(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】コイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240501BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240501BHJP
H01F 1/37 20060101ALI20240501BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240501BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240501BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240501BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/24
H01F1/37
H01F1/26
H01F1/147 166
H01F1/153 108
H01F1/153 166
H01F17/04 F
(21)【出願番号】P 2020123791
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】丸澤 博
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098278(JP,A)
【文献】特開2017-076700(JP,A)
【文献】特開2003-100553(JP,A)
【文献】特開2002-208529(JP,A)
【文献】特開2000-223337(JP,A)
【文献】特開2016-162764(JP,A)
【文献】特開2020-057657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0002255(US,A1)
【文献】特開2003-068550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 1/24
H01F 1/37
H01F 1/26
H01F 1/147
H01F 1/153
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に絶縁性酸化物層を有する軟磁性金属粒子を備え、前記軟磁性金属粒子同士が前記絶縁性酸化物層を介して互いに結合されている磁性体部を作製する工程と、
前記磁性体部の内部または表面にコイル部を形成する工程と、
前記磁性体部の空隙部に、樹脂と無機粒子とを含む混合物を充填する工程と、
前記樹脂を硬化する工程と、を備え、
上記混合物に含まれる前記樹脂は、液状エポキシ樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物、または、固形エポキシ樹脂を溶剤に溶かしてワニス化した樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物である、コイル部品の製造方法。
【請求項2】
前記無機粒子は磁性体粒子である、請求項1に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項3】
前記磁性体粒子の平均粒径が1μm以下である、請求項2に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項4】
前記磁性体粒子は金属磁性体粒子である、請求項2または3に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項5】
前記金属磁性体粒子は、Si、Cr、Al、NiおよびCoからなる群より選択される少なくとも1種の元素とFe元素とを含有する金属の粒子である、請求項4に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項6】
前記金属磁性体粒子は、Fe系、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系またはFe-Co系のFe基結晶性粒子、あるいは、Fe-Si-B系またはFe-Si-B-Cr系のFe基アモルファス粒子である、請求項4に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項7】
前記磁性体粒子はフェライト粒子である、請求項2または3に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項8】
前記フェライト粒子は、マグネタイト、マンガンフェライト、マグネシウムフェライト、ストロンチウムフェライト、ニッケル亜鉛フェライト、ニッケルフェライトまたはコバルトフェライトの粒子である、請求項7に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項9】
前記無機粒子はシリカ粒子またはアルミナ粒子である、請求項1に記載のコイル部品
の製造方法。
【請求項10】
前記シリカ粒子または前記アルミナ粒子の平均粒径が1μm以下である、請求項9に記載のコイル部品
