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  • 特許-真空ポンプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020110641
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007580
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小亀 正人
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-090384(JP,A)
【文献】特開2015-229936(JP,A)
【文献】特開2015-229935(JP,A)
【文献】特開平10-002294(JP,A)
【文献】特開2005-264802(JP,A)
【文献】特開2006-046074(JP,A)
【文献】特開2019-173759(JP,A)
【文献】特開2017-089582(JP,A)
【文献】特許第6289148(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 37/16
F04C 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに形成されたロータ円筒部と、
前記ロータ円筒部の外周側に隙間を介して配置されるステータ円筒部と、
前記ステータ円筒部の外周側に設けられ、線膨張係数が前記ステータ円筒部の線膨張係数よりも小さな材料で形成され、前記ステータ円筒部の下端の熱膨張を抑制する、輪体状の膨張規制部材と、を備え、
前記膨張規制部材は、前記ステータ円筒部の下端を含む軸方向の少なくとも一部の領域に設けられている、真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記膨張規制部材は、前記ステータ円筒部の外周に装着された筒状の膨張規制部材であり、前記膨張規制部材の内周面の少なくとも一部が、前記ステータ円筒部の外周面に密着している、真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空ポンプにおいて、
前記膨張規制部材は、前記ステータ円筒部の外周面の軸方向の全長の長さを有する、真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の真空ポンプにおいて、
前記ステータ円筒部はアルミ材により形成され、前記膨張規制部材はステンレス材により形成されている、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程におけるドライエッチングやCVD等のプロセスでは、プロセスを高速で行うために大量のガスを供給しながら処理が行われる。これらのプロセスを行う半導体製造装置においては、一般的に、プロセスチャンバを真空排気する真空ポンプとしてターボ分子ポンプが使用される。これらのプロセスにターボ分子ポンプを使用した場合に、プロセスガスの種類によってはポンプ内に生成物が付着することがある。特に、生成物における圧力と昇華温度との関係から、圧力の比較的高いネジ溝ポンプ部において生成物付着が生じやすい。
【0003】
そのため、特許文献1に記載のターボ分子ポンプでは、ヒータと水冷管とをポンプベースに設け、ヒータの通電と冷却水の供給とを制御することにより、ネジステータ等におけるガス流路温度が設定温度以下とならないように監視し、生成物付着を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-278692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体エッチング装置では、蒸気圧が高く昇華しにくい材料を使用することが多くなり、生成物付着防止のための温調温度が高くなる傾向にある。しかしながら、温調温度が高くなるとネジステータ等の熱膨張量が大きくなり、ネジステータとロータとの隙間が拡がって排気性能が悪化するという問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様による真空ポンプは、ロータに形成されたロータ円筒部と、前記ロータ円筒部の外周側に隙間を介して配置されるステータ円筒部と、前記ステータ円筒部に設けられ、線膨張係数が前記ステータ円筒部の線膨張係数よりも小さな材料で形成された輪体状の膨張規制部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステータの熱膨張が抑制され、排気性能の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ターボ分子ポンプの断面図である。
図2図2は、熱膨張による排気性の悪化を説明する図である。
図3図3は、ステータおよび膨張規制部材の他の例を示す図である。
図4図4は、変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、真空ポンプの概略構成を模式的に示したものであり、ターボ分子ポンプ1の断面図である。ターボ分子ポンプ1は、複数段のステータ翼30と複数段のロータ翼40とで構成されるターボポンプ段と、ステータ31とロータ円筒部41とで構成されるネジ溝ポンプ段とを有している。なお、本実施の形態では真空ポンプとしてターボ分子ポンプを例に説明するが、本発明はターボ分子ポンプに限らず、ネジ溝ポンプ段を備える種々の真空ポンプに適用することができる。
【0010】
