(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ナノセルロース分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/02 20060101AFI20240501BHJP
C08B 5/00 20060101ALI20240501BHJP
C08B 5/14 20060101ALI20240501BHJP
C08B 11/10 20060101ALI20240501BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20240501BHJP
C08B 15/02 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08J3/02 A CEP
C08B5/00
C08B5/14
C08B11/10
C08B15/00
C08B15/02
(21)【出願番号】P 2021509263
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012055
(87)【国際公開番号】W WO2020196175
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019055405
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】木下 友貴
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031696(JP,A)
【文献】特開2013-253200(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108359017(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28、99/00
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノセルロースと25℃における誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒とを含むナノセルロース分散液であって、前記ナノセルロースが
、繊維幅が50nm以下、繊維長が500nm以下、結晶化度が60%以上のセルロースナノクリスタルであり、硫酸処理由来の硫酸基及び/又はスルホ基、及び親水化処理由来のアニオン性官能基を含有しており、前記硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が0.20mmol/g
より多く且つ4mmol/g以下であり、前記ナノセルロースを固形分基準で1質量%含有する沈殿やゲルを生じていない分散液の600nmの全光線可視光線透過率が10%T以上であることを特徴とするナノセルロース分散液。
【請求項2】
前記アニオン性官能基が、硫酸基、スルホ基、リン酸基、カルボキシル基のうちの少なくとも1つである請求項1記載のナノセルロース分散液。
【請求項3】
ナノセルロースを硫酸処理する工程、該硫酸処理されたナノセルロースを親水化処理することにより、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有
セルロースナノクリスタル水分散液を調製し、
前記セルロースナノクリスタルが、繊維幅が50nm以下、繊維長が500nm以下、結晶化度が60%以上のセルロースナノクリスタルであり、前記水分散液を25℃における誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒で溶媒置換することを特徴とするナノセルロース分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロース分散液及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、アニオン性官能基含有セルロースナノクリスタルがアルコール等のプロトン性極性溶媒中に透明性が維持された状態で分散する分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロースナノファイバーから成る膜やセルロースナノファイバーを含有する積層体等の材料は、セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用から、ガスの溶解、拡散を抑制できるため酸素バリア性等のガスバリア性に優れていることが知られており、セルロースナノファイバーを利用したバリア材料が提案されている。
セルロース繊維の微細化のため、機械的処理と共に、カルボキシル基やリン酸基等の親水性の官能基を、セルロースの水酸基に導入する化学的処理を行うことが行われており、これにより微細化処理に要するエネルギーを低減可能であると共に、バリア性や水系溶媒への分散性が向上する。
【0003】
上記のように親水性官能基が導入されたセルロースナノファイバーにおいては、水系溶媒への分散性が向上されているとしても、疎水性の樹脂に対する分散性の点で未だ十分満足するものではなかった。
このような問題を解決するために、下記特許文献1には、少なくとも、カルボキシル基が導入されたセルロースと、分散媒とを含む分散体において、該カルボキシル基が対イオンとして有機オニウムイオンを含み、さらに該分散媒に水を含まないことを特徴とするセルロースナノファイバー分散体が提案されている。
また下記特許文献2には、カルボキシル基が導入されたセルロース繊維と有機溶媒とを含み、上記カルボキシル基は、対イオンとしてアルカリのイオンを含むカルボキシル基であることを特徴とする微細セルロース繊維分散液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-101694号公報
【文献】特開2015-196693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2に記載されたセルロースナノファイバー含有分散液においては、セルロースナノファイバーを親水化するための酸化処理を行った後、該酸化で得られたカルボキシル基含有セルロースを第4級アンモニウム化合物等を用いて対イオン置換する工程が必要となり、工程数が多いという問題がある。また対イオンの溶出や混入による弊害を考慮する必要もある。また対イオンの存在によりガスバリア性が低下するといった問題もある。