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁性材料で構成された直方体形状の磁性体部と、上記磁性体部の内部において一軸まわりに巻回され、上記一軸方向から見たとき、上記磁性体部の長辺方向を長軸とするオーバル形状の内周縁部を含む、導電性材料で構成されたコイル部と、上記磁性体部に設けられ、上記コイル部と電気的に接続される一対の外部電極とを具備するコイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、磁性体部が、磁性材料の間(あるいは隙間)に含浸された樹脂材料を含んでもよいことが記載されている。この樹脂は、強度の増加や吸湿性の抑制という利点があり、水分が磁性体部の内部に入りにくくなるため、特に高湿下において絶縁性の低下を抑えることができるとされている。また、別の効果として、外部電極の形成にめっきを用いる場合、めっき伸びを抑えることができるとされている。
【0005】
このように、コイル部品を構成する磁性体部の空隙部に樹脂材料が充填されることにより、水分やめっき液等の液体または硫黄酸化物(SOx)等の腐食性ガスが磁性体部へ浸透することが抑制されるためコイル部品の信頼性を向上させることができるとともに、磁性体部の機械的強度が増大するためコイル部品の強度を向上させることができる。しかしながら、コイル部品においては、信頼性および強度の更なる向上が望まれている。
【0006】
本発明は、磁性体部への液体またはガスの浸透を抑制するとともに、磁性体部の機械的強度を増大させることが可能なコイル部品を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記コイル部品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコイル部品は、表面に絶縁性酸化物層を有する軟磁性金属粒子を備え、上記軟磁性金属粒子同士が上記絶縁性酸化物層を介して互いに結合されている磁性体部と、上記磁性体部の内部または表面に設けられたコイル部と、を備え、上記軟磁性金属粒子の間には、樹脂と無機粒子とを含む混合物が配置されている。
【0008】
本発明のコイル部品の製造方法は、表面に絶縁性酸化物層を有する軟磁性金属粒子を備え、上記軟磁性金属粒子同士が上記絶縁性酸化物層を介して互いに結合されている磁性体部を作製する工程と、上記磁性体部の内部または表面にコイル部を形成する工程と、上記磁性体部の空隙部に、樹脂と無機粒子とを含む混合物を充填する工程と、上記樹脂を硬化する工程と、を備え、上記混合物に含まれる上記樹脂は、液状エポキシ樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物、または、固形エポキシ樹脂を溶剤に溶かしてワニス化した樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁性体部への液体またはガスの浸透を抑制するとともに、磁性体部の機械的強度を増大させることが可能なコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すコイル部品の内部構造の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すコイル部品を構成する磁性体部の一例を模式的に示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すコイル部品を構成する本体部の一例を模式的に示す分解斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のコイル部品およびコイル部品の製造方法について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0012】
[コイル部品]
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示すコイル部品の内部構造の一例を模式的に示す斜視図である。
【0013】
図1に示すコイル部品10は、積層構造を有する積層インダクタとして構成される。コイル部品10は、本体部11と、第1外部電極14と、第2外部電極15とを備える。
【0014】
コイル部品10は、例えば、X軸方向に幅、Y軸方向に長さ、Z軸方向に高さを有する直方体形状に形成されている。
【0015】
第1外部電極14は、本体部11のY軸方向における一方の端面を覆い、さらに、該端面と接続する4つの面に沿ってY軸方向に延在している。第2外部電極15は、本体部11のY軸方向における他方の端面を覆い、さらに、該端面と接続する4つの面に沿ってY軸方向に延在している。第1外部電極14および第2外部電極15は、導電性材料で形成され、コイル部品10の一対の端子を構成する。
【0016】
本体部11は、磁性体部12と、コイル部13とを含む。磁性体部12は、本体部11の外形を形成している。コイル部13は、導電性材料で螺旋状に形成され、磁性体部12の内部に配置されている。コイル部13は、第1外部電極14に引き出された第1引出端部13e1と、第2外部電極15に引き出された第2引出端部13e2とを有する。
【0017】
図3は、
図1に示すコイル部品を構成する磁性体部の一例を模式的に示す拡大断面図である。
磁性体部12は、軟磁性金属粒子20の集合体として構成される。軟磁性金属粒子20の表面には、絶縁性酸化物層21が形成されている。軟磁性金属粒子20同士は、絶縁性酸化物層21を介して互いに結合されている。
