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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】河川堤防の越水制御構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
E02B3/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020146062
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022041056
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-155415(JP,U)
【文献】特開2012-041744(JP,A)
【文献】特開2020-012356(JP,A)
【文献】特開2018-178644(JP,A)
【文献】特開2018-100506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川堤防に設けられた越水制御構造であって、
前記河川堤防の表のり側から裏のり側に至る通水部を備え、
前記通水部が、前記河川堤防の長手方向に連続して配置されているとともに、
前記通水部を閉塞する閉塞部が、前記河川堤防の長手方向における所定範囲に設けられていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項2】
河川堤防に設けられた越水制御構造であって、
前記河川堤防の表のり側から裏のり側に至る通水部を備え、
前記通水部が、透水材料により形成されるとともに、該透水材料の下方に、不透水層が設けられていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記河川堤防が、既設堤防であるとともに、
前記通水部が、前記既設堤防の天端より上方に設けられていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項4】
請求項1または2に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記河川堤防が、新設堤防であるとともに、
前記通水部が、前記新設堤防における計画高水位と、該計画高水位に対して規定された余裕高とを足し合わせた高さより、上方に設けられていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項5】
請求項1または2に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記通水部が、通水量を変更可能に設けられていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項6】
請求項1に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記通水部が、無孔パイプにより形成されていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項7】
請求項2に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記通水部が、前記河川堤防の長手方向に連続して配置されていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項8】
請求項2に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記通水部が、前記河川堤防の長手方向に部分的に配置されていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【請求項9】
請求項7に記載の河川堤防の越水制御構造において、
前記通水部を閉塞する閉塞部が、前記河川堤防の長手方向における所定範囲に設けられていることを特徴とする河川堤防の越水制御構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設堤防もしくは新設堤防に設ける河川堤防の越水制御構造に関する。
【背景技術】
【0002】
土構造物である河川堤防は、降雨や河川水等の浸透により不安定とならないよう耐浸透性を有する土質材料により築造されている。また、その構造は、計画高水位に対して余裕高を加算した高さと浸透に耐えうる断面形状が確保されるなど、越流や浸透に対して十分な配慮がなされている。
【0003】
