(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】水中ポンプとその設備
(51)【国際特許分類】
F04D 29/54 20060101AFI20240501BHJP
F04D 13/08 20060101ALI20240501BHJP
F04D 11/00 20060101ALI20240501BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
F04D29/54 A
F04D13/08 K
F04D11/00 101
F04D29/66 A
(21)【出願番号】P 2020118987
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019143974
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168193
【氏名又は名称】株式会社ミゾタ
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【氏名又は名称】町田 光信
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊勝
(72)【発明者】
【氏名】山田 英佑
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 拓也
(72)【発明者】
【氏名】多久 和彦
(72)【発明者】
【氏名】有松 勲
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-308508(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178387(WO,A1)
【文献】特開2007-032036(JP,A)
【文献】特開2001-304190(JP,A)
【文献】特開昭60-153491(JP,A)
【文献】特開2004-132301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/54
F04D 13/08
F04D 11/00
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方に吸込口と他方に排出口を有したケーシングと、
前記ケーシング内に固定され回転駆動するための電動機と、
前記電動機の出力軸に連結され回転駆動される羽根車と、
一端が前記吸込口に固定され、他端が水を吸い込むための開口部が形成された吸込カバーと
からなる水中ポンプにおいて、
前記吸込カバーは、
前記吸込口の水位が前記羽根車の下端位置(Y3)よりも低くなっても全量排水運転が可能なように、前記開口部の上縁位置(Y1)よりも前記羽根車の前記下端位置(Y3)を高い位置に配置
することにより、
前記水位が上昇する時は、気中待機運転から前記全量排水運転に瞬時に移行し、前記水位が下降する時は、前記全量排水運転から前記気中待機運転に瞬時に移行となり、
前記水中ポンプは、軸流ポンプ、又は斜流ポンプであ
り、
前記電動機の前記出力軸の軸線は、前記排出口よりも前記吸込口が低くなるように水平から所定角度傾斜して
、又は水平に配置されている
ことを特徴とする水中ポンプ。
【請求項2】
請求項
1に記載の水中ポンプにおいて、
前記軸流ポンプ、又は前記斜流ポンプは、前記ケーシングに固定された案内羽根を有し、
前記軸流ポンプは、前記吸込口側から前記案内羽根、前記羽根車の順に配置されており、
前記斜流ポンプは、前記吸込口側から前記羽根車、前記案内羽根の順に配置されているものである
ことを特徴とする水中ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水中ポンプにおいて、
前記開口部は、前記開口部の上縁よりも下流側に前記開口部の下縁が形成され、かつ、前記下縁が前記上縁よりも低い位置に位置するように形成されている
ことを特徴とする水中ポンプ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水中ポンプにおいて、
前記開口部は、前記開口部の上縁よりも下流側に前記開口部の下縁が形成され、かつ、前記下縁が前記上縁よりも低い位置に位置するように、水平から所定角度傾斜して直線状に形成されている
ことを特徴とする水中ポンプ。
【請求項5】
請求項1ないし
4から選択される1項に記載の水中ポンプを用いた水中ポンプ設備であって、
前記水中ポンプは、河川又は水路を横断する水門、又は樋門に搭載されている
