(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】バチルス属細菌の培養液を含有する農園芸用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240501BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240501BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240501BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20240501BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20240501BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240501BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
A01G7/06 Z
A01H5/00 Z
C12N9/02
C12N15/53
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2020554926
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2019014974
(87)【国際公開番号】W WO2019194279
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-14
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02609
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02610
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長坂 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北澤 大典
(72)【発明者】
【氏名】開田 健一
(72)【発明者】
【氏名】早川 敦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 大亮
(72)【発明者】
【氏名】エリョーミナ ナタリヤ セルゲエヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ストイノヴァ ナタリヤ ヴィクトロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】エメリナ クセニア ヴィクトロヴナ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特公平06-102031(JP,B2)
【文献】特公平07-071499(JP,B2)
【文献】特表2015-504905(JP,A)
【文献】BMC Plant Biology (2014) Vol.14, No.51, pp.1-9
【文献】Frontiers in Microbiology (2015) Vol.6, Article 780, pp.1-11
【文献】Molecular Plant-Microbe Interactions (2007) Vol.20, No.6, pp.619-626
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
A01G 7/00
A01H 5/00
C12N 15/00
C12N 9/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農園芸用組成物であって、
フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼを有するバチルス属細菌の培養液を含有し、
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、野生型プレフェン酸デヒドラターゼにおいて変異を有するプレフェン酸デヒドラターゼであり、
前記変異が、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含み:
S213L、N229Y、F247Y、
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、前記変異を有する以外は、配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、プレフェン酸デヒドラターゼ活性を有するタンパク質である、組成物。
【請求項2】
前記バチルス属細菌が、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)またはバチルス・ベルエゼンシス(Bacillus velezensis)である、請求項1に記
載の組成物。
【請求項3】
前記培養液が、前記バチルス属細菌の培養液そのもの、該培養液から分離された培養上清、およびそれらの処理物から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記処理物が、濃縮、希釈、分画、滅菌、またはそれらの組み合わせに供されたものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
植物の生育促進用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
植物の生育を促進する方法であって、
フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼを有するバチルス属細菌の培養液を植物に施用することを含み、
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、野生型プレフェン酸デヒドラターゼにおいて変異を有するプレフェン酸デヒドラターゼであり、
前記変異が、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含み:
S213L、N229Y、F247Y、
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、前記変異を有する以外は、配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、プレフェン酸デヒドラターゼ活性を有するタンパク質である、方法。
【請求項7】
植物体を製造する方法であって、
フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼを有するバチルス属細菌の培養液を植物に施用して植物を栽培すること、および
植物体を回収することを含み、
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、野生型プレフェン酸デヒドラターゼにおいて変異を有するプレフェン酸デヒドラターゼであり、
前記変異が、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含み:
S213L、N229Y、F247Y、
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、前記変異を有する以外は、配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、プレフェン酸デヒドラターゼ活性を有するタンパク質である、方法。
【請求項8】
前記バチルス属細菌が、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)またはバチルス・ベルエゼンシス(Bacillus velezensis)である、請求項6また
は7に記載の方法。
【請求項9】
前記培養液が、前記バチルス属細菌の培養液そのもの、該培養液から分離された培養上清、およびそれらの処理物から選択される、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記処理物が、濃縮、希釈、分画、滅菌、またはそれらの組み合わせに供されたものである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記培養液を、土壌または培地に施用する、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記培養液を、培養直後の培養液の量に換算して、1L/ヘクタール~10000L/ヘクタールの量で施用する、請求項6~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記培養液を、培養直後の培養液の量に換算して、植物の根圏における濃度が0.01%(w/w)~150%(w/w)となるように施用する、請求項6~12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農園芸用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)は、土壌中に存在する細菌であり、植物の根圏に定着することが報告されている。また、Bacillus amyloliquefaciensとしては、FZB42株等の、植物の生育を促進する作用を示す菌株が複数単離さ
れている。FZB42株は、Bacillus amyloliquefaciensの中でも植物との相互作用に関して
最もよく研究されており(非特許文献1)、微生物資材(製品名 RhizoVital42)として販売もされている。また、FZB42株の植物生育促進作用はインドール-3-酢酸(indole-3-acetic acid;IAA)の生産と関連しており、IAA生合成遺伝子の欠損により植物
生育促進作用が低下することが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
プレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;PD)は、フェニルアラニン生合成酵素の1つである。PDは、一般的に、フェニルアラニンによるフィードバック阻害を受けることが知られている。また、PDについて、フェニルアラニンによるフィードバック阻害を低減または解除する種々の変異が知られている。フェニルアラニンによるフィードバック阻害が低減または解除されたPDは、例えば、フェニルアラニンの発酵生産に利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chowdhury SP et al., Biocontrol mechanism by root-associated Bacillus amyloliquefaciens FZB42 - a review. Front Microbiol. 2015 Jul 28;6:780.
