(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】導電性膜、粒子状物質、スラリーおよび導電性膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240501BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20240501BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240501BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H01B1/22 A
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
(21)【出願番号】P 2022542831
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029151
(87)【国際公開番号】W WO2022034853
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2020136819
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】早田 義人
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107058851(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1966582(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第110698847(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0240000(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0163261(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01B 1/22
H01B 5/14
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性膜をX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下であ
り、
前記導電性膜が、10,000S/cm以上の導電率を有する、導電性膜。
【請求項2】
前記χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が8.8°以下である、請求項1に記載の導電性膜。
【請求項3】
前記導電性膜が、12000S/cm以上の導電率を有する、請求項1または2に記載の導電性膜。
【請求項4】
前記導電性膜が、3.00g/cm
3以上の密度を有する、請求項1~3のいずれかに記載の導電性膜。
【請求項5】
前記導電性膜が、120nm以下の算術平均粗さを有する、請求項1~4のいずれかに記載の導電性膜。
【請求項6】
電磁シールドとして使用される、請求項1~5のいずれかに記載の導電性膜。
【請求項7】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む
導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記Mに対するAの割合が0.30モル%以下であり、
前記Aが、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であ
り、
前記導電性膜が、10,000S/cm以上の導電率を有する、
導電性膜。
【請求項8】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む
導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合が2%未満であ
り、
前記導電性膜が、10,000S/cm以上の導電率を有する、
導電性膜。
【請求項9】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む
導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが500nm以下であ
り、
前記導電性膜が、10,000S/cm以上の導電率を有する、
導電性膜。
【請求項10】
前記
導電性膜の原料である粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合が2%未満である、請求項9に記載の
導電性膜。
【請求項11】
前記Mに対するAの割合が0.30モル%以下であり、
前記Aが、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素である、請求項8~10のいずれかに記載の
導電性膜。
【請求項12】
前記MがTiであり、前記AがAlである、請求項7または11に記載の
導電性膜。
【請求項13】
請求項7~12のいずれかに記載の
導電性膜の原料である粒子状物質を液状媒体中に含むスラリー。
【請求項14】
導電性膜の製造方法であって、
(a)請求項13に記載のスラリーを基材上に適用して、前記層状材料の粒子を含む前記導電性膜の前駆体を形成すること、および
(b)前記前駆体を乾燥させること
を含む、製造方法。
【請求項15】
前記(a)における前記スラリーの前記適用が、スプレー、スピンキャストまたはブレード法により実施される、請求項14に記載の導電性膜の製造方法。
【請求項16】
前記(a)および前記(b)が合計2回以上繰り返し実施される、請求項14または15に記載の導電性膜の製造方法。
【請求項17】
請求項1~6のいずれかに記載の導電性膜が得られる、請求項14~16のいずれかに記載の導電性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性膜、粒子状物質、スラリーおよび該スラリーを用いた導電性膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
MXeneの粒子は、スラリーの状態で、吸引ろ過に付すことにより、あるいは、スプレーコーティングにより、基材上に成膜できることが知られている。MXeneの粒子を含むフィルム(導電性膜)は、電磁シールド効果を示すことが報告されている。より詳細には、MXeneの1つであるTi3C2Tx(フィラーなし)のフィルムにおいて4665S/cmの導電率が得られ、かかる導電率を有することにより優れた電磁シールド効果が得られるとされている(非特許文献1のFig.3B参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Faisal Shahzad, et al., "Electromagnetic interference shielding with 2D transition metal carbides (MXenes)", Science, 09 Sep 2016, Vol. 353, Issue 6304, pp. 1137-1140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1で報告されている導電率は、最大でも4665S/cmしかない。電磁シールドとして十分な効果を得るためには、より高い導電率を達成する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、MXeneを含み、かつ、より高い導電率を達成し得る導電性膜を提供することにある。本発明の更なる目的は、かかる導電性膜を提供し得る粒子状物質および該粒子状物質を含むスラリー、ならびに該スラリーを用いた導電性膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性膜をX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下である、導電性膜が提供される。
【0008】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が8.8°以下であり得る。
【0009】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記導電性膜が、12000S/cm以上の導電率を有し得る。
【0010】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記導電性膜が、3.00g/cm3以上の密度を有し得る。
【0011】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記導電性膜が、120nm以下の算術平均粗さを有し得る。
【0012】
本発明の第1の要旨の1つの態様において、前記導電性膜が、電磁シールドとして使用され得る。
【0013】
本発明の第2の要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む粒子状物質であって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記Mに対するAの割合が0.30モル%以下であり、
前記Aが、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素である、粒子状物質が提供される。
【0014】