ことを特徴とする水中ポンプ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中ポンプとその設備に関する。更に詳しくは、河川等を横断して設けられる水門の扉体に固定して配置される水中ポンプであって、吸込口側の水位が全量排水運転可能な最低水位以下でも定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することを可能にした水中ポンプとその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
水中ポンプでは、吸込口側の水位がある水位以下になると、吸込口から空気がポンプケーシングに吸いまれて気水混合運転となり、排水量が低下して振動や騒音が大きくなる。そのため、吸込口側の水位がある水位以下になると、ポンプの運転を一旦停止し、その後流入量が増大して吸込口側の水位が上昇した時にポンプを再起動している。このように、吸込口側の水位に応じて頻繁にポンプのオン、オフが繰り返されると、運転管理が煩雑で、ポンプの起動頻度が煩雑になるため、水中電動機及び始動器への負担が大きくなるため好ましくない。
【0003】
特許文献1に記載の水中ポンプは、水中ポンプの吸込口の上部に整流効果を備えた吸込カバーを設置することで、空気吸込渦、水中渦の発生を抑え、より低水位まで運転できるようにしている。また、特許文献2の水中ポンプは、吸込口側の水位の低下時には、吸込カバーの切り欠きや吸気管から空気を吸わせ、気水混合運転を行って排水量を低下させ、吸込口側の水位が全量排水運転時の水位以下でも、定格回転数での運転を維持し、ポンプのオン、オフの繰り返しを抑制している。しかし、特許文献2に記載の水中ポンプは、気水混合運転中は振動や騒音が大きくなり、排水量も低下する。また、更に水位が低下すると、排水量が失われたまま定格回転数で運転すると気中待機運転に移行するが、気水混合運転は可能な限り短い、又は事実上無いほうが良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-3450号公報
【文献】WO2016/178387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような背景で発明されたものであり、以下の目的を達成するものである。本発明の目的は、吸込口側の水位が全量排水運転可能な最低水位以下でも、定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することを可能にした水中ポンプとその設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために、次の手段を採る。
即ち、本発明1の水中ポンプは、
一方に吸込口と他方に排出口を有したケーシングと、
前記ケーシング内に固定され回転駆動するための電動機と、
前記電動機の出力軸に連結され回転駆動される羽根車と、
一端が前記吸込口に固定され、他端が水を吸い込むための開口部が形成された吸込カバーと
からなる水中ポンプにおいて、
前記吸込カバーは、
前記吸込口の水位が前記羽根車の下端位置(Y3)よりも低くなっても全量排水運転が可能なように、前記開口部の上縁位置(Y1)よりも前記羽根車の前記下端位置(Y3)を高い位置に配置することにより、
前記水位が上昇する時は、気中待機運転から前記全量排水運転に瞬時に移行し、前記水位が下降する時は、前記全量排水運転から前記気中待機運転に瞬時に移行となり、
前記水中ポンプは、軸流ポンプ、又は斜流ポンプであり、
前記電動機の前記出力軸の軸線は、前記排出口よりも前記吸込口が低くなるように水平から所定角度傾斜して、又は水平に配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明2の水中ポンプは、本発明1において、前記軸流ポンプ、又は前記斜流ポンプは、前記ケーシングに固定された案内羽根を有し、前記軸流ポンプは、前記吸込口側から前記案内羽根、前記羽根車の順に配置されており、前記斜流ポンプは、前記吸込口側から前記羽根車、前記案内羽根の順に配置されているものであることを特徴とする。
本発明3の水中ポンプは、本発明1又は2において、前記開口部は、前記開口部の上縁よりも下流側に前記開口部の下縁が形成され、かつ、前記下縁が前記上縁よりも低い位置に位置するように形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明4の水中ポンプは、本発明1又は2において、前記開口部は、前記開口部の上縁よりも下流側に前記開口部の下縁が形成され、かつ、前記下縁が前記上縁よりも低い位置に位置するように、水平から所定角度傾斜して直線状に形成されていることを特徴とする。
