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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】内燃機関のカバー
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
F02F7/00 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020190793
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079920
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】土井 健介
(72)【発明者】
【氏名】堀内 洋志
(72)【発明者】
【氏名】森下 豪人
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0266358(US,A1)
【文献】特開2014-181593(JP,A)
【文献】特開2018-080668(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045062(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0005859(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00-1/42
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関本体に取り付けられてクランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンまたはタイミングベルトを覆うとともに、前記カムシャフトが挿通される第1挿通孔と前記クランクシャフトが挿通される第2挿通孔とを備えた内燃機関のカバーであって、
硬質樹脂材料により形成された第1部材と、前記硬質樹脂材料とは異なる材料により形成された第2部材とを含み、
前記第1部材は、前記第2部材をインサートして成型され、かつ前記第1挿通孔及び前記第2挿通孔を備え、
前記第2部材は、前記第1挿通孔を有した第2上側部材と前記第2挿通孔を有した第2下側部材とを備え、
前記第2上側部材における前記第1挿通孔の周縁部及び前記第2下側部材における前記第2挿通孔の周縁部には、前記第1部材と接合される第1接合面が形成され、
前記第1接合面には、前記第1挿通孔を囲む複数の環状の溝が前記第1挿通孔の径方向に並んで形成されるとともに、前記第2挿通孔を囲む複数の環状の溝が前記第2挿通孔の径方向に並んで形成され、
前記第2上側部材の周縁部及び前記第2下側部材の周縁部には、前記第1部材と接合される第2接合面が形成され、
前記第2接合面の少なくとも一部には、格子状の凹部が形成されていることを特徴とする内燃機関のカバー。
【請求項2】
前記第2接合面の全体に前記凹部が形成されていることを特徴とする請求項に記載の内燃機関のカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンまたはタイミングベルトを覆う内燃機関のカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のカバーとして、例えば特許文献1に示すチェーンカバーが知られている。こうしたチェーンカバーは、エンジン本体に取り付けられ、下部にクランクシャフトの前端部が挿通される貫通孔を有したボス部が設けられている。チェーンカバーの下部は板状のリテーナによって覆われており、リテーナはエンジン本体に取り付けられている。リテーナには、クランクシャフトの前端部が挿通される貫通孔を有したボス部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-71996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなチェーンカバーでは、クランクケース内のオイルがクランクシャフトの周りからチェーンカバーとリテーナとの間に浸入しないように、チェーンカバーにおける貫通孔の周縁部とリテーナにおける貫通孔の周縁部との間に、弾性を有する材料からなる円環状のシール部材を配置している。すなわち、上述のようなチェーンカバーでは、チェーンカバーとリテーナとの間のシール性を確保するべくシール部材を必要としている。このため、部品点数が増えてしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する内燃機関のカバーは、機関本体に取り付けられてクランクシャフトの回転力をカムシャフトに伝達するタイミングチェーンまたはタイミングベルトを覆うとともに、前記クランクシャフトまたは前記カムシャフトが挿通される複数の挿通孔を有した内燃機関のカバーであって、硬質樹脂材料により形成された第1部材と、前記硬質樹脂材料とは異なる材料により形成された第2部材とを含み、前記第1部材は、前記第2部材をインサートして成型され、前記第2部材における複数の前記挿通孔のうちの少なくとも一つの周縁部には、前記第1部材と接合される接合面が形成され、前記接合面には、前記挿通孔を囲む複数の環状の溝が当該挿通孔の径方向に並んで形成されていることを要旨とする。
