(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】風味剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20240501BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20240501BHJP
A23C 11/00 20060101ALI20240501BHJP
A23G 1/48 20060101ALI20240501BHJP
A23L 7/104 20160101ALI20240501BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240501BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L27/20 A
A23C11/00
A23G1/48
A23L7/104
A23L5/00 L
(21)【出願番号】P 2023560834
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2023006953
(87)【国際公開番号】W WO2023189087
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2022058714
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本池 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 将宏
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 千晶
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0046939(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
A23L 27/20
A23C 11/00
A23G 1/48
A23L 7/104
A23L 5/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分70質量%以下かつ20℃~80℃の環境下で、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理することを含む、風味剤の製造方法。
【請求項2】
イネ科植物がソルガム、大麦、小麦、白米および玄米からなる群から選択される一つ以上である、請求項1に記載の風味剤の製造方法。
【請求項3】
プロテアーゼが、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ及びペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である請求項1または請求項2に記載の風味剤の製造方法。
【請求項4】
風味剤が乳代替物である、請求項1または請求項2に記載の風味剤の製造方法。
【請求項5】
風味剤が乳代替物である、請求項3に記載の風味剤の製造方法。
【請求項6】
水分70質量%以下かつ20℃~80℃の環境下で、
イネ科植物の種子がプロテアーゼ処理されたことを特徴とする、乳代替物。
(ただし、飲料及び植物クリーマーとしての態様を除く)
【請求項7】
イネ科植物がソルガム、大麦、小麦、白米および玄米からなる群から選択される一つ以上である、請求項6に記載の乳代替物。
【請求項8】
プロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼが、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ及びペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である、請求項6または請求項7に記載の乳代替物。
【請求項9】
請求項4に記載の製造方法で得られた風味剤を含む、油脂が連続相をなす油性食品の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載の製造方法で得られた風味剤を含む、油脂が連続相をなす油性食品の製造方法。
【請求項11】
請求項6または請求項7に記載の乳代替物を含む、油性食品。
(ただし、油性食品として、チョコレートアイスクリームの態様を除く)
【請求項12】
請求項8に記載の乳代替物を含む、油性食品。
(ただし、油性食品として、チョコレートアイスクリームの態様を除く)
【請求項13】
請求項6または請求項7に記載の乳代替物を含む、乳原料を配合しない油性食品。
