(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】滑剤塗布機構及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20240501BHJP
G03G 21/14 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G03G21/00 512
G03G21/00
G03G21/14
(21)【出願番号】P 2020099007
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 邦章
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-067570(JP,A)
【文献】特開2015-132670(JP,A)
【文献】特開2013-020232(JP,A)
【文献】特開2013-225093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0157208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/34
G03G 15/00
G03G 15/36
G03G 21/00
G03G 21/02
G03G 21/04
G03G 21/10-21/12
G03G 21/14
G03G 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形化された滑剤棒と、前記滑剤棒から滑剤を掻き取り画像形成装置の像担持体に供給する塗布ブラシと、前記塗布ブラシに滑剤棒を押圧する滑剤押圧部と、前記塗布ブラシの回転駆動を制御する制御部とを備え、前記像担持体に滑剤を塗布する滑剤塗布機構であって、
前記制御部は、前記塗布ブラシの回転数を
、画像形成動作時に前記像担持体に滑剤を塗布する時の回転数に対して低回転数に制御して、当該回転数に対応する前記塗布ブラシの駆動負荷の値を検出する検出モードを実行し、当該検出時の前記塗布ブラシの駆動負荷の値又は/及び前記塗布ブラシの回転数に基づき前記滑剤棒の残量を推定する滑剤塗布機構。
【請求項2】
前記制御部は、前記像担持体と前記塗布ブラシの線速が同等となるように前記塗布ブラシの回転数を制御する検出モードを実行した時の前記塗布ブラシの駆動負荷の値と所定の判断基準と比較して前記滑剤棒の残量を推定する請求項
1に記載の滑剤塗布機構。
【請求項3】
前記制御部は、前記塗布ブラシの駆動負荷の値が略ゼロとなるように前記塗布ブラシの回転数を制御する検出モードを実行した時の前記塗布ブラシの回転数と所定の判断基準と比較して前記滑剤棒の残量を推定する請求項
1に記載の滑剤塗布機構。
【請求項4】
前記制御部は、画像形成装置の環境温度を検出し、前記所定の判断基準は検出した温度に応じて変更する請求項
2又は請求項3に記載の滑剤塗布機構。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のうちいずれか一に記載の滑剤塗布機構を備える画像形成装置であって、
前記制御部は、前記検出モードを実行する前に、前記像担持体の滑剤塗布量を所定値に安定させるために前記像担持体及び前記塗布ブラシを所定時間回転させる予備動作を実行する画像形成装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
4のうちいずれか一に記載の滑剤塗布機構を備える画像形成装置であって、
前記制御部は、前記滑剤棒の残量を推定した結果に応じて画像形成条件を変更する画像形成装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
4のうちいずれか一に記載の滑剤塗布機構を備える画像形成装置であって、
前記制御部は、前記像担持体若しくは塗布ブラシの走行距離、又はそれらの駆動時間に基づき、所定のタイミングで前記検出モードを実行する画像形成装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記滑剤棒の残量を推定した結果に応じて前記所定のタイミングを変更する請求項
7に記載の画像形成装置。
【請求項9】
請求項1から請求項
4のうちいずれか一に記載の滑剤塗布機構を備える画像形成装置であって、
前記制御部は、前記滑剤棒の残量を推定した結果に応じて前記滑剤棒の交換時期を通知する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式により記録材上に画像を形成する複写機、プリンタ、ファクシ