【0006】
従って本発明の目的は、対イオンによる弊害の懸念がない、ナノセルロースがアルコール等のプロトン性極性溶媒に分散して成る分散液、及びこの分散液を煩雑な工程を経ることなく製造可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ナノセルロースと25℃における誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒とを含むナノセルロース分散液であって、前記ナノセルロースが、繊維幅が50nm以下、繊維長が500nm以下、結晶化度が60%以上のセルロースナノクリスタルであり、硫酸処理由来の硫酸基及び/又はスルホ基、及び親水化処理由来のアニオン性官能基を含有しており、前記硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基の総量が0.20mmol/gより多く且つ4mmol/g以下であり、前記ナノセルロースを固形分基準で1質量%含有する沈殿やゲルを生じていない分散液の600nmの全光線可視光線透過率が10%T以上であることを特徴とするナノセルロース分散液が提供される。
本発明のナノセルロース分散液においては、前記アニオン性官能基が硫酸基、スルホ基、リン酸基、カルボキシル基のうちの少なくとも1つであることが好適である。
【0008】
本発明によればまた、ナノセルロースを硫酸処理する工程、該硫酸処理されたナノセルロースを親水化処理することにより、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有セルロースナノクリスタル水分散液を調製し、前記セルロースナノクリスタルが、繊維幅が50nm以下、繊維長が500nm以下、結晶化度が60%以上のセルロースナノクリスタルであり、前記水分散液を25℃における誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒で溶媒置換することを特徴とするナノセルロース分散液の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のナノセルロース分散液においては、セルロースナノクリスタルの親水化処理により調製された硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基を有するナノセルロースを用いることにより、アルコール等の誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒に分散させることが可能になり、従来の対イオンが導入されたセルロース分散液のように、対イオンによる弊害のおそれがなく、優れた溶媒分散性を得ることが可能になる。
また本発明のナノセルロース分散液は、優れた透明性を有しており、ナノセルロース(固形分)1質量%の沈殿やゲルを生じていない分散液で600nmにおいて10%T以上の可視光線透過率を有する分散液として調製することが可能である。更に、分散液の分散媒として誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒を用いることにより、疎水性樹脂にも親和性を有すると共に、ナノセルロース分散液を用いて成形体を製造する際の乾燥時間或いは加熱時間を短縮化することも可能となる。
更に本発明のナノセルロース分散液に用いる、硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基を有するセルロースナノクリスタルは緻密な自己組織化構造を形成することが可能であり、優れたガスバリア性を発現することもできる。
本発明のナノセルロース分散液の製造方法においては、対イオン置換工程が不要であり、上記特徴を有するナノセルロース分散液を生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ナノセルロース分散液)
本発明のナノセルロース分散液においては、硫酸処理由来の硫酸基及び/又はスルホ基、及び親水化処理由来のアニオン性官能基を含有するナノセルロースが、誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒中に分散していることが第一の重要な特徴である。
本発明のナノセルロース分散液が対イオン置換工程を要することなく、ナノセルロースがプロトン性極性溶媒中に分散可能な理由は以下の通りである。すなわち、本発明で使用する硫酸処理由来の硫酸基及び/又はスルホ基、及び親水化処理由来のアニオン性官能基を有するセルロースナノクリスタルから成るナノセルロースは、ナノセルロース表面に存在する硫酸基及び/又はスルホ基やカルボキシル基等のアニオン性官能基が有する電荷(アニオン)により、隣接する繊維との間に電気二重層を形成し、繊維相互間に反発し合う力(斥力)が生じている。また、セルロースナノクリスタルはその繊維長が短いことから、セルロースナノファイバーに比して繊維同士が分離しやすいという特徴を有している。そのため、このナノセルロースは繊維間にプロトン性極性溶媒を容易に引き込むことができ、繊維間に引き込まれたプロトン性極性溶媒による溶媒浸透圧と、セルロースナクリスタルの上記斥力とが相俟って、ナノセルロースの孤立分散性が高められ、プロトン性極性溶媒へのナノセルロースの良好な分散性を得ることが可能になる。またプロトン性極性溶媒は、極性を有することによりファンデルワールス力の影響を低減でき、上述したナノセルロースのプロトン性極性溶媒中での良好な分散性を損なうことが有効に防止されている。
【0011】
また本発明においては、セルロースナノクリスタル表面に存在する硫酸基、スルホ基やカルボキシル基を含むアニオン性官能基の総量が0.20~4mmol/g、特に0.25~2.0mmol/gの範囲の量で存在していることが第二の重要な特徴である。上記範囲よりもアニオン性官能基の量が少ない場合には、十分な斥力を得ることができず、プロトン性極性溶媒中での分散性が低下する。その一方上記範囲よりもアニオン性官能基の量が多い場合には、ナノセルロースの結晶構造が維持できず、ナノセルロースが有する、ガスバリア性等の優れた性能が損なわれるおそれがある。
【0012】
