(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】ノズル基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240501BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
B41J2/16
B41J2/16 517
B41J2/16 507
B41J2/16 505
(21)【出願番号】P 2022513830
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016103
(87)【国際公開番号】W WO2021205643
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】角谷 武志
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-509948(JP,A)
【文献】国際公開第2004/112119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
B41J 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を具備したノズル部を有するノズル基板の製造方法であって、
シリコン基板上又はSOI基板上に、
複数の孔を有するレジストパターンを有するレジスト層を形成する第1工程と、
ドライエッチングによりシリコン基板又はSOI基板をエッチングする第2工程を有し、
前記第2工程では、シリコンをエッチングするガスと酸素ガス
(但し、堆積用のフッ化炭素系のガスを含むものを除く)を使用し、
シリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を2段階以上で変化させながらエッチングを行って、
湾曲形状を有する貫通孔を具備したノズル部を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程で使用するシリコンをエッチングするガスが、6フッ化硫黄(SF
6)であることを特徴とする請求項1に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程におけるドライエッチングが、深掘りRIE装置によるボッシュプロセスを用いた深掘りエッチングであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、エッチングするガスと酸素ガスとの混合比を2段階以上で変化させ、1段目では酸素ガスの比率を低くし、2段目以降は1段目より酸素ガスの混合比率を高く設定してエッチングすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程でドライエッチングした前記シリコン基板又はSOI基板の反対側面を、エッチング又は研削により所定の厚さにトリミングし、仮固定していた基板を外し、貫通孔を形成することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程で形成するレジスト層の厚さが、10μm未満であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項7】
連通路基板を、前記ノズル部に接合することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項8】
前記SOI基板の支持層に連通路を形成した後、
前記連通路の底面部に位置する活性層に前記第1工程及び第2工程に従って、テーパー構造を有する貫通孔を形成する
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【請求項9】
前記ノズル部上にNi電鋳を形成したのち、当該Ni電鋳に連通路を構成することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル基板の製造方法に関し、更に詳しくは、ノズル径の寸法精度と、ノズル部の湾曲部を高精度で所望の形状で形成することができるノズル基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドの吐出精度を向上させるため、テーパー形状のノズルの出口付近のみをストレートに加工するノズル基板(以下、ノズルプレートともいう。)が提案されている。ノズルにストレート部を形成することにより、ノズルの加工時における孔径の寸法精度が安定するため、各ノズルにおけるインク吐出量を一定に保つ効果が期待できる。
【0003】
このようなノズル基板の製造方法が、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0004】
特許文献1には、酸化膜上にシリコン単結晶層を形成した構造のシリコンウェハであるSOI(Silicon On Insulator)基板にテーパー連通路とストレート開口部を形成した漏斗型のノズル基板の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法は、SOI基板を使用し、BOX層(Buried Oxide 熱酸化膜層)止めでICP深掘り加工し、BOX層側にストレート開口部(ノズルストレート部ともいう。)を形成し、次いで、ストレート開口部を酸化膜で保護して、例えば、ウェット異方性エッチングによりテーパー連通路(テーパー部ともいう。)を形成する方法である。特許文献1で記載の方法では、射出時のノズルストレート開口部を形成した後、テーパー連通路を形成するパターンでは、それぞれの中心線での芯ずれが生じるという問題を抱えている。
【0006】
また、特許文献2には、ストレート部の深堀加工をする第1の工程と、樹脂を充填する第2の工程と、充填した樹脂の一部を除去し、垂直孔部を等方性ドライエッチングする第3の工程と、それらを繰り返して、複合曲面を有する漏斗形状のノズル基板の製造方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、曲面部を形成する第3の工程時に、基板表面もエッチングされることになり、後にノズル長となる基板厚さが精度よく形成できないという問題を抱えている。加えて、エッチング分布がノズル長に影響する問題がある。また、ノズル孔に均一に樹脂を充填することは製造技術上難しく、充填不十分な孔があれば、第3の工程時にもノズル部でエッチングが進行し、結果として不良ノズルが生じてしまう問題がある。
【0008】
また、特許文献3には、滑らかに湾曲させた開口部を有するフォトレジスト層を形成し、ドライエッチングによってレジスト層の表面の輪郭に沿ってフォトレジスト層を徐々にエッチングするとともに、垂直壁を有する穴部を漏斗形状に変形させる工程を含む、ノズル基板の製造方法が開示されている。特許文献3で開示されている方法であれば、基板表面はレジストに覆われているため、ノズル長さに影響が出ることはない。
【0009】
しかしながら、特許文献3では、フォトレジストを加熱により湾曲させており、基板(例えば、シリコン基板)とレジストとを同程度のエッチング速度でエッチングしていくため、レジスト層は10μm以上に厚く形成する必要がある。ノズル径の寸法精度を向上させるには、レジストは薄いほうが好ましく、特許文献3で開示されている方法では、ノズル径精度と湾曲部の形成を両立させる点に問題がある。
【0010】
また、湾曲部は、実質的にレジストの形状が転写されるため、湾曲部の形状を自由に変えることも難しい。
【0011】
従って、ノズル径とノズル長の寸法精度と、ノズル部の湾曲部(以下、テーパー部又はテーパー形状ともいう。)を所望の形状で、かつ高精度で形成することができるノズル基板の製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第5519263号公報
【文献】特開2009-18423号公報
