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特許7480647運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240501BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240501BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J3/38 120
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020152792
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047077
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
【審査官】大手 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-032336(JP,A)
【文献】特開2015-018374(JP,A)
【文献】特開2021-189845(JP,A)
【文献】特開2019-097267(JP,A)
【文献】特開2017-211763(JP,A)
【文献】特開2007-129873(JP,A)
【文献】特開2020-031481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/32
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からの前記エネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転を支援する運転支援装置であって、
前記エネルギー授受装置における前記エネルギーの授受を制御するための制御情報を算出する最適化計算部と、
前記制御情報を出力する最適化結果出力部と、を備え、
前記最適化計算部は、前記制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と前記時間帯に関連付けられた前記エネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際の前記エネルギーの需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱う、運転支援装置。
【請求項2】
前記最適化計算部は、計画期間中に含まれる各時刻における決定済み計画と実際の前記エネルギーの需要との差分の絶対値の重みづけ和を含む関数を、前記差分を示す関数として採用する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記最適化計算部は、計画期間中に含まれる各時刻における決定済み計画と実際の前記エネルギーの需要との差分の重みづけ二乗和を含む関数を、前記差分を示す関数として採用する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記最適化計算部は、計画期間中に含まれる各時刻における決定済み計画と実際の前記エネルギーの需要との差分の最大値を含む関数を、前記差分を示す関数として採用する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記最適化計算部は、前記エネルギーを電力として扱う、請求項1~4の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記最適化計算部は、前記制御情報として、前記エネルギー授受装置である蓄電池の充電及び放電を制御する情報を算出する、請求項1~5の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記最適化計算部は、前記制御情報として、前記エネルギー授受装置である発電装置の起動、停止及び発電電力量を制御する情報を算出する、請求項1~5の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項8】
前記最適化計算部は、前記制御情報として、前記エネルギー授受装置であるごみ発電装置の起動、停止及び発電電力量を制御する情報を算出する、請求項6に記載の運転支援装置。
【請求項9】
前記最適化計算部は、前記制御情報として、前記エネルギー授受装置であるバイオマス発電装置の起動、停止及び発電電力量を制御する情報を算出する、請求項6に記載の運転支援装置。
【請求項10】
前記最適化計算部は、前記制御情報として、前記エネルギー授受装置である水電解装置の起動、停止及び負荷を制御する情報を算出する、請求項1~5の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項11】
第10の要旨は、前記制御情報として、前記エネルギー授受装置である再生可能エネルギー発電システムの出力を抑制する情報を算出する、請求項1~5の何れか一項に記載の運転支援装置。
【請求項12】
エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からの前記エネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転を支援する運転支援方法であって、
前記エネルギー授受装置における前記エネルギーの授受を制御するための制御情報を算出するステップと、
前記制御情報を出力するステップと、を有し、
制御情報を算出するステップは、前記制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と前記時間帯に関連付けられた前記エネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際の前記エネルギーの需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱う、運転支援方法。
【請求項13】
エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からの前記エネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転をコンピュータに支援させる運転支援プログラムであって、
前記エネルギー授受装置における前記エネルギーの授受を制御するための制御情報を算出するステップと、
前記制御情報を出力するステップと、を行うように前記コンピュータを動作させ、
制御情報を算出するステップでは、前記コンピュータが、前記制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と前記時間帯に関連付けられた前記エネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際の前記エネルギーの需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱うように動作させる運転支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるマイクログリッドに関する技術が検討されている。マイクログリッドでは、所定の地域内に複数のエネルギー機器が配置され、当該地域内のエネルギー需要が各エネルギー機器によって賄われる。特許文献1、2及び非特許文献1、2は、マイクログリッドといったエネルギーシステムの運用に関する技術を開示する。
【0003】
卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドでは、事前に策定した電力需給計画に基づき、将来各時間帯における送電量および受電量を市場にて売買する。各時間帯において、計画送受電量と実績送受電量とが一致しない場合がある。計画送受電量と実績送受電量との差は、インバランスと称される。計画送受電量と実績送受電量とが一致しない場合には、最終的な電力供給の責任を負う一般送配電事業者側が調整力電源を用いてインバランスを解消する。インバランスの解消が実行された場合には、マイクログリッドの運営は、インバランスの解消に要した費用の一部をインバランスの量に応じて負担する必要がある。
