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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】熱カチオン重合性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/68 20060101AFI20240501BHJP
   C08G 65/18 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08G59/68
C08G65/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021000194
(22)【出願日】2021-01-04
(65)【公開番号】P2022105415
(43)【公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】永松 健太郎
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-284966(JP,A)
【文献】特開2014-129473(JP,A)
【文献】特開2016-172813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08G 65/00-65/48
C08L 63/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カチオン硬化性樹脂、
(B)式:Ar-I-Ar・X(式中、Ar及びArは、独立して、置換又は非置換のアリール基であり、Xは、アニオンである)で示されるヨードニウム塩、
(C)有機過酸化物、及び
(D)熱カチオン重合開始剤
を含み、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量が0.05重量部以上0.40重量部以下であり、(D)成分が、スルフォニウム塩である、熱カチオン重合性樹脂組成物。
【請求項2】
(D)成分のアニオンが、SbF 、B(C 、又は[P(R6-n(式中、Rは、独立して、炭素原子数1~6の部分又は全フッ素化アルキル基であり、nは0~5の整数である)である、請求項に記載の熱カチオン重合性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分が、エポキシ樹脂及びオキセタン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の熱カチオン重合性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱カチオン重合性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン硬化性樹脂は、その硬化物が機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、接着性などの特性に優れていることから、塗料、電気・電子、土木・建築、接着剤分野などで幅広く利用されている。
【0003】
一般に、ラジカルレッドクス機構(ヨードニウム塩系の光カチオン重合開始剤と有機過酸化物(熱ラジカル重合開始剤)との組み合わせ)を利用した熱硬化性の樹脂組成物は、低温で硬化可能で、且つ熱硬化のみの場合でも、紫外線硬化及び熱硬化の両方を行った場合と同等の物性を発現することが可能である。このような組成物として、特許文献1~3には、前記したラジカルレッドクス機構及びカチオン硬化性樹脂を含む熱カチオン重合性の組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-129473号公報
【文献】特開2014-129474号公報
【文献】特開2011-116977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に記載された熱カチオン重合性の組成物は、ラジカル発生の機構を利用しているため、酸素阻害を受け易く、表面の硬化性が不十分になることがあった。これにより、硬化が不十分な成分が耐熱試験等でアウトガスとして揮発し、周辺部材を汚染する等の不具合が懸念されていた。
【0006】
よって、本発明は、表面硬化性に優れ、かつ、アウトガス量が低減された、熱カチオン重合性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を鑑み鋭意検討を重ねた結果、ラジカルレドックス機構を利用した配合に、熱カチオン開始剤を新たに添加することで、樹脂表面の硬化性を改善することができると共に、アウトガス量を低減することができることを見出した。また、熱カチオン開始剤の添加量を調整することで、ガラス転移温度を高温で維持したまま、表面硬化性を改善することができ、その結果、アウトガス量を低減することができることを見出した。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[4]に関する。
[1](A)カチオン硬化性樹脂、
(B)式:Ar-I-Ar・X(式中、Ar及びArは、独立して、置換又は非置換のアリール基であり、Xは、アニオンである)で示されるヨードニウム塩、
(C)有機過酸化物、及び
(D)熱カチオン重合開始剤
を含み、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量が0.03重量部以上1.50重量部以下である、熱カチオン重合性樹脂組成物。
[2](D)成分が、スルフォニウム塩である、[1]の熱カチオン重合性樹脂組成物。
[3](D)成分のアニオンが、SbF 、B(C 、又は[P(R6-n(式中、Rは、独立して、炭素原子数1~6の部分又は全フッ素化アルキル基であり、nは0~5の整数である)である、[1]又は[2]の熱カチオン重合性樹脂組成物。
