(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】サンプリングポートデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 1/20 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
G01N1/20 B
(21)【出願番号】P 2021040486
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143626(JP,A)
【文献】特開2008-058122(JP,A)
【文献】特開平07-286943(JP,A)
【文献】実開昭58-169274(JP,U)
【文献】特開昭60-060315(JP,A)
【文献】特開2017-067126(JP,A)
【文献】特開昭49-090554(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043754(WO,A1)
【文献】米国特許第06523568(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針を有するシリンジと、
雌ねじを有する雄ねじ収容室と前記雄ねじ収容室の軸方向の第1の側に位置する弾性体収容室とを有し、前記軸方向の第2の側のみが開口する凹部、前記凹部から外部まで前記軸方向の第1の側に延在し、前記針の差し込みをガイドする第1針案内孔、及び雄ねじを有する外周面部を含むナットと、
少なくとも一部が前記弾性体収容室に収容され、弾性を有する弾性体と、
前記軸方向に貫通すると共に前記針の差し込みをガイドする第2針案内孔を含む貫通孔、及び前記雌ねじに螺号する雄ねじを有する外周面部を含む雄ねじ部材と、
流体が前記ナットの前記雄ねじの外側を通過して外部に漏れることを抑制する気密構造と、
第1内部通路及び第2内部通路を有する本体と、
第1姿勢のときに前記第1内部通路と前記第2内部通路とを連通する貫通孔を有し、第2姿勢のときに前記第1内部通路と前記第2内部通路との連通を遮断する弁体とを備え、
前記本体が、前記弁体が前記第2姿勢のときに前記貫通孔に連通すると共に前記針が通過する針通過孔を有し、
前記針通過孔の少なくとも一部が、前記ナットの前記雄ねじに螺号する雌ねじを有するねじ孔になっており、
前記ナットは、大径軸部と、前記大径軸部よりも小径の小径軸部とを有し、
前記大径軸部と前記小径軸部は、環状の段部を介して繋がり、
前記ナットの前記雄ねじは、前記小径軸部の外周面に設けられて
、
前記針通過孔が、前記ねじ孔と、前記ねじ孔に環状の段部を介して連通すると共に前記ねじ孔よりも小径の第3針案内孔を含み、
前記第3針案内孔が、前記弁体が前記第2姿勢のときに前記弁体の前記貫通孔に連通すると共に前記針の差し込みをガイドする、サンプリングポートデバイス。
【請求項2】
前記気密構造が、Oリング、パッキン、ガスケット、シールワッシャ、接着剤、及びシールテープのうちの少なくとも1つを含む、請求項
1に記載のサンプリングポートデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプリングポートデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サンプリングポートデバイスとしては、特許文献1に記載されているものがある。このサンプリングポートデバイスは、本体、キャップ、及び弾性材料で構成されるセプタムを備える。本体は、ブロック状のキャップの先端側を装着するためのキャップ装着用凹部、キャップ装着用凹部に連通すると共に流体を採集するニードル(針)の先端側を収容するニードル収容孔、及びサンプルとなる流体をニードル収容孔に案内するための複数の流体案内通路を有する。また、キャップは、その中心軸に沿って延在するニードル挿通孔と、ニードル挿通孔に連通すると共に先端面に設けられるセプタム収容凹部を有する。セプタム収容凹部は、セプタムの形状に対応する板形状を有する。
【0003】
