(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】動力決定装置及び動力決定方法
(51)【国際特許分類】
B60W 20/19 20160101AFI20240501BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240501BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240501BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20240501BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20240501BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240501BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240501BHJP
【FI】
B60W20/19
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/16 ZHV
F02D21/08 301C
F02D21/08 311B
F02D45/00 369
F02D45/00 362
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2023016872
(22)【出願日】2023-02-07
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 聖
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-092456(JP,A)
【文献】特開2011-051383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/19
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/16
F02D 21/08
F02D 45/00
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部と、
過給機の実過給圧と前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する特定部と、
前記第1噴射補正量に前記補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部と、
前記第2噴射補正量に対応する過給圧に応じて、前記エンジンの排気を還流させるEGR装置の弁開度を決定する弁開度決定部と、
を有
し、
前記弁開度決定部は、前記要求過給圧に対応する前記弁開度を最小値として、前記第2噴射補正量が大きければ大きいほど、前記弁開度を大きくする、
動力決定装置。
【請求項2】
前記エンジン回転数及び前記アクセル開度に対応する前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを記憶する記憶部をさらに有し、
前記決定部は、前記エンジン回転数と、前記アクセル開度とに対応する前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを決定する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項3】
前記エンジン回転数及び前記実過給圧と前記要求過給圧の差に対応する前記補正係数を記憶する記憶部をさらに有し、
前記特定部は、前記エンジン回転数と、前記実過給圧及び前
記要求過給圧の差とに対応する前記補正係数を特定する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記補正係数として、前記第1噴射補正量を補正するための噴射補正係数と、前記第1トルク補正量を補正するための、前記噴射補正係数と異なるトルク補正係数とを特定し、
前記算出部は、前記第1噴射補正量に前記噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した噴射補正量、及び前記第1トルク補正量に前記トルク補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する、
請求項1に記載の動力決定装置。
【請求項5】
アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定工程と、
過給機の実過給圧と前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する特定工程と、
前記第1噴射補正量に前記補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出工程と、
前記第2噴射補正量に対応する過給圧に応じて、前記エンジンの排気を還流させるEGR装置の弁開度を決定する弁開度決定工程と、
を有
し、
前記弁開度決定工程において、前記要求過給圧に対応する前記弁開度を最小値として、前記第2噴射補正量が大きければ大きいほど、前記弁開度を大きくする、