ロータ翼40およびロータ円筒部41はポンプロータ4aに形成されている。ポンプロータ4aは、複数のボルト50によりロータ軸であるシャフト4bに締結されている。ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト50で締結して一体とすることで、回転体4が形成される。シャフト4bは、ベース3に設けられた磁気軸受34,35,36によって磁気浮上支持される。詳細な図示は省略したが、各磁気軸受34~36は電磁石と変位センサとを備えている。変位センサによりシャフト4bの浮上位置が検出される。
【0011】
複数段のステータ翼30は、ポンプロータ4aの軸方向に設けられた複数段のロータ翼40に対して交互に配置されている。各ステータ翼30は、スペーサリング33を介してポンプ軸方向に積層されている。ステータ31はボルト39によりベース3に固定されている。ステータ31は、図示上端付近に形成されたフランジ状の固定部311をボルト39でベース3に固定することにより、ベース3に取り付けられている。筒状のステータ31の外周面には、ステータ31よりも線膨張係数の小さな材料で形成された、筒状の膨張規制部材32が装着されている。本実施の形態では、ステータ31の内周面にネジ溝が形成されているが、一般には、ステータ31またはロータ円筒部41のいずれかにネジ溝が形成されている。
【0012】
ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト締結した回転体4は、モータ10により回転駆動される。磁気軸受が作動していない時には、シャフト4bは非常用のメカニカルベアリング37a,37bによって支持される。回転体4をモータ10により高速回転すると、ポンプ吸気口側の気体は、ターボポンプ段(ロータ翼40、ステータ翼30)により排気された後、後段に設けられたネジ溝ポンプ段(ロータ円筒部41、ステータ31)によりさらに排気され、排気ポート38から排出される。排気ポート38には補助ポンプが接続される。
【0013】
上述したように、半導体エッチング装置では、蒸気圧が高く昇華しにくい材料を使用することが多い。そのようなエッチング装置の排気にターボ分子ポンプを使用した場合、ポンプ内に生成物が付着しやすい。ターボ分子ポンプ1では、ネジ溝ポンプ段(特に、ステータ31)に生成物が付着するのを防止するために、ベース3の外周に装着されたヒータ60による温調により、ステータ31を生成物付着が防止できる温度に昇温するようにしている。
【0014】
ところで、ヒータ60によりベース3を加熱してステータ31を昇温すると、ステータ31が熱膨張して、ステータ31とロータ円筒部41とのギャップ寸法が大きくなる。このギャップ寸法は、ネジ溝ポンプ段の排気性能に寄与するパラメータの一つであり、ギャップ寸法が大きくなると排気性能が低下する。
【0015】
図2は、ステータの熱膨張を模式的に示した図である。ネジ溝ポンプ段(ステータ31Aおよびロータ円筒部41)の部分の拡大図である。図2のステータ31Aは、膨張規制部材32が設けられていない、従来の一般的なステータを示したものである。図2のステータ31Aにおいて、破線は温調を行わないときの熱膨張前の形状を示しており、実線は熱膨張後の形状を示している。G0は温調しない場合の熱膨張前のギャップ寸法であり、G1は熱膨張後のギャップ寸法である。なお、ステータ31Aの固定部311から離れた位置の熱膨張による拡がりは固定部分に比べて大きく、ギャップ寸法も上部領域に比べて大きくなっている。
【0016】
ターボ分子ポンプ1の温度は、温調無しの場合の室温から温調時の90℃程度まで幅広く、温調温度はユーザが任意に設定変更することができる。そのため、ステータ31の寸法を、予め理想的なサイズに設定することはできない。例えば、3000L/sクラスのターボ分子ポンプでは、ロータ円筒部41とステータ31とのギャップ寸法G0は約0.5mm~1mm程度に設定される。温調によりステータ31の温度が30℃から90℃まで上昇すると、そのときのギャップ寸法G1はG0に対して0.3mm程度増加する。その結果、ターボ分子ポンプの排気性性能(例えば、排気速度)は10%~30%程度低下する。
【0017】
なお、図2に示す例では、ステータ31Aの外周面とベース3との間に隙間が形成されているが、ステータ31Aの外周面をベース3の内周面に密着せるような構成でも良い。そのように密着させた場合であっても、ヒータ60により温調を行うと、ベース3およびステータ31Aが昇温されて両方とも熱膨張し、図2の場合と同様に、ロータ円筒部41とステータ31とのギャップ寸法がG0からG1へと大きくなる。
【0018】
一方、図1に示すステータ31の場合、ステータ31に比べて線膨張係数のより小さな材料で形成された膨張規制部材32が、ステータ31に外周側に装着されている。ステータ31には、従来の場合と同様にアルミ材が用いられている。特に、本実施の形態のようにステータ31にネジ溝を形成する場合、切削性の良いアルミ材が適している。
【0019】
膨張規制部材32には、アルミ材に比べて線膨張係数が小さいステンレス材のような鋼材が用いられる。真空内で用いられる鋼材としては、一般に、耐腐食性を考慮してステンレス材が用いられるが、炭素鋼等の鋼材の表面に耐食性メッキを施したものを膨張規制部材32として用いても構わない。アルミ材の線膨張係数は23[×10-6/K]程度であるが、ステンレス鋼(SUS304)の線膨張係数は17[×10-6/K]程度であり、炭素鋼であれば10[×10-6/K]程度である。また、金属材料の代わりにセラミックス等を用いても構わない。
【0020】
