(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】音響共振器デバイス、音響共振器デバイスを製造する方法及びフィルタデバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240501BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20240501BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20240501BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
H03H9/145 C
H03H9/145 Z
H03H9/64 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022003739
(22)【出願日】2022-01-13
【審査請求日】2022-04-07
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マックヒュー ショーン
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0013859(US,A1)
【文献】国際公開第2013/021948(WO,A1)
【文献】特開昭48-026452(JP,A)
【文献】特開2008-067289(JP,A)
【文献】国際公開第2019/241174(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/092414(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前面と背面を有し、前記前面と前記背面との間の厚さが200nm以上1000nm以下であり、
直接または少なくとも1つ以上の中間材料層を介して前記背面が前記基板に取り付けられている圧電プレートと、
前記圧電プレートの前記前面にある減結合誘電体層と、
前記減結合誘電体層上に形成されたインターデジタル変換器(IDT)であって、前記IDTのインターリーブされたフィンガが、キャビティを横切って懸架する前記圧電プレートの一部の上にあるようになっている、IDTと、
を備え、
前記圧電プレートが回転Yカットニオブ酸リチウムであり、
前記減結合誘電体層の厚さをtddとし、前記圧電プレートの厚さをtpとして、tdd/tpが0.05より大きい、
音響共振器デバイス。
【請求項2】
前記IDTは、前記IDTに印加される無線周波数信号に応答して、前記圧電プレートに剪断音響波を励起するように構成される、請求項1に記載の音響共振器デバイス。
【請求項3】
前記減結合誘電体層が二酸化ケイ素からなる、請求項1に記載の音響共振器デバイス。
【請求項4】
前記IDTの前記フィンガのピッチが、前記圧電プレートの厚さの2倍以上25倍以下である、請求項1に記載の音響共振器デバイス。
【請求項5】
前記IDTの前記フィンガは、幅を有し、
前記ピッチは、前記幅の2倍以上25倍以下である、
請求項4に記載の音響共振器デバイス。
【請求項6】
前記IDTの前記フィンガの間の前記圧電プレートの前記前面に形成された前面誘電体層をさらに備え、
前記音響共振器デバイスの共振周波数は、前記前面誘電体層の厚さによって部分的に決定される、
請求項1に記載の音響共振器デバイス。
【請求項7】
前記前面誘電体層は、二酸化ケイ素及び窒化ケイ素の少なくとも1つを含む、請求項6に記載の音響共振器デバイス。
【請求項8】
前記IDTは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ベリリウム、及び金のうちの1つを含む、請求項1に記載の音響共振器デバイス。
【請求項9】
基板と、
前面と背面を有し、前記前面と前記背面との間の厚さが200nm以上1000nm以下であり、
直接または少なくとも1つ以上の中間材料層を介して前記背面が前記基板に取り付けられている圧電プレートと、
前記圧電プレートの前記前面にある減結合誘電体層と、
前記減結合誘電体層上に形成された導体パターンであって、それぞれの複数の共振器の複数のインターデジタル変換器(IDT)を含む、導体パターンと、
を備える、フィルタデバイスであって、
前記複数のIDTのそれぞれのインターリーブされたフィンガは、キャビティを横切って懸架する前記圧電プレートのそれぞれの部分の上にある、1つ又は複数のキャビティを横切って懸架する前記圧電プレートのそれぞれの部分上にあり、
前記圧電プレートが回転Yカットニオブ酸リチウムであり、
前記減結合誘電体層の厚さをtddとし、前記圧電プレートの厚さをtpとして、tdd/tpが0.05より大きい、
フィルタデバイス。
【請求項10】
前記複数のIDTの全てが、各IDTに印加されるそれぞれの無線周波数信号に応答して、前記圧電プレートに剪断音響波を励起するように構成される、請求項9に記載のフィルタデバイス。
【請求項11】
前記減結合誘電体層が二酸化ケイ素からなる、請求項9に記載のフィルタデバイス。
【請求項12】
前記複数のIDTのそれぞれは、前記基板に形成されたそれぞれのキャビティ上に懸架された少なくとも1つの前記圧電プレートのそれぞれの部分上にある、請求項9に記載のフィルタデバイス。
【請求項13】
前記複数の共振器は、シャント共振器と直列共振器とを含む、請求項9に記載のフィルタデバイス。
【請求項14】
前記シャント共振器のIDTのフィンガの間に堆積された第一の誘電体層の厚さは、前記直列共振器のIDTのフィンガの間に堆積された第二の誘電体層の厚さより大きい、請求項13に記載のフィルタデバイス。
【請求項15】
圧電プレートの背面を基板に取り付けるステップであって、前記圧電プレートは200nm以上1000nm以下の厚さを有する、ステップと、
前記基板にキャビティを形成し、前記圧電プレートの部分がキャビティを横切って懸架するようにするステップと、
前記圧電プレートの前面上に減結合誘電体層を形成するステップと、
インターデジタル変換器(IDT)を前記減結合誘電体層上に形成し、前記IDTのインターリーブされたフィンガが前記キャビティを横切って懸架する前記圧電プレートの前記部分の上にあるようにするステップと、
を含み、
前記圧電プレートが回転Yカットニオブ酸リチウムであり、
