分部50は、積分器51を有する。積分器51は、回転磁界の推定角速度ωe′を積分することにより、回転磁界と共に回転する回転座標系の位相角θeの推定値である推定回転角度θe′を算出する。積分器51は、算出された推定回転角度θe′を第1の変換部60及び演算部30へそれぞれ出力する。
【0020】
第1の変換部60は、積分部50により求められた推定回転角度θe′を用いて、電圧出力部40により推定された回転座標系(γ-δ座標系)上の電圧ベクトルを固定座標系(UVW座標系)における電圧ベクトルに変換する。
具体的には、第1の変換部60は、2相-3相変換器(γ-δ/UVW)61を有する。2相-3相変換器61は、γ軸電圧指令Vγ*及びδ軸電圧指令Vδ*、すなわち回転座標系(γ-δ座標系)における電圧ベクトル(Vγ、Vδ)を電圧出力部40から受ける。2相-3相変換器61は、推定回転角度θe′を積分部50から受ける。2相-3相変換器61は、例えば、次式(4)~次式(6)により、回転座標系(γ-δ座標系)における電圧ベクトル(Vγ、Vδ)を固定座標系(UVW座標系)における電圧ベクトル(Vu、Vv、Vw)へ変換する。
【0021】
Vu
=(√(2/3)){Vγ×cos(θe′)-Vδ×sin(θe′)}
……(4)
Vv
=(√(1/2)×Vγ+√(1/6)×Vδ)×sin(θe′)
+(√(1/2)×Vδ-√(1/6)×Vγ)×cos(θe′)
……(5)
Vw
=(√(1/6)×Vδ-√(1/2)×Vγ)×sin(θe′)
-(√(1/6)×Vγ+√(1/2)×vδ)×cos(θe′) ……(6)
【0022】
2相-3相変換器61は、変換した回転座標系(γ-δ座標系)における固定座標系(UVW座標系)における電圧ベクトル(Vu、Vv、Vw)を駆動部10へ出力する。なお、式(4)~(6)は、3相復調の式であるが、2相-3相変換器61は、2相変調を行って、電圧利用率を上げても良い。
駆動部10は、第1の変換部60により変換された電圧ベクトルに対応した電圧でファンモータMが動作するように、ファンモータMを駆動する。
【0023】
具体的には、駆動部10は、PWM変換器11及びドライバ12を有する。PWM変換器11は、固定座標系(UVW座標系)における電圧ベクトル(Vu、Vv、Vw)、すなわちU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*を第1の変換部60から受ける。PWM変換器11は、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*をPWM信号に変換してドライバ12へ供給する。これにより、PWM変換器11は、ドライバ12を介してファンモータMを駆動する。
【0024】
ドライバ12は、PWM信号をPWM変換器11から受ける。ドライバ12は、例えば図示しない複数のスイッチング素子を有し、PWM信号に従って複数のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで電力変換動作を行い、生成された3相の交流信号U、V、WをファンモータMへ供給することにより、ファンモータMを駆動する。
【0025】
脱調判定部70は、
図1に示すように、平滑処理部71と、コンパレータ72とを備える。平滑処理部71は、整流部71aとローパスフィルタ部(LPF)71bと、を備える。整流部71aは、電流検出回路21の例えばU相電流Iuの振幅を表す信号を入力し、全波整流又は半波整流した後、ローパスフィルタ部71bに出力する。ローパスフィルタ部71bは、整流部71aから整流した信号を受けて、ローパスフィルタ処理を行い、電流振幅又は実効値を取り出し、これをコンパレータ72に出力する。コンパレータ72は、平滑処理部71の出力である振幅信号を正入力端子で受け、コンパレータ72の負入力端子には、しきい値電圧Vthが入力される。しきい値電圧(以下、単に、しきい値ともいう。)の設定方法については後述する。
【0026】
コンパレータ72は、振幅信号としきい値電圧Vthとを比較し、比較結果を制御部(CPU)80に出力する。