本発明5の水中ポンプ設備は、本発明1ないし4から選択される1項に記載の水中ポンプを用いた設備であって、前記水中ポンプは、河川又は水路を横断する水門、又は樋門に搭載されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中ポンプとその設備は、吸込口側水位が全量排水運転可能な最低水位以下になれば、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行し、気中待機運転中に吸込口側水位が上昇すれば、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行する。従って、気水混合運転がなく、又は短時間で終了するので振動・騒音を小さくして、定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が全量排水運転に十分な水位の状態を示す。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が水位下降時のとき、全量排水運転可能最低水位の状態を示す。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が開口部の上縁近傍よりも低下して落水直後の状態を示す。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態の吸込カバーの斜視図である。
【
図5】
図5は、吸込口側水位を上下した時の従来の水中ポンプの電流と振動を示すグラフである。
【
図6】
図6は、吸込口側水位を上下した時の本発明の第1の実施の形態の水中ポンプの電流と振動を示すグラフである。
【
図7】
図7は、吸込口側水位を上下した時の従来の水中ポンプと本発明の第1の実施の形態の水中ポンプの排出側の流量と騒音を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が水位下降時の全量排水運転可能最低水位の状態を示す。
【
図9】
図9は、吸込カバーの他の実施の形態を示す縦断面図である。
【
図10】
図10は、吸込カバーの更に他の実施の形態を示す縦断面図である。
【
図11】
図11は、吸込カバーの更に他の実施の形態を示す正面図と左側面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第3の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の第4の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔水中ポンプの第1の実施の形態〕
以下、本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が全量排水運転に十分な水位の状態を示す。
図2は本発明の第1の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が水位下降時のとき、全量排水運転可能な最低水位の状態を示す。
図3は本発明の第1の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図であり、吸込口側水位が開口部の上縁近傍よりも低下して落水直後の状態を示す。
図4は本発明の第1の実施の形態の吸込カバーの斜視図である。
図1から
図4に示すように、本発明の第1の実施の形態の水中ポンプ1は、河川、水路、下水路等を横断して設けられた水門又は樋門の扉体100に、ブラケット101を介して固定されている。尚、ケーシング2のフランジ部にて直接、水門又は樋門の扉体100に固定することも可能である。これは、水門(ゲート)に水中ポンプを搭載して一体化したもので、ゲートポンプ(日本国商標登録第2585973号、一般名称は「ポンプゲート」である。)と呼ばれているものである。
【0014】
水中ポンプ1は、本例では軸流ポンプと呼ばれているものであり、一方(
図1から
図3の左側)に吸込口21と他方(
図1から
図3の右側)に排出口22を有したケーシング2を有している。ケーシング2の内部には回転駆動するための電動機3が固定されている。電動機3には、排出口22側に出力軸31が取り付けられ、出力軸31に羽根車32が固定され、電動機3の回転が羽根車32に伝達される。羽根車32よりも吸込口21側(上流側)には、ケーシング2の内周とオイル室34の外周との間に案内羽根33が固定されている。案内羽根33は、羽根車32で汲み上げられる水を案内している。
【0015】
ケーシング2には、排出口22側に開閉可能に支持されたフラップ弁4が取り付けられている。フラップ弁4は、排出口22からの水の吐出圧力が低い時には、自重により閉じ、水の吐出圧力が高くなると上部の支点を中心にして開くことで、排出口22からの水の排出を可能にする。ケーシング2の吸込口21には、水を吸込口21に円滑に誘導するための吸込カバー5が固定されている。