しかし、近年の気候変動により降水量に施設能力を超える増加が見られる場合や、河川堤防が軟弱地盤上に築造されたことにより地盤沈下を生じたり、河床に土砂が堆積するなどして堤防高が築造当初より相対的に低下している場合に、河川水位が堤防高さに達して堤内地側に溢れ出す、いわゆる越水の危険性がある。越水が生じると、河川堤防の一部が局所的に破堤して大量の土砂を含んだ河川水が堤内地側に流れ込む等、集落や家屋に甚大な被害をもたらすため、住民の生活や人命に多大な影響を及ぼしかねない。
【0004】
このような中、越水の抑制を目的とした河川堤防の嵩上げに関する様々な技術開発が進められている。例えば、特許文献1では、既存堤防に設ける嵩上げ構造物が開示されている。具体的には、既存堤防の天端に基礎を設けるとともに、この基礎上の所定位置に高さ調整スペーサとゴムパッキンを配置する。次に、高さ調整スペーサとゴムパッキンの上面に、嵩上げコンクリートブロックを設置し、嵩上げコンクリートと基礎との間の隙間をモルタル等の結合材で充填する。
【0005】
上記の手順で既存堤防の天端に構築された特許文献1の堤防嵩上げ構造物は、嵩上げコンクリートブロックと河川堤防の天端に設けた基礎との間の隙間が封止されることから、河川水位が上昇しても、これらの隙間から堤内地側に河川水が漏れ出す現象を抑制できる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-178644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、嵩上げ工は河川堤防の全域に施工するのではなく、堤防高が減少している範囲や過去に破堤が生じた氾濫域の近傍に対して、部分的に施工される場合が多い。すると、嵩上げ工を行った領域の近傍では越水を抑制できるものの、嵩上げ工により降水時の河川水位は上昇する。このため、上昇した河川水位に対応可能な堤防高を有していない部分が下流域に存在する場合には、この下流域で越水が生じ、ひいては破堤を生じさせる恐れが生じる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、河川堤防に破堤を生じさせるような越水を抑制するべく、河川水位が上昇した際に堤内地に流入する河川水の水量を制御することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の河川堤防の越水制御構造は、河川堤防に設けられた越水制御構造であって、前記河川堤防の表のり側から裏のり側に至る通水部を備え、前記通水部が、前記河川堤防の長手方向に連続して配置されているとともに、前記通水部を閉塞する閉塞部が、前記河川堤防の長手方向における所定範囲に設けられていることを特徴とする。また、本発明の河川堤防の越水制御構造は、河川堤防に設けられた越水制御構造であって、前記河川堤防の表のり側から裏のり側に至る通水部を備え、前記通水部が、透水材料により形成されるとともに、該透水材料の下方に、不透水層が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明の河川堤防の越水制御構造は、前記河川堤防が、既設堤防であるとともに、前記通水部が、前記既設堤防の天端より上方に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の河川堤防の越水制御構造は、前記河川堤防が、新設堤防であるとともに、前記通水部が、前記新設堤防における計画高水位と、該計画高水位に対して規定された余裕高とを足し合わせた高さより、上方に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明の河川堤防の越水制御構造は、前記通水部が、前記河川堤防の長手方向に部分的に配置されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の河川堤防の越水制御構造は、通水部が、無孔パイプにより形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の河川堤防の越水制御構造は、前記通水部が、通水量を変更可能に設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の河川堤防の越水制御構造によれば、河川水位が上昇した際、通水部によって水量を制御した河川水を堤内地側に流入させる。これにより、堤内地側に制御して流入させた水量分だけ河川水位を低下させることができる。
【0019】
したがって、破堤を生じるような越水を低減できるとともに、越水に起因して生じる破堤を抑制することができる、もしくは破堤に至る時間を遅らせることが可能となる。また、河川水位を低下させることができることにより、降雨時に破堤に至るまでの降雨量を増大させることも可能となる等、河川堤防の強化を図ることが可能となる。