制御部80は、コンパレータ72の出力信号を受けて、振幅信号がしきい値電圧Vthよりも低いとき、つまり、コンパレータ72の出力がLOWレベルであるときには、正常起動と判断する。振幅信号がしきい値電圧Vth以上であるとき、つまりコンパレータ72の出力がHIGHレベルであるときには、脱調状態であると判断する。
【0027】
制御部80は、同期運転が成功したと判定されるときには、ファンモータMの運転モードを、起動運転モードから定常運転モードでの運転に切り替える。同期運転が失敗したと判定されたときには、複数回再起動を試み、所定回数再起動を試みた場合でも毎回同期運転が成功したと判定されないときには、ファンモータMが故障と判定し、アラームを発生させる等により故障通知を行う。
【0028】
回転検出部81は、ファンモータMの起動前に、ファンモータMの空転時の回転方向(以下では、「空転方向」と呼ぶことがある)と、ファンモータMの空転時の回転数(以下では「空転回転数」と呼ぶことがある)とを検出し、検出した空転方向及び空転回転数を制御部80へ出力する。例えば、回転検出部81は、ファンモータMのU相、V相、W相の各相の誘起電圧を用いて、空転方向及び空転回転数を検出する。例えば、回転検出部81は、U相の誘起電圧の立ち上がりエッジの次に検出される立ち上がりエッジがV相の誘起電圧の立ち上がりエッジである場合には、空転方向が正転方向であると判定し、U相の誘起電圧の立ち上がりエッジの次に検出される立ち上がりエッジがW相の誘起電圧の立ち上がりエッジである場合には、空転方向が逆転方向であると判定する。また、空転回転数が大きくなるほどファンモータMの誘起電圧の周期が小さくなるため、回転検出部52は、例えば、U相の誘起電圧の周期に基づいて空転回転数を検出する。
【0029】
そして、制御部80では、空転回転数が、正転方向の所定の回転数R1(以下では「正転R1」と呼ぶことがある)から逆転方向の所定の回転数R2(以下では「逆転R2」と呼ぶことがある)までの範囲にあるか否かを判定する。例えば、ファンモータMの巻き線抵抗値が60Ωである場合、正転方向をプラス、逆転方向をマイナスとして、正転R1=400rpm、逆転R2=-200rpmに予め設定される。空転回転数が正転R1から逆転R2までの範囲にある場合は正転同期運転を行い、空転回転数が正転R1から逆転R2までの範囲にない場合は逆転しているかを判定し、逆転しているときには逆転同期運転を行う。
【0030】
以上の構成により、空転方向が正転方向である場合には、ロータの位置決めをするための位置決め通電処理を行った後、電流をリセットし、その後、γ軸電流Iγをゼロにするような回転磁界の角速度ωe′を推定し、同期運転処理を行う。これに伴い、ファンモータMが回転すると、回転に伴い、電流検出回路21で検出されたU相電流Iuの振幅からなる信号が脱調判定部70に入力され、平滑処理後の振幅信号がしきい値電圧Vthと比較される。制御部80では、振幅信号としきい値電圧Vthとの比較結果を受けて、同期運転が成功したと判定されるときにはファンモータMの運転モードを起動運転モードから定常運転モードでの運転に切り替える。一方、同期運転が失敗したと判定された場合、所定回数再起動を試みる。そして所定回数再起動を試みても、毎回同期運転が成功しないときには、故障通知を行う。これにより、ユーザはファンモータMが故障したことを認識することができる。
一方、空転方向が逆転方向である場合には、逆転同期運転を行った後、正転同期運転に移行する。
【0031】
<コンパレータ72のしきい値電圧Vthの設定方法>
次に、コンパレータ72のしきい値電圧Vthの電圧値の設定方法を説明する。
速度推定処理部32では、制御軸γ-δ軸上の電流IγをPI制御することで、電流Iγを0〔A〕になるように回転数を調整し、γ-δ座標軸の位相をd-q座標軸の位相に近付ける。このとき、γ-δ座標軸の位相をd-q座標軸の位相に近付けることができれば、
図3中の位相調整区間T3に示すように、U相電流Iuは、負荷に対して必要最低限の電流を流す方向に進み、電流の振幅は徐々に小さくなる。しかし、回転磁界とロータとが同期できずに脱調状態となった場合には、