図4に示すように、吸込カバー5は、一枚の上板51と二枚の側板52、52で形成されている。上板51は、
図1から
図4の左側が低くなるように水平から所定角度傾斜して配置され、
図1から
図4の左端に水平な吸込案内板511が形成されている。側板52、52は、上板51の両側面に、上板51から下方に向かって、
図1から
図3の紙面に平行に形成されている。側板52、52の下辺521、521は、
図1から
図4の右側が低くなるように水平から所定角度傾斜して直線状に形成されている。下記の吸込カバーの変形例に示すように、側板52、52の下辺521、521の形状は直線状に限定されるものではない。吸込カバー5には、上板51、側板52、52、吸込案内板511で囲まれた下面に開口部53が形成され、この開口部53から水を吸い込む。
【0016】
図1から
図3に示すように、水中ポンプ1の出力軸31の軸線311は、排出口22側よりも吸込口21側が低くなるように水平から所定角度傾斜して配置されている。
図2で、水路の底面102から開口部53の上縁(吸込案内板511の下面)531までの高さをY1、水路の底面102から羽根車32の下端までの高さをY3とすると、Y3がY1よりも高い位置に位置するように傾斜角度が設定されている。ポンプ口径(吐出口の直径)が300ミリ(mm)の水中ポンプ1の例では、Y1が300ミリ、Y3が340ミリに設定されている。
図1に示すように、吸込口側水位がY1よりも十分に高い状態の場合、電動機3を定格回転数で回転駆動すれば、水中ポンプ1は、開口部53から空気を吸い込まないので、全量排水運転が行われ、フラップ弁4が開く。
【0017】
全量排水運転中に吸込口側水位が低下しても、
図2に示すように、吸込口側水位がY1よりも10ミリ程度以上高ければ、開口部53から空気を吸い込まないので、吸込カバー5内及びケーシング2内は水で満たされている。従って、水中ポンプ1は定格回転数で全量排水運転が継続して行われる。すなわち、水中ポンプ能力を考慮して、吸込案内板511近傍の水の流速が1m/s以下となるようY1を決定している。側板52、52の下辺521、521は、水平から所定角度傾斜した直線状に形成されて、開口部53の上縁531と開口部53の下縁532を連続的に結ぶ直線状に形成されている。開口部53の下縁532は、開口部53の上縁531よりも吸込口21側(下流側)に形成されている。従って、側面からの空気の吸込が無く、吸込口側水位が羽根車32の下端より低くなっても定格回転数で全量排水運転が可能となっている。ポンプ口径が300ミリの水中ポンプ1の例では、水路の底面102から開口部53の下縁532までの高さY2が150ミリに設定されている。
【0018】
吸込口側水位が
図2の水位よりも低下すると、開口部53から空気が吸い込まれる。その結果、
図3に示すように、水中ポンプ1の吸込カバー5内及びケーシング2内の水が瞬時に落水して、フラップ弁4が自重により閉じ、羽根車32が空気中に露出した気中待機運転(電動機3は定格回転数で回転駆動状態を継続している。)となる。従って、騒音や振動が小さく、電動機3への負担が少ない。この落水のメカニズムは下記の通りである。(1)吸込口側水位が低下すると、開口部53から断続的に空気が吸い込まれる(2)空気を吸い込んだ水中ポンプ1は吐き出し量が大きく変動する(3)水中ポンプ1の吐き出し量が大きく変動することで、吸込口側水位が上下に波打つ(4)吸込口側水位が大きく下がったとき、横に広がった開口部53から多量の空気を吸い込む(5)多量の空気の吸い込みにより、水中ポンプ1内が落水する(数回の空気の吸い込みで落水する。)。吸込口側水位が
図3の水位よりも更に低下(例えば図示しない水位計で測定)しても、設定された時間内(例えば図示しないタイマーで設定)であれば、気中待機運転を継続する。従って、気水混合運転が無いため、騒音や振動が少ない。
【0019】
図3の状態から吸込口側水位が上昇すると、羽根車32の下端が水面下を通過するため水を攪拌する。しかし、ケーシング2内には開口部53から新しい空気が吸い込まれず、また羽根車32が水を送り出す程度に水没していないため、気水混合運転は行われず、騒音や振動が少ない。吸込口側水位が更に上昇し、吸込口側水位が
図3のY4(羽根車32が60%程度水没する水位)の水位になると、再び全量排水運転が始まり、フラップ弁4が開く。ポンプ口径が300ミリの水中ポンプ1の例では、水位上昇時の全量排水開始水位Y4は490ミリである。本発明の第1の実施の形態の水中ポンプ1は、吸込口側水位が全量排水運転可能な最低水位以下になれば、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行し、気中待機運転中に吸込口側水位が上昇すれば、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行する。従って、気水混合運転がなく、振動・騒音を小さくして、定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することが可能となる。