動力決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力決定装置及び動力決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のハイブリッド車両の制御装置は、アクセルの踏み込み操作に対応するトルクが所定のトルクより大きい場合、エンジン及びモータによりトルクを発生させることでエンジンが消費する燃料の増加を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のハイブリッド車両の制御装置においては、アクセルが踏み込まれた際に、エンジンへの吸入空気量とエンジンが備える過給機の過給圧とを増加させる。さらに、エンジンへの吸入空気量と過給機の過給圧との増加に遅れが発生することを抑制するために、例えばEGR(Exhaust Gas Recirculation)の弁開度を小さくする方策を採用しうるが、この場合には、窒素酸化物(NOx)排出量が増加してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、NOx排出量を抑制しつつ、所望のトルクを発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る動力決定装置は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータが発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部と、過給機の実過給圧と前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する特定部と、前記第1噴射補正量に前記補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部と、を有する。
【0007】
前記第2噴射補正量に対応する過給圧に応じて、前記エンジンの排気を還流させるEGR装置の弁開度を決定する弁開度決定部をさらに有してもよい。
【0008】
前記弁開度決定部は、前記要求過給圧に対応する前記弁開度を最小値として、前記第2噴射補正量が大きければ大きいほど、前記弁開度を大きくしてもよい。
【0009】
前記エンジン回転数及び前記アクセル開度に対応する前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを記憶する記憶部をさらに有し、前記決定部は、前記エンジン回転数と、前記アクセル開度とに対応する前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを決定してもよい。
【0010】
前記エンジン回転数及び前記実過給圧と前記要求過給圧の差に対応する前記補正係数を記憶する記憶部をさらに有し、前記特定部は、前記エンジン回転数と、前記実過給圧及び前記前記要求過給圧の差とに対応する前記補正係数を特定してもよい。
【0011】
前記特定部は、前記補正係数として、前記第1噴射補正量を補正するための噴射補正係数と、前記第1トルク補正量を補正するための、前記噴射補正係数と異なるトルク補正係数とを特定し、前記算出部は、前記第1噴射補正量に前記噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した噴射補正量、及び前記第1トルク補正量に前記トルク補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様に係る動力決定方法は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジンの燃料噴射量の第1噴射補正量とモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定工程と、過給機の実過給圧と前記アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及び前記エンジン回転数に基づいて、前記第1噴射補正量と前記第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する特定工程と、前記第1噴射補正量に前記補正係数を乗算した第2噴射補正量を前記燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び前記第1トルク補正量に前記補正係数を乗算した第2トルク補正量を前記モータトルクに加算した補正トルクを算出する算出工程と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、NOx排出量を抑制しつつ、所望のトルクを発生させるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る動力決定装置10の概要を説明するための図である。
【
図3】補正噴射量及び補正トルクを説明するための図である。
【
図4】動力決定装置10における処理シーケンスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<動力決定装置10の概要>
図1は、本実施形態に係る動力決定装置10の概要を説明するための図である。動力決定装置10は、ハイブリッド車両(以下、「車両」という)に搭載され、エンジンの燃料噴射量とモータが発生するトルク(以下、「モータトルク」という場合がある)とを決定する機能を有する。また、動力決定装置10は、アクセルが踏み込まれた際には、燃料噴射量を補正した補正噴射量とモータトルクを補正した補正トルクとを決定し、補正噴射量でエンジンに燃料を噴射させ、補正トルクをモータに発生させる。なお、本実施形態において「アクセルを踏み込む」とは、運転者が車両を加速させるためにアクセルペダルを踏み込むこと、又は、自動運転において、車両が備える自動運転制御装置(不図示)が車両を加速させるためにアクセル開度を出力することのいずれかを示す。
以下、補正噴射量及び補正トルクを決定する動作を説明する。
【0016】
まず、動力決定装置10は、過給機の実過給圧と、アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧(以下、「要求過給圧」という)との差であるΔBSTを算出する(
図1に示す(1))。動力決定装置10は、補正係数マップM1を参照することにより、算出したΔBSTとエンジン回転数とに対応する補正係数を特定する(
図1に示す(2))。
【0017】
動力決定装置10は、噴射補正マップM2を参照することにより、エンジン回転数とアクセル開度とに対応する第1噴射補正量を決定する(
