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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】火災防止システム
(51)【国際特許分類】
   G08B 25/00 20060101AFI20240501BHJP
   G01N 25/50 20060101ALI20240501BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20240501BHJP
【FI】
G08B25/00 510M
G01N25/50 Z
G01J5/48 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021115010
(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公開番号】P2023011259
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521307543
【氏名又は名称】神成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181881
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 俊一
(72)【発明者】
【氏名】杉下 洋一
【審査官】石井 則之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0074139(US,A1)
【文献】特開2006-059185(JP,A)
【文献】特開2018-101416(JP,A)
【文献】特開2018-63565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T7/00-7/90
G06V10/00-20/90
30/418
40/16
40/20
G08B17/00-31/00
G01N 25/50
G01J 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
警戒区域の温度分布データを採取する温度検出手段と、
前記温度分布データから前記警戒区域に存在する等熱領域を抽出しその温度及び形態を導く測定手段と、
前記等熱領域の温度及び形態を判断要素として前記警戒区域に含まれている等熱領域を仕分けする分類手段と、
仕分けできない等熱領域の発生を火災前駆事象として検出する判定手段と、
前記判定手段が検出した火災前駆事象を受けて火災注意情報を出力する発報手段を備えることを特徴とする火災予防システム。
【請求項2】
前記警戒区域に存在する等熱領域の温度及び形態の時系列情報を保持する情報記憶手段を備え、
前記判定手段は、前記警戒区域に存在する等熱領域の温度及び形態の、仕分けに副わない変動を火災前駆事象として検出することを特徴とする請求項1に記載の火災予防システム。
【請求項3】
警戒区域の温度分布データを採取する温度検出手段と、
前記温度分布データから前記警戒区域に存在する等熱領域を抽出しその温度、形態及び位置を導く測定手段と、
前記等熱領域の温度、形態及び位置を判断要素として前記警戒区域に含まれている等熱領域を仕分けする分類手段と、
仕分けできない等熱領域の発生を火災前駆事象として検出する判定手段と、
前記判定手段が検出した火災前駆事象を受けて火災注意情報を出力する発報手段を備えることを特徴とする火災予防システム。
【請求項4】
前記警戒区域に存在する等熱領域の温度、形態及び位置の時系列情報を保持する情報記憶手段を備え、
前記判定手段は、前記警戒区域に存在する等熱領域の温度、形態及び位置の、仕分けに副わない変動を火災前駆事象として検出することを特徴とする請求項3に記載の火災予防システム。
【請求項5】
前記分類手段は、前記等熱領域の温度及び形態を判断要素として前記警戒区域に含まれている人を検出し、
前記判定手段は、警戒区域で人を検出した後一定時間内の仕分けできない等熱領域の発生を、人為的な火災前駆事象として検出することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の火災予防システム。
【請求項6】
警戒区域の使用電流を検出する電流検出手段を備え、
