(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】制震装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240501BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 Z
F16F15/02 Q
(21)【出願番号】P 2020111202
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 重和
(72)【発明者】
【氏名】加田 奈々美
(72)【発明者】
【氏名】東田 豊彦
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-197864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直棒状の外形を有する少なくとも一本の芯材と、前記芯材を囲むように配置された剛体からなる一対の荷重伝達フレームと、を具備し、
一方の荷重伝達フレームが前記芯材の一端側に配置された構造要素に連結され、
他方の荷重伝達フレームが前記芯材の他端側に配置された構造要素に連結され、
前記芯材と前記一対の荷重伝達フレームとが前記芯材の軸方向に沿って相互に平行移動し得るように組み付けられ、
前記芯材の一端および他端の近傍には、それぞれ一か所の引張時受圧部材と一か所の圧縮時受圧部材とが、互いに適宜間隔を設けて取り付けられ、
一方の荷重伝達フレームには、引張加力時にいずれか一方の引張時受圧部材の他端側に当接して該引張時受圧部材を前記芯材の一端側へ押圧する第一の引張時加圧部材と、圧縮加力時にいずれか一方の圧縮時受圧部材の一端側に当接して該圧縮時受圧部材を前記芯材の他端側へ押圧する第一の圧縮時加圧部材と、が設けられ、
他方の荷重伝達フレームには、引張加力時にいずれか他方の引張時受圧部材の一端側に当接して該引張時受圧部材を前記芯材の他端側へ押圧する第二の引張時加圧部材と、圧縮加力時にいずれか他方の圧縮時受圧部材の他端側に当接して該圧縮時受圧部材を前記芯材の一端側へ押圧する第二の圧縮時加圧部材と、が設けられて、
圧縮加力時および引張加力時のいずれにおいても前記芯材に引張応力が生じるように形成された
ことを特徴とする制震装置。
【請求項2】
請求項1に記載された制震装置において、
前記各荷重伝達フレームは、前記芯材を挟んで平行に対置される一対のガーダープレートと、前記ガーダープレートの一端部同士または他端部同士を結合するエンドブロックと、を具備し、
前記一対の荷重伝達フレームが、それぞれのガーダープレートの対置方向を前記芯材の軸回りに直交させるようにして組み付けられており、
前記各引張時加圧部材および前記各圧縮時加圧部材は、前記芯材が遊挿される孔部を設けた加圧プレートを前記一対のガーダープレート間にそれぞれ結合して形成され、
前記各引張時受圧部材および前記各圧縮時受圧部材が前記芯材の径外方向に張り出すように形成されて前記各加圧プレートの片面に当接することにより押圧される
ことを特徴とする制震装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された制震装置において、
前記芯材に取り付けられた二か所の引張時受圧部材の相互間隔と、二か所の圧縮時受圧部材の相互間隔とが略同寸である
ことを特徴とする制震装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された制震装置において、
前記芯材には雄ねじ部が形成されるとともに、前記各引張時受圧部材および前記各圧縮時受圧部材には雌ねじ部が形成されて、前記雌ねじ部が前記雄ねじ部に螺合されることにより、前記各引張時受圧部材および前記各圧縮時受圧部材が、その位置を芯材の軸方向に沿って個別に調整し得るように取り付けられている
ことを特徴とする制震装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された制震装置において、
前記芯材は、少なくともその一部分が超弾性合金または形状記憶合金によって形成されている
ことを特徴とする制震装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載された制震装置において、
