(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 1/10 20060101AFI20240501BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240501BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240501BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240501BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
C08L1/10
C08L101/00
C08K7/14
C08L1/02
C08K5/13
(21)【出願番号】P 2018164065
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】594055158
【氏名又は名称】イーストマン ケミカル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】田中 涼
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】八百 健二
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/089594(WO,A1)
【文献】特開2018-127579(JP,A)
【文献】特許第6323605(JP,B1)
【文献】特開2017-114939(JP,A)
【文献】国際公開第2013/186957(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/119657(WO,A1)
【文献】特開2015-081326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレート(A)と、
熱可塑性エラストマー(B)と、
繊維(C)と、
を含有し、
0.03≦(
B)/{(A)+(B)}≦0.4、
0.03≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.6、を満たす
樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロースアシレート(A)が、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、
コア層と、前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層と、を有するコアシェル構造の重合体(b1)、
α-オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α-オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン重合体(b2)、
ブタジエン重合体を含むコア層と、前記コア層の表面上に、スチレン重合体及びアクリロニトリル-スチレン重合体から選ばれる重合体を含むシェル層と、を有するコアシェル構造の重合体(b3)、
スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(b4)、
ポリウレタン(b5)及び
ポリエステル(b6)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記繊維(C)が、表面に水酸基を有する繊維を含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記繊維(C)が、ガラス繊維及びセルロース繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量と前記繊維(C)の含有量とが質量基準で0.03≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.5の関係を満足する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量と前記繊維(C)の含有量とが質量基準で0.2≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.6の関係を満足する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量と前記繊維(C)の含有量とが質量基準で0.5≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.6の関係を満足する、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量とが質量基準で0.03≦(B)/{(A)+(B)}≦0.3の関係を満足する、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量とが質量基準で0.1≦(B)/{(A)+(B)}≦0.3の関係を満足する、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量とが質量基準で0.1≦(B)/{(A)+(B)}≦0.25の関係を満足する、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
カルダノール化合物(D)をさらに含有する、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記カルダノール化合物(D)が、分子量500以下のカルダノール化合物を含む、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記カルダノール化合物(D)の含有量とが質量基準で0.02≦(D)/{(A)+(D)}≦0.2の関係を満足する、請求項12又は請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記樹脂組成物における前記繊維(C)の含有量は10質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~請求項
15のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する樹脂成形体。
【請求項17】
射出成形体である、請求項16に記載の樹脂成形体。
【請求項18】
引張弾性率が2500MPa以上である、請求項16又は請求項17に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セルロースアセテートと、強化用天然セルロース繊維又は天然セルロースとを含有する成形体が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、セルロースエステルとガラス繊維とを含有する複合物の物性が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Toyama K, Soyama M, Tanaka S, Iji M (2015) Development of cardanol-bonded cellulose thermoplastics:high productivity achieved in two-step heterogeneous process. Cellulose 22:1625-1639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の課題は、セルロースアシレート(A)及び繊維(C)のみを含有する樹脂組成物に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0008】
[1] セルロースアシレート(A)と、熱可塑性エラストマー(B)と、繊維(C)と、を含有する樹脂組成物。
【0009】
[2] 前記セルロースアシレート(A)が、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
【0010】
[3] 前記熱可塑性エラストマー(B)が、コア層と、前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層と、を有するコアシェル構造の重合体(b1)、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α-オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン重合体(b2)、ブタジエン重合体を含むコア層と、前記コア層の表面上に、スチレン重合体及びアクリロニトリル-スチレン重合体から選ばれる重合体を含むシェル層と、を有するコアシェル構造の重合体(b3)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(b4)、ポリウレタン(b5)及びポリエステル(b6)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0011】
[4] 前記繊維(C)が、表面に水酸基を有する繊維を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0012】
[5] 前記繊維(C)が、ガラス繊維及びセルロース繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0013】
[6] 前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量と前記繊維(C)の含有量とが質量基準で0.03≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.5の関係を満足する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0014】
[7] 前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記熱可塑性エラストマー(B)の含有量とが質量基準で0.03≦(B)/{(A)+(B)}≦0.3の関係を満足する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0015】
[8] カルダノール化合物(D)をさらに含有する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0016】
[9] 前記カルダノール化合物(D)が、分子量500以下のカルダノール化合物を含む、[8]に記載の樹脂組成物。
【0017】
[10] 前記セルロースアシレート(A)の含有量と前記カルダノール化合物(D)の含有量とが質量基準で0.02≦(D)/{(A)+(D)}≦0.2の関係を満足する、[8]又は[9]に記載の樹脂組成物。
【0018】
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する樹脂成形体。