【文献】特開2013-230676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ノズル径の寸法精度と、ノズル部の湾曲部を高精度で所望の形状で形成することができるノズル基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、ノズル基板の製造方法であって、シリコン等の基板上に、レジスト層を形成した後、シリコンをドライエッチングするガスと酸素ガスの混合比を複数回にわたり変化させながら、湾曲構造を有する貫通孔を形成することにより、ノズル径の寸法精度と、ノズル部の湾曲部を高精度で所望の形状で形成することができることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0016】
1.貫通孔を具備したノズル部を有するノズル基板の製造方法であって、
シリコン基板上又はSOI基板上に、
複数の孔を有するレジストパターンを有するレジスト層を形成する第1工程と、
ドライエッチングによりシリコン基板又はSOI基板をエッチングする第2工程を有し、
前記第2工程では、シリコンをエッチングするガスと酸素ガス(但し、堆積用のフッ化炭素系のガスを含むものを除く)を使用し、
シリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を2段階以上で変化させながらエッチングを行って、
湾曲形状を有する貫通孔を具備したノズル部を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【0017】
2.前記第2工程で使用するシリコンをエッチングするガスが、6フッ化硫黄(SF6)であることを特徴とする第1項に記載のノズル基板の製造方法。
【0018】
3.前記第2工程におけるドライエッチングが、深掘りRIE装置によるボッシュプロセスを用いた深掘りエッチングであることを特徴とする第1項又は第2項に記載のノズル基板の製造方法。
【0019】
4.前記第2工程において、エッチングするガスと酸素ガスとの混合比を2段階以上で変化させ、1段目では酸素ガスの比率を低くし、2段目以降は1段目より酸素ガスの混合比率を高く設定してエッチングすることを特徴とする第1項から第3項のいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【0020】
5.前記第2工程でドライエッチングした前記シリコン基板又はSOI基板の反対側面を、エッチング又は研削により所定の厚さにトリミングし、仮固定していた基板を外し、貫通孔を形成することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【0021】
6.前記第1工程で形成するレジスト層の厚さが、10μm未満であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【0022】
7.連通路基板を、前記ノズル部に接合することを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【0023】
8.前記SOI基板の支持層に連通路を形成した後、
前記連通路の底面部に位置する活性層に前記第1工程及び第2工程に従って、テーパー構造を有する貫通孔を形成する
ことを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【0024】
9.前記ノズル部上にNi電鋳を形成したのち、当該Ni電鋳に連通路を構成することを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載のノズル基板の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
上記手段によれば、ノズル径の寸法精度と、ノズル部の湾曲部を高精度で所望の形状で形成することができるノズル基板の製造方法を提供することができる。
【0026】
本発明で規定する構成からなるノズル基板の製造方法の技術的特徴とその効果の発現機構は、以下のとおりである。
【0027】
前述の様に、従来、湾曲部の形状を有するノズル基板の作製方法としては、前記特許文献3に記載されているように、例えば、シリコン基板上に厚膜のフォトレジスト層を形成した後、ドライエッチングにより、フォトレジスト層の表面の輪郭に沿って、当該フォトレジスト層を徐々に除去するとともに、垂直壁を有する貫通部を湾曲状(以下、「テーパー形状」ともいう。)に変形させる方法である。しかしながら、当該方法では、フォトレジスト層としては約10μm以上とする厚膜設計であり、貫通孔(以下、「ノズル孔」ともいう。)を高い寸法精度で形成することが難しく、かつ、形成される湾曲部(以下、「テーパー部」ともいう。)の形状は、フォトレジスト層の形状が転写されるため、湾曲部(テーパー部)を設計する自由度や湾曲部の形成精度が低い。
【0028】
本発明のノズル基板の製造方法では、上記問題に対し、第1工程として、シリコン基板上又はSOI基板上に、複数の孔を有するレジストパターンを有するレジスト層を形成し、次いで、第2工程では、ドライエッチングによりシリコン基板又はSOI基板をエッチングして貫通孔を形成するが、ドライエッチング時に、エッチングガスとして、シリコンをエッチングするガス、例えば、6フッ化硫黄(SF6)と酸素ガスを使用し、シリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を2段階以上で変化させながらエッチングを行うことにより、所望の湾曲形状を有する貫通孔を高精度で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】ドライエッチング時のシリコンをエッチングするガスと酸素ガスとの混合比違いにより形成される湾曲形状の一例を示す図
【
図2】本発明の代表的な貫通孔の湾曲形状を説明するための模式図
【
図3】本発明のノズル基板に湾曲形状を有する貫通孔の形成ステップの一例を示す断面図(実施形態1)
【
図4】SOI基板のノズル部上に、一体型の連通路を形成するステップの一例を示す断面図のその1(実施形態2)
【
図5】SOI基板のノズル部上に、一体型の連通路を形成するステップの一例を示す断面図のその2(実施形態2)
【
図6】SOI基板のノズル部上に、一体型の連通路を形成するステップの他の一例を示す断面図のその1(実施形態3)
【
図7】SOI基板のノズル部上に、一体型の連通路を形成するステップの他の一例を示す断面図のその2(実施形態3)
【
図8】SOI基板のノズル部上に、一体型の連通路を形成するステップの他の一例を示す断面図のその3(実施形態3)
【
図9】SOI基板のノズル部上に、接合型の連通路を形成するステップの一例を示す断面図のその1(実施形態4)
【
図10】SOI基板のノズル部上に、接合型の連通路を形成するステップの一例を示す断面図(実施形態4)
【
図11】シリコン基板のノズル部上に、接合型(仮固定)の連通路を形成するステップの一例を示す断面図のその1(実施形態5)
【
図12】シリコン基板のノズル部上に、接合型(仮固定)の連通路を形成するステップの一例を示す断面図のその2(実施形態5)
【
図13】シリコン基板のノズル部上に、接合型の連通路を形成するステップの一例を示す断面図(実施形態6)
【
図14】シリコン基板のノズル部上に、接合型の連通路を形成するステップの他の一例を示す断面図のその1(実施形態7)
【
図15】シリコン基板のノズル部上に、接合型の連通路を形成するステップの他の一例を示す断面図のその2(実施形態7)
【
図16】シリコン基板のノズル部上に、Ni電鋳型の連通路を形成するステップの一例を示す断面図(実施形態8)
【
図17】インクジェットヘッドの構成の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のノズル基板の製造方法は、貫通孔を具備したノズル部を有するノズル基板の製造方法であって、シリコン基板上又はSOI基板上に、複数の孔を有するレジストパターンを有するレジスト層を形成する第1工程と、ドライエッチングによりシリコン基板又はSOI基板をエッチングする第2工程を有し、前記第2工程では、シリコンをエッチングするガスと酸素ガスを使用し、シリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を2段階以上で変化させながらエッチングを行って、湾曲形状を有する貫通孔を具備したノズル部を有することを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0031】
