(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20240501BHJP
H02K 1/278 20220101ALI20240501BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20240501BHJP
B29C 45/02 20060101ALI20240501BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
H02K1/278
H02K15/12 E
B29C45/02
B29C33/12
(21)【出願番号】P 2020181917
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019199429
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019237345
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郡 智基
(72)【発明者】
【氏名】小島 義偉
(72)【発明者】
【氏名】佐分利 俊之
(72)【発明者】
【氏名】大屋 遥平
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-161209(JP,A)
【文献】特開2008-042967(JP,A)
【文献】特開2014-217137(JP,A)
【文献】特開2016-182032(JP,A)
【文献】特開2015-180187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H02K 1/27
H02K 15/12
B29C 45/02
B29C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温において固体であり、溶融開始温度以上に加熱することで液体となり、硬化開始温度以上に加熱することで硬化する特性を有する熱硬化性の樹脂を用い、積層鋼板により形成されたロータコアの孔部に磁石部材を配置し、
樹脂注入装置により樹脂を注入し
、注入した樹脂を硬化させ、前記磁石部材をロータコアに固定することで、回転電機のロータを製造するロータの製造方法において、
前記ロータコアを
前記樹脂注入装置外に設けられた第1熱付与部により前記硬化開始温度以上に昇温する昇温工程と、
前記硬化開始温度以上である前記ロータコアの孔部に、
前記樹脂注入装置
内に設けられた第2熱付与部によって前記溶融開始温度以上
かつ前記硬化開始温度未満に加熱され、液体状である樹脂を
、前記樹脂注入装置によって注入する樹脂注入工程と、
前記ロータコアを前記硬化開始温度以上に維持して樹脂を硬化させる磁石固定工程と、を備える、
ロータの製造方法。
【請求項2】
前記昇温工程において、前記ロータコアを前記硬化開始温度以上である加熱温度に昇温し、
前記磁石固定工程において、前記ロータコアを、樹脂の硬化を前記樹脂注入工程で樹脂の注入を終了してから所定時間以内に終了することが可能な前記加熱温度よりも高い固定温度に昇温する、
請求項1に記載のロータの製造方法。
【請求項3】
前記昇温工程及び前記磁石固定工程において、前記ロータコアを加熱するための
前記第1熱付与部は、同じ熱付与部である、
請求項
1又は2に記載のロータの製造方法。
【請求項4】
前記昇温工程において、前記ロータコアを、樹脂の硬化を前記樹脂注入工程で樹脂の注入を終了してから所定時間以内に終了することが可能な固定温度に昇温し、
前記磁石固定工程において、前記ロータコアを加熱しない、
請求項1に記載のロータの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂注入工程において、前記ロータコアが前記積層鋼板の積層方向に押圧された状態で樹脂の注入を行う、
請求項1乃至
4の何れか1項に記載のロータの製造方法。
【請求項6】
前記昇温工程の前に、保持治具内に前記積層鋼板を配置し、前記ロータコアの孔部に前記磁石部材を配置する治具取付け工程を備える、
請求項
5に記載のロータの製造方法。
【請求項7】
前記保持治具は、第1板と、樹脂注入孔が形成された第2板と、を有し、前記第1板及び前記第2板によって前記積層方向における両端にある積層鋼板に面接触して前記ロータコアを押圧する、
請求項
6に記載のロータの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂注入工程において、
前記第2熱付与部によって前記硬化開始温度以上
に加熱された前記樹脂注入装置に固体の樹脂を投入し、その樹脂を溶融しつつ
前記硬化開始温度になる前に通過させて、前記硬化開始温度以上である前記ロータコアの孔部に注入する、
請求項1に記載のロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この技術は、回転電機のロータを製造するロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えばハイブリッド車両や電気自動車等の車両に搭載される回転電機は、磁石埋込型モータ(IPM)が用いられている。このような回転電機のロータを製造する際に、孔が形成された積層鋼板を積層してロータコア(積層鉄心)を構成し、孔に磁石を挿入して、ロータコアを予熱しておき、ロータコアの孔に熱硬化性の樹脂を注入し、その後にロータコアを本加熱することで、ロータコアに磁石を固定して、磁石がロータコアに埋め込まれたロータを得るものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようにロータコアは、積層鋼板が積層されることで形成されているので、治具等でロータコアを挟持するように付勢しておいたとしても、溶融した樹脂をロータコアの孔に注入した後、本加熱で樹脂を硬化させるまでの溶融樹脂の滞留時間が長いと、積層鋼板同士の隙間から樹脂が漏れ出す虞があるという問題があった。
【0005】
そこで、ロータコアの孔部に樹脂を注入した際に、樹脂が積層鋼板同士の間から漏れ出すことの防止を図ることが可能なロータの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ロータの製造方法は、
常温において固体であり、溶融開始温度以上に加熱することで液体となり、硬化開始温度以上に加熱することで硬化する特性を有する熱硬化性の樹脂を用い、積層鋼板により形成されたロータコアの孔部に磁石部材を配置し、樹脂注入装置により樹脂を注入し、注入した樹脂を硬化させ、前記磁石部材をロータコアに固定することで、回転電機のロータを製造するロータの製造方法において、
前記ロータコアを前記樹脂注入装置外に設けられた第1熱付与部により前記硬化開始温度以上に昇温する昇温工程と、
前記硬化開始温度以上である前記ロータコアの孔部に、前記樹脂注入装置内に設けられた第2熱付与部によって前記溶融開始温度以上かつ前記硬化開始温度未満に加熱され、液体状である樹脂を、前記樹脂注入装置によって注入する樹脂注入工程と、
前記ロータコアを前記硬化開始温度以上に維持して樹脂を硬化させる磁石固定工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本ロータの製造方法によると、ロータコアの孔部に樹脂を注入した際に、孔部に触れた樹脂が硬化開始温度以上となって硬化するため、樹脂が積層鋼板同士の間から漏れ出すことの防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係るロータの製造方法の各工程を示すフローチャート。
【
図2】ロータコアと保持治具の下方プレートとを示す斜視図。
【
図3】保持治具の下方プレートにロータコアを設置した状態を示す斜視図。
【
図4】ロータコアに保持治具を取付けた状態を示す斜視図。
【
図5】注入装置においてロータ設置部から注入機を離間させた状態を示す断面図。
【
図6】注入装置においてロータ設置部に注入ノズルを取付けた状態を示す断面図。
【
図7】加熱装置においてロータコア及び保持治具を加熱する状態を示す断面図。
【
図8】注入装置においてロータコアをロータ設置部に設置した状態を示す断面図。
【
図9】注入装置においてロータコアに樹脂を注入する状態を示す断面図。
【
図10】注入装置において樹脂を注入したロータコアをロータ設置部から取外した状態を示す断面図。
【
図12】(a)は注入ノズルを示す上方視図、(b)は注入ノズルを示す断面図、(c)はロータコアと注入ノズルとの位置関係を示す上方視図。
【
図13】(a)はロータコアの孔部と注入ノズルのノズルとゲートとの位置関係、及び注入後の樹脂の状態を示す拡大上方視図、(b)はロータコアの孔部と注入ノズルのノズルとゲートとを示す拡大断面図、(c)は樹脂注入後のロータコア及び樹脂の状態を示す拡大断面図。
