(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】フード持ち上げ装置用アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/38 20110101AFI20240501BHJP
F15B 15/19 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B60R21/38 323
F15B15/19
(21)【出願番号】P 2020130596
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】村上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】根本 大地
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-056112(JP,A)
【文献】特開2008-116032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0207302(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0618300(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/38
F15B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に配置されたピストンロッドをガス圧によって移動させて車両のフードを持ち上げるフード持ち上げ装置用アクチュエータであって、
該ピストンロッドの基端側に設けられたテーパ面と前記シリンダの内周面との間にピストンロッド退動阻止用のボールが配置されており、
前記テーパ面として、該ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において、前記シリンダの内周面に対し弦方向に延在するテーパ面が
少なくとも3面設けられて
おり、
前記ピストンロッドの基端側の側周面は、前記テーパ面と、前記テーパ面同士の間の円弧面とで構成されていることを特徴とするフード持ち上げ装置用アクチュエータ。
【請求項2】
シリンダ内に配置されたピストンロッドをガス圧によって移動させて車両のフードを持ち上げるフード持ち上げ装置用アクチュエータであって、
該ピストンロッドの基端側に設けられたテーパ面と前記シリンダの内周面との間にピストンロッド退動阻止用のボールが配置されており、
前記テーパ面として、該ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において、前記シリンダの内周面に対し弦方向に延在するテーパ面が
少なくとも3面設けられて
おり、
前記ピストンロッドの基端側の側周面は、前記少なくとも3面のテーパ面同士が直接に連なる形状となっており、
少なくとも1面の前記テーパ面と前記シリンダの内周面との間に前記ボールが配置されていることを特徴とするフード持ち上げ装置用アクチュエータ。
【請求項3】
3面の前記テーパ面が前記ピストンロッドの周方向の3等分位置に設けられている、請求項1
又は2のフード持ち上げ装置用アクチュエータ。
【請求項4】
前記ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において、前記テーパ面は前記弦方向に延在する直線となっている、請求項1~3のいずれかのフード持ち上げ装置用アクチュエータ。
【請求項5】
シリンダ内に配置されたピストンロッドをガス圧によって移動させて車両のフードを持ち上げるフード持ち上げ装置用アクチュエータであって、
該ピストンロッドの基端側に設けられたテーパ面と前記シリンダの内周面との間にピストンロッド退動阻止用のボールが配置されており、
前記テーパ面として、該ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において、前記シリンダの内周面に対し弦方向に延在するテーパ面が設けられて
おり、該テーパ面の弦方向一端側のみに前記ボールの位置決め部が設けられていることを特徴とするフード持ち上げ装置用アクチュエータ。
【請求項6】
前記位置決め部は凸部である、請求項5のフード持ち上げ装置用アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者等との衝突が検知又は予知されたときに、自動車のフード(ボンネットフード)の後部側を押し上げるためのフード持ち上げ装置用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフード持ち上げ装置に用いられるアクチュエータとして、ガス発生装置と、シリンダと、ピストンロッドとを備えたものがある。このアクチュエータにあっては、ガス発生装置が作動すると、シリンダからピストンロッドが突出することによりフードが持ち上げられる。
