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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】炭素繊維含有プレシート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20240501BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240501BHJP
   B32B 23/00 20060101ALI20240501BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20240501BHJP
【FI】
B32B5/26
B29B15/08
B32B5/02 B
B32B23/00
D04H1/4242
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021078163
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171488
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 利奈
(72)【発明者】
【氏名】中山 靖章
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206153(JP,A)
【文献】特開2019-006997(JP,A)
【文献】特開2018-012313(JP,A)
【文献】特開2018-131693(JP,A)
【文献】特開2019-093646(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/26
B29B 15/08
B32B 5/02
B32B 23/00
D04H 1/4242
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素繊維含有層の上に、微細繊維状セルロース含有層が形成されている炭素繊維含有プレシートであって、
前記炭素繊維含有層が、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含み、
前記微細繊維状セルロース含有層が最表層であり、
前記炭素繊維含有プレシート中の微細繊維状セルロースの含有量割合が0.5質量%以上であり、
前記微細繊維状セルロース含有層の中の微細繊維状セルロースの含有量割合が10質量%以上である、
炭素繊維含有プレシート。
【請求項2】
前記炭素繊維含有プレシート中の前記炭素繊維の含有量割合が30~40質量%である、請求項1に記載のプレシート。
【請求項3】
前記プレシート中の微細繊維状セルロースの含有量割合が1.0~5.0質量%である、請求項1又は2に記載のプレシート。
【請求項4】
微細繊維状セルロース含有層中の樹脂の含有量割合が、セルロース全体100質量%に対して70質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレシート。
【請求項5】
前記微細繊維状セルロース含有層の中の微細繊維状セルロースの含有量割合が10~95質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレシート。
【請求項6】
前記炭素繊維含有層が、炭素繊維層および熱可塑性樹脂層から構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレシート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプレシートの単体または積層体を成形加工して得られた炭素繊維含有成形体。
【請求項8】
自動車部品用、電気機器部品用、電子機器部品用成形物、又は精密機器部品用である、請求項7に記載の炭素繊維含有成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維含有プレシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維とマトリクス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、一般産業用部材、スポーツ・レジャー用品、航空機の機体、自動車の車体、建築材等に使
用されている。
繊維強化複合材料としては、強化繊維の長繊維のクロスに熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた繊維強化プラスチック(FRP)、熱可塑性樹脂中にチョップ状の強化繊維の短繊維を分散させた繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)が知られている。
繊維強化熱可塑性プラスチックの製造方法として、強化繊維と熱可塑性繊維を含む繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートをあらかじめ製造し、この繊維強化熱可塑性プラスチック作製用プレシートを成形する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-047244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、得られる繊維強化熱可塑性プラスチックの機械的物性が不充分であった。従って、本発明の目的は、機械的物性に優れた繊維強化熱可塑性プラスチックを好適に作製するための、プレシートを提供することにある。また、本発明の目的は、機械的物性に優れた繊維強化熱可塑性プラスチックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討の結果、強化繊維として炭素繊維を用いつつ、微細繊維状セルロースを含有する層を設け、さらに、前記微細繊維状セルロースの含有量割合を特定の範囲とすると、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、次の態様を含む。
〔1〕 少なくとも炭素繊維含有層の上に、微細繊維状セルロース含有層が形成されている炭素繊維含有プレシートであって、
前記炭素繊維含有層が、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含み、
前記微細繊維状セルロース含有層が最表層であり、
前記炭素繊維含有プレシート中の微細繊維状セルロースの含有量割合が0.5質量%以上であり、
前記微細繊維状セルロース含有層の中の微細繊維状セルロースの含有量割合が10質量%以上である、
炭素繊維含有プレシート。
〔2〕 前記炭素繊維含有プレシート中の前記炭素繊維の含有量割合が30~40質量%である、〔1〕に記載のプレシート。
〔3〕 前記プレシート中の微細繊維状セルロースの含有量割合が1.0~5.0質量%である、〔1〕又は〔2〕に記載のプレシート。
〔4〕 微細繊維状セルロース含有層中の樹脂の含有量割合が、セルロース全体100質量%に対して70質量%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のプレシート。
〔5〕 前記微細繊維状セルロース含有層の中の微細繊維状セルロースの含有量割合が10~95質量%である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のプレシート。
〔6〕 前記炭素繊維含有層が、炭素繊維層および熱可塑性樹脂層から構成される、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のプレシート。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載のプレシートの単体または積層体を成形加工して得られた炭素繊維含有成形体。
〔8〕 自動車部品用、電気機器部品用、電子機器部品用成形物、又は精密機器部品用である、〔7〕に記載の炭素繊維含有成形体。
【発明の効果】
【0006】
本実施形態のプレシートは、機械的物性に優れた繊維強化熱可塑性プラスチックを好適に提供することができる。また、本実施形態の成形体は、機械的物性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態の炭素繊維含有プレシートを製造する際の製造方法において使用するウェブ形成装置を示す模式図である。
図2図2は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図3図3は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪1.本実施形態のプレシート≫
本実施形態のプレシートは、少なくとも炭素繊維含有層の上に、微細繊維状セルロース含有層が形成されている炭素繊維含有プレシートであって、前記炭素繊維含有層が、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含み、前記微細繊維状セルロース含有層が最表層であり、前記炭素繊維含有プレシート中の微細繊維状セルロースの含有量割合が0.5質量%以上であり、前記微細繊維状セルロース含有層の中の微細繊維状セルロースの含有量割合が10質量%以上である、炭素繊維含有プレシートである。本実施形態のプレシートによれば、成形加工が施されることにより、機械的物性に優れた成形体を提供することができる。
【0009】
<1-1.プレシートの層構成>
本実施形態のプレシートの層構成として、炭素繊維含有層と微細繊維状セルロース含有層とが積層された構成が含まれる。炭素繊維含有層の層構成として、複数の炭素繊維層の積層体の少なくとも1つの表面に熱可塑性樹脂層が積層された構成が含まれる。複数の炭素繊維層の層間には熱可塑性樹脂層が配置されていてもよい。また、本実施形態の炭素繊維含有層の層構成として、複数の熱可塑性樹脂層の積層体の少なくとも1つの表面に炭素繊維層が積層された構成が含まれる。複数の熱可塑性樹脂層の層間には炭素繊維層が配置されていてもよい。
【0010】
このように、本実施形態のプレシート中の炭素繊維含有層は、1層単層又は2層以上の複数の層からなる積層体である。炭素繊維含有層に含まれる層の数や層の構成内容は、炭素繊維含有層の目標厚さに対する炭素繊維含有層を構成する各層の層厚や、所望とするプレシート及び成形体の物性等に応じて、さまざまに設定することができる。本実施形態の炭素繊維含有層に含まれる層の数は、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上であることができる。
【0011】
例えば、限定目的でなく例示目的で示す以下の炭素繊維含有層の構成は、本発明の範囲である。
(1)炭素繊維層のみからなる構成。
(2)熱可塑性樹脂層と炭素繊維層とが積層された構成。
(3)熱可塑性樹脂層と炭素繊維層と熱可塑性樹脂層とがこの順で積層された構成。
(4)熱可塑性樹脂層と炭素繊維層と炭素繊維層とがこの順で積層された構成。
(5)熱可塑性樹脂層と熱可塑性樹脂層と炭素繊維層とがこの順で積層された構成。
(6)炭素繊維層と熱可塑性樹脂層と炭素繊維層とがこの順で積層された構成。
(7)上述の(2)~(6)に示す構成の任意の組み合わせ。
(8)上述の(2)~(7)に示す構成に対し、1つまたは複数の熱可塑性樹脂層または炭素繊維層が表面または構成間に積層された構成。
【0012】
このうちの(7)の取り得る構成を、例を挙げて説明する。例えば、(7)の構成が(2)と(2)とを組み合わせた構成である場合、そのような構成としては、熱可塑性樹脂層と炭素繊維層と熱可塑性樹脂層と炭素繊維層とがこの順で積層された構成、熱可塑性樹脂層と炭素繊維層と炭素繊維層と熱可塑性樹脂層とがこの順で積層された構成、および炭素繊維層と熱可塑性樹脂層と熱可塑性樹脂層と炭素繊維層とがこの順で積層された構成、が挙げられる。このように、いくつかの構成を組み合わせる場合は、積層体を同じ向きで(裏と表とを合わせて)積層させる他、表同士、裏同士を隣接させて積層させる構成が含まれる。
【0013】
また、このうちの(8)の取り得る構成を、例を挙げて説明する。例えば、(8)の構成が(3)と(4)との組み合わせに基づく構成である場合、そのような構成としては、例えば、熱可塑性樹脂層と炭素繊維層と熱可塑性樹脂層と熱可塑性樹脂層と熱可塑性樹脂層と炭素繊維層と炭素繊維層がこの順で積層された構成などがある。これは、(3)と(4)との間に、熱可塑性樹脂層をさらに加えた例である。すなわち、例えば、1つの熱可塑性樹脂層が薄い場合に、このように複数の熱可塑性樹脂層を重ねることにより、得られるプレシートの厚みおよび強度を向上させることができる。
【0014】