【0020】
また、堤内地側に河川水が流入しても、その水量は通水部により制御されているため、これら河川水が河川堤防の裏のりを流下した場合にも、裏のりを侵食する現象を抑制することが可能となる。また、大量の土砂を含んだ河川水が、一気に堤内地に流入する現象を抑制でき、集落や家屋等への被害を最小限に抑えることが可能となる。
【0021】
さらに、通水部を適宜変更することにより、堤内地側に流入する河川水の水量を制御できるだけでなく、通水部に対して閉塞部を所望の範囲に設けることで、堤内地の浸水域を、例えば遊休地のような住民の生活に与える影響の少ない領域から徐々に広げていくよう制御することもできる。
【0022】
これにより、浸水域が市街地に及ぶような場合にも、時間を稼ぐことができ、市街地の住民が避難等の浸水に備えた準備を行うための時間確保に寄与することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、河川水位の上昇により堤内地に流入する河川水の水量を通水部にて制御することにより、河川堤防の破堤を抑制する、もしくは破堤に至る時間を遅らせる等、河川堤防の強化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態における既設堤防の越水制御構造を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における越水制御構造の通水部を介して河川水が堤内地に流入する様子を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における越水制御構造を既設堤防の全域に設ける場合を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における越水制御構造を既設堤防の一部に設ける場合を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における通水部に閉塞部を設ける様子を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における堤内地に生じる浸水域を制御する様子を示す図である(その1)。
図7】本発明の実施の形態における堤内地に生じる浸水域を制御する様子を示す図である(その2)。
図8】本発明の実施の形態における通水部の他の事例を示す図である(その1)。
図9】本発明の実施の形態における通水部の他の事例を示す図である(その2)。
図10】本発明の実施の形態における新設堤防の越水制御構造を示す図である。
図11】本発明の実施の形態における河川堤防の裏のりにのり保護工を設けた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明における河川堤防の越水制御構造は、河川水位が上昇した際に堤内地側に流入する河川水の水量を、この越水制御構造に設けた通水部で制御するものである。以下に、河川堤防の越水制御構造について、その詳細を図1図11を参照しつつ説明する。
【0026】
≪≪既設堤防の越水制御構造≫≫
図1(a)で示すように、河川堤防の越水制御構造10は、既設堤防30の天端上に設けられており、盛土部12と、盛土部12の天端に設けられた天端保護部13と、盛土部12が積層されている透水層14とを備える。
【0027】
盛土部12は、河川堤防の堤体材料として一般に用いられる地盤材料から適宜好適な材料を選択し、締固めて築造した土構造物である。また、天端保護部13は、盛土部12の天端が崩落し幅欠損を生じる現象を抑制するべく設けられるものである。その構造は、河川堤防の天端保護工として採用されるいずれの構造をも採用することができ、例えば、土や砕石等地盤材料を用いた保護工、環境を配慮した植生被覆工、アスファルト舗装等が採用される。
【0028】
透水層14は、礫や礫まじり等の高い透水性を有する地盤材料を撒き出して、層状に締め固めたものであり、既設堤防30の天端より上方で表のり31側から裏のり32側に至る通水部として機能する。なお、透水層14は、例えば、透水マット、ペーパードレーン及び有孔パイプ等のドレーン構造、サンドマットやグラベルマット等の地盤材料を用いた透水層、もしくは、廃ガラスやフライアッシュ造粒物等の人工地盤材料による透水層等が採用可能である。
【0029】
このような透水層14は、図1(a)において、既設堤防30の天端直上に設けているが、その位置はこれに限定されるものではない。天端保護部13と盛土部12との間に形成してもよいし、盛土部12を2層にしてその間に挟み込むように形成してもよい。さらには、図1(b)で示すように、盛土部12を設けず、越水制御構造10を透水層14と天端保護部13とにより構成してもよい。
