(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】医療用チューブクランプ
(51)【国際特許分類】
A61M 39/28 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
A61M39/28 110
(21)【出願番号】P 2021553556
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039878
(87)【国際公開番号】W WO2021079980
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019194009
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/111310(WO,A1)
【文献】特表2001-527441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の医療用チューブを圧迫して閉塞するクランプであって、
第1凸部が形成された第1プレートと、
前記第1プレートと対向配置され、前記第1凸部と共に医療用チューブを圧迫する第2凸部が形成された第2プレートと、
前記第1及び前記第2プレートの長さ方向一端部同士を連結する部分であって、当該各プレートが互いに接近するように弾性変形可能な連結部と、
前記第1プレートから前記第2プレート側に延出して形成され、前記第2プレートの長さ方向他端部を係止して前記医療用チューブの閉塞状態を保持するロック手段と、
を備え、
前記第1プレー
トには、幅方向両端部に立設する一対の側壁が形成され、
前記第2プレー
トには、
前記第2プレートの幅方向中央部において前記長さ方向他端部から前記第2凸部まで長さ方向に沿って形成され、前記第1プレート側に突出した噛込防止片と、
前記第2プレートの幅方向両端側から幅方向中央側に向かって
前記第1プレートに近づくように傾斜したスロープ面
と、
が形成され、
前記スロープ面は、
前記第2プレートの幅方向に対する傾斜角度θが10°~60°であ
り、前記第2プレートの幅方向中央部において前記噛込防止片よりも前記第1プレート側に突出している、医療用チューブクランプ。
【請求項2】
前記スロープ面の傾斜角度θは、25°~45°である、請求項1に記載の医療用チューブクランプ。
【請求項3】
前記第1凸部と前記第2凸部の一方が他方よりも尖っている、請求項1又は2に記載の医療用チューブクランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用チューブクランプに関し、より詳しくは、可撓性の医療用チューブを圧迫して閉塞するクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野では、血液等の体液の体外循環回路、体外循環回路に接続される補助回路、薬液等の輸液ラインなどを構成する管体として、可撓性の医療用チューブが使用されている。そして、医療用チューブには、所望の位置でチューブを圧迫して閉塞するためのクランプが装着される場合がある。医療用チューブに適用されるクランプとしては、片手で操作可能な樹脂製のクランプが広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、互いに連結された2枚のプレートの各対向面にチューブを圧迫する凸部が形成され、各プレートが互いに接近した位置でプレートを固定してチューブの閉塞状態を保持するロック手段が設けられた樹脂製のクランプが開示されている。ロック手段は、2枚のプレートが互いに接近してチューブが圧迫される状態でプレートを固定(ロック)することにより、チューブの閉塞状態を保持する。特許文献1に開示されたクランプは、正常なロック状態となる所定位置からプレートが大きくずれないように、プレートを正常な所定位置にガイドするセンタリング機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、医療用チューブは目視して操作されずにクランプがロックされ、チューブが正常に圧迫されない場合がある。この場合、チューブの閉塞性が低下してリークが発生する。このような事態を防止する機構として、特許文献1に開示されたクランプは、プレートを正常な位置にガイドするセンタリング機能を開示している。ところが、特許文献1のクランプについて種々検証を行ったところ、外径が大きなチューブに用いた場合にセンタリング機能が十分に発揮されずにロックされてしまうという事象が新たに発見された。