ミリ等の画像形成装置に関するものである。詳しくは、感光体等の被清掃体上に滑剤を
塗布する滑剤塗布機構を有する画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置は、高解像度、写真再現性など、画質向上が要求さ
れており、現像剤であるトナーの小粒径化は、画質を向上するための有力な手段の一つと
なっている。しかし、重合法等により製造した小粒径のトナーは、転写プロセス後に感光
体等の像担持体上に残ってしまうと、像担持体上に強固に付着してしまうため、クリーニ
ングブレード等により十分に除去することが出来ない。そこで、像担持体の摩擦係数を低
下させる物質を像担持体上に供給するという技術が提案されている。例えば、ステアリン
酸亜鉛等からなる滑剤をブラシにより像担持体上に塗布する技術である 。滑剤を像担持体上に塗布すれば、トナーの付着力が低下し、クリーニングブレード等によりトナーを十分に除去することが出来る。
【0003】
ここで、従来の滑剤塗布機構の具体例につき説明する。
滑剤塗布機構は、滑剤を固形化した滑剤棒を塗布ブラシに押圧し、塗布ブラシを回転させることで滑剤棒から滑剤を掻き取り、感光体に供給する。またクリーニングブレードの下流側に塗布ブラシを設ける場合、塗布ブラシの下流に供給された滑剤を被膜化するための固定化手段(ブレード)が設けられる。
滑剤棒は保持板金に両面テープで貼り付けて保持され、塗布ブラシに対して上方から押圧する形態と、下方から押圧する形態がある。上方から押圧する形態では滑剤棒の自重を利用して塗布ブラシに押圧する場合がある。下方から押圧する形態では、圧縮バネやねじりコイルバネを滑剤棒の保持板金とケーシングの間に設けて押圧したり、あるいは揺動するアームを保持板金の両端に取り付け、アーム間に設けられた引張ばねでアームを引っ張ることで押圧する手段がある。配置の自由度や付与する押圧力の自由度から、バネの力を利用した押圧手段が一般的である。
【0004】
滑剤棒は耐久により消耗し、保持板金の位置は耐久により塗布ブラシに近づくため、押圧手段の押圧力は次第に低下していく。押圧力が低下すると塗布ブラシが掻き取る滑剤の量が減少するため、感光体の滑剤塗布量が減少する。滑剤塗布量が減少すると、クリーニング不良や、転写不良、感光体の減耗量増加に伴う画像不良など様々な問題が発生するため、耐久に伴い塗布ブラシの回転数を徐々に速くして滑剤塗布量をキープする対策がなされている。
しかし滑剤棒が無くなると滑剤塗布量をキープすることはできなくなるため、滑剤塗布を行うドラムユニットか滑剤棒の交換を行う。
滑剤棒の消費速度(=滑剤消費量/感光体走行距離)はある程度決まっており、感光体走行距離を管理することで、交換の目安として使用されるが、ユーザーの使用環境(画像パターン、使用環境など)によっては消費速度もばらつくため、滑剤が枯渇後にも使用されてしまう場合ある。
以上のような不具合を解消するため、滑剤棒の残量検知が行われている。フォトセンサーや変位センサーで滑剤棒の位置を直接検出する装置や、抵抗体と組み合わせた電流検出装置や接点の導通検出装置が実用化あるいは提案されている(特許文献1-3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-225847号公報
【文献】特開2011-107592号公報
【文献】特開2013-195899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の滑剤棒の残量検知によると、専用の検出手段や検出回路が必要となることから、コストアップ及び設置スペースの問題がある。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、ハードウエア要素の増加を抑えて滑剤棒の残量を推定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の滑剤塗布機構は、固形化された滑剤棒と、前記滑剤棒から滑剤を掻き取り画像形成装置の像担持体に供給する塗布ブラシと、前記塗布ブラシに滑剤棒を押圧する滑剤押圧部と、前記塗布ブラシの回転駆動を制御する制御部とを備え、前記像担持体に滑剤を塗布する滑剤塗布機構であって、前記制御部は、前記塗布ブラシの回転数を、画像形成動作時に前記像担持体に滑剤を塗布する時の回転数に対して低回転数に制御して、当該回転数に対応する前記塗布ブラシの駆動負荷の値を検出する検出モードを実行し、当該検出時の前記塗布ブラシの駆動負荷の値又は/及び前記塗布ブラシの回転数に基づき前記滑剤棒の残量を推定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転数に対応する塗布ブラシの駆動負荷の値を検出する検出モードの実行により滑剤棒の残量を推定することができるので、ハードウエア要素の増加を抑えて滑剤棒の残量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】画像形成装置の感光体ドラムと滑剤塗布機構を示す図である。