【文献】Idris EE et al., Tryptophan-dependent production of indole-3-acetic acid (IAA) affects level of plant growth promotion by Bacillus amyloliquefaciens FZB42. Mol Plant Microbe Interact. 2007 Jun;20(6):619-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、農園芸用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;PD)を有するバチルス属細菌の培養液を植物に施用することにより植物の生育が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
農園芸用組成物であって、
フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼを有するバチルス属細菌の培養液を含有する、組成物。
[2]
前記バチルス属細菌が、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)またはバチルス・ベルエゼンシス(Bacillus velezensis)である、前記組成物。
[3]
前記培養液が、前記バチルス属細菌の培養液そのもの、該培養液から分離された培養上清、およびそれらの処理物から選択される、前記組成物。
[4]
前記処理物が、濃縮、希釈、分画、滅菌、またはそれらの組み合わせに供されたものである、前記組成物。
[5]
植物の生育促進用である、前記組成物。
[6]
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、野生型プレフェン酸デヒドラターゼにおいて、下記より選ばれる1つまたはそれ以上のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基に変異を有するプレフェン酸デヒドラターゼである、前記組成物:
S213、N229、F247。
[7]
前記変異が、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含む、前記組成物:
S213L、N229Y、F247Y。
[8]
前記野生型プレフェン酸デヒドラターゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記組成物:
(a)配列番号2または4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2または4に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質;
(c)配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質。
[9]
植物の生育を促進する方法であって、
フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼを有するバチルス属細菌の培養液を植物に施用することを含む、方法。
[10]
植物体を製造する方法であって、
フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼを有するバチルス属細菌の培養液を植物に施用して植物を栽培すること、および
植物体を回収することを含む、方法。
[11]
前記バチルス属細菌が、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)またはバチルス・ベルエゼンシス(Bacillus velezensis)である、前記方法。
[12]
前記培養液が、前記バチルス属細菌の培養液そのもの、該培養液から分離された培養上清、およびそれらの処理物から選択される、前記方法。
[13]
前記処理物が、濃縮、希釈、分画、滅菌、またはそれらの組み合わせに供されたものである、前記方法。
[14]
前記培養液を、土壌または培地に施用する、前記方法。
[15]
前記培養液を、培養直後の培養液の量に換算して、1L/ヘクタール~10000L/ヘクタールの量で施用する、前記方法。
[16]
前記培養液を、培養直後の培養液の量に換算して、植物の根圏における濃度が0.01
%(w/w)~150%(w/w)となるように施用する、前記方法。
[17]
前記プレフェン酸デヒドラターゼが、野生型プレフェン酸デヒドラターゼにおいて、下記より選ばれる1つまたはそれ以上のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基に変異を有するプレフェン酸デヒドラターゼである、前記方法:
S213、N229、F247。
[18]
前記変異が、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含む、前記方法:
S213L、N229Y、F247Y。
[19]
前記野生型プレフェン酸デヒドラターゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号2または4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号2または4に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質;
(c)配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対し90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼ(PD)を有するバチルス属細菌の培養液によるシロイヌナズナの側根数の増加効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明においては、フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のプレフェン酸デヒドラターゼ(PD)を有するバチルス属細菌の培養液を利用する。同培養液を、「有効成分」または「本発明の培養液」ともいう。同バチルス属細菌を、「本発明の細菌」ともいう。
【0011】
有効成分を利用することにより、具体的には有効成分を植物に施用することにより、植物の生育を促進することができる、すなわち、植物の生育を促進する効果が得られる。同効果を、「生育促進効果」ともいう。生育の促進としては、根部形成の促進が挙げられる。根部形成の促進としては、側根数の増大や地下部重量の増大が挙げられる。
【0012】
生育促進効果は、例えば、植物の生育を指標として、確認することができる。すなわち、有効成分の非利用時と比較して、有効成分の利用時に植物の生育が向上している場合に、生育促進効果が得られたと判断できる。
【0013】
<1>植物
植物の種類は特に制限されない。植物は、木本植物であってもよく、草本植物であってもよい。植物としては、イネ科植物(イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、エンバク、シバ等)、ナス科植物(トマト、ピーマン、ナス、ジャガイモ等)、ウリ科植物(キュウリ、メロン、カボチャ等)、マメ科植物(エンドウ、ダイズ、インゲンマメ、アルファルファ、ラッカセイ、ソラマメ等)、アブラナ科植物(ダイコン、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、ナノハナ、チンゲンサイ、シロイヌナズナ等)、バラ科植物(イチゴ、リンゴ、ナシ等)、クワ科植物(クワ等)、アオイ科植物(ワタ等)、セリ科植物(ニンジン、パセリ、セロリ等)、ユリ科植物(ネギ、タマネギ、アスパラガス等)、キク科植物(ゴ
ボウ、ヒマワリ、キク、シュンギク、ベニバナ、レタス等)、ツツジ科植物(ブルーベリー等)、ブドウ科植物(ブドウ等)、ミカン科植物(ウンシュウミカン、レモン、ユズ等)が挙げられる。植物としては、特に、ナス科植物、ウリ科植物、バラ科植物が挙げられる。植物として、さらに特には、トマト、キュウリ、イチゴが挙げられる。植物としては、1種の植物を対象としてもよく、2種またはそれ以上の植物を対象としてもよい。
【0014】
<2>有効成分およびその製造
有効成分(すなわち本発明の培養液)は、本発明の細菌を培養することにより得られる。すなわち、本発明は、本発明の細菌を培地で培養する工程を含む、有効成分の製造方法を提供する。同工程を、「培養工程」ともいう。培養工程は、具体的には、本発明の細菌を培地で培養することにより有効成分を調製する工程であってもよい。
【0015】
後述する通り、有効成分は、農園芸用組成物(例えば、植物用成長促進剤)の有効成分として利用できる。すなわち、有効成分の製造方法は、農園芸用組成物の製造方法(例えば、植物用成長促進剤の製造方法)と読み替えてもよい。
【0016】
<2-1>本発明の細菌
本発明の細菌は、フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のPDを有するバチルス属細菌である。
【0017】
なお、本発明の細菌またはそれを構築するために用いられる細菌を「宿主」という場合がある。
【0018】
<2-1-1>バチルス属細菌
バチルス属細菌としては、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バ
チルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymixa)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・ベルエゼンシス(Bacillus velezensis)が
挙げられる。バチルス属細菌としては、特に、バチルス・アミロリケファシエンスやバチルス・ベルエゼンシスが挙げられる。バチルス・サブチリスとして、具体的には、例えば、168 Marburg株(ATCC 6051)、PY79株(Plasmid, 1984, 12, 1-9)、およびそれらの派生株が挙げられる。バチルス・アミロリケファシエンスとして、具体的には、例えば、T
