IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用駆動装置 図1
  • 特許-車両用駆動装置 図2
  • 特許-車両用駆動装置 図3
  • 特許-車両用駆動装置 図4
  • 特許-車両用駆動装置 図5
  • 特許-車両用駆動装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240501BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20240501BHJP
【FI】
F16H57/04 Z
F16H57/04 B
F16H57/04 K
F16H57/037
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021121585
(22)【出願日】2021-07-26
(65)【公開番号】P2023017359
(43)【公開日】2023-02-07
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 武史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 彰一
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088040(JP,A)
【文献】米国特許第06855083(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動する駆動源と、前記駆動源と前記車輪との間で動力を伝達する伝達機構と、前記駆動源、及び、前記伝達機構を収容するケースと、を備える車両用駆動装置であって、
前記伝達機構の何れか1つの軸の部分を対象軸部とし、前記対象軸部の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記ケースは、前記対象軸部の外周面である対象外周面に対向する内周面である筒状内周面と、前記筒状内周面に開口する第1開口部及び第2開口部と、前記第1開口部に連通する第1油路及び前記第2開口部に連通する第2油路と、を備え、
前記対象外周面と前記筒状内周面との間に、前記対象軸部と一体的に回転する羽根部が設けられ、
前記羽根部、前記第1開口部、及び前記第2開口部が配置された前記軸方向の領域に対して前記軸方向第1側と前記軸方向第2側とのそれぞれに、前記対象外周面と前記筒状内周面との間における前記軸方向の油の流通を規制する規制部が設けられ、
前記第1開口部は、前記第2開口部に対して前記軸方向第1側に離間して配置され、
前記第1油路は、油が貯留された油貯留部に連通し、
前記第2油路は、油を供給する対象である供給対象が配置された空間である対象空間に連通し、
車両が前進する向きに前記車輪が回転している場合の各部の回転状態を正転状態とし、
前記羽根部は、前記対象軸部が前記正転状態で、油を前記軸方向第2側へ向けて圧送するように構成されている、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記伝達機構を介して伝達される回転を一対の前記車輪に分配する差動歯車機構を備え、
前記対象軸部は、前記差動歯車機構と同軸上に配置され、一方の前記車輪と前記差動歯車機構とを連結する出力軸の少なくとも一部である、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記出力軸は、内部に形成された軸内油路を備え、
前記軸内油路は、前記対象外周面と前記筒状内周面との間に形成される油室と前記差動歯車機構の内部とを連通するように構成されている、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記羽根部は、前記対象軸部の前記回転軸心を中心軸とすると共に前記対象外周面に沿う螺旋状に形成され、
前記羽根部の外周縁と前記筒状内周面との隙間が、前記第1開口部と前記第2開口部との前記軸方向の間の全域に亘って一定である、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第1開口部と前記対象空間とに連通する第3油路と、前記第2開口部と前記油貯留部とに連通する第4油路と、をさらに備え、
前記第1油路に、前記第1開口部から前記油貯留部へ向かう油の流れを規制し、前記油貯留部から前記第1開口部へ向かう油の流れを許容する第1一方向弁が設けられ、
前記第2油路に、前記対象空間から前記第2開口部へ向かう油の流れを規制し、前記第2開口部から前記対象空間へ向かう油の流れを許容する第2一方向弁が設けられ、