1つのプレシート及び炭素繊維含有層において、複数の炭素繊維層が含まれる場合、各炭素繊維層は同一であってもよく異なっていてもよい。また、1つのプレシート及び炭素繊維含有層において、複数の熱可塑性樹脂層が含まれる場合、各熱可塑性樹脂層は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0015】
炭素繊維含有層は、最表層が熱可塑性樹脂層であることが好ましい。炭素繊維含有層の最表層が熱可塑性樹脂層である場合、後述する微細繊維状セルロース含有層との密着性に優れ、結果として、本実施形態のプレシート及び成形体の機械的物性に優れる。
【0016】
層間には、構造を補強する目的の他の層が配置されていてもよい。
【0017】
<1-2.炭素繊維含有層>
本実施形態のプレシートは、炭素繊維含有層を有する。炭素繊維含有層は、単層であってもよく、複数層であってもよい。
本実施形態の炭素繊維含有層が炭素繊維層から構成されている場合、本実施形態の炭素繊維含有層は、単数若しくは複数の炭素繊維シートを熱プレスするか、又は、単数若しくは複数の炭素繊維シートと単数若しくは複数の熱可塑性樹脂シートを熱プレスすることにより形成されることが好ましい。
本実施形態の炭素繊維含有層は、炭素繊維及び熱可塑性樹脂を含む。炭素繊維は、炭素繊維層中に含有されており、熱可塑性樹脂は、炭素繊維層中及び/又は熱可塑性樹脂層中に含有されている。
本明細書において、炭素繊維含有層と炭素繊維層は異なる意味で使用している。炭素繊維含有層は、炭素繊維層及び/又は熱可塑性樹脂層を単数又は複数含む、より上位概念化されたものである。
【0018】
<1-3.炭素繊維シート及び炭素繊維層>
炭素繊維シートは、成形体を作製するための成形加工が施されることにより、炭素繊維層となる。炭素繊維層は、炭素繊維含有層の一部又は全部となり得る。
炭素繊維シートは、炭素繊維と、必要に応じて熱可塑性樹脂とを含有するシート状物である。炭素繊維シートは、例えば、不織布であることができ、例えばエアレイド法、湿式抄紙法、スパンレース法、ニードルパンチ法などによって形成されることができる。
本実施形態の炭素繊維シートに適用可能な炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系異方性炭素繊維、ピッチ系等方性炭素繊維などが挙げられる。
【0019】
上記炭素繊維の中でも、異方性炭素繊維は、プレシートから得られる成形体の機械的物性をより高くし得るため、好適に用いられる。
【0020】
炭素繊維は、例えばチョップドファイバーの形態であることができる。特に、本実施形態の炭素繊維シートをエアレイド法により形成する場合は、炭素繊維は、例えば解繊チョップドファイバーの形態であることができる。
本実施形態の炭素繊維シートに用いられる炭素繊維の平均繊維長(Lm)は、1mm以上100mm以下であることが好ましく、2mm以上80mm以下であることがより好ましく、2mm以上60m以下であることがさらに好ましい。平均繊維長が前記範囲であると、ウェブの製造が容易であるとともに、強度の高い成形品を得ることができる。
ここで、チョップドファイバーとは、繊維集束体が切断された短繊維のことである。また、繊維集束体とは、数百本から数千本の強化繊維が、水または樹脂等の結束剤によって
集束したものである。また、解繊チョップドファイバーとは、チョップドファイバーを解
繊することによって得られた多数本のファイバーである。
【0021】
本発明に適用可能なチョップドファイバーの例として、チョップ状の炭素繊維としては、例えば、平均繊維径が4~10μm、平均繊維長が3~13mmの東邦テナックス株式会社製のものが知られている。
【0022】
(熱可塑性樹脂)
炭素繊維シートは熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂は、適当な温度に加熱すると軟化して可塑性を持ち、冷却すると固化する性質を有する。本実施形態において、熱可塑性樹脂は、成形体(繊維強化熱可塑性プラスチック)におけるマトリクス樹脂となる。
【0023】
本実施形態の炭素繊維シートは、熱可塑性樹脂を構成成分とすることが好ましい。本実施形態の炭素繊維シートに適用可能な熱可塑性樹脂は、繊維状であってもよく、粒子状であってもよい。プレシートから得られる成形品の強度がより高くなる点からは、熱可塑性樹脂は繊維状であることが好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5Tなどのポリアミド、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる。熱可塑性樹脂は2種以上を併用しても構わない。
【0025】
1つのプレシートにおける各層を構成する炭素繊維層と熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂は、同一であってもよく異なっていてもよい。プレス成形体の層間接着性という観点では同一であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂層と炭素繊維層とに異なる熱可塑性樹脂を配合することで、プレシートの各層の物性を任意に変更させることができる。これにより、例えば表面と内部の物性を異ならせるなどして、成形品に機能を付与することができる。
【0026】
熱可塑性樹脂が繊維状である場合、熱可塑性繊維の繊度は1dtex~120dtexであることが好ましく、1dtex~85dtexであることがより好ましい。また、熱可塑性繊維の平均繊維長は1~50mmであることが好ましく、1~40mmであることがより好ましく、2~30mmであることがさらに好ましい。熱可塑性繊維の繊度および平均繊維長が前記範囲であると、炭素繊維層の形成が容易であり、均一な結着力や分散状態を得やすい。
【0027】
熱可塑性樹脂が粒子状である場合、熱可塑性粒子の平均粒径は、1~1,000μmであることが好ましく、10~800μmであることがより好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂がペレット状である場合、一辺が0.1~5mmであることが好ましく、0.5~5mmであることがより好ましい。
【0029】
(熱融着性樹脂)
炭素繊維シートは、熱融着性樹脂を含んでいてもよい。例えば、水を一切使用せずにエアレイド法により炭素繊維シートを形成する場合、すなわち、いわゆるTDS法(Totally Dry System)により炭素繊維シートを作製する場合は、炭素繊維シートは、熱により構成成分同士を結着させるサーマルボンディングのために、熱融着性樹脂を含むことが好ましい。TDS法では、水を一切使用しないため、構成成分の機能を損なわない状態で炭素繊維シートを形成することができる。
必要に応じて配合されていてもよい本発明における熱融着性樹脂は、その融点とプレシート作製工程における加熱処理温度との関係によって、プレシート作製時に溶融して炭素繊維と熱可塑性樹脂とを結着させることができるバインダ樹脂である。また、熱融着性樹脂は、成形体(繊維強化熱可塑性プラスチック)におけるマトリクス樹脂としても機能し得る。このように、本実施形態において、熱可塑性樹脂および熱融着性樹脂はいずれも、繊維強化熱可塑性プラスチックにおけるマトリクス樹脂になり得るが、以下、本明細書中において単に「マトリクス樹脂」というときは、熱可塑性樹脂を指すものとする。
【0030】
熱融着性樹脂は繊維状であってもよいし、粒子状であってもよい。また、プレシートを湿式法で製造する場合、熱融着性樹脂は粒子が液体に分散している形態であってもよい。
【0031】
熱融着性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン、低融点ポリエチレンテレフタレート、低融点ポリアミド、低融点ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、アクリル、ウレタン、スチレンブタジエン共重合体、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。熱融着性樹脂は2種類以上を併用しても構わない。
【0032】
熱融着性樹脂が繊維状である場合、熱融着性繊維の繊度は1dtex~120dtexであることが好ましく、1dtex~85dtexであることがより好ましい。また、熱融着性繊維の平均繊維長は1~100mmであることが好ましく、1~60mmであることがより好ましく、2~30mmであることがさらに好ましい。熱融着性繊維の繊度および平均繊維長が前記範囲であると、炭素繊維層の形成が容易であり、均一な結着力や分散状態を得やすい。
【0033】
熱融着性樹脂が粒子状である場合、熱融着性粒子の平均粒径は、10~1,000μmであることが好ましく、20~800μmであることがより好ましい。水溶液に分散している場合、熱融着性粒子の平均粒径は、10nm~100μmであることが好ましい。
【0034】
(熱融着性樹脂および熱可塑性樹脂の複合体)
上述の熱可塑性樹脂および熱融着性樹脂は、複合化されて複合体を形成していてもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂と熱融着性樹脂との複合体としては、熱可塑性樹脂からなる芯部分と熱融着性樹脂からなる鞘部分とを有する芯鞘繊維、長手方向に垂直な断面において片側の半分が熱融着性樹脂からなり、もう一方の片側の半分が熱可塑性樹脂からなるサイドバイサイド繊維、熱可塑性樹脂からなるコアと熱融着性樹脂からなるシェルとを有するコアシェル粒子等が挙げられる。これらの中でも、異種の樹脂を容易に複合化できることから、芯鞘繊維が好適に用いられる。
【0036】
芯鞘繊維としては、例えば、ポリプロピレン繊維(融点160℃)からなる芯部分と、該芯部分の外周に形成された、ポリエチレン(融点130℃)からなる鞘部分とを備えたPP/PE複合芯鞘繊維が挙げられる。
【0037】
また、他の芯鞘繊維としては、例えば、PET/低融点PET複合芯鞘繊維、高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレン複合芯鞘繊維、ポリエチレン/低融点PET複合芯鞘繊維、ポリアミド/低融点ポリアミド複合芯鞘繊維、ポリ乳酸/低融点ポリ乳酸複合芯鞘繊維、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート複合芯鞘繊維等が挙げられる。
【0038】
これらの複合体は、外部に露出する熱融着性樹脂の存在により、熱融着性を提供することができ、バインダとして機能することができる。したがって、これらの複合体は、本実施形態において熱融着性樹脂として配合されることができる。また、これらの複合体は、熱可塑性樹脂を含むことから、これを含んで作製されるプレシートから得られる成形体に強度を付与することができる。
【0039】
本実施形態では、炭素繊維シート中に、炭素繊維及び芯鞘繊維を組み合わせて使用することが好ましい。この場合、炭素繊維層としては、炭素繊維と、熱融着性樹脂および熱可塑性樹脂の複合体が含まれることとなる。炭素繊維と芯鞘繊維の含有量質量比率は、50:50~90:10が好ましく、60:40~80:20がより好ましい。
【0040】
本実施形態における炭素繊維シートの坪量は、50~300g/mが好ましく、150~200g/mがより好ましい。
【0041】
(エアレイド法を用いたプレシートの製造方法)
次に、本実施形態の炭素繊維シートにおいて、好適なエアレイド法を用いた製造方法について詳細に説明する。炭素繊維シートの好適な製造方法としては、解繊工程と混合工程とウェブ形成工程とを有する。各工程について、以下に説明する。
【0042】
(解繊工程)
解繊工程は、チョップドファイバーを空気流および/または機械的シェアによって解繊して、解繊チョップドファイバーを得る工程である。
【0043】
チョップドファイバーの空気流による解繊方法では、ブロアー等によって空気流を形成し、その空気流にチョップドファイバーを供給し、空気流の攪拌効果によってチョップドファイバーを解繊する。空気流による解繊によれば、炭素繊維が破断して短くなることを防止できる。特に、炭素繊維は、脆くて機械的な剪断力によって破断しやすいところ、空気流によって解繊することにより、破断を防止できる。
【0044】
解繊方法としては、旋回する空気流で解繊することが好ましい。旋回する空気流を利用した解繊方法によれば、チョップドファイバーを充分に解繊することができる。そのため、エアレイド法によってエアレイドウェブを形成する際に、解繊チョップドファイバーの分散性をより高めることができる。
【0045】