即ち、外径が大きなチューブはクランプ操作において早い段階でクランプの各凸部により弾性変形する。このため、チューブの反発力及びチューブが幅方向に広がることによる幅方向の接触面積の増加により各凸部とチューブとの間の摩擦力が極めて大きくなり、センタリング機能が作用しても摩擦力によって各プレートが幅方向に相対移動しないという事象が発見された。このような場合、センタリング機能の構成上、各プレートが幅方向に相対移動しないことで接近方向にも移動せず、ロックが生じないはずであるが、プレートの幅方向端部に過剰な押圧力が加えられると、各プレートがずれた状態のまま連結部が変形してプレートが傾き、プレートの角部が係止部に係止され、センタリングされていない状態でロックされてしまう事象が起きうることが新たに発見された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る医療用チューブクランプは、可撓性の医療用チューブを圧迫して閉塞するクランプであって、第1凸部が形成された第1プレートと、前記第1プレートと対向配置され、前記第1凸部と共に医療用チューブを圧迫する第2凸部が形成された第2プレートと、前記第1及び前記第2プレートの長さ方向一端部同士を連結する部分であって、当該各プレートが互いに接近するように弾性変形可能な連結部と、前記第1プレートから前記第2プレート側に延出して形成され、前記第2プレートの長さ方向他端部を係止して前記医療用チューブの閉塞状態を保持するロック手段と、を備え、前記第1プレート及び前記第2プレートの一方には、幅方向両端部に立設する一対の側壁が形成され、前記第1プレート及び前記第2プレートの他方には、幅方向両端側から幅方向中央側に向かって対向するプレートに近づくように傾斜したスロープ面が形成され、前記スロープ面は、それが形成されたプレートの幅方向に対する傾斜角度θが10°~60°であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る医療用チューブクランプは、アンロック状態において、チューブを圧迫する2枚のプレートの間隔が、連結部から離れた長さ方向他端側で広がるように第2プレートが第1プレートに対して傾斜した構造を有することが好ましい。また、本発明に係る医療用チューブクランプは、医療用チューブの外径が大きいものに好適であり、例えば、医療用チューブの外径が組み付け前のクランプの第1凸部と第2凸部の間隔と比して同等又は大きいもの、即ち、アンロック状態において、クランプの第1凸部と第2凸部が医療用チューブの外面に接触しているものに好適である。本発明に係る医療用チューブクランプでは、第2プレートの長さ方向他端部を第1プレート側に押すことで、各プレートの第1凸部と第2凸部の間隔が小さくなってチューブが圧迫される。そして、押された第2プレートの長さ方向他端部がロック手段によって係止されることにより、チューブが閉塞されたロック状態が保持される。
【0008】
上記構成を備えた医療用チューブクランプによれば、第2プレートを斜めに押すような不適切な操作がなされた場合に、第2プレートのスロープ面が第1プレートの側壁に接触し、スロープ面における側壁との接触点が当該スロープ面の上端側にスライドする。その結果、第2プレートがクランプの内側に移動する。即ち、不適切な操作がなされても、チューブを確実に閉塞可能な正常な位置に第2プレートをセンタリングして正常なロック状態を容易に確保できる。したがって、上記構成を備えた医療用チューブクランプによれば、医療用チューブを迅速かつ確実に閉塞することが可能となる。
【0009】
本発明に係る医療用チューブクランプにおいて、前記スロープ面の傾斜角度θは、10°~60°の急傾斜面を形成しており、傾斜面から側壁に対して作用する側方向への力が大きい。その結果、医療用チューブの外径が大きい場合等においても摩擦力に抗して第2プレートが内側にガイドされて、第2プレートを斜めに押すような不適切な操作がなされた場合に、正常なロック状態を確保することが容易になる。なお、スロープ面の傾斜角度θは、25°~45°であることが好ましく、30°~45°がより好ましい。当該構成によれば、第2プレートのセンタリングに必要な力が大幅に低減され、よりスムーズなセンタリングが可能となる。その結果、第2プレートを斜めに押すような不適切な操作がなされた場合に、正常なロック状態を確保することが更に容易になる。
【0010】
