(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】微結晶セルロース強化高分子複合材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/215 20060101AFI20240501BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240501BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08J3/215 CEP
C08J3/215 CES
C08L1/02
C08L23/02
(21)【出願番号】P 2020573460
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(86)【国際出願番号】 TH2019000022
(87)【国際公開番号】W WO2020018023
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10201806087X
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】517301210
【氏名又は名称】タイ ポリエチレン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォンサムマカイ、ノッパワン
(72)【発明者】
【氏名】ツリーサムマクル、スパッキト
(72)【発明者】
【氏名】ニチャラット、アピラディー
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0086956(US,A1)
【文献】特開2015-183153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製する方法であって、
a)微結晶セルロースの個別片を提供する段階
であって、前記微結晶セルロースをジェット粉砕する段階を含み、前記微結晶セルロースの前記個別片の各々は2μm~100μmの範囲のサイズを有する、段階と、
b)前記微結晶セルロースの前記個別片を撹拌下で
分散剤を用いることなく有機溶媒において第1ポリオレフィンと混合する段階であって、前記第1ポリオレフィンは前記有機溶媒において少なくとも実質的に溶解し、前記微結晶セルロースの前記個別片は、前記有機溶媒において分散して分散体を形成する、段階と、
c)非溶剤を使用して、微結晶セルロース強化高分子複合材料を前記分散体から沈殿させる段階と
を備える方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、キシレン、トルエン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒における前記微結晶セルロースの濃度は、0.05g/mL~0.15g/mLである、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分散体における前記第1ポリオレフィンの濃度は、前記微結晶セルロースと前記第1ポリオレフィンとの比として1:10w/v~2:10w/vである、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記微結晶セルロースの前記個別片を撹拌下で前記有機溶媒において前記第1ポリオレフィンと混合することは、100℃~150℃の範囲の温度で実行される、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記微結晶セルロースの前記個別片を撹拌下で前記有機溶媒において前記第1ポリオレフィンと混合することは、1時間~5時間の範囲の期間にわたって実行される、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記微結晶セルロースの前記個別片を撹拌下で前記有機溶媒において前記第1ポリオレフィンと混合することは、前記第1ポリオレフィンを追加する前に、10分間~40分間の範囲の期間にわたって、撹拌下で前記有機溶媒において前記微結晶セルロースの前記個別片を分散させることを含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1ポリオレフィンはポリオレフィン炭化水素である、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、または、それらの共重合体を含む、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記非溶剤は、エタノール、アセトン、および、それらの混合物からなる群から選択される、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分散体から沈殿される前記微結晶セルロース強化高分子複合材料を乾燥させる段階を更に備える、請求項1から
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片を形成するために、前記微結晶セルロース強化高分子複合材料を物理的に加工する段階であって、前記個別片の各々は、100μm以下のサイズを有する、段階を更に備える、請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記微結晶セルロース強化高分子複合材料の前記個別片を第2ポリオレフィンと融解配合する段階を更に備える、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1ポリオレフィンおよび前記第2ポリオレフィンは、同一のポリオレフィンから形成される、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、または、それらの共重合体を含む、請求項
13または
14に記載の方法。
【請求項16】
前記微結晶セルロースの量と、前記第1ポリオレフィンおよび前記第2ポリオレフィンを合わせた量との重量比は、30:70~70:30の範囲である、請求項
13から
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から