[4](A)成分が、エポキシ樹脂及びオキセタン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である、[1]~[3]のいずれかの熱カチオン重合性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、表面硬化性に優れ、かつ、アウトガス量が低減された、熱カチオン重合性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
[熱カチオン重合性樹脂組成物]
熱カチオン重合性樹脂組成物は、(A)カチオン硬化性樹脂、(B)式:Ar-I-Ar・X(式中、Ar及びArは、独立して、置換又は非置換のアリール基であり、Xは、アニオンである)で示されるヨードニウム塩、(C)有機過酸化物、及び(D)熱カチオン重合開始剤を含み、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量が0.03重量部以上1.50重量部以下である。
【0012】
熱カチオン重合性樹脂組成物は、(D)成分の含有量が0.03重量部以上1.50重量部以下であることから、ガラス転移温度(Tg)を高温で維持できる。
【0013】
<(A)カチオン硬化性樹脂>
カチオン硬化性樹脂としては、分子内に1以上のカチオン重合性基を有する樹脂であれば、特に限定されない。カチオン重合性基としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。カチオン硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリスチレン系化合物、及びビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0014】
≪エポキシ樹脂≫
エポキシ樹脂としては、芳香族、脂肪族及び脂環式エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0015】
芳香族エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC社製のEPICLON850、850-S、EXA-850CRP、EXA-8067等)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC社製のEPICLON830-S、EXA-830LVP等)、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製のEPICLONのHP-4032D、HP-7200H等)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製のEPICLON N-740、N-770等)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製のEPICLON N-660、N-670、N-655-EXP-S等)、多官能型エポキシ樹脂等が挙げられる。多官能型エポキシ化合物としては、テトラ(ヒドロキシフェニル)アルカンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノール等が挙げられる。
【0016】
脂肪族エポキシ樹脂としては、多価アルコール又はそのアルキレンオキシド付加物のポリグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄社化学社製のエポライト100MF)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(ダイセル社製のEHPE3150)等が挙げられる。
【0017】
脂肪族エポキシ樹脂は、脂環構造を形成する2つの炭素原子と酸素原子とで、エポキシ基が形成された構造を有する樹脂であり、脂環構造を形成する1つの炭素原子に、エポキシ基が結合する脂肪族エポキシ樹脂は含まれない。脂環式エポキシ化合物としては、シクロヘキサン系、シクロヘキシルメチルエステル系、シクロヘキシルメチルエーテル系、スピロ系及びトリシクロデカン系エポキシ化合物が挙げられる。脂環式エポキシ化合物の具体例としては、(3,3’,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル(ダイセル社製のセロキサイド8010等)、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製のセロキサイド2021P等)、1,2:8,9-ジエポキシリモネン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0018】
≪オキセタン樹脂≫
オキセタン樹脂の具体例としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコール)(東亞合成社製のOXT-101等)、2-エチルヘキシルオキセタン(東亞合成社製のOXT-212等)、キシリレンビスオキセタン(XDO。東亞合成社製のOXT-121等)、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(東亞合成社製のOXT-221等)、オキセタニルシルセスキオキセタン(東亞合成社製OXT-191等)、フェノールノボラックオキセタン(東亞合成社製PHOX等)及び3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン(POX。東亞合成社製OXT-211等)が挙げられる。
【0019】
≪ビニルエーテル化合物≫
ビニルエーテル化合物の具体例としては、ヒドロキシブチルビニルエーテル(ISP社製のHBVE等)、1,4-シクロヘキサンジメタノールのビニルエーテル(ISP社製のCHVE等)、トリエチレングリコールジビニルエーテル(ISP社製のDVE-3等)、ドデシルビニルエーテル(ISP社製のDDVE等)、及びシクロヘキシルビニルエーテル(ISP社製CVE等)が挙げられる。
【0020】
≪好ましいカチオン硬化性樹脂≫
(A)成分は、エポキシ樹脂及びオキセタン樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
