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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】光デバイスおよび光送受信機
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
G02F1/035
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020153461
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047597
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌樹
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-250080(JP,A)
【文献】特開2020-020953(JP,A)
【文献】特開平04-159515(JP,A)
【文献】米国特許第07224878(US,B1)
【文献】特開2015-197454(JP,A)
【文献】特開2013-195643(JP,A)
【文献】特開2004-170608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される光変調器を含む光デバイスであって、
前記基板上に形成される、前記光変調器の信号電極と、
前記基板上に形成される、前記光変調器の接地電極と、
前記信号電極と前記接地電極との間の領域に配置される光導波路と、
前記光導波路と前記基板との間に形成される第1のバッファ領域と、
前記光導波路と前記信号電極との間および前記光導波路と前記接地電極との間に形成される第2のバッファ領域と、を備え、
前記光導波路、前記信号電極、前記接地電極、および前記第2のバッファ領域は、前記基板の表面に平行な方向において互いに隣り合うように配置されており、
前記第2のバッファ領域の誘電率は、前記第1のバッファ領域の誘電率より高い
ことを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記光導波路は、薄膜XカットLN結晶で形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1のバッファ領域は、SiO2で形成され、
前記第2のバッファ領域は、SiO2およびSiO2より誘電率が高い物質を含む材料で形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記第2のバッファ領域における電磁波の伝播速度と前記光導波路における光の伝播速度との差分は、前記第1のバッファ領域における電磁波の伝播速度と前記光導波路における光の伝播速度との差分より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記信号電極の一部および前記接地電極の一部は、それぞれ、前記第2のバッファ領域に重なるように形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記光導波路の上側に前記第1のバッファ領域と同じ材料で形成される第3のバッファ領域をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記信号電極の一部および前記接地電極の一部は、それぞれ、前記第3のバッファ領域の上面において前記第2のバッファ領域に重なるように形成される
ことを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項8】
光変調器および光受信器を含む光送受信機であって、
前記光変調器は、
基板と、
前記基板上に形成される、前記光変調器の信号電極と、
前記基板上に形成される、前記光変調器の接地電極と、
前記信号電極と前記接地電極との間の領域に配置される光導波路と、
前記光導波路と前記基板との間に形成される第1のバッファ領域と、
前記光導波路と前記信号電極との間および前記光導波路と前記接地電極との間に形成される第2のバッファ領域と、を備え、
前記光導波路、前記信号電極、前記接地電極、および前記第2のバッファ領域は、前記基板の表面に平行な方向において互いに隣り合うように配置されており、
前記第2のバッファ領域の誘電率は、前記第1のバッファ領域の誘電率より高い
ことを特徴とする光送受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器を含む光デバイスおよび光送受信機に係わる。
【背景技術】
【0002】
図1は、光変調器を含む光デバイスの一例を示す。この例では、光変調器は、偏波多重光信号を生成する。したがって、光変調器は、1組の親マッハツェンダ干渉計X、Yを備える。そして、各親マッハツェンダ干渉計X、Yは、1組のマッハツェンダ干渉計を備える。すなわち、光変調器は、4個のマッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQを備える。マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQは、それぞれ、電気信号を与えることにより光変調器として動作することができる。