【
図14】(a)はロータコアの孔部と注入ノズルのノズルとゲートとの形状及び位置関係を説明する断面模式図、(b)は樹脂注入後においてゲートにおける樹脂の切離しを説明する断面模式図。
【
図15】ロータコアの孔部に注入された樹脂の状態を説明する説明図。
【
図16】第1の実施の形態に係る各工程でのロータコアの温度と樹脂の温度との遷移を示すタイムチャート。
【
図17】従来の各工程でのロータコアの温度と樹脂の温度との遷移を示すタイムチャート。
【
図18】第2の実施の形態に係る樹脂注入装置を示す模式断面図。
【
図19】第3の実施の形態に係る各工程でのロータコアの温度と樹脂の温度との遷移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施の形態>
以下、本第1の実施の形態を図に沿って説明する。
【0010】
[ロータの概略構成]
まず、例えばハイブリッド駆動装置や電気自動車の駆動モータ(回転電機)におけるロータの構造を簡単に説明する。駆動モータは、大まかにステータ(固定子)とロータ1(回転子)とで構成されている。そのうちのロータ1は、
図2に示すように、プレス加工等で複数の孔1bが形成された積層鋼板1aが積層されることで構成されるロータコア1Aを有している。ロータコア1Aには、上記孔1bが位相を合わせられた状態で積層鋼板1aが積層方向に積層されることで、複数の孔部1Bが形成されており、
図3に示すように、それら孔部1Bのそれぞれに磁石部材としての磁石1Mが挿入されて設置され、その状態で樹脂によって磁石1Mが孔部1Bに固定されることで、磁石1Mがロータコア1Aに埋設されたロータ1が構成される。
【0011】
[ロータの製造方法の概略]
続いて、第1の実施の形態に係るロータの製造方法の概略について説明する。
図1に示すように、本ロータの製造方法においては、積層鋼板1aを積層してロータコア1Aを構成する鋼板積層工程S1と、ロータコア1Aの孔部1Bに磁石1Mを挿入して設置する磁石設置工程S2と、ロータコア1Aに保持治具10を取付ける治具取付け工程S3と、を備えている。また、本ロータの製造方法においては、ロータコア1Aを昇温する昇温工程S4と、樹脂を注入する樹脂注入装置30にロータコア1Aを設置する注入装置設置工程S5と、樹脂注入装置30によりロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入する樹脂注入工程S6と、を備えている。さらに、本ロータの製造方法においては、注入された樹脂を硬化させてロータコア1Aに磁石1Mを固定する磁石固定工程S7と、保持治具10をロータコア1Aから取外す治具取外し工程S8と、ロータコア1Aを冷却する冷却工程S9と、を備えている。これらの各工程は、工場のラインにおいて、例えばベルトコンベア等でロータコア1Aを移動させつつ順次行われる。また、後述の鋼板積層工程S1において積層鋼板1aを積層する際は、作業者による調整を行うが、その他の工程で、ロータコア1Aの搬送、保持治具10の取付けや取外し等は、例えば多関節ロボット等の工場設備によって行う。
【0012】
[鋼板積層工程の詳細]
まず、鋼板積層工程S1の詳細について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、ロータコア1Aは、例えばプレス加工等で中心を点対称とした中空円板状に形成され、かつ複数の孔1bが形成された積層鋼板1aが、詳しくは後述する保持治具10の下板11の上面11bに順次重ねられて積層されることで構成される。各積層鋼板1aには、僅かながら公差があるため、作業者が中空円板状における周方向に位相を調整しつつ積層することで、最上位となる積層鋼板1aが積層方向と直交する平面(つまり水平方向)に対して傾斜が少なくなるように積層される。なお、積層鋼板1aを積層する際は、上述のように保持治具10の下板11の上面11bに積層しても良いし、別の場所で積層してロータコア1Aを構成した後、保持治具10の下板11の上面11bに設置してもよい。
【0013】
保持治具10の下板11は、中心に孔11aが形成された中空板状の部材であり、孔11aにはロータコア1Aを位置決め支持する支持板16が固定されている。また、下板11には、第1軸14と、第1軸14よりも短い第2軸15とがそれぞれ例えば4か所に立設されている。これにより、下板11の上面11bにロータコア1Aが設置される際は、支持板16がロータコア1Aの内周面の一部に当接すると共に、第2軸15が外周面の一部に当接することで、水平方向の移動が規制されて、下板11とロータコア1Aとの相対位置が位置決めされつつ下板11に対して支持される。また、下板11には、ロータコア1Aが設置された際に孔部1Bの位置に積層方向で重なる位置に下板11を貫通するように形成され、後述の樹脂注入時における空気抜き用の孔となる空気孔11cが複数個所に形成されている。
【0014】
[磁石設置工程の詳細]
次に、磁石設置工程S2の詳細について
図3を用いて説明する。
図3に示すように、保持治具10の下板11に設置されたロータコア1Aには、積層鋼板1aの孔1bが積層されて形成された複数の孔部1Bが形成されており、各孔部1Bに対してそれぞれ磁石1Mが挿入されて設置される。なお、
図3に示すロータコア1Aにおいては、磁石1Mの長手方向が周方向に向いた形で設置されるものを説明しているが、本実施の形態においては、
図12(c)に示すように、磁石1Mの長手方向が周方向に対して傾斜し、2つの磁石1Mで上方から見てV字状となるように設置されるものを想定している。また、一般的に磁石は加熱されると減磁されてしまうため、この段階での磁石1Mは磁化される前の磁石の材料である。
【0015】
[治具取付け工程の詳細]
続いて、治具取付け工程S3の詳細について
図4を用いて説明する。まず、保持治具10の構成について説明する。
【0016】
図4に示すように、保持治具10は、大まかに、第1板としての下板11、第2板としての押圧板12、上板13が上下方向に順に略平行に配置されるように備えられている。上述したように、下板11の上面11bにはロータコア1Aが設置され、そのロータコア1Aの上方に、押圧板12の下面12bが当接するように押圧板12が設置される。押圧板12は、中心に孔12aが形成された中空板状の部材であり、詳しくは後述するように樹脂を注入するための複数の樹脂注入孔である注入孔12cがロータコア1Aの孔部1Bの上方に位置するように貫通形成されている。また、押圧板12には、上述した第2軸15が貫通可能となる複数の貫通孔12dが形成されている。
【0017】
上板13は、中心に孔13aが形成された中空板状の部材であり、第2軸15の上端に対してボルト21によって締結される。また、押圧板12と上板13との間にはコイルスプリング23が縮設され、コイルスプリング23の内部に図示を省略した支持軸が配置され、その支持軸がボルト22で上板13に固定されることでコイルスプリング23が位置決め支持されている。このように構成された保持治具10は、ロータコア1Aが、下板11と、上板13からコイルスプリング23によって押圧される押圧板12とによって押圧されて挟持される。これにより、ロータコア1Aの複数の積層鋼板1aは、積層方向に押圧されて積層方向に極力隙間なく接した状態で保持される。なお、第1軸14の上端は、押圧板12の下面に対向するように形成され、押圧板12がコイルスプリング23により下方に押圧された状態で当接して、ロータコア1Aを積層方向に潰さないよう構成されている。
【0018】
以上のように構成された保持治具10を、治具取付け工程S3においてロータコア1Aに取付ける際は、下板11の上面11bにロータコア1Aを設置し(積層鋼板1aを配置し)、貫通孔15dを第2軸15に貫通させつつ押圧板12をロータコア1Aの上方に設置し、コイルスプリング23を押圧板12との間に挟持しつつ上板13を設置して、ボルト21により第2軸15と上板13とを締結する。これにより、積層方向(上下方向)の両端にある積層鋼板1aに下板11と押圧板12とが面接触し、孔部1Bを除いた孔部1Bの周りを含めて各積層鋼板1aが押圧された状態となるように、ロータコア1Aを積層方向に押圧しつつ保持する保持治具10がロータコア1Aに取付けられる。
【0019】
[昇温工程の詳細]
次に、昇温工程S4の詳細について説明する。本第1の実施の形態において、ロータコア1Aの孔部1Bに磁石1Mを固定するための樹脂としては、例えば溶融開始温度が60度、硬化開始温度が120度の、常温では固体である熱硬化性材の樹脂材料を用いる。ロータコア1Aが溶融開始温度よりも低いと、後述の樹脂注入工程S6において樹脂を注入した際に、樹脂が途中で凝固し、孔部1Bに対する樹脂の充填が不十分となる虞がある。さらに、詳しくは後述するように、樹脂を孔部1Bに注入した際に、積層鋼板1a同士の僅かな隙間から樹脂が漏出する可能性があるため、樹脂の注入時にロータコア1Aの少なくとも孔部1Bを硬化開始温度以上にしておくことで、孔部1Bに接した樹脂から硬化を開始させ、樹脂が積層鋼板1a同士の間から漏れ出すことを防止させるものである。