図3に示す例では、軟磁性金属粒子20の表面の全体が絶縁性酸化物層21で被覆されている。しかし、軟磁性金属粒子20の表面の一部に絶縁性酸化物層21で被覆されていない部分が存在してもよい。軟磁性金属粒子20の表面の一部に絶縁性酸化物層21で被覆されていない部分が存在しても、後述する樹脂31と無機粒子32とを含む混合物30によって絶縁性は確保される。
【0018】
軟磁性金属粒子20は、例えば、Fe-Si系Fe基合金の粒子である。軟磁性金属粒子20は、Fe-Si-Cr系Fe基合金、Fe-Si-Al系Fe基合金、Fe-Cr-Al系Fe基合金、FeまたはFe-Co合金の粒子であってもよい。
【0019】
軟磁性金属粒子20の平均粒径は、例えば、1μm以上、100μm以下である。軟磁性金属粒子20の平均粒径は、5μm以上、50μm以下であることがより好ましい。
【0020】
軟磁性金属粒子20の平均粒径とは、磁性体部12の断面を観察し、各軟磁性金属粒子20の粒径を線分法で10箇所測定したとき、当該視野に存在する各軟磁性金属粒子20の円相当径の平均粒径を意味する。なお、原料の軟磁性金属粒子20の平均粒径は、完成品であるコイル部品10を構成する磁性体部12中に存在する軟磁性金属粒子20の平均粒径と同じであるとみなして差し支えない。原料の軟磁性金属粒子20の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めることができ、メディアン径(D50)として表される。
【0021】
絶縁性酸化物層21は、例えば、ZnO等のセラミック酸化物から構成される。絶縁性酸化物層21は、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラスから構成されてもよい。
【0022】
軟磁性金属粒子20の間には、樹脂31と無機粒子32とを含む混合物30が配置されている。
【0023】
軟磁性金属粒子20の間、すなわち、磁性体部12の空隙部に、樹脂31に加えて無機粒子32が充填されることで、樹脂31だけが充填される場合に比べて、水分やめっき液等の液体またはSOx等の腐食性ガスが磁性体部へ浸透することがさらに抑制される。その結果、コイル部品10の信頼性を向上させることができる。
【0024】
さらに、軟磁性金属粒子20の間に樹脂31と無機粒子32とを含む混合物30が充填されることで、磁性体部12の弾性率が上がるため、外部からの応力に対する機械的強度が増大する。その結果、コイル部品10の強度を向上させることができる。
【0025】
樹脂31は、熱硬化性樹脂であることが望ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂の代表格であるポリプロピレンは168℃、ポリスチレンは100℃にて加熱溶融しないと液状化することができない。また、液状化して磁性体部12の空隙部に充填できたとしても、上記温度になると充填した樹脂が流出してしまうおそれがある。一方、熱硬化性樹脂の代表格であるエポキシ樹脂は室温で液状タイプもあるため、充填後に硬化処理を行えば、半田リフロー等の加熱処理を行っても充填した樹脂が流出することはない。
【0026】
中でも、樹脂31は、液状エポキシ樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物の硬化物であることが望ましい。樹脂31として液状エポキシ樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物を用いることで、樹脂組成物の粘度を下げることができるため、磁性体部12の空隙部への充填率を高くすることができる。また、樹脂組成物の粘度が下がることで、樹脂組成物に含まれる無機粒子32の量を多くすることができるため、磁性体部12の空隙部へ充填できる無機粒子32の量を多くすることができる。また、液状エポキシ樹脂の代わりに、固形エポキシ樹脂を溶剤に溶かしてワニス化した樹脂を使用することもできる。そのため、樹脂31は、固形エポキシ樹脂を溶剤に溶かしてワニス化した樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物の硬化物であることも望ましい。
【0027】
なお、液状エポキシ樹脂とは、25℃で液状のエポキシ樹脂を意味し、液状酸無水物とは、25℃で液状の酸無水物を意味する。主剤である液状エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、硬化剤である液状酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等の環状脂肪族酸無水物、または、無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物等の脂肪族酸無水物等が挙げられる。また、固形エポキシ樹脂とは、25℃で固体のエポキシ樹脂を意味する。
【0028】
無機粒子32は、磁性体粒子であってもよい。あるいは、無機粒子32は、シリカ粒子またはアルミナ粒子であってもよい。無機粒子32は、磁性体粒子、シリカ粒子およびアルミナ粒子の少なくとも1つの粒子を含んでもよい。
【0029】
無機粒子32の形状は、球状であることが望ましい。球状には、完全な球形だけでなく、球形に近い形状も含まれる。混合物30には、球状の無機粒子32のみが含まれてもよいし、球状の無機粒子32に加えて、球状以外の形状、例えば扁平状の無機粒子32が含まれてもよい。
