IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特許7480785光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法
<>
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図1
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図2
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図3
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図4
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図5
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図6
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図7
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図8
  • 特許-光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 65/00 20060101AFI20240501BHJP
   B65H 67/04 20060101ALI20240501BHJP
   B65H 75/28 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B65H65/00 C
B65H65/00 A
B65H67/04 Z
B65H75/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021555141
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041620
(87)【国際公開番号】W WO2021090942
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019202154
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 卓
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-101032(JP,U)
【文献】実開昭50-068173(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 65/00
B65H 67/04
B65H 75/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と共に回転する回転板と、
前記回転板に取り付けられて光ファイバを巻き取るボビンと、
前記回転板に取り付けられ、前記光ファイバを係止する係止部と、
を備え、
前記係止部は、前記回転板に固定したベース部材と、前記ベース部材に重ねて配置したガイド部材とで構成され、前記ベース部材に前記ガイド部材を固定した基端部と、前記光ファイバを受け入れる先端部と、を有し、
前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔を広げる勾配が前記ガイド部材にのみ形成され、
前記ベース部材に対する前記ガイド部材の勾配が、1/200以上、1/50以下である、光ファイバの巻き取り装置。
【請求項2】
前記ガイド部材の厚みが、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて薄くなる、請求項に記載の光ファイバの巻き取り装置。
【請求項3】
前記ベース部材および前記ガイド部材が、金属製である、請求項1または請求項2に記載の光ファイバの巻き取り装置。
【請求項4】
前記ガイド部材は、前記ベース部材に対向する対向面を備え、
前記対向面は、
前記光ファイバに接触可能な接触領域と、
前記基端部から前記先端部に向かう方向に対して交差する方向の、前記接触領域の両側に設けられ、前記接触領域から離れるに連れて前記ベース部材から離れる傾斜を有する斜面領域と、
を有している、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の光ファイバの巻き取り装置。
【請求項5】
前記基端部の端に位置し、前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔が広がる起点において、前記ベース部材と前記ガイド部材とが所定の隙間で離間している、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の光ファイバの巻き取り装置。
【請求項6】
ボビン切り替え時に駆動軸と共に回転する回転板に設けた係止部で光ファイバを係止し、前記回転板に着脱可能に取り付けられた前記ボビンを切り替えながら連続的に前記光ファイバを巻き取る光ファイバの製造方法であって、
前記係止部は、前記回転板に固定したベース部材と、前記ベース部材に重ねて配置したガイド部材とで構成され、前記ベース部材に前記ガイド部材を固定した基端部と、前記光ファイバを受け入れる先端部と、を有し、
