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特許7480963電磁吸着機能付き船舶及び船舶電磁吸着固定システム
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  • 特許-電磁吸着機能付き船舶及び船舶電磁吸着固定システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】電磁吸着機能付き船舶及び船舶電磁吸着固定システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/02 20060101AFI20240501BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B63B21/02
F16F7/00 A
F16F7/00 B
F16F7/00 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022037066
(22)【出願日】2022-03-10
(65)【公開番号】P2023131996
(43)【公開日】2023-09-22
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】521034502
【氏名又は名称】三協テクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522096879
【氏名又は名称】Marine Innovation株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直美
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 啓介
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0067391(KR,A)
【文献】国際公開第2018/001426(WO,A1)
【文献】特公昭40-10904(JP,B1)
【文献】実開昭59-145480(JP,U)
【文献】特開平7-101380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/00
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋構造物に対して船舶を電磁的に吸着固定するための船舶電磁吸着固定システムであって、
前記船舶の船首部分の前面に設けられ、前記船舶の幅方向に所定の間隔を隔てて並んで位置される一対の電磁石ユニットと、
磁性体から形成されるとともに、前記一対の電磁石ユニットと対向し得るように前記海洋構造物の表面に設置される一対の吸着体と、
を備え、
前記各電磁石ユニットは、
基体と、
前記基体に対して第1の緩衝スプリングを介して支持されるとともに、給電により前記吸着体に電磁的に吸着される電磁石と、
前記電磁石の周囲を取り囲むように配設されるとともに、前記基体に対して第2の緩衝スプリングを介して支持される緩衝部材と、
を有し、
前記緩衝部材はゴムであり、前記電磁石が吸着体を吸着した際、電磁石の表面と面一になるように前記電磁石の表面から突出していることを特徴とする船舶電磁吸着固定システム。
【請求項2】
前記吸着体及び前記電磁石の少なくとも一方の表面には、これらの表面間の接触における摩擦係数を増大させるコーティングが施されることを特徴とする請求項1に記載の船舶電磁吸着固定システム。
【請求項3】
前記電磁石に対する給電を制御する制御部を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶電磁吸着固定システム。
【請求項4】
海洋構造物に対して電磁的に吸着固定し得る機能を備えた電磁吸着機能付き船舶であって、
船首部分の前面に設けられ、前記船舶の幅方向に所定の間隔を隔てて並んで位置される一対の電磁石ユニットを備え、
前記各電磁石ユニットは、
基体と、
前記基体に対して第1の緩衝スプリングを介して支持されるとともに、給電により前記海洋構造物の対応する吸着体に電磁的に吸着される電磁石と、
前記電磁石の周囲を取り囲むように配設されるとともに、前記基体に対して第2の緩衝スプリングを介して支持される緩衝部材と、
を有し、
前記緩衝部材はゴムであり、前記電磁石が吸着体を吸着した際、電磁石の表面と面一になるように前記電磁石の表面から突出していることを特徴とする電磁吸着機能付き船舶。
