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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】衛生陶器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/13 20060101AFI20240501BHJP
   E03D 11/02 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
E03D11/13
E03D11/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020081526
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175863
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸次 允
(72)【発明者】
【氏名】井上 正明
(72)【発明者】
【氏名】原 弘之
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】実開平11-000071(JP,U)
【文献】特開2013-009503(JP,A)
【文献】実開平07-034078(JP,U)
【文献】特開昭59-136994(JP,A)
【文献】特開2000-031663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00-13/00
A47K 1/00- 1/14
H05K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード部材が挿通される貫通孔に挿入され、前記コード部材を固定する固定部材
を備える衛生陶器であって、
前記固定部材は、
前記貫通孔に係止される係止部と、
前記コード部材を保持する保持部と、
前記係止部および前記保持部の間において径方向に変形可能な変形部と
を有し、
前記変形部は、前記保持部に向けて縮径するように側面がテーパ形状であり、
前記変形部の前記側面は、
前記係止部から前記径方向に大きくなる第1テーパ部と、
前記保持部に向かうにつれて前記径方向に小さくなる第2テーパ部と
を有する、衛生陶器。
【請求項2】
前記第1テーパ部は、前記第2テーパ部よりも軸方向に短い、請求項に記載の衛生陶器。
【請求項3】
コード部材が挿通される貫通孔に挿入され、前記コード部材を固定する固定部材
を備える衛生陶器であって、
前記固定部材は、
前記貫通孔に係止される係止部と、
前記コード部材を保持する保持部と、
前記係止部および前記保持部の間において径方向に変形可能な変形部と
を有し、
前記保持部の基端部の外径は、前記基端部に接続される前記変形部の端部の外径よりも大きい、衛生陶器。
【請求項4】
コード部材が挿通される貫通孔に挿入され、前記コード部材を固定する固定部材
を備える衛生陶器であって、
前記固定部材は、
前記貫通孔に係止される係止部と、
前記コード部材を保持する保持部と、
前記係止部および前記保持部の間において径方向に変形可能な変形部と
を有し、
前記係止部および前記保持部は、前記変形部よりもそれぞれ硬度が高い、衛生陶器。
【請求項5】
前記係止部は、前記変形部側の端部とは反対側の端部に前記貫通孔の端縁の内径よりも大径なストッパ部を有する、請求項1~のいずれか一つに記載の衛生陶器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、衛生陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛生陶器のうち、たとえば、水洗便器には、冬場などの気温低下時にボウル内の溜水の凍結を防ぐために、ヒータ付便器がある。このようなヒータ付便器では、たとえば、シート状の発熱体(ヒータ)が溜水部の裏側に配置される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、このようなヒータ付便器では、ヒータに給電するための電源電線をコンセントに接続する必要がある。このため、溜水部の裏側から表側まで電源電線などのコード部材を引き出すための貫通孔が形成され、さらに、コード部材を固定しつつ貫通孔に挿入される固定部材によって、コード部材が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-144868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ヒータ付便器では、便器の組み立て時においてヒータを容易に取り付け可能なように、コード部材を固定した固定部材を貫通孔に挿入しやすいことが好ましい。一方で、固定部材が貫通孔から抜けにくくし、コード部材が便器から外れないようにする必要がある。