【0020】
以上のような背景から、昇温工程S4において、
図7に示すように、保持治具10に保持されている(保持治具10が取付けられた)ロータコア1Aを、保持治具10ごと加熱装置200により加熱して昇温する。加熱装置200は、樹脂注入装置30の外に別の装置として存在しており、保持治具10を取付けたロータコア1Aを入れる加熱室201を有している。さらに、加熱装置200は、ロータコア1Aの外径側からロータコア1Aを加熱する熱付与部としての誘導加熱器210と、ロータコア1Aの内径側からロータコア1Aを加熱する熱付与部としての誘導加熱器220とを有しており、誘導加熱器210の誘導加熱を行うコイル211は、ロータコア1Aの外周面に対向して周回するように配置され、一方の誘導加熱器220の誘導加熱を行うコイル221は、ロータコア1Aの内周面に対向して周回するように配置されている。昇温工程S4では、このような加熱装置200によって、ロータコア1Aの少なくとも孔部1Bを樹脂の硬化開始温度以上に加熱して昇温する。本第1の実施の形態においては、昇温工程S4において、ロータコア1Aの孔部1Bが例えば150度程度になるように昇温する。
【0021】
なお、本実施の形態においては、ロータコア1Aの外径側から加熱する誘導加熱器210と、ロータコア1Aの内径側から加熱する誘導加熱器220と、を備えたものを説明しているが、何れか一方だけを備えたものであってもよい。また、本実施の形態では、ロータコア1Aを誘導加熱によって加熱して昇温するものを説明しているが、これに限らず、加熱室の雰囲気温度を上昇して加熱室内部に設置されたロータコア1Aを加熱して昇温する、所謂雰囲気路を用いる手法であっても構わない。
【0022】
[注入装置設置工程の詳細]
続いて、樹脂を注入する樹脂注入装置30に、保持治具10に保持されたロータコア1Aを設置する注入装置設置工程S5の詳細について
図5、
図6、
図8、
図9、
図11、
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)を用いて説明する。まず、樹脂注入装置30の構造について説明する。
【0023】
図6に示すように、樹脂注入装置30は、狭義として、樹脂注入機40とテーブル部50とを備えており、テーブル部50にランナ60が設置されることで、広義として、樹脂をロータコア1Aに注入する樹脂注入装置30が構成される。樹脂注入機40は、
図11に示すように、上端が固形の樹脂を投入する樹脂材投入口40Bとなる樹脂投入孔48が形成された投入部47と、樹脂材投入口40Bから投入された樹脂を溶融しつつかつ攪拌しつつ流路49に送出するスクリュ46と、流路49に導通する流路44が形成された筒部41と、筒部41の下端に固定され、下端が樹脂を射出する射出口40Aを形成するノズル部42と、流路49から流路44への樹脂の流れを開閉弁43aによって開閉するストップバルブ43と、流路44の樹脂を射出口40Aから射出させるプランジャ45と、を備えて構成されている。この樹脂注入機40には、
図9に示すように、例えば樹脂注入装置30内にある熱付与部としての電熱線や冷媒の供給により加熱又は冷却が可能な温調装置81(Temp Control Device)が取付けられており、温調装置81は、樹脂材投入口40Bから射出口40Aまでの間にある樹脂を溶融した状態に維持するため、樹脂の温度を溶融開始温度以上かつ硬化開始温度未満の例えば80度程度に調温する。特に温調装置81は、スクリュ46を加熱することで樹脂材投入口40Bに投入された常温で固体の樹脂を溶融し、樹脂が溶融した状態を維持する。
【0024】
一方、テーブル部50は、
図6に示すように、下方側に配置された下方板51と、下方板51の側方端部に固定された側壁53と、側壁53に支持されて下方板51の上方に平行に対向配置された上方板52とを備えている。また、下方板51には中央部分に孔51aが形成されており、テーブル部50には、その孔51aの形状に合わせて形成され、上面55aが保持治具10の下板11を設置する台座となる設置台55と、その設置台55を昇降駆動自在にかつ回転駆動自在に制御する駆動装置59とが備えられている。なお、図示を省略したが、設置台55の上面55aには、凸部が設けられ、保持治具10の下板11の下面には凹部が設けられ、設置台55に保持治具10が設置された際に、それら凸部と凹部とが嵌合されることで、設置台55に対して保持治具10が回転方向に位置規制され、つまり設置台55の回転で保持治具10及びロータコア1Aの回転方向の位置が制御される。
【0025】
また、テーブル部50の上方板52には、
図5に示すように、装着孔52aが形成されており、その装着孔52aにランナ60の上軸部62が嵌合されることで、ランナ60が着脱自在に装着される。ランナ60は、
図12(a)及び
図12(b)に示すように、円板状の本体61と、本体61の中心から上方に延びる軸状の上軸部62と、本体61の下方の外周側から下方に延びる複数の分岐ノズル63と、を備えて構成されている。本第1の実施の形態において、分岐ノズル63は、ロータコア1Aの孔部1Bの半数となる本数となるように設けられており、つまりロータコア1Aの孔部1B(即ち磁石1M)の数が32箇所である場合、分岐ノズル63は16本となるように構成されている。
【0026】
ランナ60の内部においては、
図12(b)に示すように、上端が樹脂の投入口60Aとなる投入流路67が上軸部62及び本体61の円板状の中心軸に沿って上下方向に形成されている。また、
図12(c)に示すように、本体61の内部において、投入流路67から分岐ノズル63に向けて分岐する分岐流路68が形成されており、分岐流路68は、投入流路67から放射状に中心軸と直交する方向の水平方向へ8本に分岐する放射流路68Aと、放射流路68Aの外周側で周方向の両側に分岐する周方向流路68Bとを有するように形成されている。さらに、
図12(b)に示すように、本体61及び各分岐ノズル63の内部において、分岐流路68の周方向流路68Bの周方向の端部のそれぞれから下方に向けて注入流路69が形成され、その注入流路69の下端が射出口60Bとして形成されている。また、注入流路69のそれぞれの内部には、射出口60Bを開閉するストップバルブ64が設けられている。
【0027】
また、このランナ60には、周方向に周回するように配置された電熱線65と、同じく周方向に周回するように配置された冷媒流路66とが設けられており、これら電熱線65と冷媒流路66とは、
図9に示す温調装置82(Temp Control Device)に接続されている。この温調装置82は、ランナ60が保持治具10の押圧板12に対して切離されるため、ランナ60が熱の外乱として保持治具10及びロータコア1Aの温度から影響を受けるので、電熱線65に電流を供給して加熱したり、或いは冷媒流路66に冷媒を供給して冷却したりすることで、投入口60Aから射出口60Bまでの間にある樹脂の温度を溶融開始温度以上かつ硬化開始温度未満の例えば80度程度に維持するように調温する。このようにランナ60には、温調装置82が接続されているため、上下方向或いは回転方向に移動させることは難しいが、後述するように設置台55が駆動装置59によって昇降駆動或いは回転駆動されるため、樹脂注入工程S6でランナ60を移動させることが無いように構成されている。
【0028】
以上のように構成された樹脂注入装置30に、保持治具10が取付けられたロータコア1Aを設置する注入装置設置工程S5では、まず、
図5に示すように、テーブル部50から樹脂注入機40を離間させ、かつ設置台55を上面55aが下方板51と同じ位置となるように下げた状態で、
図6に示すように、ランナ60を、上方板52の装着孔52aに上軸部62を嵌合させることで上方板52に装着する。この状態から、
図8に示すように、保持治具10が取付けられたロータコア1Aを設置台55に設置する。この際、上述したように設置台55の上面55aに設けられた凸部(不図示)と、保持治具10の下板11に設けられた凹部(不図示)とを嵌合させ、回転方向に移動不能に固定する。そして、
図9に示すように、設置台55を駆動装置59により上昇させ、保持治具10に形成された上板13の貫通孔13cと押圧板12の注入孔12cとに分岐ノズル63が挿入され、注入孔12cに分岐ノズル63の先端が圧接された状態にセットされることで、樹脂注入装置30に対するロータコア1Aが設置される。
【0029】
[樹脂注入工程の詳細]
ついで、樹脂注入工程S6の詳細について
図9、
