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特許7480691真空ポンプの解析装置、真空ポンプおよび解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】真空ポンプの解析装置、真空ポンプおよび解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240501BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04B37/16 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020205282
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092457
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】廣田 聖典
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194852(WO,A1)
【文献】特表2011-522166(JP,A)
【文献】特開2020-020272(JP,A)
【文献】特開2009-287573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析装置であって、
前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値を前記プロセスごとに算出し、算出された積算値と所定のメンテナンス閾値との比較に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成部を備える、真空ポンプの解析装置。
【請求項2】
内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析装置であって、
前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成部を備え、
前記情報生成部は、前記積算値と、前記期間において前記真空容器にガスが導入された導入時間とに基づいて前記情報を生成する、真空ポンプの解析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプの解析装置において、
前記情報生成部は、前記積算値を、前記導入時間で割って得られた値に基づいて前記情報を生成する、真空ポンプの解析装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の真空ポンプの解析装置において、
前記積算値は、前記対象物ごと、または、前記対象物に対して特定のプロセスが行われるごとに算出される、真空ポンプの解析装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の真空ポンプの解析装置において、
前記物理量は、前記回転駆動を行うモータの電流値、電力値若しくはPWM制御のデューティー比、または、前記ロータの軸の変位を示す量である、真空ポンプの解析装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の真空ポンプの解析装置において、
前記真空ポンプは、ターボ分子ポンプである、真空ポンプの解析装置。
【請求項7】
請求項1から6までの真空ポンプの解析装置を備える真空ポンプ。
【請求項8】
内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析処理をコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、
前記解析処理は、
前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値を前記プロセスごとに算出し、算出された積算値と所定のメンテナンス閾値との比較に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成処理を含む、解析プログラム。
【請求項9】
内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析処理をコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、
前記解析処理は、
前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値と、前記期間において前記真空容器にガスが導入された導入時間とに基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成処理を含む、
