(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】検出装置、検出システム、検出方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240501BHJP
A61B 5/22 20060101ALI20240501BHJP
G16H 20/30 20180101ALI20240501BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20240501BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/22 100
G16H20/30
G16H50/30
(21)【出願番号】P 2022543830
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2020031055
(87)【国際公開番号】W WO2022038663
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】オウ シンイ
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-150329(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164157(WO,A1)
【文献】特開2019-198532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う
前記歩行者の進行方向加速度の時系列データを生成し、生成された
前記進行方向加速度の時系列データから
一歩行周期分の前記進行方向加速度の歩行波形を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された
一歩行周期分の前記進行方向加速度の前記歩行波形から、前記歩行者の両足の歩行イベントを検出する検出手段と、を備え
、
前記検出手段は、
最大ピークに含まれる二つの山の間に谷が検出されるタイミングを爪先離地のタイミングとして検出し、
最小ピークが検出されるタイミングと、前記最小ピークの次に現れる極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングを踵接地のタイミングとして検出する検出装置。
【請求項2】
前記抽出手段は、
前記歩行者のロール角速度の時系列データを生成し、
生成された前記ロール角速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期分の前記ロール角速度の歩行波形を抽出し、
前記検出手段は、
抽出された一歩行周期分の前記ロール角速度の歩行波形を、前記爪先離地のタイミングと前記踵接地のタイミングで、第1歩行波形、第2歩行波形、および第3歩行波形に分割し、
前記ロール角速度の第1歩行波形から反対足踵接地のタイミングを検出し、
前記ロール角速度の第3歩行波形から反対足爪先離地のタイミングを検出する、請求項
1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記検出手段は、
前記ロール角速度の第1歩行波形から前記ロール角速度が最大になる点を検出し、
前記ロール角速度の第1歩行波形の始点と、前記ロール角速度の第1歩行波形において前記ロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分から、前記ロール角速度の第1歩行波形に下ろした垂線の長さが最大になる加速変曲点のタイミングを前記反対足踵接地のタイミングとして検出する、請求項
2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
前記ロール角速度の第3歩行波形から前記ロール角速度が最大になる点を検出し、
前記ロール角速度の第3歩行波形の始点と、前記ロール角速度の第3歩行波形において前記ロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分から、前記ロール角速度の第3歩行波形に下ろした垂線の長さが最大になる減速変曲点のタイミングを前記反対足爪先離地のタイミングとして検出する、請求項
2または3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、
前記歩行者の重力方向加速度の時系列データを生成し、
生成された前記重力方向加速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期分の前記重力方向加速度の歩行波形を抽出し、
前記検出手段は、
抽出された一歩行周期分の前記重力方向加速度の歩行波形を、前記爪先離地のタイミングと前記踵接地のタイミングで、第1歩行波形、第2歩行波形、および第3歩行波形に分割し、
前記重力方向加速度の第2歩行波形が最大になるタイミングを脛骨垂直のタイミングとして検出する、請求項
4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記歩行者の前記歩行波形から検出された前記歩行イベントの発生時刻を特定し、特定された前記歩行イベントの発生時刻に基づいて歩容に関する時間因子を算出する計算手段と、
算出された前記時間因子に基づいて前記歩行者の身体状態を推測する推測手段と、を備える請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の検出装置と、
空間加速度および空間角速度を計測し、計測した前記空間加速度および前記空間角速度に基づいて前記センサデータを生成し、生成した前記センサデータを前記検出装置に送信するデータ取得装置と、を備える検出システム。
【請求項8】
コンピュータが、
歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う
前記歩行者の進行方向加速度の時系列データを生成し、
生成された
前記進行方向加速度の時系列データから
一歩行周期分の前記進行方向加速度の歩行波形を抽出し、
抽出された
一歩行周期分の前記進行方向加速度の前記歩行波形から、前記歩行者の両足の歩行イベントを検出し
、
前記検出において、
最大ピークに含まれる二つの山の間に谷が検出されるタイミングを爪先離地のタイミングとして検出し、
最小ピークが検出されるタイミングと、前記最小ピークの次に現れる極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングを踵接地のタイミングとして検出する検出方法。
【請求項9】
歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う
前記歩行者の進行方向加速度の時系列データを生成する処理と、
生成された
前記進行方向加速度の時系列データから
一歩行周期分の前記進行方向加速度の歩行波形を抽出する処理と、
抽出された
一歩行周期分の前記進行方向加速度の前記歩行波形から、前記歩行者の両足の歩行イベントを検出する処理と、
前記検出する処理において、
最大ピークに含まれる二つの山の間に谷が検出されるタイミングを爪先離地のタイミングとして検出する処理と、
最小ピークが検出されるタイミングと、前記最小ピークの次に現れる極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングを踵接地のタイミングとして検出する処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歩行イベントを検出する検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
体調管理を行うヘルスケアへの関心の高まりから、歩行の特徴を含む歩容を計測し、その歩容に応じた情報をユーザに提供するサービスが注目されている。歩行に関するデータから、踵が地面に接地する事象や、爪先が地面から離れる事象などの歩行イベントを検出できれば、歩容に応じたサービスをより的確に提供できる。
【0003】
特許文献1には、靴のインソールに設けられた感圧センサによって取得された、歩行時および静止立位時における所定時間の足底圧のデータを解析する方法について開示されている。特許文献1の方法では、歩行時における足底圧パラメータ、足圧中心パラメータ、および時間パラメータと、静止立位時における足底圧パラメータおよび足圧中心パラメータとを取得して蓄積する。
【0004】
特許文献2には、歩行に起因する身体部位の加速度変化から、被験者の歩行動作を判定する装置について開示されている。特許文献2の装置は、身体に装着されて歩行に起因する身体部位の左右軸方向以外の単一軸方向の加速度を検出する1軸加速度センサを備える。特許文献2の装置は、1軸加速度センサの検出結果から生成される加速度波形の特徴量を抽出する。特許文献2の装置は、歩行周期における左右脚の動作にそれぞれ対応した立脚期の加速度波形の特徴量を用いて、歩行動作の左右バランスが正常であるか否かを判定する。
【0005】
特許文献3には、使用者の下肢に電気刺激を付与する装置について開示されている。特許文献3の装置は、歩行動作のフェーズが遊脚期のとき、膝関節を跨ぐ筋肉のうちの下肢の背面側に存在する下肢背側筋群に対応する背面部分に取り付けられた背面電極部に電流を出力させる。特許文献3の装置は、歩行動作のフェーズが立脚期のとき、膝関節を跨ぐ筋肉のうちの下肢の正面側に存在する下肢腹側筋群に対応する正面部分に取り付けられた正面電極部に電流を出力させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/164157号
【文献】特開2010-005033号公報
【文献】特開2015-136584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法では、感圧センサを用いて取得された足底圧のデータに基づいて、立脚期や遊脚期を自動検知できる。しかしながら、特許文献1の手法では、足底圧のデータに基づいて歩行イベントを検知するため、立脚期におけるデータは取得できるが、遊脚期におけるデータを取得できなかった。すなわち、特許文献1の手法では、両足の足底圧のデータを用いても、遊脚期における歩行イベントを検知できなかった。
【0008】
特許文献2の手法では、腰背部等のように、身体の正中線上などで左右対称性を分析できる身体部位に装着された1軸加速度センサによって、単一軸方向の加速度を検出する。特許文献2の手法では、歩数や歩行距離、歩行速度、歩幅などの歩行パラメータとともに、歩行動作の左右バランスを判定することはできるが、歩行イベントを細分化するための情報を得ることはできなかった。すなわち、特許文献2の手法では、単一のセンサを用いて、詳細な歩行イベントを検出することができなかった。
【0009】
特許文献3の手法では、大腿部や下腿部、足部に取り付けられたセンサによって検出されたデータに基づいて、大腿や下腿、足の動作を検知し、立脚期や遊脚期を細分化できる。しかしながら、特許文献3の手法では、大腿部や下腿部、足部に分けて、複数のセンサを用いる必要があった。また、特許文献3の手法では、爪先と踵の下に設けられた圧力センサによって足の動きを検知するため、遊脚期における歩行相を細分化するためには、大腿部や下腿部に設けられたセンサによって検出されたデータで補間する必要があった。すなわち、特許文献3の手法では、歩行イベントを検出する際に、複数のセンサを用いる必要があった。
【0010】
本発明の目的は、片足に装着されたセンサによって計測される足の動きに関する物理量に基づいて、両足の詳細な歩行イベントを検出できる検出装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様の検出装置は、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成し、生成された時系列データから歩行波形を抽出する抽出部と、抽出部によって抽出された歩行波形から、歩行者の両足の歩行イベントを検出する検出部と、を備える。
【0012】
本開示の一態様の検出方法においては、コンピュータが、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成し、生成された時系列データから歩行波形を抽出し、抽出された歩行波形から、歩行者の両足の歩行イベントを検出する。
【0013】
本開示の一態様のプログラムは、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成する処理と、生成された時系列データから歩行波形を抽出する処理と、抽出された歩行波形から、歩行者の両足の歩行イベントを検出する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、片足に装着されたセンサによって計測される足の動きに関する物理量に基づいて、両足の詳細な歩行イベントを検出できる検出装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る検出システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る検出システムのデータ取得装置を履物の中に配置する一例を示す概念図である。
【
図3】第1の実施形態に係る検出システムのデータ取得装置に設定されるローカル座標系と世界座標系について説明するための概念図である。
【
図4】第1の実施形態に係る検出システムが検出する歩行イベントについて説明するための概念図である。
【