前記一方の荷重伝達フレームと前記他方の荷重伝達フレームとの間に前記芯材の軸方向に延びる一定幅の隙間が形成され、
前記隙間に粘弾性体が介装された
ことを特徴とする制震装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載された制震装置において、
前記一方の荷重伝達フレームの外側に抱持体が結合されて、
前記抱持体と前記他方の荷重伝達フレームとの間に前記芯材の軸方向に延びる一定幅の隙間が形成され、
前記隙間に粘弾性体が介装された
ことを特徴とする制震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、建築構造物等の制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物等の制震(制振)装置として、荷重を負担する金属部材の弾塑性変形によって振動エネルギーを吸収する履歴ダンパー(履歴型ダンパー、履歴減衰ダンパー)が公知である。この履歴ダンパーは、荷重負担力や耐久性には優れるが、過大な外力を受けると残留変形が生じるため、その変形量が許容値を超えた場合はダンパー自体の交換が必要になる。
【0003】
そこで、近年では、形状記憶合金や超弾性合金を利用した履歴ダンパー(履歴復元ダンパー)も提案されている(例えば、特許文献1~5等)。形状記憶合金は、弾性域を超える荷重によって生じた塑性ひずみ(非線形ひずみ)が、所定温度(変態温度)以上に加熱されると消失して元の形状を回復する、という特性を有し、超弾性合金は、その塑性ひずみが常温下でも除荷のみによって消失する、という特性を有する。この特性を利用することで、振動エネルギー等の吸収機能と残留変形の抑制機能とをバランスよく得ることができる。また、特許文献2および5には、形状記憶合金または超弾性合金を利用した履歴ダンパーと、粘性ダンパーまたは粘弾性ダンパーとを組み合わせて、減衰性能を向上させる技術的思想も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-271510号公報
【文献】特開2009-052097号公報
【文献】特開2012-197864号公報
【文献】特開2013-087908号公報
【文献】特開2017-089146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属部材の弾塑性変形を利用する履歴ダンパーは、振動エネルギーを吸収する金属部材に過大な圧縮荷重が作用すると座屈を生じて、減衰性能が低下する。このような履歴ダンパーを、例えばブレースのような細長い形態で利用しようとすると、座屈が生じないように金属部材を拘束する手段を講じなければならないので、装置構成が複雑になって嵩張ってしまう。
【0006】
そこで、本願が開示する発明は、引張・圧縮いずれの向きの荷重に対しても、振動エネルギーを吸収する金属部材には常に引張応力が生じるように構成された、合理的で簡潔な構造を有する履歴ダンパー型の制震装置を提供するものである。
【0007】
併せて、本願が開示する発明は、かかる履歴ダンパー型の制振装置に粘弾性ダンパーが組み合わされてコンパクトに一体化され、それら二種類のダンパーの減衰性能がバランス良く発揮されるように構成された制振装置を提供するものである。
【0008】
また、本願が開示する発明は、振動エネルギーを吸収する金属部材に超弾性合金を採用した履歴ダンパー型の制振装置について、その簡潔な装置構成を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、本願が開示する発明は、直棒状の外形を有する少なくとも一本の芯材と、前記芯材を囲むように配置された剛体からなる一対の荷重伝達フレームと、を具備し、一方の荷重伝達フレームが前記芯材の一端側に配置された構造要素に連結され、他方の荷重伝達フレームが前記芯材の他端側に配置された構造要素に連結され、前記芯材と前記一対の荷重伝達フレームとが前記芯材の軸方向に沿って相互に平行移動し得るように組み付けられ、前記芯材の一端および他端の近傍には、それぞれ一か所の引張時受圧部材と一か所の圧縮時受圧部材とが、互いに適宜間隔を設けて取り付けられ、