【0030】
無機粒子32が磁性体粒子である場合、磁性体粒子は、金属磁性体粒子であってもよく、フェライト粒子であってもよい。磁性体粒子は、金属磁性体粒子およびフェライト粒子の両方を含んでもよい。
【0031】
磁性体部12の空隙部に樹脂材料などの非磁性材料のみが充填される場合、その部分は非磁性領域となって磁束が分断されるため、軟磁性金属粒子20が絶縁性酸化物層21を介して点接触する箇所に磁束が集中することとなり、磁気飽和しやすい構造となる。そこで、磁性体粒子を含有する樹脂材料が磁性体部12の空隙部にも充填されることで、コイル部品10の磁気特性を向上させることができる。具体的には、磁性体粒子が金属磁性体粒子である場合には、高飽和磁化により直流重畳特性を向上させることができ、磁性体粒子がフェライト粒子である場合には、高抵抗により高周波透磁率特性を向上させることができる。
【0032】
無機粒子32が磁性体粒子である場合、磁性体粒子の平均粒径は、軟磁性金属粒子20の平均粒径よりも小さいことが望ましい。具体的には、磁性体粒子の平均粒径が1μm以下であることが望ましく、500nm以下であることがより望ましく、100nm以下であることがさらに望ましい。磁性体粒子の平均粒径を1μm以下にすることで、磁性体部12の空隙部への充填率を高くすることができるとともに、単磁区粒子に近い磁区構造となり高周波特性に優れた磁気特性を得ることができる。一方、磁性体粒子の平均粒径が単磁区粒子を下回ると磁性が失われていき、また、磁性体粒子の平均粒径が小さすぎるとハンドリングが困難となる。そのため、磁性体粒子の平均粒径は、10nm以上であることが望ましい。
【0033】
磁性体粒子の平均粒径は、上述した軟磁性金属粒子20の平均粒径と同様の方法により測定することができる。
【0034】
磁性体粒子が金属磁性体粒子である場合、金属磁性体粒子は、Si、Cr、Al、NiおよびCoからなる群より選択される少なくとも1種の元素とFe元素とを含有する金属の粒子であることが望ましい。具体的には、金属磁性体粒子は、カーボニル鉄粒子、Fe系、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系またはFe-Co系のFe基結晶性粒子、あるいは、Fe-Si-B系またはFe-Si-B-Cr系のFe基アモルファス粒子であることが望ましい。これらの金属磁性体粒子は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。これらの金属磁性体粒子を用いることで、直流重畳特性を劣化させることなく、コイル部品10のインダクタンス値(L値)の向上、特に高周波域でのL値の向上に寄与できる。
【0035】
磁性体粒子がフェライト粒子である場合、フェライト粒子は、マグネタイト(鉄フェライト)、マンガンフェライト、マグネシウムフェライト、ストロンチウムフェライト、ニッケル亜鉛フェライト、ニッケルフェライトまたはコバルトフェライトの粒子であることが望ましい。これらのフェライト粒子は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。これらのフェライト粒子を用いることで、コイル部品10の直流重畳特性は劣化する方向となるが、L値を効率的に向上させることができる。
【0036】
無機粒子32がシリカ粒子である場合、磁性体部12の空隙部に樹脂材料のみが充填される場合に比べて、充填部の線膨張係数を低くできるため、磁性体部12における内部応力を低減することができる。その結果、コイル部品10の長期信頼性を向上させることができる。
【0037】
無機粒子32がアルミナ粒子である場合、シリカ粒子と同様、磁性体部12の空隙部に樹脂材料のみが充填される場合に比べて、充填部の線膨張係数を低くできるため、磁性体部12における内部応力を低減することができる。さらに、コイル部品10への電流印加によって生じる熱の放熱性を向上させることができる。
【0038】
無機粒子32には、シリカ粒子およびアルミナ粒子の両方が含まれてもよい。
【0039】
無機粒子32がシリカ粒子またはアルミナ粒子である場合、シリカ粒子またはアルミナ粒子の平均粒径は、軟磁性金属粒子20の平均粒径よりも小さいことが望ましい。具体的には、シリカ粒子またはアルミナ粒子の平均粒径が1μm以下であることが望ましく、500nm以下であることがより望ましく、100nm以下であることがさらに望ましい。シリカ粒子またはアルミナ粒子の平均粒径を1μm以下にすることで、磁性体部12の空隙部への充填率を高くすることができる。一方、シリカ粒子またはアルミナ粒子の平均粒径が小さすぎると樹脂中に無機粒子を均一に分散させることが困難となり、また、樹脂中への無機粒子の高充填化も困難となるため、シリカ粒子またはアルミナ粒子の効果が得られにくくなる。そのため、シリカ粒子またはアルミナ粒子の平均粒径は、10nm以上であることが望ましい。
【0040】
シリカ粒子またはアルミナ粒子の平均粒径は、上述した軟磁性金属粒子20の平均粒径と同様の方法により測定することができる。
【0041】
図4は、
図1に示すコイル部品を構成する本体部の一例を模式的に示す分解斜視図である。
図4に示すように、本体部11は、Z軸方向に積層された一体化された軟磁性金属層41A、41B、41C、41D、41Eおよび41Fを有する。軟磁性金属層41A、41B、41C、41D、41Eおよび41Fによって磁性体部12(