【0006】
一般に、タイミングチェーンまたはタイミングベルトを覆うカバーにおいては、第2部材の接合面と第1部材との間の僅かな隙間を通じて、内燃機関のブローバイガスや機関本体から飛散するオイルなどが浸入しやすい。この点、この構成によれば、第2部材の接合面に挿通孔を囲む複数の環状の溝が当該挿通孔の径方向に並んで形成されているため、内燃機関のブローバイガスやオイルが第2部材の接合面と第1部材との間の僅かな隙間から浸入することが抑制される。したがって、シール材を必要とすることなく、第1部材と第2部材との間のシール性を向上させることができる。すなわち、部品点数を増やすことなく、第1部材と第2部材との間のシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】内燃機関の機関本体に取り付けられた状態の一実施形態のタイミングチェーンカバーを示す正面模式図。
図2】タイミングチェーンカバーの正面模式図。
図3】タイミングチェーンカバーの第2上側部材を示す背面模式図。
図4図3の第2上側部材の裏面側を示す要部拡大図。
図5図3の第2上側部材の要部拡大図。
図6】タイミングチェーンカバーの第2下側部材を示す背面模式拡大図。
図7】第2上側部材の周縁部の一部及び第2下側部材の周縁部の一部を示す拡大図。
図8】第2上側部材における第1挿通孔の周縁部の一部及び第2下側部材における第2挿通孔の周縁部の一部を示す断面模式拡大図。
図9】第2上側部材の第1接合面と第1部材との接合状態及び第2下側部材の第1接合面と第1部材との接合状態を示す断面模式拡大図。
図10】第2上側部材の第2接合面と第1部材との接合状態及び第2下側部材の第2接合面と第1部材との接合状態を示す断面模式拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、内燃機関のカバーを車両に搭載される往復動式(ピストン式)の内燃機関に取り付けられるタイミングチェーンカバーに具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、内燃機関は、機関本体10と、機関本体10の側面に取り付けられるカバーの一例としてのタイミングチェーンカバー11とを有している。機関本体10は、シリンダヘッド12、シリンダブロック13、及びクランクケース14を備えている。シリンダブロック13は、シリンダヘッド12とクランクケース14との間に配置されている。
【0009】
シリンダヘッド12には、吸気用カムシャフト15及び排気用カムシャフト16が回転可能に支持されている。吸気用カムシャフト15及び排気用カムシャフト16は、機関バルブとしての吸気バルブ及び排気バルブ(いずれも図示略)をそれぞれ開閉駆動する。カムシャフト15,16の一端部15a,16aは、シリンダヘッド12から突出している。
【0010】
カムシャフト15,16の一端部15a,16aには、モータ駆動式の可変バルブタイミング機構17,18がそれぞれ連結されている。可変バルブタイミング機構17,18は、減速機構やリンク機構などから構成されるアクチュエータ(いずれも図示略)と、モータ19,20とを備えている。可変バルブタイミング機構17,18のアクチュエータには、従動側スプロケット21,22がそれぞれ設けられている。
【0011】
クランクケース14には、クランクシャフト23が回転可能に支持されている。クランクシャフト23の一端部23aは、クランクケース14から突出している。クランクシャフト23の一端部23aは、カムシャフト15,16の一端部15a,16aと同一の方向に突出している。クランクシャフト23の一端部23aには、駆動側スプロケット24が連結されている。
【0012】
従動側スプロケット21,22と、駆動側スプロケット24とには、タイミングチェーン25が巻き掛けられている。したがって、駆動側スプロケット24が回転駆動されると、駆動側スプロケット24の回転力がタイミングチェーン25を介して2つの従動側スプロケット21,22に伝達されるので、2つの従動側スプロケット21,22が駆動側スプロケット24に連動して回転する。すなわち、タイミングチェーン25によってクランクシャフト23の回転力がカムシャフト15,16に伝達される。
【0013】
吸気用の可変バルブタイミング機構17は、モータ19の回転速度を制御することで、従動側スプロケット21に対する吸気用カムシャフト15の回転位相を変更する。一方、排気用の可変バルブタイミング機構18は、モータ20の回転速度を制御することで、従動側スプロケット22に対する排気用カムシャフト16の回転位相を変更する。なお、モータ19,20には、これらを制御する図示しない制御装置が一体に設けられている。
【0014】
タイミングチェーンカバー11は、タイミングチェーン25を覆うように機関本体10に取り付けられている。タイミングチェーンカバー11は、正面視矩形状をなしており、硬質樹脂材料により形成された第1部材26と、上記硬質樹脂材料とは異なる材料により形成された第2部材の一例としての第2上側部材27と、上記硬質樹脂材料とは異なる材料により形成された第2部材の一例としての第2下側部材28とを含んでいる。なお、以下の説明においては、タイミングチェーンカバー11の長辺方向(図1の上下方向)を長手方向Lとし、短辺方向(図1の左右方向)を幅方向Wとする。