前記判定手段は、警戒区域の許容量を超える電流検出を、過電流による火災前駆事象として検出することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の火災予防システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災の発生を未然に防止する火災防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の監視システムには、例えば、複数の監視対象を撮像しその赤外線画像データを出力する赤外線カメラと、撮像対象を可変設定可能であり、当該撮像対象を撮像しその可視画像データを出力する可視カメラと、前記赤外線カメラおよび可視カメラとの間で通信が可能な監視制御装置とを具備し、前記監視制御装置は、前記赤外線カメラから出力される赤外線画像データを受信する第1の受信手段と、前記受信された赤外線画像データから、予め設定した温度を超える発熱部位を抽出する発熱部位抽出手段と、前記抽出された発熱部位を含む監視対象を前記可視カメラにより撮像させ、その可視画像データを受信する第2の受信手段と、前記受信された可視画像データから監視対象を認識し、該認識された監視対象に対応付けて予め設定された火災判定条件をもとに、前記発熱部位の温度が異常であるか否かを判定する判定手段と、前記発熱部位の温度が異常と判定された場合に、その旨を報知するためのアラーム情報を出力するアラーム出力手段とを備える監視システムが存在する(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-097702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の監視システムは、火災判定条件を適用する際に、受信された赤外線画像データから予め設定した温度(以下「監視温度」という)を超える発熱部位を抽出し、更に、設備毎に設定した閾温度を基準として判定することを要件とする手法であるため、当該監視温度が環境の変化や機器の設定温度の変更等で不適切となった場合や、本来発熱が予定されていない機器や資材から監視温度未満の不測の発熱が生じた場合には、それらの部位は火災判定条件を適用する対象にさえなり得ず、火災防止機能が有効に働かないという問題がある。
【0005】
また、監視対象となる機器は、同じ機能であっても多様な規模や外観(デザイン)を持つものが存在するため、前記可視カメラで撮影された可視画像データと各設備の基本画像データとの照合により監視対象を認識する手法では、監視対象の種別や機能を正確に認識できず、予め、特定の外観を持つ機器に絞って監視対象を設定する他ないという問題がある。この問題は、本来発熱が予定されていない機器や資材から不測の発熱が監視温度未満で生じた場合はもとより、監視温度以上で生じた場合にあっても、判定条件となる閾温度の誤りにより火災防止機能の信頼を貶める要因となる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、警戒区域で生じた火災発生の前兆となり得る事象を検出・評価し、火災の発生を事前に予測し報知する火災防止システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明による火災予防システムは、警戒区域の温度分布データを採取する温度検出手段と、前記温度分布データから前記警戒区域に存在する等熱領域を抽出しその温度及び形態を導く測定手段と、前記等熱領域の温度及び形態を判断要素として前記警戒区域に含まれている等熱領域を仕分けする分類手段と、仕分けできない等熱領域の発生を火災前駆事象として検出する判定手段と、前記判定手段が検出した火災前駆事象を受けて火災注意情報を出力する発報手段を備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記「等熱領域」は、当該領域共通の原因により一定の形態で一定の温度帯域の熱を帯びたものとして区分けされた領域であって、例えば、自らが発熱する熱源、当該熱源から直接熱を受けた放熱領域及びその交差領域、前記放熱領域の雰囲気が気流に乗って移動してなる対流領域、並びに他の等熱領域から熱的に離隔した隔熱領域等が挙げられる。共通の原因により区分けされた領域を、温度帯域に応じて複数の段階に区分けしてもよい。
【0009】
また、「仕分け」とは、上記等熱領域を、その種類、目的又は成り立ち等に応じて分けることである。