本発明においては、セルロースナノクリスタルが、硫酸処理により加水分解されたセルロースナノクリスタルであることにより、自己組織化構造の形成に寄与する硫酸基及び/又はスルホ基を既に含有している。すなわち、セルロースナノクリスタルには、セルロース繊維を硫酸処理或いは塩酸処理により酸加水分解するものがあるが、塩酸処理によるセルロースナノクリスタルは電気二重層の形成に寄与する硫酸基及び/又はスルホ基を有しないため、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルのように、プロトン性極性溶媒中での分散性の向上を図ることができない。
ナノセルロールが有するアニオン性官能基は、後述するナノセルロースの親水化処理の方法によって決まり、特にカルボキシル基、リン酸基、硫酸基及び/又はスルホ基であることが好適である。
【0013】
ナノセルロースは、繊維幅が50nm以下、特に10~50nmであり、繊維長が500nm以下、特に100~500nmの範囲にあることが好ましく、これにより繊維が分離しやすく、良好な分散性に寄与できると共に、優れたガスバリア性も発現可能になる。
またナノセルロースは結晶化度が60%以上であることが好ましい。
本発明においては、上記条件を満足する限り、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が5~50であるセルロースナノクリスタル及び/又は繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上のセルロースナノファイバーを含有することもできる。
すなわち、出発物質である、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が5~50の範囲にあるセルロースナノクリスタルがそのままの状態で含有される場合や、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上のセルロースナノファイバーを所望により含有させてもよい。
【0014】
本発明のナノセルロース分散液において分散媒となる、25℃における誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒(プロトン供与性を持つ極性溶媒)としては、これに限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒の他、アセトン、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、ニトロメタン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)等を例示できる。これらの溶媒は1種、または2種以上を混合して使用でき、ナノセルロース分散液の用途に応じて選択使用することができる。中でもエタノールや2―プロパノールを好適に使用することができる。なお、水の誘電率(20℃)は80であり、水のみから成る分散媒は除外される。
【0015】
(ナノセルロース分散液の製造方法)
本発明のナノセルロース分散液は、セルロース原料を硫酸処理することにより得られた、硫酸基及び/又はスルホ基含有セルロースナノクリスタルを、親水化処理することにより硫酸基及び/又はスルホ基、及びアニオン性官能基含有ナノセルロース水分散液を調製した後、このナノセルロース水分散液をプロトン性極性溶媒で溶媒置換することによって製造することができる。尚、セルロースナノクリスタルの親水化処理の前後に、必要により、解繊処理、分散処理に付することができる。
【0016】
[セルロースナノクリスタル]
本発明のナノセルロースの原料として使用される、セルロースナノクリスタルは、パルプなどのセルロース繊維を硫酸や塩酸で酸加水分解処理することにより得られる、ロッド状のセルロース結晶繊維であるが、本発明においては、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を有する、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルを使用する。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基を0.01~2.0mmol/g、特に0.01~0.2mmol/gの量で含有することが好適である。またセルロースナノクリスタルは、平均繊維径が50nm以下、特に2~50nm、の範囲にあり、平均繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
ナノセルロースは、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルに後述する親水化処理を施すことにより得られるが、上述したとおり、従来の酸化方法によって製造された、繊維幅が50nm以下でアスペクト比が10以上であるセルロースナノファイバーを、アニオン性官能基(硫酸基及び/又はスルホ基を含む)を含有するナノセルロースが有する優れたバリア性や取扱い性を損なわない範囲で含有させてもよく、具体的には、セルロースナノクリスタルの50%未満の量で使用することができる。
【0017】
[親水化処理]
本発明においては、上述した硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルの親水化処理を行うことにより、硫酸基及び/又はスルホ基の量を調整、或いは、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基をセルロースの6位の水酸基に導入し、硫酸基及び/又はスルホ基、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が0.20~4.0mmol/g、特に0.25~2.0mmol/gの範囲にあるナノセルロースを調製する。尚、硫酸基又はリン酸基は、それぞれ硫酸エステル基又はリン酸エステル基をも含む概念である。
親水化処理としては、ネバードライ処理、又はネバードライ処理と、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを組み合わせて行う。カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基の量が調整されると共に、ナノセルロースが更に短繊維化される。またリン酸-尿素又はTEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基又はカルボキシル基のアニオン性官能基が導入されて、ナノセルロールの総アニオン性官能基量が上記範囲に調整される。