【0004】
卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドにおいて、経済的な電力需給を実現するためには、インバランスの発生リスクを考慮した電力需給計画の最適化及び最適化された電力需給計画に基づく売買注文(問題点(1))と、マイクログリッドの需給再計画や制御に基づく需要インバランスの回避・抑制(問題点(2))と、が問題となる。
【0005】
例えば、特許文献1は、上記問題点(1)、(2)を解決しようとする技術を開示する。問題点(1)に対して、過去の受電計画と実績差との統計処理に基づきペナルティコストを予測する。そして、予測された情報を用いて需給計画を最適化する。また、特許文献1は、問題点(2)に対して、決定済みの受電計画と実績との差に応じたペナルティコストを目的関数として含む最適化問題を解き、需給計画の再最適化及び再最適化に基づく制御を行うことでインバランス調整に係る負担額も含めた電力調達コストを抑制する制御手法も提案する。
【0006】
インバランスやそれにともなうペナルティコストのほかにも、将来の不確実性について配慮が求められる状況は多い。例えば、精度の低い予測に基づいて需給計画を策定した場合、予実差の大きさによってコストが増加する。あるいは計画が破綻し需給が成立しなくなるリスクもある。特許文献2は、広く、将来の不確実性を考慮した技術を開示する。特許文献2の技術では、蓄電池を有するマイクログリッドにおいて、将来予測を確率分布として考慮したうえで、さらに定期的な計画補正を取り込んだ最適化問題を解く方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6059328号
【文献】特開2019-97267号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】小熊祐司、稲村彰信、「エネルギーシステム構成・運用最適化のための数理モデルとアルゴリズム」、IHI技報、Vol.59、No.4、pp.24-35(2019)。
【文献】横山良平、長谷川泰士、伊東弘一、「混合整数線形計画法の一分解法によるエネルギー供給システムの機器構成最適化」、日本機械学会論文集C編、Vol.66、No.652、pp.4016-4023(2000)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
予め決定した決定済み計画と、実際のエネルギー需要との差が生じると、調整力電源による調整が行われる。この調整力電源の利用は、コスト面で不利である。従って、実際のエネルギー需要と決定済み計画との差分を抑制することが望まれる。
【0010】
そこで、本発明は、決定済み計画と実際のエネルギー需要との差を抑制することができる運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転を支援する運転支援装置であって、エネルギー授受装置におけるエネルギーの授受を制御するための制御情報を算出する最適化計算部と、制御情報を出力する最適化結果出力部と、を備え、最適化計算部は、制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と時間帯に関連付けられたエネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱う。
【0012】
本発明の別の形態は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転を支援する運転支援方法であって、エネルギー授受装置におけるエネルギーの授受を制御するための制御情報を算出するステップと、制御情報を出力するステップと、を有し、制御情報を算出するステップは、制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と時間帯に関連付けられたエネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱う。
【0013】
本発明のさらに別の形態は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転をコンピュータに支援させる運転支援プログラムであって、エネルギー授受装置におけるエネルギーの授受を制御するための制御情報を算出するステップと、制御情報を出力するステップと、を行うようにコンピュータを動作させ、制御情報を算出するステップでは、コンピュータが、制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と時間帯に関連付けられたエネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱うように動作させる。
【0014】
上記の運転支援装置、運転支援方法及び運転支援プログラムによれば、決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差を抑制することができる。
【0015】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、計画期間中に含まれる各時刻における決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差分の絶対値の重みづけ和を含む関数を、差分を示す関数として採用してもよい。
【0016】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、計画期間中に含まれる各時刻における決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差分の重みづけ二乗和を含む関数を、差分を示す関数として採用してもよい。
【0017】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、計画期間中に含まれる各時刻における決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差分の最大値を含む関数を、差分を示す関数として採用してもよい。
【0018】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、エネルギーを電力として扱ってもよい。
【0019】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、制御情報として、エネルギー授受装置である蓄電池の充電及び放電を制御する情報を算出してもよい。
【0020】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、制御情報として、エネルギー授受装置である発電装置の起動、停止及び発電電力量を制御する情報を算出してもよい。
【0021】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、制御情報として、エネルギー授受装置であるごみ発電装置の起動、停止及び発電電力量を制御する情報を算出してもよい。
【0022】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、制御情報として、エネルギー授受装置であるバイオマス発電装置の起動、停止及び発電電力量を制御する情報を算出してもよい。
【0023】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、制御情報として、エネルギー授受装置である水電解装置の起動、停止及び負荷を制御する情報を算出してもよい。
【0024】
一形態の運転支援装置において、最適化計算部は、制御情報として、エネルギー授受装置である再生可能エネルギー発電システムの出力を抑制する情報を算出してもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、決定済み計画と実際のエネルギーの需要との差を抑制することができる運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、再計画の概念を説明するための図である。
図2図2は、マイクログリッドの全体構成を例示する図である。