このサンプリングポートデバイスは、サンプルとなる流体を例えば次の手順で採集する。先ず、セプタム収容部にセプタムを圧入した状態で、キャップの先端側をキャップ装着用凹部に嵌め込んで装着することで、セプタムをセプタム収容部の底面とキャップ装着用凹部の底面とで挟持する。続いて、ニードルの先端側を、ニードル挿通孔に挿通した後でセプタムを貫通させ、ニードル収容孔に収容する。その後、流体案内通路を介してニードル収容孔に引き込んだサンプルとなる流体をニードルの先端側から採集するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記サンプリングポートデバイスでは、流体を引き込むための流体案内通路が本体に設けられて、流体案内通路の位置を変えることができないため、サンプルとなる流体が存在する装置等における任意の場所にサンプリングポートデバイスを取り付けにくい。また、流体がキャップと本体の間から外部に漏れることを抑制できると好ましい。
【0006】
そこで、本発明の目的は、取り付け位置の自由度を高くでき、外部への流体の漏れも抑制できるサンプリングポートデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のサンプリングポートデバイスは、針を有するシリンジと、雌ねじを有する雄ねじ収容室と前記雄ねじ収容室の軸方向の第1の側に位置する弾性体収容室とを有し、前記軸方向の第2の側のみが開口する凹部、前記凹部から外部まで前記軸方向の第1の側に延在し、前記針の差し込みをガイドする第1針案内孔、及び雄ねじを有する外周面部を含むナットと、少なくとも一部が前記弾性体収容室に収容され、弾性を有する弾性体と、前記軸方向に貫通すると共に前記針の差し込みをガイドする第2針案内孔を含む貫通孔、及び前記雌ねじに螺号する雄ねじを有する外周面部を含む雄ねじ部材と、流体が前記ナットの前記雄ねじの外側を通過して外部に漏れることを抑制する気密構造とを備える。
【0008】
なお、上記貫通孔の全てが、上記第2針案内孔でもよく、上記貫通孔の一部が、上記第2針案内孔でもよい。
【0009】
本発明によれば、ナットが外周面に雄ねじを有するので、サンプルとなる流体が存在する装置等の固定部位の所望箇所に雌ねじを設けるか又は配置して、ナットの雄ねじをその雌ねじに螺号させるだけで、ナットを当該所望箇所に固定できる。よって、サンプリングポートデバイスを、固定部位の任意箇所に固定できるので、サンプリングポートデバイスの固定の自由度を高くでき、用途の汎用性を高くできる。
【0010】
また、サンプリングポートデバイスが、流体がナットの雄ねじの外側を通過して外部に漏れることを抑制する気密構造を有するので、外周面に雄ねじを有するナットを採用しても、流体が雄ねじの外側を通過して外部に漏れることを抑制できる。よって、固定の自由度が高くて、流体の外部への漏れも抑制できるサンプリングポートデバイスを実現できる。
【0011】
また、本発明において、第1内部通路及び第2内部通路を有する本体と、第1姿勢のときに前記第1内部通路と前記第2内部通路とを連通する貫通孔を有し、第2姿勢のときに前記第1内部通路と前記第2内部通路との連通を遮断する弁体とを備え、前記本体が、前記弁体が前記第2姿勢のときに前記貫通孔に連通すると共に前記針が通過する針通過孔を有し、前記針通過孔の少なくとも一部が、前記雄ねじに螺号する雌ねじを有するねじ孔になっていてもよい。
【0012】
なお、上記針通過孔の全てが、上記ねじ孔でもよく、上記針通過孔の一部が、上記ねじ孔でもよい。
【0013】
サンプルとなる流体は、劇薬である可能性もある。そのような背景において、本構成によれば、弁体が第2姿勢となっているときに、弁体の貫通孔内に存在している流体溜りの流体を採集するようになっている。したがって、弾性体が劣化して、針をさしたときに流体が弾性体から外部に漏れたとしても、漏れた流体を、弁体の貫通孔内に存在する流体溜りの流体に制限でき、微小量に制限できる。よって、流体を採集するときの安全性を格段に高くできる。
【0014】
また、本発明において、前記ナットの前記雄ねじに螺号する雌ねじを有する貫通孔を含む壁部を有し、流体を収容する流体収容室を画定する容器を備えてもよい。
【0015】