尚、親水化処理は、アニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0018】
<ネバードライ処理による親水化処理>
セルロースナノクリスタルは、スプレードライ、加熱、減圧などによる乾燥処理を行ってパウダー等の固形化を経るが、乾燥処理による固形化の際にセルロースナノクリスタルに含有するアニオン性官能基の一部が脱離して親水性が低下する。すなわち、アニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルについてパウダー等の固形化を経ないネバードライ処理は親水化処理として挙げられる。アニオン性官能基は、硫酸基及び/又はスルホ基、リン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0019】
<カルボジイミド用いた親水化処理>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmol及び5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
カルボジアミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0020】
<硫酸を用いた親水化処理>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成るものであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~60質量%で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0021】
<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコールユニットの6位の水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基を導入する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
反応後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理によって不純物等を除去し、得られた濃縮液を水に分散させることにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0022】
<リン酸-尿素を用いた親水化処理>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロールグルコースユニットの水酸基にリン酸基を導入する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に単独または混合して使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0023】
<TEMPO触媒を用いた親水化処理>
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルの他、4-アセトアミドーTEMPO、4-カルボキシーTEMPO、4-フォスフォノキシーTEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
【0024】
また親水化酸化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。酸化剤を添加して一定時間が経過した後、更に酸化剤を加えることで追酸化処理することもできる。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水やアルコール溶媒を反応媒体とすることが好ましい。
【0025】
親水化処理の反応温度は1~50℃、特に10~50℃の範囲であり、室温であってもよい。また反応時間は1~360分、特に60~240分であることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗などにより除去する。
【0026】
[解繊処理]
本発明で用いるナノセルロースは、原料として繊維長の短いセルロースナノクリスタルを使用するので、必ずしも必要ではないが、親水化処理後に解繊処理を行うこともできる。
解繊処理は、従来公知の方法によって行うことができ、具体的には、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、グラインダー、高速ブレンダ―、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル、離解機、叩解機、二軸押出機等を使用して微細化することができる。
解繊処理は、親水化処理後のナノセルロースの状態や、ナノセルロースの用途に応じて、乾式又は湿式の何れで行うこともできる。ナノセルロースは、分散液の状態で使用することが好適であることから、水等を分散媒として超高圧ホモジナイザー等により解繊することが好適である。
【0027】
[分散処理]
本発明に用いるナノセルロースは、後述する溶媒置換工程に水分散液の状態で付されることから、分散処理に付して水分散液とする。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
【0028】
[溶媒置換処理]
上記分散処理により得られたナノセルロース水分散液は、前述した25℃における誘電率が15以上80未満のプロトン性極性溶媒で溶媒置換することにより、本発明のナノセルロース分散液となる。
溶媒置換の方法としては、ナノセルロース水分散液を、遠心分離機や、フィルタを用いた濾過等の脱水方法により水分散液の水分を除去しながら又はした後、プロトン性極性溶媒と混合することによって行うことができる。溶媒置換処理後、上記分散処理と同様の方法によりナノセルロースをプロトン性極性溶媒中に分散させることによって沈殿やゲルを生じていないナノセルロース分散液が調製される。
上記溶媒置換処理されたナノセルロースを含有する分散液は、プロトン性極性溶媒としてエタノールを用いた場合、固形分1質量%の分散で乾燥時間が水に比べて短いことから、取扱い性、塗工性に優れている。