前記第3油路に、前記対象空間から前記第1開口部へ向かう油の流れを規制し、前記第1開口部から前記対象空間へ向かう油の流れを許容する第3一方向弁が設けられ、
前記第4油路に、前記第2開口部から前記油貯留部へ向かう油の流れを規制し、前記油貯留部から前記第2開口部へ向かう油の流れを許容する第4一方向弁が設けられている、請求項1から4の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を駆動する駆動源と、前記駆動源と前記車輪との間で動力を伝達する伝達機構と、前記駆動源、及び、前記伝達機構を収容するケースと、を備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2020/203916号には、車輪の駆動源と車輪との間で動力を伝達する伝達機構が収容されたケースの内部に機械式のポンプ(7)を備えた車両用駆動装置(100)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。ポンプ(7)は、当該ポンプ(7)への駆動力が入力されるポンプ入力ギヤ(71)を備えている。ポンプ入力ギヤ(71)は、伝達機構における差動歯車機構(5)の差動入力ギヤ(51)と一体的に回転するように設けられたポンプ駆動ギヤ(57)に噛み合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/203916号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この車両用駆動装置(100)では、ポンプ(7)を駆動するために、ポンプ駆動ギヤ(57)とポンプ入力ギヤ(71)とのギヤ対を備えている。つまり、ポンプ(7)を駆動するために車輪を駆動するためのギヤとは別に、ポンプ駆動用のギヤ対を備えている。このギヤ対によって、車両用駆動装置(100)の小型化や、コストの抑制が妨げられる可能性がある。
【0005】
そこで、車輪の駆動源と車輪との間で動力を伝達する伝達機構が収容されたケースの内部に省スペースでポンプ機能を設ける技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、車両用駆動装置は、車輪を駆動する駆動源と、前記駆動源と前記車輪との間で動力を伝達する伝達機構と、前記駆動源、及び、前記伝達機構を収容するケースと、を備える車両用駆動装置であって、前記伝達機構の何れか1つの軸の部分を対象軸部とし、前記対象軸部の回転軸心に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、前記ケースは、前記対象軸部の外周面である対象外周面に対向する内周面である筒状内周面と、前記筒状内周面に開口する第1開口部及び第2開口部と、前記第1開口部に連通する第1油路及び前記第2開口部に連通する第2油路と、を備え、前記対象外周面と前記筒状内周面との間に、前記対象軸部と一体的に回転する羽根部が設けられ、前記羽根部、前記第1開口部、及び前記第2開口部が配置された前記軸方向の領域に対して前記軸方向第1側と前記軸方向第2側とのそれぞれに、前記対象外周面と前記筒状内周面との間における前記軸方向の油の流通を規制する規制部が設けられ、前記第1開口部は、前記第2開口部に対して前記軸方向第1側に離間して配置され、前記第1油路は、油が貯留された油貯留部に連通し、前記第2油路は、油を供給する対象である供給対象が配置された空間である対象空間に連通し、車両が前進する向きに前記車輪が回転している場合の各部の回転状態を正転状態とし、前記羽根部は、前記対象軸部が前記正転状態で、油を前記軸方向第2側へ向けて圧送するように構成されている。
【0007】
この構成によれば、対象軸部の対象外周面とケースが備える筒状内周面との間の空間をポンプの油室とし、対象軸部及び羽根部をポンプロータとして、伝達機構の軸の回転を利用して油貯留部から油を吸引して対象空間に油を供給することができる。つまり、別途オイルポンプや当該オイルポンプを駆動するためのギヤ対等を設けることなく、ケース内にポンプ機能を設けることができ、車両用駆動装置の部品数低減や小型化を図ることができる。即ち、本構成によれば、車輪の駆動源と車輪との間で動力を伝達する伝達機構が収容されたケースの内部に省スペースでポンプ機能を設けることができる。
【0008】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用駆動装置の一例を示す模式的断面図
図2】車両用駆動装置の一例を示すスケルトン図