図3図3(a)は、運転支援装置の内部構成の例示である。図3(b)は運転支援装置のハードウェア構成を示す図である。
図4図4(a)は、運転支援装置を用いて手動実行をする場合の動作手順である。図4(b)は、運転支援装置を用いて自動定期実行をする場合の動作手順である。
図5図5は、実施形態に示す数式の記号の定義をまとめた表である。
図6図6は、蓄電池を有するマイクログリッドの例示である。
図7図7は、買い注文時及び再計画時の電力需要予測を示すグラフである。
図8図8(a)は、比較例の技術を適用した結果であって蓄電池充放電計画を示すグラフである。図8(b)は、比較例の技術を適用した結果であって受電計画を示すグラフである。
図9図9(a)は、実施形態の運転支援装置を適用した結果であって蓄電池充放電計画を示すグラフである。図9(b)は、運転支援装置を適用した結果であって受電計画を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
また、以下の説明において、以下の文献を適宜引用する。
参考文献1:特許第6059328号、「需給制御装置、蓄電装置、充放電制御装置、需給制御システム及び需給制御方法」。
参考文献2:特開2019-97267号公報、「エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、及び電力需給計画最適化プログラム」。
参考文献3:小熊祐司、稲村彰信、「エネルギーシステム構成・運用最適化のための数理モデルとアルゴリズム」、IHI技報、Vol.59、No.4、pp.24-35(2019)。
参考文献4:横山良平、長谷川泰士、伊東弘一、「混合整数線形計画法の一分解法によるエネルギー供給システムの機器構成最適化」、日本機械学会論文集C編、Vol.66、No.652、pp.4016-4023(2000)。
【0029】
電力を購入する需要家の立場を例にした実施形態を述べる。発電機等を有し電力を販売する発電事業者としても同じような実施形態を考えることは容易である。インバランス抑制の手段として、(1)なんらかの方法により将来各時刻の計画受電量を定め、卸電力市場に買い注文を出す。(2)受電量の約定以降は、マイクログリッドの需給実績や最新の需要予測等をもとに適宜需給計画を更新し運転に反映させる。その際、受電量の計画―実績差(インバランス)を抑えるという枠組みを考える。本実施形態の運転支援装置は、上述の枠組みのうち、(2)に関するものである。
【0030】
図1に再計画の概念図を示す。図1に示す例では、0:00から翌0:00までの受電計画が決定済みである。さらに、必要な受電量の買い注文も約定済みである。0:00から1:00まではマイクログリッドの運転が行われ、実績受電量と約定済み受電量の差が実績インバランスとして確定している。いま、最新の需要予測等をもとに1:00を計画起点として翌1:00までの需給計画を再計画することを考えているとする。ただし、再計画期間のうち翌0:00から1:00に関しては約定済みの受電量はないため、この期間に対してはインバランスを考慮する必要はない。なお図1では再計画期間は1:00から翌1:00としているが、再計画の範囲は任意としてよい。たとえば翌々日先まで再計画をおこなってもよいし、逆に直近の1:00から1:30までを対象として再計画をおこなってもよい。
【0031】
図2に、本実施形態の運転支援装置1を適用しうるマイクログリッド20の全体構成を示す。図3(a)には、運転支援装置1の内部構成を例示する。図3(b)には、運転支援装置1のハードウェア構成を示す。図2に示すマイクログリッド20におけるエネルギーの形態として、本実施形態ではおもに電力を想定する。以下の説明において、電力を例として説明するが、本実施形態の運転支援装置1は、例えばエネルギーがガスや蒸気などであっても、電力であるときに奏される効果と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態の運転支援装置1が適用される場合において、エネルギーの形態、エネルギー機器の種類、エネルギー機器の台数に関する制限はない。運転支援装置1は、電力に加えて、さらにガスや蒸気などを同時に考慮するマイクログリッドに適用されてもよい。
【0032】
図2に示されるエネルギー機器21、22、23としては、以下に例示するエネルギー機器(a)~(d)がある。
エネルギー機器(a):蓄電池など、電力の貯蔵及び放出が可能な設備。
エネルギー機器(b):ガスタービン、ガスエンジン、ごみ発電装置及びバイオマス発電装置など、燃料から電力を生成可能な発電装置。
エネルギー機器(c):水電解装置及び電気ボイラなど、電力を他の資源やエネルギー形態に変換する設備。
エネルギー機器(d):太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備。
【0033】
インバランスの抑制及び回避という観点からは、エネルギー機器(a)はある時間で余剰した電力を別の時間の不足分に充当する使い方が可能である。エネルギー機器(b)及びエネルギー機器(c)は、それぞれ、電力が不足又は余剰している場合の補償手段として活用できる。エネルギー機器(d)は、天候に依存して発電電力が定まる。従って、エネルギー機器(d)の発電電力の制御は、エネルギー機器(a)~エネルギー機器(c)と比較して難しい。しかし、エネルギー機器(d)は、例えば電力余剰時にこれらの機器に接続されたパワーコンディショナを操作して、電力供給を遮断及び抑制することでインバランスを抑制する手段になりうる。
【0034】
エネルギー外部供給源25とは、具体的には系統連携点(受電点)を指す。インバランスとは、系統連携点における受電量の計画と実績との差である。マイクログリッド20において、各時間断面における電力の需要と電力の負荷配分とはなんらかの方法で計測あるいは計算可能である。図2では、単純にエネルギー機器21~23の出力やエネルギー需要24に対して計測器B~Eが設けられている。しかし、図2に示す形態において、例えばエネルギー需要24を、エネルギー外部供給量と各エネルギー機器の出力の和から計算するといった別の方法を採用してもよい。
【0035】
<運転支援装置>
運転支援装置1は、マイクログリッド20のエネルギー機器(群)の最適な運転状態を求める。運転支援装置1は、エネルギー機器21、22、23の運転を支援するために用いられる。図3(b)は、運転支援装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。図3(b)に示すように、運転支援装置1は、物理的には、1又は複数のプロセッサ101と、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶装置102と、キーボード等の入力装置103と、ディスプレイ等の表示装置104と、データを送受信するための通信インターフェースである通信装置105と、を備えるコンピュータとして構成される。運転支援装置1は、プロセッサ101等のハードウェアに所定のコンピュータプログラムを読み込ませることにより、プロセッサ101の制御の下で各ハードウェアを動作させると共に、記憶装置102におけるデータの読み出し及び書き込みを行う。これにより、図3(a)に示す運転支援装置1の各機能が実現される。
【0036】
図3(a)に記載されているとおり、運転支援装置1は、その構成要素として予測値指定部11、制約条件指定部12、目的関数指定部13、機器特性データベース14、受電計画記憶部16、最適化計算部15、最適化結果出力部17、および上述の各項目の計測値φ(あるいは計算値)の入力端を備える。
【0037】
予測値指定部11は、需給計画を考える期間の各時間帯(30分刻みなど)に対応する電力需要の予測値を指定する。需給計画を考える期間とは、典型的には直近1日である。マイクログリッド20が再生可能エネルギー発電設備を含む場合には、同じ期間の発電電力予測値も指定できる。
【0038】
制約条件指定部12および目的関数指定部13は、ファイルの読み込みや画面上からの入力といった形態で提供される。制約条件指定部12では、たとえば各エネルギー機器21~23の発電電力の上下限値や、蓄電池の充電残量の上下限値などのほか、インバランスに関する制約を指定できる。
【0039】