一方の荷重伝達フレームには、引張加力時にいずれか一方の引張時受圧部材の他端側に当接して該引張時受圧部材を前記芯材の一端側へ押圧する第一の引張時加圧部材と、圧縮加力時にいずれか一方の圧縮時受圧部材の一端側に当接して該圧縮時受圧部材を前記芯材の他端側へ押圧する第一の圧縮時加圧部材と、が設けられ、他方の荷重伝達フレームには、引張加力時にいずれか他方の引張時受圧部材の一端側に当接して該引張時受圧部材を前記芯材の他端側へ押圧する第二の引張時加圧部材と、圧縮加力時にいずれか他方の圧縮時受圧部材の他端側に当接して該圧縮時受圧部材を前記芯材の一端側へ押圧する第二の圧縮時加圧部材と、が設けられて、 圧縮加力時および引張加力時のいずれにおいても前記芯材に引張応力が生じるように形成された、との基本的構成を採用する。
【0010】
さらに、本願が開示する発明は、前記制震装置における前記各荷重伝達フレームが、前記芯材を挟んで平行に対置される一対のガーダープレートと、前記ガーダープレートの一端部同士または他端部同士を結合するエンドブロックと、を具備し、前記一対の荷重伝達フレームが、それぞれのガーダープレートの対置方向を前記芯材の軸回りに直交させるようにして組み付けられており、前記各引張時加圧部材および前記各圧縮時加圧部材は、前記芯材が遊挿される孔部を設けた加圧プレートを前記一対のガーダープレート間にそれぞれ結合して形成され、前記各引張時受圧部材および前記各圧縮時受圧部材が前記芯材の径外方向に張り出すように形成されて前記各加圧プレートの片面に当接することにより押圧される、との付加的構成を採用する。
【0011】
前記制震装置においては、前記芯材に取り付けられた二か所の引張時受圧部材の相互間隔と、二か所の圧縮時受圧部材の相互間隔とが略同寸であると好ましい。
【0012】
また、前記芯材には雄ねじ部が形成されるとともに、前記各引張時受圧部材および前記各圧縮時受圧部材には雌ねじ部が形成されて、前記雌ねじ部が前記雄ねじ部に螺合されることにより、前記各引張時受圧部材および前記各圧縮時受圧部材が、その位置を芯材の軸方向に沿って個別に調整し得るように取り付けられていると、より好ましい。
【0013】
さらに、前記芯材は、少なくともその一部分が超弾性合金または形状記憶合金によって形成されていると、より好ましい。
【0014】
さらに、本願が開示する発明は、前記制震装置における前記一方の荷重伝達フレームと前記他方の荷重伝達フレームとの間に前記芯材の軸方向に延びる一定幅の隙間が形成されるか、あるいは、前記一方の荷重伝達フレームの外側に抱持体が結合されて、前記抱持体と前記他方の荷重伝達フレームとの間に前記芯材の軸方向に延びる一定幅の隙間が形成され、前記いずれかの隙間に粘弾性体が介装された、との付加的構成を採用する。
【発明の効果】
【0017】
前述のように構成される制震装置は、少なくとも一本の芯材と、その芯材を囲む一対の荷重伝達フレームとによって形成され、それぞれの荷重伝達フレームには一か所ずつの引張時加圧部材と圧縮時加圧部材とが設けられるとともに、芯材には二か所ずつの引張時受圧部材と圧縮時受圧部材とが設けられており、引張荷重に対しては各引張時加圧部材が各引張時受圧部材に作用し、圧縮荷重に対しては各圧縮時加圧部材が各圧縮時受圧部材に作用することで、圧縮加力時および引張加力時のいずれにおいても芯材には常に引張応力が生じるように構成されている。振動エネルギーを吸収する芯材に座屈が生じないので、例えばブレースのような細長い形態で利用する場合でも、芯材の座屈を拘束するための手段は不要になり、簡潔かつコンパクトな装置構成で安定した減衰性能を得ることができる。
【0018】
さらに、この履歴ダンパー型の制震装置における両荷重伝達フレームの間、または一方の荷重伝達フレームの外側に結合した抱持体と他方の荷重伝達フレームとの間に、芯材の軸方向に延びる一定幅の隙間を形成して、その隙間に粘弾性体を介装させる構成を採用した場合には、履歴ダンパーの芯材と粘弾性体とが、振動エネルギーに対する抵抗方向を揃え、かつ、その抵抗力を同時に発揮するように一体化されて、各ダンパーの特性に応じた減衰性能がバランス良く発揮される。
【0019】