解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプの解析装置、真空ポンプおよび解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプでは、真空容器から排気されるガスが流れる流路に堆積物が堆積することにより、負荷が増大し、排気能力が低下し得る。真空容器の内部で半導体または液晶におけるエッチングプロセス等のプロセスが行われる場合、プロセスで生成された生成物が真空ポンプに流入するため、この問題が特に顕著となる。精度よく堆積量の変化を検出し、事前にメンテナンス等の適切な対応をとって排気能力の低下および真空ポンプの故障を防ぐことが重要である。特許文献1では、ターボ分子ポンプにおいて、モータ電流値に基づいて、生成物の堆積状況を監視することが行われている。特許文献2では、モータ電流値の実測波形と基準波形との比較結果に基づいて、真空ポンプの負荷増大による異常の判定が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-40277号公報
【文献】特開2020-41455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
精度よく、かつ、効率的に、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報が得られることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析装置であって、前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成部を備える、真空ポンプの解析装置に関する。
本発明の第2の態様は、第1の態様の真空ポンプの解析装置を備える真空ポンプに関する。
本発明の第3の態様は、内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析処理をコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、前記解析処理は、前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成処理を含む、解析プログラムに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、精度よく、かつ、効率的に、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態の真空ポンプシステムを示す概念図である。
図2図2は、ポンプ制御部および主制御部の構成を示す概念図である。
図3図3は、モータ電流の変化を説明するための概念図である。
図4図4は、一実施形態に係る真空ポンプの解析方法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、変形例の堆積物情報を説明するための概念図である。
図6図6は、解析プログラムの提供を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
-実施形態-
図1は、本実施形態の真空ポンプシステムの構成を示す概念図である。真空ポンプシステム1000は、ターボ分子ポンプ100と、主制御部200とを備える。ターボ分子ポンプ100は、真空排気を行うポンプ部1と、ポンプ部1を駆動制御するポンプ制御部2とを備える。
【0010】
ポンプ部1は、回転翼41と固定翼31とで構成されるターボポンプ段と、円筒部42とステータ32とで構成されるドラッグポンプ段(ネジ溝ポンプ段)とを有している。ネジ溝ポンプ段においては、ステータ32または円筒部42にネジ溝が形成されている。回転側排気機能部である回転翼41および円筒部42はポンプロータ4に形成されている。ポンプロータ4はシャフト5に締結されている。ポンプロータ4とシャフト5とによって回転体ユニット45が構成される。
【0011】
複数段の固定翼31は、軸方向に対して回転翼41と交互に配置されている。各固定翼31は、スペーサリング33を介してベース3上に載置される。ポンプケーシング30をベース3にボルト固定すると、積層されたスペーサリング33がベース3とポンプケーシング30の係止部30aとの間に挟持され、固定翼31が位置決めされる。ベース3には排気口38aが形成された排気管38が設けられている。排気管38には不図示のバックポンプが排気可能に接続される。
【0012】
図1に示すターボ分子ポンプ100は磁気浮上式のターボ分子ポンプであり、回転体ユニット45は、ベース3に設けられた磁気軸受34、35、36によって非接触支持される。磁気軸受34、35、36は、軸受電磁石と、ロータシャフト5の浮上位置等を検出するための変位センサとを備えている。
【0013】
回転体ユニット45はモータMにより回転駆動される。モータMは、ベース3側に設けられたモータステータ10と、ロータシャフト5側に設けられたモータロータ11からなる。磁気軸受34、35、36が作動していない時には、回転体ユニット45は非常用のメカニカルベアリング37a、37bによって支持される。回転体ユニット45の回転数は、ベース3に配置された回転体センサ43によって検出される。回転体センサ43による検出の検出信号は、ポンプ制御部2に入力される。この際、検出信号は回転体センサ43またはポンプ制御部2で適宜アナログ/デジタル(Analog/Digital;A/D)変換される。
【0014】