本発明の第3の要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む粒子状物質であって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合が2%未満である、粒子状物質が提供される。
【0015】
本発明の第4の要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む粒子状物質であって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが500nm以下である、粒子状物質が提供される。
【0016】
本発明の第4の要旨の1つの態様において、前記粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合が2%未満であり得る。
【0017】
本発明の第3または第4の要旨の1つの態様において、前記Mに対するAの割合が0.30モル%以下であり、
前記Aが、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり得る。
【0018】
本発明の第2~第4の要旨のいずれかの1つの態様において、前記MがTiであり、前記AがAlであり得る。
【0019】
本発明の第5の要旨によれば、第2~第4の要旨のいずれかによる粒子状物質を液状媒体中に含むスラリーが提供される。
【0020】
本発明の第6の要旨によれば、導電性膜の製造方法であって、
(a)本発明の第5の要旨による前記スラリーを基材上に適用して、前記層状材料の粒子を含む前記導電性膜の前駆体を形成すること、および
(b)前記前駆体を乾燥させること
を含む、製造方法が提供される。
【0021】
本発明の第6の要旨の1つの態様において、前記(a)における前記スラリーの前記適用が、スプレー、スピンキャストまたはブレード法により実施され得る。
【0022】
本発明の第6の要旨の1つの態様において、前記(a)および前記(b)が合計2回以上繰り返し実施され得る。
【0023】
本発明の第1の要旨による前記導電性膜が、本発明の第6の要旨による前記導電性膜の製造方法によって製造され得る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、導電性膜が、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の粒子を含み、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下であり、これにより、MXeneを含み、かつ、より高い導電率を達成し得る導電性膜が提供される。また、本発明によれば、かかる導電性膜を提供し得る粒子状物質および該粒子状物質を含むスラリー、ならびに該スラリーを用いた導電性膜の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の1つの実施形態における導電性膜を説明する図であって、(a)は基材上の導電性膜の概略模式断面図を示し、(b)は導電性膜における層状材料の概略模式斜視図を示す。
【
図2】本発明の1つの実施形態において利用可能な層状材料であるMXeneの粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)MXene粒子を示す。
【
図3】本発明の1つの実施形態におけるスラリーの製造方法を説明する概略模式図である。
【
図4】本発明の1つの実施形態における導電性膜の製造方法を説明する概略模式図である。
【
図5】比較例1のMXeneスラリーに含まれる粒子の円相当径(μm)および輝度をプロットしたグラフである。
【
図6】実施例1のMXeneスラリーに含まれる粒子の円相当径(μm)および輝度をプロットしたグラフである。
【
図7】実施例2のMXeneスラリーに含まれる粒子の円相当径(μm)および輝度をプロットしたグラフである。
【
図8】(a)は、比較例1および実施例1~2のMXeneスラリーに含まれる粒子輝度の分布割合を示すグラフであって、(b)は(a)の一部を拡大して示すグラフである。
【
図9】比較例1のMXeneスラリーを使用して得られた比較例2の基材付き導電性膜(サンプル)の断面SEM写真を示す。
【
図10】実施例1のMXeneスラリーを使用して得られた実施例3の基材付き導電性膜(サンプル)の断面SEM写真を示す。
【
図11】実施例2のMXeneスラリーを使用して得られた実施例4の基材付き導電性膜(サンプル)の断面SEM写真を示す。
【
図12】従来の製造方法によって作製される導電性膜を説明する図であって、基材上の導電性膜の概略模式断面図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の1つの実施形態における導電性膜、粒子状物質、該粒子状物質を含むスラリーおよび該スラリーを用いた導電性膜の製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0027】
図1を参照して、本実施形態の導電性膜30は、所定の層状材料の粒子10を含み、導電性膜30をX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下である。以下、その製造方法を通じて、本実施形態の導電性膜30を説明する。
【0028】
本実施形態において使用可能な所定の層状材料はMXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0029】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0030】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
MmAXn
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したMmXn層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、F-を含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。
【0031】
後述するように、MXene粒子の配向性が高く、所定のロッキングカーブ半値幅を有する導電性膜を得るには、MXene粒子に残留するA原子がより少なくなるようにエッチングを行うことが好ましい。残留するA原子がより少ないことは、後述する粒子状物質およびこれを含むスラリーにおいて、単層MXeneの純度をより高くすること、および単層MXene粒子の面内寸法をより大きくすることに寄与する。
【0032】
また、MXene粒子の配向性が高く、所定のロッキングカーブ半値幅を有する導電性膜を得るには、エッチングの後、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneをより少層のMXene、好ましくは単層MXeneに分離すること)をもたらす処理を実施することが好ましい。アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene粒子(単層・少層MXeneの粒子、好ましくは単層MXene粒子)を得るには、かかる層分離処理は、MXene粒子へのダメージが少ないほうがより好ましい。層分離処理は、任意の適切な方法、例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより実施可能であるが、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXene粒子が破壊され得る(小片化し得る)ので、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。MXene粒子に残留するA原子がより少ないと、A原子の結合力による影響がより小さいので、より小さいせん断力でMXene粒子を効果的に層分離し得る。
【0033】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3
【0034】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Tsである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0035】
このようにして合成されるMXeneの粒子10は、
図2に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料の粒子(MXene粒子10の例として、
図2(a)中に1つの層のMXene粒子10aを、
図2(b)中に2つの層のMXene粒子10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。MXene粒子10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在する粒子(
図2(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXeneの粒子10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体の粒子(
図2(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXeneの粒子10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene粒子10は、単層MXene粒子10aおよび/または多層MXene粒子10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXene粒子である場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。本実施形態においては、後述するように、MXene粒子10は、多層MXene粒子よりも単層MXene粒子ができるだけ多い(単層MXene粒子の含有割合が高い)ことが好ましい。