株(ATCC 23842)、N株(ATCC 23845)、AJ11708株(NITE BP-02609)、FZB42株(DSM 23117)、およびそれらの派生株が挙げられる。なお、FZB42株(DSM 23117)は、バチルス
・ベルエゼンシスへの再分類が提唱されている(Dunlap CA, et al., Bacillus velezensis is not a later heterotypic synonym of Bacillus amyloliquefaciens; Bacillus methylotrophicus, Bacillus amyloliquefaciens subsp plantarum and 'Bacillus oryzicola' are later heterotypic synonyms of Bacillus velezensis based on phylogenomics. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. (2016), 66, 1212-1217)。よって、本発明において、FZB42株(DSM 23117)は、説明の便宜上、バチルス・アミロリケファシエンスとして記載するが、バチルス・アミロリケファシエンスおよびバチルス・ベルエゼンシスの両方に該当するものとして扱う。すなわち、バチルス・ベルエゼンシスとして、具体的には、例えば、FZB42株(DSM 23117)やその派生株が挙げられる。
【0019】
また、バチルス属細菌としては、例えば、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、AJ11708
株(NITE BP-02609)またはFZB42株(DSM 23117)の16S rRNA遺伝子の塩基配列と99%以
上、99.5%以上、99.7%以上、99.86%以上、99.93%以上、または100%の同一性を有す
る株も挙げられる。そのような株は、例えば、バチルス・アミロリケファシエンスまたは
バチルス・ベルエゼンシスに分類されるものであってよい。
【0020】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する
登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(住所Inhoffenstrasse 7B 38124 Braunschweig GERMANY)から入手することができる。また、これら
の菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
【0021】
<2-1-2>阻害耐性型プレフェン酸デヒドラターゼ
「プレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;PD)」とは、プレフェン酸をフェニルピルビン酸に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。同活性を、「プレフェン酸デヒドラターゼ活性(PD活性)」ともいう。PDをコードする遺伝子を、「プレフェン酸デヒドラターゼ遺伝子(PD遺伝子)」ともいう。
【0022】
PDは、一般的に、フェニルアラニンによるフィードバック阻害を受けることが知られている。フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のPDを、「阻害耐性型プレフェン酸デヒドラターゼ(阻害耐性型PD)」ともいう。阻害耐性型PDをコードする遺伝子を、「阻害耐性型プレフェン酸デヒドラターゼ遺伝子(阻害耐性型PD遺伝子)」ともいう。フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性でないPDを、「野生型プレフェン酸デヒドラターゼ(野生型PD)」ともいう。野生型PDをコードする遺伝子を、「野生型プレフェン酸デヒドラターゼ遺伝子(野生型PD遺伝子)」ともいう。野生型PDは、フェニルアラニンによるフィードバック阻害を低減または解除する変異を導入することにより、阻害耐性型PDに改変することができる。同変異を、「阻害耐性変異」ともいう。また、PD遺伝子にあっては、コードするPDに阻害耐性変異をもたらす塩基配列上の変異を、「阻害耐性変異」ともいう。なお、ここでいう「野生型」とは、「阻害耐性型」と区別するための便宜上の記載であり、阻害耐性変異を有さない限り、天然に得られるものには限定されない。阻害耐性型PDには、対応する野生型PDが存在していてもよく、いなくてもよい。
【0023】
野生型PDとしては、各種生物のPDが挙げられる。Bacillus amyloliquefaciens AJ11708の野生型PD遺伝子(pheA遺伝子)の塩基配列、及び同遺伝子がコードする野生型PD(PheA)のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および2に示す。Bacillus amyloliquefaciens FZB42の野生型PD遺伝子(pheA遺伝子)の塩基配列、及び同遺伝子がコードする野生型PD(PheA)のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号3および4に示す。Escherichia coli K-12 MG1655の野生型PD遺伝子(pheA遺伝子)の塩基配列、及び同遺伝子がコードする野生型PD(PheA)のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号5および6に示す。Escherichia coliのPheAは、2機能酵素であるコリスミ酸ムターゼ-プレフェン酸デヒドラターゼ(chorismate mutase-prephenate dehydratase;CM-PD)としてpheA遺伝子にコードされている。Brevibacterium lactofermentum AJ12125(FERM P-7546)の野生型PD遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードする野生型PDのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号7および8に示す。すなわち、野生型PDは、例えば、配列番号1、3、5、または7に示す塩基配列を有する遺伝子にコードされるタンパク質であってよい。また、野生型PDは、例えば、配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、特記しない限り、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」ことを意味し、当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合も包含する。
【0024】
野生型PDは、阻害耐性変異を有さない限り、上記例示した野生型PD(例えば配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)のバリアントであってもよい。すなわち、野生型PDは、阻害耐性変異を有さない限り、その他の変異を有していてもよい。バリアントとしては、例えば、上記例示した野生型PDのホモログや人為的な改変体が挙げられる。そのようなホモログとしては、上記例示した野生型PDと構造の類似する他の微生物のPDホモログが挙げられる。他の微生物のPDホモログは、例えば、上記例示した野生型PDのアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから取得することができる。
【0025】
野生型PDは、通常、PD活性を有する。ただし、本発明において、野生型PDは、それに対応する阻害耐性型PDがPD活性を有する限り、PD活性を有していなくてもよい。
【0026】
PD活性は、酵素を基質(プレフェン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(フェニルピルビン酸)の生成を測定することにより、測定できる。産物の生成は、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMR等の化合物の検出または同定に用いられる公知の手法
により確認することができる。
【0027】
野生型PDは、阻害耐性変異を有さない限り、上記例示した野生型PDのアミノ酸配列(例えば配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10
個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0028】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異であってよい。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr
間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸で
ある場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸
性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln
、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加には、遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0029】
また、野生型PDは、阻害耐性変異を有さない限り、上記例示した野生型PDのアミノ酸配列(例えば配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列)に対して、80%以上