ベース3の外周には、ベース3の温度を制御するためのヒータ51および不図示の冷却水配管が設けられている。ベース3の温度は温度センサ56によって検出される。温度センサ56によって検出された温度に基づいて、ポンプ制御部2によりヒータ51および冷却水を利用してベース3の温度が制御される。温度制御についての詳細な記載は省略する。
なお、ヒータ51、排気管38および温度センサ56等の配置は、図1の態様に特に限定されない。
【0015】
図2は、ポンプ制御部2および主制御部200の構成を示す概念図である。ポンプ制御部2は、モータ制御部21と、軸受制御部22と、記憶部23と、第1通信部24と、解析部25とを備える。モータ制御部21、軸受制御部22および解析部25は、処理装置により物理的に構成される。解析部25は、算出部251と、情報生成部252とを備える。主制御部200は、第2通信部201と、表示部202と、入力部203と、運転制御部204と、出力制御部205とを備える。運転制御部204および出力制御部205は処理装置により物理的に構成される。
【0016】
ポンプ制御部2は、モータMおよび磁気軸受34、35、36に電気的に接続されており、モータMおよび磁気軸受34、35、36を制御する。また、ポンプ制御部2は、真空ポンプの解析装置として機能する。
【0017】
モータ制御部21は、回転数センサ43で検出した検出信号に基づいてロータシャフト5の回転数を推定し、推定された回転数に基づいてモータMを所定目標回転数に制御する。ガス流量が大きくなるとポンプロータ4への負荷が増加するので、モータMの回転数が低下する。モータ制御部21は、回転数センサ43で検出された回転数と所定目標回転数との差がゼロとなるようにモータ電流を制御することにより所定目標回転数(定格回転数)を維持するようにしている。
【0018】
軸受制御部22は、磁気軸受34、35、36に配置された変位センサで検出した検出信号に基づいて、軸受電磁石の動作を制御する。
【0019】
記憶部23は、記憶媒体を備え、ポンプ制御部2が処理を実行するためのデータを記憶する。記憶部23は、後述する情報生成部252の解析処理を行うための解析プログラムを記憶する構成とすることができる。この場合、ポンプ制御部2のメモリに解析プログラムを読み込み、処理装置のCPUが解析プログラムを実行することで解析処理が行われる。本実施形態の各処理が実行可能であれば、処理装置の物理的な構成は特に限定されない。
【0020】
第1通信部24は、主制御部200の第2通信部201と通信可能な通信装置を備える。第1通信部24は、主制御部200から、ポンプ部1の各部の制御に必要な情報、および、運転の開始または終了を指示する信号等を受信する。第1通信部24は、ポンプ部1の各部の状態を示す情報、および、情報生成部252が生成した後述の堆積物情報等の情報を第2通信部201に送信する。
【0021】
解析部25は、ターボ分子ポンプ100の排気の負荷を解析し、解析の結果を示す情報を生成する。ターボ分子ポンプ100と排気可能に接続された真空容器から排気されるガスが流れるポンプ部1の流路に、真空容器から流入する物質が堆積すると負荷が増大する。解析部25は、このような堆積物による排気の負荷を解析する。解析部25は、ターボ分子ポンプ100の堆積物による負荷についての情報を生成する。この情報を堆積物情報と呼ぶ。
【0022】
解析部25は、真空容器の内部で対象物に対するプロセスが行われた際に、堆積物情報を生成する。このプロセスは、ポンプ部1の流路に堆積し得る物質を生成する可能性のあるプロセスであれば特に限定されない。半導体または液晶の製造プロセス、特にエッチングプロセスでは、生成物がポンプ部1の流路に堆積し、排気の負荷の原因となる。従って、事前にメンテナンス等の適切な対応をとって排気能力の低下および真空ポンプの故障を防ぐため、解析部25は、このようなプロセスが行われる際に堆積物情報を生成することが好ましい。
【0023】
解析部25の算出部251は、対象物に対するプロセスにおける、回転体ユニット45の回転駆動に関する物理量の積算値を算出する。以下では、単に積算値と記載するときは、当該物理量の積算値を指す。本実施形態では、回転駆動に関する物理量として、モータMについてのモータ電流を例に説明する。
【0024】
算出部251は、プロセスごとに積算値を算出する。算出部251は、対象物ごと、または対象物に対して行われる特定のプロセスごとに積算値を算出することが好ましい。特定のプロセスとは、エッチングプロセス等の生成物が発生しやすいプロセスとすることができる。算出部251は、量産品の製造プロセスのように、各対象物に対して同一のプロセスが繰り返される場合に各プロセスについて積算値を算出することが好ましい。
【0025】
算出部251は、プロセスごとのモータ電流を示すモータ電流データを取得する。モータ電流データでは、各時間におけるモータ電流値が示されている。算出部251は、モータ電流データを参照し、プロセスごとに対応するモータ電流データを抽出する。
【0026】