【
図2】画像形成装置の主要な機能的構成を示したブロック図である。
【
図3】画像形成装置の感光体ドラムと滑剤塗布機構を示す図で、耐久初期の状態を示す。
【
図4】画像形成装置の感光体ドラムと滑剤塗布機構を示す図で、耐久末期の状態を示す。
【
図5】画像形成装置の感光体ドラムと滑剤塗布機構を示す図で、検出方法1の検出モード時の状態を示す。
【
図6】画像形成装置の感光体ドラムと滑剤塗布機構を示す図で、検出方法2の検出モード時の状態を示す。
【
図7】塗布ブラシの線速比θと摩擦力との関係示すグラフである。
【
図9】塗布ブラシの線速比θと摩擦力F1との関係を温度別に示すグラフである。
【
図10】滑剤棒残量推定に係る処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0012】
本実施形態は以下の構成を含む電子写真方式の画像形成装置である。
図1に、本実施形態明の画像形成装置の像担持体としての感光体ドラム1に滑剤を塗布する滑剤塗布機構が示される。
図2に画像形成装置の主要部の構成が示される。
感光体ドラム1は反時計方向に回転し、クリーニングブレード2が当接しており、クリーニングブレード2によりトナーや外添剤を除去する。感光体ドラム1の周面の流れに沿ってクリーニングブレード2の下流に塗布ブラシ3が感光体ドラム1と当接し時計方向に連れ回り回転する。塗布ブラシ3は感光体ドラム1に対して軸間距離が一定で、押込み量(オーバーラップ分)が1mmになるように保持されている。また感光体ドラム1に対する塗布ブラシ3の線速比θは初期値として1を超える値、例えば1.3に設定されており、耐久や環境によって線速比θは適宜変更される。
【0013】
固形化された滑剤棒4が押圧バネ5の弾性力で塗布ブラシ3に押圧されている。塗布ブラシ3は回転することで滑剤棒4から滑剤を掻き取り感光体ドラム1に供給する。押圧バネ5は塗布ブラシ3に滑剤棒を押圧する滑剤押圧部である。滑剤棒4が消費により短くなるにつれて押圧バネ5の弾性力による滑剤棒4と塗布ブラシ3との押圧力はフックの法則に従い小さくなっていき、これに伴い塗布ブラシ3と滑剤棒4との間の摩擦力(F2)は小さくなっていく。
塗布ブラシ3の下流側に固定化ブレード6が感光体ドラム1に対して先端当接部が下流向きで当接されている。
【0014】
塗布ブラシ3は駆動モータ7と接続されており、制御部10の制御により単独で回転数を変更することができる。また駆動モータ7の電流値を測定することで駆動負荷を測定できるようになっており、制御部10にその電流値が入力される。
画像形成装置100の制御部10は、塗布ブラシ3の回転駆動の制御を含め、画像形成動作の制御及び滑剤棒の残量を推定するための検出モードの制御等を司る。
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13等を備える。CPU11は、ROM12から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM13に展開し、展開したプログラムと協働して画像形成装置100の各部の動作を集中制御する。電子写真方式の画像形成部20は、感光体ドラム1に静電潜像を描画する露光装置21、当該静電潜像をトナー像に現像する現像部22、その他帯電装置等の周知の構成を含む。画像形成装置100には、画像形成部20のほか、画像読取部、操作表示部、画像データを処理する画像処理部、中間転写ユニット、用紙搬送部、定着部、記憶部、通信部等が適宜に含まれる。
【0015】
図3及び
図4に塗布ブラシ3の回転に伴って発生する摩擦力F(F1,F2)が示される。
図3は耐久初期で滑剤棒4の残量が十分にある状態を、
図4は耐久末期で滑剤棒4の残量がごくわずかな状態を示している。
塗布ブラシ3に働く摩擦力Fは、感光体ドラム1との間の摩擦力F1と滑剤棒4との間の摩擦力F2の合力となる。線速比θ>1の設定時は摩擦力F1、F2のどちらも塗布ブラシ3に対してブレーキ側に働く(すなわち、摩擦力F1,F2のどちらも塗布ブラシ3を減速させる作用を奏する。)