図3】ポンプの構成の一例と油の流通経路の一例を示す図
図4】ポンプの構成の一例と油の流通経路の他の例を示す図
図5】車両用駆動装置の他の例を示すスケルトン図
図6】ポンプの構成の他の例と油の流通経路の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明における各部材についての方向は、車両用駆動装置100が車両に組み付けられた状態(車両搭載状態)での方向を表す。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。車両搭載状態において、車両用駆動装置100の回転軸(本実施形態では互いに平行な別軸である第1軸A1、第2軸A2及び第3軸A3、詳細は後述する)に沿った方向を軸方向Lと称する。また、軸方向Lにおける一方側を軸方向第1側L1、他方側を軸方向第2側L2と称する。また、上記の第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向」とする。また、車両用駆動装置100が車両に取り付けられた状態で鉛直方向に沿う方向を「上下方向」とする。軸方向Lが水平面に平行な状態で車両用駆動装置100が車両に取り付けられている場合には、径方向の1方向と上下方向とが一致する。
【0011】
図1及び図2に示すように、車両用駆動装置100は、回転電機2と、回転電機2と車輪Wとの間で動力を伝達する伝達機構3と、回転電機2及び伝達機構3を収容するケース1とを備える。本実施形態において、回転電機2は、車輪Wを駆動する駆動源である。本実施形態では、伝達機構3として、車輪Wに駆動連結された差動歯車機構DFと、回転電機2と差動歯車機構DFとを駆動連結するカウンタギヤ機構CGと、回転電機2とカウンタギヤ機構CGとを駆動連結する入力ギヤIGとが備えられている。差動歯車機構DFは、後述するように、車輪Wと共に第1軸A1上に配置されている。回転電機2は、入力ギヤIGと共に、第1軸A1と平行な別軸である第2軸A2上に配置されている。また、カウンタギヤ機構CGは、第1軸A1及び第2軸A2と平行な第3軸A3上に配置されている。
【0012】
回転電機2は、例えば複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機(Motor/Generator)であり、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機2は、不図示の電源から電力の供給を受けて力行し、又は、車両の慣性力により発電した電力を当該電源に供給する(回生する)。本実施形態では、回転電機2は、不図示のインバータを介して、バッテリやキャパシタ等の直流電源に接続されている。
【0013】
回転電機2は、ケース1などに固定されたステータ23と、当該ステータ23の径方向内側に回転自在に支持されたロータ21とを有する。本実施形態では、ステータ23は、ステータコア22とステータコア22に巻き回されたステータコイル24とを含み、ロータ21は、ロータコアとロータコアに配置された永久磁石とを含む。回転電機2のロータ21は、ロータ21と一体的に回転するロータ軸20に連結されている。ロータ軸20には、当該ロータ軸20と一体回転するように、入力軸XIが連結されている。ロータ軸20は、ロータ軸受B2を介して回転可能にケース1に支持され、入力軸XIは、入力軸受B1を介して回転可能にケース1に支持されている。入力軸XIには、入力ギヤIGが入力軸XIと一体的に回転するように設けられている。入力ギヤIGは、後述するように、カウンタギヤ機構CGの第1カウンタギヤCG1に噛み合っている。即ち、入力ギヤIGは、伝達機構の一部として機能し、ロータ21と一体的に回転して、カウンタギヤ機構CGに回転電機2の駆動力を伝達する。
【0014】
差動歯車機構DFは、第1軸A1上に配置され、回転電機2の側から伝達される駆動力を一対の車輪Wに分配する。差動歯車機構DFは、互いに噛み合う複数の傘歯車と、当該複数の傘歯車を収容した差動ケースDCとを含んで構成されている。そして、差動歯車機構DFは、回転電機2の側から差動入力ギヤDG1に入力された回転及びトルクを、径方向に沿って配置されていると共に差動入力ギヤDG1と一体的に回転するピニオン軸DAに回転自在に支持されたピニオンギヤDG2、及び、ピニオンギヤDG2に噛み合う一対のサイドギヤDG3を介して一対の出力軸XOに分配して伝達する。本実施形態では、差動歯車機構DFの軸方向第1側L1において第1出力軸XO1に第1車輪W1が連結され、軸方向第2側L2において第2出力軸XO2に第2車輪W2が連結されている。第1出力軸XO1は第1出力軸受B5を介してケース1に回転可能に支持されており、第2出力軸XO2は第2出力軸受B4(図2参照)を介してケース1に回転可能に支持されている。