旋回する空気流を利用した解繊方法としては、例えば、ブロアーの中にチョップドファイバーを投入してブロアーにて解繊する方法が挙げられる。また、ブロアーによって円筒容器内に、周方向に沿うように空気を送って旋回流を形成し、その旋回流の中にチョップドファイバーを供給し、攪拌して解繊する方法が挙げられる。空気流と機械的シェアを併用する方法としては、ブロアー内に邪魔板を設けることでチョップドファイバーが邪魔板にあたり、空気流および機械的シェアによって解繊される方法が挙げられる。機械的シェアで解繊する方法としては、繊維束をロールで圧縮し広げる方法や針のついたローラーでカーディングする方法などが挙げられる。
【0046】
空気流の流速は、チョップドファイバーの量に応じて適宜選択されるが、通常は、10~150m/秒の範囲内である。
【0047】
(混合工程)
混合工程は、解繊チョップドファイバーと、熱融着性樹脂や熱可塑性樹脂など、を混合してウェブ原料を得る工程である。必要に応じて添加する難燃剤等の助剤は、この混合工程において添加することができる。
【0048】
混合に際しては、解繊チョップドファイバーの分散性を向上させるために、解繊チョップドファイバーと熱可塑性樹脂と熱融着性樹脂とを攪拌することが好ましい。ただし、解繊チョップドファイバーの破断を防ぐために、機械的剪断力を利用した攪拌ではなく、空気流を用いた攪拌を適用することが好ましい。
【0049】
混合工程は、解繊工程の後でもよいし、解繊工程と同時でもよい。混合工程を解繊工程と同時とする場合には、解繊工程での空気流を利用して、解繊チョップドファイバーと熱融着性樹脂等を混合する。
【0050】
(ウェブ形成工程)
ウェブ形成工程は、ウェブ原料からウェブを形成する工程である。本実施形態ではエアレイド法を採用してエアレイドウェブを得る。ここで、エアレイド法とは、空気流を利用して繊維を3次元的にランダムに堆積させてウェブを形成する方法である。
【0051】
本実施形態におけるウェブ形成工程では、例えば、図1に示すウェブ形成装置1を用いる。このウェブ形成装置1は、コンベア10と透気性無端ベルト20と繊維混合物供給手段30と第1のキャリアシート供給手段40と第2のキャリアシート供給手段50とサクションボックス60と備える。
【0052】
ここで、コンベア10は、複数のローラー11によって構成されている。透気性無端ベルト20は、コンベア10に装着されて回転するようになっている。繊維混合物供給手段30は、透気性無端ベルト20に繊維混合物を空気流と共に供給するものである。第1のキャリアシート供給手段40は、透気性無端ベルト20に向けて第1のキャリアシート41を供給するものである。第2のキャリアシート供給手段50は、透気性無端ベルト20を通過した第1のキャリアシート41に向けて第2のキャリアシート51を供給するものである。サクションボックス60は、透気性無端ベルト20をその内側から吸引するものである。
【0053】
ウェブ形成装置1においては、繊維混合物供給手段30は透気性無端ベルト20の上方に設置され、第1のキャリアシート供給手段40は透気性無端ベルト20よりも上流に設置され、第2のキャリアシート供給手段50は透気性無端ベルト20よりも下流に設置されている。
【0054】
上記ウェブ形成装置1を用いたウェブ形成工程では、各ローラー11を同方向に回転させることによりコンベア10を駆動させて透気性無端ベルト20を回転させる。また、透気性無端ベルト20の上に接触するように、第1のキャリアシート41を第1のキャリアシート供給手段40から繰り出す。
【0055】
次いで、サクションボックス60によって透気性無端ベルト20を吸引しながら、繊維混合物供給手段30から空気流と共に繊維混合物を下降させ、透気性無端ベルト20上の第1のキャリアシート41上に繊維混合物を落下、堆積させる。これにより、エアレイドウェブAを形成する。
【0056】
次いで、エアレイドウェブAの上に、第2のキャリアシート51を第2のキャリアシート供給手段50より供給して、エアレイドウェブ含有積層シートを得る。
【0057】
第1のキャリアシート41および第2のキャリアシート51は、エアレイド法においてエアレイドウェブを搬送する搬送手段としての機能を有する。
【0058】
(結着工程)
結着工程をさらに含む場合、結着方式は、ケミカルボンド方式、サーマルボンド方式、マルチボンド方式より選択される。いずれの方式を選択しても構わないが、強化繊維との結着性という観点からサーマルボンド方式を使用する場合が多い。サーマルボンド方式による結着工程は、エアレイドウェブを加熱処理して、解繊チョップドファイバー同士を熱融着性樹脂によって結着させる工程である。
【0059】
エアレイドウェブの加熱処理としては、熱風処理、赤外線照射処理が挙げられ、装置が
低コストである点では、熱風処理が好ましい。
【0060】
熱風処理としては、エアレイドウェブを、周面に通気性を有する回転ドラムを備えたス
ルーエアードライヤに接触させて熱処理する方法(熱風循環ロータリードラム方式)や、
エアレイドウェブを、ボックスタイプドライヤに通し、エアレイドウェブに熱風を通過さ
せることで熱処理する方法(熱風循環コンベアオーブン方式)などが挙げられる。
【0061】
<1-4.熱可塑性樹脂シート及び熱可塑性樹脂層>
熱可塑性シートは、成形体を作製するための成形加工が施されることにより、熱可塑性樹脂層となる。熱可塑性樹脂層は、炭素繊維含有層の一部となり得る。
【0062】
熱可塑性樹脂シートは、不織布であることができ、例えばエアレイド法、湿式抄紙法、スパンレース法、ニードルパンチ法、などによって形成されることができる。具体的には、例えば、強化繊維を、カード機にてシート状にし次いでニードルパンチにより絡めることによって、熱可塑性樹脂シートを形成してもよい。熱可塑性樹脂シートは、スパンボンド不織布であることが好ましい。
【0063】
熱可塑性樹脂シートは、炭素繊維シートをエアレイド法により形成する場合のエアレイドウェブのキャリアシートとされてもよい。この方法によれば、1つの工程(ワンパス)で、プレシートを作製し得る。また、炭素繊維シートと熱可塑性樹脂シートとの間の層間強度が高いプレシート(及び炭素繊維含有層)を作製することができる。
加熱処理は、熱融着性樹脂の融点以上の温度で行うことにより、炭素繊維含有層中の各層の層間接着および層内における構成成分同士の結着を促進させ得る。
【0064】
本実施形態の熱可塑性樹脂シートに繊維が用いられる場合、その繊維の平均繊維長(Ls)は、5mm以上100mm以下であることが好ましく、5mm以上80mm以下であることがより好ましく、5mm以上60m以下であることがさらに好ましい。平均繊維長が前記範囲であると、ウェブの製造が容易であるとともに、強度の高い成形品を得ることができる。
【0065】
本実施形態の熱可塑性樹脂シートは、熱可塑性樹脂をプレシートの各層に対して均一に分布させることで、プレシートの厚さ方向における強度を均一化することが可能となる。
【0066】
本実施形態の熱可塑性樹脂シートに適用可能な熱可塑性樹脂は、繊維状であってもよく、粒子状であってもよく、ペレット状であってもよい。プレシートから得られる成形品の強度がより高くなる点からは、熱可塑性樹脂は繊維状であることが好ましい。
【0067】
熱可塑性樹脂シートの熱可塑性樹脂としては、上述された、本実施形態の炭素繊維シートで使用できる熱可塑性樹脂と同様の樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂シートの熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。熱可塑性樹脂シートとしては、ポリオレフィン製不織布が好ましく、ポリプロピレン製不織布がより好ましく、ポリプロピレン製スパンボンド不織布がさらに好ましい。ポリオレフィン製不織布は市販品を使用することができる。
【0068】
本実施形態における熱可塑性樹脂シートの坪量は、10~100g/mが好ましく、20~50g/mがより好ましい。
【0069】
<1-5.微細繊維状セルロースシート及び微細繊維状セルロース含有層>
本実施形態のプレシートは、微細繊維状セルロース含有層を有する。微細繊維状セルロース含有層は、単層であってもよく、複数層であってもよい。
本実施形態の微細繊維状セルロース含有層は、少なくとも本実施形態のプレシートの最表層として存在する。なお、本実施形態の微細繊維状セルロース含有層は、本実施形態のプレシートの最表層だけでなく、本実施形態のプレシートの最裏層にも存在していてもよい。本実施形態のプレシートは、最表層および最裏層のいずれも微細繊維状セルロース含有層であることが好ましい。なお、最表層および最裏層の微細繊維状セルロース含有層は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0070】
本実施形態の微細繊維状セルロース含有層は、微細繊維状セルロースシートを熱プレスすることにより形成されることが好ましい。以下、前記微細繊維状セルロースシートを、単に本実施形態のシートともいう。
【0071】
本実施形態のシートは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むシートであることが好ましい。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0072】
本実施形態のシートは、樹脂との密着性が良好である。具体的には、本実施形態のシート上に樹脂層を積層し、熱プレス(例えば、プレス圧0.5MPa以上)した後の、樹脂層とシートの密着性が良好であり、層間に剥離が生じず、積層構造が維持される。
【0073】
本実施形態のシートの坪量は、100/m以上が好ましく、120g/m以上がより好ましく、150g/m以上がさらに好ましい。また、本実施形態のシートの坪量は、300/m以下が好ましく、250g/m以下がより好ましく、200g/m以下がさらに好ましい。シートの坪量は、たとえばJIS P 8124:2011に準拠し、算出することができる。なお、本実施形態のシートの坪量は、成形体に求められる性能などに応じて、適宜調整することが可能であり、薄物成形体又は薄物シートが求められる用途においては、本実施形態のシートの坪量は、100/m未満であってもよく、40g/m以下であってもよい。
【0074】
本実施形態のシートの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。シートの厚みは、たとえばJIS P 8118:2014に準拠し、測定する。
【0075】
本実施形態のシートの密度は、0.1g/cm以上であることが好ましく、0.2g/cm以上であることがより好ましく、0.3g/cm以上であることがさらに好ましく、0.50g/cm以上であることが一層好ましく、0.60g/cm以上であることがより一層好ましく、0.65g/cm以上であることが特に好ましい。また、シートの密度の上限値は、特に限定されないが、たとえば5.0g/cm以下であることが好ましい。ここで、シートの密度は、JIS P 8124:2011に準拠して坪量を測定し、JIS P 8118:2014に準拠してシートの厚みを測定し、これらの値から算出したものである。なお、シートの密度は、成形体又はシートに求められる性能などに応じて、たとえばカレンダー処理等を施すことにより適宜調整してもよい。
【0076】
本実施形態のシートは、単層シートであってもよく、複数層シートであってもよい。本実施形態のシートは、単層シートであることが好ましい。具体的には、単層のシート内に、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方がランダムに存在していることが好ましい。なお、本実施形態のシートは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれている単層シートを2層以上積層した複層シートであってもよい。例えば、本実施形態のシートは、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第1層と、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第2層とを有する複層シートであってもよい。この場合、第1層と第2層は同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。また、第1層と第2層の厚みや坪量はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。すなわち、本実施形態のシートは、単層シートが2層以上積層した複層シート(例えば2層シート)に関するもの、ともいえる。
【0077】
(第1のセルロース繊維)