16のいずれか一項に記載の方法によって調製される微結晶セルロース強化高分子複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
様々な実施形態は、微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製する方法、および、当該方法によって調製された微結晶セルロース強化高分子複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体材料ベースで強化された高分子複合材料が、バイオ医療業界から自動車または建設業界までにわたる様々な分野において応用されている。セルロース系充填剤を使用することによって、塑性材料を含む高分子の機械的特性を大幅に改善することが可能となる。高強度セルロース系材料は特に、この目的に適切である。なぜなら、それらは優れた機械的特性を示し、毒物学的に無害であると考えられ、再生可能原材料から大量に生成され得るからである。
【0003】
しかしながら、効果的な強化を実現するには、ナノ複合材料におけるセルロース系材料の均一分散が主要な要件である。主な課題は、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィンの疎水性に関する。セルロースなど、極性の表面を有する充填剤が使用されるとき、適合性の課題が生じるからである。さらに、セルロース系材料と高分子との融解配合の成功を妨げ得る他の問題は、熱可塑性配合中に加えられる高せん断力下におけるセルロース系材料の機械的分解、および、高温での融解処理中のセルロース系材料の熱分解に関する。
【0004】
生体材料ベースの強化高分子複合材料を生成する様々な方法が開発されてきた。しかしながら、そのような方法は、上に記載した課題を解決しない、または、費用効果の高い方式で実行されない。なお、当該方法は、疎水性ポリオレフィンにおけるセルロース系材料の分散安定性を改善するために、追加の処理ステップまたは修正を必要とする。
【0005】
例えば、高分子樹脂においてセルロースを分散するための、報告された一方法において、セルロース系材料の化学修飾を伴う複数のステップが実行された。
【0006】
セルロースは酸化されて、0.1~3mmol/gのカルボキシル基(‐COOH)含有量を有し、酸化後、酸化セルロースを樹脂と混合する前に、高分子樹脂におけるセルロース系材料の分散の安定性を改善するべく、セルロース上への化学的吸着のために界面活性剤が加えられた。
【0007】
報告された別の方法において、配合プロセスを通じて、セルロース系繊維が繊維強化ポリプロピレン樹脂に組み込まれた。ここで、分散を促すべく、セルロース系繊維ペレットを形成するために、ペレット化ステップがセルロース系繊維に対して実行された。この方法は、追加のペレット化ステップを受けるためにセルロース系繊維を必要とするだけでなく、上記の分解の課題に対処することもできない。
【0008】
上記に鑑み、上で言及された問題のうち1または複数を克服する、または少なくとも緩和する高分子複合材料を調製する改善された方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様において、微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製する方法が提供され、当該方法は、a)微結晶セルロースの個別片を提供する段階と、b)微結晶セルロースの個別片を撹拌下で有機溶媒において第1ポリオレフィンと混合する段階であって、第1ポリオレフィンは有機溶媒において少なくとも実質的に溶解し、微結晶セルロースの個別片は、有機溶媒において分散して分散体を形成する、段階と、c)非溶剤を使用して、微結晶セルロース強化高分子複合材料を分散体から沈殿させる段階とを備える。
【0010】
別の態様において、第1の態様による方法によって調製される微結晶セルロース強化高分子複合材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明は、非限定的な例および添付図面と併せて考慮するとき、詳細な説明を参照することにより理解しやすくなる。
【
図1A】微結晶セルロース(MCC)の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。スケールバーは100μmを示す。
【
図1B】前処理(すなわちジェット粉砕後)後の微結晶セルロース(MCC)のSEM画像である。スケールバーは10μmを示す。
【
図2A】直接混合によって調製されるPP/MCC5 wt%のSEM画像である。スケールバーは100μmを示す。PPはポリプロピレンを表し、MCCは微結晶セルロースを表す。
【
図2B】直接混合によって調製されるPP/MCC5 wt%のSEM画像である。スケールバーは10μmを示す。
【
図2C】マスターバッチPP/jMCC複合材料を希釈することによって取得された5wt% jMCCのSEM画像である。スケールバーは100μmを示す。jMCCは、ジェット粉砕された微結晶セルロースを表す。
【
図2D】マスターバッチPP/jMCC複合材料を希釈することによって取得された5wt% jMCCのSEM画像である。スケールバーは10μmを示す。
【
図3】5wt% jMCC/PPで希釈されたマスターバッチ複合材料の写真である。
【
図4A】前処理前の微結晶セルロースのSEM画像である。スケールバーは100μmを示す。
【
図4B】前処理後(すなわちジェット粉砕後)の微結晶セルロースのSEM画像である。スケールバーは10μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明は、例示の目的で、発明が実施され得る具体的な詳細および実施形態を示す添付図面に関連する。
【0013】
第1の態様において、様々な実施形態は、微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製する方法を参照する。当該方法は、微結晶セルロースの個別片を提供する段階と、微結晶セルロースの個別片を撹拌下で有機溶媒において第1ポリオレフィンと混合する段階であって、第1ポリオレフィンは、有機溶媒において少なくとも実質的に溶解し、微結晶セルロースの個別片は、有機溶媒において分散して分散体を形成する、段階と、非溶剤を使用して、微結晶セルロース強化高分子複合材料を分散体から沈殿させる段階とを備える。