膨張規制部材32とステータ31との嵌め合いは、締り嵌めでも良いし、隙間嵌めでも良い。隙間嵌めの場合にはステータ31に固定するための固定部が別途設けられるが、隙間嵌めの部分は隙間の分だけステータ31の膨張が可能だが、熱膨張によるギャップ変化量(0.3mm程度)に比べて隙間嵌めの隙間は十分小さいので、熱膨張による排気性能低下を十分抑制することができる。好ましくは、ステータ31と膨張規制部材32とが密着する締り嵌めがよい。また、ステータ31の軸方向における密着領域の範囲としては、膨張規制部材32の軸方向領域全体が密着していても良いし、軸方向に一部の領域が密着する構成でも良い。
【0021】
例えば、図3に示すように、ステータ31の下端を含む軸方向の一部領域に、膨張規制部材32が密着するように締り嵌めで設けても良い。ステータ31の温度が上昇して熱膨張が生じた場合、図2の実線で示すステータ31Aのように、ベース3に固定された固定部311から離れた下端領域においてより直径が拡張するように膨張する。そこで、ステータ31の軸方向の一部領域に膨張規制部材32を設ける場合には、図3のようにステータ31の下端を含む排気下流側に設けるが好ましい。
【0022】
(変形例)
図4は変形例を示す図である。変形例では、膨張規制部材32は、ステータ31の外周面全体を囲むように設けられ、膨張規制部材32の外周面にはフランジ状の固定部321が形成されている。膨張規制部材32の軸方向長さは、ステータ31の軸方向長さと同一に設定されている。締り嵌めによりステータ31と一体化された膨張規制部材32は、固定部321をベース3にボルト締結することにより、ベース3に固定される。変形例の場合には、ステータ31の軸方向領域の全体の熱膨張が、膨張規制部材32によって規制されることになる。
【0023】
なお、ネジ溝が形成されたステータ31そのものを線膨張係数の低い鋼材やステンレス材で形成することも考えられるが、その場合、本実施の形態の構成に比べて、加工が難しかったり、非常に高コストになったりする。
【0024】
上記説明では、膨張規制部材を円筒状としたが、たとえば、膨張規制部材を輪体(リング状)形状とし、軸方向に所定間隔を空けて複数個設けてもよい。この場合、複数の膨張規制部材をステータ31の外周面に適宜の方法で固定することが好ましい。ステータ31の外周面に輪体状の凹部を軸方向に所定間隔で複数設け、この凹部に膨張規制部材を固定してもよい。
あるいは、膨張規制部材を軸方向に延在する複数の帯板形状で構成し、ステータ31の外周面に周方向に所定角度ごとに配置し、それらの帯板形状の膨張規制部材を輪体状の膨張規制部材で結合するようにしてもよい。ステータ31の外周面に軸方向に所定間隔で凹溝を複数設け、この凹溝に膨張規制部材を固定してもよい。
また、ステータ31の熱膨張を規制する膨張規制部材は、ステータ31の外周に装着する構成に限らず、例えば、ステータ31の内部に設けるようにしても良い。
【0025】
上述した例示的な実施の形態および変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0026】
[1]一態様に係る真空ポンプは、ロータに形成されたロータ円筒部と、前記ロータ円筒部の外周側に隙間を介して配置されるステータ円筒部と、前記ステータ円筒部に設けられ、線膨張係数が前記ステータ円筒部の線膨張係数よりも小さな材料で形成された輪体状の膨張規制部材と、を備える。例えば、図1に示すように、ステータ31の固定部311よりも排気下流側の外周全体に、膨張規制部材32を設けるようにする。その結果、膨張規制部材32を設けられた部分のステータ31は、熱膨張による変形が膨張規制部材32により抑制されてギャップ寸法の増加を抑えることができ、排気性能の悪化を防止することができる。
【0027】
[2]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記膨張規制部材は、前記ステータ円筒部の外周に装着された筒状の膨張規制部材であり、前記膨張規制部材の内周面の少なくとも一部が、前記ステータ円筒部の外周面に密着している。膨張規制部材をステータ円筒部の外周面に密着して装着することにより、設けることにより、ステータ円筒部の熱膨張による変形を、より小さく抑えることができる。
【0028】
[3]上記[1]または[2]に記載の真空ポンプにおいて、前記膨張規制部材は、前記ステータ円筒部の外周面の軸方向の全長の長さを有する。例えば、図4に示すように、膨張規制部材32の軸方向長さをステータ31の軸方向全長と同一とすることで、ステータ31の軸方向全体について、膨張による変形を抑えることができる。
【0029】
[4]上記[1]から[3]までのいずれか一に記載の真空ポンプにおいて、前記膨張規制部材は、前記ステータ円筒部の外周面の排気下流側における軸方向の一部所定領域を覆う長さを有する。例えば、図3に示すように、熱膨張による変形がより大きいステータ31の排気下流側端部を含む外周面の一部領域に、円筒状の膨張規制部材32を設けるようにしても良い。
【0030】
[5]上記[1]から[4]までのいずれか一に記載の真空ポンプにおいて、前記ステータ円筒部はアルミ材により形成され、前記膨張規制部材はステンレス材により形成されている。ステンレス材はアルミ材よりも線膨張係数が小さく、耐腐食性も優れているので、真空ポンプ内に配置される膨張規制部材の材料として適している。
【0031】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…ターボ分子ポンプ、4a…ポンプロータ、31,31A…ステータ、32…膨張規制部材、42…ロータ円筒部
図1
図2
図3
図4