更には、サンプリングポートデバイスが、そのような容器を備える場合に、前記ナットの前記雄ねじの一部が前記容器の雌ねじに螺号している状態で前記流体収容室内に位置する前記ナットの前記雄ねじの他の一部に前記流体収容室内で螺号する室内配置用ナットを更に備えてもよく、そのような室内配置用ナットを備えなくてもよい。
【0016】
従来、サンプルとなる流体が容器に収容されている場合において、流体を採取する箇所が、人が近づきにくい箇所にある場合がある。例えば、容器が大型のタンク等である場合において、流体を採取する開口を封鎖するタンクの蓋が高所にある場合があり、人が、高い箇所に上って蓋をあけて、流体を採取しなければならない場合があった。そのような背景において、本構成によれば、容器の所望の壁部箇所に雌ねじを有する貫通孔を形成するだけで、容器の所望の箇所から格段に容易かつ安全に流体を採集できる。
【0017】
また、本発明において、前記ナットの一部が通過すると共に雌ねじを有さない貫通孔を含む壁部を有し、流体を収容する流体収容室を画定する容器と、前記ナットの前記雄ねじに前記流体収容室内で螺号する室内配置用ナットとを備えてもよい。
【0018】
本構成によれば、容器が、ナットの雄ねじに螺号する雌ねじを有する貫通孔を含む壁部を有する場合と同様に、容器の所望の箇所から格段に容易かつ安全に流体を採集できる。
【0019】
また、本発明において、前記気密構造が、Oリング、パッキン、ガスケット、シールワッシャ、接着剤、及びシールテープのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0020】
本構成によれば、気密構造を簡単安価に構成し易い。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係るサンプリングポートデバイスによれば、取り付け位置の自由度を高くでき、外部への流体の漏れも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態のサンプリングポートデバイスの構造を説明する図である。
【
図2】変形例のバルブ本体における針通過孔付近の拡大断面図である。
【
図3】バルブ本体の針通過孔付近の拡大断面図であり、変形例の気密構造を説明するための拡大断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態のサンプリングポートデバイスの構造を説明する図である。
【
図5】本発明の第3実施形態のサンプリングポートデバイスの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施例では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、複数の図面には、模式図が含まれ、異なる図間において、各部材における、縦、横、高さ等の寸法比は、必ずしも一致しない。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のサンプリングポートデバイス1の構造を説明する図である。
図1に示すように、サンプリングポートデバイス(以下、単に、デバイスという)1は、デバイス本体50と、バルブ70とを備える。デバイス本体50は、シリンジ(注射器)5、ナット10、雄ねじ部材40、弾性体60、及びOリング90を備える。シリンジ5は、筒状部材6、針7、および保持部材8を有する。保持部材8は、筒形状を有し、その中心部に針7を保持する。保持部材8は、例えば、樹脂で構成され、インサート成形等で針7と一体にされる。針7は、保持部材8の中心軸に沿って延在して保持部材8を貫通している状態で保持部材8に保持され、針7の先端部は、保持部材8よりも軸方向の第1の側に突出する。
【0025】