図5】第1の実施形態に係る検出システムのデータ取得装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が生成する足底角の歩行波形について説明するためのグラフである。
【
図8】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置によって切り出される一歩行周期分の歩行周期について説明するための概念図である。
【
図9】被験者の歩容を計測する際に靴の周辺に取り付けられる目印の位置について説明するための概念図である。
【
図10】被験者の歩容を計測するためのカメラの配置について説明するための概念図である。
【
図11】モーションキャプチャによって計測された爪先と踵のZ方向高さの時系列データの一例のグラフである。
【
図12】モーションキャプチャによって計測された反対足の爪先と踵のZ方向高さの時系列データの一例のグラフである。
【
図13】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、進行方向の加速度(Y方向加速度)の歩行波形から爪先離地のタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図14】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、進行方向の加速度(Y方向加速度)の歩行波形および重力方向の加速度(Z方向高さ)の歩行波形から踵接地のタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図15】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、ロール角速度の歩行波形から反対足踵接地のタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図16】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、ロール角速度の歩行波形から反対足爪先離地のタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図17】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、重力方向の加速度(Z方向高さ)の歩行波形から脛骨垂直のタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図18】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、進行方向の加速度(Y方向加速度)の歩行波形から足交差のタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図19】第1の実施形態に係る検出システムの検出装置が、ロール角速度の歩行波形から踵持ち上がりのタイミングを検出する一例について説明するためのグラフである。
【
図20】第1の実施形態に係る検出装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図21】第1の実施形態に係る検出装置の歩行イベント検出処理の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図22】第1の実施形態に係る検出装置による爪先離地の検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図23】第1の実施形態に係る検出装置による踵接地の検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図24】第1の実施形態に係る検出装置による反対足踵接地の検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図25】第1の実施形態に係る検出装置による反対足爪先離地の検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図26】第1の実施形態に係る検出装置による脛骨垂直の検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図27】第1の実施形態に係る検出装置による足交差の検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図28】第1の実施形態に係る検出装置による踵持ち上げの検出の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図29】第2の実施形態に係る検出システムの構成の一例について説明するためのブロック図である。
【
図30】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置の構成の一例について説明するためのブロック図である。
【
図31】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置によって切り出される一歩行周期分の歩行周期における片足支持期間と両足支持期間について説明するための概念図である。
【
図32】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置によって切り出される一歩行周期分の歩行周期における歩行の非対称性について説明するための概念図である。
【
図33】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置が用いる学習済みモデルを機械学習によって生成する一例を示す概念図である。
【
図34】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置が学習済みモデルに特徴量を入力することによって、ユーザの身体情報が出力される一例を示す概念図である。
【
図35】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置による身体状態の推測の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図36】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置による筋力低下状況の推測の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図37】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置による骨密度の推測の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図38】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置による基礎代謝の推測の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図39】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置によって推測された身体状態に関する情報を携帯端末の表示部に表示させる一例を示す概念図である。
【
図40】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置によって推測された身体状態に応じた情報を携帯端末の表示部に表示させる一例を示す概念図である。
【
図41】第2の実施形態に係る検出システムの検出装置によって推測された身体状態に関する情報を医療機関等に送信する一例を示す概念図である。
【
図42】第3の実施形態に係る検出装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図43】各実施形態に係る検出装置を実現するハードウェア構成の一例について説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0017】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る検出システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の検出システムは、歩行者の足部に設置されたセンサによって取得されたセンサデータを用いて、その歩行者の歩行イベントを検出する。特に、本実施形態においては、歩行者の片足の履物に設置されたセンサによって取得されたセンサデータを用いて、その歩行者の両足の歩行イベントを検出する。詳細については後述するが、歩行イベントは、足が地面に着く事象や、足が地面から離れる事象などを含む。本実施形態においては、右足を基準の足とし、左足を反対足とする系について説明する。本実施形態においては、左足を基準の足とし、右足を反対足とする系についても適用できる。
【0018】
(構成)
図1は、本実施形態の検出システム1の構成の一例を示すブロック図である。
図1のように、検出システム1は、データ取得装置11および検出装置12を備える。データ取得装置11と検出装置12は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、データ取得装置11と検出装置12は、単一の装置で構成してもよい。また、検出システム1の構成からデータ取得装置11を除き、検出装置12だけで検出システム1を構成してもよい。
【0019】
データ取得装置11は、足部に設置される。例えば、データ取得装置11は、右足の履物に設置される。データ取得装置11は、靴等の履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度(空間加速度とも呼ぶ)および角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。データ取得装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度に加えて、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、軌跡も含まれる。データ取得装置11は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。データ取得装置11は、変換後のセンサデータを検出装置12に送信する。データ取得装置11によって生成される加速度や角速度などのセンサデータを歩行パラメータとも呼ぶ。また、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度、軌跡なども歩行パラメータに含まれる。
【0020】
データ取得装置11は、例えば、加速度センサと角速度センサを含む慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)が挙げられる。IMUは、3軸の加速度センサと、3軸の角速度センサを含む。また、慣性計測装置の一例として、VG(Vertical Gyro)や、AHRS(Attitude Heading)、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)が挙げられる。
【0021】
図2は、データ取得装置11を靴100の中に設置する一例を示す概念図である。
図2の例では、データ取得装置11は、足弓の裏側に当たる位置に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の中に挿入されるインソールに設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の底面に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の本体に埋設される。データ取得装置11は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。データ取得装置11は、足の動きに関するセンサデータを取得できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、ユーザが履いている靴下や、ユーザが装着しているアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。
図2においては、右足の靴100にデータ取得装置11を設置する例を示す。データ取得装置11は、少なくとも一方の足部に設置されればよく、左右両方の足部に設置されてもよい。両足の靴100にデータ取得装置11を設置すれば、両足の動きに対応付けて歩行イベントを検出できる。
【0022】
図3は、データ取得装置11を足弓の裏側に設置する場合に、データ取得装置11に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、ユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(右向きが正)、ユーザの正面の方向(進行方向)がY軸方向(前向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。また、本実施形態においては、データ取得装置11を基準とするx方向、y方向、およびz方向からなるローカル座標系を設定する。また、本実施形態においては、x軸を回転軸とする回転をピッチ、y軸を回転軸とする回転をロール、z軸を回転軸とする回転をヨー、と定義する。
【0023】