また、第1凸部と第2凸部の一方が他方よりも尖っているように形成してもよい。その結果、医療用チューブの圧迫に必要な力が小さくなって操作性が向上すると共に、医療用チューブの閉塞性も向上する。このため、比較的閉塞し難い外径が小さい医療用チューブに対しても好適なクランプとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、良好な操作性を確保しつつ、不適切な操作がなされた場合であってもより確実にチューブを閉塞することが可能な医療用チューブクランプを提供できる。本発明に係る医療用チューブクランプによれば、例えば、第2プレートを斜めに押すような操作がなされた場合に、チューブを確実に閉塞できる正常な位置に第2プレートをセンタリングして正常なロック状態を容易に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の一例である医療用チューブクランプの斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態の一例である医療用チューブクランプの側面図である。
【
図3】本発明の実施形態の一例である医療用チューブクランプのアンロック状態を示す側面図である。
【
図4】本発明の実施形態の一例である医療用チューブクランプのロック状態を示す側面図である。
【
図7】本発明の実施形態の一例である医療用チューブクランプにおいて、スロープ面の傾斜角度θとクランプのロックに必要な力の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、本明細書において、「数値(A)~数値(B)」との記載は特に断らない限り、数値(A)以上数値(B)以下を意味する。
【0014】
以下では、実施形態の一例である医療用チューブクランプ10(以下、単に「クランプ10」とする)が、
図3等に例示する医療用チューブ1に装着される場合を例示するが、クランプ10は、医療用チューブ1よりも直径が小さなチューブなど、他の医療用チューブに適用されてもよい。クランプ10が装着される医療用チューブは、例えば体外循環回路、補助回路、輸液ラインなどを構成する。
【0015】
図1はクランプ10の斜視図、
図2はクランプ10の側面図である。
図3及び
図4は、クランプ10を医療用チューブ1に装着した状態を示す図であって、
図3は医療用チューブ1が圧迫・閉塞されないアンロック状態を、
図4は医療用チューブ1が圧迫・閉塞され、第2プレート30がロック手段によって係止されたロック状態をそれぞれ示す。
【0016】
図1~
図4に例示するように、クランプ10は、第1凸部21が形成された第1プレート20と、第1プレート20に対向配置され、第1凸部21と共に医療用チューブ1を圧迫する第2凸部31が形成された第2プレート30とを備えた樹脂成形体であって、2枚のプレートで医療用チューブ1を圧迫して閉塞する。第2プレート30は、第1プレート20との間に医療用チューブ1を挿通可能な隙間をあけて第1プレート20と対向配置される。第1プレート20及び第2プレート30はいずれも、略長方形状を呈する。
【0017】
以下では、説明の便宜上、後述の連結部40によって連結される第1プレート20及び第2プレート30の長さ方向一端を「基端」、基端と反対側の長さ方向他端を「先端」とし、基端及び先端の用語はクランプ10についても使用する。また、各プレートの長さ方向に沿った方向をクランプ10の「縦方向」、幅方向に沿った方向を「横方向」、縦方向及び横方向に直交する方向を「上下方向」という場合がある。
【0018】
クランプ10は、各プレートの長さ方向が医療用チューブ1の長さ方向に沿った状態で、医療用チューブ1の所望の位置に装着される。クランプ10は、医療用チューブ1が閉塞されないアンロック状態において、医療用チューブ1を圧迫する第1プレート20及び第2プレート30の間隔が、各プレートの先端側で広がった形状を有する。クランプ10では、第2プレート30の先端部を第1プレート20側に押圧してプレート同士の間隔を小さくすることで、第1凸部21と第2凸部31の間隔Xが小さくなり医療用チューブ1が閉塞される。ここで、間隔Xとは、第1凸部21の上端から第2凸部31の下端までの上下方向に沿った長さを意味する。
【0019】
クランプ10は、第1プレート20及び第2プレート30の先端部同士を連結する連結部40を備える。連結部40は、第1プレート20と第2プレート30が互いに接近するように、上下方向に弾性変形可能である。クランプ10では、連結部40が弾性変形することにより、第2プレート30を押圧したとき、又はその押圧力を解除したときに、第1凸部21と第2凸部31の間隔Xが変化して医療用チューブ1が開閉される。
【0020】