本実施形態のシートは第1のセルロース繊維を含まなくてもよいが、本実施形態のシートは第1のセルロース繊維を含むことが好ましい。ここで、第1のセルロース繊維は、繊維幅が10μm以上のセルロース繊維であることが好ましい。第1のセルロース繊維の繊維幅は10μm以上であればよいが、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、25μm以上であることがさらに好ましい。なお、第1のセルロース繊維の繊維幅は100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましく、40μm以下であることが特に好ましい。本明細書では、第1のセルロース繊維を粗大セルロース繊維又はパルプともいう。
【0078】
以下、本実施形態のシートが第1のセルロースを含む場合の、第1のセルロースに関する詳細を記載する。
【0079】
第1のセルロース繊維の繊維幅は、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS-200形)を用いて測定することができる。ここで、第1のセルロース繊維の繊維幅とは、セルロース繊維の幹繊維における繊維幅である。たとえば、セルロース繊維がフィブリル化セルロース繊維である場合には、フィブリル化して分枝化した繊維の繊維幅ではなく、主軸を構成している幹繊維の繊維幅を第1のセルロース繊維の繊維幅という。
【0080】
第1のセルロース繊維の繊維原料としては、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプおよび脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。第1のセルロース繊維として上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0081】
第1のセルロース繊維は、イオン性置換基を有することが好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。アニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。第1のセルロース繊維が上述したようなイオン性置換基を有することにより、例えば、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することを抑制することができる。
【0082】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。リンオキソ酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-POで表される基である。リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)としてセルロース繊維に含まれていてもよい。また、リンオキソ酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
【0083】
【化1】

式(1)中、a、bおよびnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,αおよびα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αおよびα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、nは1であることが好ましい。
【0084】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0085】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0086】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよく、この場合、有機アンモニウムイオンであることが特に好ましい。
【0087】
第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.4mmol/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.7mmol/g以上であることが一層好ましく、1.0mmol/g以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下
であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、たとえばアニオン性基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの第1のセルロース繊維の質量1gあたりの置換基量を示す。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することをより効果的に抑制することができる。
【0088】
第1のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた第1のセルロース繊維を含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0089】
図2は、リンオキソ酸基を有するセルロース繊維含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロース繊維に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
【0090】
まず、セルロース繊維を含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、第1のセルロース繊維については、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施する。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロース繊維の第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロース繊維の第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるセルロース繊維の総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
【0091】
なお、図2において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0092】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のセルロース繊維の質量を示すことから、酸型のセルロース繊維が有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのセルロース繊維の質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるセルロース繊維が有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
【0093】
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
・A[mmol/g]:セルロース繊維が有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
・W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)。
【0094】
図3は、イオン性置換基としてカルボキシ基を有するセルロース繊維を含有する分散液に対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。セルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
【0095】
まず、セルロース繊維を含有する分散液を強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、第1のセルロース繊維については、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施する。
【0096】
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図3の上側部に示すような滴定曲線を得る。図3の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図3の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図3における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象のセルロース繊維を含有する分散液中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
【0097】
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のセルロース繊維の質量であることから、酸型のセルロース繊維が有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、カルボキシ基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのセルロース繊維の質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるセルロース繊維が有するカルボキシ基量(以降、カルボキシ基量(C型))を求めることができる。すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W-1)×
(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0098】
滴定法によるイオン性置換基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いイオン性置換基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、セルロース繊維含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0099】
なお、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維が混在している場合には、遠心分離法により分離回収のうえ、前述した方法にてリンオキソ酸基導入量を測定する。遠心分離は、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維が混在したセルロース分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H-2000B)を用い、12000G、10分の条件で行う。その後、得られる沈降固形分を第1のセルロース繊維、上澄み液を第2のセルロース繊維として回収する。
【0100】
第1のセルロース繊維の保水度は、220%以上であることが好ましく、230%以上であることがより好ましく、240%以上であることがさらに好ましく、250%以上であることが一層好ましく、280%以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維の保水度は、600%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、400%以下であることがさらに好ましい。第1のセルロース繊維の保水度は、J.TAPPI-26に準拠して測定した値である。なお、第1のセルロース繊
維の保水度は、シート化する前の第1のセルロース繊維の保水度であるが、シート化後の第1のセルロース繊維の保水度が上記範囲を満たすものであってもよい。
【0101】
第1のセルロース繊維の含有量は、本実施形態のシートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%超、41質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、50質量%超または55質量%以上であることが一層好ましく、60質量%以上であることがより一層好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。また、第1のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましく、85質量%以下であることが一層好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。なお、第1のセルロース繊維の含有量は、本実施形態のシートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、0質量%であってもよい。
