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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】流路デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20240501BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240501BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20240501BHJP
   G03F 7/26 20060101ALI20240501BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
G01N35/08 Z
G01N37/00 101
B01J19/00 321
G03F7/26 521
G03F7/004 521
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022173615
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2018126904の分割
【原出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2023027781
(43)【公開日】2023-03-02
【審査請求日】2022-11-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.学会予稿集 発行所名:公益社団法人 応用物理学会 刊行物名:第65回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 発行日 :平成30年3月 5日 2.学会発表主催者名:公益社団法人 応用物理学会 学会名 :第65回応用物理学会春季学術講演会 ポスター発表 公開日 :平成30年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(72)【発明者】
【氏名】江本 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】木本 匠
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆史
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008320(JP,A)
【文献】特開2009-075261(JP,A)
【文献】特開2017-159505(JP,A)
【文献】特開2002-145916(JP,A)
【文献】特開2017-119340(JP,A)
【文献】特開2016-071342(JP,A)
【文献】特開2014-037522(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012212(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178279(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/144967(WO,A1)
【文献】再公表特許第2006/080336(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0089672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08,37/00,
G03F 7/004,7/027,7/038,
G03F 7/26,
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性高分子材料の重合体によって形成された流路を有する流路デバイスであって、
第1基板と、前記第1基板上に形成された前記光重合性高分子材料の重合体からなる硬化層と、前記硬化層上に設けられた第2基板とを有し、
前記硬化層は、所定のパターンの溝を有し、
前記溝は、その両側にそれぞれ形成された隆起部であって、該溝の外側の面よりも上方にせり上がった前記隆起部によって挟まれ、
前記第2基板は、前記隆起部の頭頂部に接着され、
前記第2基板と前記溝の外側の面との間には間隙が形成されており、
前記溝と前記第2基板とによって前記流路が規定された流路デバイス。
【請求項2】
前記溝は、前記硬化層の厚さ方向において、その底面が、該溝の外側の面よりも下方に位置するように形成されている請求項1記載の流路デバイス。
【請求項3】