前記減結合誘電体層の厚さをtddとし、前記圧電プレートの厚さをtpとして、tdd/tpが0.05より大きい、
音響共振器デバイスを製造する方法。
【請求項16】
前記IDTのインターリーブされた前記フィンガのピッチが、前記圧電プレートの厚さの2倍以上25倍以下である、請求項15に記載の音響共振器デバイスを製造する方法。
【請求項17】
前記IDTのインターリーブされた前記フィンガは、幅を有し、
前記ピッチは、前記幅の2倍以上25倍以下である、
請求項16に記載の音響共振器デバイスを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(著作権及びトレードドレスの通知)
本特許文書の開示の一部分は、著作権の保護を受ける材料を含む。本特許文書は、所有者のトレードドレスである若しくはトレードドレスとなり得る事項を図示及び/又は記載することができる。著作権及びトレードドレスの所有者は、その特許開示が米国特許商標庁の特許出願書類又は記録内にあるので、当該特許開示を任意の者が複製することに異議はないが、それ以外は何であれ、全ての著作権及びトレードドレス権を保有するものである。
【0002】
(関連出願情報)
本特許は、2021年1月15日に出願された、「XBAR WITH INSULATING LAYER BETWEEN ELECTRODE AND PIEZOELECTRIC MEMBRANE TO REDUCE ACOUSTIC COUPLING」と題する仮特許出願第63/137,736号の優先権を主張し、その内容は参照によりここに組み込まれるものとする。
【0003】
本開示は、音響波共振器を用いた高周波フィルタに関し、特に通信機器に使用されるフィルタに関する。
【背景技術】
【0004】
無線周波数(RF)フィルタは、一部の周波数を通過させ、他の周波数を停止させるように構成された2ポートデバイスであり、「通過」は比較的低い信号損失で送信することを意味し、「停止」はブロック又は大幅に減衰させることを意味する。フィルタを通過する周波数の範囲は、フィルタの「通過帯域」と呼ばれる。このようなフィルタによって停止される周波数の範囲は、フィルタの「阻止帯域」と呼ばれる。一般的なRFフィルタは、少なくとも1つの通過帯域と、少なくとも1つの阻止帯域を有する。通過帯域又は阻止帯域の特定の要件は、用途に依存する。例えば、「通過帯域」は、フィルタの挿入損失が1dB、2dB、又は3dBなどの定義された値よりも優れている周波数範囲として定義され得る。「阻止帯域」は、フィルタの拒否が用途に応じて20dB、30dB、40dB、又はそれ以上などの定義された値よりも大きい周波数範囲として定義され得る。
【0005】
RFフィルタは、情報が無線リンクを介して送信される通信システムで使用される。例えば、RFフィルタは、セルラーベースステーション、携帯電話及びコンピューティングデバイス、衛星トランシーバ及び地上局、IoT(Internet of Things)デバイス、ラップトップコンピュータ及びタブレット、固定ポイント無線リンク、及び他の通信システムのRFフロントエンドにある。RFフィルタは、レーダ、電子及び情報戦システムでも使用される。
【0006】
RFフィルタは通常、特定の用途ごとに、挿入損失、拒否、絶縁、電力処理、直線性、サイズ及びコストなどの性能パラメータ間の最良の妥協点を実現するために多くの設計上のトレードオフを必要とする。特定の設計及び製造方法と機能強化は、これらの要件の1つ又は複数を同時に実現できる。
【0007】
無線システムにおけるRFフィルタの性能の向上は、システム性能に幅広い影響を与える可能性がある。RFフィルタの改善を活用して、セルサイズの拡大、バッテリ寿命の延長、データレートの向上、ネットワーク容量の拡大、コストの削減、セキュリティの強化、信頼性の向上などのシステム性能の改善を実現できる。これらの改善は、無線システムの多くのレベルで、例えば、RFモジュール、RFトランシーバ、モバイル又は固定サブシステム、又はネットワークレベルなど、個別に又は組み合わせて実現できる。
【0008】
現在の通信システム用の高性能RFフィルタは、一般に、弾性表面波(SAW)共振器、バルク音響波(BAW)共振器、フィルムバルク音響波共振器(FBAR)、及びその他のタイプの音響共振器を含む音響波共振器を組み込んでいる。しかしながら、これらの既存技術は、将来の通信ネットワークで提案されているより高い周波数及び帯域幅での使用には適していない。
【0009】
通信チャネルの帯域幅をより広くしたいという要望は、必然的に高い周波数の通信帯域を使用することになる。携帯電話網の無線アクセス技術は、3GPP(3rd Generation Partnership Project)(登録商標)によって標準化されている。第五世代(5G)モバイルネットワークの無線アクセス技術は、5G NR(new radio)規格で定義されている。5G NR規格では、いくつかの新しい通信帯域が定義されている。そのうちの2つが、3300MHz~4200MHzの周波数帯を使用するn77と、4400MHz~5000MHzの周波数帯を使用するn79である。帯域n77、帯域n79ともに時分割多重(TDD)を採用しており、帯域n77、帯域n79の通信機器は、上り、下りとも同じ周波数で通信を行う。帯域n77と帯域n79のバンドパスフィルタは、通信機器の送信電力に対応できるものでなければならない。5GHzと6GHzのWiFi帯域も、高い周波数と広い帯域幅を必要であとする。5GHzと6GHzのWiFi帯域も、高い周波数と広い帯域幅を必要であとする。5G NR規格では、24.25GHz~40GHzの周波数を有するミリ波通信帯も定義されている。
【0010】
横方向励起フィルムバルク音響共振器(XBAR)は、マイクロ波フィルタに使用するための音響共振器構造である。XBARは、「TRANSVERSELY EXCITED FILM BULK ACOUSTIC RESONATOR」と題する特許文献1に記載されている。XBAR共振器は、単結晶圧電材料の薄い浮遊層又はダイアフラム上に形成されたインターデジタル変換器(IDT)を含む。IDTは、第一のバスバーから延びる第一のセットの平行フィンガと、第二のバスバーから延びる第二のセットの平行フィンガとを含む。第一及び第二の平行フィンガは、インターリーブされている。IDTに印加されたマイクロ波信号により、圧電ダイアフラムに剪断一次音響波が励起される。XBAR共振器は、非常に高い電気機械結合と高い周波数性能を提供する。XBAR共振器は、バンドリジェクトフィルタ、バンドパスフィルタ、デュプレクサ、マルチプレクサなど、様々なRFフィルタに使用することができる。XBARは、3GHzを超える周波数を有する通信帯域用フィルタに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】横方向励起フィルムバルク音響共振器(XBAR)の概略平面図、2つの概略断面図、及び詳細図を含む。