、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましく
は99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。尚、本明
細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を指す。
【0030】
また、野生型PDは、阻害耐性変異を有さない限り、上記例示した野生型PD遺伝子の塩基配列(例えば配列番号1、3、5、または7に示す塩基配列)から調製され得るプローブ、例えば上記例示した野生型PD遺伝子の塩基配列(例えば配列番号1、3、5、または7に示す塩基配列)の全体または一部に対する相補配列を有するプローブ、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る遺伝子、例えばDNA、によってコードされる
タンパク質であってもよい。そのようなプローブは、公知の野生型PD遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、野生型PD遺伝子の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、よ
り好ましくは95%以上、より好ましくは97%、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、
例えば、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。また、例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、
ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。なお、当業者であれば、塩濃度および温度等の諸条件を適宜設定して、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0031】
また、野生型PD遺伝子は、野生型PDをコードする限り、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、野生型PD遺伝子は、コドンの縮重による上記例示した野生型PD遺伝子のバリアントであってもよい。例えば、野生型PD遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されたものであってもよい。
【0032】
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448の類似性を検索する方法、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されているような、改良された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264のアルゴリズムが挙げられる。
【0033】
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins et al. (1988) Gene 73:237-244、Higgins et al. (1989) CABIOS 5:151-153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155-65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307-331によく記載されている。
【0034】
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア
=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸
配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、
スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパ
ク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的
としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用
できる。また、PSI-BLAST(BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
【0035】
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。アミノ酸配列間の「同一性」とは、具体的には、特記しない限り、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出される同一性を意味してよい。塩基配列間の「同一性」とは、具体的には、特記しない限り、blastnによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出される同一性を意味してよい。
【0036】
以下、阻害耐性型PDについて説明する。
【0037】
阻害耐性型PDは、PD活性を有するタンパク質であって、フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性のものである。「フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性」とは、L-フェニルアラニンの存在下でPD活性を示すことをいう。「フェニルアラニンによるフィードバック阻害に耐性」とは、具体的には、0.5mM、1mM、5mM、または10mMのL-フェニルアラニンの存在下でのPD活性が、L-フェニルアラニン非存在下でのPD活性の、50%以上、70%以上、または90%以上であることであってよい。
【0038】
阻害耐性型PDは、例えば、野生型PDのアミノ酸配列において、阻害耐性変異を有するものであってよい。
【0039】
すなわち、例えば、阻害耐性型PDは、配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列において、阻害耐性変異を有するタンパク質であってよい。また、例えば、阻害耐性型PDは、配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列において、阻害耐性変異を有し、当該阻害耐性変異以外の箇所にさらに1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有し、且つ、PD活性を有するタンパク質であってよい。
【0040】
また、言い換えると、阻害耐性型PDは、阻害耐性変異を有する以外は、野生型PDと同一のアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。例えば、阻害耐性型PDは、阻害耐性変異を有する以外は、配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。また、例えば、阻害耐性型PDは、阻害耐性変異を有する以外は、配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を含むアミノ酸配列を有し、且つ、PD活性を有
するタンパク質であってよい。また、例えば、阻害耐性型PDは、阻害耐性変異を有する以外は、配列番号2、4、6、または8に示すアミノ酸配列に対して、80%以上、好まし
くは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、且つ、PD活性を有するタンパク質であってよい。
【0041】
阻害耐性型PD遺伝子は、上記のような阻害耐性型PDをコードする限り、特に制限されない。なお、本発明において、「遺伝子」という用語は、目的のタンパク質をコードする限り、DNAに限られず、任意のポリヌクレオチドを包含してよい。すなわち、「阻害耐性型PD遺伝子」とは、阻害耐性型PDをコードする任意のポリヌクレオチドを意味してよい。阻害耐性型PD遺伝子は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、その組み合わせであってもよい。阻害耐性型PD遺伝子は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。阻害耐性型PD遺伝子は、一本鎖DNAであってもよく、一本鎖RNAであってもよい。阻害耐性型PD遺伝子は、二本鎖DNAであってもよく、二本鎖RNAであってもよく、DNA鎖とRNA鎖からなるハイブリッド鎖であってもよい。阻害耐性型PD遺伝子は、単一のポリヌクレオチド鎖中に、DNA残基とRNA残基の両方を含んでいてもよい。阻害耐性型PD遺伝子がRNAを含む場合、上記例示した塩基配列等のDNAに関する記載は、RNAに合わせて適宜読み替えてよい。阻害耐性型PD遺伝子の態様は、その利用態様等の諸条件に応じて適宜選択できる。
【0042】
以下、阻害耐性変異について説明する。
【0043】
阻害耐性変異としては、下記より選ばれる1つまたはそれ以上のアミノ酸残基における変異に相当する変異が挙げられる。
S213、N229、F247。
上記表記において、数字は配列番号2に示す野生型PDのアミノ酸配列における位置を、数字の左側の文字は配列番号2に示す野生型PDのアミノ酸配列における当該位置のアミノ酸残基(すなわち、変異前のアミノ酸残基;一文字表記)を、各々示す。すなわち、例えば、「S213」は、配列番号2に示す野生型PDのアミノ酸配列における213位のSer残基を示す。
【0044】
上記変異において、置換後のアミノ酸残基は、阻害耐性型PDが得られる限り、元のアミノ酸残基以外のいずれのアミノ酸残基であってもよい。置換後のアミノ酸残基として、具体的には、K(Lys)、R(Arg)、H(His)、A(Ala)、V(Val)、L(Leu)、I(Ile)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、P(Pro)、F(Phe)、W(Trp)、Y(Tyr)、C(Cys)、M(Met)、D(Asp)、E(Glu)、N(Asn)、Q(Gln)の内、元のアミノ酸残基以外のものが挙げられる。