【0036】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり得る(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。MXene粒子が積層体(多層MXene)の粒子である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmである。
【0037】
MXene粒子の層に垂直な方向の厚さ(二次元粒子であるMXene粒子の「厚さ」に対応し得る)は、例えば0.8nm以上で、例えば20nm以下、特に15nm以下、より特に10nm以下である。MXene粒子の層の総数は、1または2以上であり得、例えば1以上10以下、特に1以上6以下であり得る。MXene粒子が積層体(多層MXene)の粒子である場合、層数の少ないMXeneの粒子であることが好ましい。用語「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることを言う。また、層数の少ない多層MXeneの粒子の積層方向の厚さは、15nm以下、特に10nm以下であることが好ましい。本明細書において、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」とも称する。本実施形態において、MXene粒子は、その大部分が単層MXeneおよび/または少層MXeneの粒子であることが好ましく、その大部分が単層MXene粒子であることがより好ましい。換言すれば、MXene粒子の厚さの平均値は、好ましくは10nm以下である。この厚さの平均値は、より好ましくは7nm以下であり、更により好ましくは5nm以下である。一方、単層MXeneの厚みを考慮すると、MXene粒子の厚さの下限は0.8nmとなり得る。よって、MXene粒子の厚さの平均値は、約1nm以上であり得る。
【0038】
MXene粒子の層に平行な平面(二次元シート面)内における寸法(二次元粒子であるMXene粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上であり得、例えば200μm以下、特に40μm以下であり得る。
【0039】
なお、上述したこれら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められ得る。
【0040】
本発明者は、MXene粒子を含む導電性膜30において、従来(非特許文献1)より高い導電率を実現すべく、導電率に影響する因子を調べた。
【0041】
MXene粒子を含む導電性膜を従来の方法で作製した場合、
図12に模式的に示すように、基材表面31a(換言すれば、膜の主面)に対して、MXene粒子(多層MXene粒子および単層MXene粒子を含む)10が比較的乱雑に積み重なって存在し、かつ、MXene粒子10以外の不純物19が存在しているため、多層MXene粒子および不純物19の立体障害により、単層MXene粒子の積層を阻害し、導電性膜全体として、MXene粒子の配向性が低くなっている。MXene粒子を含む導電性膜は、膜中のMXene粒子の配向性によって、膜の物性が異なり得る。
図12に模式的に示すように、MXene粒子10の配向性が低いと、MXene粒子10間のコンタクトが悪く(導電パスが切断され)、導電性膜全体の電子伝導性が悪いため、高い導電率が得られないものと考えられる。逆に、膜中のMXene粒子の配向性が高ければ、より高い導電率を有する導電性膜を得ることができると考えらえる。
【0042】
そして、本発明者の研究の結果、MXene粒子の配向性が高い導電性膜を得るためには、その原料である粒子状物質(本実施形態においてスラリーに含まれて使用され得る)が重要であることが判明した。より詳細には、下記(1)および(2)の少なくとも一方、特に下記(1)、好ましくは下記(1)および(2)の双方を満たす粒子状物質を使用することが望ましいと考えられる。
(1)MXene以外の不純物ができるだけ少ないこと
(2)多層MXene粒子よりも単層MXene粒子ができるだけ多い(単層MXene粒子の含有割合が高い)こと
【0043】
従来の導電性膜の製造方法では、MAX相からA原子を選択的にエッチングした後、遠心分離および上澄みの分離除去(沈降物を回収/洗浄する)により、不要な成分を概ね除去して、MXene粒子を液状媒体(水性媒体)中に含むスラリーを調製している。エッチング後の混合液は、MXene粒子(単層MXene粒子および多層MXene粒子)を含むほか、不純物やエッチング液などの不要な成分が存在するからである。しかしながら、このようにして得られるスラリーに含まれる粒子状物質は、上記(1)および/または(2)の点で必ずしも満足できるものでなかった。
【0044】
本発明者の更なる研究の結果、上記(1)および/または(2)の指標として、粒子状物質(本実施形態においてスラリーに含まれて使用され得る)が下記の少なくとも1つを満たせば、十分に高い配向性、ひいては高い導電率を有する導電性膜が得られることが判明した。
・M原子に対するA原子の割合が小さいほど好ましく、具体的には、0.30モル%以下であること
・粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合が小さいほど好ましく、具体的には、2%未満であること
・粒子状物質が、厚さが大きすぎる粒子を含まないことが好ましく、具体的には、粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが500nm以下であること
【0045】
かかる本発明者の知見に基づき、本実施形態の粒子状物質は、上述したMXene粒子10を含み、下記(I)~(III)の少なくとも1つを満たす。
(I)上述した式におけるM(少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属)およびA(少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素)について、Mに対するAの割合が0.30モル%以下であること
(II)粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合が2%未満、好ましくは1%未満であること(換言すれば、粒子状物質における厚さ20nm以下の粒子の割合が98%以上、好ましくは99%以上であること)
(III)粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが500nm以下、好ましくは250nm以下、更に好ましくは100nm以下、より更に好ましくは50nm以下であること(換言すれば、粒子状物質が、厚さ500nm超の粒子を含まず、好ましくは厚さ250nm超の粒子を含まず、更に好ましくは厚さ100nm超の粒子を含まず、より更に好ましくは厚さ50nm超の粒子を含まないこと)
上記(I)において、代表的には、MはTiであり、AはAlであってよい。
【0046】
ある1つの観点からは、次のように考えられる。上記(1)については、未反応のMAX粒子、およびエッチングされたA原子に由来する副生成物の結晶物(例えばAlF3の結晶物)が、不純物を構成している。上記(2)については、多層MXene粒子はその層間にA原子が残留し易いのに対して、単層MXene粒子が多いと、エッチングされたA原子は液状媒体中に遊離して不要な成分として除去され易い。従って、上記(I)を満たすことは、不純物が少なく、単層MXene粒子の含有割合が高いことを示し得、上記(1)および(2)を満たし得る。更に、次のように考えられる。エッチング後にMXene粒子の層間にA原子が残留していると、A原子の結合力によってMXene粒子の層分離を阻害し得、A原子の結合力より大きいせん断力を付与して層分離を促進すると、MXene粒子が小片化されて、MXene粒子の面内寸法が小さくなってしまう。A原子が少ないと、より小さいせん断力でMXene粒子の層分離を効果的に促進できるので、面内寸法のより大きいMXene粒子(好ましくは単層MXene粒子)を得ることができる。従って、上記(I)を満たすことは、MXene粒子(特に単層MXene粒子)の面内寸法が比較的大きいことを示し得る。
【0047】
上記(I)について、粒子状物質(または後述するスラリー)中の上記Mおよび上記Aの各含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)や蛍光X線分析(XRF)などの元素(原子)分析により測定可能であり、これら測定値からMに対するAの割合を算出することができる。
【0048】
もう1つの観点からは、次のように考えられる。上記(1)については、MXene以外の不純物(例えば上述したMAX粒子)は、20nmより大きい寸法(厚さおよび/または粒径)を有し得る。上記(2)については、多層MXene粒子の厚さは、単層MXene粒子の厚さより大きく、20nm超である。従って、上記(II)を満たすことは、不純物が少なく、単層MXene粒子の含有割合が高いことを示し得、上記(1)および(2)を満たし得る。
【0049】