目的関数指定部13では、電力料金単価、燃料単価及びインバランスに関するパラメータを指定することで最適化における目的関数を間接的に指定できる。
【0040】
機器特性データベース14は、最適化対象とするエネルギー機器のモデルやそのパラメータを格納したものである。たとえば効率に関する数式やそのパラメータがこれに含まれる。
【0041】
受電計画記憶部16は、決定済み受電計画を格納するものである。この決定済み受電計画を作成する手段はとくに限定しない。決定済み受電計画は、たとえば人手で決定したものを保存してもよい。この場合には、人手で決定した計画に関する入力部が必要である。決定済み受電計画は、運転支援装置1の内部において最適化計算の結果、求めたものであってもよい。後者の場合は、以降で説明する最適化問題(PまたはQ)において、インバランスに係る制約条件及び目的関数を考慮しないで計算すれば企図した計画を得ることができる。以降では受電計画記憶部16に記憶する受電計画の作成方法については説明を省略する。
【0042】
最適化計算部15は、各種制約条件を満足したなかで、所定の目的関数を最大化あるいは最小化するエネルギー需給計画を求める。エネルギー需給計画とは、各時刻におけるエネルギー需要に対する各エネルギー機器21~23の負荷配分である。最適化計算部15は、エネルギー需給計画を得る動作において、以下に例示するデータ(a)~(f)を用いる。なお、最適化計算の詳細については、後述する。
データ(a):予測値指定部11で指定された予測値。
データ(b):制約条件指定部12で指定された制約条件。
データ(c):目的関数指定部13で指定された目的関数。
データ(d):機器特性データベース14に格納されたエネルギー機器モデルとそのパラメータ。
データ(e):計測器A~Eで計測された現況値。もしくは、一定期間の現況値の時間平均値など、計測器A~Eで計測した値を適当に処理した値であってもよい。
データ(f):受電計画記憶部16に格納された決定済み受電計画。
また、制約条件には、前回需給計画とのインバランスに関する制約も含んでよい。
【0043】
最適化結果出力部17は、最適化計算部15で求めたエネルギー需給計画を画面やファイルなど、適当な方法で出力する。
【0044】
なお、上述の実施形態では、現況値の情報をエネルギー需給計画に用いることも想定している。これはオンライン需給計画を想定したものである。例えば、翌日需給計画に使用する場合は、かならずしも現況値を用いなくてもよい。また、運転支援装置1は、典型的には単一の計算機において実現される。しかし、例えば各構成要素を別の計算機上に配置するなど、その形態については自由度がある。運転支援装置1を実現する物理的な構成の相違によって、運転支援装置1の奏する効果は変わらない。
【0045】
<運転支援方法及び運転支援プログラム>
続いて、運転支援装置1の最適化計算部15において実行される最適化処理、すなわち本実施形態に係る運転支援方法の一例について説明する。
【0046】
図4(a)及び図4(b)のそれぞれに、実施形態に係る運転支援装置1の動作手順として、手動実行(以下、手順(a)とも称する)、自動定期実行(以下、手順(b)とも称する)の2つを示す。手動実行は、オペレータの任意のタイミングで最適化計算を実行する。自動定期実行は、オペレータの指示によらず定期的(たとえば1時間ごとに)自動で最適化計算を実行する。オンライン需給計画の場合は、例えばこの計算結果を利用してエネルギー機器21~23の自動的な制御を行ってもよい。
【0047】
手動実行及び自動定期実行は例えば同一の運転支援装置1において、互いに切り替えて使用できる動作モードとして提供されていてもよい。その場合、切り替えは例えばオペレータの操作によって実施される。なお、図4(a)及び図4(b)のステップ1(S11)~ステップ6(S16)における処理は互いに独立している。これらのステップ1(S11)~ステップ6(S16)は、かならずしも図のとおりでなくてもよい。例えばステップ1(S11)~ステップ6(S16)の処理を逆順としてもよい。また、処理を並列に実施してもよい。
【0048】
図4(a)に示す手動動作に基づく運転支援方法は、主要なステップとして、予測値を指定するステップS11と、制約条件を指定するステップS12と、目的関数を指定するステップS13と、決定済み受電計画を読み込むステップS14と、機器特性を読み込むステップS15と、現況値を入力するステップS16と、最適化計算を実行するステップS17と、最適化計算の結果を出力するステップS18と、を有する。
【0049】
図4(b)に示す自動動作に基づく運転支援方法は、主要なステップとして、予測値を指定するステップS11と、制約条件を指定するステップS12と、目的関数を指定するステップS13と、決定済み受電計画を読み込むステップS14と、機器特性を読み込むステップS15と、現況値を入力するステップS16と、最適化計算を実行するステップS17と、最適化計算の結果を出力するステップS18と、を有する。さらに、図4(b)に示す自動動作に基づく運転支援方法は、上記のステップS11~S18に加えて、動作の終了をするか否かを安定するステップS9と、計算を実施するタイミングを判定するステップS10と、を有する。
【0050】
最適化計算部15における最適化処理は、記憶装置102に記憶されたプログラムをプロセッサ101が読み出し実行することによって実行される。図4(a)に示すフローチャートは、オペレータによる手動操作を受けて各ステップS11~S17が開始される場合を例示する。
【0051】
図4(a)に示す例では、まず、予測値指定部11が、電力需要の予測値を指定する(S11)。
【0052】
次に、制約条件指定部12は、制約条件を設定する(ステップS12)。ステップS12において制約条件は、たとえば後述する式(2)~式(3)で表される。制約条件指定部12は、式(2)~式(3)で表される制約条件を示す制約条件データを、最適化計算部15に送信する。
【0053】
次に、目的関数指定部13は、目的関数を設定する(ステップS13)。ステップS13において目的関数は、たとえば後述する式(1)で表される。目的関数指定部13は、式(1)で表される目的関数を最適化計算部15に送信する。
【0054】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行するために、決定済み受電計画を読み込む(ステップS14)。
【0055】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行するために、機器特性データベース14から機器特性データを読み込む(ステップS15)。
【0056】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行するために、計測器A~Eから提供される現況値を入力する(ステップS16)。現況値は、計測器A~Eからの計測データに含まれる。現況値は、電力供給(又は電力需要)を意味する。
【0057】
次に、最適化計算部15は、最適化計算を実行する(ステップS17)。すなわち、最適化計算部15は、ステップS12において設定された制約条件の下で、ステップS13において設定された目的関数の最適化問題を求解する。機器特性データ及び計測データは、最適化問題におけるパラメータとして用いられる。
【0058】
次に、最適化結果出力部17は、ステップS17において計算された最適化計算結果(すなわち、計算結果データ)を出力する(ステップS18)。ステップS18では、最適化結果出力部17は、最適化計算部15からの計算結果データをオペレータに提示してもよい。また、各エネルギー機器21~23に直接に入力可能な電子データとして出力されてもよい。これにより、全てのエネルギー機器21、22、23の出力値が最適化された状態となる。
【0059】
<最適化計算部の動作>
運転支援装置1は、「ステップ7(S17):最適化計算実行」における最適化問題の定式化を工夫する。以下、本実施形態の運転支援装置1の最適化計算部15が実行する最適化問題を解く手法について詳細に説明する。運転支援装置1の最適化計算部15は、以下に示す、最適化問題(P)、(Q)の何れかを解く。なお、以下の説明において例示する数式及び記号の意味は、図5の表に示すとおりである。
【0060】
最適化問題(P)は、式(1)~(3)によって示される。
【数1】