図1に示す(3))。動力決定装置10は、トルク補正マップM3を参照することにより、エンジン回転数とアクセル開度とに対応する第1トルク補正量を決定する(
図1に示す(4))。
【0018】
続いて、動力決定装置10は、第1噴射補正量に補正係数を乗算した第2噴射補正量を算出し(
図1に示す(5))、アクセル開度に対応する燃料噴射量から第2噴射補正量を減算した補正噴射量を算出する(
図1に示す(6))。動力決定装置10は、第1トルク補正量に補正係数を乗算した第2トルク補正量を算出し(
図1に示す(7))、アクセル開度に対応するモータトルクに第2トルク補正量を加算した補正トルクを算出する(
図1に示す(8))。
【0019】
アクセルが踏み込まれたことにより、アクセル踏込量に対応する加速度で走行する(いわゆる急加速をする)場合、車両は、エンジンへの吸入空気量及び過給機の過給圧の増加に遅れが生じることを抑制するために、EGRの弁開度を小さくする方策を採用し得る。しかしながら、EGRの弁開度を小さくすることによりNOx排出量が増加してしまう。
【0020】
そこで、動力決定装置10は、アクセル開度に対応する燃料噴射量から第2噴射補正量を減算した補正噴射量と、アクセル開度に対応するモータトルクに第2トルク補正量を加算した補正トルクとを決定する。動力決定装置10がこのように動作することで、アクセルを踏み込まれた際には燃料噴射量を小さくするとともにモータトルクを大きくするため、アクセル踏込量に対応する加速度で走行しつつ燃料噴射量を小さくすることができる。その結果、エンジンへの吸入空気量及び過給機の過給圧の増加に遅れが生じることを許容しやすくなるため、EGR弁開度を大きくしてNOx排出量を抑制することができる。
以下、動力決定装置10の構成及び動作を詳細に説明する。
【0021】
<動力決定装置10の構成>
図2は、車両および車両に含まれる動力決定装置10の構成を示す図である。
図2に示す車両は、アクセル装置1、エンジン2、過給機3、EGR装置4、モータ5、センサ群6、走行制御装置7及び動力決定装置10を有している。動力決定装置10は、記憶部11と制御部12とを有する。
【0022】
アクセル装置1は、車両の加速を制御するための装置である。アクセル装置1はアクセルペダルを含み、車両の運転者がアクセルペダルを踏み込んだ量に対応するアクセル開度を出力する。車両が自動運転をする場合、アクセル装置1は、車両が備える自動運転制御装置が要求するトルクに対応するアクセル開度を出力する。エンジン2は、車両を走行させるための動力源である。過給機3は、例えば、排気通路(不図示)を流れる排気の流れを利用して吸気通路(不図示)を流れる吸気を圧縮する。EGR装置4は、EGR通路内に開閉可能な弁を有し、走行制御装置7により弁開度が制御されることにより、EGRガス量が調整される。モータ5は、車両を走行させるための動力源である。
【0023】
センサ群6は、アクセル開度センサ、エンジン回転センサ、過給圧センサ等の複数のセンサを含む。走行制御装置7は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサを含む装置であり、走行制御装置7が有する記憶部に記憶されたプログラムをプロセッサに実行させることにより、動力決定装置10を搭載する車両を走行させる。走行制御装置7は、動力決定装置10が決定したモータトルクを発生させるようにモータ5を制御し、動力決定装置10が決定した燃料噴射量でエンジン2に燃料を噴射させるようにエンジン2を制御する。走行制御装置7は、後述するように、アクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧よりも過給機3の過給圧が小さい場合に、アクセル開度に対応するモータトルクよりも大きいトルクでモータ5を制御し、かつ、アクセル開度に対応する燃料噴射量よりも小さい燃料噴射量でエンジン2に燃料を噴射させるようにエンジン2を制御する。
【0024】
記憶部11は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体を有する。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを記憶している。記憶部11は、補正噴射量及び補正トルクを決定するための各種の情報を記憶している。一例として、記憶部11は、エンジン回転数及びΔBSTに対応する補正係数を示す補正係数マップM1(
図1)、エンジン回転数及びアクセル開度に対応する第1噴射補正量を示す噴射補正マップM2(
図1)、エンジン回転数及びアクセル開度に対応する第1トルク補正量を示すトルク補正マップM3(
図1)を記憶している。
【0025】
制御部12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、受付部121、取得部122、決定部123、特定部124、算出部125及び弁開度決定部126として機能する。なお、制御部12は、1つのプロセッサで構成されていてもよいし、複数のプロセッサ又は1以上のプロセッサと電子回路との組み合わせにより構成されていてもよい。
以下、制御部12により実現される各部の構成を説明する。
【0026】
受付部121は、アクセル開度センサが検出したアクセル開度を受け付ける。取得部122は、エンジン回転数と、エンジン2の燃料噴射量と、実過給圧と、要求過給圧と、モータトルクとを取得する。
【0027】
例えば、取得部122は、エンジン回転センサが検出したエンジン回転数、過給圧センサが検出した実過給圧をセンサ群6から取得する。取得部122は、走行制御装置7が特定した、アクセル開度に対応する燃料噴射量(以下、「噴射量要求値」という場合がある)及びモータトルクと、エンジン回転数及び噴射量要求値に対応する要求過給圧とを走行制御装置7から取得する。アクセル開度に対応する燃料噴射量は、アクセル開度に対応するトルクのうちエンジン2のトルクに対応する燃料噴射量であり、アクセル開度に対応するモータトルクは、アクセル開度に対応するトルクのうちモータ5が発生させるトルクである。