【
図2】音響共振器を用いたバンドパスフィルタの概略ブロック図である。
【
図3】YXカットのニオブ酸リチウム及びZカットのニオブ酸リチウム振動板を用いたXBARのアドミタンスの大きさを示すグラフである。
【
図4】IDTフィンガと圧電ダイアフラムとの間に減結合誘電体層を有するXBARの概略断面図である。
【
図5】異なる厚さを有する減結合誘電体層を有するXBARのアドミタンスの大きさを示すグラフである。
【
図6】減結合誘電体層の厚さの関数としての電気機械的結合のグラフである。
【
図7】減結合XBARを使用する帯域N79フィルタの入出力伝達関数のグラフである。
【
図8】減結合XBAR又は減結合XBARを使用するフィルタを製造するための方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この説明全体を通して、図に表示される要素には3桁又は4桁の参照番号が割り当てられる。ここで、下2桁は要素に固有であり、上1桁又は上2桁は要素が最初に導入された図番号である。図と共に説明されていない要素は、同じ参照番号を有する前述の要素と同じ特性及び機能を有すると推定され得る。
【0014】
(装置の説明)
図1は、XBAR100の簡略化された概略的上面図及び直交断面図を示す。XBAR100などのXBARタイプの共振器は、バンドリジェクトフィルタ、バンドパスフィルタ、デュプレクサ、及びマルチプレクサを含むさまざまなRFフィルタで使用し得る。
【0015】
XBAR100は、それぞれ平行な前面112及び背面114を有する圧電プレート110の表面上に形成された薄膜導体パターンから構成される。圧電プレートは、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ケイ酸ランタンガリウム、窒化ガリウム、又は窒化アルミニウムなどの圧電材料の薄い単結晶層である。圧電プレートは、前面と背面に対するX、Y、Z結晶軸の配向が既知で一貫しているようにカットされる。圧電プレートは、Zカットであり、すなわち、Z軸が前面112及び背面114に垂直である。圧電プレートは、回転Zカットでも、あるいは回転YXカットであってもよい。XBARは、他の結晶学的配向を有する圧電プレート上に製造され得る。
【0016】
圧電プレート110の背面114は、基板に形成されたキャビティ140にまたがるダイアフラム115を形成する圧電プレート110の部分を除いて、基板120の表面に取り付けられている。キャビティにまたがる圧電プレートの部分は、マイクロフォンのダイアフラムに物理的に類似しているため、本明細書では「ダイアフラム」115と呼ばれる。
図1に示すように、ダイアフラム115は、キャビティ140の周囲145の全ての周りで圧電プレート110の残りの部分と隣接している。この文脈において、「隣接」は、「介在物なしで連続的に接続されている」ことを意味する。他の構成では、ダイアフラム115は、キャビティ140の周囲145の少なくとも50%の周りで圧電プレートと隣接していてもよい。
【0017】
基板120は、圧電プレート110に機械的支持を提供する。基板120は、例えば、シリコン、サファイア、石英、又は他の何らかの材料、あるいは材料の組み合わせであり得る。圧電プレート110の背面114は、ウェーハボンディングプロセスを用いて基板120に取り付けてもよい。代替として、圧電プレート110は、基板120上に成長させても、あるいは他の何らかの方法で基板に取り付けてもよい。圧電プレート110は、基板に直接取り付けても、あるいは1つ又は複数の中間材料層を介して基板に取り付けてもよい(
図1に図示せず)。
【0018】
「キャビティ」は、「中実体内の空いた空間」という従来の意味を有する。キャビティ140は、(断面A-A及び断面B-Bに示すように)基板120を完全に貫通する穴であってもよいし、ダイアフラム115の下の基板120の凹部であってもよい。キャビティ140は、例えば、圧電プレート110と基板120とが取り付け合わされる前又は後に、基板120を選択的にエッチングすることによって形成されてもよい。
【0019】
XBAR100の導体パターンは、インターデジタル変換器(IDT)130を含む。IDT130は、第一のバスバー132から延びるフィンガ136などの第一の複数の平行なフィンガと、第二のバスバー134から延びる第二の複数のフィンガとを含む。「バスバー」という用語は、IDTのフィンガが延びる導体を意味する。第一及び第二の複数の平行なフィンガは、インターリーブされる。インターリーブされたフィンガは、一般にIDTの「アパーチャ」と呼ばれる距離APにわたってオーバーラップする。IDT130の最も外側のフィンガ間の中心間距離Lは、IDTの「長さ」である。
【0020】
第一及び第二のバスバー132、134は、第一100の端子として機能する。IDT130の2つのバスバー132、134の間に適用される無線周波数又はマイクロ波信号は、圧電プレート110内の音波を励起する。一次音響モードは、音響エネルギーが圧電プレート110の表面に実質的に直交する方向に沿って伝播する剪断波であり、これはまた、IDTフィンガによって生成された電界の方向に垂直又は横方向である。したがって、XBARは、横方向励起フィルムバルク波共振器と見なされる。
【0021】
IDT130は、少なくともIDT130のフィンガがキャビティ140にまたがっている、又はその上に懸架されているダイアフラム115上に配置されるように、圧電プレート110上に配置される。
図1に示すように、キャビティ125は、IDT130のアパーチャAP及び長さLよりも広い範囲を有する長方形の形状を有する。XBARのキャビティは、規則的なポリゴンや不規則なポリゴンなど、さまざまな形状をしていてもよい。XBARのキャビティは、辺の数が4つを上回っても、下回ってもよく、それらの辺は直線のことも、あるいは曲線のこともある。