【0019】
[12] 射出成形体である、[11]に記載の樹脂成形体。
【0020】
[13] 引張弾性率が2500MPa以上である、[11]又は[12]に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0021】
[1]、[3]、[4]又は[5]に係る発明によれば、セルロースアシレート(A)及び繊維(C)のみを含有する樹脂組成物に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0022】
[2]に係る発明によれば、セルロースアシレート(A)がジアセチルセルロース又は
トリアセチルセルロースである場合に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0023】
[6]に係る発明によれば、(C)/{(A)+(B)+(C)}が0.03未満又は0.5超である場合に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0024】
[7]に係る発明によれば、(B)/{(A)+(B)}が0.03未満又は0.3超である場合に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0025】
[8]に係る発明によれば、セルロースアシレート(A)、熱可塑性エラストマー(B)及び繊維(C)のみを含有する樹脂組成物に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0026】
[9]に係る発明によれば、カルダノール化合物(D)として分子量500超のカルダノール化合物のみを含有する場合に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0027】
[10]に係る発明によれば、(D)/{(A)+(D)}が0.02未満又は0.2超である場合に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる樹脂組成物が提供される。
【0028】
[11]又は[12]に係る発明によれば、セルロースアシレート(A)及び繊維(C)のみを含有する樹脂成形体に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が提供される。
【0029】
[13]に係る発明によれば、引張弾性率が2500MPa未満である樹脂成形体に比べ、引張強さに優れる樹脂成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0031】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0032】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0033】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0034】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0035】
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0036】
本開示において、セルロースアシレート(A)、熱可塑性エラストマー(B)、繊維(C)、カルダノール化合物(D)をそれぞれ、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)ともいう。
【0037】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレート(A)と、熱可塑性エラストマー(B)と、繊維(C)とを含有する。
【0038】
本実施形態に係る樹脂組成物によれば、引張強さに優れる樹脂成形体が得られる。
【0039】
本発明者らが検討したところ、セルロースアシレート(A)と繊維(C)とを含有する樹脂組成物に熱可塑性エラストマー(B)を添加すると、樹脂成形体の引張強さが向上することが分かった。熱可塑性エラストマー(B)は、セルロースアシレート(A)単体に対して引張強さを向上させる作用がないので(後述する参考例A及び参考例Bに示されている。)、前記樹脂組成物に熱可塑性エラストマー(B)を添加して樹脂成形体の引張強さが向上したことは、意外なことであった。熱可塑性エラストマー(B)の添加によって、セルロースアシレート(A)及び繊維(C)を含有する樹脂成形体の引張強さが向上する機構として、下記の機構が考えられる。
【0040】
溶融したセルロースアシレート(A)は繊維(C)に対する濡れ性が高いので、溶融したセルロースアシレート(A)に繊維(C)を添加し混練すると、セルロースアシレート(A)にかかる剪断応力(シェアストレス)が繊維(C)に伝わりやすく、剪断応力によって繊維(C)の切断が起こると推測される。
これに対して、溶融したセルロースアシレート(A)に繊維(C)及び熱可塑性エラストマー(B)を添加すると、セルロースアシレート(A)にかかる剪断応力が繊維(C)に伝わりにくくなるため、繊維(C)の切断が抑制されるものと推測される。その結果、樹脂組成物には、本来の長さに近い長さの繊維(C)が含まれることになり、熱可塑性エラストマー(B)を添加しない場合に比較して、引張強さが向上するものと推測される。
【0041】
熱可塑性エラストマー(B)の添加によって、セルロースアシレート(A)にかかる剪断応力が繊維(C)に伝わりにくくなる機構としては、以下の2つが考えられる。
(1)熱可塑性エラストマー(B)が混錬物に分散することに剪断応力が費やされるので、繊維(C)に対する剪断応力の伝播が抑制される。
(2)混錬物に分散した熱可塑性エラストマー(B)が繊維(C)を被覆し、繊維(C)の切断を抑制する。
【0042】
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂成形体の引張強さをより向上させる観点から、さらにカルダノール化合物(D)を含有することが好ましい。カルダノール化合物(D)は、セルロースアシレート(A)と混和性が高い一方で、疎水的な構造である芳香環を有していることにより、繊維(C)に対するセルロースアシレート(A)の濡れ性を低下させると考えられる。濡れ性の低下によりセルロースアシレート(A)にかかる剪断応力が繊維(C)に伝わりにくくなるため、繊維(C)の切断が抑制され、その結果、樹脂成形体の引張強さが向上するものと推測される。
【0043】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の成分を詳細に説明する。
【0044】
[セルロースアシレート(A):成分(A)]
セルロースアシレート(A)は、セルロースにおけるヒドロキシ基の少なくも一部がアシル基により置換(アシル化)されたセルロース誘導体である。アシル基とは、-CO-RAC(RACは、水素原子又は炭化水素基を表す。)の構造を有する基である。
【0045】
セルロースアシレート(A)は、例えば、下記の一般式(CA)で表されるセルロース誘導体である。
【0046】
【0047】
一般式(CA)中、A1、A2及びA3はそれぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表し、nは2以上の整数を表す。ただし、n個のA1、n個のA2及びn個のA3のうちの少なくとも一部はアシル基を表す。分子中にn個あるA1は、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。同様に、分子中にn個あるA2及びn個あるA3もそれぞれ、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。
【0048】
A1、A2及びA3が表すアシル基は、当該アシル基中の炭化水素基が、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
【0049】
A1、A2及びA3が表すアシル基は、当該アシル基中の炭化水素基が、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、飽和炭化水素基であることがより好ましい。
【0050】
A1、A2及びA3が表すアシル基は、炭素数1以上6以下のアシル基が好ましい。すなわち、セルロースアシレート(A)としては、アシル基の炭素数が1以上6以下であるセルロースアシレート(A)が好ましい。アシル基の炭素数が1以上6以下であるセルロースアシレート(A)は、炭素数7以上のアシル基を有するセルロースアシレート(A)に比べ、耐衝撃性に優れた樹脂成形体が得られやすい。
【0051】
A1、A2及びA3が表すアシル基は、当該アシル基中の水素原子がハロゲン原子(例えば、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、酸素原子、窒素原子などで置換された基でもよいが、無置換であることが好ましい。
【0052】
A1、A2及びA3が表すアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。これらの中でもアシル基としては、樹脂組成物の成形性、樹脂成形体の耐衝撃性又は樹脂成形体が引張強さに優れる観点から、炭素数2以上4以下のアシル基がより好ましく、炭素数2又は3のアシル基が更に好ましい。
【0053】
セルロースアシレート(A)としては、セルロースアセテート(セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)等が挙げられる。
【0054】
セルロースアシレート(A)としては、樹脂成形体の耐衝撃性又は樹脂成形体が引張強さに優れる観点から、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)が好ましく、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)がより好ましい。
【0055】
セルロースアシレート(A)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
セルロースアシレート(A)の重量平均重合度は、樹脂組成物の成形性、樹脂成形体の耐衝撃性又は樹脂成形体が靱性に優れる観点から、200以上1000以下が好ましく、500以上1000以下がより好ましく、600以上1000以下が更に好ましい。
【0057】
セルロースアシレート(A)の重量平均重合度は、以下の手順で重量平均分子量(Mw)から求める。
まず、セルロースアシレート(A)の重量平均分子量(Mw)を、テトラヒドロフランを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー社製、HLC-8320GPC、カラム:TSKgelα-M)にてポリスチレン換算で測定する。