また、少なくとも中間部が超弾性合金によって形成された一本の芯材と、その芯材を囲む一対の荷重伝達フレームと、を具備し、各荷重伝達フレームがそれぞれ芯材の一端側または他端側に配置された構造要素に連結されて相互に平行移動し得るように組み付けられ、引張加力時および圧縮加力時のうち、少なくとも引張加力時において芯材に応力が生じる構成を採用した場合には、ブレースのような細長い形態で利用される履歴ダンパー型の制震装置を簡潔な装置構成で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願が開示する発明に係る制震装置の基本概念図である。
【
図2】前記制震装置を構成する履歴ダンパーの実施形態を示す長手方向の断面図と、要部3か所における軸心直交方向断面図である。
【
図3】履歴ダンパーの(a)引張加力時および(b)圧縮加力時における作用を説明する長手方向断面図である。
【
図4】前記履歴ダンパーと粘弾性ダンパーとを組み合わせた実施形態を示す長手方向断面図である。
【
図5】粘弾性体および超弾性合金の、温度-荷重負担力の特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は、本願が開示する発明に係る制震装置1の基本概念図である。この制震装置1は、例えば鉄骨造建物の軸組構造体に設置される耐力壁フレーム2のブレースとして、その耐力壁フレーム2の枠内に斜めに組み付けられることを想定している。短周期振動や反復振動に対する減衰性能に優れた弾性ダンパー3と、耐久性が高くメンテナンスも簡単な履歴ダンパー4とが細長い形態にまとめられて、振動エネルギーに対し、長手方向の抵抗力を同時に発揮するように一体化される。
【0023】
図2は、
図1に示した制震装置1の中の履歴ダンパー4の部分の一実施形態を示し、
図3は、その履歴ダンパー4の引張加力時および圧縮加力時における作用を示す。
【0024】
例示の履歴ダンパー4は、少なくとも一本の芯材5と、その芯材5を囲むように配置した一対の荷重伝達フレーム6、7とを、芯材5の軸方向に沿って相互に平行移動し得るように組み付けて構成されている。
【0025】
芯材5は、所定の長さを有する直棒状の金属部材であり、その材料には、一般的な建築用鋼材のほか、それよりも降伏点が低い軟鋼材や他の合金類、形状記憶合金、超弾性合金等を採用することができる。形状記憶合金や超弾性合金を採用する場合は、当該合金からなる中間部分の両端に鋼材その他の金属が連結されていてもよい。また、「直棒状」の形態としては、円形または多角形の一様断面を有する棒材のほか、中空の管材や、線材を複数本、結束したものも採用可能である。
【0026】
例示形態の芯材5は全長が超弾性合金によって形成された丸棒であり、その両端近傍に雄ねじ部51が形成されている。超弾性合金材の組成については、ニッケル-チタン基合金、あるいは銅-アルミニウム-マンガン系合金や、鉄-ニッケル-コバルト-アルミニウム系合金、その他、チタン、クロム、バナジウム等を適宜組み合わせた合金等が適用可能であり、本願が開示する発明はその組成を詳細に限定するものではない。
【0027】
荷重伝達フレーム6、7は、鋼製の厚板材を細長い箱状に溶接するなどして形成された剛体である。
図2および
図3中の左方(一方)に配置されている第一の荷重伝達フレーム6は、長矩形状をなす一対のガーダープレート61と、ガーダープレート61の一端部同士を結合するエンドブロック62と、を具備している。そして、一対のガーダープレート61が芯材5を紙面の前後方向に挟むように対置され、エンドブロック62が左方に配置された図示しない構造要素に連結される。一対のガーダープレート61の間には、前記芯材5が遊挿される孔部を設けた矩形の加圧プレート64、65が二か所に結合されている。
【0028】
図2および
図3中の右方(他方)に配置されている第二の荷重伝達フレーム7は、長矩形状をなす一対のガーダープレート71と、ガーダープレート71の他端部同士を結合するエンドブロック72と、を具備している。そして、一対のガーダープレート71が芯材5および第一の荷重伝達フレーム6を紙面の上下方向に挟むように対置され、エンドブロック72が右方に配置された図示しない構造要素に連結される。一対のガーダープレート71の間には、前記芯材5が遊挿される孔部を設けた矩形の加圧プレート73、76が二か所に結合されている。
【0029】