【0020】
図5から
図7は、電動機を定格回転数で連続的に回転駆動し、吸込口側水位を上下させた時の、電流、振動、排出側の流量と騒音を測定したグラフである。
図5は従来の水中ポンプ(ポンプ口径が300ミリ)の電動機の電流(A)とX方向、Y方向、Z方向の振動(μm)を示すグラフである。
図5では、吸込口側水位を200ミリから540ミリまで上昇させた後、200ミリまで下降させている。従来の水中ポンプとは、電動機の出力軸の軸線が水平に配置された特許文献2に記載されたようなタイプの水中ポンプである。
図5に示すように、水位が380ミリに達した時と、水位が380ミリに下降した時の2箇所の水位で、気水混合運転が起きるため、電流(A)の変動と、X方向、Y方向、Z方向の振動(μm)の変動が大きくなる。
【0021】
図6は本発明の第1の実施の形態の水中ポンプ(ポンプ口径が300ミリ)1の電動機3の電流(A)とX方向、Y方向、Z方向の振動(μm)を示すグラフである。
図6では、吸込口側水位を200ミリから600ミリまで上昇させた後、200ミリまで下降させている。
図6に示すように、水位が上昇する時は、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行し、水位が下降する時は、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行し、気水混合運転が起きないため、電流(A)の変動と、X方向、Y方向、Z方向の振動(μm)の変動が小さくなる。
【0022】
図7は従来の水中ポンプ(ポンプ口径が300ミリ)と本発明の第1の実施の形態の水中ポンプ(ポンプ口径が300ミリ)1の排出側の流量(m
3/min)と水中ポンプの騒音(dB)を示すグラフである。
図7では、電動機を定格回転数で連続的に回転駆動し、吸込口側水位を
図5、
図6と同様に上下している。
図7に示すように、従来の水中ポンプは空気を吸い込んで気水混合運転が起きるため、気中待機運転から全量排水運転への切り替わり、及び、全量排水運転から気中待機運転への切り替わりに時間がかかり、騒音も大きい。これに対して本発明の第1の実施の形態の水中ポンプ1は、気水混合運転が起きないため、気中待機運転から全量排水運転への切り替わり、及び、全量排水運転から気中待機運転への切り替わりが瞬時に行われ、騒音も小さい。
【0023】
〔水中ポンプの第2の実施の形態〕
以下、本発明の第2の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図8は本発明の第2の実施の形態の水中ポンプ10を示す縦断面図であり、吸込口側水位が水位下降時の全量排水運転可能な最低水位の状態を示す。第2の実施の形態の水中ポンプ10は、出力軸31の軸線311を水平に配置した例である。以下の説明では、上記第1の実施の形態の水中ポンプ1と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。水中ポンプ10の電動機3には、排出口22側に水平な出力軸31が取り付けられ、出力軸31に羽根車32が固定され、電動機3の回転が羽根車32に伝達される。羽根車32よりも吸込口21側(上流側)には、ケーシング2の内周とオイル室34の外周との間に案内羽根33が固定されている。案内羽根33は、羽根車32で汲み上げられる水を案内している。
【0024】
ケーシング2の吸込口21には、水を吸込口21に円滑に誘導するための吸込カバー5Aが固定されている。
図8に示すように、吸込カバー5Aは、一枚の上板51Aと二枚の側板52A、52Aで形成されている。上板51Aは、
図8の左側が低くなるように二段階に折れ曲がって形成され、
図8の左端に水平な吸込案内板511Aが形成されている。第2の実施の形態の水中ポンプ10の上板51Aは、第1の実施の形態の水中ポンプ1と同様に、所定角度傾斜した直線状に形成してもよい。この場合の上板51の側板52A、52Aは、上板51Aの両側面に、上板51Aから下方に向かって、
図8の紙面に平行に形成されている。側板52A、52Aの下辺521A、521Aは、
図8の右側が低くなるように水平から所定角度傾斜して直線状に形成されている。吸込カバー5Aには、上板51A、側板52A、52A、吸込案内板511Aで囲まれた下面に開口部53Aが形成され、この開口部53Aから水を吸い込む。
【0025】