更にもう1つの観点からは、次のように考えられる。上記(1)については、MAX粒子は、500nmより大きい厚さを有し得る。従って、上記(III)を満たすことは、MAX粒子を含まないことを示し得、上記(1)を満たし得る。粒子状物質から形成された導電性膜であって、厚さが比較的薄い(例えば20nm以下)MXene粒子がその大部分(例えば98%以上)を占める導電性膜において、厚さが500nm超という非常に厚い粒子が1つでも存在すると、MXene粒子の配向性を極めて顕著に低下させる。上記(III)のように、粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが500nm以下であることは、MXene粒子の配向性が高い導電性膜を得るのに極めて重要であり得る。
【0050】
上記(II)および(III)について、粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合、および粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さは、粒子状物質を液状媒体中に含む液状組成物(または後述するスラリー)を平坦な(例えば算術平均粗さRaが0.5nm以下の)ステージ(例えばシリコンウェハ)上に滴下して、液状媒体を乾燥除去し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、AFMの視野内の全粒子(但し、明らかに2つ以上の粒子が重なっているもの、および、視野外に粒子が延在し、粒子の全体形状を予測できないものを除く。例えば、積層構造体であっても、各層の輪郭(エッジ)が実質的に揃っているものは、1つの粒子とみなす。また例えば、粒子の大半(半分以上)が視野内にあり、粒子の一部が視野外に延在しているが、視野内にある部分から粒子の形状を概ね理解できるものは、測定対象に含める)の厚さを測定し、少なくとも40個の粒子の測定結果に基づいて算出または決定することができる。AFMの視野は、例えば30μm×30μmであり得るが、これに限定されない。少なくとも40個の粒子の厚さが測定されるまで、複数の視野について、各視野内の全粒子(但し、上記の通り)の厚さを測定する。
【0051】
上記のように粒子状物質を液状組成物(または後述するスラリー)の形態で平坦なステージ上に滴下して、液状媒体を乾燥除去することにより、粒子状物質に含まれるMXene粒子は、MXeneの層に平行な平面(二次元シート面)がステージの表面に対して平行になるように配置され得る。よって、粒子の厚さの測定値は、MXene粒子の場合、MXeneの層に垂直な方向の厚さ(MXene粒子の「厚さ」に対応し得る)を測定することができる。但し、AFMで探針にて厚さ測定していること、MXene粒子とステージ表面との間に液状媒体が残存し得ることなどから、このようにして測定されるMXene粒子の厚さの値は、実際のMXene粒子の厚さよりも大きくなり得る点に留意されたい。
【0052】
物質の光の吸収に関するランベルト・ベールの法則から、粒子の厚さが厚いほど、粒子を透過する光の輝度が小さくなることが理解される。よって、別の観点から、本実施形態の粒子状物質は、次のように規定され得る。粒子の輝度の分布割合(粒子総数を基準(100%)とする)において、輝度のピーク(P)より高輝度側にて、粒子の割合が1%以下に低下する輝度(A)を特定し、該輝度(A)とピーク輝度(P)との間の輝度幅(P-A=W)を求める。本実施形態において、ピーク輝度を示す粒子は、単層MXene粒子であると考えられる。ピーク輝度(P)に対して、上記輝度幅(W)の1倍以内の輝度(P±W)を示す粒子は、単層・少層MXene粒子であると考えられる。ピーク輝度(P)に対して、上記輝度幅(W)の1倍より大きく3倍以下で小さい輝度(P-Wより小さくP-3W以上)を示す粒子は、(少層MXene粒子より厚い)多層MXene粒子であると考えられる。ピーク輝度(P)に対して、上記輝度幅(W)の3倍超で小さい輝度(P-3W未満)を示す粒子は、非常に厚い粒子であると考えられる(かかる粒子は、非常に厚いMXene粒子および/またはMAX粒子であってよいが、これに限定されない)。本実施形態の粒子状物質は、上述したMXene粒子10を含み、下記(IV)を満たすものであってよく、場合により、上記(I)~(III)の少なくとも1つを満たし得る。
(IV)粒子状物質の粒子の輝度の分布割合(粒子総数を100%とする)において、輝度のピーク(P)より高輝度側にて、粒子の割合が1%以下に低下する輝度(A)を特定し、該輝度(A)とピーク輝度(P)との間の輝度幅(P-A=W)を求め、ピーク輝度(P)に対して、該輝度幅(W)の3倍超で小さい輝度(P-3W未満)を示す粒子の割合の合計が、0.1%未満であること
【0053】
上記(IV)を満たすことは、粒子状物質における非常に厚い粒子の割合が0.1%未満であることを示す。粒子状物質が、非常に厚い粒子を実質的に含まないことは、MXene粒子の配向性が高い導電性膜を得るのに極めて重要であり得る。仮に、厚さ1μmの導電性膜を、厚さ1nmのMXene粒子を1000個積層することで形成しようとする場合、1000個のうち1個(即ち、0.1%)が非常に厚い粒子であると、得られる導電性膜の配向性を著しく低下させ得る。これに対して、上記(IV)を満たすことにより、粒子状物質における非常に厚い粒子の割合が0.1%未満となり、MXene粒子の配向性が高い導電性膜を得ることができる。
【0054】
上記(IV)について、粒子状物質の粒子の輝度の分布割合は、粒子画像分析装置を用い、粒子状物質を液状媒体中に含む液状組成物(または後述するスラリー)をガラスプレート上に滴下して、カバーガラスで覆い、バックライトで光照射し、その透過光を画像解析しつつ、透過光の輝度を測定し、全粒子数に対して、所定範囲の輝度を示す粒子の個数の割合(%)を求めることによって得られる。測定する全粒子数は、少なくとも10000個とする。輝度分布を求めるときの輝度の所定範囲は、適宜選択され得るが、例えば10とし得る。
【0055】
本実施形態のスラリーは、上述した粒子状物質を液状媒体中に含む分散液および/または懸濁液であってよい。液状媒体は、水性媒体および/または有機系媒体であり得、好ましくは水性媒体である。水性媒体は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(水性媒体全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。有機系媒体は、例えばN-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、酢酸、イソプロピルアルコールなどであってよい。
【0056】
本実施形態のスラリーにおけるMXene粒子10(単層MXene粒子10aおよび多層MXene粒子10bを含む)の濃度は、スラリーの適用方法等に応じて適宜選択され得るが、最終的に配向性が高い導電性膜を得るには10mg/mL以上30mg/mL以下であることが好ましい。10mg/mL以上であることにより、単層MXene粒子同士が配向し易くなる。30mg/mL以下であることにより、(i)スラリーの粘度が高くなって扱いづらくなる(基材に適用しづらくなる)こと、(ii)基材へのスラリーの適用1回で形成される前駆体の厚さが厚くなり過ぎること、(iii)厚い前駆体を乾燥させて液状媒体を除去するときに前駆体内部の液状媒体が急激に気化して、MXene粒子の配向状態を乱したり、大きな空隙を形成したりすること、などの問題を回避することができる。後述するように、MXene粒子の配向性が高く、所定のロッキングカーブ半値幅を有する導電性膜を得るには、スラリーにおけるMXene粒子の濃度を10mg/mL以上30mg/mL以下として、液状媒体の気化による配向状態の乱れを抑制することが好ましい。MXene粒子10の濃度は、スラリーにおける固形分濃度として理解され、固形分濃度は、例えば加熱乾燥重量測定法、凍結乾燥重量測定法、ろ過重量測定法などを用いて測定可能である。
【0057】
本実施形態のスラリーは、MXene粒子10のうち単層MXene粒子10aが占める割合(単層MXene純度)が極めて高く、かつ、MXene粒子10以外の不純物が少ない。換言すれば、本実施形態のスラリーは、高度に精製されたMXeneスラリーとして理解され得る。本実施形態のスラリーは、好ましくは、MXene粒子10が凝集することなく高度に分散している。
【0058】
本実施形態のスラリーは、粗精製MXeneスラリーを得た後、粗精製MXeneスラリーに対して、遠心分離および上澄みの回収/分離除去という操作を多段階で実施することによって得ることができる。より詳細には、遠心分離および上澄みの回収という操作を2段階以上で実施し、遠心分離および上澄みの分離除去という操作を最後の段階で実施することが好ましい。
【0059】
粗精製MXeneスラリーは、MAX相からA原子を選択的にエッチングした後、遠心分離および上澄みの分離除去(沈降物を回収/洗浄する)により、不要な成分を概ね除去し、必要に応じて(フレッシュな)液状媒体を添加して得ることができる。粗精製スラリーは、MXene粒子として、所望の単層MXene粒子と、層分離(デラミネーション)不足により単層化されていない多層MXene粒子とを含み得、更に、MXene粒子以外の不純物(未反応のMAX粒子および上記の副生成物等)を含み得る。なお、層分離(デラミネーション)は、多層MXeneに対して、MXene層間に働く分子間力よりも大きいせん断力を付与することによって起こり得るが、せん断力が十分でないと層分離できず(単層化できず)、せん断力が大きすぎるとMXeneが破壊される(微小なMXeneに分割される)ので、適切なせん断力を付与することは重要である。適切なせん断力は、上述したように、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどを利用して付与することができる。