前記第2基板がガラス基板、樹脂製リジッド基板又は樹脂製フレキシブル基板である請求項1または2記載の流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌治療、iPS細胞及び再生医療等の研究にマイクロ流路デバイス等の流路デバイスが用いられている。マイクロ流路デバイスは、微細な流路に試料及び液体等を流通させて、流路内で化学的又は生化学的反応を生じさせることができる。そのため、マイクロ流路デバイスを用いることにより、極微量の試料であっても所望の物質を分析することができる。
【0003】
マイクロ流路デバイスとして、例えば、特許文献1に記載されているように、流路を備えた樹脂製基板を含むものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-148972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなマイクロ流路デバイスは、通常、金型を用いた成形加工によりマイクロ流路デバイスを構成する部品を作製し、それらを組み合わせることにより製造される。流路の形状等は、分析試料の種類、マイクロ流路デバイスの使用目的等により変更する必要があるため、それに応じて金型を作製しなければならない。しかし、金型の作製には多くの費用及び時間を要する。そのため、マイクロ流路デバイスを少量多品種で製造することは現実的ではなく、また、流路の形状等の変更に応じて迅速にマイクロ流路デバイスを提供することは難しい。
【0006】
低価格なマイクロ流路デバイスを少量多品種で迅速に提供することにより、上述のような研究が促進されることが期待される。従って、より簡便に製造することができるマイクロ流路デバイスが求められている。
【0007】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、金型を用いることなく製造できる流路デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題に鑑み、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、所定のパターンの紫外線を光重合性高分子材料層に照射して当該層の露光部に溝を形成し、次いで当該溝と基板とで規定される流路を形成することにより、金型を用いることなく簡便に流路デバイスを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0009】
発明に係る流路ディバイスは、
第1基板上に形成された光重合性高分子材料層に所定のパターンの紫外線を照射し、光重合性高分子材料層を紫外線で露光することにより、光重合性高分子材料層の露光部と非露光部との境界又はその近傍が隆起してなる溝を形成する工程と、
隆起した部分と第2基板とを接着して、溝と第2基板とで規定される流路を形成する工程とを含む製造方法によって好適に製造することができる
【0010】
前記製造方法によって製造可能な本発明に係る流路ディバイスは、
光重合性高分子材料重合体によって形成された流路を有する流路デバイスであって、
第1基板と、第1基板上に形成された光重合性高分子材料重合体からなる硬化層と、前記硬化層上に設けられた第2基板とを有し、
硬化層は、所定のパターンの溝を有し、
溝は、その両側にそれぞれ形成された隆起部であって、該溝の外側の面よりも上方にせり上がった隆起部によって挟まれ、
第2基板は、隆起部の頭頂部に接着され、
第2基板と溝の外側の面との間には間隙が形成されており、
溝と第2基板とによって流路が規定され流路デバイスである
【発明の効果】
【0011】
本発明により、金型を用いることなく製造可能な流路デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】光重合性高分子材料層に紫外線を照射する様子を示す模式的部分断面図である。
図2】光重合性高分子材料層に溝が形成された様子を示す模式的部分断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る流路デバイスの模式的断面図である。
図4】種々の粘度を有する光重合性高分子材料について、溝の深さと光重合性高分子材料層の厚さとの関係を示すグラフである。
図5】光重合性高分子材料層の厚さの変化に対する溝の深さの変化の割合(傾き)と光重合性高分子材料の粘度との関係を示すグラフである。
図6】溝の深さと光重合性高分子材料層の厚さとの関係を示すグラフである。
図7】MEMSミラーを用いて露光する際の露光系の一例を示す概略図である。
図8】本発明の実施形態に係る製造方法により製造できる流路デバイスの模式的断面図である。
図9】露光マスクを介して光重合性高分子材料層に紫外線を照射する様子を示す模式的部分断面図である。
図10】露光マスクを介して紫外線を照射した際に光重合性高分子材料層に溝が形成された様子を示す模式的部分断面図である。
図11】光重合性高分子材料層に溝が徐々に形成されていく様子を示すレーザー顕微鏡像である。