図3は、本実施形態の積算値の算出方法を説明するための概念図である。図3のグラフは、ターボ分子ポンプ100が排気する真空容器の内部で対象物に対する特定プロセスPが行われている場合の、各時間(横軸)におけるモータMの電流値(縦軸)を示す。T1からT2までの期間、T2からT3までの期間、T3からT4までの期間のそれぞれに、異なる1つの対象物に対して第1~第3の要素プロセスP1,P2,P3が行われている。第1~第3の要素プロセスP1~P3を行うことにより、特定プロセスPでの異なる対象物に対するプロセスが行われる。このように、本実施形態では、算出部251は、特定のプロセスが対象物ごとに行われた場合の各プロセスにおける積算値を算出する。算出部251は、対象物に対してプロセスが行われるごとに、あるいは、特定のプロセスが行われるごとに、要素プロセスについて積算値を算出することができる。モータ制御部21が定格回転数を維持するように制御するため、プロセスに必要なガスが真空容器に導入され排気の負荷が増大すると、これを補うためにモータ電流値が増加する。
なお、図3のグラフはわかりやすく説明するための例示であり、本実施形態に係る解析方法はこれらのグラフの内容に限定されない。
【0027】
算出部251は、予め設定された閾値をモータ電流値が上回るまたは下回る時点に基づいて、特定プロセスPごとに積算の対象となるモータ電流データを抽出する。あるいは、算出部251は、モータ電流値の立ち上がりまたは立ち下がりの勾配の値等に基づいて、プロセスPごとに積算の対象となるモータ電流データを抽出する、。算出部251は、例えば、モータ電流の閾値C1をモータ電流値が上回る時点および下回る時点から、図中のD1の期間を要素プロセスP1のモータ電流値の積算の対象となる期間として抽出することができる。あるいは、モータ電流の閾値C2をモータ電流値が上回るおよび下回る時点に基づいて、D2およびD3の期間を要素プロセスP1のモータ電流値の積算の対象となる期間として抽出することができる。他の要素プロセスP2,P3についても同様である。このように、算出部251の積算の対象となる期間は、各要素プロセスPi(iは上記の例では1,2,3のいずれか)の全期間に限られず、各要素プロセスPiが行われる少なくとも一部の期間であればよく、一つのプロセスPiが行われる間であれば連続していても断続していてもよい。
なお、算出部251は、主制御部200等から各要素プロセスPiの開始または終了の時間を取得し、当該時間に基づいて、各要素プロセスPiの積算の対象となるモータ電流データを抽出してもよい。
【0028】
算出部251は、各要素プロセスPiについて、積算の対象となる期間のモータ電流値を積算して得られた積算値を記憶部23等に記憶させる。破線S1は、参考までにT3からT4までを積算の対象となる期間とし、T3からT4へモータ電流値を積算していった場合のプロセスP3についての積算値を模式的に示したものである。積算値としては、適宜ノイズまたはバックグラウンド等の寄与を除去した値を用いることができる。算出部251は、積算値を、要素プロセスPiの番号または要素プロセスPiが行われた日付等と紐づけて記憶させることができる。メンテナンス等を行い堆積物が除去された後には、要素プロセスPiの番号をリセットして1からカウントするようにすることができる。
【0029】
図2に戻って、解析部25の情報生成部252は、算出部251が算出した積算値に基づいて堆積物情報を生成する。情報生成部252は、この積算値を、ターボ分子ポンプ100の流路の堆積物の量または排気の負荷の指標として用い、堆積物情報を生成する。この意味で、積算値を堆積物指数と適宜呼ぶ。堆積物情報は、ポンプ部1の流路における堆積物の量、堆積物による負荷の程度またはメンテナンスの必要性等を示すものであればその内容は特に限定されない。以下では、情報生成部252が、積算値が予め定められた閾値を超えるか否かの判定を行い、当該判定に基づいてメンテナンスが必要か否かを含む堆積物情報を生成する例を説明する。当該閾値を、メンテナンス閾値と呼ぶ。メンテナンス閾値は記憶部23等に予め記憶されている。
【0030】
情報生成部252は、算出部251が算出した積算値がメンテナンス閾値を超える場合、メンテナンスが必要である旨の堆積物情報を生成し、積算値がメンテナンス閾値以下の場合、メンテナンスが必要でない旨の堆積物情報を生成する。このように、情報生成部252は、堆積物による負荷増大に伴う異常を防止するための措置が必要か否かを判定する判定部として機能する。換言すると、情報生成部252は、堆積物による異常の予兆を検出する予兆検出部として機能する。
なお、メンテナンス閾値を利用して上記のような判定を行う場合、メンテナンス閾値に基づく条件により判定が行われればその態様は特に限定されず、例えば「超えるか否か」ではなく「以上か否か」等にしてもよい。また、メンテナンスの必要性に限らず、任意の程度の負荷を防止するように適宜閾値を設定することができる。
【0031】
情報生成部252は、第1通信部24を介して堆積物情報を主制御部200に送信する。堆積物情報の表現方法および形式は特に限定されない。例えば、堆積物情報では、メンテナンス等の措置が必要か否かを二値で示してもよいし、堆積物の量、堆積物による負荷の程度またはメンテナンスの必要性を数値または記号等で段階的に示してもよい。あるいは、堆積物情報では、文字または文章でメンテナンスの必要性等を示してもよい。
【0032】