【0060】
この粗精製MXeneスラリーに対して、遠心分離および上澄みの回収/分離除去という操作を多段階で実施する(必要に応じて(フレッシュな)液状媒体を添加する)することによって、高度に精製された本実施形態のMXeneスラリーを得ることができる。
【0061】
図3は、粗精製MXeneスラリーに対して、遠心分離および上澄みの回収という操作を1段階で実施した場合を例示的に示す。
図3(a)を参照して、粗精製MXeneスラリーは、MXene粒子10として単層MXene粒子10aおよび多層MXene粒子10bと、不純物(未反応のMAX粒子および上記の副生成物等)15とを液状媒体19中に含む。遠心分離に付した後、
図3(b)に示すように、粗精製スラリーは、単層MXene粒子に富む上澄みと、多層MXene粒子および不純物11に富む沈降物とに、概ね分離する。(不純物のうち未反応MAXの粒子は多層MXene粒子と同様に比較的重いため、単層MXene粒子より沈み易い傾向にある。不純物のうちAlF
3は、比較的重く(AlF
3の比重3g/cm
3)、形状も粒状と思われるため、単層MXene粒子より沈み易い傾向にある。また、AlF
3が多層MXene粒子の層間に存在する場合は、これらが一緒に沈むと考えられる。他方、単層MXene粒子は、アスペクト比が大きい二次元形状であることから、沈み難い傾向にある。)この上澄みを、例えば
図3(c)に示すデカンテーション等により回収し、必要に応じてフレッシュな液状媒体を添加して、
図3(d)に示すような1段階操作後のスラリーが得られる。1段階操作後のスラリーは、当該操作前の粗精製スラリー(
図3(a))に比べて、多層MXene粒子10bおよび不純物(未反応のMAX粒子および上記の副生成物等)15が効果的に低減されている。かかる遠心分離および上澄みの回収という操作を2段階以上で実施する。そして、最後の段階では、遠心分離後に、上澄みをデカンテーション等により分離除去する。残りの沈降物に、必要に応じてフレッシュな液状媒体を添加することにより、高度に精製された本実施形態のMXeneスラリーを得ることができる。最後の段階で分離除去された上澄みには、微小なMXene粒子が多く配分され得るので、最終的に得られた本実施形態のMXeneスラリーは、最終段階の操作前のMXeneスラリーに比べて、微小なMXene粒子が効果的に低減されている。以上により、単層MXene粒子を高い割合で含み、高度に精製された本実施形態のMXeneスラリーを得ることができる。
【0062】
理論的には、遠心分離は、遠心力および時間によって、沈降する粒子がおおよそ決まっているので、遠心分離を1段階のみで実施しても、複数に分けて多段階で実施しても、遠心力と合計時間が同じであれば、遠心分離後に回収される上澄み部分は同じ状態になると理解される。しかしながら、実際には、遠心分離後に上澄み(単層MXene粒子が多く配分される部分)を回収する際に、沈降物(多層MXene粒子および不純物)が舞い上がり、上澄みに混入してしまうため、遠心分離を1段階のみで実施する場合と、複数に分けて多段階で実施する場合とでは、遠心分離後に回収される上澄み部分は異なる状態になることが判明した。上記のように、遠心分離および上澄みの回収/分離除去という操作を多段階で実施することによって、高度に精製された本実施形態のMXeneスラリーを得ることができる。後述するように、MXene粒子の配向性が高く、所定のロッキングカーブ半値幅を有する導電性膜を得るには、遠心分離および上澄みの回収/分離除去という操作を多段階で実施して、単層MXene純度が高いMXeneスラリーを得ることが好ましい。遠心分離および上澄みの回収/分離除去という操作を多段階で実施する合計回数は、2回以上、好ましくは3回またはそれ以上である。
【0063】
本実施形態において、遠心分離の遠心力および時間は、適宜設定され得る。遠心力は、例えば3000×g以上4500×g以下の相対遠心力(RCF)であり得、RCFが4500×g以下であることにより、単層MXene粒子が破壊されることを抑制でき、RCFが3000×g以上であることにより、単層MXene粒子を多層MXene粒子および不純物から効果的に分離することができる。遠心分離の時間は、例えば3分以上60分以下であり得、60分以下であることにより、MXene粒子が凝集したり、単層MXene粒子が再度多層化したりすることを抑制でき、3分以上であることにより、単層MXene粒子を多層MXene粒子および不純物から効果的に分離することができる。なお、多段階操作において、遠心分離の遠心力を同じに設定した場合には、遠心分離の時間は段階が進むに従ってより長く設定し得る。しかしながら、遠心分離の時間が長すぎると、単層MXene粒子同士が長時間圧縮されることとなり、再度多層化してしまう点に留意すべきである。
【0064】
以上のようにして調整した本実施形態のMXeneスラリーを使用して、本実施形態の導電性膜30を製造することができる。
【0065】
図4を参照して、本実施形態の導電性膜30の製造方法は、
(a)本実施形態のスラリーを基材31上に適用(供給または塗布)して、MXene粒子を含む導電性膜30の前駆体を形成すること、および
(b)前駆体を乾燥させること
を含む。
【0066】
・工程(a)
基材31は、平坦な表面31a(
図1参照)を有する限り、特に限定されず、任意の適切な材料から成り得る。基材は、例えば樹脂フィルム、金属箔、プリント配線基板、実装型電子部品、金属ピン、金属配線、金属ワイヤなどであってよい。基材31が、平坦な表面を有しない場合、例えばろ過膜である場合、その上に形成される導電性膜の配向性が低くなり、導電性膜の表面が粗くなるため好ましくない。基材31の表面31aは、導電性膜30に所望される表面平滑性と同等以上であればよく、代表的には、120nm以下の算術平均粗さを有し得る。
【0067】
後述するように、MXene粒子の配向性が高く、所定のロッキングカーブ半値幅を有する本実施形態の導電性膜30を得るには、本実施形態のMXeneスラリーが、基材表面31a上で十分に濡れ広がることが好ましい。MXeneスラリーが、水性媒体を含む場合、基材表面31aを予め親水化表面処理して、濡れ性を向上させてよい。
【0068】
本実施形態のスラリーを基材31上に適用する方法は、MXene粒子の配向性が高い本実施形態の導電性膜30を得ることができればよい。より具体的には、スラリーの適用は、スプレー、スピンキャストまたはブレード法により実施してよく、MXene粒子を良好に積み重ねて、MXene粒子間の距離を小さくし、これにより、配向性が高く、緻密(高密度)で、表面が平滑な導電性膜30を得ることができる。なかでも、スプレーは、本実施形態のスラリー(MXene粒子10および液状媒体を含む)を基材31に薄く適用すること(薄い前駆体を形成すること)ができ、よって、基材表面31aに対してMXene粒子10をできるだけ平行に配向した(平坦に並んだ)状態で供給できるので好ましい(このとき、液状媒体の表面張力も好ましく作用し得る)。スプレーに使用するノズルは特に限定されない。
【0069】
・工程(b)
その後、基材31上の前駆体を乾燥させる。本発明において「乾燥」は、前駆体中に存在し得る液状媒体を除去することを意味する。
【0070】
乾燥は、自然乾燥(代表的には常温常圧下にて、空気雰囲気中に配置する)や空気乾燥(空気を吹き付ける)などのマイルドな条件で行っても、温風乾燥(加熱した空気を吹き付ける)、加熱乾燥、および/または真空乾燥などの比較的アクティブな条件で行ってもよい。
【0071】
工程(a)(前駆体の形成)および工程(b)(乾燥)は、所望の導電性膜厚さが得られるまで、合計2回以上繰り返して実施することが好ましい。換言すれば、工程(a)にて少量のスラリーを基材31上に適用して前駆体を形成し、工程(b)にて前駆体を乾燥させる、という操作を複数回繰り返すことが好ましい。より高い配向性を有する導電性膜30を得るためには、工程(a)は、MXene粒子10を基材表面31aに対してできるだけ平行に配向した状態で供給できるように、少量のスラリーを適用して薄い前駆体を形成することが好ましい。また、工程(b)は、液状媒体が前駆体から乾燥除去されるときに、MXene粒子10の供給状態(配向した状態)をできるだけ乱さない(大きな空隙を形成しない)ように、薄い前駆体から、液状媒体が実質的に残存しない状態まで、毎回、十分に乾燥させることが好ましい。
【0072】
例えば、スプレーと乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してよい。より詳細には、
図4(a)に示すように、少量のスラリーをノズル20から基材表面31aに向かってミストM(図中、点線にて示す)としてスプレーして、MXene粒子を液状媒体中に含む前駆体層(第1層)29aを形成する。そして、
図4(b)に示すように、温風乾燥機21から、加熱した空気を、基材表面31a上の前駆体層29aに向かう方向(図中、点線矢印にて示す)に吹き付けて乾燥させ、前駆体層29aから液状媒体を除去して、MXene粒子から成る導電性層(第1層)30aを形成する。かかるスプレーおよび乾燥を繰り返して、複数の導電性層30a、30b、30c・・・(図示せず)が積層されて成る導電性膜30を形成することができる。かかるスプレーおよび乾燥により形成される1層の導電性層の厚さは、特に限定されないが、例えば0.01μm以上1μm以下であり得る。スプレーおよび乾燥の繰り返し回数は、導電性膜30に所望される厚さに応じて適宜選択され得る。
【0073】
これにより本実施形態の導電性膜30が製造される。導電性膜30は、MXene粒子10を含み、好ましくは、本実施形態のスラリーの液状媒体が実質的に残存しない。導電性膜30は、いわゆるバインダを含まない。