針7を保持している保持部材8は、例えば、筒状部材6の内周面における軸方向の第1の側の端部に超音波溶接等で接合される。針7は、注射針と同様の構造を有し、片方の先端が尖った極細の中空管である。針7の先端部を、サンプルとなる流体が存在する流体源に配置すると、流体を針7内の貫通孔を通過させて筒状部材6内に引き込むことができ、その結果、サンプルとなる流体を採集できる。なお、シリンジには、他種多様の仕様が存在し、例えば、劣化した針を自在に取り換え可能な構造が存在する。又は、シリンジには、医療用のシリンジのように、針を人体等の皮膚等に刺し込んだうえで、その中空管の内部を介して人体等に薬液等を供給することができ、人体等から血液を採取するのに使用できるものも知られている。本発明のデバイスは、如何なる構造のシリンジを具備することもでき、例えば、それらのシリンジを具備することもできる。
【0026】
ナット10は、金属又は樹脂で構成される。ナット10は、軸方向の第2の側のみが開口する凹部11を有する。凹部11は、雌ねじ12を有する雄ねじ収容室13と、雄ねじ収容室13の軸方向の第1の側に位置する弾性体収容室14を含む。また、ナット10は、凹部11から外部まで軸方向の第1の側に延在して針7の差し込みをガイドする第1針案内孔15と、雄ねじ17を有する外周面部18を含む。
【0027】
雄ねじ部材40は、金属又は樹脂で構成される。雄ねじ部材40は、軸方向に貫通すると共に針7の差し込みをガイドする第2針案内孔41を含む貫通孔42を有する。また、雄ねじ部材40は、雌ねじ12に螺号する雄ねじ43を有する外周面部45を含む。貫通孔42は、工具挿入孔67と、工具挿入孔67に連通する第2針案内孔41を含む。工具挿入孔67は、例えば、六角孔等で構成され、雄ねじ部材40をナット10に締め付けるための工具を挿入するための孔である。
【0028】
雄ねじ部材40は、軸方向のナット10挿入側とは反対側に円筒外周面部68を含む頭部63を有する。しかし、雄ねじ部材が、軸方向のナット挿入側とは反対側に、軸方向から見たときに略六角形や二面幅を有する形状等を有する端面を有して、工具を係止できる外周面を有する頭部を含んでいる場合には、雄ねじ部材は、工具挿入孔を有する必要はない。よって、この場合、雄ねじ部材の貫通孔の全てが、第2針案内孔になっていてもよい。頭部63は、軸方向のナット10側に軸方向に略直交する方向に広がる環状の座面69を有する。座面69は、ナット10の軸方向の頭部63側の端面48と当接する。座面69を、ナット10の頭部63に当接させるようにすることで、次に説明する弾性体60を潰しすぎることを抑制している。
【0029】
弾性体60は、セプタム等の弾性を有する材料で構成される。弾性体収容室14は、弾性体60の形状に対応する形状を有する。弾性体収容室14は、例えば、円板形状を有し、弾性体60は、弾性体収容室14に対応する円板形状を有する。弾性体60の少なくとも一部を、弾性体収容室14に収容した後に、雄ねじ収容室13の雌ねじ12に雄ねじ部材40の雄ねじ43を締め込んで、弾性体60を弾性体収容室14側(軸方向の第1の側)に押圧しながら雄ねじ部材40をナット10に締め付け固定する。このようにして、弾性体60の全てを弾性体収容室14に押し込む。雄ねじ部材40をナット10に締め付け固定した状態で、雄ねじ部材40の第2針案内孔41と、ナット10の第1針案内孔15とは、略同一の直線上に延在する。第2針案内孔41が、雄ねじ部材40の中心軸に沿って延在し、第1針案内孔15が、ナット10の中心軸に沿って延在すると好ましい。
【0030】
弾性体60の厚さは、弾性体収容室14の深さ(軸方向の長さ)よりも大きいと好ましい。このようにすると、弾性体60を弾性体収容室14に押し込んで収容した状態で、弾性体60が厚さ方向に押し潰されて圧縮された状態になる。よって、流体の漏れを防ぐための弾性体60の気密性を高くでき、流体が弾性体60の外側を通過して筒状部材6外に漏れることを効果的に抑制できる。なお、弾性体60の径は、弾性体収容室14の径よりも大きくてもよいが、弾性体60を弾性体収容室14に挿入し易くするために、弾性体60の径は、弾性体収容室14の径と同一か、又は弾性体収容室14の径よりも小さいと好ましい。
【0031】
また、雄ねじ部材40をナット10に締め付け固定した状態で弾性体60の厚さ方向の一部が雄ねじ収容室13内に位置してもよい。又は、雄ねじ部材は、その雄ねじよりも先端側に突出して弾性体を押圧する突出部を有してもよく、この場合に、弾性体の厚さは、弾性体収容室の深さよりも薄くてもよい。デバイス1では、弾性体60の径が弾性体収容室14の径と同一又はそれよりも小さい場合に、弾性体60の厚さが、弾性体収容室14の深さよりも厚くても薄くてもよい。いずれの場合でも、弾性体60を厚さ方向に圧縮することで弾性体60の厚さ方向の気密性を高くでき、流体が筒状部材6外に漏れることを抑制できる。