検出装置12は、ローカル座標系のセンサデータをデータ取得装置11から取得する。検出装置12は、取得したローカル座標系のセンサデータを世界座標系に変換して時系列データを生成する。検出装置12は、生成した時系列データから一歩行周期分または二歩行周期分の波形データ(以下、歩行波形とも呼ぶ)を抽出する。検出装置12は、抽出された歩行波形から、後述する歩行イベントを検出する。検出装置12によって検出される歩行イベントは、歩行者の歩容の計測等に用いられる。
【0024】
図4は、検出装置12が検出する歩行イベントについて説明するための概念図である。
図4は、右足の一歩行周期に対応する。
図4の横軸は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする右足の一歩行周期を100%として正規化された時間(正規化時間とも呼ぶ)である。一般に、片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。
【0025】
図4において、(a)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。(b)は、右足の足裏が接地した状態で、反対足(左足)の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。(c)は、右足の足裏が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。(d)は、反対足(左足)の踵が接地する事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。(e)は、反対足(左足)の足裏が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。(f)は、反対足(左足)と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。(g)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。(h)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。(h)は、(a)の踵接地から始まる一歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。
【0026】
本実施形態においては、右足の動きに関する物理量に基づいて、(a)~(h)で示す事象(歩行イベントとも呼ぶ)の各々を検出する。本実施形態においては、上述した歩行イベント(踵接地HS、反対足爪先離地OTO、踵持ち上がりHR、反対足踵接地OHS、爪先離地TO、足交差FA、および脛骨垂直TVを、歩行者の歩行波形から検出する。
【0027】
〔データ取得装置〕
次に、データ取得装置11の詳細について図面を参照しながら説明する。
図5は、データ取得装置11の詳細構成の一例を示すブロック図である。データ取得装置11は、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、およびデータ送信部115を有する。また、データ取得装置11は、図示しない電源を含む。以下においては、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、およびデータ送信部115の各々を動作主体として説明するが、データ取得装置11を動作主体とみなしてもよい。
【0028】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、加速度センサ111に用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0029】
角速度センサ112は、3軸方向の角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、角速度センサ112に用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0030】
制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々から、3軸方向の加速度および角速度の各々を取得する。制御部113は、取得した加速度および角速度をデジタルデータに変換し、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)をデータ送信部115に出力する。センサデータには、アナログデータの加速度をデジタルデータに変換した加速度データ(3軸方向の加速度ベクトルを含む)と、アナログデータの角速度をデジタルデータに変換した角速度データ(3軸方向の角速度ベクトルを含む)とが少なくとも含まれる。なお、加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えたセンサデータを出力するように構成してもよい。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データを用いて、3軸方向の角度データを生成してもよい。
【0031】
例えば、制御部113は、データ取得装置11の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータまたはマイクロコントローラである。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して角速度や加速度を計測する。例えば、制御部113は、計測された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)し、変換後のデジタルデータをフラッシュメモリに記憶させる。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。フラッシュメモリに記憶されたデジタルデータは、所定のタイミングでデータ送信部115に出力される。
【0032】
データ送信部115は、制御部113からセンサデータを取得する。データ送信部115は、取得したセンサデータを検出装置12に送信する。データ送信部115は、ケーブルなどの有線を介してセンサデータを検出装置12に送信してもよいし、無線通信を介してセンサデータを検出装置12に送信してもよい。例えば、データ送信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、センサデータを検出装置12に送信するように構成される。なお、データ送信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0033】
〔検出装置〕
次に、検出システム1が備える検出装置12の詳細について図面を参照しながら説明する。
図6は、検出装置12の構成の一例を示すブロック図である。検出装置12は、抽出部121および検出部123を有する。
【0034】
抽出部121は、歩行者の履いている履物に設置されたデータ取得装置11(センサ)からセンサデータを取得する。抽出部121は、センサデータを用いて、データ取得装置11が設置された履物を履いた歩行者の歩行に伴う時系列データを生成する。抽出部121は、生成した時系列データから、一歩行周期分または二歩行周期分の歩行波形データを抽出する。
【0035】
例えば、抽出部121は、データ取得装置11からセンサデータを取得する。抽出部121は、取得されたセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。ユーザが直立した状態では、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致する。ユーザが歩行している間、データ取得装置11の空間的な姿勢が変化するため、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致しない。そのため、抽出部121は、データ取得装置11によって取得されたセンサデータを、データ取得装置11のローカル座標系(x軸、y軸、z軸)から世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)に変換する。
【0036】
例えば、抽出部121は、空間加速度や空間角速度などの時系列データを生成する。また、抽出部121は、空間加速度や空間角速度を積分し、空間速度や空間角度(足底角)、空間軌跡などの時系列データを生成する。抽出部121は、一般的な歩行周期や、ユーザに固有の歩行周期に合わせて設定された所定のタイミングや時間間隔で時系列データを生成する。抽出部121が時系列データを生成するタイミングは、任意に設定できる。例えば、抽出部121は、ユーザの歩行が継続されている期間、時系列データを生成し続けるように構成される。また、抽出部121は、特定の時刻において、時系列データを生成するように構成されてもよい。
【0037】
検出部123は、抽出部121によって生成された歩行波形データから、データ取得装置11が設置された履物を履いて歩行する歩行者の歩行イベントを検出する。例えば、検出部123は、足の動きに関する物理量の歩行波形から、歩行イベントごとの特徴を抽出する。例えば、検出部123は、抽出された歩行イベントごとの特徴のタイミングを、それぞれの歩行イベントのタイミングとして検出する。例えば、検出部123は、検出した歩行イベントを、図示しないシステムや装置に出力する。
【0038】
〔歩行イベント〕
次に、検出装置12による歩行イベントの検出例について図面を参照しながら説明する。本実施形態においては、立脚相の中央のタイミング(立脚終期の開始)を、一歩行周期の起点に設定する。本実施形態においては、踵接地、反対足爪先離地、踵持ち上がり、反対足踵接地、爪先離地、足交差、および脛骨垂直を歩行イベントとして検出する例について説明する。以下においては、一歩行周期の歩行波形における時系列の順番ではなく、歩行イベントの検出の順番に沿って説明する。
【0039】
以下においては、データ取得装置11が設置された履物を履いた被験者の歩容を検証した例について説明する。本検証では、一方の足(右足)にデータ取得装置11を設置した。本検証は、年齢が20~50代、身長が150~180センチメートル、体重が45~100キログラムの男女32名の被験者を母集団とする。本検証においては、32名の被験者を母集団とし、データ取得装置11が設置された履物を履いた歩行者の歩容を、モーションキャプチャと検出装置12によって計測した。本検証においては、モーションキャプチャによって計測された歩容(Y方向位置、Z方向高さ、ロール角)と、データ取得装置11によって計測された物理量に基づくセンサデータを用いて検出装置12が計測した歩容とを比較した。
【0040】
図7は、足底角の歩行波形について説明するためのグラフである。
図7においては、爪先が踵よりも上に位置する状態(背屈)を負と定義し、爪先が踵よりも下に位置する状態(底屈)を正と定義する。足底角の歩行波形が極小となる時刻t
dは、立脚相開始のタイミングに相当する。足底角の歩行波形が極大となる時刻t
bは、遊脚相開始のタイミングに相当する。立脚相開始の時刻t
dと遊脚相開始の時刻t
bとの中点の時刻が、立脚相の中央のタイミングに相当する。本実施形態においては、立脚相の中央のタイミングの時刻を、一歩行周期の起点の時刻t
mに設定する。また、本実施形態においては、時刻t
mのタイミングの次の立脚相の中央のタイミングの時刻を、一歩行周期の終点の時刻t
m+1に設定する。
【0041】
図8は、時刻t
mを起点とし、時刻t
m+1を終点とする一歩行周期について説明するためのグラフである。検出部123は、一歩行周期分の足底角の歩行波形から、極小(第1背屈ピーク)となる時刻t
dと、第1背屈ピークの次に極大(第1底屈ピーク)となる時刻t
bとを検出する。さらに、検出部123は、その次の一歩行周期分の足底角の歩行波形から、第1底屈ピークの次に極小(第2背屈ピーク)となる時刻t
d+1と、第2背屈ピークの次に極大(第2底屈ピーク)となる時刻t
b+1とを検出する。検出部123は、時刻t
dと時刻t
bの中点の時刻を、一歩行周期の起点の時刻t
mに設定する。また、検出部123は、時刻t
d+1と時刻t
b+1の中点の時刻を、一歩行周期の終点の時刻t
m+1に設定する。
【0042】
検出部123は、データ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データに関して、時刻tmから時刻tm+1までの一歩行周期分の歩行波形を切り出す。例えば、検出部123は、第1背屈ピークの時刻tdと第1底屈ピークの時刻tbの中点(時刻tm)を起点とし、第2背屈ピークの時刻td+1と第2底屈ピークの時刻tb+1の中点(時刻tm+1)を終点とする一歩行周期分の歩行波形データを切り出す。同様に、検出部123は、データ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量(空間加速度、空間角速度、空間軌跡)に基づくセンサデータの時系列データに関して、時刻tmから時刻tm+1までの一歩行周期分の歩行波形を切り出す。
【0043】
例えば、検出部123は、切り出された一歩行周期分の歩行波形を、時刻t
mから時刻t
bまでの区間と、時刻t
bから時刻t
d+1までの区間と、時刻t
d+1から時刻t
m+1までの区間とに分割する。時刻t
mから時刻t
bまでの区間の波形を第1歩行波形W1、時刻t
bから時刻t
d+1までの区間の波形を第2歩行波形W2、時刻t
d+1から時刻t
m+1までの区間の波形を第3歩行波形W3、と呼ぶ。歩行イベントで表現すると、踵持ち上がりHRから爪先離地TOまでの区間の波形が第1歩行波形W1、爪先離地TOから踵接地HSまでの区間の波形が第2歩行波形W2、踵接地HSから踵持ち上がりHRまでの区間の波形が第3歩行波形W3である。