次いで、セルロースアシレート(A)の構成単位分子量で除算することで、セルロースアシレート(A)の重合度を求める。例えば、セルロースアシレートの置換基がアセチル基の場合、構成単位分子量は、置換度が2.4のとき263、置換度が2.9のとき284である。
【0058】
セルロースアシレート(A)の置換度は、樹脂組成物の成形性、樹脂成形体の耐衝撃性又は樹脂成形体が靱性に優れる観点から、2.1以上2.9以下が好ましく、置換度2.2以上2.9以下がより好ましく、2.3以上2.9以下が更に好ましく、2.6以上2.9以下が特に好ましい。
【0059】
セルロースアセテートプロピオネート(CAP)において、アセチル基とプロピオニル基との置換度の比(アセチル基/プロピオニル基)は、樹脂組成物の成形性、樹脂成形体の耐衝撃性又は樹脂成形体が靱性に優れる観点から、0.01以上1以下が好ましく、0.05以上0.1以下がより好ましい。
【0060】
CAPとしては、下記の(1)、(2)、(3)及び(4)の少なくとも1つを満足するCAPが好ましく、下記の(1)、(3)及び(4)を満足するCAPがより好ましく、下記の(2)、(3)及び(4)を満足するCAPが更に好ましい。
(1)テトラヒドロフランを溶媒としたGPC法で測定したとき、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が16万以上25万以下であり、且つポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)とポリスチレン換算のZ平均分子量(Mz)との比Mn/Mzが0.14以上0.21以下である。
(2)テトラヒドロフランを溶媒としたGPC法で測定したとき、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が16万以上25万以下であり、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)とポリスチレン換算のZ平均分子量(Mz)との比Mn/Mzが0.14以上0.21以下であり、且つポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)とポリスチレン換算のZ平均分子量(Mz)との比Mw/Mzが0.3以上0.7以下である。
(3)ISO11443:1995に準じて230℃の条件にてキャピログラフで測定したとき、せん断速度1216(/sec)における粘度η1(Pa・s)とせん断速度121.6(/sec)における粘度η2(Pa・s)との比η1/η2が0.1以上0.3以下である。
(4)CAPを射出成形して得た小形角板試験片(JIS K7139:2009が規格するD11試験片、60mm×60mm、厚さ1mm)を温度65℃且つ相対湿度85%の雰囲気に48時間放置したとき、MD方向の膨張率とTD方向の膨張率がいずれも0.4%以上0.6%以下である。ここに、MD方向は、射出成形に用いる金型のキャビティの長さ方向を意味し、TD方向は、MD方向に直交する方向を意味する。
【0061】
セルロースアセテートブチレート(CAB)において、アセチル基とブチリル基との置換度の比(アセチル基/ブチリル基)は、樹脂組成物の成形性、樹脂成形体の耐衝撃性又は樹脂成形体が靱性に優れる観点から、0.05以上3.5以下が好ましく、0.5以上3.0以下がより好ましい。
【0062】
セルロースアシレート(A)の置換度とは、セルロースが有するヒドロキシ基がアシル基により置換されている程度を示す指標である。つまり、置換度は、セルロースアシレート(A)のアシル化の程度を示す指標となる。具体的には、置換度は、セルロースアシレートのD-グルコピラノース単位に3個あるヒドロキシ基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。置換度は、1H-NMR(JMN-ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来水素とのピークの積分比から求める。
【0063】
[熱可塑性エラストマー(B):成分(B)]
熱可塑性エラストマー(B)は、例えば、常温(25℃)において弾性を有し、高温において熱可塑性樹脂と同じく軟化する性質を有する熱可塑性エラストマーである。
【0064】
熱可塑性エラストマー(B)としては、例えば、
コア層と、前記コア層の表面上に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含むシェル層と、を有するコアシェル構造の重合体(b1)、
α-オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、前記α-オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン重合体(b2)、
ブタジエン重合体を含むコア層と、前記コア層の表面上に、スチレン重合体及びアクリロニトリル-スチレン重合体から選ばれる重合体を含むシェル層と、を有するコアシェル構造の重合体(b3)、
スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(b4)、
ポリウレタン(b5)、
ポリエステル(b6)が挙げられる。
【0065】
熱可塑性エラストマー(B)としては、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、コアシェル構造の重合体(b1)又はオレフィン重合体(b2)が好ましい。
【0066】
-コアシェル構造の重合体(b1):成分(b1)-
コアシェル構造の重合体(b1)は、コア層と前記コア層の表面上にシェル層とを有するコアシェル構造の重合体である。
コアシェル構造の重合体(b1)は、コア層を最内層とし、シェル層を最外層とする重合体(具体的には、コア層となる重合体に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体をグラフト重合してシェル層とした重合体)である。
コア層とシェル層との間には、1層以上の他の層(例えば1層以上6層以下の他の層)を有してよい。コア層とシェル層との間に他の層を有する場合、コアシェル構造の重合体(b1)は、コア層となる重合体に、複数種の重合体をグラフト重合して多層化した重合体である。
【0067】
コア層は、特に限定されるものではないが、ゴム層であることがよい。ゴム層は、(メタ)アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、共役ジエンゴム、α-オレフィンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、ポリエステルゴム、ポリアミドゴム、これら2種以上の共重合体ゴム等の層が挙げられる。これらの中でも、ゴム層は、(メタ)アクリルゴム、シリコーンゴム、スチレンゴム、共役ジエンゴム、α-オレフィンゴム、これら2種以上の共重合体ゴム等の層が好ましい。ゴム層は、架橋剤(ジビニルベンゼン、アリルアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート等)を共重合して架橋させたゴム層であってもよい。
【0068】
(メタ)アクリルゴムとしては、例えば、(メタ)アクリル成分(例えば(メタ)アクリル酸の炭素数2以上8以下のアルキルエステル等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
シリコーンゴムとしては、例えば、シリコーン成分(ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルシロキサン等)で構成されたゴムが挙げられる。
スチレンゴムとしては、例えば、スチレン成分(スチレン、α-メチルスチレン等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
共役ジエンゴムとしては、例えば、共役ジエン成分(ブタジエン、イソプレン等)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
α-オレフィンゴムとしては、α-オレフィン成分(エチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン)を重合した重合体ゴムが挙げられる。
共重合体ゴムとしては、例えば、2種以上の(メタ)アクリル成分を重合した共重合体ゴム、(メタ)アクリル成分とシリコーン成分を重合した共重合体ゴム、(メタ)アクリル成分と共役ジエン成分とスチレン成分との共重合体等が挙げられる。
【0069】
シェル層を構成する重合体において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル鎖の水素の少なくとも一部が置換されていてもよい。その置換基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲノ基等が挙げられる。
【0070】
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体として、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体が好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上2以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体がより好ましく、アルキル鎖の炭素数が1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体が更に好ましい。
【0071】
シェル層を構成する重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外に、グリシジル基含有ビニル化合物、及び不飽和ジカルボン酸無水物から選択される少なくとも1を重合した重合体であってもよい。
【0072】
グリシジル基含有ビニル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン-4-グリシジルエーテル、4-グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0073】
不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸等が挙げられる。これらの中でも、無水マレイン酸が好ましい。
【0074】
コア層とシェル層との間に他の層がある場合、他の層としては、シェル層について説明した重合体の層が例示される。
【0075】
コアシェル構造全体に対するシェル層の質量割合は、1質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。
【0076】
コアシェル構造の重合体の平均一次粒子径は、特に限定されるものではないが、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、50nm以上500nm以下であることが好ましく、50nm以上400nm以下であることがより好ましく、100nm以上300nm以下であることが更に好ましく、150nm以上250nm以下であることが特に好ましい。