連結部40は、クランプ10の外側に向かって大きく湾曲し、側面視略U字状に形成されている。なお、連結部40の上下方向長さ(円弧の直径)を変更することで、第1プレート20と第2プレート30の間隔を調整できる。連結部40には、幅方向両端部を除く広範囲にチューブ挿通孔41が形成されている。チューブ挿通孔41を大きく形成することで、医療用チューブ1に対するクランプ10の装着が容易になると共に、連結部40の剛性が低下して弾性変形が容易になる。
【0021】
また、クランプ10は、第1プレート20から第2プレート30側に延出して形成された係止部50を備える。係止部50は、第2プレート30の先端部を係止して医療用チューブ1の閉塞状態を保持するロック手段である。係止部50の先端部には、第2プレート30の先端部が引っ掛かる、クランプ10の内側に突出した爪52が形成されている。本実施形態では、係止部50の先端部に、クランプ10の内側に向かって斜め下方に傾斜した斜面が形成され、斜面の下端部がクランプ10の内側に張り出して爪52が形成されている。当該斜面及び爪52は、係止部50の全幅にわたって形成される。
【0022】
係止部50は、第1プレート20の先端から上方に延びる板状部分であって、第1プレート20と同じ幅で形成されている。本実施形態では、第1プレート20、第2プレート30、連結部40、及び係止部50が同じ幅で形成され、アンロック状態及び正常なロック状態では、2枚のプレートの幅方向中央部同士が上下方向に重なる。係止部50は、第1プレート20に近い基端部がクランプ10の外側に向かって湾曲すると共に、先端部がやや内側に傾いた形状を有する。また、係止部50には、連結部40と同様に、チューブ挿通孔51が形成されている。
【0023】
また、係止部50は、クランプ10の縦方向に弾性変形する。第2プレート30の先端部を第1プレート20側に押すと、当該先端部が係止部50の先端部に形成された斜面に接触して係止部50を外側に弾性変形させ、爪52を乗り越えて第1プレート20に接近する。このとき、係止部50は元の形状に戻り、第2プレート30から手を離すと、第2プレート30の先端部が爪52に引っ掛かって係止され、医療用チューブ1が閉塞されたロック状態となる。
【0024】
他方、ロック状態において係止部50の先端部を外側に押して弾性変形させると、第2プレート30が爪52から外れてロック状態が解除され、連結部40の復元力により第2プレート30がアンロック状態の位置に戻る。なお、アンロック状態のクランプ10には、第2プレート30の先端部と係止部50の先端部の間に開口部11が形成されている。ロック状態では、開口部11は存在せず、第1プレート20、連結部40、第2プレート30、及び係止部50が環状につながっている。
【0025】
クランプ10は、医療用チューブ1を連結部40及び係止部50のチューブ挿通孔41,51にそれぞれ挿通し、第1プレート20と第2プレート30で挟んだ状態で、医療用チューブ1に装着される。このとき、第1プレート20の第1凸部21と、第2プレート30の第2凸部31との間を医療用チューブ1が通るように、クランプ10が装着される。したがって、第1凸部21と第2凸部31の間隔Xは、装着対象の医療用チューブの直径より大きく設定される。
【0026】
以下、第1プレート20及び第2プレート30について、特に第2プレート30のセンタリング機能に係る構成について詳説する。
【0027】
[第1プレート20]
第1プレート20には、上記の通り、医療用チューブ1を圧迫する第1凸部21が形成されている。第1凸部21は、第2プレート30と対向する対向面20Sにおいて、第2プレート30側に突出して形成される。本実施形態では、第1プレート20の長さ方向中央部に、第1プレート20の全幅にわたって第1凸部21が形成されている。また、医療用チューブ1に接触する第1凸部21の先端部分は、クランプ10の側面視において丸みを帯びた半球状に形成されている。
【0028】
第1プレート20の対向面20Sと反対側の外面には、第1凸部21のような大きな凸部は存在しない。クランプ10をロックする際には、例えば、第1プレート20及び第2プレート30が上下から摘まれて第2プレート30が押圧されるため、第1プレート20の外面には滑り止め用の小さな凹凸27が形成されている。第1プレート20の厚みは、大きな凹凸が存在しない平坦な部分で、例えば0.5mm~3mm程度である(第2プレート30についても同様)。
【0029】
第1プレート20には、幅方向両端部に立設した一対の側壁22が形成されている。一対の側壁22は、第1プレート20の対向面20Sにおいて、第2プレート30側に突出して第1凸部21よりも高く形成される。他方、側壁22は、上下方向長さ(高さ)が係止部50の上下方向長さよりも短く、アンロック状態及び正常なロック状態において、第2プレート30と接触しない高さ及び幅で形成される。
【0030】
