(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】制御装置、制御プログラム、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F25D 11/00 20060101AFI20240501BHJP
G07F 9/10 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
F25D11/00 101J
G07F9/10 102A
(21)【出願番号】P 2024013506
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-02-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520207398
【氏名又は名称】北出 雄二郎
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北出 雄二郎
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-256298(JP,A)
【文献】特開2010-071549(JP,A)
【文献】特開2004-354017(JP,A)
【文献】特開平07-174452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 11/00
G07F 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサーが設置された収納庫、及び温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御装置であって、
自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度
を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、各収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御する、制御装置。
【請求項2】
温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御装置であって、
自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び計測された収納庫外部の温度
を含む推定モデルを用いて、温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、収納庫の温度が目標温度に到達するように、推定した前記収納庫の温度を制御する、制御装置。
【請求項3】
前記推定モデルとして、自動販売機の冷媒を制御するパラメータU、自動販売機の性能を示すパラメータA、前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度y、任意のスカラー変数h、
並びに0又は1を要素とするベクトルcを含む推定モデ
ル、
【数1】
を用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度x~を推定する、請求項
1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記推定モデルとして、自動販売機の冷媒を制御するパラメータU、自動販売機の性能を示すパラメータA、前記計測された収納庫外部の温度y、任意のスカラー変数h、
並びに0又は1を要素とするベクトルcを含む推定モデ
ル、
【数2】
を用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度x~を推定する、請求項
2に記載の制御装置。
【請求項5】
温度センサーが設置された収納庫、及び温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御プログラムであって、
前記制御プログラムは、コンピュータに
自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度
を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、各収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御させる、制御プログラム。
【請求項6】
温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御プログラムであって、
前記制御プログラムは、コンピュータに
自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び計測された収納庫外部の温度
を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、各収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御させる、制御プログラム。
【請求項7】
温度センサーが設置された収納庫、及び温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御方法であって、
コンピュータが、
自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度
を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、各収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御する処理を実行する、制御方法。