本発明の実施形態としては、本発明の効果発現の観点から、前記第2工程で使用するシリコンをエッチングするガスとして、6フッ化硫黄(SF6)を適用することが、より高精度で所望の湾曲形状を形成できる点で好ましい。
【0032】
また、前記第2工程におけるドライエッチングが、深掘りRIE装置によるボッシュプロセスを用いた深掘りエッチングであることが、高精度で所望の湾曲形状とノズル径を有する貫通孔を形成することができる点で好ましい。
【0033】
また、前記第2工程において、エッチングするガスと酸素ガスとの混合比を2段階以上で変化させ、1段目では酸素ガスの比率を低くし、2段目以降は1段目より酸素ガスの混合比率を高く設定してエッチングすることにより、貫通孔として、ストレート部からテーパー角を連続的に変化させながら、所望の湾曲形状を安定して、かつ高精度で形成することができる点で好ましい。
【0034】
また、前記第2工程でドライエッチングした前記シリコン基板又はSOI基板の反対側面を、エッチング又は研削により所定の厚さにトリミング、もしくは仮固定していた基板を外し、貫通孔を形成することが、安定してノズル基板を製造することができる点で好ましい。
【0035】
また、前記第1工程で形成するレジスト層の厚さを10μm未満とすることが、ドライエッチング時にレジスト層の膜厚の影響を受けることなく、形成するノズル径の精度を高めることができる点で好ましい。
【0036】
また、連通路基板を、前記ノズル部に接合してインク供給する連通路を形成する方法が、インクジェットヘッドの組み立ての容易性が高くなる点で好ましい。
【0037】
また、前記SOI基板の支持層に連通路を形成した後、前記連通路の底面部に位置する活性層に前記第1工程及び第2工程に従って、テーパー構造を有する貫通孔を形成するノズル基板の製造方法が、連通路基板とノズル基板の組立がない為、各基板間の位置ずれが無く、加工時の厚さが厚く、ハンドリングがし易く、完成したノズル基板が厚くなり、インクジェットヘッドの組み立てがし易くなる点で好ましい。
【0038】
また、前記ノズル部上にNi電鋳を形成したのち、当該Ni電鋳を加工して連通路を構成する方法が、インクジェットヘッドの組み立ての容易性が高くなる点で好ましい。
【0039】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0040】
《ノズル基板の製造方法》
本発明の貫通孔を有するノズル基板(以下、「ノズルプレート」ともいう。)の製造方法は、シリコン基板上又は酸化膜上にシリコン単結晶層を形成した構造のSOI(Silicon On Insulator)基板上に、複数の孔を有するレジストパターンを有するレジスト層を形成する第1工程と、ドライエッチングによりシリコン基板又はSOI基板をエッチングする第2工程を有し、前記第2工程では、シリコンをエッチングするガスと酸素ガスを使用し、シリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を2段階以上で変化させながらエッチングを行い、湾曲形状を有する貫通孔を形成することを特徴とする。
【0041】
〔湾曲形状を有する貫通孔の形成方法〕
本発明の特徴である湾曲形状(テーパー形状)を有する貫通孔(ノズル孔)の具体的な形成方法について、図を交えて説明する。
【0042】
本発明において、ノズル基板に湾曲形状を有する貫通孔を形成する方法は、上記のように、シリコン基板上又はSOI基板上に、複数の孔を有するレジストパターンを有するレジスト層を形成した後、シリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を2段階以上で変化させながらエッチングを行って、湾曲形状(テーパー形状)を有する貫通孔(ノズル孔)を形成する。
【0043】
図を用いて、本発明に係るシリコンをエッチングするガスと酸素ガスの混合比を変化したときのエッチングにより形成される湾曲構造について説明する。
【0044】
図1は、ドライエッチング時のシリコンをエッチングするガスと酸素ガスとの混合比(以下、流量比ともいう。)の違いにより形成される湾曲形状の一例を示す形状写真とグラフである。
【0045】
図1では、シリコンをエッチングするガスとして6フッ化硫黄(SF
6)を用い、酸素とSF
6の混合比率(O/SF
6 体積比率)を0、0.5、1.0、1.5と変化させたときに形成される湾曲形状の一例である。
【0046】
図1の1-5には、横軸にエッチングガスであるO/SF
6の流量比を、縦軸に形成される湾曲部のテーパー角をプロットしたグラフを示してある。
【0047】
図1の1-1で示すように、酸素を全く使用せずに、SF
6ガス単独でエッチングを行った場合(O/SF
6=0)には、形成される湾曲部のテーパー角は0度で、ストレート形状のノズル孔(貫通部)が形成される。
【0048】
これに対し、
図1の1-2で示すように、酸素ガスの比率を高め、6フッ化硫黄(SF
6)ガスに対し、流量とし0.5倍の条件(O/SF
6=0.5)とすることにより、テーパー角が10度の湾曲形状を有するノズル孔(貫通部)が形成される。
【0049】
更に、
図1の1-3で示すように、酸素ガスの比率を高め、6フッ化硫黄(SF
6)ガスと、同流量(O/SF
6=1.0)とすることにより、テーパー角が20度の湾曲形状を有するノズル孔(貫通部)を形成することができる。
【0050】
更に、
図1の1-4で示すように、酸素ガスの比率を高め、6フッ化硫黄(SF
6)ガスに対し、流量とし1.5倍の条件(O/SF
6=1.5)とすることにより、テーパー角が60度の湾曲形状を有するノズル孔(貫通部)が形成される。
【0051】
このように、ノズル基板1であるシリコン基板上又はSOI基板上に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジストを形成した後、シリコンをエッチングするガス(例えば、SF6)と酸素ガスの混合比を多段階にわたり変化させながら、エッチングを行うことにより、所望のテーパー形状パターンを有する湾曲形状を有するノズル孔(貫通孔)を高い寸法精度で形成することができる。
【0052】
図2に、本発明の代表的な2つ以上のテーパー角を有する湾曲部からなる貫通孔の構造を示す。
【0053】
図2で示すノズル基板1では、紙面上部よりエッチングを行い、ノズル基板1の最下段領域2(インク吐出面側)には、酸素ガスを適用せず、O/SF
6=0で形成したテーパー角0度のストレート部Sが形成される。
【0054】
次いで、その上の中間領域3では、SF6ガスに対する酸素ガスの比率を0~1.5まで連続的に変化させて、テーパー角が0~60度までの湾曲構造の第1のテーパーT1を形成する。
【0055】
次いで、最後の最上段領域4では、SF6ガスに対する酸素ガスの比率を1.5として、テーパー角が60度の湾曲構造の第2のテーパー部T2を形成して、貫通孔Kを形成する。
【0056】
〔湾曲形状の貫通孔の形成方法:実施形態1〕
基板1に湾曲形状を有する貫通孔を形成する具体的なステップについて、図を交えて説明する。
【0057】
図3は、本発明のノズル基板に湾曲形状を有する貫通孔の形成ステップの一例を示す断面図である(実施形態1)。
【0058】
(ステップSA-1)
図3のステップSA-1では、ノズル基板1としてシリコン基板又はSOI基板を準備する。
【0059】
〈基板〉
本発明に適用可能なノズル基板1としては、シリコン基板又はSOI基板である。シリコン基板(以下、ベアSiともいう。)は、表面が(100)面である単結晶のシリコン基板であり、厚さが100~200μm程度のシリコンからなる板状部材である。ノズル基板を構成する基材としてシリコン基板を用いることで、高精度にノズルプレートの加工を行うことができ、位置の誤差や形状のばらつきの少ないノズルプレートを形成することができる。