【0074】
図1に模式的に示すように、最終的に得られる導電性膜30においてMXene粒子10が比較的整列した状態で存在し、より詳細には、基材表面31a(換言すれば、導電性膜30の主面)に対して、MXeneの二次元シート面(MXeneの層に平行な平面)が比較的揃っている(好ましくは平行である)粒子10が多い。すなわち、MXene粒子10の配向性が高い導電性膜30を得ることができる。かかる導電性膜30によれば、MXene粒子10同士の面接触が図られ、MXene粒子10間のコンタクトが良好となり、高い導電率を得ることができる。
【0075】
本実施形態の導電性膜30は、これをX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下である。
【0076】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、MXene粒子を含む導電性膜は、MXene粒子(単層MXene粒子および多層MXene粒子を総称し、単層MXene粒子は「ナノシート」または「シングルフレーク」とも称され得る)同士が積み重なって形成され得、かかる導電性膜の導電率は、MXene粒子の配向性によって支配されていると考えられ得る。高導電率の導電性膜を得るには、MXene粒子同士ができるだけ平行かつ均一に配向していること、換言すれば、配向性が高いことが好ましい。MXene粒子の配向性を示す尺度として、X線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅(以下、単に「χ軸方向ロッキングカーブ半値幅」とも言う)を適用できる。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が狭いほど、導電性膜におけるMXene粒子の配向性が高い。
【0077】
χ軸方向ロッキングカーブ半値幅は、導電性膜をX線回折(XRD)測定し、該導電性膜に含まれるMXeneの(00l)面(lは2の自然数倍の数、即ち、l=2、4、6、8、10、12・・・)のピークに関して得られ、より詳細には以下のようにして決定される。MXeneを含む導電性膜をXRD測定すると、θ軸方向スキャンによるXRDプロファイルにおいてMXeneの(00l)面のピークが観測される。θ軸方向スキャンのXRDプロファイルにおいて、MXeneの(00l)面のピークが複数観測され得、いずれのピークを採用してもよいが、代表的には(0010)面(l=10)のピークを採用し得る。そして、かかる(00l)面のピークが得られる2θで固定したχ軸方向スキャンによりχ軸方向ロッキングカーブが得られる。χ軸方向ロッキングカーブにおいて1つのピークが観測され、このピークの強度が半分になるときのχ軸角度の幅(°)を「χ軸方向ロッキングカーブ半値幅」とする。
【0078】
XRD測定には、例えば、二次元検出器を備えた微小部X線回折(μ-XRD)装置を使用でき、これにより得られる二次元X線回折像を一次元に変換して(適宜フィッティングして)、θ軸方向スキャンのXRDプロファイル(縦軸が強度で、横軸が2θであり、一般的に「XRDプロファイル」と称される)と、所定の2θに関してχ軸方向ロッキングカーブプロファイル(縦軸が強度で、横軸がχである)とを得ることができる。
【0079】
MXeneの(00l)面は、基本的に、MXeneの結晶c軸方向を示し、θ軸方向スキャンのXRDプロファイルにおいて(00l)面のピークを観測できる。なお、θ軸方向スキャンのXRDプロファイルでは、MXeneの周期構造(単層MXeneおよび/または多層MXeneの積層構造における、積層方向に沿った周期構造)の長さdに対応したθにおいて、ブラッグの回折条件(2d・sinθ=n・λ(nは自然数、λは波長))に従って、(00l)面のピークが観測され得るが、周期構造の長さdは、MXeneの層間距離(単層MXeneおよび多層MXeneに関わらず、導電性膜中にて隣接する任意の2つのMXene層の間の距離を言う)や、MXene層の厚さ等によってシフトし得る。上記の式:M
mX
nがTi
3C
2で表されるMXeneの場合、(0010)面のピークは、2θ=35~40°(おおよそ36°)付近のピークとして観測される。かかる(00l)面のピークに関してχ軸方向ロッキングカーブを取得すると、導電性膜の主面に対して垂直な角度(またはその付近)で強度が最大になる(ピークが観測される)。MXeneの結晶c軸方向が揃っているほど、上記垂直な角度からずれたときの強度低下が著しい。よって、χ軸方向ロッキングカーブにおけるピークの半値幅が小さいほど、MXeneの結晶c軸方向が揃っていること、換言すれば、配向性が高いこと(
図1参照)を示している。
【0080】
本実施形態の導電性膜は、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下であり、MXene粒子の配向性が高いので、これにより高い導電率、例えば10000S/cm以上の導電率を得ることができる。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅は、好ましくは8.8°以下であり、これにより更に高い導電率を実現できる。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅の下限は特に存在しないが、例えば3°以上であり得る。
【0081】
具体的には、本実施形態の導電性膜は、12000S/cm以上の導電率を有し得る。導電性膜の導電率は、好ましくは14000S/cm以上であり得、上限は特に存在しないが、例えば30000S/cm以下であり得る。導電率は、導電性膜の抵抗率および厚さを測定し、これらの測定値から算出可能である。
【0082】
更に、本実施形態の導電性膜では、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下であり、MXene粒子の配向性が高いので、高い密度を得ることもでき、具体的には、3.00g/cm3以上の密度を実現できる。配向性および密度が高いことは、導電性膜における単層MXene粒子の割合が高いことを示している。導電性膜の密度は、好ましくは3.40g/cm3以上であり得、上限は特に存在しないが、例えば4.5g/cm3以下であり得る。密度は、導電性膜のうち、所定面積の部分について、導電性膜の質量と厚さを測定し、これらの測定値から算出可能である。
【0083】
また更に、本実施形態の導電性膜では、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が10.3°以下であり、MXene粒子の配向性が高いので、高い表面平滑性を得ることもでき、具体的には、120nm以下の算術平均粗さ(Ra)を実現できる。配向性および表面平滑性が高いことは、導電性膜が均一かつ平坦であることを示している。Raは、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下であり得、下限は特に存在しないが、例えば1nm以上であり得る。Raは、導電性膜の露出表面について、表面粗さ測定機を使用して測定することができる。
【0084】
本実施形態の導電性膜は、いわゆるフィルムとしての形態を有し得、具体的には、互いに対向する2つの主面を有するものであり得る。導電性膜の厚さ、および平面視した場合の形状および寸法などは、導電性膜の用途に応じて適宜選択され得る。
【0085】
本実施形態の導電性膜は、任意の適切な用途に利用され得る。高い導電率が要求される電磁シールド(EMIシールド)として好適に使用される。
【0086】
本実施形態の導電性膜を使用することにより、高い遮蔽率(EMIシールド性)の電磁シールドを得ることができる。一般的には、EMIシールド性は、下記の式(1)に基づいて、導電率に対して表1のように算出される。
【0087】
【数1】
式(1)中、SEはEMIシールド性(dB)であり、σは導電率(S/cm)であり、fは電磁波の周波数(MHz)であり、tは膜の厚さ(cm)である。
【0088】
【表1】
*但し、f=1000MHzとし、t=0.001cmとした。
【0089】
表1から理解される通り、導電率が10000S/cm以上であると、高いEMIシールド性が得られる。本実施形態の導電性膜によれば、導電率が10000S/cm以上、好ましくは12000S/cm以上であるので、厚さ一定の場合には、より高いEMIシールド性が得られ、あるいは、厚さを低減しても十分なEMIシールド効果を得ることができる。
【0090】
以上、本発明の1つの実施形態における導電性膜、スラリーおよび該スラリーを用いた導電性膜の製造方法について詳述したが、本発明は種々の改変が可能である。なお、本発明の導電性膜は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明の導電性膜の製造方法は、上述の実施形態における導電性膜を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0091】
(比較例1および実施例1~2:MXeneスラリー)
・MXeneスラリーの調製
以下の手順により、比較例1および実施例1~2のMXeneスラリーを調製した。
【0092】
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、MAX粒子としてTi3AlC2粒子(粉末)を得た。
【0093】