前記等熱領域の種類及び成り立ちは、前記熱源、放熱領域、交差領域、対流領域及び隔熱領域等であり、等熱領域の目的は、調理、暖房、空調、照明、美容、電源及び送電等である。
前記熱源の種類としては、例えば、調理機器のバーナ若しくは電熱線、暖房機器のバーナ、電熱線、芯若しくは放熱板、空調機器の熱交換部、照明機器の発光部、美容機器の電熱線、電源機器のコイル若しくはトランス又は送電機器の電線等が挙げられる。
【0010】
本発明による火災予防システムは、更に、前記警戒区域に存在する等熱領域の温度及び形態の時系列情報を保持する情報記憶手段を備える構成を採ることができる。その際、前記判定手段は、前記警戒区域に存在する等熱領域の温度及び形態の、仕分けに副わない変動を火災前駆事象として検出する構成を採ることができる。
【0011】
本発明による火災予防システムは、警戒区域の温度分布データを採取する温度検出手段と、前記温度分布データから前記警戒区域に存在する等熱領域を抽出しその温度、形態及び位置を導く測定手段と、前記等熱領域の温度、形態及び位置を判断要素として前記警戒区域に含まれている等熱領域を仕分けする分類手段と、仕分けできない等熱領域の発生を火災前駆事象として検出する判定手段と、前記判定手段が検出した火災前駆事象を受けて火災注意情報を出力する発報手段を備える構成を採ることができる。
【0012】
この場合、前記警戒区域に存在する等熱領域の温度、形態及び位置の時系列情報を保持する情報記憶手段を備え、前記判定手段は、前記警戒区域に存在する等熱領域の温度、形態及び位置の、仕分けに副わない変動を火災前駆事象として検出する構成を採ることができる。
【0013】
更に、前記分類手段は、前記等熱領域の温度及び形態を判断要素として前記警戒区域に含まれている人を検出する構成を採ることができる。その際、前記判定手段は、警戒区域で人を検出した後一定時間内の仕分けできない等熱領域の発生を、失火又は放火等の人為的な火災前駆事象として検出する構成を採ることができる。
【0014】
本発明による火災予防システムは、更に、警戒区域の使用電流を検出する電流検出手段を備える構成を採ることができる。
その際、前記判定手段は、警戒区域の許容量を超える電流検出を、過電流による火災前駆事象として検出する構成を採ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による火災予防システムによれば、火災前駆事象を検出する際の監視対象を決めるための監視温度を設定しない手法を採ることによって、当該監視温度が環境の変化や機器の設定温度の変更等で不適切となった時や、本来発熱が予定されていない機器や資材等から不測の発熱が生じた際などにもシステムが有効に機能することとなる。
【0016】
また、前記温度分布に基づく等熱領域の温度及び形態を判断要素として当該等熱領域を仕分けする手法を採ることによって、機器の外観やデザインに関わらず、例えば、機能固有の熱源に与えられた安定した形態(リング状のバーナキャップと放射状に噴射する炎、リング状のストーブの芯、コイル状の電熱線、直線状のカーボン発熱体、こたつの赤外線ランプなど)や稼働時の温度帯域に基づいて、監視対象のその種類、目的又は成り立ち等を考慮した仕分け及び情報処理を行うことができる。
而して、本来発熱が予定されていない機器や資材から不測の発熱が生じた際など、特定の外観に係る情報を持たずとも、導かれた等熱領域の仕分け結果からその基本的な温度帯域や輪郭に照らして当該監視区域の異常を正確に検出することができる。
【0017】
前記等熱領域の位置を判断要素として含む構成を採ることによって、一般的な稼動位置に基づいて等熱領域の仕分け精度はより高まることとなる。
また、前記温度分布データから前記警戒区域に存在する熱源による放熱領域の温度、形態及び位置を導き、それらを仕分け処理における判断要素とすることによって、例えば、熱源から放たれた熱の(調理器等への)伝導や、(室内雰囲気への)放散状況からその使用目的が概ね推定できるため、その仕分け精度は更に高まることとなる。
かかる機能は、機器の新設や配置変更の際の設定作業の煩雑さを回避することにも寄与する。
【0018】
本発明による火災予防システムは、前記分類手段をもって警戒区域に存在する人を検出し、前記判定手段をもって警戒区域の人の存在を検出した後一定時間内の仕分けできない熱源の増加を人為的な火災前駆事象として検出する構成を採ることによって、焚火、暖房器具の誤操作又は放火等の人為的な火災をも予見することができる。