【0028】
決定部123は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに基づいて、燃料噴射量の第1噴射補正量を決定する。具体的には、決定部123は、まず、記憶部11に記憶された噴射補正マップM2を取得する。噴射補正マップM2は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに関連付けられた噴射補正量が示されている。噴射補正量は、実験又はシミュレーションにより定められた値である。続いて、決定部123は、噴射補正マップM2において、取得部122が取得したエンジン回転数と、受付部121が受け付けたアクセル開度の大きさとに関連付けられた噴射補正量を特定し、第1噴射補正量に決定する。
【0029】
決定部123は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに基づいて、モータトルクの第1トルク補正量を決定する。具体的には、決定部123は、まず、記憶部11に記憶されたトルク補正マップM3を取得する。トルク補正マップM3は、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、エンジン回転数とアクセル開度の大きさとに関連付けられたトルク補正量が示されている。トルク補正量は、実験又はシミュレーションにより定められた値である。続いて、決定部123は、トルク補正マップM3において、取得部122が取得したエンジン回転数と、受付部121が受け付けたアクセル開度の大きさとに関連付けられたトルク補正量を特定し、第1トルク補正量に決定する。
【0030】
特定部124は、ΔBST及びエンジン回転数に基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する。具体的には、特定部124は、まず、記憶部11に記憶された補正係数マップM1を取得する。補正係数マップM1は、ΔBSTとエンジン回転数とを軸とする二次元空間上の平面として表されており、当該平面には、ΔBSTとエンジン回転数とに関連付けられた補正係数が示されている。補正係数は、実験又はシミュレーションにより定められた値である。続いて、特定部124は、補正係数マップM1において、取得部122が取得したエンジン回転数と、取得部122が取得した実過給圧及び要求過給圧の差(すなわちΔBST)とに関連付けられた補正係数を特定する。
【0031】
算出部125は、第1噴射補正量に補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び第1トルク補正量に補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する。算出部125は、算出した補正噴射量と補正トルクとを走行制御装置7に出力する。
【0032】
図3は、補正噴射量及び補正トルクを説明するための図である。
図3(a)は、受付部121が受け付けたアクセル開度を示し、
図3(b)は、エンジン2の燃料噴射量を示し、
図3(c)は、モータトルクを示す。
図3の横軸は時刻を示し、
図3(a)の縦軸はアクセル開度、
図3(b)の縦軸は噴射量、
図3(c)の縦軸はトルクを示す。
図3(b)の時刻T1から時刻T3において、一点鎖線は、アクセル開度に対応する燃料噴射量を示し、実線は、補正噴射量を示す。
図3(c)の時刻T4から時刻T3において、一点鎖線は、アクセル開度に対応するモータトルクを示し、実線は、補正トルクを示す。
【0033】
図3(a)に示すように、受付部121が受け付けるアクセル開度は、時刻T1から時刻T2においてアクセル開度A1からアクセル開度A2に変化し、時刻T2以降において一定の時間、アクセル開度A2に維持される。続いて、
図3(b)に示すように、算出部125は、アクセル開度A2に対応する燃料噴射量N2から第2噴射補正量N3を減算した補正噴射量「N2-N3」を算出する。また、
図3(c)に示すように、算出部125は、アクセル開度A2に対応するモータトルクQ2に第2トルク補正量Q3を加算した補正トルク「Q2+Q3」を算出する。走行制御装置7は、算出部125が算出した補正噴射量「N2-N3」を燃料噴射量としてエンジン2に燃料を噴射させ、補正トルク「Q2+Q3」をモータトルクとしてモータ5に発生させる。
【0034】
算出部125が上記のように動作することで、アクセル開度に対応するモータトルクよりも大きい補正トルクをモータ5に発生させるため、アクセル開度に対応する燃料噴射量よりも小さい補正噴射量でエンジン2に燃料を噴射させることができる。その結果、エンジン2への吸入空気量及び過給機3の過給圧の増加の遅れを許容しやすくなるため、EGRの弁開度を大きくし、NOx排出量を抑制することができる。さらに、燃料噴射量を小さくすることによりPM(粒子状物質)及びHC(炭化水素)の排出量も抑制できる。
【0035】
図2に戻り、弁開度決定部126は、第2噴射補正量に対応する過給圧に応じて、エンジン2の排気を還流させるEGR装置4の弁開度を決定する。弁開度決定部126は、例えば、要求過給圧に対応する弁開度を最小値として、第2噴射補正量が大きければ大きいほど、弁開度を大きくする。弁開度決定部126は、記憶部11に記憶された、第2噴射補正量と要求過給圧とに対応する弁開度を示す弁開度マップを参照することにより、第2噴射補正量に対応する弁開度を決定してもよい。
【0036】
<動力決定装置10における処理シーケンス>
図4は、動力決定装置10における処理シーケンスの例を示す図である。
図4に示す処理シーケンスは、算出部125が補正噴射量及び補正トルクを算出し、弁開度決定部126がEGR装置4の弁開度を決定する動作を示す。動力決定装置10は、
図4に示す処理シーケンスを一定時間ごとに繰り返す。
【0037】