上記で得られたTi3AlC2粒子(粉末)をLiFと共に9モル/Lの塩酸に添加して(Ti3AlC2粒子1gにつき、LiF 1g、9モル/Lの塩酸10mLとした)、35℃にてスターラーで24時間撹拌して、Ti3AlC2粒子に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄みの分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物を再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施した。そして、沈降物に純水を添加した混合物をオートマチックシェーカーで15分間撹拌した。これにより、粗精製MXeneスラリーを得た。
【0094】
上記で得た粗精製MXeneスラリーを容量50mLの遠心管に入れ、遠心分離機(Sorvall Legend XT、Thermo Fisher Scientific社製、以下も同様)を用いて、3500×gのRCFにて3分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて回収し、1段階操作後のMXeneスラリーを得た。上澄みを除いた残りの沈降物は、その後、使用しなかった。
【0095】
1段階操作後のMXeneスラリーを容量50mLの遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、3500×gのRCFにて15分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて回収して、2段階操作後のMXeneスラリーを得た。上澄みを除いた残りの沈降物(高濃度スラリー)は、純水添加により希釈して、比較例1のMXeneスラリー(固形分濃度15mg/mL)とした。
【0096】
2段階操作後のMXeneスラリーを容量50mLの遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、3500×gのRCFにて30分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて回収して、3段階操作後のMXeneスラリーを得た。上澄みを除いた残りの沈降物(高濃度スラリー)は、純水添加により希釈して、実施例1のMXeneスラリーとした(固形分濃度15mg/mL)。
【0097】
3段階操作後のMXeneスラリーを容量50mLの遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、3500×gのRCFにて45分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて分離除去した。分離除去した上澄みは、その後、使用しなかった。上澄みを除いた残りの沈降物(高濃度スラリー)は、純水添加により希釈して、実施例2のMXeneスラリーとした(固形分濃度15mg/mL)。
【0098】
・MXeneスラリーの評価
以上により調製された比較例1および実施例1~2のMXeneスラリーのそれぞれについて、粒子画像分析装置(「モフォロギ4」、Malvern Panalytical社製)を用い、ガラスプレート上にMXeneスラリーのサンプルを滴下してカバーガラスで覆い、バックライトでサンプルに光照射し、その透過光を画像解析することによって、粒子のサイズ(MXene粒子では2次元シート面のサイズと考えられる)を代表する円相当径(μm)および粒子の輝度の分布を調べた。結果を
図5~7に示す(なお、粒子画像の撮影中に粒子が動き得るため、円相当径は、やや過大評価されたものと考えられる)。更に、これらの結果から、粒子の輝度の分布割合(粒子総数を基準(100%)として、所定範囲の輝度を有する粒子数の割合)を調べた。所定範囲は10に設定し、輝度が60以下、60超かつ70以下、70超かつ80以下、・・・、180超かつ190以下、190超かつ200以下、および200超とし、例えば、120超かつ130以下の輝度を有する粒子は、輝度「130」の粒子としてラベリングした。結果を
図8に示す。輝度が大きい粒子は、薄い粒子であり、即ち、単層MXene粒子であると考えられ、輝度がより小さい粒子は、より厚い粒子であり、即ち、多層MXene粒子および不純物(未反応のMAX粒子および副生成物、副生成物は多層MXene粒子の層間に存在していてもよい)であると考えられる。図示する結果から理解されるように、比較例1のMXeneスラリー(
図5)に比べて、実施例1のMXeneスラリー(
図6)では、輝度が100以下の(即ち、厚さがかなり大きい)粒子がほとんど見られず、単層MXene粒子を高度に精製できていることが理解される。更に、実施例2のMXeneスラリー(
図7)では、輝度が120以下の(即ち、厚さが大きい)粒子がほとんど見られず、単層MXene粒子をより一層高度に精製できていることが理解される。なお、
図5~8に示す結果は、同条件で測定したものであるので比較可能であるが、輝度の絶対値は、バックライトの強度に依存し得る点に留意されたい。
【0099】
図8(a)を参照して、輝度のピーク(P)は170であり、これより高輝度側にて、粒子の割合が1%以下に低下する輝度(A)は190であった。よって、該輝度(A)とピーク輝度(P)との間の輝度幅(P-A=W)は20であった。ピーク輝度(P=170)に対して、上記輝度幅(W=20)の1倍以内の輝度(P±W=150以上190以下)を示す粒子は、単層・少層MXene粒子であると考えられた。ピーク輝度(P=170)に対して、上記輝度幅(W=20)の1倍より大きく3倍以下で小さい輝度(P-Wより小さくP-3W以上=110以上150未満)を示す粒子は、(少層MXene粒子より厚い)多層MXene粒子であると考えられた。ピーク輝度(P=170)に対して、上記輝度幅(W=20)の3倍超で小さい輝度(P-3W未満=110未満)を示す粒子は、非常に厚い粒子であると考えられた。
図8に示す輝度分布では、輝度の所定範囲を10としたので、ピーク輝度(P=170)に対して、上記輝度幅(W=20)の3倍超で小さい輝度(P-3W未満=110未満)は、100以下となる。
図8(b)を参照して、比較例1のMXeneスラリーは、輝度100の粒子の割合が0.1%以上、具体的には0.13%であり、輝度100以下の粒子の割合の合計は0.1%以上、具体的には0.35%であった。これに対して、実施例1および実施例2のMXeneスラリーは、輝度100の粒子の割合が0.1%未満、具体的には0.01%で、輝度100以下の粒子の割合を合計しても0.1%未満、具体的には0.01%であった。
【0100】
また、以上により調製された比較例1および実施例1~2のMXeneスラリーのそれぞれについて、サンプル(固形分濃度はそれぞれ上記の通り)をシリコンウェハ(算術平均粗さRaは0.5nm未満)上に滴下し、乾燥させて、AFMにより、サンプル中に含まれる粒子の厚さを測定した。視野の大きさは30μm×30μmとし、1つの視野内の全粒子(但し、上述した通り)の高さを測定し、少なくとも40個の粒子の測定結果が得られるまで、異なる視野を設定して同様にした。結果を表2および表3に示す。例えば実施例1では、視野1内に存在した8個の粒子について厚さを測定し、次に、視野2内に存在した8個の粒子について厚さを測定し、・・・(視野3~5)、次に、視野6内に存在した6個の粒子について厚さを測定して、合計42個の粒子の厚さの測定結果を得た。
【0101】
【0102】
【0103】
表2~3を参照して、比較例1のMXeneスラリーは、合計48個の粒子のうち、厚さ20nm超の粒子が3個あり、よって、粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合は6%であった。比較例1のMXeneスラリーは、粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが500nmを超えており、厚さ500nm超の粒子はMAX粒子であると考えられる。これに対して、実施例1のMXeneスラリーは、合計42個の粒子のうち、厚さ20nm超の粒子はゼロ個であり、よって、粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割合はゼロ%であった。実施例1のMXeneスラリーは、粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが約13nmであり、厚さ10nm超の粒子が1個のみで、その他の粒子はすべて厚さ10nm以下であった。実施例2のMXeneスラリーは、合計51個の粒子のうち、厚さ20nm超の粒子はゼロ個であり、よって、粒子状物質における厚さ20nm超の粒子の割はゼロ%であった。実施例2のMXeneスラリーは、粒子状物質に含まれる粒子の最大厚さが約14nmであり、厚さ10nm超の粒子が1個のみで、その他の粒子はすべて厚さ10nm以下であった。厚さ15nm以下の粒子は単層・少層MXene粒子であると考えられ、厚さ4nm以下の粒子は単層MXene粒子であると考えられる。
【0104】
表3に示すAFM測定による粒子の厚さ分布は、
図8に示す粒子画像分析装置(「モフォロギ4」)測定による輝度の分布割合と概ね対応していることが確認された。
図8にて150以上190以下の輝度を示す粒子は、単層・少層MXene粒子であると考えられ、これは、AFM測定で厚さ10nm以下の粒子に対応すると考えてよい。
図8にて110以上150未満の輝度を示す粒子は、(少層MXene粒子より厚い)多層MXene粒子であると考えられ、これは、AFM測定で厚さ10nm超30nm以下の粒子に対応すると考えてよい。
図8にて110未満(100以下)の輝度を示す粒子は、非常に厚い粒子であると考えられ、これは、AFM測定で30nm超の粒子に対応すると考えてよい。
【0105】