更に、警戒区域の使用電流を検出する電流検出手段を備え、前記判定手段をもって警戒区域の許容量を超える電流検出を判断材料として過電流による火災前駆事象を検出する構成を採ることによって、仕分けできない等熱領域の発生等と関連させてより正確な火災前駆事象の検出に寄与する。
【0019】
この様に、本発明による火災予防システムによれば、警戒区域で生じた火災発生の前兆となり得る火災前駆事象を検出し、火災の発生を事前に予測し報知することができるため、火災の予防、早期沈下、被害の低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による火災予防システムの一例を示すシステム系統図である。
図2】本発明による火災予防システムの一例を示す機能ブロック図である。
図3】本発明による火災予防システムの仕分け処理に用いられる情報を例示した一覧表である。
図4】本発明による火災予防システムにおいて解析処理を経た温度分布図の例である。
図5】本発明による火災予防システムにおいて解析処理を経た温度分布図の例である。
図6】本発明による火災予防システムにおける情報処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による火災予防システムの実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明による火災予防システムの一例を示したシステム系統図である。
この例は、中央監視機器1と、単数又は複数の中継機器2が、LAN(Local Area Network)等の有線又は無線のローカル通信網3を介して接続されている火災予防システムである。
【0022】
前記中央監視機器1と中継器2は、それぞれ個別に識別コードが付されており、中継器2のそれぞれには、警戒区域を撮影範囲として含むサーマルカメラ4、撮像カメラ5又は零相変流器13等が接続されている。
前記中継器2は、サーマルカメラ4や撮像カメラ5の画像情報(画像化可能な情報)を識別コードと共に中央監視機器1へ送信すべく、当該中央監視機器1との間で相互に交信できる監視インターフェース6を具備する。
この例の中央監視機器1は、表示部7と、操作部8と、連携インターフェース9と、通信インターフェース10と、制御部11と、記憶部12を備える。
【0023】
前記表示部7は、例えば、液晶ディスプレイその他の表示デバイスや発光デバイス及びそれらのインターフェースであって、発報や緊急性の程度に関する情報、及びサーマルカメラ4や撮像カメラ5や零相変流器13の動作に関する情報を表示する。
前記操作部8は、前記中央監視機器1に対する使用者の操作入力を受け付ける操作ボタン、キーボード、タッチパネル及びそれらのインターフェースなどを具備する。
【0024】
前記連携インターフェース9は、警戒区域の中継機器2と通信網3を介して通信するための通信モジュールであって、中継機器2から識別コードと共に送信された、画像情報及び電流情報を、前記制御部11において解析可能な画像データ及び電流データ(以下、これらを監視データと総称する)に復調し、前記記憶部12に記憶する。
【0025】
前記通信インターフェース10は、警戒区域の外部と、インターネット等のグローバル通信網を介して通信するための通信モジュールであって、制御部11から出力された情報を、前記グローバル通信網のプロトコルに従って変換し、例えば、使用者の携帯端末14や消防署等の公共機関15等の定められたアドレスへ送信する。
【0026】
前記制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、及び入出力ポートを備え、CPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することで、様々な機能手段(図2参照)を構成し、当該中央監視機器1及び中継機器2の動作を制御する。
前記記憶部12は、前記中継機器2から送信され解析可能に変換された監視データを記憶する記憶手段及びメモリを備える。
【0027】
図2は、前記中央監視機器1の一例を示す機能ブロック図である。