図4中の位相調整区間T3に示すように、電流の振幅は小さくならず、最終的にはファンモータMも回らない。その結果、誘起電圧が発生しないため、U相電流Iuは、Iu=(印加電圧)/(ファンモータMの巻線抵抗の大きさ)となる。したがって、この位相調整後の電流の大きさを検出することで、電流が小さいときには正常に起動し、電流が大きいときには脱調による起動失敗と判定することができる。なお、
図3及び
図4において、横軸は経過時間を表し、ファンモータM起動時における制御内容に応じて区分けされている。
【0032】
以上から、しきい値電圧Vthは、例えば、
図5に示すように、「起動成功時のファンモータMに最大負荷がかかっている場合に流れるであろう最大電流Iuo」(正常起動レベル)と「起動失敗時に流れるであろう電流Iux(印加電圧/ファンモータMの巻線抵抗の大きさ)」(脱調レベル)との間の値に相当する電圧値に設定すればよい。
図5では、両者の中央値(Iux-Iuo)/2に相当する電圧値をしきい値電圧Vthとしている。
【0033】
ファンモータMにおける負荷と起動前回転数との関係は、例えば、
図6に示す特性を有する。
図6において、横軸は起動前の回転速度〔rpm〕、縦軸は、負荷である。
図6に示すように、向い風で逆転している状態から正転方向に起動する場合は負荷が大きく、逆転時の回転速度が大きいときほど負荷は大きい。逆に正転している状態から起動する場合は、回転速度が大きいときほど必要な負荷は小さい。なお、風により、ファンモータMが高い回転速度で回転しているときには、正転している場合及び逆転している場合とも、熱交換器に風が十分に吹きつけているため、ファンを起動する必要はない。
【0034】
<モータ制御装置における処理>
次に、ファンモータMを起動する際の、モータ制御装置1の処理手順の一例を、
図7に示すフローチャートを伴って説明する。
まず、空転回転数が、正転方向の所定の回転数R1(以下では「正転R1」と呼ぶことがある)から逆転方向の所定の回転数R2(以下、「逆転R2」ともいう。)までの範囲にあるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、ファンモータMの巻き線抵抗値が60Ωである場合、正転方向をプラス、逆転方向をマイナスとして、正転R1=400rpm、逆転R2=-200rpmに予め設定される。
【0035】
空転回転数が正転R1から逆転R2までの範囲にある場合は、ステップS2からステップS6の処理は行われずに、ステップS7に進む。一方で、空転回転数が正転R1から逆転R2までの範囲にない場合は、ステップS2へ進む。
ステップS2では、空転回転数が、逆転R2から逆転方向の所定の回転数R3(以下、「逆転R3」ともいう。)までの範囲にあるか否かを判定する。但し「逆転R2>逆転R3」であり、例えば、ファンモータMの巻き線抵抗値が60Ωである場合、逆転R3=-400rpmに予め設定される。
【0036】
空転回転数が逆転R2から逆転R3までの範囲にない場合は、ステップ1へ戻る。一方で、空転回転数が逆転R2から逆転R3までの範囲にある場合は、ステップS2からステップS3に移行する。
ステップS3では、ファンモータMを逆転方向で同期運転(以下では「逆転同期運転」ともいう。)させる。
次いで、ステップS4では、ファンモータMの位相を調整する。
次いで、ステップS5に移行し、ファンモータMの運転モードをロータの位置を推定しない運転モード(同期運転モード)からロータの位置を推定する運転モード(ベクトル制御の運転モード(以下、ベクトル制御モードともいう。))に移行させ、ベクトル制御モードでファンモータMを駆動させる。
【0037】
次いで、ステップS6に移行し、ファンモータMの回転速度を徐々に減速させてファンモータMの回転方向を逆転方向から正転方向に反転させ、ファンモータMを正転方向で同期運転させる。つまり、ファンモータMの回転方向を逆転方向から正転方向に反転させる同期運転(以下、反転同期運転ともいう。)を行う。