【0102】
<第1のセルロース繊維の製造工程>
<リンオキソ酸基導入工程>
第1のセルロース繊維がイオン性置換基としてリンオキソ酸基を有する場合、第1のセルロース繊維の製造工程は、リンオキソ酸基導入工程を含む。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
【0103】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0104】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0105】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩または亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、または亜リン酸、亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0106】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、第1のセルロース繊維の収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0107】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0108】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0109】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0110】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、バンド型乾燥装置、ろ過乾燥装置、振動流動乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0111】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0112】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い第1のセルロース繊維を得ることが可能となる。
【0113】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0114】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。
【0115】
<カルボキシ基導入工程>
第1のセルロース繊維がイオン性置換基としてカルボキシ基を有する場合、第1のセルロース繊維の製造工程は、カルボキシ基導入工程を含む。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0116】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0117】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0118】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共
存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0119】
第1のセルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.60mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、第1のセルロース繊維に対するカルボキシ基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.00mmol/g以下であることがより好ましく、2.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.00mmol/g以下であることが一層より好ましく、1.50mmol/g以下であることがより一層さらに好ましく、1.00mmol/g以下であることがとくに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、セルロース繊維1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。カルボキシ基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、第1のセルロース繊維の安定性を高めることが可能となる。
【0120】
<洗浄工程>
本実施形態における第1のセルロース繊維の製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0121】
<アルカリ処理工程>
本実施形態における第1のセルロース繊維の製造方法においては、必要に応じて洗浄後のイオン性置換基導入繊維に対して、アルカリ処理を行ってもよい。この場合、洗浄後のイオン性置換基導入繊維を10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nのアルカリ溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下に調整することが好ましい。アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶剤のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶剤などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0122】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるイオン性置換基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばイオン性置換基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。なお、アルカリ処理工程の後には、さらに上述した洗浄工程を設けてもよい。
【0123】
(第2のセルロース繊維)
本実施形態のシートは、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維(微細繊維状セルロース)を含む。第2のセルロース繊維の繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。なお、第2のセルロース繊維は、たとえば単繊維状のセルロースである。
【0124】
第2のセルロース繊維の繊維幅は、1000nm以下であればよく、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが一層好ましく、50nm以下であることがより一層好ましく、20nm以下であることがさらに一層好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。本実施形態のシートは、このように繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを含有するため、結果として成形体としたときの機械的物性に優れる。第2のセルロース繊維と第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)とを併用することで、樹脂との密着性を効果的に高めることができる。また、繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを、イオン性置換基を有する第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)と併用する場合、シートの製造工程において、シートに撚れが発生することを抑制することができる。また、繊維幅が小さい微細繊維状セルロースを、イオン性置換基を有する第1のセルロース繊維(粗大セルロース繊維)と併用する場合、シートの透明性が向上する。
【0125】
第2のセルロース繊維の繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の第2のセルロース繊維の水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。
【0126】
第2のセルロース繊維の繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、第2のセルロース繊維の結晶領域の破壊を抑制できる。また、第2のセルロース繊維のスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、第2のセルロース繊維の繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0127】
第2のセルロース繊維はI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、第2のセルロース繊維がI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0128】
第2のセルロース繊維に占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0129】
第2のセルロース繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、第2のセルロース繊維を含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば第2のセルロース繊維を水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0130】
本実施形態における第2のセルロース繊維は、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い第2のセルロース繊維は、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0131】
本実施形態における第2のセルロース繊維は、イオン性置換基を有することが好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。アニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基またはリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リンオキソ酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。リンオキソ酸基は、第1のセルロース繊維が有し得るリンオキソ酸基と同様である。第1のセルロース繊維および第2のセルロース繊維がともにイオン性置換基を有するとき、第1のセルロース繊維のイオン性置換基と、第2セルロース繊維のイオン性置換基は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0132】
第2のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば第2のセルロース繊維1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.3mmo/g以上であることがより好ましく、0.5mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.7mmol/g以上であることが一層好ましく、1.0mmol/g以上であることが特に好ましい。また、第2のセルロース繊維のイオン性置換基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。ここで、単位mmol/gは、たとえばアニオン性基の対イオンが水素イオン(H)であるときの第2のセルロース繊維の質量1gあたりの置換基量を示す。
【0133】
第2のセルロース繊維に対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた第2のセルロース繊維を含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。具体的なイオン性置換基の導入量の測定方法は、第1のセルロース繊維におけるイオン性置換基の導入量の測定方法と同様である。なお、第1のセルロース繊維におけるイオン性置換基の導入量を測定する際には、強酸性イオ