また得られたナノセルロース分散液は、ナノセルロース(固形分)1質量%の沈殿やゲルを生じていない分散液で600nmの可視光線透過率が10%T以上の優れた透明性を有している。
【0029】
(ナノセルロース分散液の利用)
本発明のナノセルロース分散液は、短時間での乾燥・加熱により溶媒を除去することが可能であり、それ単独で、ナノセルロースの緻密な自己組織化構造が形成されたガスバリア性に優れたフィルムやシート等の成形体を容易に成形することができる。また本発明のナノセルロース分散液は疎水性の樹脂に対しても親和性を有することから、樹脂の希釈剤等としても使用することができ、後述するように、他の樹脂との混合物として成形体にガスバリア性を付与することもできる。
本発明のナノセルロース分散液には、ガスバリア性を更に向上するために層状無機化合物を配合することもできる。このような層状無機化合物としては、カオリナイト、モンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、テトラシリシックマイカ、ハイドロタルサイト等を例示できる。
層状無機化合物の配合量は、ナノセルロース分散液中にナノセルロース100質量%に対して10~50質量%の量で配合することが好適である。
本発明のナノセルロース分散液には、上記層状無機化合物の他、水溶性高分子、抗菌材、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、架橋剤、微粒子、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0030】
[多価カチオン樹脂との混合物から成る成形体]
本発明のナノセルロース分散液は、上述したとおりそれ単独で成形体を成形することも可能であるが、多価カチオン樹脂から成る層上にナノセルロース分散液から成る層を形成することによって、ガスバリア性及び基材への密着性を発現可能な混合状態を有する混合物の成形体として成形できる。すなわち、前述したナノセルロースが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びナノセルロースが混合された混合物から成る成形体を成形することができ、この成形体の最外部の表面付近から最内部の表面(例えば熱可塑性樹脂から成る基材上に形成した場合には基材方向)までナノセルロースと多価カチオン樹脂が存在している。
上記ナノセルロースと多価カチオン樹脂を含有する混合物から成る成形体は、ナノセルロースを固形分として1m2当たり1.0g含有する場合の23℃0%RHにおける酸素透過度が5(cc/m2・day・atm)未満と、優れた酸素バリア性を発現可能であると共に、基材上に成形体を成形した場合に、基材層との密着性を顕著に向上可能な成形体である。
【0031】
多価カチオン樹脂としては、水溶性あるいは水性分散性の多価カチオン性官能基を含有する樹脂である。このような多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、キチン、キトサン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミンポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0032】
多価カチオン樹脂含有溶液は、多価カチオン樹脂を固形分基準で0.01~30質量%、特に0.1~10質量%の量で含有する溶液であることが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ガスバリア性及び界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くてもガスバリア性及び界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
【0033】
多価カチオン樹脂含有溶液は、ナノセルロース分散液から形成される層中のナノセルロース量(固形分)を基準に、多価カチオン樹脂含有溶液の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、ナノセルロース(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗工することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ポリエステル樹脂などの疎水性の基材に対する界面剥離強度の向上を図ることができず、その一方、上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、成形体のガスバリア性の向上が得られないおそれがある。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0034】
ナノセルロース分散液は、ナノセルロースが固形分基準で0.01~10質量%、特に0.5~5.0質量%の量で含有されていることが好ましく、上記範囲よりも少ない場合には、上記範囲にある場合に比してガスバリア性が劣るようになり、その一方上記範囲より多いと上記範囲にある場合に比して塗工性や製膜性に劣るようになる。
またナノセルロース分散液は、プロトン性極性溶媒だけでもよいが、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤との混合溶媒であってもよい。
ナノセルロース分散液は、ナノセルロース(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗工することが好ましい。
ナノセルロース分散液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、温度5~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂から成る基材上に多価カチオン樹脂含有溶液を塗布・乾燥した後、ナノセルロース分散液を塗布・乾燥することにより、基材上に、ナノセルロース及び多価カチオン樹脂の混合物から成る成形体が形成された積層体として製造することもできる。また多価カチオン樹脂含有溶液及びナノセルロース分散液をこの順序でそれぞれ塗布・乾燥させてキャストフィルムとして形成し、ガスバリア性フィルムとして使用することもできる。