【0015】
カウンタギヤ機構CGは、第3軸A3上に配置され、入力ギヤIGを介して回転電機2と差動歯車機構DFとを駆動連結している。本実施形態では、カウンタギヤ機構CGは、カウンタ軸XCによって連結された第1カウンタギヤCG1、第2カウンタギヤCG2を有する。即ち、カウンタギヤ機構CGは、第3軸A3上に配置され、入力ギヤIGに噛み合う第1カウンタギヤCG1と、第1カウンタギヤCG1と一体的に回転すると共に差動入力ギヤDG1に噛み合う第2カウンタギヤCG2とを備えている。カウンタ軸XCは、カウンタ軸受B3によってケース1に回転可能に支持されている。
【0016】
上述した通り、本実施形態では、回転電機2と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、回転電機2の側から順に、伝達機構3として、入力ギヤIG、カウンタギヤ機構CG、差動歯車機構DFが設けられている。
【0017】
ところで、車輪Wの駆動源となるような回転電機2では、ステータコイル24に流れる電流も大きく、ステータコイル24の電気抵抗により大きな発熱を伴い易い。上述したように、ステータコイル24は、ステータコア22に巻き回されているが、ステータ23における軸方向Lの端部には、巻き回されたステータコイル24の屈曲部がステータコア22から軸方向Lに突出したコイルエンド部24eが形成される。しばしば、このコイルエンド部24eに冷媒を掛けることによって、ステータコイル24が冷却される。ステータコイル24は、当然ながら導電体であり、この冷媒には非導電性の流体、例えば油等が用いられる。
【0018】
ケース1の内部において、ステータコイル24(コイルエンド部24e)へ油を供給するためには、例えば、ケース1の内部にオイルポンプを設置することが考えられる。このようなオイルポンプは、例えばトロコイドポンプ等の機械式のオイルポンプとして構成され、車両用駆動装置100には当該オイルポンプへの駆動力が入力されるポンプ入力ギヤが備えられることが多い。そして、ポンプ入力ギヤは、例えば伝達機構3における回転部材の1つと一体的に回転するように設けられたポンプ駆動ギヤに噛み合うように配置されることが多い。
【0019】
つまり、このような機械式のオイルポンプを駆動するために、車両用駆動装置100には、ポンプ駆動ギヤとポンプ入力ギヤとのギヤ対を備えることになる。オイルポンプを駆動するために車輪Wを駆動するためのギヤとは別に、ポンプ駆動用のギヤ対を備えと、車両用駆動装置100の小型化や、コストの抑制が妨げられる可能性がある。なお、機械式のオイルポンプのポンプロータを、伝達機構3のいずれかの回転軸と一体的に回転するように連結した構成とすることで、ポンプ駆動用のギヤ対を省略することもできる。しかし、そのような構成とする場合、例えば、機械式のオイルポンプを入力軸XIやカウンタ軸XC等の伝達機構3の回転軸と同軸に配置することになる。その場合、オイルポンプの配置スペースの分だけ、車両用駆動装置100の軸方向Lの寸法が大型化することになり易い。車両用駆動装置100の軸方向Lの配置スペースに制約がある場合には、このような構成を採用できない場合がある。
【0020】
本実施形態の車両用駆動装置100は、車輪Wの駆動源(ここでは回転電機2)と車輪Wとの間で動力を伝達する伝達機構3が収容されたケース1の内部に、上記のようなポンプ駆動用のギヤ対を備える必要なく、また、車両用駆動装置100の軸方向Lの寸法の大型化も抑制することができるように、省スペースでポンプ機能が設けられている点に特徴を有する。以下、そのようなポンプ機能(以下「ポンプ80」として例示する)について、その構成の一例と油の流通経路の一例を示す図3も参照して説明する。
【0021】
ここで、伝達機構3の何れか1つの軸の一部分を対象軸部4とする。本実施形態では、図1に示すように、対象軸部4が、差動歯車機構DFと同軸上に配置され、一方の車輪W(ここでは第2車輪W2)と差動歯車機構DFとを連結する出力軸XO(ここでは第2出力軸XO2)の一部である形態を例示する。差動歯車機構DFの外径よりも径方向内側であって、出力軸XOと軸方向Lの配置領域が重複する領域はデッドスペースになり易い。本実施形態では、このスペースを利用してポンプ機能(ポンプ80)を配置することができる。また、通常、このような出力軸XOは、周りが壁で囲まれていることが多い。従って、本実施形態のようなポンプ機能を配置するのに適している。
【0022】