第一の荷重伝達フレーム6および第二の荷重伝達フレーム7に設けられた計四か所の加圧プレート73、64、65、76の孔部内に遊挿された芯材5には、芯材5の径外方向に張り出して各加圧プレート73、64、65、76にそれぞれ当接する受圧部材53、54、55、56が取り付けられている。芯材5の左側(一端側)に取り付けられた二個の受圧部材53、54は、それぞれ第二の荷重伝達フレーム7および第一の荷重伝達フレーム6の左側(一端側)に設けられた加圧プレート73、64の左側(一端側)に配置されている。また、芯材5の右側(他端側)に取り付けられた二個の受圧部材55、56は、それぞれ第一の荷重伝達フレーム6および第二の荷重伝達フレーム7の右側(他端側)に設けられた加圧プレート65、76の右側(他端側)に配置されている。例示の受圧部材53、54、55、56は四個とも雌ねじ部を有するナット状の部材で、芯材5の雄ねじ部51に螺合されており、芯材5の軸回りに回転させることで、その位置を芯材5の軸方向に沿って個別に微調整することができるようになっている。
【0030】
この履歴ダンパー4の芯材5には、引張加力時および圧縮加力時それぞれにおいて、以下のような応力が発生する。
【0031】
図3(a)に示すように履歴ダンパー4全体に引張力が作用すると、第一の荷重伝達フレーム6の一端側に設けられた加圧プレート64が芯材5の一端側に取り付けられた受圧部材54を一端側へ押圧するとともに、第二の荷重伝達フレーム7の他端側に設けられた加圧プレート76が芯材5の他端側に取り付けられた受圧部材56を他端側へ押圧する。つまり、第一の荷重伝達フレーム6の一端側に設けられた加圧プレート64が第一の引張時加圧部材、芯材5の一端側に取り付けられた受圧部材54が第一の引張時受圧部材となり、第二の荷重伝達フレーム7の他端側に設けられた加圧プレート76が第二の引張時加圧部材、芯材5の他端側に取り付けられた受圧部材56が第二の引張時受圧部材となる。これにより、芯材5においては、第一の引張時受圧部材54と第二の引張時受圧部材56とによって挟まれた領域(薄網部分)に引張応力が生じて、当該領域が伸長する。
【0032】
反対に、
図3(b)に示すように履歴ダンパー4全体に圧縮力が作用すると、第一の荷重伝達フレーム6の他端側に設けられた加圧プレート65が芯材5の他端側に取り付けられた受圧部材55を他端側へ押圧するとともに、第二の荷重伝達フレーム7の一端側に設けられた加圧プレート73が芯材5の一端側に取り付けられた受圧部材53を一端側へ押圧する。つまり、第一の荷重伝達フレーム6の他端側に設けられた加圧プレート65が第一の圧縮時加圧部材、芯材5の他端側に取り付けられた受圧部材55が第一の圧縮時受圧部材となり、第二の荷重伝達フレーム7の一端側に設けられた加圧プレート73が第二の圧縮時加圧部材、芯材5の一端側に取り付けられた受圧部材53が第二の圧縮時受圧部材となる。これにより、芯材5においては、第一の圧縮時受圧部材55と第二の圧縮時受圧部材53とによって挟まれた領域(薄網部分)に引張応力が生じて、当該領域が伸長する。
【0033】
このように、本願が開示する制震装置1の履歴ダンパー4は、圧縮加力時および引張加力時のいずれにおいても、芯材5には常に引張応力が生じるように形成されているので、芯材5の座屈を心配する必要がなく、一本の芯材5だけで振動エネルギーの吸収機能と残留変形の抑制機能とを好適に得ることができる。
【0034】
また、例示形態では、第一の引張時受圧部材54と第二の引張時受圧部材56との相互間隔(D1)と、第一の圧縮時受圧部材55と第二の圧縮時受圧部材53との相互間隔(D2)と、を略同寸に設定している。これにより、引張加力時と圧縮加力時とにおける芯材5の荷重負担力を揃えることができる。
【0035】
図4は、前述の履歴ダンパー4と粘弾性ダンパー3とを組み合わせた形態を示す。
【0036】