【0003】
突出したピストンロッドが後退することを阻止するために、ピストンロッドの周面にテーパ面が設けられ、該テーパ面とシリンダ内周面との間にボールが配置されている。ピストンロッドが後退しようとすると、ボールがテーパ面とシリンダ内周面との間に噛み込まれ、ピストンロッドの後退が阻止される。
【0004】
従来、このテーパ面は、ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において円形となっている。ボールは、この断面円形のテーパ面を取り巻くように多数個配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ピストンロッドの退動防止用のボールのラジアル移動を規制し、ボールの数で反力を調節できるフード持ち上げ装置用アクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフード持ち上げ装置用アクチュエータは、シリンダ内に配置されたピストンロッドをガス圧によって移動させて車両のフードを持ち上げるフード持ち上げ装置用アクチュエータであって、該ピストンロッドの基端側に設けられたテーパ面と前記シリンダの内周面との間にピストンロッド退動阻止用のボールが配置されているフード持ち上げ装置用アクチュエータにおいて、前記テーパ面として、ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において弦方向に延在するテーパ面が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様では、前記テーパ面が少なくとも3面設けられている。
【0009】
本発明の一態様では、3面の前記テーパ面が前記ピストンロッドの周方向の3等分位置に設けられている。
【0010】
本発明の一態様では、前記ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において、前記テーパ面は前記弦方向に延在する直線となっている。
【0011】
本発明の一態様では、前記ピストンロッドの軸心線と垂直な断面において、前記テーパ面の弦方向一端側又は両端側に、前記ボールの位置決め部が設けられている。
【0012】
本発明の一態様では、前記位置決め部は凸部である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピストンロッドの退動防止用のボールのラジアル移動を規制し、ボールの数で反力を調節できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係るアクチュエータの作動前の状態における長手方向の断面図である。
【
図4】別の実施の形態に係るアクチュエータの断面図である。
【
図5】別の実施の形態に係るアクチュエータの断面図である。
【
図6】別の実施の形態に係るアクチュエータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は実施の形態に係るフード持ち上げ装置用アクチュエータ1を示す。このフード持ち上げ装置は、車両が歩行者に衝突した際にフード後部を持ち上げて歩行者の衝撃を緩和するためのものである。
【0017】
なお、以下の説明では、ピストンロッドの突出方向の端部を上端又は先端、突出方向とは反対方向の端部を下端又は後端と称する。
【0018】
このアクチュエータ1は、シリンダ2、及びピストンロッド3を有する直動型のアクチュエータである。シリンダ2の後端にはガス発生装置4が設けられている。ガス発生装置4は、図示しないECU(電子制御ユニット)に接続されており、ECUの指令に基づいて作動し、高圧ガスを発生させる。この高圧ガスにより、ピストンロッド3を押し上げてシリンダ2から突出させる。
【0019】
シリンダ2の先端側には、中央に孔部を有したフランジ状のエンドメンバ5が固定設置されている。エンドメンバ5の内周縁側は、シリンダ2の内周縁よりも中央側に張り出している。
【0020】
ピストンロッド3の先端側はエンドメンバ5の中央孔部を通って上方へ突出している。エンドメンバ5の内周面に溝が周回して設けられており、これらの溝にストッパリング6が係合している。
【0021】
図示は省略するが、ストッパリング6の外周縁からは放射方向に爪片が突設されている。爪片は、ストッパリング6の周方向に間隔をおいて複数個設けられている。
【0022】
ストッパリング6は、定常時(ガス発生装置非作動時)におけるピストンロッド3の上方への突出を阻止している。ピストンロッド3の先端にはカバーキャップ7が装着されている。
【0023】