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)、
図15を用いて説明する。まず、保持治具10の押圧板12の注入孔12cとロータコア1Aの孔部1Bとの位置関係と、注入孔12cの形状とについて説明する。なお、
図13(b)は
図13(a)のA-A矢視断面を示しており、
図13(c)は
図13(b)と同じ位置でロータコア1Aから保持治具10を取外した状態を示している。
【0030】
図13(a)に示すように、保持治具10をロータコア1Aに取付けた状態では、押圧板12の注入孔12cがロータコア1Aの孔部1Bの上方に少なくとも一部が重なる位置となる。詳細には、注入孔12cの中心は、孔部1Bに対してロータコア1Aの内径側に位置するように配置され、樹脂を孔部1Bに注入した際に、樹脂の圧力によって磁石1Mを外周側に押付ける。これにより、磁石1Mはロータコア1Aの外径側に寄せられ、つまり回転電機としてステータに組付けられた際に磁石1Mがなるべくステータに近づけられ、磁力を強めて回転電機の出力や効率の向上が図られている。
【0031】
保持治具10の押圧板12の注入孔12cは、
図13(b)に示すように、分岐ノズル63の先端にある円錐形状の傾斜面63aが圧接されて嵌合可能であるように内径が徐々に小さくなる傾斜形状であり、嵌合されるとシールされた状態となる第1傾斜面12caと、第1傾斜面12caよりも下方(ロータコア1Aの側)に配置され、注入孔12cの中心に対して鋭角となる角度θで傾斜することで、注入孔12cの貫通方向においてロータコア1Aに向けて内径が小さくなる先細り形状となる第2傾斜面12cbと、第1傾斜面12caと第2傾斜面12cbとの間に形成され、分岐ノズル63が第2傾斜面12cbまで入り込むことを防止する段差部12ccと、第2傾斜面12cbの下方の先端に形成され、最も孔径が小さくなって絞り部として機能する小径部12ceと、小径部12ceの下方で小径部12ceよりも水平方向(貫通方向に直交する方向)に広がり、かつ注入孔12cの開口部となる拡大開口部12cdと、を有するように形成されている。
【0032】
なお、本第1の実施の形態において上記第2傾斜面12cbの角度θは例えば30度に形成されているが、鋭角であればよく、つまり0度よりも大きく45度未満であればよい。また、拡大開口部12cdは、本第1の実施の形態では、
図13(a)に示すように、上下方向から見て小径部12ceを包含する位置で水平方向に広がる矩形状に形成されているが、これに限らず、断面視で円形状、楕円形状、長孔形状等でも、どのような形状でも小径部12ceより水平方向の断面積が広くなるように形成されていればよい。この拡大開口部12cdは、押圧板12がロータコア1Aの上面1Aaに当接された状態で、ロータコア1Aの上面1Aaと孔部1Bとに跨る位置となるように形成されている。また、小径部12ceは、例えば直径1mm~5mm程度に形成されており、また、拡大開口部12cdの上下方向の厚みは、例えば0.5mm程度に形成されている。
【0033】
このように構成された保持治具10の押圧板12の注入孔12cからロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入する樹脂注入工程S6では、
図9に示すように、樹脂注入装置30の樹脂注入機40において、ストップバルブ43が開かれると共にプランジャ45により流路44の樹脂が押圧されることで(
図11参照)、射出口40Aからランナ60の投入口60Aに樹脂が射出され、樹脂がランナ60の投入流路67から8本の放射流路68Aに分岐して流れ、さらにそれぞれの放射流路68Aから周方向流路68Bによって16本の分岐ノズル63の射出口60Bに流れ、各ストップバルブ64が開かれることで16箇所の射出口60Bから各注入孔12cに樹脂が射出され、それら注入孔12cからロータコア1Aの16箇所の孔部1Bに樹脂が注入される。これにより、各孔部1Bにおいて、樹脂が磁石1Mをロータコア1Aの外径側に向けて押圧しつつ磁石1Mの周囲に樹脂が充填されていく。
【0034】
この際、孔部1Bの内部にあった空気は、保持治具10の下板11の空気孔11cから抜けていき、樹脂が孔部1Bに隙間なく充填される。また、ロータコア1Aは(特に孔部1Bの内周面は)、上述したように樹脂の硬化開始温度よりも高く加熱されているため、
図15に示すように、孔部1Bに充填された樹脂99のうち、内側の部分99Bは液体のままであるが、孔部1Bの側面に触れた部分99Aから硬化を開始し、これにより、孔部1Bにおいて積層鋼板1a同士の隙間から樹脂が漏れ出ることが防止される。このように充填された樹脂99は、
図13(c)に示すように、孔部1Bの開口部分まで充填され、さらに、拡大開口部12cdに僅かに空気を逃がしながら拡大開口部12cdにも充填され、矩形の板状である樹脂の板部99aが、孔部1Bとロータコア1Aの上面1Aaとに跨るように形成される。なお、この板部99aの機能については、後述の治具取外し工程S8の詳細で説明する。
【0035】
このように、ロータコア1Aの8箇所の孔部1Bに対する樹脂の充填が終わると、
図8に示すように、設置台55を駆動装置59により下降して保持治具10が取付けられたロータコア1Aを分岐ノズル63から離反させる。その後、駆動装置59により設置台55を回転して、樹脂が充填されていない孔部1Bの上方に分岐ノズル63が位置するように位相合わせを行い、さらに設置台55を上昇して、樹脂の注入を行っていない注入孔12cに対して分岐ノズル63を挿入してセットする。そして、上述と同様に樹脂の注入を行って、32箇所の孔部1Bのうちの残りの16箇所の孔部1Bに対しても同様に樹脂の充填を行い、以上で樹脂注入工程S6を終了する。
【0036】
[磁石固定工程の詳細]
次に、磁石固定工程S7の詳細について説明する。上述の樹脂注入工程S6が終了すると、
図10に示すように、樹脂注入装置30から保持治具10が取付けられたロータコア1Aを設置台55から取外して、つまり樹脂注入装置30からロータコア1Aを取り出す。この状態で、保持治具10を取付けたままロータコア1Aの温度を上記昇温工程S4で用いた同じ加熱装置200によって樹脂の硬化開始温度以上の例えば170度程度に昇温する。即ち、ロータコア1Aの孔部1Bに充填された樹脂は、上述のように注入時にロータコア1Aに触れた部分から硬化が開始されるが、孔部1Bの内部で完全に硬化していない部位もあるため、この磁石固定工程S7においては、さらに昇温し、樹脂注入工程S6で樹脂の注入を終了してから所定時間(例えば1分間)以内に孔部1Bの樹脂が完全に硬化するようにする。本実施の形態では、孔部1Bの樹脂が完全に硬化しているように、所定時間が経過するまでの間、硬化開始温度T3以上の固定温度T5に維持することで、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂によって磁石1Mが完全に固定される。なお、本第1の実施の形態では、磁石固定工程S7で加熱装置200によりロータコア1Aの温度を例えば170度程度となるように加熱しているものを説明しているが、昇温工程S4で既にロータコア1Aが樹脂の硬化開始温度以上の例えば150度程度に加熱されているため、そのまま樹脂が硬化して磁石が固定されるまで硬化開始温度以上に維持されるように保温するだけでもよい。勿論、本第1の実施の形態のように、さらにロータコア1Aを加熱した方が、その後の冷却時間を考慮しても、確実に樹脂が硬化するまでの時間は早い。
【0037】
以上のように、磁石固定工程S7で樹脂の硬化が完了すると、ロータコア1Aは、ロータ1として完成したことになる。なお、その後、ロータ1にはロータ軸等が取付けられて軸付きロータとなり、回転電機の部品としての広義のロータを構成することになる。
【0038】
なお、本第1の実施の形態では、昇温工程S4と磁石固定工程S7とを分けて記載しているが、上述したように、昇温工程S4においてロータコア1Aの加熱を開始し、磁石固定工程S7までロータコア1Aの温度を樹脂の硬化開始温度以上に維持しているため、広義としての昇温工程は、昇温工程S4、注入装置設置工程S5、樹脂注入工程S6、磁石固定工程S7まで継続していることになる。また、換言すると、昇温工程S4も、樹脂の注入前であるが、樹脂を硬化させるために加熱しているので、磁石1Mをロータコア1Aに固定する工程であると言える。また、昇温とは、広義として、通常の環境温度に対してロータコア1Aや樹脂の温度が上昇される状態にすることをいうものであり、必ずしも温度が上昇し続けるものに限定するものではない。
【0039】
[治具取外し工程の詳細]
続いて、治具取外し工程S8の詳細について説明する。上述の磁石固定工程S7において磁石1Mがロータコア1Aの孔部1Bに樹脂の硬化によって完全に固定されると、保持治具10をロータコア1A(ロータ1)から取外す。即ち、治具取付け工程S3でロータコア1Aに対する保持治具10の取付け順と逆の順で保持治具10をロータコア1Aから取外す。具体的には、