【請求項8】
温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御方法であって、
コンピュータが、
自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び計測された収納庫外部の温度
を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御する処理を実行する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料、食料品等の商品を温度管理して販売する自動販売機内の商品の温度を管理する為の制御装置、制御プログラム、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動販売機においては、温度制御手法として、PID(Proportional integral derivative)制御と呼ばれる古典制御が用いられている。この制御方法は、既に確立された制御手法であり、そのため技術的な信頼性が高く多く用いられている。例えば、このような技術の一例が、特許文献1において開示されている。
【0003】
特許文献1には、庫内運転オン/オフ決定部62は、メモリ61に格納されたオン/オフ設定温度データにしたがって、庫内運転をオンするか、庫内運転をオフするかの決定を行うものである。具体的には、加熱庫内温度センサ4L2、冷却庫内温度センサ4R2を通じて測定した商品収納庫4L,4Rの庫内温度とオン/オフ設定温度とを比較し、この比較結果に基づいて、庫内運転をオンするか、庫内運転をオフするか決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術は、収納庫の設定温度に応じて、自動販売機の各収納庫の運転を制御する為に、各収納庫内に設置された温度センサーを用いて温度を計測する必要があった。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、自動販売機が有する温度センサーを搭載していない収納庫の温度を目標温度に到達可能に制御する新規な技術を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、温度センサーが設置された収納庫、及び温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御装置であって、
前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度を用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、各収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御する。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御装置であって、
計測された収納庫外部の温度を用いて、温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、収納庫の温度が目標温度に到達するように、推定した前記収納庫の温度を制御する。
【0009】
このような構成とすることで、収納庫に温度センサーを設置することなく、収納庫の温度を推測することができる。これにより、温度センサーの設置コストを大幅に削減することができる。
【0010】
より好ましい形態では、前記制御装置は、自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定する。
【0011】
より好ましい形態では、前記制御装置は、自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータ、及び前記計測された収納庫外部の温度を含む推定モデルを用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定する
【0012】
このような構成とすることで、自動販売機に関するパラメータを含む推定モデルを用いることで、温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定することができる。
【0013】
より好ましい形態では、前記推定モデルとして、自動販売機の冷媒を制御するパラメータU、自動販売機の性能を示すパラメータA、前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度y、任意のスカラー変数h、及び0又は1を要素とするベクトルcを含む推定モデルとして、
【数1】
を用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度x~を推定する。
【0014】
より好ましい形態では、前記推定モデルとして、自動販売機の冷媒を制御するパラメータU、自動販売機の性能を示すパラメータA、前記計測された収納庫外部の温度y、任意のスカラー変数h、及び0又は1を要素とするベクトルcを含む推定モデルとして、
【数2】
を用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度x~を推定する
【0015】