平均一次粒子径とは、次の方法により測定された値をいう。走査型電子顕微鏡により粒子を観察し、一次粒子の最大径を一次粒子径とし、粒子100個について、一次粒子径を測定し、平均した数平均一次粒子径である。具体的には、樹脂組成物中のコアシェル構造の重合体の分散形態を走査型電子顕微鏡により観察することにより求める。
【0077】
コアシェル構造の重合体(b1)は、公知の方法により作製することができる。
公知の方法としては、乳化重合法が挙げられる。製造方法として具体的には次の方法が例示される。まず単量体の混合物を乳化重合させてコア粒子(コア層)を作った後、他の単量体の混合物をコア粒子(コア層)の存在下において乳化重合させてコア粒子(コア層)の周囲にシェル層を形成するコアシェル構造の重合体を作る。コア層とシェル層との間に他の層を形成する場合は、他の単量体の混合物の乳化重合を繰り返して、目的とするコア層と他の層とシェル層とから構成されるコアシェル構造の重合体を得る。
【0078】
コアシェル構造の重合体(b1)の市販品としては、例えば、三菱ケミカル製「メタブレン」(登録商標)、カネカ製「カネエース」(登録商標)、ダウ・ケミカル日本製「パラロイド」(登録商標)、アイカ工業製「スタフィロイド」(登録商標)、クラレ製「パラフェイス」(登録商標)等が挙げられる。
【0079】
-オレフィン重合体(b2):成分(b2)-
オレフィン重合体(b2)は、α-オレフィンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの重合体であって、α-オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上含むオレフィン重合体が好ましい。
【0080】
オレフィン重合体において、α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン等が挙げられる。引張強さの向上効果が得られやすい観点から、炭素数2以上8以下のα-オレフィンが好ましく、炭素数2以上3以下のα-オレフィンがより好ましい。これらの中でも、エチレンが更に好ましい。
【0081】
α-オレフィンと重合する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が挙げられる。引張強さの向上効果が得られやすい観点から、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上4以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上2以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが更に好ましい。
【0082】
オレフィン重合体としては、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、エチレンとアクリル酸メチルとの重合体が好ましい。
【0083】
オレフィン重合体は、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、α-オレフィンに由来する構成単位を60質量%以上97質量%以下含むことが好ましく、70質量%以上85質量%以下含むことがより好ましい。
【0084】
オレフィン重合体は、α-オレフィンに由来する構成単位、及び、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位以外の他の構成単位を有していてもよい。ただし、他の構成単位は、オレフィン重合体における全構成単位に対して10質量%以下とすることがよい。
【0085】
-コアシェル構造の重合体(b3):成分(b3)-
コアシェル構造の重合体(b3)は、コア層と前記コア層の表面上にシェル層とを有するコアシェル構造の重合体である。
コアシェル構造の重合体(b3)は、コア層を最内層とし、シェル層を最外層とする重合体(具体的には、ブタジエン重合体を含むコア層に、スチレン重合体又はアクリロニトリル-スチレン重合体をグラフト重合してシェル層とした重合体)である。
コア層とシェル層との間には、1層以上の他の層(例えば1層以上6層以下の他の層)を有してもよい。コア層とシェル層との間に他の層を有する場合、コアシェル構造の重合体(b3)は、コア層となる重合体に、複数種の重合体をグラフト重合して多層化した重合体である。
【0086】
ブタジエン重合体を含むコア層は、ブタジエンを含む成分を重合した重合体であれば特に限定されず、ブタジエンの単独重合体のコア層であってもよく、ブタジエンと他の単量体との共重合体のコア層であってもよい。コア層がブタジエンと他の単量体との共重合体である場合は、他の単量体としては、例えば、ビニル芳香族が挙げられる。ビニル芳香族の中でも、スチレン成分(例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン等))であることがよい。スチレン成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。スチレン成分の中でも、スチレンを用いることが好ましい。他の単量体としては、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多官能単量体を用いてもよい。
【0087】
ブタジエン重合体を含むコア層は、具体的には、例えば、ブタジエンの単独重合体であってもよく、ブタジエンとスチレンとの共重合体であってもよく、ブタジエンとスチレンとジビニルベンゼンとの3元共重合体であってもよい。
【0088】
コア層に含まれるブタジエン重合体は、ブタジエンに由来する構成単位の割合として、60質量%以上100質量%以下(好ましくは70質量%以上100質量%以下)、他の単量体(好ましくはスチレン成分)に由来する構成単位の割合として、0質量%以上40質量%以下(好ましくは0質量%以上30質量%以下)であることが好ましい。例えば、ブタジエン重合体を構成する各単量体に由来する構成単位の割合としては、ブタジエン60質量%以上100質量%以下、スチレン0質量%以上40質量%以下であり、スチレン及びジビニルベンゼンの合計量に対して、ジビニルベンゼン0質量%以上5質量%以下とすることがよい。
【0089】
スチレン重合体を含むシェル層は、スチレン成分を重合した重合体を含むシェル層であれば、特に限定されず、スチレンの単独重合体のシェル層であってもよく、スチレンと他の単量体との共重合体であってもよい。スチレン成分としては、コア層で例示したスチレン成分と同様の成分が挙げられる。他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル)等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル鎖の水素の少なくとも一部が置換されていてもよい。その置換基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、ハロゲノ基等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。他の単量体としては、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多官能単量体を用いてもよい。シェル層に含まれるスチレン重合体は、スチレン成分85質量%以上100質量%以下と、他の単量体成分(好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステル)0質量%以上15質量%以下との共重合体であることがよい。
【0090】
これらの中でも、シェル層に含まれるスチレン重合体は、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体であることが好ましい。同様の観点から、スチレンと、アルキル鎖の炭素数が1以上8以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体が好ましく、アルキル鎖の炭素数が1以上4以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体がより好ましい。
【0091】
アクリロニトリル-スチレン重合体を含むシェル層は、アクリロニトリル成分とスチレン成分との共重合体を含むシェル層である。アクリロニトリル-スチレン重合体は、特に限定されず、公知のアクリロニトリル-スチレン重合体が挙げられる。アクリロニトリル-スチレン重合体は、例えば、アクリロニトリル成分10質量%以上80質量%以下とスチレン成分20質量%以上90質量%以下との共重合体が挙げられる。アクリロニトリル成分と共重合するスチレン成分は、前述のコア層で例示したスチレン成分と同様の成分が挙げられる。シェル層に含まれるアクリロニトリル-スチレン重合体には、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多官能単量体を用いてもよい。
【0092】
コア層とシェル層との間に他の層がある場合、他の層としては、シェル層について説明した重合体の層が例示される。
【0093】
コアシェル構造全体に対するシェル層の質量割合は、1質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。
【0094】
成分(b3)のうち、ブタジエン重合体を含むコア層と、コア層の表面上に、スチレン重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体(b3)の市販品としては、例えば、三菱ケミカル製「メタブレン」(登録商標)、カネカ製「カネエース」(登録商標)、Arkema製「Clearstrength」(登録商標)、ダウ・ケミカル日本製「パラロイド」(登録商標)が挙げられる。
成分(b3)のうち、ブタジエン重合体を含むコア層と、コア層の表面上に、アクリロニトリル-スチレン重合体を含むシェル層とを有するコアシェル構造の重合体(b3)の市販品としては、例えば、Galata Chemicals製「blendex」(登録商標)、ELIX POLYMERS製「ELIX」等が挙げられる。
【0095】
-スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(b4):成分(b4)-
共重合体(b4)としては、熱可塑性エラストマーであれば、特に制限は無く、公知のスチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体が挙げられる。共重合体(b4)は、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水添物であってもよい。
【0096】