【0022】
図1の提示を容易にするために、IDTフィンガの幾何学的ピッチ及び幅は、XBARの長さ(寸法L)及びアパーチャ(寸法AP)に関して大幅に誇張されている。一般的なXBARは、IDT110に10を超える平行なフィンガを有する。XBARは、IDT110に数百、場合によっては数千の平行なフィンガを有し得る。同様に、断面図のフィンガの太さは大幅に誇張されている。
【0023】
ここで、詳細な概略断面図(詳細C)を参照すると、前面誘電体層150は、圧電プレート110の前面に、任意選択で形成することができる。XBARの「前面」は、定義上、基板とは反対側を向いている表面である。前面誘電体層150は、IDTフィンガ(例えば、IDTフィンガ138b)の間にのみ形成され得るか、あるいは誘電体層がIDTフィンガ(例えば、IDTフィンガ138a)の両方の間及び上に形成されるようにブランケット層として堆積され得る。前面誘電体層150は、二酸化ケイ素、アルミナ、又は窒化ケイ素などの非圧電誘電体材料であり得る。前面誘電体層150の厚さは、典型的には、圧電プレート110の厚さtpの約3分の1未満である。前面誘電体層150は、2つ以上の材料の複数の層から形成され得る。一部の用途において、圧電プレート110の背面に裏側誘電体層(図示せず)を形成することができる。
【0024】
IDTフィンガ138a、138bは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ベリリウム、金、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、又は他の導電性材料のうちの1つ又は複数の層であり得る。IDTフィンガは、アルミニウム又は少なくとも50%のアルミニウムを含む合金から形成されている場合、「実質的にアルミニウム」であると見なされる。IDTフィンガは、銅又は少なくとも50%の銅を含む合金から形成されている場合、「実質的に銅」であると見なされる。クロム又はチタンなどの金属の薄い(導体の総厚に対して)層を、フィンガと圧電プレート110との間の接着を改善するために、及び/又はフィンガを不動態化又はカプセル化するために、及び/又はパワーハンドリングを改善するために、フィンガの下及び/又は上、及び/又はフィンガ内の層として形成することができる。IDTのバスバー(
図1の132、134)は、フィンガと同じ材料又は異なる材料で製造することができる。
【0025】
寸法pは、IDTフィンガの中心間の間隔又は「ピッチ」であり、これはIDTのピッチ及び/又はXBARのピッチと呼ばれる場合がある。寸法mは、IDTフィンガの幅又は「マーク」である。XBARのIDTは、表面音響波(SAW)共振器で使用されるIDTとは大幅に異なる。SAW共振器では、IDTのピッチは、共振周波数での音響波長の半分である。さらに、SAW共振器IDTのマーク対ピッチ比は、典型的には、0.5に近い(つまり、マーク又はフィンガの幅は、共振時の音響波長の約4分の1である)。XBARでは、IDTのピッチpは、フィンガの幅mの2~20倍であり得る。ピッチpは、典型的には、フィンガの幅mの3.3~5倍である。さらに、IDTのピッチpは、圧電プレート210の厚さの2~20倍であり得る。DTのピッチpは、典型的には、圧電プレート210の厚さの5~12.5倍である。XBARのIDTフィンガの幅mは、共振時の音響波長の4分の1近傍に制限されない。例えば、XBARのIDTフィンガの幅は500nm以上であり得るので、IDTは光学リソグラフィーを使用して製造することができる。IDTフィンガの厚さは、100nmから幅mにほぼ等しい値まであり得る。IDTのバスバー(
図1の132、134)の厚さは、IDTフィンガの厚さと同じか、それより大きくてよい。
【0026】
図2は、XBARを使用する高周波バンドパスフィルタ200の概略的回路図及びレイアウトである。フィルタ200は、3つの直列共振器210A、210B、210C及び2つのシャント共振器220A、220Bを含む従来のラダーフィルタアーキテクチャを有する。直列共振器210A、210B、及び210Cは、第一のポートと第二のポートとの間に直列に接続されている(したがって、「直列共振器」という用語)。
図2に、第一のポート及び第二のポートは、それぞれ「イン」及び「アウト」とラベル付けされている。しかしながら、フィルタ200は双方向でであり、いずれのポートもフィルタの入力又は出力として機能する。2つのシャント共振器220A、220Bは、直列共振器間のノードから接地に接続されている。フィルタは、
図2に示されていないコンデンサ及び/又はインダクタなどの追加のリアクティブコンポーネントを含み得る。全てのシャント共振器及び直列共振器は、XBARである。 3つの直列共振器と2つのシャント共振器を含めることは、例示的なものである。フィルタは、合計で5つより多い、又は少ない共振器、3つより多い又は少ない直列共振器、及び2つより多い又は少ないシャント共振器を有することもある。典型的には、全ての直列共振器は、フィルタの入力と出力の間に直列に接続される。全てのシャント共振器は、典型的には、グランドと、2つの直列共振器間の入力、出力、又はノードのうちの1つとの間に接続される。
【0027】
例示的なフィルタ200では、フィルタ200の3つの直列共振器210A、B、C及び2つのシャント共振器220A、Bは、シリコン基板(図示せず)に結合された圧電材料の単一プレート230上に形成される。一部のフィルタでは、直列共振器とシャント共振器とは、圧電材料の異なるプレート上に形成されることもある。各共振器は、それぞれのIDT(図示せず)を含み、IDTの少なくともフィンガが基板のキャビティ上に配置されている。この文脈及び同様の文脈では、「それぞれ」という用語は、「モノをそれぞれに関連付ける」ことを意味する、つまり、1対1の対応である。
図2において、キャビティは、破線の長方形(長方形235など)として概略的に示されている。この例では、各IDTはそれぞれのキャビティ上に配置されている。他のフィルタでは、2つ以上の共振器のIDTが単一のキャビティ上に配置され得る。
【0028】