図8において、一歩行周期の30%は爪先離地のタイミングに相当し、一歩行周期の70%は踵接地のタイミングに相当する。なお、各歩行イベントが発現するタイミングは、人物や身体状態に応じて異なるため、爪先離地や踵接地のタイミングは、
図8の歩行周期と完全に一致するわけではない。
【0044】
図9は、モーションキャプチャのための目印131および目印132を取り付けた靴100の概念図である。本検証においては、両足の靴100の各々に、5つの目印131と1つの目印132を取り付けた。靴の開口の周囲の側面には、5つの目印131を配置した。5つの目印131は、踵の動きを検出するための目印である。5つの目印131を剛体とみなす剛体モデルの重心が、踵の位置として検出される。靴100の爪先の位置には、目印132を配置した。目印132は、爪先の位置として検出される。また、右足の足弓の裏側に当たる位置にデータ取得装置11を設置した。
【0045】
図10は、目印131および目印132を取り付けた靴100を履いた歩行者の歩容をモーションキャプチャで検証する際の歩行線と、複数のカメラ150を配置した位置について説明するための概念図である。本検証では、歩行線を挟んだ両側に5台ずつ(計10台)のカメラ150を配置した。複数のカメラ150の各々は、歩行線から3mの位置に3m間隔で配置した。複数のカメラ150の各々の高さは、水平面(XY平面)から2mの高さに固定した。複数のカメラ150の各々の焦点は、歩行線の位置に合わせた。
【0046】
歩行線に沿って歩行する歩行者の靴100に設置された目印131および目印132の動きは、複数のカメラ150によって撮影された動画を用いて解析した。踵の動きは、複数の目印131を一つの剛体とみなし、それらの重心の動きを解析することで検証した。爪先の動きは、目印132の動きを解析することで検証した。本検証においては、踵と爪先の重力方向の高さ(以下、Z方向高さと呼ぶ)、体の中心軸に対する爪先および踵の進行方向の位置(以下、Y方向位置と呼ぶ)、足裏の角度(ロール角)をモーションキャプチャによって計測した。
【0047】
図11は、モーションキャプチャによって計測された右足の爪先と踵のZ方向高さの歩行周期依存性を示すグラフである。
図11においては、爪先のZ方向高さの変化を破線で示し、踵のZ方向高さの変化を実線で示す。爪先のZ方向高さが最小になるタイミングが、爪先離地のタイミングである。踵のZ方向高さが最小となるタイミングが、踵接地のタイミングである。
【0048】
図12は、モーションキャプチャによって計測された左足(反対足)の爪先と踵のZ方向高さの歩行周期依存性を示すグラフである。
図12においては、爪先のZ方向高さの変化を破線で示し、踵のZ方向高さの変化を実線で示す。爪先のZ方向高さが最小になるタイミングが、反対足爪先離地のタイミングである。踵のZ方向高さが最小となるタイミングが、反対足踵接地のタイミングである。
【0049】
以下において、データ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量に基づいて、検出装置12が歩行イベントを検出する一例について説明する。以下においては、一歩行周期の歩行波形における時系列の順番ではなく、歩行イベントの検出の順番に沿って説明する。具体的には、爪先離地、踵接地、反対足踵接地、反対足爪先離地、脛骨垂直、足交差、踵持ち上がりの検出について順番に説明する。
【0050】
<爪先離地>
まず、検出装置12は、一歩行周期分のY方向加速度の歩行波形から爪先離地のタイミングを検出する。
【0051】
図13は、モーションキャプチャによって計測された爪先のZ方向高さと、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が生成したY方向加速度の歩行波形とを対応させたグラフである。モーションキャプチャによって計測された爪先のZ方向高さの波形を実線で示す。検出装置12が生成したY方向加速度の歩行波形を破線で示す。
【0052】
図13のように、Y方向加速度においては、歩行周期が20~40%のあたりに検出される最大ピークに、二つの極大ピーク(ピークP
T1、ピークP
T2)と、一つの極小ピーク(ピークP
TV)が検出された(点線で囲った範囲内)。爪先離地のタイミングは、ピークP
T1が検出されるタイミングT
T1と、ピークP
T2が検出されるタイミングT
T2との間のピークP
TVが検出されるタイミングT
Tに相当する。
【0053】
32名の被験者を母集団とした場合、モーションキャプチャで検出された爪先離地のタイミングと、検出装置12が検出した爪先離地のタイミングの回帰直線の二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Squared Error)は1.22%であった。すなわち、モーションキャプチャで検出された爪先離地のタイミングと、検出装置12が検出した爪先離地のタイミングとの間には、十分な相関関係が確認された。
【0054】
<踵接地>
次に、検出装置12は、一歩行周期分のY方向加速度またはZ方向加速度の歩行波形から踵接地のタイミングを検出する。なお、一歩行周期分の歩行波形から爪先離地と踵接地を検出する順番は入れ替えてもよい。
【0055】
図14は、モーションキャプチャによって計測された踵のZ方向高さ(左軸)と、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が生成したY方向加速度およびZ方向加速度の歩行波形データ(右軸)とを対応させたグラフである。モーションキャプチャで計測された踵のZ方向高さの波形を実線で示す。検出装置12が計測したY方向加速度の歩行波形を破線で示す。検出装置12が計測したZ方向加速度の歩行波形を一点鎖線で示す。
【0056】
モーションキャプチャで計測された踵のZ方向高さ(実線)が最小となるタイミングが、踵接地のタイミングに相当する。しかしながら、Y方向加速度(破線)およびZ方向加速度(一点鎖線)には、踵接地において特徴的なピークは表れない。そのため、本実施形態においては、踵接地のタイミングの近傍に表れる特徴的なピークを用いて、踵接地のタイミングを特定する。
【0057】
図14のように、Y方向加速度(破線)においては、歩行周期が60%を超えたあたりに最小ピーク(ピークP
H1)が検出された。このピークP
H1は、遊脚終期における足の急減速のタイミングに相当する。また、Y方向加速度(破線)においては、歩行周期が70%のあたりに極大となるピークP
H2が検出された。このピークP
H2は、ヒールロッカーのタイミングに相当する。データ取得装置11が足弓の位置に設置されていると、踵関節の回転軸よりも爪先側にデータ取得装置11が位置するため、ヒールロッカー(回転)の動作の際に、進行方向(+Y方向)の加速度分量が生じる。そのため、ヒールロッカーの動作の期間には、踵接地後に、接地した踵の外周に沿った回転によって、重力方向(Z方向)の加速度が進行方向(Y方向)に変換される期間が含まれる。
図14のように、ピークP
H1が検出されるタイミングT
H1から、ピークP
H2が検出されるタイミングT
H2までの期間に、踵接地のタイミングが含まれる。本実施形態においては、ピークP
H1が検出されるタイミングT
H1と、ピークP
H2が検出されるタイミングT
H2との中点のタイミングT
Hを、踵接地のタイミングに設定する。Y方向加速度(破線)においてピークP
H1が検出されるタイミングと、Z方向加速度(一点鎖線)においてピークP
H3が検出されるタイミングとはほぼ一致する。そのため、Y方向加速度(破線)においてピークP
H1が検出されるタイミングT
H1の替わりに、Z方向加速度(一点鎖線)においてピークP
H3が検出されるタイミングを、遊脚終期における足の急減速のタイミングとして用いてもよい。
【0058】
32名の被験者を母集団とした場合、モーションキャプチャで検出された踵接地のタイミングと、検出装置12が検出した踵接地のタイミングの回帰直線のRMSは1.40%であった。すなわち、モーションキャプチャで検出された爪先離地のタイミングと、検出装置12が検出した爪先離地のタイミングとの間には、十分な相関関係が確認された。
【0059】
<反対足踵接地>
次に、検出装置12は、一歩行周期分のロール角速度の歩行波形から反対足踵接地のタイミングを検出する。検出装置12は、Triangle thresholdingアルゴリズムを用いて、反対足踵接地を検出する。例えば、検出装置12は、一歩行周期の起点から爪先離地までの第1歩行波形W1から、反対足踵接地を検出する。
【0060】
図15は、モーションキャプチャによって計測された踵のZ方向高さ(左軸)と、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が計測したロール角速度の歩行波形(右軸)とを対応させたグラフである。モーションキャプチャで計測された踵のZ方向高さの波形を実線で示す。モーションキャプチャで計測された爪先のZ方向高さの波形を破線で示す。検出装置12が計測したロール角速度の歩行変化を一点鎖線で示す。
【0061】
左足の踵接地(反対足踵接地)は、右足の爪先離地の直前に発生する。左足の踵が接地すると、右足と左足の両足による両足支持状態となる。このとき、左足が右足の蹴り出しの支点を提供するため、右足が蹴り出される速度が上昇し、右足の回転速度が加速される。そのため、反対足踵接地のタイミングは、ロール角速度の第1歩行波形W1における加速変曲点のタイミングに相当する。検出部123は、ロール角速度の歩行波形において、一歩行周期の起点(0%)と爪先離地のピークを結ぶ線分L1から、ロール角速度の歩行波形に向けて引いた垂線の長さが最大となる点を加速変曲点として求める。検出部123は、ロール角速度の第1歩行波形W1における加速変曲点のタイミングを、反対足踵接地のタイミングとして検出する。
【0062】
32名の被験者を母集団とした場合、モーションキャプチャで検出された反対足踵接地のタイミングと、検出装置12が検出した反対足踵接地のタイミングの回帰直線のRMSEは2,41%であった。すなわち、モーションキャプチャで検出された反対足踵接地のタイミングと、検出装置12が検出した反対足踵接地のタイミングとの間には、相関関係が確認された。
【0063】
<反対足爪先離地>
次に、検出装置12は、一歩行周期分のロール角速度の歩行波形から反対足爪先離地のタイミングを検出する。検出装置12は、Triangle thresholdingアルゴリズムを用いて、反対足爪先離地を検出する。例えば、検出装置12は、踵接地から一歩行周期の終点までの第3歩行波形W3から、反対足爪先離地を検出する。なお、一歩行周期分の歩行波形から反対足爪先離地と反対足踵接地を検出する順番は入れ替えてもよい。
【0064】
図16は、モーションキャプチャによって計測された踵のZ方向高さ(左軸)と、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が計測したロール角速度の歩行波形データ(右軸)とを対応させたグラフである。モーションキャプチャで計測された踵のZ方向高さの変化を実線で示す。モーションキャプチャで計測された爪先のZ方向高さの変化を破線で示す。検出装置12が計測したロール角速度の変化を一点鎖線で示す。
【0065】
左足の爪先離地(反対足爪先離地)は、右足の踵接地の直後に発生する。右足が完全に着地しないと、左足は安定に蹴り出されないため、右足の回転が完全に終了した際に、左足の蹴り出しが発生する。そのため、反対足爪先離地のタイミングは、ロール角速度の第3歩行波形W3における減速変曲点のタイミングに相当する。検出部123は、ロール角速度の歩行波形において、踵着地のピークと一歩行周期の終点(100%)とを結ぶ線分L3から、ロール角速度の歩行波形に向けて引いた垂線の長さが最大となる点を減速変曲点として求める。検出部123は、ロール角速度の第3歩行波形W3における減速変曲点のタイミングを、反対足爪先離地のタイミングとして検出する。
【0066】
32名の被験者を母集団とし、モーションキャプチャで検出された反対足爪先離地のタイミングと、検出装置12が検出した反対足爪先離地のタイミングの回帰直線のRMSEは1.98%であった。すなわち、モーションキャプチャで検出された反対足踵接地のタイミングと、検出装置12が検出した反対足踵接地のタイミングとの間には、相関関係が確認された。
【0067】
<脛骨垂直>
次に、検出装置12は、一歩行周期分のZ方向加速度の歩行波形から脛骨垂直のタイミングを検出する。例えば、検出装置12は、爪先離地から踵接地までの第2歩行波形W2から、脛骨垂直を検出する。なお、一歩行周期分の歩行波形から脛骨垂直を検出する順番は、反対足爪先離地と反対足踵接地の前であってもよい。
【0068】
図17は、モーションキャプチャによって計測されたロール角(左軸)の波形と、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が生成したZ方向加速度の歩行波形(右軸)とを対応させたグラフである。モーションキャプチャで計測されたロール角の波形を実線で示す。検出装置12が生成したZ方向加速度の歩行波形を破線で示す。
【0069】
脛骨垂直は、地面に対して脛骨がほぼ垂直になる状態である。脛骨垂直において、踵関節は、ニュートラル状態となり、脛骨に対して足裏面が垂直になる。すなわち、脛骨垂直においては、踵関節の回転に伴うロール角が0度になる。