【0015】
図1及び図2に示すように、タイミングチェーンカバー11は、タイミングチェーンカバー11の輪郭を構成する正面視矩形状の第1部材26と、長手方向Lにおける第1部材26の表面29の一端部(図1では上端部)に接合された第2上側部材27と、長手方向Lにおける第1部材26の表面29の他端部(図1では下端部)に接合された第2下側部材28とを備えている。第2上側部材27は、幅方向Wに長い正面視矩形状をなしている。第2下側部材28は、略十字状をなしている。
【0016】
第1部材26における第2上側部材27によって覆われる部分には、カムシャフト15,16が挿通される挿通孔の一例としての2つの第1挿通孔30が幅方向Wにおいて互いに間隔を置いて並んで設けられている。第1部材26における第2下側部材28によって覆われる部分には、クランクシャフト23が挿通される挿通孔の一例としての第2挿通孔31が設けられている。
【0017】
タイミングチェーンカバー11は、第1部材26が第2上側部材27によって覆われる部分における幅方向Wの両側に、タイミングチェーンカバー11を機関本体10に取り付けるためのボルト(図示略)が挿通される筒状をなす金属製のカラー32を複数(本例では2つ)ずつ備えている。
【0018】
タイミングチェーンカバー11は、第1部材26が第2下側部材28によって覆われる部分における第2挿通孔31の周囲の部分に、タイミングチェーンカバー11を機関本体10に取り付けるためのボルト(図示略)が挿通される筒状をなす金属製のカラー32を複数(本例では4つ)備えている。これら4つのカラー32は、第2挿通孔31の周方向に等間隔となるように配置されている。
【0019】
第1部材26における第2上側部材27及び第2下側部材28によって覆われない部分には、筒状をなす金属製のカラー33が挿通された複数の締結孔34が設けられている。本実施形態のタイミングチェーンカバー11には、一例として、幅方向Wの両側に、締結孔34が長手方向Lにおいて互いに間隔を置くように4つずつ設けられている。
【0020】
なお、図1では、各カラー32,33に挿通されるボルトの図示を省略している。また、本実施形態では、一例として、第1部材26がポリアミド(PA-6GF)を主成分とする樹脂材料により形成されている。
【0021】
図1図3に示すように、第2上側部材27は、第1部材26の表面29に接合される裏面35と、裏面35とは反対側に位置する面である表面36とを有している。第2上側部材27には、カムシャフト15,16が挿通される2つの第1挿通孔37が、幅方向Wにおいて互いに間隔を置いて設けられている。2つの第1挿通孔37は、第1部材26の2つの第1挿通孔30とそれぞれ連通している。
【0022】
第2上側部材27の表面36には、上記した図示しない制御装置が一体に設けられたモータ19,20が取り付けられる。第2上側部材27の表面36における各第1挿通孔37の周辺には、第2上側部材27にモータ19,20を取り付けるためのボルト(図示略)が螺入される複数の取付穴38が凹設されている。
【0023】
図3に示すように、第2上側部材27の裏面35には、複数(本例では4つ)のカラー32を囲む複数(本例では4つ)の筒部39がそれぞれ突設されている。すなわち、本実施形態の第2上側部材27においては、幅方向Wの両側に、筒部39が長手方向Lにおいて互いに間隔を置いて2つずつ設けられている。第2上側部材27は、第1部材26を形成する硬質樹脂材料よりも線膨張係数が小さく且つ吸水性の低い硬質樹脂材料により形成されている。
【0024】
本実施形態では、一例として、第2上側部材27がポリフェニレンサルファイド(PPS-GF)により形成されている。第2上側部材27は、複数のカラー32をインサートして成型されている。第1部材26は、第2上側部材27、第2下側部材28、及び複数のカラー32をインサートして成型されている。
【0025】
図1図2及び図6に示すように、第2下側部材28は、第1部材26の表面29に接合される裏面40と、裏面40とは反対側に位置する面である表面41とを有している。本実施形態の第2下側部材28は、一例として、アルミダイキャストによって形成されている。第2下側部材28は、中央部にクランクシャフト23が挿通される1つの第2挿通孔42を有した円環状の本体部43と、本体部43の外周面から本体部43の径方向の外側に向かって延出する複数(本例では4つ)の延出部44とを備えている。
【0026】
第2挿通孔42は、第1部材26の第2挿通孔31と互いに連通している。4つの延出部44は、本体部43の周方向において等間隔となるように配置されている。4つの延出部44の先端部には、カラー32が挿入される貫通孔45がそれぞれ形成されている。
【0027】
図4図6及び図8に示すように、第2上側部材27の裏面35における第1挿通孔37の周縁部46の全体及び第2下側部材28の裏面40における第2挿通孔42の周縁部47の全体には、第1部材26と接合される接合面としての円環状の第1接合面48がそれぞれ形成されている。
【0028】