【0030】
このような構造の越水制御構造10は、河川水位WLが上昇すると、図2(a)で示すように、河川水Wが透水層14を通過して裏のり32の表面を流下し、流下した河川水Wは、ドレーン工21を介して堤脚水路22に排水される。そして、堤脚水路22で排水しきれなかった河川水Wは、堤内地側にさらに流入することとなる。
【0031】
なお、ドレーン工21は、既設堤防30における裏のり32ののり先に既設のものが設置されていれば、これを利用すればよい。また、設置されていない場合には、既設堤防30の土質条件や透水層14より流下する河川水Wの水量等を考慮し、適用するフィルターの材料や断面形状等を適宜設計したドレーン工21を設置すればよい。
【0032】
ここで、図2(a)で示すように、既設堤防30の天端にアスファルト舗装のような不透水層として機能する層が形成されていない場合には、透水層14内を通過する河川水Wの一部が、既設堤防30に浸透する。すると、これら浸透した河川水Wも裏のり32を流下する河川水Wとともに、ドレーン工21を介して堤脚水路22に排水される。
【0033】
このように、既設堤防30に浸透した河川水Wは、ドレーン工21を介して堤脚水路22に排水可能であるが、図2(b)で示すように、透水層14の下面側に不透水層15を設けると、河川水Wが透水層14を経由して既設堤防30に浸透する現象を抑制することができる。なお不透水層15としては、追随性の高い材料であり、かつ施工性の良いアスファルト層の適用が好適であるが、これに限定されることなく、例えば、遮水シートを敷設してもよいし、粘土やシルト等細粒分を多く含む地盤材料を層状に撒き出して形成してもよい。
【0034】
このような河川堤防の越水制御構造10は、透水層14を介して堤内地側に流入する河川水Wの水量を、透水層14の層厚や、透水層14に用いる地盤材料の粒径、透水層14を設ける高さ位置等によって制御することが可能である。したがって、図2(a)(b)で示すように、例えば降雨等により河川水位WLが上昇して、既設堤防30の天端高さを超えると、透水層14によって制御された水量分の河川水Wが、堤内地側に流入することとなる。
【0035】
すると、堤内地側に流入させた水量分だけ、河川水位WLを低下させることができるため、破堤を生じるような越水を低減できるとともに、越水に起因して生じる破堤を抑制することができる、もしくは破堤に至る時間を遅らせることが可能となる等、既設堤防30の強化を図ることが可能となる。
【0036】
そして、堤内地側に河川水Wが流入しても、その水量は透水層14により制御されているため、これら河川水Wが河川堤防の裏のり32を流下した場合にも、裏のり32を侵食する現象を抑制することが可能となる。また、大量の土砂を含んだ河川水Wが、堤内地に一気に流入する現象を抑制でき、集落や家屋にもたらす被害の低減に寄与できる。
【0037】
このような越水制御構造10は、図3で示すように、河川Rの上流域から下流域に渡って既設堤防30に対して一様に構築する。こうすると、河川水位WLが上昇した際、堤内地における河川Rの上流域から下流域周辺に沿う広範囲にわたって、透水層14を介して河川水Wを分散流入させることができる。
【0038】
これにより、河川Rの全域にわたって、河川水位WLを低下させることができ、破堤に至るまでの降雨量を増大させることも可能となり、既設堤防30を将来の気候変動に伴う降雨量増加に対応可能な構造とすることが可能となる。
【0039】
なお、河川水Wを堤内地側に流入させる際には、流入させることの可能な水量と、河川R全域にわたって破堤を生じるような越水をしない状態を維持するべく堤内地側に流入させたい水量の両者を勘案し、透水層14の層厚や透水係数等を適宜設計すると良い。
【0040】
このようにして、透水層14を介して河川水Wを堤内地側へ流入させた場合であっても、降水量によっては既設堤防30の破堤が生じうる。しかし、堤内地側に流入する河川水Wの水量を透水層14により制御できるため、破堤に至るまでの期間を長期化させることが可能である。これにより、堤内地に居住する住民等が、避難するための時間の確保に寄与できる。
【0041】
また、図3では、既設堤防30の全域に越水制御構造10を設ける場合を事例に挙げたが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、図4で示すように、既設堤防30のうち、過去に越水の発生が見られた範囲や破堤が生じた範囲、もしくは堤防高の低下がみられる範囲に対して、いわゆる嵩上げ工のごとく、部分的に越水制御構造10を設けてもよい。