図4に示すボルト21の締結を解除して上板13及びコイルスプリング23を取外し、続いて、押圧板12を第2軸15から抜くことで下板11から取外して
図3に示す状態にし、最後に、下板11からロータコア1Aを上方に向けて取出すことで治具取外し工程S8が終了する。
【0040】
ここで、保持治具10の押圧板12の注入孔12cによる樹脂の切離しについて、
図14(a)及び
図14(b)を用いて説明する。なお、
図14(a)及び
図14(b)に示す図は、説明を容易にするために模式的に示した図であり、注入孔12cの詳細な形状は
図13(b)に示す形状が正確である。
【0041】
一般に、樹脂をノズルから充填した後、ノズルを離間させると、硬化していない樹脂が糸状に延びて、所謂バリを生じてしまうことがあり、そのバリが回転電機の内部で周辺の部品と接触しないように、或いは回転電機の内部に脱落しないようにするため、そのバリを綺麗に除去するバリ取り処理を行う必要がある。しかしながら、このようなバリ取り処理する工程は、専用設備が必要であり、また、バリ取り処理の自動化が困難であることから作業者を配する必要があり、コストが増大する虞がある。そのため、本第1の実施の形態においては、バリ取り処理が不要となるように、注入孔12cの形状に特徴を有するものである。
【0042】
上述した樹脂注入工程S6においては、
図14(a)に示すように、ランナ60の分岐ノズル63が押圧板12の注入孔12cに挿入されて圧接された状態でロータコア1Aの孔部1Bに樹脂の注入が行われる。この際、射出口60Bの位置は、段差部12ccによって分岐ノズル63が第2傾斜面12cbに入り込まないため、注入孔12cの小径部12ceよりも貫通方向における第2傾斜面12cbの側の位置にあり、分岐ノズル63の射出口60Bよりも下方にあって、特に第2傾斜面12cbに囲まれた部分と、拡大開口部12cdに囲まれた部分とに、樹脂99が充填され、
図14(b)に示すように、拡大開口部12cdによって板部99a(
図13(c)参照)が形成されると共に、板部99aに繋がる形で第2傾斜面12cbによって円錐状の円錐部99bが形成される。この際、小径部12ceによって、樹脂の板部99aと円錐部99bとの間に水平方向に絞られた括れが形成される。なお、本第1の実施の形態においては、射出口60Bが第1傾斜面12caの端部の位置にあるが、第2傾斜面12cbの途中まで入り込んでいてもよい。
【0043】
そして、治具取外し工程S8において、押圧板12がロータコア1Aの上面1Aaから取外される際、押圧板12をロータコア1Aから離反させると、第2傾斜面12cbが円錐部99bを咥え込んだ形で上方に引っ張り、剛性が弱い括れ部分にせん断応力を集中させて破断させることができる。また、押圧板12を上方に引張る際、円錐部99bが板部99aを引張ることになるが、板部99aは、
図13(a)に示すように、孔部1Bとロータコア1Aの上面1Aaとに跨り、かつ小径部12ceの断面積以上の面積で板部99aがロータコア1Aに貼付くように形成されているため、引張り応力の大部分がロータコア1Aの上面1Aaで受けられ、孔部1Bの樹脂99を介して磁石1Mを引張って磁石1Mの位置精度に影響を与えることを防止することができている。なお、
図14(b)で示す円錐部99bの破断部位99bxと板部99aの破断部位99axとは、破断部位99axが凹状で破断部位99bxが凸状となるものを示しているが、温度や引っ張り強さの加減により、略平滑となったり、凹凸が逆となったりすることもある。また、分岐ノズル63が注入孔12cから離反する際、射出口60Bから樹脂が糸状に延びてバリを生じることもあるが、そのバリが生じる部分は円錐部99bの上部であり、円錐部99bは最終的に破棄されるため、その部分でバリが生じてもロータコア1Aにバリが残ることはない。
【0044】
以上のように、治具取外し工程S8において、ロータコア1Aから保持治具10の押圧板12を取外す際に、樹脂の板部99aから綺麗に円錐部99bを破断させることができ、例えばバリ取り処理を行う工程を不要とすることができる。また、後述の冷却工程S9で冷却する前に保持治具10を取外すので、下板11とロータコア1Aの孔部1Bの樹脂との間、押圧板12と上記樹脂の板部99aや孔部1Bとの間、の切離しを樹脂が冷却されずに高温の状態で行うことができ、つまり樹脂の冷却によって固着が強まる前に切離すことができるので、保持治具10の取外しも容易にできる。なお、押圧板12の注入孔12cに残った円錐部99bは、例えばピン等で押し出すことで除去されて破棄される。その後、保持治具10は、下板11の空気孔11cも含めて、それぞれの部品がブラシ等で清掃され、次のロータコア1Aの製造に再び用いられる。
【0045】
[冷却工程の詳細]
最後に、冷却工程S9の詳細について説明する。上述したように治具取外し工程S8において、保持治具10がロータコア1A(ロータ1)から取外された後、保持治具10が取外されたロータコア1Aと、ロータコア1Aから取外した保持治具10とを、冷却装置に共に投入して、ロータコア1A及び保持治具10とをそれぞれ冷却装置の内部で個別に冷却する。即ち、ロータコア1Aに保持治具10を取付けた状態であると、特に下板11と押圧板12とがロータコア1Aの上下方向の両面に接して覆った状態となるため、保持治具10を取外すことで、ロータコア1Aにおいて露出する表面積が取外す前よりも大きくなり、冷却効率が上昇する。また、保持治具10も熱容量が大きいため、ロータコア1Aに保持治具10を取付けた状態では、熱容量が大きくて冷え難いが、それらを分離することでそれぞれの熱容量が小さくなり、冷却効率が上昇する。これにより、ロータコア1Aの冷却時間を短縮することが可能となり、また、保持治具10の冷却時間も短縮することが可能となる。
【0046】
[各工程におけるロータコアの温度と樹脂の温度との遷移について]
ついで、上述した各工程におけるロータコアの温度と樹脂の温度との遷移について
図16及び
図17を用いて説明する。まず、
図17を用いて従来のロータコアの加熱手法について説明する。
図17に示すように、時点t11にロータコア1Aを加熱して予熱する予熱工程を開始する際は、ロータコア1Aの温度(以下、「ロータコア温度」という)Tcは常温であり、一方で、樹脂注入機40で加熱されている樹脂の温度(以下、「樹脂温度」という)Trは溶融開始温度T1(例えば60度)よりも高い温度(例えば80度)で溶融されている。なお、常温とは、工場等における樹脂注入装置30が設置されている環境の温度であり、例えば15度~30度程度を想定している。また、樹脂注入機で溶融されている樹脂温度Trは、そのままロータコア1Aの孔部1Bに注入される温度であるため、以下、注入温度T2という。
【0047】
この予熱工程では、時点t12にロータコア温度Tcが溶融開始温度T1を超え、時点t13までに注入温度T2に加熱される。そして、時点t13にロータコア1Aが樹脂注入装置30に設置され、樹脂注入工程に進んで、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂注入機40から樹脂が注入される。その後、時点t14に樹脂注入工程が終了すると、ロータコア1Aは樹脂注入装置30から取外されて本昇温工程に進み、不図示の加熱装置で樹脂が注入されたロータコア1Aを再加熱し、時点t15に樹脂が硬化する硬化開始温度T3(例えば120度)を超えて、時点t16に目標となる例えば150度まで昇温される。そのまま時点t16から磁石固定工程に進み、ロータコア1Aの孔部1Bに注入された樹脂が硬化されるまで待機し、時点t17に樹脂の硬化が確実に終了している時間となると冷却工程に進み、ロータコア1Aの冷却を時点t18まで行って、以上でロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入して磁石1Mを固定する各工程を終了する。
【0048】
以上説明した従来のロータコア1Aの加熱手法では、時点t13からロータコア1Aの孔部1Bに対する樹脂の注入を開始した後、時点t15にロータコア1Aの温度が樹脂の硬化開始温度T3を超えるまでの間が、孔部1Bにおいて溶融された樹脂が滞留している時間(以下、「溶融樹脂の滞留時間」という)TSとなり、特にこの溶融樹脂の滞留時間TSが長いため、途中の「×」印で示すように積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れ出す虞がある。そこで本第1の実施の形態においては、以下に説明するようにロータコア1Aの加熱手法を変えて、積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れ出すことの防止を図るものである。