【0014】
高分子における微結晶セルロースの均一分散は、高分子を効果的に強化し、高分子の機械的特性を向上させるための、微結晶セルロースの充填剤の主要な要件である。微結晶セルロースの充填剤は、水素結合を形成可能な-OH基を有する極性表面を有するが、疎水性高分子が-OH基を有さず、水素結合を形成しないことを考慮すると、微結晶セルロースの充填剤は、それらの不適合性に起因して疎水性高分子に組み込まれるときに、凝集体を形成する結果となり得る。充填剤が疎水性高分子において均一に分散するのではなく凝集するにつれて、凝集体は、高分子複合材料の機械的完全性を強化するのではなく損なう材料欠陥になり得る。一般に、充填剤と疎水性高分子との間の界面相互作用(例えば接着)は、凝集体が形成されるとき、悪影響を受ける。微結晶セルロース充填剤凝集の例は、微結晶セルロースの充填剤がポリプロピレン(PP)などの疎水性高分子に組み込まれ、PP/MCC高分子複合材料を形成するときに見られ得る。
【0015】
有利なことに、本明細書において開示される方法による様々な実施形態は、ポリオレフィンなどの疎水性高分子および微結晶セルロース(MCC)の充填剤の使用に関する適合性の課題に対処可能であり、結果として、機械的特性が改善された微結晶セルロース強化高分子複合材料が形成される。これに関して、本発明者は驚くべきことに、微結晶セルロースが、ほぼ完全な結晶構造を有するセルロース全般を指すセルロースナノ結晶(CNC)などの他のセルロース系材料と比較して、微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製する上で費用効果が高いことを発見した。微結晶セルロースを使用する費用効果は、他のセルロース系材料を生成するのに要求される追加の処理ステップが回避されることに起因し得る。例えば、CNCを形成するには、無秩序のアモルファス領域を更に含む天然のバルクセルロースミクロフィブリルから高度に秩序化された結晶領域を抽出する抽出プロセスが要求される。さらに、CNCは典型的には、硫酸を使用して生成され、そのようなCNCは表面上に硫酸エステル基を有するので、CNCはポリオレフィンと混合される前に更なる処理を必要とし、この更なる処理により、セルロース強化高分子複合材料を形成するためにCNCを使用する費用が増加する。
【0016】
一方、微結晶セルロースには、他のセルロース系材料のような疎水性高分子における非均一の分散(例えば凝集)などの課題があり得る。上記のように、これは、微結晶セルロース上の極性ヒドロキシル(-OH)基の存在に起因し得、結果として、非極性疎水性高分子において微結晶セルロースを分散させることが困難になる。凝集体は、より低い表面積および界面相互作用を提供するので、これは、より弱い、または、欠陥のあるナノ複合材料の領域をもたらし得る。この目的で、本明細書に開示される方法による様々な実施形態は、例えば、微結晶セルロース充填剤のより大きい表面積および表面粗さを形成して疎水性高分子と微結晶セルロース充填剤との間により多くの相互作用を提供することによって、(1)疎水性高分子における微結晶セルロース充填剤の分散および(2)疎水性高分子と微結晶セルロース充填剤との間の界面相互作用を改善する手法を使用してこれらの課題に対処可能である。界面相互作用が改善されることにより、今度は、疎水性高分子と微結晶セルロース充填剤との間の接着が促進される。そのように行う際、これは、水素および/または共有結合を通じた界面相互作用の改善を実現するために従来技術の方法に必要とされる疎水性高分子および/または微結晶セルロース充填剤上に官能基を導入するための化学修飾などの方法を使用する更なる処理の必要性を回避する、および/または、方法と異なる。
【0017】
有利なことに、微結晶セルロース充填剤の改善された表面積および/または表面粗さに起因する界面相互作用の改善により、非極性疎水性高分子における微結晶セルロースの分散を困難にする、微結晶セルロース上の極性ヒドロキシル(-OH)基の存在に関連する上記の問題に対処する、または、それを少なくとも緩和することが可能である。
【0018】
疎水性高分子における微結晶セルロース充填剤の分散を改善するべく、例えば、明細書において開示される様々な実施形態は、微結晶セルロース粒子を処理するためのジェット粉砕処理の使用を伴う。このことは、微結晶セルロースを粉砕するために、高速圧縮ガス流が加えられ得ることにより、微結晶セルロース粒子のサイズが低減し、形状が変化し、および/または、表面積および表面粗さが増加することを意味する。ジェット粉砕された微結晶セルロースの粒子サイズ分布は通常、機械的粉砕の場合より狭く、サイズの均一性が改善されるので、機械的特性の一様性が大幅に向上された高分子複合材料が調製され得る。その後、粉砕された微結晶セルロース粒子は、有機溶媒に分散され、ポリオレフィンまたはポリオレフィン炭化水素などの第1疎水性高分子と混合されて微結晶セルロース強化高分子複合材料を形成し得る。
【0019】
さらに、本方法において、微結晶セルロースを第1疎水性高分子と混合することにより、それぞれ加えられる高せん断力および高温(すなわち、180℃超)に起因して押出または配合プロセス中に生じ得る微結晶セルロースの分解に関連する問題が回避され得る。粉砕された微結晶セルロースおよび第1疎水性高分子の混合を通じて、第1疎水性高分子は微結晶セルロースをコーティングし得、これは、後の機械的処理において、コーティングされた微結晶セルロースが高せん断力および/または高温下で分解することを防止することを助け得る。様々な実施形態において、コーティングされた微結晶セルロースは更に、微結晶セルロースが分解する典型的な温度である180℃または190℃より高い温度など、より過酷な条件下においても、微結晶セルロースの分解無しで処理され得る。
【0020】
上記に鑑み、第1の態様において、様々な実施形態は、微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製する方法に関連する。
【0021】