前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔が次第に広がっており、
前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔を広げる勾配が前記ガイド部材にのみ形成され、
前記ベース部材に対する前記ガイド部材の勾配が、1/200以上、1/50以下であり、
ボビン切り替え時には前記ベース部材と前記ガイド部材との間に前記光ファイバを挟み込んで係止する、光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、線状体の巻き取り装置および線状体の製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2019年11月7日出願の日本出願第2019-202154号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
光ファイバを線引きする際、光ファイバは、巻き取り装置でボビンに巻き取られ、満巻きとなったボビンは別のボビンに切り替えられながら、継続して巻き取られる。
この際、特許文献1には、回転板に取り付けた係止部に光ファイバを係止し、巻き取るボビンを切り替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2015-157665号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る光ファイバの巻き取り装置は、駆動軸と共に回転する回転板と、前記回転板に取り付けられて光ファイバを巻き取るボビンと、前記回転板に取り付けられ、前記光ファイバを係止する係止部と、を備え、前記係止部は、前記回転板に固定したベース部材と、前記ベース部材に重ねて配置したガイド部材とで構成され、前記ベース部材に前記ガイド部材を固定した基端部と、前記光ファイバを受け入れる先端部と、を有し、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔を広げる勾配が前記ガイド部材にのみ形成され、前記ベース部材に対する前記ガイド部材の勾配が、1/200以上、1/50以下である
【0006】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、ボビン切り替え時に駆動軸と共に回転する回転板に設けた係止部で光ファイバを係止し、前記回転板に着脱可能に取り付けられた前記ボビンを切り替えながら連続的に前記光ファイバを巻き取る光ファイバの製造方法であって、前記係止部は、前記回転板に固定したベース部材と、前記ベース部材に重ねて配置したガイド部材とで構成され、前記ベース部材に前記ガイド部材を固定した基端部と、前記光ファイバを受け入れる先端部と、を有し、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔が次第に広がっており、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔を広げる勾配が前記ガイド部材にのみ形成され、前記ベース部材に対する前記ガイド部材の勾配が、1/200以上、1/50以下であり、ボビン切り替え時には前記ベース部材と前記ガイド部材との間に前記光ファイバを挟み込んで係止する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一態様に係る係止部を有した回転板の構成図である。
図2図2は、係止部を説明する図である。
図3図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図4は、ガイド部材を説明する図である。
図5図5は、細い線状体を係止部で把持した状態を説明する図である。
図6図6は、太い線状体を係止部で把持した状態を説明する図である。
図7図7は、φ200μmファイバを用いた際の、評価結果を説明する表である。
図8図8は、φ240μmファイバを用いた際の、評価結果を説明する表である。
図9図9は、φ330μmファイバを用いた際の、評価結果を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
ところで、近年は光ファイバの品種が多くなっており、また、線引き口出し中は被覆外径が太くなることから、被覆外径が200μm程度の細径ファイバから330μm程度の太径ファイバまで、多岐に及ぶ太さの光ファイバを巻き取る必要がある。このため、どのような太さの光ファイバであっても、光ファイバを係止部で把持する際に、係止部から抜けたり、係止部に入り込まずに弾かれたりするのを回避することが望まれる。
【0009】
本開示は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、回転板に固定したベース部材とこのベース部材に重ねて配置したガイド部材との間隔の広がりを容易に調整して、太さの異なる光ファイバであっても失敗することなく光ファイバを係止することができる、光ファイバの巻き取り装置および光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、太さの異なる光ファイバであっても、失敗することなく光ファイバを係止できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
本開示に係る光ファイバの巻き取り装置は、