図8に示すように、水路の底面102から開口部53Aの上縁(吸込案内板511Aの下面)531Aまでの高さをY1、水路の底面102から羽根車32の下端までの高さをY3とすると、Y3がY1よりも高い位置に位置するように吸込カバー5Aの形状が設定されている。吸込口側水位がY1よりも十分に高い状態の場合、電動機3を定格回転数で回転駆動すれば、水中ポンプ10は、開口部53Aから空気を吸い込まないので、全量排水運転が行われ、フラップ弁4が開く。
【0026】
全量排水運転中に吸込口側水位が低下しても、
図8に示すように、吸込口側水位がY1よりも10ミリ程度以上高ければ、開口部53Aから空気を吸い込まないので、吸込カバー5A内及びケーシング2内は水で満たされている。従って、水中ポンプ10は定格回転数で全量排水運転が継続して行われる。側板52A、52Aの下辺521A、521Aは、水平から所定角度傾斜した直線状に形成されて、開口部53Aの上縁531Aと開口部53Aの下縁532Aを連続的に結ぶ直線状に形成されている。従って、水路の底面102から開口部53Aの下縁532Aまでの高さY2は、水路の底面102から開口部53Aの上縁531Aまでの高さY1よりも低い位置に設定されている。また、開口部53Aの下縁532Aは開口部53Aの上縁531Aよりも吸込口21側(下流側)に形成されている。従って、側面からの空気の吸込が無く、吸込口側水位が羽根車32の下端より低くなっても定格回転数で全量排水運転が可能となっている。
【0027】
吸込口側水位が
図8の水位よりも低下すると、開口部53Aから空気が吸い込まれる。その結果、図示はしないが、水中ポンプ10の吸込カバー5A内及びケーシング2内の水が瞬時に落水して、フラップ弁4が自重により閉じ、羽根車32が空気中に露出した気中待機運転(電動機3は定格回転数で回転駆動状態を継続)となるために騒音や振動が小さく、電動機3への負担が少ない。吸込口側水位が更に低下しても、設定された時間内(例えば図示しないタイマーで設定)であれば、気中待機運転を継続する。従って、第2の実施の形態の水中ポンプ10は、気水混合運転が無いため、騒音や振動が少ない。本発明の第2の実施の形態の水中ポンプ10は、吸込口側水位が全量排水運転可能な最低水位以下になれば、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行し、気中待機運転中に吸込口側水位が上昇すれば、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行する。この結果、気水混合運転がなく、振動・騒音を小さくして、定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することが可能となる。
【0028】
〔吸込カバーの他の実施の形態〕
図9は吸込カバーの他の実施の形態を示す縦断面図であり、第1の実施の形態の水中ポンプ1の吸込カバー5の変形例であり、側板52と下辺521の変形例である。
図9(a)の吸込カバー5Bの側板52B、52Bの下辺521B、521Bは、右側が低くなるように二段階に折れ曲がって形成され、開口部53Bの上縁531Bと開口部53Bの下縁532Bを結ぶ折れ線状に形成されている。
図9(b)の吸込カバー5Cの側板52C、52Cの下辺521C、521Cは、右側が低くなるように滑らかな曲線状に形成され、開口部53Cの上縁531Cと開口部53Cの下縁532Cを結んで形成されている。
図9(c)の吸込カバー5Dの側板52D、52Dの下辺521D、521Dは、水平から所定角度傾斜した直線状に形成されて、開口部53Dの上縁531Dと開口部53Dの下縁532Dから上側に離れた位置を連続的に結ぶ直線状、折曲及び曲線状に形成されている。
図9(a)、(b)、(c)で説明した側板52と下辺521の変形例は、第2の実施の形態の水中ポンプ10の吸込カバー5Aにも適用することができる。
【0029】
図10(a)は、吸込カバーの更に他の実施の形態を示す縦断面図であり、第1の実施の形態の水中ポンプ1の吸込カバー5の変形例である。
図10(a)に示すように、吸込カバー5Eの上板51Eは、
図10(a)の左側が低くなるように二段階に折れ曲がって形成され、
図10(a)の左端に水平な吸込案内板511Eが形成されている。
図10(b)は吸込カバーの更に他の実施の形態を示す縦断面図であり、第2の実施の形態の水中ポンプ10の吸込カバー5Aの変形例である。
図10(b)に示すように、吸込カバー5Fの上板51Fは、
図10(b)の左側が低くなるように水平から所定角度傾斜して配置され、上板51Fには電動機3を収容するためのモーター収納部54Fが上方に突出して形成されている。
図10(b)で説明したモーター収納部54Fは、第1の実施の形態の水中ポンプ1の吸込カバー5、5B、5C、5D、5Eにも適用することができる。
【0030】