図17のように、モーションキャプチャによって計測されたロール角が0度のタイミングにおいて、Z方向加速度の歩行波形のピークが最大になる。すなわち、脛骨垂直は、Z方向加速度の歩行波形から切り出される、爪先離地と踵接地の間の第2歩行波形W2における最大値のタイミングに相当する。検出部123は、Z方向加速度の歩行波形から切り出された第2歩行波形W2に発生するピークが最大になるタイミングを、脛骨垂直のタイミングとして検出する。
【0070】
32名の被験者を母集団とし、モーションキャプチャで検出された脛骨垂直のタイミングと、検出装置12が検出した脛骨垂直のタイミングの回帰直線のRMSEは1.85%であった。すなわち、モーションキャプチャで検出された脛骨垂直のタイミングと、検出装置12が検出した脛骨垂直のタイミングとの間には、相関関係が確認された。
【0071】
<足交差>
次に、検出装置12は、一歩行周期分のY方向加速度の歩行波形から足交差のタイミングを検出する。例えば、検出装置12は、爪先離地から脛骨垂直までの歩行波形(第4歩行波形W4とも呼ぶ)から、足交差を検出する。
【0072】
図18は、モーションキャプチャによって計測された左足の踵と爪先、右足の爪先のY方向位置(左軸)の波形と、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が生成したY方向加速度の歩行波形(右軸)とを対応させたグラフである。モーションキャプチャで計測された左足の踵のY方向位置の波形を実線で示す。モーションキャプチャで計測された左足の爪先のY方向位置の波形を破線で示す。モーションキャプチャで計測された右足の爪先のY方向位置の波形を一点鎖線で示す。検出装置12が生成したY方向加速度の歩行波形を二点鎖線で示す。
【0073】
本実施形態では、地面に接地している左足が右足に対して前にある状態において、右足の爪先が左足の踵の位置を通過するタイミングをa、右足の爪先が左足の爪先の位置を通過するタイミングをbと定義する。そして、タイミングaとタイミングbの間の中央のタイミングを足交差のタイミングと定義する。
図18のように、足交差のタイミングは、Y方向加速度の歩行波形から切り出される、脛骨垂直と爪先離地の間の第4歩行波形W4において、脛骨垂直に近い側の緩やかなピークの最大値のタイミングに相当する。検出部123は、Y方向加速度の第4歩行波形W4において、脛骨垂直に近い側の緩やかなピークが最大になるタイミングを、足交差のタイミングとして検出する。
【0074】
32名の被験者を母集団とし、モーションキャプチャで検出された足交差のタイミングと、検出装置12が検出した足交差のタイミング回帰直線のRMSEは2.02%であった。すなわち、モーションキャプチャで検出された足交差のタイミングと、検出装置12が検出した足交差のタイミングとの間には、相関関係が確認された。
【0075】
<踵持ち上がり>
次に、検出装置12は、連続する二歩行周期分のロール角速度の歩行波形から踵持ち上がりのタイミングを検出する。検出装置12は、Triangle thresholdingアルゴリズムを用いて、踵持ち上がりのタイミングを検出する。例えば、検出装置12は、二歩行周期の歩行波形において、一歩行周期目(第1歩行周期)の反対足爪先離地から二歩行周期(第2歩行周期)の反対足踵接地までの歩行波形(第5歩行波形W5とも呼ぶ)から、踵持ち上がりを検出する。
【0076】
図19は、モーションキャプチャによって計測された踵のZ方向高さ(左軸)と、データ取得装置11によって生成されたセンサデータを用いて検出装置12が生成したロール角速度の歩行波形データ(右軸)とを対応させたグラフである。モーションキャプチャで計測された踵のZ方向高さの波形を実線で示す。検出装置12が計測したロール角速度の歩行波形を破線で示す。
【0077】
踵持ち上がりにおいては、地面に接地していた右足の踵がZ方向に変位し始める。地面に接地していた右足の踵がZ方向に変位し始めると、ロール角速度に変化が生じる。踵持ち上がりは、ロール角速度の歩行波形から切り出される、第1歩行周期の反対足爪先離地と第2歩行周期の反対足踵接地の間の第5歩行波形W5における加速変曲点のタイミングに相当する。検出部123は、第5歩行波形W5において、第1歩行周期の反対足爪先離地のタイミングと第2歩行周期の反対足踵接地のタイミングとを結ぶ線分から、ロール角速度の歩行波形に向けて引いた垂線の長さが最大となる点を加速変曲点として求める。検出部123は、ロール角速度の第5歩行波形W5における加速変曲点のタイミングを、踵持ち上がりのタイミングとして検出する。
【0078】
32名の被験者を母集団とした場合、モーションキャプチャで検出された踵持ち上がりのタイミングと、検出装置12が検出した踵持ち上がりのタイミングの回帰直線のRMSEは、4.49%であった。すなわち、他の歩行イベントと比べてRMSEが大きいものの、モーションキャプチャで検出された反対踵持ち上がりのタイミングと、検出装置12が検出した踵持ち上がりのタイミングとの間には、相関関係が確認された。
【0079】
図13~
図19を用いて説明したように、検出部123は、データ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータから歩行波形を生成し、生成した歩行波形から歩行イベントのタイミングを検出する。歩行イベントのタイミングを特定できれば、それぞれのタイミングにおける足の動きや、足の角度、足にかかる力などを検証することができる。また、歩行イベントが発生した時刻を特定すれば、片足支持と両足支持の期間の比率、立脚相と遊脚相の比率や、歩行の非対称性等について検証できる。例えば、検出部123によって検出された歩行イベントのタイミングは、図示しない別のシステムや表示装置などに出力されてもよい。検出部123によって検出された歩行イベントのタイミングは、歩容を計測する種々の用途や、歩容に基づいて身体状態を推測する種々の用途に応用できる。
【0080】
(動作)
次に、本実施形態の検出システム1の検出装置12の動作について図面を参照しながら説明する。以下においては、検出装置12の抽出部121と検出部123を動作の主体とする。なお、以下に示す動作の主体は、検出装置12であってもよい。
【0081】
まず、抽出部121の動作について図面を参照しながら説明する。
図20は、抽出部121と検出部123の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【0082】
図20において、まず、抽出部121は、データ取得装置11が設置された履物を履いて歩行する歩行者の足の動きの物理量に関するセンサデータをデータ取得装置11から取得する(ステップS11)。抽出部121は、データ取得装置11のローカル座標系のセンサデータを取得する。例えば、抽出部121は、足の動きに関するセンサデータとして、3次元の空間加速度や3次元の空間角速度をデータ取得装置11から取得する。
【0083】
次に、抽出部121は、センサデータの座標系を、データ取得装置11のローカル座標系から世界座標系に変換する(ステップS12)。
【0084】
次に、抽出部121は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データを生成する(ステップS13)。
【0085】
次に、抽出部121は、空間加速度および空間角速度のうち少なくともいずれかを用いて空間角度(足底角)を計算し、足底角の時系列データを生成する(ステップS14)。抽出部121は、必要に応じて、空間速度や空間軌跡の時系列データを生成する。
【0086】
次に、抽出部121は、二歩行周期分の足底角の歩行波形において、極小となる時刻(時刻td、時刻td+1)と極大になる時刻(時刻tb、時刻tb+1)を検出する(ステップS15)。
【0087】
次に、抽出部121は、時刻tdと時刻tbの中点の時刻tmと、時刻td+1と時刻tb+1の中点の時刻tm+1を計算する(ステップS16)。
【0088】
次に、抽出部121は、時刻tmから時刻tm+1までの波形を、一歩行周期分の歩行波形として切り出す(ステップS17)。
【0089】
そして、検出部123は、抽出部によって切り出された一歩行周期分の歩行波形から歩行イベントを検出する歩行イベント検出処理を実行する(ステップS18)。
【0090】
〔歩行イベント検出処理〕
次に、検出部123の歩行イベント検出処理(
図20のステップS18)の概要について図面を参照しながら説明する。
図21は、検出部123の歩行イベント検出処理の一例について説明するためのフローチャートである。
図21のフローチャートは概略的なものであり、個々の歩行イベントの検出については順次説明する。
【0091】
図21において、まず、検出部123は、一歩行周期分の歩行波形から爪先離地および踵接地を検出する(ステップS101)。例えば、検出部123は、一歩行周期分のY方向加速度の歩行波形から、爪先離地および踵接地を検出する。
【0092】
次に、検出部123は、爪先離地と踵接地のタイミングで、一歩行周期の歩行波形を3分割する(ステップS102)。例えば、検出部123は、歩行イベントの検出に用いられる歩行波形を、一歩行周期の始点から爪先離地までを第1歩行波形W1、爪先離地から踵接地までの第2歩行波形W2、踵接地から一歩行周期の終点までの第3歩行波形W3に分割する。
【0093】
次に、検出部123は、第1歩行波形W1から反対足踵接地を検出し、第3歩行波形W3から反対足爪先離地を検出する(ステップS103)。例えば、検出部123は、ロール角速度の歩行波形において、第1歩行波形W1から反対足踵接地を検出し、第3歩行波形W3から反対足爪先離地を検出する。
【0094】
次に、検出部123は、第2歩行波形W2から脛骨垂直を検出する(ステップS104)。例えば、検出部123は、Z方向加速度の第2歩行波形W2から脛骨垂直を検出する。
【0095】
次に、検出部123は、爪先離地と脛骨垂直の間の第4歩行波形W4から足交差を検出する(ステップS105)。例えば、検出部123は、Y方向加速度の第4歩行波形W4から足交差を検出する。
【0096】
次に、検出部123は、二歩行周期分の歩行波形から踵持ち上がりを検出する(ステップS106)。例えば、検出部123は、二歩行周期分の歩行波形において、第1歩行周期の反対足爪先離地から第2歩行周期の反対足踵接地までの第5歩行波形W5から、踵持ち上がりを検出する。
【0097】
<爪先離地>
次に、爪先離地を検出するアルゴリズムについて図面を参照しながら説明する。
図22は、爪先離地を検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。爪先離地は、遊脚相の開始のタイミングに相当する。
【0098】
図22において、まず、検出部123は、Y方向加速度の歩行波形から、歩行周期が20~40%の範囲を切り出す(ステップS111)。
【0099】
次に、検出部123は、切り出した波形から、極大となるタイミングTT1およびタイミングTT2を検出する(ステップS112)。
【0100】
そして、検出部123は、タイミングTT1とタイミングTT2の中点のタイミングを爪先離地のタイミングTTとして検出する(ステップS113)。
【0101】
<踵接地>
次に、踵接地を検出するアルゴリズムの一例について図面を参照しながら説明する。
図23は、踵接地を検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。踵接地は、立脚相の開始のタイミングに相当する。
【0102】
図23において、まず、検出部123は、Y方向加速度の歩行波形から、Y方向加速度が最小になるタイミングT
H1を検出する(ステップS121)。
【0103】
次に、検出部123は、Y方向加速度の歩行波形から、タイミングTH1以降において、Y方向加速度の値が1Gよりも小さくなる範囲を切り出す(ステップS122)。
【0104】
次に、検出部123は、切り出した波形から、Y方向加速度が最小になるタイミングTH1と、Y方向加速度が最大になるタイミングTH2とを検出する(ステップS123)。
【0105】
そして、検出部123は、タイミングTH1とタイミングTH2の中点のタイミングを踵接地のタイミングTHとして検出する(ステップS124)。
【0106】
<反対足踵接地>
次に、反対足踵接地を検出するアルゴリズムの一例について図面を参照しながら説明する。
図24は、反対足踵接地を検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。反対足踵接地は、立脚相の遊脚前期の開始のタイミングに相当する。
【0107】
図24において、まず、検出部123は、一歩行周期分のロール角速度の歩行波形の始点から爪先離地までの区間を第1歩行波形W1として切り出す(ステップS131)。
【0108】
次に、検出部123は、切り出された第1歩行波形W1から、ロール角速度が最大になる点を検出する(ステップS132)。
【0109】
次に、検出部123は、第1歩行波形W1の始点と、ロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分L1を引く(ステップS133)。
【0110】
次に、検出部123は、線分L1から第1歩行波形W1に下ろした垂線の長さが最大になる点(加速変曲点)を検出する(ステップS134)。
【0111】
そして、検出部123は、加速変曲点のタイミングを反対足踵接地のタイミングとして検出する(ステップS135)。
【0112】
<反対足爪先離地>
次に、反対足爪先離地を検出するアルゴリズムの一例について図面を参照しながら説明する。
図25は、反対足爪先離地を検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。反対足爪先離地は、立脚相の立脚中期の開始のタイミングに相当する。