上記の如く構成された火災予防システムは、警戒区域の温度分布データを採取する温度検出手段20と、警戒区域内の物体分布データを採取する物体検出手段21と、警戒区域の使用電流の電流データを検出する電流検出手段22と、前記温度分布データから前記警戒区域に存在する等熱領域を抽出しその位置、形態及び温度を導く測定手段23と、前記警戒区域に存在する等熱領域の位置、形態及び温度の時系列情報を保持する情報記憶手段24と、前記等熱領域の位置、形態及び温度を判断要素として前記警戒区域に含まれている等熱領域を検出し仕分けする分類手段25と、前記仕分けに副って火災前駆事象を検出する判定手段26と、前記判定手段26が検出した火災前駆事象を受けて火災注意情報を出力する発報手段27を、前記機能手段として備える。
尚、この例の測定手段23は、更に、前記物体分布データから前記警戒区域に存在する物体の輪郭線を抽出しその位置及び形態を導く。
【0028】
(温度検出・物体検出・電流検出)
前記温度検出手段20は、警戒区域に存在する物や生き物などから放射されている赤外線から当該警戒区域の温度分布データを検出する前記サーマルカメラ4と、当該サーマルカメラ4が接続された前記中継機器2を具備する。
前記物体検出手段21は、物体の輪郭及び輝度等からなる物体分布データを検出する撮像カメラ5と、当該撮像カメラ5が接続された前記中継機器2を具備する。
前記電流検出手段22は、警戒区域に敷設された配電線の電流データを検出する零相変流器13等と、当該零相変流器13等が接続された前記中継機器2を具備する。
【0029】
<測定>
前記測定手段23は、前記温度検出手段20、前記物体検出手段21及び前記電流検出手段22から温度分布データ、物体分布データ及び電流データを定期的に採取する制御手段と、前記サーマルカメラ4が検出した温度分布データを検出した位置に副ったサーモグラフやコンター図等の温度分布図(図4図5参照)として画像データ化する画像処理手段(サーモグラフィ)と、前記温度分布図に表れている等熱領域の識別符号(領域ID)、位置、輪郭及び温度帯域(以下、「温度情報」と総称する。)、並びに前記物体分布データから得られた現場画像に表れている物体の位置及び輪郭(以下、「物体情報」と総称する。)を検出し、等温領域又は物体の輪郭を表示(領域分け)したエッジ画像データを導く解析手段を備え、前記温度分布データ、物体分布データ及びエッジ画像データ、前記温度情報及び物体情報並びに前記電流データを時系列情報として前記情報記憶手段24に記録する。
【0030】
前記測定手段23は、前記温度分布データに基づき、距離-温度変化の傾き等から一定の規則(閾値等)の下、温度分布図に表される各等熱領域の輪郭を決定する。各等熱領域の温度情報には、それぞれ固有の識別符号(領域ID)を付する。
前記等熱領域は、自ら発熱しその一帯で最も高温で安定した形態を持つ熱源(図5(B)参照)30、当該熱源30の周囲において直接熱を受け当該熱源30の位置から遠方へ向かって一様に温度が低下している放熱領域31及びその交差領域、前記放熱領域31の雰囲気が移動した領域であって隣接する等熱領域との温度差が小さい対流領域32、他の等熱領域から熱隔離され隣接する等熱領域との温度差が大きい熱隔離領域33等に分けられる。
【0031】
一方、前記測定手段23は、上記温度による領域分けに、当該警戒区域に置かれた物体の外縁による領域分けの要素を加えることもできる。即ち、前記撮像カメラ5で採取した物体分布データの輪郭及び輝度に基づき、不明確な等熱領域の輪郭に替えて、物体の筐体等による物理的な仕切りを等熱領域の輪郭として採用する処理を行う。
【0032】
<仕分け処理>
前記分類手段25は、前記温度情報又は前記物体情報が更新される度に、警戒区域内の物体及び空間(以下、「構成要素」という。)が形作る等熱領域を、その種類、目的又は成り立ち等(発生原因)に応じて仕分けするものである。当該仕分けは、前記温度情報に含まれる等熱領域毎に、当該等熱領域に当て嵌まる仕分けコードを付する形で行われる。
尚、当該等熱領域に関わる他の等熱領域の識別符号(関連ID)を、併せて付しても良い。
【0033】
前記分類手段25による等熱領域の仕分けは、それぞれ、「温度帯域」、「位置」及び「形態」に基づいて三段階の仕分け処理が行われる。
各段階の仕分け処理では、仕分け処理の結果として、それぞれ温度コード、位置コード及び形態コードからなる仕分けコードを付すことができる(図3参照)。
【0034】
この例の分類手段25は、仕分け処理の基準となる仕分けテーブルを備える。
前記仕分けテーブルは、熱を帯びる可能性を持つ既存の構成要素について、前記「温度帯域」、「位置」及び「形態」との常識的な組み合わせが与えられたデータテーブルである。
前記分類手段25による仕分け処理は、前記仕分けテーブルとの対比により行われる。