ン交換樹脂による処理の前に、解繊処理を実施するが、第2のセルロース繊維におけるイオン性置換基の導入量を測定する際には、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、解繊処理を実施しなくてもよい。
【0134】
第2のセルロース繊維の含有量は、本実施形態のシートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが一層好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、第2のセルロース繊維の含有量は、シートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが一層好ましく、40質量%以下であることがより一層好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。第2のセルロース繊維の含有量は、本実施形態のシートに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、100質量%であってもよい。
【0135】
<微細繊維状セルロースの製造工程>
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0136】
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
【0137】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0138】
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリンオキソ酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リンオキソ酸基導入工程を含む。リンオキソ酸基導入工程は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるリンオキソ酸基導入工程と同様の工程である。
【0139】
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロースがカルボキシ基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、カルボキシ基導入工程を含む。カルボキシ基導入工程は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるカルボキシ基導入工程と同様の工程である。
【0140】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてリンオキソ酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、第1のセルロース繊維の製造工程における洗浄工程と同様の工程である。
【0141】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法は、第1のセルロース繊維の製造工程におけるアルカリ処理の方法と同様である。なお、アルカリ処理工程の後には、さらに上述した洗浄工程を設けてもよい。
【0142】
<解繊処理>
繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0143】
解繊処理工程においては、繊維を分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶剤などの有機溶剤から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコー
ル類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0144】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのイオン性置換基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
【0145】
(比率)
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の質量比率(第1のセルロース繊維:第2のセルロース繊維)は、30:70~90:10であることが好ましく、40:60~90:10であることがより好ましく、60:40~90:10であることがさらに好ましく、70:30~90:10であることが特に好ましい。第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の質量比率は、第1のセルロース繊維:第2のセルロース繊維=0:100であってもよい。ここで、シート中の第1のセルロース繊維は、たとえば走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-3600N)にて観察することが可能である。また、第2のセルロース繊維は、たとえば高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(日立製作所製、S-5200)にて観察することが可能である。このような観察により、各繊維の体積比率から質量比率を算出してもよい。但し、後述するようなシートの製造工程における、各セルロース繊維の混合比は、シートにおける第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維の比率と同等である。
【0146】
(その他の繊維)
本実施形態のシートは第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維以外に、その他のセルロース繊維を含んでいてもよい。その他のセルロース繊維としては、たとえば第1のセルロース繊維を叩解して繊維幅を1μmより大きく10μm未満とした、高叩解パルプを挙げることができる。ここで、その他の繊維の繊維幅とは、セルロース繊維の幹繊維における繊維幅である。たとえば、その他の繊維がフィブリル化セルロース繊維である場合には、フィブリル化して分枝化した繊維の繊維幅ではなく、幹繊維の繊維幅をその他の繊維の繊維幅という。
【0147】
その他のセルロース繊維の叩解は、たとえば解繊処理装置を用いて行うことができる。解繊処理装置としては特に限定されない。例えば、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーが挙げられる。また、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーター等、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
【0148】
(水溶性高分子/低分子化合物)
本実施形態のシートは、水溶性高分子をさらに含んでいてもよい。水溶性高分子としては、たとえばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、およびポリアクリルアミドなどに例示される合成水溶性高分子;キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、およびペクチンなどに例示される増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒロドキシエチルセルロースなどに例示されるセルロース誘導体;カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、およびアミロースなどに例示されるデンプン類;ポリグリセリンなどに例示されるグリセリン類;ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。これらの中でも、水溶性高分子はポリビニルアルコールであることが好ましい。
【0149】
また、本実施形態のシートは、水溶性高分子の代わりに親水性の低分子化合物を含んでいてもよい。親水性の低分子化合物としては、グリセリン、ジグリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトールなどを挙げることができるが、特に限定されない。
【0150】
シート中における水溶性高分子又は親水性低分子化合物の含有量は、セルロース繊維全体100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることがさらに好ましく、5.0質量部以上であることが特に好ましい。また、水溶性高分子の含有量は、セルロース繊維全体100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。水溶性高分子又は親水性低分子化合物の含有量を上述の範囲とすることにより、シートの強度をより効果的に向上させることができる。
【0151】
(紙力増強剤)
本実施形態のシートは、紙力増強剤をさらに含むものであることが好ましい。これにより、シートの強度をさらに向上させることが可能となる。紙力増強剤としては、乾燥紙力剤及び湿潤紙力剤を挙げることができる。乾燥紙力剤としては、例えば、カチオン化澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂等を挙げることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピハロヒドリン、尿素、メラミン、熱架橋性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。中でも、本実施形態のシートは、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを含有することが好ましい。
【0152】
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは、脂肪族二塩基性カルボン酸又はその誘導体と、ポリアルキレンポリアミンを加熱縮合させてポリアミドポリアミンを合成し、次いで該ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリンを反応させることで得られるカチオン性熱硬化性樹脂である。なお、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは水性樹脂であるから、シート形成用スラリーにはポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを水溶液として添加することもできる。
【0153】
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンとしては、例えば、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンポリアミドエピブロモヒドリン、ポリアミンポリアミドエピヨードヒドリン等を挙げることができる。
【0154】
シート中における紙力増強剤の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、2.0質量部以上であることが特に好ましい。また、紙力増強剤の含有量は、セルロース繊維100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、15質量部以下であることが一層好ましく、7.0質量部以下であることが特に好ましい。紙力増強剤の含有量を上述の範囲とすることにより、シートの強度をより効果的に向上させることができる。
【0155】
本実施形態のシートは、ポリビニルアルコールおよびポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの両者を含有することが好ましい。前記両者を含有することにより、本実施形態のプレシート中の、微細繊維状セルロース含有層と炭素繊維含有層との密着性に優れる。そのため、結果として、本実施形態のプレシート及び成形体は、機械的物性に優れる。
【0156】
(任意成分)
本実施形態のシートには、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、防腐剤、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、サイズ剤、凝結剤、歩留まり向上剤、嵩高剤、濾水性向上剤、pH調整剤、蛍光増白剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、消泡剤、保水剤、分散剤等を挙げることができる。
【0157】
本実施形態のシート中に含まれる上記任意成分の含有量は、シートの全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、10質量%以下であることがより一層好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0158】