図12】溝の深さと露光時間との関係を示すグラフである。
図13】本発明の他の実施形態に係る流路デバイスの模式的断面図である。
図14】本発明の実施形態に係る流路デバイスの流路にローダミンBの水溶液を流通させた様子を示す光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る流路デバイス及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。尚、以下の説明において参照する図面は、理解を容易にするために本発明の実施形態を概略的に示したものである。
【0014】
本発明の実施形態に係る流路デバイス90の製造方法は、以下の工程(1)及び工程(2)を含む。
工程(1):図1に示すように、第1基板10上に形成された光重合性高分子材料層30に所定のパターンの紫外線を上方から矢印で示すように照射し、光重合性高分子材料層30を紫外線で露光して、光重合性高分子材料を重合する。これにより、光重合性高分子材料層30における未硬化又は半硬化状態の部分で重合時交差拡散による物質移動が生じ、図2に示すように、光重合性高分子材料層30の露光部と非露光部との境界又はその近傍が隆起してなる溝31を形成する。
工程(2):図3に示すように、光重合性高分子材料層30の隆起した部分(以下、隆起部と呼ぶことがある)32と第2基板50とを接着して、溝31と第2基板50とで規定される流路34を形成する。
【0015】
本明細書において、「光重合性高分子材料」は、光重合性化合物と光重合開始剤とからなる。光重合性高分子材料層30は、所望とする重合反応に応じて適切に選択した光重合性高分子材料を含み、必要に応じて、後述のポリマー及び/又は添加剤を含んでもよい。光重合性高分子材料層30は、光重合性高分子材料を含む塗布液を用いて形成され、当該塗布液は、必要に応じて、光重合性化合物以外のポリマー及び/又は添加剤と、溶媒とを含んでもよい。
【0016】
光重合性高分子材料の重合反応として、例えば、ラジカル重合反応、カチオン重合反応、アニオン重合反応及びチオール・エン重合反応が挙げられる。ラジカル重合反応、カチオン重合反応及びアニオン重合反応において、UV塗膜(すなわち、本願でいう光重合性高分子材料層)中で物質移動が起こることは、例えば、市村著の「UV硬化の基礎と実践」(産業図書株式会社、2010年10月7日、第131頁~第133頁)に記載されている。
Carlos Sanchez等の「Polymerization-induced diffusion as a tool to generate periodic relief structures:A combinatorial study」(Proc. of SPIE 第6136巻、2006年、61360H-1~12)には、ラジカル重合反応におけるUV塗膜での物質移動が記載されている。
また、Ken’ichi Aoki等の「Self-Developable Surface Relief Photoimaging Genetated by Anionic UV-Curing of Epoxy Resins」(Polymer Journal、第41巻、第11、2009年、第988頁~第992頁)には、ラジカル重合反応におけるUV塗膜での物質移動が記載されている。
ラジカル重合反応、カチオン重合反応、アニオン重合反応及びチオール・エン重合反応の中でもチオール・エン重合反応が好ましい。また、これらの重合反応の2つ以上を組み合わせてもよい。
【0017】
ラジカル重合の場合、光重合性高分子材料は、不飽和二重結合を有する光重合性化合物と光ラジカル重合開始剤とからなる。不飽和二重結合を有する光重合性化合物として、例えば、Carlos Sanchez等の上記文献に記載されているジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。光ラジカル重合開始剤は、紫外線によりラジカルを発生するものであれば特に限定されず、例えば、Carlos Sanchez等の上記文献に記載されているBASF社製のIrg369等のアルキルフェノン化合物及びオキシムエステル化合物等が挙げられる。
【0018】
カチオン重合の場合、光重合性高分子材料は、カチオン重合性基を有する光重合性化合物と光酸発生剤とからなる。カチオン重合性基として、例えば、エポキシ基及びオキセタニル基が挙げられ、カチオン重合性基を有する光重合性化合物として、例えば、エポキシノボラック樹脂、多官能エポキシ化合物及びポリグリシジルメタクリレート等が挙げられる。光酸発生剤は、紫外線により酸を発生するものであれば特に限定されず、例えば、ヨードニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。
【0019】