【0006】
しかしながら、上記したヒータ付便器のような衛生陶器では、固定部材を、たとえば、小径化するなどして貫通孔に挿入しやすいように構成した場合は、固定部材が貫通孔から抜けやすくなってしまう。一方、固定部材を、たとえば、大径な部分を設けるなどして貫通孔から抜けにくいように構成した場合は、固定部材を貫通孔に挿入しにくくなってしまう。このように、組み立て性を考慮して固定部材を挿入しやすくする仕様と、コード保持力を確保するために固定部材を抜けにくくする仕様とは相反している。
【0007】
実施形態の一態様は、コード部材を固定しつつ貫通孔に挿入される固定部材を、貫通孔から抜けにくく、貫通孔には挿入しやすくすることができる衛生陶器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る衛生陶器は、コード部材が挿通される貫通孔に挿入され、前記コード部材を固定する固定部材を備える衛生陶器であって、前記固定部材は、前記貫通孔に係止される係止部と、前記コード部材を保持する保持部と、前記係止部および前記保持部の間において径方向に変形可能な変形部とを有する。
【0009】
このような構成によれば、固定部材は、係止部によって貫通孔に係止されており、係止部が係止された状態では、たとえば、コード部材が固定部材の挿入方向とは反対の方向に引っ張られると、これに伴いコード部材を保持している保持部が係止部に向けて移動する。これにより、変形部が保持部に圧迫されて係止部と保持部との間において径方向に広がるように変形するため、変形部が貫通孔の一方端縁(内側の端縁)や内周面に接触して抜けにくいものとなる。一方で、固定部材は、貫通孔に挿入する場合には、変形部が径方向に収縮するように変形するため、挿入しやすい。このように、固定部材を、貫通孔から抜けにくく、貫通孔には挿入しやすくすることができる。
【0010】
また、上記した衛生陶器では、前記変形部は、前記保持部に向けて縮径するように側面がテーパ形状である。
【0011】
このような構成によれば、変形部は、保持部に向けて縮径するように側面がテーパ形状であるため、固定部材を保持部から貫通孔に挿入する場合、固定部材の挿入が容易となる。また、変形部の側面がテーパ形状であることから変形部が径方向に変形しやすいため、固定部材は、保持部によって圧迫された変形部が径方向に広がって、貫通孔から抜けにくいものとなる。
【0012】
また、上記した衛生陶器では、前記変形部の前記側面は、前記係止部から前記径方向に大きくなる第1テーパ部と、前記保持部に向かうにつれて前記径方向に小さくなる第2テーパ部とを有する。
【0013】
このような構成によれば、変形部の側面が第1テーパ部と第2テーパ部の2つのテーパ部を有するため、変形部は、非圧迫時において径方向の最大幅を抑えつつ、圧迫時には非圧迫時よりも径方向に大きくなる。これにより、固定部材は、挿入しやすく抜けにくいものとなる。
【0014】
また、上記した衛生陶器では、前記第1テーパ部は、前記第2テーパ部よりも軸方向に短い。
【0015】
このような構成によれば、第1テーパ部が第2テーパ部よりも軸方向に短いため、変形部の圧迫時には貫通孔付近で径方向に広がる。これにより、変形部が貫通孔の一方端縁(内側の端縁)や内周面に対して早期に接触し、固定部材は、貫通孔から抜けにくいものとなる。
【0016】
また、上記した衛生陶器では、前記保持部の基端部の外径は、前記基端部に接続される前記変形部の端部の外径よりも大きい。
【0017】
このような構成によれば、保持部の基端部によって変形部を潰しやすいため、変形部の圧迫時には径方向に広がりやすい。これにより、固定部材は、貫通孔から抜けにくいものとなる。また、変形部は、その挿入方向について先端径が小さいため、貫通孔に挿入しやすい。
【0018】
また、上記した衛生陶器では、前記係止部および前記保持部は、前記変形部よりもそれぞれ硬度が高い。
【0019】
このような構成によれば、変形部は、硬度が高いものの間に挟まれているため、圧迫時には拡径しやすい。
【0020】