【0032】
バルブ70は、バルブ本体75、及び弁体85を有する。バルブ本体75は、第1内部通路71と第2内部通路72を有する。また、弁体85は、径方向に沿って延びる貫通孔73を有する球体74と、回転軸79を含む。回転軸79は、球体74から
図1の紙面に垂直な方向に延在する。回転軸79は、球体74からその径方向の外方側に延在する。回転軸79の延在方向と、貫通孔73の延在方向は、略互いに直交する。回転軸79は、例えば、バルブ本体75にねじ止めされ、回転軸79の先端側には、図示しないハンドルが設けられる。
【0033】
人がハンドルを回転させることで、回転軸79を
図1に矢印Aで示す方向に回転させることができる。そして、その回転軸79の回転により、弁体85は、第1姿勢と、第2姿勢とを選択的に取り得ることができる。弁体85が第1姿勢になっているとき、第1内部通路71と第2内部通路72が貫通孔73を介して連通する。一方、
図1に示すように、弁体85が第2姿勢になっているとき、第1内部通路71と第2内部通路72の連通が弁体85によって遮断される。
【0034】
バルブ本体75は、弁体85が第2姿勢のときに貫通孔73に連通すると共に針7の差し込みをガイドする第3針案内孔76と、第3針案内孔76に連通すると共にナット10の雄ねじ17に螺号する雌ねじ77を有するねじ孔78とを有する。第3針案内孔76、及びねじ孔78は、弁体85が第2姿勢のときに貫通孔73に連通すると共に針7が通過する針通過孔87に含まれる。なお、
図1に示す例では、針通過孔87が、針7の差し込みをガイドする第3針案内孔76を含む場合について説明した。しかし、
図2、すなわち、変形例のバルブ本体375における針通過孔387付近の拡大断面図に示すように、針通過孔387の全てが、ナット10の雄ねじ17に羅号するねじ孔で構成されていてもよく、針通過孔が針案内孔を有さなくてもよい。又は、針通過孔がその軸方向の一部のみにねじ孔を有する一方、針案内孔を有さなくてもよい。
【0035】
再度、
図1を参照して、ナット10は、大径軸部21と、大径軸部21よりも小径の小径軸部22とを有する。大径軸部21と小径軸部22は、略径方向に広がる円環状の段部23を介して繋がる。段部23には、軸方向の第1の側のみに開口する環状のOリング収容溝24が設けられる。Oリング収容溝24には、Oリング90が収容されている。雄ねじ17は、小径軸部22の外周面に設けられている。バルブ本体75のねじ孔78に小径軸部22の雄ねじ17を締め込むことでナット10をバルブ本体75に取り付ける。ナット10をバルブ本体75に締め込む際に、Oリング90がOリング収容溝24の底面とバルブ本体75の外面88で挟持されて押し潰される。Oリング90は、バルブ本体75のねじ孔78と小径軸部22の雄ねじ17との間を通過した流体が外部に漏れることを抑制する。Oリング収容溝24、Oリング90、及びバルブ本体75の外面88は、気密構造95を構成する。バルブ本体75のねじ孔78の位置は、弁体85が第2姿勢になっている状態で、シリンジ5の針7を、第2針案内孔41、弾性体60、第1針案内孔15の順に最後まで差し込んだときに、針7の先端が弁体85の貫通孔73に到達する位置になっている。
【0036】
上記構成のデバイス1に関し、次のサンプリング実験を行った。詳しくは、サンプルとなる流体として水溶液を用いた。そして、弁体85が第1姿勢になっている状態で、水溶液を、第1内部通路71、貫通孔73、第2内部通路72の順に流動させた。このとき、シリンジ5の針7は、第2針案内孔41に挿入されていない。次に、弁体85を第2姿勢として、弁体85の貫通孔73内に水溶液の一部を取り込んで、貫通孔73内に水溶液の液溜りを形成する。その後、シリンジ5の針7を、第2針案内孔41に挿通した後、弾性体60に穿刺し、液溜り内の水溶液をサンプリングした。バルブ70から水溶液をサンプリングする際、液漏れは発生しなかった。