本明細書において使用される場合、「セルロース」という用語は、β-1,4連結D-グルコース分子から成る線状多糖高分子を指す。これは植物細胞壁の主要成分である。一方、「微結晶セルロース」という用語は、精製された部分的解重合セルロースを指す。これは、多孔性植物材料からパルプとして取得されるαセルロースを処理することによって調製され得る。したがって、本明細書において使用される場合、「微結晶セルロース」という用語は、多孔性植物材料からパルプとして直接取得されるセルロースを含まない。αセルロースの処理は、例えば、塩酸などの鉱酸を使用して実行され得る。重合の程度は典型的には400より少ない。
【0022】
当該方法は、微結晶セルロースの個別片を提供する段階を含み得る。本明細書において使用される「個別片」という語句は、それ自体で独立した別の片を構成する材料の各片を指す。微結晶セルロースの個別片を形成するべく、微結晶セルロースは、任意の適切なサイズ低減プロセスの対象になり得る。これにより、微結晶セルロースの機械的および熱的な分解が回避され、結果として、狭い粒子サイズ分布がもたらされ得る。そのような適切なサイズ低減プロセスの例は、ジェット粉砕(あるいは空気ジェット粉砕または流体エネルギー粉砕と称される)であり得る。
【0023】
様々な実施形態によると、微結晶セルロースの個別片を提供する段階は、微結晶セルロースをジェット粉砕する段階を含み得る。ジェット粉砕において、微結晶セルロースは、チャンバにおける高速圧縮ガスのストリームにさらされ得る。ガスは、空気、または、微結晶セルロースの粉砕を助ける他のガスであり得る。そのような高速圧縮ガスのエネルギーを使用することにより、微結晶セルロースは粉砕されて個別片になり得る。追加的に、ジェット粉砕はまた、表面積および表面粗さを増加させ、および/または、微結晶セルロースの形状を変更し得る。
【0024】
有利なことに、低減されたサイズを有する微結晶セルロースの個別片は、例えば、本明細書に例示されるポリプロピレンなどのポリオレフィンである疎水性高分子における微結晶セルロースのより均一な分散、および、微結晶セルロースと疎水性高分子との間の界面相互作用の改善を可能にする。さらに、ジェット粉砕のふるい効果に起因して、スクリーニングは不要である。オーバーサイズの分画は通常、粒子サイズ分布の1%より少ないからである。
【0025】
上記のように、ジェット粉砕における個別片の粒子サイズ分布は通常、機械的粉砕の場合より狭い。サイズ均一性の改善の結果、降伏点伸びおよび破断伸び、曲げ弾性率、ならびに加熱撓み温度などの機械的特性の一様性が大幅に向上した高分子複合材料が調製され得る。
【0026】
様々な実施形態において、ジェット粉砕は、100μm以下、好ましくは、2μm~100μmの範囲、より好ましくは、2μm~20μmの範囲のサイズを有する微結晶セルロースの各個別片を生じさせ得る。ジェット粉砕はまた、20μm未満、10μm未満、または5μm未満のサイズを生じさせ得る。本明細書で使用される場合、「サイズ」という用語は、1つの地点から粒子の中心の反対側の別の地点までを測定した、粒子(例えば微結晶セルロースの各個別片)の最大長を指す。
【0027】
様々な実施形態によれば、微結晶セルロースのサイズを低減後、微結晶セルロースの個別片は、撹拌下で有機溶媒において、第1疎水性高分子、例えば第1ポリオレフィンと混合され得る。具体的な実施形態において、微結晶セルロースは、撹拌下で有機溶媒において第1ポリオレフィンと混合され得る。
【0028】
第1ポリオレフィンは、有機溶媒に少なくとも実質的に溶解され得、一方、微結晶セルロースの個別片は、有機溶媒において分散され、分散体を形成し得る。「少なくとも実質的に」という用語は、少なくとも90wt%、例えば、少なくとも92wt%、95wt%、99wt%、または100wt%などの追加の第1ポリオレフィンが有機溶媒に溶解することを意味する。換言すれば、微結晶セルロースは有機溶媒に溶解しないことがあり得、有機溶媒に溶解された第1ポリオレフィンによって形成される高分子溶液内に個別片として残る。いくつかの実施形態において、第1ポリオレフィンは、有機溶媒において完全に溶解される。
【0029】
微結晶セルロースおよび第1ポリオレフィンは、同時に、または、前後して有機溶媒に追加され得る。いくつかの実施形態において、分散体および高分子溶液を共に混合する前に、微結晶セルロースおよび第1ポリオレフィンは各々、有機溶媒に別々に追加され得、有機溶媒に微結晶セルロースを含む分散体、および、有機溶媒に溶解された第1ポリオレフィンを含む高分子溶液をそれぞれ形成する。混合は、高分子複合材料における微結晶セルロースの均一な分散を促すために実行され得る。これにより、高分子複合材料の機械的特性が効果的に強化される。混合中の撹拌は、微結晶セルロースの個別片の凝集を防止し得る。
【0030】
一般に、微結晶セルロースを分散させる一方で、第1ポリオレフィンを少なくとも実質的に溶解可能な任意の有機溶媒が使用され得る。様々な実施形態において、有機溶媒は、キシレン、トルエン、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。特定の実施形態において、有機溶媒はキシレンである。
【0031】
様々な実施形態において、微結晶セルロースの個別片は、0.05g/mL~0.15g/mL、0.1g/mL~0.15g/mL、または0.05g/mL~0.1g/mLの濃度を得るために有機溶媒と混合され得る。換言すれば、様々な実施形態において、有機溶媒における微結晶セルロースの濃度は、0.05g/mL~0.15g/mL、0.1g/mL~0.15g/mL、または、0.05g/mL~0.1g/mLであり得る。有利なことに、そのような範囲の濃度は、後の使用における更なる希釈を可能にする。これにより、後に希釈(例えばより多くの有機溶媒を追加する)を実行できるので、分散体のより容易な輸送が可能となる。特定の実施形態において、有機溶媒における微結晶セルロースの濃度は0.1g/mLである。
【0032】
第1ポリオレフィンと微結晶セルロースとの間の濃度に関して、分散体における第1ポリオレフィンの濃度は、微結晶セルロースと第1ポリオレフィンとの比で、1:10w/v~2:10w/v、1.5:10w/v~2:10w/v、または、1:10w/v~1.5:10w/vであり得る。具体的な実施形態において、分散体における第1ポリオレフィンの濃度は、微結晶セルロースと第1ポリオレフィンとの比で、1:10w/vであり得る。