共重合体(b4)は、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体の水添物であることが好ましい。共重合体(b4)は、同様の観点から、ブロック共重合体であることがよく、例えば、ブタジエン部分の二重結合の少なくとも一部が水素化されることにより、両端のスチレン部分のブロックと、中央のエチレン/ブチレンを含む部分のブロックとを有する共重合体(スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンのトリブロック共重合体)であることが好ましい。スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体のエチレン/ブチレンのブロック部分は、ランダム共重合体であってもよい。
【0097】
共重合体(b4)は、公知の方法で得られる。共重合体(b4)がスチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体の水添物である場合、例えば、共役ジエン部が1,4結合で構成された、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体のブタジエン部分を水素添加することによって得られる。
【0098】
共重合体(b4)の市販品としては、例えば、クレイトン社製「Kraton」(登録商標)、クラレ社製「Septon」(登録商標)等が挙げられる。
【0099】
-ポリウレタン(b5):成分(b5)-
ポリウレタン(b5)は、熱可塑性エラストマーであれば、特に制限は無く、公知のポリウレタンが挙げられる。ポリウレタン(b5)は、直鎖状のポリウレタンが好ましい。ポリウレタン(b5)は、例えば、ポリオール成分(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等)と、有機イソシアネート成分(芳香族ジイソシアネート、脂肪族(脂環族を含む)ジイソシアネート等)と、必要に応じて鎖延長剤(脂肪族(脂環族を含む)ジオール等)とを反応させて得られる。ポリオール成分及び有機イソシアネート成分は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
ポリウレタン(b5)は、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、脂肪族ポリウレタンが好ましい。脂肪族ポリウレタンとしては、例えば、ポリカーボネートポリオールを含むポリオール成分と、脂肪族ジイソシアネートを含むイソシアネート成分とを反応させて得られた脂肪族ポリウレタンが好ましい。
【0101】
ポリウレタン(b5)は、例えば、ポリウレタンの合成における原料中のNCO/OH比の値として、0.90以上1.5以下の範囲となるように、ポリオール成分と、有機イソシアネート成分とを反応させればよい。ポリウレタン(b5)は、ワンショット法、プレポリマー化法等の公知の方法によって得られる。
【0102】
ポリウレタン(b5)の市販品としては、例えば、Lubrizol社製「Estane」(登録商標)、BASF社製「Elastollan」(登録商標)等が挙げられる。Bayer社製「Desmopan」(登録商標)等が挙げられる。
【0103】
-ポリエステル(b6):成分(b6)-
ポリエステル(b6)は、熱可塑性エラストマーであれば、特に制限は無く、公知のポリエステルが挙げられる。ポリエステル(b6)は、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、芳香族ポリエステルであることが好ましい。本実施形態において、芳香族ポリエステルとは、構造中に芳香環を持つポリエステルを表す。
【0104】
ポリエステル(b6)は、例えば、ポリエステル共重合体(ポリエーテルエステル、ポリエステルエステル等)が挙げられる。具体的には、ポリエステル単位からなるハードセグメントと、ポリエステル単位からなるソフトセグメントとを有するポリエステル共重合体;ポリエステル単位からなるハードセグメントと、ポリエーテル単位からなるソフトセグメントとを有するポリエステル共重合体;ポリエステル単位からなるハードセグメントと、ポリエーテル単位及びポリエステル単位からなるソフトセグメントとを有するポリエステル共重合体が挙げられる。ポリエステル共重合体のハードセグメントとソフトセグメントの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、例えば、20/80以上80/20以下であることがよい。ハードセグメントを構成するポリエステル単位、並びにソフトセグメントを構成するポリエステル単位及びポリエーテル単位は、芳香族及び脂肪族(脂環族を含む)のいずれであってもよい。
【0105】
ポリエステル(b6)としてのポリエステル共重合体は、公知の方法で得られる。ポリエステル共重合体は、直鎖状ポリエステル共重合体が好ましい。ポリエステル共重合体は、例えば、炭素数4以上20以下のジカルボン酸成分と、炭素数2以上20以下のジオール成分と、数平均分子量が300以上20000以下のポリアルキレングリコール成分(ポリアルキレングリコールのアルキレンオキシド付加物を含む)とを用い、エステル化又はエステル交換させる方法、これら成分をエステル化又はエステル交換させてオリゴマーを製造した後、このオリゴマーを重縮合させる方法などによって得られる。また、例えば、炭素数4以上20以下のジカルボン酸成分と、炭素数2以上20以下のジオール成分と、数平均分子量が300以上20000以下の脂肪族ポリエステル成分を用い、エステル化又はエステル交換させる方法が挙げられる。ジカルボン酸成分は、芳香族又は脂肪族のジカルボン酸、又はそれらのエステル誘導体であり、ジオール成分は、芳香族又は脂肪族のジオールであり、ポリアルキレングリコール成分は、芳香族又は脂肪族のポリアルキレングリコールである。
【0106】
これらの中でも、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、ポリエステル共重合体のジカルボン酸成分は、芳香環を持つジカルボン酸成分を用いることが好ましい。ジオール成分及びポリアルキレングリコール成分は、それぞれ、脂肪族ジオール成分及び脂肪族ポリアルキレングリコール成分を用いることが好ましい。
【0107】
ポリエステル(b6)の市販品としては、例えば、東洋紡社製「ペルプレン」(登録商標)、東レ・デュポン社製「ハイトレル」(登録商標)が挙げられる。
【0108】
[繊維(C):成分(C)]
繊維(C)としては、特に制限されるものではないが、例えば、セルロース繊維、ケナフ繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維などが挙げられる。
繊維(C)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0109】
繊維(C)の平均長は、例えば、0.5mm以上50mm以下であり、1mm以上10mm以下が好ましい。繊維(C)の平均長は、無作為に選んだ100個の繊維(C)それぞれの長さの算術平均である。
【0110】
繊維(C)の平均径は、例えば、1μm以上100μm以下であり、5μm以上50μm以下が好ましい。繊維(C)の平均径は、無作為に選んだ100個の繊維(C)それぞれの直径の算術平均である。
【0111】
繊維(C)の一形態として、表面に水酸基を有する繊維(C)が挙げられる。表面に水酸基を有する繊維(C)及びセルロースアシレート(A)を含む樹脂組成物及び樹脂成形体は、成分(B)又は成分(D)の添加による引張強さの向上効果が得られやすい。溶融したセルロースアシレート(A)は、表面に水酸基を有する繊維(C)に対して高い濡れ性を示すので、両者を混練する際にセルロースアシレート(A)にかかる剪断応力が繊維(C)に伝わりやすく、剪断応力によって繊維(C)の切断が起こりやすいところ、成分(B)の添加によって剪断応力が繊維(C)に伝わりにくくなり、繊維(C)の切断が抑制されるものと推測される。
表面に水酸基を有する繊維(C)として、ガラス繊維及びセルロース繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0112】
[カルダノール化合物(D):成分(D)]
カルダノール化合物とは、カシューを原料とする天然由来の化合物に含まれる成分(例えば、下記の構造式(d-1)~(d-4)で表される化合物)又は前記成分からの誘導体を指す。
【0113】
【0114】
本実施形態に係る樹脂組成物は、カルダノール化合物(D)として、カシューを原料とする天然由来の化合物の混合物(以下「カシュー由来混合物」ともいう。)を含んでもよい。
【0115】
本実施形態に係る樹脂組成物は、カルダノール化合物(D)として、カシュー由来混合物からの誘導体を含んでもよい。カシュー由来混合物からの誘導体としては、例えば以下の混合物や単体等が挙げられる。
【0116】
・カシュー由来混合物中の各成分の組成比を調整した混合物
・カシュー由来混合物中から特定の成分のみを単離した単体
・カシュー由来混合物中の成分を変性した変性体を含む混合物
・カシュー由来混合物中の成分を重合した重合体を含む混合物
・カシュー由来混合物中の成分を変性し且つ重合した変性重合体を含む混合物
・前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに変性した変性体を含む混合物
・前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに重合した重合体を含む混合物
・前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに変性し且つ重合した変性重合体を含む混合物
・前記単離した単体をさらに変性した変性体
・前記単離した単体をさらに重合した重合体
・前記単離した単体をさらに変性し且つ重合した変性重合体
ここで単体には、2量体及び3量体等の多量体も含まれるものとする。
【0117】
カルダノール化合物(D)は、樹脂成形体の耐衝撃性の観点から、一般式(CDN1)で表される化合物、及び、一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0118】
【0119】
一般式(CDN1)中、R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。R2は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。P2は0以上4以下の整数を表す。P2が2以上である場合において複数存在するR2は、同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0120】
一般式(CDN1)において、R1が表す置換基を有していてもよいアルキル基は、炭素数3以上30以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数5以上25以下のアルキル基であることがより好ましく、炭素数8以上20以下のアルキル基であることが更に好ましい。
置換基としては、例えば、ヒドロキシ基;エポキシ基、メトキシ基等のエーテル結合を含む置換基;アセチル基、プロピオニル基等のエステル結合を含む置換基;等が挙げられる。