【0060】
また、ノズル基板としては、ノズル孔を形成するSiの活性層及び支持層を有し、活性層と支持層の間に酸化膜層(BOX層ともいう。)を挟んだSOI(Silicon On Insulator)も用いることができる。
【0061】
(ステップSA-2:レジスト層の形成)
図3のステップSA-2では、ノズル基板1上に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジスト層5を形成する。
【0062】
〈レジスト層形成材料〉
本発明に適用可能なレジスト層の形成材料としては、ポジ型フォトレジスト又はネガ型フォトレジストを用いることができる。ポジ型フォトレジスト及びネガ型フォトレジストとしては、公知の材料を用いることができる。例えば、ネガ型フォトレジストとしては、日本ゼオン社製のZPN-1150-90を用いることができる。また、ポジ型フォトレジストとしては、東京応化工業社製のOFPR-800LB、同OEBR-CAP112PMを用いることができる。
【0063】
レジスト層はスピンコーター等を用いて、例えば、4.5μmの厚さになるように塗布して形成し、その後、例えば、120℃の条件でプリベーク処理を行う。
【0064】
密着性向上のため、レジスト層塗布の前に、ノズル基材表面にHMDS(ヘキサメチルジシラザン)処理を施してもよい。HMDS処理とは、ヘキサメチルジシラザンと呼ばれる有機材料で、例えば、東京応化社製のOAP(ヘキサメチルジシラザン)などが使用できる。レジスト塗布同様、スピンコーターで塗布しても良いし、ヘキサメチルジシラザン蒸気に曝しても密着性向上の効果が期待できる。
【0065】
所定のマスクを使用し、アライナー等で露光する。例えば、コンタクトアライナーの場合、約500mJ/cm2の光量で行う。その後、現像液(例えば、東京応化製 NMD-3)に浸漬し、上記レジストの感光部を除去し、その後、例えば、150℃の条件でポストベーク処理を行うことにより、ノズル基材上に、レジストパターンを有するレジスト層を形成する。なお、ノズル孔のテーパー部をより大きな径とする場合には、ポストベーク温度を260℃以上の条件としても良い。
【0066】
(ステップSA-3:最下段領域2の形成)
ステップSA-3では、第1段階として、ドライエッチングEにより、ノズル基板1の最下段領域2(インク吐出面側)に、6フッ化硫黄(SF6)単独ガス(G1:O/SF6=0)を用いて、テーパー角0度のストレート部を形成する。
【0067】
〈ドライエッチング〉
ステップSA-3で適用するドライエッチングEとしては、深掘りRIE(Deep Reactive Ion Etching、略称:D-RIE)であり、基板を低温に冷やす低温RIE装置や、放電形式に誘導結合方式を採用したドライエッチング装置であるICP(Inductively Coupled Plasma)-RIE装置等を用いて行うことができる。深掘りRIEは、反応性イオンエッチング(RIE)の一つで、アスペクト比の高い(狭くて深い)形状の加工が行える。深く掘る方法としては、通常、高密度プラズマを用い、被加工基板を低温に冷やす方法と、ボッシュプロセスと呼ばれるエッチング技術を用いる方法を挙げることができる。
【0068】
また、プロセスガスとして、SF6、C4F8、O2、BF3、CHF3やCF4などを用いる。
【0069】
放電形式に誘導結合方式を採用したドライエッチング装置であるICP(Inductively Coupled Plasma)-RIEエッチング(以下、ICP-RIE装置ともいう。)で適用するプロセスガスとしては、SF6、C4F8、O2などを用い、成膜とエッチングをサイクル的に繰り返す、ボッシュプロセスを使用することで、高精度で垂直な深掘導抗を形成することができ、本発明においては、シリコンのエッチング期間に使用するガスとして6フッ化硫黄(SF6)と酸素ガス、デポジション期間に使用するガスとしてC4F8ガスを使用することが好ましい。
【0070】
(ステップSA-4:中間領域3の形成)
次いで、同じくドライエッチングEにより、SF6ガスに対する酸素ガスの比率を0~1.5まで連続的に変化させた混合ガスG2を用い、テーパー角が0~60度までの湾曲構造の第1のテーパーT1である中間領域3を形成する。
【0071】
ステップSA-4では、ステップS-3における最下段領域2(ストレード部)の形成に引き続き、中間領域3(テーパー角が0~60度までの湾曲構造)をドライエッチングにより形成するが、この時、先に形成した最下段領域2(ストレード部)の形状が下部に移動しながら、中間領域3が形成される。最下段領域2(ストレード部)は、ストレート部の側壁がマスク効果を発現し、下部に移動する。この最下段領域2(ストレード部)が下部に移動する間に、レジスト5の開口部が広がることにより、ストレート部の上部に、所定のテーパー角を有する中間領域3が形成される。
【0072】
(ステップSA-5:最上段領域4の形成)
ステップSA-5では、上記ステップS-4と同様の方法で、中間領域3(テーパー角が0~60度までの湾曲構造)上に、ドライエッチングにより、SF6ガスに対する酸素ガスの比率を1.5とした混合ガスG3を用い、テーパー角が60度の湾曲構造の第2のテーパー部T2である最上段領域4を形成する。
【0073】
(ステップSA-6:レジスト層の除去)
上記方法により、最下段領域2であるストレート部と、テーパー角が0~60度までの湾曲構造の第1のテーパーT1である中間領域3と、テーパー角が60度の湾曲構造の第2のテーパー部T2である最上段領域4から構成される貫通孔Kを形成した後、最上面のレジスト層5を除去して、湾曲形状を有するノズル基板1を形成する。
【0074】
レジスト層の除去方法としては、レジストを形成する材料により異なるが、例えば、アセトン、酸溶液やアルカリ溶液を用いたウェットプロセスや、酸素プラズマを用いたドライプロセスにより除去することができる。
【0075】
《連通路を具備したノズル基板の作製》
湾曲形状を有するシリコン基板上又はSOI基板上に、連通路を形成したノズル基板(ノズルプレート)の具体的な作製方法について説明する。
【0076】
〔実施形態2:一体型の連通路を有するノズル基板の作製〕
図4及び
図5に、ノズル基板としてSOI基板を用いて、一体型の連通路を形成する製造ステップの製造方法を示す。
【0077】
初めに、
図4を用いステップSB-1~SB-5まで説明する。
【0078】
(ステップSB-1:SOI基板の準備)
図4に示すステップSB-1では、ノズル基板として、SOI基板を準備する。本発明に適用可能なSOI(Silicon On Insulator)基板は、
図4のステップSB-1で示すように、ノズル孔を形成するSiより構成される活性層1A及び支持層1Bを有し、活性層1Aと支持層1Bの間にBOX層7(酸化膜層ともいう。)が形成されており、活性層1Aの表面には、活性層側保護膜8Aが形成されている。ただし、ステップSB-6にある固定基板9がある場合には、活性層保護膜はなくてもよい。
【0079】
〈BOX層(酸化膜層)〉
支持層1Bの表面に対し、熱酸化処理を施すことにより、SiO2から構成されるBOX層(酸化膜層)を形成する。
【0080】
Siの熱酸化処理としては、酸素ガスを使うドライ酸化と、水蒸気を使うウェット酸化方式がある。加熱温度は、ドライ酸化の場合で900~1200℃程度であり、ウェット酸化の場合で800~1100℃程度である。例えば、ウェット酸化を用いた場合、1000℃、4時間程度の加熱によって、シリコン基板の全面に、厚さ1μmの熱酸化膜(SiO2)を形成することができる。
【0081】
〈活性層側保護膜〉
活性層側保護膜8Aとしては、例えば、SiO2、SiN、金属膜(アルミニウム等)、有機膜(ポリイミド、ポリアミド、パリレン等)の材料を選択、又は組み合わせて用いることができる。活性層側保護膜8Aの厚さは、特には限られないが、例えば、10μm以下とすることができる。ノズル先端は吐出性能に影響することがから、導電性の金属膜がより好ましい。