【0033】
撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片と第1ポリオレフィンとの混合は、様々な実施形態によると、100℃~150℃、110℃~150℃、120℃~150℃、130℃~150℃、140℃~150℃、100℃~140℃、110℃~140℃、120℃~140℃、100℃~130℃、110℃~130℃、120℃~130℃、100℃~120℃、110℃~120℃または100℃~110℃の範囲の温度で実行され得る。いくつかの実施形態において、混合は120℃の温度で実行され得る。
【0034】
様々な実施形態において、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片と第1ポリオレフィンとの混合は、1時間~5時間、2時間~5時間、3時間~5時間、4時間~5時間、1時間~4時間、2時間~4時間、3時間~4時間、1時間~3時間、2時間~3時間、または1時間~2時間の範囲の期間実行され得る。具体的な実施形態において、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片と第1ポリオレフィンとの混合は、3時間の期間にわたって実行され得る。
【0035】
上記の材料濃度、温度および時間長の他、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片と第1ポリオレフィンとの混合は有利なことに、様々な実施形態において、分散剤無しで実行され得る。したがって、本方法により、第1ポリオレフィンにおける微結晶セルロースの均一な分散を実現するための分散剤の使用が回避される。
【0036】
上記のように、微結晶セルロースおよび第1ポリオレフィンは、同時に有機溶媒に追加されないことがあり得る。ポリオレフィンが第1疎水性高分子として使用される、そのような実施形態において、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片と第1ポリオレフィンとの混合は、第1ポリオレフィンを追加する前に、10分から40分、20分から40分、30分から40分、10分から30分、10分から20分、または20分から30分の範囲の期間にわたる、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片の分散を含み得る。具体的な実施形態において、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片と第1ポリオレフィンとの混合は、第1ポリオレフィンを追加する前に、20分の期間にわたる、撹拌下での有機溶媒における微結晶セルロースの個別片の分散を含み得る。
【0037】
様々な実施形態において、第1ポリオレフィンはポリオレフィン炭化水素であり得る。明細書において使用される場合、「ポリオレフィン炭化水素」という表現は、1または複数の不飽和炭素-炭素結合を有する水素および炭素を少なくとも主に、またはそれのみを含むポリオレフィンを指す。そのようなポリオレフィンは例えば、アルケン、アルキン、シクロアルケンおよび/またはシクロアルキンから形成された1または複数の高分子を含む。ポリオレフィン炭化水素は、追加の化学基で置換されなくても、置換されてもよい。様々な実施形態において、第1ポリオレフィンは、C2-20アルケン、C2-12アルケン、C2-5アルケン、またはC2-3アルケンなどのアルケンから形成される高分子である。いくつかの実施形態において、第1ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれらの共重合体を含み得る。そのような共重合体の非限定的な例は、ポリプロピレンの共重合体、ポリエチレンの共重合体、および/または、ポリプロピレンおよびポリエチレンの共重合体を含み得る。いくつかの実施形態において、第1ポリオレフィンはポリプロピレンであり得る。
【0038】
様々な実施形態において、第1ポリオレフィンには、無水マレイン酸、ヒドロキシレート、カルボキシレート、アクリレート、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの極性官能基がグラフトされ得る。これにより、微結晶セルロースとの適合性が改善し、第1ポリオレフィンによって形成されるマトリックス内の微結晶セルロースの分散が改善する。下の表2に示される結果を用いて本発明者によって実証されるように、無水マレイン酸がグラフトされたポリプロピレンを使用して調製される微結晶セルロース強化高分子複合材料は、降伏点伸びおよび破断伸び、曲げ弾性率、ならびに加熱撓み温度などの機械的特性を更に改善することを示した。
【0039】
混合後、微結晶セルロースの個別片および第1ポリオレフィンは分散体を形成し得る。
【0040】
分散体は、液体またはスラリーの形態であり得る。微結晶セルロースの個別片は、第1ポリオレフィンを有機溶媒に少なくとも実質的に溶解させることによって形成される高分子溶液に分散されるので、微結晶セルロースは、第1ポリオレフィンから形成されるマトリックスに組み込まれ得る。分散体から微結晶セルロース強化高分子複合材料を沈殿させるために、微結晶セルロースおよび第1ポリオレフィンを含む分散体に非溶剤が追加され得る。非溶剤は例えば、アルコールまたは水性媒体などの極性溶媒であり得る。様々な実施形態において、非溶剤は、エタノール、アセトンおよびそれらの混合物からなる群から選択され得る。具体的な実施形態において、非溶剤はエタノールである。他の具体的な実施形態において、非溶剤はアセトンである。
【0041】
本明細書に記載される方法は更に、分散体から沈殿される微結晶セルロース強化高分子複合材料を乾燥する段階を含み得る。乾燥は任意の適切な方法によって実行され得る。例えば、微結晶セルロース強化高分子複合材料は、乾燥オーブン/チャンバに配置され、任意の残留溶媒を蒸発させるために空気にさらされ得る。
【0042】