また、ケース1は、図1及び図3に示すように、対象軸部4の外周面である対象外周面41に対向する内周面である筒状内周面11を備えていると共に、図3に示すように、筒状内周面11に開口する第1開口部51及び第2開口部52と、第1開口部51に連通する第1油路61及び第2開口部52に連通する第2油路62とを備えている。また、図1及び図3に示すように、対象外周面41と筒状内周面11との間には、対象軸部4と一体的に回転する羽根部8が設けられている。
【0023】
羽根部8、第1開口部51、及び第2開口部52が配置された軸方向Lの領域に対して軸方向第1側L1と軸方向第2側L2とのそれぞれには、対象外周面41と筒状内周面11との間における軸方向Lの油の流通を規制する規制部9が設けられている。本実施形態では、一対の規制部9の軸方向Lの間であって、径方向における対象外周面41と筒状内周面11との間の空間が、ポンプ80の油室60として機能する。ここでは、一対の規制部9のうち、油室60に対して軸方向第1側L1に配置された方を第1規制部91とし、油室60に対して軸方向第2側L2に配置された方を第2規制部92とする。本実施形態では、ケース1と対象軸部4を含む軸部材とが径方向に狭い隙間で対向し或いは当接することにより、規制部9が構成されている。ケース1と対象軸部4を含む軸部材とが径方向に狭い隙間で対向している場合、当該隙間が油の流通を規制する絞り部として機能する。第1開口部51は、第2開口部52に対して軸方向第1側L1に離間して配置されている。そして、図3に示すように、第1油路61は、油が貯留された油貯留部Pに連通している。また、第2油路62は、油を供給する対象である供給対象が配置された空間である対象空間Sに連通している。
【0024】
ここで、油貯留部Pとは、ケース1の底部に形成されたオイルパンや、ケース1内におけるオイルパンよりも上側に配置されたキャッチタンクである。オイルパンは、重力によって下降した油をケース1の底部において貯留する。オイルパンに溜まった油は、伝達機構3を構成する何れかの回転部材によって掻き上げられ、入力軸受B1、カウンタ軸受B3、第1出力軸受B5、第2出力軸受B4等の軸受Bを潤滑する。キャッチタンクは、掻き上げられた油を、オイルパンに落下する前に受け止めて一時的に貯留する。本実施形態では、キャッチタンクを油貯留部Pとして例示するが、当然ながらオイルパンであってもよい。
【0025】
また、本実施形態において、油の供給対象には、例えば、上述したようにステータコイル24のコイルエンド部24eが含まれる。この場合、対象空間Sは、コイルエンド部24eが配置されている空間に相当する。尚、図1に示すように、ロータ軸受B2は、コイルエンド部24eと上下方向視で重複する位置に配置されており、コイルエンド部24eを冷却した油の落下によって潤滑することが可能である。従って、ロータ軸受B2も、油の供給対象とすることができ、ロータ軸受B2の配置空間も対象空間Sとすることができる。当然ながら、その他の軸受Bや、ギヤの噛み合い等も供給対象とすることができ、それらの配置空間を対象空間Sとすることができる。
【0026】
また、ステータコイル24を冷却した油は、ステータコイル24との熱交換により、温度が上昇し、冷却性能が低下する。このため、例えば、ポンプ80から対象空間Sまでの油路に油を冷却するオイルクーラー等が備えられていると好適である。
【0027】
ここで、車両が前進する向きに車輪Wが回転している場合の各部の回転状態を正転状態とする。羽根部8は、対象軸部4が正転状態で、油を軸方向第2側L2へ向けて圧送するように構成されている。
【0028】
この構成によれば、対象軸部4の対象外周面41とケース1が備える筒状内周面11との間の空間をポンプ80の油室60とし、対象軸部4及び羽根部8をポンプロータとして、伝達機構3の軸(ここでは第2出力軸XO2)の回転を利用して油貯留部Pから油を吸引して対象空間Sに油を供給することになる。つまり、本実施形態においては、別途オイルポンプや当該オイルポンプを駆動するためのギヤ対等を設けることなく、ケース1内にポンプ機能(ポンプ80)を設けることができ、車両用駆動装置100の部品数低減や小型化を図ることができる。
【0029】
図3に示すように、油貯留部Pに連通する第1油路を通って、第1開口部51からポンプ80の油室60に流入した油は、正転状態で回転する対象軸部4(第2出力軸XO2)に形成された螺旋状の羽根部8により、油室60内を軸方向第1側L1から軸方向第2側L2に向かって圧送される。油室60における軸方向第2側L2には、第2開口部52が配置されており、油室60内を圧送される油は、第2開口部52から第2油路62に流出する。第2油路62を通った油は、対象空間Sに導かれ、油の供給対象(ここでは冷却対象のコイルエンド部24e等)に供給される。