【0082】
(ステップSB-2:レジスト層の形成)
次いで、実施形態2のステップSA-2(レジスト層の形成)と同様の方法により、レジスト層5のパターンを形成した。
【0083】
(ステップSB-3:連通路の形成)
次いで、レジスト層5上より、エッチング処理を施して、支持層連通路6Aを形成する。
【0084】
エッチング処理方法としては、実施形態3のステップSA-3に記載の深掘りRIE(Deep Reactive Ion Etching)の他に、ウェットエッチング、例えば、等方性ウェットエッチング、異方性ウェットエッチング等を適用することができる。エッチングにより支持層連通路6Aを形成した後、レジスト層5を上記と同様の方法で除去する。
【0085】
〈等方性ウェットエッチング〉
本発明に係る連通路形成に適用可能な等方性ウェットエッチングとしては、例えば、フッ硝酸を用いたウェットエッチングが用いられる。例えば、SOIを10mm程度の振幅で揺動させながら、フッ硝酸に浸漬させ、支持層1Cに支持層連通路6Aを形成する。
【0086】
〈異方性ウェットエッチング〉
本発明に係る支持層連通路6Aの形成に適用可能な異方性ウェットエッチングとしては、ウェットエッチング液としては、一般的なものを使用することができ、例えば、KOH溶液を使用すれば、シリコンの結晶面選択性が良好であり、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を使用すれば、マスク層(SiO2)とシリコン基材との選択性が良好となり、好ましい。
【0087】
例えば、KOHの40質量%水溶液を用い、70℃でウェットエッチングを行うことにより、
図4のステップS3-3で示すような支持層連通路6Aを形成することができる。
【0088】
(ステップSB-4:BOX層の除去)
次いで、支持層連通路6Aを形成した後、支持層連通路6Aの底面に露出しているBOX層7(酸化膜層)の除去を、RIE(反応性ドライエッチング)又はウェットエッチングにより行う。
【0089】
(ステップSB-5:支持層側保護膜(レジスト層)の形成)
次いで、支持層連通路6Aを形成した後、支持層側保護膜8Bを、レジスト材料を用いて形成する。レジスト材料の付与は、支持層連通路6Aを含め段差構造を有しているため、スピンコートでは均一にレジスト材料を付与することができないため、スプレー塗布方式又は電着レジストを適用することが好ましい。次いで、ノズル形成部をマスクで保護した後、露光及び現像を行う。露光は、コンタクト方式、プロジェクション方式、ステッパー方式等を適用することができる。
【0090】
次いで、
図5を用いて、ステップSB-6~SB-9について説明する。
【0091】
(ステップSB-6:固定基板の付与)
図5に示すステップSB-6では、活性層1A側に、Si単体、ガラス基板、金属基板等から構成されている固定基板9を接合する。接合に用いる接合材としては、エポキシ樹脂等の接着剤、又は発泡剥離シート等を適用することができる。ただし、活性層側保護膜8Aが金属膜である場合には、固定基板9を用いなくてもよい。
【0092】
(ステップSB-7:貫通孔の形成)
次いで、
図3に記載の方法に従って、ドライエッチングによりエッチングガス(SF
6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、活性層1Aにテーパー形状Tを有するノズル孔である貫通孔Kを形成する。
【0093】
(ステップSB-8:貫通孔の形成)
次いで、ステップSB-8では、活性層1A側に付与した固定基板9を、加熱等で取り外す。
【0094】
(ステップSB-9:レジストの除去)
最後に、レジスト8B及び活性層1A表面の活性層側保護膜8A(金属膜)を、ウェットエッチング法を用いて除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを有するノズルプレートNPを作製する。
【0095】
ノズルプレートNPのサイズとしては、例えば、連通路6Aの内径としては、100μm程度であり、支持層連通路基板の高さとしては、100μm程度であり、活性層1Aの厚さとしては30μm程度で有り、ノズル孔Nのインク吐出面側のサイズとしては20μm程度である。
【0096】
〔実施形態3:連通路一体型のノズル基板の作製2(支持層表面に支持層側保護膜(酸化膜)を付与)〕
上記説明した実施形態2のステップSB-5では、支持層側保護膜8Bとしてレジスト材料により、支持層1Bに形成した支持層連通路6Aの表面を保護する方法に対し、実施形態3では、支持層側保護膜10として、熱酸化、CVD等により酸化膜や窒化膜を支持層1B及び支持層連通路6Aの表面に形成する方法である。
【0097】
図6~
図8は、SOIを用いたノズル基板上に、連通路一体型の連通路を形成するステップで、支持層側保護膜(酸化膜)10を用いる製造ステップを示す断面図である。
【0098】
図6に示すステップSC-1~SC-4までは、上記説明した実施形態2の
図4で説明したステップSB-1~SB-4と同一であり、説明は省略する。
【0099】
(ステップSC-5:支持層側保護膜(酸化膜)10の形成)
図7に示すステップSC-5では、支持層連通路6Aを形成した後、支持層連通路基板1Cの表面と、支持層連通路6Aの表面に、支持層側保護膜(酸化膜)10を形成する。
【0100】
支持層側保護膜(酸化膜)10の形成方法の一例を以下に説明する。
【0101】
支持層側保護膜(酸化膜)10の形成方法としては、熱酸化法、陽極酸化法、CVD法、スパッタ法、蒸着法等を適用することができる。
【0102】
〈熱酸化法による支持層側保護膜の形成〉
熱酸化法により、SiO2から構成される支持層側保護膜を形成する。熱酸化法としては、酸素ガスを使うドライ酸化と、水蒸気を使うウェット酸化方式があり、熱酸化として、いずれの方式も採用することができる。加熱温度は、ドライ酸化の場合で900~1200℃程度であり、ウェット酸化の場合で800~1100℃程度である。例えば、ウェット酸化を用いた場合、1000℃、4時間程度の加熱によって、シリコン基板の全面に、支持層側保護膜(酸化膜)10として、厚さ1μmの熱酸化膜を形成することができる。
【0103】
〈陽極酸化法による支持層側保護膜の形成〉
陽極酸化法は、酸化したい導電性の素材であるシリコン基板を電解液中に浸し、シリコン基板を陽極(正極、+極)として通電することによって、シリコン基板表面で電解液中の酸素と結合させ、前記シリコン基板表面から酸化膜(SiO2)を成長させて支持層側保護膜(酸化膜)を形成する方法である。
【0104】
〈化学気相成長法(CVD法)による支持層側保護膜の形成〉
シリコン基板における凹凸構造を形成した表面全体に、化学気相成長法によって支持層側保護膜を堆積して形成する方法で、例えば、テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane、TEOS)が加温され、キャリアガスによってバブリングされることによってTEOSガスが生成され、このTEOSガスに、例えば、酸素やオゾン等の酸化ガス及び、例えば、ヘリウム等の希釈ガスが混合されて原料ガスが生成される。そして、この原料ガスが、プラズマCVD装置や常温オゾンCVD装置等のCVD装置に導入され、CVD装置内のシリコン基板の表面に、支持層側保護膜(酸化膜)10として所定の厚さ(例えば、約1μm等)のシリコン酸化膜(SiO2)が形成される。
【0105】
〈スパッタ法による支持層側保護膜の形成〉
スパッタ法によって支持層側保護層(酸化膜)10を堆積して形成する場合には、例えば、真空チャンバー内に支持層側保護膜として成膜させたい物質(例えば、石英等)のターゲットが設置され、高電圧を印加することによってイオン化されたアルゴン等の希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)が前記ターゲットに照射および衝突される。この衝突によって前記ターゲットの表面の原子がはじき飛ばされ、はじき飛ばされた原子(スパッタリング粒子)が、シリコン基材の凹凸部の各表面に到達することで、支持層連通路基板1Cの表面と、支持層連通路6Aの表面に、前記スパッタリング粒子が降り積もって堆積して支持層側保護膜(酸化膜)10が成膜される。