(樹脂層)
本実施形態のシートの表面であって、炭素繊維含有層と接する面に、樹脂層を設けてもよい。なお、樹脂層は、塗工により形成された樹脂層(塗工樹脂層)であることが好ましい。
【0159】
樹脂層は変性ポリオレフィン樹脂を含む層であり、変性ポリオレフィン樹脂を主成分として含む層であることが好ましい。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、100質量%であってもよい。
変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂を変性することで得られる。ポリオレフィン樹脂の変性方法としては、酸変性、塩素化、アクリル変性する方法が挙げられる。中でも、変性ポリオレフィン樹脂は酸変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。この際、酸変性成分は不飽和カルボン酸成分であることが好ましい。不飽和カルボン酸成分は、不飽和カルボン酸やその無水物に由来する成分であり、不飽和カルボン酸成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸成分は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される少なくとも一種であることが好ましく、マレイン酸及び無水マレイン酸から選択される少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0160】
変性ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケン等が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂は、上記オレフィン成分を2つ以上有する共重合体であってもよい。また、変性ポリオレフィン樹脂は上記オレフィン成分の他に酢酸ビニルやノルボルネン類といった他の共重合成分を含むものであってもよい。
【0161】
中でも、変性ポリオレフィン樹脂は、変性ポリプロピレン樹脂であることが好ましく、酸変性ポリプロピレン樹脂であることがより好ましく、マレイン酸化ポリプロピレン樹脂又は無水マレイン酸化ポリプロピレン樹脂であることがさらに好ましい。
【0162】
変性ポリオレフィン樹脂は塩素化ポリオレフィン樹脂であることも好ましい。この場合、塩素含有率は、塩素化ポリオレフィン樹脂の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、塩素含有率は、塩素化ポリオレフィン樹脂の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。
【0163】
変性ポリオレフィン樹脂は、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂であることが特に好ましい。中でも、変性ポリオレフィン樹脂は無水マレイン酸化-塩素化ポリオレフィン樹脂又はマレイン酸化-塩素化ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を用いることにより、より透明性に優れた積層シートを得ることができる。
【0164】
変性ポリオレフィン樹脂の主鎖は、末端にカルボキシ基を含有するグラフト鎖を有するものであることが好ましい。本明細書において、グラフト鎖は、変性ポリオレフィン樹脂の主鎖に結合する連結基と、連結基の末端にカルボキシ基を有する基である。グラフト鎖を構成する連結基は、炭素数が1~10のアルキレン基であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態において、変性ポリオレフィン樹脂は、主鎖骨格がポリオレフィンであり、当該主鎖骨格に-R-COOH基(Rは炭素数1~10のアルキレン基を表す)がグラフトしたグラフトポリマーである。
【0165】
変性ポリオレフィン樹脂は、水系の変性ポリオレフィン樹脂であってもよいが、有機溶剤系の変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂が有機溶剤系の変性ポリオレフィン樹脂である場合、変性ポリオレフィン樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂組成物は有機溶剤を含む。この際に用いる有機溶剤としては、脂肪族系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、芳香族系有機溶剤又は環状アルカン系有機溶剤を挙げることができる。中でも、有機溶剤は芳香族系有機溶剤又は環状アルカン系有機溶剤であることが好ましい。芳香族系有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。また、環状アルカン系有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサン等を挙げることができる。なお、上述したような有機溶剤を含む樹脂組成物から樹脂層を形成した場合、樹脂層中には、少量の有機溶剤が揮発せずに残存する。このため、樹脂層には、芳香族系有機溶剤又は環状アルカン系有機溶剤が含まれていてもよい。
【0166】
変性ポリオレフィン樹脂としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、東洋紡社製のハードレンTD-15B、東洋紡社製のハードレンF-2MB、ユニチカ社製のアローベースSB-1230N等を挙げることができる。樹脂層は変性ポリオレフィン樹脂に加えて、さらに密着助剤を含有してもよい。
【0167】
(シートの製造方法)
本実施形態のシートの製造方法は、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維を含み、必要に応じて繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維をさらに含むスラリーからシートを形成する工程を含む。以下、本実施形態のシートの製造方法として、第1のセルロース繊維を使用することを前提として記載する。
【0168】
本実施形態のシートが、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第1層と、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維の両方が含まれる第2層とを有する複層シートである場合、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むスラリーから第1層(もしくは第2層)を形成した後に、該層上に繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維とを含むスラリーを塗工して第2層(もしくは第1層)を形成する工程を設けてもよい。また、繊維幅が10μm以上の第1のセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下の第2のセルロース繊維と、を含むスラリーから第1層と第2層をそれぞれ形成した後に、これらの層を重ね合わせることで第1層と第2層を有する複層シートを形成してもよい。
【0169】
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を分散させたスラリー中に含まれる固形分濃度は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、スラリー中に含まれる固形分濃度は、0.01質量%以上であることが好ましい。
【0170】
ここで、第1のセルロース繊維の保水度は、220%以上であることが好ましく、230%以上であることがより好ましく、240%以上であることがさらに好ましい。また、第1のセルロース繊維の保水度は、600%以下であることが好ましい。なお、第1のセルロース繊維の保水度は、J.TAPPI-26に準拠して測定した値である。本実施形態のシートの製造工程では、保水度が220%以上の第1のセルロース繊維を用いることにより、繊維が均一に分散したスラリーを得ることができる。また、保水度が220%以上の第1のセルロース繊維を用いることにより、セルロース繊維濃度が高いスラリーにおいても、セルロース繊維が凝集することを抑制できる。
【0171】
<抄紙工程>
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含むスラリーを抄紙する場合、抄紙機によりスラリーを抄紙する。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、特に限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
【0172】
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、特に限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、特に限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
【0173】
シート化工程において、スラリーからシートを製造する方法は、たとえばセルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0174】
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
【0175】
このような抄紙工程の後には、得られたシートの一方の面にカレンダー処理を施してもよい。また、一方の面を再湿潤液により再湿潤させ、キャストドラムに圧着するリウェットキャスト処理を施してもよい。
【0176】
<塗工工程>
第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含むスラリーを基材上に塗工する工程(塗工工程)では、たとえば繊維状セルロースを含むスラリー(塗工液)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0177】
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、特に限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
【0178】
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、特に限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
【0179】
スラリーを基材に塗工する塗工機としては、特に限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが特に好ましい。
【0180】
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることが特に好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0181】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは5g/m以上500g/m以下となるように、より好ましくは10g/m2以上300g/m以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。なお、塗工工程は、例えば坪量が30g/m以下といった薄膜シートを製造することも可能である。
【0182】
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、特に限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
【0183】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、特に限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
【0184】
加熱乾燥法における加熱温度は、特に限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制およびセルロース繊維の熱による変色の抑制を実現できる。
【0185】
<1-6.プレシート>
本実施形態のプレシートの最表層は、微細繊維状セルロース含有層である。そのため、成形体となった際に優れた機械的物性が得られる。
【0186】