また、上記した衛生陶器では、前記係止部は、前記変形部側の端部とは反対側の端部に前記貫通孔の端縁の内径よりも大径なストッパ部を有する。
【0021】
このような構成によれば、ストッパ部によって、係止部が貫通孔を通過してしまうのを規制することができる。これにより、固定部材は、たとえば、その挿入方向に押し込まれても、挿入方向に抜けにくいものとなる。
【発明の効果】
【0022】
実施形態の一態様によれば、コード部材を固定しつつ貫通孔に挿入される固定部材を、貫通孔から抜けにくく、貫通孔には挿入しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態に係る衛生陶器の一例を示す断面斜視図である。
図2図2は、コード部材および固定部材を示す側面図である。
図3図3は、固定部材を示す斜視図である。
図4図4は、(a)固定部材を示す平面図、(b)固定部材を示す側面図である。
図5図5は、(a)固定部材を貫通孔に挿入する場合の変形部の動作説明図、(b)固定部材が貫通孔から引き抜かれようとした場合の変形部の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する衛生陶器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
<衛生陶器>
まず、図1を参照して実施形態に係る衛生陶器1の一例について説明する。図1は、実施形態に係る衛生陶器1の一例を示す断面斜視図である。
【0026】
なお、図1には、鉛直上向き(上方)を正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を示している。以下では、説明の便宜上、X軸の正方向を右方、X軸の負方向を左方、Y軸の正方向を前方、Y軸の負方向を後方と規定している。このため、X軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向、Z軸方向を上下方向という場合がある。
【0027】
また、以下では、衛生陶器1として、水洗大便器(以下、「便器」という)を例に説明する。なお、衛生陶器1としては、この他にも、小便器や手洗い器など、様々なものがある。
【0028】
図1に示すように、衛生陶器である便器1は、トイレ室の床面に設置される、いわゆる床置き式の便器である。なお、便器1は、トイレ室の壁面に取り付けられる、いわゆる壁掛け式の便器でもよい。便器1は、たとえば、洗い落とし(ウォッシュダウン)式の便器でもよいし、サイホン式の便器でもよいし、これらの他の便器でもよい。なお、本実施形態における便器1(便器本体1a)は、陶器製であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、樹脂製等であってもよい。
【0029】
便器1は、たとえば、洗い落とし式の場合、給水源である貯水タンクに接続された給水配管(図示せず)から便器本体1aに洗浄水が供給される。便器1は、汚物を洗浄水と共に排水配管(図示せず)へ排出する。
【0030】
便器本体1aは、ボウル部2と、リム部3と、吐水部4と、溜水部5と、排出部6とを備える。ボウル部2は、ボウル形状に形成され、ボウル面で汚物を受ける。リム部3は、ボウル部2の上縁部に設けられる。リム部3は、洗浄水がボウル部2の外側に飛び出さないように、ボウル部2の内側に向けたオーバーハング形状に形成される。
【0031】
吐水部4は、給水源から供給される洗浄水を吐水口(図示せず)からボウル部2へ吐出する。溜水部5は、ボウル部2の下方に設けられる。溜水部5は、洗浄水の一部が溜まり(溜まった水を「溜水」という)、溜水が封水として機能することで、排出部6から臭気などがボウル部2側へ逆流することを防止する。
【0032】
排出部6には、排出路(図示せず)が形成される。排出路は、トラップ形状に形成された部分(トラップ管路)を有する。排出路は、排水配管に接続される。便器本体1aは、吐水部4からボウル部2へ洗浄水を吐出し、汚物を排出部6から排水配管へ排出する。
【0033】
また、便器1は、ヒータ7をさらに備える。ヒータ7は、たとえば、シート状の発熱体である。ヒータ7は、溜水部5の溜水の凍結を防ぐために、溜水部5の外側の面である裏面および排出部6の外周面の一部に取り付けられる。ヒータ7は、たとえば、矩形や円形状シートであり、発熱することで、取り付けられた箇所を温めることができる。ヒータ7としては、たとえば、シートに電熱線が張り巡らされたものがある。
【0034】
ヒータ7は、たとえば、接着剤で取り付けられる。接着剤は、熱伝導性のよいものが好ましい。