【0049】
続いて、
図16を用いて本第1の実施の形態におけるロータコアの加熱手法について説明する。
図16に示すように、時点t1にロータコア1Aを加熱する昇温工程S4(
図1参照)を開始する際は、本第1の実施の形態でも従来と同様に、ロータコア温度Tcは常温であり、一方で、樹脂注入機40で加熱(昇温)されている樹脂温度Trは、溶融開始温度T1(例えば60度)よりも高くかつ硬化開始温度T3よりも低い温度(例えば80度)で溶融されていて、常温では固定の樹脂をロータコア1Aの孔部1Bに注入することが可能な状態となっている。
【0050】
本第1の実施の形態における昇温工程S4においては、ロータコア1Aを樹脂の硬化開始温度T3(例えば120度)よりも高い第1温度としての加熱温度T4(例えば150度)まで昇温する。そのため、時点t2にロータコア温度Tcが溶融開始温度T1を超え、時点t3に第2温度としての注入温度T2を超える。そして、時点t4にロータコア1Aが樹脂注入装置30に設置され(注入装置設置工程S5)、樹脂注入工程S6に進んで、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂注入機40から樹脂が注入される。すると、孔部1Bに注入された樹脂の特に孔部1Bに触れた部分の樹脂温度Trは、ロータコア1Aの熱量によって加熱されて昇温され、時点t5に硬化開始温度T3を超えて概ね加熱温度T4まで上昇する。
【0051】
なお、ロータコア1Aの孔部1Bに注入される樹脂の熱容量に対して、金属製のロータコア1Aの熱容量が遙かに大きいため、ロータコア温度Tcは下降したとしても僅かである(例えば0.1度程度である)。また、ロータコア1Aを加熱する際は、例えば誘導加熱器210,220等で加熱するため、全体に均等に加熱されるとは限らないが、少なくとも孔部1Bの部分が樹脂注入工程S6で樹脂を注入する際に加熱温度T4となっていればよい。具体的には、加熱装置からロータコア1Aを取り出し、樹脂注入装置30に設置する注入装置設置工程S5を経て、樹脂注入工程S6で樹脂が注入されるまでの経過時間でロータコア1Aが僅かに冷えることを考慮して、特に孔部1Bの部分を加熱温度T4よりも僅かに高くなるように加熱しておくことが考えられる。
【0052】
その後、時点t6に樹脂注入工程S6が終了すると、ロータコア1Aは樹脂注入装置30から取外されて磁石固定工程S7に進み、加熱装置200でロータコア1Aを再加熱し、加熱温度T4(例えば150度)よりも高い第3温度としての固定温度T5まで加熱され、ロータコア1Aの孔部1Bに注入された樹脂が確実に硬化されるように所定時間が経過するまで待機し、時点t7に樹脂の硬化が確実に終了している時間となると、冷却工程S9に進み、保持治具10を取外してロータコア1Aの冷却を時点t8まで行って、以上で本第1の実施の形態における、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入して磁石1Mを固定する各工程を終了する。
【0053】
以上説明した本実施の形態に係るロータコア1Aの加熱手法では、時点t4からロータコア1Aの孔部1Bに対する樹脂の注入を開始した後、時点t5にロータコア1Aの温度が樹脂の硬化開始温度T3を超えるまでの間が、溶融樹脂の滞留時間TSとなり、従来の溶融樹脂の滞留時間TSに比して短く、さらに、孔部1Bに注入された樹脂が加熱温度T4まで加熱されている孔部1Bに触れた部分から硬化を開始するので、積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れ出すことの防止が図られる。
【0054】
また、本第1の実施の形態では、樹脂注入工程S6を行う際に、ロータコア温度Tcが硬化開始温度T3(例えば120度)よりも高い加熱温度T4(例えば150度)となっているため、樹脂温度Trもロータコア1Aの熱量で加熱されて硬化開始温度T3を超えて概ね加熱温度T4となるので、そのままでも樹脂の硬化は進むが、時点t6から時点t7における磁石固定工程S7を設けることで、樹脂を確実に硬化させ、樹脂によってロータコア1Aの孔部1Bに磁石1Mを確実に固定することができている。さらに、磁石固定工程S7において、ロータコア1Aを加熱温度T4(例えば150度)よりも高い固定温度T5(例えば170度)に加熱して昇温することで、確実に樹脂を硬化させる時間を短縮することができ、その後の冷却工程S9におけるロータコア1Aの冷却時間を考慮しても、総じて時間の短縮化を図ることができている。
【0055】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について
図18を用いて説明する。本第2の実施の形態においては、トランスファ成型の樹脂注入装置130を用いてロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入するものである。
【0056】
詳細には、樹脂注入装置130は、大まかに、樹脂注入機140、ランナ160、設置台150を備えている。樹脂注入機140は、所謂トランスファ成型機であり、本体141が複数の軸142によって上下に移動可能であり、ランナ160を介してロータコア1Aを設置台150に押圧可能に構成されている。本体141には、樹脂タブレット199が投入口140Aから投入される樹脂ポッド143(トランスファ室)が設けられており、また、樹脂ポッド143で溶融された樹脂を高圧で押圧して樹脂を射出口140Bから射出するプランジャ144が備えられている。また、本体141には、熱付与部としての電熱線145が内蔵されており(樹脂注入装置130内に配置されており)、不図示の加熱装置から供給される電力によって本体141及びプランジャ144を加熱して昇温することが可能となっている。
【0057】
上記ランナ160は、樹脂注入機140の射出口140Bに接続される投入口160Aと、投入口160Aから流路が分岐してロータコア1Aの各孔部1Bに対向するように配置された複数の射出口160Bと、を有して構成されている。また、上記設置台150には、熱付与部としての電熱線155が内蔵されており(樹脂注入装置130内に配置されており)、不図示の加熱装置から供給される電力によってロータコア1Aを下方から加熱して昇温することが可能となっている。さらに、ロータコア1Aの外周には、IHコイル181が配置されており、不図示の加熱装置から供給される高周波の電磁波によってロータコア1Aを側方から加熱することが可能となっている。なお、ランナ160がロータコア1Aの上方にある上金型となり、設置台150がロータコア1Aの下方になる下金型となるとも言える。
【0058】
ついで、このように構成された樹脂注入装置130によってロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入して硬化させるまでの工程について説明する。まず、昇温工程によって樹脂注入装置130の外部の加熱装置(不図示)によってロータコア1Aを樹脂の硬化開始温度以上に昇温する。一方で、樹脂ポッド143に樹脂タブレット199が投入される前に、樹脂注入機140の本体141も電熱線145によって硬化開始温度以上に加熱して昇温しておく。
【0059】
次に、注入装置設置工程において、硬化開始温度以上であるロータコア1Aを樹脂注入装置130の設置台150に設置し、ランナ160を本体141に取付け、本体141を下降させて、ランナ160と設置台150とでロータコア1Aを積層鋼板の積層方向に押圧した状態にする。この状態でも、樹脂注入装置130の電熱線155やIHコイル181によってロータコア1Aを昇温することで、ロータコア1Aが樹脂の硬化開始温度以上に維持され、電熱線145によって本体141を加熱して昇温することで、本体141(樹脂注入機140)も樹脂の硬化開始温度以上に維持される。なお、昇温工程でロータコア1Aを硬化開始温度以上に昇温しておくことが好ましいが、注入装置設置工程の後に、ロータコア1Aを樹脂注入装置130で硬化開始温度以上に昇温するようにしてもよい。
【0060】
ついで、樹脂注入工程において、樹脂注入機140の投入口140Aに、常温で固体の樹脂タブレット199を投入し、樹脂ポッド143及びプランジャ144の熱によって樹脂タブレット199を溶融して液体にしつつプランジャ144によって高圧でランナ160に樹脂を射出し、ランナ160の射出口160Bからロータコア1Aの孔部1Bのそれぞれに液体の樹脂を射出する。この際、本体141は樹脂の硬化開始温度以上に昇温されているが、樹脂が溶融し、かつ硬化する前のタイミングで樹脂の射出を行うため、基本的に樹脂注入機140に樹脂が硬化して残ることはない。
【0061】