【0003】
光変調器は、LN(LiNbO3)基板1を利用して形成される。すなわち、LN基板1の表面領域に光導波路2を形成することで各マッハツェンダ干渉計が構成される。
【0004】
光変調器は、信号電極3、DC電極4、および接地電極を備える。信号電極3は、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQに対してそれぞれ設けられる。そして、各信号電極3には、送信データを表すRF信号が与えられる。なお、RF信号は、不図示のデジタル信号処理器により生成される。DC電極4については説明を省略する。接地電極は、図面を見やすくするために省略するが、LN基板1の表面において、信号電極3またはDC電極4が形成されていない領域に形成される。そして、接地電極は電気的にGNDに接続される。
【0005】
図2は、従来の光変調器の一例を示す。なお、図2は、図1に示す光変調器が備える4個の子変調器(すなわち、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQ)のうちの任意の1つを示している。ここでは、図2は、例えば、図1に示す子変調器XIのA-A断面を示す。
【0006】
光変調器は、図1または図2に示すように、マッハツェンダ干渉計を構成する1組の光導波路WGa、WGb、信号電極3、および接地電極5を含む。光導波路WGa、WGbは、コプレーナ(CPW:coplanar waveguide)導波路により実現される。この例では、平行に形成された2本の線状の導体(即ち、WGa、WGb)によりコプレーナ導波路が構成されている。
【0007】
LN基板1は、図2に示す例では、XカットLN基板である。信号電極3は、マッハツェンダ干渉計を構成する1組の光導波路に挟まれる領域の上に形成される。図2に示す例では、信号電極3は、光導波路Ga、Gbの間の領域の上に形成されている。また、LN基板1の表面の他の領域には、接地電極5が形成される。したがって、信号電極3および接地電極5は、対応する光導波路を挟むように形成されことになる。換言すると、信号電極3と接地電極5との間の領域にそれぞれ光導波路が配置される。なお、LN基板1の表面には、酸化膜等のバッファ層6が形成されており、信号電極3および接地電極5はそのバッファ層6の表面に形成される。
【0008】
上記構成の光変調器において、信号電極3と接地電極5との間に電圧が印加されると、LN基板1の表面領域に電界が発生する。ここで、LN基板1がXカットLN基板であるときは、LN基板1の表面に沿った方向に強い電界が発生する。したがって、例えば、図2に示すように、光導波路Ga内に+Z方向に向う電界が発生するときは、光導波路Gb内に-Z方向に向う電界が発生する。すなわち、光導波路Ga、Gbにおいて、互いに逆方向の電界が発生する。そして、この電界により光導波路Ga、Gbの屈折率(又は、光パス長)が変化し、各光導波路から出力される光の位相が変化する。よって、電気信号を用いて、各マッハツェンダ干渉計を伝播する光の位相を適切に調整することで、所望の変調光信号を生成できる。
【0009】
なお、XカットLN基板を使用して形成される光変調器は、例えば、特許文献1に記載されている。また、特許文献2にも光変調素子の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-133311号公報
【文献】WO2012/124830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、大容量データ通信を実現するために、信号電極には数10GHzの帯域を有する電気信号が入力される。そして、このような広帯域の電気信号に対して良好な伝送特性を得るために、コプレーナ構造が採用されることがある。
【0012】
図2に示す例では、LN基板1の表面からチタン等の金属を拡散させることで、コプレーナ構造の光導波路WGa、WGbが形成される。しかし、この構造では、光導波路内に十分に光を閉じ込めることが困難であり、電界の印加効率が悪くなる。このため、所定の振幅の光信号を生成するためには、入力電気信号の振幅を大きくする必要がある。したがって、光変調器の駆動電圧が高くなり、光変調器の消費電力が大きくなってしまう。
【0013】
本発明の1つの側面に係わる目的は、光変調器の駆動電圧を小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1つの態様に係わる光デバイスは、基板上に形成される光変調器を含む。この光デバイスは、前記基板上に形成される、前記光変調器の信号電極と、前記基板上に形成される、前記光変調器の接地電極と、前記信号電極と前記接地電極との間の領域に配置される光導波路と、前記光導波路と前記基板との間に形成される第1のバッファ領域と、前記光導波路と前記信号電極との間および前記光導波路と前記接地電極との間に形成される第2のバッファ領域と、を備える。前記第2のバッファ領域の誘電率は、前記第1のバッファ領域の誘電率より高い。
【発明の効果】
【0015】
上述の態様によれば、光変調器の駆動電圧を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】光変調器を含む光デバイスの一例を示す図である。