フィルタ200の共振器210A、210B、210C、220A、220Bのそれぞれは、共振器のアドミタンスが非常に高くなる共振と、共振器のアドミタンスが非常に低くなる反共振を有している。共振及び反共振は、それぞれ共振周波数及び反共振周波数で発生し、フィルタ200の様々な共振器について同じであることも、あるいは異なることもある。過度に単純化された意味合いでは、各共振器は、その共振周波数で短絡回路であり、その反共振周波数で開回路であると見なすことができる。入出力伝達関数は、シャント共振器の共振周波数と直列共振器の反共振周波数とでゼロに近い値になる。一般的なフィルタでは、シャント共振器の共振周波数はフィルタの通過帯域の下端に、直列共振器の反共振周波数は通過帯域の上端に位置する。一部のフィルタでは、シャント共振器の共振周波数を直列共振器の共振周波数に対して低く設定するために、点線の長方形270で表される前面誘電体層(「周波数設定層」とも呼ばれる)がシャント共振器上に形成されてもよい。他のフィルタでは、直列共振器のダイアフラムは、シャント共振器のダイアフラムよりも薄くてよい。一部のフィルタでは、直列共振器とシャント共振器は、異なる圧電プレートの厚さを有する別々のチップ上に製造されてもよい。
【0029】
ニオブ酸リチウム(LN)は、XBARに使用する圧電材料として好ましいものである。LNは非常に高い電気機械結合を有し、非圧電基板に取り付けられた薄い板として利用可能である。XBARには様々な結晶方位が使用できるが、使用されてきた2つの方位は、Zカット(オイラー角0°、0°、90°)と回転Yカット(オイラー角0°、β、0°、ここで。0°<β≦70°)である。30°≦β≦38°の回転YカットLNは、ZカットLNより電気機械的結合が高い。さらに、Zカットと回転YカットLNのXBARは、いずれも横方向(IDTフィンガに平行な方向)に音響エネルギーが漏れやすいが、回転YカットLN XBARでは、比較的簡単な構造でその損失を最小限に抑えることが可能である。ZカットのLN XBARでは、音響損失を最小化するために、より複雑な構造を必要とし、製造ステップの追加が必要となる。回転YカットLNを使用したXBARは、ZカットLNのXBARよりもスプリアスモードが少なく、小さくなり得る。
【0030】
図3は、2つのXBARに対するアドミタンスの大きさを示すグラフ300である。
図3及び後続の全ての例に示すデータは、有限要素法を用いたXBARのシミュレーションの結果である。実線の曲線310は、β=30°の回転YカットLN圧電プレートを用いたXBARのアドミタンスである。破線の曲線320は、ZカットLN圧電プレートを用いたXBARのアドミタンスである。いずれの場合も、圧電プレートの厚さは400nmで、IDT電極はアルミニウムで、IDTピッチは3マイクロメートルで、IDTフィンガマークは0.5マイクロメートルである。両XBARの共振周波数FRは約4760MHz、回転Yカット及びZカットXBARの反共振周波数FAはそれぞれ約5550MHz及び5350MHzである。回転YカットXBARとZカットXBARの共振周波数と反共振周波数の差は、それぞれ約590MHzと約790MHzである。電気機械結合は、パラメータk
2
effによって定量化され得、ここで、k
2
eff=(FA
2-FR
2)/FA
2である
図3の回転Yカット及びZカットのXBARのk
2
effは、それぞれ26.4%及び20.8%である。
【0031】
回転YカットLN XBARの共振周波数と反共振周波数の差が大きいため、非常に広い帯域幅を有するフィルタを設計することができる。しかしながら、共振周波数と反共振周波数との間の差は、いくつかのフィルタ用途には高すぎることがある。例えば、5G NRの帯域N79は、4400MHz~5000MHzの周波数範囲に及ぶ。帯域N79のバンドパスフィルタは、従来の回転YカットLN XBARでは実装できない。上述したように、ラダーフィルタ回路におけるシャント共振器の共振周波数は、典型的に、フィルタ通過帯域の下端の直下にあり、シャント共振器の反共振周波数は通過帯域内にある。逆に、直列共振器の反共振周波数は、典型的に、通過帯域の上端の直上にあり、直列共振器の共振周波数は通過帯域内にある。この2つの要件を実現するためには、共振器の共振周波数と反共振周波数の差は、フィルタ帯域幅以下である必要がある。回転YカットLN XBARの共振周波数と反共振周波数の差は790MHzであり、これは、帯域N79の帯域幅600MHzより大きい。
【0032】
図4は、「減結合」XBAR共振器(DXBAR)400の詳細な概略断面図である。減結合XBAR400は、厚さtpを有する圧電プレート410と、厚さtm、ピッチp、及び幅mを有するIDTフィンガ438とを含む。圧電プレート410及びIDTフィンガ438の材料は、上述のとおりであり得る。
【0033】
減結合XBAR400と
図1の詳細Cに示すXBAR100との違いは、IDTフィンガ438とダイアフラム410との間に誘電体層450が存在することである。誘電体層450の効果は、XBAR400を「減結合」すること、すなわち、XBAR400の電気機械的結合を低減させることである。誘電体層450のような誘電体層は、本明細書において「減結合誘電体層」と称されることになる。減結合の程度は、部分的に、減結合誘電体層450の厚さtddに依存する。
【0034】
減結合誘電体層450は、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、又は他の適切な誘電体材料で作られてもよい。一部の用途において、減結合誘電体層450の好ましい材料は、二酸化ケイ素であってもよく、これは、
図1のXBAR100と比較して、XBAR400の周波数の温度係数(TCF)を低下させるという大きな副次的利点を提供する。
【0035】
図4には示されていないが、
図1の誘電体層150のような1つ又は複数の追加の誘電体層が、IDTフィンガ438及び減結合誘電体層450の上に形成されてもよい。追加の誘電体層は、直列共振器の共振周波数に対してその共振周波数を下げるために、典型的には、ラダーフィルタ回路におけるシャント共振器のIDTの上に形成される周波数設定層を含んでもよい。また、追加の誘電体層は、デバイスの表面を封止し、共振周波数をチューニングするために選択的に除去することができる犠牲材料を提供するパッシベーション及びチューニング層であってもよいし、それを含んでもよい。
【0036】