【0113】
図25において、まず、検出部123は、一歩行周期分のロール角速度の歩行波形の踵接地から終点までの区間を第3歩行波形W3として切り出す(ステップS141)。
【0114】
次に、検出部123は、切り出された第3歩行波形W3から、ロール角速度が最大になる点を検出する(ステップS142)。
【0115】
次に、検出部123は、第3歩行波形W3の終点と、ロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分L3を引く(ステップS143)。
【0116】
次に、検出部123は、線分L3から第3歩行波形W3に下ろした垂線の長さが最大になる点(減速変曲点)を検出する(ステップS144)。
【0117】
そして、検出部123は、減速変曲点のタイミングを反対足爪先離地のタイミングとして検出する(ステップS145)。
【0118】
<脛骨垂直>
次に、脛骨垂直を検出するアルゴリズムの一例について図面を参照しながら説明する。
図26は、脛骨垂直を検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。脛骨垂直は、遊脚相の遊脚終期の開始のタイミングに相当する。
【0119】
図26において、まず、検出部123は、一歩行周期分のZ方向加速度の歩行波形の爪先離地から踵接地までの区間を第2歩行波形W2として切り出す(ステップS151)。
【0120】
次に、検出部123は、切り出された第2歩行波形W2から、Z方向加速度が最大になる点を検出する(ステップS152)。
【0121】
そして、検出部123は、Z方向加速度が最大になるタイミングを脛骨垂直のタイミングとして検出する(ステップS153)。
【0122】
<足交差>
次に、足交差を検出するアルゴリズムの一例について図面を参照しながら説明する。
図27は、足交差を検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。足交差は、遊脚相の遊脚中期の中央のタイミングに相当する。
【0123】
図27において、まず、検出部123は、一歩行周期分のY方向加速度の歩行波形の爪先離地から脛骨垂直までの区間を第4歩行波形W4として切り出す(ステップS161)。
【0124】
次に、検出部123は、第4歩行波形W4に含まれるなだらかなピーク(脛骨垂直に近い側のピーク)から、Y方向加速度が最大になる点を検出する(ステップS162)。
【0125】
そして、検出部123は、Y方向加速度が最大になるタイミングを、足交差のタイミングとして検出する(ステップS163)。
【0126】
<踵持ち上がり>
次に、踵持ち上がりを検出するアルゴリズムの一例について図面を参照しながら説明する。
図28は、踵持ち上がりを検出するアルゴリズムの一例について説明するためのフローチャートである。踵持ち上がりのタイミングは、立脚相の立脚終期の開始のタイミングに相当する。すなわち、踵持ち上がりのタイミングは、一歩行周期の始点と終点に相当する。
【0127】
図28において、まず、検出部123は、ニ歩行周期分のロール角速度の歩行波形において、第1歩行周期の反対足爪先離地から第2歩行周期の反対足踵接地までの区間を第5歩行波形W5として切り出す(ステップS171)。
【0128】
次に、検出部123は、切り出された第5歩行波形W5において、第1歩行周期の反対足爪先離地の点と第2歩行周期の反対足踵接地の点を結ぶ線分L5を引く(ステップS172)。
【0129】
次に、検出部123は、線分L5から第5歩行波形W5に下ろした垂線の長さが最大になる点(加速変曲点)を検出する(ステップS173)。
【0130】
そして、検出部123は、減速変曲点のタイミングを、踵持ち上がりのタイミングとして検出する(ステップS174)。
【0131】
以上のように、本実施形態の検出システムは、データ取得装置と検出装置を備える。データ取得装置は、空間加速度および空間角速度を計測し、計測した空間加速度および空間角速度に基づいてセンサデータを生成し、生成したセンサデータを検出装置に送信する。検出装置は、抽出部と検出部を有する。抽出部は、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成し、生成された時系列データから歩行波形を抽出する。検出部は、抽出部によって抽出された歩行波形から、歩行者の両足の歩行イベントを検出する。
【0132】
本実施形態においては、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて生成された時系列データから歩行波形を抽出する。そして、本実施形態においては、抽出された歩行波形から、両足の歩行イベントを検出する。そのため、本実施形態によれば、片足に装着されたセンサによって計測される足の動きに関する物理量に基づいて、両足の詳細な歩行イベントを検出できる。
【0133】
本実施形態の一態様において、抽出部は、歩行者の進行方向加速度の時系列データを生成する。抽出部は、生成された進行方向加速度の時系列データから、一歩行周期分の進行方向加速度の歩行波形を抽出する。検出部は、抽出された一歩行周期分の進行方向加速度の歩行波形において、最大ピークに含まれる二つの山の間に谷が検出されるタイミングを爪先離地のタイミングとして検出する。検出部は、最小ピークが検出されるタイミングと、最小ピークの次に現れる極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングを踵接地のタイミングとして検出する。
【0134】
例えば、抽出部は、歩行者のロール角速度の時系列データを生成する。抽出部は、生成されたロール角速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期分のロール角速度の歩行波形を抽出する。検出部は、抽出された一歩行周期分のロール角速度の歩行波形を、爪先離地のタイミングと踵接地のタイミングで、第1歩行波形、第2歩行波形、および第3歩行波形に分割する。検出部は、ロール角速度の第1歩行波形から反対足踵接地のタイミングを検出し、ロール角速度の第3歩行波形から反対足爪先離地のタイミングを検出する。
【0135】
例えば、検出部は、ロール角速度の第1歩行波形からロール角速度が最大になる点を検出する。検出部は、ロール角速度の第1歩行波形の始点と、ロール角速度の第1歩行波形においてロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分から、ロール角速度の第1歩行波形に垂線を下ろす。検出部は、垂線の長さが最大になる加速変曲点のタイミングを反対足踵接地のタイミングとして検出する。
【0136】
例えば、検出部は、ロール角速度の第3歩行波形からロール角速度が最大になる点を検出する。検出部は、ロール角速度の第3歩行波形の始点と、ロール角速度の第3歩行波形においてロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分から、ロール角速度の第3歩行波形に垂線を下ろす。検出部は、垂線の長さが最大になる減速変曲点のタイミングを反対足爪先離地のタイミングとして検出する。
【0137】
例えば、抽出部は、歩行者の重力方向加速度の時系列データを生成する。抽出部は、生成された重力方向加速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期分の重力方向加速度の歩行波形を抽出する。検出部は、抽出された一歩行周期分の重力方向加速度の歩行波形を、爪先離地のタイミングと踵接地のタイミングで、第1歩行波形、第2歩行波形、および第3歩行波形に分割する。検出部は、重力方向加速度の第2歩行波形が最大になるタイミングを脛骨垂直のタイミングとして検出する。
【0138】
例えば、検出部は、一歩行周期分の進行方向加速度の歩行波形から、爪先離地のタイミングと脛骨垂直のタイミングの間の第4歩行波形を切り出す。検出部は、進行方向加速度の第4歩行波形に含まれる、脛骨垂直のタイミングに近い側のピークが最大になるタイミングを足交差のタイミングとして検出する。
【0139】
例えば、抽出部は、ロール角速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする二歩行周期分のロール角速度の歩行波形を抽出する。検出部は、抽出された二歩行周期分のロール角速度の歩行波形において、第1歩行周期の反対足爪先離地の点と、第1歩行周期に後続する第2歩行周期の反対足爪先離地の点とを結ぶ線分から、ロール角速度の歩行波形に垂線を下ろす。検出部は、垂線の長さが最大になる加速変曲点のタイミングを踵持ち上がりのタイミングとして検出する。
【0140】
本態様においては、歩行者の歩行波形から、複数の歩行イベントを順番に検出する。そのため、本実施形態によれば、片足に装着されたセンサによって計測される足の動きに関する物理量に基づいて、両足の歩行イベントをより詳細に検出できる。
【0141】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る検出システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の検出システムは、歩行波形から検出された複数の歩行イベントの各々が発生した時刻を特定し、特定された時刻に基づいて歩容に関する時間因子を算出する。本実施形態の検出システムは、算出された歩容に関する時間因子を用いて、歩行者の身体状態を推定する。
【0142】
図29は、本実施形態の検出システム2の構成の一例を示すブロック図である。
図29のように、検出システム2は、データ取得装置21および検出装置22を備える。データ取得装置21と検出装置22は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、データ取得装置21と検出装置22は、単一の装置で構成してもよい。また、検出システム2の構成からデータ取得装置21を除き、検出装置22だけで検出システム2を構成してもよい。データ取得装置21は、第1の実施形態のデータ取得装置11と同様の構成である。以下においては、第1の実施形態とは異なる検出装置22について、第1の実施形態との相違点に着目して説明する。
【0143】
〔検出装置〕
図30は、検出装置22の構成の一例を示すブロック図である。検出装置22は、抽出部221、検出部223、計算部225、および推測部227を有する。
【0144】
抽出部221は、履物に設置されたデータ取得装置21(センサ)からセンサデータを取得する。抽出部221は、センサデータを用いて、データ取得装置21が設置された履物を履いた歩行者の歩行に伴う時系列データを生成する。抽出部221は、生成した時系列データから、一歩行周期分または二歩行周期分の歩行波形データを抽出する。抽出部221は、第1の実施形態の抽出部121と同様の構成である。
【0145】
検出部223は、抽出部221によって生成された歩行波形データから、データ取得装置21が設置された履物を履いて歩行する歩行者の歩行イベントを検出する。例えば、検出部223は、足の動きに関する歩行波形データから、歩行イベントごとの特徴を抽出する。例えば、検出部223は、抽出された歩行イベントごとの特徴のタイミングを、それぞれの歩行イベントのタイミングとして検出する。検出部223は、第1の実施形態の検出部123と同様の構成である。
【0146】
計算部225は、検出部223によって検出された歩行イベントの時刻を特定する。計算部225は、特定された歩行イベントの時刻に基づいて、歩容に関する時間因子を算出する。例えば、計算部225は、特定された歩行イベントの時刻に基づいて、両足が地面に接地している期間(両足支持期間)と、片足が地面に接地している期間(片足支持期間)に関する時間因子を算出する。例えば、計算部225は、特定された歩行イベントの時刻に基づいて、右足が地面に接している期間(右足立脚期間)と、左足が地面に接地している期間(左足立脚期間)に関する時間因子を算出する。例えば、計算部225は、特定された歩行イベントの時刻に基づいて、右足のステップ時間と、左足のステップ時間に関する時間因子を算出する。
【0147】
推測部227は、計算部225が算出した時間因子に基づいて、歩行者の身体状態を推測する。例えば、推測部227は、両足支持期間と片足支持期間の比率に関する時間因子に基づいて、歩行者の筋力低下状況を推測する。例えば、推測部227は、右足立脚期間と左足立脚期間の非対称に関する時間因子に基づいて、歩行者の骨密度を推測する。例えば、推測部227は、右足のストライド時間と左足のストライド時間の非対称に関する時間因子に基づいて、歩行者の基礎代謝を推測する。推測部227は、推測した歩行者の身体状態を、図示しないシステムや装置に出力する。
【0148】
図31は、立脚相の立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期における、両足支持期間と片足支持期間について説明するための概念図である。立脚相の立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚相の遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7は、片足支持期間である。立脚相の立脚初期T1、遊脚前期T4は、両足支持期間である。本実施形態では、歩行イベントの発生時刻に基づいて、立脚相および遊脚相を細分化できるため、片足支持期間と両足支持期間を特定できる。
【0149】