上記のプロセスは、「マスターバッチ」を形成するために使用され得る。これは後に、第1ポリオレフィンと同一でも異なってもよい他の高分子との混和、または融解配合によって処理され得る。これにより、適用要件に従って、微結晶セルロースおよび/または高分子の特定の重量%が実現される。「マスターバッチ」は例えば、最終形態において、1重量パーセント(wt%)~10wt%、例えば、2wt%~8wt%、または4wt%~6wt%などの微結晶セルロース強化高分子複合材料を含むように希釈され得る。それを行うことにより、高分子複合材料における微結晶セルロースの分散が改善され得、結果として生じる高分子複合材料の変色が低減され得る。
【0043】
「マスターバッチ」の後続の処理について、本明細書に記載された方法は更に、微結晶セルロース強化高分子複合材料を物理的に加工して、微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片を形成する段階を含み得る。各個別片は、100μm以下、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、1μm以下、または0.5μm以下のサイズを有する。「物理的に加工する」という用語は、微結晶セルロース強化高分子複合材料のサイズを低減して個別片にするために、微結晶セルロース強化高分子複合材料を、切断、破砕、研削、および/または粉砕などの物理的プロセスの対象にすることを意味する。例えば、微結晶セルロース強化高分子複合材料は、微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片を形成するために、物理的に加工され得る。各個別片は、100μm以下、好ましくは、2μm~100μmの範囲、より好ましくは、2μm~20μmの範囲のサイズを有する。
【0044】
微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片を形成するために微結晶セルロース強化高分子複合材料を物理的に加工することは、微結晶セルロース強化高分子複合材料の物理的加工後に各個別片が1μm以下のサイズを有し得るように実行され得る。そのようなサイズにおいて、微結晶セルロース強化高分子複合材料は、粉末として存在し得る。これにより、有利なことに、第1ポリオレフィンと同一または異なる高分子との後続の希釈、混合、混和、または融解配合のために、「マスターバッチ」としてのその使用において、より容易および/またはより一様な混和が可能となり得る。これにより、適用要件に従って微結晶セルロースおよび/または高分子の特定の重量%が実現される。
【0045】
微結晶セルロース強化高分子複合材料のそのような個別片を形成するための適切なプロセスの例は具体的には、非限定的に、粉砕機を使用する、または、上記のようなジェット粉砕処理による研削を含み得る。
【0046】
微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片を形成するための物理的加工の後に、微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片は更に、第2疎水性高分子と混和され得る。上記のように、これは、適用要件に従って微結晶セルロースおよび/または高分子の特定の重量%を調整するために実行され得る。混和は、非限定的に、押出または融解配合などの任意の適切なプロセスであり得る。したがって、本明細書に記載の方法は更に、微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片と第2疎水性高分子とを融解配合する段階を含み得る。第2疎水性高分子は、ポリオレフィン炭化水素などのポリオレフィンであり得る。その例は上で既に説明した。様々な実施形態において、本方法は更に、微結晶セルロース強化高分子複合材料の個別片と第2ポリオレフィンとを融解配合する段階を含み得る。これは例えば、押出を介して、および/または、2軸押出機を介して実行され得る。
【0047】
微結晶セルロース強化高分子複合材料が第2ポリオレフィンと混和される実施形態において、微結晶セルロースの量と第1ポリオレフィンおよび第2ポリオレフィンを合わせた量との重量比は、30:70~70:30の範囲、例えば、40:60~70:30、50:50~70:30、60:40~70:30、30:70~60:40、30:70~50:50、30:70~40:60、40:60~60:40または50:50などの重量比であり得る。具体的な実施形態において、微結晶セルロースの量と第1ポリオレフィンおよび第2ポリオレフィンを合わせた量との重量比は、30:70~70:30の範囲であり得る。
【0048】
様々な実施形態において、第2ポリオレフィンおよび第1ポリオレフィンは、同一または異なる高分子から形成され得る。第2ポリオレフィンおよび第1ポリオレフィンが2以上の異なる高分子を含む実施形態において、第2ポリオレフィンおよび第1ポリオレフィンにおける各高分子の量は同一でも異なってもよい。具体的な実施形態において、第1ポリオレフィンおよび第2ポリオレフィンは、同一のポリオレフィンから形成され得る。様々な実施形態において、第2ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはそれらの共重合体を含み得る。そのような共重合体の非限定的な例は、ポリプロピレンの共重合体、ポリエチレンの共重合体、ならびにポリプロピレンおよびポリエチレンの共重合体を含み得る。いくつかの実施形態において、第2ポリオレフィンはポリプロピレンであり得る。
【0049】
別の態様において、様々な実施形態は、第1の態様に従って記載される方法によって調製された微結晶セルロース強化高分子複合材料を参照する。
【0050】
微結晶セルロース強化高分子複合材料の実施形態および特徴は、既に上に記載した方法から得られる。上に記載された方法の実施形態および特徴に関連する利点は、微結晶セルロース強化高分子複合材料の実施形態および特徴に適用可能であり得る。ジェット粉砕を受けていない微結晶セルロースを使用して得られた微結晶セルロース強化高分子複合材料と比較して、本発明の微結晶セルロース強化高分子複合材料は、より小さいサイズの微結晶セルロースを有し、表面粗さが増加し、それにより、高分子複合材料における微結晶セルロースの分散が良くなる。このことは、
図4Aおよび