(A)成分は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0021】
<(B)式:Ar-I-Ar・Xで示されるヨードニウム塩>
(B)成分は、式:Ar-I-Ar・X(式中、Ar及びArは、独立して、置換又は非置換のアリール基であり、Xは、アニオンである)で示されるヨードニウム塩(以下、単に「ヨードニウム塩」ともいう。)である。ここで「アリール基」とは、炭素原子数6~18の芳香族炭化水素基、好ましくは、フェニル基又はナフチル基を意味する。アリール基は、非置換であっても、1つ以上の任意の置換基で置換されていてもよく、そのような置換基として、炭素原子数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素原子数2~18の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2~18の直鎖又は分岐鎖状のアシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。「アニオン」は、一価のカウンターアニオンであればよいが、非アンチモン系のアニオンであることが好ましく、BF 、AsF 、又はB(C 、あるいは[P(R6-n、[C(RSO、又は[N(RSO(式中、Rは、独立して、炭素原子数1~6の部分又は全フッ素化アルキル基であり、nは0~5の整数である)であることが特に好ましい。
【0022】
(B)成分の具体例としては、ジフェニルヨードニウム・ヘキサフルオロアルセネート、ジ(4-クロロフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロアルセネート、ジ(4-ブロムフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロアルセネート、フェニル(4-メトキシフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロアルセネート、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム・トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(例えば、サンアプロ社製のIK-1)、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(例えば、ローディア社製のPI-2074)、4-メチルフェニル-4-(2-メチルプロピル)フェニルヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート(例えば、BASF社製のIRGACURE(登録商標)250)、ビス(C10~14-アルキルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート(例えば、和光純薬工業社製のWPI-113)、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム・ヘキサフルオロアンチモネート(例えば、和光純薬工業製のWPI-116等)等を挙げることができる。このようなヨードニウム塩は、例えばカチオン開始剤として、試薬供給業者から市販されており、容易に入手することができる。
【0023】
(B)成分は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0024】
<(C)有機過酸化物>
(C)有機過酸化物は、パーオキシ基(-O-O-)を含む化合物である。有機過酸化物は、ラジカル源である。有機過酸化物から発生したラジカルが、(B)成分のヨードニウム塩を還元的に分解し、光によらず酸を発生させることにより、カチオン重合を促進させる。有機過酸化物としては、ジアシルパーオキシド類、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類、パーオキシカーボネート類等が挙げられる。
【0025】
(C)成分の具体例としては、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシドのようなジアシルパーオキシド類;1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド(例えば、化薬アグゾ社製のカヤクメンH)、t-ブチルヒドロパーオキシドのようなヒドロパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3のようなジアルキルパーオキシド類;2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2-ジ-t-ブチルペルオキブタンのようなパーオキシケタール類;1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-アミルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエートのようなパーオキシエステル類;ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンのようなパーオキシカーボネート類等を挙げることができる。このような有機過酸化物は、試薬供給業者から市販されており、容易に入手することができる。
【0026】
(C)成分は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0027】
<(D)熱カチオン重合開始剤>