一対の側壁22は、第2プレート30のセンタリング機能に係る構成であって、第2プレート30は後述のセンタリングガイド32が、一対の側壁22の間に収まるようにセンタリングされる。側壁22は、センタリング機能向上の観点から、適切なロック操作を妨げない範囲で高く形成されることが好ましい。また、側壁22は、適切なロック操作を妨げない範囲で、即ち、第2プレート30が第1プレート20側に真っ直ぐ押圧されたときに、センタリングガイド32と干渉しない厚みで形成される。
【0031】
一対の側壁22は、互いに同じ形状、同じ寸法を有し、第1プレート20の幅方向に並んで第1プレート20の先端と第1凸部21の間に形成されている。本実施形態では、第2プレート30の第2凸部31よりもクランプ10の先端側に側壁22が形成され、アンロック状態で側壁22の上端は第2凸部31の下端よりも上方に位置する。側壁22の上端面は、例えば、第1プレート20の対向面20Sと平行に形成される。なお、側壁22は、2枚のプレートの間から医療用チューブ1が横方向にはみ出すことを防止するチューブガイドとしても機能する。
【0032】
[第2プレート30]
第2プレート30には、上記の通り、医療用チューブ1を圧迫する第2凸部31が形成されている。第2凸部31は、第1プレート20と対向する対向面30Sにおいて、第1プレート20側に突出して形成される。本実施形態では、第2プレート30の長さ方向中央部に、第2プレート30の全幅にわたって第2凸部31が形成されている。また、医療用チューブ1に接触する第2凸部31の先端部分は、第1凸部21よりも尖っており、側面視略V字状に形成されている。この場合、医療用チューブ1の圧迫に必要な力が小さくなって操作性が向上すると共に、医療用チューブ1の閉塞性も向上する。なお、このような形状は外径が小さい医療用チューブに特に好適に作用する。第2凸部31の下端は、医療用チューブに損傷を与えないように面取りされていることが好ましい。また、第1凸部21の先端部分が、第2凸部31よりも尖っているようにしてもよい。
【0033】
第2凸部31の下端は、第1凸部21の上端よりもクランプ10の先端側に位置する。第1凸部21及び第2凸部31が上下方向に並ばないように、各凸部を縦方向にずらして配置することにより、尖った第2凸部31で医療用チューブ1を圧迫しても医療用チューブ1が損傷し難く、且つ医療用チューブ1の閉塞性を高めることができる。
【0034】
第2プレート30の基端と第2凸部31の間には、対向面30Sの幅方向両端部から第1プレート20側に突出した一対のチューブガイド36が形成されている。一対のチューブガイド36は、2枚のプレートの間から医療用チューブ1が横方向にはみ出すことを防止する。また、第2プレート30の外面には、第1プレート20と同様に、滑り止め用の小さな凹凸37が形成されている。
【0035】
第2プレート30の対向面30Sには、幅方向両端側から幅方向中央側に向かって第1プレート20に近づくように傾斜したスロープ面が形成されている。即ち、スロープ面は、第2プレート30の幅方向両端側が上端、幅方向中央側が下端となるように、幅方向に対して傾斜している。
【0036】
上記スロープ面は、第2プレート30を斜めに押すような不適切なロック操作がなされた場合に、第1プレート20の側壁22と接触するように形成されている。詳しくは後述するが、スロープ面が側壁22に接触することで、第2プレート30がクランプ10の内側にスライドし、第2プレート30のセンタリングが行われる。スロープ面は、第2プレート30の幅方向中央に対して左右対称に形成されることが好ましい。この場合、第2プレート30が左右のどちらに斜めに押されても、同様のセンタリングが行われる。
【0037】
本実施形態のスロープ面には、第1スロープ面33と、第1スロープ面33よりも傾斜角度θが小さな第2スロープ面34とが含まれ、当該2つのスロープ面でセンタリングガイド32が構成されている。センタリングガイド32(スロープ面)は、第2プレート30の先端と第2凸部31の間に形成される。なお、センタリングガイドは、1つのスロープ面(例えば、第1スロープ面33のみ)で構成されていてもよく、傾斜角度θが互いに異なる3つ以上のスロープ面で構成されていてもよい。
【0038】
また、センタリングガイド32は、第1プレート20側に突出した第2凸部31の先端近傍から第2プレート30の先端近傍にわたって、対向面30Sに対して斜めに形成されている。本実施形態では、クランプ10の側面視において、対向面30S、第2凸部31、及びセンタリングガイド32が、それぞれ三角形の一辺を形成するように配置されている。なお、対向面30S、第2凸部31、及びセンタリングガイド32に囲まれた部分には、側面視略三角形状の補強リブ38が形成されている。補強リブ38は、第2プレート30の幅方向中央部において、第2凸部31に近づくほど高くなるように形成される。