第2上側部材27の第1接合面48には、第1挿通孔37を囲む中心が共通の複数の環状の溝49が第1挿通孔37の径方向に並んで形成されている。この場合、各溝49の中心と第1挿通孔37の中心とは一致している。第2下側部材28の第1接合面48には、第2挿通孔42を囲む中心が共通の複数の環状の溝49が第2挿通孔42の径方向に並んで形成されている。この場合、各溝49の中心と第2挿通孔42の中心とは一致している。各溝49は、例えばレーザ装置によって形成される。
【0029】
図4図6及び図7に示すように、第2上側部材27の裏面35における各筒部39を囲む領域を含む周縁部50の全体及び第2下側部材28の裏面40における各貫通孔45を囲む領域を含む周縁部51の全体には、第1部材26と接合される接合面としての第2接合面52がそれぞれ形成されている。第2接合面52の全体には、格子状の凹部53が形成されている。凹部53は、例えばレーザ装置によって形成される。なお、凹部53は、図7に示すように、互いに平行に延びる複数の第1溝53aと、複数の第1溝53aに対して直交して延びる複数の第2溝53bとにより構成される。
【0030】
次に、タイミングチェーンカバー11の作用について説明する。
図9及び図10に示すように、第2上側部材27及び第2下側部材28をインサートして第1部材26を成型する際には、第2上側部材27及び第2下側部材28の第1接合面48にそれぞれ形成された各溝49と、第2上側部材27及び第2下側部材28の第2接合面52にそれぞれ形成された凹部53とに溶融樹脂が充填される。このとき、第1部材26と、第1接合面48及び第2接合面52との間には、僅かな第1隙間S1及び第2隙間S2がそれぞれ生じる。これらの隙間S1,S2は、図9及び図10において、説明の便宜上、構成の一部を誇張及び簡略化して示している。
【0031】
そして、上述の成型の際には、第2接合面52に形成された凹部53が格子状であるため、第2接合面52と第1部材26との接触面積が大きくなる。このため、第1部材26と、第2上側部材27及び第2下側部材28とのそれぞれの接合強度が高くなる。一方、第1接合面48には、第1挿通孔37及び第2挿通孔42を囲む複数の環状の溝49が第1挿通孔37及び第2挿通孔42の径方向に並んでそれぞれ形成されている。
【0032】
このため、内燃機関のブローバイガスやオイルが第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42を介して第1接合面48と第1部材26との間の僅かな隙間S1から浸入することが抑制される。なぜなら、第1接合面48の複数の溝49の山谷に沿ってジグザグに形成される第1隙間S1が所謂ラビリンス構造となるため、第1隙間S1を通じてブローバイガスやオイルなどが移動し難くなるからである。
【0033】
また、図10に示すように、第2隙間S2は、格子状の凹部53の底部(図10の下側部分)において第1溝53aと第2溝53bとがこれらの交差部分を介して互いに連通した構造になっている。このため、例えば、第1接合面48に複数の溝49ではなく格子状の凹部53を形成すると、内燃機関のブローバイガスや機関本体10から飛散するオイルが第2隙間S2の上記交差部分を通じて第1接合面48と第1部材26との間から浸入し易くなってしまう。
【0034】
このように、タイミングチェーンカバー11は、内燃機関のブローバイガスや機関本体10から飛散するオイルが浸入し易い第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42の周縁部46,47に環状の溝49が形成された第1接合面48を配置してシール性を高めている。一方、タイミングチェーンカバー11は、内燃機関のブローバイガスや機関本体10から飛散するオイルが浸入し難く且つ接合強度が不足し易い第2上側部材27及び第2下側部材28の周縁部50,51に格子状の凹部53が形成された第2接合面52を配置して接合強度を高めている。
【0035】
つまり、タイミングチェーンカバー11は、別途部品を追加することなく必要な部位に必要な機能が選択的に付与された構造であるため、複数の機能を効率的に発揮できる。
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
【0036】
(1)タイミングチェーンカバー11は、機関本体10に取り付けられてクランクシャフト23の回転力をカムシャフト15,16に伝達するタイミングチェーン25を覆うとともに、クランクシャフト23またはカムシャフト15,16が挿通される第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42を有している。タイミングチェーンカバー11は、硬質樹脂材料により形成された第1部材26と、硬質樹脂材料とは異なる材料により形成された第2上側部材27及び第2下側部材28とを含んでいる。第1部材26は、第2上側部材27及び第2下側部材28をインサートして成型されている。第2上側部材27及び第2下側部材28における第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42の周縁部46,47には、第1部材26と接合される第1接合面48が形成されている。第1接合面48には、第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42を囲む複数の環状の溝49が第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42の径方向に並んで形成されている。