図2にも明示の通り、ピストンロッド3の後端部はピストン部8となっている。該ピストン部8の外周面には溝9が周設されている。Oリング10が溝9内に配置され、シリンダ2の内周面に気密にかつ摺動自在に接している。
【0024】
ピストン部8よりも上方側は小径部11となっており、該小径部11よりも先端側は大径部12となっている。大径部12の直径は、シリンダ2の内径よりもごく僅かに小さいものとなっている。
【0025】
図3に示すように、小径部11は略三角柱形状となっている。小径部11の側周面は、周方向3等分位置に配置された3面のテーパ面13と、各テーパ面13同士の間の円弧面14とで構成されているが、円弧面14が省略され、テーパ面13同士が直接に連なる形状とされてもよい。円弧面14の部分は円弧形以外の形状の面であってもよい。
【0026】
図3の通り、ピストンロッド3の軸心線方向と垂直な断面において、テーパ面13は、シリンダ2の内周面に対し弦方向に延在しており、テーパ面13の延長面同士の交差角は60°である。また、テーパ面13は、
図2の通り、上方ほどシリンダ2の内周面との間隔が小さくなるように傾斜している。
【0027】
各テーパ面13とシリンダ内周面との間にボール15が配置されている。ボール15の下側にはボール保持リング16が小径部11を取り巻くように配置されている。
【0028】
ボール保持リング16は、ピストンロッド8の小径部11側の段差面上に当接配置されている。
【0029】
アクチュエータ1が作動する前の状態では、ボール15はボール保持リング16の上面に当接している。また、この状態では、ボール15は、シリンダ2の内周面に摺動可能に接しているか、又は両者間にごく僅かな間隙が存在する状態となっている。
【0030】
次に、このアクチュエータ1の動作を説明する。検知システムにより、車両と歩行者との衝突が検知又は予知されると、ガス発生装置4がECUの指令に基づいて作動し、高圧ガスを発生させる。高圧ガスがシリンダ2内に供給され、ピストンロッド3を上方に移動させる。
【0031】
ピストンロッド3は、ストッパリング6の爪片(図示略)を変形させて上方に突出し、ボンネットフードの後部を押し上げる。ピストンロッド3は、大径部12がエンドメンバ5に当たるまで上方移動する。
【0032】
ピストンロッド3が上方移動する間は、ボール15はボール保持リング16に当接しており、ピストンロッド3の移動を拘束しない。
【0033】
押し上げられたボンネットフードに歩行者等から荷重が加えられ、ボンネットフード後部及びピストンロッド3が下方移動しようとすると、ボール15がシリンダ2の内周面とテーパ面13との間に噛み込まれた状態となる。ピストンロッド3に加えられる下向き荷重により、ボール15はテーパ面13から放射方向に分力を受け、シリンダ2内周面に押し付けられ、シリンダ2内周面に食い込み、ボール15がシリンダ2内周面を変形させながら下方へ移動する。これにより、衝撃が吸収される。
【0034】
この実施の形態では、ボール15の数が3個と少ない。一般に、ボールの個数が増えると、ラップ量(シリンダ内周面への食い込み深さ)に対して反力Fが大きくなる(ボール1ケ当りの圧力の合計が反力Fとなる。)。
【0035】
ラップ量は、部品の寸法バラツキによって変化するが、ボール個数が増えると反力Fの幅も大きくなる(大きく変化する)。従って、ボール個数を少なくすることにより、反力Fの幅を狭めることができる。ボールの数で反力を調節できる。
【0036】
上記実施の形態では、3面のテーパ面13にそれぞれボール15を1個ずつ配置しているので、ボール15の個数は3個であるが、1面又は2面のテーパ面13にのみボール15を配置することにより、ボールの合計の個数を1個又は2個としてもよい。また、
図6のように、1個のテーパ面13当り2個のボールを配置してもよい。
【0037】
上記実施の形態では、ピストンロッドの小径部11に3面のテーパ面13を設けているが、4面以上のテーパ面を設けてもよい。
図4はその一例に係る六角形断面形状の小径部11Aを示すものであり、周方向120°毎に位置する3個のテーパ面13にそれぞれボール15が配置されている。
【0038】
本発明では、ピストンロッドにボール15の周方向の位置決め部を設けてもよい。
図5はその一例に係る小径部11Bを示すものであり、テーパ面13の弦方向一端側からシリンダ内周面に向って位置決め部としての凸部18が突設され、ボール15が該凸部18に当接して位置決めされている。
【0039】
図5では、テーパ面13の弦方向の一端側にのみ凸部18が設けられているが、弦方向の両端側にそれぞれ凸部が設けられてもよい。
【0040】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 アクチュエータ
2 シリンダ
3 ピストンロッド
4 ガス発生装置
8 ピストン部
11,11A,11B 小径部
12 大径部
13 テーパ面
15 ボール
18 凸部