図5は、3つの減結合XBARデバイスの周波数の関数として、アドミタンスの大きさを示すグラフ500である。実線の曲線510は、tdd(減結合誘電体層の厚さ)=70nmの減結合XBARのアドミタンスの大きさをプロットしたものである。破線の曲線520は、tdd=80nmの減結合XBARのアドミタンスの大きさをプロットしたものである。一点鎖線の曲線530は、tdd=90nmの減結合XBARのアドミタンスの大きさをプロットしたものである。3つのXBARは全て、オイラー角0°、30°、0°の回転Yカット圧電プレートを使用している。
【0037】
減結合誘電体層の厚さを増加させると、XBARダイアフラムの全体的な厚さが増加し、その結果、共振周波数が対応して減少する。減結合誘電体層の厚さを増加させると、共振周波数と反共振周波数の間との差を減少させる電気機械的結合が低下する。3つのXBARのk2
effの値は、21%、20%、19%である。tdd=80nmのXBARのk2
eff(破線の曲線520)は、Zカット圧電プレートを用いたXBARとほぼ同じである。
【0038】
減結合誘電体層の効果は、圧電プレートの厚さに応じてスケールアップする。
図6は、オイラー角0°、127.5°、0°の回転Yカットニオブ酸リチウムを用いたXBARのtdd(減結合誘電体層の厚さ)とtp(圧電プレートの厚さ)の比の関数としてのk
2
effのグラフ600である。白丸610は
図3のLN XBARを、黒丸620は
図5の3つのXBARを表している。破線630は、tdd/tpのこの範囲にわたるデータ点に対する妥当な線形近似である。
【0039】
比tdd/tpは、k2
effの有用な減少を得るために、典型的には0.05以上である。比tdd/tpは、一般に0.5より大きくはない。
【0040】
図7は、減結合XBARを使用する予備帯域のN79バンドパスフィルタ設計の性能のグラフ700である。具体的には、曲線710は、フィルタのS2,1(入出力伝達関数)の大きさを周波数に対してプロットしたものである。シミュレーションされたフィルタは、ラダーフィルタ回路に7つの減結合XBARを組み込んでいる。圧電プレートは、回転Yカットのニオブ酸リチウムである。減結合誘電体層の厚さは、圧電プレートの厚さの約22%である。周波数設定誘電体層は、シャント共振器の上に形成され、パッシベーション誘電体層は、全ての共振器の上に形成される。
【0041】
XBAR又はDXBARの周波数は、主として、圧電プレート及び任意の誘電体層を含むそのダイアフラムの厚さによって決定される。XBARのIDTのマークとピッチは、スプリアスモードの影響を最小化するように、特に、フィルタの通過帯域から外れた周波数にスプリアスモードを位置づけるように選択される。XBAR又はDXBARの長さとアパーチャは、所望のフィルタ入出力インピーダンスに適合するために必要な静電容量と、デバイスの予想される電力損失の組み合わせによって決定される。
【0042】
所与のIDTピッチ及びマークについて、DXBARの単位IDT面積当たりの静電容量は、XBARの単位面積当たりの静電容量より小さくなる。静電容量の減少は、圧電プレートよりも著しく低い誘電率を有する減結合誘電体層の存在に起因するものである。しかしながら、DXBARのマーク/ピッチ設計空間(低スプリアスモード用)は、より小さなピッチ値を好む傾向にある。ピッチが小さいと単位面積あたりの静電容量が大きくなり、減結合誘電体層の存在による静電容量の減少を相殺することができる。したがって、DXBARを用いたフィルタは、XBARを用いたフィルタよりも大きくする必要はなく、場合によっては小さくすることも可能である。
【0043】
二酸化ケイ素の減結合誘電体層を使用することによる二次的な、しかし、重要な利点は、周波数の温度係数(TCF)の改善である。圧電プレートの厚さの約22%の厚さを有する減結合誘電体層を有するDXBARのTCFは、共振周波数が65、反共振周波数が62である。Zカットのニオブ酸リチウムを用いた同等のXBARのTCFは、共振周波数が105で、反共振周波数が83である。
【0044】
XBARの電気機械結合を低減するために減結合誘電体層を使用することで、フィルタ設計者にさらなる自由度を提供することができる。フィルタ設計者は、圧電プレートの固有のカット角を必要とせずに、電気機械的結合を特定のフィルタの要件に合わせて調整することができる。
【0045】
(方法の説明)
図8は、XBARを組み込んだフィルタを製造するためのプロセス800の簡略化されたフローチャートである。具体的には、プロセス800は、複数のDXBARを含むフィルタデバイスを製造するためのものであり、そのうちのいくつかは、周波数設定誘電体層を含んでもよい。プロセス800は、805でデバイス基板と、犠牲基板上に配置された圧電材料の薄いプレートとから開始される。プロセス800は、895で、完成したフィルタデバイスで終了する。
図8のフローチャートには、主要なプロセスステップのみが含まれている。さまざまな従来のプロセスステップ(例えば、表面処理、洗浄、検査、ベーキング、アニーリング、監視、試験など)は、
図8に示されるステップの前、間、後、及び最中に実行され得る。
【0046】
図8は、一般に、単一のフィルタデバイスを製造するためのプロセスを説明しているが、複数のフィルタデバイスは、(基板に結合された圧電プレートからなる)共通のウェーハ上に同時に製造され得る。この場合、プロセス800の各ステップは、ウェーハ上の全てのフィルタデバイス上で同時に実行され得る。
【0047】
図8のフローチャートは、デバイス基板にいつ、どのようにキャビティを形成するかが異なるXBARを製造するためのプロセス800の3つの変形例を捕らえている。キャビティは、ステップ810A、810B、又は810Cで形成されてもよい。これらのステップのうちの1つだけが、プロセス800の3つの変形例のそれぞれにおいて実行される。
【0048】
圧電プレートは、典型的には、回転Yカットニオブ酸リチウムであり得る。圧電プレートは、何らかの他の材料及び/又は何らかの他のカットであり得る。デバイス基板は、好ましくはシリコンであり得る。デバイス基板は、エッチング又は他の処理によって深いキャビティの形成を可能にする何らかの他の材料であり得る。
【0049】