(1)駆動軸と共に回転する回転板と、前記回転板に取り付けられて光ファイバを巻き取るボビンと、前記回転板に取り付けられ、前記光ファイバを係止する係止部と、を備え、前記係止部は、前記回転板に固定したベース部材と、前記ベース部材に重ねて配置したガイド部材とで構成され、前記ベース部材に前記ガイド部材を固定した基端部と、前記光ファイバを受け入れる先端部と、を有し、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔を広げる勾配が前記ガイド部材にのみ形成され、前記ベース部材に対する前記ガイド部材の勾配が、1/200以上、1/50以下である
係止部は、基端部から先端部に向かうに連れてベース部材とガイド部材との間隔が次第に広がる形状を有するため、太径の光ファイバは先端部寄りに、細径の光ファイバは基端部寄りにそれぞれ把持することができる。この結果、太さの異なる光ファイバであっても、失敗することなく光ファイバを係止できる。
また、ガイド部材のみに勾配を設けているため、ベース部材とガイド部材との間隔の広がりの調整はガイド部材を変更すれば足りる。よって、回転板に固定されるベース部材に勾配を設ける場合に比べて広がり度合いを容易に調整できる。
【0013】
)本開示の光ファイバの巻き取り装置の一態様では、前記ガイド部材の厚みが、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて薄くなる。このような構成によれば、ガイド部材の厚みを変えることで、容易に勾配を設けることができる。
【0014】
)本開示の光ファイバの巻き取り装置の一態様では、前記ベース部材および前記ガイド部材が、金属製である。ベース部材およびガイド部材を金属製にすれば、光ファイバを把持する際にベース部材の変形を考慮しなくて済むので、太さの異なる光ファイバを確実に把持することができる。
【0015】
)本開示の光ファイバの巻き取り装置の一態様では、前記ガイド部材は、前記ベース部材に対向する対向面を備え、前記対向面は、前記光ファイバに接触可能な接触領域と、前記基端部から前記先端部に向かう方向に対して交差する方向の、前記接触領域の両側に設けられ、前記接触領域から離れるに連れて前記ベース部材から離れる傾斜を有する斜面領域と、を有している。斜面領域では光ファイバに接触しにくくなるので、光ファイバへの負荷が抑えられる。
【0016】
)本開示の光ファイバの巻き取り装置の一態様では、前記基端部の端に位置し、前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔が広がる起点において、前記ベース部材と前記ガイド部材とが所定の隙間で離間している。ベース部材とガイド部材との間隔が広がり始める位置に隙間を設けており、係止部の長大化を回避でき、コンパクトな係止部を提供できる。
【0018】
本開示に係る光ファイバの製造方法は、()ボビン切り替え時に駆動軸と共に回転する回転板に設けた係止部で光ファイバを係止し、前記回転板に着脱可能に取り付けられた前記ボビンを切り替えながら連続的に前記光ファイバを巻き取る光ファイバの製造方法であって、前記係止部は、前記回転板に固定したベース部材と、前記ベース部材に重ねて配置したガイド部材とで構成され、前記ベース部材に前記ガイド部材を固定した基端部と、前記光ファイバを受け入れる先端部と、を有し、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔が次第に広がっており、前記基端部から前記先端部に向かうに連れて前記ベース部材と前記ガイド部材との間隔を広げる勾配が前記ガイド部材にのみ形成され、前記ベース部材に対する前記ガイド部材の勾配が、1/200以上、1/50以下であり、ボビン切り替え時には前記ベース部材と前記ガイド部材との間に前記光ファイバを挟み込んで係止する。太さの異なる光ファイバであっても、失敗することなく光ファイバを係止できる。
また、ガイド部材のみに勾配を設けているため、ベース部材とガイド部材との間隔の広がりの調整はガイド部材を変更すれば足りる。よって、回転板に固定されるベース部材に勾配を設ける場合に比べて広がり度合いを容易に調整できる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら、本開示による線状体の巻き取り装置および線状体の製造方法の好適な実施の形態について説明する。
図1は、本開示の一態様に係る係止部10を有した回転板の構成図である。巻き取り装置は、駆動軸(図示省略)と共に回転する爪ホイール3を備える。なお、爪ホイール3が本開示の回転板に相当する。
【0020】
爪ホイール3は、円形状のボビン収容部4と、ボビン収容部4の外周に形成された例えばアルミニウム製の鍔状部5とを有する。ボビン収容部4には、ボビン2が着脱可能に取り付けられ、鍔状部5には、係止部10が例えば2本の六角穴付きボルト46で固定される。
係止部10は、光ファイバ、細径の電線・ケーブル等の線状体を引っ掛けて係止できる。なお、巻き取り装置は、満巻きされたボビンから別のボビンにも切り替え可能に構成されており、別の位置に、別のボビンを取り付けることが可能な別の爪ホイールも備えている。別の爪ホイールの鍔状部にも、上記の係止部10と同じ機能を有した係止部が設けられる。
【0021】
図2は、係止部10を説明する図、図3は、図2のIII-III線矢視断面図、図4は、ガイド部材40を説明する図である。
係止部10は、ベース部材20と、ベース部材20に重ねて配置したガイド部材40とで構成される。