【0030】
このような羽根部8により圧送される油の油圧は、第2油路62を通って対象空間Sに油を導くことができる程度の圧力で充分である。例えば、油圧式の摩擦係合装置等を駆動するための油圧に比べて低い油圧で充分である。従って、このような簡素な構成によって、小規模にポンプ80を構成することができる。
【0031】
尚、本実施形態では、ステータコイル24のコイルエンド部24eに対向して配置された油供給口62aが、ケース1の内部に設けられ、第2油路62から対象空間Sへ油が供給される。即ち、ポンプ80の吐出口である第2開口部52は、第2油路62を介して油供給口62aに連通している。上述したように、車輪Wの駆動源となるような回転電機2では、ステータコイル24に流れる電流も大きく、その線間電圧も百ボルト以上の高い電圧である。油供給口62aと、ステータコイル24との絶縁性を確保するため、図1に示すように、油供給口62aは、非導電性部材Zで構成されている。
【0032】
また、本実施形態において、羽根部8は、対象軸部4の回転軸心(ここでは第1軸A1)を中心軸とすると共に対象外周面41に沿う螺旋状に形成されている。このように、羽根部8が螺旋状に形成されていることにより、第2出力軸XO2の正転状態で、第1開口部51から第2開口部52へ向けて油を効率的に圧送することができる。本例では、羽根部8は、対象軸部4の軸状部分の外周面に対して径方向外側に突出する凸部が、軸方向Lの一方側に向かって位置を次第にずらしながら当該外周面に沿って周回するように延在している。これにより、羽根部8を構成する凸部が、螺旋形の尾根状に形成されている。
【0033】
また、図1及び図3に示すように、羽根部8の外周縁(即ち、対象外周面41の最外周部)と筒状内周面11との隙間Dは、第1開口部51と第2開口部52との軸方向Lの間の全域に亘って一定である。羽根部8の外周縁と筒状内周面11との隙間Dが、ポンプ80として機能する第1開口部51と第2開口部52との軸方向Lの間の全域に亘って一定であることで、ポンプ80の吐出圧を適切に確保することができる。
【0034】
また、図1に示すように、出力軸XO(ここでは第2出力軸XO2)は、内部に形成された軸内油路66を備えている。この軸内油路66は、対象外周面41と筒状内周面11との間に形成される油室60と差動歯車機構DFの内部とを連通するように構成されている。具体的には、軸内油路66は、図1に示すように、油室60に開口する第3開口部53と、差動歯車機構DFの内部、ここでは差動ケースDCの内部に開口する第4開口部54とを備えている。これにより、羽根部8で圧送した油を差動歯車機構DFの内部に供給し、当該油により差動歯車機構DFも潤滑することができる。
【0035】
ところで、上述したように、ポンプ80は、螺旋状の羽根部8を利用して、対象軸部4(第2出力軸XO2)の正転状態で、油室60における第1開口部51の側から第2開口部52の側へ向けて油を圧送する。従って、対象軸部4が逆転状態の場合には、油は第2開口部52の側から第1開口部51の側へ向けて圧送されることになる。つまり、対象空間Sに油が供給されなくなる。対象軸部4が逆転状態となる場合、つまり、車両が後進することは、車両が前進することに比べて頻度は低いと考えられるが、後進の際にも対象空間Sに油が供給されることが好ましい。
【0036】
図4は、車両が後進する場合にも対象空間Sに油を供給することができるような構成を例示している。図4に示すように、本構成では、第1油路61及び第2油路62に加えて、第1開口部51と対象空間Sとに連通する第3油路63と、第2開口部52と油貯留部Pとに連通する第4油路64とがさらに備えられている。そして、第1油路61、第2油路62、第3油路63、第4油路64には、それぞれ一方向弁7が備えられ、それぞれの油路は一方向にのみ油が流れるように構成されている。
【0037】
第1油路61には、第1開口部51から油貯留部Pへ向かう油の流れを規制し、油貯留部Pから第1開口部51へ向かう油の流れを許容する第1一方向弁71が設けられている。第2油路62には、対象空間Sから第2開口部52へ向かう油の流れを規制し、第2開口部52から対象空間Sへ向かう油の流れを許容する第2一方向弁72が設けられている。第3油路63には、対象空間Sから第1開口部51へ向かう油の流れを規制し、第1開口部51から対象空間Sへ向かう油の流れを許容する第3一方向弁73が設けられている。第4油路64には、第2開口部52から油貯留部Pへ向かう油の流れを規制し、油貯留部Pから第2開口部52へ向かう油の流れを許容する第4一方向弁74が設けられている。このような構成により、対象軸部4が正転状態であるか逆転状態であるかに関わらず、対象軸部4の回転を利用して油貯留部Pから油を吸引して対象空間Sに油を供給することができる。