第一の荷重伝達フレーム6の一端側には、エンドブロック62よりも芯材5の径外方向に一回り大きく張り出す拡幅プレート31が取り付けられており、この拡幅プレート31を介して、履歴ダンパー4の外側に抱持体が結合されている。例示の抱持体は、長矩形の鋼板からなる一対の拘束プレート32と、それらを互いに結合する適宜の補剛部材(図示せず)とによって構成されている。各拘束プレート32は、第二の荷重伝達フレーム7のガーダープレート71との間に一定幅の隙間を保持するようにして紙面の上下方向に対置され、それらの隙間に粘弾性体33が介装される。粘弾性体33は、第二の荷重伝達フレーム7のガーダープレート71の幅と略同幅で、芯材5の軸長ほどの長さの範囲にわたって介装されている。この粘弾性体33は、履歴ダンパー4に引張力または圧縮力が作用して、第一の荷重伝達フレーム6と第二の荷重伝達フレーム7とが芯材5の軸方向に沿って相互に平行移動するとき、せん断変形によってその平行移動に抵抗する。なお、抱持体の材質については、粘弾性体と比較して十分に剛性が高いものであれば、必ずしも鋼板等の剛体でなくてよい。
【0037】
このように、本願が開示する制震装置1は、履歴ダンパー4の外側に、履歴ダンパー4の伸縮部分を抱持する形で粘弾性ダンパー3を設け、振動に対する履歴ダンパー4と粘弾性ダンパー3の抵抗方向を揃えて、それらの抵抗力が同時に発揮されるように構成されている。したがって、全体の機構がコンパクトに一体化されるとともに、粘弾性ダンパー3および履歴ダンパー4のそれぞれの特性に応じた減衰性能が常にバランス良く発揮されることとなる。
【0038】
特に、履歴ダンパーの芯材5に超弾性合金を利用した場合には、大地震による大きな変形が生じても、その変形が残留せずに常温で元の形状に戻る。建物の構造体に深刻な損壊が残らないため、耐力壁や制震装置1の修復、交換等も不要になる。
図5に示すように、粘弾性体と超弾性合金は、荷重負担力の温度依存性が対称的であるため、両者を組み合わせて同方向に同時に作用させることで、全体としての温度依存性が小さくなり、温度に関わらず安定した減衰性能が発揮される。このような制震装置1を耐力壁のブレースや方づえ等に採用すれば、同じ壁量で基礎や柱梁等に損傷を与えることなく、建物の耐震・制震性能を向上させることが可能になる。
【0039】
以上、本願が開示する発明の実施形態を例示したが、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の形状、構造、材質、数量、接合形態、相対的な位置関係等を、例示した実施形態と実質的に同等程度の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することが可能である。
【0040】
例えば、芯材は、一本だけでなく複数本が並列的または直列的に配置されていてもよい。また、履歴ダンパーを構成する一対の荷重伝達フレームは、例えば溝形鋼を抱き合わせるようにして組み付けられていてもよい。粘弾性ダンパーを構成する抱持体は、履歴ダンパー全体を包囲する角筒状の部材によって構成されていてもよい。あるいは、履歴ダンパーおよび粘弾性ダンパーが同心の円筒状にまとめられていてもよい。履歴ダンパーを構成する一対の荷重伝達フレームの断面形状によっては、それらの外側に抱持体を設けるのではなく、両荷重伝達フレームの間に芯材の軸方向に延びる一定幅の隙間を設け、その隙間に粘弾性体を介装してもよい。
【0041】
また、芯材に設けられる受圧部材と各荷重伝達フレームに設けられる加圧部材との互いの位置関係や係合形態も、制震装置の全体形状や設置形態に応じて適宜、調整されればよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願が開示する発明は、建築構造物のほか、土木構造物や設備機器等において、大きな振動エネルギーを吸収することが求められる様々な部位に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 制震装置
2 耐力壁フレーム
3 粘弾性ダンパー
31 拡幅プレート
32 拘束プレート
33 粘弾性体
4 履歴ダンパー
5 芯材
51 雄ねじ部
53 受圧部材(第二の圧縮時受圧部材)
54 受圧部材(第一の引張時受圧部材)
55 受圧部材(第一の圧縮時受圧部材)
56 受圧部材(第二の引張時受圧部材)
6 第一の荷重伝達フレーム
61 ガーダープレート
62 エンドブロック
64 加圧プレート(第一の引張時加圧部材)
65 加圧プレート(第一の圧縮時加圧部材)
7 第二の荷重伝達フレーム
71 ガーダープレート
72 エンドブロック
73 加圧プレート(第二の圧縮時加圧部材)
76 加圧プレート(第二の引張時加圧部材)