【0035】
なお、溜水部5の裏面および排出部6の外周面のうち、ヒータ7が取り付けられた箇所とは異なる箇所に、ボウル部2よりも熱伝導性のよい非自己発熱性の伝熱シートが取り付けられてもよい。この場合、伝熱シートを、ヒータ7に対して部分的に接触させている。伝熱シートは、たとえば、陶器製のボウル部2よりも熱伝導性のよい金属フィルムである。伝熱シートは、ヒータ7に接触していることでヒータ7の熱が伝達され、取り付けられた箇所を温めることができる。
【0036】
伝熱シートを備える場合、伝熱シートは、たとえば、ヒータ7と同様、熱伝導性のよい接着剤で取り付けられる。
【0037】
また、便器1は、防露材8をさらに備えてもよい。防露材8は、ボウル部2、溜水部5、排出部6の一部にかけて、これらの裏側に設けられる。防露材8は、便器本体1aの裏側が結露して落下する水滴を受けるものである。
【0038】
便器1では、ヒータ7に給電するための電源電線を、たとえば、トイレ室の壁面などに設けられたコンセントに接続する必要がある。このため、便器1は、溜水部5の裏側から表側へ電源電線などのコード部材9を引き出すための貫通孔10(図2参照)を備える。なお、「裏側」とは、便器本体1aが設置された状態で、便器本体1aにおける外部に露出しない側のことをいい、「表側」とは、便器本体1aが設置された状態で、便器本体1aにおける外部に露出する側のことをいう。
【0039】
貫通孔10は、便器本体1aを形成する陶器製の壁1bの所定の箇所(以下、この箇所を「固定部」という)に形成されている。貫通孔10は、陶器(壁1b)を貫通している孔である。貫通孔10には、コード部材9が挿通される。
【0040】
さらに、便器1は、コード部材9を固定部11に形成された貫通孔10に固定するための固定部材12を備える。固定部材12は、貫通孔10に挿入されることで、貫通孔10に取り付けられる。
【0041】
ここで、固定部材12は、便器1の組み立て性を考慮すると、貫通孔10に挿入しやすいものであることが好ましい。一方で、固定部材12は、貫通孔10から抜けにくいものである必要がある。
【0042】
そして、組み立て性を考慮して固定部材を挿入しやすくする仕様と、コード保持力を確保するために固定部材を抜けにくくする仕様とは相反している。このため、いずれの要求を満たすためには、たとえば、複数の部品を用いるなど、特別な対策が必要となる。
【0043】
また、陶器製の便器1(便器本体1a)に貫通孔10を形成する場合、便器本体1aの成形時において型を抜きやすくするために、貫通孔10を構成する内周面10a(図5参照)に傾斜が必要となる。このように、陶器の場合は、表側と裏側とで貫通孔10の内径が異なることが頻繁にある。
【0044】
このため、本実施形態では、固定部材12が、貫通孔10に挿入された状態では貫通孔10から抜けにくく、貫通孔10に挿入する場合には挿入しやすいように構成している。また、このような固定部材12は、陶器製の便器1に形成される貫通孔10に対して特に有効なものとなる。
【0045】
<固定部材>
次に、図2~5を参照して実施形態に係る固定部材12について説明する。図2は、コード部材9および固定部材12を示す側面図である。図3は、固定部材12を示す斜視図である。図4は、(a)固定部材12を示す平面図、(b)固定部材12を示す側面図である。図5は、(a)固定部材12を貫通孔10に挿入する場合の変形部15の動作説明図(側面図)、(b)固定部材12が貫通孔10から引き抜かれようとした場合の変形部15の動作説明図(側面図)である。
【0046】
図2に示すように、固定部材12は、コード部材9を固定しつつ、陶器製の壁1bに形成された貫通孔10に挿入される。
【0047】
コード部材9は、固定部材12によって、固定部11において固定される。コード部材9は、一方の端部にコネクタ91を有する。コネクタ91は、ヒータ7から延びるコード71に接続される。このように、コード部材9は、コネクタ91を介して、ヒータ7に接続される。なお、コード部材9は、他方の端部に、たとえば、トイレ室内のコンセントに接続するためのACアダプタなどを有する。
【0048】
コード部材9は、固定部材12の軸方向に貫通するように形成された挿通孔12a(図3参照)に挿通され、後述する保持部14(図3および図4参照)によって保持される。コード部材9は、接着剤などで保持部14に接着される。
【0049】