【0016】
摩擦力F1は塗布ブラシ3の感光体ドラム1に対する押込み量とブラシの繊維の剛性度、感光体ドラム1の摩擦係数に依存する。耐久を通して塗布ブラシ3の外径変化はごくわずかであり、押込み量の変動は無視できる。またブラシの繊維の剛性度は温度に依存し、高温になる程低くなるため、摩擦力F1は温度に対して変動する。また感光体ドラム1の摩擦係数は滑剤塗布量に依存するが、滑剤塗布量が所定量以上あれば摩擦係数の変動は無視できる。
【0017】
摩擦力F2は滑剤押圧力に比例するが、滑剤押圧力は押圧バネ5の変位量に比例する。滑剤棒4は耐久に伴い消耗してくるので、押圧バネ5は耐久に伴い変位量が減少する。そのため、摩擦力F2は耐久に伴い低下する。したがってΔF2(=初期状態のF2-現在のF2)を測定することで、滑剤棒4の残量を推定することができる。しかし、一般的に画像形成動作時に感光体ドラム1に滑剤を塗布ブラシ3が塗布する時(以下「通常稼働時」という。)の塗布ブラシ3の回転数は比較的大いため、
図3,
図4に示すようにF1>F2となる。したがって、この状態で駆動モータ7の駆動負荷を測定しても、ΔF2を検出することは難しい。
【0018】
制御部10は、塗布ブラシ3の回転数を制御して、当該回転数に対応する塗布ブラシ3の駆動負荷の値を検出する検出モードを実行し、当該検出時の塗布ブラシ3の駆動負荷の値又は/及び塗布ブラシ3の回転数に基づき滑剤棒4の残量を推定する。
制御部10は検出モードにおいて、塗布ブラシ3の回転数を感光体ドラム1の回転数に対して可変制御する、すなわち、線速比θを可変制御することで、検出力を高めて精度良く滑剤棒4の残量を推定することができる。
【0019】
図5及び
図6に、検出モード実行時の塗布ブラシの動作状態が示される。
図5は検出方法1を、
図6は検出方法2における動作状態を示している。どちらの検出方法も駆動モータ7の駆動負荷を測定して滑剤棒4の残量を推定する部分は共通であり、通常稼働時とは異なる線速比θに制御される。以下にその詳細について説明する。
【0020】
〈検出方法1〉
制御部10は、線速比θ=1として塗布ブラシ3の駆動負荷を測定する。すなわち、制御部10は、感光体ドラム1と塗布ブラシ3の線速が同等となるように塗布ブラシ3の回転数を制御する検出モードを実行する。制御部10は、この時の塗布ブラシ3の駆動負荷の値に基づき滑剤棒4の残量を推定する。制御部10は、塗布ブラシ3の駆動負荷の値と所定の判断基準と比較して滑剤棒4の残量を推定する。
この検出モードによれば、
図5に示すように摩擦力F1はほぼゼロとなり、駆動負荷はF2だけとなるため、ΔF2の検出力が高くなる。なお、線速比θは塗布ブラシ3の設計上の外径と回転数から計算される値から算出され、設定誤差は±2%程度(感光体線速500mm/sの場合、塗布ブラシ線速は490~510mm/s)は許容できる。
【0021】
〈検出方法2〉
制御部10は、線速比θ<1の領域に塗布ブラシ3の回転数を変化させ、塗布ブラシ3の駆動負荷が略ゼロとなる線速比θを検出する。すなわち、制御部10は、塗布ブラシ3の駆動負荷の値が略ゼロとなるように塗布ブラシ3の回転数を制御する検出モードを実行する。制御部10は、この時の塗布ブラシ3の回転数に基づき滑剤棒4の残量を推定する。制御部10は、塗布ブラシ3の回転数と所定の判断基準と比較して滑剤棒4の残量を推定する。
θ<1とすると
図6に示すように摩擦力F1は塗布ブラシ3に対してアシスト側に働く(すなわち、摩擦力F1は塗布ブラシ3を増速させる作用を奏する。摩擦力F2は塗布ブラシ3を減速させる作用を奏する。)
そして、制御部10が塗布ブラシ3の駆動負荷の値が略ゼロとなるようにフィードバック制御すれば、摩擦力F1と摩擦力F2とが相殺されている状態をつくり出すことができる。
【0022】
図7は横軸に線速比θ、縦軸に塗布ブラシ3の駆動負荷を取り、線速比θと摩擦力F、摩擦力F1,F2との関係を示すグラフである。グラフ上において実線(F,F1,F2)が初期、点線(F´,F2´)が耐久末期を示し、θ=1付近の拡大図を
図8に抽出した。
【0023】
線速比θは、塗布ブラシ3の線速/感光体ドラム1の線速で表されるため、線速比θ=0は塗布ブラシ3が停止状態であることを意味している。
摩擦力F1は、感光体ドラム1との間の摩擦力になるので、線速比θ=1の時にゼロになり、θ<1では感光体ドラム1が塗布ブラシ3を追い抜くので、負の領域になる。