【0037】
第1実施形態によれば、ナット10が外周面に雄ねじ17を有する。したがって、サンプルとなる水溶液が存在するバルブ70の所望箇所(装置等の固定部位の所望の箇所)にねじ孔78を設けて、ナット10の雄ねじ17をそのねじ孔78に螺号させるだけで、ナット10を当該所望箇所に固定できる。よって、デバイス1を、バルブ70の任意の箇所に固定できるので、デバイス1の固定の自由度を高くでき、デバイス1の用途の汎用性を高くできる。
【0038】
また、デバイス1が、水溶液がナット10の雄ねじ17の外側を通過して外部に漏れることを抑制する気密構造95を有するので、外周面部18に雄ねじ17を有するナット10を採用しても、水溶液が雄ねじ17の外側を通過して外部に漏れることを抑制できる。よって、固定の自由度が高く、水溶液の外部への漏れも抑制できるデバイス1を実現できる。
【0039】
更には、サンプルとなる水溶液は、劇薬である可能性もある。そのような背景において、本構成によれば、弁体85が第2姿勢となっているときに、弁体85の貫通孔73内にできる液溜りから水溶液を採集するようになっている。したがって、弾性体60が劣化して、針7を弾性体60に穿刺したときに水溶液が弾性体60から外部に漏れたとしても、漏れた水溶液を、小スペースである弁体85の貫通孔73内に存在する液溜りの水溶液に制限でき、微小量に制限できる。よって、水溶液を採集するときの安全性を格段に高くできる。
【0040】
なお、第1実施形態では、弁体85が、球体74を含む場合について説明し、弁体85の姿勢を手動で変動させる場合について説明した。しかし、弁体は、球形状の部分を含まなくてもよい。弁体は、貫通孔を有して、第1姿勢のときに弁体の第1内部通路と第2内部通路とを連通する一方、第2姿勢のときに第1内部通路と第2内部通路との連通を遮断できる構成であれば如何なる形状及び構成でもよい。また、弁体の姿勢を電力で変動させてもよく、弁は、電力で弁体が移動する電磁弁や電動弁でもよい。
【0041】
また、ナット10の円環状の段部23に設けた環状のOリング収容溝24にOリング90を収容することで、流体である水溶液がナット10の雄ねじ17の外側を通過して外部に漏れることを抑制する気密構造95について説明した。しかし、
図3、すなわち、バルブ本体75における針通過孔87付近の拡大断面図であり、変形例の気密構造495を説明するための拡大断面図に示すように、Oリング90を用いた気密構造95の代わりに、又は気密構造95に加えて、ナット410の雄ねじ417の先端側にOリング91を配置することで気密構造495を構築してもよい。そして、この気密構造495で、流体である水溶液がナット410の雄ねじ417の外側を通過して外部に漏れることを抑制してもよい。
【0042】
また、気密構造95が、Oリング90を含む場合について説明した。しかし、気密構造は、Oリング、パッキン、ガスケット、シールワッシャ、接着剤、及びシールテープのうちの少なくとも1つを含んでもよく、それ以外のシール構造を含んでもよい。気密構造が、シールテープを含む場合については、後述の第3実施形態で説明する。なお、シールワッシャは、ワッシャとゴムが一体成形されたものであり、シール性のあるゴム部材である。
【0043】
また、本発明のデバイスは、上述のデバイス本体50のみで構成され、バルブ70を備えなくてもよい。デバイス本体50のナット10の雄ねじ17が、螺合で固定される雌ねじは、バルブ70に設けられなくてもよく、如何なる装置に設けられてもよいからである。又は、デバイス本体50のナット10の雄ねじ17が、螺合で固定される雌ねじは、バルブ70以外の装置が備えるナットの雌ねじであってもよいからである。デバイス本体のナットの雄ねじが固定される雌ねじを有する構造(装置)が、バルブでない場合については、次の第2実施形態と、第3実施形態で説明する。
【0044】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態のデバイス101の構造を説明する図である。なお、第2実施形態と、以下の第3実施形態では、第1実施形態と同様の作用効果及び変形例についての説明を省略する。
【0045】