前記分類手段25は、当該仕分けテーブルに存在する組合せに当て嵌まる等熱領域を前記温度情報において前記構成要素の正体(以下、「属性」という。)が一般的に明らかであるものとして取り扱う。
一方、各段階の仕分け処理の結果が前記仕分けテーブルの組み合わせに合致しない場合(仕分けできない場合)には、属性不明として前記情報記憶手段24の温度情報に仕分け不能コードを付する。
【0035】
常識的な属性を当て嵌めることができないため仕分け不能コードが付される要因としては、例えば、
(1)高所に高温帯域又は中温帯域の等熱領域(煙突形状を除く)が存在する場合
(2)高温帯域又は中温帯域の等熱領域の形状が奇異な場合
(3)高温帯域又は中温帯域の等熱領域が一般的な構成要素に照らして異常に大きい場合又は異常に小さい場合
(4)一般的な調理容器(鍋等)の形態を持つ等熱領域の温度が高温帯域である場合
などが挙げられる。
【0036】
(一次仕分け)
前記分類手段25による等熱領域の第一の仕分け処理(一次仕分け)は、前記温度情報に基づき当該等熱領域から検出された「温度帯域」を、高温帯域(250℃以上)、中温帯域(50℃~250℃)及び低温帯域(50℃未満)に振り分け、該当する温度帯域固有の温度コードを付する形で行われる。
具体的には、稼働時において各等熱領域が発する温度帯域と、高温帯域、中温帯域及び低温帯域それぞれの温度の閾値が記憶された温度テーブルと照合し、各々が属する温度帯域を割り当て、割り当てられた温度帯域の温度コードを付する。
【0037】
稼働時に高温帯域の熱を帯びる等熱領域の構成要素としては、例えば、調理機器のバーナ若しくは電熱線、暖房機器のバーナ、電熱線若しくは芯、美容機器の電熱線又は照明機器の発光部等が挙げられる。
稼働時に中温帯域の熱を帯びる等熱領域を構成要素としては、例えば、調理容器、空調の熱交換部、電源のコイル若しくはトランス又は暖房の放熱板等が挙げられる。
稼働時に低温帯域の熱を帯びる等熱領域の構成要素としては、例えば、前記対流領域、電源プラグ、電源コード又は温度上昇途上の注意対象等が挙げられる。
尚、温度設定が変更できる構成要素は、複数の「温度帯域」に仕分けされ得る。
【0038】
(二次仕分け)
前記分類手段25による等熱領域の第二の仕分け処理(二次仕分け)は、前記温度情報に基づき当該等熱領域が検出された「位置」を、高位(天井位等)、中位(腰位から胸位等)及び低位(床位等)等に振り分け、該当する位置固有の位置コードを付する形で行われる。
具体的には、稼働時において各等熱領域が存在する位置と、高位、中位及び低位それぞれの高さの閾値が記憶された位置テーブルと照合し、各々が属する位置を割り当てる。
高位において熱を帯びる等熱領域の構成要素は、例えば、照明機器や空調機器が挙げられる。
中位において熱を帯びる等熱領域の構成要素は、例えば、調理機器や美容機器が挙げられる。
低位において熱を帯びる等熱領域の構成要素は、例えば、暖房機器、変圧器又は電源コード等が挙げられる。
尚、人、対流領域又は熱隔離領域は、複数の「位置」に仕分けされ得る。
【0039】
(三次仕分け)
前記分類手段25による等熱領域の第三の仕分け処理(三次仕分け)は、前記温度情報に基づき当該等熱領域の「形態」を、動物(人を含む)、バーナ、電熱線、芯、放熱板、熱交換部、発光体、コイル(コア)若しくは導線等の熱源、鍋若しくは炊飯器の窯等の調理容器、グリル若しくはオーブン等の加熱器、又はそれらの放熱領域又は調理容器等の構成要素に振り分け、当該構成要素固有の形態コード(fc:f1,f2,・・・fn)を付する形で行われる。
具体的には、各等熱領域の輪郭と、前記構成要素のシルエットの基本形態(形状及び大きさ)が記憶された形態テーブルと照合し、相応の拡大又は縮小の下における一定量の整合(以下、「類似」という。)が得られた構成要素を割り当てる。
一方、「同一」の構成要素又は「類似」する構成要素が無かった場合には、対流領域、熱隔離領域又はその他の仕分けできない不定形領域として仕分け不能コードが付される。
【0040】
<判定処理>
前記判定手段26は、警戒地区に存在する全ての等熱領域についての仕分け処理の終了を受けて、最新の前記温度情報及び物体情報並びに前記電流データを時系列の既存データと対比する。
前記判定手段26は、温度帯域の対比において、新規に検出した等温領域の温度帯域が、前記仕分けテーブルの既存の等熱領域に与えられた属性で許容される温度帯域に含まれる場合(仕分けに副う場合)には、位置の一致及び形態の「類似」を条件として同一の等熱領域が安定して存在する(安全)と判定する。