【0045】
阻害耐性変異として、具体的には、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異が挙げられる。すなわち、阻害耐性変異は、下記より選ばれる1つまたはそれ以上の変異に相当する変異を含んでいてよい。阻害耐性変異は、例えば、下記より選ばれるいずれかの変異に相当する変異であってもよく、下記より選ばれる2又はそれ以上の変異の組み合わせに相当する変異であってもよい。変異の組み合わせは特に制限されない。
S213L、N229Y、F247Y。
上記表記において、数字およびその左側の文字の意味は前記と同様である。数字の右側のカッコ内の文字は、変異後のアミノ酸残基(一文字表記)を示す。すなわち、例えば、「S213L」は、配列番号2に示す野生型PDのアミノ酸配列における213位のSer残基がLeu残基に置換される変異を示す。
【0046】
任意の野生型PDのアミノ酸配列において、「配列番号2に示すアミノ酸配列における
n位のアミノ酸残基の変異に相当する変異」とは、配列番号2に示すアミノ酸配列におけ
るn位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基における変異を意味する。すなわち、例え
ば、「S213Lに相当する変異」とは、配列番号2に示す野生型PDのアミノ酸配列におけ
る213位のSer残基(S213)に相当するアミノ酸残基がLeu残基に置換される変異を示す。
なお、ここでいう「S213に相当するアミノ酸残基」は、通常Ser残基であってよいが、Ser残基でなくてもよい。すなわち、例えば、「S213Lに相当する変異」は、「S213に相当す
るアミノ酸残基」がSer残基である場合に当該Ser残基がLeu残基に置換される変異に限ら
れず、「S213に相当するアミノ酸残基」がLys、Arg、His、Ala、Val、Ile、Gly、Thr、Pro、Phe、Trp、Tyr、Cys、Met、Asp、Glu、Asn、またはGln残基である場合に当該アミノ酸残基がLeu残基に置換される変異も包含する。他の変異についても同様である。
【0047】
任意の野生型PDのアミノ酸配列において、「配列番号2に示すアミノ酸配列におけるn位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とは、対象の野生型PDのアミノ酸配列と
配列番号2のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて配列番号2に示すアミノ酸配列におけるn位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味する。すなわち、上記変異にお
いて、アミノ酸残基の位置は、必ずしも野生型PDのアミノ酸配列における絶対的な位置を示すものではなく、配列番号2に記載のアミノ酸配列に基づく相対的な位置を示すものである。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる野生型PDにおいて、n位より
もN末端側の位置で1アミノ酸残基が欠失した場合、元のn位のアミノ酸残基はN末端から数えてn-1番目のアミノ酸残基となるが、「配列番号2に示すアミノ酸配列におけるn位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とみなされる。同様に、例えば、ある微生物のPDホモログのアミノ酸配列中の100位のアミノ酸残基が、配列番号2に示すアミノ酸配列
中の101位に相当するときは、当該アミノ酸残基は、当該PDホモログにおける「配列番
号2に示すアミノ酸配列における101位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」である
。
【0048】
アラインメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して実施できる。具体的な遺伝子解析ソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASIS、ゼネティックス製のGENETYX、DDBJが公開しているClustalWなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al.,
Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987;Thompson JD et al., Nucleic
acid Reseach, 22(22), 4673-80. 1994)。
【0049】
阻害耐性変異としては、野生型PDにおいて、配列番号6の330位のセリン残基に相当するアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換する変異も挙げられる(特開平5-76352)
。他のアミノ酸残基としては、プロリン残基やアスパラギン酸残基が挙げられる。他のアミノ酸残基としては、特に、プロリン残基が挙げられる。
【0050】
阻害耐性変異としては、野生型PDにおいて、配列番号6の338位のトリプトファン残基に相当するアミノ酸残基からC末端アミノ酸残基までを、欠失させるか、1または数個のアミノ酸残基に置換する変異も挙げられる(特開平1-235597、WO87/00202)。「1または数個」とは、例えば、1個、2個、3個、4個、または5個であってよい。1または数個のアミノ酸残基としては、アルギニン-グリシンや、トリプトファン-アルギニン-セリン-プロリンが挙げられる。
【0051】
任意の野生型PDのアミノ酸配列におけるこれらの変異のアミノ酸残基の位置も、「配列番号2に示すアミノ酸配列におけるn位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」と同
様に、配列番号6とのアラインメントにより決定できる。例えば、配列番号6の330位のセリン残基は、配列番号8の235位のセリン残基に相当する。
【0052】
阻害耐性型PD遺伝子は、例えば、野生型PD遺伝子を、コードされるPDが阻害耐性変異を有するよう改変することにより取得できる。改変のもとになる野生型PD遺伝子は、例えば、野生型PD遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、取得できる。また、阻害耐性型PD遺伝子は、野生型PD遺伝子を介さずに取得することもできる。例えば、化学合成により阻害耐性型PD遺伝子を直接取得してもよい。取得した阻害耐性型PD遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して利用してよい。例えば、阻害耐性型PD遺伝子を改変することにより別の阻害耐性型PD遺伝子を取得してもよい。阻害耐性型PD遺伝子または野生型PD遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。
【0053】
遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用い
る方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。
【0054】
阻害耐性型PDは、阻害耐性型PD遺伝子から発現する。よって、本発明の細菌は、阻害耐性型PD遺伝子を有する。本発明の細菌は、具体的には、阻害耐性型PD遺伝子を発現可能に有する。本発明の細菌は、本来的に阻害耐性型PD遺伝子を有するものであってもよく、阻害耐性型PD遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。阻害耐性型PD遺伝子を有するバチルス属細菌は、上記のようなバチルス属細菌に阻害耐性型PD遺伝子を導入することにより取得できる。すなわち、本発明の細菌は、上記のようなバチルス属細菌に由来する改変株であってよい。本発明の細菌として、具体的には、例えば、バチルス・アミロリケファシエンスAJ111345株(NITE BP-02610)が挙げられる。なお、
「バチルス属細菌に阻害耐性型PD遺伝子を導入する」ことには、バチルス属細菌の染色体上の野生型PD遺伝子を阻害耐性型PD遺伝子に改変すること、例えば、バチルス属細菌の染色体上の野生型PD遺伝子に阻害耐性変異を導入すること、も包含される。
【0055】
阻害耐性型PD遺伝子を宿主に導入する手法は特に制限されない。宿主において、阻害耐性型PD遺伝子は、当該宿主で機能するプロモーターの制御下で発現可能に保持されていればよい。宿主において、阻害耐性型PD遺伝子は、プラスミドのように染色体外で自律複製するベクター上に存在していてもよく、染色体上に導入されていてもよい。宿主は、阻害耐性型PD遺伝子を1コピーのみ有していてもよく、2またはそれ以上のコピーで有していてもよい。宿主は、1種類の阻害耐性型PD遺伝子のみを有していてもよく、2またはそれ以上の種類の阻害耐性型PD遺伝子を有していてもよい。
【0056】
阻害耐性型PD遺伝子を発現させるためのプロモーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、PD遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターは、PD遺伝子の固有のプロモーターよりも強力なプロモーターであってもよい。バチルス属細菌において機能するプロモーターとしては、vegプロモーター、spacプ
ロモーター、xylプロモーター、groESLプロモーターが挙げられる。また、プロモーター
としては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得し利用してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu.
Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
【0057】
また、阻害耐性型PD遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、PD遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。
【0058】
阻害耐性型PD遺伝子は、例えば、同遺伝子を含むベクターを用いて宿主に導入することができる。阻害耐性型PD遺伝子を含むベクターを、「阻害耐性型PD遺伝子の発現ベクター」ともいう。阻害耐性型PD遺伝子の発現ベクターは、例えば、阻害耐性型PD遺伝子を含むDNA断片を宿主で機能するベクターと連結することにより、構築することができる。阻害耐性型PD遺伝子の発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同ベクターが導入された形質転換体が得られる、すなわち、同遺伝子を宿主に導入することができる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、ベクターは、形質転換体を選択するために、抗生物質耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。バチルス属細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUB110、pC194、pE194が挙げられる。発現ベクターの構築の際には、例えば、固有のプロモーター領域を含む阻害耐性型PD遺伝子をそのままベクターに組み込んでもよく、阻害耐性型PDのコード領域を上記のようなプロモーターの下流に結合してからベクターに組み込んでもよく、ベクター上にもともと備わっているプロモーターの下流に阻害耐性型PDのコード領域を組み込んでもよい。
【0059】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0060】
また、阻害耐性型PD遺伝子は、例えば、宿主の染色体上へ導入することができる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、
本発明の実施に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導
入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。染色体への
遺伝子の導入の際には、例えば、固有のプロモーター領域を含む阻害耐性型PD遺伝子をそのまま染色体に組み込んでもよく、阻害耐性型PDのコード領域を上記のようなプロモーターの下流に結合してから染色体に組み込んでもよく、染色体上にもともと存在するプロモーターの下流に阻害耐性型PDのコード領域を組み込んでもよい。
【0061】
染色体上に遺伝子が導入されたことは、例えば、同遺伝子の全部又は一部と相補的な塩基配列を有するプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、または同遺伝子の塩基配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCRによって確認できる。
【0062】
形質転換の方法は特に限定されず、一般に使用される方法、例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067-1070(1989))、電気パルス法(特開平2-207791号公報)等を使用することができる。
【0063】
また、染色体上のPD遺伝子への阻害耐性変異の導入は、例えば、自然変異または変異原処理によっても達成できる。染色体上のPD遺伝子へ阻害耐性変異が導入された株は、例えば、フェニルアラニンアナログ耐性株として取得することができる。フェニルアラニンアナログとしては、p-フルオロフェニルアラニン(f-Phe)が挙げられる。
【0064】
本発明の細菌は、野生型PD遺伝子を有していてもよく、有していなくともよい。野生型PD遺伝子を有さない宿主は、染色体上の野生型PD遺伝子を破壊することにより取得できる。例えば、染色体上の野生型PD遺伝子を阻害耐性型PD遺伝子で置換することにより、野生型PD遺伝子を有さず、且つ、阻害耐性型PD遺伝子を有する宿主を取得できる。
【0065】
<2-2>有効成分の製造
本発明の細菌を培地で培養することにより、有効成分(本発明の培養液)が得られる。
【0066】
使用する培地は、本発明の細菌が増殖できる限り、特に制限されない。培地としては、例えば、バチラス属細菌等の細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、使用する細菌の種類等の諸条件に応じて当業者が適宜設定することができる。具体的な培地組成については、例えば、バチルス属細菌等の細菌によるプリン系物質等の物質生産法に関する既報(特開2015-029474、特開2007-117078等)に記載の培地組成を参照することができる。
【0067】
炭素源は、本発明の細菌が資化できるものであれば、特に制限されない。炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源として
は、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビ
タミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
培養条件は、本発明の細菌が増殖できる限り、特に制限されない。培養は、例えば、バチラス属細菌等の細菌の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する細菌の種類等の諸条件に応じて当業者が適宜設定することができる。具体的な培養条件については、例えば、バチルス属細菌等の細菌によるプリン系物質等の物質生産法に関する既報(特開2015-029474、特開2007-117078等)に記載の培養条件を参照することができる。
【0073】
培養は、例えば、液体培地を用いて、好気条件で行うことができる。好気条件での培養は、具体的には、通気培養、振盪培養、撹拌培養、またはそれらの組み合わせで行うことができる。培地のpHは、例えば、pH3~10、好ましくはpH4.0~9.5であってよい。培養中
、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、15~43℃、好ましくは25~37℃であってよく、特に約34℃であってもよい。培養期間は、例えば、10時間以上、15時間以上、20時間以上、30時間以上、50時間以上、または70時間以上であってもよく、240時間以下、180時間以下、120時間以下、90時間以下、70時間以下、または50時
間以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培養期間は、具体的には、例えば、10時間~120時間であってもよい。また、阻害耐性型PDの発現のた
めに誘導型プロモーターを用いる場合は、適宜、阻害耐性型PDの発現を誘導することができる。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。また、培養は、前培養と本培養とに分けて実施してもよい。例えば、前培養を寒天培地等の固体培地上で行い、本培養を液体培地で行ってもよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは本発明の細菌の活性がなくなるまで、継続してもよい。
【0074】
このような条件下で本発明の細菌を培養することにより、本発明の細菌の培養液が得られる。
【0075】
培養液は、そのまま、あるいは適宜、濃縮、希釈、分画、滅菌等の処理に供してから、有効成分として用いてよい。これらの処理は、成長促進効果を損なわない限り、特に制限されない。例えば、分画する場合、成長促進効果が得られる画分を本発明において利用すればよい。分画としては、菌体の除去や目的物質の回収が挙げられる。すなわち、例えば、バチルス属細菌がアミノ酸や核酸等の目的物質の発酵生産に用いられる場合、該目的物質を培養液から適宜回収して別途利用し、残部(すなわち発酵副生物)を本発明において利用してもよい。滅菌としては、加熱滅菌や濾過滅菌が挙げられる。これらの処理は、単独で、あるいは適宜組み合わせて実施することができる。すなわち、有効成分として用いられる培養液としては、本発明の細菌の培養液そのもの、該培養液から分離した培養上清、それらの処理物が挙げられる。処理物としては、上記のような処理(例えば、濃縮、希
釈、分画、滅菌、またはそれらの組み合わせ)に供されたものが挙げられる。なお、説明の便宜上、「培養液」という用語を用いるが、有効成分には、上記のような処理の結果として液体以外の形態になったもの(例えば、濃縮乾固物)も包含される。これらの態様の培養液は、単独で、あるいは適宜組み合わせて、有効成分として用いることができる。
【0076】
<3>本発明の組成物
本発明の組成物は、有効成分(すなわち本発明の培養液)を含有する農園芸用組成物である。
【0077】
「農園芸用組成物」とは、農業や園芸等の植物の栽培に利用される組成物をいう。「農園芸用組成物」には、肥料や農薬も包含される。すなわち、本発明の組成物は、例えば、肥料または農薬として構成されてもよい。
【0078】
本発明の組成物は、植物に施用して利用することができる。本発明の組成物の使用態様は、「本発明の方法」において詳述する。本発明の組成物を利用することにより、具体的には本発明の組成物を植物に施用することにより、植物の生長を促進することができる、すなわち、成長促進効果が得られる。すなわち、本発明の組成物は、植物の成長促進用の組成物であってよい。植物の成長促進用の組成物を、「植物用成長促進剤」ともいう。
【0079】