基材としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、アクリル系樹脂、等の従来公知の熱可塑性樹脂を用い、ラミネート成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、紙基材の表層、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、パウチ状等の成形体を例示できる。
【0036】
[水酸基含有高分子との混合物から成る成形体]
また本発明のナノセルロース分散液は、水酸基含有高分子を配合することにより、ガスバリア性が更に向上したナノセルロース含有組成物とすることもできる。
水酸基含有高分子は、分子内に水酸基を有する高分子であり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース、でんぷん、その他多糖等を挙げることができ、特にポリビニルアルコールを用いることがガスバリア性の観点から好ましい。
ナノセルロース分散液において、水酸基含有高分子はナノセルロース100質量部対して、10~50質量部(固形分)となるように配合することが好適である。また、上述した充填剤、架橋剤、着色剤等の添加剤を配合することもできる。
このナノセルロース含有組成物も、それ単独でキャストフィルムとして形成できるが、前述した熱可塑性樹脂から成る基材上に塗布・乾燥することにより積層構造を有する成形体を成形できる。
ナノセルロース含有組成物の塗布方法及び乾燥方法は、上述したナノセルロース分散液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、水酸基含有高分子としてポリビニルアルコールを用いた場合で温度5~200℃で1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0038】
<アニオン性官能基量>
ナノセルロース分散液を秤量し、イオン交換水を加えて0.05~0.3質量%のナノセルロース含有分散液100mlを調製した。陽イオン交換樹脂を0.1g加えて攪拌処理した。その後ろ過を行い陽イオン交換樹脂とナノセルロース分散液を分離した。陽イオン交換後の分散液に対して電位差自動滴定装置(京都電子社製)を用いて0.05M水酸化ナトリウム溶液を滴下し、ナノセルロース分散液が示す電気伝導度の変化を計測した。得られた伝導度曲線からアニオン性官能基の中和の為に消費された水酸化ナトリウム滴定量を求め、下記式(1)を用いてアニオン性官能基量(mmol/g)を算出した。
アニオン性官能基量(mmol/g)=アニオン性官能基の中和の為に消費した水酸化ナトリウム滴定量(ml)×前記水酸化ナトリウム濃度(mmol/ml)÷ナノセルロースの固形質量(g)・・・(1)
【0039】
<可視光線透過率>
分光光度計(UV-3100PC、島津製作所)を用いて1質量%のナノセルロース分散液の600nmにおける可視光線透過率(%T)を求めた。
【0040】
<実施例1>
<水に分散したナノセルロース水分散液の調製>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をN,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して分散させた。N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して1-エチル-3-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成工業株式会社製)が10mmol溶解した溶液をセルロースナノクリスタル分散液に加えて5分間分散した。その後N,N-ジメチルホルムアミド5mlに対して硫酸が10mmol分散された溶液をセルロースナノクリスタル分散液にゆっくり加え、前記セルロースナノクリスタルを0℃で60分間攪拌しながら親水化処理させることでナノセルロース分散液を調製した。その後イオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を添加し、透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース分散液を精製した。この精製されたナノセルロース分散液にイオン交換水を加えてミキサーで分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%の水に分散したナノセルロース水分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.7mmol/gであった。
【0041】
<エタノールに分散したナノセルロース分散液の調製>
前記ナノセルロース水分散液についてエタノールを連続的に供給しながら30nmの細孔を持つフィルタで圧力を掛けてろ過することで溶媒置換し、ナノセルロースの固形量が1質量%のエタノールに分散したナノセルロース分散液を調製した。エタノールは水の量に対して10倍量を供給した。またろ過圧力は0.2MPaで行った。
【0042】
<実施例2>
尿素2.4g、リン酸二水素アンモニウム1g及びイオン交換水3gに対して溶解させたリン酸溶液を調製し、前記リン酸溶液にパルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル2g(固形量)を加えて分散処理した。多重安全式乾燥機(二葉科学製)を用いて165℃で15分間セルロースナノクリスタル分散液を蒸発させながら加熱を行い、前記セルロースナノクリスタルを親水化処理した。その後イオン交換水を100ml加えて分散処理し、超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いて洗浄した。更にイオン交換水と水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを12に調整し、イオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を精製した。この精製されたナノセルロース含有分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%の水に分散したナノセルロース水分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.8mmol/gであった。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて実施例1と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%のエタノールに分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0043】