【数2】

【数3】

最適化問題(Q)は、式(4)~(8)によって示される。なお、最適化問題(Q)における式(5)、式(6)はいずれか一方のみとしてもよい。
【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【数8】
【0061】
なお、最適化問題(P)、(Q)の両方の特徴を含む最適化問題(R)を解くこととしてもよい。最適化問題(R)は、式(9)~(13)によって示される。
【数9】

【数10】

【数11】

【数12】

【数13】
【0062】
運転支援装置1の最適化計算部15が行う動作において、定式化のポイントは、インバランスペナルティコストではなく、インバランスそのものを目的関数あるいは制約条件として考慮する点にある。各種のエネルギー機器の特性の具体的な定式化は、たとえば参考文献3、4などで開示されている技術を使用してよい。
【0063】
具体的なp(r)、v(r)としてはさまざまな関数を考えることができる。例えば、インバランスを抑えた再計画において効果的な関数をいくつか例示する。
【0064】
p(r)として、計画対象期間全体のインバランスに応じた目的関数の項を例示する。まず、式(14)に示す例として、計画対象期間のインバランスの総量を考えるものがある。
【数14】

次に、式(15)に示す例として、計画対象期間のインバランスの二乗和を考えるものがある。
【数15】

さらに、式(16)に示す例として、計画対象期間のインバランスの最大値を考えるものがある。
【数16】
【0065】
式(14)、(15)、(16)におけるwは、各時刻のインバランスに対する非負の重み係数である。たとえば、現時刻により近い(kがより小さい)時刻におけるインバランスを抑制したいのであれば、下記式を満たすようなw値を設定すればよい。
【数17】
【0066】
このほか、予測の不確実性の高い時刻に対して重みを大きくとることも有効である。なお、式(14)、(15)ではインバランスの符号についてはとくに区別していないが、正側と負側にわけて重み係数を設定してもよい。具体的には、正側と負側のインバランスに対する重み係数をそれぞれ下記のように設定してもよい。そうすると、式(14)は式(17)として示すことができるし、式(15)は、式(18)として示すことができる。
【数18】

【数19】

【数20】
【0067】
式(16)についても、以下に示す上述した正側と負側の重みを導入することにより、式(19)のように変形することで、インバランスの符号を考慮することができる。
【数21】