【0039】
本実施形態では、第2プレート30の対向面30Sに、第1プレート20側に突出した噛込防止片35が形成されている。噛込防止片35は、係止部50の先端位置を超えて第1プレート20側に延びる。クランプ10には、第2プレート30と係止部50の間に開口部11が形成されるため、例えば搬送中や保管中に、他のクランプ10が内部に入り込み容易に分離できなくなることが想定されるが、噛込防止片35を設けることで、かかる不具合を防止できる。
【0040】
噛込防止片35は、対向面30Sの幅方向中央部において、第2プレート30の先端から第2凸部31まで長さ方向に沿って形成されている。そして、センタリングガイド32の第2スロープ面34は、噛込防止片35との接続部が下端となり、噛込防止片35によって第2プレート30の幅方向一端側と他端側に分断されている。一方、対向面30Sの幅方向中央部に形成される第1スロープ面33の下端は、噛込防止片35の下端を超えて第1プレート20側に突出しており、噛込防止片35によって分断されていない。なお、噛込防止片35は設けなくともよい。
【0041】
以下、
図5及び
図6を参照しながら、センタリングガイド32の構成について更に詳説する。
図5は
図2中のAA線断面図、
図6は
図2中のBB線断面図である。
【0042】
図5に示すように、センタリングガイド32は、正常なロック状態において、第1プレート20に形成された一対の側壁22の内側に収まるように形成される。即ち、第2プレート30の対向面30Sにおいて、一対の側壁22と上下方向に重ならない範囲にセンタリングガイド32が形成される。これにより、第2プレート30が真っ直ぐに押される適切なロック操作がなされた場合に、側壁22とセンタリングガイド32の干渉が防止される。
【0043】
図5及び
図6に示すように、センタリングガイド32のスロープ面(第1スロープ面33及び第2スロープ面34)は、第2プレート30の幅方向に対して所定の角度θで傾斜している。第1スロープ面33は一対設けられ、略V字状部分を形成している。なお、略V字状部分の頂点は第2凸部31より上方に位置するように形成され、クランプ時において略V字状部分がチューブに与える影響を小さくしている。また、スロープ面は、第1凸部21と第2凸部31の間隔Xが10%~90%小さくなったときに一対の側壁22と接触可能に形成されている。なお、適切なロック操作がなされた場合には、上記の通り、スロープ面と側壁22は接触しないので、言い換えると、第2プレート30が第1プレートに対して横方向にずれた状態でプレート接近方向に押されて間隔Xが10%~90%小さくなったときに、側壁22と接触するようにスロープ面が形成される。
【0044】
第1スロープ面33及び第2スロープ面34の幅方向両端は、適切なロック操作を妨げない範囲で、側壁22の直上位置に近接していることが好ましく、側壁22の直上に形成されてもよい。本実施形態では、第1スロープ面33及び第2スロープ面34の幅方向両端の位置が一致しており、側壁22の直上よりもやや第2プレート30の幅方向中央側に形成される。
【0045】
センタリングガイド32のスロープ面は、第2プレート30の幅方向に対する傾斜角度θが10°~60°である。傾斜角度θは、スロープ面の下端に対して垂直に、第2プレート30を幅方向に切断した断面(
図6に示す断面)において、第2プレート30の幅方向に平行な仮想線αに対してスロープ面がなす角度である。本実施形態のように、スロープ面として第1スロープ面33及び第2スロープ面34が存在する場合、少なくとも傾斜がきつい第1スロープ面33が10°~60°の角度θで形成され、好ましくはいずれのスロープ面も10°~60°の角度θで形成される。
【0046】
角度θが大きくなるほど、斜めに側壁22への横方向の分力が強くなることから摩擦力に抗してセンタリングが確実に行われ易い一方、角度θが大き過ぎるとスロープ高さが高くなり、アンロック状態でチューブと強く接触してしまい、摩擦力が高くなってセンタリングし難くなってしまう。一方、スロープ面の傾斜角度θが10°未満であると、スロープ面が側壁22に接触したときに第2プレート30に対して第1プレート20の幅方向中央側にスライドさせる力が作用し難く、第2プレート30のセンタリングを十分に行うことができない。
【0047】