そして、ステップS7に移行する。ステップS6からステップS7に直接移行した場合には、ステップS7では、ステップS6での正転方向での同期運転を継続する。また、ステップS1からステップS7に移行した場合には、ステップS7では、ファンモータMを正転方向で同期運転させる。
【0038】
続いて、ステップS8では、ファンモータMの位相を調整し、ステップS9に移行して、脱調判定を行う。すなわち、ファンモータMの起動が成功したか否かを判定する。そして、起動が成功したならば、ステップS10に移行し、ファンモータMの運転モードを同期運転モードからベクトル制御モードに移行させ、ベクトル制御モードでファンモータMを駆動させる。
そして、ステップS11に移行し、ステップS10でのベクトル制御モードでの駆動を引き続き行い、ベクトル制御でファンモータMを駆動する通常運転を行う。
【0039】
図8は、脱調判定時の処理手順の一例を示すフローチャートである。
モータ制御装置1では、まず、電流検出を行う(ステップS21)。具体的には、電流検出回路21でU相電流Iuを検出し、検出されたU相電流Iuの振幅を全波整流又は半波整流した後、ローパスフィルタ処理を行う。そして、ステップ22に移行しローパスフィルタ処理後の振幅信号がしきい値より大きいか否かを判定し、振幅信号がしきい値より小さいときには起動成功として、
図7に戻りステップS10に移行する。
【0040】
一方、ステップS22で振幅信号がしきい値以上であるときには、ステップS23に移行し、カウント数nをn+1に更新した後、ステップS24に移行し、カウント数nに応じて運転条件を変更して、再起動を試みる。すなわち、カウント数nがn≦n1であるときには、ステップS25に移行し、起動時の電圧(例えば、加速電圧V
*h)を変更する。具体的には加速電圧V
*hに対して所定の電圧値(ΔV)を加算する。そして、
図7に戻りステップS1に移行する。
【0041】
また、カウント数nがn1<n≦n2であるときには、ステップS26に移行し、起動時の回転数(例えば、加速回転数ω
*eh)を変更する。具体的には加速回転数に対して所定の回転数(Δω)を加算する。このとき、加速電圧V
*hは起動時の電圧に戻す。そして、
図7に戻りステップS1に移行する。さらにカウント数nがn2<n≦n3であるときには、ステップS27に移行し、周波数(f=ω/2π)に対応した電圧(いわゆるV/f特性)を変更する。例えば、起動開始電圧V
*sと加速電圧V
*hと電圧値の変化を示す傾き((V
*h-V
*s)/T2s(T2sは、予め設定される正転同期運転区間の継続時間である。))をそれぞれ増加する。そして
図7に戻りステップS1に移行する。さらに、カウント数nがn3<nであるときには、ステップS28に移行し、ファンモータMが故障と判定し、警報を発すること等によりユーザにファンモータMが故障していることを通知する。そして、
図8に示す脱調判定処理を終了すると共に、
図7に示すモータ起動処理を終了する。なお、カウント数nは、起動開始時には、初期値n=0に設定されている。ステップS25からステップS27の処理が運転条件変更部に対応している。
【0042】
<ファンモータMの起動が正転回転から開始される場合の動作>
<起動成功時の動作>
次に、通常起動時、すなわち室外機ファンが逆転していない状態からファンモータMを起動する場合の動作の一例を、
図9を伴って説明する。
図9は、起動前から通常運転に移行するまでのファンモータMの回転数〔rad/s〕及びモータ印加電圧V〔V〕の変化を表したものであり、横軸は時間である。ファンモータMの運転区間は、
図9に示すように、ステップS1の処理が行われる非通電区間T1、ステップS7の処理が行われる正転同期運転区間T2、ステップS8の処理が行われる位相調整区間T3、ステップS9の処理が行われる脱調判定区間T3′、ステップS10の処理が行われるモード移行区間T4、ステップS11の処理が行われる通常運転区間T5に区別される。
【0043】
非通電区間T1では、ファンモータMは起動前の非通電状態にあり、回転検出部81が空転方向及び空転回転数を検出する。