【請求項5】
前記電磁石の表面には、前記吸着体との接触における摩擦係数を増大させるコーティングが施されることを特徴とする請求項に記載の電磁吸着機能付き船舶。
【請求項6】
前記電磁石に対する給電を制御する制御部を更に備えることを特徴とする請求項又はに記載の電磁吸着機能付き船舶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋構造物に対して電磁的に吸着固定し得る機能を備えた電磁吸着機能付き船舶、及び、海洋構造物に対して輸送船等の船舶を電磁的に吸着固定するための船舶電磁吸着固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電プラットフォーム、海底油田ガス田開発プラットフォーム、離島桟橋、洋上の大型船舶等(以下、海洋構造物と総称する)と、CTV(Crew Transfer Vessel)のような人員輸送船(以下、輸送船と総称する)との間で、人員や貨物を運ぶ(以下、移送と総称する)際には、洋上風、波浪、潮流などの海象条件によって引き起こされる海洋構造物と輸送船との相対運動を極力抑えて、移送の安全性を高めることが重要である。そのため、従来から、海洋構造物に対して輸送船を安定的に保持又は固定(係留等)する技術が提案されてきた(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭59-145480号公報
【文献】特開平7-101380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、洋上風、波浪、潮流などの海象条件によって引き起こされる海洋構造物と輸送船との相対運動は、前述した移送の安全性に大きく影響し、海洋構造物が固定式の場合には、輸送船の6自由度の動揺によって引き起こされ、海洋構造物が浮体式の場合には、海洋構造物及び輸送船のそれぞれの動揺によって引き起こされる。この場合、安全な移送を可能にする相対運動(6自由度方向の距離、速度、加速度)には制限があるため、結果として、輸送船の稼働率が海洋条件によって制限されることになる。
【0005】
また、これに関連して、輸送船と海洋構造物との相対運動を制限値内に収めるべく、移送に際しては、輸送船をそのボラード推力を用いて海洋構造物に押し付けることが不可欠となる。このため、固定式海洋構造物の場合には、輸送船の押し付けによる推力が外力となって発生することから、それに伴って構造物内部及び構造物基礎と地盤との間に作用する剪断力、曲げモーメント、軸力等に耐えるように設計を強化する必要がある。また、輸送船の押し付けによる海洋構造物の基礎部分の反力の影響により、地盤の洗掘等が起き、海洋構造物の寿命やメンテナンスに負の影響を及ぼす可能性もある。一方、浮体式海洋構造物の場合には、輸送船の押し付けによる推力に起因する海洋構造物の移動を抑えるべく、係留を強化する必要がある。
【0006】
このような負の影響及び設計・係留の強化は、海洋構造物の設置やメンテナンス等に関連するプロジェクトコストを増大させる要因となる。
【0007】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、船舶と海洋構造物との相対運動を軽減して、船舶の稼働率を向上させることができるとともに、海洋構造物に対する船舶の必要な押し付け力を軽減して、海洋構造物側の力学的負担を軽減し、全体のプロジェクトコストを低減できる、電磁吸着機能付き船舶及び船舶電磁吸着固定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、海洋構造物に対して船舶を電磁的に吸着固定するための船舶電磁吸着固定システムであって、前記船舶の船首部分の前面に設けられ、前記船舶の幅方向に所定の間隔を隔てて並んで位置される一対の電磁石ユニットと、磁性体から形成されるとともに、前記一対の電磁石ユニットと対向し得るように前記海洋構造物の表面に設置される一対の吸着体とを備え、前記各電磁石ユニットは、基体と、前記基体に対して第1の緩衝スプリングを介して支持されるとともに、給電により前記吸着体に電磁的に吸着される電磁石と、前記電磁石の周囲を取り囲むように配設されるとともに、前記基体に対して第2の緩衝スプリングを介して支持される緩衝部材とを有することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、船舶と海洋構造物との間で人員や貨物などを移送する際、給電によって船舶側の電磁石ユニットの電磁石を励磁作動させて、電磁石を海洋構造物側の吸着体に電磁的に吸着固定させることができる。それにより、洋上風、波浪、潮流などの海象条件によって引き起こされる海洋構造物と船舶との相対運動を軽減し(海洋構造物及び船舶における相対的な水平方向距離、速度、加速度をゼロにできる)、移送の安全性を高めることができるとともに、従来よりも厳しい海象条件でも移送を可能にすることができる。したがって、船舶の稼働率を向上させることができる。