センタリングガイド32において、少なくとも第1スロープ面33の傾斜角度θ(以下、「傾斜角度θ1」とする)は、センタリング機能向上の観点から、25°以上が好ましく、30°以上がより好ましい。傾斜角度θ1の上限は、クランプ10の成形性、医療用チューブ1との干渉防止等の観点から、45°又は40°以下が好ましい。好適な傾斜角度θ1の範囲の一例は、25°~45°、30°~45°、又は30°~40°である。傾斜角度θ1が当該範囲内の傾斜面が第1スロープ面33に少なくとも一部形成されていることが好ましく、この場合、第2プレート30のセンタリングがよりスムーズにすることができる。
【0048】
一方、第2スロープ面34の傾斜角度θ(以下、「傾斜角度θ2」とする)は、第1スロープ面33の傾斜角度θ1よりも小さく、例えば10°以上25°未満、又は20°以上25°未満であってもよい。なお、センタリングガイドが1つのスロープ面で構成される場合、当該スロープ面の傾斜角度θは、第1スロープ面33と同様に、25°以上が好ましく、30°以上がより好ましい。
【0049】
本実施形態では、第1スロープ面33及び第2スロープ面34のいずれも、凹凸のない平面である。また、第2スロープ面34は、第1スロープ面33よりも第2プレート30の先端側に形成されている。本実施形態のように、傾斜角度θが異なる2つのスロープ面が形成される場合、傾斜角度θが小さなスロープ面が、傾斜角度θが大きなスロープ面よりも第1プレート20の先端側に形成される。第1スロープ面33は側壁22の一部が当接可能であればよく、縦方向より横方向が長いように面を形成している。このようにすることで、第2プレート30の厚みが増加して成形時にヒケが発生する事態を低減でき、クランプ時にスロープ面がチューブに悪影響を及ぼす事態を低減している。
【0050】
センタリングガイド32は、第2プレート30が斜めに押されて間隔Xが10%~90%、好ましくは30%~70%小さくなったときに、側壁22と接触する位置に形成される。間隔Xの減少率が小さい段階で側壁22と接触するようであると、摩擦力が比較的小さい時にセンタリングが行われるため、上記構成とすることで、摩擦力によりセンタリングが機能しない事態を低減することができる。第1スロープ面33の縦方向長さは、例えば、側壁22の縦方向長さの10%~50%である。第1スロープ面33の縦方向長さが短いほど、側壁22との接触面積が小さくなるため、センタリング時の摩擦抵抗が小さくなって操作がし易いが、縦方向長さが短過ぎると、連結部40が大きく歪んだ際に側壁22と接触しなくなるおそれがあり、適切な関係とするのが好ましい。
【0051】
センタリングガイド32は、第2プレート30が斜めに押されて間隔Xが50%小さくなるまでに、側壁22と接触するように形成されることが好ましい。この場合、第2プレート30のセンタリングを迅速に行うことができ、操作性が更に向上する。アンロック状態のクランプ10の側面視において、第1スロープ面33の下端と側壁22の上端の間隔は、例えば、第1凸部21と第2凸部31の間隔Xの10%~80%であり、好ましくは20%~50%である。
【0052】
なお、第1スロープ面33は、第2スロープ面34よりも第1プレート20側に突出しているので、第2プレート30を斜めに押すような不適切なロック操作がなされたときに、第1スロープ面33が側壁22と優先的に接触する。一方、第2プレート30が連結部40側に強く押圧された場合、第1スロープ面33よりも第2プレート30の先端側に形成された第2スロープ面34が側壁22に接触し、第2スロープ面34を利用して第2プレート30がセンタリングされる場合がある。
【0053】
図7は、第1スロープ面33の傾斜角度θ1とクランプ10のロックに必要な力(第2プレート30の押圧力)の関係を示す図である。押圧力は、精密万能試験機オートグラフ(島津製作所製、AG Xplus)を用いて測定した。この実験では、傾斜角度θ1を20°、32°とした場合について、それぞれ5回ずつ押圧力を測定して平均値を求めた。なお、θ1=20°のクランプについては、医療用チューブ1に接触する第2凸部31の先端部分の形状を、第1凸部21と同様に側面視半球状とした。医療用チューブ1には、間隔Xと同等の直径を有する可撓性チューブを用いた。
【0054】
図7の「Normal」とは、第2プレート30を第1プレート20側に真っ直ぐに押す適切な操作によりロックされた場合を、「Abnormal」とは、第1スロープ面33の下端近傍が側壁22と接触するように第2プレート30を斜めに押し、第2プレート30のセンタリング後にロックされた場合をそれぞれ示す。
【0055】