(ただし、油性食品として、チョコレートアイスクリームの態様を除く)
【請求項14】
請求項8に記載の乳代替物を含む、乳原料を配合しない油性食品。
(ただし、油性食品として、チョコレートアイスクリームの態様を除く)
【請求項15】
油性食品がチョコレート類である、請求項11に記載の油性食品。
【請求項16】
油性食品がチョコレート類である、請求項12に記載の油性食品。
【請求項17】
無機塩を含む、
請求項11に記載の油性食品。
【請求項18】
無機塩を含む、
請求項13に記載の油性食品。
【請求項19】
無機塩を含む、
請求項15に記載の油性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳や生クリーム、脱脂粉乳などの乳原料は、特有の乳風味を有しており、嗜好されている。そのため、乳製品をはじめ、洋菓子、パン、デザートなどに利用されたり、調理用の風味付け、コクや濃厚感の付与などの用途に利用されたりと、幅広く利用されている。
一方で、動物性食品を含まない食生活への嗜好の高まり、乳アレルギーへの懸念、乳原料の価格高騰といった背景から、動物性である乳原料の代替となりうる植物性原料の開発も行われてきた。
飲料や乳製品などは、大豆などの菽穀類を用いた代替物が開示されている(特許文献1、特許文献2)。
乳製品を食生活の嗜好として食さない人や乳アレルギーのために食せない人の他に、乳糖不耐症患者が乳製品を含む食品の摂取を制限される。彼らは、乳糖を体内で消化しきれず、乳糖を含む乳製品を用いた食品を避けなければならない。
このように乳製品を意図的に摂取しない人や、経済的あるいは社会的事情により、乳原料を植物性原料で代替する取組が増えている。
【0003】
食品に呈味やコクを付与する呈味改善剤などは多く検討されている(特許文献3)。それらはアミノ酸とそれらを加熱することで生じる成分で、食品全体の味やコクを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-013395号公報
【文献】特開昭57-033547号公報
【文献】特開2013-252113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは背景技術から特許文献1及び2にあるように大豆等の菽穀類を用いて、風味剤の検討を行った。しかし、それらを用いて油性食品などを調製した際、特に乳代替物として食品に多く含有する場合に、特有のねとつきや口中への張りつきが感じられ、口溶けが悪化する場合がある。
また、検討において乳原料を植物性原料に置き換えた時に、乳原料に由来する特有のコクや濃厚感が減少することがあった。特許文献3のように酵素処理によって減少したコクや濃厚感を補強するには、加熱や焙煎が必要となり、設備面での煩雑さがあった。
【0006】
従って、本発明は乳原料を植物性原料に置き換えた時に、減少するコクや濃厚感を補うことができるような風味剤の提供、風味剤が乳原料と置き換えることができるような乳代替物の提供及びそれらの風味剤や乳代替物を使用した食品を提供することを目的とする。さらに、その乳代替物を用いて良好な口溶けと乳味やコクを感じられる油性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理することで、食品の風味剤、特に乳代替物として利用できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)水分70質量%以下かつ20℃~80℃の環境下で、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理することを含む、風味剤の製造方法、
(2)イネ科植物がソルガム、大麦、小麦、白米および玄米からなる群から選択される一つ以上である、(1)に記載の風味剤の製造方法、
(3)プロテアーゼが、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ及びペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である(1)または(2)に記載の風味剤の製造方法、
(4)風味剤が乳代替物である、(1)または(2)に記載の風味剤の製造方法、
(5)風味剤が乳代替物である、(3)に記載の風味剤の製造方法、
(6)水分70質量%以下かつ20℃~80℃の環境下で、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理されたことを特徴とする、乳代替物、
(7)イネ科植物がソルガム、大麦、小麦、白米および玄米からなる群から選択される一つ以上である、(6)に記載の乳代替物。