図9の場合、検出された空転方向及び空転回転数は、ステップS1の条件に合致し、ファンモータMの運転区間は非通電区間T1から正転同期運転区間T2に移行する。
正転同期運転区間T2では、十分な誘起電圧が得られる回転数までファンモータMを加速させるため、モータ印加電圧Vと回転数とを増加させながらファンモータMの回転を加速し、時間の経過と共に回転数を増加させる。
ファンモータMは、例えば、時間T2sの間に、回転数が、起動開始回転数ω
*esから加速回転数ω
*ehに収束するように駆動され、具体的には、次式(7)で表される特性で変化するように駆動される。
【0044】
【0045】
なお、時間T2s、起動開始回転数ω*es、加速回転数ω*ehは、予め行われる試験等によって決定される所定値である。また、tは、正転同期運転区間T2の開始時点、つまり、ファンモータMへの通電を開始した時点からの経過時間を示す。
また、ファンモータMは、例えば、モータ印加電圧Vが、時間T2sの間に、起動開始電圧Vs*から加速電圧Vh*に収束するように駆動され、具体的には、線形に増加するように駆動される。
【0046】
ファンモータMを、例えば目標値まで加速したならば、位相調整区間T3に移行する。
位相調整区間T3では、正転同期運転区間T2で到達した加速電圧値Vh*に対して、現在の負荷状態に合わせて回転数を調整することにより、γ-δ座標系と、d-q座標系との位相差を一致させる。
つまり、ファンモータMは、モータ印加電圧Vが加速電圧Vh*を維持した状態で、時間T3sの間に、回転数が、加速回転数ω*ehから、γ軸電流Iγをゼロにし得る回転数ωe′に収束するように、制御される。時間T3sは、例えば、γ軸電流Iγがゼロに収束するまでに要する時間に設定される。
続く脱調判定区間T3′では、脱調判定が行われる。なお、脱調判定区間T3′では、脱調と判定されるまでは、位相調整区間T3でのファンモータMの駆動制御が引き続き行われる。
【0047】
ファンモータMが正常に起動されたとき、位相調整区間T3におけるU相電流Iuは、
図3に示すように、電流の振幅が徐々に小さくなるため、U相電流Iuの振幅はしきい値よりも小さくなる。そのため、脱調判定の結果、正常に起動したと判定され、モード移行が行われる。モード移行区間T4では、同期運転モードからベクトル制御の運転モード(以後、ベクトル制御モードともいう。)へ移行し、ファンモータMが一定の回転数で回転するように制御され、これに伴いモータ印加電圧Vも一定となるように制御される。
そして、続く通常運転区間T5では、モータ制御装置1の外部から入力される機械角速度指令値ωm_refに基づいて、ファンモータMは、速度及びトルク制御によりベクトル制御モードで駆動される。
【0048】
<起動失敗時の動作>
一方、ファンモータMが正常に起動されないときには、位相調整区間T3におけるU相電流Iuは、
図4に示すように、電流の振幅が小さくならない。そのため、
図10に示すように、脱調判定区間T3′では、U相電流の振幅がしきい値以上となることから、起動に失敗したと判定される。ファンモータMは起動に失敗したことから、駆動が停止され、モータ印加電圧V及び回転数は共にゼロに収束し、非通電区間T1に移行する。
【0049】
そして、起動に失敗したことから、起動時の条件が変更されて、再起動が試みられ、非通電区間T1から正転同期運転区間T2に移行し、上記と同様に同期運転が開始される。
そして、正転同期運転区間T2から位相調整区間T3に移行し、脱調判定区間T3′で再起動に失敗したときには、起動時の条件が変更されて再起動が試みられる。そして、所定回数起動時の条件を変更して駆動したとしても起動に失敗したときには、ファンモータMが故障したとして故障通知が行われる。そのため、ユーザはファンモータMが故障したことを認識することができる。
【0050】
<ファンモータMの起動が逆転同期運転から開始される場合の動作>
<起動成功時の動作>
次に、室外機ファンが、逆転している状態からファンモータMを起動する場合の動作の一例を
図11を伴って説明する。