例えば、両足支持期間と片足支持期間の比率は、筋力と関連がある。人間は、加齢に伴って筋力が低下すると、歩行における両足支持期間が長くなる傾向がある。例えば、検出装置22は、両足支持期間と片足支持期間の比率に関する時間因子を算出し、算出された時間因子に基づいて、歩行者の筋力低下状況を推測する。例えば、検出装置22は、片足支持期間に対する両足支持期間の比率を時間因子として算出し、算出された時間因子の値が大きい場合、歩行者の筋力が低下傾向にあると推測する。
【0150】
図32は、立脚相の立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期における、右足接地期間と左足接地期間について説明するための概念図である。立脚相の立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4は、右足立脚期間である。遊脚相の遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7は、左足立脚期間である。本実施形態では、歩行イベントの発生時刻に基づいて、立脚相および遊脚相を細分化できるため、右足立脚期間と左足立脚期間を特定できる。
【0151】
右足立脚期間と左足立脚期間の非対称性は、骨密度と関連がある。人間は、骨密度が低下すると、右足立脚期間と左足立脚期間の非対称性が大きくなる傾向がある。例えば、検出装置22は、右足立脚期間と左足立脚期間の比率に関する時間因子を算出し、算出された時間因子の値に基づいて、歩行者の骨密度を推測する。例えば、検出装置22は、両足の立脚期間に対する、右足立脚期間と左足立脚期間の差の比率を時間因子として算出し、算出された時間因子の値が大きい場合、歩行者の骨密度が低下していると推測する。
【0152】
右足のストライド時間と左足のストライド時間の非対称性は、基礎代謝と関連がある。人間は、加齢やメタボリックシンドロームなどの影響で基礎代謝が低下すると、右足のストライド時間と左足のストライド時間の非対称性が大きくなる傾向がある。例えば、検出装置22は、右足のストライド時間と左足のストライド時間の比率に関する時間因子を算出し、算出された時間因子の値に基づいて、歩行者の基礎代謝を推測する。例えば、検出装置22は、右足のストライド時間に対する、左足のストライド時間の比率を時間因子として算出し、算出された時間因子の値が小さい場合、歩行者の基礎代謝が低下していると推測する。
【0153】
推測部227は、歩行波形から抽出された特徴量を学習させた学習済みモデルを用いて、歩行者の身体状態を推定してもよい。例えば、推測部227は、学習対象の歩行波形から抽出された特徴量を学習させた学習済みモデルに、推測対象の歩行波形から抽出される特徴量を入力し、歩行者の身体状態を推測する。例えば、学習済みモデルは、学習対象の歩行波形から抽出された特徴量(予測子とも呼ぶ)を組み合わせた予測子ベクトルを学習させたモデルである。例えば、学習済みモデルは、3軸方向の加速度や、3軸方向の角速度、3軸方向の軌跡、3軸方向の足底角のうち少なくともいずれかの歩行波形から抽出された特徴量(予測子)を組み合わせた予測子ベクトルを学習させたモデルである。
【0154】
図33は、学習装置25が、予測子ベクトル(時間因子)と身体状態を学習する一例を示す概念図である。例えば、身体状態は、歩行者の筋力低下や骨密度、基礎代謝に関する指標である。
図34は、学習装置25に学習させた学習済みモデル250に、歩行波形から抽出された特徴量1~nを入力し、身体状態が出力される一例を示す概念図である(nは自然数)。
【0155】
学習装置25は、足の動きに関する物理量に基づく歩行波形から抽出された特徴量(予測子)を組み合わせた予測子ベクトルと、身体状態とを訓練データとした学習を行う。学習装置25は、学習によって、実測された歩行波形から抽出された特徴量を入力した際に、身体状態を出力する学習済みモデル250を生成する。例えば、学習装置25は、爪先離地や踵接地、反対足踵接地、反対足爪先離地、脛骨垂直、足交差、踵持ち上げの発生時刻等の特徴量を説明変数とし、身体状態を応答変数とする教師あり学習によって、学習済みモデル250を生成する。例えば、学習装置25は、爪先離地や踵接地、反対足踵接地、反対足爪先離地、脛骨垂直、足交差、踵持ち上げ等の歩行イベントの発生時刻を学習済みモデル250に入力した際の学習済みモデル250からの出力を、身体状態の推測結果として出力する。
【0156】
(動作)
次に、本実施形態の検出システム2の動作について図面を参照しながら説明する。以下においては、検出システム2の検出装置22が、歩行波形から検出された歩行イベントの時間因子に基づいて歩行者の身体状態を推測する処理について説明する。以下においては、検出装置22を動作の主体として説明する。
図35は、検出装置22が、歩行者の身体状態を推測する処理について説明するためのフローチャートである。
【0157】
図35において、まず、検出装置22は、身体状態の推測対象の歩行波形を取得する(ステップS201)。
【0158】
次に、検出装置22は、取得した歩行波形から検出された各歩行イベントの発生時刻を特定する(ステップS202)。
【0159】
次に、検出装置22は、特定された各歩行イベントの発生時刻を用いて、歩容に関する時間因子を算出する(ステップS203)。
【0160】
次に、検出装置22は、算出された時間因子に基づいて、身体状態を推測する(ステップS204)。
【0161】
そして、検出装置22は、推測された身体状態を出力する(ステップS205)。
【0162】
<筋力低下状況>
次に、検出装置22が、歩行波形から歩行者の身体状態を推測する処理の一例として、筋力低下状況を推測する例について説明する。
図36は、検出装置22が、歩行者の筋力低下状況を推測する処理について説明するためのフローチャートである。以下においては、検出装置22を動作の主体として説明する。
【0163】
図36において、まず、検出装置22は、筋力低下状況の推測対象の歩行波形を取得する(ステップS211)。
【0164】
次に、検出装置22は、取得した歩行波形から検出された反対足踵接地、爪先離地、踵接地、および反対足爪先離地の発生時刻を特定する(ステップS212)。
【0165】
次に、検出装置22は、反対足踵接地から爪先離地までの時間T1a、踵接地から反対足爪先離地までの時間T2a、一歩行周期の時間Taを算出する(ステップS213)。
【0166】
次に、検出装置22は、以下の式1を用いて、筋力低下状況に関する時間因子R1(第1時間因子とも呼ぶ)を算出する(ステップS214)。
R1=(T1a+T2a)/(Ta-T1a-T2a)・・・(1)
上記の式1は、一歩行周期における片足支持期間に対する両足支持期間の比率である。
【0167】
次に、検出装置22は、算出された時間因子R1に基づいて、筋力低下状況を推測する(ステップS215)。例えば、検出装置22は、時間因子R1の値と筋力低下状況の指標値とを対応付けたテーブルを用いて、算出された時間因子R1に対応する筋力低下状況を推測する。
【0168】
そして、検出装置22は、推測された筋力低下状況を出力する(ステップS216)。
【0169】
<骨密度>
次に、検出装置22が、歩行波形から歩行者の身体状態を推測する処理の一例として、骨密度を推測する例について説明する。
図37は、検出装置22が、歩行者の骨密度を推測する処理について説明するためのフローチャートである。以下においては、検出装置22を動作の主体として説明する。
【0170】
図37において、まず、検出装置22は、骨密度の推測対象の歩行波形を取得する(ステップS221)。
【0171】
次に、検出装置22は、取得した歩行波形から検出された反対足踵接地、爪先離地、踵接地、および反対足爪先離地の発生時刻を特定する(ステップS222)。
【0172】
次に、検出装置22は、反対足踵接地から反対足爪先離地までの時間T1b、一歩行周期の始点から爪先離地までの時間T2b、踵接地から一歩行周期の終点までの時間T3bを算出する(ステップS223)。
【0173】
次に、検出装置22は、以下の式2を用いて、骨密度に関する時間因子R2(第2時間因子とも呼ぶ)を算出する(ステップS224)。
R2=(T1b-T2b-T3b)/(T1b+T2b-T3b)・・・(2)
上記の式2は、両足の立脚期間に対する、右足立脚期間と左足立脚期間の差の比率である。
【0174】
次に、検出装置22は、算出された時間因子R2に基づいて、骨密度を推測する(ステップS225)。例えば、検出装置22は、時間因子R2の値と骨密度の値とを対応付けたテーブルを用いて、算出された時間因子R2に対応する骨密度を推測する。
【0175】
そして、検出装置22は、推測された骨密度を出力する(ステップS226)。
【0176】
<基礎代謝>
次に、検出装置22が、歩行波形から歩行者の身体状態を推測する処理の一例として、基礎代謝を推測する例について説明する。
図38は、検出装置22が、歩行者の基礎代謝を推測する処理について説明するためのフローチャートである。以下においては、検出装置22を動作の主体として説明する。
【0177】
図38において、まず、検出装置22は、基礎代謝の推測対象の歩行波形を取得する(ステップS231)。
【0178】
次に、検出装置22は、取得した歩行波形から検出された第1歩行周期および第2歩行周期の反対足踵接地および踵接地の発生時刻を特定する(ステップS232)。
【0179】
次に、検出装置22は、第1歩行周期の反対足踵接地から第2歩行周期の反対足爪先離地までの時間T1c、第1歩行周期の踵接地から第2歩行周期の踵接地までの時間T2cを算出する(ステップS233)。
【0180】
次に、検出装置22は、以下の式3を用いて、基礎代謝に関する時間因子R3(第3時間因子とも呼ぶ)を算出する(ステップS234)。
R3=(T1c-T2c)/(T1c+T2c)・・・(3)
上記の式3は、両右足のストライド時間に対する、左足のストライド時間の比率である。
【0181】
次に、検出装置22は、算出された時間因子R3に基づいて、基礎代謝を推測する(ステップS235)。例えば、検出装置22は、時間因子R3の値と基礎代謝の値とを対応付けたテーブルを用いて、算出された時間因子R3に対応する基礎代謝を推測する。
【0182】
そして、検出装置22は、推測された基礎代謝を出力する(ステップS236)。
【0183】
(適用例)
次に、本実施形態の検出システム2の適用例について図面を参照しながら説明する。本適用例では、検出装置22によって出力された身体状態に関する指標を表示させたり、健康管理システム等に送信させたりする例である。以下の例においては、歩行者の靴の中にデータ取得装置が設置され、そのデータ取得装置によって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータが、歩行者の所持する携帯端末に送信されるものとする。携帯端末に送信されたセンサデータは、携帯端末にインストールされたプログラムによってデータ処理されるものとする。
【0184】
図39は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴200を履いた歩行者の携帯端末210の画面に、その歩行者の身体状態に関する指標を表示させる例である。携帯端末210の画面に表示された身体状態に関する指標を閲覧した歩行者は、その身体状態に応じた行動をとることができる。例えば、携帯端末210の画面に表示された身体状態に関する指標を閲覧した歩行者は、その身体状態に応じて、医療機関や勤務先、保険会社等に自身の身体状態について連絡できる。例えば、携帯端末210の画面に表示された身体状態に関する指標を閲覧した歩行者は、その身体状態に応じて、自身に適した食生活や運動を実践できる。
【0185】
図40は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴200を履いた歩行者の携帯端末210の画面に、身体状態に応じた情報を表示させる例である。例えば、筋力低下の進行状態や、骨密度や基礎代謝の低下状況に応じて、歩行者が病院で診察を受けることを勧める情報を携帯端末210の画面に表示させる。例えば、筋力低下の進行状態や、骨密度や基礎代謝の低下状況に応じて、受診可能な病院のサイトへのリンク先や電話番号を携帯端末210の画面に表示させてもよい。
【0186】
図41は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴200を履いた歩行者の携帯端末210から、身体状態に応じた情報を、医療機関等に設置された健康管理システムに送信する例である。例えば、健康管理システムを扱う医療従事者等は、歩行者の筋力低下の進行状態や、骨密度や基礎代謝の低下状況に応じて、その歩行者に対して診察を受けることを勧める情報を、健康管理システムを介して携帯端末210に送信する。例えば、診察を受けることを勧める情報を閲覧した歩行者は、その情報に応じて病院に診察を受けに出向くことができる。
【0187】
以上のように、本実施形態の検出システムは、データ取得装置と検出装置を備える。データ取得装置は、空間加速度および空間角速度を計測し、計測した空間加速度および空間角速度に基づいてセンサデータを生成し、生成したセンサデータを検出装置に送信する。検出装置は、抽出部、検出部、計算部、および推測部を備える。抽出部は、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成し、生成された時系列データから歩行波形を抽出する。検出部は、抽出部によって抽出された歩行波形から、歩行者の両足の歩行イベントを検出する。計算部は、歩行者の歩行波形から検出された歩行イベントの発生時刻を特定し、特定された歩行イベントの発生時刻に基づいて歩容に関する時間因子を算出する。推測部は、算出された時間因子に基づいて歩行者の身体状態を推測する。