(D)熱カチオン重合開始剤は、加熱によりカチオン重合させる際のカチオン発生源となる成分である。熱カチオン重合開始剤としては、カチオン部分が、芳香族スルフォニウム、芳香族ジアゾニウム、芳香族アンモニウム、チアンスレニウム、チオキサントニウム、又は、(2,4-シクロペンタジエン-1-イル)[(1-メチルエチルベンゼン]-Feカチオンであり、アニオン部分が、SbF 、BF 、PF 、B(C 、[P(R6-n(式中、Rは、独立して、炭素原子数1~6の部分又は全フッ素化アルキル基であり、nは0~5の整数である)、又は、[BX(式中、Xは少なくとも2つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基である)である、カチオン部分及びアニオン部分で構成されるオニウム塩が挙げられる。熱カチオン重合開始剤は、スルフォニウム塩であることが好ましい。熱カチオン重合開始剤のアニオンが、SbF 、B(C 、又は[P(R6-n(式中、Rは、独立して、炭素原子数1~6の部分又は全フッ素化アルキル基であり、nは0~5の整数である)であることが好ましい。
【0028】
(D)成分の市販品としては、サンアプロ社製のTA-60、TA-60B、TA-100、TA-120;ADEKA社製のアデカオプトンCP-77、アデカオプトンCP-66;日本曹達社製のCI-2639、CI-2624;キングインダストリーズ社製のCXC-1612、CXC-1738;三新化学工業社製のサンエイドSI-45、サンエイドSI-60、サンエイドSI-80、サンエイドSI-100、サンエイドSI-110、サンエイドSI-B3、サンエイドSI-B3A、サンエイドSI-B4等が挙げられる。
【0029】
(D)成分は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0030】
<(E)その他の成分>
熱カチオン重合性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、その目的に応じて、その他の成分を含むことができる。その他の成分として、光増感剤、充填剤、カップリング剤(特に、シランカップリング剤)、ポットライフ安定剤、重合禁止剤、溶剤、強化材、着色剤、安定剤、増量剤、粘度調節剤、粘着付与剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、平滑化剤、発泡剤、離型剤等が挙げられる。
【0031】
≪光増感剤≫
光増感剤は、光への感度を高めるための成分である。光増感剤としては、チオキサントン誘導体、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素等が挙げられ、チオキサントン誘導体が好ましい。チオキサントン誘導体の具体例としては、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、チオキサントンアンモニウム塩等が挙げられ、2,4-ジエチルチオキサントンが好ましい。
光増感剤は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0032】
≪充填剤≫
充填剤は、特に限定されず、公知の無機充填剤及び有機充填剤が挙げられる。
【0033】
無機充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(沈降性シリカ、フュームドシリカ(煙霧質シリカ)等)、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、水酸化アルミニウム、石綿粉、酸化銅、水酸化銅、酸化鉄、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、カーボン、マイカ、スメクタイト、カーボンブラック、ベントナイト、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素が挙げられる。密着性の観点から、無機充填剤は、二酸化ケイ素、ガラスビーズ及びタルクであることが好ましく、タルクが特に好ましい。
【0034】
有機充填剤としては、アクリル粒子、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン(ポリスチレンビーズ)、これらを構成するモノマー(即ち、メタクリル酸メチル又はスチレン)と他のモノマーとを共重合させて得られる共重合体、ポリエチレン粒子、ポリシロキサン樹脂粒子、ポリアミド粒子、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、及びゴム微粒子(アクリルゴム粒子、イソプレンゴム粒子)が挙げられる。有機充填剤は、コアシェル構造を有していてもよい。密着性の観点から、有機充填剤は、ゴム微粒子であることが好ましく、コアシェル構造を有するゴム微粒子であることが特に好ましい。
【0035】
充填剤が、有機充填剤である場合、有機充填剤の重量平均分子量は、特に限定されないが、5万~400万であることが好ましく、30万~300万であることが特に好ましい。
【0036】
充填剤の平均粒子径は、特に限定されないが、0.01μm以上10μm未満であることが好ましく、1μm~5μmであることが特に好ましい。充填剤の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。
【0037】
なお、充填剤は、チキソ付与剤として機能する成分であってもよい。チキソ付与剤は、第一の封止用組成物に、塗工性改善等を付与する成分である。チキソ付与剤として機能する充填剤としては、ヒュームドシリカが挙げられる。ヒュームドシリカは、表面処理されていてもよい。無機系のチキソ付与剤の表面処理剤としては、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ポリジメチルシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。表面処理された又は未処理のヒュームドシリカは、市販品を用いることができる。
充填剤は、1種単独又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0038】
≪シランカップリング剤≫