図4に示すように、デバイス101は、第1実施形態で説明したデバイス本体50と、流体を収容する流体収容室125を画定する容器120と、流体収容室125内に配置される室内配置用ナット140を備える。容器120は、貫通孔155を含む壁部180を有し、貫通孔155には、雌ねじ177が設けられている。雌ねじ177には、デバイス本体50のナット10の雄ねじ17が螺合している。
【0046】
容器120の雌ねじ177にナット10の雄ねじ17を締め付けることで、Oリング収容溝24のOリング90がOリング収容溝24の底面と壁部180の外面188で挟持されて押し潰される。Oリング90は、容器120の雌ねじ177とナット10の雄ねじ17との間を通過した流体が外部に漏れることを抑制する。Oリング収容溝24、Oリング90、及び壁部180の外面188は、気密構造195を構成する。
【0047】
容器120の雌ねじ177にナット10の雄ねじ17を最後まで締め付けた状態で、ナット10の雄ねじ17の先端側が流体収容室125内に突出し、雄ねじ17の一部のみが容器120の雌ねじ177に螺号するようになっている。流体収容室125内に位置する雄ねじ17の別の一部には、室内配置用ナット140が締め付けられている。
【0048】
上記構成のデバイス101に関し、次のサンプリング実験を行った。サンプリング実験では、壁部180の厚さを2mmとし、雌ねじ177が設けられた貫通孔155の直径を、5.5mmとした。そして、その貫通孔155にナット10の雄ねじ17を締め込み、雄ねじ17の先端側に容器120の内側から室内配置用ナット140を締め付けた。その後、容器120内に水溶液を充填し、シリンジ5の針7を弾性体60に穿刺し、容器120内の水溶液をサンプリングした。容器120から水溶液をサンプリングする際、液漏れは発生しなかった。なお、水溶液が流体の一例であることは言うまでもない。また、本実施形態の各部位の寸法がサンプリング実験における部位の寸法に限定されないのも言うまでもない。
【0049】
第2実施形態によれば、容器120の所望の壁部箇所に雌ねじ177を有する貫通孔155を形成するだけで、容器120の所望の箇所から容易に流体を採集できる。また、密閉された容器120内の水溶液を、容器120を開けずにサンプリングすることができる。
【0050】
なお、容器120の雌ねじ177にナット10の雄ねじ17の一部を締め付けた状態で、流体収容室125内に位置する雄ねじ17の別の一部に、室内配置用ナット140を締め込む場合について説明した。しかし、容器の雌ねじにナットの雄ねじを最後まで締め付けた状態で、雄ねじの一部が、流体収容室内に位置したとしても、この雄ねじの一部に室内配置用ナットを締め込まなくてもよい。
【0051】
又は、容器の壁部の厚さが薄くて容器にねじ孔を形成できない場合は、容器の壁部に雌ねじを有さない貫通孔を設けてもよい。そして、ナットの一部を、その貫通孔を通過させた上で、容器において流体を収容する流体収容室流体内に位置するナットの雄ねじ部分に室内配置用ナットを締め込んでもよい。このようにしても、容器の所望の箇所から容易に流体を採集でき、更には、密閉された容器内の水溶液を、容器を開けずにサンプリングすることができる。
【0052】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態のデバイス201の構造を説明する図である。
図5に示すように、デバイス201は、デバイス本体250と、ティー継手280と、シールテープ290を備える。デバイス本体250は、第1実施形態のデバイス本体50との比較において、ナット10がナット210に変わった点のみが異なり、その他の構成は、基本的にデバイス本体50と同一である。ナット210は、Oリング収容溝を有さない替わりに、テーパ雄ねじ217を有する。
【0053】
詳しくは、ナット210の先端部の外周面は、先端に行くにしたがって先細りの形状となっているテーパ外周面220になっており、テーパ雄ねじ217は、テーパ外周面220に設けられている。シールテープ290は、テーパ雄ねじ217を全周に亘って覆うようにテーパ外周面220に全周に亘って装着されている。
【0054】