本実施形態のプレシートに対する微細繊維状セルロースの含有量の割合は、0.5質量%以上である。また、微細繊維状セルロース含有層に対する微細繊維状セルロースの含有量の割合は、10質量%以上である。そのため、成形体となった際に優れた機械的物性が得られる。
【0187】
本実施形態のプレシートに対する微細繊維状セルロースの含有量の割合は、1.0質量%以上が好ましい。また、本実施形態のプレシートに対する微細繊維状セルロースの含有量の割合は、10質量%未満が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0188】
本実施形態の微細繊維状セルロース含有層に対する微細繊維状セルロースの含有量の割合は、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、本実施形態の微細繊維状セルロース含有層に対する微細繊維状セルロースの含有量の割合は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
【0189】
本実施形態のプレシートに対する炭素繊維の含有量の割合は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、本実施形態のプレシートに対する炭素繊維の含有量の割合は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0190】
≪2.成形体≫
本実施形態の成形体は、本実施形態のプレシートを、加熱した上で加圧することにより、得られる。加熱する際の温度は、熱可塑性樹脂の融点を超える程度の温度であることが好ましい。加圧条件は、1.5~10MPaが好ましい。
【0191】
本実施形態の成形体は、動車部品用、電気機器部品用、電子機器部品用成形物、又は精密機器部品用に好適に使用できる。
【0192】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例の態様に限定されない。
【実施例
【0193】
(実施例1)
<樹脂層を含む微細繊維状セルロース含有シートの作製>
[リン酸化パルプの作製]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121-2:2012に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0194】
[洗浄処理]
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0195】
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
【0196】
[洗浄処理]
次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。これにより得られたリン酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gだった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は30μmであった。得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%の第1のセルロース繊維を含む、第1のセルロース繊維分散液を得た。
【0197】
[微細化]
上記方法にて得られた第1のセルロース繊維分散液を、湿式微粒化装置((株)スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、第2のセルロース繊維を含む、第2のセルロース繊維分散液を得た。X線回折により、この第2のセルロース繊維がセルロースI型結晶を維持していることが確認された。後述する測定方法で測定されるリン酸基量(第1解離酸量)は、1.45mmol/gだった。また、後述する測定方法で測定される繊維幅は3~5nmであった。
【0198】
[シート化]
第1のセルロース繊維が75質量部、第2のセルロース繊維が25質量部、ポリビニルアルコール(PVA)が10質量部、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリン(PAE)が5質量部となるように、第1のセルロース繊維分散液と、第2のセルロース繊維分散液と、ポリビニルアルコール溶液(日本合成化学工業製、ゴーセネックスZ-200)と、ポリアミンポリアミド・エピクロロヒドリン溶液(荒川化学工業製、アラフィックス255)を混合して塗工液1を得た。塗工液1の固形分濃度は0.5質量%に調製した。次いで、得られるシート(上記塗工液の固形分から構成される層)の坪量が180g/mになるように塗工液1を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mm、高さ5cmの金枠)を配置した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートを剥離し、第1のセルロース繊維と第2のセルロース繊維を含有するシートを得た。第1のセルロース繊維の繊維幅は29μmであり、保水度は371%であり、第2のセルロース繊維の繊維幅は3~5nmであった。
【0199】
無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂溶液(東洋紡社製、ハードレンNS-2000:ポリプロピレン樹脂成分15質量%、メチルシクロヘキサン75質量%、酢酸ブチル10質量%)を、微細繊維状セルロース含有シートのアクリル板から剥離した側とは反対の面に、バーコーターにて塗布することにより、塗布層を得た。その後、塗布層が形成された微細繊維状セルロース含有シートに対して、100℃で1時間加熱して塗布層を硬化させることで、塗布層を樹脂層にした。これにより、樹脂層を含む微細繊維状セルロース含有シートを得た。樹脂層の厚みは5μmであった。
【0200】
<炭素繊維シートの作製>
チョップ状のPAN系炭素繊維(繊維径7μm、繊維長5mm)を、旋回流式ジェット気流解繊装置を用いて解繊処理して、解繊チョップドファイバーを得た。解繊機での処理風速は45m/分であり、装置内に設けたバッフルにより乱流とした。
【0201】
次いで、得られた解繊チョップドファイバー(繊維長5mm)と、芯鞘型の熱融着性複合繊維(PET/PE複合芯鞘繊維、芯部融点260℃、鞘部融点100℃、繊度2.2dtex、繊維長5mm)とを、73/27の割合(質量比)で空気流により均一に混合して繊維混合物を得た。
【0202】
次いで、図1に示すウェブ形成装置1を用い、繊維混合物からエアレイドウェブを形成した。具体的には、コンベア10に装着されて走行する透気性無端ベルト20の上に、第1のキャリアシート供給手段40によって、第1のキャリアシート41を繰り出した。実施例1では、第1のキャリアシート41として、解繊チョップドファイバー(繊維長5mm)をカード機にてシート状にして次いでニードルパンチで絡めることによって製造した強化繊維シート(坪量100g/m)を使用した。なお、「坪量」はJIS P8124:2011に記載の「紙及び板紙-坪量の測定方法」に従って測定した。
【0203】
サクションボックス60によって透気性無端ベルト20を吸引しながら、第1のキャリアシート41の上に、繊維混合物供給手段30から空気流と共に繊維混合物を落下堆積させた。その際、エアレイドウェブ部分の坪量が180g/mとなるように、繊維混合物を供給した。ここで、エアレイドウェブ部分は、プレシートにおける炭素繊維層となるべき部分である。
【0204】
次いで、第2のキャリアシート供給手段50によって、第1のキャリアシート41上の繊維混合物堆積物の上に、第2のキャリアシート51を積層して、エアレイドウェブ含有積層シートを得た。実施例1では、第2のキャリアシート51として、解繊チョップドファイバー(繊維長5mm)をカード機にてシート状にして次いでニードルパンチで絡めることによって製造した強化繊維シート(坪量100g/m)を使用した。つまり、実施例1においては、第1のキャリアシート41と第2のキャリアシート51に、同一の強化繊維シートを用いた。
【0205】
得られたエアレイドウェブ含有積層シートを、熱風循環コンベアオーブン方式のボックスタイプドライヤに通し、温度140℃で熱風処理した。その後、第1のキャリアシート及び第2のキャリアシートを剥離して、坪量180g/mの炭素繊維シートを得た。
【0206】
<本実施形態の成形体の作製>
まず、ポリプロピレン(PP)繊維から構成されるスパンボンド不織布(坪量40g/mを用意した。次に、前記スパンボンド不織布(SB)を20cm×20cmに裁断し、これにより6枚の裁断片を得た。次に、前記炭素繊維シート(CF)を20cm×20cmに裁断し、これにより5枚の裁断片を得た。なお、前記SBおよび前記CFは、後述する熱プレス処理後において、それぞれ、熱可塑性樹脂層および炭素繊維層となる。
【0207】
次いで、SBが両方の表面層(両端面層)となるように、6枚のSBと5枚のCFとが交互に重ねた、11層の積層物を作製した。さらに、前記積層物の最外層(最表層)であるSBの主面と前記樹脂層の主面が接するように、SBの上に、樹脂層を有する微細繊維状セルロース含有シートを重ねた。これにより、微細繊維状セルロース含有シートA/樹脂層A/11層の積層物/樹脂層B/微細繊維状セルロース含有シートBからなる積層構造物を得た。なお、前記微細繊維状セルロース含有シートAは、表面層を構成し、前記微細繊維状セルロース含有シートBは、裏面層を構成する。次に、20cm×20cm、深さ2mmの開口部を有するステンレス製の金型内に、前記積層構造物を配置した。次いで、前記金型を熱プレス機にセットし、前記積層構造物を温度140℃で熱風処理することにより、実施例1の炭素繊維含有プレシートを得た。実施例1の炭素繊維含プレシートの層構成は、微細繊維状セルロース含有層A/樹脂層A/炭素繊維含有層/樹脂層B/微細繊維状セルロース含有層Bとなっている。また、実施例1の炭素繊維含有プレシートに対して、温度180℃、圧力1.5MPaで10分間予備プレスし、さらに5MPaに加圧して15分間プレス処理した。その後、5MPaで冷却して、実施例1の炭素繊維含有成形体を得た。実施例1の炭素繊維含有成形体の層構成は、微細繊維状セルロース含有層A/樹脂層A/炭素繊維含有層/樹脂層B/微細繊維状セルロース含有層Bとなっている。ただし、前記樹脂層A及び前記樹脂層Bは、層として認識することができない程度に薄い膜となっている。また、炭素繊維含有層は、6層の熱可塑性樹脂層と5層の炭素繊維層から構成される。
【0208】
(実施例2~3、比較例1~2)
微細繊維状セルロース含有シートの坪量、炭素繊維シートの坪量、スパンボンド不織布の坪量、各成分の質量割合、炭素繊維の種類などを表1に記載の数値及び種類となるように変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3、比較例1~2のプレシートおよび炭素繊維含有成形体を得た。なお、実施例3及び比較例2では、炭素繊維の種類をチョップ状のピッチ系異方性炭素繊維に代えて、ピッチ系等方性炭素繊維に変更している。
【0209】
<評価>
得られた成形品について、下記の方法により曲げ弾性率および曲げ強度、耐衝撃性、衝撃力を測定した。測定結果を表に示す。
【0210】
(成形品の曲げ弾性率および曲げ強度の測定方法)
ダイヤモンドカッターを用いて、得られた成形品を幅15mm、長さ100mmに裁断して、試験片を作製した。その試験片について、厚みを測定した後、JIS K7074に記載の「炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法」に従い、3点曲げ試験を、速度5mm/分、支点間距離80mmの条件で行って、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。曲げ弾性率および曲げ強度の値は、成形品の剛性を判断する指標とした。数値が大きいほど、剛性が高く良好な成形品であると評価した。
【0211】
(成形品の耐衝撃性の測定方法)
ダイヤモンドカッターを用いて、得られた成形品を幅10mm、長さ100mmに裁断して、試験片を作製した。その試験片について、厚みを測定した後、JIS K7111-1に記載の「プラスチックのシャルピー衝撃試験」により耐衝撃性を測定した。数値が大きいほど、耐衝撃性は良好で衝撃に対して強いと評価した。
(パンクチャー衝撃力)
JIS K7211-2に準拠し、パンクチャー衝撃力試験機により、パンクチャー衝撃力を測定した。





































【0212】
【表1】
【符号の説明】
【0213】
1 ウェブ形成装置
30 繊維混合物供給手段
41 第1のキャリアシート
51 第2のキャリアシート
A エアレイドウェブ
図1
図2
図3