【数22】
【0068】
さらに正側・負側のインバランスに対して、それぞれ、下記に示す閾値以上のインバランスのみを考慮することもできる。
【数23】

この場合は、式(17)~式(19)は、以下に示す式(20)~式(22)のように示される。
【数24】

【数25】

【数26】
【0069】
計画対象期間全体のインバランスに応じた目的関数である式(14)は、参考文献1におけるインバランスのペナルティ単価UPRを下記のように設定したものである。
【数27】
【0070】
蓄電池等の活用によっても回避し得ないインバランスがある場合、参考文献1に記載の目的関数も上記の式(14)も、ペナルティ単価UPRあるいはwの小さい時刻にインバランスを集中させることが合理的である。しかし、ペナルティ単価は事後的に定まるものであり、当該時刻の単価が予想に比して高かった場合、集中させた分高価なペナルティコスト支払いが必要となるというリスクがある。これに対して、計画対象期間のインバランスの二乗和を考えるもの(式(15))及び計画対象期間のインバランスの最大値を考えるもの(式(16))はいずれも、特定の時刻にインバランスが集中するとu(r)の値が大きくなる構造をとる。この場合には、最適化をおこなうと特定の時刻へのインバランス集中を避けた解(計画)が求まる。
【0071】
すなわち、計画対象期間のインバランスの二乗和を考えるもの(式(15))及び計画対象期間のインバランスの最大値を考えるもの(式(16)は、計画対象期間全体のインバランスに応じた目的関数である式(14)に比較して、インバランスの時刻上の分布のピーク値が低くなりやすいという利点が存在する。ペナルティコスト単価の不確実性、それに起因する支払いコストの増加リスクについては、参考文献1等において言及はない。つまり、参考文献1等には、式(15)及び式(16)に対応する記載はない。
【0072】
なお、本アプローチを採用する場合、式(14)、(15)及び(16)に示す各目的関数の重みづけ和を目的関数としてもよい。式(14)、(15)の重み和を目的関数として採用してもよいし、式(14)、(16)の重み和を目的関数として採用してもよいし、式(15)、(16)の重み和を目的関数として採用してもよい。さらに、式(14)、(15)及び(16)の重み和を目的関数として採用してもよい。例えば、式(14)と式(16)の重み和を目的関数として採用することにより、インバランスの総量及び最大値の両方を抑制することができる。
【0073】
後述する制約条件としてインバランスを考慮するアプローチ(最適化問題(Q)を解くもの)と比較した、目的関数として考慮するアプローチ(最適化問題(P)を解くもの)の利点として、実行可能解(制約条件をすべて満足する解)が得られやすいという点があげられる。最適化問題(Q)を解く場合、インバランスの制約の厳しさによっては、「解なし」という状況に陥る場合もある。これに対して、最適化問題(P)を解く場合はインバランスが理由で解なしになることはない。このことはエネルギー機器の制御のなかで最適化問題を定期的・自動的に解く場合(図4(b))のエネルギー需給計画を頻繁に更新するため、計画後半(たとえば計画起点から12時間後以降)のインバランスについては気にならない(将来の再計画の際にインバランスが抑えられればよい)といった状況において有効な性質である。
【0074】
次に、計画対象期間全体のインバランスに応じた制約条件の項を例示する。v(r)としては、以下に示すとおりp(r)と同じ形の関数を採用できる。もちろん式(17)~式(22)のような拡張を考えてもよい。
【0075】
まず、式(23)に示す例として、計画対象期間のインバランスの総量を考えるものがある。
【数28】