摩擦力F2は、滑剤棒4との間の摩擦力なので、塗布ブラシ3が停止状態の線速比θ=0でゼロになり、塗布ブラシ3が動き出すと一様に増加する。
また先述したように耐久によって摩擦力F1は変動することはなく、摩擦力F2は次第に減少する。摩擦力Fは摩擦力F1と摩擦力F2の合力になるため、図示したような推移となる。
【0024】
検出方法1は、線速比θ=1として駆動負荷を検出する検出モードとなるため、
図8に示すように初期(F)に対して耐久後(F´)には縦方向の矢印で示す変動ΔFが生じている。
検出方法2は、塗布ブラシ3の駆動負荷がゼロになる線速比θに制御するので、横方向の矢印で示す変動Δθが生じている。
【0025】
図9は線速比θと摩擦力F1との関係を示すグラフである。実線は23℃(通常環境)、点線は30℃、1点鎖線は10℃の時の推移である。高温になると塗布ブラシ3の繊維のヤング率が低下するため、傾きは緩やかになり、低温になるとヤング率が高くなるため、傾きは急峻になる。
この温度による摩擦力F1の差は、通常環境の値を知ることで予測することが可能であり、新品の感光体ドラム1がセットされた早い段階でかつ通常環境を検出したときに線速比θを可変制御して駆動負荷を測定し、基準値として保持しておく。
検出モード実行時の周辺温度を測定しておき、基準値に対して検出温度の変換係数を掛け合わせた値を用いて判定を行う。つまり、検出モードが実行される温度によっては摩擦力F1は変動(F2は変動しない)するため、測定した駆動負荷を通常環境の値に変換を行い、初期値と比較を行うことで、残量の推定精度を向上させる。
また、変換係数を掛け合わせるのではなく、各温度でのテーブルを用意して判定を行ってもよい。
以上のように制御部10は、画像形成装置100の環境温度を検出し、所定の判断基準は検出した温度に応じて変更する。
【0026】
図10は本実施形態の滑剤棒残量推定に係る処理の流れを示したフローチャートである。
ステップS1―S6は、感光体ドラム1又は滑剤棒4が交換されたときに実行する基準値の登録(上述)までのフローに相当する。ステップS7以降は、画像形成の通常稼働時から検出モードの実行、各種判断処理のフローに相当する。
まず、制御部10は、感光体ドラム1又は滑剤棒4が交換されたら(S1)、判断基準値を得るために、周辺温度(画像形成装置100の環境温度)を検出し(S2)、周辺温度が規定の範囲内であれば(S3でYES)、感光体ドラム1の滑剤塗布量を所定値に安定させるために感光体ドラム1及び塗布ブラシ3を所定時間回転させる予備動作を実行し(S4)、塗布ブラシ3の回転数を落として検出モードを実行する(S5)。ここで制御部10は、上記検出方法1又は2の検出モードを適用する。
制御部10は、検出モードで得られた判断基準値(駆動負荷の値又は線速比θ)をステップS2の周辺温度とともに登録する(S6)。
【0027】
その後、制御部10は通常画像形成に移行して塗布ブラシ3を通常稼働時の回転数にするとともに(S7)、感光体ドラム1の走行距離の積算を開始する(S8)。
検出モード実行までのタイミング閾値は、所定値1として予め登録されている。ここでは感光体走行距離を用いて所定値1を規定している。
制御部10は、感光体ドラム1の走行距離の積算値が所定値1に到達したら(S9でYES)、ステップS4と同様に感光体ドラム1の滑剤塗布量を所定値に安定させるために感光体ドラム1及び塗布ブラシ3を所定時間回転させる予備動作を実行し(S10)、塗布ブラシ3の回転数を落としてステップS5と同じ方法による検出モードを実行する(S11)。なお、予備動作は、感光体ドラム1の滑剤量を安定させるための動作であり、非画像形成動作を所定時間実施したり、あるいは定例で行う画像安定化動作を行ったりする。また、感光体ドラム1の走行距離に限らず、感光体ドラム1若しくは塗布ブラシ3の走行距離、又はそれらの駆動時間に基づき、制御部10が所定のタイミングで検出モードを実行することとしてもよい。
【0028】
また制御部10は、検出モードの実行(S11)と並行して周辺温度(画像形成装置の環境温度)を検出し(S12)、ステップS6で登録された周辺温度と今回の周辺温度との相違量に応じて、ステップS6で登録された判断基準値を変更する温度補正を行う(S13)。
制御部10は、ステップS13で補正した補正基準値と、ステップS11の検出モードによって検出した検出値(検出方法1の場合は塗布ブラシ3の駆動負荷、検出方法2の場合は塗布ブラシ3の線速比θ)とを比較し(S14)、滑剤棒4の残量を推定する(S15)。
【0029】