このような構成とすることで、スカラー変数hを恣意的に選択することで、推定したい収納庫の温度の収束性を高めることができる。これにより、温度の推定に係る計算速度を上げることができ、正確な自動販売機の制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、各収納庫の温度を目標温度に到達させるにあたって、複数の要因を考慮した自動販売機の運転を可能にする新規な技術を提供する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態におけるモデル予測制御ブロック図である。
【
図2】一実施形態におけるモデル予測制御による、制御ホライズンと予測ホライズンの説明図である。
【
図3】一実施形態における断熱材の熱抵抗を考慮した場合の、自動販売機の熱収支を示した図である。
【
図4】一実施形態における断熱材を含む収納庫の熱回路網の構成図である。
【
図5】一実施形態におけるシステムの制御ブロックである。
【
図7】一般的な自動販売機の収納庫の構成図である。
【
図8】一般的な自動販売機の制御装置のハードウェア構成図である。
【
図9】一般的な自動販売機の季節ごとの運転状態を示した原理図である。
【
図10】一般的な自動販売機の各運転状態における冷却回路ブロック図である。
【
図11】自動販売機における熱収支の原理図である。
【
図12】従来の自動販売機の制御アルゴリズムの説明図である。
【
図13】自動販売機の温度制御の推移を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。図面には好ましい実施形態が示されている。しかし、多くの異なる形態で実施されることが可能であり、本明細書に記載される実施形態に限定されない。
【0019】
例えば、本実施形態では制御装置の構成、動作等について説明するが、同様の構成の方法、コンピュータプログラム等も、同様の作用効果を奏することができる。また、プログラムは、記録媒体に記憶させてもよい。この記録媒体を用いれば、例えばコンピュータにプログラムをインストールすることができ、これにより制御装置を構成することができる。ここで、プログラムを記憶した記録媒体は、例えばCD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。
【0020】
<1.一般的な自動販売機について>
以下、
図6~13を参照して、一般的な自動販売機の機構、及び処理動作について説明する。
【0021】
<1.1.自動販売機の構造>
図6は、一般的な自動販売機の構造図である。本実施形態における自動販売機は、缶やボトル飲料を販売する自動販売機であるが、食料品を販売する自動販売機であってもよい。
図6に示す自動販売機は、制御装置1、及び3室の収納庫STを備え、断熱材を介して分離されており、各収納庫ST間および自販機の庫外からの熱侵入を低減するように構成されている(
図7)。
【0022】
<1.2.制御装置1のハードウェア構成>
図8は、制御装置1のハードウェア構成を示す図である。制御装置1は、制御部10、記憶部11、及び通信部12を備える。
制御部10は、命令セットを実行可能なCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを有し、本発明に係る制御プログラム、OSを実行することで、制御装置1の動作処理全体を制御する。制御部10は、記憶部11に記憶されている情報を参照して、紙幣や硬貨などの金銭判別処理機からの情報の授受、各収納庫の温度情報の授受、電子膨張弁への弁開度の指令、自動販売機の全面にある表示装置への表示指令、押しボタンスイッチの状態監視などを行なう。また、操作者からの指令に対する応答も行う。
記憶部11は、命令セットを記憶可能なRAMなどの揮発性メモリ、OS及び制御プログラムなどを記録可能なフラッシュメモリなどの不揮発性の記録媒体を有し、自動販売機の設定パラメータや自動販売機の状態を記憶する。
通信部12は、設置された収納庫の温度を計測する温度センサー等の計測装置から計測された温度を取得し、制御部10に送信する。また、通信部12は、制御部10からの各指令を自動販売機の各装置に送信する。
なお、本実施形態においては、制御装置1の外部の計測装置から収納庫の温度を取得するが、制御装置1が備える計測装置を用いて収納庫の温度を所得してもよい。
【0023】
<1.3.自動販売機の運転モード>
缶・ボトル飲料の自動販売機は、販売効率を上げることを目的として、季節に応じてユーザが求める飲料の温度帯を想定し、それぞれの収納庫STは異なった温度帯を実現する為に、運転状態を切り替えていることが多い。
図9は、3室の収納庫STが設けられた自動販売機の運転モードを示す図である。
図9において白抜きで示した飲料は冷やされたコールド飲料であり、灰色で示した飲料は温められたホット飲料である。
【0024】
春や秋の季節には1つの収納庫STは収納されている飲料を温めてホット飲料を供給するものとし、それ以外の2つの収納庫STは飲料を冷やして収納し、コールド飲料として販売する。冬季においては、ホット飲料を求める消費者が増えるため、ホット飲料を収納する収納庫STを2つに増やし、コールド飲料を収納する収納庫STを1つに減らして運用する。夏には、全ての収納庫STをコールド飲料として販売するように設定する
【0025】
それぞれの季節毎の運転状態について、想定環境温度、運転モード、運転期間を表にまとめると、表1に示すようになる。また、この際には、自動販売機の外気温となる環境温度は、春、秋が15℃、夏が32℃、冬が5℃と想定している。表1に示すように、春、秋の運転モードでの運用が最も長いことがわかる。
【表1】
【0026】
一般に、自動販売機の運転モードは、コールドをColdの頭文字を取って、「C」、ホットをHotの頭文字を取って、「H」と表し、その組合せで表現される。従って、春及び秋はHCC運転、夏はCCC運転、冬はHHC運転と表す。
【0027】