シランカップリング剤としては、エポキシ基、アルケニル基(例えば、ビニル基)、(メタ)アクリル基、第1級又は第2級アミノ基、メルカプト基、イソシアナト基、ウレイド基及びハロゲン原子からなる群より選択される1種以上の反応性官能基又は前記基で置換されたアルキル基と、1以上のアルコキシ基とを有し、非置換のアルキル基を有していてもよいシラン化合物が挙げられる。なお、前記反応性官能基は、前記反応性官能基で置換されたアルキル基として、シラン化合物のケイ素原子に結合していてもよい。
【0039】
シランカップリング剤の具体例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基とアルコキシ基とを有し、アルキル基を有していてもよいシラン化合物;ビニルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等のアルケニル基とアルコキシ基とを有し、アルキル基を有していてもよいシラン化合物;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基とアルコキシ基とを有し、アルキル基を有していてもよいシラン化合物;N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等の第1級又は第2級アミノ基とアルコキシ基とを有し、アルキル基を有していてもよいシラン化合物;3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基、イソシアナト基、ウレイド基及びハロゲン原子からなる群より選択される1種以上の基と、1以上のアルコキシ基とを有し、アルキル基を有していてもよいシラン化合物等が挙げられる。
シランカップリング剤は、1種又は2種以上の組み合わせでもよい。
【0040】
≪その他の(E)成分≫
重合禁止剤としては、ヒドロキノン、パラメトキシフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
ポットライフ安定剤としては、SI助剤(4-ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルファイト)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
上記した成分以外は、公知の成分から適宜選択できる。
【0041】
(E)成分は、それぞれ、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。例えば、(E)成分は、1種以上の無機充填剤と、1種以上の光増感剤との組み合わせであってもよい。
【0042】
<組成物の調製方法>
熱カチオン重合性樹脂組成物は、各成分を混合することで製造することができる。なお、(B)成分~(E)成分が固体である場合は、各成分(特に、(A)成分)との相溶性の向上のために、溶剤に溶解させて、カチオン重合性樹脂組成物の製造に供されてもよい。
【0043】
〔硬化方法〕
熱カチオン重合性樹脂組成物は、熱を加えることにより硬化させることができる。また、熱カチオン重合性樹脂組成物は、紫外線等のエネルギー線を照射することにより仮硬化(仮固定)させた後に、熱を加えることによって本硬化(本固定)させてもよい。熱カチオン重合性樹脂組成物を、エネルギー線を照射することにより仮硬化させる場合は、熱カチオン重合性樹脂組成物は、光増感剤を含んでいてもよい。
【0044】
<成分の含有量>
熱カチオン重合性樹脂組成物における、各成分の含有量は以下の通りであることが好ましい。
(A)成分中のエポキシ樹脂及びオキセタン樹脂の合計の含有量は、(A)成分の100重量部に対して、60~100重量部であることが好ましく、80~100重量部であることが特に好ましい。
(A)成分中のオキセタン樹脂の合計の含有量は、エポキシ樹脂の100重量部に対して、5~50重量部であることが好ましく、10~40重量部であることが特に好ましい。
(A)成分中の脂環式エポキシ樹脂及び芳香族エポキシ樹脂の合計の含有量は、(A)成分中のエポキシ樹脂の100重量部に対して、60~100重量部であることが好ましく、80~100重量部であることが特に好ましい。
(B)成分の含有量は、熱硬化速度の観点から、(A)成分の100重量部に対して、0.1~10.0重量部であることが好ましく、0.5~5.0重量部であることが特に好ましい。
(C)成分の含有量は、熱硬化速度の観点から、(A)成分の100重量部に対して、1.0~10.0重量部であることが好ましく、1.5~5.0重量部であることが特に好ましい。
(D)成分の含有量は、(A)成分の100重量部に対して、0.03重量部以上1.50重量部以下である。(D)成分の含有量が、(A)成分の100重量部に対して、0.03重量部未満である場合、表面硬化性が劣り、かつ、アウトガス量が増加する傾向があり、1.50重量部超である場合、ガラス転移温度が低温になり、かつ、アウトガス量が増加する傾向がある。
(A)成分~(D)成分の合計は、熱カチオン重合性樹脂組成物の総量に対して、20~100重量部であることが好ましく、30~100重量部であることが好ましく、40~100重量部であることが特に好ましい。残余は、(E)成分である。
【0045】
[用途]
熱カチオン重合性樹脂組成物は、光学部品固定(例えばディスプレイ装置バックライトユニット組立、光ピックアップ組立)、カメラモジュール組立、レンズモジュール組立、光通信用モジュール組立、ハードディスク組立、及び電子部品の保護(例えば、モールド)に用いることができる。
【実施例
【0046】
以下に本発明の具体的な実施様態を明らかにするために実施例を示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定されるわけではない。
【0047】
実施例及び比較例の各組成物を以下の原材料を使用して製造した。
1.(A)成分:カチオン硬化性樹脂
(1)エポキシ樹脂
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON N-655-EXP-S)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON EXA-850CRP)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC社製、EPICLON EXA-830LVP)