【0010】
なお、移送の安全性に関し、具体的に、従来では、例えば、船舶の人員が海洋構造物の梯子にとりつくタイミングで船舶が上昇、下降する等により、人員が怪我をする可能性があるが、本発明によれば、電磁石により船舶の動きを軽減できるため、そのような危険性を減らすことができる。また、これに関連して、従来では、人員が梯子から船舶に降りる場合が最も危険であったが、本発明によれば、電磁石による吸着固定により船舶を静止させた状態で梯子から船舶に降りることができるため安全である。
【0011】
また、本発明の上記構成によれば、電磁石と吸着体との電磁的な吸引作用により、移送に際して船舶をその推力により海洋構造物に対して押し付ける押し付け力を軽減できるため、海洋構造物側の力学的負担を軽減することができる。したがって、海洋構造物の基礎強化工事や地盤洗掘などに対するメンテナンスといったプロジェクトコストを抑えることも可能となる。
【0012】
具体的には、電磁石と吸着体との電磁的な吸引作用を伴わない従来において必要な押し付け力(海洋構造物に対する船舶の押し付け力)をTn、電磁石による吸着力をFとすると、本発明の船舶電磁吸着固定システムの電磁石ユニットを作動させた場合に船舶に求められる押し付け力Tは、T=Tn-Fと軽減され、したがって、船舶における推進装置(スラスター)の負担軽減(スラスターによる推力の軽減)と燃費向上とが期待できる。
【0013】
また、前記押し付け力に伴う固定式海洋構造物の海底基礎の反力の剪断力成分をQF、海底基礎の反力としての曲げモーメントをMF、海底基礎から船舶の押し付け力作用点までの距離(水深)をLとすると、電磁石と吸着体との電磁的な吸引作用を伴わない従来においては、QF=Tn,MF=Tn・Lであるのに対し、電磁石ユニットを有する本発明の船舶電磁吸着固定システムでは、QF=T,MF=T・Lに軽減することができ、構造物コラムの内力及び海底基礎への負担を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明の上記構成によれば、船舶側の一対の電磁石ユニットは、船舶の幅方向に所定の間隔を隔てて並んで位置されているため、電磁石ユニットの電磁石が海洋構造物側の吸着体に電磁的に吸着された状態で、電磁石ユニット間には、船舶と海洋構造物との間に空間が形成される。そのような空間は、例えば、海洋構造物側において一対の吸着体間に梯子等の構造体が配設される場合には、そのような梯子等の構造体から人員が万が一落下した際においても、人員が船舶と海洋構造物との間に挟まれることなく逃げられるスペースを確保できるという点で有益である。
【0015】
また、本発明の上記構成によれば、電磁石の周囲を取り囲むように緩衝部材が配設されているため、電磁石を他の部材との接触による衝撃から保護できるとともに、電磁石及び緩衝部材が対応する緩衝スプリングを介して基体に支持されているため、海洋構造物に対する船舶の押し付けに伴って電磁石ユニットに作用する衝撃を緩和できるだけでなく、局所的な曲げモーメントが過大になりすぎて船体構造が破壊されてしまう事態を回避できる。また、大きな波の存在下でも吸着体と電磁石との吸着状態を安定化させることもできる。なお、緩衝部材としては、例えば、ゴム等の弾性部材を挙げることができる。
【0016】
また、上記構成において、電磁石と吸着体との間に作用する摩擦力Hは、摩擦係数をμとすると、H=μ(F+T)となるが、本発明では電磁力Fが存在するため、従来より少ないスラストTにおいても、電磁石と吸着体とを密接に接触させることが可能であり、摩擦係数μを確保し易くなる。なお、摩擦係数を大きくするために、吸着体及び電磁石の少なくとも一方の(好ましくは両方の)表面に薄いコーティングを施すことが好ましい。この場合、コーティングの厚さは、電磁石の吸着力を阻害しないように片側2mm以下とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明の上記構成では、電磁石に対する給電を制御部によって制御することが好ましい。このように電磁石への通電をON/OFF制御して電磁石と吸着体との吸着状態を制御できれば、操船が容易になる。また、常時ON状態のままでないため、電磁的な吸着時間を短くでき、したがって、電磁石が高温になることがない。また、制御部は、手動操作の介在により或いは何らかの検出機構との協働によって自動的に、移送の瞬間にのみ電磁石への通電をONにすることで電磁石を吸着体に吸着させて船舶を海洋構造物に固定する或いは船舶と海洋構造物との相対運動を許容範囲内に収めるようにしてもよい。