次に、式(24)に示す例として、計画対象期間のインバランスの二乗和を考えるものがある。
【数29】

さらに、式(25)に示す例として、計画対象期間のインバランスの最大値を考えるものがある。
【数30】
【0076】
それぞれの関数を採用することで期待される効果はp(r)とおおむね同じである。目的関数として考慮する場合、他の目的関数項(電気料金など)との兼ね合いで大きなインバランスが残る場合もある。制約条件として考慮する場合、他の目的関数項の多寡に関係なく、まず式(23)~式(25)の制約を守った解を得ることを優先する。
【0077】
本アプローチ(最適化問題(Q)を解くもの)を採用する利点として、運用時の経済評価がしやすいという利点がある。年間で過剰インバランスコスト単価の最大値がX円/kWhで、不足インバランスコスト単価の最大値がY円/kWhという場合、インバランスにより発生する最悪の想定金額は、下記式のとおりとなる。
【数31】
【0078】
また、インバランスの年間平均を使って、おおよそのペナルティ金額を算出することもできる。いっぽうで、参考文献に示されるような手法の場合、年間単位のペナルティコストの最悪値や平均値を算出する場合、上記のような簡易的な方法は使用できないため、複雑なシミュレーションを実施する必要がある。本実施形態の運転支援装置1が採用する手法は事業計画において発生しうるペナルティ金額を見積もりやすいという利点があるため、事業リスクの把握に貢献する。
【0079】
本アプローチを採用する場合、たとえば最初は1%までのインバランスを許し、この条件のものとで解なしとなった場合は2%までのインバランスまで許容して再計算をおこなうなど、段階的に許容範囲を広げる手法を採用してもよい。このような手法によれば、制約条件の厳しさによっては「解なし」となることを回避しやすくなる。
【0080】
<作用効果>
要するに、本実施形態の運転支援装置1は、エネルギーの授受が可能なエネルギー授受装置を含むと共に、外部からのエネルギーの授受も可能であるマイクログリッドの運転を支援する。運転支援装置1は、エネルギー授受装置におけるエネルギーの授受を制御するための制御情報を算出する最適化計算部15と、制御情報を出力する最適化結果出力部17と、を備える。最適化計算部15は、制御情報を算出する最適化問題を解くにあたり、時間帯と時間帯に関連付けられたエネルギーの需要とによって示される予め設定された決定済み計画と実際のエネルギー需要との差分を示す関数を、制約条件及び/又は目的関数として扱う。
【0081】
上記の運転支援装置1及び運転支援方法及び運転支援プログラムによれば、決定済み計画と実際のエネルギー需要との差を抑制することができる。
【0082】
以下、比較例の手法と対比させつつ本実施形態の運転支援装置1の効果を説明する。説明のため、図6に示すマイクログリッド20Aを例示する。マイクログリッド20Aは、容量が1000kWhであり、出力が1000kWである蓄電池21Aを有する。
【0083】
いま、翌日0:00から24:00の電力需要予測をもとに、需要予測分を卸売電力市場に買い注文・約定済みであるとする。図7は、電力需要予測の例示である。グラフG7aは、買い注文時における電力需要予測を示す。グラフG7bは、再計画時における電力需要予測を示す。電力需要予測の更新にともない需給計画の再計画(グラフG7b参照)が必要となっており、その際、約定分とのインバランス(あるいはインバランスに係るペナルティコスト)が小さくなるように蓄電池21Aの充放電計画を最適化することを考えているものとする。
【0084】
図8(a)は、比較例の手法を用いてシミュレーションを行った結果であり、蓄電池21Aの充放電計画を示す。横軸は時刻を示し、縦軸は蓄電池21Aの充放電電力を示す。グラフG8aは、蓄電池21Aの充放電電力を示し、グラフG8bは蓄電池21Aの充電残量を示す。図8(b)は、比較例の手法を用いてシミュレーションを行った結果であり受電計画を示す。横軸は時刻を示し、縦軸は受電計画及びインバランスを示す。グラフG8cは、受電計画を示し、グラフG8dは、決定及び確定済みの受電計画を示し、グラフG8eは、インバランスを示し、グラフG8fは、インバランスペナルティ単価を示す。
【0085】
比較例の手法においては、図8(b)に併記している(予測)インバランスペナルティコスト単価(グラフG8f参照)をもとに、1日の合計ペナルティコストが最小となるような充放電計画及び受電計画を求めている。図8(b)のグラフG8eに示すように、比較例の手法によれば、(予測)インバランスペナルティ単価の安い3:00ごろにインバランスが集中していることがわかる。上述のとおり、この時間帯のペナルティ単価の実績が予測よりも大きく高くなった場合、大きなインバランスペナルティコストを支払う必要が生じる。
【0086】
要するに、参考文献1に示されるような手法では、最適化問題においてインバランスペナルティを目的関数として考慮している。既に上述したとおり、実際の多くの場合ではこのペナルティ単価UPR、PSは電力市場を通じて事後に定まるものであり、これを精度よく予測することもペナルティコスト単価が変動的であるためにむずかしい。予測が不確実なもとでインバランスコストを最小化しようとすると、予測インバランスコスト単価が最安となる時間帯にインバランスを集中させる結果が得られうる。かりに当該時間の実績のインバランスコスト単価が予測に反して高かった場合、多大なインバランスペナルティを支払うこととなりリスクが大きい。
【0087】
これに対して、本実施形態の運転支援装置1においては、インバランスペナルティコスト単価を用いず、1日の最大インバランスが最小となるよう、式(16)を目的関数として充放電計画・受電計画を求めている。
【0088】
図9(a)は、運転支援装置1が実行する手法を用いてシミュレーションを行った結果であり、蓄電池21Aの充放電計画を示す。横軸は時刻を示し、縦軸は蓄電池21Aの充放電電力を示す。グラフG9aは、蓄電池21Aの充放電電力を示し、グラフG9bは蓄電池21Aの充電残量を示す。図9(b)は、運転支援装置1が実行する手法を用いてシミュレーションを行った結果である、受電計画を示す。横軸は時刻を示し、縦軸は受電計画及びインバランスを示す。グラフG9cは、受電計画を示し、グラフG9dは、決定及び確定済みの受電計画を示し、グラフG9eは、インバランスを示し、グラフG9fは、インバランスペナルティ単価を示す。
【0089】
グラフG9eを参照すると、1日を通してインバランスが分散されていることがわかる。仮に、いずれかの時刻においてインバランスペナルティコスト単価がきわめて高い値をとっていたとしても、負担額は大きくならない、つまりリスクを分散化できているといえる。要するに、運転支援装置1が実行する手法のポイントである定式化の工夫は、受電(買電)・送電(売電)のいずれかに特化したものではない。本実施形態では需要側(電力購入側)を題材に蓄電池の充放電を例として(需要)インバランスを抑制する例について述べた。発電事業者を想定、所有する発電機の運転計画の最適化により(供給)インバランスを抑制することも本実施形態の手法が適用可能な範囲に含まれる。
【0090】
ところで、本実施形態の運転支援装置1の適用先のひとつとして、系統に接続され、卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッド20があげられる。卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッド20では、事前に策定した電力需給計画に基づき、将来各時間帯における送電量・受電量を市場にて売買する。各時間帯において、計画送受電量と実績送受電量が一致しなかった場合(この差をインバランスとよぶ)は、最終的な電力供給の責任を負う一般送配電事業者側が調整力電源を用いてインバランスを解消することとなり、マイクログリッドはそれに要した費用の一部をインバランスに応じて負担する必要がある。
【0091】
よって、卸電力市場にて電力を売買するマイクログリッドにおいて、経済的な電力需給を実現するためには、インバランス発生リスクを考慮した電力需給計画の最適化とそれに基づく売買注文と、マイクログリッドの需給再計画や制御に基づく需要インバランスの回避・抑制と、が課題となる。
【0092】