置換基を有していてもよいアルキル基の例としては、ペンタデカン-1-イル基、ヘプタン-1-イル基、オクタン-1-イル基、ノナン-1-イル基、デカン-1-イル基、ウンデカン-1-イル基、ドデカン-1-イル基、テトラデカン-1-イル基等が挙げられる。
【0121】
一般式(CDN1)において、R1が表す二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基は、炭素数3以上30以下の不飽和脂肪族基であることが好ましく、炭素数5以上25以下の不飽和脂肪族基であることがより好ましく、炭素数8以上20以下の不飽和脂肪族基であることが更に好ましい。
不飽和脂肪族基が有する二重結合の数は、1以上3以下であることが好ましい。
置換基としては、前記アルキル基の置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基の例としては、ペンタデカ-8-エン-1-イル基、ペンタデカ-8,11-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-8,11,14-トリエン-1-イル基、ペンタデカ-7-エン-1-イル基、ペンタデカ-7,10-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-7,10,14-トリエン-1-イル基等が挙げられる。
【0122】
一般式(CDN1)において、R1としては、ペンタデカ-8-エン-1-イル基、ペンタデカ-8,11-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-8,11,14-トリエン-1-イル基、ペンタデカ-7-エン-1-イル基、ペンタデカ-7,10-ジエン-1-イル基、ペンタデカ-7,10,14-トリエン-1-イル基が好ましい。
【0123】
一般式(CDN1)において、R2が表す置換基を有していてもよいアルキル基及び二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基としては、前記R1が表す置換基を有していてもよいアルキル基及び二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基として列挙したものが同様に好ましい例として挙げられる。
【0124】
一般式(CDN1)で表される化合物はさらに変性されていてもよい。例えば、エポキシ化されていてもよく、具体的には一般式(CDN1)で表される化合物が有するヒドロキシ基が下記の基(EP)に置き換えられた構造の化合物、つまり、下記の一般式(CDN1-e)で表される化合物であってもよい。
【0125】
【0126】
基(EP)及び一般式(CDN1-e)中、LEPは、単結合又は2価の連結基を表す。一般式(CDN1-e)中、R1、R2及びP2はそれぞれ、一般式(CDN1)におけるR1、R2及びP2と同義である。
【0127】
基(EP)及び一般式(CDN1-e)において、LEPが表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数1以上4以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数1のアルキレン基)、-CH2CH2OCH2CH2-基等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のR1において置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0128】
LEPとしては、メチレン基が好ましい。
【0129】
一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体とは、少なくとも2つ以上の一般式(CDN1)で表される化合物が、連結基を介して又は介さずに重合された重合体をいう。
【0130】
一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体としては、例えば、下記の一般式(CDN2)で表される化合物が挙げられる。
【0131】
【0132】
一般式(CDN2)中、R11、R12及びR13はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。R21、R22及びR23はそれぞれ独立に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基、又は二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基を表す。P21及びP23はそれぞれ独立に、0以上3以下の整数を表し、P22は0以上2以下の整数を表す。L1及びL2はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。nは、0以上10以下の整数を表す。P21が2以上である場合において複数存在するR21、P22が2以上である場合において複数存在するR22、及びP23が2以上である場合において複数存在するR23はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよい。nが2以上である場合において複数存在するR12、R22及びL1はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよく、nが2以上である場合において複数存在するP22は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0133】
一般式(CDN2)において、R11、R12、R13、R21、R22及びR23が表す置換基を有していてもよいアルキル基及び二重結合を有し且つ置換基を有していてもよい不飽和脂肪族基としては、一般式(CDN1)のR1として列挙したものが同様に好ましい例として挙げられる。
【0134】
一般式(CDN2)において、L1及びL2が表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数2以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数5以上20以下のアルキレン基)等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のR1において置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0135】
一般式(CDN2)において、nとしては、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましい。
【0136】
一般式(CDN2)で表される化合物はさらに変性されていてもよい。例えば、エポキシ化されていてもよく、具体的には一般式(CDN2)で表される化合物が有するヒドロキシ基が基(EP)に置き換えられた構造の化合物、つまり、下記の一般式(CDN2-e)で表される化合物であってもよい。
【0137】
【0138】
一般式(CDN2-e)中、R11、R12、R13、R21、R22、R23、P21、P22、P23、L1、L2及びnはそれぞれ、一般式(CDN2)におけるR11、R12、R13、R21、R22、R23、P21、P22、P23、L1、L2及びnと同義である。
一般式(CDN2-e)中、LEP1、LEP2及びLEP3はそれぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を表す。nが2以上である場合において複数存在するLEP2は、同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0139】
一般式(CDN2-e)において、LEP1、LEP2及びLEP3が表す2価の連結基としては、一般式(CDN1-e)におけるLEPが表す2価の連結基として列挙したものが同様に好ましい例として挙げられる。
【0140】
一般式(CDN1)で表される化合物が重合された重合体としては、例えば、少なくとも3つ以上の一般式(CDN1)で表される化合物が、連結基を介して又は介さずに三次元的に架橋重合された重合体であってもよい。一般式(CDN1)で表される化合物が三次元的に架橋重合された重合体としては、例えば以下の構造式で表される化合物が挙げられる。
【0141】
【0142】
上記構造式において、R10、R20及びP20はそれぞれ、一般式(CDN1)におけるR1、R2及びP2と同義である。L10は、単結合又は2価の連結基を表す。複数存在するR10、R20及びL10はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよい。複数存在するP20は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0143】
上記構造式において、L10が表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数2以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数5以上20以下のアルキレン基)等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のR1において置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0144】
上記構造式で表される化合物はさらに変性されていてもよく、例えば、エポキシ化されていてもよい。具体的には、上記構造式で表される化合物が有するヒドロキシ基が基(EP)に置き換えられた構造の化合物であってもよく、例えば以下の構造式で表される化合物、つまり、一般式(CDN1-e)で表される化合物が三次元的に架橋重合された重合体が挙げられる。
【0145】
【0146】
上記構造式において、R10、R20及びP20はそれぞれ、一般式(CDN1-e)におけるR1、R2及びP2と同義である。L10は、単結合又は2価の連結基を表す。複数存在するR10、R20及びL10はそれぞれ、同じ基であっても異なる基であってもよい。複数存在するP20は、同じ数であっても異なる数であってもよい。
【0147】
上記構造式において、L10が表す2価の連結基としては、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基(好ましくは炭素数2以上30以下のアルキレン基、より好ましくは炭素数5以上20以下のアルキレン基)等が挙げられる。
上記置換基としては、一般式(CDN1)のR1において置換基として列挙したものが同様に挙げられる。
【0148】
カルダノール化合物(D)は、樹脂成形体の透明性を向上する観点から、エポキシ基を有するカルダノール化合物を含むことが好ましく、エポキシ基を有するカルダノール化合物であることがより好ましい。
【0149】