また、前記判定手段26は、既存データと新規に検出した等熱領域との対比において、位置を含有すること(先の仕分け時の「位置」を含むこと)、形態の類似性(前記「類似」の基準には満たないが、当該基準に近い一定量の整合が得られている性状。)の存在、又は温度帯域の一致からなる三要件の少なくとも二つを満たすことを条件として、とりあえず同一の等熱領域とみなし、それ以外の等温領域は、新規に発生した等温領域とみなす。
【0041】
判定手段26は、過去にそれと同一の等熱領域として検出された実績があると認められる等熱領域(既存の等温領域)であって、且つ温度、形態又は位置のいずれかに、仕分けに副わない一定量を超える変動が認められた等熱領域(以下、「変性領域」という。)、又は過去一定期間にそれと同一のものとして検出された実績が無い新規に発生した等熱領域であって、且つ仕分けできない等熱領域(以下、「新生領域」という。)を検出する。
そして、判定手段26は、検出した「変性領域」又は「新生領域」に、所謂低温発火温度を超える温度が認められる場合には、火災前駆事象として火災注意情報を出力する。一方、前記低温発火温度を下回る場合には、当該等熱領域を注意対象として注意コードを付し要注意情報を出力する。
【0042】
前記分類手段25が人を検出した直後一定時間(例えば数十秒から数分)以内に、当該判定手段26により火災注意情報が出力された場合には、更に、人為的な火災前駆事象として事件性の存在を付した火災注意情報を出力する。
前記火災前駆事象の火災注意情報は、例えば、低温発火温度(100℃~150℃)、引火温度(220℃~264℃)、発火温度(260℃~416℃)と、温度が高くなるに従って、当該火災前駆事象に緊急性の程度を示す緊急コード(“低度”,“中度”,“高度”)を付することができる(図3参照)。
【0043】
<発報処理>
前記発報手段27は、警報装置と、処理装置と、それらの動作を制御する制御機器とで構成され、前記制御機器は、前記要注意情報又は火災注意情報を受けて、それら又は前記緊急コードに副った動作を前記警報装置又は処理装置に行わせる。
警報装置は、例えば、消防署等の公共機関15や、使用者の携帯端末14への報知を行う通信機器、スピーカ16などの音響による火災注意情報を出力する音響機器、又は旋回燈やフラッシュライト等の視覚的な火災注意情報を出力する光警報機器等であり、処理装置は、例えば、電気、ガス又は灯油などの供給回路の遮断機、自動火災報知設備、スプリンクラー設備、防火扉、防火シャッター又は排煙機等である。
【0044】
[実施の形態]
以上の如く構成された本発明による火災防止システムは、例えば、一般家庭のダイニングキッチンに用いる場合には、サーマルカメラ4及び撮像カメラ5を、ダイニングキッチンの警戒区域全域を画角に収める様に設置し、配電盤の該当系統に零相変流器13を設置した上で稼働する(図6参照)。
システムが稼働すると、測定手段23による温度分布データ、物体分布データ及び電流データの採取と、画像処理及び解析が行われる。
解析及び画像処理が終了し、警戒区域の領域分けが完了すると、分類手段25による仕分け処理が行われる。
【0045】
室内に存在する熱源又は放熱領域を例として、等熱領域としての温度帯域、位置及び形態による三段階の仕分け処理の態様を例示すると以下の様になる。
図3は、等熱領域に係る仕分けの例を示すものである。
(1)領域ID:A1が付された等熱領域は、位置コードが“高位”、温度コードが“低温”及び“中温”(30℃~50℃)、形態コードがf1(整列された円形の熱源が見られる)である特徴をもって照明機器(LED蛍光灯)に類する属性が当て嵌められる。
(2)領域ID:A2が付された等熱領域は、位置コードが“中位”、温度コードが“中温”(90℃~250℃)、形態コードがf2(整った調理鍋の形状)である特徴をもって調理機器(IHコンロ)に類する属性が当て嵌められる。
(3)領域ID:A3が付された等熱領域は、位置コードが“中位”、温度コードが“高温”(500℃~1900℃)、形態コードがf3(整ったバーナの形状及び調理鍋の形状)である特徴をもって調理機器(ガスコンロ)に類する属性が当て嵌められる。
(4)領域ID:A4が付された等熱領域は、位置コードが“中位”、温度コードが“中温”(90℃~250℃)、形態コードがf4(整った電熱線の形状又はプレートの形状)である特徴をもって調理機器(卓上ホットプレート)に類する属性が当て嵌められる。