図6に示す自動販売機の内部構造図では、収納庫STの下部に冷却ユニットが収納されている。
図9は、それぞれの運転モードにおける冷却ユニットの動作を示す図である。
図10の各冷却回路は、コンプレッサーCP、キャピラリーコイルCO、電子膨張弁EEV、主熱交換機MEX、各収納庫の熱交換器EX、及び電磁弁EVが配管で接続して構成されており、配管を通じて冷媒が流れる。
図10(a)は春及び秋の運転モード、
図10(b)は夏の運転モード、
図10(c)は冬の運転モードにおける冷却回路のブロック図であり、矢印は、配管の中を流れる冷媒の方向を示している。
【0028】
<1.4.自動販売機の熱収支>
図11は、自動販売機における熱収支について示した原理図である。一番左に位置している左室は外部からの熱侵入と同時に中室からの熱侵入を受け、一番右に位置している右室も同様に外部からの熱侵入と同時に中室からの熱侵入を受ける。中央に位置する中室は、外部からの熱侵入に加えて、左室および右室からの熱侵入を受けることになる。
【0029】
ここで、左室における熱容量をCL、中室における熱容量をCM、右室における熱容量をCR、とおく。さらに、自動販売機の外気の温度をTo、左室の温度をTL、中央室の温度をTM、右室の温度をTRとおく。さらに、左室から中室に向かう熱貫通率をKLMとし、中室から左室に向かう熱貫通率をKMLとする。右室についても、同様に、中室から右室に向かう熱貫通率をKMRとし、逆に、右室から中室に向かう熱貫通率をKRMとおく。また、各収納庫は筐体を介して熱を受けるので、外気から左室への熱貫通率をKOL、外気から中室への熱貫通率をKOM、外気から右室への熱貫通率をKORとおく。
【0030】
ここで、コンプレッサーCPの出力により、各収納庫STについて、左室に加わる熱量をQ
L、中室に加わる熱量をQ
M、右室に加わる熱量をQ
Rとおくと、熱力学第1法則より、各収納庫において式1のような等式が成り立つ。
【数3】
式(1)の微分方程式は、各収納庫STの周囲との温度差により侵入する熱(熱貫通率の項)と、コンプレッサーCPから冷却もしくは加熱に応じた熱量とを供給することにより、左室、中室、右室のそれぞれの熱容量に応じて各収納庫STの温度が変化することを意味する。従って、コンプレッサーCPから熱量を適切に与えることで、各収納庫の温度を対象飲料の管理に最適な目標温度となるように制御することができる。
【0031】
<1.5.従来の温度制御>
次に、式(1)に基づく従来の制御方法について説明する。従来の自動販売機においては、フィードバック制御と呼ばれる方法が採用されている。ここで、フィードバック制御とは、1の入力に対して1の出力を行い、制御対象を制御するものである。例えば、加熱対象と、計測装置と、電力操作器と、ヒータを備えるシステムを考える。このとき、計測装置が入力として温度を計測し、計測した温度と加熱対象の目標温度との差に基づいて、ヒータに供給すべき電力量を出力として計算し、電力操作器が出力値に応じた電力をヒータに供給し、ヒータにより加熱対象の温度が変化する。このような温度制御方法をフィードバック制御という。なお、ここでは、原理について説明するため、制御方法として、比例制御についてのみ説明し、微分制御や積分制御については、言及しないことにする。
【0032】
図12は、自動販売機における各収納庫の温度制御のためのソフトウェアの基本アルゴリズムを示すフローチャートである。また、
図13は、外気温32℃、CCC運転モードを例として、以下のフローチャートの実行結果による、各収納庫の温度制御の一例を示す図である。
【0033】
まず、ステップS1(以下、単に「ステップSX」を「SX」とする)において、計測装置が各収納庫の温度を計測する。S2~S4では、制御部10が各収納庫の目標温度と計測された温度の偏差を算出する。そして、S5~7において、制御部10は、S2~S4において算出された各収納庫の温度の偏差に基づいて、各収納庫の電子膨張弁EEVの弁開度を設定する。
【0034】
次いで、S8において、制御部10は、コンプレッサーCPの負荷の総和を算出する。ここで、コンプレッサーCPの負荷は、負荷は、自動販売機の運転モードに応じて、冷却時の負荷と、加温時の負荷の2種類がある。冷却は通常の運転で、加温はヒートポンプを用いて行うとすると、ここで簡単のために、冷却の効率と加温時の効率が等しいと考えると、コンプレッサーCPは、冷却負荷と加温負荷を足し合わせた熱量に相当する出力が必要となる。負荷は、必要とされる熱量の絶対値の総和と考える。
【0035】
そして、S9において、制御部10は、S7において算出したコンプレッサーCPの負荷に基づいて、コンプレッサーの出力を設定することで、コンプレッサーCPを制御する。そして、運転オフの指示を受け付けるまで、制御部10は、S2~S9の処理を実行する(S10においてN)。
【0036】
このように、フィードバック制御の場合、各収納庫STに流れる冷媒の量を制御可能な電子膨張弁EEVを冷却回路に組み込むことで、1入力1出力の関係を構築することができ、各収納庫STに応じた温度制御をすることができる。
なお、実際の運用においては、飲料を加温するために、春や秋および冬においては、ヒートポンプ運転を行う。この時、飲料を加温する収納庫が2つの室、例えば、左室と中室で、飲料を冷却する収納庫が右室であるような冬季の場合には、右室内の飲料が十分に冷却され、このため、ヒートポンプ運転ができないようなことがある。このような状態を避けるために、左室と中室には、加温を補助するためのヒーターが内蔵されていることがある。
【0037】