【0038】
対象軸部4が正転状態の場合、羽根部8により、油室60において第1開口部51の側から第2開口部52の側へ油が圧送されるため、第1開口部51の圧力が低下し、第1油路61において油貯留部Pから第1開口部51の方向へ油が流れようとする。第1一方向弁71は、この方向の油の流れを許容するため、第1油路61を通って油貯留部Pから第1開口部51へ油が流れる。また、油室60において第1開口部51の側から第2開口部52の側へ油が圧送されるため、第2開口部52の圧力が上昇し、第2油路62において第2開口部52から対象空間Sの方向へ油が流れようとする。第2一方向弁72は、この方向の油の流れを許容するため、第2油路62を通って第2開口部52から対象空間Sへ油が流れる。
【0039】
また、第1開口部51の圧力が低いため、第3油路63では、対象空間Sから第1開口部51へ向かって油が流れようとする。しかし、第3油路63に備えられた第3一方向弁73は、対象空間Sから第1開口部51へ向かう油の流れを規制するため、第3油路63では油は流れない。同様に、第2開口部52の側の圧力が高いため、第4油路64では、第2開口部52から油貯留部Pへ向かって油が流れようとする。しかし、第4油路64に備えられた第4一方向弁74は、第2開口部52から油貯留部Pへ向かう油の流れを規制するため、第4油路64では油は流れない。4つの油路が一方向弁7により、このように制御されることによって、図3等を参照して上述したように、油貯留部Pから対象空間Sへ油が供給される。
【0040】
対象軸部4が逆転状態の場合、羽根部8により、油室60において第2開口部52の側から第1開口部51の側へ油が圧送されるため、第2開口部52の圧力が低下し、第4油路64において油貯留部Pから第2開口部52の方向へ油が流れようとする。第4一方向弁74は、この方向の油の流れを許容するため、第4油路64を通って油貯留部Pから第2開口部52へ油が流れる。また、油室60において第2開口部52の側から第1開口部51の側へ油が圧送されるため、第1開口部51の圧力が上昇し、第3油路63において第1開口部51から対象空間Sの方向へ油が流れようとする。第3一方向弁73は、この方向の油の流れを許容するため、第3油路63を通って第1開口部51から対象空間Sへ油が流れる。
【0041】
また、第2開口部52の圧力が低いため、第2油路62では、対象空間Sから第2開口部52へ向かって油が流れようとする。しかし、第2油路62に備えられた第2一方向弁72は、対象空間Sから第2開口部52へ向かう油の流れを規制するため、第2油路62では油は流れない。同様に、第1開口部51の側の圧力が高いため、第1油路61では、第1開口部51から油貯留部Pへ向かって油が流れようとする。しかし、第1油路61に備えられた第1一方向弁71は、第1開口部51から油貯留部Pへ向かう油の流れを規制するため、第1油路61では油は流れない。4つの油路が一方向弁7により、このように制御されることによって、対象軸部4が逆転状態であっても、油貯留部Pから対象空間Sへ油が供給される。
【0042】
また、本実施形態のように、第2出力軸XO2が対象軸部4であると、例えば、図5に示すように、車輪Wの駆動源である回転電機2が伝達機構3と切り離し可能に構成されている場合であっても車両が走行していれば(車輪Wが回転していれば)、対象空間Sに油を供給することができる。図5に例示する形態では、回転電機2のロータ軸20と入力軸XIとが、クラッチCLを介して駆動連結されている。クラッチCLが解放状態の場合、回転電機2の駆動力は伝達機構3には伝達されず、対象軸部4にも回転電機2の駆動力が伝達されない。このような状態でも、車輪Wが回転している場合には、伝達機構3の少なくとも一部の軸やギヤが回転するため、これらの軸を支持する軸受やギヤの噛み合い部分に油を供給して潤滑する必要がある。本実施形態では、回転電機2の駆動力が対象軸部4に伝達されない状態であっても、車輪Wの回転に連動して対象軸部4が回転する。従って、車両が走行していれば、回転電機2の駆動状態に拘わらず、ポンプ80を駆動して対象空間Sに油を供給することができる。これにより、軸受やギヤの噛み合い部分等を含む油の供給対象に対して、適切に油を供給することができる。
【0043】