【0106】
〈真空蒸着法による支持層側保護膜の形成〉
真空蒸着法により支持層側保護膜(酸化膜)10を形成する方法としては、真空チャンバー内で支持層側保護膜として成膜させたい物質(蒸着源)と対面させるようにシリコン基板を配置し、蒸着源を加熱することによって発生した気体状態の成膜物質(蒸着物質)が支持層連通路基板1Cの表面と、支持層連通路6Aの表面に照射され、蒸着物質が降り積もって堆積し成膜される。
【0107】
その他には、酸化膜以外でも、CF系膜形成方法等も適用することができる。
【0108】
(ステップSC-6:支持層側保護膜(酸化膜)10の一部除去)
次いで、形成した支持層側保護膜(酸化膜)10のうち、支持層連通路6Aの底面部と支持層連通路基板1Cの表面部に対し、ドライエッチング(例えば、深掘りRIE又は反応性イオンエッチング(RIE)等)を用いて、支持層側保護膜(酸化膜)10を除去する。
【0109】
(ステップSC-7:レジスト層の形成)
次いで、ステップSC-7で示すように、支持層側保護膜(酸化膜)10、支持層連通路基板1C表面及びノズル孔形成部以外の領域の底面部にレジスト層5を付与する。レジスト層の形成方法は、前記と同様である。
【0110】
(ステップSC-8:固定基板の付与)
図7に示すステップSC-8では、活性層1A側に、Si単体、ガラス基板、金属基板等から構成されている固定基板9を接合する。接合に用いる接合材としては、エポキシ樹脂等の接着剤、又は発泡剥離シート等を適用することができる。ただし、活性層側保護膜8Aが金属膜である場合には、固定基板9を用いなくてもよい。
【0111】
(ステップSC-9:貫通孔の形成)
次いで、
図8のステップSC-9に記載の方法に従って、ドライエッチングによりエッチングガス(SF
6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、活性層1Aにテーパー形状Tを有するノズル孔Nである貫通孔を形成する。
【0112】
(ステップSC-10:貫通孔の形成)
次いで、ステップSC-10では、活性層1A側に付与した固定基板9を、加熱等で取り外す。
【0113】
(ステップSC-11:レジストの除去)
最後に、レジスト5、支持層側保護膜(酸化膜)10及び活性層1A側面部の活性層側保護膜8A(金属膜)を、ウェットエッチング法を用いて除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを有するノズルプレートNPを作製する。
【0114】
ノズルプレートNPのサイズとしては、例えば、連通路6Aの内径としては、100μm程度であり、支持層連通路基板の高さとしては、100μm程度であり、活性層1Aの厚さとしては30μm程度で有り、ノズル孔Nのインク吐出面側のサイズとしては20μm程度である。
【0115】
〔実施形態4:SOIを用いた連通路接合型のノズル基板の作製〕
実施形態4は、基板としてSOIを用い、湾曲型貫通孔を形成した後、連通路基板を接合して、連通路を有するノズルプレートを形成する方法である。
【0116】
図9及び
図10に、SOIを用いたノズル基板上に、接合型の連通路を形成する製造方法を示す。
【0117】
〈ステップSD-1:SOIの準備〉
図9のステップSD-1で示すように、活性層1A、BOX層7及び支持層1Bから構成するSOI基板を準備する。
【0118】
〈ステップSD-2:活性層表面にレジスト層を付与〉
次いで、活性層1A表面に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジスト層5を形成する。形成方法は、実施形態1のステップSA-2に記載した方法に従って形成することができる。
【0119】
〈ステップSD-3:貫通路の形成〉
次いで、前記
図3に記載の方法に従って、ドライエッチングによりエッチングガス(SF
6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、活性層1Aに湾曲形状を有するノズル孔である貫通孔Kを形成する。貫通孔Kの形成方法は、実施形態1~3に記載した方法と同様であり、その詳細は割愛する。
【0120】
〈ステップSD-4:レジスト層の除去〉
次いで、活性層1A表面のレジスト層5を、実施形態1のステップSA-6に記載した方法と同様にして、例えば、アセトン、酸溶液やアルカリ溶液を用いたウェットプロセスや、酸素プラズマを用いたドライプロセスにより除去する。
【0121】
〈ステップSD-5:連通路基板の接合〉
次いで、
図10のステップSD-5の記載のように、湾曲形状を有する貫通孔Kを形成した活性層1A上に、接着層11を介して、連通路基板6を接合する。
【0122】
接着層としては、例えば、エポキシ樹脂等の接着剤、Si-Si又はSi-SiO2-Siの活性化接合、又はAu等を間に挟んだSi-Au接合方法を適用することができる。また、接合する連通路基板6としては、シリコン(Si)、金属材料、樹脂材料等を挙げることができる。なお、連通路基板6の構成材料としては、連通路の接合時や後工程で熱がかかる場合、構成材料間の熱膨張率の差により、「反り」が生じる可能性があるため、SOI構成材料(Si)と熱膨張率が近似した連通路基板を選択することが好ましい。
【0123】
〈ステップSD-6:支持層の除去〉
次いで、ステップSD-6では、背面側に有する支持層1Bを、研削法、研磨法、ドライエッチング、ウェットエッチングを、それぞれ単独、又は適宜組み合わせて除去する。
【0124】
〈ステップSD-7:BOX層の除去〉
次いで、実施形態2のステップSB-4と同様にして、活性層1Aの背面に露出しているBOX層(酸化膜層)を、例えば、RIE(反応性ドライエッチング)又はウェットエッチングにより除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを有し、連通路基板6を接合したノズルプレートNPを作製する。
【0125】
ノズルプレートNPのサイズとしては、特に制限はないが、一例としては、連通路6Aの内径が100μm程度であり、支持層連通路基板の高さとしては、100μm程度であり、活性層1Aの厚さとしては30μm程度で有り、ノズル孔Nのインク吐出面側のサイズとしては20μm程度である。
【0126】
〔実施形態5:シリコン基板及び固定基板を用いた連通路接合型のノズル基板の作製〕
図11及び
図12は、シリコン基板を用いたノズル基板上に、固定基板を用いて連通路接合型(仮固定)の連通路を形成する製造ステップの一例を示す断面図である。
【0127】
〈ステップSE-1:シリコン基板の準備〉
シリコン基板側保護膜8Cを有するシリコン基板1を準備する。シリコン基板側保護膜8Cとしては、SiO2、SiN、金属膜等により形成することができ、ノズルのインク吐出面側におけるインクの吐出安定性の観点から、導電性を有する金属膜が好ましい。
【0128】
〈ステップSE-2:固定基板の仮接合〉
次いで、ステップSE-2として、シリコン基板側保護膜8Cの下部に、固定基板9を接合する。固定基板9としては、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、樹脂基板等を挙げることができる。この段階で、シリコン基板1を任意の厚さに、研削及び/又は研磨により調整してもよい。
【0129】
Si基板と固定基板の接着には、エポキシ樹脂等の接着剤、又は発泡剥離シート等を適用することができる。
【0130】
〈ステップSE-3:レジスト層の付与〉
次いで、シリコン基板1の表面に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジスト層5を形成する。形成方法は、実施形態1のステップSA-2に記載した方法に従って形成することができる。
【0131】
〈ステップSE-4:貫通路の形成〉
次いで、前記