制御部10は、ステップS15で推定した滑剤棒4の残量と比較判断するための所定値2,3,4を予め設定している。
所定値2は、検出モードの実行タイミングの変更閾値である。
制御部10は、ステップS15で推定した滑剤棒4の残量が所定値2に到達していたら(S16でYES)、所定値1の実行タイミングを変更する(S17)。耐久末期は検出タイミングを頻繁に行うことで、滑剤枯渇による不具合発生を防止するためである。
【0030】
所定値3は、画像形成条件の変更タイミングの閾値である。
制御部10は、ステップS15で推定した滑剤棒4の残量が所定値3に到達していたら(S18でYES)、画像形成条件の変更を行う(S19)。滑剤棒の残量が低下すると滑剤押圧力が低下し、滑剤消費量が減少するため、感光体ドラム1上の滑剤量が減少する。したがって、これを補正するため、塗布ブラシ3の線速比θを速くして滑剤消費量を一定に保つなどの画像形成条件の変更を行う。所定値3については多段階に複数の値を設け、塗布ブラシ3の線速比θ等の画像形成条件が多段階で変更されるようにしてもよい。
【0031】
所定値4は、滑剤棒4の寿命判断の閾値である。
制御部10は、ステップS15で推定した滑剤棒4の残量が所定値4に到達していたら(S20でYES)、滑剤棒4の交換時期の到来を通知する(S21)。滑剤枯渇による不具合を防止するためである。所定値4も、多段階に複数あってもよく、多段階で交換時期を通知してもよい。交換時期の通知は、パネル上に表示したり、サービスセンターへの通知などがある。また制御部10は交換時期の通知する一方、最終段階の判断として画像形成動作を中止できることとしてもよい。
【0032】
(作用効果その他まとめ)
以上の実施形態によれば、回転数(線速比θ)に対応する塗布ブラシ3の駆動負荷の値を検出する検出モードの実行により滑剤棒4の残量を推定することができるので、検出回路などのハードウエア要素の増加を抑えて滑剤棒4の残量を推定することができる。そのため、安価に滑剤棒の残量検知機能を実現することができる。
上記検出方法1,2の検出モードでは、塗布ブラシ3の線速比θ及び駆動負荷の値のうちいずれか一方を規定値に制御したが、塗布ブラシ3の線速比θ及びこれに対応する駆動負荷の値の少なくとも一組を検出し、
図7にプロットし、グラフFからグラフF´にどれくらい近寄っているかによって滑剤棒4の残量を推定することができる。例えば
図7に示すような2次元グラフF´を判断基準値として機種ごとに予め得ておけば実施可能である。すなわち、制御部10は、塗布ブラシ3の回転数を制御して、当該回転数に対応する塗布ブラシ3の駆動負荷の値を検出する検出モードを実行し、当該検出時の塗布ブラシ3の駆動負荷の値及び塗布ブラシ3の回転数に基づき滑剤棒の残量を推定することも可能である。
しかし、上述したように通常稼働時の回転数などの高回転域で摩擦力F1の成分が大きく、摩擦力F2を精度よく検出することが難しい。したがって、制御部10は、塗布ブラシ3の回転数を、通常稼働時の回転数に対して低回転数に制御して検出モードを実行する。これにより摩擦力F1の影響を低減して摩擦力F2の検出精度を向上する。上記検出方法1,2もこれに相当する。
上記検出方法1では摩擦力F1をほぼゼロに低減して摩擦力F2の検出精度を向上する。上記検出方法2では、摩擦力F1と摩擦力F2を逆方向で吊り合わせることで、動作状態を安定させ、摩擦力F2の検出精度を向上する。また、上記検出方法1,2では、上記ステップS1-S6のように判断基準値の取得を画像形成装置の個体ごとに、しかも影響する要素の交換ごとに実施することも容易である(
図7に示すような2次元グラフF´の取得は必須ではない)。
以上のように塗布ブラシ3の回転数を変更して残量検知を行うので、滑剤棒4の耐久に応じた変動成分である摩擦力F2の検出感度が高まり滑剤棒4の残量検知の推定精度が向上する。
さらに残量検知結果から検出モードの実行タイミングの変更、画像形成条件の変更、交換時期の通知を適宜に行うことで、安定した画像を維持することができるとともに、画像不良の発生を未然に防止することができる。
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣
旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【符号の説明】
【0033】
1 感光体ドラム
2 クリーニングブレード
3 塗布ブラシ
4 滑剤棒
5 押圧バネ
6 固定化ブレード
7 駆動モータ
10 制御部
20 画像形成部
100 画像形成装置
F 摩擦力(駆動負荷)