脂環式エポキシ樹脂;(3,3’,4,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル(ダイセル社製、セロキサイド8010)
脂環式エポキシ樹脂;3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製、セロキサイド2021P)
(2)オキセタン樹脂
3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン(東亞合成社製、OXT-211(POX))
キシリレンビスオキセタン(東亞合成社製、OXT-121(XDO))
オキセタニルシルセスキオキセタン(東亞合成社製、OXT-191)
【0048】
2.(B)成分:ヨードニウム塩
4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(ソルベイ(ローディア)社製、PI-2074)。
【0049】
3.(C)成分:有機過酸化物
1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日本油脂社製、パーオクタO)。
【0050】
4.(D)成分:熱カチオン重合開始剤
4-ヒドロキシフェニル-メチル-ベンジルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製、TA-100)。
【0051】
5.(E)成分:その他の成分
光増感剤:2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬社製、DETX-s)
充填剤(フィラー):シリカ(AGC エスアイテック社製、NP-100)
充填剤(チキソ付与剤):ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、NKC130)
溶剤:4-ブチロラクトン(関東化学社製)
ポットライフ安定剤:4-ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルファイト(三新化学社製、SI助剤)
重合禁止剤):ジブチルヒドロキシトルエン(関東化学社製、BHT)
カップリング剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM403)
なお、一部の固体の増感剤、開始剤、添加剤などは樹脂に溶解しにくいものがあるため、予め4-ブチロラクトンに溶解してから樹脂と混合した。
【0052】
実施例1~13、比較例1~7
〔調製条件〕
熱カチオン重合性樹脂組成物を、表1に記載の配合に基づき、各成分を混合し、室温(25±3℃。以下同じ。)環境の下、撹拌機で透明になるまで撹拌し、調製した。
【0053】
〔評価条件〕
・表面硬化性
スライドガラス上に樹脂を50μm厚で塗布し、100℃に加熱したホットプレート上で60分間熱硬化を行った。室温で10分間冷却後、指触にて表面硬化性を確認した。
○:硬化、×:表面未硬化(べたつき、タックあり)
【0054】
・アウトガス量
100μlのアルミパンに樹脂を15±2mg塗布し、100℃に加熱したホットプレート上で60分間熱硬化を行った。室温で10分間冷却後、精密天秤(メトラー・トレド社製、XP2U)で秤量した(初期重量)。その後、150℃の熱風オーブン(エスペック社製、LC113)で15時間加熱した。室温で60分間冷却後、精密天秤で秤量した(加熱後重量)。以下の計算式から重量変化率(%)を求め、アウトガス量とした。
【0055】
【数1】
【0056】
・ガラス転移温度(Tg)及び貯蔵弾性率
長さ50mm、幅10mm、厚さ0.5mmの型に注型し、100℃の熱風オーブン(エスペック社製、LC113)で60分間熱硬化を行い、硬化物試験片を作製した。得られた硬化物試験片を動的粘弾性測定装置(DMA、セイコーインスツル社製、DMS6100)にて、周波数1.0Hzで昇温させながら測定を行った。得られた結果の損失正接tanδにおけるピークトップ温度をTgとした。
Tgと同様の条件で硬化物試験片の作製及び動的粘弾性測定装置(DMA、セイコーインスツル社製、DMS6100)による測定を行った。得られた結果において25℃での貯蔵弾性率の値を抽出した。
【0057】
結果を以下の表にまとめた。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1~13の熱カチオン重合性樹脂組成物は、表面硬化性が優れており、かつ、アウトガス量が低減されていた。
特に、実施例1~5の比較により、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量が好ましい範囲であると、アウトガス量がより低減されていた。実施例7~11の比較によっても、同様のことがいえる。
また、実施例1~5と実施例7~11、及び、実施例6と実施例12との比較により、熱カチオン重合性樹脂組成物が、更に(E)成分を含む場合であっても、表面硬化性が優れており、かつ、アウトガス量が低減されていた。
比較例1~6は、(D)成分を含まないか、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量が0.03重量部未満であるため、表面硬化性が劣っていた。特に、比較例4~6は、アウトガス量が多かった。比較例7は、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量が1.50重量部超であるため、アウトガス量が多かった。そして、実施例1~5と比較例1~3との比較により、(D)成分以外の組成がほぼ同じであるとき、(A)成分の100重量部に対して、(D)成分の含有量を所定の範囲とすることで、表面硬化性が優れており、かつ、アウトガス量が低減されていた。実施例7~11と比較例4~6との比較によっても、同様のことがいえる。