ベース部材20は、例えばステンレス製(SUS304)のベース本体21を有する。図3に示すように、ベース本体21は、爪ホイール3の鍔状部5に、表面22を表出させた状態で埋設される。表面22は、ガイド部材40の対向面42に向き合っている。爪ホイール3の回転方向(図1に矢印で示す)でみて表面22の前側にはベース部材の第1テーパー23が形成され、表面22の後側にはベース部材の固定部24が設けられている。なお、ベース部材の第1テーパー23が本開示の先端部に、ベース部材の固定部24が本開示の基端部にそれぞれ相当する。
【0022】
ベース部材の第1テーパー23は、表面22の前端部から表面22の中央位置に進むに連れてガイド部材40に近づくように傾斜しており、線状体の案内に利用される。なお、表面22やベース部材の第1テーパー23には、耐摩耗性を得るために、例えばアルマイト処理が施されている。ベース部材の固定部24には、図3の断面位置では見えないが、六角穴付きボルト46用のボルト穴45が貫通して設けられている。
【0023】
ガイド部材40は例えばステンレス製(SUS304)である。ガイド部材40は、線状体を案内する先端爪41を有し、係止部10は、爪ホイール3と共に回転する。図3に示すように、先端爪41には、ベース部材の第1テーパー23の対向位置に、ガイド部材の第1テーパー43を有する。このガイド部材の第1テーパー43も本開示の先端部に相当する。このガイド部材の第1テーパー43では、対向面42の前端部から対向面42の中央位置に進むに連れてベース部材20に近づくように傾斜しており、線状体の案内に利用される。なお、対向面42やガイド部材の第1テーパー43にも、例えばアルマイト処理が施されている。
【0024】
爪ホイール3の回転方向でみて対向面42の後方にはガイド部材の固定部44が設けられ、図2に示すように、六角穴付きボルト46用のボルト穴45がガイド部材の固定部44を貫通して形成されている。このガイド部材の固定部44も本開示の基端部に相当する。このガイド部材の固定部44では、ベース部材20にガイド部材40を固定している。
【0025】
また、図3に示すように、ガイド部材40は例えば段付き形状であり、対向面42がガイド部材の固定部44よりも1段低い(ベース部材から離れた)位置に形成されている。これにより、ガイド部材40の厚さ方向(図2,3のZ方向と同じ)で見ると、ベース部材20とガイド部材40とが隙間G(例えば0.1mm程度)で離間している。すなわち、基端部の端に位置し、ベース部材20とガイド部材40との間隔が広がる起点において、隙間Gが設けられている。後述する勾配が緩いと、係止部10が長くなり、係止部10が爪ホイール3に収まりにくくなる場合があるが、上記のように隙間Gを設けておけば、勾配が緩くても、係止部10を短くすることができる。
なお、本実施例では、ガイド部材40を段付き形状に形成する例を挙げて説明した。しかし、本開示はこの例に限定されない。隙間Gを得るために、例えば、段付き形状のガイド部材40に替えて、ガイド部材の固定部44と対向面42を面一にしたガイド部材40とし、ベース部材の固定部24とガイド部材の固定部44との間にシムを挟んでもよい。
【0026】
対向面42は、線状体に接触可能な接触領域42aを有する。接触領域42aは、ガイド部材40の幅方向(図2,3のY方向と同じ)で所定幅に形成され、ガイド部材40の長さ方向(図2,3のX方向と同じ)に延びている。そして、ベース部材20とガイド部材40との間隔が次第に広がるように設定されている。具体的には、例えば接触領域42aに第2テーパー50を設けている。この第2テーパー50の傾きの度合いが本開示の勾配に相当する。第2テーパー50は、ガイド部材の固定部44からガイド部材の第1テーパー43に向かうに連れてベース部材20とガイド部材40との間隔を次第に広くするように形成されている。すなわち、係止部10は、基端部から先端部に向かうに連れてベース部材20とガイド部材40との間隔が次第に広がる形状を有する。ガイド部材40の厚みが、基端部から先端部に向かうに連れて薄くなってもよい。第2テーパー50は、ガイド部材の第1テーパー43よりも緩く形成される。
【0027】
具体的には、第2テーパー50は、1:200(0.5%勾配)以上、1:50(2%勾配)以下の範囲に設定されている。前者の1:200(0.5%勾配)の例で述べると、この勾配は、ガイド部材40の厚さ方向(図2,3のZ方向と同じ)が1で、ガイド部材40の長さ方向(図2,3のX方向と同じ)が200であることに相当する。
【0028】
上記の第2テーパー50を設けることにより、太さの異なる線状体であっても、失敗することなく、同じ係止部10で把持できる。
また、ガイド部材40に第2テーパー50を設けているので、勾配の調整はガイド部材40を変更すれば足りる。よって、回転板に固定されるベース部材20にテーパーを設ける場合に比べて、勾配を容易に調整できる。
【0029】
ベース部材20およびガイド部材40は、金属製である。ベース部材20を例えば弾性体にすると、細径の線状体の場合にはベース部材20の変形が少ないので、把持力が小さくなり、太径の線状体の場合にはベース部材20が変形しても線状体は奥側に入りづらく、係止するのを失敗しやすい。これに対し、上記のようにベース部材20およびガイド部材40を金属製にすれば、線状体を把持する際にベース部材20が変形しないので、同じ強さで、太さの異なる線状体を確実に把持することができる。
【0030】