図2】従来の光変調器の一例を示す図である。
図3図2に示す構造に起因する課題を解決し得る光変調器の例を示す図である。
図4】光および信号の伝播について説明する図である。
図5】本発明の実施形態に係わる光変調器を含む光デバイスの一例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係わる光変調器の断面構造の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態による効果の1つを示す図である。
図8】本発明の実施形態に係わる光変調器のバリエーションを示す図である。
図9】本発明の実施形態に係わる光変調器の他のバリエーションを示す図である。
図10】本発明の実施形態に係わる光送受信機の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図3は、図2に示す構造に起因する課題を解決し得る光変調器の例を示す。なお、図3においても、図1に示す光変調器が備える4個の子変調器(即ち、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQ)のうちの任意の1つが描かれている。
【0018】
図3(a)に示す構成では、LN基板1の表面にバッファ層11が形成され、そのバッファ層11の上に薄膜LN結晶層12が形成される。そして、薄膜LN結晶層12に対してエッチングを行うことで光導波路WGa、WGbが形成される。光導波路WGa、WGbは、リブ導波路であり、スラブを有する。薄膜LN結晶層12の上側には、バッファ層13が形成される。なお、バッファ層11、13は、例えば、SiO2膜である。信号電極21は、光導波路WGa、WGbの間の領域の上に形成される。接地電極22は、光導波路WGa、WGbの外側の領域に形成される。
【0019】
この構成においては、光導波路WGa、WGbがバッファ層11およびバッファ層13により囲まれているので、光導波路内に十分に光が閉じ込められる。よって、図2に示す構成と比較して、入力電気信号から光信号への変換効率が改善し、光変調器の駆動電圧を小さくできる。
【0020】
ただし、リブ導波路である光導波路WGa、WGbは、上述したように、薄膜LN結晶層12に対してエッチングを行うことで形成される。そして、リブ導波路を形成するためには、エッチングの深さを精度よく制御する必要があり、光変調器の製造が困難である。
【0021】
図3(b)に示す光変調器においては、図3(a)に示すリブ導波路に代わりに、チャネル導波路が形成される。この場合、光導波路WGa、WGbの周辺の薄膜LN結晶をエッチングで除去することで、光導波路WGa、WGbが形成される。よって、エッチングの深さを精度よく制御する必要がなく、光変調器の製造は比較的容易である。
【0022】
ただし、この構成においては、電極21、22と光導波路WGa、WGbとの間の領域に設けられるバッファ層13は、例えば、バッファ層11と同様に、SiO2で形成される。ここで、LN結晶で形成される光導波路WGa、WGbの実効屈折率およびSiO2で形成されるバッファ層13の実効屈折率は互いに異なる。具体的には、LN結晶の実効屈折率は約2.2であり、SiO2の実効屈折率は約1.5である。そして、電磁波の伝播速度は、実効屈折率に依存する。このため、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度とバッファ層13を伝播する電磁波の速度とが整合しない。具体的には、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度より、バッファ層13を伝播する電磁波の速度が速くなってしまう。
【0023】
図4は、光および信号の伝播について説明する図である。ここで、マッハツェンダ干渉計を構成する1組の光導波路WGa、WGbを介して光が伝播するものとする。光導波路WGa、WGbの間の領域には信号電極21が形成されている。また、光導波路WGa、WGbの外側の領域には接地電極22が形成されている。そして、信号電極21にRF信号が与えられる。RF信号は、送信データを表す。なお、光の伝播方向およびRF信号の伝播方向は互いに同じである。
【0024】
信号電極21にRF信号が与えられると、信号電極21と接地電極22との間にそのRF信号に起因する電界が発生する。この電界は、光導波路WGa、WGbを通過する。そして、RF信号の伝播に伴って、電界の変化も伝播する。なお、電界の変化が伝播する方向は、RF信号が伝播する方向と同じである。
【0025】
ところが、図3(b)に示すように、電極21、22と光導波路WGa、WGbとの間の領域にバッファ層13が形成される構成では、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度とバッファ層13を伝播する電磁波の速度とが整合しない。たとえば、光導波路WGa、WGbの実効屈折率よりバッファ層13の実効屈折率の方が小さいときは、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度よりバッファ層13を伝播する電磁波の速度の方が速くなる。そして、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度とバッファ層13を伝播する電磁波の速度とが整合しないときには、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の振幅を大きくする必要がある。即ち、光変調器の駆動電圧を大きくする必要がある。