プロセス800の変形例では、815で圧電プレートが基板に結合される前に、810Aで、1つ又は複数のキャビティがデバイス基板に形成される。フィルタデバイスの各共振器に対して別個のキャビティが形成されてもよい。1つ又は複数のキャビティは、従来のフォトリソグラフィー及びエッチング技術を使用して形成することができる。典型的には、810Aで形成されたキャビティは、デバイス基板を貫通しない。
【0050】
815で、圧電プレートがデバイス基板に結合される。圧電プレートとデバイス基板とは、ウェーハボンディングプロセスによって結合され得る。通常、デバイス基板と圧電プレートとの合わせ面は、高度に研磨されている。酸化物又は金属などの中間材料の1つ又は複数の層が、圧電プレート及びデバイス基板の片方又は両方の合わせ面上に形成又は堆積され得る。片方又は両方の合わせ面は、例えば、プラズマ処理を使用して活性化し得る。次に、圧電プレートとデバイス基板又は中間材料層との間に分子結合を確立するために、合わせ面をかなりの力で一緒に押圧し得る。
【0051】
820で、犠牲基板を除去することができる。例えば、圧電プレートと犠牲基板は、圧電プレートとなるものと犠牲基板との間の境界を定義する平面に沿って結晶構造に欠陥を作り出すためにイオン注入された圧電材料のウェーハであり得る。820で、ウェーハは、例えば熱衝撃によって欠陥面に沿って分割され得、犠牲基板を分離し、圧電プレートをデバイス基板に結合したままにする。圧電プレートの露出面は、犠牲基板が取り外された後、何らかの方法で研磨又は処理することができる。
【0052】
非圧電基板に積層された単結晶圧電材料の薄板は、市販されている。本出願の時点では、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムの両方のプレートが、シリコン、石英、及び溶融シリカを含む様々な基板に結合されて利用可能である。他の圧電材料の薄板は、現在又は将来的に利用できるようになる可能性がある。圧電プレートの厚さは、300nm~1000nmの間である。基板がシリコンの場合、圧電プレートと基板との間にSiO2の層が配置されてもよい。市販の圧電プレート/デバイス基板積層体が使用される場合、プロセス800のステップ810A、815、及び820は実行されない。
【0053】
825で、圧電プレートの前面上に誘電体材料を堆積させることにより、減結合誘電体層が形成される。減結合誘電体層は、典型的には二酸化ケイ素であってよいが、窒化ケイ素又は酸化アルミニウムのような別の誘電体材料であってもよい。減結合誘電体層は、2つ以上の誘電体材料の複合体であってもよいし、2つ以上の誘電体材料の層であってもよい。減結合誘電体層は、減結合誘電体層が圧電プレートの一部の部分に存在し、圧電プレートの他の部分に存在しないようにパターン化されてもよい。減結合誘電体層は、減結合誘電体層の異なる厚さが圧電プレートの異なる部分に存在するように、2つ以上の別々にパターニングされた層として形成されてもよい。
【0054】
各XBARのIDT及び反射器要素を含む第一の導体パターンは、圧電プレートの前面側に1つ又は複数の導体層を堆積して、パターン化することによって845で形成される。第一の導体パターンの全部又は一部は、825で形成された減結合誘電体層の上であってもよい。導体層は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、又は何らかの他の導電性金属であってもよい。任意選択で、他の材料の1つ又は複数の層が、導体層の下(すなわち、導体層と圧電プレートの間)及び/又は導体層の上に配置されてもよい。例えば、チタン、クロム、又は他の金属の薄膜を使用して、導体層と圧電プレートとの間の接着を改善してもよい。第一の導体パターンの一部(例えばIDTバスバーやIDT間の相互接続部)の上に、金、アルミニウム、銅又は他の導電性の高い金属による第二の導体パターンを形成してもよい。
【0055】
各導体パターンは、圧電プレートの表面上に導体層と、任意選択で、1つ又は複数の他の金属層を順に堆積させることによって、845で形成されてもよい。その後、過剰な金属は、パターン化されたフォトレジストを介してエッチングすることによって除去されてもよい。導体層は、例えば、プラズマエッチング、反応性イオンエッチング、湿式化学エッチング、又は他のエッチング技術によってエッチングすることができる。
【0056】
あるいは、各導体パターンは、リフトオフプロセスを使用して845で形成されてもよい。フォトレジストは、圧電プレート上に堆積され、導体パターンを規定するようにパターン化されてもよい。導体層と、任意選択で、1つ又は複数の他の層とを、圧電プレートの表面上に順番に堆積させてもよい。その後、フォトレジストを除去して、これにより、余分な材料を除去し、導体パターンを残してもよい。
【0057】
850で、1つ又は複数の周波数設定誘電体層が、圧電プレートの前面上に誘電体材料の1つ又は複数の層を堆積させることによって形成されてもよい。例えば、誘電体層は、シャント共振器の上に形成して、直列共振器の周波数に対してシャント共振器の周波数を下げることができる。1つ又は複数の誘電体層は、物理的気相成長法、原子層堆積法、化学的気相成長法、又は他の方法などの従来の堆積技術を使用して堆積されてもよい。誘電体層の堆積を圧電プレートの選択された領域に限定するために、(フォトマスクを使用する)1つ又は複数のリソグラフィプロセスが使用されてもよい。例えば、シャント共振器のみを覆うように誘電体層を制限するために、マスクを用いてもよい。
【0058】
855で、パッシベーション/チューニング誘電体層が、圧電プレート及び導体パターンの上に堆積される。パッシベーション/チューニング誘電体層は、フィルタの外部の回路への電気接続のためのパッドを除いて、フィルタの全表面を覆ってもよい。プロセス800のいくつかの実施形態では、パッシベーション/チューニング誘電体層は、デバイス基板内のキャビティが810B又は810Cのいずれかにおいてエッチングされた後に形成されてもよい。
【0059】
プロセス800の第二の変形例では、810Bで、1つ又は複数のキャビティがデバイス基板の背面に形成される。フィルタデバイスの各共振器に対して別個のキャビティが形成されてもよい。1つ又は複数のキャビティは、異方性又は配向依存性のドライ又はウェットエッチングを使用して、デバイス基板の背面から圧電プレートまでの穴を開けて形成されてもよい。この場合、得られる共振器デバイスは、