また、図4に示すように、対向面42は斜面領域42bを有する。斜面領域42bは、ガイド部材の固定部44からガイド部材の第1テーパー43に向かう方向に対し、交差する方向(図2-4のY方向と同じ)の、接触領域42aの両側にそれぞれ設けられている。斜面領域42bは、接触領域42aから離れるに連れて、ベース部材20の表面22から離れる傾斜を有している。これにより、斜面領域42bでは線状体に接触しにくくなるので、線状体への負荷が抑えられる。
【0031】
図5,6は、線状体1を係止部10で把持した状態を説明する図である。
線状体1は、爪ホイール3の回転によって係止部10内に進入する。線状体1は、ガイド部材40の幅方向(図2-4のY方向と同じ)に走行している状態で、ベース部材の第1テーパー23,ガイド部材の第1テーパー43で受け入れられた後、接触領域42aと表面22との間を通ってベース部材の固定部24,ガイド部材の固定部44に向けて進む。
【0032】
細径の線状体1の場合には、図5に示すように、ガイド部材の固定部44寄りの位置で、ベース部材20(表面22)とガイド部材40(接触領域42a)の双方に接して把持される。一方、太径の線状体1の場合には、図6に示すように、ガイド部材の第1テーパー43寄りの位置でベース部材20とガイド部材40の双方に接して把持される。
ガイド部材の固定部44と接触領域42aとの境界位置を基準位置Pとすると、線状体1は、この基準位置Pから距離Lだけ離れた食込み位置で把持される。太径の線状体1の場合(図6)には、細径の線状体1の場合(図5)に比べて、食込み位置までの距離Lが長くなる。
【0033】
次に、第2テーパー50の勾配を変更し、係止部10に把持された線状体1の把持状態を観察して評価した。
詳しくは、線状体1の両側を手で持ち、ガイド部材の第1テーパー43からガイド部材の固定部44に向けてほぼ一定の力で係止部10内に押し込み、係止部10に把持する。その後、係止部10に把持された線状体1に対して図2-4に示すY方向の力を加え、線状体1を係止部10から引き抜くために要する力(以下、引き抜き力F1と称する)を測定した。次いで、線状体1を同じく係止部10内に押し込んだ後、係止部10に把持された線状体1に対して図2-4に示すX方向の力を加え、線状体1を係止部10から戻し抜くために要する力(以下、戻り抜け力F2と称する)を測定した。なお、F1,F2は、十分把持している状態(「大きな力」と表現)であるか、すぐに線状体が抜けてしまう状態(「小さい力」と表現)であるか、その中間(「中程度の力」と表現)であるか、の3段階で測定し、図7-9では、各々「+」、「-」、「±」で示した。
【0034】
図7に示すように、外径φ200μmの線状体1について、第2テーパー50を1:10(10%勾配)に設定し、シムの厚さを0.1mmとした場合(試料1と称する)、線状体1を係止部10に把持できなかったため、食込み位置までの距離Lを測定できず、上記の引き抜き力F1、上記の戻り抜け力F2のいずれも測定できなかった。そこで、線状体の把持に適さない(評価B)と判定した。
一方、この試料1と同じ勾配で、厚さ0.15mmのシムを挟んだ場合(試料2と称する)は、食込み位置までの距離Lは9mmとなり、F1には大きな力が必要であり、しっかりと把持されていた。また、F2にも大きな力が必要であり、しっかりと把持されていた。そこで、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。
このように、第2テーパー50を1:10に設定した場合、試料1のように評価Aとは判定されなかったものもあり、評価にばらつきがあった。
【0035】
同じ外径φ200μmの線状体1について、第2テーパー50を1:50(2%勾配)に設定した場合(試料3と称する)は、食込み位置までの距離Lは9mmとなり、F1には大きな力、F2には中程度の力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。
【0036】
また、同じ外径φ200μmの線状体1について、第2テーパー50を1:150(0.67%勾配)に設定した場合(試料4と称する)は、食込み位置までの距離Lは22mmとなり、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。なお、この試料4はシムを挟んでいないが、厚さ0.15mmのシムを挟んだ場合(試料5と称する)は、食込み位置までの距離Lは2.5mm、F1には大きな力、F2には中程度の力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。なお、外径φ200μmの線状体1で、第2テーパー50が1:150の場合は、シムの有無に係わらず、把持には適するが、シムが無いと、食込み位置までの距離が長くなり、長いガイド部材が必要となる。
【0037】
また、表記は省略したが、同じ外径φ200μmの線状体1について、第2テーパー50を1:200(0.5%勾配)に設定した場合には、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定したが、1:150のものよりも、さらに長いガイド部材が必要になった。
【0038】
図8に示すように、外径φ240μmの線状体1について、第2テーパー50を1:20(5%勾配)に設定した場合(試料6と称する)、食込み位置までの距離Lは11mmであった。この場合は、厚さ0.1mmのシムを挟んでいる。この試料6の場合、F1には中程度の力が必要であるが、F2には小さい力になっていた。よって、線状体の把持に適さない(評価B)と判定した。