カルダノール化合物(D)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、Cardolite社製のNX-2024、Ultra LITE 2023、NX-2026、GX-2503、NC-510、LITE 2020、NX-9001、NX-9004、NX-9007、NX-9008、NX-9201、NX-9203、東北化工社製のLB-7000、LB-7250、CD-5L等が挙げられる。エポキシ基を有するカルダノール化合物の市販品としては、例えば、Cardolite社製のNC-513、NC-514S、NC-547、LITE513E、Ultra LTE 513等が挙げられる。
【0150】
カルダノール化合物(D)の水酸基価は、樹脂成形体の耐衝撃性の観点から、100mgKOH/g以上が好ましく、120mgKOH/g以上がより好ましく、150mgKOH/g以上が更に好ましい。カルダノール化合物の水酸基価の測定は、ISO14900のA法に従って行われる。
【0151】
カルダノール化合物(D)として、エポキシ基を有するカルダノール化合物を用いる場合、そのエポキシ当量は、樹脂成形体の透明性を向上する観点から、300以上500以下が好ましく、350以上480以下がより好ましく、400以上470以下が更に好ましい。エポキシ基を有するカルダノール化合物のエポキシ当量の測定は、ISO3001に従って行われる。
【0152】
カルダノール化合物(D)の分子量は、引張強さの向上効果が得られやすい観点から、250以上1000以下が好ましく、280以上800以下がより好ましく、300以上500以下が更に好ましい。
【0153】
カルダノール化合物(D)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0154】
[成分(A)~成分(D)の含有量又は含有量比]
本実施形態に係る樹脂組成物は、成分(B)又は成分(D)の添加による引張強さの向上効果が得られやすい観点から、各成分の含有量又は含有量比(すべて質量基準である。)が下記の範囲であることが好ましい。
【0155】
各成分の略称は次の通りである。
成分(A)=セルロースアシレート(A)
成分(B)=熱可塑性エラストマー(B)
成分(C)=繊維(C)
成分(D)=カルダノール化合物(D)
【0156】
本実施形態に係る樹脂組成物における成分(A)の含有量は、樹脂組成物全量に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましい。
【0157】
本実施形態に係る樹脂組成物における成分(B)の含有量は、樹脂組成物全量に対して、1質量%以上25質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0158】
本実施形態に係る樹脂組成物における成分(C)の含有量は、樹脂組成物全量に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0159】
本実施形態に係る樹脂組成物が成分(D)を含有する場合、成分(D)の含有量は、樹脂組成物全量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0160】
成分(A)の含有量と成分(B)の含有量と成分(C)の含有量とは、0.02≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.6の関係を満足することが好ましく、0.03≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.6の関係を満足することがより好ましく、0.03≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.5の関係を満足することが更に好ましく、0.04≦(C)/{(A)+(B)+(C)}≦0.5の関係を満足することが更に好ましい。
【0161】
成分(A)の含有量と成分(B)の含有量とが、0.02≦(B)/{(A)+(B)}≦0.5の関係を満足することが好ましく、0.03≦(B)/{(A)+(B)}≦0.4の関係を満足することがより好ましく、0.03≦(B)/{(A)+(B)}≦0.3の関係を満足することが更に好ましく、0.04≦(B)/{(A)+(B)}≦0.3の関係を満足することが更に好ましい。
【0162】
本実施形態に係る樹脂組成物が成分(D)を含有する場合、成分(A)の含有量と成分(D)の含有量とが、0.01≦(D)/{(A)+(D)}≦0.3の関係を満足することが好ましく、0.02≦(D)/{(A)+(D)}≦0.2の関係を満足することがより好ましい。
【0163】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、可塑剤、難燃剤、相溶化剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)、酢酸放出を防ぐための受酸剤(酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物;炭酸カルシウム;タルク;など)、反応性トラップ剤(例えば、エポキシ化合物、酸無水物化合物、カルボジイミド等)などが挙げられる。
その他の成分の含有量は、樹脂組成物全量に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0164】
可塑剤としては、例えば、エステル化合物、樟脳、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。可塑剤としては、樹脂成形体の耐衝撃性の観点からは、エステル化合物が好ましい。可塑剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0165】
本実施形態に係る樹脂組成物に可塑剤として含まれるエステル化合物としては、例えば、アジピン酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、フタル酸エステル、酢酸エステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、グリコールエステル(例えば、安息香酸グリコールエステル)、脂肪酸エステルの変性体(例えば、エポキシ化脂肪酸エステル)等が挙げられる。上記エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステル、ポリエステル等が挙げられる。中でも、ジカルボン酸ジエステル(アジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエステル、アゼライン酸ジエステル、フタル酸ジエステル等)が好ましい。
【0166】
可塑剤としては、アジピン酸エステルが好ましい。アジピン酸エステルは、セルロースアシレート(A)との親和性が高く、セルロースアシレート(A)に対して均一に近い状態で分散することで、他の可塑剤に比べて熱流動性をより向上させる。
【0167】
アジピン酸エステルとしては、アジピン酸エステルとそれ以外の成分との混合物を用いてもよい。当該混合物の市販品として、大八化学工業製のDaifatty101等が挙げられる。
【0168】
クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、フタル酸エステル、酢酸エステル等の脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とアルコールとのエステルが挙げられる。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール等の一価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(ジグリセリン等)、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、糖アルコール等の多価アルコール;などが挙げられる。
【0169】
安息香酸グリコールエステルにおけるグリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0170】
エポキシ化脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸エステルの炭素-炭素不飽和結合がエポキシ化された構造(つまり、オキサシクロプロパン)を有するエステル化合物である。エポキシ化脂肪酸エステルとしては、例えば、不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ネルボン酸等)における炭素-炭素不飽和結合の一部又は全部がエポキシ化された脂肪酸とアルコールとのエステルが挙げられる。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール等の一価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(ジグリセリン等)、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、糖アルコール等の多価アルコール;などが挙げられる。
【0171】
本実施形態に係る樹脂組成物に可塑剤として含まれるエステル化合物は、分子量(又は重量平均分子量)が、200以上2000以下であることが好ましく、250以上1500以下であることがより好ましく、280以上1000以下であることが更に好ましい。エステル化合物の重量平均分子量は、特に断りのない限り、セルロースアシレート(A)の重量平均分子量の測定方法に準拠して測定される値である。
【0172】
本実施形態に係る樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)以外の他の樹脂を含有していてもよい。ただし、他の樹脂を含む場合、樹脂組成物の全量に対する他の樹脂の含有量は、5質量%以下がよく、1質量%未満であることが好ましい。他の樹脂は、含有しないこと(つまり0質量%)がより好ましい。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体;ジエン-芳香族アルケニル化合物共重合体;シアン化ビニル-ジエン-芳香族アルケニル化合物共重合体;芳香族アルケニル化合物-ジエン-シアン化ビニル-N-フェニルマレイミド共重合体;シアン化ビニル-(エチレン-ジエン-プロピレン(EPDM))-芳香族アルケニル化合物共重合体;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0173】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法として、例えば、成分(A)と、成分(B)と、成分(C)及び成分(D)の少なくとも一方と、必要に応じたその他の成分とを混合し溶融混練する方法;成分(A)と、成分(B)と、成分(C)及び成分(D)の少なくとも一方と、必要に応じたその他の成分とを溶剤に溶解する方法;などが挙げられる。溶融混練の手段としては、特に制限されず、例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0174】