(8)プロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼが、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ及びペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である、(6)または(7)に記載の乳代替物、
(9)(6)または(7)に記載の乳代替物を含む、油性食品、
(10)(8)に記載の乳代替物を含む、油性食品、
(11)(6)または(7)に記載の乳代替物を含む、乳原料を配合しない油性食品、
(12)(8)に記載の乳代替物を含む、乳原料を配合しない油性食品、
(13)油性食品がチョコレート類である、(11)に記載の油性食品、
(14)油性食品がチョコレート類である、(12)に記載の油性食品、
(15)無機塩を含む、(11)に記載の油性食品、
(16)無機塩を含む、(12)に記載の油性食品、
(17)無機塩を含む、(13)に記載の油性食品、
である。
換言すれば、本発明は、
(1)水分70質量%以下かつ20℃~80℃の環境下で、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理することを含む、風味剤の製造方法、
(2)イネ科植物がソルガム、大麦、小麦、白米および玄米からなる群から選択される一つ以上である、(1)に記載の風味剤の製造方法、
(3)プロテアーゼが、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ及びペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である(1)または(2)に記載の風味剤の製造方法、
(4)風味剤が乳代替物である、(1)~(3)のいずれか一つに記載の風味剤の製造方法、
(5)水分70質量%以下かつ20℃~80℃の環境下で、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理されたことを特徴とする、乳代替物、
(6)イネ科植物がソルガム、大麦、小麦、白米および玄米からなる群から選択される一つ以上である、(5)に記載の乳代替物、
(7)プロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼが、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ及びペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である(5)または(6)に記載の乳代替物、
(8)(5)~(7)のいずれか一つに記載の乳代替物を含む、油性食品、
(9)(5)~(7)いずれか一つに記載の乳代替物を含む、乳原料を配合しない油性食品、
(10)油性食品がチョコレート類である、(9)に記載の油性食品、
(11)無機塩を含む、(9)又は(10)に記載の油性食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって乳原料を植物性原料に置き換えた時に、減少するコクや濃厚感を補うことができるような風味剤の提供をすることができる。また、風味剤を乳原料と置き換えることができるような乳代替物の提供及びその風味剤や乳代替物を使用した食品を提供することができる。さらに、その乳代替物を用いて良好な口溶けと乳味やコクを感じられる油性食品を提供することができる。
なお、本発明の風味剤は乳代替物に限定されず、食品のコクや濃厚感を付与することに利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のある態様では、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理した風味剤を提供することができる。得られたプロテアーゼ処理物を用いて、良好な口溶けと乳味やコクを感じられる油性食品を提供することができる。
【0011】
本発明で用いられるイネ科植物の種子は特に限定されず、例えば、イネ、ソルガム、小麦、大麦、ライ麦、エン麦、トウモロコシ、アワ、ヒエ、キビなどが挙げられる。また、イネ科植物はうるち種であってもよいし、もち種であってもよい。また、イネ科植物は精白されたものであってもよいし、精白されていないものであってもよい。より具体的な実施形態では、イネ科植物の種子はソルガム、大麦、小麦、白米及び玄米からなる群から選択される一つ以上である。
【0012】