【0018】
なお、上記構成において、「海洋構造物」とは、海洋に存在する固定された或いは浮体式の任意の構造物を指し、例えば、洋上風力発電プラットフォーム、海底油田ガス田開発プラットフォーム、離島桟橋、洋上の大型船舶等を含む。また、上記構成において、「船舶」とは、動力によって海上を走行する全ての構造物を指し、例えば、CTV(Crew Transfer Vessel)のような人員輸送船、貨物船等を含む。
【0019】
また、本発明は、前述した船舶電磁吸着固定システムを構成し得る電磁吸着機能付き船舶も提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、船舶と海洋構造物との相対運動を軽減して、船舶の稼働率を向上させることができるとともに、海洋構造物に対する船舶の必要な押し付け力を軽減して、海洋構造物側の力学的負担を軽減し、全体のプロジェクトコストを低減できる、電磁吸着機能付き船舶及び船舶電磁吸着固定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】船舶と海洋構造物とによって構成される本発明の一実施形態に係る船舶電磁吸着固定システムの概略側面図である。
図2図1の船舶電磁吸着固定システムの平面図である。
図3図1の船舶電磁吸着固定システムの非吸着状態の要部拡大側面図である。
図4図1の船舶電磁吸着固定システムの非吸着状態の要部拡大平面図である。
図5】(a)は、図1の船舶電磁吸着固定システムを構成する電磁石ユニットの正面図、(b)は、(a)の電磁石ユニットの側面図である。
図6図1の船舶電磁吸着固定システムの吸着状態の要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る船舶電磁吸着固定システムについて説明する。なお、図1は、船舶と海洋構造物とによって構成される本発明の一実施形態に係る船舶電磁吸着固定システムの概略側面図であり、図2は、図1の船舶電磁吸着固定システムの平面図であり、図3は、図1の船舶電磁吸着固定システムの非吸着状態の要部拡大側面図であり、図4は、図1の船舶電磁吸着固定システムの非吸着状態の要部拡大平面図であり、図5の(a)は、図1の船舶電磁吸着固定システムを構成する電磁石ユニットの正面図であり、図5の(b)は、図5の(a)の電磁石ユニットの側面図であり、図6は、図1の船舶電磁吸着固定システムの吸着状態の要部拡大平面図である。
【0023】
図1図5に示されるように、本実施形態に係る船舶電磁吸着固定システム1は、海洋構造物としての洋上風力発電プラットフォームの円柱状の風車本体10と、電磁吸着機能付き船舶としてのCTV(Crew Transfer Vessel)である人員輸送船20とによって構成されており、風車本体10に対して船舶20を電磁的に吸着固定することができる(電磁石の吸着力を利用して輸送船を固定できる)ようになっている。なお、風車本体10に関して、図中、参照符号11は風車昇降ステージであり、参照符号12は風車への昇降梯子であり、参照符号13は梯子12の両側に配置されたガイドである。また、輸送船20の船首部分20Aには上陸用の甲板22が設けられている。
【0024】
具体的に、船舶電磁吸着固定システム1は、特に図2及び図4に明確に示されるように、輸送船20の船首部分20Aの前面20aに設けられ、輸送船20の幅方向Wに所定の間隔を隔てて並んで位置される一対の電磁石ユニット(マグネチックフェンダ)30,30と、磁性体から形成されるとともに、一対の電磁石ユニット30,30と対向し得るように風車本体10の表面10aに設置される一対の吸着体(磁石受け台)40,40とを備える。一対の吸着体40,40間には前述した梯子12が風車本体10の上下方向に沿って延在している。
【0025】