図4Bに描写されたSEM画像から分かる。ここでは、ジェット粉砕を受けた微結晶セルロースでは、サイズはより小さく、表面粗さは増加している。
【0051】
有利なことに、このようにして取得された複合材料では、従来のプロセスから形成された複合材料と比較して、機械的特性が改善されることが実証され得る。
【0052】
本発明は、本明細書において幅広く一般的に記載された。一般的な開示内にある、より細かい種類および下位概念の群の各々もまた、本発明の部分を形成する。これには、種類から任意の主題を除去する但し書きまたは消極的限定を有する本発明の一般的説明が含まれる。除かれた材料が本明細書において具体的に列挙されるかどうかは関係ない。
【0053】
別段の規定が無い限り、「含み」および「含む」という用語、ならびに、それらの文法的変形は、「オープン」または「包括的」語句を表すことが意図されており、列挙された要素を含むが、追加の未列挙の要素の包含も許可する。
【0054】
明細書において使用される場合、「および/または」という用語は、関連する列挙項目のうち1または複数のいずれか、およびすべての組み合わせを含む。
【0055】
「実質的」とう語句は、「完全」を除外しない。例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まないことがあり得る。必要に応じて、「実質的」という語句は、本発明の定義から省略され得る。
【0056】
様々な実施形態の文脈において、特徴または要素に関して使用される場合、冠詞「a」、「an」、および「the」は、特徴または要素のうち1または複数への言及を含む。
【0057】
上に記載された本方法の様々な実施形態に関連する利点は、本発明の微結晶セルロース強化高分子複合材料に適用され得、その逆も成立する。 他の実施形態は、以下の請求項および非限定的な例に含まれる。
【0058】
加えて、本発明の特徴または態様は、マーカッシュグループの観点から記載されるが、当業者であれば、本発明は、マーカッシュグループの任意の個別メンバーまたはメンバーのサブグループの観点からも記載されることを認識するであろう。
実験の項
【0059】
本明細書に開示される様々な実施形態は、前処理を使用してセルロース複合材料を調製する方法、ならびに、高分子複合材料におけるセルロース系材料の分散を改善し、結果として生じる高分子複合材料の変色を低減するためのマスターバッチ方法に関連する。高分子複合材料を生成する方法は、ジェット粉砕によってセルロース充填剤を前処理する段階と、セルロースおよび高分子を直接混合することによってセルロースマスターバッチ(マスターバッチにおけるセルロースは30重量パーセント(wt%))を形成する段階と、セルロース強化高分子複合材料の1wt%~10wt%にマスターバッチを希釈する段階とを含み得る。マスターバッチの調製は、下の例においてより詳細に記載される単純な混合プロセスを伴う。
【0060】
微結晶セルロースを含む高分子複合材料を調製する本方法は、高分子のマトリックスに含まれる特定の官能基をセルロースおよび高分子に結合させるための任意の化学修飾を必要としない。有利なことに、本方法により、高度なプロセスの必要性が回避される。微結晶セルロースの前処理、および、それに続く、微結晶セルロース強化高分子複合材料を調製するための、溶液混合を通じたセルロースマスターバッチの調製ステップを伴うからである。本方法の最小限の手順にもかかわらず、自動車、航空機、特殊機能など、様々な用途のための機械的性能が強化されたセルロース強化高分子複合材料が実現される。
【0061】
本方法の様々な実施形態によれば、微結晶セルロースはまず、セルロースのサイズを低減することにより前処理された。これは、高分子溶液におけるセルロースの分散を改善することに役立ち得る。その後、任意の化学修飾無しで、セルロースおよび高分子の直接溶液混合により、濃縮セルロースマスターバッチを調製した。
【0062】
粒子のサイズを20μm~100μmの範囲から10μm未満に効果的に低減するために、流体エネルギー粉砕とも称されることがある空気ジェット粉砕が採用され得る。
【0063】
この微粒子化方法において、高速圧縮空気流がチャンバに注入され、ここで、上記の開始原材料が速度制御フィーダによって供給される。容易な手法の必要性を考慮すると、直接混合は、より好ましい混合方法であり、したがって、押出/融解混合の前の前混合技法/ステップの追加は、セルロース系材料が均一に分散された複合材料の調製を促し得る。本方法は、非限定的な例として、以下に説明されるように記載される。
例1:ジェット粉砕処理によるjMCCマスターバッチの調製
【0064】
セルロース(jMCC)のサイズを低減し、ポリプロピレン溶液におけるセルロースの分散を改善するために、FMCバイオケミカルから購入された微結晶セルロース(MCC)はジェット粉砕された。より細かい粒子を得るべく、MCCの乾燥粉砕が、300グラム/時間の供給速度で、SturtevantのMicronizer(登録商標)Jetmillを使用して実行された。粉砕された粒子サイズを判定するために、粒子サイズ分析が、レーザ回折粒子サイズアナライザを使用して実行された。
【0065】
開始材料の構造、ならびに、MCCおよび前処理された(例えばジェット粉砕された)MCCの形態が、
図1Aおよび
図1Bに示される。表1にまとめられているように、FMCバイオポリマーからの商用MCCは、140μmの平均粒子サイズを有し、次に、商用MCCは、粒子サイズアナライザによって特性評価された、SEM画像において見られる5μmの平均粒子サイズまで粉砕された。MCCおよびjMCC粒子のSEM画像は、粒子サイズ分析と同様の結果を示す。表1において、Dx(50)は、粒子サイズ分布の直径の中間値を表し、累積分布の50%での粒子直径の値である。これに関して、Dx(10)およびDx(90)は、それぞれ、累積分布の10%および90%に基づく粒子直径の値を表す。
【0066】
例えば、Dx(10)が23μmである場合、粒子の10%が直径23μm以下であることを意味する。
【表1】
【0067】
図4Aおよび
図4Bに描写されたSEM画像の比較から、ジェット粉砕を受けた微結晶セルロースでは、サイズがより小さく、表面粗さが増加していることが分かる。ジェット粉砕された微結晶セルロースの、より小さいサイズ、および、より大きい表面粗さに起因して、ポリプロピレンとの適合性が改善され、したがって、ポリプロピレン溶液における分散が良くなる。