本発明で用いられるプロテアーゼは動物起源、植物起源あるいは微生物起源は問わず、例えば、「酸性プロテアーゼ」、「中性プロテアーゼ」、「アルカリ性プロテアーゼ」、「金属プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」等に分類されるプロテアーゼの中から適宜選択することができる。また、他の分類による例として、「エンド型プロテアーゼ」、「エクソ型プロテアーゼ」、「ペプチダーゼ」等に分類されるプロテアーゼの中から適宜選択することもできる。これらのプロテアーゼは単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。さらに、これらの酵素活性を1つ以上有する製剤として使用してもよい。なお、プロテアーゼ以外の酵素と組み合わせて使用してもよいし使用しなくてもよい。さらに、製剤がプロテアーゼ以外の酵素活性を有していてもよいし、有していなくてもよい。具体的な実施形態では、プロテアーゼは中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、およびペプチダーゼからなる群から選択される一つ以上である。
【0013】
本態様で用いられるプロテアーゼのより具体的な例として、Aspergillus属、Penicillium属、Rhizopus属など微生物由来の酸性プロテアーゼ、Aspergillus属、Streptomyces属、Bacillus属など微生物由来の中性プロテアーゼ、Aspergillus属、Streptomyces属、Bacillus属など微生物由来のアルカリ性プロテアーゼ、ブロメライン、パパインなどの植物由来プロテアーゼ、トリプシン、キモトリプジン、ズブチリシンなど動物由来のプロテアーゼが挙げられる。また、これらを任意に組み合わせて使用してもよい。より具体的な実施形態では、本態様で用いられるプロテアーゼは、Bacillus属由来のプロテアーゼ、例えばBacillus amyloliquefaciens由来のプロテアーゼ、Bacillus licheniformis由来のプロテアーゼ等、である。
【0014】
本態様で使用できるプロテアーゼの市販品の例として、プロテアーゼA、プロテアーゼM、プロテアーゼP、プロテアーゼM「アマノ」SD、プロテアーゼN、プロテアーゼNL、プロテアーゼS、ウマミザイム、ペプチダーゼR、ニューラーゼA、ニューラーゼF、サモアーゼPC10F、サモアーゼGL30、パパインW40、プロチンSD-NY10、プロチンSD-AY10(以上、天野エンザイム株式会社)、スミチームAP、スミチームLP、スミチームMP、スミチームFP、スミチームLPL(以上、新日本化学工業株式会社)、デナプシン2P、デナチームAP、XP-415、ビオプラーゼXL-416F、ビオプラーゼSP-4FG、ビオプラーゼSP-15FG(以上、ナガセケムテックス株式会社)、モルシンF、PD酵素、IP酵素、AO-プロテアーゼ(以上、キッコーマン株式会社)、パンチダーゼYP-SS、パンチダーゼNP-2、パンチダーゼP(以上、ヤクルト薬品工業株式会社)、フレーバーザイム、アロアーゼ、プロタメックス、ニュートラーゼ、アルカラーゼ(以上、ノボザイムズ社)、コクラーゼSS、コクラーゼP顆粒(以上、三菱ケミカル株式会社)等が挙げられ、これらから1種又は2種以上の酵素を選択して用いてもよい。
【0015】
プロテアーゼの使用量は特に限定されず、使用される原料や求める風味に応じて当業者によって任意に設定され得る。プロテアーゼの使用量は力価などにより一概には言えないが、ある実施形態では、イネ科植物の種子の質量を基準として0.01~100%の範囲である。具体的な実施形態では、プロテアーゼまたはプロテアーゼ製剤の使用量はイネ科植物の種子に対して0.1~10質量%、例えば0.25~9質量%、0.5~8質量%、1~7質量%、2~6質量%である。
プロテアーゼの使用量は、別の具体的態様としては、製剤中のプロテアーゼ量がイネ科植物の種子に対して0.1~10質量%、例えば、0.25~9質量%、0.5~8質量%、1~7質量%とすることもできる。
【0016】
プロテアーゼ処理の条件は特に限定されず、使用される酵素の種類等に応じて当業者によって任意に設定され得る。ある実施形態では、処理温度は20~80℃、例えば40~75℃、45~70℃であり、処理時間は30分間~24時間、例えば1~16時間、2~12時間、3~9時間である。
【0017】
本発明のプロテアーゼ処理の条件として、酵素処理時の水分量が70質量%以下であることが特徴の一つである。水分量が多い場合に酵素反応が進行しやすい場合があるが、酵素反応終了後に、乾燥に時間を要したり、食品への使用用途が限定されたりする場合がある。本発明のプロテアーゼ処理時の水分量は70質量%以下であり、好ましくは65質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下である。