図2参照)が形成される。
【0042】
軟磁性金属層41A、41B、41C、41Dおよび41Eの表面には、所定の形状を有する導体パターン42A、42B、42C、42Dおよび42Eがそれぞれ形成されている。軟磁性金属層41A上の導体パターン42Aの一端に第1引出端部13e1が形成され、軟磁性金属層41E上の導体パターン42Eの一端に第2引出端部13e2が形成されている。一方、軟磁性金属層41Fの表面には、導体パターンは形成されていない。
【0043】
さらに、軟磁性金属層41B、41C、41Dおよび41Eには、軟磁性金属層41B、41C、41Dおよび41EをZ軸方向に貫通するスルーホール導体43A、43B、43Cおよび43Dがそれぞれ形成される。スルーホール導体43A、43B、43Cおよび43Dを介して、導体パターン42A、42B、42C、42Dおよび42Eが接続されることにより、Z軸方向に螺旋状に延びるコイル部13(
図2参照)が形成される。
【0044】
なお、コイル部13の構成は、
図2および
図4に示す構成に限定されない。例えば、軟磁性金属層の積層数を変更することにより、コイル部13の巻き数を任意に変更することが可能である。また、積層方向から見たコイル部13の形状は矩形状に限定されず、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などであってもよい。
【0045】
[コイル部品の製造方法]
本発明のコイル部品の製造方法は、表面に絶縁性酸化物層を有する軟磁性金属粒子を備え、上記軟磁性金属粒子同士が上記絶縁性酸化物層を介して互いに結合されている磁性体部を作製する工程と、上記磁性体部の内部または表面にコイル部を形成する工程と、上記磁性体部の空隙部に、樹脂と無機粒子とを含む混合物を充填する工程と、上記樹脂を硬化する工程と、を備える。
【0046】
以下、
図1に示すコイル部品10の製造方法の一例について説明する。コイル部品10を製造する場合には、磁性体部12を作製する工程とコイル部13を形成する工程とを同時に行って、本体部11を作製する。
【0047】
具体的には、磁性体部12(
図2参照)を構成する軟磁性金属層41A~41F(
図4参照)と、コイル部13(
図2参照)を構成する導体パターン42A~42Eおよびスルーホール導体43A~43D(
図4参照)とを形成する。
【0048】
軟磁性金属層41A~41Fは、例えば、平均粒径12μmのFe-Si系Fe基合金粉等の軟磁性金属粒子20を主成分とし、その接合に用いるための絶縁性酸化物層21としてのZnO等のセラミック酸化物を含有し、ポリビニルアルコールまたはエチルセルロース等のバインダーとターピネオールまたはブチルカルビトール等の溶媒とを混合した軟磁性金属ペーストを用いて、印刷等の方法により形成される。
【0049】
軟磁性金属粒子20として、Fe-Si系Fe基合金粉の代わりに、Fe-Si-Cr系Fe基合金粉、Fe-Si-Al系Fe基合金粉、Fe-Cr-Al系Fe基合金粉、Fe粉またはFe-Co合金粉を用いてもよい。
【0050】
絶縁性酸化物層21となる軟磁性金属粒子20同士の接合剤として、ZnO等のセラミック酸化物の代わりに、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラス粉を用いてもよい。
【0051】
導体パターン42A~42Eおよびスルーホール導体43A~43Dは、例えば、銀、銀系、金、金系、銅、銅系の導電性金属粉に、ポリビニルアルコールまたはエチルセルロースなどのバインダーとターピネオールまたはブチルカルビトール等の溶媒とを混合した導体ペーストを用いて、印刷等の方法により形成される。
【0052】
一例として、軟磁性金属層41Aの表面には導体パターン42Aが形成される。導体パターン42Aは、1ターン未満分に相当する。導体パターン42Aの一端は軟磁性金属層41Aの端面に引き出され、もう一端はその上層の軟磁性金属層41B上に形成された導体パターン42Bの一端とスルーホール導体43Aを介して接続される。同様に、更に上層の軟磁性金属層41C、41Dおよび41E上にそれぞれ形成された導体パターン42C、42Dおよび42Eともスルーホール導体43B、43Cおよび43Dを介してそれぞれ接続される。導体パターン42Eの一端は導体パターン42Aと対向面に当たる端面に引き出される。
【0053】
導体パターン42A~42Eが形成された軟磁性金属層41~41Eと導体パターンが形成されていない軟磁性金属層41Fとを印刷積層して積層体を作製した後、例えば酸素雰囲気下、400℃以下でバインダーの熱分解処理を行う。その後、例えば低酸素雰囲気下、900℃で高温焼成することで、軟磁性金属粒子の表面にZnO等を含有する絶縁性酸化物層を形成すると共に、絶縁性酸化物層を介して軟磁性金属粒子同士を結合させ、磁性体部12およびコイル部13を含む本体部11を作製する。焼成後の本体部11の両端面に第1外部電極14および第2外部電極15を形成する。
なお、接合剤としてZnO等のセラミック酸化物やホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラス粉を用いずに、酸化雰囲気下でバインダーの熱分解処理を行うことで軟磁性金属粒子の表面を酸化し、絶縁性酸化物層を形成してもよい。これを例えば低酸素雰囲気下、1000℃で高温焼成することで、絶縁性酸化物層を介して軟磁性金属粒子同士を結合させることができる。