まず、受付部121は、アクセル開度センサが検出したアクセル開度を受け付ける(S11)。取得部122は、センサ群6及び走行制御装置7から、エンジン回転数、燃料噴射量、実過給圧、要求過給圧、及びモータトルクを取得する(S12)。例えば、取得部122は、エンジン回転センサが検出したエンジン回転数、過給圧センサが検出した実過給圧を取得する。取得部122は、走行制御装置7から、アクセル開度に対応する燃料噴射量、アクセル開度に対応するモータトルク、及び要求過給圧を取得する。
【0038】
特定部124は、記憶部11に記憶された補正係数マップM1を参照することにより、実過給圧と要求過給圧との差(すなわちΔBST)及びエンジン回転数に対応する補正係数を特定する(S13)。
【0039】
決定部123は、アクセル開度及びエンジン回転数に基づいて、燃料噴射量の第1噴射補正量とモータトルクの第1トルク補正量とを決定する(S14)。例えば、決定部123は、記憶部11に記憶された噴射補正マップM2を参照することにより、アクセル開度及びエンジン回転数に対応する第1噴射補正量を決定する。また、決定部123は、記憶部11に記憶されたトルク補正マップM3を参照することにより、アクセル開度及びエンジン回転数に対応する第1トルク補正量を決定する。
【0040】
算出部125は、第1噴射補正量に補正係数を乗算した第2噴射補正量と、第1トルク補正量に当該補正係数を乗算した第2トルク補正量とを算出する(S15)。算出部125は、取得部122が取得した燃料噴射量から第2噴射補正量を減算した補正噴射量と、取得部122が取得したモータトルクに第2トルク補正量を加算した補正トルクとを算出する(S16)。弁開度決定部126は、EGR装置4の弁開度を決定する(S17)。弁開度決定部126は、例えば、記憶部11に記憶された弁開度マップを参照することにより、第2噴射補正量に対応する弁開度を決定する。
【0041】
<変形例>
以上の説明においては、特定部124が特定した1つの補正係数を用いて、算出部125が第2噴射補正量及び第2トルク補正量を算出する動作を説明したが、これに限らない。動力決定装置10においては、第1噴射補正量を補正するための噴射補正係数と第1トルク補正量を補正するためのトルク補正係数とを用いて第2噴射補正量及び第2トルク補正量を算出してもよい。
【0042】
特定部124は、補正係数として、噴射補正係数と、当該噴射補正係数と異なるトルク補正係数とを特定する。例えば、特定部124は、記憶部11に記憶された、ΔBSTとエンジン回転数とに対応する噴射補正係数を示す噴射補正係数マップを参照することにより、噴射補正係数を特定する。特定部124は、記憶部11に記憶された、ΔBSTとエンジン回転数とに対応するトルク補正係数を示すトルク補正係数マップを参照することにより、トルク補正係数を特定する。
【0043】
算出部125は、第1噴射補正量に噴射補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した噴射補正量、及び第1トルク補正量にトルク補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する。特定部124及び算出部125が上記のように動作することで、噴射補正係数の値とトルク補正係数の値とを、それぞれ決定することができるため、補正係数を示す補正係数マップを作成しやすくなる。その結果、補正係数マップを作成するための実験又はシミュレーションの時間を短縮できる。
【0044】
<動力決定装置10による効果>
以上説明したように、動力決定装置10は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、燃料噴射量の第1噴射補正量とモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部123と、実過給圧と要求過給圧との差、及びエンジン回転数に基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する特定部124と、第1噴射補正量に補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び第1トルク補正量に補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部125と、を有する。
【0045】
動力決定装置10がこのように構成されることで、アクセル開度に対応する加速度で車両を走行させつつ、アクセル開度に対応する燃料噴射量よりも小さい補正噴射量でエンジン2に燃料を噴射させることができる。その結果、EGRの弁開度を大きくすることができるため、NOx排出量を抑制することができる。さらに、燃料噴射量を小さくすることができるため、PM及びHCの排出量も抑制できる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0047】
1 アクセル装置
2 エンジン
3 過給機
4 EGR装置
5 モータ
6 センサ群
7 走行制御装置
10 動力決定装置
11 記憶部
12 制御部
121 受付部
122 取得部
123 決定部
124 特定部
125 算出部
126 弁開度決定部
【要約】
【課題】NOx排出量を抑制しつつ、所望のトルクを発生させる。
【解決手段】動力決定装置10は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジン2の燃料噴射量の第1噴射補正量とモータ5が発生するモータトルクの第1トルク補正量とを決定する決定部123と、過給機3の実過給圧とアクセル開度に対応するトルクを発生させる過給圧である要求過給圧との差、及びエンジン回転数に基づいて、第1噴射補正量と第1トルク補正量とを補正するための補正係数を特定する特定部124と、第1噴射補正量に補正係数を乗算した第2噴射補正量を燃料噴射量から減算した補正噴射量、及び第1トルク補正量に補正係数を乗算した第2トルク補正量をモータトルクに加算した補正トルクを算出する算出部125と、を有する。
【選択図】
図2