本発明の組成物は、有効成分からなるものであってもよく、有効成分以外の成分を含有していてもよい。すなわち、有効成分は、そのまま、あるいは他の成分と組み合わせて、本発明の組成物として用いることができる。
【0080】
有効成分以外の成分は、成長促進効果を損なわない限り、特に制限されない。有効成分以外の成分としては、本発明の組成物の用途に応じて許容可能なものを利用できる。有効成分以外の成分としては、例えば、農薬用、肥料用、医薬用等の用途に通常用いられる成分が挙げられる。そのような成分として、具体的には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定化剤、希釈剤、界面活性剤、展着剤、pH調整剤、水、アルコール、ビタミン、ミネラル等の添加剤が挙げられる。有効成分以外の成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を用いてもよい。
【0081】
本発明の組成物の形態は特に制限されない。本発明の組成物は、例えば、粉末状、顆粒状、液状、ペースト状、キューブ状等のいかなる形態であってもよい。本発明の組成物は、所望の形態に適宜製剤化されていてもよい。本発明の組成物は、植物にそのまま施用できる形態で提供されてもよく、植物に施用できる形態に使用前に調製されてもよい。
【0082】
本発明の組成物における各成分(すなわち、有効成分および任意でその他の成分)の含有量や含有量比は、成長促進効果が得られる限り、特に制限されない。本発明の組成物における各成分の含有量や含有量比は、有効成分の態様、その他の成分の種類、対象植物の種類、および本発明の組成物の利用態様等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
【0083】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、0.01%(w/w)以上、0.1%(w/w)以上、1%(w/w)以上、5%(w/w)以上、または10%(w/w)以上であってもよく、100%(w/w)以下、99.9%(w/w)以下、70%(w/w)以下、50%(w/w)以下、30%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、または1%(w/w)以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。
【0084】
また、本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、元の培養液の含有量に換算して、0.01%(w/w)以上、0.1%(w/w)以上、1%(w/w)以上、5
%(w/w)以上、または10%(w/w)以上であってもよく、10000%(w/w)以下、5000%(w/w)以下、1000%(w/w)以下、500%(w/w)以下、300%(w/w)以下、200%(w/w)以下、150%(w/w)以下、100%(w/w)以下、70%(w/w)以下、50%(w/w)以下、30%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、または1%(w/w)以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。「元の培養液」とは、培養後に濃縮や希釈等の濃度変化が生じていない培養液をいい、具体的には、培養直後の培養液(すなわち、本発明の細菌の培養液そのもの)であってよい。なお、100%(w/w)を超える含有量は、培養液が濃縮されて本発明の組成物に含有されていることを意味する。すなわち、例えば、200%(w/w)という含有量は、培養液が2倍に濃縮されて本発明の組成物に含有されていることを意味する。
【0085】
また、本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、有効成分の施用量が所望の範囲となるような量であってもよい。具体的には、本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、本発明の組成物を利用して有効成分を植物に施用した際に、有効成分の施用量が所望の範囲となるような量であってよい。有効成分の施用量は、例えば、後述する範囲であってよい。
【0086】
本発明の組成物が2種またはそれ以上の成分を含有する場合、各成分は、互いに混合されて本発明の組成物に含有されていてもよく、それぞれ別個に、あるいは、任意の組み合わせで別個に、本発明の組成物に含有されていてもよい。
【0087】
<4>本発明の方法
本発明の方法は、有効成分(すなわち本発明の培養液)を植物に施用することを含む方法である。
【0088】
本発明の方法により、具体的には有効成分を植物に施用することにより、植物の生長を促進することができる、すなわち、成長促進効果が得られる。すなわち、本発明の方法は、植物の生長を促進する方法であってよい。
【0089】
有効成分は、例えば、本発明の組成物を利用して(すなわち本発明の組成物を施用することにより)、植物に施用することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、例えば、本発明の組成物を植物に施用することを含む方法であってよい。「有効成分を植物に施用すること」には、本発明の組成物を植物に施用することも包含される。すなわち、例えば、有効成分が本発明の細菌の培養液そのもの、それから分離された培養上清、またはそれらの処理物(例えば、濃縮物、希釈物、または分画物)である場合、「有効成分を植物に施用すること」には、そのような形態で有効成分を含有する本発明の組成物を植物に施用することも包含される。本発明の組成物は、例えば、そのまま、あるいは適宜、水、生理食塩水、緩衝液、アルコール等の液体で希釈、分散、または溶解し、植物に施用することができる。すなわち、本発明の組成物は、例えば、適宜、有効成分の濃度が所定の範囲となるように濃度を調整し、植物に施用することができる。本発明の組成物は、特に、液体の形態で植物に施用することができる。本発明の組成物の施用時の有効成分の濃度を「有効成分の使用濃度」ともいう。有効成分の使用濃度については、例えば、本発明の組成物における有効成分の含有量についての記載を準用できる。また、有効成分の使用濃度は、例えば、特に、元の培養液の濃度に換算して、0.01%(w/w)以上、0.1%(w/w)以上、1%(w/w)以上、5%(w/w)以上、または10%(w/w)以上であってもよく、150%(w/w)以下、100%(w/w)以下、70%(w/w)以下、50%(w/w)以下、30%(w/w)以下、10%(w/w)以下、5%(w/w)以下、または1%(w/w)以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。有効成分の使用濃度は、例えば、特に、元の培養液の濃度に換算して
、0.01%(w/w)~150%(w/w)、0.1%(w/w)~150%(w/w)、1%(w/w)~150%(w/w)、5%(w/w)~150%(w/w)、0.01%(w/w)~100%(w/w)、0.01%(w/w)~70%(w/w)、0.01%(w/w)~50%(w/w)、0.1%(w/w)~70%(w/w)、または1%(w/w)~50%(w/w)であってもよい。また、本発明の組成物は、他の成分と併用してもよい。他の成分については、本発明の組成物における有効成分以外の成分についての記載を準用できる。すなわち、本発明の組成物は、例えば、展着剤等の添加剤と併用してもよい。
【0090】
本発明の組成物の施用方法は、成長促進効果が得られる限り、特に制限されない。本発明の組成物の施用方法は、対象の植物の種類、栽培方法、および生育ステージ等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本発明の組成物は、例えば、農薬や肥料を植物に施用する通常の方法で植物に施用することができる。本発明の組成物は、例えば、植物体に施用してもよく、植物の栽培に用いる土壌や培地へ施用してもよく、それらの組み合わせに施用してもよい。植物体への施用としては、植物体への散布や塗布、植物体の浸漬が挙げられる。本発明の組成物は、植物体の全体に施用してもよく、植物体の一部に施用してもよい。本発明の組成物は、例えば、植物体の地上部全体に施用してもよい。植物体の一部としては、葉、茎、幹、根、果実が挙げられる。本発明の組成物を葉に施用する場合、本発明の組成物は、葉の表面および裏面の一方のみに施用されてもよく、両方に施用されてもよい。植物体への施用として、具体的には、例えば、葉面散布や根部浸漬が挙げられる。土壌や培地への施用としては、土壌や培地への散布、潅注、混合が挙げられる。土壌や培地への施用は、有効成分が植物の根圏へ到達するように実施すればよい。
【0091】
本発明の組成物の施用時期は、成長促進効果が得られる限り、特に制限されない。本発明の組成物の施用時期は、対象の植物の種類や栽培方法等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本発明の組成物は、例えば、植物の発芽から生育完了までの期間に施用してよい。発芽から生育完了までの期間としては、植物の根部形成がなされている期間が挙げられる。本発明の組成物は、具体的には、例えば、植物の芽生えに施用してもよい。本発明の組成物は、1回のみ施用してもよく、2回またはそれ以上施用してもよい。本発明の組成物は、間欠的に施用してもよく、連続的に施用してもよい。
【0092】
本発明の組成物の施用量は、成長促進効果が得られる限り、特に制限されない。本発明の組成物の施用量は、対象の植物の種類、栽培方法、生育ステージ、および本発明の組成物の施用方法や施用時期等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
【0093】