【0042】
一般に、部分的に設ける嵩上げ工では、例えば降雨時において河川水位WLが上昇すると、嵩上げ工を実施した範囲での越水を抑制できる。しかし、嵩上げすることにより降雨時の河川水位WLは、それ以前と比較して上昇することとなる。このため、上昇した河川水位WLに対応できない部分が下流域に存在すると、その下流域で嵩上げ工に起因した越水を生じる、といった事態が生じていた。
【0043】
ところが、前述したように越水制御構造10は、透水層14で制御された水量の河川水Wを堤内地側へ流入させ、その水量分だけ河川水位WLを低下させることができる。したがって、過去に越水の発生が見られた範囲に対して部分的に越水制御構造10を設置した場合にも、この越水制御構造10に起因して河川水位WLが上昇し、その下流で越水を生じさせる等の事態を回避することが可能となる。
【0044】
さらに、図3で示すように、河川Rの上流域から下流域に渡って既設堤防30に対して一様に越水制御構造10を構築した場合には、透水層14の所定位置に図5(a)(b)で示すような、閉塞部16を設けることで、堤内地の河川Wによる浸水域Faを制御することができる。
【0045】
具体的には、図5(a)で示すように、透水層14の河川R側に対向する側面(表のり31側の側面)に、河川水Wの流入を規制する閉塞部16を形成する。閉塞部16は、透水層14を遮水シートやコンクリート壁、アスファルト材等の不透水性材料で被覆することにより形成すればよい。
【0046】
これら閉塞部16は、図5(b)で示すように、既設堤防30の長手方向における所定の範囲に形成されており、その設置範囲は、堤内地における河川水Wの流入を抑制したい区域に近接する範囲に設けるとよい。例えば、図6では、閉塞部16を家屋や商業施設等が密集する市街地等の活用地E1に近接する範囲に設けている。
【0047】
こうすると、図6で示すように、河川水位WLが上昇した際、河川水Wを透水層14の閉塞部16が設けられていない部分から、堤内地に流入させることができる。これにより、堤内地側に河川水Wが流入しても、浸水域Faに活用地E1が含まれることを抑制することが可能となる。
【0048】
その一方で、図7で示すように、堤内地側に国有林や遊休地等、河川水Wによる浸水が生じても住民の生活に与える影響の少ない未利用地E2がある場合には、閉塞部16を利用して積極的に河川水Wをこの未利用地E2に流入させることも可能である。つまり、透水層14において、未利用地E2の近傍には閉塞部16を形成せず、その他の範囲に閉塞部16を形成する。
【0049】
こうすると、図7で示すように、河川水位WLが上昇した際、透水層14と閉塞部16とにより制御された河川水Wは、浸水域Faを未利用地E2から徐々に広げていく。したがって、市街地等の活用地E1に浸水域Faが及ぶような場合にも、河川水Wが活用地E1に到達するまでの時間を稼ぐことができる。これにより、活用地E1で生活する住民が避難等の浸水に備えた準備を行うための時間の確保に寄与することが可能となる。
【0050】
≪≪越水制御構造の他の事例≫≫
図1図7では、越水制御構造10に形成する通水部として透水材料よりなる透水層14を事例に挙げたが、これに限定されるものではない。河川水Wを通水させることの可能な構造であれば、例えば無孔パイプ11を用いて通水部を形成してもよい。
【0051】
図8(a)で示すように、越水制御構造10は、無孔パイプ11と、盛土部12と、天端保護部13とにより構成されている。盛土部12及び天端保護部13は、通水部として透水層14を採用した場合と同様の構造を有している。
【0052】
無孔パイプ11は、両端部が開口されているとともに周壁に孔が設けられていないストレート管よりなり、既設堤防30の長手方向と交差する方向に延在するよう配置されている。これにより、一端が既設堤防30の表のり31側に配置され、他端が既設堤防30の裏のり32側に配置されている。
【0053】
そして、このような構成の無孔パイプ11は複数を、図8(b)で示すように、互いに周壁を当接するようにして並列配置させることにより、既設堤防30の長手方向に連続する通水部を形成している。これら無孔パイプ11は、天端保護部13と盛土部12との間に形成してもよいし、複数段に積み重ねてもよい。また、互いに間隔を設けて配置してもよい。
【0054】
さらには、無孔パイプ11の断面形状はいずれでもよく、その延在形態も、既設堤防30の表のり31側から裏のり32側に至る通水部として機能すれば、屈曲させたり蛇行させるなど、いずれであってもよい。さらに、無孔パイプ11に用いる材料も、天端保護部13から盛土部12を介して作用される荷重により断面変形を生じるものでなければ、いずれを採用してもよい。