ティー継手280は、直線上に延在する第1通路260と、第1通路260の途中箇所に連通すると共に第1通路260の途中箇所から第1通路260の延在方向に略直交する方向に延在する第2通路270を有する。第2通路270における第1通路260側とは反対側の端部の内周面には、雌ねじ277が設けられている。
【0055】
テーパ雄ねじ217を雌ねじ277に締め込むことで、デバイス本体250をティー継手280に締め付け固定する。テーパ雄ねじ217を雌ねじ277に締め込むにしたがってテーパ雄ねじ217と雌ねじ277との隙間が小さくなっていく。そして、テーパ雄ねじ217を雌ねじ277にある程度締め込むと、テーパ雄ねじ217と雌ねじ277がシールテープ290を噛み込んだ状態になって、テーパ雄ねじ217を締め込むことができなくなる。この状態で、テーパ雄ねじ217と雌ねじ277の間がシールテープ290で隙間なく塞がれてシールされる。テーパ雄ねじ217、雌ねじ277、及びシールテープ290は、気密構造295を構成する。
【0056】
上記構成のデバイス201に関し、次のサンプリング実験を行った。先ず、シールテープ290を介在させた状態でテーパ雄ねじ217を雌ねじ277に締め込むことで、デバイス本体250におけるシリンジ5以外の部分を、ティー継手280に締め付け固定した。その後、シリンジ5の針7を弾性体60に穿刺し、針7の先端を、第2通路270を通過させた後、第1通路260まで到達させた。サンプルとなる流体としては、水素と窒素の混合ガスを用いた。混合ガスを第1通路260内を一方向に流動させた上で、針7を介して混合ガスを採集した。実験では、第1通路260内の混合ガスをガス漏れなくサンプリングできた。
【0057】
第3実施形態によれば、針7の先端を側方から第1通路260内に突出させるだけで混合ガスをサンプリングでき、混合ガスの流れを殆ど変えずにサンプリングできる。よって、混合ガスの圧損(流体が機械装置などを通過する際の単位時間単位流量あたりのエネルギー損失)を殆ど生じさせずに混合ガスをサンプリングできる。
【0058】
なお、本発明は、以下で説明する実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。例えば、第3実施形態では、シールテープ290を用いて気密構造295を構成した。しかし、気密構造は、流体がナットの雄ねじの外側を通過して外部に漏れることを抑制できる構造であれば如何なる構造でもよい。例えば、バルブ又は容器を備えたデバイスが、シールテープを用いた気密構造を有してもよい。また、逆に、ティー継手を備えたデバイスが、Oリングを用いた気密構造を有してもよい。また、気密構造は、第1及び第2実施形態で説明したOリング90を用いた気密構造95と、第3実施形態で説明したシールテープ290を用いた気密構造295との両方を備えてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1,101,201 デバイス、 5 シリンジ、 6 筒状部材、 7 針、 8 保持部材、 10,210,410 ナット、 11 凹部、 12 雌ねじ、 13 雄ねじ収容室、 14 弾性体収容室、 15 第1針案内孔、 17,417 ナットの雄ねじ、 18 ナットの外周面部、 21 大径軸部、 22 小径軸部、 23 段部、 24 Oリング収容溝、 40 雄ねじ部材、 41 第2針案内孔、 42 貫通孔、 43 雄ねじ、 45 外周面部、 50,250 デバイス本体、 60 弾性体、 70 バルブ、 71 第1内部通路、 72 第2内部通路、 73 貫通孔、 74 球体、 75,375 バルブ本体、 76 第3針案内孔、 77 雌ねじ、 78 ねじ孔、 79 回転軸、 85 弁体、 87,387 針通過孔、 88 外面、 90,91 Oリング、 95,195,295,495 気密構造、 120 容器、 125 流体収容室、 140 室内配置用ナット、 155 貫通孔、 177 雌ねじ、 180 壁部、 188 外面、 217 テーパ雄ねじ、 220 テーパ外周面、 260 第1通路、 270 第2通路、 277 雌ねじ、 280 ティー継手、 290 シールテープ。