図3に記載の方法に従って、ドライエッチングによりドライエッチングガス(SF6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、シリコン基板1に湾曲形状を有するノズル孔である貫通孔Kを形成する。貫通孔Kの形成方法は、実施形態1~3に記載した方法と同様であり、その詳細は割愛する。
【0132】
〈ステップSE-5:レジスト層の除去〉
次いで、シリコン基板1表面のレジスト層5を、実施形態1のステップSA-6に記載した方法と同様にして、例えば、アセトン、酸溶液やアルカリ溶液を用いたウェットプロセスや、酸素プラズマを用いたドライプロセスにより除去する。
【0133】
〈ステップSE-6:連通路基板の接合〉
次いで、
図12のステップSE-6に示すように、湾曲形状を有する貫通孔Kを形成したシリコン基板1上に、接着層11を介して、連通路基板6を接合して、連通路6Aを形成する。
【0134】
接着層としては、例えば、エポキシ樹脂等の接着剤、Si-Si又はSi-SiO2-Siの活性化接合、又はAu等を間に挟んだSi-Au接合方法を適用することができる。また、接合する連通路基板6としては、シリコン(Si)、金属材料、樹脂材料等を挙げることができる。なお、連通路基板の構成材料としては、連通路の接合時や後工程で熱がかかる場合、構成材料間の熱膨張率の差により、「反り」が生じる可能性があるため、SOI構成材料(Si)と熱膨張率が近似した連通路基板を選択することが好ましい。
【0135】
〈ステップSE-7:固定基板の除去〉
図12のステップSE-7で示すように、シリコン基板1の背面に形成した固定基板9を外す。
【0136】
〈ステップSE-8:シリコン基板側保護膜の除去〉
最後に、シリコン基板1の背面に露出しているシリコン基板側保護膜8Cを、例えば、RIE(反応性ドライエッチング)又はウェットエッチングにより除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを有し、連通路基板6を接合したノズルプレートNPを作製する。
【0137】
〔実施形態6:基板としてベアSiを用いた連通路接合型のノズル基板の作製〕
図13に、シリコン基板(ベアSi)を用い、連通路接合型のノズル基板の作製ステップを示す。
【0138】
〈ステップSF-1:シリコン基板(ベアSi)の準備〉
シリコン単体で形成されるシリコン基板1を準備する。
【0139】
〈ステップSF-2:レジスト層の形成〉
次いで、シリコン基板1の表面に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジスト層5を形成する。形成方法は、実施形態1のステップSA-2に記載した方法に従って形成することができる。
【0140】
〈ステップSF-3:貫通孔の形成〉
次いで、前記
図3に記載の方法に従って、ドライエッチングによりドライエッチングガス(SF6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、シリコン基板1に湾曲形状を有するノズル孔である貫通孔Kを形成する。貫通孔Kの形成方法は、実施形態1~3に記載した方法と同様であり、その詳細は割愛する。
【0141】
〈ステップSF-4:連通路の接合〉
次いで、
図13のステップSF-4で示すように、湾曲形状を有する貫通孔Kを形成したシリコン基板1上に、接着層11を介して、連通路基板6を接合して、連通路6Aを形成する。
【0142】
接着層としては、例えば、エポキシ樹脂等の接着剤、Si-Si又はSi-SiO2-Siの活性化接合、又はAu等を間に挟んだSi-Au接合方法を適用することができる。また、接合する連通路基板6としては、シリコン(Si)、金属材料(例えば、NiやSUS)、樹脂材料等を挙げることができる。なお、連通路基板の構成材料としては、連通路の接合時や後工程で熱がかかる場合、構成材料間の熱膨張率の差により、「反り」が生じる可能性があるため、SOI構成材料(Si)と熱膨張率が近似した連通路基板を選択することが好ましい。
【0143】
〈ステップSF-5:シリコン基板背面の除去及びノズル孔出し〉
次いで、シリコン基板1の背面を、研削法、研磨法、ドライエッチング、ウェットエッチングを、それぞれ単独、又は適宜組み合わせて除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを有し、連通路基板6を接合したノズルプレートNPを作製する。
【0144】
ノズルプレートNPのサイズとしては、特に制限はないが、一例としては、連通路6Aの内径が100μm程度であり、支持層連通路基板の高さとしては、100μm程度であり、活性層1Aの厚さとしては30μm程度で有り、ノズル孔Nのインク吐出面側のサイズとしては20μm程度である。
【0145】
〔実施形態7:基板としてベアSiを用い、連通路後接合型のノズル基板の作製〕
次いで、
図14及び
図15を用いて、基板としてベアSiを用い、固定基板を用いてノズル孔を形成した後、連通路を最後に接合するノズルプレートの製造ステップを説明する。
【0146】
〈ステップSG-1:シリコン基板(ベアSi)の準備〉
シリコン単体で形成されるシリコン基板1を準備する。
【0147】
〈ステップSG-2:レジスト層の付与〉
次いで、シリコン基板1の表面に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジスト層5を形成する。形成方法は、実施形態1のステップSA-2に記載した方法に従って形成することができる。
【0148】
〈ステップSG-3:貫通孔(ノズル孔)の形成〉
次いで、前記
図3に記載の方法に従って、ドライエッチングによりエッチングガス(SF
6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、シリコン基板1に湾曲形状を有するノズル孔である貫通孔Kを形成する。貫通孔Kの形成方法は、実施形態1~3に記載した方法と同様であり、その詳細は割愛する。
【0149】
〈ステップSG-4:固定用基板の仮接合〉
次いで、ステップSG-4として、シリコン基板1の上面に、固定基板9を仮接合する。固定基板としては、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、樹脂基板等を挙げることができる。
【0150】
〈ステップSG-5:シリコン基板背面の除去・ノズル孔出し〉
次いで、ステップSG-5として、シリコン基板1の背面を、研削法、研磨法、ドライエッチング、ウェットエッチングを、それぞれ単独、又は適宜組み合わせて除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを貫通させる。
【0151】
〈ステップSG-6:ダイシングテープの貼り付け〉
上記方法で研削したシリコン基板1の背面に、ダンシングテープ11を貼り付ける。
【0152】
〈ステップSG-7:固定用基板の取り外し〉
次いで、シリコン基板1の表面に仮接合した固定用基板9を外す。
【0153】
〈ステップSG-8:連通路の接合〉
次いで、ステップSG-8で示すように、湾曲形状を有する貫通孔Kを形成したシリコン基板1上に、連通路基板6を接合して、連通路6Aを形成する。
【0154】
〈ステップSG-9:ダイシングテープの除去〉
最後に、シリコン基板1の背面に付与したダンシングテープ11を外して、ノズルプレートNPを作製する。
【0155】
ノズルプレートNPのサイズとしては、特に制限はないが、一例としては、連通路6Aの内径が100μm程度であり、支持層連通路基板の高さとしては、100μm程度であり、活性層1の厚さとしては30μm程度で有り、ノズル孔Nのインク吐出面側のサイズとしては20μm程度である。
【0156】
〔実施形態8:連通路をNi電鋳で形成したノズル基板の作製〕
図16に、シリコン基板(ベアSi)を用い、連通路としてNi電鋳を用いて形成するノズル基板の作製ステップを示す。
【0157】
〈ステップSH-1:シリコン基板(ベアSi)の準備及びレジスト層の形成〉