【0055】
このような構成の越水制御構造10は、図8(c)で示すように、河川水位WLが上昇すると、河川水Wが無孔パイプ11からドレーン工21及び堤脚水路22を経由して、堤内地側に流入する。したがって、堤内地側に流入させる河川水Wの水量は、無孔パイプ11の本数や口径等により適宜調整し制御することができる。
【0056】
そして、これら通水部として無孔パイプ11を採用した越水制御構造10も、透水層14を採用した場合と同様に、図3で示すように、河川Rの上流域から下流域に渡って既設堤防30に対して一様に構築することができる。
【0057】
なお、通水部として無孔パイプ11を採用した場合は、堤内地側に流入させることの可能な水量と、河川R全域にわたって破堤を生じるような越水をしない状態を維持するべく堤内地側に流入させたい水量の両者を勘案し、無孔パイプ11の本数や口径を適宜設計すると良い。
【0058】
また、通水部として無孔パイプ11を採用した場合も、所定位置に閉塞部16を設けることで、図6及び図7で示すような、堤内地の河川Wによる浸水域Faを制御することが可能となる。
【0059】
例えば、図9(a)では、既設堤防30の表のり31側に配置された無孔パイプ11の一端側を遮水シートやコンクリート壁、アスファルト材等の不透水性の材料で被覆するようにして、閉塞部16を形成している。
【0060】
また、図9(b)では、無孔パイプ11の配置間隔を変化させることにより閉塞部16を形成している。具体的には、河川水Wを通水させたい範囲に無孔パイプの束17を配置し、無孔パイプ11が配置されていない盛土部12のみの範囲を、閉塞部16として設けたものである。
【0061】
≪≪新設堤防の越水制御構造≫≫
図1から図9では、越水制御構造10を既設堤防30に設ける場合を事例に挙げたが、同様の構造の越水制御構造10は、新設堤防40に設けることも可能である。その一例を図10(a)(b)に示す。
【0062】
図10(a)で示すように、新設堤防40は、計画高水位L1とこの計画高水位L1に対して規定された余裕高L2とを足し合わせた高さを、最小限確保するよう規定されている。したがって、越水制御構造10を設ける場合は、計画高水位L1と余裕高L2とを足し合わせた高さより上方に、透水層14を配置している。
【0063】
例えば、図10(a)では、計画高水位L1と余裕高L2とを足し合わせた高さより上方の全体を、透水層14としている。また、図10(b)では、計画高水位L1と余裕高L2とを足し合わせた高さより上方の一部分を透水層14とし、その他の部分を盛土部12としている。なお、通水部として透水層14を例示したが、無孔パイプ11を採用することも可能である。
【0064】
本発明における河川堤防の越水制御構造10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、本実施の形態では、図2(a)(b)及び図8(c)で示すように、越水制御構造10で水量が制御された河川水Wが、既設堤防30の裏のり32の表面を流下する構造となっている。しかし、必ずしもこれに限定されるものではなく、図11(a)で示すように、裏のり32の表面にのり面保護工23を設けてもよい。
【0066】
こうすると、より確実に裏のり32を河川水Wの浸食作用から保護することが可能となる。なお、のり面保護工23は、例えばブロック張りを採用してもよいし、かごマットの敷設、もしくはポーラスコンクリートの吹付、不透水膜の形成等、のり面保護工として従来より採用されているいずれの構造も採用することが可能である。このようなのり面保護工23は、新設堤防40の場合も同様に、図11(b)で示すように、裏のり42に設けると良い。
【0067】
また、本実施の形態では、図5で示すように、通水部を閉塞する閉塞部16を表のり31側に設ける構成としたが、必ずしもこれに限定するものではなく、裏のり32側に設けてもよい。新設堤防40の場合も同様に、閉塞部16を設ける場合には、表のり41及び裏のり42のいずれに設けてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 越水制御構造
11 無孔パイプ(通水部)
12 盛土部
13 天端保護部
14 透水層(通水部)
15 不透水層
16 閉塞部
17 無孔パイプの束
21 ドレーン工
22 堤脚水路
23 のり面保護工
30 既設堤防(河川堤防)
31 表のり
32 裏のり
40 新設堤防(河川堤防)
41 表のり
42 裏のり
R 河川
W 越水
Fa 浸水エリア
E1 活用地
E2 未利用地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11