【0037】
一般に、タイミングチェーンまたはタイミングベルトを覆うカバーにおいては、第2部材の接合面と第1部材との間の僅かな隙間を通じて、内燃機関のブローバイガスや機関本体から飛散するオイルなどが浸入しやすい。この点、この構成によれば、第2上側部材27及び第2下側部材28の第1接合面48に第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42を囲む複数の環状の溝49が第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42の径方向に並んで形成されている。このため、内燃機関のブローバイガスやオイルが第2上側部材27及び第2下側部材28の第1接合面48と第1部材26との間の僅かな隙間S1から浸入することを抑制できる。したがって、シール材を必要とすることなく、第1部材26と、第2上側部材27及び第2下側部材28との間のシール性を向上させることができる。すなわち、部品点数を増やすことなく、第1部材26と、第2上側部材27及び第2下側部材28との間のシール性を向上させることができる。
【0038】
(2)タイミングチェーンカバー11において、第2上側部材27及び第2下側部材28の周縁部50,51には、第1部材26と接合される第2接合面52が形成されている。第2接合面52の全体には、格子状の凹部53が形成されている。
【0039】
この構成によれば、第2上側部材27及び第2下側部材28をインサートして第1部材26を成型する際には、溶融樹脂が第2上側部材27及び第2下側部材28の第2接合面52に形成された凹部53に充填される。この場合、凹部53は格子状であるため、第2接合面52と第1部材26との接触面積を効果的に稼ぐことができる。したがって、第1部材26と、第2上側部材27及び第2下側部材28との接合強度を効果的に高めることができる。
【0040】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0041】
・必ずしも第2接合面52の全体に凹部53を形成する必要はない。すなわち、第2接合面52の一部に凹部53を形成するようにしてもよい。
・第2接合面52は、第2上側部材27及び第2下側部材28における第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42の周縁部46,47を除く周縁部50,51以外の部分に形成してもよい。
【0042】
・第2上側部材27を構成する材料と、第2下側部材28を構成する材料とは、同じであってもよい。
・第2上側部材27を構成する材料には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に限らず、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)などの硬質樹脂材料やアルミダイキャストなどの金属材料を用いてもよい。
【0043】
・第2下側部材28を構成する材料には、アルミダイキャストに限らず、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)などの硬質樹脂材料やアルミダイキャスト以外の金属材料を用いてもよい。
【0044】
・タイミングチェーンカバー11は、形状を適宜変更してもよい。
・第2上側部材27及び第2下側部材28は、それぞれ形状を適宜変更してもよい。
・第2下側部材28の延出部44の数や位置は、適宜変更してもよい。
【0045】
・第1挿通孔30,37及び第2挿通孔31,42の径は、適宜変更してもよい。
・カバーは、タイミングチェーンカバー11に限らず、タイミングチェーン25の代わりにタイミングベルトを用いた機関本体に取り付けられるタイミングベルトカバーであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
10…機関本体
11…タイミングチェーンカバー
12…シリンダヘッド
13…シリンダブロック
14…クランクケース
15…吸気用カムシャフト
15a…一端部
16…排気用カムシャフト
16a…一端部
17,18…可変バルブタイミング機構
19,20…モータ
21…従動側スプロケット
22…従動側スプロケット
23…クランクシャフト
23a…一端部
24…駆動側スプロケット
25…タイミングチェーン
26…第1部材
27…第2上側部材
28…第2下側部材
29,36,41…表面
30…第1挿通孔
31…第2挿通孔
32,33…カラー
34…締結孔
35,40…裏面
37…第1挿通孔
38…取付穴
39…筒部
42…第2挿通孔
43…本体部
44…延出部
45…貫通孔
46,47,50,51…周縁部
48…第1接合面
49…溝
52…第2接合面
53…凹部
53a…第1溝
53b…第2溝
S1…第1隙間
S2…第2隙間
L…長手方向
W…幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10