図11は吸込カバーの更に他の実施の形態を示す縦断面図であり、第1の実施の形態の水中ポンプ1及び第2の実施の形態の水中ポンプ10に適用することができる。
図11(a)は、第1の実施の形態の水中ポンプ1の吸込カバー5の正面図(
図11の右側)及び左側面図(
図11の左側)である。上記したように、吸込カバー5は、一枚の上板51と二枚の側板52、52で形成されている。上板51は平面状で、
図11(a)の正面図の左側が低くなるように水平から所定角度傾斜して配置され、
図11(a)の正面図の左端に水平な吸込案内板511が形成されている。側板52、52も平面状で、上板51の両側面に、上板51から下方に向かって、互いに平行に形成されている。吸込カバー5には、上板51、側板52、52、吸込案内板511で囲まれた下面に開口部53が形成され、この開口部53から水を吸い込む。
【0031】
図11(b)の吸込カバー5Gは、上板51Gの両側面に、平面状の側板52G、52Gが、上板51Gから下方に向かって、互いの間隔が狭まるように形成されている。
図11(b)の変形例として、平面状の側板52G、52Gが、上板51Gから下方に向かって、互いの間隔が拡がるように形成してもよい。また、側板52G、52Gは曲面でもよい。
図11(c)の吸込カバー5Hは、上板51Hの両側面に、上板51Hから傾斜面55Hが形成された後、平面状の側板52H、52Hが下方に向かって、互いに平行に形成されている。
図11(d)の吸込カバー5Jは、上板と側板の上部が滑らかな曲面56Jで形成された後、曲面56Jの両側面に、平面状の側板52J、52Jが下方に向かって、互いに平行に形成されている。又、
図11(c)の吸込カバー5H及び
図11(d)の吸込カバー5Jの側板は、
図11(b)の側板のように、互いの間隔が狭まる又は拡がるように形成してもよい。
【0032】
〔水中ポンプの第3の実施の形態〕
図12は、本発明の第3の実施の形態の水中ポンプを示す縦断面図である。前述した第1及び2の実施の形態の水中ポンプは、軸流ポンプであったが、第3の実施の形態の水中ポンプは、斜流ポンプである。即ち、軸流ポンプは、羽根車で軸方向に流体を送るものであり、斜流ポンプは、羽根車で軸の斜め方向に流体を送るものである。
図12に示す水位は、吸込口側水位は水位下降時のとき、全量排水運転可能な最低水位の状態を示すものである。
【0033】
図12に示すように、斜流ポンプである水中ポンプ1'の出力軸31'の軸線311'は、排出口22'側よりも吸込口21'側が低くなるように水平から所定角度傾斜して配置されている。
図12で、水路の底面102'から開口部53'の上縁(吸込案内板511'の下面)531'までの高さをY1、水路の底面102'から羽根車32'の下端までの高さをY3とすると、Y3がY1よりも高い位置に位置するような傾斜角度で設定されている。ポンプ口径が300ミリの水中ポンプ1’の本例では、Y1が300ミリ、Y3が340ミリに設定されている。吸込口側水位がY1よりも十分に高い状態の場合、電動機3'を定格回転数で回転駆動すれば、水中ポンプ1'は、開口部53'から空気を吸い込まないので、全量排水運転が行われ、フラップ弁4'が開く。
【0034】
全量排水運転中に吸込口側水位が低下しても、
図12に示すように、吸込口側水位がY1よりも20ミリ程度以上高ければ(本例では320ミリ)、開口部53'から空気を吸い込まないので、吸込カバー5'内及びケーシング2'内は水で満たされている。従って、水中ポンプ1'は定格回転数で全量排水運転が継続して行われる。水路の底面102'から開口部53'の下縁532'までの高さY2は、水路の底面102'から開口部53'の上縁531'までの高さY1よりも低い位置に設定されている。また、開口部53'の下縁532'は開口部53'の上縁531'よりも吸込口21'側(下流側)に形成されている。従って、側面からの空気の吸込が無く、吸込口側水位が羽根車32'の下端(Y3)より低くなっても定格回転数で全量排水運転が可能となっている。
【0035】
吸込口側水位が
図12に示した水位よりも低下すると、開口部53'から空気が吸い込まれる。その結果、水中ポンプ1'の吸込カバー5'内及びケーシング2'内の水が瞬時に落水して、フラップ弁4'が自重により閉じ、羽根車32'が空気中に露出した気中待機運転(電動機3'は定格回転数で回転駆動状態を継続している。)となる。吸込口側水位が更に低下しても、設定された時間内(例えば図示しないタイマーで設定)であれば、気中待機運転を継続する。従って、騒音や振動が小さく、電動機3'への負担が少ない。この落水のメカニズムは、前述した実施の形態1及び2の水中ポンプと同一なのでその説明は、省略する。
【0036】
〔水中ポンプの第4の実施の形態〕
図13は、本発明の第4の実施の形態の水中ポンプ10'を示す縦断面図である。この第4の実施の形態の水中ポンプ10'は、第3の実施の形態と同様の斜流ポンプである。