図3および図4に示すように、固定部材12は、係止部13と、保持部14と、変形部15とを有する。係止部13と、保持部14および変形部15は、固定部材12の軸方向に沿って配置される。
【0050】
係止部13は、固定部材12が貫通孔10に取り付けられた状態で、貫通孔10に挿入されている円筒形状の部位である。係止部13は、一方の端部に、貫通孔10の一方の端縁の内径よりも大径に形成されたストッパ部131を有する。ストッパ部131は、係止部13の円筒形状の本体部に対してフランジ状に形成される。係止部13は、貫通孔10に挿入されることで、貫通孔10に係止される。
【0051】
保持部14は、上記したように、コード部材9(図2参照)を保持する。保持部14は、円筒形状に形成される。図4(a)に示すように、保持部14は、コード挿通孔14aを有する。コード挿通孔14aは、上記した挿通孔12aの一部を構成する孔であり、挿通孔12aの他の部位よりも小径に形成される。コード部材9は、たとえば、このコード挿通孔14aに挿通された状態で接着剤などで接着されることで、コード挿通孔14aに固着される。このように、コード部材9はコード挿通孔14aと接着されるため、保持部14は、コード部材9の動きと連動して動作する。
【0052】
変形部15は、係止部13と保持部14との間に配置される。変形部15は、係止部13と保持部14との間において径方向に変形可能である。すなわち、変形部15は、外力が加わることで、径方向に広がったり、径方向に縮んだりすることができる。なお、「径方向」とは、固定部材12の軸方向と直交する方向である。また、「径方向」は、固定部材12の径方向であるとともに、係止部13、保持部14および変形部15のそれぞれの径方向である。なお、「軸方向」についても「径方向」の場合と同様、固定部材12の軸方向であるとともに、係止部13、保持部14および変形部15のそれぞれの軸方向である。
【0053】
変形部15は、径方向の最大幅が少なくとも貫通孔10の最小幅よりも大きくなるように形成される。
【0054】
また、図4(b)に示すように、変形部15は、側面15aがテーパ形状である。側面15aは、側面視において保持部14に向けて縮径するように形成される。また、側面15aは、側面視において、外方に向けて凸となるような曲線(曲面)で形成される。なお、側面15aは、側面視において直線で形成されてもよい。
【0055】
変形部15の側面15aは、第1テーパ部15aaと、第2テーパ部15abとを有する。第1テーパ部15aaは、係止部13から保持部14側に向かうにつれて、すなわち、一方の端部から他方の端部側に向かうにつれて径方向に大きくなる傾斜面である。第1テーパ部15aaは、後述する第2テーパ部15abよりも軸方向に短くなるように形成される。
【0056】
第2テーパ部15abは、第1テーパ部15aaの軸方向の終端部から保持部14に向かうにつれて、すなわち、他方の端部に向かうにつれて径方向に小さくなる傾斜面である。
【0057】
また、図4(b)に示すように、保持部14の基端部14bの外径は、この基端部14bに接続される変形部15の他方の端部の外径よりも大きい。
【0058】
固定部材12は、たとえば、ゴムや熱可塑性エラストマを材料として、係止部13、保持部14および変形部15が一体となるように形成される。固定部材12は、たとえば、射出成形によって形成される。また、固定部材12は、係止部13および保持部14が変形部15よりもそれぞれ硬度が高い。なお、コード部材9(図2参照)を保持する保持部14が最も硬度が高いことが好ましい。これにより、コード部材9の保持力が高まる。
【0059】
図5(a)に示すように、固定部材12は、貫通孔10に挿入される場合、壁1bの表側から挿入される。固定部材12は、貫通孔10に挿入される場合には、挿入方向D1に進行する。この場合、変形部15が、貫通孔10の内側(裏側)の端縁に接触して径方向の内側に圧迫され、図中の矢印A1で示すように、径方向に小さくなる(縮径する)ように変形する。
【0060】
固定部材12は、貫通孔10に挿入されると、係止部13が貫通孔10に係止された状態となる。固定部材12は、係止部13が貫通孔10に係止された状態では、変形部15が元の形状に戻っている。固定部材12は、ストッパ部131が貫通孔10の内側(裏側)の端縁に接触することで、挿入方向D1への移動が規制されている。
【0061】