(5)領域ID:A5が付された等熱領域は、位置コードが“中位”、温度コードが“中温”(90℃~250℃)、形態コードがf5(整った電熱線及びパンの形状)である特徴をもって調理機器(トースター)に類する属性が当て嵌められる。
(6)領域ID:A6が付された等熱領域は、位置コードが“低位”、温度コードが“高温”(300℃~1000℃)、形態コードがf6(整った電熱線の形状)である特徴をもって暖房機器(電気ストーブ)に類する属性が当て嵌められる。
【0046】
警戒区域の全ての等熱領域の仕分けを終えた後、判定手段26による判定処理が行われる。
前記判定手段26による判定処理は、最新の前記温度情報及び物体情報並びに前記電流データを一定期間の最新情報と対比し、前記変性領域及び新生領域を要判定領域として各々の危険度を評価し、評価の結果検出された注意対象に対して要注意情報を出力すると共に、評価の結果検出された火災前駆事象に対して火災注意情報を出力し、同時にその温度の発火性及び引火性に基づく緊急度を発報する(図6参照)。
ここで、特に危険性が高いとされる「変性領域」は、「温度」に一定量(例えば、属性で許容される温度帯域)を超える増加傾向の変化が認められ、「位置」に一定量を超える(例えば、属性で許容される位置範囲を外れる)変化が認められ、又は「形態」に一定量を超える(例えば、類似性を失う程度)拡大傾向の変形が認められる等熱領域である。
【0047】
例えば、前記判定手段26により、最新の前記温度情報及び物体情報並びに前記電流データを、直近一定期間の時系列の既存データと対比した結果、前記A3の等熱領域が、“中位”,“高温”,“形態不明”(上位膨出)に変動したことが認められた場合、形態について輪郭がバーナ及び調理鍋の整った形状から外れ(類似性が損なわれ)ているため、この際の仕分けはできず、前記分類手段25による先の仕分け処理の結果に副わない対象となる。
しかも、温度帯域が発火温度を超えているため、前記判定手段26は、この等熱領域の発生を極めて緊急性の高い火災前駆事象と判定し、緊急コード(“高度”)を付する。
【0048】
一方、前記判定手段26により、最新の前記温度情報及び物体情報並びに前記電流データを、直近一定期間の時系列の既存データと対比した結果、前記A6の等熱領域に沿う近傍に、当該等熱領域の発生後しばらくして、位置コードが“低位”、温度コードが“高温”及び“中温”(100℃~270℃)、識別不能な形状の等熱領域A7が新たに発生した場合、形態が識別不能であるために、当該等熱領域は、前記分類手段25では仕分けできない対象となる。しかも、温度帯域が低温発火温度を超えているため、前記判定手段26は、この等熱領域の発生を火災前駆事象と判定し、緊急コード(“低度”)を付する。
前記判定手段26は、その後の監視において、温度が低温発火温度、引火温度及び発火温度を超えるに従って、当該等熱領域に、その緊急性の程度を定める緊急コードを適宜付する。
【0049】
更に、前記判定手段26により、最新の前記温度情報及び物体情報並びに前記電流データを、直近一定期間の時系列の既存データと対比した結果、警戒区域の“下位”に,20℃~40℃(“低温”)の、規則性の無い蛇行形状(識別不能)の等熱領域が発生した場合、位置、温度及び形態の特徴の面で当て嵌まる属性が存在しないため、前記分類手段25による仕分け処理で仕分けできない対象となるが、温度が低温発火温度に満たないため、前記判定手段26は、この等熱領域の発生を火災前駆事象とは判定せず、当該等熱領域の温度情報に注意対象であることを示す注意コードを付する。
尚、温度が中温又は高温であり、且つ前記電流データから警戒区域に過剰な電流が流れていることが認められる場合には、「規則性の無い蛇行形状」から電源ケーブルの形態を持つ加熱が疑われるため火災前駆事象と判定する。
【符号の説明】
【0050】
1 中央監視機器,2 中継機器,3,ローカル通信網,
4 サーマルカメラ,5 撮像カメラ,6 監視インターフェース,7 表示部,
8 操作部,9 連携インターフェース,10 通信インターフェース,
11 制御部,12 記憶部,13 零相変流器,
14 携帯端末,15 公共機関,16 スピーカ,
20 温度検出手段,21 物体検出手段,22 電流検出手段,
23 測定手段,24 情報記憶手段,25 分類手段,
26 判定手段,27 発報手段,
30 熱源,31 放熱領域,32 対流領域,33 熱隔離領域,
図1
図2
図3
図4
図5
図6