図7に示すように、適切なロック操作がなされた場合には、第2プレート30の第1スロープ面33が第1プレート20の側壁22に接触しないため、傾斜角度θ1によって押圧力に大きな違いはない。θ=32°のクランプでは、θ1=20°のクランプと比較して押圧力が5%程度小さくなっているが、この差は、第2凸部31の先端部分の形状に起因すると考えられる。つまり、第2凸部31の先端部分を側面視略V字状に形成することで、ロックに必要な力を低減して操作性を向上させることができる。
【0056】
一方、第2プレート30を斜めに押す不適切なロック操作がなされた場合は、傾斜角度θ1によって押圧力に大きな違いがある。
図7に示すように、θ=32°のクランプでは、θ1=20°のクランプと比較して押圧力が大きく低減される。即ち、θ=32°のクランプは、θ1=20°のクランプと比較して、不適切な操作がなされた場合に、第2プレート30をセンタリングして正常なロック状態を確保することが容易である。
【0057】
第1スロープ面33の傾斜角度θ1が10°未満では、不適切なロック操作がなされた場合にロックに必要な押圧力が大きく上昇し、第2プレート30のセンタリングが困難である。傾斜角度θ1が10°以上であれば、第2プレート30のセンタリングが可能であるが、傾斜角度θ1が25°以上、特に30°以上である場合に、ロックに必要な押圧力が特異的に低減され、操作性が大きく改善される。
【0058】
図8及び
図9は、センタリングガイド32の第1スロープ面33の変形例を示す図である。
図8に例示する第1スロープ面33Xは下方に凸となるように湾曲して形成されていることで、スロープ面と側壁の距離を小さく、プレートが斜めに押された時にセンタリングがより早い段階で行われる。
図9に例示する第1スロープ面33Yは下方に凸となるように屈曲している点及び角度の変化点を有する点で、平坦に形成された第1スロープ面33と異なる。このようにすることで、側壁と当接した際の幅方向分力が大きく、且つ、スロープ面の高さ方向の長さを小さくすることができる。第1スロープ面33X,33Yは、当該スロープ面の下端に対して垂直に第2プレート30を幅方向に切断した断面において、当該スロープ面の上端P1と下端P2を結ぶ仮想線βよりも下方に張り出した凸面である。この場合、第2プレート30の幅方向に平行な仮想線αと、仮想線βとがなす角度を傾斜角度θ1とみなす。
【0059】
なお、スロープ面は、上方に凸となるように湾曲又は屈曲した凹面であってもよい。この場合も、仮想線αと、当該スロープ面の上端P1と下端P2を結ぶ仮想線βとがなす角度を傾斜角度θとみなす。スロープ面は、凹面であってもよいが、好ましくは平面又は凸面である。
図9に例示する第1スロープ面33Yは、仮想線αに対する傾斜角度が異なる2つの平面S1,S2からなり、平面S1,S2のいずれも、仮想線αに対して25°以上の角度で傾斜していることが好ましい。
【0060】
以上のように、上記構成を備えたクランプ10によれば、不適切なロック操作がなされた場合であっても、医療用チューブ1を確実に閉塞できる正常な位置に第2プレート30をセンタリングして正常なロック状態を容易に確保できる。したがって、クランプ10によれば、医療用チューブ1を迅速かつ確実に閉塞することが可能である。また、直径が大きな医療用チューブ1にクランプ10が装着された場合であっても、第2プレート30のセンタリングを容易に行うことができる。
【0061】
特に、第2プレート30の幅方向に対する傾斜角度θが25°~45°、より好ましくは30°~45°のスロープ面を含むセンタリングガイド32を設けることにより、第2プレート30のセンタリングに必要な力が大幅に低減され、よりスムーズなセンタリングが可能となる。
【0062】
なお、上記実施形態は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜設計変更できる。例えば、上記実施形態では、一体成形された樹脂成形体からなるクランプ10を例示したが、クランプは複数の部品を組み立てて製造されてもよい。また、上記実施形態では、第1プレート20に側壁22が、第2プレート30にスロープ面(第1スロープ面33及び第2スロープ面34)がそれぞれ形成されているが、第1プレートにスロープ面が、第2プレートに側壁がそれぞれ形成されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 医療用チューブ、10 医療用チューブクランプ(クランプ)、11 開口部、20 第1プレート、21 第1凸部、22 側壁、27,37 凹凸、30 第2プレート、31 第2凸部、32 センタリングガイド、33 第1スロープ面、34 第2スロープ面、35 噛込防止片、36 チューブガイド、38 補強リブ、40 連結部、41,51 チューブ挿通孔、50 係止部、52 爪