また、各電磁石ユニット30は、特に図5に明確に示されるように、基体38と、基体38に対して第1の緩衝スプリング35を介して支持されるとともに、電源50からの給電により対応する吸着体40に電磁的に吸着される電磁石32と、電磁石32の周囲を取り囲むように配設されるとともに、基体38に対して第2の緩衝スプリング36を介して支持される緩衝部材としてのゴムフェンダ34とを有する。なお、図5の(b)に示されるように、電磁石32には電源50が電気的に接続され、また、電源50には、電源50からの電磁石32に対する給電(通電)を制御する制御部60が電気的に接続されている。
【0026】
ゴムフェンダ34は、基体38の中央に位置される電磁石32とほぼ同心的に配置される円環状体であり、電磁石32の外周に沿って電磁石32の全周を取り囲むように延在している。第1の緩衝スプリング35は、電磁石32の背面の外周端部位と基体38とを接続するように電磁石32の外周に沿って互いに所定の間隔を隔てて複数(本実施形態では8本)配設されている。また、第2の緩衝スプリング36は、円環状のゴムフェンダ34の中心円39に沿って互いに所定の間隔を隔てて複数(本実施形態では16本)配設され、ゴムフェンダ34の背面と基体38とを接続している。
【0027】
また、本実施形態に係る船舶電磁吸着固定システム1において、吸着体40及び電磁石32の少なくとも一方の表面、特に本実施形態では吸着体40及び電磁石32の両方の表面(少なくとも吸着体40と対向する電磁石32の表面及び電磁石32と対向する吸着体40の表面)には、これらの表面間の接触における摩擦係数を増大させるコーティング(図示せず)が施されている。この場合、コーティングの厚さは、電磁石32の吸着力を阻害しないように2mm以下とすることが好ましい。また、コーティングは、ゴム、樹脂等の内、摩擦係数が大きい材料、或いは、その表面を凹凸状に粗面化処理する等で構成することが可能である。
【0028】
なお、電磁石32を取り囲むゴムフェンダ34は、上記したように緩衝材としての機能を有しており、これを電磁石の金属よりも摩擦係数の大きいゴム等を使用することで、必要な摩擦力を確保することが可能である。この場合、ゴムフェンダ34の表面を、電磁石32の表面よりも突出させる(例えば、数ミリ程度突出させる)ことで、電磁石で吸着するときにゴムがつぶれて電磁石表面と緩衝材表面が面一になるように設計するのが好ましい。このように構成することで、電磁石の表面のコーティングが無くても周囲の緩衝材で摩擦力を確保することができる。
【0029】
以上のような構成の船舶電磁吸着固定システム1は、海象条件が悪い場合でも、洋上風力発電プラットフォームの円柱状の風車本体10に対して輸送船20を接続し、安定して作業員を安全に発電設備の梯子12に移動させる(又はその逆も行なう)ことが可能となる。更には、貨物をウインチで安全に発電設備側に移動させる(又はその逆も行なう)ことが可能となる。
以下、そのような船舶電磁吸着固定システム1を用いた輸送船と海洋構造物との間での人員及び貨物の輸送方法について簡単に説明する。
【0030】
船舶電磁吸着固定システム1を用いた輸送船20から風車本体10への輸送においては、まず最初に、輸送船20を吸着体40付近まで操船してスラスターによりその推進方向に沿って風車本体10に接岸させるように電磁石ユニット30の一対の電磁石32を対応する吸着体40に密着させる(船首を当て付けて固定する)。この場合、輸送船20の推進方向で、そのまま輸送船を固定することができるので、位置合わせ操作が容易に行える。船首の電磁石ユニットの一対の電磁石32が対応する吸着体40に密着した後、その状態で、人員輸送装置や貨物に風車本体10側のウインチのケーブルを取り付ける。そして、波によって輸送船20が上昇したタイミングで制御部60のスイッチをONにし、電磁石32を励磁作動させて電磁石32と吸着体40とを電磁的に吸着させ、輸送船20を風車本体10に対して固定する。
【0031】
このような電磁石32と吸着体40との電磁的な吸引作用下では、スラスターにより大きな推力を確保し続ける必要がない。また、このような電磁吸着固定状態では、一対の電磁石ユニット30が輸送船20の幅方向Wに所定の間隔を隔てて並んで位置されていることに起因して、電磁石ユニット30,30間で、図6に示されるように輸送船20と風車本体10との間に空間Sが形成される。そのような空間Sは、風車本体10側において一対の吸着体40,40間に梯子12が配設される本実施形態の場合には、移送時にそのような梯子12から人員が万が一落下した際においても、人員が輸送船20と風車本体10との間に挟まれることなく逃げられるスペースを確保することができる。
【0032】