本実施形態の車両用駆動装置100では、対象軸部4が、差動歯車機構DFと同軸上に配置され、一方の車輪Wと差動歯車機構DFとを連結する出力軸XOの少なくとも一部である。このため、対象軸部4と一体的に回転するように設けられている羽根部8は、例えば駆動源がクラッチ等により出力軸XOと切り離されている状態となっても油を圧送することができる。
【0044】
以上、説明したように、本実施形態によれば、車輪Wの駆動源と車輪Wとの間で動力を伝達する伝達機構3が収容されたケース1の内部に省スペースでポンプ機能(ポンプ80)を設けることができる。
【0045】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
(1)上記においては、羽根部8として、対象軸部4の対象外周面41に沿う螺旋状の羽根のみを備えた構成を例示した。しかし、この構成には限定されない。例えば、図6に示すように、上記実施形態と同様の羽根部8である第1羽根状部81に加えて、当該第1羽根状部81と平行に配置された第2羽根状部82を備えた構成とされていても良い。この場合、例えばルーツ型のポンプのように、第2羽根状部82を構成する凸部が、第1羽根状部81を構成する凸部の軸方向Lの間に嵌まり込むように配置されていると好適である。このような構成とすることにより、上記実施形態のように対象外周面41に沿う螺旋状の羽根のみを備えた構成に比べて、油の吐出圧を高めることができる。或いは、羽根部8が、対象外周面41から径方向外側に突出するように設けられたスクリュープロペラ状に形成されていてもよい。
【0047】
(2)上記においては、ケース1と対象軸部4を含む軸部材とが径方向に狭い隙間で対向し或いは当接することにより、規制部9が構成されている形態を例示した。しかし、このような構成に限らず、ケース1と対象軸部4を含む軸部材との間における、油の流通路を密閉するシール部材が設けられ、当該シール部材が規制部9とされていてもよい。
【0048】
(3)上記においては、対象軸部4が、差動歯車機構DFと同軸(第1軸A1)上に配置され、一方の車輪W(ここでは第2車輪W2)と差動歯車機構DFとを連結する出力軸XO(ここでは第2出力軸XO2)の一部である形態を例示した。しかし、対象軸部4は、例えば、差動歯車機構DFと別軸(第3軸A3)上に配置されたカウンタ軸XCの一部であってもよい。或いは、対象軸部4は、ロータ軸20又は入力軸XIの一部であってもよい。また、車両用駆動装置100がその他の軸部材を有する場合には、当該他の軸部材の一部が対象軸部4であってもよい。
【0049】
(4)上記においては、対象軸部4を含む第2出力軸XO2が、内部に形成された軸内油路66を備える形態を例示した。しかし、対象軸部4を含む第2出力軸XO2は、その内部に軸内油路66を備えていなくてもよい。
【0050】
(5)上記においては、羽根部8の外周縁と筒状内周面11との隙間Dが、第1開口部51と第2開口部52との軸方向Lの間の全域に亘って一定である形態を例示した。しかし、これには限定されず、羽根部8の外周縁と筒状内周面11との隙間Dが、軸方向Lの位置に応じて異なる構成とされていてもよい。例えば、吐出口である第2開口部52へ向かうに従って、当該隙間Dが次第に小さくなるように構成されていてもよい。これにより、羽根部8により圧送される油の圧が吐出口に向かうに従って高くなるようにすることもできる。
【0051】
(6)上記においては、図4を参照して、車両が前進する場合も後進する場合もポンプ80が機能して対象空間Sに油を供給する形態を例示した。しかし、車両が後退することは前進することに比べて遙かに頻度が低いため、車両が前進する場合にのみ、対象空間Sに油を供給するように構成されていてもよい。つまり、図3に示すように、第3油路63及び第4油路64を備えることなく、第1油路61及び第2油路62のみを有して構成されていてもよい。この場合において、車両の後進時における油の逆流を抑制するために、図4に例示した形態と同様に、第1油路61に第1一方向弁71が備えられ、第2油路62に第2一方向弁72が備えられていても好適である。
【符号の説明】
【0052】
1:ケース、2:回転電機(駆動源)、3:伝達機構、4:対象軸部、7:一方向弁、8:羽根部、9:規制部、11:筒状内周面、41:対象外周面、51:第1開口部、52:第2開口部、60:油室、61:第1油路、62:第2油路、63:第3油路、64:第4油路、66:軸内油路、71:第1一方向弁、72:第2一方向弁、73:第3一方向弁、74:第4一方向弁、100:車両用駆動装置、D:隙間、DF:差動歯車機構、L:軸方向、L1:軸方向第1側、L2:軸方向第2側、P:油貯留部、S:対象空間、W:車輪、XO:出力軸、XO2:第2出力軸(出力軸)
図1
図2
図3
図4
図5
図6