主制御部200は、真空ポンプシステム1000のユーザー(以下、単に「ユーザー」と呼ぶ)とのインターフェースとして機能する。
【0033】
主制御部200の第2通信部201は、ポンプ制御部2の第1通信部24と通信可能な通信装置を備える。第2通信部201は、ポンプ部1の各部の制御に必要な情報、および、運転の開始または終了を指示する信号等をポンプ制御部2に送信する。第2通信部201は、ポンプ部1の各部の状態を示す情報、および、情報生成部252が生成した後述の堆積物情報等の情報を第1通信部24から受信する。
【0034】
主制御部200の表示部202は、液晶モニタ等の表示装置を含んで構成される。表示部202は、堆積物情報等を、出力制御部205の制御により、表示装置に表示する。
【0035】
主制御部200の入力部203は、マウス、キーボード、各種ボタンまたはタッチパネル等の入力装置を備える。入力部210は、主制御部200またはポンプ制御部2の処理に必要な情報を、ユーザーから受け付ける。
【0036】
主制御部200の運転制御部204は、ポンプ制御部2に信号を送信することによりターボ分子ポンプ100の運転操作を制御する。例えば、運転制御部204は、入力部203を介した入力等に基づいて、ターボ分子ポンプ100の運転に関する条件を設定し、当該条件が満たされるようにターボ分子ポンプ100が動作を行うよう、ポンプ制御部2に信号を送信する。
なお、本実施形態に係る上述した処理を行うことができれば、ポンプ制御部2のモータ制御部21、軸受制御部22および解析部25、ならびに、主制御部200の運転制御部204および出力制御部205の物理的構成は特に限定されない。
【0037】
主制御部200の出力制御部205は、堆積物情報を表示部202に表示させたり、第2通信部201を介して送信したりすることにより、堆積物情報を出力する。情報生成部252による堆積物情報の生成および出力制御部205による堆積物情報の出力は、予め定められた時間に、若しくは予め定められた時間間隔で行ってもよいし、または、入力部203を介してユーザーからの入力があったときに行ってもよい。堆積物情報の表示の態様は特に限定されず、文字、文章、記号または図形等により堆積物情報の内容を示すことができる。ポップアップメッセージ等を用いて表示画面に警告を表示してもよい。
【0038】
図4は、本実施形態に係る真空ポンプの解析方法の流れを示すフローチャートである。この解析方法は真空ポンプシステムに配置された処理装置により行われ、精度よく、かつ、効率的に、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報が提供される。ステップS1001において、運転制御部204は、ポンプ制御部2に信号を送信し、ターボ分子ポンプ100による排気を開始させる。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。ステップS1003において、算出部251は、モータ電流データから、堆積物指数である積算値を算出する。ステップS1003が終了したら、ステップS1005が開始される。
【0039】
ステップS1005において、情報生成部252は、堆積物指数に基づいて堆積物情報を生成する。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。ステップS1007において、出力制御部205は、堆積物情報を出力する。ステップS1007が終了したら、処理が終了される。
なお、算出部252は、プロセスが行われている際にリアルタイムで堆積物指数を算出してもよいし、収集したモータ電流データからバッチ処理で堆積物指数を算出してもよい。
【0040】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態に係る真空ポンプの解析装置(ポンプ制御部2)および真空ポンプシステム1000は、対象物に対する要素プロセスPiの少なくとも一部の期間(D1、D2およびD2等)における、ポンプロータ4の回転駆動を行うモータMのモータ電流の積算値に基づいて、堆積物情報を生成する情報生成部252を備える。これにより、精度よく、かつ、効率的に、ターボ分子ポンプ100に堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0041】
(2)本実施形態に係る真空ポンプの解析装置(ポンプ制御部2)は、対象物ごと、または、対象物に対しての特定プロセスP(特定プロセス)が行われるごとに上記積算値を算出する。これにより、ポンプロータ4の回転駆動に関する物理量の変化をより正確に検出することができる。
【0042】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位等に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
【0043】
(変形例1)