また、本発明のプロテアーゼ処理時の水分量は5質量%以上が好ましく、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。
【0018】
プロテアーゼ処理により得られた処理物は、乾燥処理してもよい。乾燥処理の例として、加熱乾燥、通風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、流動層乾燥等が挙げられる。ある実施形態では、プロテアーゼ処理により得られた処理物は、乾燥温度35~75℃、例えば40~70℃、42~65℃、乾燥時間1~50時間、例えば3~40時間、5~35時間、8~30時間、で乾燥される。
なお、プロテアーゼ処理により得られた処理物は、乾燥処理の前に特定の温度帯で処理してもよい。例えば60~80℃で2~5時間処理することが挙げられる。当該処理によって風味がより良くなる場合がある。さらに、酵素を失活させることができる。
【0019】
プロテアーゼ処理物の原料となったイネ科植物はプロテアーゼ処理していないイネ科植物と混合して用いても良い。混合するプロテアーゼ処理していないイネ科植物の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、各々1種以上のイネ科植物を混合してもよい。
【0020】
上記に規定される工程を実施することにより、本態様の風味剤が得られる。
【0021】
本態様の風味剤には、その機能を損なわない限度で他の原料を添加してもよいし、しなくてもよい。他の原料の例として、調味料、酸味料、甘味料、香辛料、着色料、香料、塩類、糖類、酸化防止剤、ビタミン、安定剤、増粘剤、担体、賦形剤、潤滑剤、界面活性剤、噴射剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、等が挙げられる。ある実施形態では、本態様の方法は上記他の原料を添加する工程を含む。
【0022】
本態様の風味剤の形態は特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、ペレット等の固体、ペースト等の半固体、および溶液、懸濁液、エマルジョン等の液体が挙げられる。具体的な実施形態では、本態様の風味剤は粉末の形態である。ある実施形態では、本態様の方法は風味剤を上記形態とする工程を含む 。
【0023】
ある実施形態では、本態様の風味剤は、飲食品の原料として使用できる。例えば、本態様の風味剤を水、牛乳、豆乳等の飲料に添加して飲料を製造できる。また、例えば本態様の風味剤を製菓材料として糖類、油脂等の原料と混合して菓子を製造できる。また、例えば本態様の風味剤を食品に添加して、食品の風味にコクや濃厚感を付与することができる。
【0024】
本発明において風味剤とは、食品に使用した場合にコクや濃厚感を付与することができるような素材のことを言う。特に乳原料を植物性原料に置き換えた時に減少するコクや濃厚感を補うことができる風味剤を提供することができる。
また、本発明の風味剤は、乳原料と置き換えることができるような乳代替物として用いることができ、その乳代替物を用いて良好な口溶けと乳味やコクを感じられる油性食品を提供することができる。
【0025】
本発明においてコクとは、食品を飲食に供した際にしっかりとした味を感じられることをいい、濃厚感とは、口中から食品がなくなるまでしっかりと感じられる味が持続するこという。
良好な口溶けとは、口中で、ねとつくようなことがなく、なめらかに油性食品が融解して喫食できるような状態をいう。
【0026】
本発明において乳代替物とは、全粉乳や脱脂粉乳などの乳原料と置き換えることができるような風味剤のことをいう。本発明の乳代替物は、特に油性食品に用いたときに良好な口溶けと乳味やコクを感じることができる。
【0027】
本発明において油性食品とは、油脂が連続相をなす食品であり、チョコレート類、バタークリーム、スプレッド類のことをいう。本発明においてチョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会が規定するところの、「純チョコレート」「チョコレート」「準チョコレート」から、ココアバター以外の油脂とカカオ固形分以外の可食物よりなる「チョコレート様食品」、その他、例えばカレー風味やチーズ風味といった、油脂をベースとして可食物を分散させた食品を総称するものであってもよい。
【0028】