そして、ロータコア1Aの孔部1Bに射出されて注入された樹脂は、硬化開始温度付近まで昇温しており(半硬化状態であり)、硬化開始温度以上に加熱されているロータコア1Aの孔部1Bの側面に樹脂が触れることで樹脂の硬化が開始されるので、積層鋼板同士の間から樹脂が漏れ出ることの防止が図られる。
【0062】
その後、本第2の実施の形態における磁石固定工程では、ロータコア1Aを樹脂注入装置130に設置したまま、電熱線155やIHコイル181によってロータコア1Aを硬化開始温度以上に維持し、孔部1Bに注入された樹脂の硬化を完了して、つまり磁石1Mをロータコア1Aに固定させる。なお、樹脂がある程度硬化した後、ロータコア1Aを樹脂注入装置130から取外して、樹脂注入装置130外にある加熱装置(熱付与部)によってロータコア1Aを加熱して硬化開始温度以上に維持してもよく、つまり磁石固定工程を、ロータコア1Aを樹脂注入装置130の外部で行ってもよい。
【0063】
なお、本第2の実施の形態では、樹脂タブレット199の投入前に、樹脂注入機140の本体141及びプランジャ144を硬化開始温度以上に昇温しておくものを説明しているが、溶融開始温度以上かつ硬化開始温度未満に昇温しておくものでもよい。この場合でも、樹脂タブレット199は樹脂ポッド143で溶融して液体となり、ロータコア1Aの孔部1Bで側面に触れることで樹脂の硬化が開始されることになる。
【0064】
なお、本第2の実施の形態における、これ以外の構成、作用、効果は、第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0065】
<第3の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第3の実施の形態について
図19を用いて説明する。上記第1の実施の形態においては、昇温工程S4で加熱温度T4まで加熱して昇温し、樹脂注入工程S6が終了して磁石固定工程S7を行うときにさらに固定温度T5に加熱して昇温するもの(
図16参照)を説明したが、本第3の実施の形態においては、昇温工程S4で、樹脂の硬化を樹脂注入工程S6で樹脂の注入を終了してから所定時間(例えば1分間)以内に終了することが可能となる固定温度T5まで加熱して昇温し、樹脂注入工程S6及び磁石固定工程S7では加熱しないものである。
【0066】
詳細には、
図19に示すように、時点t21にロータコア1Aを昇温する昇温工程S4(
図1参照)を開始する際は、ロータコア温度Tcは常温であり、一方で、樹脂注入機40で昇温されている樹脂温度Trは、溶融開始温度T1(例えば60度)よりも高くかつ硬化開始温度T3よりも低い温度(例えば80度)で溶融されていて、常温では固定の樹脂をロータコア1Aの孔部1Bに注入することが可能な状態となっている。
【0067】
本第3の実施の形態における昇温工程S4においては、ロータコア1Aを樹脂の硬化開始温度T3(例えば120度)よりも高く、上記加熱温度T4(例えば150度)(
図16参照)よりも高い固定温度T5(例えば170度)まで昇温する。そのため、時点t22にロータコア温度Tcが溶融開始温度T1を超え、時点t23に第2温度としての注入温度T2を超える。そして、時点t24にロータコア1Aが樹脂注入装置30に設置され(注入装置設置工程S5)、樹脂注入工程S6に進んで、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂注入機40から樹脂が注入される。すると、孔部1Bに注入された樹脂の特に孔部1Bに触れた部分の樹脂温度Trは、ロータコア1Aの熱量によって加熱され、時点t25に硬化開始温度T3を超えて概ね固定温度T5まで昇温する。
【0068】
その後、時点t26に樹脂注入工程S6が終了すると、ロータコア1Aは樹脂注入装置30から取外されて磁石固定工程S7に進み、樹脂注入工程S6で樹脂の注入が終了してから所定時間(例えば1分間)が経過するまで、ロータコア1Aを加熱せずに固定温度T5に維持し、つまりロータコア1Aの孔部1Bに注入された樹脂が確実に硬化されるように所定時間が経過するまで待機する。そして、時点t27に樹脂の硬化が確実に終了している時間となると、冷却工程S9に進み、保持治具10を取外してロータコア1Aの冷却を時点t28まで行って、以上で本第3の実施の形態における、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入して磁石1Mを固定する各工程を終了する。
【0069】
このように本第3の実施の形態では、磁石固定工程S7でロータコア1Aを昇温することを省略することができ、例えば磁石固定工程S7を行うためにロータコア1Aを、昇温工程S4を行った加熱装置200に製造ラインを逆行して戻すことを不要とし、生産性の向上を図ることができる。
【0070】
なお、本第3の実施の形態における、これ以外の構成、作用、効果は、第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0071】
<本実施の形態のまとめ>
以上説明した本ロータの製造方法は、
常温において固体であり、溶融開始温度(T1)以上に加熱することで液体となり、硬化開始温度(T3)以上に加熱することで硬化する特性を有する熱硬化性の樹脂を用い、積層鋼板(1a)により形成されたロータコア(1A)の孔部(1B)に磁石部材(1M)を配置し、樹脂を注入して硬化させ、前記磁石部材(1M)をロータコア(1A)に固定することで、回転電機のロータ(1)を製造するロータの製造方法において、
前記ロータコア(1A)を前記硬化開始温度(T3)以上に昇温する昇温工程(S4)と、
前記硬化開始温度(T3)以上である前記ロータコア(1A)の孔部(1B)に、樹脂注入装置(30,130)によって前記溶融開始温度(T1)以上かつ液体状である樹脂を注入する樹脂注入工程(S6)と、
前記ロータコア(1A)を前記硬化開始温度(T3)以上に維持して樹脂を硬化させる磁石固定工程(S7)と、を備える。
【0072】
これにより、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入した際に、孔部1Bに触れた樹脂が硬化開始温度T3以上となって硬化するため、樹脂が積層鋼板1a同士の間から漏れ出すことの防止を図ることができる。
【0073】
また、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)において、前記ロータコア(1A)を前記硬化開始温度(T3)以上である加熱温度(T4)に昇温し、
前記磁石固定工程(S7)において、前記ロータコア(1A)を、樹脂の硬化を前記樹脂注入工程(S6)で樹脂の注入を終了してから所定時間以内に終了することが可能な前記加熱温度(T4)よりも高い固定温度(T5)に昇温する。
【0074】
これにより、樹脂注入工程S6でロータコア1Aの温度を、加熱温度T4に設定することができ、例えばロータコア1Aの温度を固定温度T5に昇温しておく場合に比して、樹脂の硬化の進行を遅くでき、例えば孔部1Bの長さが長い場合でも樹脂の注入を行い易くすることができる。
【0075】
また、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)及び前記磁石固定工程(S7)において、前記ロータコア(1A)を加熱するための熱付与部は、前記樹脂注入装置(30,130)外に設けられ、
前記樹脂注入工程(S6)において、樹脂を前記溶融開始温度(T1)以上に加熱するための熱付与部は、前記樹脂注入装置(30,130)内に設けられている。
【0076】
これにより、樹脂注入装置30(130)が硬化開始温度T3以上とならないため、樹脂注入機40(140)の内部で樹脂が硬化することがなく、樹脂材の歩留まりを向上することができる。
【0077】
また、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)及び前記磁石固定工程(S7)において、前記ロータコア(1A)を加熱するための熱付与部は、同じ熱付与部である。
【0078】
これにより、ロータコア1Aを加熱するための設備を簡略化することができる。
【0079】
また、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)において、前記ロータコア(1A)を、樹脂の硬化を前記樹脂注入工程(S6)で樹脂の注入を終了してから所定時間以内に終了することが可能な固定温度(T5)に昇温し、
前記磁石固定工程(S7)において、前記ロータコア(1A)を加熱しない。
【0080】
これにより、磁石固定工程S7でロータコア1Aを加熱することを省略することができ、例えば磁石固定工程S7を行うためにロータコア1Aを、昇温工程S4を行った加熱装置に製造ラインを逆行して戻すことを不要とし、生産性の向上を図ることができる。
【0081】