一方で、例えば、目標温度と収納庫の温度の差異が大きい場合には、コンプレッサーCPの最大能力で運転するのだが、コンプレッサーCPの最大能力には限界があり、消費エネルギーの最も大きい最大能力での運転しかできない。同様に、コンプレッサーには最小能力もあり、目標温度と最小温度の差異が少ない時に最小能力での運転が用いられる。この様な運転可能な範囲について、フィードバック制御では考慮することができない。
【0038】
到達する目標時間などの設定があれば、消費エネルギーに配慮した運転を行うことができるはずであり、その時に最大能力や最小能力についても考慮した制御もできるが、このような制御はフィードバック制御では難しい。
【0039】
実際には、自動販売機が設置されている環境によって、使用される時間帯や販売本数がある傾向を示すことがある。例えば、学校等に置かれている自動販売機を例にすると、授業が行われている時間には、販売がほとんど行われず、休憩時間や昼休みに販売が集中して行われることになる。このような傾向がある時には、授業が行われている時間には消費電力を可能な限りを小さくした制御を行い、休憩時間や昼休みにおいては、販売可能な本数を増やすよう、休憩時間や昼休みの少し前の時間から、販売本数の確保を中心とした制御を行うことが販売効率の良い自動販売機となる。このような時間帯に合わせた温度制御が可能な自動販売機が求められていた。
【0040】
<2.本発明の実施形態1における温度制御>
本発明は、モデル予測制御と呼ばれる制御手法を用いて自動販売機内の温度を制御する制御装置に関する。モデル予測制御とは、多入力多出力の制御を行い、設定された時刻に応じて個々の対象の挙動の予測が可能であり、状態方程式と呼ばれる各収納庫の温度を独立した指標として管理することができるため、それぞれの状態に応じた制御を行うことができる。
【0041】
本発明では、設定時刻に応じて自動販売機の各収納庫の到達温度を予測し、設定時間に応じた運転条件により、自動販売機の温度が到達温度になるように、自動販売機の温度を制御する。例えば、現在時刻から設定時刻までの間隔が十分長い場合には、自動販売機の温度が設定時刻の到達温度になるまでに大きなエネルギーは不要である為、コンプレッサーを低速で運転させ、自動販売機の温度を徐々に制御する。一方、現在時刻から設定時刻までの間隔が極めて短い場合には、自動販売機の温度が設定時刻の到達温度になるまでに大きなエネルギーが必要である為、コンプレッサーを高速で運転させ、自動販売機の温度を目標温度に早く到達するよう制御する。本実施形態では、これらの自動販売機の運転条件を最適化し、自動販売機の温度を制御する。
【0042】
<2.1.本発明のハードウェア構成>
本実施形態における制御装置1のハードウェア構成は、
図8に示した従来のハードウェア構成と同様であり、制御部10が、本発明に係る制御プログラム、OSを実行することで、モデル予測制御を実行し、コンプレッサーCPや電子膨張バルブEEVを制御する。また、冷却回路は、
図10に示した回路と同様の装置により構成される。なお、制御部10は、CPU等にプログラムを実行させて実現されてもよく(すなわち、ソフトウェアによる実現)、ソフトウェア及びハードウェアを併用して実現してもよい。
【0043】
<2.2.モデル予測制御>
モデル予測制御では、状態方程式を解くことで得られる解の二乗に重みを付けたものを評価関数として用いるという考え方がある。そして、この評価関数を最小化するような制御対象の指標(扱うシステムにおける変数)を定める。従って、状況に応じた重みをつけることによって、最適な運転方法を提供することが可能となる。以下、具体的なモデル予測制御について説明する。
【0044】
<2.2.1.状態方程式>
モデル予測制御では、自動販売機の冷媒を制御するパラメータ、及び自動販売機の性能を示すパラメータを用いた以下の運動方程式がベースとなる:冷媒を制御するパラメータとしては、コンプレッサーCPの出力熱量QCP、左室の弁開度θL、中室の弁開度θM、及び右室の弁開度θRを用いる。また、自動販売機の性能を示すパラメータとして、左室から中室に向かう熱貫通率KLM、中室から左室に向かう熱貫通率KML、中室から右室に向かう熱貫通率KMR、右室から中室に向かう熱貫通率KRM、左室における熱容量CL、中室における熱容量CM、及び右室における熱容量CRを用いる。また、入力はQCP、及び収納庫外部の温度TO、制御パラメータはθL、θM、及びθR、出力は左室の温度TL、中室の温度TM、及び右室の温度TRとする。各収納庫には、計測装置が配置されているとし、それぞれの収納庫の温度は観測可能であることとする。なお、本実施形態において、収納庫外部の温度は、自動販売機の設置環境における周囲温度であるが、収納庫外部であって自動販売機内の温度(例えば、冷却ユニットの温度)であってもよい。
【0045】
上記のように記号を定義すると、各収納庫の状態方程式は以下のようになる(t:時間)。
【数4】
式(2)を行列で表現すると、式(3)のようになる。
【数5】
【0046】
ここで、冷媒を制御するパラメータに基づく変数U、自動販売機の性能を示すパラメータに基づく定数Aとして、
【数6】
とすると、式(3)は、
【数7】
と表すことができる。この式は、一般的な状態方程式と同様の形
【数8】
となっていることがわかる(状態ベクトル:x(t)、制御入力ベクトル:u(t))。また、出力方程式は、式(7)で表すことができる。
【数9】
ここで、Cは0又は1を要素とする行ベクトルであり、観測したい出力を表す場合には、それに対応する要素を1と設定することになる。上に示した状態方程式により、入力u(t)と出力x(t)に関する物理的な連立微分方程式を示すことができる。
【0047】
<2.2.2.評価関数>