図11は、起動前から通常運転に移行するまでのファンモータMの回転数〔rad/s〕及びモータ印加電圧V〔V〕の変化を表したものであり、横軸は時間である。ファンモータMの運転区間は、
図11に示すように、ステップS1及びステップS2の処理が行われる非通電区間T11、ステップS3の処理が行われる逆転同期運転区間T12、ステップS4の処理が行われる位相調整区間T13、ステップS5の処理が行われるモード移行区間T14、ステップS6の処理が行われる反転同期運転区間T15、ステップS7の処理が行われる正転同期運転区間T16、ステップS8の処理が行われる位相調整区間T17、ステップS9の処理が行われる脱調判定区間T17′、ステップS10の処理が行われるモード移行区間T18、ステップS11の処理が行われる通常運転区間T19に区別される。また、反転同期運転区間T15は、減速運転区間T15aと、移行同期運転区間T15bとを含む。
【0051】
非通電区間T11では、ファンモータMは起動前の非通電状態にあり、回転検出部81が空転方向及び空転回転数を検出する。この場合、検出された空転方向及び空転回転数は、ステップS2の条件に合致し、ファンモータMの運転区間は非通電区間T11から逆転同期運転区間T12に移行する。
逆転同期運転区間T12では、ファンモータMは、例えば、時間T2gの間に、回転数が、逆転時の起動開始回転数ω*gesから加速回転数ω*gehに収束するように駆動され、具体的には、次式(8)で表される特性で変化するように駆動される。
【0052】
【0053】
なお、時間T2g、逆転時の起動開始回転数ω*ges、加速回転数ω*gehは、予め行われる試験等によって決定される所定値である。また、tは、逆転同期運転区間T12の開始時点、つまり、ファンモータMへの通電が開始された時点からの経過時間を示す。
また、ファンモータMは、例えば、モータ印加電圧Vが、時間T2gの間に、逆転時の起動開始電圧Vgs*から加速電圧V*ghに収束するように駆動され、具体的には、線形に減少するように駆動される。
ファンモータMを、例えば目標値まで加速したならば、位相調整区間T13に移行する。
【0054】
位相調整区間T13では、正転から起動する場合の位相調整区間T3と同様に、逆転時の同期運転区間で到達した加速電圧値V*ghに対して、現在の負荷状態に合わせて回転数を調整することにより、γ-δ座標系と、d-q座標系との位相差を一致させる。
つまり、ファンモータMは、モータ印加電圧Vが加速電圧V*ghを維持した状態で、時間T13sの間に、回転数が、加速回転数ω*ghから、γ軸電流Iγをゼロにし得る回転数ωe′に収束するように、制御される。時間T13sは、例えば、γ軸電流Iγがゼロに収束するまでに要する時間に設定される。
続くモード移行区間T14では、同期運転モードからベクトル制御の運転モードへ移行し、ファンモータMが一定の回転数で回転するように制御され、これに伴いモータ印加電圧Vも一定となるように制御される。
【0055】
そして、続く反転同期運転区間T15のうち、例えば、減速運転区間T15aでは、モード移行区間T14が終了する時点におけるファンモータMの回転数を同期起動開始回転数ω*gdとしたとき、回転数が同期起動開始回転数ω*gdから減速回転数ω*gegに収束するように駆動される。また、モード移行区間T14が終了する時点におけるd軸の電圧を同期起動開始電圧V*gdとしたとき、モータ印加電圧Vが、同期起動開始電圧V*gdから減速電圧V*gegに減速するように駆動される。続く移行同期運転区間T15bでは、ファンモータMは、ファンモータMの回転数が、時間T5g′の間に、減速回転数ω*gegから起動開始回転数ω*sesに収束するように駆動される。また、モータ印加電圧Vが、時間T5g′の間に、減速電圧V*gegから、起動開始電圧V*shに収束するように駆動される。このとき、減速運転区間T15aでは、時間T5gの間に、回転数が同期起動開始回転数ω*gdから起動開始回転数ω*sesに収束し、且つ、時間T5g′の間に、減速回転数ω*gegから起動開始回転数ω*sesに収束するように駆動される。同様に、減速運転区間T15aでは、時間T5gの間に、モータ印加電圧Vが、同期起動開始電圧V*gdから起動開始電圧V*shに収束し、且つ、時間T5g′の間に、減速電圧V*gegから起動開始電圧V*shに収束するように駆動される。