この課題に対する従来技術としては参考文献1をあげることができる。参考文献1では、蓄電池を有するマイクログリッドを対象としており、決定済みの受電計画と実績の差に応じたペナルティコストを目的関数として含む最適化問題を解き、需給計画の再最適化・それに基づく制御をおこなうことでインバランス調整に係る負担額も含めた電力調達コストを抑制する制御手法を提案している(参考文献1の〔請求項1〕~〔請求項8〕参照)。また参考文献1では、過去の受電計画と実績差の統計処理に基づきペナルティコストを予測し、この情報を用いて需給計画(蓄電池の充放電計画およびそれに基づく受電計画)を最適化する手法を提案している(参考文献1の〔請求項9〕~〔請求項13〕参照)。
【0093】
参考文献1では決定済みの受電計画と実績の差に応じたペナルティコストを目的関数として含む最適化問題を解いているが、ペナルティコスト単価の算定方法の記述はない。この単価は、系統全体の需給状況や地域ごとの市場価格差によって決定されるため、事前に知ることはできない。過去データに基づきこれを予測する方法も考えられるが、ペナルティコスト単価は自マイクログリッドのみならず、発電事業者の発電予実、他マイクログリッドの需要予実、調整力である火力発電の調整余力、スポット市場や1時間前市場の価格などにも左右されるため、精度のよい予測はむずかしい。ペナルティコスト単価が不確実なもとでインバランスコストを最小化しようとすると、(予測した)インバランスコスト単価が最安となる時間帯にインバランスを集中させる結果が得られうる。
【0094】
かりに当該時間の実績のインバランスコスト単価が予測に反して高かった場合、多大なインバランスペナルティを支払うこととなり、リスクが大きいといえる。例えば、電力市場価格は洪水や台風、地震等による異常気象や災害時に変動しやすいため、インバランスコスト単価が高騰する場合が考えられるが、そのような非常時は、自マイクログリッドも再エネ発電量の低下などにより、需給維持が困難となって過大なインバランスの発生を起こしやすく、従来技術の場合、想定よりも過多なインバランスペナルティコストの支払いが発生しうる。また、特定の災害等の事象がない場合でも電力市場価格が前触れなく高騰する場合があり、そのような予測は難しく、このことが発電事業者の事業リスクの一つになっている。
【0095】
上記の問題に対し、本実施形態の運転支援装置1は、最適化問題を解くに際して、インバランスに係るペナルティコストを最小化するのではなく、インバランスそのものに係る関数を最適化の目的関数に含める、あるいは各時間帯におけるインバランス、あるいはインバランスに係る関数の値を一定値以下に抑える制約条件を付す、という条件のもとで需給計画の再最適化をおこない、ペナルティコスト単価の予測精度不確実性に起因するリスクを排除した。
【0096】
この構成によれば、マイクログリッド20の運転に際し、インバランスペナルティコストに係るリスクを低減することができる。
【0097】
総括すると、本実施形態において開示する技術の要旨は、以下のとおりである。
【0098】
第1の要旨は、外部とのエネルギー授受が可能なマイクログリッドのエネルギー需給計画を最適化する運転支援装置、運転支援方法もしくはそのためのプログラムであって、前記最適化で求める外部からのエネルギー需給計画に関して、決定済み計画との差に係る関数を制約条件・目的関数のいずれかあるいは両方に含む、ことを特徴とする運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0099】
第2の要旨は、最適化で求める外部とのエネルギー授受計画の決定済み計画との差に係る関数として、計画期間中各時刻における差の絶対値の重みづけ和を含む、第1の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0100】
第3の要旨は、最適化で求める外部とのエネルギー授受計画の決定済み計画との差に係る関数として、計画期間中各時刻における差の重みづけ二乗和を含む、第1の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0101】
第4の要旨は、最適化で求める外部とのエネルギー授受計画の決定済み計画との差に係る関数として、計画期間中各時刻中の差の最大値を含む、第1の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0102】
また、別の要旨は、エネルギーを変数として採用する、第1の要旨~第4の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0103】
第5の要旨は、エネルギーとして電力を含む、第1の要旨~第4の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0104】
第6の要旨は、需給計画の手段として蓄電池の充放電を含む、第1の要旨~第5の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0105】
第7の要旨は、需給計画の手段として発電能力を有する設備の起動・停止、発電電力変化を含む、第1の要旨~第5の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0106】
第8の要旨は、発電能力を有する設備として、ごみ発電を考える、第6の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0107】
第9の要旨は、発電能力を有する設備として、バイオマス発電を考える、第6の要旨に記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0108】
第10の要旨は、需給計画の手段として、水電解装置の起動・停止、負荷増減を含む、第1の要旨~第5の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0109】
第11の要旨は、需給計画の手段として、再生可能エネルギー発電システムの出力抑制を含む、第1の要旨~第5の要旨のいずれかに記載の運転支援装置、運転支援方法もしくはプログラムである。
【0110】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明の運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムは、上記の実施形態に限定されない。
【0111】
上記実施形態では、外部とエネルギーを授受するシステムを便宜的に「マイクログリッド」と呼んだ。マイクログリッドが意味する態様は、かならずしも例えば単一の工場及び事業場に限定されない。マイクログリッドは、例えば複数の工場を束ねた工場団地を意味するものでもよいし、物理的に隔絶された工場を束ねたものでもよい。マイクログリッドは、エネルギー機器の需給計画を外部にゆだね、電力売買の契約と金銭的やりとりのみを仲介する態様でもよい。
【0112】
上記実施形態では、1コマあたりの時間幅を30分とした。1コマあたりの時間幅は、30分に限定されない。1コマあたりの時間幅は、5分単位など短くてもよいし、1日単位など長くてもよい。
【0113】
<付言>
ところで、インバランス解消のための調整力電源はおもに火力発電である。インバランス解消のため、複数基を起動状態としつつ、かつ上げ・下げ両方に余裕を持たせた部分出力運転とする必要がある。これは発電効率の観点からは望ましい運転ではなく、発電単価の上昇、CO排出量増加などを招きうる。したがって、インバランス抑制・解消は特定のマイクログリッドの経済性や事業収益のみに係るものではなく、社会全体としての経済的なエネルギー供給や環境負荷低減にも関わるものである。よって、上記の運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」及び目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献するものである。コストではなく、インバランス量そのものの抑制を企図した上記の運転支援装置、運転支援方法および運転支援プログラムは、この点において優れている。
【符号の説明】
【0114】
1 運転支援装置
11 予測値指定部
12 制約条件指定部
13 目的関数指定部
14 機器特性データベース
15 最適化計算部
16 受電計画記憶部
17 最適化結果出力部
20,20A マイクログリッド
21~23 エネルギー機器
21A 蓄電池
25 エネルギー外部供給源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9