【0026】
<実施形態>
図5は、本発明の実施形態に係わる光変調器を含む光デバイスの一例を示す。本発明の実施形態に係わる光変調器100は、図1に示す光変調器と実質的に同じである。すなわち、光変調器100は、偏波多重光信号を生成するために、1組の親マッハツェンダ干渉計X、Yを備える。各親マッハツェンダ干渉計X、Yは、1組のマッハツェンダ干渉計を備える。よって、光変調器100は、4個のマッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQを備える。マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQは、それぞれ、電気信号を与えることにより光変調器として動作することができる。
【0027】
光変調器100は、LN基板1上に形成される。すなわち、LN基板1の表面領域に光導波路を形成することで各マッハツェンダ干渉計が構成される。LN基板1は、特に限定されるものではないが、XカットLN基板であってもよいし、XカットLN基板であってもよい。
【0028】
光変調器100は、信号電極21、DC電極4a、4b、接地電極を備える。信号電極21は、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQに対してそれぞれ設けられる。そして、各信号電極21には、送信データを表すRF信号が与えられる。RF信号は、不図示のデジタル信号処理器により生成され、ドライバ51を介して対応する信号電極21に与えられ、終端器52において終端される。
【0029】
各マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQに対してDC電極4aが設けられる。これらのDC電極4aには、各マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQの動作点を調整するためのDC電圧が印加される。また、各親マッハツェンダ干渉計X、Yに対してDC電極4bが設けられる。これらのDC電極4bには、位相差を調整するためのDC電圧が印加される。例えば、マッハツェンダ干渉計XI、XQ間の位相差を調整するためのDC電圧が親マッハツェンダ干渉計XのDC電極4bに印加され、マッハツェンダ干渉計YI、YQ間の位相差を調整するためのDC電圧が親マッハツェンダ干渉計YのDC電極4bに印加される。位相差は、例えば、π/2である。
【0030】
接地電極は、図面を見やすくするために省略するが、LN基板1の表面において、信号電極21またはDC電極4a、4bが形成されていない領域に形成される。接地電極は、電気的にGNDに接続される。
【0031】
上記構成の光変調器100において、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQに対してそれぞれ電気信号が与えられる。そうすると、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQから、それぞれ、変調信号XI、XQ、YI、YQが出力される。また、変調信号XI、XQから変調信号Xが生成され、変調信号YI、YQから変調信号Yが生成される。そして、偏波ビームコンバイナ(PBC)53は、変調信号Xおよび変調信号Yを合波して出力する。
【0032】
図6は、本発明の実施形態に係わる光変調器100の断面構造の一例を示す。なお、図6は、図5に示す光変調器100が備える4個の子変調器(すなわち、マッハツェンダ干渉計XI、XQ、YI、YQ)のうちの任意の1つを示している。ここでは、図6は、例えば、図5に示す子変調器XIのA-A断面を示す。
【0033】
LN基板1の表面には、バッファ層11が形成される。バッファ層11は、特に限定されるものではないが、酸化膜である。酸化膜は、この実施例では、SiO2である。
【0034】
光導波路WGa、WGbは、バッファ層11の表面に形成される。光導波路WGa、WGbは、この実施例では、LN基板1と同様に、LN結晶で形成される。例えば、バッファ層11の表面に薄膜XカットLN結晶が形成される。その後、エッチング等により、薄膜XカットLN結晶を選択的に除去することで光導波路WGa、WGbが形成される。各光導波路WGa、WGbの高さは、例えば2~3μmであり、幅は、例えば1~4μmである。
【0035】
各光導波路WGa、WGbの側部には、バッファ領域31が形成される。バッファ領域31の高さは、光導波路WGa、WGbと同じである。バッファ領域31の幅は、例えば1~5μmである。
【0036】
光導波路WGa、WGbおよびバッファ領域31の上側には、バッファ領域32が形成される。バッファ領域32は、例えば、バッファ領域31と同じ材料で形成される。すなわち、バッファ領域32もSiO2で形成することができる。
【0037】