油性食品及びチョコレート類に使用することができる油脂類としては、カカオ脂の他にハイエルシン菜種油、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸結合トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂、カカオバター代用脂、ババス油、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の各種の動植物油脂及びそれらの硬化油、分別油、エステル交換油等が例示できる。
【0029】
ある実施形態において、チョコレート類における、乳代替物としての本態様の風味剤のチョコレート類中の含有量は、風味に応じて当業者によって任意に設定され得る。具体的な実施形態では、含有量は35質量%以下、例えば1~30質量%、3~25質量%、である。
【0030】
本発明において「乳原料を配合しない油性食品」とは、乳成分、または他の動物由来の乳成分を実質的に含まない油性食品を示している。「乳原料」または「乳成分」とは、従来から知られているミルクチョコレート類等に含まれる任意の乳製品類を指す。乳原料の例としては、これらに限定されないが、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、乳脂肪(無水乳脂肪を含む)、牛乳(濃縮され得る、甘味する)などを、意味する。
乳原料を配合しないチョコレート類とは、それらの乳原料を実質的に含まず、カカオマス、ココアパウダーにカカオバター、植物油脂及び砂糖などの糖類の他、植物由来の粉体原料、乳化剤や香料などを適宜組み合わせて調製しすることができる。
なお、「実質的に含まない」とは、質量が1%未満を意味する。
【0031】
本発明における無機塩とは、食用として許容される無機塩であればよく、特に制限はない。例えば、ナトリウム塩として、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムなどが挙げられる。また、カリウム塩として、塩化カリウム、リン酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム、リンゴ酸カリウムなどが挙げられる。また、カルシウム塩として、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。また、マグネシウム塩として、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。無機塩は2種類以上のものを併用してもよい。
無機塩の添加量は、油性食品中に0.05~1質量%含まれていることが好ましい。より好ましい含有量は0.08~0.8質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.6質量%である。好ましい含有量であれば、本発明の風味剤を油性食品に用いたときに、良好な乳味を感じることができる。
無機塩を加える操作は、特に限定されず、油性食品調製時に添加することもできるし、プロテアーゼ処理時に添加することもできる。
【0032】
本発明の油性食品は、通常チョコレート類を製造する方法に準じて実施すれば良く、例えば、カカオ原料(カカオマス、ココア、カカオバター)、本発明の風味剤の他、上記、油脂類、必要により糖類、粉乳類、食物繊維、果汁粉末、果実粉末、呈味材、乳化剤、香料、着色料等の副原料を任意の割合で配合した原料配合物を、常法によりロールリファイナーによる微粒化及びミキシング操作を行うことで調製することができる。その他粉砕、混合工程を有する製法であれば限定はされないが、例えばボールミルを用いた粉砕及び混合工程による製造方法でも調製することができる。
【0033】
甘味料としては、公知の何れのものでも使用可能であるが、例えば、砂糖、ぶどう糖、果糖、異性化糖、水飴、トレハロース、マルチトール、ソルビトールなどの糖類やアスパルテーム、ステビア、グリチルリチン、ソーマチンなどから選ばれた1種または2種以上が適当である。
【0034】
本発明の風味剤は油性食品以外の食品にも使用することができる。ある実施形態では、本態様の風味剤は、飲食品の原料として使用できる。例えば、本態様の風味剤を水、牛乳、豆乳等の飲料に添加して飲料を製造できる。また、例えば本態様の風味剤を製菓材料として糖類、油脂等の原料と混合して菓子を製造できる。また、例えば本態様の風味剤を食品に添加して、食品にコクおよび濃厚感を付与することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中%及び部はいずれも質量基準を意味する。
【0036】
●検討1
(酵素反応)
ホワイトソルガムを粉砕して粉末状にする、又は粉末状のホワイトソルガムを用いた。
粉末10gに対して水7.5g及び表1に記載の各種酵素製剤を0.5g(対粉5%)の比率になるように加え、混合した。