モデル予測制御には、入力u(t)の大きさをエネルギーとして捉え、出力x(t)を観測量として捉え(以下適宜、変数tを省略する)、入力uのエネルギー、及び出力xの時間応答(変化の大きさ)を評価する評価関数という考え方がある。自動販売機において入力uは、各収納庫における電子膨張弁EEVの弁開度θi(i=L、M、R)であり、出力xは各収納庫の温度Ti(i=L、M、R)である。
【0048】
評価関数は、入力u及び出力xの大きさを評価する関数であり、自動販売機においては、入力uとなるコンプレッサーCPの電力量(入力uとコンプレッサーCPの電力量が比例するものとする)の二乗に重みをかけた項と、出力xとなる各収納庫の温度T
iの二乗に重みをかけた項の和の、現在時刻から目標時刻までの積分で表すことができる。具体的には、入力の重み係数をR
ij、出力の重み係数をQ
ijとおくと、評価関数J(x、u、t)は、式(8)(最適レギュレータ問題)のように示すことができる。
【数10】
ここで、モデル予測制御は、有限時間の状態を推測して制御する方法である為、上式は終端コストであるt=t
0+N(目標時間)における出力x(t
0+N)(目標温度)と、ステージコストと呼ばれるk=t
0(現在時刻)からk=t
0+N-1までの出力および入力の総和となる。ここで、上式のそれぞれの項は行列表現において2次形式と呼ばれるものであり、この形式で表現された関数の最小化問題は極値を求めることであり、このための様々な方法が提案されているが、最も一般的な方法は、2次計画法と呼ばれ、2次計画法を用いて、最適な入力uが算出できる。
【0049】
<2.2.3.重み係数Q及びR>
本実施形態においては、重み係数Q及びRは自由に設定することができる。ここで、Qに対してRを大きく取ると、最小化しようとする評価関数Jでの入力エネルギーuの重みが大きくなるため、入力エネルギーuを小さくしようとする傾向を示すこととなる。逆に、Rに対してQを大きく取ると、最小化しようとする評価関数Jでの出力xの重みが大きくなるため、早く目標温度に近づこうとする傾向を示すこととなる。このように、モデル予測制御を用いることにより、状況に応じた制御を用いることができることとなる。つまり、自動販売機の運転に必要なエネルギー及び、自動販売機の運転状態のどちらか一方を優先するように調整する優先度として、重み係数Q及びRが設定される。具体的には、重み係数Qは、収納庫の現在温度を目標温度に近づけることに比べて、優先的に自動販売機にエネルギーを供給することを示す指標(エネルギー優先度)である。一方、重み係数Rは、自動販売機にエネルギーを供給することに比べて、優先的に収納庫の温度を目標温度に近づけることを示す指標(速応性優先度)である。
【0050】
例えば、先に示したように、設置場所が学校の場合であって、時間帯が授業時間の場合には、販売はほとんど行われず、一方、時間帯が休憩時間や昼休みの場合には、販売が集中して行われることになる。このような傾向がある時には、授業時間には消費電力の低減を中心にした制御を行い、休憩時間や昼休みにおいては、販売可能な本数を増やすよう、休憩時間や昼休みの少し前の時間から、販売本数の確保を中心とした制御を行うことが販売効率の良い自動販売機となる。即ち、授業時間には消費電力の低減を優先し、速応性優先度Rよりもエネルギー優先度Qの重みが大きくなるように設定され、休憩時間や昼休みの少し前の時間においては、エネルギー優先度Qよりも速応性優先度Rの重みが大きくように設定される。
【0051】
このように、評価関数Jのエネルギー優先度Q及び速応性優先度Rを調整することで、低消費電量で、且つ販売効率が良い自動販売機を実現することができる。本実施形態において、制御部10は、様々な要因に基づいて重み係数Q及びRを設定し、評価関数J(式(8))を決定する。制御部10は、内的要因、及び/又は外的要因に基づいて、重み係数Q及びRを設定する。ここで、内的要因とは、自動販売機そのものによる自動販売機の運転に影響を与えるものであって、エネルギーの最大出力、及びエネルギーの最小出力の一方、又は両方を含む。また、外的要因は、自動販売機の外部から自動販売機の運転に影響を与えるものであって、人的要因及び環境的要因を含む。人的要因は人間の慣習的な要因であって、時間帯、曜日、祝日、及び設置場所、設置場所周辺における学校、企業などの団体の存在、設置場所で行われる行事などの1又は複数を含む。また、環境的要因は自然的な要因であって、季節、天気、外気温、及び湿度の1又は複数を含む。
【0052】
制御部10は具体的に、内的要因及び外的要因の1又は複数の要因と、重み係数と、商品購入履歴を入力として、低消費電量で、且つ販売効率が良い自動販売機を実現する為の重み係数Q及びRの値を推測する学習モデルに対して、内的要因及び外的要因の1又は複数の要因を入力することで、重み係数Q及びRを設定し、評価関数Jを決定する。一方、制御部10は、1又は複数の要因と、重み係数Q及びRの値が対応する対応表を用いて重み係数Q及びRを設定してもよい。また、商品購入履歴に加えて、又は代えて自動販売機に設置された人感センサーにより取得された使用頻度を入力として、重み係数Q及びRの値を推測する学習モデルを用いてもよい。
【0053】
<2.2.4.モデル予測制御の実施例>
次に、モデル予測制御の実施例について説明する。
図1は制御部10が実行するモデル予測制御の処理についてブロック図で示したものである。最初に目標値(図示例では設定値)が与えられる。自動販売機の場合には、各収納庫の目標温度が目標値となる。
【0054】
まず、目標温度は制御部10に送られ、そこで2つの演算が行われる:1つ目は、実際に計測した各収納庫の温度を、状態方程式(式(5))に代入して、微分方程式の解(収納庫の温度、及び弁開度)を算出する演算を行う(予測モデル)。2つ目は、自動販売機ではなるべく少ないエネルギーでなるべく早く目標に近づけることを考えるため、目標温度及び目標時間を入力して、評価関数Jが最小になるような解を特定する(最適化器)。そして、予測モデル及び最適化器は、定期的にこれらの演算(以下、予測処理と呼ぶ)を実行することで、どのように収納庫の温度が変化するのかを予測する。本実施形態においては、温度の予測対象が空気であり空気の時定数は大きい為、予測処理は、例えば、1分毎に行なわれる。