例2:溶液混合プロセスによるPP/jMCCマスターバッチの調製
【0068】
この例は、粘土と高分子との重量比が1:2である担体として熱可塑性高分子が使用される溶液混合プロセスを介する非官能基化jMCCマスターバッチの調製を示す。
【0069】
ジェット粉砕されたMCCは、ポリオレフィン高分子に適切な有機溶媒において分散された。その後、良好な分散を得るために、jMCCは超音波処理され、均質化された。jMCC/PPマスターバッチ粉末を生成するために、jMCCおよびPPの両方が混合、沈殿、および乾燥された。
【0070】
マスターバッチ複合材料を調製するために、キシレンが溶媒として使用された。撹拌、均質化、および20分間の超音波処理をそれぞれ2回繰り返すことによって、jMCCは、0.1g/mLの濃度でキシレン中に分散された。高分子が溶解するまで撹拌することにより、PPは、1:10w/vの充填剤と高分子との濃度比で120℃のキシレンに溶解された。jMCC分散体およびPP高分子溶液のアリコートはフラスコ内で組み合わされ、混合物は撹拌機内で2時間にわたって撹拌された。その後、PP/jMCCマスターバッチはエタノールで沈殿され、残留溶媒を除去するためにエタノールで洗浄された。溶媒の大部分を蒸発させるために、マスターバッチはオーブン空気によって乾燥され、jMCCマスターバッチ粉末を生成するために粉砕機によって研削された。このようにして、70wt%のjMCCを含むマスターバッチ複合材料粉末が生成された。
例3:高度に分散されたセルロース/ポリプロピレンナノ複合材料の調製
【0071】
2軸押出機を使用する融解混和プロセスを通じて調製されるナノ複合材料の機械的特性に対するMCCおよびjMCC(すなわちマスターバッチから)の影響が調査される。さらに、高分子マトリックスにおける充填剤の分散も、複合材料の強化された機構を理解するために使用された。2軸押出機における処理のために、jMCCマスターバッチ複合材料が、PP/jMCC5wt%の組成まで希釈された。簡潔には、PPペレットと融解混合されたマスターバッチ複合材料の適切な部分が、40mm Leistriz共回転2軸押出機を使用して直接配合された。押出条件は、バレル温度ゾーン1および2が170℃であり、残りが190℃に設定され、スクリュー速度が250rpm、出力が3kg/時間であった。すべてのサンプルは、引張、曲げ、および、衝撃特性を含む機械的試験のために試験標本に射出成形され、その後、ASTM標準試験にかけられた。
【0072】
複合材料の形態は、SEMを用いて調査された。PPマトリックスにおける充填剤の均一分散は、この画像において明確に見ることができる。PP/MCC複合材料(
図2Aおよび
図2B)については、いくつかの凝集体が観察されたが、これは、融解混合プロセス中にMCC粒子が十分に剥離しなかったからでもあり得る。PP/jMCC複合材料(
図2Cおよび
図2D)は、任意の目立った凝集を示さなかった。このことは、充填剤のより均一な分散を示唆し、前混合プロセスによって促進されたPPマトリックスへのjMCCの良好な取り込みに起因する可能性がより高い。したがって、この複合材料についての特性機械的において観察された改善が裏付けられた。
【0073】
このようにして得られた複合材料における強化は、直接混合された複合材料と比較して、機械的特性の増加を示した。より具体的には、PPおよびjMCCを含む複合材料は、遥かに高い強化を示した。研削粒子が前混合されるときに得られる、より高い強化は、表2に示される、向上した分散性の増大に起因し得る。表2を参照すると、「非処理」とは、微結晶セルロースを含む微結晶セルロース強化高分子複合材料からの結果を示し、「前処理充填剤」とは、ジェット粉砕された微結晶セルロースを含む微結晶セルロース強化高分子複合材料からの結果を示す。すべてのサンプルは、第1オレフィンであるポリプロピレン、および、充填剤である5wt%微結晶セルロースと混合された。「D」という用語は、微結晶セルロースとポリプロピレンとの直接混合を表す。一方、「MBMA」は、無水マレイン酸でグラフトされたポリプロピレンを含む微結晶セルロースマスターバッチを表す。これは、微結晶セルロースと、無水マレイン酸でグラフトされたポリプロピレンとの混合によって得られる。表2における「HDT」という用語は、加熱撓み温度(あるいは、熱変形温度と称される)を表す。
表2:適切なPPおよび複合材料の機械的特性の概要
【表2】
【0074】
前処理によって調製された5%w/wのセルロースおよびマスターバッチを含む、融解処理されたナノ複合材料ペレットの写真(
図3)は、セルロースの高熱安定性の最初の兆候を示す。これは、配合組成および処理条件に関連する。
【0075】
上記のように、様々な実施形態は、充填剤分散技術および処理技術を含む熱可塑性複合材料の開発を伴う。
【0076】
充填剤分散技術については、強化材料を得るために未修飾の微結晶セルロース(MCC)が使用された。まず、高分子溶液における充填剤の分散を改善するべく、MCC粒子サイズを低減するために、MCCをジェット粉砕した。次に、高度な分散を実現し、jMCCの均一分散を維持するために、マスターバッチプロセスが採用され、溶液法によって、高濃度のjMCCを有する複合材料を形成するように処理される。複合材料は更に、押出を用いる配合などの融解処理技法を介した希釈の後に、最終MCC濃度を有する複合材料を生成するために、追加の高分子と共に処理され得るが、jMCC充填剤の高度な分散を維持する。
【0077】
処理技術については、この発明に使用される高分子ベースは、前処理充填剤技術および配合技術を含む革新的技法によって生成された。
【0078】
セルロースの主な特性は、組成、押出プロセスの処理条件(例えば、軸設計、温度プロファイル、混合技法)である。なぜなら、MCCは、温度および剪断によって容易に分解し得るからである。
【0079】
本発明は、例示的な実施形態を参照して具体的に示され、記載されたが、当業者であれば、以下の請求項によって定義される本発明の思想および範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更が行われ得ることを理解するであろう。