同じ外径の線状体1で、同じ勾配に設定し、シムの厚さを0.2mmにした場合(試料7と称する)は、食込み位置までの距離Lは0mm、F1には中程度の力、F2には大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。
このように、第2テーパー50を1:20に設定した場合、評価にばらつきがあった。
【0039】
同じ外径φ240μmの線状体1について、第2テーパー50を1:50(2%勾配)に設定した場合(試料8と称する)は、厚さ0.15mmのシムを挟んだ場合、食込み位置までの距離Lは10mm、F1には大きな力、F2には中程度の力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。同じ外径の線状体1で、同じ勾配に設定し、シムの厚さを0.2mmにした場合(試料9と称する)は、食込み位置までの距離Lは0mm、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。
【0040】
同じ外径φ240μmの線状体1について、第2テーパー50を1:150(0.67%勾配)に設定した場合(試料10と称する)、食込み位置までの距離Lは25mmとなり、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。なお、この試料10はシムを挟んでいないが、厚さ0.15mmのシムを挟んだ場合(試料11と称する)は、食込み位置までの距離Lは3.5mm、F1には大きな力が必要であり、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。なお、外径φ240μmの線状体1で、第2テーパー50が1:150の場合は、シムの有無に係わらず、把持には適するが、シムが無いと、食込み位置までの距離が長くなり、長いガイド部材が必要となる。
【0041】
図9に示すように、外径φ330μmの線状体1について、第2テーパー50を1:50(2%勾配)に設定した場合(試料12と称する)、食込み位置までの距離Lは16mmとなった。この場合は、厚さ0.1mmのシムを挟んでいる。この試料12の場合、F1には大きな力、F2には中程度の力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。
【0042】
同じ外径の線状体1で、同じ勾配に設定し、シムの厚さを0.15mmにした場合(試料13と称する)は、食込み位置までの距離Lは12.5mm、F1には中程度の力、F2には大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。さらに、シムの厚さを0.2mmにした場合(試料14と称する)は、食込み位置までの距離Lは12mm、F1には大きな力、F2には中程度の力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。
【0043】
同じ外径φ330μmの線状体1について、第2テーパー50を1:150(0.67%勾配)に設定した場合(試料15と称する)、食込み位置までの距離Lは34mmとなり、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。なお、この試料15はシムを挟んでいないが、厚さ0.15mmのシムを挟んだ場合(試料16と称する)は、食込み位置までの距離Lは14mm、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定した。なお、外径φ330μmの線状体1で、第2テーパー50が1:150の場合は、シムの有無に係わらず、把持には適するが、シムが無いと、食込み位置までの距離が長くなり、長いガイド部材が必要となる。
【0044】
また、表記は省略したが、同じ外径φ330μmの線状体1について、第2テーパー50を1:200(0.5%勾配)に設定した場合には、F1には大きな力、F2にも大きな力が必要であり、線状体の把持に適する(評価A)と判定したが、1:150のものよりも、さらに長いガイド部材が必要になった。
したがって、第2テーパー50を1:200~1:50の範囲に設定すれば、太さの異なる線状体を同じ係止部10で確実に把持できることが分かる。
【0045】
上記実施例では、ガイド部材40に第2テーパー50を設けて勾配を形成した。しかし、本開示は、ベース部材20にテーパーを設けて所望の勾配を形成する、あるいは、ベース部材20およびガイド部材40の双方にテーパーを設けて所望の勾配を形成することも可能である。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1…線状体、2…ボビン、3…爪ホイール(回転板)、4…ボビン収容部、5…鍔状部、10…係止部、20…ベース部材、21…ベース本体、22…表面、23…ベース部材の第1テーパー(先端部)、24…ベース部材の固定部(基端部)、40…ガイド部材、41…先端爪、42…対向面、42a…接触領域、42b…斜面領域、43…ガイド部材の第1テーパー(先端部)、44…ガイド部材の固定部(基端部)、45…ボルト穴、46…六角穴付きボルト、50…第2テーパー(勾配)、G…隙間、F1…引き抜き力、F2…戻り抜け力、P…基準位置、L…食込み位置までの距離。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9