これにより、演算をする頻度が大きくすることなく、収納庫の温度の予測をすることができる。
【0055】
具体的には、制御部10は、実際に計測された各収納庫の温度、及び弁開度を状態方程式(式(5))に代入することで、周知のソルバー(ニュートン法など)を用いて連立微分方程式を解くことで、1又は複数の解(現在時刻から目標温度までの各収納庫の温度、及び弁開度)を算出する。そして、重み係数Q及びRを設定した評価関数J(式(8))に、算出したそれぞれの解、目標時間、及び目標温度を代入し、評価関数Jの値を算出する。そして、複数の温度及び弁開度の解のうち、算出した評価関数Jの値を最小にするような解を特定する。
【0056】
そして制御部10は、評価関数Jの値を最小にする解に従って、その解を制御入力として制御対象機器(電子膨張弁EEV)に入力することで電子膨張弁EEVを制御する。また、制御部10は、所定時間経過後に、実際に計測される収納庫の温度に基づいて、再度予測処理を実行し、収納庫の温度変化を予測する。
【0057】
図2は、最適化器によって最適化し決定した制御入力と、その制御入力を状態方程式に入力した場合に、現在からある有限時間後までの出力がどのようになるかを演算した結果を示す説明図である。
【0058】
図2(a)は、先に示した学校の例で示すと、休憩時間や昼休みの少し前の時間から、販売本数の確保を中心とした制御を行う例であり、休憩時間や昼休み(目標時間)の少し前の時間(例えば、10分前)から目標時間まで、評価関数Jの速応性優先度Rを相対的に大きく、エネルギー優先度Qを相対的に小さく設定することで、収納庫の現在温度から目標温度までの温度勾配を大きくし、収納庫の温度を目標温度に到達するように制御する。
これにより、目標時間までに確実に目標温度を達成することで、自動販売機の販売本数を確保することができる。
【0059】
図2(b)は、同様の学校の例において、授業を行っている合間の時間に相当し、飲料の販売本数の確保は難しいので緩やかに目標温度に近づけようとする制御を行う例であり、授業を行っている合間の時間(現在時刻)から休憩時間や昼休み(目標時間)の少し前(例えば、10分前)まで、評価関数Jのエネルギー優先度Qを相対的に大きく、速応性優先度Rを相対的に小さく設定することで、収納庫の現在温度から目標温度までの温度勾配を小さくし、収納庫の温度を目標温度に到達するように制御する。
これにより、目標時間までに十分時間があるまでは、自動販売機のエネルギーを優先した運転をすることができ、省エネルギーを実現することができる。ここで、温度勾配とは、収納庫の温度を時間の関数として表した際の各時間における温度の傾きである。
【0060】
以上、モデル予測制御を用いることで、内的要因、及び/又は外的要因に応じて、適切にエネルギー優先度、及び速応性優先度を設定することができ、自動販売機において低電力運転で、且つ高い販売効率を実現することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、内的要因、及び/又は外的要因に応じて、エネルギー優先度、及び速応性優先度を設定する。一方、自動販売機を管理する管理者の端末から無線で、エネルギー優先度、及び速応性優先度が設定可能に構成されてもよい。
【0062】
<4.本発明の実施形態2における温度制御>
実施形態1では、各収納庫に設置された計測装置が計測したそれぞれの温度を微分方程式に代入することで、収納庫の温度を予測した。本実施形態では、複数の収納庫のうち少なくとも1の収納庫に設置された計測装置が計測した温度を微分方程式に代入することで、収納庫の温度を予測する。あるいは、全ての収納庫に計測装置が設置されず、取得した外気温のみを微分方程式に代入することで、収納庫の温度を予測する。このような温度予測を実現する為に、オブザーバと呼ばれる方法を採用することができる。
【0063】
オブザーバとは、観測できない又は観測しないパラメータを、予測対象のシステム(本発明においては、自動販売機)から得られた出力に基づいて、観測できないパラメータを推測する機構である。つまり、自動販売機の制御にオブザーバを導入することで、システムの状態変数(本発明においては、収納庫の温度)を直接観測せずとも得ることができる。
図3に示した例は、これまでに示したモデル予測制御ではなく、状態フィードバックによる制御を行なう時のブロック図を用いた例である。状態フィードバック制御が安定的に行われること、また、収束時にかなり時間がかかるとリアルタイム性が損なわれる等の問題がある。状態フィードバック制御でオブザーバを適用した場合には、その誤差の収束性などが理論により確立されているため、出力の推測を安定に行うことができる。
【0064】
<4.1.オブザーバの説明>
今、状態方程式が
【数11】
出力方程式が
【数12】
と表されるシステムを対象とする。
図3に示すように、システムの出力ベクトルx(t)に行ベクトルfを掛け、入力ベクトルu(t)から引くことで、状態フィードバック制御を行うことができ、状態方程式は式(11)のように表現できる。
【数13】
そして、式(11)におけるA-bfの固有値の実数部が全て負になると、システムは安定にすることができる。
【0065】