図1に示すような断面を有することになる。
【0060】
プロセス800の第三の変形例では、810Cで、圧電プレートの開口部を介して導入されるエッチング剤を用いて基板をエッチングすることにより、デバイス基板に凹部の形態の1つ又は複数のキャビティを形成してもよい。フィルタデバイスの各共振器に対して別個のキャビティが形成されてもよい。810Cで形成された1つ又は複数のキャビティは、デバイス基板を貫通しない。
【0061】
理想的には、キャビティが810B又は810Cで形成された後、ウェーハ上のフィルタデバイスのほとんど又は全てが、一連の性能要件を満たすことになる。しかしながら、通常のプロセス公差によって、850及び855で形成される誘電体層の厚さなどのパラメータの変動、845で形成される導体及びIDTフィンガの厚さ及び線幅の変動、並びに圧電プレートの厚さの変動がもたらされる。これらの変動は、フィルタデバイスの性能を一連の性能要件から逸脱させる一因となる。
【0062】
性能要件を満たすフィルタデバイスの歩留まりを改善するために、855で、共振器上に堆積されたパッシベーション/チューニング層の厚さを選択的に調整することによって、周波数チューニングが実行されてもよい。フィルタデバイスの通過帯域の周波数は、パッシベーション/チューニング層に材料を加えることによって下げることができ、フィルタデバイスの通過帯域の周波数は、パッシベーション/チューニング層への材料を除去することによって上げることができる。典型的には、プロセス800は、最初は必要な周波数範囲よりも低いが、パッシベーション/チューニング層の表面から材料を除去することによって所望の周波数範囲に同調させることができる通過帯域を有するフィルタデバイスを製造するようにバイアスされる。
【0063】
860で、プローブカード又は他の手段を使用して、フィルタとの電気接続を行って、無線周波数(RF)試験及び入出力伝達関数などのフィルタ特性の測定を可能にすることができる。典型的には、RF測定は、共通の圧電プレート及び基板上に同時に製造されたフィルタデバイスの全て、又は大部分に対して行われる。
【0064】
865で、グローバル周波数チューニングは、例えば、先に説明したような走査イオンミルのような選択的材料除去ツールを用いてパッシベーション/チューニング層の表面から材料を除去することによって実行され得る。「グローバル」チューニングは、個々のフィルタデバイスと同等又はそれ以上の空間分解能で実行される。グローバルチューニングの目的は、各フィルタデバイスの通過帯域を所望の周波数範囲に向けて移動させることである。860からのテスト結果は、ウェーハ上の二次元位置の関数として除去されるべき材料の量を示すグローバル等高線マップを生成するために処理されてもよい。次に、選択的材料除去ツールを用いて、輪郭マップに従って材料が除去される。
【0065】
870では、865で行われたグローバル周波数チューニングの追加又は代替として、ローカル周波数チューニングが行われることがある。「ローカル」周波数チューニングは、個々のフィルタデバイスよりも小さい空間分解能で実行される。860からの試験結果は、各フィルタデバイスにおいて除去されるべき材料の量を示すマップを生成するために処理されてもよい。ローカル周波数チューニングは、材料が除去される領域の大きさを制限するために、マスクの使用を必要とする場合がある。例えば、第一のマスクを使用してシャント共振器のみにチューニングを制限し、その後、第二のマスクを使用して直列共振器のみにチューニングを制限することができる(又は、その逆も可能)。これにより、フィルタデバイスの帯域下端(シャント共振器のチューニングによる)と帯域上端(直列共振器のチューニングによる)の独立したチューニングを行うことができるようになる。
【0066】
865及び/又は870での周波数チューニングの後、フィルタデバイスは、875で完成する。875で起こり得るアクションには、デバイスと外部回路との間の接続を行うために、ボンディングパッド、若しくははんだバンプ又は他の手段(そのようなパッドが845で形成されなかった場合)の形成、複数のフィルタデバイスを含むウェーハからの個々のフィルタデバイスの切り出し、他のパッケージング手順、及び追加の試験が含まれる。各フィルタデバイスが完成した後、プロセスは、895で終了する。
【0067】
(結びのコメント)
この説明全体を通して、示される実施形態及び実施例は、開示又は特許請求される装置及び手順に対する制限ではなく、模範と見なされるべきである。本明細書に提示される例の多くは、方法動作又はシステム要素の特定の組み合わせを含むが、それらの行為及びそれらの要素は、同じ目的を達成するために他の方法で組み合わせることができることを理解されたい。フローチャートに関しては、ステップを追加することも、より少なくすることもでき、示されているステップを組み合わせて、あるいはさらに改良して、本明細書に記載の方法を達成することもできる。一実施形態に関連してのみ論じられる動作、要素、及び特徴は、他の実施形態における同様の役割から除外されることを意図するものではない。
【0068】
本明細書で使用される場合、「複数」は2つ以上を意味する。本明細書で使用される場合、アイテムの「セット」は、そのようなアイテムの1つ又は複数を含み得る。本明細書で使用される場合、書面による説明又は特許請求の範囲において、「備える」、「含む」、「携える」、「有する」、「含有する」、「関与する」などの用語は、オープンエンドであると理解されるべきであり、つまり、これに限定されない。クレームに関して、それぞれ「からなる」及び「本質的にからなる」の移行句のみが、クローズエンド又はセミクローズエンドの移行句である。クレーム要素を変更するためのクレームでの「第一」、「第二」、「第三」などの序数詞の使用は、それ自体では、他のクレーム要素に対するいかなる優先性、優先順位、又は順序、又は方法の動作が実行される時間的な順序を意味するものではなく、クレーム要素を区別するために、特定の名称を有する1つのクレーム要素を同じ名称を有する別の要素から区別するためのラベルとしてのみ使用される(ただし、序数詞を使用するため)。本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、列挙されたアイテムが代替物であることを意味するが、代替物は、列挙されたアイテムの任意の組み合わせも含む。