その混合物を表1記載の通り、50℃8時間反応させた。
反応後に乾燥機にて45℃で15時間乾燥させた。
乾燥には電気乾燥機プチミニ(大紀産業株式会社)を用いた。
【0037】
(風味評価1)
上記(酵素反応)で得られた各種酵素処理ホワイトソルガムの粉末1.38gを30gのお湯に分散させた混合液を調製し、それらの風味を評価した。比較として、酵素反応を行わないホワイトソルガムで50℃8時間の熱処理と乾燥を行ったものを対照とした。
【0038】
風味評価は訓練されたパネラー3人の官能評価にて、以下の基準で行い、その平均値を最終評価とした。
<コク・濃厚感>
5点:強いコクを感じる。濃厚感が付与されている。
4点:コクを感じる。やや濃厚感あり。
3点:濃厚感は弱いが、コクは感じられる。
2点:コク・濃厚感ともにほとんど感じられない。
1点:コク・濃厚感を感じない。
<乳味>
5点:乳味を良く感じる。脱脂乳のような風味。
4点:乳味を感じる。
3点:やや弱いが乳味を感じる。
2点:乳味が弱い。
1点:乳味を感じない。
それぞれ3点以上が良好であり、風味剤として又は乳代替物としての効果を有すると判断した。
【0039】
(風味評価2)
上記(酵素反応)で得られた各種酵素処理ホワイトソルガムの粉末を、表2の配合でココア、粉糖、融解した油脂、レシチンと混合し、ボールミルで微粉砕、液状化させて、油性食品を得た。
それらの油性食品をモールド成型し、風味を評価した。比較として、酵素反応を行わないホワイトソルガムで50℃8時間の熱処理と乾燥を行ったものを対照とした。
ボールミルはバイオメディカルサイエンス株式会社製のステンレスボールミルであるShake Master Autoを用いて処理した。
ボールミルで微粉砕するときの処理温度は、特に限定されないが、実測で油脂の融解状態が保持できる40℃~65℃であった。
ココアは、市販の油分11%のアルカリ処理されたココアを用いた。
油脂にはパルケナS(不二製油株式会社製)を用いた。
【0040】
風味評価は訓練されたパネラー3人又は5人の官能評価にて、以下の基準で行った。
<乳味*>
5点:乳味*を良く感じる。良好なミルクチョコレートらしい風味。
4点:乳味*を感じる。ミルクチョコレートらしい風味。
3点:やや弱いが乳味*を感じる。
2点:乳味*が弱い。
1点:乳味*を感じない。ミルクチョコレートらしさはない。
3点以上が合格品質であり、油性食品において乳代替物としての効果を有すると判断した。
なお、記載上の表現を区別するために、実施例中(風味評価2)による乳味を「乳味*」と表現した。特にミルクチョコレートを想起するような乳味のことを、「乳味*」と表現した。
【0041】
【0042】
実施例であるプロテアーゼ処理をした処理物は、コクや濃厚感を付与できる風味剤としての効果を有していた。
【0043】
特にコクや濃厚感を付与できた実施例1と比較例1の風味剤を用いて、(風味評価2)に基づいて油性食品を調製し、乳味*などの風味を評価した。
油性食品の配合を表2にした。(風味評価2)の結果は表3に示した。
【0044】
【0045】
【0046】
(風味評価1)ではコクや濃厚感は実施例1で付与できていたものの、(風味評価2)で実施例1の油性食品はコクはあるものの、乳味*についてはやや弱いが乳味*を感じられる程度のものであった。
口溶けは実施例、比較例どちらも、ねとつきは感じられず良好であった。
【0047】
●検討2
油性食品を調製した時に、さらに乳味*を感じさせる方法を検討した。
油性食品に有機酸、無機塩、酵母を添加することで、さらに乳に特有のコクや濃厚感のようなものが付与できないかと考えて、実施例1で得られた風味剤を用いて(風味評価2)の検討を実施した。
有機酸として、グルタミン酸ナトリウムを用いた。
無機塩として、塩化ナトリウムを用いた。
酵母を含む素材として、モルトエキスパウダーを用いた。
それぞれを油性食品中に0.45%含むように、表2の油性食品の配合において粉糖と置換した。(風味評価2)の結果を表4に示した。
【0048】
【0049】
有機酸や酵母などを添加しても、(風味評価2)において、乳味*は増加しなかったが、無機塩を添加することで、強く乳味*を感じられミルクチョコレートのような風味であった。コクも乳味*と同様に強く感じられた。どの製造例でも、ねとつきは感じられず良好な口溶けであった。
【0050】
検討1で用いた表1記載の酵素の他、表5に示すアミラーゼ等でも比較例として、無機塩の塩化ナトリウムを添加した検討を実施した。検討1と同様に、粉末状のホワイトソルガムに水、酵素製剤、塩化ナトリウムを加えて前述の(酵素反応)を実施した。(酵素反応)時の水分量は41%で統一した。比較例では反応を55℃8時間とした。