本発明の組成物の施用量は、例えば、元の培養液の施用量に換算して、1L/ヘクタール以上、1.5L/ヘクタール以上、3L/ヘクタール以上、5L/ヘクタール以上、10L/ヘクタール以上、100L/ヘクタール以上、200L/ヘクタール以上、500L/ヘクタール以上、1000L/ヘクタール以上、1500L/ヘクタール以上、3000L/ヘクタール以上、または5000L/ヘクタール以上であってもよく、10000L/ヘクタール以下、8000L/ヘクタール以下、7000L/ヘクタール以下、5000L/ヘクタール以下、3000L/ヘクタール以下、1500L/ヘクタール以下、1000L/ヘクタール以下、700L/ヘクタール以下、500L/ヘクタール以下、300L/ヘクタール以下、200L/ヘクタール以下、150L/ヘクタール以下、または100L/ヘクタール以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本発明の組成物の施用量は、具体的には、例えば、元の培養液の施用量に換算して、1L/ヘクタール~10000L/ヘクタール、1L/ヘクタール~1000L/ヘクタール、1L/ヘクタール~500L/ヘクタール、10L/ヘクタール~10000L/ヘクタール、100L/ヘクタール~10000L/ヘクタール、200L/ヘクタール~8000L/ヘクタール、500L/ヘクタール~5000L/ヘクタール、ま
たは1000L/ヘクタール~3000L/ヘクタールであってもよい。また、本発明の組成物の施用量は、施用面積(二次元的の要素)だけではなく、三次元的要素も考慮して設定することができる。本発明の組成物の施用量は、具体的には、例えば、元の培養液の施用量に換算して、地表面~膝高の植物では1L/ヘクタール~1500L/ヘクタールまたは1L/ヘクタール~150L/ヘクタール、膝高~ヒトの背丈の植物では1L/ヘクタール~3000L/ヘクタールまたは1.5L/ヘクタール~300L/ヘクタール、ヒトの背丈~2Mの植物では1L/ヘクタール~5000L/ヘクタールまたは3L/ヘクタール~500L/ヘクタール、2M以上の植物では1L/ヘクタール~7000L/ヘクタールまたは5L/ヘクタール~700L/ヘクタールであってもよい。上記例示したような本発明の組成物の施用量は、特に、本発明の組成物を葉面散布等の植物体への散布、または土壌や培地への散布により、植物に施用する場合の施用量であってよい。
【0094】
また、本発明の組成物の施用量は、例えば、元の培養液の施用量に換算して、植物の根圏における有効成分の濃度が上記例示したような有効成分の使用濃度となるような量であってもよい。植物の根圏における濃度としては、土壌における濃度や培地における濃度が挙げられる。
【0095】
上述したような本発明の組成物の施用態様に関する記載は、有効成分を植物に施用するその他のいずれの場合にも準用できる。すなわち、有効成分は、例えば、上記例示したような使用濃度で植物に施用されてよい。また、有効成分は、例えば、上記例示したような有効成分の施用量で植物に施用されてよい。また、有効成分は、例えば、そのまま、あるいは適宜、有効成分を含有する組成物として調製され、植物に施用されてよい。有効成分を含有する組成物については、本発明の組成物についての記載を準用できる。有効成分は、特に、液体の形態で植物に施用することができる。すなわち、有効成分は、具体的には、例えば、有効成分を含有する液体組成物として調製され、植物に施用されてよい。有効成分は、より具体的には、例えば、有効成分を上記例示したような使用濃度で含有する液体組成物として調製され、植物に施用されてよい。また、有効成分は、例えば、他の成分と併用してもよい。
【0096】
なお、本発明の方法を利用して植物を栽培することにより、植物体が得られる。よって、本発明の方法の一態様は、植物体を製造する方法であってもよい。本発明の方法の一態様は、より具体的には、有効成分(すなわち本発明の培養液)を植物に施用して植物を栽培することを含む、植物体を製造する方法であってもよい。植物の栽培は、有効成分を施用すること以外は、例えば、植物を栽培する通常の方法と同一の方法により行うことができる。植物体は適宜回収することができる。すなわち、本発明の方法は、さらに、植物体を回収することを含んでいてもよい。回収される植物体は、植物体の全体であってもよく、植物体の一部であってもよい。植物体の一部としては、葉、茎、幹、根、果実が挙げられる。
【0097】
<5>有効成分の使用
また、本発明は、上記のような用途での有効成分の使用を提供する。すなわち、本発明は、例えば、植物の生育促進のための有効成分の使用や、植物の生育促進用の組成物の製造のための有効成分の使用を提供する。また、本発明は、上記のような用途に用いるための有効成分を提供する。すなわち、本発明は、例えば、植物の生育促進に用いるための有効成分や、植物の生育促進用の組成物の製造に用いるための有効成分を提供する。
【実施例】
【0098】
以下、非限定的な実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0099】
<1>Bacillus amyloliquefaciensのp-fluoro-phenylalanine耐性株の取得
Bacillus amyloliquefaciens AJ11708株(NITE BP-02609)およびFZB42株(DSM 23117
)を親株として、それぞれ、0.4 g/L f-Phe(p-fluoro-phenylalanine)を含む寒天培地
で培養し、生育したf-Phe耐性株を単離した。これらのf-Phe耐性株の変異点を決定した結果、それぞれPheA(prephenate dehydratase;PD)に以下の変異が生じていた。AJ11708由来f-Phe耐性株1株(AG14924=VKPM B12841=AJ111345株(NITE BP-02610) PheA(F247Y))、FZB42由来f-Phe耐性株4株(AG15091=VKPM B12834-2株 PheA(S213L)、AG15092=VKPM B12834-3株 PheA(N229Y)、AG15093=VKPM B12834-4株 PheA(S213L)、AG15094=VKPM
B12834-5株 PheA(S213L))。これらのf-Phe耐性株の培養液をTLC分析またはアミノ酸分
析に供したところ、親株の培養液と比較してPheの蓄積量が増加していた。よって、これ
らのf-Phe耐性株は、PheによるPheAに対するフィードバック阻害が低減または解除されている株(すなわち阻害耐性型PDを有する株)であると判断した。また、これらのf-Phe
耐性株は、例えば、遺伝子工学的手法により上記親株のPDに上記変異を導入することによっても再現的に取得できる。
【0100】
Bacillus amyloliquefaciens AJ11708株(NITE BP-02609)は、2018年1月11日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号292-0818、日本国千葉県木更津かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託として寄託され、受託番号NITE BP-02609が付与されている。
【0101】
Bacillus amyloliquefaciens AJ111345株(NITE BP-02610)は、2018年1月11日に、独
立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号292-0818、日本国千葉県木更津かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託として寄託され、受託番号NITE BP-02610が付与されている。
【0102】
<2>培養液サンプルの調製および施用
Bacillus amyloliquefaciensの親株およびf-Phe耐性株を、それぞれ、300 mLフラスコ
に張り込んだ20 mLの培地(表1)に植菌し、34℃、150 rpmで2日間旋回培養を行った。
培養液を遠心して培養上清を回収し、0.22 μmのフィルターにてろ過滅菌し、培養液サンプルとした。
【0103】
【0104】
1%ショ糖とMS無機塩を含む無菌ゲランガム培地(0.5%ゲランガム)で4日間栽培したシ
ロイヌナズナ芽生えを、各菌株の培養液サンプルを最終濃度1%となるように添加した、1%ショ糖とMS無機塩を含む無菌ゲランガム培地(0.5%ゲランガム)に移植した。移植後7日
間培養した芽生えについて、側根数を測定した(n=6)。また、植物の生重量の増加は、例えば、各菌株の培養液サンプルを最終濃度0.01~1%となるように添加した同培地で同様に培養することで測定することができる。
【0105】
<3>結果
結果(平均値±SD)を
図1に示す。f-Phe耐性株(すなわち阻害耐性型PDを有する
株)の培養液サンプルを施用することにより、野生株の培養液サンプルを施用した場合と比較して、シロイヌナズナ芽生えの側根数の増大が認められた。すなわち、阻害耐性型PDを有するバチルス属細菌の培養液を施用することにより、植物の生育を促進できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、農園芸用組成物を提供することができる。
【0107】
<配列表の説明>
配列番号1:Bacillus amyloliquefaciens AJ11708の野生型PD遺伝子の塩基配列
配列番号2:Bacillus amyloliquefaciens AJ11708の野生型PDのアミノ酸配列
配列番号3:Bacillus amyloliquefaciens FZB42の野生型PD遺伝子の塩基配列
配列番号4:Bacillus amyloliquefaciens FZB42の野生型PDのアミノ酸配列
配列番号5:Escherichia coli K-12 MG1655の野生型PD遺伝子の塩基配列
配列番号6:Escherichia coli K-12 MG1655の野生型PDのアミノ酸配列
配列番号7:Brevibacterium lactofermentum AJ12125の野生型PD遺伝子の塩基配列
配列番号8:Brevibacterium lactofermentum AJ12125の野生型PDのアミノ酸配列