アニオン重合の場合、光重合性高分子材料は、アニオン重合性基を有する光重合性化合物と光塩基発生剤とからなる。アニオン重合性基として、例えば、エポキシ基及びオキセタニル基が挙げられ、アニオン重合性基を有する光重合性化合物として、例えば、Ken’ichi Aoki等の上記文献に記載されているエポキシノボラック樹脂、多官能エポキシ化合物及びポリグリシジルメタクリレート等が挙げられる。光塩基発生剤は、紫外線により塩基を発生するものであれば特に限定されず、例えば、Ken’ichi Aoki等の上記文献に記載されているカルバミン酸化合物等が挙げられる。また、塩基増殖剤として、例えば、Ken’ichi Aoki等の上記文献に記載されているカルバミン酸化合物等を用いてよい。
【0020】
チオール・エン重合の場合、光重合性高分子材料は、ラジカル重合の場合と同様の不飽和二重結合を有する光重合性化合物と光ラジカル重合開始剤と、更にチオール基含有化合物とからなる。チオール基含有化合物として、例えば、アルカンチオール及びアルケンチオール等が挙げられる。チオール・エン重合反応により重合する光重合性高分子材料として、例えば、Norland社製のNOA81、NOA83H、NOA85、NOA68及びNOA65等が挙げられる。なお、このような市販品は通常、例えば、重合防止剤等の添加剤を微量含み得るが、本願でいう光重合性高分子材料とする。
【0021】
流路デバイス90として好ましい流路34の深さ、例えば、3μm程度以上である深さの流路34の形成をより容易にする観点から、光重合性高分子材料の粘度は、好ましくは100cps以上、3000cps以下である。このような粘度を有する光重合性高分子材料を用いると、光重合性高分子材料層30を厚くすることで、光重合性高分子材料層30に深い溝31を容易に形成し得るため、所望の深い流路34を得ることが容易となり得る。すなわち、光重合性高分子材料の粘度が好ましく100cps以上、3000cps以下である場合、溝31の形成をもたらす重合時交差拡散による物質移動が促進されやすいと考えられる。
【0022】
光重合性高分子材料の粘度は、より好ましくは200cps以上、1000cps以下である。後述の実施例2の結果を示す図4から分かるように、光重合性高分子材料が当該粘度範囲であることにより、3μm程度以上である深い溝31を光重合性高分子材料層30に更に容易に形成することができる。光重合性高分子材料の粘度を200cps以上とすることにより、光照射によって形成される隆起部分の流動緩和が抑制されて溝の形状を維持しやすくなり、深い溝31の形成がより容易となる。また、光重合性高分子材料の粘度を1000cps以下とすることにより、光重合性高分子材料層30中での物質移動が促進され、深い溝31の形成がより容易となると共に、物質移動速度が速くなり、流路デバイス90の製造において実用的な溝形成速度を達成することがより容易となる。更に、図4の結果から光重合性高分子材料層30の厚さの変化に対する溝31の深さの変化の割合を直線近似によりを算出した。近似直線の傾きと光重合性高分子材料の粘度との関係を図5に示す。図5に示すように、光重合性高分子材料の粘度によって当該傾きが異なる。これは、光重合性高分子材料層30の厚さの調節による流路34の深さの制御に適切な粘度が存在すること示している。また、光重合性高分子材料の粘度が、より更に好ましく250cps以上、800cps以下であると、光重合性高分子材料層30の厚さの増加に対する溝31の深さの増加の割合がより大きくなるため、光重合性高分子材料層30を厚くすることで、より深い流路34を得ることが更に容易となり得る。流路34の深さは、第2基板の下面から流路34の底部までの垂直方向の高さである。
【0023】
上述のように、光重合性高分子材料層30は、光重合性高分子材料に加えて、必要に応じて、ポリマー及び/又は添加剤を含んでもよい。光重合性高分子材料層30がポリマー及び/又は添加剤を含む場合、光重合性化合物が重合する際の物質移動において、ポリマー及び添加剤が拡散することにより深い溝31を得ることがより容易となり得るため、深い流路34を得ることがより容易となり得る。
【0024】
光重合性高分子材料を含む塗布液は、上述のような深い溝31の形成の容易性に加えて、第1基板10上への塗布性及び光重合性高分子材料層30の成膜性等の観点から、例えば、ポリメチルメタクリレート及びポリベンジルメタクリレート等のポリマーを含んでよい。ポリマーを含む塗布液を用いて光重合性高分子材料層30を形成した場合、光重合性高分子材料層30は光重合性高分子材料に加えてポリマーを含むものとなる。
【0025】
光重合性高分子材料を含む塗布液は、本発明の目的を阻害しない範囲で添加剤を含んでよい。添加剤として、例えば、可塑剤及び安定剤等が挙げられる。更に、添加剤として、例えば、顔料やフィラーが挙げられる。添加剤を含む塗布液を用いて光重合性高分子材料層30を形成した場合、光重合性高分子材料層30は光重合性高分子材料に加えてポリマーを含むものとなる。
【0026】