【0054】
上記製造方法は、軟磁性金属ペーストおよび導体ペーストを用いた印刷積層による製造方法であるが、軟磁性金属シートを作製し、その表面に導体ペーストを印刷して、シート積層した後、加圧プレスで積層体を作製し、個々のチップに切断後、例えば低酸素雰囲気下、900℃で高温焼成する方法でも製造可能である。
【0055】
その後、磁性体部12の空隙部に、樹脂31と無機粒子32とを含む混合物30を充填する。
【0056】
焼成後の磁性体部12においては、軟磁性金属粒子20の間に空隙部が存在する。軟磁性金属粒子20が点接触する面は、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラスまたはZnO等のセラミック酸化物によってガラス接合または固溶体生成等で接合されているのみであり、機械的強度が低い状態となっている。上述のとおり、磁性体部12の空隙部に樹脂31と無機粒子32とを含む混合物30を充填することで、磁性体部12の信頼性および機械的強度を向上させることができる。
【0057】
混合物30に含まれる樹脂31および無機粒子32としては、上述したものを用いることができる。ただし、磁性体部12の空隙部に混合物30を充填する段階では、樹脂31は、硬化前の状態である。
【0058】
混合物30に含まれる樹脂31としては、熱硬化性樹脂を用いることが望ましく、液状エポキシ樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物、または、固形エポキシ樹脂を溶剤に溶かしてワニス化した樹脂と液状酸無水物とを含む樹脂組成物を用いることがより望ましい。
【0059】
例えば、樹脂31として、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を磁性体部12の空隙部に真空含侵する。上記熱硬化性樹脂の主剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂を用い、硬化剤として無水フタル酸骨格を有する酸無水物を用いる。その主剤側に、無機粒子32として、平均粒径90nmのMn系フェライトを高分散させる。上記主剤および硬化剤を当量混合した後、その混合物30を磁性体部12の空隙部に真空充填する。
【0060】
混合物30に含まれる無機粒子32としては、Mn系フェライトナノフィラーの代わりに、金属磁性体粒子(Si、Cr、Al、NiおよびCoからなる群より選択される少なくとも1種の元素とFe元素とを含有する金属粉、例えば、カーボニル鉄粉、Fe系、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系またはFe-Co系のFe基結晶性粒子、あるいは、Fe-Si-B系またはFe-Si-B-Cr系のFe基アモルファス粉)またはフェライト粒子(マグネタイト(鉄フェライト)、マンガンフェライト、マグネシウムフェライト、ストロンチウムフェライト、ニッケル亜鉛フェライト、ニッケルフェライトまたはコバルトフェライトの粒子)等の磁性体粒子、シリカ粒子またはアルミナ粒子等を用いてもよい。上記手法によれば、磁性体部12の空隙部に容易に充填することができる。
【0061】
磁性体部12の空隙部に混合物30を充填した後、樹脂31を硬化する。例えば、混合物30に含まれる樹脂31として熱硬化性樹脂を使用する場合、オーブンで150℃、2時間加熱し、充填部の熱硬化性樹脂を硬化する。以上により、コイル部品10を作製する。
【0062】
以上、本発明のコイル部品の実施形態について説明したが、本発明のコイル部品は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変更を加えることが可能である。
【0063】
例えば、コイル部品10においては、第1外部電極14が第1引出端部13e1に接続され、第2外部電極15が第2引出端部13e2に接続される限り、上記の構成に限定されない。一例として、第1外部電極14および第2外部電極15は、本体部11のY軸方向の両端面ではなく、X軸方向の両端面に設けられていてもよい。また、第1外部電極14および第2外部電極15の形状は、特に限定されない。
【0064】
図5は、本発明の他の実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
図5に示すコイル部品110では、磁性体部112の表面に導線が巻き付けられてコイル部113が形成され、コイル部113の両端に第1外部電極114および第2外部電極115が設けられている。このような巻き線型のコイル部品も、本発明のコイル部品に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10、110 コイル部品
11 本体部
12、112 磁性体部
13、113 コイル部
13e1 第1引出端部
13e2 第2引出端部
14、114 第1外部電極
15、115 第2外部電極
20 軟磁性金属粒子
21 絶縁性酸化物層
30 混合物
31 樹脂
32 無機粒子
41A、41B、41C、41D、41E、41F 軟磁性金属層
42A、42B、42C、42D、42E 導体パターン
43A、43B、43C、43D スルーホール導体