また、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)において、前記ロータコア(1A)を加熱するための熱付与部は、前記樹脂注入装置(30,130)外に設けられ、
前記樹脂注入工程(S6)において、樹脂を前記溶融開始温度(T1)以上に加熱するための熱付与部は、前記樹脂注入装置(30,130)内に設けられている。
【0082】
これにより、樹脂注入装置30(130)が硬化開始温度T3以上とならないため、樹脂注入機40(140)の内部で樹脂が硬化することがなく、樹脂材の歩留まりを向上することができる。
【0083】
また、本ロータの製造方法は、
前記樹脂注入工程(S6)において、前記ロータコア(1A)が前記積層鋼板(1a)の積層方向に押圧された状態で樹脂の注入を行う。
【0084】
これにより、ロータコア1Aの孔部1Bに樹脂を注入した際に、樹脂が孔部1Bに触れて硬化することと相俟って、孔部1Bにおいて積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れ出すことをさらに発生し難くすることができる。
【0085】
また、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)の前に、保持治具(10)内に前記積層鋼板(1a)を配置し、前記ロータコア(1A)の孔部(1B)に前記磁石部材(1M)を配置する治具取付け工程(S3)を備える。
【0086】
これにより、ロータコア1Aを加熱する前に保持治具10を取付けるので、ロータコア1Aの積層方向への熱膨張を加味した押圧力を付与した状態を保持治具10によって設定することができる。
【0087】
また、本ロータの製造方法は、
前記保持治具(10)は、第1板(11)と、樹脂注入孔(12c)が形成された第2板(12)と、を有し、前記第1板(11)及び前記第2板(12)によって前記積層方向における両端にある積層鋼板(1a)に面接触して前記ロータコア(1A)を押圧する。
【0088】
これにより、ロータコア1Aの孔部1Bの周囲を押圧することができ、孔部1Bにおいて積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れ出すことの防止効果をさらに増すことができる。
【0089】
また、本ロータの製造方法は、
前記樹脂注入工程(S6)において、前記硬化開始温度(T3)以上である前記樹脂注入装置(130)に固体の樹脂を投入し、その樹脂を溶融しつつ通過させて、前記硬化開始温度(T3)以上である前記ロータコア(1A)の孔部(1B)に注入する。
【0090】
これにより、樹脂の注入から樹脂を硬化させるまでを短時間で行うことができ、孔部1Bにおいて積層鋼板1a同士の間から樹脂が漏れ出す前に樹脂の硬化を完了させることができる。
【0091】
そして、本ロータの製造方法は、
前記昇温工程(S4)において、前記ロータコア(1A)を加熱するための熱付与部は、前記樹脂注入装置(130)外に設けられる。
【0092】
これにより、昇温工程S4におけるロータコア1Aの温度管理を安定的に行うことができる。
【0093】
<他の実施の形態の可能性>
なお、以上説明した本第1及び第2の実施の形態においては、昇温工程S4でロータコア1Aを加熱温度T4として例えば150度に加熱して昇温するものを一例として説明したが、この値は適宜変更可能である。即ち、昇温工程S4でロータコア1Aを昇温した後の加熱温度T4は、樹脂の硬化開始温度T3よりも高ければ、樹脂を注入した際に孔部1Bに触れて硬化が開始される点で目的を達成できる。しかしながら、樹脂を孔部1Bに注入した際に樹脂の硬化が早いと孔部1Bに樹脂が完全に充填される前に硬化した樹脂が邪魔することになるため、加熱温度T4は、高すぎても良好ではなく、例えば160度以下程度に設定することが好ましい。
【0094】
また、本第1及び第2の実施の形態においては、樹脂注入機40,140で樹脂の温度を注入温度T2として例えば80度に昇温するものを一例として説明したが、この値も適宜変更可能である。即ち、樹脂を孔部1Bに注入することを可能にする点では、樹脂が溶融して液体となる溶融開始温度T1(例えば60度)以上に設定する必要があり、かつ樹脂が硬化しないように硬化開始温度T3未満にする必要がある。また、ロータコア1Aの孔部1Bに注入された樹脂は、昇温されているロータコア1Aの熱量で昇温され、つまり樹脂温度Trが急上昇することになるため、それを考慮した注入温度T2を設定することが好ましい。この注入温度T2は、ロータコア1Aの加熱温度T4が低いほど注入された樹脂が昇温され難いので高く設定することになり、反対にロータコア1Aの加熱温度T4が高いほど注入された樹脂が昇温され易いので低く設定することになる。
【0095】
また、本第1及び第2の実施の形態においては、磁石固定工程S7でロータコア1Aを固定温度T5として例えば170度に昇温するものを一例として説明したが、この値も適宜変更可能である。即ち、固定温度T5を加熱温度T4よりも高くすることによって、樹脂の硬化を早める効果がある点で目的を達成できる。しかしながら、ロータコア1Aの温度が高くなり過ぎると、熱歪み等が生じる虞もあり、また、加熱時間がかかって時間短縮の効果が薄れるので、例えば185度以下程度に設定することが好ましい。
【0096】
また、本第1の実施の形態においては、保持治具10が大まかに下板11、押圧板12、上板13、及びコイルスプリング23で構成されたものを説明したが、これに限らず、ロータコア1Aを積層方向に挟持して保持できるものであれば、どのような構成であってもよい。
【0097】
また、本第1の実施の形態においては、冷却工程S9で保持治具10も冷却装置で冷却する場合を説明したが、これに限らず、保持治具10を自然冷却してもよく、特に保持治具10を再利用するとしても自然冷却で足りるように保持治具10を多数準備しておけばよい。
【0098】
また、本第1の実施の形態においては、冷却工程S9でロータコア1A(ロータ1)を冷却装置で冷却する場合を説明したが、これに限らず、ロータコア1Aを自然冷却するとしても、保持治具10を取外す方が冷却時間を短縮できることは勿論のことである。
【0099】
また、本第1の実施の形態においては、樹脂の板部99a及び円錐部99bを形成する注入孔12cを、当接部材としての保持治具10の押圧板12に形成したものを説明したが、これに限らず、例えばロータコア1Aを保持治具10で保持せず、別の手法で保持して樹脂注入を行う場合等、保持治具10を用いない場合も考えられる。この場合、樹脂の板部99a及び円錐部99bを形成する注入孔は、ロータコア1Aに当接させる別のプレート等に形成することが考えられる。
【0100】
また、本第1の実施の形態においては、注入孔12cにより樹脂の板部99a及び円錐部99bを形成するものを説明したが、これらの形状はどのようなものでもよい。即ち、拡大開口部でロータコア1Aの上面よりも突出するように形成される形状は、板状でなく、例えば三角錐状、四角錐状、円錐状、半球状等でもよく、また、先細り部で形成される形状は、円錐状でなく、例えば三角錐状、四角錐状、円錐状、半球状等でもよい。
【0101】
また、本第1の実施の形態においては、ランナ60をテーブル部50に着脱自在に支持したものを説明したが、ランナ60を樹脂注入機40のノズル部42等に直接的に固定して支持させてもよく、さらには、テーブル部50以外の他の部材に支持させるようにしてもよい。
【0102】
また、本第1の実施の形態においては、設置台55にロータコア1Aを設置し、ランナ60に向けてロータコア1Aを上昇させて射出口60Bを注入孔12cを介してロータコア1Aの孔部1Bに対向させるものを説明したが、これに限らず、樹脂注入機40やランナ60の向きによっては、ロータコア1Aをどの方向に向けて移動してもよく、つまり少なくとも樹脂注入工程S6で樹脂注入機40やランナ60を移動させないように構成できれば、どのような構成でもよい。
【0103】
また、本第1の実施の形態においては、温調装置81が樹脂注入機40の温度管理を行い、温調装置82がランナ60の温度管理を行うものについて説明したが、これに限らず、例えば1つの温調装置で温度管理を行うようにしてもよく、反対に、さらに多くの温調装置を用いて樹脂注入機40やランナ60の温度管理を細分化するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0104】
1…ロータ
1a…積層鋼板
1A…ロータコア
1B…孔部
1M…磁石部材(磁石)
10…保持治具
11…第1板(下板)
12…第2板(押圧板)
12c…樹脂注入孔(注入孔)
30…樹脂注入装置
130…樹脂注入装置
S3…治具取付け工程
S4…昇温工程
S6…樹脂注入工程
S7…磁石固定工程
T1…溶融開始温度
T3…硬化開始温度
T4…加熱温度
T5…固定温度