シリコン単体で形成されるシリコン基板1を準備する。次いで、シリコン基板1の表面に、ノズル孔に対応するサイズの開口径を有するレジスト層5を形成する。形成方法は、実施形態1のステップSA-2に記載した方法に従って形成することができる。
【0158】
〈ステップSH-2:貫通孔の形成〉
次いで、前記
図3に記載の方法に従って、ドライエッチングによりドライエッチングガス(SF6)と酸素ガスの混合比を所望の条件で変化させながら、シリコン基板1に湾曲形状を有するノズル孔である貫通孔Kを形成する。貫通孔Kの形成方法は、実施形態1~3に記載した方法と同様であり、その詳細は割愛する。
【0159】
〈ステップSH-3:Ni製シート層の接合〉
次いで、レジストを除去した後、湾曲形状を有する貫通孔Kを形成したシリコン基板1上に、常法に従って、Ni製のシード層を形成する。
【0160】
〈ステップSH-4:Ni製シード層に連通路形成〉
次いで、シード層を介して、Ni電鋳13(厚付型電気鋳造法)を形成したのち、研削又は研磨により、Ni電鋳により構成されるNi連通路基板13Aを形成する。
【0161】
〈ステップSH-5:シリコン基板背面の除去及びノズル孔出し〉
次いで、シリコン基板1の背面を、研削法、研磨法、ドライエッチング、ウェットエッチングを、それぞれ単独、又は適宜組み合わせて除去して、湾曲形状Tのノズル孔Nを有し、Ni電鋳により形成した連通路基板6を有するノズルプレートNPを作製する。
【0162】
ノズルプレートNPのサイズとしては、特に制限はないが、一例としては、連通路6Aの内径が100μm程度であり、支持層連通路基板の高さとしては、100μm程度であり、活性層1Aの厚さとしては30μm程度で有り、ノズル孔Nのインク吐出面側のサイズとしては20μm程度である。
【0163】
《インクジェットヘッド》
本発明に係るノズル基板(ノズルプレート)を具備するインクジェットヘッドについて説明する。
【0164】
〔インクジェットヘッドの構成〕
図17は、本発明に係るノズル基板を具備したインクジェットヘッドの構成の一例を示す断面図である。
【0165】
図17は、インクジェットヘッド101を側面側(-X方向側)から見た断面図である。
図17には、4つのノズル列に含まれる4つのノズルNを含む面でのインクジェットヘッド101の断面を示している。
【0166】
インクジェットヘッド101は、ヘッドチップ102と、共通インク室170と、支持基板180と、配線部材103と、駆動部104などから構成されている。
【0167】
ヘッドチップ102は、ノズルNからインクを吐出させるための構成であり、複数、
図17では4枚の板状の基板が積層形成されている。ヘッドチップ102における最下方の基板が、本発明に係るノズル基板110(ノズルプレート)である。ノズル基板110には、本発明に係る湾曲構造(テーパー構造)の貫通孔を有する複数のノズルNが設けられて、当該ノズルNの開口部からノズル基板110の露出面(インク吐出面101a)に対して略垂直にインクが、記録媒体上に吐出可能とされる。ノズル基板110のインク吐出面101aとは反対側には、上方(
図17のZ方向)に向かって順番に圧力室基板120(チャンバープレート)、スペーサー基板140及び配線基板150が接着されて積層されている。以下では、これらノズル基板110、圧力室基板120、スペーサー基板140及び配線基板150の各基板を、各々積層基板(110、120、140、150)などとも記す。
【0168】
これらの積層基板(110、120、140、150)には、ノズルNに連通するインク流路が設けられており、配線基板150の露出される側(+Z方向側)の面で開口されている。この配線基板150の露出面上には、全ての開口を覆うように共通インク室170が設けられている。共通インク室170のインク室形成部材(不図示)内に貯留されるインクは、配線基板150の開口から各ノズルNへ供給される。
【0169】
なお、
図17に記載のノズル基板110においては、本発明の特徴ある湾曲構造を有するノズルNにおける貫通孔、連通路の詳細な記載は省略してある。
【0170】
インク流路の途中には、圧力室121(インク貯留部)が設けられている。圧力室121は、圧力室基板120を上下方向(Z方向)に貫通して設けられており、圧力室121の上面は、圧力室基板120とスペーサー基板140との間に設けられた振動板130により構成されている。圧力室121内のインクには、振動板130を介して圧力室121と隣り合って設けられている格納部141内の圧電素子160の変位(変形)によって振動板130及び圧力室121が変形することで、圧力変化が付与される。圧力室121内のインクに適切な圧力変化が付与されることで、圧力室121に連通するノズルNからインク流路内のインクが液滴として吐出される。
【0171】
支持基板180は、ヘッドチップ2の上面に接合されており、共通インク室170のインク室形成部材(不図示)を保持している。支持基板180には、インク室形成部材(不図示)の下面の開口とほぼ同じ大きさ及び形状の開口が設けられており、共通インク室170内のインクは、インク室形成部材の下面の開口、及び支持基板180の開口を通ってヘッドチップ102の上面に供給される。
【0172】
配線部材103は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)などであり、配線基板150の配線に接続されている。この配線を介して格納部141内の配線151及び接続部152(導電部材)に伝えられる駆動信号により圧電素子160が変位動作する。配線部材103は、支持基板180を貫通して引き出されて駆動部104に接続される。
【0173】
駆動部104は、インクジェット記録装置の制御部からの制御信号や、電力供給部からの電力供給などを受けて、各ノズルNからのインク吐出動作や非吐出動作に応じて、圧電素子160の適切な駆動信号を配線部材103に出力する。駆動部104は、IC(Integrated Circuit)などで構成されている。
【0174】
上記のような構成からなるインクジェットヘッドは、本発明のノズル基材の製造方法で製造したノズル基材を具備して製造することができる。
【0175】
本発明のノズル径の寸法精度と、ノズルの湾曲部とストレート開口部を、中心軸のばらつきがなく、高精度で形成することができるノズル基材の製造方法により製造したノズル基材をインクジェットヘッドに具備して製造することにより、上記特徴を備えたノズル基板を構成するテーパー連通路により、インクジェットヘッドのインク吐出時における圧力室の圧力変動やインクメニスカス位置の変動に対しても、安定して高精度なインク射出特性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明のノズル基板の製造方法により、ノズル径の寸法精度と、ノズル部の湾曲部を高精度で所望の形状で形成することができ、ノズル基板を具備したインクジェットヘッドは、出射安定性及び出射精度の優れ、様々な分野のインクを用いたインクジェット記録方法に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0177】
1 ノズル基板
1A 活性層
1B、1C 支持層
1C 支持層連通路基板
2 最下段領域
3 中間領域
4 最上段領域
5 レジスト層
6 連通路基板
6A 支持層連通路
7 BOX層
8A 活性層側保護膜
8B 支持層層側保護膜(レジスト層)
8C シリコン基板側保護膜
9 固定基板
10 支持層側保護膜(酸化膜)
11 ダンシングテープ
13 Ni電鋳
13A Ni連通路基板
101 インクジェットヘッド
101a インク吐出面
102 ヘッドチップ
103 配線部材
104 駆動部
110 ノズル基板
120 圧力室基板
121 圧力室
130 振動板
140 スペーサー基板
150 配線基板
160 圧電素子
170 共通インク室
180 支持基板
E ドライエッチング
G1 単独ガス(O/SF6=0)
G2 混合ガス(O/SF6=0~1.5)
G3 混合ガス(O/SF6=1.5)
K 貫通孔
N ノズル孔
NP ノズルプレート
S ストレート部
SOI SOI基板
T テーパー部
T1 第1のテーパー
T2 第2のテーパー