このように、各光導波路WGa、WGbは、バッファ層11、バッファ領域31、およびバッファ領域32により囲まれる。ここで、各光導波路WGa、WGbの屈折率は、バッファ11、31、32の屈折率より大きい。したがって、光導波路WGa、WGbはコアとして作用し、バッファ11、31、32はクラッドとして作用する。
【0038】
バッファ領域31は、バッファ層11とは異なる材料で形成される。具体的には、バッファ領域31の誘電率は、バッファ層11の誘電率とは異なる。この実施例では、バッファ領域31の誘電率は、バッファ層11の誘電率より高い。
【0039】
バッファ領域31の誘電率は、バッファ層11と比較して、光導波路WGa、WGbの誘電率に近くなるように設定される。例えば、バッファ層11がSiO2で形成される場合、バッファ層11の比誘電率は4~6である。また、光導波路WGa、WGbを構成するLN結晶の比誘電率が30であるものとする。この場合、バッファ領域31は、比誘電率がSiO2の誘電率より高く、且つ、30に近くなるように形成される。
【0040】
バッファ領域31は、たとえば、SiO2およびSiO2より誘電率が高い物質を混合した材料で形成される。この場合、SiO2およびTiO2を混合した材料でバッファ領域31を形成してもよい。TiO2の比誘電率は、50~80程度である。したがって、SiO2およびTiO2の混合比を調整することにより、バッファ領域31の比誘電率を所望の値に設定できる。
【0041】
信号電極21は、光導波路WGa、WGbの間の領域に設けられる。接地電極22は、光導波路WGa、WGbの外側の領域に設けられる。よって、各光導波路WGa、WGbは、信号電極21と接地電極22との間の領域に配置される。また、信号電極21と各光導波路WGa、WGbとの間にそれぞれバッファ領域31が設けられる。同様に、接地電極22と各光導波路WGa、WGbとの間にそれぞれバッファ領域31が設けられる。換言すると、各光導波路WGa、WGbの一方の側部にバッファ領域31aが形成され、そのバッファ領域31aに接続して信号電極21が形成される。また、各光導波路WGa、WGbの他方の側部にバッファ領域31bが形成され、そのバッファ領域31bに接続して接地電極22が形成される。
【0042】
このように、各光導波路WGa、WGbは、信号電極21と接地電極22との間に配置されている。そして、電極(21、22)と光導波路(WGa、WGb)との間の領域には、バッファ領域31が設けられている。ここで、光導波路は、薄膜XカットLN結晶で形成されている。よって、信号電極21と接地電極22との間に電圧を与えると、光導波路内では、LN基板1の表面に対してほぼ平行な方向に強い電界が発生する。
【0043】
また、バッファ領域31の誘電率は、光導波路WGa、WGbの誘電率と近くなるように形成されている。具体的には、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度とバッファ領域31を伝播する電磁波の速度とが整合または近似するように、バッファ領域31の誘電率が設定される。したがって、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度とバッファ領域31を伝播する電磁波の速度とが整合または近似する。この結果、図3に示す構成と比較して、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の振幅を小さくできる。すなわち、光変調器の駆動電圧を小さくできるので、光変調器の消費電力を削減できる。
【0044】
なお、本発明の実施形態では、図4に示す「バッファ層」は、バッファ領域31に相当する。そして、バッファ領域31の誘電率を高くすることにより、バッファ領域31におけるマイクロ波に対する実効屈折率が大きくなり、バッファ領域31内を伝播するマイクロ波の速度が光導波路内を伝播する光の速度に近くなる。
【0045】
図7は、本発明の実施形態による効果の1つを示す。グラフの横軸は、光変調器を駆動するRF信号の周波数を表す。縦軸は、E/O応答を表す。なお、E/O応答は、入力電気信号(ここでは、RF信号)の振幅に対する出力光信号の強度または振幅を表す。
【0046】
図3(b)に示す光変調器においては、RF信号の周波数が高くなると、E/O応答が劣化する。図7に示す例では、RF信号の周波数が30GHzより高くなると、E/O応答が急激に劣化している。これに対して、本発明の実施形態においては、RF信号の周波数が高くなっても、E/O応答の劣化は緩やかである。したがって、図3(b)に示す構成と比較して、本発明の実施形態によれば、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の駆動電圧を小さくできる。この効果は、特に、RF信号の周波数(即ち、送信データのビットレート)が高いときに顕著である。
【0047】