上述の実施形態において、情報生成部252は、積算値の代わりに、積算値をガス導入時間で割った値を堆積物指数として、堆積物情報を生成してもよい。ここで、ガス導入時間とは、積算の対象となった期間のうち、ターボ分子ポンプ100が排気を行う真空容器にガスが導入されている時間である。ガス導入時間には、排気の負荷が増大する。ガス導入時間はモータ電流が上昇している期間に相当し、図3の要素プロセスP1ではD2とD3の和に相当する。例えば、T1からT2までモータ電流値を積算し、得られた積算値をガス導入時間D2+D3で割った値を堆積物指数とすることができる。ガス導入時間以外はモータ電流値が小さくなる傾向がある。従って、積算値をガス導入時間で割ることにより、ガス導入時間がプロセスPごとにばらついてもより正確に堆積物指数を算出することができる。積算値からノイズまたはバックグラウンド等を除去した後、ガス導入時間で割って堆積物指数としてもよい。
【0044】
本実施形態に係る真空ポンプの解析装置(ポンプ制御部2)において、情報生成部252は、積算値と、対象物に対する要素プロセスPiにおいて真空容器にガスが導入された時間(ガス導入時間)とに基づいて堆積物情報を生成する。これにより、ガス導入時間が要素プロセスPiごとにばらついても、ガス導入時間により正規化した閾値を使用できるので、種々の真空処理を行う場合でも、精度よく、かつ、効率的に、ターボ分子ポンプ100に堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
なお、ガス種によっても堆積物が生成される状況が異なるので、ガス種ごとに、各種閾値を設定することが望ましい。
【0045】
(変形例2)
上述の実施形態において、堆積物情報として、予測される将来の堆積物による負荷についての情報を含めてもよい。情報生成部252は、記憶部23等に記憶された過去の堆積物指数の変化から、将来の堆積物の量またはメンテナンス時期等を導出することができる。
【0046】
図5は、本変形例の堆積物情報の生成を説明するための概念図である。図5のグラフは、横軸にプロセスが行われた回数をとり、縦軸にプロセスごとの堆積物指数を示している。この例では現在までに400回のプロセスが行われており、グラフでは、400より少ない回数では過去に算出された堆積物指数を実線L1で示し、400より大きい回数では予測された堆積物指数を破線L2で示している。プロセスが行われる回数が増加すると、堆積物の量の増加に合わせて堆積物指数が増加する。例えば、情報生成部252は、堆積物指数の変化が所定の数式で表されるとして、当該数式の係数を過去に得られた堆積物指数から計算しモデリングすることで将来の堆積物指数の変化を予測することができる。
【0047】
(変形例3)
上述の実施形態では、算出部251は、回転駆動に関する物理量をモータ電流として積算値を算出した。しかし、回転駆動に関する物理量はこれに限定されず、回転駆動を行うモータの電力値若しくはPWM(Pulse Width Modulation)制御のデューティー比、または、回転体ユニット45の軸であるロータシャフト5の変位を示す量とすることができる。これらの値についても、上記と同様、積算値を堆積物指数として使用することができ、上述の実施形態と同様の効果を奏することができる。ロータシャフト5の変位は磁気軸受34、35、36に配置された変位センサから取得することができる。ポンプロータの変位を示す量としては、変位のばらつきを示す分散を用いてもよい。
【0048】
(変形例4)
上述の実施形態では、ポンプ制御部2に配置された情報生成部252が堆積物情報を生成する構成とした。しかし、情報生成部252は、通信等により必要なデータが得られれば任意のコンピュータに配置することができる。情報生成部252は、主制御部200に配置されていてもよく、主制御部200およびポンプ制御部2から物理的に離れた位置にあるサーバ、パーソナルコンピュータまたは携帯端末等に配置されていてもよい。同様に、真空ポンプシステム1000が用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、解析プログラムにより行われる演算処理の少なくとも一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。物理的に離れた2以上の処理装置により、互いに強調して処理が行われてもよい。
【0049】
(変形例5)
上述の実施形態では、ターボ分子ポンプ100が磁気浮上型のターボ分子ポンプとして説明した。しかし、上述の実施形態の真空ポンプの解析方法は、回転駆動が行われる真空ポンプであって、流路に堆積物が堆積する可能性のあるものであれば適用できる。例えば、上述の実施形態の解析方法は、玉軸受型のターボ分子ポンプにも適用することができる。
【0050】
(変形例6)
真空ポンプシステム1000の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述した情報生成部252の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクまたはソリッドステートドライブ(Solid State Drive; SSD)等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0051】