【0056】
続く、正転同期運転区間T16では、正転回転から起動される場合の正転同期運転区間T2と同様に制御され、以後、位相調整区間T17、脱調判定区間T17′、モード移行区間T18、通常運転区間T19は、正転回転から起動される場合の位相調整区間T3、脱調判定区間T3′、モード移行区間T4、通常運転区間T5のそれぞれと同様に制御される。
つまり、
図11の場合には、正転回転に移行した後、ファンモータMの起動は成功するため、脱調判定区間T17′では、起動成功と判定されて続いてモード移行し、ベクトル制御モードでの運転が行われる。
【0057】
<起動失敗時の動作>
一方、ファンモータMが正常に起動されないときには、
図12に示す、位相調整区間T17におけるU相電流Iuは、
図4に示すように、電流の振幅が小さくならない。そのため、脱調判定区間T17′では、U相電流の振幅がしきい値以上となることから、起動に失敗したと判定される。ファンモータMは起動に失敗したことから、駆動が停止され、モータ印加電圧V及び回転数は共にゼロとなり、非通電区間T11となる。
そして、起動に失敗したことから、ファンモータMの起動が逆転同期運転から改めて開始される。そして、起動時の条件を、所定回数変更して起動を試みたとしても毎回起動に失敗したときには、ファンモータMが故障したとして通知が行われる。そのため、ユーザはファンモータMが故障したことを認識することができる。
【0058】
<効果>
以上説明したように、モータ制御装置1では、起動時に、脱調判定を行い、この脱調判定を、位相調整を行った後の、ファンモータMに供給される相電流のうちの一つであるU相の電流波形に基づいて行っている。そのため、ファンモータMのロータの位置を検出するセンサを設けなくとも、回転磁界とロータとが同期したかを判定することができる。したがって、センサレスの同期モータを用いる場合であっても、ファンモータMを、より確実に起動することができる。
また、ファンモータMの起動に失敗したと判定されるときには、複数回、起動条件を変更して再起動を試みるようにしているため、起動成功となる確率を高めることができると共に、複数回、起動条件を変更して起動を試みたとしても起動に失敗するときにはファンモータMが故障したと判定するため、ファンモータMの故障をソフト的に検出することができる。
また、ファンモータMが故障したと判定したときに、ファンモータMの駆動を停止することにより、ファンモータMが故障したことをハード的に検出する場合に比較してより早い段階で停止することができる。
【0059】
<変形例>
上記実施形態においては、正転同期運転後の位相調整のみで、脱調判定を行う場合について説明したが、これに限るものではなく、逆転同期運転後の位相調整においても脱調判定を行ってもよい。具体的には、位相調整区間T13で脱調判定を行ってもよい。
また、上記実施形態においては、起動に失敗したと判定されるときには、失敗した回数に応じて、起動開始電圧V
*s、起動開始回転数ω
*es、電圧上昇傾きVFのいずれか一つの条件を変更する場合について説明したが、これらのうちの複数を変更するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、起動時には、
図9から
図12に示すように回転数及びモータ印加電圧Vが変化するように駆動制御する場合について説明したが、これに限るものではなく、ファンモータMを起動する際に位相調整を行うようにした駆動方法であれば適用することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 センサレス同期モータ制御装置
10 駆動部
20 検出部
30 演算部
40 電圧出力部
50 積分部
60 第1の変換部
70 脱調判定部
80 制御部
81 回転検出部