それらを(風味評価1)及び(風味評価2)で評価した。塩化ナトリウムは、(風味評価2)の油性食品として0.45%含まれるように(酵素反応)時に加えた。
評価結果を表5に示した。表中のNaClは塩化ナトリウムを示した。
【0051】
【0052】
実施例では、(風味評価1)で同様にコクや濃厚感を感じられた。 (風味評価2)の乳味*が実施例で、向上した。比較例で用いたアミラーゼなどはコクや濃厚感及び(風味評価2)の乳味*を付与する効果が感じられなかった。
実施例で調製した油性食品は、ねとつきはなく、良好な口溶けであった。
【0053】
●検討3
検討1で(酵素反応)させたホワイトソルガムの代わりに、イネ科植物の種子類と豆類及び麦芽粉末を用いて同様の処理を行った。(酵素反応)には、実施例4で用いたプロテアーゼ(プロタメックス(ノボザイムズ社製))を用いた。また、(風味評価2)で調製する油性食品に0.45%の塩化ナトリウムが含まれるように無機塩量を調整した。(酵素反応)時の水分量は41%で統一した。
モルトパウダーは比較のための試作であり、検討1のような(酵素反応)は実施しないものを用いた。
前述の(酵素反応)で得られた酵素処理物及びモルトパウダーを用いて、(風味評価1)のコク・濃厚感の評価及び(風味評価2)の乳味*と口溶けの評価を実施した。結果を表6に示した。
【0054】
【0055】
実施例で用いたイネ科植物の種子は、風味剤としてのコクや濃厚感を付与できていた。また、油性食品への乳味*を付与し、ミルクチョコレートのような風味を調製できた。
実施例のイネ科植物の種子を用いた油性食品は、良好な口溶けであった。比較例6は若干ねとつきを感じた。
【0056】
●検討4
検討1の(酵素反応)と同様の工程で、用いる酵素の量を調整して、酵素処理物を調製した。
実施例9-aは酵素製剤中の蛋白質量を対粉5質量%とした。その他の実施例及び比較例は酵素製剤量を対粉比率で調整した。(酵素反応)には、実施例4で用いたプロテアーゼ(プロタメックス(ノボザイムズ社製))を用いた。水分量は41%で統一した。
(風味評価2)で調製する油性食品に0.45%の塩化ナトリウムが含まれるように無機塩量を調整した。
得られた酵素処理物を用いて、(風味評価1)のコク・濃厚感の評価及び(風味評価2)の乳味*を実施した。結果を表7に示した。
【0057】
【0058】
比較例のように、酵素量が少ないと、風味剤としての効果が得られなかった。
一方で、酵素製剤の量が変化しても、実施例は(風味評価1)ではコク・濃厚感、(風味評価2)では乳味*を感じられるものであった。口溶けも良好であった。
【0059】
●検討5
検討1の(酵素反応)と同様の工程で、塩化ナトリウム以外の無機塩の効果を確認するために、実施例1で用いた中性プロテアーゼ(ニュートラーゼ0.8L(ノボザイムズ社製))を用いて、無機塩の種類を変更した(酵素反応)を行った。
加える無機塩の量は、対粉3.6%に統一した。また、(酵素反応)時の水分量は41%で統一した。
得られた酵素処理物を用いて、(風味評価2)の評価を実施した。結果を表8に示した。
【0060】
【0061】
無機塩を添加することで、良好な乳味*を油性食品に付与できた。また、どの酵素処理物でも油性食品でのコクを感じられた。
【0062】
●検討6
実施例1で用いた中性プロテアーゼ(ニュートラーゼ0.8L(ノボザイムズ社製))を用いて、検討1同様の(酵素反応)中に塩化ナトリウムを添加した場合と、(酵素反応)では添加せず(風味評価2)において油性食品を調製する際に塩化ナトリウムを添加した場合の風味を比較した。
(酵素反応)工程で加える塩化ナトリウムの量を、対粉3.6%、1.8%、0%の3種類調製した。(酵素反応)時の水分量は41%で統一した。
(酵素反応)工程で塩化ナトリウムを加えなかった0%のものに、油性食品中の塩化ナトリウム量[%]が同じになるように、油性食品調製時に添加した。加えた塩化ナトリウムの分だけ表2の粉糖量を減らした。それぞれを用いて(風味評価2)を実施した。結果を表9に示した。
表中のNaClは塩化ナトリウムを示した。
【0063】
【0064】
塩化ナトリウムを添加するタイミングが、(酵素反応)時でも油性食品調製時であっても、油性食品に乳味*が付与されていることが確認された。口溶けも差異がなく、良好であった。
また、塩化ナトリウムの量を半分にすると、やや乳味*は弱まる傾向があったが、十分に乳味*が感じられるものであり、口溶けも良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、イネ科植物の種子をプロテアーゼ処理した風味剤、特に乳代替物として使用可能な風味剤を提供することができる。得られた風味剤と無機塩を用いて、良好な口溶けと乳味やコクを感じられる油性食品を提供することができる。