図13に示す吸込口側水位は、水位下降時の全量排水運転可能な最低水位の状態を示す。第4の実施の形態の斜流の水中ポンプ10'は、出力軸31'の軸線311'を水平に配置した例である。以下の説明では、上記第3の実施の形態の水中ポンプ1'と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。水中ポンプ10'の電動機3'には、吸込口21'側に水平な出力軸31'が取り付けられ、出力軸31'に羽根車32'が固定され、電動機3'の回転が羽根車32'に伝達される。案内羽根33'は、羽根車32'で汲み上げられる水を案内している。
【0037】
ケーシング2'の吸込口21'には、水を吸込口21'に円滑に誘導するための吸込カバー5'が固定されている。吸込カバー5'には、下面方向に開口している開口部53'が形成され、この開口部53'から水を吸い込む。
図13に示すように、水路の底面102'から開口部53'の上縁(吸込案内板511'の下面)531'までの高さをY1、水路の底面102'から羽根車32'の下端までの高さをY3(本例では、343ミリ)とすると、Y3がY1よりも高い位置に位置するように吸込カバー5'の形状が設定されている。吸込口側水位がY1よりも十分に高い状態の場合、電動機3'を定格回転数で回転駆動すれば、水中ポンプ10'は、開口部53'から空気を吸い込まないので、全量排水運転が行われ、フラップ弁4'が開く。
【0038】
全量排水運転中に吸込口側水位が低下しても、
図13に示すように、吸込口側水位がY1よりも20ミリ程度以上高ければ(本例では320ミリ)、開口部53'から空気を吸い込まないので、吸込カバー5'内及びケーシング2'内は水で満たされている。従って、水中ポンプ10'は定格回転数で全量排水運転が継続して行われる。水路の底面102'から開口部53'の下縁532'までの高さY2は、水路の底面102'から開口部53'の上縁531'までの高さY1よりも低い位置に設定されている。また、開口部53'の下縁532'は開口部53'の上縁531'よりも吸込口21'側(下流側)に形成されている。従って、側面からの空気の吸込が無く、吸込口側水位が羽根車32'の下端(Y3)より低くなっても定格回転数で全量排水運転が可能となっている。
【0039】
吸込口側水位が
図13に示す水位よりも低下すると、開口部53'から空気が吸い込まれる。その結果、水中ポンプ10'の吸込カバー5'内及びケーシング2'内の水が瞬時に落水して、フラップ弁4'が自重により閉じ、羽根車32'が空気中に露出した気中待機運転(電動機3'は定格回転数で回転駆動状態を継続)となるために騒音や振動が小さく、電動機3'への負担が少ない。吸込口側水位が更に低下しても、設定された時間内(例えば図示しないタイマーで設定)であれば、気中待機運転を継続する。従って、騒音や振動が小さく、電動機3'への負担が少ない。この落水のメカニズムは、前述した実施の形態1等の水中ポンプと同一なのでその説明は、省略する。
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されることはない。前述した実施の形態の吸込カバー5、5Aは、一枚の上板と二枚の側板で構成されていると説明上記載したが、これを溶接で複数枚の板材を接合する趣旨ではなく、プレス加工品、又は鋳物で一体に構成したものであっても良い。従って、上記説明の一枚の上板と二枚の側板は、必ずしも別部材であることを意味しない。
【符号の説明】
【0040】
100…扉体
101…ブラケット
102…水路の底面
1、10、1’、10’…水中ポンプ
2、2’…ケーシング
21、21’…吸込口
22、22’…排出口
3、3’…電動機
31、31’…出力軸
311、311’…軸線
32、32’…羽根車
33、33’…案内羽根
34、34’…オイル室
4、4’…フラップ弁
5、5’、5A、5B、5C、5D、5E、5F、5G、5H、5J…吸込カバー
51、51A、51B、51C、51D、51E、51F、51G、51H…上板
511、511'、511A、511B、511C、511D、511E、511F、511G、511H、511J…吸込案内板
52、52A、52B、52C、52D、52E、52F、52G、52H、52J…側板
521、521A、521B、521C、521D、521E、521F…下辺
53、53’、53A、53B、53C、53D、53E、53F、53G、53H、53J…開口部
531、531’、531A、531B、531C、531D、531E、531F…開口部の上縁
532、532’、532A、532B、532C、532D、532E、532F…開口部の下縁
54F…モーター収納部
55H…傾斜面
56J…曲面