【0188】
本実施形態においては、歩行者の歩行波形から検出された歩行イベントの発生時刻に基づいて歩容に関する時間因子を特定し、特定された時間因子を解析する。人間の身体状態は、歩行における非対称性に影響を及ぼすことがある。そのため、本実施形態によれば、歩行者の歩容に関する時間因子を解析することによって、その歩行者の身体情報を推測できる。
【0189】
例えば、計算部は、特定された歩行イベントの発生時刻に基づいて、両足支持期間と片足支持期間の比率に関する時間因子を算出する。推測部は、算出された時間因子に基づいて歩行者の筋力低下状態を推測する。
【0190】
例えば、計算部は、特定された歩行イベントの発生時刻に基づいて、右足立脚期間と左足立脚期間の比率に関する時間因子を算出する。推測部は、算出された時間因子に基づいて歩行者の骨密度を推測する。
【0191】
例えば、計算部は、特定された歩行イベントの発生時刻に基づいて、右足のストライド時間と左足のストライド時間の比率に関する時間因子を算出する。推測部は、算出された時間因子に基づいて歩行者の基礎代謝を推測する。
【0192】
本態様においては、歩行者の歩行の時間因子を解析することによって、歩行の非対称性を解析する。例えば、歩行の非対称性には、筋力低下状況や骨密度、基礎代謝等の身体状態が反映される。そのため、本態様によれば、歩行者の歩行の時間因子を解析することによって、歩行者の筋力低下状況や骨密度、基礎代謝等の身体状態を推測できる。
【0193】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る検出装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の検出装置は、各実施形態の検出装置を簡略化した構成である。
【0194】
図42は、本実施形態の検出装置32の構成の一例を示すブロック図である。検出装置32は、抽出部321と検出部323を備える。抽出部321は、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成する。抽出部321は、生成された時系列データから歩行波形を抽出する。検出部323は、抽出部321によって抽出された歩行波形から、歩行者の両足の歩行イベントを検出する。
【0195】
本実施形態においては、歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて生成された時系列データから歩行波形を抽出する。そして、本実施形態においては、抽出された歩行波形から、両足の歩行イベントを検出する。その結果、本実施形態によれば、片足に装着されたセンサによって計測される足の動きに関する物理量に基づいて、両足の詳細な歩行イベントを検出できる。
【0196】
(ハードウェア)
ここで、実施形態に係る検出装置等の処理を実行するハードウェア構成について、
図43の情報処理装置90を一例として挙げて説明する。なお、
図43の情報処理装置90は、各実施形態の検出装置等の処理を実行するための構成例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0197】
図43のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。
図43においては、インターフェースをI/F(Interface)と略して表記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0198】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを主記憶装置92に展開し、展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、本実施形態に係る検出装置による処理を実行する。
【0199】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリとすればよい。また、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリを主記憶装置92として構成・追加してもよい。
【0200】
補助記憶装置93は、種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって構成される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0201】
入出力インターフェース95は、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0202】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器を接続するように構成してもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成とすればよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0203】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0204】
以上が、本発明の各実施形態に係る検出装置を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、
図43のハードウェア構成は、各実施形態に係る検出装置の演算処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る検出装置に関する処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。
【0205】
さらに、各実施形態に係るプログラムを記録した非一過性の記録媒体(プログラム記録媒体とも呼ぶ)も本発明の範囲に含まれる。例えば、記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。また、記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体や、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現してもよい。
【0206】
各実施形態の検出装置の構成要素は、任意に組み合わせることができる。また、各実施形態の検出装置の構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよいし、回路によって実現してもよい。
【0207】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0208】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成し、生成された前記時系列データから歩行波形を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出された前記歩行波形から、前記歩行者の両足の歩行イベントを検出する検出部と、を備える検出装置。
(付記2)
前記抽出部は、
前記歩行者の進行方向加速度の時系列データを生成し、
生成された前記進行方向加速度の時系列データから、一歩行周期分の前記進行方向加速度の歩行波形を抽出し、
前記検出部は、
抽出された一歩行周期分の前記進行方向加速度の歩行波形において、
最大ピークに含まれる二つの山の間に谷が検出されるタイミングを爪先離地のタイミングとして検出し、
最小ピークが検出されるタイミングと、前記最小ピークの次に現れる極大ピークが検出されるタイミングとの中点のタイミングを踵接地のタイミングとして検出する、付記1に記載の検出装置。
(付記3)
前記抽出部は、
前記歩行者のロール角速度の時系列データを生成し、
生成された前記ロール角速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期分の前記ロール角速度の歩行波形を抽出し、
前記検出部は、
抽出された一歩行周期分の前記ロール角速度の歩行波形を、前記爪先離地のタイミングと前記踵接地のタイミングで、第1歩行波形、第2歩行波形、および第3歩行波形に分割し、
前記ロール角速度の第1歩行波形から反対足踵接地のタイミングを検出し、
前記ロール角速度の第3歩行波形から反対足爪先離地のタイミングを検出する、付記2に記載の検出装置。
(付記4)
前記検出部は、
前記ロール角速度の第1歩行波形から前記ロール角速度が最大になる点を検出し、
前記ロール角速度の第1歩行波形の始点と、前記ロール角速度の第1歩行波形において前記ロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分から、前記ロール角速度の第1歩行波形に下ろした垂線の長さが最大になる加速変曲点のタイミングを前記反対足踵接地のタイミングとして検出する、付記3に記載の検出装置。
(付記5)
前記検出部は、
前記ロール角速度の第3歩行波形から前記ロール角速度が最大になる点を検出し、
前記ロール角速度の第3歩行波形の始点と、前記ロール角速度の第3歩行波形において前記ロール角速度が最大になる点とを結ぶ線分から、前記ロール角速度の第3歩行波形に下ろした垂線の長さが最大になる減速変曲点のタイミングを前記反対足爪先離地のタイミングとして検出する、付記3または4に記載の検出装置。
(付記6)
前記抽出部は、
前記歩行者の重力方向加速度の時系列データを生成し、
生成された前記重力方向加速度の時系列データから、立脚終期の開始のタイミングを始点とする一歩行周期分の前記重力方向加速度の歩行波形を抽出し、
前記検出部は、
抽出された一歩行周期分の前記重力方向加速度の歩行波形を、前記爪先離地のタイミングと前記踵接地のタイミングで、第1歩行波形、第2歩行波形、および第3歩行波形に分割し、
前記重力方向加速度の第2歩行波形が最大になるタイミングを脛骨垂直のタイミングとして検出する、付記5に記載の検出装置。
(付記7)
前記検出部は、
一歩行周期分の前記進行方向加速度の歩行波形から、前記爪先離地のタイミングと前記脛骨垂直のタイミングの間の第4歩行波形を切り出し、
前記進行方向加速度の第4歩行波形に含まれる、前記脛骨垂直のタイミングに近い側のピークが最大になるタイミングを足交差のタイミングとして検出する、付記6に記載の検出装置。
(付記8)
前記抽出部は、
前記ロール角速度の時系列データから、前記立脚終期の開始のタイミングを始点とする二歩行周期分の前記ロール角速度の歩行波形を抽出し、
前記検出部は、
抽出された二歩行周期分の前記ロール角速度の歩行波形において、第1歩行周期の前記反対足爪先離地の点と、前記第1歩行周期に後続する第2歩行周期の前記反対足爪先離地の点とを結ぶ線分から、前記ロール角速度の歩行波形に下ろした垂線の長さが最大になる加速変曲点のタイミングを踵持ち上がりのタイミングとして検出する、付記5乃至7のいずれか一項に記載の検出装置。
(付記9)
前記歩行者の前記歩行波形から検出された前記歩行イベントの発生時刻を特定し、特定された前記歩行イベントの発生時刻に基づいて歩容に関する時間因子を算出する計算部と、
算出された前記時間因子に基づいて前記歩行者の身体状態を推測する推測部と、を備える、付記1乃至8のいずれか一項に記載の検出装置。
(付記10)
前記計算部は、
特定された前記歩行イベントの発生時刻に基づいて、両足支持期間と片足支持期間の比率に関する前記時間因子を算出し、
前記推測部は、
算出された前記時間因子に基づいて前記歩行者の筋力低下状態を推測する、付記9に記載の検出装置。
(付記11)
前記計算部は、
特定された前記歩行イベントの発生時刻に基づいて、右足立脚期間と左足立脚期間の比率に関する前記時間因子を算出し、
前記推測部は、
算出された前記時間因子に基づいて前記歩行者の骨密度を推測する、付記9または10に記載の検出装置。
(付記12)
前記計算部は、
特定された前記歩行イベントの発生時刻に基づいて、右足のストライド時間と左足のストライド時間の比率に関する前記時間因子を算出し、
前記推測部は、
算出された前記時間因子に基づいて前記歩行者の基礎代謝を推測する、付記9乃至11のいずれか一項に記載の検出装置。
(付記13)
付記1乃至12のいずれか一項に記載の検出装置と、
空間加速度および空間角速度を計測し、計測した前記空間加速度および前記空間角速度に基づいて前記センサデータを生成し、生成した前記センサデータを前記検出装置に送信するデータ取得装置と、を備える検出システム。
(付記14)
コンピュータが、
歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成し、
生成された前記時系列データから歩行波形を抽出し、
抽出された前記歩行波形から、前記歩行者の両足の歩行イベントを検出する、検出方法。
(付記15)
歩行者の一方の足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータを用いて歩行に伴う時系列データを生成する処理と、
生成された前記時系列データから歩行波形を抽出する処理と、
抽出された前記歩行波形から、前記歩行者の両足の歩行イベントを検出する処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0209】
1、2 検出システム
11、21 データ取得装置
12、22、32 検出装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 データ送信部
121、221、321 抽出部
123、223、323 検出部
225 計算部
227 推測部