光重合性高分子材料を含む塗布液は、第1基板10上への塗布性等の観点から、例えば、クロロホルム等の溶媒を含んでよい。
【0027】
光重合性高分子材料を含む塗布液を第1基板10に塗布する方法は特に限定されず、スピンコート法又はスリットコート法等を用いてよい。
【0028】
溶媒を含有する塗布液を用いて光重合性高分子材料層30を形成した場合、光重合性高分子材料層30を露光する前に、通常、例えば、自然乾燥又は減圧乾燥等により、溶媒の一部あるいは全部を除去する。
【0029】
光重合性高分子材料を含む上述のような塗布液を用いて形成する光重合性高分子材料層30の厚さは特に限定されず、最終的に得られる流路デバイス90の流路34の流通方向に垂直な断面の面積等を考慮して適宜調節してよい。後述の実施例3の結果を示す図6から分かるように、光重合性高分子材料層30が厚くなるにつれて、光重合性高分子材料に形成される溝31が深くなり、より深い流路34が得られる傾向がある。
【0030】
第1基板10を構成する材料は特に限定されず、例えば、ガラス又は樹脂であってよい。当該樹脂は特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニール及びABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)等が挙げられる。第1基板10を構成する材料が樹脂である場合、第1基板10は、樹脂製リジッド基板、又は樹脂フィルム等の樹脂製フレキシブル基板であってよい。
【0031】
図1に示すように、光重合性高分子材料層30が形成された第1基板10上に、所定のパターンの紫外線を上方から矢印で示すように照射し、光重合性高分子材料層30を露光する。これにより、図2に示すように、光重合性高分子材料層30の露光部と非露光部との境界又はその近傍が隆起してなる溝31が形成される。所定のパターンの紫外線を照射する方法は特に限定されず、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System、微小電気機械システム)ミラーを用いて、紫外線の照射位置をプログラムで制御して、マスクを使用せずに光重合性高分子材料層30を露光してよい。図7に示すような露光系を用い、光源からの紫外光をレンズ1及び2を介してMEMSミラーで反射し、レンズ3及び4を介して光重合性高分子材料層30上に照射してよい。
【0032】
光重合性高分子材料層30に溝31を形成した後、図3に示すように、光重合性高分子材料層30の隆起部32と第2基板50とを接着して、溝31と第2基板50とで規定される流路34を形成し、流路デバイス90を得る。
【0033】
また、第2基板50を光重合性高分子材料層30の隆起部32と接触させた後、第2基板50を光重合性高分子材料層30に向かって押し込むことにより、光重合性高分子材料層30の隆起部32に加えて、未露光部にも第2基板50が接着した流路デバイス90を得てもよい。このようにして得られる流路デバイス90の一例である図8において、隆起部32は消失し、隆起部32であった部分は、未露光部と一体となって平坦な硬化層30を形成しており、第2基板50は硬化層30に接着している。
【0034】
光重合性高分子材料層30の露光は、露光マスクで光重合性高分子材料層30を覆い、マスク上に紫外線を照射することにより行ってもよい。以下、露光マスクを用いて光重合性高分子材料層30を露光する場合を例に、光重合性高分子材料層30に溝31を形成する工程について更に説明する。
【0035】
図9に示すような紫外線を透過させる透光部71と紫外線を遮断する遮光部72とからなる所定のパターンを有する第3基板70を準備する。以下、第3基板70を露光マスクと呼ぶことがある。露光マスク70を構成する材料は、上記透光部71と遮光部72とを備えることができる限りは特に限定されず、例えば、紫外線を透過させる透光部材である石英ガラス又はガラスに遮光部72としてクロム膜を形成することにより露光マスク70を準備してよい。
【0036】
図9に示すように、露光マスク70を、光重合性高分子材料層30との間に間隙を設けて、光重合性高分子材料層30上に配置する。その後、図9の上方から矢印で示すように、露光マスク70上に紫外線を照射し、露光マスク70の透光部71を介して光重合性高分子材料層30を紫外線で露光する。
【0037】
図10に示すように、光重合性高分子材料層30を露光することにより、光重合性高分子材料層30の露光部と非露光部との境界又はその近傍が隆起してなる溝31が形成される。露光条件は特に限定されず、重合反応の種類、材料の種類、及び最終的に得られる流路デバイス90の流路34の流通方向に垂直な断面の面積等を考慮して適宜調節してよい。
【0038】