次に、電磁石32と吸着体40とが電磁的に吸着している状態で、風車本体10側のウインチが巻き取りを開始する、或いは、人員が風車本体10側の梯子12にとりつく。そして、輸送装置が上昇或いは人員が梯子12で上昇開始したタイミングで、制御部60のスイッチをOFFにし、電磁石32の励磁状態を解除して、輸送船20が風車本体10から離れる。複数の輸送を行なう場合には、以上の動作を繰り返す。
【0033】
一方、船舶電磁吸着固定システム1を用いた風車本体10から輸送船20への輸送においては、まず最初に、輸送装置が吊り下され、或いは、人員が梯子12を降りてくる。これと並行して、輸送船20を吸着体40付近まで操船してスラスターによりその推進方向に沿って風車本体10に接岸させるように電磁石ユニット30の一対の電磁石32を対応する吸着体40に密着させる(船首を当て付けて固定する)。その後、波によって輸送船20が上昇したタイミングで制御部60のスイッチをONにし、電磁石32を励磁作動させて電磁石32と吸着体40とを電磁的に吸着させ、輸送船20を風車本体10に対して固定する。この場合も、電磁石ユニット30,30間には、輸送船20と風車本体10との間に逃げ空間Sが形成される。
【0034】
次に、電磁石32と吸着体40とが電磁的に吸着している状態で、風車本体10側のウインチが甲板22上に輸送装置を降ろす、或いは、人員が梯子12から甲板22に降りる。そして、輸送対象が甲板22に着地したタイミングで、制御部60のスイッチをOFFにし、電磁石32の励磁状態を解除して、ウインチケーブルの取り外し等を実施し、輸送船20が風車本体10から離れる。複数の輸送を行なう場合には、以上の動作を繰り返す。
なお、以上説明した輸送動作は、各種検出部との協働によって制御部60により自動化されてもよい。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、輸送舶20と風車本体10との間で人員や貨物などを移送する際、給電によって輸送船20側の電磁石ユニット30の電磁石32を励磁作動させて、電磁石32を風車本体10側の吸着体40に電磁的に吸着固定させることができる。それにより、洋上風、波浪、潮流などの海象条件によって引き起こされる風車本体10と輸送船20との相対運動を軽減し(風車本体10及び輸送船20における相対的な水平方向距離、速度、加速度をゼロにできる)、移送の安全性を高めることができるとともに、従来よりも厳しい海象条件でも移送を可能にすることができる。したがって、輸送船20の稼働率を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態成によれば、電磁石32と吸着体40との電磁的な吸引作用により、移送に際して輸送船20をその推力により風車本体10に対して押し付ける押し付け力を軽減できるため、風車本体10側の力学的負担を軽減できる。したがって、風車本体10の基礎強化工事や地盤洗掘などに対するメンテナンスといったプロジェクトコストを抑えることも可能となる。また、押し付け力の軽減により、輸送船20における推進装置(スラスター)の負担軽減と燃費向上とが期待できる。
【0037】
また、本実施形態によれば、電磁石32の周囲を取り囲むようにゴムフェンダ34が配設されているため、電磁石32を他の部材との接触による衝撃から保護できる。また、電磁石32及びゴムフェンダ34が対応する緩衝スプリング35,36を介して基体38に支持されているため、風車本体10に対する輸送船20の押し付けに伴って電磁石ユニット30に作用する衝撃を緩和できるだけでなく、局所的な曲げモーメントが過大になりすぎて船体構造が破壊されてしまう事態を回避できる。さらに、大きな波の存在下でも吸着体40と電磁石32との吸着状態を安定化させることもできる。
【0038】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、その技術的思想から逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した実施形態では、2つの電磁石ユニットのみが設けられているが、電磁石ユニットが3つ以上設けられても構わない。また、緩衝スプリングの数、電磁ユニットの形状などについても、前述した実施形態のそれに限定されない。
【符号の説明】
【0039】
1 船舶電磁吸着固定システム
20 輸送船(船舶、電磁吸着機能付き船舶)
30 電磁石ユニット
32 電磁石
35 第1の緩衝スプリング
36 第2の緩衝スプリング
38 基体
40 吸着体
60 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6