また、パーソナルコンピュータ(Personal Computer;PC)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROMまたはDVD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図6はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体または搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0052】
(態様)
上述した複数の例示的な実施形態またはその変形は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0053】
(第1項)一態様に係る真空ポンプの解析装置は、内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析装置であって、前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成部を備える。これにより、この解析装置は、精度よく、かつ、効率的に、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0054】
(第2項)他の一態様に係る真空ポンプの解析装置では、第1項の態様の真空ポンプの解析装置において、前記情報生成部は、前記積算値と、前記期間において前記真空容器にガスが導入された導入時間とに基づいて前記情報を生成することができる。これにより、この解析装置は、ガス導入時間がプロセスごとにばらついても、精度よく真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0055】
(第3項)他の一態様に係る真空ポンプの解析装置では、第2項の態様の真空ポンプの解析装置において、前記情報生成部は、前記積算値を、前記導入時間で割って得られた値に基づいて前記情報を生成することができる。これにより、この解析装置は、ガス導入時間がプロセスごとにばらついても、さらに精度よく真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0056】
(第4項)他の一態様に係る真空ポンプの解析装置では、第1項から第3項のいずれかの態様の真空ポンプの解析装置において、前記積算値は、前記対象物ごと、または、前記対象物に対して特定のプロセスが行われるごとに算出される。これにより、この解析装置は、条件を合わせ、さらに精度よく真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0057】
(第5項)他の一態様に係る真空ポンプの解析装置では、第2項の態様の真空ポンプの解析装置において、前記物理量は、前記回転駆動を行うモータの電流値、電力値若しくはPWM制御のデューティー比、または、前記ロータの軸の変位を示す量とすることができる。これにより、この解析装置は、これらの値の特徴を利用して、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0058】
(第6項)他の一態様に係る真空ポンプの堆積物の解析装置では、第1項から第5項までいずれかの態様の真空ポンプの堆積物の解析装置において、前記真空ポンプは、ターボ分子ポンプとすることができる。ターボ分子ポンプでは、流路に堆積物が堆積し得るため、上記態様を特に好ましく適用することができる。
【0059】
(第7項)一態様に係る真空ポンプは、第1項から第6項までいずれかの態様の真空ポンプの解析装置を備える。これにより、この真空ポンプは、精度よく、かつ、効率的に、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0060】
(第8項)一態様に係る解析プログラムは、内部で対象物に対するプロセスが行われる真空容器を排気する真空ポンプの解析処理をコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、前記解析処理は、前記プロセスの少なくとも一部の期間における、前記真空ポンプのロータの回転駆動に関する物理量の積算値に基づいて、前記真空ポンプの堆積物による負荷についての情報を生成する情報生成処理(図4のフローチャートのステップS1005に対応)を含む。これにより、このコンピュータは、精度よく、かつ、効率的に、真空ポンプに堆積した堆積物についての情報を提供することができる。
【0061】
上記では、種々の実施形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用しても良いし、組み合わせて用いても良い。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 ポンプ部
2 ポンプ制御部
3 ベース
21 モータ制御部
25 解析部
30 ポンプケーシング
31 固定翼
38 排気管
41 回転翼
43 回転数センサ
100 ターボ分子ポンプ
200 主制御部
251 算出部
252 情報生成部
1000 真空ポンプシステム
M モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6