<実施例3>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル10g(固形量)の水分散液に対しTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.8mmolと臭化ナトリウム12.1mmolを添加し、イオン交換水を加えて1Lにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後5mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持し、30℃で4時間攪拌しながら親水化処理を行った。親水化処理したセルロースナノクリスタルはイオン交換水を加えながら超遠心分離機(50000rpm、10分)を用いてpHが8になるまで洗浄した。その後透析膜(スペクトラム社製・分画分子量3500~5000D)の内部に入れてイオン交換水中で静置して不純物等を除去しナノセルロース含有分散液を精製した。この精製されたナノセルロース分散液にイオン交換水を加えて分散処理することでナノセルロースの固形量が1質量%の水に分散したナノセルロース水分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.9mmol/gであった。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて実施例1と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%のエタノールに分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0044】
<実施例4>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによってセルロースナノクリスタルを調製した。前記セルロースナノクリスタルを乾燥固化させず超遠心分離機にて濃縮と洗浄を行うことでネバードライ処理したセルロースナノクリスタルを調製し、最終的にセルロースナノクリスタルが固形分1質量%になるようにイオン交換水に加え、超音波分散機にて10分処理することでナノセルロース水分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.25mmol/gであった。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて実施例1と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%のエタノールに分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0045】
<実施例5>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによってセルロースナノクリスタルを調製した。前記セルロースナノクリスタルを乾燥固化させず超遠心分離機にて濃縮と洗浄を行うことでネバードライ処理したセルロースナノクリスタルを調製し、最終的にセルロースナノクリスタルが固形分1質量%になるようにイオン交換水に加え、超音波分散機にて10分処理することでナノセルロース水分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.25mmol/gであった。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて、2-プロパノールを用いたこと以外は実施例1と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%の水と2-プロパノールが50wt%/50wt%の混合液に分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0046】
<比較例1>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行うことでナノセルロースの固形量が1質量%の水に分散したナノセルロース水分散液を得た。ナノセルロースのアニオン性官能基量は0.1mmol/gであった。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて実施例1と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%のエタノールに分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0047】
<比較例2>
パルプを36質量%の塩酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行うことでナノセルロースの固形量が1質量%の水に分散したナノセルロース水分散液を得た。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて実施例1と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%のエタノールに分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0048】
<比較例3>
パルプを36質量%の塩酸で分解処理することによって調製したセルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加えて分散処理を行うことでナノセルロースの固形量が1質量%の水に分散したナノセルロース水分散液を得た。その後、前記方法で製造された1質量%のナノセルロース水分散液を用いて2―プロパノールを用いた実施例5と同様に溶媒置換を行い、ナノセルロースの固形量が1質量%の水と2-プロパノールが50wt%/50wt%の混合液に分散したナノセルロース分散液を調製した。
【0049】