図5(b)に示すように、固定部材12は、たとえば、コード部材9を引っ張る向きに力が加えられ、コード部材9が貫通孔10から引き抜かれようとした場合、壁1bの裏側から表側に向けた引き抜き方向D2に進行しようとする。この場合、変形部15が貫通孔10の外側の端部や内周面10aに接触して引き抜き方向D2への移動が規制されている。変形部15の移動が規制された状態でコード部材9に固着されている保持部14が引き抜き方向D2に進行しようとすることで、図中の矢印Bで示すように、係止部13と保持部14との間に位置する変形部15が保持部14に引き抜き方向D2に圧迫される。
【0062】
変形部15は、保持部14に圧迫されることで、軸方向に潰れて、図中の矢印A2で示すように、径方向に大きくなる(拡径する)ように変形する。これにより、変形部15は、貫通孔10の外側の端部や内周面10aに接触して、コード部材9を引っ張る向きの力に抗して引き抜き方向D2への移動が規制される。
【0063】
上記した実施形態によれば、固定部材12は、係止部13によって貫通孔10に係止されており、係止部13が係止された状態では、たとえば、コード部材9が固定部材12の挿入方向D1とは反対の引き抜き方向D2に引っ張られると、コード部材9を保持している保持部14が係止部13に向けて移動する。これにより、変形部15が保持部14に圧迫されて係止部13と保持部14との間において径方向に広がるように変形するため、変形部15が貫通孔10の内側(裏側)の端縁や内周面10aに接触して抜けにくいものとなる。
【0064】
一方で、固定部材12は、貫通孔10に挿入される場合には、変形部15が径方向に収縮するように変形するため、挿入しやすい。
【0065】
このように、上記した実施形態によれば、固定部材12を、貫通孔10から抜けにくく、貫通孔10には挿入しやすくすることができる。
【0066】
また、変形部15は、保持部14に向けて縮径するように側面15aがテーパ形状であるため、固定部材12を保持部14から貫通孔10に挿入する場合、固定部材12の挿入が容易となる。また、変形部15の側面15aがテーパ形状であることから変形部15が径方向に変形しやすいため、固定部材12は、保持部14によって圧迫された変形部15が径方向に広がって、貫通孔10から抜けにくいものとなる。
【0067】
また、変形部15の側面15aが第1テーパ部と第2テーパ部の2つのテーパ部を有するため、変形部15は、非圧迫時において径方向の最大幅を抑えつつ、圧迫時には非圧迫時よりも径方向に大きくなる。これにより、固定部材12は、挿入しやすく抜けにくいものとなる。
【0068】
また、第1テーパ部15aaが第2テーパ部15abよりも軸方向に短いため、変形部15の圧迫時には貫通孔10付近で径方向に広がる。これにより、変形部15が貫通孔10の内側(裏側)の端縁や内周面10aに対して早期に接触し、固定部材12は、貫通孔10から抜けにくいものとなる。
【0069】
また、第2テーパ部15abが軸方向に長いため、固定部材12を貫通孔10に挿入する場合には、挿入しやすい。
【0070】
また、保持部14の基端部14bによって変形部15を潰しやすいため、変形部15の圧迫時には径方向に広がりやすい。これにより、固定部材12は、貫通孔10から抜けにくいものとなる。また、変形部15は、その挿入方向D1について先端径が小さいため、貫通孔10に挿入しやすい。
【0071】
また、変形部15は、硬度がより高い係止部13と保持部14との間に挟まれているため、圧迫時には拡径しやすい。さらに、係止部13および保持部14は円筒形状に構成されているため、係止部13および保持部14は軸方向に変形しにくくなっており、変形部15の変形に効果的に作用する。
【0072】
また、ストッパ部131によって、係止部13が貫通孔10を通過してしまうのを規制することができる。これにより、固定部材12は、たとえば、その挿入方向D1に押し込まれても、挿入方向D1に抜けにくいものとなる。
【0073】
なお、上記した実施形態では、貫通孔10が便器1(便器本体1a)の表側よりも裏側の方が大径な孔であるが、これに限定されず、貫通孔10が裏側よりも表側が大径な孔であってもよい。また、貫通孔10は、表側と裏側が等しい径となる孔であってもよい。これらの貫通孔10に上記した固定部材12を用いても、挿入しやすく、抜けにくいものとなる。
【0074】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 衛生陶器(水洗大便器)
9 コード部材
10 貫通孔
12 固定部材
13 係止部
14 保持部
14b 基端部
15 変形部
15a 側面
15aa 第1テーパ部
15ab 第2テーパ部
図1
図2
図3
図4
図5