また、以上により調製された比較例1および実施例1~2のMXeneスラリーのそれぞれについて、サンプル(固形分濃度はそれぞれ上記の通り)を乾燥させて、ICP-AESにより、Ti元素およびAl元素の各含有量を測定し、これら測定値からTiに対するAlの割合(モル%)を算出した。結果を表4に示す。Tiに対するAlの割合が低いほど、多層MXene粒子および不純物(未反応のMAX粒子および副生成物)が低減されており、よって、MXene粒子に占める単層MXene粒子の割合が高いものと考えられる。
【0106】
【0107】
表4から理解される通り、比較例1のMXeneスラリーに比べて、実施例1のMXeneスラリーでは、Tiに対するAlの割合(モル%)が低減(より具体的には、スラリー中のTiに対するAlの割合が0.30モル%以下に)され、単層MXene粒子を高度に精製できていることが理解される。更に、実施例2のMXeneスラリーでは、Tiに対するAlの割合(モル%)がより一層低減され、単層MXene粒子をより一層高度に精製できていることが理解される。
【0108】
(比較例2および実施例3~4:導電性膜)
・導電性膜の作製
以下の手順により、比較例2および実施例3~4の導電性膜(MXene膜)を作製した。比較例2の導電性膜は、比較例1のMXeneスラリーを使用し、実施例3および4の導電性膜は、それぞれ実施例1および実施例2のMXeneスラリーを使用したことを除き、同様にして以下の方法で作製した。
【0109】
上記で調製した各MXeneスラリーを純水添加により希釈して、固形分濃度が約15mg/mLのスラリーを調製した。
【0110】
厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに親水化表面処理(紫外線-オゾン処理)を施したものを基材として準備した。なお、基材の表面において、3cm×3cmの正方形領域を露出したまま残して、その周囲をスコッチテープでマスキングした。
【0111】
上記で準備したスラリー(固形分濃度15mg/mL)を、エアブラシ(株式会社タミヤ製、スプレーワークHGエアーブラシワイド(トリガータイプ)、エアーブラシシステム No.53 スプレーワークパワーコンプレッサー 74553)にて、エア圧力0.40MPa(絶対圧)にて、上記基材上にスプレーした。スプレー後、ハンドドライヤー(パナソニック株式会社製、EH5206P-A)で温風を吹き付けて乾燥させた。スプレーによる前駆体1層あたりの厚さは数十nmであった。前駆体一層をスプレーした後、温風の吹き付けにより十分に乾燥させた(乾燥中の基材温度は40℃以上であると考えられ、乾燥を効果的に促進させた)。かかるスプレーおよび乾燥の操作を合計100回以上繰り返した。その後、真空オーブンにて、80℃で16時間乾燥させた。これにより、厚さ3~5μmの導電性膜を、基材の3cm×3cmの正方形領域上に作製した。なお、基材に施したスコッチテープ上では、スプレーされたミストがはじかれてしまうため、導電性膜が形成されなかった。
【0112】
・導電性膜の評価
以上により作製した比較例2および実施例3~4の導電性膜のそれぞれについて、以下の各項目について評価した。
【0113】
χ軸方向ロッキングカーブ半値幅
上記で作製した基材付き導電性膜(サンプル)を基材ごと打ち抜くか切り出して、μ-XRD(Bruker Corporation製、AXS D8 DISCOVER with GADDS)を用いてXRD測定し、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅を算出した。より詳細には、XRD測定により、導電性膜の2次元X線回折像を得(特性X線:CuKα=1.54Å)、θ軸方向スキャンのXRDプロファイルにおいて2θ=35~40°(36°付近)のピーク(式:MmXnがTi3C2で表されるMXeneの(0010)面のピーク)を調べ、このピークに関してχ軸方向ロッキングカーブを取得して、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅を算出した。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅は、XRD測定で得られる2箇所の測定値の平均値とした。結果を表5に示す(表5中、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅を単に「半値幅」と示す)。
【0114】
導電率
また、上記で作製した基材付き導電性膜(サンプル)のうち、上記で打ち抜いた部分ではない部分を用いて(以下も同様)、導電性膜の導電率(S/cm)を測定した。より詳細には、導電率は、1サンプルにつき四隅および中央の合計5箇所で、抵抗率(表面抵抗率)(Ω)および(基材の厚さを差し引いた)厚さ(μm)を3回ずつ測定して、3回測定の平均値から導電率(S/cm)を算出し、これにより得られた5箇所の導電率の平均値を採用した。抵抗率測定には、低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、ロレスタAX MCP-T370)を用いた。厚さ測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、MDH-25MB)を用いた。結果を表5に併せて示す。
【0115】
密度
上記で作製した基材付き導電性膜(サンプル)のうち、上記の厚さ測定と同じ合計5箇所を1cm×1cmの領域で切り出して、切り出した部分について、導電性膜を剥離する前および後の質量を測定し、それら測定値の差として、単位面積(1cm2)あたりの導電性膜の質量を算出した。そして、単位面積(1cm2)あたりの導電性膜の質量を、上記厚さ測定により求めた厚さで除算することにより、導電性膜の密度を算出した。結果を表5に併せて示す。
【0116】
Ra(算術平均粗さ)
上記で作製した基材付き導電性膜(サンプル)の露出表面について、白色光干渉計システムによる表面粗さ測定機(ZYGO社製、NewView 7300)を用いて、3箇所でRa(算術平均粗さ)を測定し、これにより得られた3箇所のRaの平均値を採用した。結果を表5に併せて示す。
【0117】
【0118】
導電性膜の外観観察
上記で作製した基材付き導電性膜(サンプル)に対して、色および文字をラベル面に有するラベルを、ラベル面が導電性膜の露出表面に斜めに対向する(内角 約45°)ように差し掛けて、導電性膜の露出表面へのラベル面の映り込みを観察した。ラベル面には、(i)黒色領域、(ii)白地に黒色文字が記載された領域、(iii)緑地に白色文字および黒色文字が記載された領域、ならびに(iv)白地に緑色文字および黒色文字が記載された領域が、互いに平行に並んでいた。導電性膜への映り込みの程度が高いほど、光反射性が高く、配向性が高いことを示す。比較例2の導電性膜では、ラベル面の映り込みはほとんど認められず、(i)黒っぽい領域、(ii)白っぽい領域、(iii)緑色っぽい領域、ならびに(iv)白っぽい領域が、なんとか判別できる程度であった。実施例3の導電性膜では、ラベル面の映り込みが認められ、(i)黒色領域、(ii)白色領域に黒色の文字らしきもの、(iii)緑色領域に白色および黒色の文字らしきもの、ならびに(iv)白色領域に緑色および黒色の文字らしきものが、判別できた。実施例4の導電性膜では、ラベル面の映り込みが鮮明に認められ、(i)黒色領域、(ii)白字に黒色文字が記載された領域、(iii)緑地に白色文字および黒色文字が記載された領域、ならびに(iv)白字に緑色文字および黒色文字が記載された領域が、鮮明に判別できた。
【0119】
導電性膜の断面SEM観察
上記で作製した基材付き導電性膜(サンプル)を厚さ方向に切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立株式会社製、S-5000)により観察した。サンプルの断面SEM写真を
図9~11に示す。
図9~11は、基材31の上に導電性膜30が形成されている状態を示す。図示する結果から理解されるように、比較例2の導電性膜(
図9)では、粒子状の結晶質不純物が存在すること(図中の点線で囲まれた領域を参照)が確認され、更に、導電性膜中に多層MXene粒子(図示せず)が存在するために、MXeneの層構造がかなり乱れていた。なお、SEM写真にて観察され得る粒子状の結晶質不純物は、未反応のMAX粒子(またはデラミネーションできていない多層MXene粒子)であると考えられる(AlF
3は、多層MXene粒子の層間に存在している可能性が高いと考えられるが、SEMで容易に検出できるサイズを有しないと考えられる)。実施例3の導電性膜(
図10)では、粒子状の結晶質不純物が存在すること(図中の点線で囲まれた領域を参照)が確認され、単層MXene粒子の積層を阻害していたが、単層MXene粒子が、概ね良好な配向性を有して積層されていた。更に、実施例4の導電性膜(
図11)では、MXeneの層構造の乱れは観察されず、単層MXene粒子が、極めて高い配向性を有して積層されていた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の導電性膜は、任意の適切な用途に利用され得、例えば電磁シールドとして特に好ましく使用され得る。
【0121】
本願は、2020年8月13日付けで日本国にて出願された特願2020-136819に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0122】
1a、1b 層本体(MmXn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene(層状材料)粒子
19 不純物
20 ノズル
21 温風乾燥機
29a 前駆体層(第1層)
30 導電性膜
30a 導電性層(第1層)
31 基材
31a 基材表面