ここで、光重合性高分子材料層30における溝31の形成について、その一例を示す図11を用いて更に詳しく説明する。図11は、露光部の幅(すなわち、マスク幅)が500μmである露光マスク70を用いて、後述の実施例4で詳細に説明するように、7.3mW/cmのパワー密度で5~300秒間、光重合性高分子材料層30を露光した際の溝31の形成を示す。図11において、横軸125~625μm及び縦軸で規定される範囲が露光マスク70の透光部71であり、他の範囲が露光マスク70の遮光部72である。
【0039】
図11に示すように、光重合性高分子材料層30の重合が進行する、すなわち、露光時間が長くなるにつれて、光重合性高分子材料層30に溝31が徐々に形成される。これは、光重合性高分子材料層30を露光することにより、未露光部から露光部への物質移動が起きるためである。典型的には、露光時間が長くなるにつれて、露光部から非露光部の方向に向かって隆起部32の頭頂部33が移動し、また、隆起部32の頭頂部33が上方にせり上がる。隆起部32の頭頂部33は、露光時間が15~60秒までの図に示されるように露光マスク70の透光部71に位置してよいが、露光時間300秒の図の右側の頭頂部33のように露光マスク70の遮光部72に位置してもよい。
【0040】
後述の実施例4の結果を示す図12から分かるように、露光時間が長くなるにつれて、光重合性高分子材料層30に形成される溝31が深くなるため、深い流路34が得られる。一方で、露光時間が長くなるにつれて深さの変化は飽和傾向となる。これは、光重合性高分子材料層30の露光部の光重合性高分子材料が移動すると同時に硬化が徐々に進行し、結果として光重合性高分子材料が移動しにくくなるためであると考えられる。
【0041】
1つの実施形態において、光重合性高分子材料層30に溝31を形成した後、露光マスク70を取り除き、光重合性高分子材料層30の隆起部32と第2基板50とを接着して、図3に示すように溝31と第2基板50とで規定される流路34を形成し、流路デバイス90を得る。
【0042】
第2基板50を構成する材料は特に限定されず、例えば、ガラス又は樹脂であってよい。当該樹脂は特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニール及びABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)等が挙げられる。第2基板50を構成する材料が樹脂である場合、第2基板50は、樹脂製リジッド基板、又は樹脂フィルム等の樹脂製フレキシブル基板であってよい。第2基板50上に紫外線を照射する後述する工程を行う場合には、紫外線透過の観点から、ガラス等であることが好ましい。
【0043】
別の実施形態において、露光マスク、すなわち、第3基板70を第2基板50として用いる、すなわち、光重合性高分子材料層30の隆起部32を第3基板70と接着することにより、図13に示すように溝31と第3基板70とで規定される流路34を形成し、流路デバイス90を得る。隆起部32を第3基板70と接着する1つの方法として、光重合性高分子材料層30に溝31を形成した後、光重合性高分子材料層30と第3基板70との間の間隙を狭めることが挙げられる。光重合性高分子材料層30の隆起部32を第3基板70と接着する他の方法として、光重合性高分子材料層30に溝31を形成する際、光重合性高分子材料層30の隆起部32がせり上がって第3基板70と接着するまで露光を継続することが挙げられる。
【0044】
隆起部32と第2基板50又は第3基板70との接着をより確実にする観点から、あるいは、光重合性高分子材料の重合をより促進する観点から、例えば、隆起部32と第2基板50又は第3基板70とを接着させた後、光重合性高分子材料層30を紫外線で更に重合するか、あるいは、熱重合することにより更に硬化させてよい。このようにして光重合性高分子材料層30を更に硬化させることにより、流路デバイス90の強度を更に向上させることができる。
【0045】
1つの好ましい実施形態において、第2基板50は紫外線を透過させる透光部材であり、光重合性高分子材料層30の隆起部32を第2基板50と接着して流路34を形成した後、第2基板50上に紫外線を照射する工程を含む。これにより、とりわけ光重合性高分子材料層30の未露光部を重合することができ、また、隆起部32の重合を更に促進し、隆起部32と第2基板50とのより良好な接着を得ることができる。
【0046】
他の好ましい実施形態において、光重合性高分子材料層30の隆起部32を第3基板70と接着して流路34を形成した後、第3基板70上に紫外線を照射する工程を含む。これにより、第3基板70の透光部71に位置する隆起部32の重合を更に促進し、隆起部32と第3基板70とのより良好な接着を得ることができる。
【0047】
図3及び13に示すように、本発明の実施形態に係る流路デバイス90は、光重合性高分子材料が重合して形成された流路34を有している。より具体的には、光重合性高分子材料が重合した硬化層30が第1基板10上に形成されており、硬化層30には、当該層の一部が隆起してなる所定のパターンの溝31が形成され、隆起部32と第2基板50又は第3基板70とが接着して、溝31と第2基板50又は第3基板70とで規定される流路34が形成されている。