ここで、今考えるシステムにおいては、行列A、係数b、入力ベクトルu(t)が分かっているものとし、状態ベクトルx(t)が観測できず、わからないものとする。また、このシステム(行列A、係数b、入力ベクトルu(t))におけるオブザーバの状態ベクトルをx~(t)(状態推定値)として、オブザーバの状態方程式は、以下のように与えられる。
【数14】
ここで、初期ベクトルx~(0)を適切に与え、微分方程式(式(12))を解くことで、x~(t)の解を得ることができる。
【0066】
<4.2.オブザーバの状態ベクトルから予測対象システムの状態ベクトルの推測>
次に、オブザーバの状態ベクトルx~(t)と、予測対象の状態ベクトルx(t)の関係性を示す。推測したい真の測定値(予測対象システムの状態変数)x(t)とオブザーバの状態変数x~(t)との誤差e(t)は、
【数15】
で得られる。ここで、誤差e(t)の時間微分は、
【数16】
となる。この式を解くと、
【数17】
となり、e(0)=x~(0)-x(0)となるので、Aの固有値の実数部が負であれば、誤差e(t)は時間とともに収束し、tが十分大きい時に、x~(t)~x(t)となる。つまり、x~(t)の微分方程式(式(12))を解くことで、状態ベクトルx(t)を観測することなく、オブザーバの状態ベクトルx~(t)から予測対象システムの状態ベクトルx(t)を推測することができる。
【0067】
<4.3.より適切なオブザーバの状態方程式の導入>
なお、式(12)の状態方程式における誤差(式(15))の収束の速さは、Aの固有値のみに依存し、状態ベクトルx(t)を推測する速さを調整することができない。その為、オブザーバの収束の速さを調整するために、新たに出力ベクトルcと予測対象システムの出力y(t)を用いて、新たなオブザーバの構成を以下のようにする。
【数18】
この時の制御ブロック図は、
図4に示すブロック図のようになる。
【0068】
この時の誤差の時間微分を考えると、
【数19】
で得られる。これを解くと、
【数20】
が得られる。従って、システムの安定非安定にも関わらず、行列A-hcの固有値の実数部を負に配置するようにhを選ぶことで、
【数21】
とすることができ、tが十分大きい時にxとx~は一致する。従って、x~(t)の微分方程式(式(16))を解くことで、間接的にシステムの状態ベクトルx(t)を推測することができる。ここで、hはオブザーバゲインと呼ばれるパラメータであって、これを適切に取ることで、収束性の良いオブザーバを得ることができる。つまり、予測対象のシステムの出力y(t)のうち、少なくとも1の出力を用いて、オブザーバの状態方程式(式(16))を解くことで、早い収束性をもって予測対象のシステムにおける観測できない状態変数x(t)を推測することができる。
【0069】
<4.4.オブザーバの効果>
オブザーバは、観測器とも呼ばれる方法で、この考え方を用いると、例えば、中室の計測装置の観測結果から左室、右室の温度を推測することも可能となり、左室や右室の計測装置のコストや配線に要するコストも削減することができ、コストダウンを図ることができる。さらに、モデルの精度が高まれば、外気温のセンサーのみでも各収納庫の温度を推測することが可能となる。
【0070】
なお、これまでの説明では、状態フィードバック制御システムにオブザーバを用いた形態について説明したが、より好ましい形態では、実施形態1のモデル予測制御において用いることも可能である。
【0071】
ここで、制御対象となるシステムを離散時間系で表すと、
【数22】
となる。状態フィードバック制御システムと同様に、制御対象となるシステムのコピーを用意する。この時、オブザーバは、状態推定値x~を修正するために、ゲイン行列Lを用いて測定された制御対象出力からのフィードバックを行う。この時、オブザーバの方程式は、L=AL’とすると、下に示す式で表すことができる。
【数23】
【数24】
【数25】
式(22)に式(21)及び式(23)を代入すると、
【数26】
が得られる。AーLCのすべての固有値が単位円内に存在すれば、これは安定なシステムとなり、さらに、誤差は、
【数27】
であるから、式(20)及び式(24)を用いることで、
【数28】
となる。これより、状態観測器が安定であれば、AーLCの固有値によって決定される速さで、誤差は収束することになる。
【0072】
従って、対(L、C)が可観測であれば、適切なゲインLを選択することによって、複素平面上の任意の位置にオブザーバの固有値を配置することができる。このゲインLを決定する問題は先に示した状態フィードバック制御におけるオブザーバゲインを求める問題と同様である。
図5は、モデル予測制御におけるオブザーバについて示したブロック図である。
【0073】
なお、本実施形態では、予測対象のシステムにおける状態ベクトルの推測において、オブザーバを用いたが、オブザーバ以外の方法、例えば、カルマンフィルターもしくは逆問題解析のような方法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 :制御装置
ST :収納庫
CP :コンプレッサー
MEX :主熱交換機
CO :キャピラリーコイル
EEV :電子膨張弁
EV :電磁弁
10 :制御部
11 :記憶部
12 :通信部
【要約】
【課題】
自動販売機が有する温度センサーを搭載していない収納庫の温度を目標温度に到達可能に制御する新規な技術を提供すること。
【解決手段】
温度センサーが設置された収納庫、及び温度センサーが設置されない収納庫を有する自動販売機の制御装置であって、前記温度センサーが設置された収納庫において前記温度センサーが計測した該収納庫の温度を用いて、前記温度センサーが設置されていない収納庫の温度を推定し、各収納庫の温度が目標温度に到達するように、計測された前記収納庫の温度、及び推定した前記収納庫の温度を制御する。
【選択図】
図1