このように、本発明の実施形態によれば、バッファ層11と比較してバッファ領域31の誘電率を高くすることにより、光導波路WGa、WGbを伝播する光の速度とバッファ領域31を伝播する電磁波の速度とが整合または近似する。このとき、バッファ領域31における電磁波の伝播速度と光導波路WGa、WGbにおける光の伝播速度との差分は、バッファ層11における電磁波の伝播速度と光導波路WGa、WGbにおける光の伝播速度との差分より小さくなる。このため、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の駆動電圧を小さくできる。この結果、光変調器の消費電力が小さくなる。あるいは、図3(b)に示す構成および本発明の実施形態において光変調器の駆動電圧が同じであるものとすると、図3(b)に示す構成と比較して、光導波路に沿って形成される信号電極の長さを短くできる。この場合、光デバイスのサイズを小さくできる。
【0048】
なお、バッファ領域31の誘電率を高くするにつれて、図7に示すE/O応答は改善する。ただし、バッファ領域31の誘電率を高くし過ぎると、E/O応答は悪くなる。したがって、バッファ領域31の誘電率は、E/O応答が高くなるように、適切な値に設定することが好ましい。
【0049】
加えて、光導波路WGa、WGb内に十分に光を閉じ込めるためには、一般に、光導波路WGa、WGbの屈折率が光導波路WGa、WGbを取り囲むバッファ領域の屈折率より十分に高いことが好ましい。よって、バッファ領域31の材料は、光導波路WGa、WGb内に十分に光が閉じ込められるように決定することが好ましい。ただし、光導波路WGa、WGb内に十分に光が閉じ込められないときは、E/O応答が劣化すると考えられる。よって、E/O応答が高くなるように(好ましくは、E/O応答が最適化されるように)バッファ領域31の材料を決定すれば、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の駆動電圧を小さくできる。
【0050】
図8は、本発明の実施形態に係わる光変調器のバリエーションを示す。図6に示す構成と比較すると、図8に示す構成では、バッファ領域32が設けられていない。即ち、光導波路WGa、WGbの上側にバッファ層を設けなくても光とマイクロ波との速度整合が得られる場合には、図6に示すバッファ領域32を設けなくてもよい。
【0051】
図8に示す構成では、バッファ領域32を設ける工程が不要なので、図6に示す構成と比べて光変調器の製造方法が簡単になる。ただし、光導波路WGa、WGbの表面がバッファ層で保護されていないので、光の散乱が発生するおそれがある。
【0052】
図9は、本発明の実施形態に係わる光変調器の他のバリエーションを示す。図9(a)は、図6に示す構成に対するバリエーションを示し、図9(b)は、図8に示す構成に対するバリエーションを示す。
【0053】
図6または図8に示す構成では、バッファ領域31の端部の位置と電極(21、22)の端部の位置とが一致している。この構成では、製造誤差等に起因してバッファ領域31と電極(21、22)との間に隙間ができるおそれがある。そして、バッファ領域31と電極(21、22)との間に隙間ができると、電界印加効率が悪くなり、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の駆動電圧が大きくなるおそれがある。
【0054】
図9に示す構成では、信号電極21の一部が対応するバッファ領域31の一部に重なって形成され、接地電極22の一部も対応するバッファ領域31の一部に重なって形成される。この場合、バッファ領域31の幅が設計値よりも狭くなる、或いは、信号電極21と接地電極22との間の間隔が設計値よりも広がるなどの製造誤差が発生しても、バッファ領域31と電極(21、22)との間に隙間が生じにくくなる。よって、電界印加効率が悪くならないので、所定の光振幅を得るために必要な入力RF信号の駆動電圧の上昇が抑制される。なお、信号電極21および接地電極22を形成する工程は、バッファ領域31の側面にTi等の金属を蒸着させる工程を含むことが好ましい。
【0055】
図10は、本発明の実施形態に係わる光送受信機の一例を示す。光送受信機200は、光源(LD)201、光変調器202、光受信器203、およびデジタル信号処理器(DSP)204を備える。
【0056】
光源201は、例えば、レーザ光源であり、所定の波長の連続光を生成する。光変調器202は、光源201により生成される連続光を、DSPから与えられる送信信号で変調して変調光信号を生成する。なお、光変調器202は、例えば、図5に示す光変調器100に相当する。光受信器203は、例えば、コヒーレント受信器であり、光源201により生成される連続光を利用して受信光信号を復調する。DSP204は、アプリケーションから与えられるデータから送信信号を生成する。この送信信号は、光変調器202に与えられる。また、DSP204は、光受信器203により復調された受信信号からデータを再生する。
【0057】
このように、光送受信機200は、光変調器として本発明の実施形態に係わる光デバイスが実装される。したがって、光送受信機の消費電力の削減および光送受信機の小型化の双方が実現される。
【符号の説明】
【0058】
1 LN基板
11 バッファ層
21 信号電極
22 接地電極
31(31a、31b) バッファ領域
32 バッファ領域
100 光変調器
200 光送受信機
201 光源(LD)
202 光変調器
203 光受信器
204 DSP
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10