【0048】
本発明により、費用及び作製時間を多く要する金型を用いることなく、簡便に流路デバイスを製造することができる。本発明は、低価格な流路デバイスを少量多品種で迅速に提供することができため、流路デバイスを用いる癌治療、iPS細胞及び再生医療等の研究を促進することができる。
更に、MEMSミラーを用い、紫外線の照射位置をプログラムで制御して、光重合性高分子材料層を露光して流路パターンを形成することにより、簡単なプログラム入力で所望の流路パターンを有する流路デバイスを迅速に作製することができる。そのため、本発明は、オンデマンドで流路デバイスを提供することができ、上述のような研究のより一層の促進を可能にする。
【実施例
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する本発明に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
(実施例1)
Norland社製のNOA83Hとクロロホルムとを混合して塗布液を調製し、スピンコート法によりガラス基板(第1基板10)上に塗布液を塗布し、自然乾燥によりクロロホルムを除去して、ガラス基板10上に光重合性高分子材料層30を形成した。光重合性高分子材料層30の厚さは14μmであった。
【0051】
所定のパターンを有する露光マスク70を、光重合性高分子材料層30との間に間隙を設けて光重合性高分子材料層30上に配置した。その後、露光マスク70上に紫外線を照射し、露光マスク70の透光部71を介して光重合性高分子材料層30を紫外線で露光し、光重合性高分子材料層30に溝31を形成した。露光部の幅は500μm、パワー密度は7.3mW/cm、露光時間は80秒であった。
【0052】
露光マスク70を取り除き、光重合性高分子材料層30の隆起部32とガラス基板(第2基板50)とを接着して流路34を形成した後、更にガラス基板50上から紫外線を照射し、流路デバイス90を得た。キーエンス株式会社製のレーザー顕微鏡「VK-X210」を用いて流路34の深さを測定した。流路34の深さは13.8μmであった。
【0053】
図14に示すように、得られた流路デバイス90の流路34にローダミンBの水溶液を流通させ、流路34から他の部分に溶液が漏れないことを確認した。すなわち、光重合性高分子材料が重合して形成した溝31とガラス基板50とで規定される流路34を有する流路デバイス90を作製することができた。
【0054】
(実施例2)
Norland社製のNOA83H(粘度250cps)、NOA81(粘度300cps)、NOA85(粘度200cps)及びNOA65(粘度1000cps)を、それぞれ単独で、そのまま塗布液として用いた。
【0055】
これらの塗布液を用いて、光重合性高分子材料層30の厚さを変化させた以外は、実施例1と同様にして、光重合性高分子材料層30に溝31を形成した。キーエンス株式会社製のレーザー顕微鏡「VK-X210」を用いて、光重合性高分子材料層30に形成した溝31の深さを測定した。なお、実施例2では、実施例1とは異なり、クロロホルムを使用しなかったため、塗布液をガラス基板10上に塗布した後の自然乾燥は行わなかった。図4に示すように、いずれの塗布液を用いても、3μm程度より深い溝31を形成することができた。とりわけ、粘度が250cpsであるNOA83Hを用いた塗布液、及び粘度が300cpsであるNOA81を用いた塗布液を使用した場合、光重合性高分子材料層30を厚くすることでより深い溝31を得ることが更に容易であった。
【0056】
(実施例3)
光重合性高分子材料層30の厚さを11~27μmに変化させた以外は、実施例1と同様にして、光重合性高分子材料層30に溝31を形成した。実施例2と同様にして、光重合性高分子材料層30に形成した溝31の深さを測定した。図6に示すように、光重合性高分子材料層30が厚くなるにつれて溝31が深くなった。
【0057】
(実施例4)
光重合性高分子材料層30の厚さを14μmとし、露光時間を15~300秒に変化させた以外は、実施例1と同様にして、光重合性高分子材料層30に溝31を形成した。実施例2と同様にして、光重合性高分子材料層30に形成した溝31の深さを測定した。図12に示すように、露光時間が長くなるにつれて溝31が深くなった。
【符号の説明】
【0059】
10 第1基板
30 光重合性高分子材料層、硬化層
31 溝
32 隆起部
33 隆起部の頭頂部
34 流路
50 第2基板
70 第3基板(露光マスク)
71 透光部
72 遮光部
90 流路デバイス
図1
図2
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図14