<樹脂成形体>
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
【0175】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い観点から、射出成形が好ましい。したがって、本実施形態に係る樹脂成形体は、形状の自由度が高い観点から、射出成形によって得られた射出成形体であることが好ましい。
【0176】
本実施形態に係る樹脂成形体を射出成形する際のシリンダ温度は、例えば160℃以上280℃以下であり、好ましくは180℃以上240℃以下である。本実施形態に係る樹脂成形体を射出成形する際の金型温度は、例えば40℃以上90℃以下であり、40℃以上60℃以下がより好ましい。
本実施形態に係る樹脂成形体の射出成形は、例えば、日精樹脂工業社製NEX500、日精樹脂工業社製NEX150、日精樹脂工業社製NEX7000、日精樹脂工業社製PNX40、住友機械社製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0177】
本実施形態に係る樹脂成形体を得るための成形方法は、前述の射出成形に限定されず、例えば、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0178】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、玩具、容器などの用途に好適に用いられる。本実施形態に係る樹脂成形体の具体的な用途として、電子・電気機器又は家電製品の筐体;電子・電気機器又は家電製品の各種部品;自動車の内装部品;ブロック組み立て玩具;プラスチックモデルキット;CD-ROM又はDVDの収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などが挙げられる。
【0179】
本実施形態に係る樹脂成形体は、引張弾性率が、2500MPa以上であることが好ましく、3000MPa以上であることがより好ましく、3500MPa以上であることが更に好ましい。
ここでの引張弾性率とは、ISO多目的試験片を試料とし、ISO 527:2012に従って引張試験を行って測定する引張弾性率(MPa)である。
【実施例】
【0180】
以下に実施例を挙げて、本実施形態に係る樹脂組成物及び樹脂成形体をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本実施形態に係る樹脂組成物及び樹脂成形体は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0181】
<各材料の準備>
次の材料を準備した。
【0182】
[セルロースアシレート(A)]
・CA1:イーストマンケミカル「CAP482-20」、セルロースアセテートプロピオネート、重量平均重合度716、アセチル基置換度0.18、プロピオニル基置換度2.49。
・CA2:イーストマンケミカル「CAP482-0.5」、セルロースアセテートプロピオネート、重量平均重合度189、アセチル基置換度0.18、プロピオニル基置換度2.49。
・CA3:イーストマンケミカル「CAP504-0.2」、セルロースアセテートプロピオネート、重量平均重合度133、アセチル基置換度0.04、プロピオニル基置換度2.09。
・CA4:イーストマンケミカル「CAB171-15」、セルロースアセテートブチレート、重量平均重合度754、アセチル基置換度2.07、ブチリル基置換度0.73。
・CA5:イーストマンケミカル「CAB381-20」、セルロースアセテートブチレート、重量平均重合度890、アセチル基置換度1.05、ブチリル基置換度1.74。
・CA6:イーストマンケミカル「CAB500-5」、セルロースアセテートブチレート、重量平均重合度625、アセチル基置換度0.17、ブチリル基置換度2.64。
・CA7:ダイセル「L50」、ジアセチルセルロース、重量平均重合度570。
・CA8:ダイセル「LT-35」、トリアセチルセルロース、重量平均重合度385。
・RC1:イーストマンケミカル「Tenite propionate 360A4000012」、セルロースアセテートプロピオネート、重量平均重合度716、アセチル基置換度0.18、プロピオニル基置換度2.49。当該製品には、可塑剤に当たるアジピン酸ジオクチルが含まれており、セルロースアセテートプロピオネートが88質量%、アジピン酸ジオクチルが12質量%であった。
・RC2:イーストマンケミカル「Treva GC6021」、セルロースアセテートプロピオネート、重量平均重合度716、アセチル基置換度0.18、プロピオニル基置換度2.49。当該製品には、成分(B)に当たる化学物質が3質量%~10質量%含まれている。
【0183】
CA1は、下記の(2)、(3)及び(4)を満足していた。CA2は、下記の(4)を満足していた。
(2)テトラヒドロフランを溶媒としたGPC法で測定したとき、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が16万以上25万以下であり、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)とポリスチレン換算のZ平均分子量(Mz)との比Mn/Mzが0.14以上0.21以下であり、且つポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)とポリスチレン換算のZ平均分子量(Mz)との比Mw/Mzが0.3以上0.7以下である。
(3)ISO11443:1995に準じて230℃の条件にてキャピログラフで測定したとき、せん断速度1216(/sec)における粘度η1(Pa・s)とせん断速度121.6(/sec)における粘度η2(Pa・s)との比η1/η2が0.1以上0.3以下である。
(4)CAPを射出成形して得た小形角板試験片(JIS K7139:2009が規格するD11試験片、60mm×60mm、厚さ1mm)を温度65℃且つ相対湿度85%の雰囲気に48時間放置したとき、MD方向の膨張率とTD方向の膨張率がいずれも0.4%以上0.6%以下である。
【0184】
[熱可塑性エラストマー(B)]
・EL1:三菱ケミカル「メタブレン W-600A」、コアシェル構造の重合体(b1)、コア層となる「アクリル酸2-エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとの共重合体ゴム」に「メタクリル酸メチルの単独重合体ゴム」をグラフト重合してシェル層とした重合体、平均一次粒子径200nm。
・EL2:三菱ケミカル「メタブレン S-2006」、コアシェル構造の重合体(b1)、コア層が「シリコン・アクリルゴム」からなり、シェル層が「メタクリル酸メチルの重合体」からなる重合体、平均一次粒子径200nm。
・EL3:ダウ・ケミカル日本「パラロイド EXL2315」、コアシェル構造の重合体(b1)、コア層となる「ポリアクリル酸ブチルを主成分とするゴム」に「メタクリル酸メチルの重合体」をグラフト重合してシェル層とした重合体、平均一次粒子径300nm。
・EL4:アルケマ「Lotryl 29MA03」、オレフィン重合体(b2)、エチレンとアクリル酸メチルとの共重合体であってエチレンに由来する構成単位を71質量%含むオレフィン重合体。
・EL5:カネカ「Kane Ace B-564」、MBS系樹脂、コアシェル構造の重合体(b3)。
・EL6:Galata Chemicals(Artek)「Blendex 338」、ABSコアシェル、コアシェル構造の重合体(b3)。
・EL7:Kraton Corporation「Kraton FG1924G」、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(b4)。
・EL8:Lubrizol「Estane ALR 72A」、ポリウレタン(b5)。
・EL9:東レ・デュポン「Hytrel 3078」、芳香族ポリエステル共重合体、ポリエステル(b6)。
【0185】
[繊維(C)]
・FB1:Cordenka「Cordenka 700」、レーヨン繊維コード、フィラメント数1000、フィラメントの平均径12μm。平均長5mmに切断して使用した。
・FB2:日本製紙「NDP-T」、溶解パルプ、α-セルロース含有率90質量%、平均径30μm、平均長2mm。
・FB3:日東紡績「CSX-3J-451S」、ガラス繊維、平均径11μm、平均長3mm。
・FB4:日本電気硝子「ChopVantage HP3540」、ガラス繊維、平均径10μm、平均長3mm。
・FB5:東レ「トレカ カットファイバーT008A-006」、炭素繊維、平均径7μm、平均長6mm。
【0186】
[カルダノール化合物(D)]
・CN1:Cardolite「NX-2026」、カルダノール、分子量298~305。
・CN2:Cardolite「Ultra LITE 2023」、カルダノール(色を安定化するために酸性化されている。)、分子量298~305。
・CN3:Cardolite「Ultra LITE 2020」、ヒドロキシエチル化カルダノール、分子量343~349。
・CN4:Cardolite「GX-5170」、ヒドロキシエチル化カルダノール、分子量827~833。
・CN5:Cardolite「Ultra LITE 513」、カルダノールのグリシジルエーテル、分子量354~361。
・CN6:Cardolite「NC-514S」、カルダノール由来2官能エポキシ化合物、分子量534~537。
・CN7:Cardolite「NC-547」、カルダノール由来3官能エポキシ化合物、分子量1087~1106。
【0187】
[その他]
・PL1:大八化学工業「Daifatty 101」、アジピン酸エステル含有化合物、分子量326~378。
・PL2:三菱ケミカル「DOA」、アジピン酸ジオクチル、分子量371。
【0188】
<樹脂組成物の製造、樹脂成形体の射出成形>
[実施例1~83、比較例1~55、参考例A~B]
表1~表7に示す仕込み量及び混練温度で、2軸混練装置(labtech engineering社製、LTE20-44)にて混練を実施し、ペレット(樹脂組成物)を得た。このペレットを用い、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX500I)にて、射出ピーク圧力が180MPaを超えず、かつ表1~表7に示す成形温度及び金型温度で、ISO多目的試験片(ダンベル形、測定部寸法:幅10mm、厚さ4mm)を成形した。
【0189】
<樹脂成形体の性能評価>
[引張弾性率および引張強さ]
ISO多目的試験片を万能試験装置(島津製作所社製、オートグラフAG-Xplus)に設置し、ISO 527:2012に従って引張試験を行い、引張弾性率(MPa)および引張強さ(MPa)を求めた。測定値を表1~表7に示す。
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】